IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ DIC株式会社の特許一覧

特許7151935板状アルミナ粒子、及び板状アルミナ粒子の製造方法
<>
  • 特許-板状アルミナ粒子、及び板状アルミナ粒子の製造方法 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-03
(45)【発行日】2022-10-12
(54)【発明の名称】板状アルミナ粒子、及び板状アルミナ粒子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01F 7/442 20220101AFI20221004BHJP
   C09C 1/40 20060101ALI20221004BHJP
【FI】
C01F7/442
C09C1/40
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2022518211
(86)(22)【出願日】2019-10-09
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-09-26
(86)【国際出願番号】 CN2019110122
(87)【国際公開番号】W WO2021068125
(87)【国際公開日】2021-04-15
【審査請求日】2022-03-22
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100215935
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 茂輝
(74)【代理人】
【識別番号】100189337
【弁理士】
【氏名又は名称】宮本 龍
(74)【代理人】
【識別番号】100188673
【弁理士】
【氏名又は名称】成田 友紀
(72)【発明者】
【氏名】ヤン シャオエイ
(72)【発明者】
【氏名】土肥 知樹
(72)【発明者】
【氏名】沖 裕延
(72)【発明者】
【氏名】袁 建軍
(72)【発明者】
【氏名】リュウ チェン
(72)【発明者】
【氏名】リ メン
(72)【発明者】
【氏名】チョウ ウエイ
【審査官】山本 吾一
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-123664(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0185675(US,A1)
【文献】国際公開第2014/051091(WO,A1)
【文献】特表2006-515557(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01F 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Cu-Kα線を用いたX線回折測定で得られる回折ピークの、
(006)面に対応する2θ=41.6±0.3度のピーク強度I(006)と、
(113)面に対応する2θ=43.3±0.3度のピーク強度I(113)と、の比I(006)/I(113)が、
0.2以上である板状アルミナ粒子。
【請求項2】
Cu-Kα線を用いたX線回折測定で得られる回折ピークの、
(006)面に対応する2θ=41.6±0.3度のピーク強度I(006)と、
(113)面に対応する2θ=43.3±0.3度のピーク強度I(113)と、の比I(006)/I(113)が、
0.3以上である、請求項1に記載の板状アルミナ粒子。
【請求項3】
厚みが0.1μm以上である、請求項1又は2に記載の板状アルミナ粒子。
【請求項4】
50値が20μm以上である、請求項1~3のいずれか一項に記載の板状アルミナ粒子。
【請求項5】
ケイ素及び/又はゲルマニウムを含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の板状アルミナ粒子。
【請求項6】
モリブデンを含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の板状アルミナ粒子。
【請求項7】
ムライトを表層に含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の板状アルミナ粒子。
【請求項8】
アルミニウム元素を含むアルミニウム化合物と、モリブデン元素を含むモリブデン化合物と、形状制御剤と、を混合して混合物とし、前記混合物を焼成することを含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の板状アルミナ粒子の製造方法。
【請求項9】
酸化物換算した原料全量を100質量%とした際に、Al換算で50質量%以上のアルミニウム元素を含むアルミニウム化合物と、MoO換算で7質量%以上40質量%以下のモリブデン元素を含むモリブデン化合物と、SiO換算で0.4質量%以上10質量%未満のシリコン又はケイ素元素を含むケイ素化合物と、を混合して混合物とし、前記混合物を焼成する、請求項1~7のいずれか一項に記載の板状アルミナ粒子の製造方法。
【請求項10】
酸化物換算した原料全量を100質量%とした際に、Al換算で50質量%以上のアルミニウム元素を含むアルミニウム化合物と、MoO換算で7質量%以上40質量%以下のモリブデン元素を含むモリブデン化合物と、GeO換算で0.4質量%以上1.5質量%未満の原料ゲルマニウム化合物と、を混合して混合物とし、前記混合物を焼成する、請求項1~7のいずれか一項に記載の板状アルミナ粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、板状アルミナ粒子、及び板状アルミナ粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
無機フィラーであるアルミナ粒子は、様々な用途で利用されている。なかでも、高アスペクト比の板状アルミナ粒子は、球状のアルミナ粒子に比べて熱的特性及び光学特性等に特に優れており、更なる性能の向上が求められている。
従来、板状アルミナ粒子が本来持つ上記特性や、分散性等を向上させるために、長径や厚みなどの形状に特徴を備えた、種々の板状アルミナ粒子が知られている(特許文献1~2)。また、板状アルミナ粒子の高アスペクト化を目的とし、形状を制御する為の製法として、リン酸化合物を形状制御剤として添加して水熱合成する方法や(特許文献3)、ケイフッ化物を添加して焼成する方法(特許文献4)等が知られている。
更に、板状アルミナの製造に当たり、結晶制御剤としてシリコン又はケイ素元素を含むケイ素化合物を用いる板状アルミナの製造方法(特許文献5)も知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2003-192338号公報
