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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-03
(45)【発行日】2022-10-12
(54)【発明の名称】熱サイクルシステム
(51)【国際特許分類】
   F25B 49/02 20060101AFI20221004BHJP
   F25B 41/40 20210101ALI20221004BHJP
   F25B 1/00 20060101ALI20221004BHJP
【FI】
F25B49/02 540
F25B49/02 Z
F25B41/40 Z
F25B1/00 396Z
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2019513599
(86)(22)【出願日】2018-04-13
(86)【国際出願番号】 JP2018015463
(87)【国際公開番号】W WO2018193974
(87)【国際公開日】2018-10-25
【審査請求日】2021-02-09
(31)【優先権主張番号】P 2017083580
(32)【優先日】2017-04-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】特許業務法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】若林 寿夫
(72)【発明者】
【氏名】高木 洋一
【審査官】森山 拓哉
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/174054(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0331704(US,A1)
【文献】特開2000-130896(JP,A)
【文献】特開平10-047587(JP,A)
【文献】特開2000-346282(JP,A)
【文献】特開2000-097520(JP,A)
【文献】実開昭58-141170(JP,U)
【文献】国際公開第2015/140876(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F25B 49/00-49/04
F25B 41/00-41/48
F25B 1/00- 1/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トリフルオロエチレンを含む作動媒体を用いる熱サイクルシステムであって、
圧縮機と、室外熱交換器と、膨張弁と、室内熱交換器と、
前記圧縮機と、前記室外熱交換器と、前記膨張弁と、前記室内熱交換器と、を連結して前記作動媒体を循環させる循環流路と、
脆弱部と、
を備え、
前記脆弱部は、前記循環流路に設けられ、前記循環流路の耐圧強度よりも耐圧強度が低く、
前記室外熱交換器と前記脆弱部は、室外機に内蔵され、且つ
前記脆弱部は、前記室外熱交換器と対向する位置に設けられており、
前記脆弱部及び前記循環流路が、T型エルボを形成する、
熱サイクルシステム。
【請求項13】
前記脆弱部が、開口部と、前記開口部を閉塞している蓋部とを有し、前記開口部が前記 室外熱交換器と対向する、
請求項1から11までのいずれか1項に記載の熱サイクルシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トリフルオロエチレンを含む作動媒体を用いる熱サイクルシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ヒートパイプなどの潜熱輸送装置、冷凍機、空調機器といった熱サイクルシステム用の作動媒体として、炭素-炭素二重結合を有するヒドロフルオロオレフィン(HFO)に期待が集まっている。HFOは、炭素-炭素二重結合が大気中のOHラジカルによって分解されやすい。このことから、HFOは、オゾン層への影響や地球温暖化への影響が少ない作動媒体であるといえる。
【0003】
HFOを使用する作動媒体としては、例えばトリフルオロエチレンを用いたものが知られている。不燃性やサイクル性能などを高める目的で、トリフルオロエチレンに、各種ヒドロフルオロカーボン(HFC)を組み合わせて作動媒体とする試みもなされている。
【0004】
また、トリフルオロエチレンは、単独で用いた場合に高温下又は高圧下で着火源があると、自己分解することが知られている。そこで、トリフルオロエチレンを、例えばフッ化ビニリデンなどの他の成分と混合し、トリフルオロエチレンの含有量を抑えた混合物とすることで自己分解反応を抑える対策などが講じられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2012/157764号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、上記したトリフルオロエチレンの自己分解反応が起こり始める前であれば、例えば熱サイクルシステムにおける高圧や高温の状態を回避することができる。このため、膨張弁の開度を開いたり圧縮機の回転数を下げたりすることなどで、自己分解反応の発生を未然に防ぐことが可能である。さらに緊急の場合には、冷媒回路内の制御弁を全て開放する動作や電源をオフする動作を実行することで、自己分解反応の発生を未然に防ぐことが可能である。しかしながら、自己分解反応発生直後は、上記した冷媒回路内の圧力が通常の10倍程度まで瞬時に上昇してしまうため、熱サイクルシステムの大規模な破損が想定される。
【0007】
そこで、本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、作動媒体に含まれるトリフルオロエチレンの自己分解反応が生じた場合の発生被害を抑制できる熱サイクルシステムの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下の[1]~[13]に記載の構成を有する熱サイクルシステムを提供する。
[1]トリフルオロエチレンを含む作動媒体を用いる熱サイクルシステムであって、圧縮機と、凝縮器と、膨張弁と、蒸発器と、前記圧縮機と、前記凝縮器と、前記膨張弁と、前記蒸発器と、を連結して前記作動媒体を循環させる循環流路と、脆弱部と、を備え、前記脆弱部は、前記循環流路又は前記凝縮器に設けられ、前記循環流路及び前記凝縮器の耐圧強度よりも耐圧強度が低い、熱サイクルシステム。
[2]前記脆弱部は、前記圧縮機と前記凝縮器とを連結する循環流路、又は前記凝縮器と前記膨張弁とを連結する循環流路に設けられている、請求項1に記載の熱サイクルシステム。
