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  • 特許-酸化亜鉛鉱の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-03
(45)【発行日】2022-10-12
(54)【発明の名称】酸化亜鉛鉱の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 19/34 20060101AFI20221004BHJP
   C22B 7/02 20060101ALI20221004BHJP
   C22B 19/30 20060101ALI20221004BHJP
   C22B 1/02 20060101ALI20221004BHJP
   C22B 1/248 20060101ALI20221004BHJP
【FI】
C22B19/34
C22B7/02 A
C22B19/30
C22B1/02
C22B1/248
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018217022
(22)【出願日】2018-11-20
(65)【公開番号】P2020084235
(43)【公開日】2020-06-04
【審査請求日】2021-07-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】高谷 悟
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 亨紀
(72)【発明者】
【氏名】原 博之
【審査官】岡田 隆介
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-062304(JP,A)
【文献】特開2015-120948(JP,A)
【文献】特開昭60-155631(JP,A)
【文献】特開2003-003217(JP,A)
【文献】特開2012-201901(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B19/00-19/38
C01G9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化亜鉛を含有する原料鉱と加材料とを混合して造粒することにより還元焙焼用ペレットを得る予備混合工程と、
前記還元焙焼用ペレットに還元焙焼処理を施して粗酸化亜鉛ダストを得る還元焙焼工程と、を含んでなり、
前記添加材料が、炭素質還元剤と、石灰石と、を含むことを特徴とする、
酸化亜鉛鉱の製造方法。
【請求項2】
前記原料鉱が鉄鋼ダストである、請求項1に記載の酸化亜鉛鉱の製造方法。
【請求項3】
前記還元焙焼用ペレット中における石灰石の含有量が、前記原料鉱100重量部当り2.0重量部以上10.0重量部以下である、請求項1又は2に記載の酸化亜鉛鉱の製造方法。
【請求項4】
前記粗酸化亜鉛ダストに湿式処理を施して、水溶性不純物を除去して粗酸化亜鉛ケーキを得る湿式工程と、
前記粗酸化亜鉛ケーキに乾燥加熱処理を施す乾燥加熱工程と、を更に備える、請求項1から3のいずれかに記載の酸化亜鉛鉱の製造方法。
【請求項5】
酸化亜鉛鉱の原料として還元焙焼工程に投入する還元焙焼用ペレットであって、
酸化亜鉛を含有する原料鉱と、炭素質還元剤と、石灰石と、を含むペレット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化亜鉛鉱の製造方法に関する。更に詳しくは、還元焙焼処理によって亜鉛成分を揮発させて分離回収する処理を含み、亜鉛回収率を高く維持することができる酸化亜鉛鉱の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、亜鉛製錬所における亜鉛地金の原料として、粗酸化亜鉛等の亜鉛含有鉱から、不純物を分離除去して得た酸化亜鉛鉱が広く用いられている。
【0003】