【文献】特開2002-249315号公報
【文献】特開平9-59018号公報
【文献】特開2009-35430号公報
【文献】特開2016-222501号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、エフェクト顔料等の光輝性顔料の提供を目的とした場合など、上記の板状アルミナ粒子の光輝性においては、未だ改善の余地があった。
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、特に光輝性に優れた板状アルミナ粒子の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、アルミナ粒子について、Cu-Kα線を用いたX線回折測定で得られる回折ピークの、(006)面に対応する2θ=41.6±0.3度のピーク強度I(006)と、(113)面に対応する2θ=43.3±0.2度のピーク強度I(113)との比であるI(006)/I(113)の値が大きなアルミナ粒子は、光輝性に優れることを見出だし、本発明を完成させた。すなわち本発明は以下の態様を有する。
【0006】
[1]Cu-Kα線を用いたX線回折測定で得られる回折ピークの、(006)面に対応する2θ=41.6±0.3度のピーク強度I(006)と、(113)面に対応する2θ=43.3±0.3度のピーク強度I(113)と、の比I(006)/I(113)が、0.2以上である板状アルミナ粒子。
[2]Cu-Kα線を用いたX線回折測定で得られる回折ピークの、(006)面に対応する2θ=41.6±0.3度のピーク強度I(006)と、(113)面に対応する2θ=43.3±0.3度のピーク強度I(113)と、の比I(006)/I(113)が、0.3以上である、前記[1]に記載の板状アルミナ粒子。
[3]厚みが0.1μm以上である、前記[1]又は[2]に記載の板状アルミナ粒子。
[4]D50値が20μm以上である、前記[1]~[3]のいずれか一つに記載の板状アルミナ粒子。
[5]ケイ素及び/又はゲルマニウムを含む、前記[1]~[4]のいずれか一つに記載の板状アルミナ粒子。
[6]モリブデンを含む、前記[1]~[5]のいずれか一つに記載の板状アルミナ粒子。
[7]ムライトを表層に含む、前記[1]~[6]のいずれか一つに記載の板状アルミナ粒子。
[8]アルミニウム元素を含むアルミニウム化合物と、モリブデン元素を含むモリブデン化合物と、形状制御剤と、を混合して混合物とし、前記混合物を焼成することを含む、前記[1]~[7]のいずれか一つに記載の板状アルミナ粒子の製造方法。
[9]酸化物換算した原料全量を100質量%とした際に、Al換算で50質量%以上のアルミニウム元素を含むアルミニウム化合物と、MoO換算で7質量%以上40質量%以下のモリブデン元素を含むモリブデン化合物と、SiO換算で0.4質量%以上10質量%未満のシリコン又はケイ素元素を含むケイ素化合物と、を混合して混合物とし、前記混合物を焼成する、前記[1]~[7]のいずれか一つに記載の板状アルミナ粒子の製造方法。
[10]酸化物換算した原料全量を100質量%とした際に、Al換算で50質量%以上のアルミニウム元素を含むアルミニウム化合物と、MoO換算で7質量%以上40質量%以下のモリブデン元素を含むモリブデン化合物と、GeO換算で0.4質量%以上1.5質量%未満の原料ゲルマニウム化合物と、を混合して混合物とし、前記混合物を焼成する、前記[1]~[7]のいずれか一つに記載の板状アルミナ粒子の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、光輝性に優れる板状アルミナ粒子を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施例1で得られた板状アルミナ粒子のSEM観察画像である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の一実施形態による板状アルミナ粒子、及び板状アルミナ粒子の製造方法について詳細に説明する。
【0010】
<板状アルミナ粒子>
実施形態の板状アルミナ粒子は、Cu-Kα線を用いたX線回折測定で得られる回折ピークの、(006)面に対応する2θ=41.6±0.3度のピーク強度I(006)と、(113)面に対応する2θ=43.3±0.3度のピーク強度I(113)と、の比I(006)/I(113)(以下、I(006)/I(113)を、(006/113)比と略す。)が、0.2以上であるものである。また、板状アルミナ粒子はモリブデンを含んでもよい。さらに、本発明の効果を損なわない限り、原料または形状制御剤などからの不純物を含んでもよい。実施形態の板状アルミナ粒子は、ムライト及び/又はゲルマニウム化合物を表層に含んでいてもよい。なお、板状アルミナ粒子はさらに有機化合物等を含んでいてもよい。
【0011】
実施形態に係る板状アルミナ粒子は、上記の(006/113)比の値が、0.2以上である。
従来、一般的に知られているα-アルミナにおいては、(006)面の存在はX線回折により確認はされるものの(006)面由来の回折ピークの強度は非常に小さい。例えば、ICSDのデータベースにおいては、一般的なα-アルミナの(113)面の回折強度を仮に100とした場合、(006)面の回折強度は0.4程度である。すなわち、(006/113)比の値は0.004程度であり、(113)面の方位の結晶成長に対し、(006)面の方位の結晶成長は著しく小さいことがわかる。
しかしながら、本発明者らは、実施形態の板状アルミナ粒子においては、(006)面に対応するものと認められる上記2θ=41.6±0.3度の回折ピークが検出され、且つそのピーク強度が大きいことを見出だした。また、(006)面に対応するピーク強度の値が高まるとともに、(113)面に対応するものと認められる2θ=43.3±0.3度の回折ピークのピーク強度の値が低下することを見出だした。
上記(006/113)比の値が大きいことは、(113)面に対し(006)面の比率が大きいことを意味し、(006)面の方位の結晶に対応する面が顕著に発達した平板状のアルミナ粒子であることを意味していると理解される。かかる平板状のアルミナ粒子は、板状アルミナの板形状の表面において発達した上面又は下面の面積が大きく、そこに反射する反射光の視認性が高まるとともに、(113)面の方位の結晶に対応する面の形成が抑制されているので、一粒あたりの質量が小さくとも、高い光輝性を発揮する。
光輝性が高いとは、板状アルミナ粒子を観察した際に、板状アルミナ粒子に反射した光の視認性が高いことを意味する。光の視認性は、光の強度が高いこと(例えば、結晶性が高く乱反射が抑制されている)や、粒子あたりの反射領域の面積が増大すること(例えば、結晶面のサイズの増大)により高まると考えられる。
