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特許7151774位相シフトマスクブランクス、位相シフトマスク、露光方法、デバイスの製造方法、位相シフトマスクブランクスの製造方法、位相シフトマスクの製造方法、露光方法、及び、デバイスの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-03
(45)【発行日】2022-10-12
(54)【発明の名称】位相シフトマスクブランクス、位相シフトマスク、露光方法、デバイスの製造方法、位相シフトマスクブランクスの製造方法、位相シフトマスクの製造方法、露光方法、及び、デバイスの製造方法
(51)【国際特許分類】
   G03F 1/26 20120101AFI20221004BHJP
【FI】
G03F1/26
【請求項の数】 21
(21)【出願番号】P 2020546687
(86)(22)【出願日】2019-05-20
(86)【国際出願番号】 JP2019019862
(87)【国際公開番号】W WO2020054131
(87)【国際公開日】2020-03-19
【審査請求日】2021-03-11
(31)【優先権主張番号】P 2018172898
(32)【優先日】2018-09-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004112
【氏名又は名称】株式会社ニコン
(74)【代理人】
【識別番号】110000198
【氏名又は名称】弁理士法人湘洋特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小澤 隆仁
(72)【発明者】
【氏名】寳田 庸平
(72)【発明者】
【氏名】林 賢利
(72)【発明者】
【氏名】八神 高史
【審査官】牧 隆志
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-153889(JP,A)
【文献】特開2016-186535(JP,A)
【文献】特開2018-116263(JP,A)
【文献】特開2018-031840(JP,A)
【文献】特開2018-091889(JP,A)
【文献】特開2017-181545(JP,A)
【文献】特開2017-090938(JP,A)
【文献】特開2017-033004(JP,A)
【文献】特開2007-279214(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03F 1/00 - 1/86
H01L 21/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定のパターンが形成されるフォトマスクに用いられる位相シフトマスクブランクスであって、
基板と、前記基板上に形成された位相シフト層と、を有し、
前記位相シフト層は、クロムと酸素とを含み、ケイ素を除き、
前記位相シフト層の表面の算術平均高さの値は、0.402nm以上である、位相シフトマスクブランクス。
【請求項2】
請求項1に記載の位相シフトマスクブランクスにおいて、
前記位相シフト層の表面の算術平均高さの値は、前記基板の表面の算術平均高さの値に比べて、0.04nm以上大きい、位相シフトマスクブランクス。
【請求項3】
ウェットエッチングによって所定のパターンが形成されるフォトマスクに用いられる位相シフトマスクブランクスであって、
基板と、
前記基板上に形成された位相シフト層と、を有し、
前記位相シフト層の組成は、クロムと酸素とを含み、ケイ素を除き、
前記位相シフト層の表面の算術平均高さの値が0.38nm以上である、位相シフトマスクブランクス。
【請求項4】
請求項3に記載の位相シフトマスクブランクスにおいて、
前記位相シフト層の表面の算術平均高さの値は、前記基板の表面の算術平均高さの値に比べて、0.04nm以上、大きい、位相シフトマスクブランクス。
【請求項5】
ウェットエッチングによって所定のパターンが形成されるフォトマスクに用いられる位相シフトマスクブランクスであって、
基板と、前記基板上に形成された位相シフト層と、を有し、
前記位相シフト層の組成は、クロムと酸素とを含み、ケイ素を除き、
前記位相シフト層の表面の算術平均高さの値は、前記基板の表面の算術平均高さの値に比べて、0.04nm以上大きい、位相シフトマスクブランクス。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の位相シフトマスクブランクスにおいて、
前記位相シフト層の組成は、CrOCNであり、CrOCNにおける酸素の原子数濃度が化学量論比よりも多い、位相シフトマスクブランクス。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の位相シフトマスクブランクスにおいて、
前記位相シフト層の表面から1.25nmの深さにおける酸素原子数濃度が42.6%以上である、位相シフトマスクブランクス。
【請求項8】
請求項のいずれか一項に記載の位相シフトマスクブランクスにおいて、
前記位相シフト層の表面側の酸素原子数濃度が、基板側の酸素原子数濃度よりも大きい、位相シフトマスクブランクス。
【請求項9】
請求項のいずれか一項に記載の位相シフトマスクブランクスにおいて、
前記位相シフト層の表面から1.25nmの深さにおける酸素原子数濃度の、前記位相シフト層の表面から85nmの深さにおける酸素原子数濃度に対する比は、1.59以上である、位相シフトマスクブランクス。
【請求項10】
