(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-03
(45)【発行日】2022-10-12
(54)【発明の名称】含フッ素エーテル化合物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C09K 3/18 20060101AFI20221004BHJP
C08G 65/333 20060101ALI20221004BHJP
C08G 65/336 20060101ALI20221004BHJP
C08G 65/337 20060101ALI20221004BHJP
【FI】
C09K3/18 103
C08G65/333
C08G65/336
C08G65/337
C09K3/18 104
(21)【出願番号】P 2021149483
(22)【出願日】2021-09-14
(62)【分割の表示】P 2018537133の分割
【原出願日】2017-08-18
【審査請求日】2021-09-14
(31)【優先権主張番号】P 2016167697
(32)【優先日】2016-08-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】星野 泰輝
(72)【発明者】
【氏名】青山 元志
(72)【発明者】
【氏名】高尾 清貴
【審査官】中田 光祐
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-48846(JP,A)
【文献】国際公開第2013/121984(WO,A1)
【文献】特開2000-327772(JP,A)
【文献】特開昭61-12751(JP,A)
【文献】特開昭62-178592(JP,A)
【文献】米国特許第3646085(US,A)
【文献】特開2004-323408(JP,A)
【文献】特開2013-144726(JP,A)
【文献】国際公開第2016/092900(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 3/18
C08G 65/00-67/04
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下式(3)で表される化合物または下式(4)で表される化合物と、下式(5)で表される化合物とを反応させて下式(2)で表される化合物を得
、得られた下式(2)で表される化合物をヒドロシリル化反応させる、
表面処理剤の製造方法。
R
f(CF
2)
a-CF
2OC(=O)R
f4 (3)
R
f(CF
2)
a-C(=O)X
1 (4)
HN(-R
1CH=CH
2)
2 (5)
R
f(CF
2)
a-C(=O)N(-R
1CH=CH
2)
2 (2)
ただし、
R
fは、炭素原子-炭素原子間にエーテル性酸素原子を1つ以上有する、炭素数2以上で直鎖状のポリフルオロアルコキシ基であり、
R
f4は、炭素数1~30のペルフルオロアルキル基、または炭素原子-炭素原子間にエーテル性酸素原子を有する炭素数2~30のペルフルオロアルキル基であり、
X
1は、ハロゲン原子であり、
R
1は、アルキレン基であり、
aは、1~5の整数である。
【請求項2】
前記R
fが、炭素原子-炭素原子間にエーテル性酸素原子を1つ以上有する、炭素数2以上で直鎖状のペルフルオロアルコキシ基である、請求項1に記載の
表面処理剤の製造方法。
【請求項3】
前記R
f(CF
2)
a-が、下式(7)で表される基である、請求項1に記載の
表面処理剤の製造方法。
R
f1O(R
f2O)
m1(R
f3O)
m2(CF
2)
a- (7)
ただし、
m1は0~10の整数であり、m2は2~200の整数であり、
R
f1は、m1が0のときは炭素数1~20で直鎖状のペルフルオロアルキル基であり、m1が1以上のときは炭素数1~20で直鎖状のペルフルオロアルキル基、または炭素原子-炭素原子間にエーテル性酸素原子を1つ以上有する、炭素数2~20で直鎖状のペルフルオロアルキル基であり、
R
f2は、1つ以上の水素原子を有する、炭素数1~10で直鎖状のフルオロアルキレン基であり、m1が2以上のときは(R
f2O)
m1は炭素数および水素数の少なくとも一方が異なる2種以上のR
f2Oからなるものであってもよく、
R
f3は、炭素数1~10で直鎖状のペルフルオロアルキレン基であり、(R
f3O)
m2は、炭素数の異なる2種以上のR
f3Oからなるものであってもよい。
【請求項4】
前記m1が0~3の整数である、請求項3に記載の
表面処理剤の製造方法。
【請求項5】
前記(R
f3O)
m2が、{(CF
2O)
m21(CF
2CF
2O)
m22}である(ただし、m21およびm22は、それぞれ1以上の整数であり、m21+m22は、2~200の整数であり、m21個のCF
2Oおよびm22個のCF
2CF
2Oの結合順序は限定されない。)か、または(CF
2CF
2OCF
2CF
2CF
2CF
2O)
m25CF
2CF
2Oである(ただし、m25は、1~99の整数である。)、請求項3または4に記載の
表面処理剤の製造方法。
【請求項6】
前記R
f(CF
2)
a-が、下式(7-1)で表される基、下式(7-2)で表される基、または下式(7-3)で表される基である、請求項3~5のいずれか一項に記載の
表面処理剤の製造方法。
R
f11O{(CF
2O)
m21(CF
2CF
2O)
m22}CF
2- (7-1)
R
f11OCHFCF
2OCH
2CF
2O{(CF
2O)
m21(CF
2CF
2O)
m22}CF
2- (7-2)
R
f11O(CF
2CF
2OCF
2CF
2CF
2CF
2O)
m25CF
2CF
2OCF
2CF
2CF
2- (7-3)
ただし、
R
f11は、炭素数1~20のペルフルオロアルキル基であり、
m21およびm22は、それぞれ1以上の整数であり、m21+m22は、2~200の整数であり、m21個のCF
2Oおよびm22個のCF
2CF
2Oの結合順序は限定されず、
m25は、1~99の整数である。
【請求項7】
前記m1が0である、請求項3に記載の
表面処理剤の製造方法。
【請求項8】
前記式(5)で表される化合物がジアリルアミンである、請求項1~7のいずれか一項に記載の
表面処理剤の製造方法。
【請求項9】
前記化合物(3)または前記化合物(4)と、前記化合物(5)とを液状媒体中で反応させる、請求項1~8のいずれか一項に記載の
表面処理剤の製造方法。
【請求項10】
前記ヒドロシリル化反応が、前記式(2)で表される化合物と下式(6)で表される化合物とを反応させて下式(1)で表される化合物を得る
反応である、
請求項1~9のいずれか一項に記載の表面処理剤の製造方法。
HSiR
2
nL
3-n (6)
R
f(CF
2)
a-C(=O)N(-R
1CH
2CH
2SiR
2
nL
3-n)
2 (1)
ただし、
R
2は、1価の炭化水素基であり、
Lは、加水分解性基であり、
nは、0~2の整数である。
【請求項11】
前記R
2が、炭素数4以下のアルキル基である、請求項10に記載の
表面処理剤の製造方法。
【請求項12】
前記Lが、炭素数4以下のアルコキシ基または塩素原子である、請求項10または11に記載の
表面処理剤の製造方法。
【請求項13】
前記表面処理剤が、指紋付着防止剤である、請求項1~12のいずれか一項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含フッ素エーテル化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
含フッ素化合物は、高い潤滑性、撥水撥油性等を示すため、表面処理剤に好適に用いられる。該表面処理剤によって基材の表面に撥水撥油性を付与すると、基材の表面の汚れを拭き取りやすくなり、汚れの除去性が向上する。該含フッ素化合物の中でも、ペルフルオロアルキル鎖の途中にエーテル結合(-O-)が存在するポリ(オキシペルフルオロアルキレン)鎖を有する含フッ素エーテル化合物は、特に油脂等の汚れの除去性に優れる。
【0003】
含フッ素エーテル化合物を含む表面処理剤としては、たとえば、基材の表面に指紋汚れ除去性を付与する指紋付着防止剤、ハードコート層形成用組成物に添加されてハードコート層に指紋汚れ除去性、油性インクはじき性等を付与するハードコート層用撥水撥油剤等が挙げられる。指紋付着防止剤としては、加水分解性シリル基を有する含フッ素エーテル化合物を含むものが挙げられる。ハードコート層用撥水撥油剤としては、重合性炭素-炭素二重結合を有する含フッ素エーテル化合物を含むものが挙げられる。