【0012】
実施形態に係る板状アルミナ粒子は、光輝性の観点から、上記の(006/113)比の値が、0.2以上であり、0.3以上であることが好ましく、0.4以上であることが好ましく、0.5以上であることが好ましく、1以上であることがより好ましく、3以上であることがさらに好ましく、7.5以上であることが特に好ましい。
上記の(006/113)比の値の上限値は特に制限されるものではないが、一例として、30以下であってよく、20以下であってよく、10以下であってよい。
上記で例示した(006/113)比の数値範囲の上限値と下限値とは、自由に組み合わせることができる。(006/113)比の数値範囲としては、一例として、0.2以上30以下であってよく、0.3以上30以下であってよく、0.4以上30以下であってよく、0.5以上30以下であってよく、1以上20以下であってよく、3以上10以下であってよく、7.5以上10以下であってよい。
【0013】
実施形態の板状アルミナ粒子は、上記観点と同様に、板状であるという点からも光輝性に優れるものである。
板状アルミナ粒子の形状は、例えば、原料アルミニウム化合物、原料モリブデン化合物、形状制御剤の使用割合を調整することによって、制御可能である。
【0014】
本発明でいう「板状」は、アルミナ粒子の平均粒子径を厚みで除したアスペクト比が2以上であることを指す。なお、本明細書において、「アルミナ粒子の厚み」は、走査型電子顕微鏡(SEM)により得られたイメージから、無作為に選出された少なくとも50個の板状アルミナ粒子について測定された厚みの算術平均値とする。また、「アルミナ粒子の平均粒子径」は、レーザー回折粒子径測定装置により測定された体積基準の累積粒度分布から、体積基準メジアン径D50として算出された値とする。
【0015】
実施形態のアルミナ粒子においては、以下に示す、厚み、粒子径、及びアスペクト比の条件は、それが板状である範囲で、どの様に組み合わせることもできる。また、これら条件で例示する数値範囲の上限値と下限値とは、自由に組み合わせることができる。
【0016】
実施形態に係る板状アルミナ粒子は、厚みが0.1μm以上であることが好ましく、0.1~5μmであることが好ましく、0.3~3μmであることがより好ましく、0.5~1μmであることがさらに好ましい。上記の厚みを有するアルミナ粒子は、アスペクト比が高く且つ機械的強度に優れることから好ましい。
【0017】
注目すべきことに、実施形態に係る板状アルミナ粒子は、上記の(006/113)比の値が大きいものであるためか、粒子径が顕著に大きい傾向にある。
【0018】
実施形態に係る板状アルミナ粒子は、平均粒子径(D50)が10μm以上であることが好ましく、20μm以上であることがより好ましく、22μm以上であることがより好ましく、25μm以上であることがさらに好ましく、31μm以上であることが特に好ましい。上記の平均粒子径の上限値は特に限定されるものではないが、一例として、実施形態の板状アルミナ粒子の平均粒子径(D50)は、10~500μmであることが好ましく、20~300μmであることが好ましく、22~100μmであることがより好ましく、25~100μmであることがさらに好ましく、31~50μmであることが特に好ましい。上記の下限値以上の平均粒子径(D50)を有するアルミナ粒子は、光の反射面の面積が大きいことから、特に光輝性に優れる。また、上記上限値以下の平均粒子径(D50)を有するアルミナ粒子は、フィラーとしての使用に好適である。
【0019】
実施形態に係る板状アルミナ粒子は、粒子径(D10)が、5μm以上であることが好ましく、10μm以上であることがより好ましく、13μm以上であることがさらに好ましい。上記の粒子径(D10)の上限値は特に限定されるものではないが、一例として、実施形態の板状アルミナ粒子の粒子径(D10)は、5~100μmであることが好ましく、10~50μmであることがより好ましく、13~30μmであることがさらに好ましい。上記の下限値以上の粒子径(D10)を有するアルミナ粒子は、光の反射面の面積が大きく、また微小粒子による反射の阻害が低減されることから、特に光輝性に優れる。また、上記上限値以下の粒子径(D10)を有するアルミナ粒子は、フィラーとしての使用に好適である。
【0020】
実施形態に係る板状アルミナ粒子は、粒子径(D90)が、20μm以上であることが好ましく、40μm以上であることがより好ましく、46μm以上であることがより好ましく、52μm以上であることがさらに好ましい。上記の粒子径(D90)の上限値は特に限定されるものではないが、一例として、実施形態の板状アルミナ粒子の粒子径(D90)は、20~700μmであることが好ましく、40~700μmであることが好ましく、46~300μmであることがより好ましく、52~100μmであることがさらに好ましい。上記の下限値以上の粒子径(D90)を有するアルミナ粒子は、光の反射面の面積が大きいことから、特に光輝性に優れる。また、上記上限値以下の粒子径(D90)を有するアルミナ粒子は、フィラーとしての使用に好適である。
【0021】
実施形態に係る板状アルミナ粒子は、厚みに対する粒子径の比率であるアスペクト比が2~500であることが好ましく、5~500であることが好ましく、15~500であることが好ましく、33~300であることがより好ましく、45~100であることがさらに好ましい。板状アルミナ粒子のアスペクト比が2以上であると、2次元の配合特性を有し得ることから好ましく、板状アルミナ粒子のアスペクト比が500以下であると、機械的強度に優れることから好ましい。アスペクト比が15以上であると、顔料とした際に高輝度となるため、好ましい。
【0022】
実施形態に係る板状アルミナ粒子は、円形板状や楕円形板状であってもよいが、粒子形状は、例えば、多角板状であることが、取り扱い性や製造のし易さの点から好ましい。
【0023】
実施形態に係る板状アルミナ粒子は、上記の所定の(006/113)比の値を満たしさえすれば、どの様な製造方法に基づいて得られたものであってもよいが、よりアスペクト比が高く、より分散性に優れ、より生産性に優れる点で、モリブデン化合物と形状制御剤の存在下でアルミニウム化合物を焼成する事により得ることが好ましい。形状制御剤は、シリコン、ケイ素化合物、及びゲルマニウム化合物からなる群から選ばれる少なくとも一種を使用するのがよい。形状制御剤は後述のムライトのSiの供給元となることから、シリコン又はケイ素元素を含むケイ素化合物を使用するのがより好ましい。
