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特許7151712農園芸用覆土フィルムおよびその製造方法
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  • 特許-農園芸用覆土フィルムおよびその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-03
(45)【発行日】2022-10-12
(54)【発明の名称】農園芸用覆土フィルムおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A01G 13/00 20060101AFI20221004BHJP
   A01G 13/02 20060101ALI20221004BHJP
【FI】
A01G13/00 302Z
A01G13/02 E
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2019542304
(86)(22)【出願日】2018-09-14
(86)【国際出願番号】 JP2018034173
(87)【国際公開番号】W WO2019054477
(87)【国際公開日】2019-03-21
【審査請求日】2021-06-07
(31)【優先権主張番号】P 2017176408
(32)【優先日】2017-09-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091362
【弁理士】
【氏名又は名称】阿仁屋 節雄
(74)【代理人】
【識別番号】100145872
【弁理士】
【氏名又は名称】福岡 昌浩
(72)【発明者】
【氏名】常松 裕史
(72)【発明者】
【氏名】長南 武
【審査官】田辺 義拓
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2006/100799(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/094909(WO,A1)
【文献】特開2015-199668(JP,A)
【文献】特開2013-173642(JP,A)
【文献】特開2011-050307(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 13/00
A01G 13/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
赤外線吸収材料微粒子を含有する赤外光吸収層を、有している農園芸用覆土フィルムであって、
前記赤外線吸収材料微粒子が、六方晶の結晶構造を含む複合タングステン酸化物微粒子であり、
前記複合タングステン酸化物微粒子の格子定数が、a軸が7.3850Å以上7.4186Å以下、c軸が7.5600Å以上7.6240Å以下であり、
前記複合タングステン酸化物微粒子の平均粒子径が、10nm以上100nm以下であり、
前記複合タングステン酸化物微粒子の結晶子径が10nm以上100nm以下であることを特徴とする農園芸用覆土フィルム。
【請求項2】
前記複合タングステン酸化物微粒子の格子定数が、a軸が7.4031Å以上7.4111Å以下、c軸が7.5891Å以上7.6240Å以下であることを特徴とする請求項1に記載の農園芸用覆土フィルム。
【請求項3】
前記農園芸用覆土フィルムの少なくとも一方の面に設けられた赤外光吸収層の樹脂バインダー内に、前記複合タングステン酸化物微粒子が分散して存在していることを特徴とする請求項1または2に記載の農園芸用覆土フィルム。
【請求項4】
前記農園芸用覆土フィルムのフィルム内部に、前記複合タングステン酸化物微粒子が分散して存在する、ことを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の農園芸用覆土フィルム。
【請求項5】
前記複合タングステン酸化物微粒子が、一般式MxWyOz(但し、M元素は、H、He、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、I、Ybのうちから選択される1種類以上の元素で、Wはタングステン、Oは酸素、0.001≦x/y≦1、2.0≦z/y≦3.0)で表記される複合タングステン酸化物微粒子であることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の農園芸用覆土フィルム。
【請求項6】
前記M元素が、Cs、Rbから選択される1種類以上の元素であることを特徴とする請求項5に記載の農園芸用覆土フィルム。
【請求項7】
前記複合タングステン酸化物微粒子の表面の少なくとも一部が、Si、Ti、Zr、Alから選択される少なくとも1種類以上の元素を含有する表面被覆膜により、被覆されていることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の農園芸用覆土フィルム。
【請求項8】
前記表面被覆膜が、酸素原子を含有することを特徴とする請求項7に記載の農園芸用覆土フィルム。
【請求項9】
前記フィルムが、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリフッ化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン-エチレン共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレン、テトラクロロトリフルオロエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、ポリスチレン、エチレン酢酸ビニル、ポリエステル樹脂から選ばれた少なくとも1種類以上であることを特徴とする請求項1から8のいずれかに記載の農園芸用覆土フィルム。
【請求項10】
前記農園芸用覆土フィルムのフィルム内部に、白色光反射材料が分散した白色光反射層を備える、ことを特徴とする請求項1から9のいずれかに記載の農園芸用覆土フィルム。
【請求項11】
前記農園芸用覆土フィルムの一方の面に、白色光反射材料がコーティングされた白色光反射層と、さらに前記白色光反射層の上に赤外線吸収材料微粒子がコーティングされた赤外光吸収層とを有する、
または、前記農園芸用覆土フィルムの一方の面に、白色光反射材料がコーティングされた白色光反射層と、前記農園芸用覆土フィルムの他方の面に、赤外線吸収材料微粒子がコーティングされた赤外光吸収層とを有する、
ことを特徴とする請求項1から10のいずれかに記載の農園芸用覆土フィルム。
【請求項12】
前記白色光反射材料が、TiO、ZrO、SiO、Al、MgO、ZnO、CaCO、BaSO、ZnS、PbCOから選択される少なくとも1種類以上であることを特徴とする請求項10または11に記載の農園芸用覆土フィルム。
【請求項13】
赤外線吸収材料微粒子を含有する赤外光吸収層を有している農園芸用覆土フィルムの製造方法であって、
前記赤外線吸収材料微粒子が、六方晶の結晶構造を含む複合タングステン酸化物微粒子であり、
前記複合タングステン酸化物微粒子を、その格子定数がa軸は7.3850Å以上7.4186Å以下、c軸は7.5600Å以上7.6240Å以下の範囲となるように製造し、
前記複合タングステン酸化物微粒子において前記格子定数の範囲を保ちながら、平均粒子径を10nm以上100nm以下、かつ、結晶子径を10nm以上100nm以下とする粉砕・分散処理工程を行うことを特徴とする農園芸用覆土フィルムの製造方法。
【請求項14】
前記複合タングステン酸化物微粒子が、一般式MxWyOz(但し、M元素は、H、He、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、I、Ybのうちから選択される1種類以上の元素で、Wはタングステン、Oは酸素、0.001≦x/y≦1、2.0≦z/y≦3.0)で表記される複合タングステン酸化物微粒子であることを特徴とする請求項13に記載の農園芸用覆土フィルムの製造方法。
【請求項15】
前記M元素が、Cs、Rbから選択される1種類以上の元素であることを特徴とする請求項14に記載の農園芸用覆土フィルムの製造方法。
【請求項16】
前記複合タングステン酸化物微粒子の表面の少なくとも一部を、Si、Ti、Zr、Alから選択される少なくとも1種類以上の元素を含有する表面被覆膜により被覆することを特徴とする請求項13から15のいずれかに記載の農園芸用覆土フィルムの製造方法。
【請求項17】
前記表面被覆膜が、酸素原子を含有することを特徴とする請求項16に記載の農園芸用覆土フィルムの製造方法。
【請求項18】
前記農園芸用覆土フィルムのフィルムが、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリフッ化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン-エチレン共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレン、テトラクロロトリフルオロエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、ポリスチレン、エチレン酢酸ビニル、ポリエステル樹脂から選択される1種類以上の樹脂を含むフィルムであることを特徴とする請求項13から17のいずれかに記載の農園芸用覆土フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、白色光反射材料を含有している白色光反射層と、太陽光などからの赤外線を吸収する赤外線吸収材料微粒子がコーティングされて形成される赤外光吸収層とを有し、可視光を反射し赤外光を吸収することで、植物の生育に必要な可視光は植物側に反射し、熱となる赤外光は吸収して土を暖め、温室内等の雰囲気の温度を上げない農園芸用覆土フィルムおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
植物の成長を促進する方法として、アルミニウム等の金属膜を用いた反射シート、白色光反射材料の膜を用いて白色光を反射するシート、前記反射シート上へさらに反射材料をコートしたシートなどを用いて、土壌表面を被覆する方法が知られている。しかし、これらのシートは、地表に到達する太陽光線を満遍なく反射するため、植物の成長は促進されるが、熱となる赤外光も反射してしまう。この結果、温室内等の雰囲気の温度が上昇してしまう欠点を有している。さらに、アルミニウム等の金属膜を用いた反射シートは、アルミニウム等の金属蒸着加工を施すことが一般的であり、これにはコストアップ等の問題があった。
【0003】
一方、土壌を保温するシートとしては、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル等の合成樹脂シートが一般的に知られている。しかし、これらの合成樹脂シートは、一般に赤外線の透過率が高いため、土壌の保温効果が充分ではなかった。この課題を解決するため、特許文献1では、赤外線反射性を有する帯状フィルムと、赤外線吸収性を有する帯状フィルムとを、それぞれ経糸あるいは緯糸として編織物とした、地面を被覆する保温シートが提案されている。
【0004】
また、特許文献2では、全光線透過率を3.0%以上、拡散反射率を40%以上にした白化フィルムの表面上に、カーボンブラック等の黒色、または青色の顔料をバインダーに分散して印刷した農作物栽培用フィルムが提案されている。
【0005】
出願人は特許文献3において、可視光の反射率が高いにも拘わらず、赤外光を吸収する材料としてタングステン酸化物微粒子および複合タングステン酸化物微粒子を選択し、これらの微粒子を近赤外線吸収成分として含有させた農園芸用覆土フィルムを開示した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平9-107815号公報
【文献】特開昭55-127946号公報
【文献】国際公開第2006/100799号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、本発明者らの検討によると、特許文献1に係る保温シートは、赤外線反射性を有する帯状フィルムがアルミ蒸着加工を施したものであるため、製造コストが高いという課題があった。
