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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-03
(45)【発行日】2022-10-12
(54)【発明の名称】車両用システム及び進路推定方法
(51)【国際特許分類】
   G08G 1/16 20060101AFI20221004BHJP
   G01B 7/00 20060101ALI20221004BHJP
   B60W 30/12 20200101ALI20221004BHJP
   B60W 40/06 20120101ALI20221004BHJP
   B60W 50/14 20200101ALI20221004BHJP
   B60W 40/10 20120101ALI20221004BHJP
【FI】
G08G1/16 C
G01B7/00 101H
B60W30/12
B60W40/06
B60W50/14
B60W40/10
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2020150929
(22)【出願日】2020-09-09
(62)【分割の表示】P 2016168475の分割
【原出願日】2016-08-30
(65)【公開番号】P2021012702
(43)【公開日】2021-02-04
【審査請求日】2020-09-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000116655
【氏名又は名称】愛知製鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129654
【弁理士】
【氏名又は名称】大池 達也
(72)【発明者】
【氏名】山本 道治
(72)【発明者】
【氏名】長尾 知彦
(72)【発明者】
【氏名】青山 均
【審査官】白石 剛史
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-105232(JP,A)
【文献】特開2000-306195(JP,A)
【文献】特開平09-128039(JP,A)
【文献】特開平11-147481(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G08G 1/16
G01B 7/00
B60W 30/12
B60W 40/06
B60W 50/14
B60W 40/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気マーカに対する車両の車幅方向の位置的な偏差である横ずれ量を計測する横ずれ量計測手段と、
車両が走行する路面に間隔を設けて配設された2つの磁気マーカに対する横ずれ量の差分を利用し、当該2つの磁気マーカの位置を結ぶ線分方向に対する車両の進行方向の偏差を推定する進路推定手段と、を備え、
前記進路推定手段は、車両の移動に応じて一の横ずれ量計測手段によって前記2つの磁気マーカに対する横ずれ量が時間的に前後して計測された場合に、当該2つの磁気マーカのうちの一方について計測した横ずれ量と、当該2つの磁気マーカのうちの他方について計測した横ずれ量と、の差分を利用して前記進行方向の偏差を推定するように構成されていると共に、
当該進路推定手段は、前記2つの磁気マーカを通過する間、前記車両の進行方向が一定であるとみなした場合について、前記線分方向に対する車両の進行方向の偏差を推定するため、前記車両の進行方向が一定であるとみなすことが出来るように車速に応じて前記2つの磁気マーカの組み合わせを変更し、車速が高いほど前記2つの磁気マーカの間隔が広い組み合わせを利用して前記進行方向の偏差を推定し、車速が低いほど前記2つの磁気マーカの間隔が狭い組み合わせを利用して前記進行方向の偏差を推定する車両用システム。
【請求項2】
請求項において、前記進路推定手段は、前記車両の進行方向が一定であるとみなすことが出来るように道路の種別に応じて前記2つの磁気マーカの組み合わせを変更し、前記路面が高速道路の路面である場合には、前記路面が一般道の路面である場合よりも、前記2つの磁気マーカの間隔が広くなる組み合わせを利用して前記進行方向の偏差を推定する車両用システム。
【請求項3】
磁気マーカに対する車両の車幅方向の位置的な偏差である横ずれ量を計測する横ずれ量計測手段と、
車両が走行する路面に間隔を設けて配設された2つの磁気マーカに対する横ずれ量の差分を利用し、当該2つの磁気マーカの位置を結ぶ線分方向に対する車両の進行方向の偏差を推定する進路推定手段と、を備え、
前記進路推定手段は、車両の移動に応じて一の横ずれ量計測手段によって前記2つの磁気マーカに対する横ずれ量が時間的に前後して計測された場合に、当該2つの磁気マーカのうちの一方について計測した横ずれ量と、当該2つの磁気マーカのうちの他方について計測した横ずれ量と、の差分を利用して前記進行方向の偏差を推定するように構成されていると共に、
当該進路推定手段は、前記2つの磁気マーカを通過する間、前記車両の進行方向が一定であるとみなした場合について、前記線分方向に対する車両の進行方向の偏差を推定するため、前記車両の進行方向が一定であるとみなすことが出来るように道路の種別に応じて前記2つの磁気マーカの組み合わせを変更し、前記路面が高速道路の路面である場合には、前記路面が一般道の路面である場合よりも、前記2つの磁気マーカの間隔が広くなる組み合わせを利用して前記進行方向の偏差を推定する車両用システム。
【請求項4】
磁気マーカに対する車両の車幅方向の位置的な偏差である横ずれ量を計測する横ずれ量計測手段と、
車両が走行する路面に間隔を設けて配設された2つの磁気マーカに対する横ずれ量の差分を利用し、当該2つの磁気マーカの位置を結ぶ線分方向に対する車両の進行方向の偏差を推定する進路推定手段と、を備え、
車両が走行する走行路の経路方向に対する前記線分方向の偏差を特定可能な情報を取得し、この情報を利用して特定した前記経路方向に対する線分方向の偏差と、前記線分方向に対する車両の進行方向の偏差と、に基づいて前記走行路の経路方向に対する車両の進行方向の偏差を推定する車両用システム。
【請求項5】
