(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-03
(45)【発行日】2022-10-12
(54)【発明の名称】無線基地局設置位置算出方法および無線基地局設置位置算出システム
(51)【国際特許分類】
H04W 16/18 20090101AFI20221004BHJP
H04W 24/02 20090101ALI20221004BHJP
【FI】
H04W16/18
H04W24/02
(21)【出願番号】P 2019039034
(22)【出願日】2019-03-04
【審査請求日】2021-06-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003199
【氏名又は名称】弁理士法人高田・高橋国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中平 俊朗
(72)【発明者】
【氏名】アベセカラ ヒランタ
(72)【発明者】
【氏名】篠原 笑子
(72)【発明者】
【氏名】井上 保彦
(72)【発明者】
【氏名】石原 浩一
(72)【発明者】
【氏名】林 崇文
(72)【発明者】
【氏名】五藤 大介
(72)【発明者】
【氏名】鷹取 泰司
【審査官】青木 健
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-98797(JP,A)
【文献】特開2019-33435(JP,A)
【文献】特開2005-117357(JP,A)
【文献】特開2017-225119(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04W 4/00 - 99/00
H04B 7/24 - 7/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無線基地局設置エリアに既に設置されている既設無線基地局を移動せず、増設する増設無線基地局の設置位置を算出する無線基地局設置位置算出方法において、
前記既設無線基地局のカバーエリア内の無線端末局を判定し、前記既設無線基地局とそのカバーエリア内の無線端末局とを前記無線基地局設置エリアから除外する処理を行うステップ1と、
前記ステップ1の除外処理で残った前記既設無線基地局のカバーエリア外の第1無線端末局に対して、受信電力が最大となる最寄りの前記増設無線基地局との組み合わせと、前記増設無線基地局の設置位置を最適化する処理を行うステップ2と、
前記ステップ2で最適化された前記増設無線基地局と前記第1無線端末局の組み合わせに対して、前記増設無線基地局のカバーエリア内およびカバーエリア外の無線端末局を判定し、該カバーエリア外の第2無線端末局を収容する増設無線基地局に対して、該カバーエリア内の無線端末局が増加するように設置位置の修正処理を行うステップ3と
を有することを特徴とする無線基地局設置位置算出方法。
【請求項2】
請求項1に記載の無線基地局設置位置算出方法において、
前記ステップ1は、前記既設無線基地局からの受信電力値の最大値が所定の閾値以上/未満となる前記無線端末局が、該既設無線基地局のカバーエリア内/外に存在すると判定し、
前記ステップ3は、前記増設無線基地局からの受信電力値の最大値が所定の閾値以上/未満となる前記第1無線端末局が該増設無線基地局のカバーエリア内/外に存在すると判定する
ことを特徴とする無線基地局設置位置算出方法。
【請求項3】
請求項1に記載の無線基地局設置位置算出方法において、
前記ステップ2は、前記無線基地局設置エリアに所定数の前記増設無線基地局を暫定設置し、前記第1無線端末局ごとに、受信電力値が最大となる最寄りの前記増設無線基地局を判定し、該最寄りの増設無線基地局が前記第1無線端末局を効率よく収容する設置位置に移動する処理を繰り返し、前記増設無線基地局と前記第1無線端末局の組み合わせと前記増設無線基地局の設置位置を最適化する処理を行う
ことを特徴とする無線基地局設置位置算出方法。
【請求項4】
請求項1に記載の無線基地局設置位置算出方法において、
前記ステップ3は、前記第2無線端末局が前記増設無線基地局のカバーエリア内になるまで前記増設無線基地局の設置位置を仮移動し、前記増設無線基地局のカバーエリア内の無線端末局が増加するときに前記増設無線基地局の設置位置を仮移動後の位置とし、増加しないときに前記増設無線基地局の設置位置を仮移動前に戻す処理を行う
ことを特徴とする無線基地局設置位置算出方法。
【請求項5】
無線基地局設置エリアに既に設置されている既設無線基地局を移動せず、増設する増設無線基地局の設置位置を算出する無線基地局設置位置算出システムにおいて、
前記既設無線基地局のカバーエリア内の無線端末局を判定し、前記既設無線基地局とそのカバーエリア内の無線端末局とを前記無線基地局設置エリアから除外する処理を行う処理手段1と、