また、特許文献2に係る農作物栽培用フィルムは、着色被膜層の面積が1.0~60%であり、また、熱となる赤外線を効率良く吸収する構成ではないため、土壌を加温する効果が充分ではないという課題があった。
ここで、特許文献3に係る農園芸用覆土フィルムを用いることで、直物の育成に必要な可視光を植物側に供給し、赤外光を吸収して土を暖め、温室内等で用いた場合は、当該温室内等の雰囲気の温度を上げないことが可能となった。しかしながら、本発明者らのさらなる検討によると、特許文献3で提案された方法で製造したタングステン酸化物微粒子または複合タングステン酸化物微粒子を含有させた農園芸用覆土フィルムの近赤外線吸収特性は、十分なものではないことが判明した。
【0008】
本発明は、これらの課題を解決するために成されたものであり、従来よりも効率的に太陽光からの赤外光を吸収して、土を暖め、一方、前記農園芸用覆土フィルムを温室内等に用いた場合は、当該温室内等の雰囲気の温度を上げない、農園芸用覆土フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意研究を行った。そして、複合タングステン酸化物微粒子において、近赤外線吸収材料微粒子である複合タングステン酸化物微粒子において、含まれる結晶を六方晶とし、その格子定数においてa軸とc軸との値を、a軸が7.3850Å以上7.4186Å以下、c軸が7.5600Å以上7.6240Å以下として結晶性を高め、さらに当該微粒子の平均粒子径を100nm以下とする構成に想到し、本発明を完成したものである。
【0010】
そして当該本発明に係る複合タングステン酸化物微粒子を、近赤外線吸収成分として含有させた赤外線吸収膜は、特許文献3で開示した赤外線吸収膜と比較して、光の干渉効果を用いずとも、太陽光線、特に近赤外線領域の光をより効率良く吸収し、同時に可視光領域の光を透過させることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち、上述の課題を解決するための第1の発明は、
赤外線吸収材料微粒子を含有する赤外光吸収層を、有している農園芸用覆土フィルムであって、
前記赤外線吸収材料微粒子が、六方晶の結晶構造を含む複合タングステン酸化物微粒子であり、
前記複合タングステン酸化物微粒子の格子定数が、a軸が7.3850Å以上7.4186Å以下、c軸が7.5600Å以上7.6240Å以下であり、
前記複合タングステン酸化物微粒子の平均粒子径が、100nm以下であることを特徴とする農園芸用覆土フィルムである。
第2の発明は、
前記複合タングステン酸化物微粒子の格子定数が、a軸が7.4031Å以上7.4111Å以下、c軸が7.5891Å以上7.6240Å以下であることを特徴とする第1の発明に記載の農園芸用覆土フィルムである。
第3の発明は、
前記複合タングステン酸化物微粒子の平均粒子径が、10nm以上100nm以下であることを特徴とする第1または第2の発明に記載の農園芸用覆土フィルムである。
第4の発明は、
前記農園芸用覆土フィルムの少なくとも一方の面に設けられた赤外光吸収層の樹脂バインダー内に、前記複合タングステン酸化物微粒子が分散して存在していることを特徴とする第1から第3の発明のいずれかに記載の農園芸用覆土フィルムである。
第5の発明は、
前記農園芸用覆土フィルムのフィルム内部に、前記複合タングステン酸化物微粒子が分散して存在する、ことを特徴とする第1から第4の発明のいずれかに記載の農園芸用覆土フィルムである。
第6の発明は、
前記複合タングステン酸化物微粒子の結晶子径が10nm以上100nm以下であることを特徴とする第1から第5の発明のいずれかに記載の農園芸用覆土フィルムである。
第7の発明は、
前記複合タングステン酸化物微粒子が、一般式MxWyOz(但し、M元素は、H、He、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、I、Ybのうちから選択される1種類以上の元素で、Wはタングステン、Oは酸素、0.001≦x/y≦1、2.0≦z/y≦3.0)で表記される複合タングステン酸化物微粒子であることを特徴とする第1から第6の発明のいずれかに記載の農園芸用覆土フィルムである。
第8の発明は、
前記M元素が、Cs、Rbから選択される1種類以上の元素であることを特徴とする第7の発明に記載の農園芸用覆土フィルムである。
第9の発明は、
前記複合タングステン酸化物微粒子の表面の少なくとも一部が、Si、Ti、Zr、Alから選択される少なくとも1種類以上の元素を含有する表面被覆膜により、被覆されていることを特徴とする第1から第8の発明のいずれかに記載の農園芸用覆土フィルムである。
第10の発明は、
前記表面被覆膜が、酸素原子を含有することを特徴とする第9の発明に記載の農園芸用覆土フィルムである。
第11の発明は、
前記フィルムが、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリフッ化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン-エチレン共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレン、テトラクロロトリフルオロエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、ポリスチレン、エチレン酢酸ビニル、ポリエステル樹脂から選ばれた少なくとも1種類以上であることを特徴とする第1から第10の発明のいずれかに記載の農園芸用覆土フィルムである。
第12の発明は、
前記農園芸用覆土フィルムのフィルム内部に、白色光反射材料が分散した白色光反射層を備える、ことを特徴とする第1から第11の発明のいずれかに記載の農園芸用覆土フィルムである。
第13の発明は、
前記農園芸用覆土フィルムの一方の面に、白色光反射材料がコーティングされた白色光反射層と、さらに前記白色光反射層の上に赤外線吸収材料微粒子がコーティングされた赤外光吸収層とを有する、
または、前記農園芸用覆土フィルムの一方の面に、白色光反射材料がコーティングされた白色光反射層と、前記農園芸用覆土フィルムの他方の面に、赤外線吸収材料微粒子がコーティングされた赤外光吸収層とを有する、
ことを特徴とする第1から第12の発明のいずれかに記載の農園芸用覆土フィルムである。
第14の発明は、
前記白色光反射材料が、TiO、ZrO、SiO、Al、MgO、ZnO、CaCO、BaSO、ZnS、PbCOから選択される少なくとも1種類以上であることを特徴とする第12または第13の発明に記載の農園芸用覆土フィルムである。
第15の発明は、
赤外線吸収材料微粒子を含有する赤外光吸収層を有している農園芸用覆土フィルムの製造方法であって、
前記赤外線吸収材料微粒子が、六方晶の結晶構造を含む複合タングステン酸化物微粒子であり、
前記複合タングステン酸化物微粒子を、その格子定数がa軸は7.3850Å以上7.4186Å以下、c軸は7.5600Å以上7.6240Å以下の範囲となるように製造し、
前記複合タングステン酸化物微粒子において前記格子定数の範囲を保ちながら、平均粒子径を100nm以下とする粉砕・分散処理工程を行うことを特徴とする農園芸用覆土フィルムの製造方法である。
第16の発明は、
前記複合タングステン酸化物微粒子が、一般式MxWyOz(但し、M元素は、H、He、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、I、Ybのうちから選択される1種類以上の元素で、Wはタングステン、Oは酸素、0.001≦x/y≦1、2.0≦z/y≦3.0)で表記される複合タングステン酸化物微粒子であることを特徴とする第15の発明に記載の農園芸用覆土フィルムの製造方法である。
第17の発明は、
前記M元素が、Cs、Rbから選択される1種類以上の元素であることを特徴とする第16の発明に記載の農園芸用覆土フィルムの製造方法である。
第18の発明は、
前記複合タングステン酸化物微粒子の表面の少なくとも一部を、Si、Ti、Zr、Alから選択される少なくとも1種類以上の元素を含有する表面被覆膜により被覆することを特徴とする第15から第17の発明のいずれかに記載の農園芸用覆土フィルムの製造方法である。
第19の発明は、
前記表面被覆膜が、酸素原子を含有することを特徴とする第18の発明に記載の農園芸用覆土フィルムの製造方法である。
第20の発明は、
前記農園芸用覆土フィルムのフィルムが、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリフッ化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン-エチレン共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレン、テトラクロロトリフルオロエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、ポリスチレン、エチレン酢酸ビニル、ポリエステル樹脂から選択される1種類以上の樹脂を含むフィルムであることを特徴とする第15から第19の発明のいずれかに記載の農園芸用覆土フィルムの製造方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る農園芸用覆土フィルムは、太陽光からの赤外線を効率良く吸収するので、当該農園芸用覆土フィルムによって植物等を栽培する地面を被覆することで、当該被覆された地面の温度が上昇して土が暖まる。一方、前記農園芸用覆土フィルムを温室内等で用いた場合は、当該温室内等の雰囲気の温度を上げない効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明に用いられる高周波プラズマ反応装置の概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明に係る農園芸用覆土フィルムは、赤外線吸収材料微粒子として所定の構成を備えた複合タングステン酸化物微粒子を含有させた農園芸用覆土フィルムである。そこで、本発明に係る農園芸用覆土フィルムを実施するための形態について[a]複合タングステン酸化物微粒子、[b]複合タングステン酸化物微粒子の合成方法、[c]複合タングステン酸化物微粒子分散液、[d]農園芸用覆土フィルム、の順で説明する。
【0015】
[a]複合タングステン酸化物微粒子
本発明に係る農園芸用覆土フィルムは、赤外線吸収材料微粒子である複合タングステン酸化物微粒子を含み、赤外領域の光の吸収率が高いという特性を有するフィルムである。そこで、まず、赤外線吸収材料微粒子である複合タングステン酸化物微粒子について説明する。
本発明に係る複合タングステン酸化物微粒子は、近赤外線吸収特性を有し、六方晶の結晶構造を含む複合タングステン酸化物微粒子であり、当該六方晶の複合タングステン酸化物の格子定数は、a軸が7.3850Å以上7.4186Å以下、c軸が7.5600Å以上7.6240Å以下を有するものである。そして、(c軸の格子定数/a軸の格子定数)に係る比の値が、1.0221以上、1.0289以下であることが好ましいものである。また、本発明に係る複合タングステン酸化物微粒子は、その平均粒子径が100nm以下のものである。
以下、本発明に係る複合タングステン酸化物微粒子について、(1)結晶構造と格子定数、(2)粒子径および結晶子径、(3)複合タングステン酸化物微粒子の組成、(4)複合タングステン酸化物微粒子の表面被覆、(5)まとめ、の順に説明する。
【0016】
(1)結晶構造と格子定数
本発明に係る複合タングステン酸化物微粒子は、六方晶以外に、正方晶、立方晶のタングステンブロンズの構造を取るが、いずれの構造をとるときも近赤外線吸収材料として有効である。しかしながら、当該複合タングステン酸化物微粒子がとる結晶構造によって、近赤外線領域における吸収位置が変化する傾向がある。即ち、近赤外線領域の吸収位置は、立方晶よりも正方晶のときが長波長側に移動し、六方晶のときは正方晶のときよりも、さらに長波長側へ移動する傾向がある。また、当該吸収位置の変動に付随して、可視光線領域の光の吸収は六方晶が最も少なく、次に正方晶であり、立方晶はこの中では最も大きい。
【0017】