上記製造方法において、モリブデン化合物はフラックス剤として用いられる。本明細書中では、以下、フラックス剤としてモリブデン化合物を用いたこの製造方法を単に「フラックス法」ということがある。フラックス法については、後に詳記する。なお、かかる焼成により、モリブデン化合物がアルミニウム化合物と高温で反応し、モリブデン酸アルミニウムを形成した後、このモリブデン酸アルミニウムが、さらに、より高温でアルミナと酸化モリブデンに分解する際に、モリブデン化合物が板状アルミナ粒子内に取り込まれるものと考えられる。酸化モリブデンが昇華し、回収して、再利用することもできる。
なお、実施形態の板状アルミナ粒子がムライトを表層に含む場合には、この過程で、形状制御剤として配合されたシリコン又はシリコン原子を含む化合物とアルミニウム化合物が、モリブデンを介し反応することにより、ムライトが板状アルミナ粒子の表層に形成されるものと考えられる。ムライトの生成機構について、より詳しくは、アルミナの板表面にて、モリブデンとSi原子の反応によるMo-O-Siの形成、並びにモリブデンとAl原子の反応によるMo-O-Alの形成が起こり、高温焼成することでMoが脱離するとともにSi-O-Al結合を有するムライトが形成するものと考えられる。
板状アルミナ粒子に取り込まれない酸化モリブデンは、昇華させることにより回収して、再利用することが好ましい。こうすることで、板状アルミナ表面に付着する酸化モリブデン量を低減でき、樹脂の様な有機バインダーやガラスの様な無機バインダーなどの被分散媒体に分散させる際に、酸化モリブデンがバインダーに混入することがなく、板状アルミナ本来の性質を最大限に付与することが可能となる。
尚、本明細書においては、後記する製造方法において昇華しうる性質を有するものをフラックス剤、昇華し得ないものを形状制御剤と称するものとする。
【0024】
前記板状アルミナ粒子の製造において、モリブデン及び形状制御剤を活用することにより、アルミナ粒子は高いα結晶率を有し、自形を持つことから、優れた分散性と機械強度、高熱伝導性、光輝性を実現することができる。
【0025】
実施形態の板状アルミナ粒子がムライトを表層に含む場合には、板状アルミナ粒子の表層に生成されるムライトの量は、モリブデン化合物及び形状制御剤の使用割合によって制御可能であるが、特に形状制御剤として使用されるシリコン又はケイ素元素を含むケイ素化合物の使用割合によって制御可能である。板状アルミナ粒子の表層に生成されるムライトの量の好ましい値と、原料の好ましい使用割合については、後に詳記する。
【0026】
実施形態の板状アルミナ粒子は、光輝性向上の観点から、アスペクト比が5~500である板状アルミナ粒子であって、固体27Al NMR分析にて、静磁場強度14.1Tにおける10~30ppmの6配位アルミニウムのピークに対する縦緩和時間Tが、5秒以上であることが好ましい。
【0027】
上記縦緩和時間Tが5秒以上であということは、板状アルミナ粒子の結晶性が高いことを意味するものである。固体状態における縦緩和時間が大きいと結晶の対称性がよく、結晶性が高いという知見が報告されている(既報:北川進ら著「錯体化学会選書4 多核種の溶液および固体NMR」、三共出版株式会社、p80-82))。
【0028】
実施形態の板状アルミナ粒子において、上記縦緩和時間Tは、5秒以上が好ましく、6秒以上がより好ましく、7秒以上がさらに好ましい。
実施形態の板状アルミナ粒子において、上記縦緩和時間Tの上限値は、特に制限されるものではないが、例えば、22秒以下であってもよく、15秒以下であってもよく、12秒以下であってもよい。
上記に例示した上記縦緩和時間Tの数値範囲の一例としては、5秒以上22秒以下であってもよく、6秒以上15秒以下であってもよく、7秒以上12秒以下であってもよい。
【0029】
実施形態の板状アルミナ粒子は、固体27Al NMR分析にて、静磁場強度14.1Tにおける60~90ppmの4配位アルミニウムのピークが不検出であることが好ましい。かかる板状アルミナ粒子は、異なる配位数の結晶が含まれることに起因した、結晶の対称性の歪みを起点とした破損・脱落が起こり難いものと考えられ、形状安定性により優れる傾向にある。
【0030】
従来、無機物の結晶性の程度は、XRD分析等の結果により評価されることが、一般的である。しかし、本発明者らの検討により、アルミナ粒子に対する結晶性の評価について、上記縦緩和時間Tを指標とすることで、従来のXRD分析よりも精度の良い解析結果が得られることを見出だした。実施形態に係る板状アルミナ粒子は、上記縦緩和時間Tが5秒以上と大きく、アルミナ粒子の結晶性が高いといえる。すなわち、実施形態に係る板状アルミナ粒子は、おそらく結晶性が高いために、結晶面での乱反射が抑制されて光反射が向上し、光輝性に優れるものと考えられる。
【0031】
さらに、本発明者らは、上記縦緩和時間Tの値と板状アルミナ粒子の形状保持率及び樹脂組成物の加工安定性が、非常に良く相関することを見出だした。上記縦緩和時間Tが5秒以上である実施形態の板状アルミナ粒子は、樹脂に配合して樹脂組成物を製造したときに、加工安定性が良く、所望の形状への加工が容易であるとの利点も有する。実施形態の板状アルミナ粒子は、上記縦緩和時間Tの値が長いため、結晶性が高められている。したがって、アルミナの結晶性が高いために粒子の強度が高く、樹脂組成物の製造過程で樹脂と板状アルミナ粒子とが混合されたときに、板が割れ難いものと考えられ、更には、おそらくアルミナの結晶性が高いために粒子表面の凹凸が少なく、樹脂との密着に優れるものと考えられる。
【0032】
これらの要因により、実施形態に係る板状アルミナ粒子では、樹脂組成物の加工安定性が良好であるものと考えられる。実施形態に係る板状アルミナ粒子によれば、樹脂組成物に配合した場合等であっても、本来の板状アルミナ粒子の性能が良好に発揮される。
【0033】
板状のアルミナ粒子は、球状のアルミナ粒子と比べ、従来、結晶性の高いアルミナ粒子を得ることは難しかった。このことは、板状アルミナ粒子では、球状のアルミナ粒子とは異なり、その製造過程において結晶成長の方向に偏りを生じさせる必要があるためと考えられる。
対して、上記縦緩和時間Tの値を満たす実施形態に係る板状アルミナ粒子は、板状形状でありながら結晶性が高いものである。そのため、優れた熱伝導性を示す等の板状アルミナ粒子の利点を備えつつ、さらに形状保持率及び樹脂組成物の加工安定性が高められた、非常に有用なものである。
【0034】
実施形態に係る板状アルミナ粒子の等電点のpHは、例えば2~6の範囲であり、2.5~5の範囲であることが好ましく、3~4の範囲であることがより好ましい。等電点のpHが上記範囲内にある板状アルミナ粒子は、静電反発力が高く、それ自体で上記した様な被分散媒体へ配合した際の分散安定性を高めることができ、更なる性能向上を意図したカップリング処理剤等の表面処理による改質がより容易となる。
【0035】