前記処理手段1の除外処理で残った前記既設無線基地局のカバーエリア外の第1無線端末局に対して、受信電力が最大となる最寄りの前記増設無線基地局との組み合わせと、前記増設無線基地局の設置位置を最適化する処理を行う処理手段2と、
前記処理手段2で最適化された前記増設無線基地局と前記第1無線端末局の組み合わせに対して、前記増設無線基地局のカバーエリア内およびカバーエリア外の無線端末局を判定し、該カバーエリア外の第2無線端末局を収容する増設無線基地局に対して、該カバーエリア内の無線端末局が増加するように設置位置の修正処理を行う処理手段3と
を備えたことを特徴とする無線基地局設置位置算出システム。
【請求項6】
請求項5に記載の無線基地局設置位置算出システムにおいて、
前記処理手段1は、前記既設無線基地局からの受信電力値の最大値が所定の閾値以上/未満となる前記無線端末局が、該既設無線基地局のカバーエリア内/外に存在すると判定する構成であり、
前記処理手段3は、前記増設無線基地局からの受信電力値の最大値が所定の閾値以上/未満となる前記第1無線端末局が該増設無線基地局のカバーエリア内/外に存在すると判定する構成である
ことを特徴とする無線基地局設置位置算出システム。
【請求項7】
請求項5に記載の無線基地局設置位置算出システムにおいて、
前記処理手段2は、前記無線基地局設置エリアに所定数の前記増設無線基地局を暫定設置し、前記第1無線端末局ごとに、受信電力値が最大となる最寄りの前記増設無線基地局を判定し、該最寄りの増設無線基地局が前記第1無線端末局を効率よく収容する設置位置に移動する処理を繰り返し、前記増設無線基地局と前記第1無線端末局の組み合わせと前記増設無線基地局の設置位置を最適化する処理を行う構成である
ことを特徴とする無線基地局設置位置算出システム。
【請求項8】
請求項5に記載の無線基地局設置位置算出システムにおいて、
前記処理手段3は、前記第2無線端末局が前記増設無線基地局のカバーエリア内になるまで前記増設無線基地局の設置位置を仮移動し、前記増設無線基地局のカバーエリア内の無線端末局が増加するときに前記増設無線基地局の設置位置を仮移動後の位置とし、増加しないときに前記増設無線基地局の設置位置を仮移動前に戻す処理を行う構成である
ことを特徴とする無線基地局設置位置算出システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、既設無線基地局のエリア内に増設する無線基地局の設置位置を算出する無線基地局設置位置算出方法および無線基地局設置位置算出システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、スマートフォンやタブレットをはじめとする無線端末の急速な普及に伴い、無線端末による大容量コンテンツの利用者が増加しており、無線ネットワーク上のトラヒック量が急激に増大している。無線トラヒックを低コストかつ手軽に収容するため、無線システム免許不要帯の電波を用いた高速無線アクセスシステムとして広く普及している、非特許文献1に示すIEEE802.11無線LAN規格が利用されることが多い。家庭、オフィスをはじめとしたプライベートエリアや、店舗、駅、空港をはじめとした公衆エリアなど、様々なエリアにおいて、無線LANネットワークが提供されている。
【0003】
無線LANネットワークを構築するにあたっては、無線基地局の施工、パラメータ設定などの無線LAN通信部分、無線基地局-スイッチ間やスイッチとバックホール回線間などのネットワーク部分、およびユーザ認証やポータル画面などの上位サービス部分など、様々な要素を考慮して構築する必要がある。それらのうち、本発明では無線基地局の施工における無線基地局の設置位置に着目する。
【0004】
一般に、無線通信では伝搬距離や遮蔽物によって無線信号が減衰すると、無線通信の品質や容量の低下が生じるため、無線基地局と無線端末局との間の距離が短く、また、伝搬経路の見通しが確保できる状態が望ましい。一方で、無線基地局の設置数は機器装置、設置および運用にかかるコスト、さらに無線の電波干渉等により制約されるため、無線LANによりカバーするエリアに対し、必要数の無線基地局を適切な場所に設置することが重要となる。また、無線基地局1台で収容可能なトラヒック、ユーザ数に限りがあることから、無線LANユーザの増加に伴って、無線基地局が増設されることがあり、この場合においても、増設する無線基地局の設置位置の設計が重要となる。
【0005】
無線基地局の設置位置算出手法として、例えば、非特許文献2では、エリア内のユーザ分布の変動に応じて基地局装置の位置を動的に変更する技術が提案されている。また、非特許文献3に記載されているk-means法というクラスタリング手法を用いて、基地局装置に端末装置を収容することが検討されている。これにより、エリア内のユーザ位置に応じて無線基地局の設置位置を算出することが可能となる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】IEEE Std 802.11-2016, Dec. 2016.