請求項1~のいずれか一項に記載の位相シフトマスクブランクスにおいて、
前記基板の大きさは、520mm×800mm以上である、位相シフトマスクブランクス。
【請求項11】
請求項1~1のいずれか一項に記載の位相シフトマスクブランクスの、前記位相シフト層を所定のパターン状に形成した、位相シフトマスク。
【請求項12】
請求項1に記載の位相シフトマスクを介して、フォトレジストが塗布された感光性基板を露光する、露光方法。
【請求項13】
請求項1に記載の露光方法によって前記感光性基板を露光する露光工程と、
前記露光された感光性基板を現像する現像工程と、
を有する、デバイスの製造方法。
【請求項14】
ウェットエッチングによって所定のパターンが形成されるフォトマスクに用いられる位相シフトマスクブランクスの製造方法であって、
基板上に位相シフト層を成膜する成膜工程と、
前記成膜工程で成膜された前記位相シフト層の表面を前記位相シフト層の算術平均高さの値が0.38nm以上となるように、ウェットエッチングあるいはドライエッチングを行う位相シフト層凹凸形成工程と、を備える、位相シフトマスクブランクスの製造方法。
【請求項15】
請求項14に記載の位相シフトマスクブランクスの製造方法であって、
前記成膜工程では、前記基板にクロムと酸素を含む層を成膜する、位相シフトマスクブランクスの製造方法。
【請求項16】
請求項15に記載の位相シフトマスクブランクスの製造方法であって、
前記成膜工程では、前記基板にケイ素を含まない層を成膜する、位相シフトマスクブランクスの製造方法。
【請求項17】
所定のパターンが形成されるフォトマスクに用いられる位相シフトマスクブランクスの製造方法であって、
基板上にクロムと酸素とを含み、ケイ素を除く位相シフト層を成膜する成膜工程と、
前記成膜工程で成膜された前記位相シフト層の表面を前記位相シフト層の算術平均高さの値が0.402nm以上となるように、ウェットエッチングあるいはドライエッチングを行う位相シフト層凹凸形成工程と、を備える、位相シフトマスクブランクスの製造方法。
【請求項18】
請求項14または17に記載の位相シフトマスクブランクスの製造方法であって、
前記位相シフト層凹凸形成工程では、前記位相シフト層の表面の算術平均高さの値が前記基板の表面の算術平均高さの値に比べて、0.04nm以上大きくなるよう、エッチングを行う、位相シフトマスクブランクスの製造方法。
【請求項19】
請求項118のいずれか一項に記載の位相シフトマスクブランクスの製造方法を用いて前記位相シフトマスクブランクスを製造する工程と、
前記位相シフト層にウェットエッチングあるいはドライエッチングによって所定のパターンを形成するパターン形成工程と、
を備える、位相シフトマスクの製造方法。
【請求項20】
請求項19に記載の位相シフトマスクを介して、フォトレジストが塗布された感光性基板を露光する、露光方法。
【請求項21】
請求項20に記載の露光方法によって前記感光性基板を露光する露光工程と、
前記露光された感光性基板を現像する現像工程と、
を有する、デバイスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、位相シフトマスクブランクス、位相シフトマスク、露光方法、デバイスの製造方法、位相シフトマスクブランクスの製造方法、位相シフトマスクの製造方法、露光方法、及び、デバイスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
透明基板上に、酸化窒化クロムからなる位相シフト層が形成された位相シフトマスクが知られている(特許文献1)。従来から位相シフトマスクの品質の向上が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】日本国特開2011-013283号公報
【発明の概要】
【0004】
本発明の第1の態様によると、位相シフトマスクブランクスは、所定のパターンが形成されるフォトマスクに用いられる位相シフトマスクブランクスであって、基板と、前記基板上に形成された位相シフト層と、を有し、前記位相シフト層は、クロムと酸素とを含み、ケイ素を除き、前記位相シフト層の表面の算術平均高さの値は、0.402nm以上である。
本発明の第2の態様によると、位相シフトマスクブランクスは、ウェットエッチングによって所定のパターンが形成されるフォトマスクに用いられる位相シフトマスクブランクスであって、基板と、前記基板上に形成された位相シフト層と、を有し、前記位相シフト層の組成は、クロムと酸素とを含み、ケイ素を除き、前記位相シフト層の表面の算術平均高さの値が0.38nm以上である。
本発明の第3の態様によると、位相シフトマスクブランクスは、ウェットエッチングによって所定のパターンが形成されるフォトマスクに用いられる位相シフトマスクブランクスであって、基板と、前記基板上に形成された位相シフト層と、を有し、前記位相シフト層の組成は、クロムと酸素とを含み、ケイ素を除き、前記位相シフト層の表面の算術平均高さの値は、前記基板の表面の算術平均高さの値に比べて、0.04nm以上大きい。
本発明の第の態様によると、位相シフトマスクブランクスの製造方法は、ウェットエッチングによって所定のパターンが形成されるフォトマスクに用いられる位相シフトマスクブランクスの製造方法であって、基板上に位相シフト層を成膜する成膜工程と、記成膜工程で成膜された前記位相シフト層の表面を、前記位相シフト層の算術平均高さの値が0.38nm以上となるように、ウェットエッチングあるいはドライエッチングを行う位相シフト層凹凸形成工程とを備える。