酸化亜鉛鉱の原料となる粗酸化亜鉛ダストは、例えば、鉄鋼業における高炉や電気炉等から発生する鉄鋼ダスト等の亜鉛含有鉱に還元焙焼処理を施すことによって得ることができる。この鉄鋼ダスト等の還元焙焼処理は、一般に、ロータリーキルンによる還元焙焼処理によって行われる。
【0004】
ロータリーキルンによる還元焙焼処理を行う場合、原料とする鉄鋼ダストは、カーボン等の炭素質還元剤と、組成調整剤である石灰石とともに、ロータリーキルン内に投入される。又、亜鉛の回収率をより向上させるために、ロータリーキルン内に投入する鉄鋼ダストを、予め炭素質還元剤と混合して大きさ5~10mm程度の還元剤内装型のペレットに成形することも広く行われている(特許文献1参照)。
【0005】
還元焙焼処理を行うロータリーキルン(本明細書において以下、「還元焙焼ロータリーキルン(RRK)」とも称する)内は燃料重油と上記の炭素質還元剤の燃焼により、最高温度が1050~1200℃程度に制御されている。この還元焙焼ロータリーキルン(RRK)内で、鉄鋼ダストは還元焙焼されて、揮発した金属亜鉛はキルン内で再酸化されて固体化した後、粒子状の粗酸化亜鉛ダストとして電気集塵機等で捕集される。そして、回収された粗酸化亜鉛ダストは、その後の湿式工程や乾燥加熱工程によって、更に不純物を分離して必要な程度にまでその亜鉛品位を高めた酸化亜鉛鉱とされ、亜鉛地金の原料となる。
【0006】
最終製品である酸化亜鉛鉱の亜鉛品位については、一定以上の高い品位であることが求められる。具体的には、例えば、酸化亜鉛鉱をISP製錬法等による亜鉛製錬の原料として用いる場合には、各製錬工程において許容される値にまで、酸化亜鉛鉱の亜鉛品位を高める必要がある。
【0007】
しかしながら、還元焙焼処理時における亜鉛の回収率を更に向上させるために、上記のような材料のペレット化を行った場合、ペレット化される鉄鋼ダストやカーボンの種類が一定であり、それらが均質に混合されていても、必ずしも、還元焙焼工程において、亜鉛の回収率を、安定的に望ましい高さに維持できない場合があることが経験的に知られていた。
【0008】
組成調整剤である石灰石には、キルン内滞留物、即ち、揮発残渣の融点調整によるキルン内でのベコ成長を抑制する効果に加え、石灰石の熱分解によって発生するCOガスとカーボンとの反応で発生するCOガスにより亜鉛の還元を促進する効果がある。但し、石灰石の添加量の増加は、上記の亜鉛の回収率をより高めることができる点においては有利ではあるが、キルンから産出される揮発残渣である含鉄クリンカーからの重金属の溶出値を上昇させる点、及び、石灰石コストが増加する点において好ましくない。
【0009】
そこで、鉄鋼ダストやカーボン等の材料からなるペレットを原料として用いる酸化亜鉛鉱の製造の現場において、還元焙焼工程における亜鉛の回収率を更に安定的に向上させることができる酸化亜鉛鉱の製造方法が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2015-120948号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、鉄鋼ダストやカーボン等の材料からなるペレットを原料として用いる酸化亜鉛鉱の製造において、還元焙焼工程における亜鉛の回収率を、更に安定的に望ましい高さに保持することができる酸化亜鉛鉱の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
粗酸化亜鉛等の亜鉛含有鉱から酸化亜鉛鉱を製造するプロセスにおいて、還元焙焼工程に投入される原料として、鉄鋼ダストとカーボン等の炭素質還元剤との混錬物であるペレットが好ましく用いられている。本発明者らは、還元焙焼工程に投入するペレットの作製時に、更に石灰石も同時に混錬することにより、還元焙焼工程における亜鉛の回収率を安定的に向上させることができることを見出し、本発明を完成するに至った。より、具体的には、本発明は以下のものを提供する。
【0013】