請求項4において、前記進路推定手段は、車両の移動に応じて一の横ずれ量計測手段によって前記2つの磁気マーカに対する横ずれ量が時間的に前後して計測された場合に、当該2つの磁気マーカのうちの一方について計測した横ずれ量と、当該2つの磁気マーカのうちの他方について計測した横ずれ量と、の差分を利用して前記線分方向に対する車両の進行方向の偏差を推定する車両用システム。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項において、前記2つの磁気マーカは、車両が走行する走行路の経路方向に沿って配設されている車両用システム。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項において、前記磁気マーカは、車両が走行する区分である車線に沿って配設され、
前記横ずれ量、前記偏差及び車速を利用して前記車線から車両が逸脱するまでの時間及び距離のうちの少なくともいずれか一方を予測する予測手段と、当該予測手段が予測する時間あるいは距離に応じて警報を発する警報手段と、を備える車両用システム。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項において、前記磁気マーカは、車両が走行する区分である車線に沿って配設され、
前記横ずれ量及び前記偏差を利用して自車を基準とした3次元的な道路構造を推定する手段を備える車両用システム。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項において、前記磁気マーカの絶対位置を取得することにより、前記車両の進行方向の偏差を推定した時点の車両の絶対位置を特定する車両用システム。
【請求項10】
車両が走行する路面に間隔を設けて配設された磁気マーカに対する車両の車幅方向の位置的な偏差である横ずれ量を計測する横ずれ量計測手段を備える車両の進路推定方法であって、
車両が走行する路面に間隔を設けて配設された2つの磁気マーカに対する横ずれ量をそれぞれ計測する処理と、
当該2つの磁気マーカに対する横ずれ量の差分を利用して当該2つの磁気マーカの位置を結ぶ線分方向に対する車両の進行方向の偏差を推定する処理と、を含み、
車両の移動に応じて一の横ずれ量計測手段によって前記2つの磁気マーカに対する横ずれ量が時間的に前後して計測された場合に、当該2つの磁気マーカのうちの一方について計測した横ずれ量と、当該2つの磁気マーカのうちの他方について計測した横ずれ量と、の差分を利用して前記進行方向の偏差を推定し、
当該進行方向の偏差の推定に当たっては、前記2つの磁気マーカを通過する間、車両の進行方向が一定であるとみなした場合について、前記線分方向に対する車両の進行方向の偏差を推定するため、前記車両の進行方向が一定であるとみなすことが出来るように車速に応じて前記2つの磁気マーカの組み合わせを変更し、車速が高いほど前記2つの磁気マーカの間隔が広い組み合わせを利用して前記進行方向の偏差を推定し、車速が低いほど前記2つの磁気マーカの間隔が狭い組み合わせを利用して前記進行方向の偏差を推定する進路推定方法。
【請求項11】
請求項10において、前記車両の進行方向が一定であるとみなすことが出来るように道路の種別に応じて前記2つの磁気マーカの組み合わせを変更し、前記路面が高速道路の路面である場合には、前記路面が一般道の路面である場合よりも、前記2つの磁気マーカの間隔が広くなる組み合わせを利用して前記進行方向の偏差を推定する進路推定方法。
【請求項12】
車両が走行する路面に間隔を設けて配設された磁気マーカに対する車両の車幅方向の位置的な偏差である横ずれ量を計測する横ずれ量計測手段を備える車両の進路推定方法であって、
車両が走行する路面に間隔を設けて配設された2つの磁気マーカに対する横ずれ量をそれぞれ計測する処理と、
当該2つの磁気マーカに対する横ずれ量の差分を利用して当該2つの磁気マーカの位置を結ぶ線分方向に対する車両の進行方向の偏差を推定する処理と、を含み、
車両の移動に応じて一の横ずれ量計測手段によって前記2つの磁気マーカに対する横ずれ量が時間的に前後して計測された場合に、当該2つの磁気マーカのうちの一方について計測した横ずれ量と、当該2つの磁気マーカのうちの他方について計測した横ずれ量と、の差分を利用して前記進行方向の偏差を推定し、
当該進行方向の偏差の推定に当たっては、前記2つの磁気マーカを通過する間、車両の進行方向が一定であるとみなした場合について、前記線分方向に対する車両の進行方向の偏差を推定するため、前記車両の進行方向が一定であるとみなすことが出来るように道路の種別に応じて前記2つの磁気マーカの組み合わせを変更し、前記路面が高速道路の路面である場合には、前記路面が一般道の路面である場合よりも、前記2つの磁気マーカの間隔が広くなる組み合わせを利用して前記進行方向の偏差を推定する進路推定方法。
【請求項13】
車両が走行する路面に間隔を設けて配設された磁気マーカに対する車両の車幅方向の位置的な偏差である横ずれ量を計測する横ずれ量計測手段を備える車両の進路推定方法であって、
車両が走行する路面に間隔を設けて配設された2つの磁気マーカに対する横ずれ量をそれぞれ計測する処理と、
当該2つの磁気マーカに対する横ずれ量の差分を利用して当該2つの磁気マーカの位置を結ぶ線分方向に対する車両の進行方向の偏差を推定する処理と、を含み、
車両が走行する走行路の経路方向に対する前記線分方向の偏差を特定可能な情報を取得し、この情報を利用して特定した前記経路方向に対する線分方向の偏差と、前記線分方向に対する車両の進行方向の偏差と、に基づいて前記走行路の経路方向に対する前記車両の進行方向の偏差を推定する進路推定方法。
【請求項14】
請求項13において、車両の移動に応じて一の横ずれ量計測手段によって前記2つの磁気マーカに対する横ずれ量が時間的に前後して計測された場合に、当該2つの磁気マーカのうちの一方について計測した横ずれ量と、当該2つの磁気マーカのうちの他方について計測した横ずれ量と、の差分を利用して前記進行方向の偏差を推定する進路推定方法。
【請求項15】
請求項10~14のいずれか1項において、前記2つの磁気マーカは、車両が走行する走行路の経路方向に沿って配設されている進路推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の進行方向を推定する車両用システム及び進路推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動運転の研究が盛んになっており、その実用化が望まれている(例えば特許文献1参照。)。自動運転を実現するためには、道路構造などの車両の周囲環境を精度高く把握することが不可欠である。道路構造などは、道路の形状や、車線幅や、路肩の形状等を詳細にデータ化したマップデータから取得可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-91412号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、道路構造などの自車の周囲環境を把握できても、車両の進行方向を正確に把握できなければ、例えば進むべき進路の方向を精度高く判断できないという問題がある。