[3]前記圧縮機と前記凝縮器とを連結する循環流路に四方弁が設けられ、前記脆弱部は、前記圧縮機と前記四方弁とを連結する循環流路に設けられている、請求項1又は2に記載の熱サイクルシステム。
[4]前記脆弱部は、前記循環流路内で前記トリフルオロエチレンの自己分解反応が生じたときに発生する圧力により破損して前記循環流路の外部へ圧力を開放する、請求項1から3までのいずれか1項に記載の熱サイクルシステム。
[5]前記脆弱部の耐圧強度は、前記循環流路及び前記凝縮器の耐圧強度を100%とした場合、70%以上、90%以下の範囲内にある、請求項1から4までのいずれか1項に記載の熱サイクルシステム。
[6]前記脆弱部の耐圧強度は、前記熱サイクルシステムの設計圧力の1.5倍以上、3倍以下の範囲内にある、請求項1から5までのいずれか1項に記載の熱サイクルシステム。
[7]前記脆弱部は、前記循環流路の構成材料よりも引張強さが小さい構成材料からなる、請求項1から6までのいずれか1項に記載の熱サイクルシステム。
[8]前記脆弱部の厚さが、前記循環流路の厚さよりも薄い、請求項1から7までのいずれか1項に記載の熱サイクルシステム。
[9]防護部をさらに備える、請求項1から8までのいずれか1項に記載の熱サイクルシステム。
[10]前記防護部は、メッシュ状の部材を有する、請求項9に記載の熱サイクルシステム。
[11]前記防護部は、多孔質の吸着部材をさらに有する、請求項9又は10に記載の熱サイクルシステム。
[12]前記凝縮器と前記脆弱部は、室外機に内蔵され、前記脆弱部は、前記凝縮器と対向する位置に選択的に設けられている、請求項1から11までのいずれか1項に記載の熱サイクルシステム。
[13]前記作動媒体100質量%中のトリフルオロエチレンの含有量は、50質量%を超え100質量%以下である、請求項1から12までのいずれか1項に記載の熱サイクルシステム。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、作動媒体に含まれるトリフルオロエチレンの自己分解反応が生じた場合の発生被害を抑制できる熱サイクルシステムを提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施形態に係る熱サイクルシステムの構成を概略的に示す図。
図2図1の熱サイクルシステムが備える圧縮機の構成を示す図。
図3図1の熱サイクルシステムの循環流路に設けられた脆弱部を示す断面図。
図4図3の脆弱部とは構造が異なる他の脆弱部を示す断面図。
図5図4の脆弱部の外側にメッシュ状の部材を配置しで構成された防護部を示す断面図。
図6図5のメッシュ状の部材のさらに外側に多孔質の吸着部材を配置して構成された防護部を示す断面図。
図7図3及び図4の脆弱部とは構造が異なる他の脆弱部を示す断面図。
図8図7の脆弱部のレイアウトを概略的に示す図。
図9図3図4及び図7の脆弱部とは構造が異なる他の脆弱部を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づき説明する。
図1に示すように、本実施形態の熱サイクルシステム10は、トリフルオロエチレン(HFO-1123ともいう)を含む作動媒体(冷媒)を適用する冷暖房機能を備えた空調システムである。主に、熱サイクルシステム10は、圧縮機20、室外熱交換器(凝縮器又は蒸発器)14、膨張弁15、室内熱交換器(蒸発器又は凝縮器)12、四方弁16、循環流路17を備え、作動媒体11が封入されている。図1では、冷房時における循環流路17上に沿った作動媒体11の流れの向きを矢印線で図示している。
【0012】
上記した作動媒体11は、その全量中におけるトリフルオロエチレンの含有量が50質量%を超え100質量%以下であることが望ましい。なお、本明細書中においては、特に断りのない限り飽和炭化水素の水素原子の一部がフッ素原子に置換された化合物であるヒドロフルオロカーボンをHFCといい、炭素‐炭素二重結合を有し、炭素原子、水素原子およびフッ素原子から構成されるヒドロフルオロオレフィン(HFO)とは区別して用いる。また、HFCを飽和のヒドロフルオロカーボンと記載する場合もある。さらに、HFCやHFOのハロゲン化炭化水素については、化合物名の後の括弧内にその化合物の略称を記すが、本明細書では必要に応じて化合物名に代えてその略称を用いる。
【0013】
図1に示すように、循環流路17は、圧縮機20と、室外熱交換器(凝縮器又は蒸発器)14と、膨張弁15と、室内熱交換器(蒸発器又は凝縮器)12と、を連結して作動媒体11を循環させる。四方弁16は、圧縮機20と、室外熱交換器14及び室内熱交換器12と、を連結する循環流路17中に設けられている。四方弁16は、循環流路17を循環する作動媒体11の流れの向きを変更する。冷房時には、室外熱交換器14は凝縮器として機能し、室内熱交換器12は蒸発器として機能する。一方、暖房時には、室外熱交換器14は蒸発器として機能し、室内熱交換器12は凝縮器として機能する。
【0014】
つまり、冷房時には、循環流路17は、作動媒体11を、圧縮機20から、四方弁16、室外熱交換器(凝縮器)14、膨張弁15、室内熱交換器(蒸発器)12、四方弁16を順に経由して圧縮機20に循環させる。一方、暖房時には、循環流路17は、作動媒体11を、圧縮機20から、四方弁16、室内熱交換器(凝縮器)12、膨張弁15、室外熱交換器(蒸発器)14、四方弁16を順に経由して圧縮機20に循環させる。
【0015】
詳述すると、図1に示すように、冷房時においては、圧縮機20は、作動媒体11を蒸気Aの状態で吸入し圧縮して高温高圧の蒸気Bにする。蒸気Bとなった作動媒体11は四方弁16を介して室外熱交換器(凝縮器)14に導かれ、室外ファン14aの送風により周囲空気に放熱し冷却・液化して、低温高圧の液状態Cになる。膨張弁15に流入した液状態Cの作動媒体11は、膨張・減圧作用を受けて低温低圧の気液二相の状態Dになる。室内熱交換器(蒸発器)12に導かれた作動媒体11(状態D)は、室内ファン12aの送風により周囲空気より吸熱し加熱・蒸発して、低温低圧の蒸気Aとなり、四方弁16を介して圧縮機20に帰還する。
【0016】
図2に示すように、モータを内蔵する密閉型の圧縮機20は、スクロール式の圧縮機であって、密閉容器21、モータステータ22a、モータロータ22b、スクロール圧縮機構23、アキュムレータ24及び吸入管25、吐出管26、電力供給端子27、電力供給路28を備えており、電力は図示した外部電源から供給される。
【0017】
スクロール圧縮機構23は図示しない2枚の渦巻状構造体を互いに対向させ、噛み合わせて空間を形成し、モータロータ22bの回転に伴って駆動され、当該空間の容積が変化することにより作動媒体11を圧縮する。アキュムレータ24及び吸入管25は、密閉容器21に接続されており、作動媒体11をスクロール圧縮機構23内に導入(吸入)する。スクロール圧縮機構23で圧縮された作動媒体11は、密閉容器内に吐出された後、吐出管26、四方弁16を経由して凝縮器(冷房時には室外熱交換器14、暖房時には室内熱交換器12)へ流入する。圧縮機20への電力供給は、外部電源から、電力供給端子27及び電力供給路28を介してモータステータ22aに供給される。