(1)酸化亜鉛を含有する原料鉱と他の添加材料とを混合して造粒することにより還元焙焼用ペレットを得る予備混合工程と、前記還元焙焼用ペレットに還元焙焼処理を施して粗酸化亜鉛ダストを得る還元焙焼工程と、を含んでなり、前記還元焙焼用ペレットが、鉄鋼ダストと、炭素質還元剤と、石灰石とが混合造粒されてなるペレットであることを特徴とする、酸化亜鉛鉱の製造方法。
【0014】
(2) 前記原料鉱が鉄鋼ダストである、(1)に記載の酸化亜鉛鉱の製造方法。
【0015】
(3) 前記還元焙焼用ペレット中における石灰石の含有量が、前記原料鉱100重量部当り2.0重量部以上10.0重量部以下である、(1)又は(2)に記載の酸化亜鉛鉱の製造方法。
【0016】
(4) 前記粗酸化亜鉛ダストに湿式処理を施して、水溶性不純物を除去して粗酸化亜鉛ケーキを得る湿式工程と、前記粗酸化亜鉛ケーキに乾燥加熱処理を施す乾燥加熱工程と、を更に備える、(1)から(3)のいずれかに記載の酸化亜鉛鉱の製造方法。
【0017】
(5) 酸化亜鉛鉱の原料として還元焙焼工程に投入する還元焙焼用ペレットであって、酸化亜鉛を含有する原料鉱と、炭素質還元剤と、石灰石と、を含むペレット。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、鉄鋼ダストやカーボン等の材料からなるペレットを原料として用いる酸化亜鉛鉱の製造において、還元焙焼工程における亜鉛の回収率を、更に安定的に望ましい高さに保持することができる酸化亜鉛鉱の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の酸化亜鉛鉱の製造方法の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の一実施態様について図面を参照しながら説明する。
【0021】
<全体プロセス>
本発明の酸化亜鉛鉱の製造方法は、本発明特有の組成からなる「還元焙焼用ペレット」を得る予備混合工程S10、この「還元焙焼用ペレット」を還元焙焼して粗酸化亜鉛を得る還元焙焼工程S20を少なくとも含んでなる製造方法である。
【0022】
又、図1に示すように、本発明の酸化亜鉛鉱の製造方法は、上記の予備混合工程S10と還元焙焼工程S20に加えて、更に、還元焙焼工程S20で得た粗酸化亜鉛から、例えば、フッ素等のハロゲン成分やカドミウム等の水溶性不純物を処理液中に分離除去して粗酸化亜鉛ケーキを得る湿式工程S30、湿式工程S30で得た粗酸化亜鉛ケーキを乾燥加熱して酸化亜鉛鉱を得る乾燥加熱工程S40、乾燥加熱工程S40で発生した排ガスダストを洗浄して洗浄後の排ガスダストケーキを得る排ガスダスト洗浄工程S50、及び、排水処理工程S60を備える全体プロセスとしての実施を、その好ましい実施形態とする製造方法である。
【0023】
本発明の酸化亜鉛鉱の製造方法は、特に予備混合工程S10において、還元焙焼ロータリーキルン(RRK)に投入する鉄鋼ダストを主たる成分とする原料ペレットに、還元剤のみならず、従来、還元焙焼ロータリーキルン(RRK)に別途投入されていた石灰石をも、予め内装することによって、還元焙焼工程における亜鉛の回収率を安定的に向上させた製造方法である。この製造方法によれば、亜鉛製錬に投入する原料となる酸化亜鉛鉱の亜鉛品位を高い範囲に維持することができる。例えば、電解製錬向け酸化亜鉛鉱として好ましく用いることができる極めて亜鉛品位の高い酸化亜鉛鉱を高い生産性の下で製造することができる。
【0024】
<予備混合工程>
予備混合工程S10は、還元焙焼工程S20に先駆けて、鉄鋼ダスト等の原料鉱、リサイクルカーボン等の炭素質還元剤、及び、石灰石を主体とする組成調整剤を混合して造粒することにより、還元剤と石灰石が内装されている「還元焙焼用ペレット」を得る工程である。この混合造粒の作業、いわゆるペレタイズは、一般的に用いられるペレタイジング装置を用いて行うことができ、より具体的には、回転式のパン型ペレタイザー、又は、2軸不等速ピン式造粒機を用いて、鉄鋼ダストとリサイクルカーボンと石灰石とを、所定のペレット組成となるように連続的に供給し、ミスト状の水分を添加しながら上記各材料を混合造粒することにより行うことができる。