【0005】
本発明は、前記従来の問題点に鑑みてなされたものであり、例えば走行路に沿って車両が走行しているのか横切るように走行しているのか等、車両の進行方向を推定するための車両用システム及び進路推定方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る車両用システムは、磁気マーカに対する車両の車幅方向の位置的な偏差である横ずれ量を計測する横ずれ量計測手段と、
車両が走行する路面に間隔を設けて配設された2つの磁気マーカに対する横ずれ量の差分を利用し、当該2つの磁気マーカの位置を結ぶ線分方向に対する車両の進行方向の偏差を推定する進路推定手段と、を備える。
【0007】
本発明に係る進路推定方法では、車両が走行する路面に間隔を設けて配設された2つの磁気マーカに対する車両の車幅方向の位置的な偏差である横ずれ量をそれぞれ計測する処理と、該2つの磁気マーカに対する横ずれ量の差分を算出することにより当該2つの磁気マーカの位置を結ぶ線分方向に対する車両の進行方向の偏差を推定する。
【0008】
本発明に係る車両用システムは、前記2つの磁気マーカに対する前記横ずれ量をそれぞれ計測し、その差分を利用して前記2つの磁気マーカの位置を結ぶ線分方向に対する車両の進行方向の偏差を推定する。前記線分方向は、前記2つの磁気マーカにより規定される基準となり得る方向である。この線分方向に対する前記偏差を特定すれば、車両の進行方向を精度高く推定できる。
また、本発明に係る進路推定方法によれば、前記走行路の経路方向に沿って配設された2つの磁気マーカを利用することで、該経路方向に対する車両の進行方向の偏差を推定できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施例1における、車両用システムの構成を示す説明図。
図2】実施例1における、センサユニットを取り付けた車両を見込む正面図。
図3】実施例1における、車両用システムの電気的な構成を示すブロック図。
図4】実施例1における、磁気センサの構成を示すブロック図。
図5】実施例1における、磁気マーカを通過する際の車幅方向の磁気分布の時間的な変化を例示する説明図。
図6】実施例1における、磁気マーカを通過する際の磁気計測値のピーク値の時間的な変化を例示する説明図。
図7】実施例1における、横ずれ量の計測方法の説明図。
図8】実施例1における、車両用システムによる処理の流れを示すフロー図。
図9】実施例1における、2つ目の磁気マーカの検出期間の説明図。
図10】実施例1における、進路推定処理の流れを示すフロー図。
図11】実施例1における、2つの磁気マーカを通過したときの横ずれ量の差分Ofdと、進路ズレ角Rfと、の関係を示す説明図。
図12】実施例1における、直線路に沿って車両が走行する状況を例示する説明図。
図13】実施例1における、直線路を車両が斜行する状況を例示する説明図。
図14】実施例1における、曲線路に沿って車両が走行する状況を例示する説明図。
図15】実施例1における、曲線路を車両が斜行する状況を例示する説明図。
図16】実施例2における、2つの磁気マーカに対する横ずれ量の差分Ofdと、進路ズレ角Rfと、の関係を示す説明図。
図17】実施例3における、直線路に沿って走行する車両の車載カメラによる撮像画像を例示する図。
図18】実施例3における、直線路を斜行する車両の車載カメラによる撮像画像を例示する図。
図19】実施例3における、道路構造の3次元的な推定を例示する説明図。
図20】実施例4における、逸脱警報の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の車両用システムでは、前記横ずれ量計測手段は、前記2つの磁気マーカと同じ間隔を空けて車両の前後方向に離隔する少なくとも2箇所に配置されており、
前記進路推定手段は、前記2つの磁気マーカと同じ間隔を空けて離隔する2つの横ずれ量計測手段のうちの前側の横ずれ量計測手段が当該2つの磁気マーカのうち車両の進行側に位置する一方の磁気マーカについて計測した横ずれ量と、後ろ側の横ずれ量計測手段が他方の磁気マーカについて計測した横ずれ量と、の差分を利用して前記進行方向の偏差を推定すると良い。
【0011】
前記2つの横ずれ量計測手段が同じ間隔の2つの磁気マーカについてそれぞれ計測した横ずれ量の差分を利用すれば、前記2つの磁気マーカの位置を結ぶ線分方向に対する車両の進行方向の偏差を精度高く推定できる。
【0012】
本発明の車両用システムでは、前記2つの磁気マーカは、車両が走行する走行路の経路方向に沿って配設されていると良い。
この場合には、前記2つの磁気マーカの位置を結ぶ線分方向が前記走行路の経路方向に一致するため、前記走行路の経路方向に対する車両の進行方向の偏差を推定できるようになる。
【0013】
前記進路推定手段は、前記偏差の推定に利用する前記2つの磁気マーカの間隔を車速に応じて変更すると良い。
低い車速域では、車両の操舵輪の操舵角が大きくなり、比較的短い距離で車両の進行方向が変化する一方、高い車速域では、操舵角が小さくなり、車両の進行方向が変化するのに比較的長い距離を要する傾向にある。したがって、車両の進行方向が一定とみなすことが出来る距離は、車速が低いほど短く、車速が高いほど長くなる傾向にある。
【0014】
したがって、前記偏差を推定するために利用する前記2つの磁気マーカの間隔は、車両の速度が高いほど長く、車両の速度が低いほど短くすると良い。例えば、車速域が高い高速道路と、車速域が低い市街地の道路とで、磁気マーカを配置する間隔を異ならせておくことも良い。あるいは、低い車速まで対応できる比較的短い間隔で磁気マーカを配置しておき、車速に応じて前記2つの磁気マーカの組み合わせ(間隔)を変更することも良い。
【0015】
前記磁気マーカは、車両が走行する区分である車線に沿って配設され、
前記横ずれ量、前記偏差及び車速を利用して前記車線から車両が逸脱するまでの時間及び距離のうちの少なくともいずれか一方を予測する予測手段と、当該予測手段が予測する時間あるいは距離に応じて警報を発する警報手段と、を備える車両用システムであっても良い。