本発明の第の態様によると、位相シフトマスクブランクスの製造方法は、所定のパターンが形成されるフォトマスクに用いられる位相シフトマスクブランクスの製造方法であって、基板上にクロムと酸素とを含み、ケイ素を除く位相シフト層を成膜する成膜工程と、前記成膜工程で成膜された前記位相シフト層の表面を、前記位相シフト層の算術平均高さの値が0.402nm以上となるように、ウェットエッチングあるいはドライエッチングを行う位相シフト層凹凸形成工程と、を備える。
本発明の第の態様によると、位相シフトマスクの製造方法は、上記の位相シフトマスクブランクスの製造方法を用いて前記位相シフトマスクブランクスを製造する工程と、前記位相シフト層にウェットエッチングあるいはドライエッチングによって所定のパターンを形成するパターン形成工程と、を備える。
本発明の第の態様によると、露光方法は、上記に記載の位相シフトマスクを介して、フォトレジストが塗布された感光性基板を露光する。
本発明の第の態様によると、デバイスの製造方法は、記感光性基板を露光する露光工程と、前記露光された感光性基板を現像する現像工程と、を有する
【図面の簡単な説明】
【0005】
図1】実施の形態に係る位相シフトマスクブランクスの構成例を示す図である。
図2】位相シフトマスクブランクスを製造するために使用する製造装置の一例を示す模式図である。
図3】実施例および比較例に係る位相シフトマスクブランクスについての測定結果を示す表である。
図4】実施例に係る位相シフトマスクブランクスを用いて形成したマスクパターンの断面を説明する模式図である。
図5】位相シフトマスクを介して感光性基板を露光する様子を示す概念図である。
図6】比較例に係る位相シフトマスクブランクスの構成例を示す図である。
図7】比較例に係る位相シフトマスクブランクスを用いて形成したマスクパターンの断面を説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0006】
(実施の形態)
図1は、本実施の形態の位相シフトマスクブランクス10の構成例を示す図である。位相シフトマスクブランクス10は、基板11と位相シフト層12とを備える。本実施の形態においては、スパッタリングにより基板11の表面に位相シフト層12を形成する。その際、スパッタリングの条件により位相シフト層12における酸素含有量(酸素原子数濃度)を設定することにより、図1に示すように、位相シフト層12の表面に所定レベル(所定の算術平均高さ)の微細な凹凸(凹凸部12a)が形成される。
以下、本実施の形態に係る位相シフトマスクブランクス10について、より詳しく説明する。
【0007】
基板11の材料としては、例えば合成石英ガラスが用いられる。なお、基板11の材料は、合成石英ガラスに限定されない。位相シフトマスクは、FPD(Flat Panel Display)等の表示用デバイスやLSI(Large Scale Integration)等の半導体デバイスを製造する際に用いられる。基板11は、位相シフトマスクを用いてウエハなどの露光対象基材を露光する露光工程において、露光光を充分に透過するものであればよい。
【0008】
位相シフト層12は、基板11の表面に、クロム(Cr)と酸素(O)とを含む材料による膜として形成される。本実施の形態に係る位相シフト層12は、CrOCNを材料とする膜で構成される。位相シフト層12には、所望のパターンが形成され、位相シフトマスクとなる。このパターンは、露光工程において照射される露光光の位相を局所的に変化させる位相シフタとして機能する。
【0009】
所望の厚さと所望パターンに形成された位相シフト層12を有する位相シフトマスクを介してデバイス用基板を露光光により露光する際、位相シフト層12が存在する部分を透過する光と位相シフト層12が存在しない部分を透過する光とには、略180°の位相差(位相シフト量)が生じる。これにより、露光パターン領域以外に照射される露光光の強度を低く抑え、露光パターンのコントラストを向上させる。その結果、露光工程における不良率を低減することができる。
【0010】
上記では、露光光の位相に略180°の位相シフト量が生じるように、位相シフト層12の厚さ(膜厚)が設定される旨記載した。しかし、露光工程において所望のコントラストが得られる範囲内であれば、露光光の位相シフト量は180°に限定されない。なお、位相シフト層12は、単一の膜で構成してもよいし、複数の膜を積層して構成してもよい。
【0011】
位相シフトマスクブランクス10の位相シフト層12に所望パターンを形成して成る位相シフトマスクは、例えば、次に説明する手順により作成される。
【0012】
位相シフト層12の表面にフォトレジストを塗布してフォトレジスト層を形成する。形成されたフォトレジスト層に、レーザー光、電子線、あるいはイオンビーム等のエネルギー線を照射してパターンを描画する。パターンが描画されたフォトレジスト層を現像することで、描画部分または非描画部分が除去されてフォトレジスト層にパターンが形成される。パターンが形成されたフォトレジスト層をマスクとして、位相シフト層12をウェットエッチングする。このウェットエッチングにより、フォトレジスト層に形成されたパターンに対応した形状が、位相シフト層12に形成(転写)される。フォトレジスト層を除去して位相シフトマスクが完成する。
【0013】
本発明者らは、位相シフト層12表面の算術平均高さと、位相シフト層12の酸素原子数濃度との相関関係を調べ、さらに、位相シフト層12に形成されたフォトレジスト層をパターン化した際の位相シフト層12とフォトレジスト層との界面の様子について調べた。その結果、以下の知見を得た。なお、本明細書における算術平均高さは、ISO25178に規定されたものである。