【0018】
なお、ここでは、スクロール式の圧縮機を例示したが、公知の圧縮機であれば特に限定されずに適用することができる。例えば、レシプロ式圧縮機、斜板式圧縮機、ロータリ式圧縮機、遠心式圧縮機など、スクロール式の圧縮機に代えて、適用することが可能である。
【0019】
ここで、上記した作動媒体は、HFO-1123とその他の作動媒体を含有する混合媒体である。なお、HFO-1123の地球温暖化係数(100年)は、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)第4次評価報告書に準じて測定された値として、0.3である。本明細書においてGWPは、特に断りのない限り、この値を用いている。
【0020】
このように、作動媒体としては、GWPの極めて低いHFO-1123を50質量%超含有することで、得られる作動媒体のGWPの値も低く抑えたものにできるため好ましい。作動媒体が後述の任意成分を含む場合、その任意成分のGWPが、例えば、後述の飽和HFCのように、HFO-1123よりも高い場合には、その含有割合が低いほどGWPを低く抑えることができる。
【0021】
この作動媒体に用いられるHFO-1123は、作動媒体中においてその含有割合が高い場合に、高温又は高圧下で着火源が存在すると、連鎖的な自己分解反応をおこすおそれがある。なお、作動媒体としてHFO-1123の含有量を低くすることで自己分解反応を抑えることができるが、その含有量が低くなりすぎると、混合する他の作動媒体にもよるが、GWPが上昇し、冷凍能力及び成績係数が低下する場合が多い。
【0022】
ここで、作動媒体を本実施形態の熱サイクルシステムに適用するにあたっては、作動媒体100質量%中のHFO-1123の含有割合を50質量%超とすることが好ましく、60質量%超とすることがより好ましく、70質量%超とすることがさらに好ましい。このような含有割合とすることで、GWPを十分に低くして、良好な冷凍能力を確保できる。
【0023】
<任意成分>
作動媒体は、本発明の効果を損なわない範囲でHFO-1123以外に、任意成分として通常作動媒体として用いられる化合物を含有してもよい。任意成分としては、HFC、HFO-1123以外のHFOが好ましい。
【0024】
<HFC>
HFCとしては、例えば、HFO-1123と組み合わせて熱サイクルに用いた際に、温度勾配を小さくする作用、能力を向上させる作用または効率をより高める作用を有するHFCが用いられる。本発明に使用される熱サイクル用の作動媒体がこのようなHFCを含むと、より良好なサイクル性能が得られる。
【0025】
なお、HFCは、HFO-1123に比べてGWPが高いことが知られている。したがって、上記作動媒体としてのサイクル性能の向上に加えて、GWPを許容の範囲にとどめる観点からHFCを選択する。
【0026】
オゾン層への影響が少なく、かつ地球温暖化への影響が小さいHFCとして具体的には炭素数1~5のHFCが好ましい。HFCは、直鎖状であっても、分岐状であってもよく、環状であってもよい。
【0027】
HFCとしては、ジフルオロメタン(HFC-32)、ジフルオロエタン、トリフルオロエタン、テトラフルオロエタン、ペンタフルオロエタン(HFC-125)、ペンタフルオロプロパン、ヘキサフルオロプロパン、ヘプタフルオロプロパン、ペンタフルオロブタン、ヘプタフルオロシクロペンタンなどが挙げられる。
【0028】
なかでも、HFCとしては、オゾン層への影響が少なく、かつ冷凍サイクル特性が優れる点から、HFC-32、1,1-ジフルオロエタン(HFC-152a)、1,1,1-トリフルオロエタン(HFC-143a)、1,1,2,2-テトラフルオロエタン(HFC-134)、1,1,1,2-テトラフルオロエタン(HFC-134a)、及びHFC-125が好ましく、HFC-32、HFC-134a、及びHFC-125がより好ましい。HFCは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0029】
なお、上記好ましいHFCのGWPは、HFC-32については675であり、HFC-134aについては1430であり、HFC-125については3500である。得られる作動媒体のGWPを低く抑える観点から、任意成分のHFCとしては、HFC-32が最も好ましい。
【0030】
<HFO-1123以外のHFO>
HFO-1123以外のHFOとしては、2,3,3,3-テトラフルオロ-1-プロペン(HFO-1234yf)、トランス-1,2-ジフルオロエチレン(HFO-1132(E))、シス-1,2-ジフルオロエチレン(HFO-1132(Z))、2-フルオロプロペン(HFO-1261yf)、1,1,2-トリフルオロプロペン(HFO-1243yc)、トランス-1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロペン(HFO-1225ye(E))、シス-1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロペン(HFO-1225ye(Z))、トランス-1,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234ze(E))、シス-1,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234ze(Z))、3,3,3-トリフルオロプロペン(HFO-1243zf)などが挙げられる。
【0031】
なかでも、HFO-1123以外のHFOとしては、高い臨界温度を有し、安全性、成績係数が優れる点から、HFO-1234yf、HFO-1234ze(E)、HFO-1234ze(Z)が好ましい。これらのHFO-1123以外のHFOは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0032】
作動媒体が、任意成分のHFC及び/又は、HFO-1123以外のHFOを含む場合、該作動媒体100質量%中のHFC、及び、HFO-1123以外のHFOの合計の含有割合は、50質量%以下が好ましく、0質量%より大きく40質量%以下がより好ましく、0質量%より大きく30質量%以下が最も好ましい。作動媒体におけるHFC及びHFO-1123以外のHFOの合計の含有割合は、用いるHFC及びHFO-1123以外のHFOの種類に応じて、上記範囲内で適宜調整される。このとき、HFO-1123と組み合わせて熱サイクルに用いた際に、温度勾配を小さくする、能力を向上させる、または、効率をより高める、などの観点、さらには地球温暖化係数を勘案して、調整する。