【0016】
前記偏差を利用すれば、車両が前記車線から逸脱するまでの時間や距離を精度高く予測できる。この時間あるいは距離を利用すれば、精度の高い逸脱警報が可能である。さらに、前記横ずれ量と前記偏差とを組み合わせれば、一層高精度の逸脱警報が可能になる。
【0017】
前記磁気マーカは、車両が走行する区分である車線に沿って配設され、
前記横ずれ量及び前記偏差を利用して自車を基準とした3次元的な道路構造を推定する手段を備える車両用システムであっても良い。
例えば車線の方向に対して車両の進行方向が一致しており前記偏差がゼロ近くである場合には、車線に沿って走行している可能性が高くなる。この場合には、例えば車両の操舵角から予測される車両の進路が車線と一致するものと推測でき、この車線を基準として、ガードレールや標識等が存在する路側や、対向車線等の道路構造の推定が可能になる。
【0018】
車両が走行する走行路の経路方向に対する前記線分方向の偏差を特定可能な情報を取得し、この情報を利用して特定した前記経路方向に対する線分方向の偏差と、前記線分方向に対する車両の進行方向の偏差と、に基づいて前記走行路の経路方向に対する前記車両の進行方向の偏差を推定することも良い。
磁気マーカの位置に誤差があると前記走行路の経路方向に対する前記線分方向の偏差が大きくなる可能性があり、前記線分方向に対する車両の進行方向の偏差に基づいて、車両が走行路に沿って走行しているか否か判断し難くなる。車両側で、前記経路方向に対する線分方向の偏差を特定できれば、磁気マーカの位置的な誤差に関わらず、前記走行路の経路方向に対する前記車両の進行方向の偏差を精度高く推定できる。
前記磁気マーカの絶対位置を取得することにより、前記車両の進行方向の偏差を推定した時点の車両の絶対位置を特定することも良い。
【実施例
【0019】
本発明の実施の形態につき、以下の実施例を用いて具体的に説明する。
(実施例1)
本例は、道路に敷設された磁気マーカ10を利用して車両5の進行方向を推定するための車両用システム1に関する例である。この内容について、図1図15を用いて説明する。
【0020】
車両用システム1は、図1のごとく、磁気センサCn(nは1~15の整数)を含むセンサユニット11と、制御ユニット12と、の組み合わせを含めて構成されている。以下、磁気マーカ10を概説した後、車両用システム1を構成するセンサユニット11、制御ユニット12等を説明する。
【0021】
磁気マーカ10は、図1及び図2のごとく、車両5の走行路である車線100の路面100Sに敷設される道路マーカである。磁気マーカ10は、車線100の車幅方向の中央に沿って2m(マーカスパンS=2m)毎に配置されている。なお、本例では、高速道路などの比較的速度域の高い道路の車線100を想定している。
【0022】
磁気マーカ10は、直径20mm、高さ28mmの柱状をなし、孔への収容が可能である。磁気マーカ10をなす磁石は、磁性材料である酸化鉄の磁粉を基材である高分子材料中に分散させた等方性フェライトプラスチックマグネットであり、最大エネルギー積(BHmax)=6.4kJ/mという特性を備えている。この磁気マーカ10は、路面100Sに穿設された孔に収容された状態で敷設される。
【0023】
本例の磁気マーカ10の仕様の一部を表1に示す。
【表1】
この磁気マーカ10は、磁気センサCnの取付け高さとして想定する範囲100~250mmの上限の250mm高さにおいて、8μT(8×10-6T)の磁束密度の磁気を作用できる。
【0024】
次に、車両用システム1を構成するセンサユニット11、制御ユニット12について説明する。
センサユニット11は、図1図3のごとく、車両5の底面に当たる車体フロア50に取り付けられるユニットである。センサユニット11は、例えば、フロントバンパーの内側付近に取り付けられる。例えばセダンタイプの車両5の場合、路面100Sを基準とした取付け高さが約200mmとなっている。
【0025】
センサユニット11は、図3のごとく、車幅方向に沿って一直線上に配列された15個の磁気センサCnと、図示しないCPU等を内蔵した検出処理回路110と、を備えている。
検出処理回路110は、磁気マーカ10を検出するためのマーカ検出処理などの各種の演算処理を実行する演算回路である。この検出処理回路110は、各種の演算を実行するCPU(central processing unit)のほか、ROM(read only memory)やRAM(random access memory)などのメモリ素子等を含む電子回路である。
【0026】
検出処理回路110は、各磁気センサCnが出力するセンサ信号を取得してマーカ検出処理等を実行する。検出処理回路110が演算した磁気マーカ10の検出結果は、計測された横ずれ量を含めて全て制御ユニット12に入力される。なお、センサユニット11は3kHz周期でマーカ検出処理を実行可能である。
【0027】
ここで、磁気センサCnの構成を説明する。本例では、図4のごとく、磁気センサCnとして、MI素子21と駆動回路とが一体化された1チップのMIセンサを採用している。MI素子21は、CoFeSiB系合金製のほぼ零磁歪であるアモルファスワイヤ211と、このアモルファスワイヤ211の周囲に巻回されたピックアップコイル213と、を含む素子である。磁気センサCnは、アモルファスワイヤ211にパルス電流を印加したときにピックアップコイル213に発生する電圧を計測することで、アモルファスワイヤ211に作用する磁気を検出する。MI素子21は、感磁体であるアモルファスワイヤ211の軸方向に検出感度を有している。本例のセンサユニット11の各磁気センサCnでは、鉛直方向にアモルファスワイヤ211が配設されている。
【0028】
駆動回路は、アモルファスワイヤ211にパルス電流を供給するパルス回路23と、ピックアップコイル213で生じた電圧を所定タイミングでサンプリングして出力する信号処理回路25と、を含む電子回路である。パルス回路23は、パルス電流の元となるパルス信号を生成するパルス発生器231を含む回路である。信号処理回路25は、パルス信号に連動して開閉される同期検波251を介してピックアップコイル213の誘起電圧を取り出し、増幅器253により所定の増幅率で増幅する回路である。この信号処理回路25で増幅された信号がセンサ信号として外部に出力される。
【0029】