(1)本発明者らは、位相シフト層12の表面の算術平均高さが所定の値より大きい場合、例えば、0.38nm以上である場合、このような位相シフトマスクブランクスを用いて位相シフト層12のパターンを形成する工程においては、位相シフト層12とフォトレジスト層との界面におけるエッチング液のしみ込みが発生しないことを見出した。
【0014】
位相シフト層12の表面の算術平均高さが所定の値より大きい場合に、位相シフト層12とフォトレジスト層との界面におけるエッチング液のしみ込みを抑制できるのは、位相シフト層12の表面に適度な粗さ(凹凸)が形成され、この粗さに起因して、フォトレジスト層と位相シフト層12との密着性がエッチング液のしみ込みを抑制するほどに高くなるためと推定することができる。
【0015】
(2)位相シフト層12の表面の算術平均高さと基板11の表面の算術平均高さとの差が所定の値より大きい場合、例えば、0.04nm以上大きい場合、このような位相シフトマスクブランクスを用いて位相シフト層12のパターンを形成する工程において、位相シフト層12とフォトレジスト層との界面におけるエッチング液のしみ込みが発生しないことを見出した。
【0016】
(3)位相シフト層12の表面に次のようにして所定の算術平均高さの粗さ(凹凸)を生成することができることを見出した。スパッタリングにより位相シフト層12を形成する際に、スパッタリングチャンバー内に導入する酸素の流量を調整して、位相シフト層12内に所定量以上の酸素を含むようにすると、所定の算術平均高さの表面を有する位相シフト層12が形成されることがわかった。すなわち、本発明者らは、位相シフト層12の表面の凹凸パターンの算術平均高さと、位相シフト層12の表面近傍における酸素原子数濃度ないし濃度分布との間には相関があることを見出した。
【0017】
(4)本発明者らは、位相シフトマスクブランクス10に形成された位相シフト層12の表面における酸素原子数濃度が所定の値よりも大きい場合に、位相シフト層12とフォトレジスト層との界面へのエッチング液のしみ込みが発生しないことを見出した。
【0018】
上記(3)の知見のように、位相シフト層12の表面における酸素原子数濃度が所定の値よりも大きい位相シフト層12は、その表面の算術平均高さが上記所定値(例えば0.38nm)以上であり、したがって、適度な粗さ(凹凸)を有する。そのような位相シフト層12の表面にフォトレジスト層を形成した場合、位相シフト層12とフォトレジスト層との密着性が高く、このため、ウェットエッチングの際に位相シフト層12とフォトレジスト層との界面へのエッチング液のしみ込みが発生しないと考えられる。
【0019】
(5)位相シフトマスクブランクス10に形成された位相シフト層12の内部における酸素原子数濃度が、位相シフト層12の表面から深さ方向に減少する場合に、位相シフト層12とフォトレジスト層との界面へのエッチング液のしみ込みが発生しないことがわかった。位相シフト層12の内部における酸素原子数濃度が、位相シフト層12の表面から深さ方向に減少する一例をあげると、例えば、位相シフト層12の表面から深さ85nmの位置における酸素原子数濃度に対する、位相シフト層12の表面から深さ1.25nmの位置における酸素原子数濃度の比が、1.59以上である場合である。
以下、本実施の形態に係る位相シフトマスクブランクス10の製造方法の一例について説明する。
【0020】
(位相シフトマスクブランクス製造方法)
図2は、本実施の形態に係る位相シフトマスクブランクス10の製造に際して、位相シフト層12を形成するために使用する製造装置の一例を示す模式図である。図2(a)は、製造装置100の内部を上面から見た場合の模式図、図2(b)は、製造装置100の内部を側面から見た場合の模式図である。図2に示す製造装置100は、インライン型のスパッタリング装置であり、位相シフト層12を形成するための基板11を搬入するためのチャンバー20と、スパッタリングチャンバー21と、位相シフト層12を形成された基板11を搬出するためのチャンバー22とを備える。スパッタリングチャンバー21には、位相シフト層12を形成するためのターゲット41が配置される。
【0021】
基板トレイ30は、位相シフト層12を形成するための基板11を載置可能な枠状のトレイであり、基板11の外縁部分が支持されて載置される。基板11は、表面が研磨および洗浄され、位相シフト層12が形成される表面が下側(下向き)となるように、基板トレイ30に載置される。スパッタリング装置100では、後述するように、基板11の表面をターゲット41に対向させた状態を維持し、図2の点線矢印25で示す方向に基板11を載置した基板トレイ30を移動させながら、基板11の表面に位相シフト層12を形成する。
【0022】
搬入用のチャンバー20、スパッタリングチャンバー21、および搬出用のチャンバー22のそれぞれの間には、不図示のゲートバルブが設けられ、各チャンバーはゲートバルブの開閉により連通、遮断される。搬入用のチャンバー20、スパッタリングチャンバー21、および搬出用のチャンバー22は、それぞれ不図示の排気装置に接続され、各チャンバー内部が排気される。
また、各ゲートバルブとターゲット41との間には、成膜前後の基板トレイ30を待機させるに十分なスペースないし別個の待機室が設けられる(不図示)。
【0023】