【0004】
加水分解性シリル基を有する含フッ素エーテル化合物としては、たとえば、化合物(11)が知られている(特許文献1)。
F(CF(CF3)CF2O)mCF(CF3)-C(=O)N[CH2CH2CH2Si(OCH3)3]2 (11)
ただし、mは、6~50の整数である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1には、化合物(11)は、化合物(12)とトリメトキシシランとを反応させて得られると記載されている。
F(CF(CF3)CF2O)mCF(CF3)-C(=O)N(CH2CH=CH2)2 (12)
【0007】
しかし、特許文献1には、化合物(12)がどのように得られるかについての記載はなく、その収率についても不明である。
また、化合物(11)を含む指紋付着防止剤によって表面処理された基材の表面、化合物(12)を含む撥水撥油剤を添加されたハードコート層は、耐摩擦性および潤滑性が不充分である。
【0008】
本発明は、基材の表面やハードコート層に優れた撥水撥油性、耐摩擦性、指紋汚れ除去性および潤滑性を付与できる含フッ素エーテル化合物を高収率で簡便に製造できる含フッ素エーテル化合物の製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、以下の[1]~[12]の構成を有する含フッ素エーテル化合物の製造方法を提供する。
[1]下式(3)で表される化合物または下式(4)で表される化合物と、下式(5)で表される化合物とを反応させて下式(2)で表される化合物を得る、含フッ素エーテル化合物の製造方法。
Rf(CF2)a-CF2OC(=O)Rf4 (3)
Rf(CF2)a-C(=O)X1 (4)
HN(-R1CH=CH2)2 (5)
Rf(CF2)a-C(=O)N(-R1CH=CH2)2 (2)
ただし、
Rfは、炭素原子-炭素原子間にエーテル性酸素原子を1つ以上有する、炭素数2以上で直鎖状のポリフルオロアルコキシ基であり、
Rf4は、炭素数1~30のペルフルオロアルキル基、または炭素原子-炭素原子間にエーテル性酸素原子を有する炭素数2~30のペルフルオロアルキル基であり、
X1は、ハロゲン原子であり、
R1は、アルキレン基であり、
aは、1~5の整数である。
[2]前記Rfが、炭素原子-炭素原子間にエーテル性酸素原子を1つ以上有する、炭素数2以上で直鎖状のペルフルオロアルコキシ基である、[1]の含フッ素エーテル化合物の製造方法。
【0010】
[3]前記Rf(CF2)a-が、下式(7)で表される基である、[1]の含フッ素エーテル化合物の製造方法。
Rf1O(Rf2O)m1(Rf3O)m2(CF2)a- (7)
ただし、
m1は0~10の整数であり、m2は2~200の整数であり、
Rf1は、m1が0のときは炭素数1~20で直鎖状のペルフルオロアルキル基であり、m1が1以上のときは炭素数1~20で直鎖状のペルフルオロアルキル基、または炭素原子-炭素原子間にエーテル性酸素原子を1つ以上有する、炭素数2~20で直鎖状のペルフルオロアルキル基であり、
Rf2は、1つ以上の水素原子を有する、炭素数1~10で直鎖状のフルオロアルキレン基であり、m1が2以上のときは(Rf2O)m1は炭素数および水素数の少なくとも一方が異なる2種以上のRf2Oからなるものであってもよく、
Rf3は、炭素数1~10で直鎖状のペルフルオロアルキレン基であり、(Rf3O)m2は、炭素数の異なる2種以上のRf3Oからなるものであってもよい。
[4]前記m1が0~3の整数である、[3]の含フッ素エーテル化合物の製造方法。
【0011】
[5]前記(Rf3O)m2が、{(CF2O)m21(CF2CF2O)m22}である(ただし、m21およびm22は、それぞれ1以上の整数であり、m21+m22は、2~200の整数であり、m21個のCF2Oおよびm22個のCF2CF2Oの結合順序は限定されない。)か、または(CF2CF2OCF2CF2CF2CF2O)m25CF2CF2Oである(ただし、m25は、1~99の整数である。)、[3]または[4]の含フッ素エーテル化合物の製造方法。
[6]前記Rf(CF2)a-が、下式(7-1)で表される基、下式(7-2)で表される基、または下式(7-3)で表される基である、[3]~[5]のいずれかの含フッ素エーテル化合物の製造方法。
Rf11O{(CF2O)m21(CF2CF2O)m22}CF2- (7-1)
Rf11OCHFCF2OCH2CF2O{(CF2O)m21(CF2CF2O)m22}CF2- (7-2)
Rf11O(CF2CF2OCF2CF2CF2CF2O)m25CF2CF2OCF2CF2CF2- (7-3)
ただし、
Rf11は、炭素数1~20のペルフルオロアルキル基であり、
m21およびm22は、それぞれ1以上の整数であり、m21+m22は、2~200の整数であり、m21個のCF2Oおよびm22個のCF2CF2Oの結合順序は限定されず、
m25は、1~99の整数である。
[7]前記m1が0である、[3]の含フッ素エーテル化合物の製造方法。
【0012】
[8]前記式(5)で表される化合物がジアリルアミンである、[1]~[7]のいずれかの含フッ素エーテル化合物の製造方法。
[9]前記化合物(3)または前記化合物(4)と、前記化合物(5)とを液状媒体中で反応させる、[1]~[8]のいずれかの含フッ素エーテル化合物の製造方法。
[10]前記[1]~[9]のいずれかの含フッ素エーテル化合物の製造方法によって前記式(2)で表される化合物を得て、
前記式(2)で表される化合物と下式(6)で表される化合物とを反応させて下式(1)で表される化合物を得る、含フッ素エーテル化合物の製造方法。
HSiR2
nL3-n (6)
Rf(CF2)a-C(=O)N(-R1CH2CH2SiR2
nL3-n)2 (1)
ただし、
R2は、1価の炭化水素基であり、
Lは、加水分解性基であり、
nは、0~2の整数である。
[11]前記R2が、炭素数4以下のアルキル基である、[10]の含フッ素エーテル化合物の製造方法。
[12]前記Lが、炭素数4以下のアルコキシ基または塩素原子である、[10]または[11]の含フッ素エーテル化合物の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明の含フッ素エーテル化合物の製造方法によれば、基材の表面やハードコート層に優れた撥水撥油性、耐摩擦性、指紋汚れ除去性および潤滑性を付与できる含フッ素エーテル化合物を高収率で簡便に製造できる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本明細書において、式(1)で表される化合物を化合物(1)と記す。他の式で表される化合物も同様に記す。
オキシペルフルオロアルキレン基の化学式は、その酸素原子をペルフルオロアルキレン基の右側に記載して表すものとする。他のオキシフルオロアルキレン基も同様に表すものとする。
本明細書における以下の用語の意味は、以下の通りである。
「エーテル性酸素原子」とは、炭素原子-炭素原子間においてエーテル結合(-O-)を形成する酸素原子を意味する。
「加水分解性シリル基」とは、加水分解反応することによってシラノール基(Si-OH)を形成し得る基を意味する。たとえば、式(1)中のSiR2
nL3-nである。
含フッ素エーテル化合物の「数平均分子量」は、NMR分析法を用い、下記の方法で算出される。
1H-NMRおよび19F-NMRによって、末端基を基準にしてオキシペルフルオロアルキレン基の数(平均値)を求めることによって算出される。末端基は、たとえば式中のRf1またはSiR2
nL3-nである。
【0015】
本発明の製造方法によって得られる含フッ素エーテル化合物(以下、本化合物とも記す。)の第1の態様は、化合物(2)である。
Rf(CF2)a-C(=O)N(-R1CH=CH2)2 (2)
ただし、Rfは、炭素原子-炭素原子間にエーテル性酸素原子を1つ以上有する、炭素数2以上で直鎖状のポリフルオロアルコキシ基であり、R1はアルキレン基であり、aは1~5の整数である。
【0016】
本発明の製造方法によって得られる本化合物の第2の態様は、化合物(1)である。
Rf(CF2)a-C(=O)N(-R1CH2CH2SiR2
nL3-n)2 (1)
ただし、Rf、R1、aは、式(2)におけるRf、R1、aと同様であり、R2は1価の炭化水素基であり、Lは加水分解性基であり、nは0~2の整数である。
【0017】