等電点のpHの値は、ゼータ電位測定をゼータ電位測定装置(マルバーン社、ゼータサイザーナノZSP)にて、試料20mgと10mM KCl水溶液10mLを泡取り錬太郎(シンキー社、ARE-310)にて攪拌・脱泡モードで3分間攪拌し、5分静置した上澄みを測定用試料とし、自動滴定装置により、試料に0.1N HClを加え、pH=2までの範囲でゼータ電位測定を行い(印加電圧100V、Monomodalモード)、電位ゼロとなる等電点のpHを評価することで得られる。
【0036】
実施形態に係る板状アルミナ粒子は、例えば密度が3.70g/cm以上4.10g/cm以下であり、密度が3.72g/cm以上4.10g/cm以下であることが好ましく、密度が3.80g/cm以上4.10g/cm以下であることがより好ましい。
密度は、300℃3時間の条件で板状アルミナ粒子の前処理を行った後、マイクロメリティックス社製 乾式自動密度計アキュピックII1330を用いて、測定温度25℃、ヘリウムをキャリアガスとして使用した条件で測定できる。
【0037】
[アルミナ]
実施形態に係る板状アルミナ粒子に含まれる「アルミナ」は、酸化アルミニウムであり、例えば、γ、δ、θ、κ、等の各種の結晶形の遷移アルミナであっても、または遷移アルミナ中にアルミナ水和物を含んでいてもよいが、より機械的な強度または光学特性に優れる点で、基本的にα結晶形(α型)であることが好ましい。α結晶形がアルミナの緻密な結晶構造であり、実施形態の板状アルミナの機械強度または光学特性の向上に有利となる。
α結晶化率は、100%にできるだけ近いほうが、α結晶形本来の性質を発揮しやすくなるので好ましい。実施形態に係る板状アルミナ粒子のα結晶化率は、例えば90%以上であり、95%以上であることが好ましく、99%以上であることがより好ましい。
【0038】
〔ケイ素・ゲルマニウム〕
実施形態に係る板状アルミナ粒子は、ケイ素及び/又はゲルマニウムを含んでいてもよい。
当該ケイ素又はゲルマニウムは、形状制御剤として用いることのできるシリコン、ケイ素化合物、及び/又はゲルマニウム化合物に由来するものであってよい。これらを活用することにより、後述する製造方法において、優れた光輝性を有する板状アルミナ粒子を製造することができる。
【0039】
(ケイ素)
実施形態に係る板状アルミナ粒子は、ケイ素を含んでいてもよい。実施形態に係る板状アルミナ粒子は、ケイ素を表層に含んでいてもよい。
ここで「表層」とは実施形態に係る板状アルミナ粒子の表面から10nm以内のことをいう。この距離は、実施例において計測に用いたXPSの検出深さに対応する。
【0040】
実施形態に係る板状アルミナ粒子は、ケイ素が表層に偏在していてもよい。ここで「表層に偏在」するとは、前記表層における単位体積あたりのケイ素の質量が、前記表層以外における単位体積あたりのケイ素の質量よりも多い状態をいう。ケイ素が表層に偏在していることは、XPSによる表面分析と、XRFによる全体分析の結果を比較することで判別できる。
【0041】
実施形態に係る板状アルミナ粒子が含むケイ素は、ケイ素単体であってもよく、ケイ素化合物中のケイ素であってもよい。実施形態に係る板状アルミナ粒子は、ケイ素又はケイ素化合物として、ムライト、Si、SiO、SiO、及びアルミナと反応して生成したケイ酸アルミニウムからなる群から選択される少なくとも一種を含んでいてもよく、上記物質を表層に含んでいてもよい。ムライトについは、後述する。
【0042】
実施形態に係る板状アルミナ粒子は、形状制御剤としてシリコン又はケイ素元素を含むケイ素化合物を使用した場合、XRF分析によってSiが検出され得る。実施形態に係る板状アルミナ粒子は、XRF分析によって取得された、Alに対するSiのモル比[Si]/[Al]が例えば0.04以下であり、0.035以下であることが好ましく、0.02以下であることがより好ましい。
また、前記モル比[Si]/[Al]の値は、特に限定されるものではないが、例えば0.003以上であり、0.004以上であることが好ましく、0.005以上であることがより好ましい。
実施形態に係る板状アルミナ粒子は、XRF分析によって取得された、Alに対するSiのモル比[Si]/[Al]が例えば0.003以上0.04以下であり、0.004以上0.035以下であることが好ましく、0.005以上0.02以下であることがより好ましい。
前記XRF分析により取得された前記モル比[Si]/[Al]の値が、上記範囲内である板状アルミナ粒子は、上記の(006/113)比の値を満たし、光輝性がより好ましいものとなり、板状形状が良好に形成される。また、付着物が板状アルミナ粒子の表面に付着し難く、品質に優れる。この付着物とは、SiO粒とみられ、板状アルミナ粒子表層でのムライトの生成が飽和状態となり、過剰となったSiに由来して生成されるものと考えられる。
実施形態に係る板状アルミナ粒子は、その製造方法で用いたシリコン又はケイ素元素を含むケイ素化合物に対応した、ケイ素を含み得るものである。実施形態に係る板状アルミナ粒子100質量%に対するケイ素の含有量は、二酸化ケイ素換算で、好ましくは、10質量%以下であり、より好ましくは、0.001~5質量%であり、さらに好ましくは、0.01~4質量%であり、特に好ましくは、0.3~2.5質量%である。ケイ素の含有量が上記範囲内であると、上記の(006/113)比の値を満たし、光輝性がより好ましいものとなり、板状形状が良好に形成さる。また、SiO粒とみられる付着物が板状アルミナ粒子の表面に付着し難く、品質に優れる。上記ケイ素の含有量はXRF分析により求めることができる。
【0043】
(ムライト)
実施形態に係る板状アルミナ粒子は、ムライトを含んでいてもよい。表層にムライトを含むことにより、従来の板状アルミナ粒子よりも機器を摩耗させ難いものとすることができる。アルミナはモース硬度9の物質であり、非常に硬い物質に分類される。そのため従来の板状アルミナ粒子は、それを含む製品の製造等に使用する機器を摩耗させてしまうことが問題となっていた。一方、ムライトのモース硬度は7.5である。そのため、実施形態に係る板状アルミナ粒子が、ムライトを表層に含むことで、機器は板状アルミナ粒子のアルミナよりも表面のムライトと接することとなり、機器の摩耗を低減することができる。
【0044】