【文献】新井拓人、五藤大介、岩渕匡史、岩國辰彦、丸田一輝、”オフロード効率改善を実現する適応可動APシステムの提案“信学技法, RCS2016-43, pp. 107-112, May. 2016.
【文献】J. Macqueen,“SOME METHODS FOR CLASSIFICATION AND ANALYSIS OF MULTIVARIATE OBSERVATIONS ”, Proc. of 5th Berkeley Symposium on Mathematical Statistics and Probability, pp.281-297, 1967.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
既設の無線基地局が設置されたエリアに対して無線基地局を増設する場合には、既設無線基地局の設置位置は変えずに、増設する無線基地局の設置位置を算出することが考えられる。しかしながら、非特許文献2において検討されている技術は、エリア内の全ての無線基地局を移動させることを想定しており、既設の無線基地局は動かさず、増設する無線基地局の設置位置のみ算出することができず、増設する無線基地局の設置位置の算出方法が課題となる。
【0008】
本発明は、既設の無線基地局を移動させずに増設する無線基地局の最適な設置位置を算出することができる無線基地局設置位置算出方法および無線基地局設置位置算出システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1の発明は、無線基地局設置エリアに既に設置されている既設無線基地局を移動せず、増設する増設無線基地局の設置位置を算出する無線基地局設置位置算出方法において、既設無線基地局のカバーエリア内の無線端末局を判定し、既設無線基地局とそのカバーエリア内の無線端末局とを無線基地局設置エリアから除外する処理を行うステップ1と、ステップ1の除外処理で残った既設無線基地局のカバーエリア外の第1無線端末局に対して、受信電力が最大となる最寄りの増設無線基地局との組み合わせと、増設無線基地局の設置位置を最適化する処理を行うステップ2と、ステップ2で最適化された増設無線基地局と第1無線端末局の組み合わせに対して、増設無線基地局のカバーエリア内およびカバーエリア外の無線端末局を判定し、該カバーエリア外の第2無線端末局を収容する増設無線基地局に対して、該カバーエリア内の無線端末局が増加するように設置位置の修正処理を行うステップ3とを有する。
【0010】
第1の発明の無線基地局設置位置算出方法において、ステップ1は、既設無線基地局からの受信電力値の最大値が所定の閾値以上/未満となる無線端末局が、該既設無線基地局のカバーエリア内/外に存在すると判定し、ステップ3は、増設無線基地局からの受信電力値の最大値が所定の閾値以上/未満となる第1無線端末局が該増設無線基地局のカバーエリア内/外に存在すると判定する。
【0011】
第1の発明の無線基地局設置位置算出方法において、ステップ2は、無線基地局設置エリアに所定数の増設無線基地局を暫定設置し、第1無線端末局ごとに、受信電力値が最大となる最寄りの増設無線基地局を判定し、該最寄りの増設無線基地局が第1無線端末局を効率よく収容する設置位置に移動する処理を繰り返し、増設無線基地局と第1無線端末局の組み合わせと増設無線基地局の設置位置を最適化する処理を行う。
【0012】
第1の発明の無線基地局設置位置算出方法において、ステップ3は、第2無線端末局が増設無線基地局のカバーエリア内になるまで増設無線基地局の設置位置を仮移動し、増設無線基地局のカバーエリア内の無線端末局が増加するときに増設無線基地局の設置位置を仮移動後の位置とし、増加しないときに増設無線基地局の設置位置を仮移動前に戻す処理を行う。
【0013】