【0033】
<その他の任意成分>
作動媒体は、上記任意成分以外に、二酸化炭素、炭化水素、クロロフルオロオレフィン(CFO)、ヒドロクロロフルオロオレフィン(HCFO)などをその他の任意成分として含有してもよい。その他の任意成分としては、オゾン層への影響が少なく、かつ地球温暖化への影響が小さい成分が好ましい。
【0034】
炭化水素としては、プロパン、プロピレン、シクロプロパン、ブタン、イソブタン、ペンタン、イソペンタンなどが挙げられる。炭化水素は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0035】
作動媒体が炭化水素を含有する場合、その含有量は作動媒体の100質量%に対して10質量%以下が好ましく、1~10質量%がより好ましく、1~7質量%がさらに好ましく、2~5質量%が最も好ましい。炭化水素が下限値以上であれば、作動媒体への鉱物系冷凍機油の溶解性がより良好になる。
【0036】
クロロフルオロオレフィン(CFO)としては、クロロフルオロエチレン、クロロフルオロプロペンなどが挙げられる。本発明において熱サイクル用作動媒体のサイクル性能を大きく低下させることなく作動媒体の燃焼性を抑えやすい点から、CFOとしては、1,1-ジクロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(CFO-1214ya)、1,3-ジクロロ-1,2,3,3-テトラフルオロプロペン(CFO-1214yb)、1,2-ジクロロ-1,2-ジフルオロエチレン(CFO-1112)が好ましい。CFOは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0037】
作動媒体がCFOを含有する場合、その含有割合は該作動媒体の100質量%に対して50質量%以下が好ましく、0質量%より大きく40質量%以下がより好ましく、0質量%より大きく30質量%以下が最も好ましい。CFOの含有割合が下限値を超える値であれば、作動媒体の燃焼性を抑制しやすい。CFOの含有割合が上限値以下であれば、良好なサイクル性能が得られやすい。
【0038】
HCFOとしては、ヒドロクロロフルオロプロペン、ヒドロクロロフルオロエチレンなどが挙げられる。本発明に使用される熱サイクル用作動媒体のサイクル性能を大きく低下させることなく作動媒体の燃焼性を抑えやすい点から、HCFOとしては、1-クロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HCFO-1224yd)、1-クロロ-1,2-ジフルオロエチレン(HCFO-1122)が好ましい。
HCFOは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0039】
作動媒体がHCFOを含む場合、該作動媒体100質量%中のHCFOの含有割合は、50質量%以下が好ましく、0質量%より大きく40質量%以下がより好ましく、0質量%より大きく30質量%以下が最も好ましい。HCFOの含有割合が下限値を超える値であれば、作動媒体の燃焼性を抑制しやすい。HCFOの含有割合が上限値以下であれば、良好なサイクル性能が得られやすい。
【0040】
作動媒体が上記のような任意成分及びその他の任意成分を含有する場合、その合計含有割合は、作動媒体100質量%に対して50質量%以下が好ましい。
【0041】
以上説明した作動媒体は、地球温暖化への影響が少ないHFOであって、作動媒体としての能力に優れるHFO-1123を含有するものであり、地球温暖化への影響を抑えつつ、実用的なサイクル性能を有するものである。
【0042】
<熱サイクルシステム用組成物>
上記の作動媒体は、通常、冷凍機油と混合して熱サイクルシステムに使用される熱サイクルシステム用組成物とする。この熱サイクルシステム用組成物は、上記熱サイクルシステムの循環流路内に封入して使用される。この熱サイクルシステム用組成物は、冷凍機油以外にさらに、安定剤、漏れ検出物質などの公知の添加剤を含有してもよい。
【0043】
<冷凍機油>
冷凍機油としては、従来のハロゲン化炭化水素からなる作動媒体と共に、熱サイクルシステム用組成物に用いられる公知の冷凍機油が特に制限なく採用できる。冷凍機油として具体的には、含酸素系冷凍機油(エステル系冷凍機油、エーテル系冷凍機油など)、フッ素系冷凍機油、鉱物系冷凍機油、炭化水素系冷凍機油などが挙げられる。
【0044】
エステル系冷凍機油としては、二塩基酸エステル油、ポリオールエステル油、コンプレックスエステル油、ポリオール炭酸エステル油などが挙げられる。
【0045】
二塩基酸エステル油としては、炭素数5~10の二塩基酸(グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸など)と、直鎖または分枝アルキル基を有する炭素数1~15の一価アルコール(メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、ノナノール、デカノール、ウンデカノール、ドデカノール、トリデカノール、テトラデカノール、ペンタデカノールなど)とのエステルが好ましい。この二塩基酸エステル油としては、具体的には、グルタル酸ジトリデシル、アジピン酸ジ(2-エチルヘキシル)、アジピン酸ジイソデシル、アジピン酸ジトリデシル、セバシン酸ジ(3-エチルヘキシル)などが挙げられる。
【0046】
ポリオールエステル油としては、ジオール(エチレングリコール、1,3-プロパンジオール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,2-ブタンジオール、1,5-ペンタジオール、ネオペンチルグリコール、1,7-ヘプタンジオール、1,12-ドデカンジオールなど)または水酸基を3~20個有するポリオール(トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン、ペンタエリスリトール、グリセリン、ソルビトール、ソルビタン、ソルビトールグリセリン縮合物など)と、炭素数6~20の脂肪酸(ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ウンデカン酸、ドデカン酸、エイコサン酸、オレイン酸などの直鎖または分枝の脂肪酸、もしくはα炭素原子が4級であるいわゆるネオ酸など)とのエステルが好ましい。なお、これらのポリオールエステル油は、遊離の水酸基を有していてもよい。
【0047】
ポリオールエステル油としては、ヒンダードアルコール(ネオペンチルグリコール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン、ペンタエリスルトールなど)のエステル(トリメチロールプロパントリペラルゴネート、ペンタエリスリトール2-エチルヘキサノエート、ペンタエリスリトールテトラペラルゴネートなど)が好ましい。