上記の通り、スパッタリングチャンバー21の内部にはターゲット41が設けられている。ターゲット41は、位相シフト層12を形成するためのスパッタリングターゲットであり、クロム(Cr)を含む材料により形成されている。具体的には、ターゲット41の材料は、クロム、クロムの酸化物、クロムの窒化物、クロムの炭化物等のうち、少なくとも1種類から選択される。本実施の形態においては、ターゲット41はクロムを選択した。スパッタリングチャンバー21のターゲット41には、不図示のDC電源から電力が供給される。
【0024】
スパッタリングチャンバー21には、スパッタリングチャンバー21内にスパッタリング用のガスを導入する第1のガス流入口31および第2のガス流入口32が設けられる。第1のガス流入口31は、搬入用のチャンバー20に近い側、すなわち、点線矢印25で表される基板トレイ30の進行方向に対して川上側(上流側)に配置される。一方、第2のガス流入口32は、搬出用のチャンバー22に近い側、すなわち、基板トレイ30の進行方向に対して川下側(下流側)に配置される。
【0025】
本実施の形態においては、位相シフト層12としてCrOCN膜を形成する。そのために、スパッタリングチャンバー21には、第1のガス流入口31を介して、窒素ガス、二酸化炭素等の炭素を含有するガス、および不活性ガス(本実施の形態においてはアルゴンガスを使用)の混合ガスを導入する。また、第2のガス流入口32を介して、酸素ガスを導入する。
【0026】
基板11が搬入用のチャンバー20からスパッタリングチャンバー21に搬送されて、スパッタリングが開始される。その際、第1のガス流入口31からは、窒素ガス、炭素を含有するガス、および不活性ガスが導入されるので、スパッタリングチャンバー21内の第1のガス流入口31に近い側、すなわち、基板11に対するスパッタリングが開始される側では、これらの気体の濃度が相対的に高い。一方、第2のガス流入口32からは酸素ガスが導入されるので、スパッタリングチャンバー21内の第2のガス流入口32に近い側、すなわち、基板11に対するスパッタリングが終了する側では、酸素の濃度が相対的に高い。このため、形成されるCrOCN膜においては、基板11が右に移動しスパッタリングが進行するに従って、すなわち膜厚が厚くなるに従って、酸素原子数濃度が高くなる。その結果、位相シフト層12の表面に近い側(最後に堆積した側)では相対的に酸素が多く含有され、一方、基板に近い側(初期に堆積した側)においては、含有される酸素が少なくなる。このように形成された位相シフト層12の表面には、所定の算術平均高さの粗さ(凹凸)が形成される。位相シフト層12の表面の粗さ(算術平均高さ)は、第1のガス流入口31および第2のガス流入口32から導入する各気体の流量を調整することによって制御することができる。
【0027】
位相シフト層12が形成された基板11は、搬出用のチャンバー22に搬送される。このようにして、基板11の表面に位相シフト層12が形成され、位相シフトマスクブランクス10が作製される。
【0028】
なお、ターゲット41の材料と、第1のガス流入口31および第2のガス流入口32からそれぞれ導入する気体の種類とは、位相シフト層12を構成する材料や組成に応じて適宜選択してよい。また、スパッタリングの方式は、DCスパッタリング、RFスパッタリング等のいずれの方式を用いてもよい。
【0029】
上述したように、本実施の形態では、位相シフト層12をスパッタリングにより形成する際に、スパッタリングチャンバー21内に導入する各気体の流量(特に酸素の流量)が調整される。これにより、位相シフト層12に含有される酸素原子数を調整し、位相シフト層12表面の粗さ(算術平均高さ)を調整する。これにより、フォトレジスト層と位相シフト層12との密着性を充分に高くでき、位相シフト層12とフォトレジスト層の界面へのエッチング液のしみ込みを防ぐことができる。また、本実施の形態の位相シフトマスクブランクス10を用いて位相シフトマスクを製造することにより、パターンを精度よく形成することができる。このため、位相シフトマスクの製造の歩留まりを向上させることができる。
【0030】
本実施の形態の位相シフトマスクブランクス10から製造した位相シフトマスクを用いてウエハなどの露光対象基材にパターン露光を行えば、露光工程における回路パターン不良を低減することができ、集積度の高いデバイス製造工程における歩留まりを向上させることができる。
【0031】
上述した実施の形態によれば、次の作用効果が得られる。
(1)位相シフトマスクブランクス10は、基板11と、基板上に形成された位相シフト層12を有し、位相シフト層12は、クロムと酸素とを含有し、位相シフト層12の表面の算術平均高さの値が0.38nm以上である。このような位相シフトマスクブランクス10に塗布したフォトレジストをパターン露光後にウェットエッチングする際、エッチング液が位相シフト層12とフォトレジスト層との界面にしみ込む現象が発生しない。
【0032】
(2)位相シフト層12の内部(所定の深さ)における酸素原子数濃度は、所定の値よりも大きい。例えば、位相シフト層12の表面から1.25nmの深さ(後述)における酸素原子数濃度は42.6%以上である。このような位相シフトマスクブランクス10に塗布したフォトレジストをパターン露光後にウェットエッチングする際、エッチング液が位相シフト層12とフォトレジスト層との界面にしみ込む現象が発生しない。
【0033】
(3)本実施の形態の位相シフトマスクブランクス10を用いて位相シフトマスクを製造する工程において、パターンのエッジ部の位相シフト層12にエッチング液のしみ込み現象が発生しない。すなわち、このようなエッチング液のしみ込みにより位相シフト層12に傾斜面が生成されることがない。このため、本実施の形態の位相シフトマスクブランクス10を用いて製造された位相シフトマスクのパターン精度を向上することができるので、位相シフトマスクの製造工程の歩留まりを向上させることができる。従来は、エッチング液のしみ込みによってパターンのエッジに傾斜面が形成されてしまうことがあり、歩留まりの低下の原因であった。本実施の形態の位相シフトマスクブランクス10から製造した位相シフトマスクを用いて露光工程を行うことにより、集積度の高いデバイスを高い歩留まりで製造することが可能となる。