化合物(2)は、ハードコート層形成用組成物に添加されてハードコート層に指紋汚れ除去性、油性インクはじき性等を付与するハードコート層用撥水撥油剤として用いることができる。また、化合物(2)は、化合物(1)を製造する際の中間体として用いることができる。
化合物(1)は、基材の表面に指紋汚れ除去性を有する表面層を形成する指紋付着防止剤として用いることができる。
【0018】
本化合物は、Rf(CF2)a-を有するため、フッ素原子の含有量が多い。そのため、指紋付着防止剤から形成される表面層(以下、単に表面層と記すことがある。)やハードコート層に優れた撥水撥油性、耐摩擦性、指紋汚れ除去性を付与できる。
また、Rf(CF2)a-が直鎖構造を有するため、表面層やハードコート層は耐摩擦性および潤滑性に優れる。一方、ポリ(オキシペルフルオロアルキレン)鎖が分岐構造を有する従来の含フッ素エーテル化合物では、表面層やハードコート層は耐摩擦性および潤滑性が不充分である。
【0019】
Rfとしては、表面層やハードコート層の撥水撥油性、耐摩擦性、指紋汚れ除去性にさらに優れる点からは、炭素原子-炭素原子間にエーテル性酸素原子を1つ以上有する、炭素数2以上で直鎖状のペルフルオロアルコキシ基が好ましい。
【0020】
Rf(CF2)a-としては、表面層やハードコート層の撥水撥油性、耐摩擦性、指紋汚れ除去性、潤滑性にさらに優れる点からは、下式(7)で表される基が好ましい。
Rf1O(Rf2O)m1(Rf3O)m2(CF2)a- (7)
ただし、
m1は0~10の整数であり、m2は2~200の整数である。
Rf1は、m1が0のときは炭素数1~20で直鎖状のペルフルオロアルキル基であり、m1が1以上のときは炭素数1~20で直鎖状のペルフルオロアルキル基、または炭素原子-炭素原子間にエーテル性酸素原子を1つ以上有する、炭素数2~20で直鎖状のペルフルオロアルキル基である。
Rf2は、1つ以上の水素原子を有する、炭素数1~10で直鎖状のフルオロアルキレン基であり、m1が2以上のときは(Rf2O)m1は炭素数および水素数の少なくとも一方が異なる2種以上のRf2Oからなるものであってもよい。
Rf3は、炭素数1~10で直鎖状のペルフルオロアルキレン基であり、(Rf3O)m2は、炭素数の異なる2種以上のRf3Oからなるものであってもよい。
【0021】
Rf1の炭素数としては、表面層やハードコート層の潤滑性および耐摩擦性にさらに優れる点から、1~6が好ましく、1~3が特に好ましい。
Rf1としては、たとえば、CF3-、CF3CF2-、CF3CF2CF2-等が挙げられる。m1が1以上のときは、さらに、CF3OCF2CF2-、CF3CF2OCF2CF2-、CF3CF2CF2OCF2CF2-等が挙げられる。
【0022】
Rf1が末端にCF3-を有するため、本化合物の一方の末端がCF3-となる。該構造の本化合物によれば、低表面エネルギーの表面層やハードコート層を形成できるため、表面層やハードコート層は潤滑性および耐摩擦性に優れる。
【0023】
Rf2における水素原子の数は、表面層やハードコート層の外観に優れる点から、1以上であり、2以上が好ましく、3以上が特に好ましい。Rf2における水素原子の数は、表面層やハードコート層の撥水撥油性にさらに優れる点から、(Rf2の炭素数)以下が好ましい。
Rf2が水素原子を有することによって、本化合物の液状媒体等への溶解性が高くなる。そのため、化合物(1)が凝集しにくいため、表面層やハードコート層の外観にさらに優れる。
Rf2の炭素数としては、表面層やハードコート層の潤滑性および耐摩擦性にさらに優れる点からは、1~6が好ましく、1~3が特に好ましい。
【0024】
m1が0でない場合は、m1は5以下の整数が好ましく、1~3の整数が特に好ましい。m1が前記範囲の下限値以上であれば、表面層やハードコート層の外観に優れる。m1が前記範囲の上限値以下であれば、表面層やハードコート層の撥水撥油性、耐摩擦性、指紋汚れ除去性、潤滑性に優れる。
(Rf2O)m1において、2種以上のRf2Oが存在する場合、各Rf2Oの結合順序は限定されない。
【0025】
(Rf2O)m1としては、本化合物の製造のしやすさの点から、m1が0であることが好ましく、またm1が0でない場合は、-CHFCF2OCH2CF2O-、-CF2CHFCF2OCH2CF2O-、-CF2CF2CHFCF2OCH2CF2O-および-CF2CH2OCH2CF2O-からなる群から選ばれる基が好ましい。
【0026】
Rf3としては、表面層やハードコート層の耐摩擦性および潤滑性にさらに優れる点から、炭素数1~6で直鎖状のペルフルオロアルキレン基が好ましく、炭素数1~4で直鎖状のペルフルオロアルキレン基がより好ましく、表面層やハードコート層の潤滑性にさらに優れる点からは、炭素数1~2で直鎖状のペルフルオロアルキレン基が特に好ましい。
【0027】
(Rf3O)m2を有する本化合物は、フッ素原子の含有量がさらに多い。そのため、撥水撥油性、耐摩擦性、指紋汚れ除去性にさらに優れる表面層やハードコート層を形成できる。
また、Rf3が直鎖状のペルフルオロアルキレン基であるため、(Rf3O)m2が直鎖構造となる。該構造の本化合物によれば、表面層やハードコート層の耐摩擦性および潤滑性に優れる。
【0028】
m2は、5~150の整数が好ましく、10~100の整数が特に好ましい。m2が前記範囲の下限値以上であれば、表面層やハードコート層の撥水撥油性に優れる。m2が前記範囲の上限値以下であれば、表面層やハードコート層の耐摩擦性に優れる。すなわち、本化合物の数平均分子量が大きすぎると、単位分子量あたりに存在する加水分解性シリル基や重合性炭素-炭素二重結合の数が少ないため、耐摩擦性が低下する。
(Rf3O)m2において、2種以上のRf3Oが存在する場合、各Rf3Oの結合順序は限定されない。たとえば、CF2OとCF2CF2Oが存在する場合、CF2OとCF2CF2Oがランダム、交互、ブロックに配置されてもよい。
【0029】
(Rf3O)m2としては、表面層やハードコート層の耐摩擦性、指紋汚れ除去性、潤滑性にさらに優れる点から、{(CF2O)m21(CF2CF2O)m22}、(CF2CF2O)m23、(CF2CF2CF2O)m24、(CF2CF2OCF2CF2CF2CF2O)m25CF2CF2Oが好ましく、{(CF2O)m21(CF2CF2O)m22}、(CF2CF2OCF2CF2CF2CF2O)m25CF2CF2Oが特に好ましい。
ただし、m21は1以上の整数であり、m22は1以上の整数であり、m21+m22は2~200の整数であり、m21個のCF2Oおよびm22個のCF2CF2Oの結合順序は限定されない。m23およびm24は、2~200の整数であり、m25は、1~99の整数である。
【0030】
aは、1~5の整数である。aは、Rf3の炭素数に依存する。
(CF2)aは、たとえば(Rf3O)m2が、{(CF2O)m21(CF2CF2O)m22}または(CF2CF2O)m23である場合、-CF2-であり、(CF2CF2CF2O)m24である場合、-CF2CF2-であり、(CF2CF2O-CF2CF2CF2CF2O)m25CF2CF2Oである場合、-CF2CF2CF2-である。
(CF2)aが直鎖状である本化合物であれば、耐摩擦性および潤滑性に優れる表面層やハードコート層を形成できる。
【0031】
式(7)で表される基としては、表面層やハードコート層の撥水撥油性、耐摩擦性、指紋汚れ除去性、潤滑性、さらに外観にもさらに優れる点および本化合物の製造のしやすさの点から、下式(7-1)で表される基、下式(7-2)で表される基、または下式(7-3)で表される基が好ましく、下式(7-3)で表される基が特に好ましい。
Rf11O{(CF2O)m21(CF2CF2O)m22}CF2- (7-1)
Rf11OCHFCF2OCH2CF2O{(CF2O)m21(CF2CF2O)m22}CF2- (7-2)
Rf11O(CF2CF2OCF2CF2CF2CF2O)m25CF2CF2OCF2CF2CF2- (7-3)
ただし、Rf11は炭素数1~20で直鎖状のペルフルオロアルキル基であり、m21およびm22は、それぞれ1以上の整数であり、m21+m22は、2~200の整数であり、m21個のCF2Oおよびm22個のCF2CF2Oの結合順序は限定されない。また、m25は、1~99の整数である。
【0032】
R1は、アルキレン基である。
R1としては、本化合物の製造のしやすさの点から、炭素数1~4のアルキレン基が好ましく、-CH2-が特に好ましい。
【0033】
SiR2
nL3-nは、加水分解性シリル基である。