【0025】
「還元焙焼用ペレット」のサイズは、ハンドリングのし易さに加えて、亜鉛回収率を向上させるために、1mm以上20mm以下程度の範囲であることが好ましく、5mm以上10mm以下程度の範囲であることがより好ましい。「還元焙焼用ペレット」のサイズが1mm程度未満であると、還元焙焼ロータリーキルン(RRK)に投入した時点でキャリーオーバーしてしまう問題があり、20mm程度を超えると亜鉛回収率を悪化させる点において好ましくない。
【0026】
又、還元焙焼用ペレットの含水率は、造粒する為の条件に加えて、粒径を制御するために、10質量%以上15質量%以下程度の範囲であることが好ましい。
【0027】
原料鉱としては、亜鉛を含む有価金属を所定量以上の割合で含有し、不純物として除去されるべきフッ素等の含有量が所定量以下である種々の原料を用いることができる。又、金属の製錬工程や加工工程で発生するダストやスラッジであって、ペレット化可能な粉体、又は、スラリー状のものも用いることができる。中でも、資源リサイクルの促進、コスト削減の観点から、鉄鋼ダストを好ましく用いることができる。以下では、本発明の酸化亜鉛鉱の製造方法について、粗酸化亜鉛等の原料鉱として鉄鋼ダストを用いる場合の実施態様について説明する。
【0028】
原料鉱として鉄鋼ダストを用いる場合、特に制限はなく、一般に亜鉛品位が高く、よって一般的還元焙焼条件における亜鉛の回収率が相対的に低い鉄鋼ダスト(以下「鉄鋼ダストA」とも言う)であってもよい。このような鉄鋼ダストAについても、予備混合工程S10によって、予め、還元剤と石灰石が内装されている本発明特有の「還元焙焼用ペレット」とすることにより、亜鉛の回収率が相対的に高い一般的な鉄鋼ダスト(以下「鉄鋼ダストB」とも言う)を、炭素質還元剤及び石灰石を内装せずに還元焙焼炉に投入した場合と同様に、高い回収率で亜鉛を揮発させて回収することができる。
【0029】
炭素質還元剤としては、カーボンやリサイクルカーボン等であって、ペレット化可能な粉体、又は、スラリー状のものを用いることができる。中でも、資源リサイクルの促進、コスト削減の観点から、リサイクルカーボンを好ましく用いることができる。以下では、本発明の酸化亜鉛鉱の製造方法の予備混合工程S10において、炭素質還元剤としてはリサイクルカーボンを用いる場合の実施態様について説明する。
【0030】
還元焙焼ロータリーキルン(RRK)に投入する「還元焙焼用ペレット」の炭素含有率については、5.0質量%以上12.0質量%以下であることが好ましく、5.0質量%以上8.0質量%以下であることがより好ましい。「還元焙焼用ペレット」の炭素含有率を、上記範囲内とすることにより、「還元焙焼用ペレット」の採用による鉄鋼ダストの亜鉛回収率の向上効果を、安定的に高水準で享受することができる。「還元焙焼用ペレット」の炭素含有率が5.0質量%未満であると、ペレット化による酸化亜鉛の還元率の向上効果の発現が不十分となる。又、同炭素含有率が10.0質量%を超えた場合には還元率の増加の割合は漸減し、対費用効果としては低下するため好ましくない。
【0031】
石灰石としては、粒径が0.1mm以上5mm以下の石灰石を用いることが好ましい。これにより、「還元焙焼用ペレット」の混合及び造粒時に、石灰石を上記ペレット内に均一に分散させやすくすることできる。
【0032】
還元焙焼ロータリーキルン(RRK)に投入する「還元焙焼用ペレット」への石灰石の添加量については、還元焙焼用ペレット中における石灰石の含有量が、前記原料鉱100重量部当り2.0重量部以上10.0重量部以下となるような添加量とすることが好ましい。ここで、上記の原料鉱とは鉄鋼ダスト等の原料鉱であり、繰返し物も含めた全原料のことを言う。
【0033】