第2の発明は、無線基地局設置エリアに既に設置されている既設無線基地局を移動せず、増設する増設無線基地局の設置位置を算出する無線基地局設置位置算出システムにおいて、既設無線基地局のカバーエリア内の無線端末局を判定し、既設無線基地局とそのカバーエリア内の無線端末局とを無線基地局設置エリアから除外する処理を行う処理手段1と、処理手段1の除外処理で残った既設無線基地局のカバーエリア外の第1無線端末局に対して、受信電力が最大となる最寄りの増設無線基地局との組み合わせと、増設無線基地局の設置位置を最適化する処理を行う処理手段2と、処理手段2で最適化された増設無線基地局と第1無線端末局の組み合わせに対して、増設無線基地局のカバーエリア内およびカバーエリア外の無線端末局を判定し、該カバーエリア外の第2無線端末局を収容する増設無線基地局に対して、該カバーエリア内の無線端末局が増加するように設置位置の修正処理を行う処理手段3とを備える。
【0014】
第2の発明の無線基地局設置位置算出システムにおいて、処理手段1は、既設無線基地局からの受信電力値の最大値が所定の閾値以上/未満となる無線端末局が、該既設無線基地局のカバーエリア内/外に存在すると判定する構成であり、処理手段3は、増設無線基地局からの受信電力値の最大値が所定の閾値以上/未満となる第1無線端末局が該増設無線基地局のカバーエリア内/外に存在すると判定する構成である。
【0015】
第2の発明の無線基地局設置位置算出システムにおいて、処理手段2は、無線基地局設置エリアに所定数の増設無線基地局を暫定設置し、第1無線端末局ごとに、受信電力値が最大となる最寄りの増設無線基地局を判定し、該最寄りの増設無線基地局が第1無線端末局を効率よく収容する設置位置に移動する処理を繰り返し、増設無線基地局と第1無線端末局の組み合わせと増設無線基地局の設置位置を最適化する処理を行う構成である。
【0016】
第2の発明の無線基地局設置位置算出システムにおいて、処理手段3は、第2無線端末局が増設無線基地局のカバーエリア内になるまで増設無線基地局の設置位置を仮移動し、増設無線基地局のカバーエリア内の無線端末局が増加するときに増設無線基地局の設置位置を仮移動後の位置とし、増加しないときに増設無線基地局の設置位置を仮移動前に戻す処理を行う構成である。
【発明の効果】
【0017】
本発明は、無線基地局設置エリア内の無線端末局について、既設無線基地局へ接続させる無線端末局群と、増設無線基地局へ接続させる無線端末局群とに分類し、増設無線基地局へ接続させる無線端末局群に対して、増設無線基地局の設置位置の算出を行うことで、既設無線基地局のカバーエリアを考慮しつつ増設無線基地局の設置位置を算出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明における無線基地局および無線端末局の配置例を示す。
【
図2】本発明の無線基地局設置位置算出方法の全体処理手順の例を示すフローチャートである。
【
図3】無線基地局設置エリア情報の例を示す図である。
【
図6】無線端末局に対する既設エリア判定(S2)の詳細処理手順の例を示すフローチャートである。
【
図7】無線端末局の最寄りの増設無線基地局の判定・移動(S6)の詳細処理手順の例を示すフローチャートである。
【
図8】増設無線基地局の設置位置修正(S9)の詳細処理手順の例を示すフローチャートである。
【
図9】無線端末局に対する既設エリア判定(S2)の結果の例を示す図である。
【
図10】既設無線基地局、既設エリア内の無線端末局の除外(S3)の結果の例を示す図である。
【
図11】無線端末局の最寄りの増設無線基地局の判定(S6,S64)の結果の例を示す図である。
【
図12】無線端末局の最寄りの増設無線基地局の移動(S6,S65)の結果の例を示す図である。
【
図13】孤立状態の増設無線基地局の移動の結果の例を示す図である。
【
図14】無線端末局に対する増設エリア判定(S8)の結果の例を示す図である。
【
図15】増設無線基地局の設置位置の修正(S9)の結果の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1は、本発明における無線基地局および無線端末局の配置例を示す。