【0048】
コンプレックスエステル油とは、脂肪酸及び二塩基酸と、一価アルコール及びポリオールとのエステルである。脂肪酸、二塩基酸、一価アルコール、ポリオールとしては、上述と同様のものを用いることができる。
【0049】
ポリオール炭酸エステル油とは、炭酸とポリオールとのエステルである。ポリオールとしては、上述と同様のジオールや上述と同様のポリオールが挙げられる。また、ポリオール炭酸エステル油としては、環状アルキレンカーボネートの開環重合体であってもよい。
【0050】
エーテル系冷凍機油としては、ポリビニルエーテル油やポリオキシアルキレン油が挙げられる。ポリビニルエーテル油としては、アルキルビニルエーテルなどのビニルエーテルモノマーを重合して得られたものや、ビニルエーテルモノマーとオレフィン性二重結合を有する炭化水素モノマーとを共重合して得られた共重合体がある。ビニルエーテルモノマーは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0051】
オレフィン性二重結合を有する炭化水素モノマーとしては、エチレン、プロピレン、各種ブテン、各種ペンテン、各種ヘキセン、各種ヘプテン、各種オクテン、ジイソブチレン、トリイソブチレン、スチレン、α-メチルスチレン、各種アルキル置換スチレンなどが挙げられる。オレフィン性二重結合を有する炭化水素モノマーは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0052】
ポリビニルエーテル共重合体は、ブロックまたはランダム共重合体のいずれであってもよい。ポリビニルエーテル油は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0053】
ポリオキシアルキレン油としては、ポリオキシアルキレンモノオール、ポリオキシアルキレンポリオール、ポリオキシアルキレンモノオールやポリオキシアルキレンポリオールのアルキルエーテル化物、ポリオキシアルキレンモノオールやポリオキシアルキレンポリオールのエステル化物などが挙げられる。
【0054】
ポリオキシアルキレンモノオールやポリオキシアルキレンポリオールは、水酸化アルカリなどの触媒の存在下、水や水酸基含有化合物などの開始剤に炭素数2~4のアルキレンオキシド(エチレンオキシド、プロピレンオキシドなど)を開環付加重合させる方法などにより得られたものが挙げられる。また、ポリアルキレン鎖中のオキシアルキレン単位は、1分子中において同一であってもよく、2種以上のオキシアルキレン単位が含まれていてもよい。1分子中に少なくともオキシプロピレン単位が含まれることが好ましい。
【0055】
反応に用いる開始剤としては、水、メタノールやブタノールなどの1価アルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ペンタエリスリトール、グリセロールなどの多価アルコールが挙げられる。
【0056】
ポリオキシアルキレン油としては、ポリオキシアルキレンモノオールやポリオキシアルキレンポリオールの、アルキルエーテル化物やエステル化物が好ましい。また、ポリオキシアルキレンポリオールとしては、ポリオキシアルキレングリコールが好ましい。特に、ポリグリコール油と呼ばれる、ポリオキシアルキレングリコールの末端水酸基がメチル基などのアルキル基でキャップされた、ポリオキシアルキレングリコールのアルキルエーテル化物が好ましい。
【0057】
フッ素系冷凍機油としては、合成油(後述する鉱物油、ポリα-オレフィン、アルキルベンゼン、アルキルナフタレンなど)の水素原子をフッ素原子に置換した化合物、ペルフルオロポリエーテル油、フッ素化シリコーン油などが挙げられる。
【0058】
鉱物系冷凍機油としては、原油を常圧蒸留または減圧蒸留して得られた冷凍機油留分を、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、接触脱ろう、水素化精製、白土処理等の精製処理を適宜組み合わせて精製したパラフィン系鉱物油、ナフテン系鉱物油などが挙げられる。
【0059】
炭化水素系冷凍機油としては、ポリα-オレフィン、アルキルベンゼン、アルキルナフタレンなどが挙げられる。
【0060】
冷凍機油は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。冷凍機油としては、作動媒体との相溶性の点から、ポリオールエステル油、ポリビニルエーテル油及びポリグリコール油から選ばれる1種以上が好ましい。冷凍機油の添加量は、本発明の効果を著しく低下させない範囲であればよく、作動媒体100質量部に対して、10~100質量部が好ましく、20~50質量部がより好ましい。
【0061】
<安定剤>
安定剤は、熱及び酸化に対する作動媒体の安定性を向上させる成分である。安定剤としては、従来からハロゲン化炭化水素からなる作動媒体とともに、熱サイクルシステムに用いられる公知の安定剤、例えば、耐酸化性向上剤、耐熱性向上剤、金属不活性剤などが特に制限なく採用できる。
【0062】
耐酸化性向上剤及び耐熱性向上剤としては、N,N’-ジフェニルフェニレンジアミン、p-オクチルジフェニルアミン、p,p’-ジオクチルジフェニルアミン、N-フェニル-1-ナフチルアミン、N-フェニル-2-ナフチルアミン、N-(p-ドデシル)フェニル-2-ナフチルアミン、ジ-1-ナフチルアミン、ジ-2-ナフチルアミン、N-アルキルフェノチアジン、6-(t-ブチル)フェノール、2,6-ジ-(t-ブチル)フェノール、4-メチル-2,6-ジ-(t-ブチル)フェノール、4,4’-メチレンビス(2,6-ジ-t-ブチルフェノール)などが挙げられる。耐酸化性向上剤及び耐熱性向上剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0063】
金属不活性剤としては、イミダゾール、ベンズイミダゾール、2-メルカプトベンズチアゾール、2,5-ジメチルカプトチアジアゾール、サリシリジン-プロピレンジアミン、ピラゾール、ベンゾトリアゾール、トルトリアゾール、2-メチルベンズアミダゾール、3,5-ジメチルピラゾール、メチレンビス-ベンゾトリアゾール、有機酸またはそれらのエステル、第1級、第2級または第3級の脂肪族アミン、有機酸または無機酸のアミン塩、複素環式窒素含有化合物、アルキル酸ホスフェートのアミン塩又はそれらの誘導体などが挙げられる。
【0064】
安定剤の添加量は、本発明の効果を著しく低下させない範囲であればよく、作動媒体100質量部に対して、5質量部以下が好ましく、1質量部以下がより好ましい。
【0065】
<漏れ検出物質>