化合物(1)は、末端に加水分解性シリル基を有する。該構造の化合物(1)は基材と強固に化学結合する。
【0034】
Lは、加水分解性基である。加水分解性基は、加水分解反応によって水酸基となる基である。すなわち、化合物(1)の末端のSi-Lは、加水分解反応によってシラノール基(Si-OH)となる。シラノール基は、さらに分子間で反応してSi-O-Si結合を形成する。また、シラノール基は、基材の表面の水酸基(基材-OH)と脱水縮合反応して、化学結合(基材-O-Si)を形成する。
【0035】
Lとしては、アルコキシ基、ハロゲン原子、アシル基、イソシアナート基(-NCO)等が挙げられる。アルコキシ基としては、炭素数1~4のアルコキシ基が好ましい。ハロゲン原子としては塩素原子が好ましく、アシル基としては炭素数炭素数2~5が好ましい。
Lとしては、化合物(1)の製造のしやすさの点から、炭素数1~4のアルコキシ基またはハロゲン原子が好ましい。ハロゲン原子としては、塩素原子が特に好ましい。Lとしては、塗布時のアウトガスが少なく、化合物(1)の保存安定性に優れる点から、炭素数1~4のアルコキシ基が好ましく、化合物(1)の長期の保存安定性が必要な場合にはエトキシ基が特に好ましく、塗布後の反応時間を短時間とする場合にはメトキシ基が特に好ましい。
【0036】
R2は、1価の炭化水素基である。1価の炭化水素基としては、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アリール基等が挙げられる。
R2としては、アルキル基が好ましい。アルキル基の炭素数は、1~6が好ましく、1~3がより好ましく、1~2が特に好ましい。R2の炭素数がこの範囲であれば、化合物(1)を製造しやすい。
【0037】
nは、0または1が好ましく、0が特に好ましい。1つの加水分解性シリル基にLが複数存在することによって、基材との密着性がより強固になる。
【0038】
SiR2
nL3-nとしては、Si(OCH3)3、SiCH3(OCH3)2、Si(OCH2CH3)3、SiCl3、Si(OCOCH3)3、Si(NCO)3が好ましい。工業的な製造における取扱いやすさの点から、Si(OCH3)3が特に好ましい。
【0039】
(本化合物)
本化合物は、1種の化合物(1)からなる単一化合物、または1種の化合物(2)からなる単一化合物であってもよく、Rf、R1、a、SiR2
nL3-n等が異なる2種以上の化合物(1)からなる混合物、または2種以上の化合物(2)からなる混合物であってもよい。
本発明における単一化合物とは、Rfにおけるオキシペルフルオロアルキレン基の数以外は同一の化合物であることを意味する。たとえばRf(CF2)a-が式(7-1)の場合、本化合物は通常、m21およびm22が異なる複数種の化合物の混合物として製造されるが、このような場合であっても、m21およびm22が分布を有する一群の化合物群を1種類の本化合物と見なす。
【0040】
本化合物の数平均分子量は、1,000~15,000が好ましく、1,500~10,000がより好ましく、2,000~8,000が特に好ましい。本化合物の数平均分子量が該範囲内であれば、表面層やハードコート層の耐摩擦性に優れる。
【0041】
本化合物の製造方法の第1の態様は、化合物(3)または化合物(4)と、化合物(5)とを反応させて化合物(2)を得る方法である。
Rf(CF2)a-CF2OC(=O)Rf4 (3)
Rf(CF2)a-C(=O)X1 (4)
HN(-R1CH=CH2)2 (5)
Rf(CF2)a-C(=O)N(-R1CH=CH2)2 (2)
ただし、Rf、R1、aは、上述したとおりであり、Rf4は、炭素数1~30のペルフルオロアルキル基、または炭素原子-炭素原子間にエーテル性酸素原子を有する炭素数2~30のペルフルオロアルキル基であり、X1はハロゲン原子である。
【0042】
Rf4としては、カラム精製等によって化合物(2)と、Rf4を有する副生物とを分離しやすい点から、炭素数の少ない基が好ましく、炭素数1~20のペルフルオロアルキル基、または炭素原子-炭素原子間にエーテル性酸素原子を有する炭素数2~20のペルフルオロアルキル基が特に好ましい。
X1としては、化合物(4)の入手のしやすさの点から、フッ素原子が特に好ましい。
【0043】
化合物(3)および化合物(4)は、たとえば、国際公開第2013/121984号、国際公開第2014/163004号、国際公開第2015/087902号等に記載の方法によって製造できる。
化合物(5)としては、ジアリルアミン、ジ(3-ブテニル)アミン、ジ(4-ペンテニル)アミン、ジ(5-ヘキセニル)アミン等が挙げられ、化合物(5)の入手のしやすさの点から、ジアリルアミンが特に好ましい。
【0044】
化合物(3)、化合物(4)および化合物(5)を適宜選択し、これらを反応させることによって所望の化合物(2)を製造できる。
たとえば、液状媒体中にて化合物(3)または化合物(4)と、化合物(5)とを反応させ、化合物(2)および副生物を含む粗生成物を得る。粗生成物から公知の手段(カラム精製等)によって化合物(2)を分取する。
【0045】
液状媒体としては、フッ素系有機溶媒等が挙げられる。
フッ素系有機溶媒としては、フッ素化アルカン、フッ素化芳香族化合物、フルオロアルキルエーテル、フッ素化アルキルアミン、フルオロアルコール等が挙げられる。
フッ素化アルカンとしては、炭素数4~8の化合物が好ましい。市販品としては、たとえばC6F13H(旭硝子社製、アサヒクリン(登録商標)AC-2000)、C6F13C2H5(旭硝子社製、アサヒクリン(登録商標)AC-6000)、C2F5CHFCHFCF3(ケマーズ社製、バートレル(登録商標)XF)等が挙げられる。
フッ素化芳香族化合物としては、たとえばヘキサフルオロベンゼン、トリフルオロメチルベンゼン、ペルフルオロトルエン、ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン等が挙げられる。
フルオロアルキルエーテルとしては、炭素数4~12の化合物が好ましい。市販品としては、たとえばCF3CH2OCF2CF2H(旭硝子社製、アサヒクリン(登録商標)AE-3000)、C4F9OCH3(3M社製、ノベック(登録商標)7100)、C4F9OC2H5(3M社製、ノベック(登録商標)7200)、C2F5CF(OCH3)C3F7(3M社製、ノベック(登録商標)7300)等が挙げられる。
フッ素化アルキルアミンとしては、たとえばペルフルオロトリプロピルアミン、ペルフルオロトリブチルアミン等が挙げられる。
フルオロアルコールとしては、たとえば2,2,3,3-テトラフルオロプロパノール、2,2,2-トリフルオロエタノール、ヘキサフルオロイソプロパノール等が挙げられる。
【0046】
化合物(3)または化合物(4)と、化合物(5)との反応は、加熱等を行うことなく、これらを混合するだけで進行する。そのため、化合物(2)を高収率で簡便に製造できる。
反応温度は、通常、0~40℃である。反応時間は、通常、0.5~8時間である。
【0047】
本化合物の製造方法の第2の態様は、化合物(2)と化合物(6)とを反応させて化合物(1)を得る方法である。
Rf(CF2)a-C(=O)N(-R1CH=CH2)2 (2)
HSiR2
nL3-n (6)
Rf(CF2)a-C(=O)N(-R1CH2CH2SiR2
nL3-n)2 (1)
ただし、Rf、R1、a、R2、L、nは、上述したとおりである。
【0048】
化合物(6)としては、トリメトキシシラン、トリエトキシシラン、メチルジメトキシシラン、トリクロロシラン等が挙げられ、トリメトキシシランが好ましい。
【0049】
化合物(2)および化合物(6)を適宜選択し、これらを反応させることによって所望の化合物(1)を製造できる。
たとえば、液状媒体中にて化合物(2)と化合物(6)とをヒドロシリル化反応させて、化合物(1)を得る。
【0050】
液状媒体としては、フッ素系有機溶媒等が挙げられる。
ヒドロシリル化反応は、白金等の遷移金属触媒、または有機過酸化物等のラジカル発生剤を用いて行うことが好ましい。
ヒドロシリル化反応は、遷移金属触媒またはラジカル発生剤の存在下に、加熱等を行うことなく、化合物(2)と化合物(6)とを混合するだけで進行する。そのため、化合物(1)を高収率で簡便に製造できる。
反応温度は、通常、0~100℃である。反応時間は、通常、1~24時間である。
【0051】
化合物(1)は、指紋付着防止剤として用いることができる。