以上の知見から、可視光領域の光をより透過させ、近赤外線領域の光をより吸収する用途には、六方晶のタングステンブロンズを用いることが最も好ましい。複合タングステン酸化物微粒子が六方晶の結晶構造を有する場合、当該微粒子の可視光領域の透過率が向上し、近赤外領域の吸収が向上する。この六方晶の結晶構造において、WO単位にて形成される8面体が、6個集合して六角形の空隙(トンネル)が構成され、当該空隙中にM元素が配置して1箇の単位を構成し、この1箇の単位が多数集合して六方晶の結晶構造を構成する。
【0018】
本発明に係る、可視光領域の透過を向上させ、近赤外領域の吸収を向上させる効果を得るためには、複合タングステン酸化物微粒子中に、単位構造(WO単位で形成される8面体が6個集合して六角形の空隙が構成され、当該空隙中にM元素が配置した構造)が含まれていれば良い。
この六角形の空隙にM元素の陽イオンが添加されて存在するとき、近赤外線領域の吸収が向上する。ここで、一般的には、イオン半径の大きなM元素を添加したとき当該六方晶が形成され、具体的には、Cs、Rb、K、Tl、In、Baから選択される1種類以上を添加したとき六方晶が形成され易く好ましい。
さらに、これらイオン半径の大きなM元素のうちでもCs、Rbから選択される1種類以上を添加した複合タングステン酸化物微粒子においては、近赤外線領域の吸収と可視光線領域の透過との両立が達成できる。
尚、M元素として2種類以上を選択し、その内の1つをCs、Rb、K、Tl、Ba、Inから選択し、残りを、M元素を構成する1以上の元素から選択した場合にも、六方晶となることがある。
【0019】
M元素としてCsを選択したCsタングステン酸化物微粒子の場合、その格子定数は、a軸が7.4031Å以上7.4186Å以下、c軸が7.5750Å以上7.6240Å以下であることが好ましく、より好ましくはa軸が7.4031Å以上7.4111Å以下、c軸が7.5891Å以上7.6240Å以下である。
M元素としてRbを選択したRbタングステン酸化物微粒子の場合、その格子定数は、a軸が7.3850Å以上7.3950Å以下、c軸が7.5600Å以上7.5700Å以下であることが好ましい。
M元素としてCsとRbとを選択したCsRbタングステン酸化物微粒子の場合、その格子定数は、a軸が7.3850Å以上7.4186Å以下、c軸が7.5600Å以上7.6240Å以下であることが好ましい。
尤も、M元素が上記CsやRbに限定される訳ではない。M元素がCsやRb以外の元素であっても、WO単位で形成される六角形の空隙に添加M元素として存在すれば良い。
【0020】
本発明に係る六方晶の結晶構造を有する複合タングステン酸化物微粒子を一般式MxWyOzで表記したとき、当該複合タングステン酸化物微粒子が均一な結晶構造を有するとき、添加M元素の添加量は、0.001≦x/y≦1、好ましくは0.2≦x/y≦0.5、更に好ましくは0.20≦x/y≦0.37、最も好ましくはx/y=0.33である。これは、理論上z/y=3のとき、x/y=0.33となることで、添加M元素が六角形の空隙の全てに配置されると考えられた為である。典型的な例としてはCs0.33WO、Cs0.03Rb0.30WO、Rb0.33WO、K0.33WO、Ba0.33WOなどを挙げることができる。
【0021】
ここで、本発明者らは、複合タングステン酸化物微粒子の近赤外線吸収機能をより向上させる方策について研究を重ね、含有される自由電子の量をより増加させる構成に想到した。
即ち、当該自由電子量を増加させる方策として、当該複合タングステン酸化物微粒子へ機械的な処理を加え、含まれる六方晶へ適宜な歪や変形を付与することに想到したものである。当該適宜な歪や変形を付与された六方晶においては、結晶子構造を構成する原子における電子軌道の重なり状態が変化し、自由電子の量が増加するものと考えられる。
【0022】
上述した想到に基づき、本発明者らは後述する「[b]複合タングステン酸化物微粒子の合成方法」の焼成工程において生成した複合タングステン酸化物の粒子から、複合タングステン酸化物微粒子分散液を製造する際の分散工程において、複合タングステン酸化物の粒子を所定条件下にて粉砕することにより結晶構造へ歪や変形を付与し、自由電子量を増加させて、複合タングステン酸化物微粒子の近赤外線吸収機能をさらに向上させることを研究した。
【0023】
そして当該研究から、焼成工程を経て生成した複合タングステン酸化物の粒子について、各々の粒子に着目して検討した。すると、当該各々の粒子間において、格子定数も、構成元素組成も、各々ばらつきが生じていることを知見した。
さらなる研究の結果、当該各々の粒子間における格子定数や構成元素組成のばらつきにも拘わらず、最終的に得られる複合タングステン酸化物微粒子において、その格子定数が所定の範囲内にあれば、所望の光学特性を発揮することを知見した。
【0024】
上述した知見を得た本発明者らは、さらに、当該複合タングステン酸化物微粒子の結晶構造における格子定数であるa軸とc軸とを測定することによって、当該微粒子の結晶構造の歪や変形の度合いを把握しつつ、当該微粒子が発揮する光学的特性について研究した。
そして当該研究の結果、六方晶の複合タングステン酸化物微粒子において、a軸が7.3850Å以上7.4186Å以下、c軸が7.5600Å以上7.6240Å以下であるとき、当該微粒子は、波長350nm~600nmの範囲に極大値を有し、波長800nm~2100nmの範囲に極小値を有する光の透過率を示し、優れた近赤外線吸収効果を発揮する近赤外線吸収材料微粒子であるとの知見を得た。
【0025】
さらに、本発明に係る近赤外線吸収材料微粒子のa軸が7.3850Å以上7.4186Å以下、c軸が7.5600Å以上7.6240Å以下を有する六方晶の複合タングステン酸化物微粒子において、M元素の添加量を示すx/yの値が0.001≦x/y≦1の範囲内にあるとき、好ましくは0.20≦x/y≦0.37の範囲内にあるとき、特に優れた近赤外線吸収効果を発揮することも知見した。
【0026】
また、近赤外線吸収材料微粒子としての複合タングステン酸化物微粒子においては、アモルファス相の体積比率が50%以下の単結晶であることが好ましいことも知見した。
複合タングステン酸化物微粒子が、アモルファス相の体積比率50%以下の単結晶であると、格子定数を上述した所定の範囲内に維持しながら、結晶子径を10nm以上100nm以下とすることができ、優れた光学的特性を発揮することができるものと考えられる。
【0027】
尚、複合タングステン酸化物微粒子が単結晶であることは、透過型電子顕微鏡等による電子顕微鏡像において、各微粒子内部に結晶粒界が観察されず、一様な格子縞のみが観察されることから確認することができる。また、複合タングステン酸化物微粒子においてアモルファス相の体積比率が50%以下であることは、同じく透過型電子顕微鏡像において、微粒子全体に一様な格子縞が観察され、格子縞が不明瞭な箇所が殆ど観察されないことから確認することができる。
さらに、アモルファス相は各微粒子外周部に存在する場合が多いので、各微粒子外周部に着目することで、アモルファス相の体積比率を算出可能な場合が多い。例えば、真球状の複合タングステン酸化物微粒子において、格子縞が不明瞭なアモルファス相が当該微粒子外周部に層状に存在する場合、その平均粒子径の10%以下の厚さであれば、当該複合タングステン酸化物微粒子におけるアモルファス相の体積比率は、50%以下である。
【0028】
一方、複合タングステン酸化物微粒子が、複合タングステン酸化物微粒子分散体を構成する樹脂等の固体媒体のマトリックス中で分散している場合、当該分散している複合タングステン酸化物微粒子の平均粒子径から結晶子径を引いた値が、当該平均粒子径の20%以下であれば、当該複合タングステン酸化物微粒子は、アモルファス相の体積比率50%以下の単結晶であると言える。
【0029】
以上のことから、複合タングステン酸化物微粒子分散体に分散された複合タングステン酸化物微粒子の平均粒子径から結晶子径を引いた値が、当該平均粒子径の値の20%以下になるように、複合タングステン酸化物微粒子の合成工程、粉砕工程、分散工程を、製造設備に応じて適宜調整することが好ましい。
なお、複合タングステン酸化物微粒子の結晶構造や格子定数の測定は、近赤外線吸収体形成用分散液の溶媒を除去して得られる複合タングステン酸化物微粒子に対し、X線回折法により当該微粒子に含まれる結晶構造を特定し、リートベルト法を用いることにより格子定数としてa軸長およびc軸長を算出することが出来る。
【0030】
(2)粒子径および結晶子径
本発明に係る複合タングステン酸化物微粒子は、その平均粒子径が100nm以下のものである。そして、より優れた赤外線吸収特性を発揮させる観点から、当該平均粒子径は10nm以上100nm以下であるのが好ましく、より好ましくは10nm以上80nm以下、さらに好ましくは10nm以上60nm以下である。平均粒子径が10nm以上60nm以下の範囲であれば、最も優れた赤外線吸収特性が発揮される。
ここで、平均粒子径とは凝集していない個々の複合タングステン酸化物微粒子がもつ径の値であり、後述する複合タングステン酸化物微粒子分散体に含まれる複合タングステン酸化物微粒子の粒子径である。
一方、当該平均粒子径は、複合タングステン酸化物微粒子の凝集体の径を含むものではなく、分散粒子径とは異なるものである。
【0031】
尚、平均粒子径は近赤外線吸収材料微粒子の電子顕微鏡像から算出される。
複合タングステン酸化物微粒子分散体に含まれる複合タングステン酸化物微粒子の平均粒子径は、断面加工で取り出した複合タングステン酸化物微粒子分散体の薄片化試料の透過型電子顕微鏡像から、複合タングステン酸化物微粒子100個の粒子径を、画像処理装置を用いて測定し、その平均値を算出することで求めることが出来る。当該薄片化試料を取り出すための断面加工には、ミクロトーム、クロスセクションポリッシャ、集束イオンビーム(FIB)装置等を用いることが出来る。尚、複合タングステン酸化物微粒子分散体に含まれる複合タングステン酸化物微粒子の平均粒子径とは、マトリックスである固体媒体中で分散している複合タングステン酸化物微粒子の粒子径の平均値である。
【0032】
また、優れた赤外線吸収特性を発揮させる観点から、複合タングステン酸化物微粒子の結晶子径は10nm以上100nm以下であることが好ましく、より好ましくは10nm以上80nm以下、さらに好ましくは10nm以上60nm以下である。結晶子径が10nm以上60nm以下の範囲であれば、最も優れた赤外線吸収特性が発揮されるからである。
【0033】
尚、後述する解砕処理、粉砕処理または分散処理を経た後に得られる複合タングステン酸化物微粒子分散液中に含まれる複合タングステン酸化物微粒子の格子定数や結晶子径は、当該複合タングステン酸化物微粒子分散液から揮発成分を除去して得られた複合タングステン酸化物微粒子や、当該複合タングステン酸化物微粒子分散液から得られる複合タングステン酸化物微粒子分散体中に含まれる複合タングステン酸化物微粒子においても維持される。
この結果、本発明に係る複合タングステン酸化物微粒子分散液や複合タングステン酸化物微粒子を含む複合タングステン酸化物微粒子分散体においても本発明の効果は発揮される。
【0034】
(3)複合タングステン酸化物微粒子の組成
本発明に係る複合タングステン酸化物微粒子は、一般式MxWyOz(但し、Mは、H、He、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、I、Ybの内から選択される1種以上の元素、Wはタングステン、Oは酸素、0.001≦x/y≦1、2.0≦z/y≦3.0)で表記される、複合タングステン酸化物微粒子であることが好ましい。
【0035】
当該一般式MxWyOzで示される複合タングステン酸化物微粒子について説明する。
一般式MxWyOz中のM元素、x、y、zおよびその結晶構造は、複合タングステン酸化物微粒子の自由電子密度と密接な関係があり、近赤外線吸収特性に大きな影響を及ぼす。
【0036】
一般に、三酸化タングステン(WO)中には有効な自由電子が存在しないため近赤外線吸収特性が低い。