漏れ検出物質としては、紫外線蛍光染料、臭気ガスや臭いマスキング剤などが挙げられる。
【0066】
紫外線蛍光染料としては、米国特許第4249412号明細書、特表平10-502737号公報、特表2007-511645号公報、特表2008-500437号公報、特表2008-531836号公報に記載されたものなど、従来、ハロゲン化炭化水素からなる作動媒体とともに、熱サイクルシステムに用いられる公知の紫外線蛍光染料が挙げられる。
【0067】
臭いマスキング剤としては、特表2008-500437号公報、特表2008-531836号公報に記載されたものなど、従来からハロゲン化炭化水素からなる作動媒体とともに、熱サイクルシステムに用いられる公知の香料が挙げられる。
【0068】
漏れ検出物質を用いる場合には、作動媒体への漏れ検出物質の溶解性を向上させる可溶化剤を用いてもよい。可溶化剤としては、特表2007-511645号公報、特表2008-500437号公報、特表2008-531836号公報に記載されたものなどが挙げられる。
【0069】
漏れ検出物質の添加量は、本発明の効果を著しく低下させない範囲であればよく、作動媒体100質量部に対して、2質量部以下が好ましく、0.5質量部以下がより好ましい。
【0070】
<熱サイクルシステム>
次に、上記の熱サイクル用作動媒体を適用する本発明の熱サイクルシステムについて説明する。この熱サイクルシステムは、HFO-1123を含む熱サイクル用作動媒体として用いたシステムである。この熱サイクル用作動媒体を熱サイクルシステムに適用するにあたっては、通常、作動媒体を含有する熱サイクルシステム用組成物として適用する。
【0071】
また、本発明の熱サイクルシステムは、基本的な熱サイクルは従来公知の熱サイクルシステムと同一の構成のものが挙げられ、凝縮器で得られる温熱を利用するヒートポンプシステムであってもよく、蒸発器で得られる冷熱を利用する冷凍サイクルシステムであってもよい。
【0072】
この熱サイクルシステムとして、具体的には、冷凍・冷蔵機器、空調機器、発電システム、熱輸送装置及び二次冷却機などが挙げられる。なかでも、本発明の熱サイクルシステムは、より高温の作動環境でも安定して熱サイクル性能を発揮できるため、屋外などに設置されることが多い空調機器に用いられることが好ましい。また、本発明の熱サイクルシステムは、冷凍・冷蔵機器に用いられることも好ましい。
【0073】
空調機器として、具体的には、ルームエアコン、パッケージエアコン(店舗用パッケージエアコン、ビル用パッケージエアコン、設備用パッケージエアコンなど)、ガスエンジンヒートポンプ、列車用空調装置、自動車用空調装置などが挙げられる。
【0074】
冷凍・冷蔵機器として、具体的には、ショーケース(内蔵型ショーケース、別置型ショーケースなど)、業務用冷凍・冷蔵庫、自動販売機、製氷機などが挙げられる。
【0075】
発電システムとしては、ランキンサイクルシステムによる発電システムが好ましい。発電システムとして、具体的には、蒸発器において地熱エネルギー、太陽熱、50~200℃程度の中~高温度域廃熱などにより作動媒体を加熱し、高温高圧状態の蒸気となった作動媒体を膨張機にて断熱膨張させ、該断熱膨張によって発生する仕事によって発電機を駆動させ、発電を行うシステムが例示される。
【0076】
また、本発明の熱サイクルシステムは、熱輸送装置であってもよい。熱輸送装置としては、潜熱輸送装置が好ましい。
【0077】
潜熱輸送装置としては、装置内に封入された作動媒体の蒸発、沸騰、凝縮などの現象を利用して潜熱輸送を行うヒートパイプ及び二相密閉型熱サイフォン装置が挙げられる。ヒートパイプは、半導体素子や電子機器の発熱部の冷却装置など、比較的小型の冷却装置に適用される。二相密閉型熱サイフォンは、ウィッグを必要とせず構造が簡単であることから、ガス-ガス型熱交換器、道路の融雪促進及び凍結防止などに広く利用される。
【0078】
<水分濃度>
なお、熱サイクルシステムの稼働に際しては、水分の混入や、酸素などの不凝縮性気体の混入による不具合の発生を避けるために、これらの混入を抑制する手段を設けることが好ましい。
【0079】
熱サイクルシステム内に水分が混入すると、特に低温で使用される際に問題が生じる場合がある。例えば、キャピラリーチューブ内での氷結、作動媒体や冷凍機油の加水分解、サイクル内で発生した酸成分による材料劣化、コンタミナンツの発生などの問題が発生する。特に、冷凍機油がポリグリコール油、ポリオールエステル油などである場合は、吸湿性が極めて高く、また、加水分解反応を生じやすく、冷凍機油としての特性が低下し、圧縮機の長期信頼性を損なう大きな原因となる。したがって、冷凍機油の加水分解を抑えるためには、熱サイクルシステム内の水分濃度を制御する必要がある。
【0080】
熱サイクルシステム内の水分濃度を制御する方法としては、乾燥剤(例えばシリカゲル、活性アルミナ、ゼオライト、塩化リチウム)などの水分除去手段を用いる方法が挙げられる。
【0081】
乾燥剤は、液状の作動媒体と接触させることが、脱水効率の点で好ましい。例えば、膨張弁15の入口に乾燥剤を配置して、作動媒体と接触させることが好ましい。乾燥剤としては、乾燥剤と作動媒体との化学反応性、乾燥剤の吸湿能力の点から、ゼオライト系乾燥剤が好ましい。
【0082】
ゼオライト系乾燥剤としては、従来の鉱物系冷凍機油に比べて吸湿量の高い冷凍機油を用いる場合には、吸湿能力に優れる点から、下記の式[1]で表される化合物を主成分とするゼオライト系乾燥剤が好ましい。
2/nO・Al23・xSiO2・yH2O … 式[1]
ただし、Mは、Na、Kなどの1族の元素またはCaなどの2族の元素であり、nは、Mの原子価であり、x、yは、結晶構造にて定まる値である。Mを変化させることにより細孔径を調整できる。乾燥剤の選定においては、細孔径及び破壊強度が重要である。
【0083】
作動媒体の分子径よりも大きい細孔径を有する乾燥剤を用いた場合、作動媒体が乾燥剤中に吸着され、その結果、作動媒体と乾燥剤との化学反応が生じ、不凝縮性気体の生成、乾燥剤の強度の低下、吸着能力の低下などの好ましくない現象を生じることとなる。
【0084】
水の分子径は3オングストローム程度であり、乾燥剤としては、3~4オングストローム程度の細孔径を持つゼオライト系乾燥剤を用いることが好ましく、特にナトリウム・カリウムA型の合成ゼオライトが好ましい。これにより、作動媒体を吸着することなく、熱サイクルシステム内の水分のみを選択的に吸着除去できるため、作動媒体の熱分解が起こりにくくなり、その結果、熱サイクルシステムを構成する材料の劣化やコンタミナンツの発生を抑制できる。
【0085】
ゼオライト系乾燥剤の物理的な大きさは、小さすぎると熱サイクルシステムの弁や配管細部への詰まりの原因となり、大きすぎると乾燥能力が低下するため、約0.5~5mmが好ましい。形状としては、粒状または円筒状が好ましい。