還元焙焼用ペレット中における石灰石の含有量が、原料鉱100重量部当り2.0重量部未満であると、ペレット化による酸化亜鉛の還元率の向上が不十分となりやすい。一方で、同含有量が、10.0重量部を超えると、原料組成変動により含鉄クリンカーのCaO/SiOが上昇したときに、この比率を下げることができなくなるため、上限は10.0重量部以下とすることが好ましい。
【0034】
ここで、還元焙焼工程から産出される含鉄クリンカーのCaO/SiOの調整、即ち、キルン内滞留物(揮発残渣)の融点調整は、「還元焙焼用ペレット」に内装した石灰石とは別途に還元焙焼工程において追加で投入する石灰石の投入量の調整によって行われる。そして、この石灰石の追加の投入量は、より詳しくは、FeO―CaO―SiOの三成分系組成物の融点が還元焙焼ロータリーキルン(RRK)内の最高温度よりも高くなるように、FeO―CaO―SiOの組成比を定め、原料鉱のFeO、SiO、CaO含有率を基準にして、原料鉱中に不足している石灰石(CaCO)の含有量を求めることによって決定される。この場合、還元焙焼用ペレット中における石灰石の上記含有量が、原料鉱100重量部当り10.0重量部を超えていると、上述の還元焙焼工程において追加で投入する石灰石の投入量が、たとえ0であったとしても、CaOが過剰となる事態が生じ得る。還元焙焼用ペレット中における石灰石の上記含有量が、10.0重量部を超えると、含鉄クリンカーのCaO/SiO比率を下げることができなくなるのは、以上の理由によるものである。
【0035】
酸化亜鉛鉱の製造プロセスにおける原料鉱への石灰石の添加の主目的は組成調整である。その観点では、石灰石が原料鉱に均一に混合されることが厳密に要求されるものではない。よって、従来は、鉄鋼ダストとカーボン等の炭素質還元剤との混錬物であるペレットとは別途に、石灰石が添加されていた。これに対して、本発明においては、石灰石の還元効果を最大限に発現させるために、石灰石を鉄鋼ダストとカーボン等の炭素質還元剤に均質に混合し、石灰石を鉄鋼ダストとカーボン等の炭素質還元剤の極近傍に存在させた。これにより、石灰石の過剰な添加は避けつつ、本来の組成調整用という目的の他に、還元用として石灰石を最大限有効に活用することができるようになった。
【0036】
<還元焙焼工程>
還元焙焼工程S20を行う具体的な方法としては、還元焙焼ロータリーキルン(RRK)による還元焙焼法が一般的に採用されている。還元焙焼工程S20では、予備混合工程S10において得た「還元焙焼用ペレット」が、追加の還元剤及び石灰石等とともに、還元焙焼ロータリーキルン(RRK)に連続的に投入される。又、この際、「還元焙焼用ペレット」とした鉄鋼ダストA以外にも、比較的亜鉛回収率の高い鉄鋼ダストBが、コークス等の炭素質還元剤及び石灰石等とともに、還元焙焼ロータリーキルン(RRK)に同様に投入されてもよい。この場合において、鉄鋼ダストBは、やはり、必要に応じて予め大きさ5~10mm程度のペレットに成形されていることが好ましい。
【0037】
この還元焙焼ロータリーキルン(RRK)の炉内は重油の燃焼と装入した炭素質還元剤の燃焼により、被処理物の最高温度が1050℃以上1200℃以下程度の範囲に制御されている。この炉内で鉄鋼ダストAを含む「還元焙焼用ペレット」、及び、上記の鉄鋼ダストBは、いずれも還元焙焼されて、揮発した金属亜鉛は炉内で再酸化されて粉状の酸化亜鉛となる。粉状の酸化亜鉛は、還元焙焼ロータリーキルン(RRK)からの排出ガスとともに集塵機に導入され、捕捉されて粗酸化亜鉛ダストとして回収される。
【0038】
本発明の製造方法によれば、この還元焙焼工程S20における亜鉛の回収率を安定的に高めることにより、高品位の粗酸化亜鉛ダストを得ることができる。具体的には、還元焙焼工程S20において、本発明特有の組成からなる「還元焙焼用ペレット」を用いることにより、還元焙焼工程に投入する石灰石を予備混合工程S10において原料鉱を造粒したペレットには混合せず、同量の石灰石を別途に還元焙焼ロータリーキルン(RRK)に投入した場合と比較して、この還元焙焼工程S20における亜鉛の回収率を、2.0%以上向上させることが可能である。その結果、例えば、電解製錬法による亜鉛製錬にも好ましく用いることができる高品位の酸化亜鉛鉱を、従来よりも低コストで効率よく製造することができるようになる。又、副産物である含鉄クリンカー中の亜鉛含有率を低下させることができるので、質の良い含鉄クリンカーの安定した生産が可能となる。