磁気センサCnは、磁束密度の測定レンジが±0.6ミリテスラであって、測定レンジ内の磁束分解能が0.02マイクロテスラという高感度のセンサである。このような高感度は、アモルファスワイヤ211のインピーダンスが外部磁界に応じて敏感に変化するというMI効果を利用するMI素子21により実現されている。さらに、この磁気センサCnは、3kHz周期での高速サンプリングが可能で、車両の高速走行にも対応している。本例では、センサユニット11による磁気計測の周期が3kHzに設定され、センサユニット11は、磁気計測を実施する毎にセンサ信号を制御ユニット12に入力する。
【0030】
磁気センサCnの仕様の一部を表2に示す。
【表2】
【0031】
上記のように磁気マーカ10は、磁気センサCnの取付け高さとして想定する範囲100~250mmにおいて8μT(8×10-6T)以上の磁束密度の磁気を作用する。磁束密度8μT以上の磁気を作用する磁気マーカ10であれば、磁束分解能が0.02μTの磁気センサCnを用いて確実性高く検出可能である。
【0032】
次に、制御ユニット12(図1図3)は、センサユニット11を制御すると共に、センサユニット11の検出結果を利用して車両5の進行方向を推定するユニットである。制御ユニット12による車両5の進行方向の推定結果は、図示しない車両ECUに入力され、スロットル制御やブレーキ制御や各輪のトルク制御など走行安全性を高めるための各種の車両制御に利用される。
【0033】
制御ユニット12は、各種の演算を実行するCPUのほか、ROMやRAMなどのメモリ素子等が実装された電子基板(図示略)を備えるユニットである。制御ユニット12は、センサユニット11の動作を制御すると共に、車線100に沿って敷設され磁気マーカ10に対する車両5の横ずれ量の変化を利用して車両5の進行方向を推定する。
【0034】
制御ユニット12は、以下の各手段としての機能を備えている。
(a)期間設定手段:センサユニット11が1つ目の磁気マーカ10を検出したとき、2つ目の磁気マーカ10を検出できる時点を予測し、その検出できる時点を含む時間的な期間を検出期間として設定する手段。
(b)横ずれ量差分手段:車線100に沿って敷設された2つの磁気マーカ10に対する横ずれ量の差分を演算する手段。
(c)進路推定手段:2つの磁気マーカ10に対する横ずれ量の差分から車線方向に対する車両5の進行方向の偏差である進路ずれ角を特定し、これにより車両5の進行方向を推定する。
【0035】
次に、各センサユニット11が磁気マーカ10を検出するための(1)マーカ検出処理、(2)車両用システム1の全体動作の流れ、(3)進路推定処理、についてそれぞれ説明する。
(1)マーカ検出処理
センサユニット11は、制御ユニット12による制御により3kHzの周期でマーカ検出処理を実行する。センサユニット11は、マーカ検出処理の実行周期(p1~p7)毎に、15個の磁気センサCnのセンサ信号が表す磁気計測値をサンプリングして車幅方向の磁気分布を得る(図5参照。)。この車幅方向の磁気分布のうちのピーク値は、同図のごとく、磁気マーカ10を通過するときに最大となる(図5中のp4の周期)。
【0036】
磁気マーカ10が敷設された車線100(図1)に沿って車両5が走行する際には、上記の車幅方向の磁気分布のピーク値が、図6のように磁気マーカ10を通過する毎に大きくなる。マーカ検出処理では、このピーク値に関する閾値判断が実行され、所定の閾値以上であったときに磁気マーカ10を検出したと判断される。
【0037】
横ずれ量計測手段としての機能を備えるセンサユニット11は、磁気マーカ10を検出したとき、磁気センサCnの磁気計測値の分布である車幅方向の磁気分布のうちのピーク値の車幅方向の位置を特定する。このピーク値の車幅方向の位置を利用すれば、磁気マーカ10に対する車両5の横ずれ量を演算できる。車両5では中央の磁気センサC8が車両5の中心線上に位置するようにセンサユニット11が取り付けられているため、磁気センサC8に対する上記のピーク値の車幅方向の位置の偏差が、磁気マーカ10に対する車両5の横ずれ量となる。なお、磁気センサC8の位置を基準として左右のいずれにピーク値が位置するかに応じて、横ずれ量の正負を異ならせると良い。
【0038】
特に、本例のセンサユニット11は、図7のごとく、磁気センサCnの磁気計測値の分布である車幅方向の磁気分布について曲線近似(2次近似)を実行し、近似曲線のピーク値の車幅方向の位置を特定している。近似曲線を利用すれば、15個の磁気センサの間隔よりも細かい精度でピーク値の位置を特定でき、磁気マーカ10に対する車両5の横ずれ量を精度高く計測できる。
【0039】
(2)車両用システム1の全体動作
車両用システム1の全体動作について、主に制御ユニット12を主体として、図8のフロー図を用いて説明する。
制御ユニット12は、磁気マーカ10を検出するまで、センサユニット11に上記のマーカ検出処理を繰り返し実行させる(S101、第1の検出ステップ→S102:NO)。制御ユニット12は、センサユニット11から磁気マーカ10を検出した旨の入力を受けたとき(S102:YES)、センサユニット11に新たなマーカ検出処理を実行させる時間的な期間である検出期間を設定する(S103、期間設定ステップ)。
【0040】
具体的には、制御ユニット12は、図9のごとく、まず、車速センサで計測した車速(車両の速度)V(m/秒)によりマーカスパンS(図1参照。磁気マーカ10の敷設間隔。本例では2m)を除算した所要時間δtaを、センサユニット11が1つ目の磁気マーカ10を検出した時点である時刻t1に加算する。このように時刻t1に所要時間δtaを加算すれば、センサユニット11が新たな磁気マーカ10を検出できる時点の時刻t2を予測できる。そして、制御ユニット12は、基準距離(例えば0.2(m))を車速V(m/秒)で除算した区間時間δtbを時刻t2から差し引いた時刻(t2-δtb)を始期とし、区間時間δtbを時刻t2に加算した時刻(t2+δtb)を終期とした時間的な区間を検出期間として設定する。なお、基準距離については、センサユニット11の検出範囲等を考慮して適宜変更すると良い。
【0041】
制御ユニット12は、上記のステップS103で設定した検出期間(図9)内において、センサユニット11にマーカ検出処理を繰り返し実行させる(S104:NO→S114、第2の検出ステップ)。このマーカ検出処理の内容については、ステップS101の1つ目の磁気マーカ10のマーカ検出処理と同様である。
【0042】