ムライトは、板状アルミナ粒子の表層に含まれることで、顕著な機器の摩耗低減が発現する。実施形態に係る板状アルミナ粒子が表層に含んでもよい「ムライト」は、AlとSiとの複合酸化物でありAlSizと表わされるが、x、y、zの値に特に制限はない。より好ましい範囲はAlSi~AlSi13である。なお、後述の実施例でXRDピーク強度を確認しているのはAl2.85Si6.3、AlSi6.5、Al3.67Si7.5、AlSi、又はAlSi13を含むものである。実施形態に係る板状アルミナ粒子は、Al2.85Si6.3、AlSi6.5、Al3.67Si7.5、AlSi、およびAlSi13からなる群から選択される少なくとも一種の化合物を表層に含んでいてもよい。ここで「表層」とは実施形態に係る板状アルミナ粒子の表面から10nm以内のことをいう。この距離は、実施例において計測に用いたXPSの検出深さに対応する。尚、このムライト表層は、10nm以内の非常に薄い層になり、表面及び界面におけるムライト結晶の欠陥等が多くなれば、ムライト表層の硬度はムライト本来のモース硬度(7.5)よりも更に低くなり、結晶欠陥の無い或いは少ないムライトに比べて、更に、機器の摩耗を顕著に低減することができる。
実施形態に係る板状アルミナ粒子は、ムライトが表層に偏在していることが好ましい。ここで「表層に偏在」するとは、前記表層における単位体積あたりのムライトの質量が、前記表層以外における単位体積あたりのムライトの質量よりも多い状態をいう。ムライトが表層に偏在していることは、後述する実施例において示すように、XPSによる表面分析と、XRFによる全体分析の結果を比較することで判別できる。ムライトは表層に偏在させることで、表層だけでなく表層以外(内層)にもムライトを存在させる場合に比べて、より少量で、同様水準でムライトに基づく機器の摩耗性を低減することができる。
【0045】
実施形態に係る板状アルミナ粒子は、形状制御剤としてシリコン又はケイ素元素を含むケイ素化合物を使用し、表層にムライトを含む場合、XPS分析によってSiが検出される。実施形態に係る板状アルミナ粒子がムライトを含む場合、XPS分析において取得された、Alに対するSiのモル比[Si]/[Al]の値が、0.15以上であることが好ましく、0.20以上であることがより好ましく、0.25以上であることがさらに好ましい。XPSの結果によれば、原料のSiOの仕込み量を増やしていくことで、[Si]/[Al]の値が上昇していくが、値はある程度までで頭打ちとなる場合がある。これは、板状アルミナ粒子上のSi量が飽和状態となったことを意味するものと考えられる。したがって、前記モル比[Si]/[Al]の値が、0.20以上のもの、特に0.25以上の板状アルミナ粒子は、表面がムライトで被覆された状態にあると考えられる。上記被覆された状態とは、板状アルミナ粒子の表面の全部がムライトで被覆されていてもよく、板状アルミナ粒子の表面の少なくとも一部がムライトで被覆されていてもよい。
前記XPS分析のモル比[Si]/[Al]の値の上限は特に限定されるものではないが、0.4以下であることが好ましく、0.35以下であることがより好ましく、0.3以下であることがさらに好ましい。
実施形態に係る板状アルミナ粒子は、XPS分析において取得された、Alに対するSiのモル比[Si]/[Al]の値が、0.15以上0.4以下であることが好ましく、0.20以上0.35以下であることがより好ましく、0.25以上0.3以下であることがさらに好ましい。
前記XPS分析において取得された、前記モル比[Si]/[Al]の値が、上記範囲である板状アルミナ粒子は、表層に含まれるムライト量が適当であり、品質に優れ、機器の摩耗を低減する効果により優れる。
XPS分析は、後述する実施例に記載の測定条件と同一の条件、又は同一の測定結果が得られる互換性のある条件のもと実施されるものとする。
本実施形態においては、後記する板状アルミナの製造方法において、仕込んだSiO等の、シリコン又はケイ素元素を含むケイ素化合物が高効率でムライトに変換されることにより、優れた品質の板状アルミナが得られる。
【0046】
ムライトを含む実施形態に係る板状アルミナ粒子は、XRD分析によってムライト由来の回折ピークが検出される。このムライト由来の回折ピークは、シリコン又はケイ素元素を含むケイ素化合物、例えば、SiO等の回折ピークとは明確に区別することが可能である。実施形態に係る板状アルミナ粒子は、XRD分析によって取得された、2θが35.1±0.2°に認められるα-アルミナの(104)面のピーク強度に対する、2θが26.2±0.2°に認められるムライトのピーク強度の比が、例えば0.02以上であってもよく、0.05以上であってもよく、0.1以上であってもよい。
前記ピーク強度の比の値の上限は、特に限定されるものではないが、例えば0.3以下であり、0.2以下であることが好ましく、0.12未満であることがより好ましい。
実施形態に係る板状アルミナ粒子は、XRD分析によって取得された、2θが35.1±0.2°に認められるα-アルミナの(104)面のピーク強度に対する、2θが26.2±0.2°に認められるムライトのピーク強度の比が、例えば0.02以上0.3以下であってもよく、0.05以上0.2以下であってもよく、0.1以上0.12未満であってもよい。
前記ピーク強度の比の値が、上記範囲内である板状アルミナ粒子は、ムライト量が適当であり、品質に優れ、機器の摩耗を低減する効果により優れる。
XRD分析は、後述する実施例に記載の測定条件と同一の条件、又は同一の測定結果が得られる互換性のある条件のもと実施されるものとする。
【0047】
ムライトを含む実施形態に係る板状アルミナ粒子は、XRF分析によってSiが検出される。
前記XRF分析により取得された前記モル比[Si]/[Al]の値は上記に例示したものであってよく、上記範囲内である板状アルミナ粒子は、ムライト量が適当であり、品質に優れ、機器の摩耗を低減する効果により優れる。
実施形態に係る板状アルミナ粒子は、その製造方法で用いたシリコン又はケイ素元素を含むケイ素化合物に基づくムライトに対応した、ケイ素を含むものである。実施形態に係る板状アルミナ粒子100質量%に対するケイ素の含有量は上記に例示したものであってよく、ケイ素の含有量が上記範囲内であると、ムライト量が適当であることから好ましい。上記ケイ素の含有量はXRF分析により求めることができる。
XRF分析は、後述する実施例に記載の測定条件と同一の条件、又は同一の測定結果が得られる互換性のある条件のもと実施されるものとする。
【0048】
また、前記表層のムライトは、ムライト層を形成していてもよく、ムライトとアルミナとが混在した状態であってもよい。表層のムライトとアルミナとの界面は、ムライトとアルミナとが物理的に接触した状態であってもよく、ムライトとアルミナとがSi-O-Alなどの化学結合を形成していてもよい。アルミナとSiOとの組み合わせに対して、アルミナとムライトとを必須成分とする組み合わせは、構成原子組成の類似性の高さや、フラックス法を採用した場合には、それに基づく上記Si-O-Alなどの化学結合の形成し易さの観点から、よりアルミナとムライトとが強固に結着し剥がれ難いものとすることが出来る。このことから、Si量が同等水準であれば、アルミナとムライトとを必須成分とする組み合わせは、機器をより長期間に亘って摩耗させ難くすることが出来るため、より好ましい。アルミナとムライトとを必須成分とする組み合わせでの技術的効果は、アルミナとムライトのみでも、アルミナとムライトとシリカでも期待はできるが、どちらかと言えば、前者の二者組み合わせが技術的効果の水準はより高くなる。