【0039】
尚、本明細書において「還元焙焼工程における亜鉛の回収率」とは、還元焙焼工程に投入する「還元焙焼用ペレット」と鉄鋼ダストに含有される亜鉛成分量に対する、還元焙焼ロータリーキルン(RRK)内で揮発して回収された粗酸化亜鉛ダストに含まれる亜鉛成分量の割合のことを言う。又、この「還元焙焼工程における亜鉛の回収率」は、原材料である「還元焙焼用ペレット」と鉄鋼ダスト中の亜鉛含有率と、還元焙焼ロータリーキルン(RRK)から排出された含鉄クリンカー中の亜鉛含有率とを、それぞれ蛍光X線分析装置により測定し、得た分析値とそれぞれの物量から算出することができる。
【0040】
尚、上記還元焙焼法によって、揮発せずにキルン中に残った還元焙焼残渣は、還元された鉄分が多く含有されるため、含鉄クリンカーと称する製品としてキルン排出端より回収され、鉄鋼メーカー向けの鉄原料、又は、埋め立て向けに払い出される。
【0041】
<湿式工程>
粗酸化亜鉛ダストに含有されるフッ素、塩素、又はカドミウム等の水溶性不純物を処理液中に分離抽出し、更に固液分離処理によって、粗酸化亜鉛ダストから不純物を水洗浄法により除去して粗酸化亜鉛ケーキを得る湿式処理は、以下の処理工程によって行うことができる。
【0042】
還元焙焼工程S20により鉄鋼ダストから回収された粗酸化亜鉛ダストは、工業用水等でレパルプされる。回収は、電気集塵機等で行うことができる。スラリーとなった粗酸化亜鉛ダストはpH調整及び凝集処理を行い、その後、脱水を行う。この洗浄脱水により、酸化亜鉛ケーキのハロゲン含有率は、フッ素含有率について0.6質量%未満、塩素含有率については、1.0質量%未満にまで低減することが好ましい。又、中性領域でイオンとして存在するカドミウムについても除去することができる。フッ素等の不純物が処理液中に除去された状態において、固液分離により、不純物が分配された処理液を粗酸化亜鉛ダストから除去する。これにより、粗酸化亜鉛ダストのスラリーがより亜鉛含有率が高い粗酸化亜鉛ケーキとなる。
【0043】
<乾燥加熱工程>
湿式工程S30で得た粗酸化亜鉛ケーキを、乾燥加熱ロータリーキルン(DRK)等の加熱炉に装入して焼成・造粒する乾燥加熱工程S40により、フッ素等の残留不純物の含有率を更に低減させつつ、高品位の酸化亜鉛鉱を得ることができる。
【0044】
乾燥加熱処理の焼成温度については、乾燥加熱ロータリーキルン(DRK)等から排出される際の被焼成物の温度が1100℃以上1150℃の範囲の温度となるように、炉内温度を維持管理することが好ましい。
【0045】
<排ガスダスト洗浄工程>
乾燥加熱工程S40で発生した排ガスダストを洗浄して洗浄後の排ガスダストケーキを得るための排ガスダスト洗浄工程S50を行うための洗浄設備としては、洗浄塔、湿式電気集塵機の組み合わせが一般的である。又、これらの設備で回収された洗浄後の排ガスダストケーキを、上流工程である乾燥加熱工程S40を行う乾燥加熱ロータリーキルン(DRK)等に繰り返して循環投入することにより、金属資源の有効利用を図る処理が行われている。
【0046】
<排水処理工程>
排水処理工程S60は、湿式工程S30において粗酸化亜鉛から分離されたフッ素やカドミウムを高濃度で含有する廃液から、フッ素及びカドミウムを除去し、更に、廃液中に微量で含まれる重金属を中和処理により沈殿除去し、最終的にpHを調整して無害の排水とする工程である。
【0047】
<亜鉛回収率測定工程>
本発明においては、還元焙焼工程S20における亜鉛の回収率を、例えば上述した方法によって測定可能な設備によって行う工程である亜鉛回収率測定工程S70を、還元焙焼工程S20の下流工程として設けることが好ましい。この亜鉛回収率測定工程S70によって、上記の亜鉛の回収率を、常時、或いは、随時適当な間隔で測定確認することによって、上記の亜鉛の回収率を、より高い精度で制御することができる。