ここで本発明者らは、当該タングステン酸化物へ、M元素(但し、M元素は、H、He、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、I、Ybの内から選択される1種以上の元素)を添加して複合タングステン酸化物とすることで、当該複合タングステン酸化物中に自由電子が生成され、近赤外線領域に自由電子由来の吸収特性が発現し、波長1000nm付近の近赤外線吸収材料として有効なものとなること、且つ、当該複合タングステン酸化物は化学的に安定な状態を保ち、耐候性に優れた近赤外線吸収材料として有効なものとなることを知見したものである。さらに、M元素は、Cs、Rb、K、Tl,Ba、Inが好ましく、なかでも、M元素がCs、Rbであると、当該複合タングステン酸化物が六方晶構造を取り易くなる。この結果、可視光線を透過し、近赤外線を吸収し吸収することから、後述する理由により特に好ましいことも知見したものである。尚、M元素として2種類以上を選択し、その内の1つをCs、Rb、K、Tl、Ba、Inから選択し、残りを、M元素を構成する1以上の元素から選択した場合にも、六方晶となることがある。
【0037】
ここで、M元素の添加量を示すxの値についての本発明者らの知見を説明する。
x/yの値が0.001以上であれば、十分な量の自由電子が生成され目的とする近赤外線吸収特性を得ることが出来る。そして、M元素の添加量が多いほど、自由電子の供給量が増加し、近赤外線吸収特性も上昇するが、x/yの値が1程度で当該効果も飽和する。また、x/yの値が1以下であれば、複合タングステン微粒子に不純物相が生成されるのを回避できるので好ましい。
【0038】
次に、酸素量の制御を示すzの値についての本発明者らの知見を説明する。
一般式MxWyOzで示される複合タングステン酸化物微粒子において、z/yの値は、2.0≦z/y≦3.0であることが好ましく、より好ましくは2.2≦z/y≦3.0であり、さらに好ましくは2.6≦z/y≦3.0、最も好ましくは2.7≦z/y≦3.0である。このz/yの値が2.0以上であれば、当該複合タングステン酸化物中に目的以外であるWOの結晶相が現れるのを回避することが出来ると伴に、材料としての化学的安定性を得ることが出来るので、有効な赤外線吸収材料として適用できるためである。一方、このz/yの値が3.0以下であれば、当該タングステン酸化物中に必要とされる量の自由電子が生成され、効率よい赤外線吸収材料となる。
【0039】
(4)複合タングステン酸化物微粒子の表面被覆膜 複合タングステン酸化物微粒子の耐候性を向上させるために、複合タングステン酸化物微粒子の表面の少なくとも一部をケイ素、ジルコニウム、チタン、アルミニウムから選択される1種類以上の元素を含む表面被覆膜により、被覆することも好ましい。これらの表面被覆膜は基本的に透明であり、添加することで複合タングステン酸化物微粒子の可視光透過率を低下させることがない。被覆方法は特に限定されないが、当該複合タングステン酸化物微粒を分散した溶液中へ上記元素を含む金属のアルコキシドを添加することで、当該複合タングステン酸化物微粒子の表面を被覆することが可能である。この場合、当該表面被覆膜は酸素原子を含有するが、当該表面被覆膜が酸化物で構成されていることがより好ましい。
【0040】
(5)まとめ
以上、詳細に説明した、複合タングステン酸化物微粒子の格子定数や平均粒子径、結晶子径は、所定の製造条件によって制御可能である。具体的には、後述する熱プラズマ法や固相反応法などにおいて、当該微粒子が生成される際の温度(焼成温度)、生成時間(焼成時間)、生成雰囲気(焼成雰囲気)、前駆体原料の形態、生成後のアニール処理、不純物元素のドープなどの製造条件の適宜な設定によって制御可能である。
【0041】
[b]複合タングステン酸化物微粒子の合成方法
本発明に係る複合タングステン酸化物微粒子の合成方法について説明する。
本発明に係る複合タングステン酸化物微粒子の合成方法としては、熱プラズマ中にタングステン化合物の出発原料を投入する熱プラズマ法や、タングステン化合物出発原料を還元性ガス雰囲気中で熱処理する固相反応法が挙げられる。熱プラズマ法や固相反応法で合成された複合タングステン酸化物微粒子は、分散処理または粉砕・分散処理される。
以下、(1)熱プラズマ法、(2)固相反応法、(3)合成された複合タングステン酸化物微粒子、の順に説明する。
【0042】
(1)熱プラズマ法
熱プラズマ法について(i)熱プラズマ法に用いる原料、(ii)熱プラズマ法とその条件、の順に説明する。
【0043】
(i)熱プラズマ法に用いる原料
本発明に係る複合タングステン酸化物微粒子を熱プラズマ法で合成する際には、タングステン化合物と、M元素化合物との混合粉体を原料として用いることができる。
タングステン化合物としては、タングステン酸(HWO)、タングステン酸アンモニウム、六塩化タングステン、アルコールに溶解した六塩化タングステンに水を添加して加水分解した後溶媒を蒸発させたタングステンの水和物、から選ばれる1種以上であることが好ましい。
【0044】
また、M元素化合物としては、M元素の酸化物、水酸化物、硝酸塩、硫酸塩、塩化物、炭酸塩、から選ばれる1種以上を用いることが好ましい。
上述したタングステン化合物と上述したM元素化合物とを含む水溶液とを、M元素とW元素の比が、MxWyOz(但し、Mは前記M元素、Wはタングステン、Oは酸素、0.001≦x/y≦1.0、2.0≦z/y≦3.0)のM元素とW元素の比となるように湿式混合する。そして、得られた混合液を乾燥することによって、M元素化合物とタングステン化合物との混合粉体が得られる、そして、当該混合粉体は、熱プラズマ法の原料とすることが出来る。
【0045】
また、当該混合粉体を、不活性ガス単独または不活性ガスと還元性ガスとの混合ガス雰囲気下にて、1段階目の焼成によって得られる複合タングステン酸化物を、熱プラズマ法の原料とすることもできる。他にも、1段階目で不活性ガスと還元性ガスとの混合ガス雰囲気下で焼成し、当該1段階目の焼成物を、2段階目にて不活性ガス雰囲気下で焼成する、という2段階の焼成によって得られる複合タングステン酸化物を、熱プラズマ法の原料とすることも出来る。
【0046】
(ii)熱プラズマ法とその条件
本発明で用いる熱プラズマとして、例えば、直流アークプラズマ、高周波プラズマ、マイクロ波プラズマ、低周波交流プラズマ、のいずれか、または、これらのプラズマの重畳したもの、または、直流プラズマに磁場を印加した電気的な方法により生成するプラズマ、大出力レーザーの照射により生成するプラズマ、大出力電子ビームやイオンビームにより生成するプラズマ、が適用出来る。尤も、いずれの熱プラズマを用いるにしても、10000~15000Kの高温部を有する熱プラズマであり、特に、微粒子の生成時間を制御できるプラズマであることが好ましい。
【0047】
当該高温部を有する熱プラズマ中に供給された原料は、当該高温部において瞬時に蒸発する。そして、当該蒸発した原料は、プラズマ尾炎部に至る過程で凝縮し、プラズマ火炎外で急冷凝固されて、複合タングステン酸化物微粒子を生成する。
【0048】
高周波プラズマ反応装置を用いる場合を例として、図1を参照しながら合成方法について説明する。
先ず、真空排気装置により、水冷石英二重管内と反応容器6内とで構成される反応系内を、約0.1Pa(約0.001Torr)まで真空引きする。反応系内を真空引きした後、今度は、当該反応系内をアルゴンガスで満たし、1気圧のアルゴンガス流通系とする。
その後、反応容器内にプラズマガスとして、アルゴンガス、アルゴンとヘリウムの混合ガス(Ar-He混合ガス)、またはアルゴンと窒素の混合ガス(Ar-N混合ガス)から選択されるいずれかのガスを、プラズマガス供給ノズル4から30~45L/minの流量で導入する。一方、プラズマ領域のすぐ外側に流すシースガスとして、Ar-He混合ガスを、シースガス供給ノズル3から60~70L/minの流量で導入する。
そして、高周波コイル2に交流電流をかけて、高周波電磁場(周波数4MHz)により熱プラズマ1を発生させる。このとき、高周波電力は30~40kWとする。
【0049】
さらに、粉末供給ノズル5より、上記合成方法で得たM元素化合物とタングステン化合物との混合粉体、または、複合タングステン酸化物を、ガス供給装置から供給する6~98L/minのアルゴンガスをキャリアガスとして、供給速度25~50g/minの割合で,熱プラズマ中に導入して所定時間反応を行う。反応後、生成した複合タングステン酸化物微粒子は、吸引管7を通過してフィルター8に堆積するので、これを回収する。
キャリアガス流量と原料供給速度は、微粒子の生成時間に大きく影響する。そこで、キャリアガス流量を6L/min以上9L/min以下とし、原料供給速度を25~50g/minとするのが好ましい。
【0050】
また、プラズマガス流量を30L/min以上45L/min以下、シースガス流量を60L/min以上70L/min以下とすることが好ましい。プラズマガスは10000~15000Kの高温部を有する熱プラズマ領域を保つ機能があり、シースガスは反応容器内における石英トーチの内壁面を冷やし、石英トーチの溶融を防止する機能がある。それと同時に、プラズマガスとシースガスはプラズマ領域の形状に影響を及ぼすため、それらのガスの流量はプラズマ領域の形状制御に重要なパラメータとなる。プラズマガスとシースガス流量を上げるほどプラズマ領域の形状がガスの流れ方向に延び、プラズマ尾炎部の温度勾配が緩やかなるので、生成される微粒子の生成時間を長くし、結晶性の良い微粒子を生成できるようになる。
【0051】
熱プラズマ法で合成し得られる複合タングステン酸化物が、その結晶子径が200nmを超える場合や、熱プラズマ法で合成し得られる複合タングステン酸化物から得られる複合タングステン酸化物微粒子分散液中の複合タングステン酸化物の分散粒子径が200nmを超える場合は、後述する、粉砕・分散処理を行うことができる。熱プラズマ法で複合タングステン酸化物を合成する場合は、そのプラズマ条件や、その後の粉砕・分散処理条件を適宜選択して、複合タングステン酸化物の平均粒子径、結晶子径、格子定数のa軸長やc軸長が付与できる、粉砕条件(微粒子化条件)を定めることにより、本発明の効果が発揮される。
【0052】
(2)固相反応法
固相反応法について(i)固相反応法に用いる原料、(ii)固相反応法における焼成とその条件、の順に説明する。
【0053】
(i)固相反応法に用いる原料
本発明に係る複合タングステン酸化物微粒子を固相反応法で合成する際には、原料としてタングステン化合物およびM元素化合物を用いる。
タングステン化合物は、タングステン酸(HWO)、タングステン酸アンモニウム、六塩化タングステン、アルコールに溶解した六塩化タングステンに水を添加して加水分解した後、溶媒を蒸発させたタングステンの水和物、から選ばれる1種以上であることが好ましい。
また、より好ましい実施形態である一般式MxWyOz(但し、Mは、Cs、Rb、K、Tl、Baから選択される1種類以上の元素、0.001≦x/y≦1、2.0≦z/y≦3.0)で示される複合タングステン酸化物微粒子の原料の製造に用いるM元素化合物には、M元素の酸化物、水酸化物、硝酸塩、硫酸塩、塩化物、炭酸塩、から選ばれる1種以上であることが好ましい。
【0054】
また、Si、Al、Zrから選ばれる1種以上の不純物元素を含有する化合物(本発明において「不純物元素化合物」と記載する場合がある。)を、原料として含んでもよい。当該不純物元素化合物は、後の焼成工程において複合タングステン化合物と反応せず、複合タングステン酸化物の結晶成長を抑制して、結晶の粗大化を防ぐ働きをするものである。不純物元素を含む化合物は、酸化物、水酸化物、硝酸塩、硫酸塩、塩化物、炭酸塩、から選ばれる1種以上であることが好ましく、粒径が500nm以下のコロイダルシリカやコロイダルアルミナが特に好ましい。
【0055】
上記タングステン化合物と、上記M元素化合物を含む水溶液とを、M元素とW元素の比が、MxWyOz(但し、Mは前記M元素、Wはタングステン、Oは酸素、0.001≦x/y≦1.0、2.0≦z/y≦3.0)のM元素とW元素の比となるように湿式混合する。不純物元素化合物を原料として含有させる場合は、不純物元素化合物が0.5質量%以下になるように湿式混合する。そして、得られた混合液を乾燥することによって、M元素化合物とタングステン化合物との混合粉体、もしくは不純物元素化合物を含むM元素化合物とタングステン化合物との混合粉体が得られる。
【0056】
(ii)固相反応法における焼成とその条件