【0049】
(ゲルマニウム)
実施形態に係る板状アルミナ粒子は、ゲルマニウムを含んでいてもよい。実施形態に係る板状アルミナ粒子は、ゲルマニウムを表層に含んでいてもよい。
使用する原料によっても異なるが、実施形態に係る板状アルミナ粒子は、ゲルマニウム又はゲルマニウム化合物として、例えば、Ge、GeO、GeO、GeCl、GeBr、GeI、GeS、AlGe、GeTe、GeTe3、As、GeSe、GeSAs、SiGe、LiGe、FeGe、SrGe、GaGe等の化合物、及びこれらの酸化物等からなる群から選択される少なくとも一種を含んでいてもよく、上記物質を表層に含んでいてもよい。なお、発明者らは、ゲルマニウム化合物を原料に用いた実施形態の板状アルミナ粒子において、GeOを含むXRDピークを確認している。
なお、実施形態に係る板状アルミナ粒子が含む「ゲルマニウム又はゲルマニウム化合物」と、原料の形状制御剤として用いる「原料ゲルマニウム化合物」とは同じ種類のゲルマニウム化合物であってもよい。例えば、原料のGeOの添加により製造された板状アルミナ粒子にGeOが検出されてよい。
【0050】
実施形態に係る板状アルミナ粒子は、表層にゲルマニウム又はゲルマニウム化合物を含んでいてもよい。表層にゲルマニウム又はゲルマニウム化合物を含むことにより、従来の板状アルミナ粒子よりも機器を摩耗させ難いものとすることができるである。アルミナはモース硬度9の物質であり、非常に硬い物質に分類される。そのため従来の板状アルミナ粒子は、それを含む製品の製造等に使用する機器を摩耗させてしまうことが問題となっていた。一方、ゲルマニウム又はゲルマニウム化合物のモース硬度は、例えば二酸化ゲルマニウム(GeO)で6程度であるため、実施形態に係る板状アルミナ粒子が、ゲルマニウム又はゲルマニウム化合物を含むことで、機器の摩耗を低減することができる。さらに、実施形態に係る板状アルミナ粒子が、ゲルマニウム又はゲルマニウム化合物を表層に含むことで、機器は板状アルミナ粒子のアルミナよりも表面のゲルマニウム又はゲルマニウム化合物と接することとなり、機器の摩耗をより低減することができる。
【0051】
ゲルマニウム又はゲルマニウム化合物は、板状アルミナ粒子の表層に含まれることで、顕著な機器の摩耗低減が発現する。ここで「表層」とは実施形態に係る板状アルミナ粒子の表面から10nm以内のことをいう。尚、このゲルマニウムを含む表層は、10nm以内の非常に薄い層になり、例えば二酸化ゲルマニウムであった場合、表面及び界面における二酸化ゲルマニウム構造の欠陥等が多くなれば、二酸化ゲルマニウムの硬度は本来のモース硬度(6.0)よりも更に低くなり、構造欠陥の無い或いは少ない二酸化ゲルマニウムに比べて、更に、機器の摩耗を顕著に低減することができる。
実施形態に係る板状アルミナ粒子は、ゲルマニウム又はゲルマニウム化合物が表層に偏在していることが好ましい。ここで「表層に偏在」するとは、前記表層における単位体積あたりのゲルマニウム又はゲルマニウム化合物の質量が、前記表層以外における単位体積あたりのゲルマニウム又はゲルマニウム化合物の質量よりも多い状態をいう。ゲルマニウム又はゲルマニウム化合物が表層に偏在していることは、XPSによる表面分析と、XRFによる全体分析の結果を比較することで判別できる。ゲルマニウム又はゲルマニウム化合物は表層に偏在させることで、表層だけでなく表層以外(内層)にもゲルマニウム又はゲルマニウム化合物を存在させる場合に比べて、より少量で、同様水準でゲルマニウム又はゲルマニウム化合物に基づく機器の摩耗性を低減することができる。
【0052】
実施形態に係る板状アルミナ粒子は、表層にゲルマニウム又はゲルマニウム化合物を含むことで、XPS分析によってGeが検出される。実施形態に係る板状アルミナ粒子は、XPS分析において取得された、Alに対するGeのモル比[Ge]/[Al]の値が、0.005以上であることが好ましく、0.01以上であることがより好ましく、0.02以上であることがさらに好ましく、0.03以上であることが特に好ましい。原料のGeOの仕込み量を増やしていくことで、[Ge]/[Al]の値が上昇していくが、値はある程度までで頭打ちとなる場合がある。これは、板状アルミナ粒子上のGe量が飽和状態となったことを意味するものと考えられる。したがって、前記モル比[Ge]/[Al]の値が、0.12以上のもの、特に0.13以上の板状アルミナ粒子は、表面がゲルマニウム又はゲルマニウム化合物で被覆された状態にあると考えられる。上記被覆された状態とは、板状アルミナ粒子の表面の全部がゲルマニウム又はゲルマニウム化合物で被覆されていてもよく、板状アルミナ粒子の表面の少なくとも一部がゲルマニウム又はゲルマニウム化合物で被覆されていてもよい。
前記XPS分析のモル比[Ge]/[Al]の値の上限は特に限定されるものではないが、0.3以下であってもよく、0.25以下であってもよく、0.2以下であってもよく、0.17以下あってもよく、0.1以下であってもよい。
実施形態に係る板状アルミナ粒子は、XPS分析において取得された、Alに対するGeのモル比[Ge]/[Al]の値が、0.005以上0.3以下であってもよく、0.005以上0.25以下であってもよく0.01以上0.2以下であってもよく、0.02以上0.17以下であってもよく、0.03以上0.1以下であってもよい。
前記XPS分析において取得された、前記モル比[Ge]/[Al]の値が、上記範囲である板状アルミナ粒子は、表層に含まれるゲルマニウム又はゲルマニウム化合物の量が適当であり、上記の(006/113)比の値を満たし、光輝性がより好ましいものとなり、板状形状が良好に形成され、品質に優れ、機器の摩耗を低減する効果により優れる。
XPS分析は、後述する実施例に記載の測定条件と同一の条件、又は同一の測定結果が得られる互換性のある条件のもと実施されるものとする。
本実施形態においては、後記する板状アルミナの製造方法において、形状制御剤として仕込んだGeO等の原料ゲルマニウム化合物が、高効率で板状アルミナの表層でゲルマニウムを含む層として形成されることにより、優れた品質の板状アルミナが得られる。
【0053】
実施形態に係る板状アルミナ粒子は、形状制御剤としてゲルマニウム化合物を使用した場合、XRF分析によってGeが検出され得る。実施形態に係る板状アルミナ粒子は、XRF分析によって取得された、Alに対するGeのモル比[Ge]/[Al]が例えば0.08以下であり、0.05以下であることが好ましく、0.03以下であることがより好ましい。