制御ユニット12は、検出期間(図9)においてセンサユニット11が2つ目の磁気マーカ10を検出できれば(S104:YES→S105:YES)、車両5の進行方向を推定するための次に説明する進路推定処理を実行する(S106)。一方、センサユニット11が1つ目の磁気マーカ10を検出できたが(S102:YES)、上記の検出期間(図9)において、2つ目の磁気マーカ10を検出できなかった場合には(S104:YES→S105:NO)、制御ユニット12は、1つ目の磁気マーカ10を検出するためのマーカ検出処理(S101)に戻って上記の一連の処理を繰り返し実行する。
【0043】
(3)進路推定処理
制御ユニット12が実行する進路推定処理(図8中のステップS106)は、図10のごとく、センサユニット11が2つの磁気マーカ10を通過したときに計測された横ずれ量の差分を演算するステップ(S201)と、2つの磁気マーカ10の位置を結ぶ線分方向に対する進行方向の偏差である進路ずれ角Rfを演算するステップ(S202)と、を含む処理である。2つの磁気マーカ10は、車線100の経路方向である車線方向に沿うように車線100の中央に敷設されているため、上記の線分方向は車線方向を表すことになる。
【0044】
ステップS201では、図11のごとく、車両5が磁気マーカ10を2回通過したとき、1つ目の磁気マーカ10について計測された横ずれ量Of1と、2つ目の磁気マーカ10について計測された横ずれ量Of2と、の差分Ofdを次式により演算する。なお、同図の場合、Of1とOf2とで正負が異なることから、差分に応じてOfdの絶対値は、Of1及びOf2の絶対値を超える値となる。
【数1】
【0045】
ステップS202では、図12のごとく、2つの磁気マーカ10の位置を結ぶ線分方向Mx(車線方向に一致)に対する車両5の進行方向Dirのなす角(旋回方向の角度の偏差)である進路ずれ角Rfを演算する。この進路ずれ角Rfは、横ずれ量の差分Ofd及びマーカスパンSを含む次式により算出される。
【数2】
【0046】
例えば車線に沿って車両5が走行している場合には(図12)、2つの磁気マーカの位置を結ぶ線分方向Mxに対する車両5の進行方向Dirのなす角である進路ずれ角Rfがゼロとなる。一方、車線を斜行する場合には(図13)、線分方向Mxに対して車両5の進行方向Dirがずれて、進路ずれ角Rfが大きくなる。また、曲線路に沿って車両5が走行している場合には(図14)、曲線路である車線の接線方向に、2つの磁気マーカの位置を結ぶ線分方向Mxが一致し、この線分方向Mxに対する車両5の進行方向Dirの“なす角”である進路ずれ角Rfがゼロとなる。一方、曲線路である車線を斜行する場合には(図15)、曲線路である車線の接線方向に対する車両5の進行方向Dirのずれが大きくなり進路ずれ角Rfが大きくなる。
【0047】
以上のように本例の車両用システム1は、2つの磁気マーカ10に対する横ずれ量の差分を利用して車両5の進行方向を推定している。この車両用システム1が推定する車両5の進行方向である進路ずれ角Rfは、絶対的な方位ではなく、2つの磁気マーカ10の位置を結ぶ線分方向Mxに対する“なす角”である。線分方向Mxは、路面100Sに固定された2つの磁気マーカ10により規定される基準となり得る方向であるため、この線分方向Mxに対する車両の進行方向の角度的な偏差は、車両5の進行方向を精度高く表す指標となり得る。
【0048】
車両用システム1では、2つの磁気マーカ10に対する横ずれ量の差分Ofdを利用し、演算される進路ずれ角Rfを偏差として求めている。これに代えて、あるいは加えて、例えば、2m前方あるいは10m前方など、所定距離を走行したときに予測される上記の線分方向Mxに対する左右方向の距離的なずれ量を偏差として求めても良い。
【0049】
なお、本例では、2m毎に敷設された磁気マーカ10のうち、直近で隣り合う2つの磁気マーカ10を利用して車両5の進行方向Dirを推定している。例えば時速100kmの車両が1秒間に走行する距離は27.7mであることから、2mの通過時間は0.07秒となり0.1秒にも満たなくなる。操舵操作の反応時間を考慮すれば、0.2~0.3秒の通過時間であっても良く、この場合であれば、1つおきの4m間隔、2つおきの6m間隔で隣り合う2つの磁気マーカ10の組み合わせを利用して進行方向Dirを推定することも良い。例えば1m間隔、2m間隔等、比較的密な間隔で配置された磁気マーカ10について、速度が高いほど広い間隔の2つの磁気マーカ10の組み合わせを利用し、速度が低いほど狭い間隔の2つの磁気マーカ10の組み合わせを利用することも良い。あるいは、高速道路などの道路では、磁気マーカ10の間隔を比較的広く、一般道では、磁気マーカ10の間隔を比較的狭く設定することも良い。さらに、本例では、2m間隔で磁気マーカ10を配置し、全ての磁気マーカ10について進行方向の推定を可能としている。これに代えて、例えば車線逸脱や自動運転のために10~20m間隔で磁気マーカ10が配置された道路において、2つおき、1つおきなど特定の磁気マーカ10について、進行方向の推定のための磁気マーカ10を隣り合わせて追加的に配置しておくことも良い。
【0050】
本例では、1つ目の磁気マーカ10を検出した後、2つ目の磁気マーカ10の検出を試みる検出期間を設定している。この検出期間は必須の構成ではなく省略しても良い。あるいは、検出期間を設定せず、磁気マーカ10の検出を常時試みることも良い。この場合、2つ目の磁気マーカ10が検出された時点が、1つ目の磁気マーカ10の検出時点を基準として上記の検出期間に相当する期間に含まれていない場合には、誤検出である可能性があるといった信頼性の判断を行うことも良い。
【0051】
なお、3つ以上の磁気マーカ10のうちの隣り合う2つの磁気マーカ10について、それぞれ、横ずれ量Rfを演算すると共に、複数の横ずれ量Rfの平均値を算出することも良い。このように、車両の進行方向の偏差を推定するに当って、3つ以上の磁気マーカ10を利用する構成を採用しても良い。
【0052】
なお、センサユニット11には、地磁気のほか、例えば鉄橋や他の車両などのサイズ的に大きな磁気発生源に由来して、各磁気センサCnには一様に近い磁気的なノイズであるコモンノイズが作用している。このようなコモンノイズは、センサユニット11の各磁気センサCnに対して一様に近く作用する可能性が高い。そこで、車幅方向に配列された各磁気センサCnの磁気計測値の差分値を利用して磁気マーカ10を検出することも良い。車幅方向の磁気勾配を表すこの差分値では、各磁気センサCnに一様に近く作用するコモンノイズを効果的に抑制できる。