当該湿式混合で製造したM元素化合物とタングステン化合物との混合粉体、もしくは不純物元素化合物を含むM元素化合物とタングステン化合物との混合粉体を、不活性ガス単独または不活性ガスと還元性ガスとの混合ガス雰囲気下、1段階で焼成する。焼成温度は複合タングステン酸化物微粒子が結晶化し始める温度に近いことが好ましく、具体的には焼成温度が1000℃以下であることが好ましく、800℃以下であることがより好ましく、800℃以下500℃以上の温度範囲がさらに好ましい。
【0057】
還元性ガスは特に限定されないがHが好ましい。また、還元性ガスとしてHを用いる場合、その濃度は焼成温度と出発原料の物量に応じて適宜選択すれば良く特に限定されない。例えば、20容量%以下、好ましくは10容量%以下、より好ましくは7容量%以下である。還元性ガスの濃度が20容量%以下であれば、急速な還元により日射吸収機能を有しないWOが生成するのを回避できるからである。このとき、この焼成条件の制御により、本発明に係る複合タングステン酸化物微粒子の平均粒子径、結晶子径、格子定数のa軸長やc軸長を所定の値に設定することが出来る。
尤も、当該複合タングステン酸化物微粒子の合成において、前記タングステン化合物に替えて、三酸化タングステンを用いても良い。
【0058】
(3)合成された複合タングステン酸化物微粒子
熱プラズマ法や固相反応法による合成法で得られた複合タングステン酸化物微粒子を用いて、後述する複合タングステン酸化物微粒子分散液を作製した場合、当該分散液に含有されている微粒子の分散粒子径が200nmを超える場合は、後述する複合タングステン酸化物微粒子分散液を製造する工程において、粉砕・分散処理すればよい。そして、粉砕・分散処理を経て得られた複合タングステン酸化物微粒子の平均粒子径、結晶子径、格子定数のa軸長やc軸長の値が本発明の範囲を実現できていれば、本発明に係る複合タングステン酸化物微粒子やその分散液から得られる複合タングステン酸化物微粒子分散体は、優れた近赤外線吸収特性を実現できるのである。
上述したように、本発明に係る複合タングステン酸化物微粒子は、その平均粒子径が100nm以下のものである。
ここで、「[b]複合タングステン酸化物微粒子の合成方法」にて説明した方法で得られた複合タングステン酸化物微粒子の平均粒子径が100nmを超えた場合は、粉砕・分散処理して微粒化し、複合タングステン酸化物微粒子分散液を製造する工程(粉砕・分散処理工程)と、製造された複合タングステン酸化物微粒子分散液を乾燥処理して揮発成分(ほとんどが溶媒)を除去することで、本発明に係る複合タングステン酸化物微粒子を製造することができる。
【0059】
乾燥処理の設備としては、加熱および/または減圧が可能で、当該微粒子の混合や回収がし易いという観点から、大気乾燥機、万能混合機、リボン式混合機、真空流動乾燥機、振動流動乾燥機、凍結乾燥機、リボコーン、ロータリーキルン、噴霧乾燥機、パルコン乾燥機、等が好ましいが、これらに限定されない。
【0060】
[c]複合タングステン酸化物微粒子分散液
本発明に係る農園芸用覆土フィルムを製造するための、複合タングステン酸化物微粒子分散液について説明する。
複合タングステン酸化物微粒子分散液は、上記合成方法で得られた複合タングステン酸化物微粒子と、水、有機溶媒、液状樹脂、プラスチック用の液状可塑剤、高分子単量体またはこれらの混合物から選択される混合スラリーの液状媒体、および適量の分散剤、カップリング剤、界面活性剤等を、媒体攪拌ミルで粉砕、分散させたものである。
そして、当該溶媒中における当該微粒子の分散状態が良好で、その分散粒子径が1~200nmであることを特徴とする。また、該複合タングステン酸化物微粒子分散液に含有されている複合タングステン酸化物微粒子の含有量が、0.01質量%以上80質量%以下であることが好ましい。
以下、本発明に係る複合タングステン酸化物微粒子分散液について、(1)溶媒、(2)分散剤、(3)粉砕・分散方法、(4)分散粒子径、(5)バインダー、その他の添加剤、の順に説明する。
【0061】
(1)溶媒
複合タングステン酸化物微粒子分散液に用いられる液状溶媒は特に限定されるものではなく、複合タングステン酸化物微粒子分散液の塗布条件、塗布環境、および、適宜添加される無機バインダーや樹脂バインダーなどに合わせて適宜選択すればよい。例えば、液状溶媒は、水、有機溶媒、油脂、液状樹脂、媒体樹脂用の液状可塑剤、高分子単量体、または、これらの混合物などである。
【0062】
ここで、有機溶媒としては、アルコール系、ケトン系、炭化水素系、グリコール系、水系など、種々のものを選択することが可能である。具体的には、メタノール、エタノール、1-プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、ペンタノール、ベンジルアルコール、ジアセトンアルコールなどのアルコール系溶剤;アセトン、メチルエチルケトン、メチルプロピルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロンなどのケトン系溶剤;3-メチル-メトキシ-プロピオネートなどのエステル系溶剤;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールイソプロピルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールエチルエーテルアセテートなどのグリコール誘導体;フォルムアミド、N-メチルフォルムアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドンなどのアミド類;トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類;エチレンクロライド、クロルベンゼンなどが使用可能である。そして、これらの有機溶媒中でも、特に、ジメチルケトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、トルエン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、酢酸n-ブチルなどが好ましい。
【0063】
油脂としては、植物油脂または植物由来油脂が好ましい。植物油としては、アマニ油、ヒマワリ油、桐油、エノ油等の乾性油、ゴマ油、綿実油、菜種油、大豆油、米糠油、ケシ油等の半乾性油、オリーブ油、ヤシ油、パーム油、脱水ヒマシ油等の不乾性油が用いられる。植物油由来の化合物としては、植物油の脂肪酸とモノアルコールを直接エステル反応させた脂肪酸モノエステル、エーテル類などが用いられる。また、市販の石油系溶剤も油脂として用いることができ、例えば、エクソンモービル社製 アイソパー(登録商標)E、エクソール(登録商標)Hexane、Heptane、E、D30、D40、D60、D80、D95、D110、D130等を挙げることができる。
【0064】
媒体樹脂用の液状可塑剤としては、有機酸エステル系やリン酸エステル系等に代表される、公知の液状可塑剤を用いることができる。
【0065】
ここで、液状可塑剤としては、例えば一価アルコールと有機酸エステルとの化合物である可塑剤や、多価アルコール有機酸エステル化合物等のエステル系である可塑剤、有機リン酸系可塑剤等のリン酸系である可塑剤が挙げられ、いずれも室温で液状であるものが好ましい。なかでも、多価アルコールと脂肪酸から合成されたエステル化合物である可塑剤が好ましい。
【0066】
多価アルコールと脂肪酸から合成されたエステル化合物は特に限定されないが、例えば、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、トリプロピレングリコール等のグリコールと、酪酸、イソ酪酸、カプロン酸、2-エチル酪酸、ヘプチル酸、n-オクチル酸、2-エチルヘキシル酸、ペラルゴン酸(n-ノニル酸)、デシル酸等の一塩基性有機酸との反応によって得られた、グリコール系エステル化合物が挙げられる。また、テトラエチレングリコール、トリプロピレングリコールと、前記一塩基性有機とのエステル化合物等も挙げられる。
なかでも、トリエチレングリコールジヘキサネート、トリエチレングリコールジ-2-エチルブチレート、トリエチレングリコールジ-オクタネート、トリエチレングリコールジ-2-エチルヘキサノネート等のトリエチレングリコールの脂肪酸エステルが好適である。トリエチレングリコールの脂肪酸エステルが望ましい。
【0067】
また、高分子単量体とは重合等により高分子を形成する単量体であるが、本発明で用いる好ましい高分子単量体としては、メチルメタクリレート単量体、アクレリート単量体やスチレン樹脂単量体などが挙げられる。
【0068】
以上、説明した液状溶媒は、1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。さらに、必要に応じて、これらの液状溶媒へ酸やアルカリを添加してpH調整してもよい。
【0069】
(2)分散剤
さらに、当該複合タングステン酸化物微粒子分散液中における複合タングステン酸化物微粒子の分散安定性を一層向上させ、再凝集による分散粒子径の粗大化を回避するために、各種の分散剤、界面活性剤、カップリング剤などの添加も好ましい。当該分散剤、カップリング剤、界面活性剤は用途に合わせて選定可能であるが、アミンを含有する基、水酸基、カルボキシル基、または、エポキシ基を官能基として有するものであることが好ましい。これらの官能基は、複合タングステン酸化物微粒子の表面に吸着して凝集を防ぎ、赤外線吸収膜中においても本発明に係る複合タングステン酸化物微粒子を均一に分散させる効果を持つ。これらの官能基のいずれかを分子中にもつ高分子系分散剤がさらに望ましい。
【0070】
このような分散剤には、
日本ルーブリゾール社製、SOLSPERSE(登録商標)(以下同じ)3000、5000、9000、11200、12000、13000、13240、13650、13940、16000、17000、18000、20000、21000、24000SC、24000GR、26000、27000、28000、31845、32000、32500、32550、32600、33000、33500、34750、35100、35200、36600、37500、38500、39000、41000、41090、53095、55000、56000、71000、76500、J180、J200、M387等;
SOLPLUS(登録商標)(以下同じ)D510、D520、D530、D540、DP310、K500、L300、L400、R700等;
ビックケミー・ジャパン社製、Disperbyk(登録商標)(以下同じ)-101、102、103、106、107、108、109、110、111、112、116、130、140、142、145、154、161、162、163、164、165、166、167、168、170、171、174、180、181、182、183、184、185、190、191、192、2000、2001、2009、2020、2025、2050、2070、2095、2096、2150、2151、2152、2155、2163、2164;
Anti-Terra(登録商標)(以下同じ)-U、203、204等;
BYK(登録商標)(以下同じ)-P104、P104S、P105、P9050、P9051、P9060、P9065、P9080、051、052、053、054、055、057、063、065、066N、067A、077、088、141、220S、300、302、306、307、310、315、320、322、323、325、330、331、333、337、340、345、346、347、348、350、354、355、358N、361N、370、375、377、378、380N、381、392、410、425、430、1752、4510、6919、9076、9077、W909、W935、W940、W961、W966、W969、W972、W980、W985、W995、W996、W9010、Dynwet800、Siclean3700、UV3500、UV3510、UV3570等;
エフカアディデブズ社製、EFKA(登録商標)(以下同じ)2020、2025、3030、3031、3236、4008、4009、4010、4015、4046、4047、4060、4080、7462、4020、4050、4055、4300、4310、4320、4400、4401、4402、4403、4300、4320、4330、4340、5066、5220、6220、6225、6230、6700、6780、6782、8503;