指紋付着防止剤は、化合物(1)のみからなるものであってもよく、化合物(1)と、化合物(1)以外の他の含フッ素エーテル化合物とを含む組成物(以下、組成物(A)とも記す。)であってもよく、化合物(1)または組成物(A)と、液状媒体とを含むコーティング液(以下、コーティング液(C)とも記す。)であってもよい。
指紋付着防止剤によって基材の表面を表面処理することで、化合物(1)または組成物(A)から形成される表面層を、基材の表面に有する物品(以下、物品(E)とも記す。)を製造できる。
【0052】
組成物(A)は、化合物(1)と、化合物(1)以外の他の含フッ素エーテル化合物とを含む。ただし、液状媒体を含まない。
他の含フッ素エーテル化合物としては、化合物(1)の製造工程で副生する含フッ素エーテル化合物(以下、副生含フッ素エーテル化合物とも記す。)、化合物(1)と同様の用途に用いられる公知の含フッ素エーテル化合物等が挙げられる。
他の含フッ素エーテル化合物としては、化合物(1)の特性を低下させるおそれが少ない化合物が好ましい。
【0053】
副生含フッ素エーテル化合物としては、化合物(3)または化合物(4)の原料に由来する未反応の水酸基を有する含フッ素エーテル化合物、上述した化合物(1)の製造におけるヒドロシリル化の際に、-R1CH=CH2の一部がインナーオレフィンに異性化した含フッ素エーテル化合物等が挙げられる。
公知の含フッ素エーテル化合物としては、市販の含フッ素エーテル化合物等が挙げられる。組成物(A)が公知の含フッ素エーテル化合物を含む場合、化合物(1)の特性を補う等の新たな作用効果が発揮される場合がある。
【0054】
化合物(1)の含有量は、組成物(A)中、60質量%超100質量%以下が好ましく、70質量%以上100質量%以下がより好ましく、80質量%以上100質量%以下が特に好ましい。
他の含フッ素エーテル化合物の含有量は、組成物(A)中、0質量%以上40質量%未満が好ましく、0質量%以上30質量%以下がより好ましく、0質量%以上20質量%以下が特に好ましい。
化合物(1)の含有量および他の含フッ素エーテル化合物の含有量の合計は、組成物(A)中、80~100質量%が好ましく、85~100質量%が特に好ましい。
化合物(1)の含有量および他の含フッ素エーテル化合物の含有量が前記範囲内であれば、表面層の撥水撥油性、耐摩擦性、指紋汚れ除去性、潤滑性、外観に優れる。
【0055】
組成物(A)は、本発明の効果を損なわない範囲において、化合物(1)および他の含フッ素エーテル化合物以外の不純物を含んでいてもよい。不純物としては、化合物(1)や公知の含フッ素エーテル化合物の製造工程で生成した副生物(ただし、副生含フッ素化合物を除く。)、未反応の原料等の製造上不可避の化合物が挙げられる。
【0056】
コーティング液(C)は、化合物(1)または組成物(A)を基材に塗布しやすくするために調製される。コーティング液(C)は、液状であればよく、溶液であってもよく、分散液であってもよい。
コーティング液(C)は、化合物(1)または組成物(A)と、液状媒体とを含む。コーティング液(C)は、必要に応じてコーティング液用添加剤をさらに含んでいてもよい。
液状媒体としては、有機溶媒が好ましい。有機溶媒は、フッ素系有機溶媒であってもよく、非フッ素系有機溶媒であってもよく、両溶媒を含んでもよい。
【0057】
フッ素系有機溶媒としては、上述したフッ素系有機溶媒が挙げられる。
非フッ素系有機溶媒としては、水素原子および炭素原子のみからなる化合物と、水素原子、炭素原子および酸素原子のみからなる化合物が好ましく、炭化水素系有機溶媒、アルコール系有機溶媒、ケトン系有機溶媒、エーテル系有機溶媒、エステル系有機溶媒が挙げられる。
コーティング液用添加剤としては、たとえば、加水分解性シリル基の加水分解と縮合反応を促進する酸触媒や塩基性触媒等が挙げられる。
【0058】
化合物(1)または組成物(A)の含有量は、コーティング液(C)中、0.001~10質量%が好ましく、0.01~1質量%が特に好ましい。
コーティング液用添加剤の濃度は、コーティング液(C)中、0.1質量%以下が好ましく、0.01質量%以下が特に好ましい。
【0059】
物品(E)は、化合物(1)または組成物(A)から形成される表面層を、基材の表面に有する。
表面層は、化合物(1)を、化合物(1)の加水分解性シリル基の一部または全部が加水分解反応した状態で含む。
表面層の厚さは、1~100nmが好ましく、1~50nmが特に好ましい。表面層の厚さが前記範囲の下限値以上であれば、表面処理による効果が充分に得られやすい。表面層の厚さが前記範囲の上限値以下であれば、利用効率が高い。表面層の厚さは、薄膜解析用X線回折計(RIGAKU社製、ATX-G)を用いて、X線反射率法によって反射X線の干渉パターンを得て、該干渉パターンの振動周期から算出できる。
【0060】
基材は、撥水撥油性の付与が求められている基材であれば特に限定されない。基材の材料としては、金属、樹脂、ガラス、サファイア、セラミック、石、これらの複合材料が挙げられる。ガラスは化学強化されていてもよい。基材の表面にはSiO2膜等の下地膜が形成されていてもよい。
基材としては、タッチパネル用基材、ディスプレイ用基材が好適であり、タッチパネル用基材が特に好適である。タッチパネル用基材の材料としては、ガラスまたは透明樹脂が好ましい。
【0061】
物品(E)は、たとえば、下記の方法で製造できる。
・化合物(1)または組成物(A)を用いたドライコーティング法によって基材の表面を処理して、物品(E)を得る方法。
・ウェットコーティング法によってコーティング液(C)を基材の表面に塗布し、乾燥させて、物品(E)を得る方法。
【0062】
ドライコーティング法としては、真空蒸着、CVD、スパッタリング等の手法が挙げられる。化合物(1)の分解を抑える点、および装置の簡便さの点から、真空蒸着法が好適に利用できる。
【0063】
ウェットコーティング法としては、スピンコート法、ワイプコート法、スプレーコート法、スキージーコート法、ディップコート法、ダイコート法、インクジェット法、フローコート法、ロールコート法、キャスト法、ラングミュア・ブロジェット法、グラビアコート法等が挙げられる。
【0064】
ハードコート層形成用組成物は、化合物(2)を含む。
ハードコート層形成用組成物は、化合物(2)と光重合性化合物(ただし、化合物(2)を除く。)と光重合開始剤とを含む光硬化性組成物(以下、組成物(B)とも記す。)であってもよく、組成物(B)と液状媒体とを含むコーティング液(以下、コーティング液(D)とも記す。)であってもよい。
組成物(B)およびコーティング液(D)は、これらから形成された塗膜の硬化に際して加熱が不要であるため、ガラス等に比較して耐熱性の低い樹脂からなる基材に、ハードコート層を形成する際に好適に用いられる(以下、組成物(B)から形成されるハードコート層を基材の表面に有する物品を、物品(F)とも記す。)。
【0065】
(組成物(B))
組成物(B)は、化合物(2)と、光重合性化合物(ただし、化合物(2)を除く。)と、光重合開始剤とを含む。ただし、液状媒体を含まない。組成物(B)は、必要に応じて光硬化性組成物用添加剤をさらに含んでいてもよい。
【0066】
光重合性化合物は、光重合開始剤の存在下、光を照射することによって重合反応を開始する化合物である。
光重合性化合物は、非フッ素系光重合性化合物であってもよく、含フッ素光重合性化合物(ただし、化合物(2)を除く。)であってもよい。原料入手性および経済性に優れる点から、非フッ素系光重合性化合物が好ましい。
【0067】
光重合性化合物としては、多官能性モノマーまたは単官能性モノマーが挙げられる。光重合性化合物としては、ハードコート層に耐摩擦性を付与する点から、多官能性モノマーを必須成分として含むものが好ましい。
光重合性化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0068】
光重合開始剤としては、公知のものが挙げられる。光重合開始剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
光重合開始剤は、アミン類等の光増感剤と併用してもよい。
光硬化性組成物用添加剤としては、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、帯電防止剤、界面活性剤、着色剤、充填材、各種樹脂等が挙げられる。
【0069】
化合物(2)の含有量は、組成物(B)中、0.01~5質量%が好ましく、0.02~4質量%がより好ましく、0.05~3質量%が特に好ましい。化合物(2)の含有量が前記範囲内であれば、組成物(B)の低温貯蔵安定性、ハードコート層の外観、耐摩擦性、指紋汚れ除去性等に優れる。