【0034】
(実施例1)
合成石英ガラスからなる基板11を用意した。図2に示すインライン型のスパッタリング装置100を使用し、このガラス基板11の表面に、位相シフト層12を形成した。以下、位相シフト層12の製造方法について、より詳しく説明する。
【0035】
スパッタリングチャンバー21に対して、第1のガス流入口31から、アルゴン(Ar)、二酸化炭素(CO)、窒素(N)を導入し、第2のガス流入口32から酸素(O)を導入した。Ar、CO、N、Oの各ガスの流量は、それぞれ、240sccm、42sccm、135sccm、1.5sccmとし、スパッタリングチャンバー21内の圧力は0.3Paを維持するように、各気体の流量と排気量を制御した。スパッタリングチャンバー21のDC電源の電力を9kWに設定(電力一定制御)して基板11を点線矢印25の方向に移動させながらスパッタリングを行い、基板11上にCrOCNからなる位相シフト層12を170nmの厚さで形成し、位相シフトマスクブランクス10を作製した。
【0036】
上記の手順で作製した位相シフトマスクブランクス10において、位相シフト層12の表面の算術平均高さSaを、220μm×220μmの範囲内において、コヒーレンス走査型干渉計(Zygo社製 NewView8000)によって測定した。また、位相シフト層12の深さ方向の酸素原子数濃度の分布を、X線光電子分光分析装置(PHI社製 Quantera II)によって測定した。
【0037】
X線光電子分光分析装置による位相シフト層12の深さ方向の酸素原子数濃度の分布の測定は、次の手順で行った。基板11と同様の合成石英ガラス基板の表面にSiO膜をスパッタリングにより形成した参照用基板を用意した。この参照用基板をX線光電子分光分析装置にセットし、X線光電子分光分析装置に装備されたスパッタイオン銃でSiO膜をスパッタリングしてエッチングを行う。その際、SiO膜のエッチング時間とエッチング量(エッチング深さ)との関係を求める。次に、実施例1において作製した位相シフトマスクブランクス10をX線光電子分光分析装置にセットし、スパッタイオン銃で位相シフト層12をスパッタリングしながら酸素原子数濃度を測定する。この時、位相シフト層12のエッチング時間とエッチング深さの関係は、SiO膜のエッチング時間とエッチング量(エッチング深さ)との関係と同一とみなす。すなわち、あるエッチング時間によるエッチング深さは、SiO膜と位相シフト層12とで同一であるとみなす。この手順に基づいて、位相シフト層12の深さ方向の酸素原子数濃度分布を得る。
【0038】
X線光電子分光分析装置による酸素原子数濃度の測定は、上記の通り、スパッタイオン銃により位相シフト層12をエッチングしながら行う。スパッタイオン銃によりエッチングされる範囲は直径数100μmの範囲に及び、また、X線光電子分光分析装置による酸素原子数濃度の値は、同様の範囲の平均値が出力される。位相シフト層12の表面には微細な凹凸が形成されているが、測定された酸素原子数濃度は、このような表面の微細な凹凸が多数含まれる範囲の位相シフト層12を、スパッタイオン銃により所定時間エッチングし、その範囲における酸素原子数濃度の平均値が測定されると考えられる。本発明者らは、位相シフト層の形成工程における酸素の流量をゼロとした比較例と、1.5sccmとした実施例1と、3sccmとした実施例2について、上述した種々の物理量を測定した。
なお、位相シフト層12の最表面は雰囲気ガスの吸着等により汚染されている可能性が高いため、実際に位相シフト層12における組成分析を行うにあたっては、表面粗さの程度を考慮して、最表面の位相シフト層を一定程度除去することが好ましい。このため、本願実施例においては最表面から1.25nmの深さまでエッチングした位置の原子数濃度を位相シフト層12の表面原子数濃度としたが、表面組成を得るためのエッチング深さはこの値に制限されるものではない。
【0039】
その測定結果を図3の表に示す。図3によれば、実施例1において作製された位相シフト層12の表面の算術平均高さは0.402nmである。また、位相シフト層12の表面の算術平均高さは、基板11の表面の算術平均高さよりも0.04nm大きい。さらに、この位相シフト層12においては、表面から1.25nmの深さにおける酸素原子数濃度は42.6%であり、表面から85nmの深さ位置における酸素原子数濃度は26.8%であり、また、表面から1.25nmの深さにおける酸素原子数濃度の、位相シフト層12の表面から85nmの深さにおける酸素原子数濃度に対する比は1.59である。
【0040】
作製された位相シフトマスクブランクス10を、10分間UV洗浄した後、15分間スピン洗浄(メガソニック洗浄、アルカリ洗浄、ブラシ洗浄、リンス、スピン乾燥)し、スピンコーターにてフォトレジスト(ナガセケムテックス株式会社製 GRX-M237)を位相シフト層12の表面に塗布し、フォトレジスト層を形成した。マスクアライナーを使用して、2μmピッチのラインアンドスペースのパターンで露光した後、現像を行ってフォトレジスト層を部分的に除去し、レジストパターンを形成した。このレジストパターンをマスクとして、レジストパターンが形成された位相シフトマスクブランクス10をエッチング液(林純薬工業株式会社製 Pure Etch CR101)に浸漬してウェットエッチングを行うことにより、位相シフト層12にパターンを形成した。