BASFジャパン社製、JONCRYL(登録商標)(以下同じ)67、678、586、611、680、682、690、819、-JDX5050等;
大塚化学社製、TERPLUS(登録商標)(以下同じ) MD1000、D 1180、D 1130等;
味の素ファインテクノ社製、アジスパー(登録商標)(以下同じ)PB-711、PB-821、PB-822等;
楠本化成社製、ディスパロン(登録商標)(以下同じ)1751N、1831、1850、1860、1934、DA-400N、DA-703-50、DA-325、DA-375、DA-550、DA-705、DA-725、DA-1401、DA-7301、DN-900、NS-5210、NVI-8514L等;
東亞合成社製、アルフォン(登録商標)(以下同じ)UC-3000、UF-5022、UG-4010、UG-4035、UG-4070等;が挙げられる。
【0071】
(3)粉砕・分散方法
複合タングステン酸化物微粒子の分散液への分散方法は、当該複合タングステン酸化物微粒子を凝集させることなく、分散液中へ均一に分散する方法であれば、特に限定されない。但し、当該粉砕・複合タングステン酸化物微粒子の結晶構造においてa軸を7.3850Å以上7.4186Å以下、c軸を7.5600Å以上7.6240Å以下の範囲に担保しながら、当該複合タングステン酸化物微粒子の平均粒子径を100nm以下、好ましくは10nm以上100nm以下、より好ましくは10nm以上80nm以下、さらに好ましくは10nm以上60nm以下に、調製出来るものであることが求められる。
【0072】
例えば、ビーズミル、ボールミル、サンドミル、ペイントシェーカー、超音波ホモジナイザーなどの装置を用いた粉砕・分散処理方法が挙げられる。その中でも、ビーズ、ボール、オタワサンドといった媒体メディアを用いる、ビーズミル、ボールミル、サンドミル、ペイントシェーカー等の媒体攪拌ミルで粉砕、分散させることは、所望とする分散粒子径に要する時間が短いことから好ましい。
媒体攪拌ミルを用いた粉砕・分散処理によって、複合タングステン酸化物微粒子の分散液中への分散と同時に、複合タングステン酸化物微粒子同士の衝突や媒体メディアの該微粒子への衝突などによる微粒子化も進行し、複合タングステン酸化物微粒子をより微粒子化して分散させることができる(即ち、粉砕・分散処理される)。
【0073】
このとき、微粒子化され分散した複合タングステン酸化物微粒子において、優れた赤外線吸収特性が発揮される観点より、格子定数は、a軸が7.3850Å以上7.4186Å以下、c軸が7.5600Å以上7.6240Å以下となり、結晶子径は、好ましくは10nm以上100nm以下、より好ましくは10nm以上80nm以下、さらに好ましくは10nm以上60nm以下となるように、粉砕・分散処理条件を調整する。
【0074】
これらの器材を用いた機械的な分散処理工程によって、複合タングステン酸化物微粒子の溶媒中への分散と同時に、複合タングステン酸化物粒子同士の衝突などにより微粒子化が進むと共に、当該複合タングステン酸化物粒子に含まれる六方晶の結晶構造へ歪や変形が付与され、当該結晶子構造を構成する原子における電子軌道の重なり状態が変化して、自由電子量の増加が進行する。
【0075】
尚、当該複合タングステン酸化物粒子の微粒子化、および、六方晶の結晶構造における格子定数であるa軸長やc軸長の変動は、粉砕装置の装置定数により異なる。従って、予め、試験的な粉砕を実施して、複合タングステン酸化物微粒子へ、所定の平均粒子径、結晶子径、格子定数のa軸長やc軸長を付与出来る、粉砕装置および粉砕条件を求めておくことが肝要である。
【0076】
複合タングステン酸化物微粒子を可塑剤へ分散させる際、所望により、さらに120℃以下の沸点を有する有機溶剤を添加することも好ましい構成である。
120℃以下の沸点を有する有機溶剤として、具体的にはトルエン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、酢酸ブチル、イソプロピルアルコール、エタノールが挙げられる。尤も、沸点が120℃以下で近赤外線吸収機能を発揮する微粒子を均一に分散可能なものであれば、任意に選択できる。但し、当該有機溶剤を添加した場合は、分散完了後に乾燥工程を実施し、近赤外線吸収微粒子分散体の一例として後述する赤外光吸収層中に残留する有機溶剤を5質量%以下とすることが好ましい。赤外光吸収層の残留溶媒が5質量%以下であれば、後述する農園芸用覆土フィルムにおいて気泡が発生せず、外観や光学特性が良好に保たれるからである。
【0077】
複合タングステン酸化物微粒子分散液の状態は、タングステン酸化物微粒子を溶媒中に分散した時の複合タングステン酸化物微粒子の分散状態を測定することで確認することができる。例えば、本発明に係る複合タングステン酸化物微粒子が、溶媒中において微粒子および微粒子の凝集状態として存在する液から試料をサンプリングし、市販されている種々の粒度分布計で測定することで確認することができる。粒度分布計としては、例えば、動的光散乱法を原理とした大塚電子(株)社製ELS-8000等の公知の測定装置を用いることができる。
【0078】
(4)分散粒子径
本発明に係る複合タングステン酸化物微粒子分散液中における、複合タングステン酸化物微粒子の分散粒子径は、200nm以下であることが好ましく、さらに好ましくは、分散粒子径は、200nm以下1nm以上である。
これは、最終的に得られる農園芸用覆土フィルムが白色光反射層を備える場合、赤外光吸収層において、目視での可視光線の透明性を考慮する必要があるからである。即ち、当該赤外光吸収層は、可視光線の透明性を保持したまま、近赤外線の効率良い吸収を行なうことが求められるからである。
尚、本発明に係る複合タングステン酸化物微粒子を含有する近赤外線吸収成分は、近赤外線領域、特に、波長900~2200nm付近の光を大きく吸収するため、その可視光線での透過色調が青色系から緑色系となる場合ある。
一方、赤外線線吸収層に含まれる複合タングステン酸化物微粒子の分散粒子径が1~200nmであれば、幾何学散乱またはミー散乱によって波長380nm~780nmの可視光線領域の光を散乱することがないので、赤外線線吸収層は光の散乱による呈色が減少し、可視光透過率の増加を図ることが出来る。さらに、レイリー散乱領域では、散乱光は分散粒子径の6乗に比例して低減するため、分散粒子径の減少に伴い散乱が低減し透明性が向上する。そこで、分散粒子径が200nm以下となると散乱光は非常に少なくなり、より透明性が増すことになり好ましい。
以上より、当該微粒子の分散粒子径を200nmよりも小さくすれば透明性を確保することができるが、当該透明性を重視する場合には分散粒子径を150nm以下、さらに好ましくは100nm以下とすることが好ましい。一方、分散粒子径が1nm以上であれば、工業的な製造は容易である。
【0079】
ここで、複合タングステン酸化物微粒子分散液中における、当該複合タングステン酸化物微粒子の分散粒子径について簡単に説明する。当該分散粒子径とは、溶媒中に分散している複合タングステン酸化物微粒子の単体粒子や、当該複合タングステン酸化物微粒子が凝集した凝集粒子の粒子径を意味するものであり、市販されている種々の粒度分布計で測定することができる。例えば、当該複合タングステン酸化物微粒子分散液のサンプルを採取し、当該サンプルを、動的光散乱法を原理とした大塚電子(株)製ELS-8000を用いて測定することができる。
【0080】
また、上記の合成方法で得られる複合タングステン酸化物微粒子の含有量が0.01質量%以上80質量%以下である複合タングステン酸化物微粒子分散液は、液安定性に優れる。適切な液状媒体や、分散剤、カップリング剤、界面活性剤を選択した場合は、温度40℃の恒温槽に入れたときでも6ヶ月以上分散液のゲル化や粒子の沈降が発生せず、分散粒子径を1~200nmの範囲に維持できる。
【0081】
尚、複合タングステン酸化物微粒子分散液の分散粒子径と、複合タングステン酸化物微粒子分散体に分散された複合タングステン酸化物微粒子の分散粒子径が異なる場合がある。これは、複合タングステン酸化物微粒子分散液中では複合タングステン酸化物微粒子が凝集しても、複合タングステン酸化物微粒子分散液から複合タングステン酸化物微粒子分散体へ加工される際に、複合タングステン酸化物微粒子の凝集が解されるからである。ただし、複合タングステン酸化物微粒子分散液の分散粒子径が小さいほど、近赤外線吸収繊維の分散粒子径も小さくなる傾向にあるため、複合タングステン酸化物微粒子分散液の分散粒子径を制御することは後工程で得られる近赤外線吸収繊維の特性を制御する上で重要となる。
【0082】
(5)バインダー、その他の添加剤
当該複合タングステン酸化物微粒子分散液には、適宜、樹脂バインダーから選ばれる1種以上を含有させることができる。当該複合タングステン酸化物微粒子分散液に含有させる樹脂バインダーの種類は特に限定されるものではないが、アクリル樹脂などの熱可塑性樹脂、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂などが適用できる。
【0083】
また、本発明に係る複合タングステン酸化物微粒子分散体の近赤外線吸収特性を向上させるために、本発明に係る分散液へ一般式XBm(但し、Xはアルカリ土類元素、またはイットリウムを含む希土類元素から選ばれた金属元素、4≦m≦6.3)で表されるホウ化物やATOやITOなどの近赤外線吸収微粒子を、所望に応じて適宜添加することも好ましい構成である。なお、このときの添加割合は、所望とする近赤外線吸収特性に応じて適宜選択すればよい。
また、複合タングステン酸化物微粒子分散体の色調を調整する為に、カーボンブラックや弁柄等の公知の無機顔料や公知の有機顔料も添加できる。
複合タングステン酸化物微粒子分散液には、公知の紫外線吸収剤や有機物の公知の赤外線吸収材やリン系の着色防止剤を添加してもよい。
【0084】
[d]農園芸用覆土フィルム
本発明に係る農園芸用覆土フィルムについて説明する。
地表に到達する太陽光線は、一般に、約290~2100nmの波長域であると言われる。このうち波長約380~780nmの可視光波長領域の光は、植物の生育に必要な光である。従って、当該波長約380~780nmの可視光波長領域の光は反射し、波長約780~2100nmの近赤外光だけを選択的且つ効率的に吸収することにより、植物の生育に必要な可視光は植物側に反射し、熱となる赤外光は吸収して土を暖めることで、温室内の雰囲気の気温は上げないような構成とすることが好ましい。
【0085】
本発明に係る農園芸用覆土フィルムは、例えば、当該農園芸用覆土フィルムの少なくとも一方の面に、赤外線吸収材料微粒子をーティングして赤外吸収層を設ける構成を備えても良く、当該農園芸用覆土フィルムのフィルム内部に、赤外線吸収材料微粒子を分散させて存在させる構成を備えても良い。
【0086】
本発明に係る農園芸用覆土フィルムには、さらに白色光反射材料が内部に分散された白色光反射層を設けても良い。
そして、当該白色反射層を備えたフィルムの少なくとも一方の面に、赤外線吸収材料微粒子をコーティングして赤外光吸収層を設ける構成を備えても良く、当該白色光反射材料と赤外線吸収材料微粒子とを、フィルムの内部に分散させて、白色光反射層と赤外光吸収層とする構成を備えても良い。
また、フィルムの片面に、白色光反射材料がコーティングされた白色光反射層を設け、さらに当該白色光反射層の上へ、赤外線吸収材料微粒子をコーティングして赤外光吸収層を設ける構成を備えても良い。
また、フィルムの片面に、白色光反射材料がコーティングされた白色光反射層を設け、フィルムの他方の面に、赤外線吸収材料微粒子がコーティングされた赤外光吸収層を設ける構成を備えても良い。
尚、上述の構成において、赤外光吸収層において赤外線吸収材料微粒子に起因する着色がないので、さらに白色反射層を備えても、本発明に係る農園芸用覆土フィルムの白色反射層が赤外光吸収層により着色することはない。
【0087】
本発明に係る農園芸用覆土フィルムでは、日照による太陽熱を赤外線吸収材料微粒子が吸収することで、赤外線がフィルムに吸収されてフィルム温度が上昇し、それに伴い輻射熱も増加する。この結果、当該農園芸用覆土フィルムに被覆された土壌内部は速やかに温度が上昇するが、温室内の雰囲気の気温は上がらない。また、可視光線は、本発明に係る農園芸用覆土フィルムの白色光反射材料により反射されるため、植物に当たる可視光線の光量が増すことで光合成量が増え、植物の成長を促進できる。