光重合性化合物の含有量は、組成物(B)中、20~98.99質量%が好ましく、50~98.99質量%がより好ましく、60~98.99質量%がさらに好ましく、80~98.99質量%が特に好ましい。光重合性化合物の含有量が前記範囲内であれば、組成物(B)の低温貯蔵安定性、ハードコート層の外観、耐摩擦性、指紋汚れ除去性等に優れる。
光重合開始剤の含有量は、組成物(B)中、1~15質量%が好ましく、3~15質量%がより好ましく、3~10質量%が特に好ましい。光重合開始剤の含有量が前記範囲内であれば、光重合性化合物との相溶性に優れる。また、光硬化性組成物の硬化性に優れ、形成される硬化膜は硬度に優れる。
光硬化性組成物用添加剤を含ませる場合、光硬化性組成物用添加剤の含有量は、組成物(B)中、0.5~20質量%が好ましく、1~15質量%がより好ましく、1~10質量%が特に好ましい。
組成物(B)は、本発明の効果を損なわない範囲において、化合物(2)の製造上不可避の化合物等の不純物を含んでいてもよい。
【0070】
(コーティング液(D))
コーティング液(D)は、組成物(B)を基材に塗布しやすくするために調製される。
コーティング液(D)は、液状であればよく、溶液であってもよく、分散液であってもよい。
【0071】
コーティング液(D)は、組成物(B)と、液状媒体とを含む。
液状媒体としては、有機溶媒が好ましい。有機溶媒は、上述したフッ素系有機溶媒であっても、上述した非フッ素系有機溶媒であってもよく、両溶媒を併用してもよい。
【0072】
物品(F)は、組成物(B)から形成されるハードコート層を、基材の表面に有する。
物品(F)は、基材とハードコート層との密着性を向上させる点から、基材とハードコート層との間にプライマ層をさらに有していてもよい。
ハードコート層の厚さは、耐摩擦性、指紋汚れ除去性等の点から、0.5~20μmが好ましく、1~15μmが特に好ましい。
【0073】
基材は、耐摩擦性、指紋汚れ除去性等が必要とされる種々の物品(光学レンズ、ディスプレイ、光記録媒体等)の本体部分、または該物品の表面を構成する部材である。
基材の表面の材料としては、金属、樹脂、ガラス、サファイア、セラミック、石、これらの複合材料等が挙げられる。ガラスは化学強化されていてもよい。基材の表面にはSiO2膜等の下地膜が形成されていてもよい。光学レンズ、ディスプレイ、光記録媒体における基材の表面の材料としては、ガラスまたは透明樹脂基材が好ましい。
【0074】
プライマ層としては、公知のものが挙げられる。プライマ層は、たとえば、液状媒体を含むプライマ層形成用組成物を基材の表面に塗布し、液状媒体を蒸発除去することによって形成される。
【0075】
物品(F)は、たとえば、下記の工程(I)および工程(II)を経て製造される。
工程(I):必要に応じて、プライマ層形成用組成物を基材の表面に塗布してプライマ層を形成する工程。
工程(II):組成物(B)またはコーティング液(D)を基材またはプライマ層の表面に塗布して塗膜を得て、コーティング液(D)を用いた場合は液状媒体を除去した後、光硬化させてハードコート層を形成する工程。
【実施例】
【0076】
以下に実施例を用いて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
以下、「%」は特に断りのない限り「質量%」である。
例1~4、10、12~15、18~21は実施例であり、例5~9、11、16~17、22~23は比較例である。
【0077】
〔原料〕
(化合物(3))
化合物(3)としては、下記化合物を用意した。
化合物(3-1):国際公開第2013/121984号の実施例11に記載の方法(具体的には例11-1~11-3)によって得られた化合物。
CF3O(CF2CF2OCF2CF2CF2CF2O)m25CF2CF2OCF2CF2CF2-CF2OC(=O)CF(CF3)OCF2CF2CF3 (3-1)
m25の平均値:13、数平均分子量:5,050。
【0078】
化合物(3-2):国際公開第2015/087902号の製造例6に記載の方法によって得られた化合物。
CF3CF2CF2O{(CF2O)m21(CF2CF2O)m22}CF2-CF2OC(=O)CF(CF3)OCF2CF2CF3 (3-2)
m21の平均値:21、m22の平均値:22、数平均分子量:4,550。
【0079】
(化合物(4))
化合物(4)としては、下記化合物を用意した。
化合物(4-1):国際公開第2013/121984号の実施例11に記載の方法(具体的には例11-1~11-4)によって得られた化合物。
CF3O(CF2CF2OCF2CF2CF2CF2O)m25CF2CF2OCF2CF2CF2-C(=O)F (4-1)
m25の平均値:13、数平均分子量:4,710。
【0080】
化合物(4-2):化合物(3-1)の代わりに化合物(3-2)を原料に用いたこと以外は国際公開第2013/121984号の実施例11に記載の方法(具体的には例11-1~11-4)によって得た化合物。
CF3CF2CF2O{(CF2O)m21(CF2CF2O)m22}CF2-C(=O)F (4-2)
m21の平均値:21、m22の平均値:22、数平均分子量:4,220。
【0081】
(化合物(5))
化合物(5)としては、下記化合物を用意した。
化合物(5-1):ジアリルアミン(関東化学社製)。
【0082】
(化合物(6))
化合物(6)としては、下記化合物を用意した。
化合物(6-1):トリメトキシシラン(東京化成工業社製)。
【0083】
(化合物(13))
比較例で使用する化合物(13)としては、下記化合物を用意した。
化合物(13-1):国際公開第2013/121984号の実施例6に記載の方法によって得られた化合物。
CF3O(CF2CF2OCF2CF2CF2CF2O)m25CF2CF2OCF2CF2CF2-C(=O)OCH3 (13-1)
m25の平均値:13、数平均分子量:4,730。
【0084】
化合物(13-2):国際公開第2015/087902号の製造例6に記載の方法によって得られた化合物。
CF3CF2CF2O{(CF2O)m21(CF2CF2O)m22}CF2-C(=O)OCH3 (13-2)
m21の平均値:21、m22の平均値:22、数平均分子量:4,230。
【0085】
〔例1〕
50mLの3つ口フラスコ内に、化合物(3-1)の10.1g、化合物(5-1)の0.97g、1,3-ビス(トリフルオロメチル)ベンゼンの10gを入れ、室温で8時間撹拌した。反応粗液をエバポレータで濃縮し、粗生成物の9.8gを得た。粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィに展開して、化合物(2-1)の9.5g(収率99%)を分取した。
CF3O(CF2CF2OCF2CF2CF2CF2O)m25CF2CF2OCF2CF2CF2-C(=O)N(CH2CH=CH2)2 (2-1)
【0086】
化合物(2-1)のNMRスペクトル;
1H-NMR(300.4MHz、溶媒:CDCl3、基準:テトラメチルシラン(TMS)) δ(ppm):4.0(4H)、5.3~5.4(4H)、5.7~6.0(2H)。
19F-NMR(282.7MHz、溶媒:CDCl3、基準:CFCl3) δ(ppm):-55.1(3F)、-82.6(54F)、-87.9(54F)、-90.0(2F)、-110.3(2F)、-124.1(2F)、-125.0(52F)。
m25の平均値:13、数平均分子量:4,790。
【0087】
100mLのテトラフルオロエチレン-ペルフルオロ(アルコキシビニルエーテル)共重合体製ナスフラスコに、化合物(2-1)の5.0g、白金/1,3-ジビニル-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン錯体のキシレン溶液(白金含有量:2質量%)の0.03g、化合物(6-1)の0.36g、アニリンの0.01gおよび1,3-ビス(トリフルオロメチル)ベンゼンの2.0gを入れ、室温で8時間撹拌した。溶媒等を減圧留去し、孔径0.5μmのメンブランフィルタでろ過し、化合物(1-1)の5.2g(純度99%以上、収率99%)を得た。
CF3O(CF2CF2OCF2CF2CF2CF2O)m25CF2CF2OCF2CF2CF2-C(=O)N[CH2CH2CH2Si(OCH3)3]2 (1-1)
【0088】
化合物(1-1)のNMRスペクトル;