図1において、無線基地局設置エリア1000の中に、既設無線基地局1-1~1-A(Aは1以上の整数)および無線端末局2-1~2-B(Bは1以上の整数)が配置され、増設無線基地局11-1~11-C(Cは1以上の整数)が暫定的に配置される。以後、既設無線基地局1-1~1-Aを総称して既設無線基地局1とし、無線端末局2-1~2-Bを総称して無線端末局2とし、増設無線基地局11-1~11-Cを総称して増設無線基地局11とする。
【0020】
図2は、本発明の無線基地局設置位置算出方法の全体処理手順の例を示す。
図2において、無線基地局設置位置算出処理では、無線基地局設置エリア情報、無線基地局情報および無線端末局情報に基づいて、無線基地局設置エリアに対して無線基地局および無線端末局を配置する(ステップS1)。
【0021】
ここで、無線基地局設置エリア情報の例を
図3に示し、無線基地局情報の例を
図4に示し、無線端末局情報の例を
図5に示す。
【0022】
図3に示すように、無線基地局設置エリア情報は、無線基地局設置位置算出処理に関する無線基地局設置エリアの情報として、例えば広さ(横,縦,高さ)と、無線環境情報として例えば伝搬減衰情報などが含まれる。
【0023】
図4に示すように、無線基地局情報は、無線基地局設置位置算出処理に関する既設無線基地局と増設無線基地局の情報として、例えば無線基地局の番号(AP番号)、無線基地局の種別(AP種別:既設/増設)と、設置位置(横,縦,高さの座標)と、無線設定(送信電力値,最低伝送レートなど)などが含まれる。
【0024】
図5に示すように、無線端末局情報は、無線基地局設置位置算出処理に関する無線端末の情報として、例えば無線端末局の番号(STA番号)と、接続先無線基地局(接続先AP)と、既設無線基地局のカバーエリア内/外を示す既設エリア判定情報(既設内/既設外)と、電力受信が最大となる無線基地局(最寄りAP)と、設置位置(横,縦,高さの座標)と、無線設定(送信電力値,最低伝送レートなど)などが含まれる。
【0025】
以上の情報に基づき、
図2のステップS1およびステップS2以下の処理が行われる。 まず、各無線端末局2に対する既設エリア判定、すなわち各既設無線基地局1のカバーエリア内に存在する無線端末局2を判定し(ステップS2)、全ての既設無線基地局1と、既設無線基地局1のカバーエリア内と判定された無線端末局2とを無線基地局設置エリア1000から除外する(ステップS3)。このステップS2,S3の処理により、既設無線基地局1のカバーエリア外にある無線端末局2と増設無線基地局11が残る。なお、ステップS2の処理の詳細は
図6を参照して後述する。
【0026】
次に、繰り返し処理のためのインデックス値i(iは1以上の整数)を1に設定し(ステップS4)、iが繰り返し処理の回数であるN(Nは1以上の整数)以下かどうかを判定する(ステップS5)。iがN以下の場合(ステップS5のYes)、ステップS3の処理で残った既設無線基地局1のカバーエリア外の無線端末局2ごとに、電力受信が最大となる最寄りの増設無線基地局11を判定し、さらに各増設無線基地局11が自局を最寄りとする無線端末局2を効率よく収容できるように、その設置位置の移動処理を実施する(ステップS6)。そして、iを1増加させて(ステップS7)、ステップS5へ戻ってステップS6の処理をN回繰り返し、ステップS8へ進む。ステップS6の処理を繰り返すことにより、無線端末局2と最寄りの増設無線基地局11の組み合わせが変わり、増設無線基地局11の配置が最適化されるが、その組み合わせが変わらない時点でステップS6の繰り返しを中止してステップS8に進んでもよい。なお、ステップS6の処理の詳細は
図7を参照して後述する。
【0027】
ステップS8では、各無線端末局2に対する増設エリア判定、すなわち各増設無線基地局11のカバーエリア内に存在する無線端末局2を判定する。なお、本処理は、ステップS2における既設無線基地局1を増設無線基地局11に置き換えた処理となる。
【0028】