【0041】
パターンを形成した後、これを割断し、走査型電子顕微鏡(SEM)でパターンの断面形状を観察し、フォトレジスト層と位相シフト層12の界面部分にエッチング液のしみ込みが発生したか否かを、パターンの断面形状にて確認した。実施例1において作製された位相シフトマスクブランクス10に形成されたフォトレジスト層を露光した後、ウェットエッチングにより位相シフト層12にパターンを形成した場合、フォトレジスト層と位相シフト層12の界面部分にエッチング液のしみ込みが発生していないことが確認された。
【0042】
(実施例2)
実施例1に用いた基板11と同様の合成石英ガラスからなる基板11を用意した。位相シフト層12を形成する際、実施例1においては、スパッタリングチャンバー21に導入する酸素(O)の流量を1.5sccmとしたが、本実施例では、酸素(O)の流量を3sccmとし、それ以外は、実施例1と同様の条件で位相シフト層12を形成した。実施例1と同様の項目について測定を行った。その測定結果を、図3の表に示す。
【0043】
図3によれば、実施例2において作製された位相シフト層12の表面の算術平均高さの値は0.417nmである。また、位相シフト層12の表面の算術平均高さは、基板11の表面の算術平均高さよりも0.05nm大きい。この位相シフト層12においては、表面から1.25nmの深さにおける酸素原子数濃度は43.5%であり、表面から85nmの深さ位置における酸素原子数濃度は27.2%であり、また、表面から1.25nmの深さにおける酸素原子数濃度の、位相シフト層12の表面から85nmの深さにおける酸素原子数濃度に対する比は1.60である。
実施例2において作製されたシフトマスクブランクス10にフォトレジスト層を形成した後、ウェットエッチングにより位相シフト層12にパターンを形成した場合、フォトレジスト層と位相シフト層12の界面部分にエッチング液のしみ込み現象が発生しないことが確認された。
【0044】
図4は、実施例1、2により作製された位相シフトマスクブランクス10に形成されたフォトレジスト層15を露光した後、ウェットエッチングによりパターン形成し、これを割断して、パターン断面を走査型電子顕微鏡(SEM)により観察した様子を模式的に示す図である。フォトレジスト層15と位相シフト層12の界面にエッチング液のしみ込みが発生していないことを示している。
【0045】
(比較例1)
実施例1に用いた基板11と同様の合成石英ガラスからなる基板51を用意した。位相シフト層を形成する際にスパッタリングチャンバー21には酸素を導入せず、すなわち、酸素(O)の導入量を0sccmとし、それ以外は、実施例1と同様の条件で位相シフト層を形成した。すなわち、比較例1においては、位相シフト層を形成する際にスパッタリングチャンバー21には酸素を導入しなかった。図6は、比較例1において作製された位相シフトマスクブランクス50の構成を示す模式図である。比較例1において作製された位相シフトマスクブランクス50の位相シフト層52の表面には、所定の算術平均高さの表面粗さが形成されていない。比較例1に係る位相シフトマスクブランクス50では、基板51の表面に形成された位相シフト層52について、実施例1と同様の項目について測定を行った。
【0046】
測定結果を、図3の表に示す。図3によれば、比較例1において作製された位相シフト層52の表面の算術平均高さの値は0.359nmである。また、この位相シフト層52においては、表面から1.25nmの深さにおける酸素原子数濃度は42.1%であり、表面から85nmの深さ位置における酸素原子数濃度は31.8%であり、表面から1.25nmの深さにおける酸素原子数濃度の、位相シフト層52の表面から85nmの深さにおける酸素原子数濃度に対する比は1.32である。また、比較例1において作製された位相シフト層52にフォトレジスト層を形成した位相シフトマスクブランクス50は、ウェットエッチングにより位相シフト層52にパターンを形成した場合、フォトレジスト層と位相シフト層52の界面部分にエッチング液のしみ込みが発生することが確認された。
【0047】
図7は、比較例1により作製された位相シフトマスクブランクス50に形成されたフォトレジスト層55を露光した後、ウェットエッチングによりパターン形成し、これを割断して、パターン断面を走査型電子顕微鏡(SEM)により観察した様子を模式的に示す図である。フォトレジスト層55と位相シフト層52との界面にエッチング液のしみ込みが発生したことによる傾斜面が、位相シフト層52に形成されていることを示している。
【0048】
このような傾斜面が生成された位相シフトマスクは、傾斜面が生成されたことにより本来の膜厚を有する位相シフト層の面積が小さくなるため、露光光の位相シフトの機能は低下する。その結果、このような位相シフトマスクを用いてデバイス用基板に回路パターンを形成すると、回路パターンの精度は低下する。従って、このような位相シフトマスクは、デバイスの製造に適さない。
以上の実験結果より、位相シフト層12の算術表面粗さは0.38nm以上であることが好ましい。また、位相シフト層12の表面から1.25nmの深さにおける酸素原子濃度は42.6%以上であることが好ましい。また、位相シフト層12の表面から1.25nmの深さにおける酸素原子濃度は、85nmの深さにおける酸素原子濃度よりも大きいことが好ましく、その比率は1.59よりも大きいことが好ましい。