【0088】
本発明に係る赤外線吸収材料微粒子の適用方法として、まず当該微粒子を適宜な媒体中に分散し、所望の基材表面へ、当該微粒子が分散した媒体をコーティングして赤外光吸収層を形成する方法がある。この方法は、あらかじめ高温で焼成して得られた赤外線吸収材料微粒子を、フィルム基材中に練り込むか、もしくはバインダーによって基材表面に結着させることが可能である。この結果、樹脂材料等の、耐熱温度が低い基材材料への応用が可能であり、赤外光吸収層の形成の際に大型の装置を必要とせず、安価であるという利点がある。
【0089】
また、本発明に係る赤外線吸収材料微粒子は導電性材料である為、当該微粒子が連接して連続的な膜となっている場合には、携帯電話等の電波を吸収反射して妨害する恐れがある。しかし、赤外線吸収材料を微粒子としてマトリックス中に分散した場合には、赤外線吸収材料微粒子一つ一つが孤立した状態で分散しているため、電波透過性を発揮することができ、汎用性を有している。
【0090】
上述したように、白色光反射材料が内部に分散しているフィルム基材の片面に、赤外線吸収材料微粒子がコーティングされて赤外光吸収層が形成されている場合、
フィルム基材の片面に白色光反射材料がコーティングされて白色光反射層が形成され、さらに当該白色光反射層上に赤外線吸収材料微粒子がコーティングされて赤外光吸収層が形成されている場合、
フィルム基材の片面に白色光反射材料がコーティングされて白色光反射層が形成され、他方の面に赤外線吸収材料微粒子がコーティングされて赤外光吸収層が形成されている場合、
以上の場合には、例えば、赤外線吸収材料微粒子を適宜な溶媒中に分散させ、これに樹脂バインダーを添加した後、フィルム基材表面にコーティングし、溶媒を蒸発させて所定の方法で樹脂を硬化させれば、当該赤外線吸収材料微粒子が媒体中に分散した赤外光吸収層の薄膜の形成が可能となる。
【0091】
フィルム基材表面への、赤外線吸収材料微粒子のコーティング方法は、フィルム基材表面に赤外線吸収材料微粒子含有樹脂が均一にコートできればよく、特に限定されない。例えば、バーコート法、グラビヤコート法、スプレーコート法、ディップコート法、フローコート法、スピンコート法、ロールコート法、スクリーン印刷法、ブレードコート法等が、好ましく挙げられる。また、赤外線吸収材料微粒子を直接バインダー樹脂中に分散したコーティング液を用いると、当該コーティング液をフィルム基材表面に塗布後、溶媒を蒸発させる必要が無く、環境的、工業的に好ましい。
【0092】
上述した樹脂バインダーとしては、例えば、UV硬化樹脂、熱硬化樹脂、電子線硬化樹脂、常温硬化樹脂、熱可塑性樹脂等が目的に応じて選択可能である。
具体的には、ポリエチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、エチレン酢酸ビニル共重合体、ポリエステル樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ふっ素樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、ポリビニルブチラール樹脂が挙げられる。
また、金属アルコキシドを用いたバインダーの利用も可能である。当該金属アルコキシドとしては、Si、Ti、Al、Zr等のアルコキシドが代表的である。当該金属アルコキシドを用いたバインダーは、加水分解して加熱することで酸化膜を形成することが可能である。
【0093】
また、上述したように、赤外線吸収材料微粒子を、白色光反射材料が分散したフィルム基材の内部に分散させてもよい。
具体的には、当該微粒子をフィルム基材表面から浸透させてもよい。また、基材原料樹脂を溶融温度以上に加熱して溶融させた後、赤外線吸収材料微粒子と溶融した基材樹脂とを混合してもよい。また、予め、基材原料樹脂に当該微粒子を高濃度に含有せしめた熱線吸収成分含有マスターバッチを製造し、これを所定の濃度に希釈調整してもよい。
以上のようにして得られた赤外線吸収材料微粒子含有樹脂は、所定の方法でフィルム状に成形し、赤外線吸収材料として使用可能である。
【0094】
上述した熱線吸収成分含有マスターバッチについて、さらに説明する。
当該マスターバッチの製造方法は特に限定されないが、例えば、複合タングステン酸化物微粒子分散液と、熱可塑性樹脂の粉粒体またはペレットと、必要に応じて他の添加剤とを、リボンブレンダー、タンブラー、ナウターミキサー、ヘンシェルミキサー、スーパーミキサー、プラネタリーミキサー等の混合機、およびバンバリーミキサー、ニーダー、ロール、ニーダールーダー、一軸押出機、二軸押出機等の混練機を使用して溶剤を除去しながら均一に溶融混合することで、熱可塑性樹脂に上記微粒子を均一に分散した溶融混合物を調製することができる。
一方、複合タングステン酸化物微粒子分散液の溶剤を公知の方法で除去し、得られた複合タングステン酸化物微粒子粉末と熱可塑性樹脂の粉粒体またはペレットと、必要に応じて他の添加剤とを均一に溶融混合する方法を用いて、熱可塑性樹脂に複合タングステン酸化物微粒子を均一に分散した溶融混合物を調製することもできる。
また、複合タングステン酸化物微粒子の粉末を、直接、熱可塑性樹脂に添加し、均一に混合して溶融混合物を調製する方法を用いることもできる。
上述した方法により得られた溶融混合物を、ペント式一軸もしくは二軸の押出機で混練し、ペレット状に加工することにより、熱線吸収成分含有マスターバッチを得ることができる。
【0095】
赤外線吸収材料微粒子を樹脂に分散させる方法は、特に限定されないが、例えば、超音波分散、媒体攪拌ミル、ボールミル、サンドミル等を、好ましく使用することができる。
上述の分散操作の際に用いる微粒子の分散媒は、特に限定されるものではない。配合する媒体樹脂バインダーに合わせて選択可能であり、例えば、水、アルコール、エーテル、エステル、ケトン、芳香族化合物などの一般的な有機溶媒の各種が使用可能である。また、必要に応じて酸やアルカリを添加してpHを調整してもよい。さらに、赤外線吸収材料微粒子の分散安定性を一層向上させるために、各種の界面活性剤、カップリング剤などを添加することも可能である。
【0096】
本発明に係る農園芸用覆土フィルムに使用される白色光反射材料は、特に限定されない。具体的には、例えば、TiO、ZrO、SiO、Al、MgO、ZnO、CaCO、BaSO、ZnS、PbCO等が好ましい。これら白色光反射材料は、単独で用いても2種類以上を併用してもかまわない。
【0097】
本発明に係る農園芸用覆土フィルムに使用されるフィルムは、特に限定されない。具体的には、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリフッ化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン-エチレン共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレン、テトラクロロトリフルオロエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、ポリスチレン、エチレン酢酸ビニル、ポリエステル樹脂が好ましく挙げられる。これらの樹脂へ、さらに、安定剤、安定化助剤、酸化防止剤、可塑剤、滑剤、紫外線吸収剤等の添加剤が添加されていてもよい。
【0098】
以上、詳細に説明したように本発明に係る農園芸用覆土フィルムは、赤外線吸収材料微粒子を含有している赤外光吸収層を有するフィルムであり、さらに、白色光反射材料を含有している白色光反射層を有している場合がある。
本発明に係る農園芸用覆土フィルムは、耐候性が高く低コストであり、しかも、少ない赤外線吸収材料微粒子量で太陽光からの近赤外線を効率良く吸収する。そして、さらに白色光反射層を有している場合は、可視光線を反射する農園芸用覆土フィルムを提供できる。
【0099】
本発明に係る農園芸用覆土フィルムを、植物等を栽培する地面に使用することで、被覆された地面の温度が上昇して土を暖め、温室内等の雰囲気の気温は上昇させない効果がある。そして、さらに白色光反射層を有している場合は、植物の生育に必要な可視光波長領域の光を反射して、植物の成長を促進する効果もあり、極めて有用である。
【実施例
【0100】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
また、本発明に係る複合タングステン酸化物微粒子の結晶構造、格子定数、結晶子径の測定には、複合タングステン酸化物微粒子分散液から溶媒を除去して得られる複合タングステン酸化物微粒子を用いた。そして当該複合タングステン酸化物微粒子のX線回折パターンを、粉末X線回折装置(スペクトリス(株)PANalytical製X’Pert-PRO/MPD)を用いて粉末X線回折法(θ―2θ法)により測定した。得られたX線回折パターンから当該微粒子に含まれる結晶構造を特定し、さらにリートベルト法を用いて格子定数と結晶子径とを算出した。
【0101】
[実施例1]
水6.70kgに、炭酸セシウム(CsCO)7.43kgを溶解して溶液を得た。当該溶液を、タングステン酸(HWO)34.57kgへ添加して十分撹拌混合した後、撹拌しながら乾燥した(WとCsとのモル比が1:0.33相当である。)。当該乾燥物を、Nガスをキャリアーとした5容量%Hガスを供給しながら加熱し、800℃の温度で5.5時間焼成した、その後、当該供給ガスをNガスのみに切り替えて、室温まで降温して複合タングステン酸化物粒子を得た。
【0102】
当該複合タングステン酸化物粒子10質量%と、官能基としてアミンを含有する基を有するアクリル系高分子分散剤(アミン価48mgKOH/g、分解温度250℃のアクリル系分散剤)(以下、「分散剤a」と記載する。)10質量%と、トルエン80質量%とを秤量し、0.3mmφZrOビ-ズを入れたペイントシェーカー(浅田鉄工社製)に装填し、10時間粉砕・分散処理することによって実施例1に係る複合タングステン酸化物微粒子分散液を調製した。このとき、当該混合物100質量部に対し、0.3mmφZrOビーズを300質量部用いて粉砕・分散処理を行った。
【0103】
ここで、複合タングステン酸化物微粒子分散液内における複合タングステン酸化物微粒子の分散粒子径を、大塚電子(株)製ELS-8000を用い、レーザーの散乱光の揺らぎを観測し、動的光散乱法(光子相関法)により自己相関関数を求め、キュムラント法で平均粒子径(流体力学的径)を算出したところ70nmであった。
尚、粒径測定の設定として、粒子屈折率は1.81とし、粒子形状は非球形とした。また、バックグラウンドは、トルエンを用いて測定し、溶媒屈折率は1.50とした。
また、当該複合タングステン酸化物微粒子分散液から溶媒を除去した後に得られた、複合タングステン酸化物微粒子の格子定数を測定したところ、a軸が7.4071Å、c軸が7.6188Åであった。また、結晶子径は24nmであった。そして、六方晶の結晶構造が確認された。以上の製造条件および測定結果を表1に示す。尚、表1には、後述する実施例2~19に係る製造条件および測定結果についても併せて記載する。
【0104】
さらに当該複合タングステン酸化物微粒子分散液の光学特性として可視光透過率と近赤外線吸収特性とを、(株)日立製作所製の分光光度計U-4100を用い測定した。測定は、分光光度計の測定用ガラスセルへ、当該複合タングステン酸化物微粒子分散液をトルエンで希釈した液を充填して行った。尚、当該トルエンによる希釈は、希釈後における複合タングステン酸化物微粒子分散液の可視光透過率が70%前後になるように行った。
当該測定において、分光光度計の光の入射方向は測定用ガラスセルに垂直な方向とした。
さらに、当該測定用ガラスセルへ希釈溶媒であるトルエンのみを入れたブランク液においても光の透過率測定し、当該測定結果を光の透過率のベースラインとした。
【0105】
実施例1に係る複合タングステン酸化物微粒子分散液50質量部と、ハードコート用紫外線硬化樹脂(固形分100%)30質量部とを混合して、赤外線吸収材料微粒子分散体液を得た。得られた赤外線吸収材料微粒子分散体液を、白色光反射材料としてTiO微粒子を含有しているポリエチレンフィルム上へ、バーコーターを用いて塗布し成膜した。この膜を60℃で30秒間乾燥し溶媒を蒸発させた後、高圧水銀ランプで硬化させ、可視光領域の拡散反射率が高い実施例1に係る赤外線吸収膜を得た。