1H-NMR(300.4MHz、溶媒:CDCl3、基準:TMS) δ(ppm):0.6(4H)、1.8(4H)、3.4(4H)、3.6(18H)。
19F-NMR(282.7MHz、溶媒:CDCl3、基準:CFCl3) δ(ppm):-55.2(3F)、-82.8(54F)、-88.1(54F)、-90.2(2F)、-111.4(2F)、-124.2(2F)、-125.2(52F)。
m25の平均値:13、数平均分子量:5,040。
【0089】
〔例2〕
化合物(3-1)を化合物(4-1)の9.42gに、化合物(5-1)の使用量を0.49gに変更した以外は例1と同様にして、化合物(2-1)の9.3g(収率97%)を得た。
例2で得た化合物(2-1)を用いた以外は例1と同様にして、化合物(1-1)の5.1g(純度99%以上、収率97%)を得た。
【0090】
〔例3〕
化合物(3-1)を化合物(3-2)の9.10gに変更した以外は例1と同様にして、化合物(2-2)の8.5g(収率99%)を得た。
CF3CF2CF2O{(CF2O)m21(CF2CF2O)m22}CF2-C(=O)N(CH2CH=CH2)2 (2-2)
【0091】
化合物(2-2)のNMRスペクトル;
1H-NMR(300.4MHz、溶媒:CDCl3、基準:TMS) δ(ppm):4.0(4H)、5.3~5.4(4H)、5.7~6.0(2H)。
19F-NMR(282.7MHz、溶媒:CDCl3、基準:CFCl3) δ(ppm):-52.4~-55.7(42F)、-72.5(1F)、-74.7(1F)、-82.2(3F)、-89.4~-91.1(90F)、-130.5(2F)。
m21の平均値:21、m22の平均値:22、数平均分子量:4,300。
【0092】
例3で得た化合物(2-2)を用いた以外は例1と同様にして、化合物(1-2)の5.2g(純度99%以上、収率98%)を得た。
CF3CF2CF2O{(CF2O)m21(CF2CF2O)m22}CF2-C(=O)N[CH2CH2CH2Si(OCH3)3]2 (1-2)
【0093】
化合物(1-2)のNMRスペクトル;
1H-NMR(300.4MHz、溶媒:CDCl3、基準:TMS) δ(ppm):0.6(4H)、1.8(4H)、3.5(4H)、3.6(18H)。
19F-NMR(282.7MHz、溶媒:CDCl3、基準:CFCl3) δ(ppm):-52.4~-55.8(42F)、-72.6(1F)、-74.8(1F)、-82.3(3F)、-89.4~-91.1(90F)、-130.6(2F)。
m21の平均値:21、m22の平均値:22、数平均分子量:4,540。
【0094】
〔例4〕
化合物(4-1)を化合物(4-2)の8.4gに変更した以外は例2と同様にして、化合物(2-2)の8.4g(収率98%)を得た。
例4で得た化合物(2-2)を用いた以外は例1と同様にして、化合物(1-2)の5.2g(純度99%以上、収率98%)を得た。
【0095】
〔例5〕
化合物(3-1)を化合物(13-1)の9.5gに、化合物(5-1)をHN(CH2CH2CH2Si(OCH3)3)2(Gelest社製)の0.85gに変更した以外は例1と同様に反応させようとしたが、1H-NMRによる分析では全く反応していなかった。反応温度を120℃とし、24時間反応させたところ、反応溶液は増粘し撹拌できなくなり、目的の化合物(1-1)は得られなかった。
【0096】
〔例6〕
化合物(3-1)を化合物(13-1)の9.5gに、化合物(5-1)の使用量を0.24gに変更した以外は例1と同様に反応させようとしたが、1H-NMRによる分析では全く反応していなかった。反応温度を120℃とし、24時間反応させたところ、1H-NMRによる分析で転化率は33%、化合物(2-1)の選択率は22%であった。残りの88%は、原料のいずれかに含まれる微量の水分により加水分解したカルボン酸のアミン塩であった。
反応粗液をエバポレータで濃縮し、粗生成物の9.6gを得た。粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィに展開して化合物(2-1)の0.66g(収率7%)を分取した。
【0097】
〔例7〕
化合物(13-1)を化合物(13-2)の8.5gに変更した以外は例5と同様に室温で反応させようとしたが、1H-NMRによる分析ではほとんど反応していなかった。反応温度を80℃とし、12時間反応させたところ、1H-NMRによる分析で転化率は100%、化合物(1-2)の選択率は94%であった。残りの6%は、原料のいずれかに含まれる微量の水分により加水分解したカルボン酸のアミン塩であった。
溶媒等を減圧留去し、孔径0.5μmのメンブランフィルタでろ過し、化合物(1-2)の4.8g(純度94%、収率91%)を得た。
【0098】
〔例8〕
化合物(13-1)を化合物(13-2)の8.5gに変更した以外は例6と同様に室温で反応させようとしたが、1H-NMRによる分析ではほとんど反応していなかった。反応温度を120℃とし、12時間反応させたところ、1H-NMRによる分析で転化率は100%、化合物(2-2)の選択率は64%であった。残りの36%は、原料のいずれかに含まれる微量の水分により加水分解したカルボン酸のアミン塩であった。
反応粗液をエバポレータで濃縮し、粗生成物の8.7gを得た。粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィに展開して化合物(2-2)の5.24g(収率61%)を分取した。
【0099】
〔例9〕
Macromolecules 2009, 42, 612-619に記載の方法(具体的にはTable.4,run21)に従って化合物(X1)を得た。
CF3CF2CF2O{CF(CF3)CF2O}m3CF(CF3)-C(=O)F (X1)
m3の平均値:19、数平均分子量:3,490。
【0100】
化合物(3-1)を化合物(X1)の7.0gに変更した以外は例1と同様にして、化合物(X2)の7.1g(収率99%)を得た。
CF3CF2CF2O{CF(CF3)CF2O}m3CF(CF3)-C(=O)N(CH2CH=CH2)2 (X2)
【0101】
化合物(X2)のNMRスペクトル;
1H-NMR(300.4MHz、溶媒:CDCl3、基準:TMS) δ(ppm):4.0(4H)、5.3~5.4(4H)、5.7~6.0(2H)。
19F-NMR(282.7MHz、溶媒:CDCl3、基準:CFCl3) δ(ppm):-80.0~-86.1(103F)、-130.2(2F)、―126.2(2F)、-145.1(19F)。
m3の平均値:19、数平均分子量:3,560。
【0102】
化合物(X2)を用いた以外は例1と同様にして、化合物(X3)の5.3g(純度99%以上、収率99%)を得た。
CF3CF2CF2O{CF(CF3)CF2O}m3CF(CF3)-C(=O)N[CH2CH2CH2Si(OCH3)3]2 (X3)
【0103】
化合物(X3)のNMRスペクトル;
1H-NMR(300.4MHz、溶媒:CDCl3、基準:TMS) δ(ppm):0.6(4H)、1.8(4H)、3.4(4H)、3.6(18H)。
19F-NMR(282.7MHz、溶媒:CDCl3、基準:CFCl3) δ(ppm):-80.0~-86.0(103F)、-130.1(2F)、―126.1(2F)、-145.0(19F)。
【0104】
〔例10〕
例1のうち化合物(3-1)と化合物(5-1)とを反応させて化合物(2-1)を得る反応を例1と同条件で行い、撹拌開始後から0.5時間毎の反応転化率を19F-NMRで追跡した。0.5時間後の反応転化率は98%であり、反応転化率が99%を超えたのは1.0時間後であった。
【0105】
〔例11〕
例9のうち化合物(X1)と化合物(5-1)とを反応させて化合物(X2)を得る反応を例9と同条件で行い、撹拌開始後から0.5時間毎の反応転化率を19F-NMRで追跡した。0.5時間後の反応転化率は88%であり、反応転化率が99%を超えたのは2.5時間後であった。
【0106】
〔例1~11のまとめ〕
化合物(3)または化合物(4)を出発物質とし、化合物(5)と反応させて化合物(2)を得る方法では、例1~4のように高収率であった。化合物(13)を出発物質とした例6および8はこれらに比べると低収率であった。
化合物(2)をヒドロシリル化して化合物(1)を得る方法では、例1~4のように純度が高く、収率も高かった。化合物(13)から化合物(1)を直接得る方法では、例5では化合物(1)は得られず、例7では化合物(1)が得られたものの、純度が低く、収率も低かった。