【0053】
本例では、鉛直方向に感度を持つ磁気センサCnを採用したが、進行方向に感度を持つ磁気センサであっても良く、車幅方向に感度を持つ磁気センサであっても良い。さらに、例えば車幅方向と進行方向の2軸方向や、進行方向と鉛直方向の2軸方向に感度を持つ磁気センサを採用しても良く、例えば車幅方向と進行方向と鉛直方向の3軸方向に感度を持つ磁気センサを採用しても良い。複数の軸方向に感度を持つ磁気センサを利用すれば、磁気の大きさと共に磁気の作用方向を計測でき、磁気ベクトルを生成できる。磁気ベクトルの差分や、その差分の進行方向の変化率を利用して、磁気マーカ10の磁気と外乱磁気との区別を行なうことも良い。
【0054】
(実施例2)
本例は、実施例1の車両用システム1に基づいて、車両5の前後に設けたセンサユニット11を利用して進路ずれ角Rfを演算する例である。この内容について、図16を参照して説明する。
【0055】
車両5では、4mの間隔をあけてセンサユニット11が配置されている。前後のセンサユニット11の間隔である4mは、1つおきの2つの磁気マーカ10の間隔4m(マーカスパンS1とする。)と同一である。4m間隔で配置されたセンサユニット11によれば、1つの磁気マーカ10を挟んで隣り合う2つの磁気マーカ10をほぼ同じタイミングで検出できる。
【0056】
図16のように、前側のセンサユニット11が計測した横ずれ量をOf1、後ろ側のセンサユニットが計測した横ずれ量をOf2とし、両者の差分をOfdとしたとき、横ずれ角Rfは、次式で演算可能である。
【数3】
【0057】
なお、4m間隔の前後のセンサユニット11の中央に、センサユニット11を追加して配置することも良い。この場合には、前側のセンサユニット11と中央のセンサユニットとの組み合わせ、及び後ろ側のセンサユニット11と中央のセンサユニットとの組み合わせのうちの少なくともいずれか一方で、2m間隔で隣り合う磁気マーカ10を同じタイミングで検出して横ずれ量を計測できるようになる。速度に応じて、2m間隔の2つの磁気マーカ10を利用するか、4m間隔の2つの磁気マーカ10を利用するか、を切り換えることも良い。
なお、その他の構成及び作用効果については実施例1と同様である。
【0058】
(実施例3)
本例は、実施例1の車両用システム1に基づいて、道路構造を推定する機能を追加した例である。この内容について、図17図19を参照して説明する。
【0059】
本例は、車両5の中心軸に対して光軸が一致するように設置された車載カメラによる撮像画像551において、進路ずれ角Rfを利用して2次元的な道路構造を推定する例である。
例えば直線路に沿って車両5が走行する場合、車載カメラが取得する撮像画像551中の道路構造では、図17のごとく、車線、道路、左右のレーンマーク、ガードレール等が遠方で消失する消失点Vpが画面の中心に位置する。
【0060】
一方、直線路に対して右に逸れるように斜行するように車両5が走行する場合、車線等が消失する消失点Vpは図18のように画面の左側にずれて位置する。このときの消失点Vpのずれ量は、車載カメラの画角に対する進路ずれ角Rfの割合によって決定される量となる。例えば、車載カメラの水平方向の画角に対して進路ずれ角Rfの割合が1/2であれば、消失点Vpのずれ量は画面幅の半分となる。例えば進路ずれ角Rf=0のときの消失点Vpの位置が図17のように画面の中心であるときに上記の進路ずれ角Rfの割合が1/2であれば、消失点Vpが画面幅の1/2、中心からずれて画面端に位置する。また、車載カメラの水平方向の画角に対して進路ずれ角Rfの割合が1/4であれば、画面の中心からの消失点Vpのずれ量が画面幅の1/4となる。
【0061】
このように、進路ずれ角Rfなどの車両の進行方向を推定できれば、撮像画像551中の消失点Vpの位置を推定でき撮像画像551中の道路構造の把握が可能になる。車線等が消失する消失点Vpの位置が分れば、撮像画像551中の車線の領域や、路側の領域等を推定できる。このような領域の推定が可能であれば、画像認識を効率良く実施できる。例えば、車線の領域を推定できれば、車線を区画するレーンマークを認識するための処理を効率良く実施でき、誤検出を抑制して認識率を向上できる。また、例えば、路側の領域を推定できれば、路側に設置された標識や信号等の認識率を向上できる。
【0062】
また、3次元的な道路構造を推定することも良い。例えば操舵角を計測するセンサを車両5が備えている場合であれば、図19のように操舵角を利用して車両5の進路Esを予測できる。このとき、進路ずれ角Rfがゼロであれば、予測した進路Esに沿う領域Aを車線の領域と推定できる。さらに片側1車線の対面走行の道路であるという地図情報を地図データベース等から取得できれば、例えば左側通行の場合には、領域Aの右側の領域Bを対向車線の領域と推定でき、領域Aの左側の領域Cを路側の領域と推定できる。例えば車載カメラによる画像認識や、レーザーレーダ等のアクティブセンサ等により、標識やガードレール等の路側物を認識する場合であれば、領域Cを主たる対象として処理を実施することで効率を向上できる。また、例えば対向車とすれ違うときに自動的にロービームに切り替えるシステムであれば、領域Bを主たる対象として対向車を捕捉することで街灯等の光による誤作動を未然に抑制できる。
【0063】
また例えば、片側2車線の4車線の道路であるという地図情報を地図データベース等から取得すると共に、走行中の車線が中央寄りの車線であるという情報をインフラ側から取得できれば、領域Cを並走車線の領域と推定できる。インフラ側から情報を提供する方法としては、例えば、磁気マーカ10の極性を車線毎に異ならせて車線の情報を提供する方法等がある。
なお、その他の構成及び作用効果については実施例1と同様である。
【0064】
(実施例4)
本例は、実施例1の車両用システム1に、車線の逸脱警報の機能を追加した例である。
この内容について、図20を参照して説明する。
図20は、車線幅がWrであって、中央に沿って磁気マーカ10が配列された車線100上の車両5(車幅Wc)が、速度V(m/秒)、進路ずれ角Rfで車線100を斜行する走行状況を例示している。なお、同図は、車両5が走行する平面を俯瞰する図となっており、水平方向に車幅方向が規定され、鉛直方向に前進方向が規定されている。また、同図では、2つ目の磁気マーカ10のみを図中に示し、1つ目を含め磁気マーカ10の図示を省略している。
【0065】