次に、増設無線基地局11のカバーエリア内に存在する無線端末局2が増加するように、各増設無線基地局11の設置位置の修正処理を実施し(ステップS9)、処理を終了する。なお、本処理の詳細は
図8を参照して後述する。
【0029】
(ステップS2)
図6は、無線端末局2に対する既設エリア判定(
図2のステップS2)の詳細処理手順の例を示す。なお、
図2のステップS8(無線端末局2に対する増設エリア判定処理)も同様であり、既設無線基地局1を増設無線基地局11に置き換えた処理となる。
【0030】
図6において、まず全ての無線端末局2を未判定とする(ステップS21)。次に、未判定の無線端末局が存在するかどうかを判定し(ステップS22)、存在する場合(ステップS22のYes)はステップS23に進み、存在しない場合(ステップS22のNo)は処理を終了する。
【0031】
ステップS23では、未判定の無線端末局2のうち1台を選択して判定済みとし、その無線端末局2’における各既設無線基地局1からの受信電力値をそれぞれ算出する。なお、受信電力値は、各既設無線基地局1と無線端末局2’との間の距離、および無線基地局設置エリア情報の無線環境情報内の伝搬減衰から算出することができるが、別途、無線端末局2’の設置位置において測定したデータを利用してもよいし、その他の方法で算出してもよい。
【0032】
次に、無線端末局2’で算出した各既設無線基地局1からの受信電力値の中の最大値が、既設無線基地局1のカバーエリアに対応する閾値P以上かどうかを判定し(ステップS24)、閾値P以上である場合は(ステップS24のYes)、その無線端末局2’は、受信電力値が最大となる最寄りの既設無線基地局1のカバーエリア内であると判定し、無線端末局情報における無線端末局2’の情報を更新し(ステップS25)、ステップS22へ戻る。無線端末局2’で算出した各既設無線基地局1からの受信電力値の最大値が閾値P未満である場合は(ステップS24のNo)、無線端末局2’は最寄りの既設無線基地局1のカバーエリア外であると判定し、無線端末局情報における無線端末局2’の情報を更新し(ステップS26)、ステップS22へ戻る。
【0033】
以上のステップS21~S26からなる
図2のステップS2の処理により、
図9に示すように、各既設無線基地局1-1~1-Aからの受信電力値が閾値Pとなるカバーエリア100-1~100-Aに対して、既設無線基地局1-1のカバーエリア100-1内の無線端末局2-1と、既設無線基地局1-Aのカバーエリア100-A外の無線端末局2-Bに分類される。
【0034】
そして、
図2のステップS3の処理により、全ての既設無線基地局1と、既設無線基地局1のいずれかのカバーエリア内と判定された無線端末局2とを無線基地局設置エリア1000から除外すると、
図10に示すように既設無線基地局1のカバーエリア外の無線端末局2と、暫定配置された増設無線基地局11となる。
【0035】
(ステップS6)
図7は、無線端末局の最寄りの増設無線基地局の判定・移動(
図2のステップS6)の詳細処理手順の例を示す。
【0036】
図7において、まず全ての無線端末局2を未判定とする(ステップS61)。次に、未判定の無線端末局が存在するかどうかを判定し(ステップS62)、存在する場合(ステップS62のYes)はステップS63に進み、存在しない場合(ステップS62のNo)はステップS65へ進む。
【0037】
ステップS63では、未判定の無線端末局2のうち1台を選択して判定済みとし、その無線端末局2”における各増設無線基地局11からの受信電力値をそれぞれ算出する。
【0038】
次に、無線端末局2”で算出した各増設無線基地局11からの受信電力値が最大値となる最寄りの増設無線基地局11を判定し、無線端末局情報を更新し(ステップS64)、ステップS62へ戻る。
【0039】
以上の処理を繰り返して未判定の無線端末局が存在しなくなると、既設無線基地局1のカバーエリア外の無線端末局2は、それぞれ最寄りの増設無線基地局11が見つかることになり、ステップS65へ進む。この状態を