例10と例11を比較して、式(3)中のRfが直鎖状の基である化合物を用いた例10は、反応速度が速いが、式(3)中のRfに対応する基が分岐状の基である化合物を用いた例11は、反応速度が遅いことが確認された。
【0107】
〔例12~17〕
例1~4、7で得た各化合物(1)または例9で得た化合物(X3)について、下記の貯蔵安定性を評価した。結果を表1に示す。
【0108】
(貯蔵安定性)
例1~4、7で得た各化合物(1)をサンプル瓶に入れ、温度:25℃、湿度:40%RHの条件で放置した。製造直後でサンプル瓶に入れる前(0日目)、サンプル瓶に入れてから7日目、14日目、28日目の各化合物(1)の状態を目視にて観察し、下記基準にて評価した。
○(良) :化合物(1)が透明である。
×(不可):化合物(1)中に固体浮遊物または沈殿物がある。
××(悪):化合物(1)に流動性がない。
【0109】
【0110】
例7で得た化合物(1)は純度が低いため、縮合が進みやすい。そのため、化合物(1)の貯蔵安定性が悪い。
【0111】
〔例18~23〕
例1~4、7で得た各化合物(1)または例9で得た化合物(X3)を用いて基材の表面処理を行い、例18~23の物品を得た。表面処理方法として、各例について下記のドライコーティング法およびウェットコーティング法をそれぞれ用いた。基材としては化学強化ガラスを用いた。得られた物品について、下記の方法で評価した。結果を表2に示す。
【0112】
(ドライコーティング法)
ドライコーティングは、真空蒸着装置(昭和真空社製、SGC-22WA)を用いて行った(真空蒸着法)。例1~4、7で得た各化合物(1)または例9で得た化合物(X3)の35mgを真空蒸着装置内のモリブデン製ボートに充填し、真空蒸着装置内を5×10-3Pa以下に排気した。各化合物(1)を配置したボートを加熱し、各化合物(1)を基材の表面に堆積することによって、基材の表面に蒸着膜を形成した。蒸着膜が形成された基材を、温度:25℃、湿度:40%RHの条件で一晩放置し、基材の表面に表面層を有する物品を得た。
【0113】
(ウェットコーティング法)
例1~4、7で得た各化合物(1)または例9で得た化合物(X3)と、液状媒体としてのAC-6000とを混合して、固形分濃度0.1質量%のコーティング液を調製した。スプレー塗布装置(ノードソン社製)を用い、コーティング液を基材に塗布することによって、基材の表面に塗布膜を形成した。塗布膜が形成された基材を、120℃で20分間焼成し、基材の表面に表面層を有する物品を得た。
【0114】
(評価方法)
<接触角の測定方法>
表面層の表面に置いた、約2μLの蒸留水またはn-ヘキサデカンの接触角を、接触角測定装置(協和界面科学社製、DM-500)を用いて測定した。表面層の表面における異なる5箇所で測定を行い、その平均値を算出した。接触角の算出には2θ法を用いた。
【0115】
<初期接触角>
表面層について、初期水接触角および初期n-ヘキサデカン接触角を前記測定方法で測定した。評価基準は下記のとおりである。
初期水接触角:
◎(優) :115度以上。
○(良) :110度以上115度未満。
△(可) :100度以上110度未満。
×(不可):100度未満。
初期n-ヘキサデカン接触角:
◎(優) :66度以上。
○(良) :65度以上66度未満。
△(可) :63度以上65度未満。
×(不可):63度未満。
【0116】
<耐摩擦性(スチールウール)>
表面層について、JIS L0849:2013(ISO 105-X12:2001)に準拠して往復式トラバース試験機(ケイエヌテー社製)を用い、スチールウールボンスター(♯0000)を圧力:98.07kPa、速度:320cm/分で5千回往復させた後、水接触角を測定した。摩擦後の撥水性(水接触角)の低下が小さいほど摩擦による性能の低下が小さく、耐摩擦性に優れる。評価基準は下記のとおりである。
◎(優) :5千回往復後の水接触角の変化が5度以下。
○(良) :5千回往復後の水接触角の変化が5度超10度以下。
△(可) :5千回往復後の水接触角の変化が10度超20度以下。
×(不可):5千回往復後の水接触角の変化が20度超。
【0117】
<耐摩擦性(消しゴム)>
表面層について、JIS L0849:2013(ISO 105-X12:2001)に準拠して往復式トラバース試験機(ケイエヌテー社製)を用い、Rubber Eraser(Minoan社製)を荷重:4.9N、速度:60rpmで1万回往復させた後、水接触角を測定した。摩擦後の撥水性(水接触角)の低下が小さいほど摩擦による性能の低下が小さく、耐摩擦性に優れる。評価基準は下記のとおりである。
◎(優) :1万回往復後の水接触角の変化が5度以下。
○(良) :1万回往復後の水接触角の変化が5度超10度以下。
△(可) :1万回往復後の水接触角の変化が10度超20度以下。
×(不可):1万回往復後の水接触角の変化が20度超。
【0118】
<外観>
物品のヘーズをヘーズメータ(東洋精機社製)にて測定した。ヘーズが小さいほど含フッ素エーテル化合物が均一に塗布できており、外観に優れる。評価基準は下記のとおりである。
◎(優) :ヘーズが0.1%以下。
○(良) :ヘーズが0.1%超0.2%以下。
△(可) :ヘーズが0.2%超0.3%以下。
×(不可):ヘーズが0.3%超。
【0119】
<指紋汚れ除去性>
人工指紋液(オレイン酸とスクアレンとからなる液)を、シリコンゴム栓の平坦面に付着させた後、余分な油分を不織布(旭化成社製、ベンコット(登録商標)M-3)にて拭き取ることによって、指紋のスタンプを準備した。該指紋スタンプを表面層上に乗せ、荷重:9.8Nにて10秒間押しつけた。指紋が付着した箇所のヘーズをヘーズメータにて測定し、初期値とした。指紋が付着した箇所について、ティッシュペーパーを取り付けた往復式トラバース試験機(ケイエヌテー社製)を用い、荷重:4.9Nにて拭き取りを行った。拭き取り一往復毎にヘーズの値を測定し、ヘーズが初期値から10%以下になる拭き取り回数を測定した。拭き取り回数が少ないほど指紋汚れを容易に除去でき、指紋汚れ拭き取り性に優れる。評価基準は下記のとおりである。
◎(優) :拭き取り回数が3回以下。
○(良) :拭き取り回数が4~5回。
△(可) :拭き取り回数が6~8回。
×(不可):拭き取り回数が9回以上。
【0120】
<耐光性>
表面層に対し、卓上型キセノンアークランプ式促進耐光性試験機(東洋精機社製、SUNTEST XLS+)を用いて、ブラックパネル温度:63℃にて、光線(650W/m2、300~700nm)を500時間照射した後、水接触角を測定した。促進耐光試験後の水接触角の低下が小さいほど光による性能の低下が小さく、耐光性に優れる。評価基準は下記のとおりである。
◎(優) :促進耐光試験後の水接触角の変化が5度以下。
○(良) :促進耐光試験後の水接触角の変化が5度超10度以下。
△(可) :促進耐光試験後の水接触角の変化が10度超20度以下。
×(不可):促進耐光試験後の水接触角の変化が20度超。
【0121】
<潤滑性>
人工皮膚(出光テクノファイン社製、PBZ13001)に対する表面層の動摩擦係数を、荷重変動型摩擦摩耗試験システム(新東科学社製、HHS2000)を用い、接触面積:3cm×3cm、荷重:0.98Nの条件で測定した。動摩擦係数が小さいほど潤滑性に優れる。評価基準は下記のとおりである。
◎(優) :動摩擦係数が0.3以下。
○(良) :動摩擦係数が0.3超0.4以下。
△(可) :動摩擦係数が0.4超0.5以下。
×(不可):動摩擦係数が0.5超。
【0122】
【0123】
例7で得た化合物(1)は純度が低いため、貯蔵中に縮合が進みやすい。そのため、縮合が進んだ化合物(1)を用いて基材の表面に形成された表面層は、耐摩擦性、外観が劣っていた。
例9で得た化合物(X3)は、Rfに対応する基が分岐状の基であるため、化合物(X3)を用いて基材の表面に形成された表面層は、耐摩擦性、潤滑性が劣っていた。
【産業上の利用可能性】
【0124】
本発明の製造方法で得られた含フッ素エーテル化合物は、光学物品、タッチパネル(指で触れる面等)、反射防止フィルム、反射防止ガラス等の基材の表面に撥水撥油性等を付与する表面処理に好適に用いることができる。また、金型の離型剤として用いることもできる。
なお、2016年08月30日に出願された日本特許出願2016-167697号の明細書、特許請求の範囲および要約書の全内容をここに引用し、本発明の明細書の開示として、取り入れるものである。