2つ目の磁気マーカ10を通過したときの横ずれ量がOf2であって、このときに推定された進路ずれ角がRfであるときの逸脱警報について説明する。この逸脱警報は、下記の逸脱時間を予測する予測手段、逸脱警報を発する警報手段としての機能を備える制御ユニットによる警報である。
【0066】
車線100を走行中の車両5が斜行しており、進路ずれ角Rfのとき、車両5が車線100を逸脱するまでの時間である逸脱時間を演算する手順について、下記の式3~6を参照しながら説明する。
【0067】
まず、図20において、一点鎖線で示す車線100の中央から車両5の側端までの距離D1は次式で演算できる。
【数4】
【0068】
そうすると、車両5が斜行する側の車線の境界(例えばレーンマーク)100Eと車両5の側面との距離D2は次式のようになる。
【数5】
【0069】
一方、車両5の速度V(m/秒)のうち、車幅方向の速度成分Vx(m/秒)は次式のようになる。
【数6】
【0070】
したがって、進路ずれ角Rfを維持して車両5が速度V(m/秒)で走行した場合に、車線100の境界100Eに到達するのに要する次式の時間Trを逸脱時間として算出すると良い。
【数7】
【0071】
この逸脱時間Trを利用すれば、精度の高い逸脱警報を実施できる。例えば、逸脱時間Trが20秒以上であれば警報を実施せず、逸脱時間Trが10秒~20秒の場合には穏やかな警報を発し、逸脱時間Trが10秒以下の場合には注意を促すための警報あるいは緊急を告げる警報を発することも良い。なお、逸脱時間の閾値については、適宜変更可能である。
【0072】
なお、逸脱時間に代えて、車線を逸脱するまでに走行する予測距離である逸脱距離を演算し、この逸脱距離の大きさに応じて逸脱警報を発することも良い。逸脱距離は、車線方向の速度成分である(V×cosRf)を逸脱時間Trに乗じて算出できる。
なお、その他の構成及び作用効果については実施例1と同様である。
【0073】
(実施例5)
本例は、実施例1の車両用システムに基づいて、車両の走行路の経路方向に対する車両の進行方向の偏差を推定可能に構成した例である。
走行路における磁気マーカの敷設位置には誤差があり、必ずしも走行路の経路方向に対して、隣り合う磁気マーカの位置を結ぶ線分方向が一致しているとは限らない。この一致精度を高めようとすると磁気マーカの敷設コストの上昇を伴うおそれがある。そこで、磁気マーカの敷設位置の誤差をある程度許容しながら走行路の経路方向に対する車両の進行方向の偏差を精度高く推定する技術が求められている。
【0074】
本例の車両用システムは、走行路の経路方向に対する上記の線分方向の偏差を特定可能な情報を取得できるように構成することで上記の技術を実現している例である。
実施例1では、前記線分方向に対する車両の進行方向の第1の偏差を表す横ずれ角Rfを推定している。本例では、走行路の経路方向に対する前記線分方向の第2の偏差を特定し、この第2の偏差と上記の第1の偏差とに基づいて、走行路の経路方向に対する車両の進行方向の第3の偏差の推定を可能としている。
【0075】
走行路の経路方向に対する前記線分方向の偏差(第2の偏差)を特定する構成としては、例えば以下の構成がある。
(1)走行路の中心からの各磁気マーカの車幅方向のずれの情報を含む地図情報を記憶する地図データベースを設け、検出した磁気マーカのずれの情報を地図データベースから取得し、走行路の経路方向に対する2つの磁気マーカの位置を結ぶ線分方向の偏差(第2の偏差)を特定する構成。
【0076】
(2)走行路の中心の絶対位置の情報に加えて、磁気マーカの絶対位置の情報を含む地図情報を記憶する地図データベースを設け、走行路の中心の絶対位置の情報から走行路の経路方向を特定すると共に、磁気マーカの絶対位置の情報から磁気マーカの位置を結ぶ線分方向を特定する。そして、走行路の経路方向に対する磁気マーカの位置を結ぶ線分方向の偏差(第2の偏差)を特定する構成。
【0077】
なお、上記のいずれの構成においても、地図データベースとしては、車両に搭載された記憶媒体に格納された地図データベースであっても良く、インターネット等を介して接続可能なサーバ装置の記憶媒体に格納された地図データベースであっても良い。
【0078】
外部からの電力供給を受けて動作し、情報を無線出力可能な無線通信RF-IDタグを磁気マーカに付設し、RF-IDタグが送信する上記のずれの情報を受信する受信手段を車両側に設けることも良い。走行路の中心の絶対位置の情報、及び磁気マーカの絶対位置の情報を、RF-IDタグから送信することも良い。
その他の構成及び作用効果については実施例1と同様である。
【0079】
(実施例6)
本例は、実施例1の車両用システムに基づいて、車両の進行方向の偏差を推定した時点の車両の絶対位置を特定可能としたシステムの例である。
本例の車両用システムでは、磁気マーカの絶対位置を表す情報を地図データベースから取得可能であり、検出した磁気マーカの絶対位置から車両の絶対位置を特定可能である。地図データベースとしては、車両に搭載された記憶媒体に格納された地図データベースであっても良く、インターネット等を介して接続可能なサーバ装置の記憶媒体に格納された地図データベースであっても良い。
【0080】
車両の絶対位置を特定できれば、例えば、走行路の経路方向を特定可能な地図情報を記憶するデータベースを参照することで、車両の前方の走行路の形状等を把握できる。そして、前方の走行路の形状と、推定した車両の進行方向の偏差と、を比較すれば、推定した車両の進行方向について危険度等の推定が可能になる。例えば、右側車線を走行する車両が左カーブの手前の位置に到達したとき、車両の進行方向の偏差が右方に向かうものであった場合には、危険度が高いといった推定が可能である。
なお、その他の構成及び作用効果については実施例1と同様である。
【0081】
以上、実施例のごとく本発明の具体例を詳細に説明したが、これらの具体例は、特許請求の範囲に包含される技術の一例を開示しているにすぎない。言うまでもなく、具体例の構成や数値等によって、特許請求の範囲が限定的に解釈されるべきではない。特許請求の範囲は、公知技術や当業者の知識等を利用して上記具体例を多様に変形、変更あるいは適宜組み合わせた技術を包含している。
【符号の説明】
【0082】
1 車両用システム
10 磁気マーカ
100 車線
11 センサユニット(横ずれ量計測手段)
110 検出処理回路
12 制御ユニット(進路推定手段)
21 MI素子
5 車両
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20