【0086】
ゼオライト系乾燥剤は、粉末状のゼオライトを結合剤(ベントナイトなど)で固めることにより任意の形状とすることができる。ゼオライト系乾燥剤を主体とするかぎり、他の乾燥剤(シリカゲル、活性アルミナなど)を併用してもよい。作動媒体に対するゼオライト系乾燥剤の使用割合は、特に限定されない。
【0087】
熱サイクルシステム内の水分濃度は、熱サイクル用作動媒体に対する質量割合で、10000ppm未満が好ましく、1000ppm未満が更に好ましく、100ppm未満が特に好ましい。
【0088】
<不凝縮性気体濃度>
さらに、熱サイクルシステム内に不凝縮性気体が混入すると、凝縮器や蒸発器における熱伝達の不良、これによる作動圧力の上昇という悪影響をおよぼすため、極力混入を抑制する必要がある。特に、不凝縮性気体の一つである酸素は、作動媒体や冷凍機油と反応し、分解を促進する。
【0089】
不凝縮性気体濃度は、熱サイクル用作動媒体に対する質量割合で、10000ppm未満が好ましく、1000ppm未満が更に好ましく、100ppm未満が特に好ましい。
【0090】
<塩素濃度>
熱サイクルシステム内に塩素が存在すると、金属との反応による堆積物の生成、圧縮機の軸受け部の磨耗、熱サイクル用作動媒体や冷凍機油の分解など、好ましくない影響をおよぼす。熱サイクルシステム内の塩素濃度は、熱サイクル用作動媒体に対する質量割合で100ppm以下が好ましく、50ppm以下が特に好ましい。
【0091】
<金属濃度>
熱サイクルシステム内にパラジウム、ニッケル、鉄などの金属が存在すると、HFO-1123の分解やオリゴマー化など、好ましくない影響をおよぼす。熱サイクルシステム内の金属濃度は、熱サイクル用作動媒体に対する質量割合で5ppm以下が好ましく、1ppm以下が特に好ましい。
【0092】
<酸分濃度>
熱サイクルシステム内に酸分が存在すると、HFO-1123の酸化分解、自己分解反応が促進するなど、好ましくない影響を及ぼす。熱サイクルシステム内の酸分濃度は、熱サイクル用作動媒体に対する質量割合で1ppm以下が好ましく、0.2ppm以下が特に好ましい。
【0093】
また、熱サイクル組成物から酸分を除去する目的で、NaFなどの脱酸剤による酸分除去を行う手段を熱サイクルシステム内に設けることで、熱サイクル組成物から酸分を除去することが好ましい。
【0094】
<残渣濃度>
熱サイクルシステム内に金属粉、冷凍機油以外の他の油、高沸分などの残渣が存在すると、気化器部分の詰まりや回転部の抵抗増加など、好ましくない影響を及ぼす。
熱サイクルシステム内の残渣濃度は、熱サイクル用作動媒体に対する質量割合で1000ppm以下が好ましく、100ppm以下が特に好ましい。
【0095】
残渣は、熱サイクルシステム用作動媒体をフィルタなどでろ過することで除去することができる。また、熱サイクルシステム用作動媒体とする前に、熱サイクルシステム用作動媒体の各成分(HFO-1123、HFO-1234yfなど)ごとにフィルタでろ過を行って残渣を除去し、その後に混合して熱サイクルシステム用作動媒体としてもよい。
【0096】
上記した熱サイクルシステムは、トリフルオロエチレンを含む熱サイクル用作動媒体を用いることで、地球温暖化への影響を抑えつつ、実用的なサイクル性能が得られると共に、HFO-1123の自己分解反応が起きたとしても、機器の被害を最小限に抑えることができる。
【0097】
次に、熱サイクルシステム10の作動媒体に含まれるトリフルオロエチレンの自己分解反応が生じた場合の発生被害を抑制するための構成について説明する。図1に示すように、熱サイクルシステム10には、脆弱部31が設けられている。脆弱部31は、循環流路17中又は凝縮器(室外熱交換器14や室内熱交換器12)に設けられていればよい。さらに、脆弱部31は、運転時に高圧になりやすい部位である圧縮機20と凝縮器(室外熱交換器14若しくは室内熱交換器12)とを連結する循環流路17中、凝縮器と膨張弁15とを連結する循環流路17中に設けることがより好ましい。図1の熱サイクルシステム10では、運転時に特に高圧になりやすい部位である圧縮機20と四方弁16とを連結する循環流路17中に脆弱部31を設けている。この部位は、冷房時・暖房時ともに高圧となり、さらに、循環流路17内では最も高圧となる位置であるため、脆弱部31を設ける部位としては最も好ましい位置である。脆弱部31の耐圧強度は、循環流路17及び凝縮器の耐圧強度よりも低い。このような構成にすることにより、作動媒体11中のトリフルオロエチレンに自己分解反応が起こった場合でも、自己分解反応に伴う循環流路17中の圧力上昇により脆弱部31が破損し、この破損した脆弱部31から作動媒体11が迅速に外部に放出される。これにより、作動媒体11中のトリフルオロエチレンの自己分解反応に伴う熱サイクルシステム10の大規模な破損を回避して発生被害を抑制することができる。
【0098】
ここで、日本工業規格JIS B8620(小型冷凍装置の安全基準)によれば、熱サイクルシステムにおける作動媒体の最高使用圧力(例えば、作動媒体の温度60℃における飽和圧力)を設計圧力とし、熱サイクルシステムの耐圧強度は設計圧力の1.5倍以上、さらに圧縮機の密閉容器など圧力容器においては3倍以上の強度を必要としている。脆弱部31の耐圧強度は、熱サイクルシステム10の設計圧力(作動媒体11に作動を許す最高圧力)の1.5倍以上3倍以下の範囲内にあることが好ましい。さらに、脆弱部31の耐圧強度は、循環流路17の前記した上流側の部位17a及び下流側の部位17bの耐圧強度よりも10~30%程度低い耐圧強度とすることがより好ましい。これにより、より確実に脆弱部31を破損させることができる。具体的数値を例で示すと、作動媒体をHFO-1123(60質量%)とHFC-32(40質量%)の混合媒体とした場合、設計圧力(温度60℃での飽和圧力)は、4.6MPaとなる。したがって、この場合の脆弱部31の耐圧強度は、6.9MPa以上13.8MPa以下であることが好ましい。また、脆弱部31の耐圧強度は、上記した循環流路17及び凝縮器の耐圧強度よりも10~30%低い耐圧強度とすることがより好ましい。つまり、脆弱部31の耐圧強度は、循環流路17及び凝縮器の耐圧強度を100%とした場合、70%以上、90%以下の範囲内にあることがより好ましい。
【0099】