図11に示す増設無線基地局11-1~11-Cと無線端末局2-2~2-Bとの間の点線で示す。ここでは、増設無線基地局11-1と2つの無線端末局2-2~2-3が最寄りとなり、増設無線基地局11-Cと4つの無線端末局2-4~2-Bが最寄りとなる。
【0040】
ステップS65では、各増設無線基地局11は、自局が最寄りとなる無線端末局2の集合を効率よく収容できるように、自局の設置位置を移動する。なお、ここでの設置位置の移動方法として、例えば自局が最寄りとなる無線端末局2の集合に対する重心位置を算出して設置位置の移動先としたり、そのほか各無線端末局2における受信電力値を元に算出してもよい。
【0041】
以上のステップS61~S65からなる
図2のステップS6の処理により、
図11から
図12に示すように増設無線基地局11-1,11-Cの位置が調整される。さらに、ステップS6の処理を繰り返すことにより、無線端末局2と最寄りの増設無線基地局11の組み合わせを変えながら増設無線基地局11の設置位置を最適化できる。
【0042】
ここで、
図11に示すように、既設無線基地局1のカバーエリア外の無線端末局2-2~2-Bが特定の増設無線基地局11-1,11-Cの周辺に集中する場合には、最寄りとする無線端末局2が1台もない増設無線基地局11-2が生じる可能性がある。この場合、
図7のステップS64,S65において、増設無線基地局11-2は設置位置の移動処理を行うことができず孤立状態になる。このとき、
図12に示すように、孤立状態の増設無線基地局11-2において、他の増設無線基地局11-1,11-Cを最寄りとする無線端末局2-2~2-Bの中で、自局から最寄りの無線端末局2-4を探索し、その方向に移動処理を行う方法がある。その上で、
図2のステップS6(
図7のステップS61~S65)の処理を繰り返すことにより、
図13に示すように、各増設無線基地局11-1~11-Cを最寄りとする無線端末局2-2~2-Bの組み合わせが変わり、各増設無線基地局11-1~11-Cの設置位置を最適化することができる。
【0043】
なお、孤立状態の増設無線基地局11-2を無線端末局2-4の方向に移動させるとき、無線端末局2-4の最寄りが増設無線基地局11-Cから11-2に切り替わる位置までとするか、無線端末局2-4に隣接する位置までとするか、任意とする。後者の結果、さらに無線端末局2-5の最寄りが増設無線基地局11-Cから11-2に切り替わると、増設無線基地局11-2は無線端末局2-4と2-5の中間に移動し、増設無線基地局11-Cも無線端末局2-6と2-Bの中間に移動することになる。
【0044】
ところで、
図14に示す無線端末局2-2~2-Bの中には無線端末局2-Bのように、最寄りの増設無線基地局11-Cのカバーエリア100-C外になるものが生じる可能性がある。これへの対応が、
図2のステップS8,S9の処理となる。
【0045】
(ステップS9)
図8は、カバーエリア外の無線端末局2-Bを有する増設無線基地局11-Cの設置位置修正(
図2のステップS9)の詳細手順の例を示す。なお、その前のステップS8において、ステップS2に対応する
図6の処理フローの既設無線基地局1を増設無線基地局11に置き換えることにより、増設無線基地局11-Cのカバーエリア内に存在する無線端末局2-5,2-6が判定される。
【0046】
図8において、全ての増設無線基地局11のうち、自局からの受信電力値が最大となるが(最寄りであるが)、自局のカバーエリア外の無線端末局2が1台以上存在する増設無線基地局11を未判定とし、その他の増設無線基地局11を判定済みとする(ステップS91)。
図14の例では、カバーエリア外の無線端末局2-Bがある増設無線基地局11-Cが未判定となる。
【0047】
次に、未判定の増設無線基地局11が存在するかどうかを判定し(ステップS92)、存在する場合(ステップS92のYes)はステップS93へ進み、存在しない場合(ステップS92のNo)は処理を終了する。
【0048】