かかる態様を有する本実施形態の位相シフトマスクブランクスは、ウェットエッチングの際にフォトレジストと位相シフト層との間にエッチング液がしみ込み難い傾向にあり、フォトレジスト露光時の露光光のパターンに対して、正確なマスクパターンを形成することができる。
【0049】
所望のコントラスト性能が得られる範囲内であれば、位相シフト層12の表面の算術平均高さは特に制限されない。しかし、位相シフト層12の表面の算術平均高さが大きくなり過ぎると、位相シフト層12の表面における露光光の散乱が大きくなり、露光パターンのエッジにおけるシャープネスが低下するので、表面の算術平均高さSaの上限値は1.0nmとすることが好ましい。
【0050】
X線光電子分光分析装置による原子数濃度の測定結果から、本実施の形態において形成されたCrOCN膜による位相シフト層12において、酸素は化学量論比よりも多い。これにより、フォトレジスト層と位相シフト層12との密着性を向上させ、エッチング液のしみ込みを抑制できる。例えば、本実施の形態における位相シフト層12は、CrOCN(Cr:O:C:N=51:27:5:18 原子%比)による膜で形成してもよい。なお本明細書においてCrOCN膜の組成が化学量論比であるとは、原子数比がCr:O:C:N=1:1:1:1であることをいう。
【0051】
位相シフトマスクブランクス10の基板11の表面は、研磨加工により仕上げられている。一方、位相シフト層12はスパッタリングによって形成される。従って、通常、位相シフト層12表面の算術平均高さは、基板11表面の算術平均高さよりも大きいが、位相シフト層12表面の算術平均高さを基板11の算術平均高さより所定の値だけ大きくすることで、このような位相シフトマスクブランクスに形成されたフォトレジストパターンの密着性を良好にすることができる。例えば、位相シフト層12表面の算術平均高さを基板11表面の算術平均高さより0.04nm以上大きくすることでこのような効果が得られる。位相シフト層12の表面における露光光の散乱の観点から、位相シフト層12の表面の算術平均高さと基板11の表面の算術平均高さとの差の上限値は1.0nmとすることが好ましい。
【0052】
次のような変形例も本発明の範囲内であり、変形例の一つもしくは複数を上述の実施形態と組み合わせることも可能である。
【0053】
(変形例1)
上述した実施の形態では、位相シフト層12をスパッタリングにより形成する際に、スパッタリングチャンバー内に導入する酸素の流量を調整して、位相シフト層12表面の算術平均高さを所定の範囲とした。しかし、スパッタリングチャンバー内に導入する酸素流量の調整に代えて、位相シフト層12を形成後、その表面をドライエッチングまたはウェットエッチングすることによって、表面凹凸を所定の算術平均高さに形成してもよい。それにより、そのような位相シフト層12の表面に形成されるフォトレジスト層と位相シフト層12との密着性を向上させることが可能となる。
【0054】
(変形例2)
上述の実施の形態および変形例で説明した位相シフトマスクブランクス10は、表示装置製造用、半導体製造用、プリント基板製造用の位相シフトマスクを作製するための位相シフトマスクブランクスとして適用され得る。なお、表示装置製造用の位相シフトマスクを作製するための位相シフトマスクブランクスの場合には、基板11として520mm×800mm以上のサイズの基板を用いることができる。また、基板11の厚さは、8~21mmであってよい。
【0055】
(露光装置)
次に、実施例1、2により作製された位相シフトマスクブランクス10を用いて作製した位相シフトマスクの適用例として、半導体製造や液晶パネル製造のフォトリソグラフィ工程について、図5を参照して説明する。露光装置500には、実施例1、2により作製された位相シフトマスクブランクス10を用いて作製した位相シフトマスク513が配置される。また、露光装置500には、フォトレジストが塗布された感光性基板515がセットされる。
【0056】
露光装置500は、光源LSと、照明光学系502と、位相シフトマスク513を保持するマスク支持台503と、投影光学系504と、露光対象物である感光性基板515を保持する露光対象物支持テーブル505と、露光対象物支持テーブル505を水平面内で移動させる駆動機構506とを備える。露光装置500の光源LSから出射された露光光は、照明光学系502に入射して所定光束に調整され、マスク支持台503に保持された位相シフトマスク513に照射される。位相シフトマスク513を通過した光は位相シフトマスク513に描かれたデバイスパターンの像を有しており、この光が投影光学系504を介して露光対象物支持テーブル505に保持された感光性基板515の所定位置に照射される。これにより、位相シフトマスク513のデバイスパターンの像が、半導体ウェハや液晶パネル等の感光性基板515に所定倍率で結像露光される。
実施の形態の位相シフトマスクを用いることにより、露光工程におけるパターン不良を低減することができ、露光工程における歩留まりを向上させることができる。
【0057】
上記では、種々の実施の形態および変形例を説明したが、本発明はこれらの内容に限定されるものではない。本発明の技術的思想の範囲内で考えられるその他の態様も本発明の範囲内に含まれる。
【0058】
次の優先権基礎出願の開示内容は引用文としてここに組み込まれる。
日本国特許出願2018年第172898号(2018年9月14日出願)
【符号の説明】
【0059】
10…位相シフトマスクブランクス、11…基板、12…位相シフト層、100…製造装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7