実施例1では、赤外線吸収層としてフィルム上に赤外線吸収膜を設けた。以下、実施例2~19、比較例1~9においても同様である。
【0106】
得られた実施例1に係る赤外線吸収膜中に分散している複合タングステン酸化物微粒子の平均粒子径を、透過型電子顕微鏡像を用いた画像処理装置によって算出した。すると、当該微粒子の平均粒子径は25nmであり、上述した結晶子径24nmとほぼ同値であった。
【0107】
また、得られた実施例1に係る赤外線吸収膜の光学特性を、日立製作所製の分光光度計U-4100を用いて波長200~2600nmの光の透過率により測定し、JIS A 5759:2016に従って可視光透過率、日射透過率、可視光反射率、日射反射率、日射吸収率を算出した(ここで、日射吸収率は、日射吸収率(%)=100%-日射透過率(%)-日射反射率(%)から算出した。)。
この結果を表2に記載する。また、表2には、実施例2~19で得られた結果についても併せて記載する。
【0108】
[実施例2~11]
実施例1において説明した、タングステン酸と炭酸セシウムとを、もしくは、メタタングステン酸アンモニウム水溶液(WO換算で50wt%)と炭酸セシウムとを、WとCsとのモル比が1:0.21~0.37となるように所定量秤量した以外は実施例1と同様にして、実施例2~11に係る赤外線吸収膜を得た。
得られた実施例2~11に係る赤外線吸収膜の光学特性を、実施例1と同様に評価した。尚、いずれの複合タングステン酸化物微粒子試料も、六方晶の結晶構造が確認された。
これらの実施例の製造条件と評価結果とを、表1および表2に記載する。
【0109】
[実施例12]
実施例1において説明した複合タングステン酸化物粒子の製造において、Nガスをキャリアーとした5%Hガスを供給しながら550℃の温度で9.0時間焼成した以外は、実施例1と同様に操作して、実施例12に係る赤外線吸収膜を得た。
得られた実施例12に係る赤外線吸収膜の光学特性を、実施例1と同様に評価した。尚、複合タングステン酸化物微粒子試料には、六方晶の結晶構造が確認された。これらの実施例の製造条件と評価結果とを、表1および表2に記載する。
【0110】
[実施例13]
実施例1において説明した複合タングステン酸化物微粒子分散液から、スプレードライヤーを用いてトルエンを除去し、実施例13に係る複合タングステン酸化物微粒子分散粉を得た。
得られた複合タングステン酸化物微粒子分散粉20質量部を、ポリエチレン樹脂ペレット80質量部に添加し、ブレンダーで均一に混合した後、二軸押出機で溶融混練し、押出されたストランドをペレット状にカットし、複合タングステン酸化物微粒子を含有するマスターバッチを得た。
同様に、TiO10質量部を、ポリエチレン樹脂ペレット90質量部に添加し、ブレンダーで均一に混合した後、二軸押出機で溶融混練し、押出されたストランドをペレット状にカットし、TiOを含有するマスターバッチを得た。
得られた複合タングステン酸化物微粒子を含有するマスターバッチと、TiOを含有するマスターバッチ50質量部と、同様の方法で溶融混練した無機微粒子を添加していないマスターバッチ50質量部とを混合した。この混合マスターバッチを押出し成形して、実施例13に係る厚さ50μmのフィルムを形成した。この膜の光学特性を、実施例1と同様に評価した。尚、複合タングステン酸化物微粒子試料には、六方晶の結晶構造が確認された。
評価結果を表2に記載する。
【0111】
[実施例14]
実施例1において説明した複合タングステン酸化物微粒子分散液50質量部と、ハードコート用紫外線硬化樹脂(固形分100%)30質量部とを混合して、赤外線吸収材料微粒子分散体液を得た。
同様に、TiO微粒子50質量部と、ハードコート用紫外線硬化樹脂(固形分100%)30質量部とを混合して、TiO微粒子を含有する白色光反射材料微粒子分散体液を得た。
得られた赤外線吸収材料微粒子分散体液を、ポリエチレンフィルム上にバーコーターを用いて塗布し成膜した。この膜を60℃で30秒間乾燥し溶媒を蒸発させた後、高圧水銀ランプで硬化させた。その後、ポリエチレンフィルムの他方の片面に、同様の方法で白色光反射材料微粒子分散体液を塗布して成膜し、硬化させ、実施例14に係る可視光領域の拡散反射率が高いフィルムを形成した。この膜の光学特性を、実施例1と同様に評価した。尚、複合タングステン酸化物微粒子試料には、六方晶の結晶構造が確認された。
評価結果を表2に記載する。
【0112】
[実施例15~19]
水6.70kgへ、炭酸ルビジウム(RbCO)5.56kgを溶解して溶液を得た。当該溶液を、タングステン酸(HWO)36.44kgに添加して十分撹拌混合した後、撹拌しながら乾燥して、実施例15に係る乾燥物を得た(WとRbとのモル比が1:0.33相当である。)。
【0113】
水6.70kgへ、炭酸セシウム(CsCO)0.709kgと炭酸ルビジウム(RbCO)5.03kgを溶解して溶液を得た。当該溶液を、タングステン酸(HWO)36.26kgに添加して十分撹拌混合した後、撹拌しながら乾燥して、実施例16に係る乾燥物を得た(WとCsとのモル比が1:0.03相当、WとRbとのモル比が1:0.30相当である。)。
【0114】
水6.70kgへ、炭酸セシウム(CsCO)4.60kgと炭酸ルビジウム(RbCO)2.12kgとを溶解して溶液を得た。当該溶液を、タングステン酸(HWO)35.28kgに添加して十分撹拌混合した後、撹拌しながら乾燥して、実施例17に係る乾燥物を得た(WとCsとのモル比が1:0.20相当、WとRbとのモル比が1:0.13相当である。)。
【0115】
水6.70kgへ、炭酸セシウム(CsCO)5.71kgと炭酸ルビジウム(RbCO)1.29kgとを溶解して溶液を得た。当該溶液を、タングステン酸(HWO)35.00kgに添加して十分撹拌混合した後、撹拌しながら乾燥して、実施例18に係る乾燥物を得た(WとCsとのモル比が1:0.25相当、WとRbとのモル比が1:0.08相当である。)。
【0116】
水6.70kgに、炭酸セシウム(CsCO)6.79kgと炭酸ルビジウム(RbCO)0.481kgを溶解して、溶液を得た。当該溶液を、タングステン酸(HWO)34.73kgに添加して十分撹拌混合した後、撹拌しながら乾燥して、実施例19に係る乾燥物を得た(WとCsとのモル比が1:0.30相当、WとRbとのモル比が1:0.03相当である。)。
【0117】
得られた実施例15~19に係る乾燥物を、Nガスをキャリアーとした5%Hガスを供給しながら加熱し、800℃の温度で5.5時間焼成した後、当該供給ガスをNガスのみに切り替え、室温まで降温して実施例15~19に係る複合タングステン酸化物粒子を得た。
【0118】
実施例1に係る複合タングステン酸化物粒子の代わりに、実施例15~19に係る複合タングステン酸化物粒子を用いた以外は、実施例1と同様に操作して、実施例15~19に係る赤外線吸収膜を得た。
当該実施例15~19に係る赤外線吸収膜の光学特性を、実施例1と同様に評価した。尚、いずれの複合タングステン酸化物微粒子試料も、六方晶の結晶構造が確認された。
当該製造条件と評価結果とを表1および2に示す。
【0119】
[比較例1~3]
タングステン酸と炭酸セシウムとを、
WとCsのモル比が1:0.11となる(比較例1)ように所定量秤量、
WとCsのモル比が1:0.15となる(比較例2)ように所定量秤量、
WとCsのモル比が1:0.39となる(比較例3)ように所定量秤量、
した以外は実施例1と同様に操作して、比較例1~3に係る赤外線吸収膜を得た。
当該比較例1~3に係る赤外線吸収膜の光学特性を、実施例1と同様に評価した。
当該製造条件と評価結果とを表3および4に示す。
【0120】
[比較例4、5]
タングステン酸と炭酸セシウムとを、
WとCsのモル比が1:0.21となる(比較例4)ように所定量秤量、
WとCsのモル比が1:0.23となる(比較例5)ように所定量秤量し、
400℃の温度で5.5時間焼成した以外は、実施例1と同様に操作して、比較例4および5に係る赤外線吸収膜を得た。
当該比較例4および5に係る赤外線吸収膜の光学特性を、実施例1と同様に評価した。
当該製造条件と評価結果とを表3および4に示す。
【0121】
[比較例6]
実施例1に係る複合タングステン酸化物粒子分散液の製造において、ペイントシェーカーの回転速度を実施例1の0.8倍にしたことと、100時間粉砕・分散処理とした以外は、実施例1と同様に操作して、比較例6に係る赤外線吸収膜を得た。
当該比較例6に係る赤外線吸収膜の光学特性を、実施例1と同様に評価した。
当該製造条件と評価結果とを表3および4に示す。
【0122】
[比較例7]
実施例1に係る複合タングステン酸化物粒子の製造において、Nガスをキャリアーとした3容量%Hガスを供給しながら440℃の温度で5.5時間焼成した以外は、実施例1と同様に操作して、比較例7に係る赤外線吸収膜を得た。
当該比較例7に係る赤外線吸収膜の光学特性を、実施例1と同様に評価した。
当該製造条件と評価結果とを表3および4に示す。
【0123】
[比較例8]
実施例1に係る複合タングステン酸化物粒子10質量%と、分散剤a10質量%と、トルエン80質量%とを秤量し、10分間の超音波の振動で混合し以外は実施例1と同様に操作して、比較例8に係る複合タングステン酸化物微粒子分散液と赤外線吸収膜とを得た。即ち、比較例8に係る複合タングステン酸化物微粒子分散液に含まれる複合タングステン酸化物粒子は粉砕されていない。
当該比較例8に係る赤外線吸収膜の光学特性を、実施例1と同様に評価した。
当該製造条件と評価結果とを表3および4に示す。
【0124】
[比較例9]
実施例1に係る複合タングステン酸化物粒子においてペイントシェーカーの回転速度を実施例1の1.15倍にしたことと、25時間粉砕・分散処理した以外は実施例1と同様に操作して、比較例9に係る複合タングステン酸化物微粒子分散液と赤外線吸収膜とを得た。
当該比較例9に係る赤外線吸収膜の光学特性を、実施例1と同様に評価した。
当該製造条件と評価結果とを表3および4に示す。
【0125】
[まとめ]
表1、2および表3、4の結果から明らかなように、実施例1~19に係る赤外線吸収膜は比較例1~9に係る赤外線吸収膜と比較して、太陽光線、特に近赤外線領域の光をより効率良く遮蔽し、同時に可視光領域の高透過率を保持していることが判明した。
表2および4から明らかなように、実施例1~19と比較例1~5とを比較すると、複合タングステン酸化物微粒子をコーティングして形成される赤外光吸収層を、フィルム中に白色光反射材料が分散されているフィルムに形成することで、フィルムの赤外光吸収率が大幅に増加し、可視光線を反射し、蓄熱性に優れることが判明した。つまり、実施例1~19では、可視光線の反射率を6~7割近くに保持でき、且つ日射吸収率を4~6割程度まで向上させることができることが判明した。
【0126】
実施例1~19に係る農園芸用覆土フィルムは、白色光反射材料を含有している白色光反射層と、赤外線吸収材料微粒子を含有している赤外光吸収層を有するフィルムである。
具体的には、白色光反射層が、白色光反射材料が内部に分散されたフィルムであって、該フィルムの片面に、赤外線吸収材料微粒子がコーティングされて形成される赤外光吸収層を有する構成のフィルムや、白色光反射材料と赤外線吸収材料微粒子とがフィルムの内部に分散されて、白色光反射層と赤外光吸収層となっている構成のフィルムや、フィルムの片面に、白色光反射材料がコーティングされて形成される白色光反射層と、さらに該白色光反射層の上に赤外線吸収材料微粒子がコーティングされて形成される赤外光吸収層とを有する構成のフィルムや、または、フィルムの片面に、白色光反射材料がコーティングされて形成される白色光反射層と、フィルムのもう一方の面に、赤外線吸収材料微粒子がコーティングされて形成される赤外光吸収層とを有する構成のフィルムである。
【0127】
上述の簡便な構成により、赤外線吸収材料微粒子として、好ましくは複合タングステン酸化物微粒子を含有する赤外光吸収層を形成させることにより、耐候性が良く、低コストであり、しかも、少ない微粒子量で太陽光からの近赤外線を効率良く吸収し、可視光線を反射する農園芸用覆土フィルムを提供することが出来た。
【0128】
【表1】

【表2】

【表3】

【表4】
【符号の説明】
【0129】
1 熱プラズマ
2 高周波コイル
3 シースガス供給ノズル
4 プラズマガス供給ノズル
5 原料粉末供給ノズル
6 反応容器
7 吸引管
8 フィルター
図1