ステップS93では、未判定の増設無線基地局11のうち1台を選択して判定済みとし、その増設無線基地局11-Cを最寄りとする無線端末局2のうち、自局のカバーエリア外である無線端末局2-Bを未判定とし、その他の無線端末局2-5,2-6を判定済みとする。
【0049】
次に、未判定の無線端末局2が存在するかどうかを判定し(ステップS94)、存在する場合(ステップS94のYes)はステップS95へ進み、存在しない場合(ステップS94のNo)はステップS92へ戻る。
【0050】
ステップS95では、未判定の無線端末局2のうち1台を選択して判定済みとし、その無線端末局2-Bが自局のカバーエリア内に含まれるように、増設無線基地局11-Cの設置位置を仮移動する。ここで、仮移動の方法としては、無線端末局2-Bが増設無線基地局11-Cのカバーエリア内に含まれるまで無線端末局2-Bの方向に増設無線基地局11-Cを仮移動させたり、その他の方法で設置位置を仮移動させる。
【0051】
次に、増設無線基地局11-Cにおいて、仮移動によって自局のカバーエリア内に含まれる無線端末局2の数が増加したかどうかを判定し(ステップS96)、増加した場合(ステップS96のYes)は増設無線基地局11-Cの設置位置を仮移動後の位置として無線基地局情報を更新し(ステップS97)、増加していない場合(ステップS96のNo)は増設無線基地局11の設置位置を仮移動前に戻す(ステップS98)。
【0052】
例えば、
図15において、増設無線基地局11-Cのカバーエリア100-C内に無線端末局2-Bが含まれるように移動させた結果、無線端末局2-5がカバーエリア100-C外になってしまった場合は、無線端末局数の増減は±0であるので、増設無線基地局11-Cを仮移動前の位置に戻す。
【0053】
以上のステップS94~S98の処理を繰り返して未判定の無線端末局2がなくなり、さらにステップS92~S93の処理を繰り返して未判定の増設無線基地局11がなくなった時点で、
図2のステップS9の各増設無線基地局11に対する設置位置の修正処理が終了となる。その結果を
図15に示す。
【0054】
以上説明した
図2のステップS1~S9の処理、およびステップS2、ステップS6、ステップS9の詳細処理は、無線基地局設置エリア情報、無線基地局情報および無線端末局情報を扱う無線基地局設置位置算出システムにより実行されるが、汎用コンピュータで実現するようにしてもよい。
【0055】
その場合、この機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することによって実現してもよい。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものとする。また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD-ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。さらに「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムを送信する場合の通信線のように、短時間の間、動的にプログラムを保持するもの、その場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリのように、一定時間プログラムを保持しているものも含んでもよい。また上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであっても良く、さらに前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるものであってもよく、PLD(Programmable Logic Device )やFPGA(Field Programmable Gate Array )等のハードウェアを用いて実現されるものであってもよい。
【符号の説明】
【0056】
1 既設無線基地局
2 無線端末局
11 増設無線基地局
100 既設/増設無線基地局のカバーエリア
1000 無線基地局設置エリア