以下、脆弱部31の具体的構成(後記の脆弱部31-1、脆弱部31-2、脆弱部31-3、脆弱部31-4)を例示する。まず、図3を参照しつつ循環流路17と脆弱部31-1の耐圧強度について説明する。図3に示すように、循環流路17中に設けられている脆弱部31-1は、作動媒体の流れの方向において、当該脆弱部31-1からみて上流側の部位17a及び下流側の部位17bよりも、耐圧強度が低くなるように構成されている。つまり、脆弱部31-1は、循環流路17上の他の部位に対して、意図的に機械的強度を低下させて構成されている。図3に示すように、脆弱部31-1と上流側及び下流側の部位17a、17bとは、それぞれ、直径や肉厚が同じ配管どうしを溶接またはろう付けによって互いに接合されたものである。但し、脆弱部31-1は、当該脆弱部31-1が設けられている循環流路17の構成材料(前記した上流側の部位17a及び下流側の部位17bの構成材料)よりも、機械的性質を示す引張強さが小さい構成材料からなることが好ましい。このような構成材料による引張強さの違いにより、循環流路17内でトリフルオロエチレンの自己分解反応が起こったとき、自己分解反応に伴う圧力上昇を受けて脆弱部31-1が破損し、この部位から循環流路17の圧力を外部へ開放する(圧力を逃す)。
【0100】
上記のような集中的な圧力開放部を備えることにより、自己分解反応が生じた場合の熱サイクルシステム10における大規模な破損を回避することが可能となる。また、配管で構成された脆弱部31-1は、内圧を受ける場合、配管の半径方向よりも円周方向に働く応力が大きく、加工成形上の特性(引き抜き加工による影響)も加わり、破損する場合は軸方向に亀裂が発生しやすく、亀裂が一気に拡大して破損に至る。したがって、脆弱部31-1は、破損個所を集中させることができ、破損した部材の飛散などによる被害を最小限に抑えることができる。
【0101】
図4は、脆弱部31-1とは構造が異なる他の脆弱部31-2を示している。脆弱部31-2は、図4に示すように、前記した上流側及び下流側の部位17a、17bと同じ材料で構成されている。但し、脆弱部31-2の厚さは、当該脆弱部31-2が設けられている循環流路17(前記した上流側の部位17a及び下流側の部位17b)の厚さよりも薄くして構成されている。これにより、内圧を受ける場合の耐圧強度の違いにより、脆弱部31-1と同様の効果を期待することができる。
【0102】
図5は、脆弱部31-2の外側にメッシュ状の部材33aを配置して構成された防護部33を示している。防護部33は、脆弱部31-1、31-2などが破損したときの破損物の飛散を防ぎ、周囲を防護するものである。メッシュ状の部材33aは、破損物の通過を遮ることに加え、循環流路17の内圧を逃すための通気性が必要である。また、メッシュ状の部材33aは、前記の通気性が得られるのであれば、金属材料や樹脂材料など、種々のものを選択することができる。このように、防護部33は、循環流路17内で作動媒体11中のトリフルオロエチレンが自己分解反応を起こしたとき、その発生圧力により脆弱部31-2が破損したときの破損物が循環流路17の外部へ大きく飛散してしまうことを防ぐことができる。
【0103】
図6は、図5のメッシュ状の部材33aのさらに外側に多孔質の吸着部材34aを配置して構成された防護部34を示している。防護部34は、脆弱部31-1、31-2などが破損したときの破損物及び循環流路17内の流体状の無機化合物などの飛散を防ぐ。図6に示すように、防護部34が備える多孔質の吸着部材34aは、循環流路17内で発生し得る流体状の無機化合物、例えばフッ化水素ガス(HF)などを吸着(捕捉)するための部材である。したがって、脆弱部31-1、31-2などが破損した場合でも、防護部34により、循環流路17内のフッ化水素ガスなどが外部への飛散することを抑制できる。
【0104】
図7は、脆弱部31-1、31-2とは構造が異なる他の脆弱部31-3を含むT型エルボ(T型継ぎ手)38を示している。図7に示すように、脆弱部31-3は、開口部35と、この開口部35を閉塞している蓋部36と、を有している。蓋部36は、図3で示し説明したように、その上流側及び下流側の部位17a、17bの耐圧強度より弱い材料で構成されたもので、作動媒体が自己分解反応を起こした時の発生圧力を受けて、破損する動作は同じである。脆弱部31-1や脆弱部31-2との違いは、その形状(T型エルボ)により、破損の方向が明確なため破損方向を制御できることであり、また、耐圧強度の精度を安定化できる製造上の有利さもある。
【0105】
ここで、図8に示すように、熱サイクルシステム10における室外熱交換器14(冷房時の凝縮器)と脆弱部31-3は、室外ファン14aを有する室外機42に内蔵されている。循環流路17に備えられた脆弱部31-3(当該脆弱部31-3が破損したときの開口部35)は、冷房時に凝縮器となる室外熱交換器14と対向する位置(及び室外機42が設置されている家屋41と対向する位置)に選択的に設けられている。このような構成により、作動媒体中のトリフルオロエチレンの自己分解反応に伴う圧力上昇により脆弱部31-3が瞬時に破損して圧力を開放し、その時に発生する破損物は、室外熱交換器14側や家屋41側に向かうことになる。これにより、室外機が設置される周囲において、道路を通行する車や歩行者への影響を回避できる。なお、脆弱部は、室外熱交換器14と対向する位置のみに設けられていることが安全上好ましい。
【0106】
また、図9に示すように、循環流路17に備えられた脆弱部31-4(肉厚を薄くした薄肉部37)は、室外機42内の室外熱交換器14と対向する位置(及び室外機42が設置されている家屋41と対向する位置)に選択的に設けられていることで、脆弱部31-3と同様の効果を得ることができる。なお、脆弱部は、室外熱交換器14と対向する位置のみに設けられていることが安全上好ましい。
【0107】
既述したように、本実施形態の熱サイクルシステム10によれば、作動媒体に含まれるトリフルオロエチレンの自己分解反応が生じた場合の発生被害を抑制することができる。
【0108】
以上、本発明を実施の形態により具体的に説明したが、本発明はこの実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよいし、上記実施形態に開示されている複数の構成要素を適宜組み合わせることも可能である。
【符号の説明】
【0109】
10…熱サイクルシステム、11…作動媒体、12…室内熱交換器(蒸発器/凝縮器)、12a…室内ファン、14…室外熱交換器(凝縮器/蒸発器)、14a…室外ファン、15…膨張弁、16…四方弁、17…循環流路、17a…上流側の部位、17b…下流側の部位、20…圧縮機、21…密閉容器、22a…モータステータ、22b…モータロータ、23…スクロール圧縮機構、24…アキュムレータ、25…吸入管、26…吐出管、27…電力供給端子、28…電力供給路、31,31-1,31-2,31-3,31-4…脆弱部、33,34…防護部、33a…メッシュ状の部材、34a…多孔質の吸着部材、35…開口部、36…蓋部、37…薄肉部、38…T型エルボ(T型継ぎ手)、41…家屋、42…室外機。
図1
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図9