【0048】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述した実施形態に限るものではない。又、本発明の実施形態に記載された効果は、本発明から生じる最も好適な効果を列挙したに過ぎず、本発明による効果は、本発明の実施例に記載されたものに限定されるものではない。
【実施例
【0049】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0050】
予備混合工程において得た本発明独自の組成からなる「還元焙焼用ペレット」を還元焙焼工程に用いる本発明の製造方法の実施により、還元焙焼工程における亜鉛の回収率が有意に向上することを確認するために以下の試験を行った。
【0051】
各実施例及び比較例のペレットの製造に用いる原料鉱は、鉄鋼ダストとした。この鉄鋼ダストの組成は以下の通りである。
Zn:22質量%、Pb:0.6質量%、Fe:25質量%、Cr:0.4質量%、F:0.6質量%、Cd:0.05質量%。
【0052】
各実施例及び比較例のペレットの製造に用いる炭素質還元剤は、リサイクルカーボンとした。このリサイクルカーボンの添加量は、原料鉱の総量に対する割合で、炭素含有量が8.0%となるように適宜調整した。
【0053】
各実施例及び比較例のペレットの製造に用いる石灰石は、粒径0.5~3mmの石灰石とした。この石灰石の添加量は、原料鉱の総量に対する石灰石添加率が、各実施例及び比較例毎に、それぞれ表1に示す添加率となるように調整した。
【0054】
そして、上記の原料鉱、炭素質還元剤、及び、石灰石を、新日南株式会社製のダウ・ペレタイザー(登録商標)によって混合造粒し、粒径5.0~10.0mmの各実施例及び比較例のペレットを得た。
【0055】
上記の各ペレットを、内径3m、長さ50mの還元焙焼ロータリーキルン(RRK)に投入して還元焙焼工程を実施した。還元焙焼ロータリーキルン(RRK)の焙焼温度については1050℃以上1200℃以下の範囲とした。石灰石の総投入量が全ての比較例及び実施例のプロセスにおいて一定となるように、それぞれ表1に石灰石追加添加量として記載の通りの量の石灰石を、各比較例及び実施例毎に、還元焙焼ロータリーキルン(RRK)に追加投入した。そして、石灰石添加率の異なるペレットを投入したそれぞれの比較例及び実施例について、還元焙焼工程における亜鉛の回収率を測定した。尚、亜鉛の回収率は、上記の鉄鋼ダスト中の亜鉛含有率と、還元焙焼ロータリーキルン(RRK)から排出された含鉄クリンカー中の亜鉛含有率とを、それぞれ蛍光X線分析装置により測定し、得た分析値とそれぞれの物量から算出した。結果は表1に示す通りであった。
【0056】
【表1】
【0057】
表1から、予備混合工程において得た独自の組成からなる「還元焙焼用ペレット」を還元焙焼工程に用いる本発明の製造方法の実施により、還元焙焼工程における亜鉛の回収率が有意に向上することが確認された。本発明の酸化亜鉛鉱の製造方法によれば、従来同様の焙焼温度で、還元焙焼工程における亜鉛の回収率を少なくとも1.5%程度、最大3%程度向上させることができることも確認された。
【0058】
このような本発明の製造方法によれば、鉄鋼ダストを用いた酸化亜鉛鉱の製造において、亜鉛の回収率を95%以上とすることで、最終製品である酸化亜鉛鉱の亜鉛品位を高めて、ISP製錬法等による亜鉛製錬の原料として好適に用いることができる。又、副産物である含鉄クリンカー中の亜鉛含有率を2.0%以下にすることで高品質なリサイクル製品として鉄鋼メーカーに販売することができる。以上より、資源リサイクル促進の観点からも、本発明の優位性が認められる。
【符号の説明】
【0059】
S10 予備混合工程
S20 還元焙焼工程
S30 湿式工程
S40 乾燥加熱工程
S50 排ガスダスト洗浄工程
S60 排水処理工程
S70 亜鉛回収率測定工程
図1