また、前記モル比[Ge]/[Al]の値は、特に限定されるものではないが、例えば0.0005以上であり、0.001以上であることが好ましく、0.0015以上であることがより好ましい。
実施形態に係る板状アルミナ粒子は、XRF分析によって取得された、Alに対するGeのモル比[Ge]/[Al]が例えば0.0005以上0.08以下であり、0.001以上0.05以下であることが好ましく、0.0015以上0.03以下であることがより好ましい。
前記XRF分析により取得された前記モル比[Ge]/[Al]の値が、上記範囲内である板状アルミナ粒子は、含まれるゲルマニウム又はゲルマニウム化合物の量が適当であり、上記の(006/113)比の値を満たし、光輝性がより好ましいものとなり、板状形状が良好に形成され、品質に優れ、機器の摩耗を低減する効果により優れる。
【0054】
実施形態に係る板状アルミナ粒子は、その製造方法で用いた原料ゲルマニウム化合物に対応した、ゲルマニウムを含むものである。実施形態に係る板状アルミナ粒子100質量%に対するゲルマニウムの含有量は、二酸化ゲルマニウム換算で、好ましくは、10質量%以下であり、より好ましくは、0.001~5質量%であり、さらに好ましくは、0.01~4質量%であり、特に好ましくは、0.1~3.0質量%である。ゲルマニウムの含有量が上記範囲内であると、ゲルマニウム又はゲルマニウム化合物の量が適当であり、上記の(006/113)比の値を満たし、光輝性がより好ましいものとなることから好ましい。上記ゲルマニウムの含有量はXRF分析により求めることができる。
XRF分析は、後述する実施例に記載の測定条件と同一の条件、又は同一の測定結果が得られる互換性のある条件のもと実施されるものとする。
【0055】
また、前記表層のゲルマニウム又はゲルマニウム化合物は、層を形成していてもよく、ゲルマニウム又はゲルマニウム化合物とアルミナとが混在した状態であってもよい。表層のゲルマニウム又はゲルマニウム化合物とアルミナとの界面は、ゲルマニウム又はゲルマニウム化合物とアルミナとが物理的に接触した状態であってもよく、ゲルマニウム又はゲルマニウム化合物とアルミナとがGe-O-Alなどの化学結合を形成していてもよい。
【0056】
[モリブデン]
また、実施形態に係る板状アルミナ粒子は、モリブデンを含んでいてもよい。当該モリブデンは、フラックス剤として用いたモリブデン化合物に由来するものであってよい。
モリブデンは触媒機能、光学的機能を有する。また、モリブデンを活用することにより、後述する製造方法において、板状形状でありながら結晶性が高い、優れた光輝性を有する板状アルミナ粒子を製造することができる。モリブデンの使用量を多くすることで、粒子サイズ及び上記の(006/113)比の値を満たし、得られたアルミナ粒子の光輝性がさらに優れたものとなる傾向がある。さらには、モリブデンを活用することにより、ムライトの形成が促進され、高アスペクト比と優れた分散性を有する板状アルミナ粒子を製造することができる。また、板状アルミナ粒子に含まれたモリブデンの特性を利用して、酸化反応触媒、光学材料の用途に適用することが可能となりうる。
【0057】
当該モリブデンとしては、特に制限されないが、モリブデン金属の他、酸化モリブデンや一部が還元されたモリブデン化合物、モリブデン酸塩等が含まれる。
モリブデン化合物のとりうる多形のいずれか、または組み合わせで板状アルミナ粒子に含まれてよく、α-MoO、β-MoO、MoO、MoO、モリブデンクラスター構造等として板状アルミナ粒子に含まれてもよい。
【0058】
モリブデンの含有形態は、特に制限されず、板状アルミナ粒子の表面に付着する形態で含まれていても、アルミナの結晶構造のアルミニウムの一部に置換された形態で含まれていてもよいし、これらの組み合わせであってもよい。
【0059】
実施形態に係る板状アルミナ粒子100質量%に対するモリブデンの含有量は、三酸化モリブデン換算で、好ましくは、10質量%以下であり、焼成温度、焼成時間、モリブデン化合物の昇華速度を調整する事で、より好ましくは、0.001~5質量%であり、さらに好ましくは、0.01~5質量%であり、特に好ましくは、0.1~1.2質量%である。モリブデンの含有量が10質量%以下であると、アルミナのα単結晶品質を向上させることから好ましい。
上記モリブデンの含有量はXRF分析により求めることができる。XRF分析は、後述する実施例に記載の測定条件と同一の条件、又は同一の測定結果が得られる互換性のある条件のもと実施されるものとする。
【0060】
[有機化合物]
一実施形態において、板状アルミナ粒子は有機化合物を含んでいてもよい。当該有機化合物は、板状アルミナ粒子の表面に存在し、板状アルミナ粒子の表面物性を調節する機能を有する。例えば、表面に有機化合物を含んだ板状アルミナ粒子は樹脂との親和性を向上することから、フィラーとして板状アルミナ粒子の機能を最大限に発現することができる。
【0061】
有機化合物としては、特に制限されないが、有機シラン、アルキルホスホン酸、およびポリマーが挙げられる。
【0062】
前記有機シランとしては、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、n-プロピルトリメトキシシラン、n-プロピルトリエトキシシラン、iso-プロピルトリメトキシシラン、iso-プロピルトリエトキシシラン、ペンチルトリメトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン等のアルキル基の炭素数が1~22までのアルキルトリメトキシシランまたはアルキルトリクロロシラン類、3,3,3-トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、トリデカフルオロ-1,1,2,2-テトラヒドロオクチル)トリクロロシラン類、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、p-クロロメチルフェニルトリメトキシシラン、p-クロロメチルフェニルトリエトキシシラン類等が挙げられる。
【0063】
前記ホスホン酸としては、例えばメチルホスホン酸、エチルホスホン酸、プロピルホスホン酸、ブチルホスホン酸、ペンチルホスホン酸、ヘキシルホスホン酸、ヘプチルホスホン酸、オクチルホスホン酸、デシルホスホン酸、ドデシルホスホン酸、オクタデシルホスホン酸、2_エチルヘキシルホスホン酸、シクロヘキシルメチルホスホン酸、シクロヘキシルエチルホスホン酸、ベンジルホスホン酸、フェニルホスホン酸、ドデシルベンゼンホスホン酸が挙げられる。
【0064】
前記ポリマーとしては、例えば、ポリ(メタ)アクリレート類を好適に用いることができる。具体的には、ポリメチル(メタ)アクリレート、ポリエチル(メタ)アクリレート、ポリブチル(メタ)アクリレート、ポリベンジル(メタ)アクリレート、ポリシクロヘキシル(メタ)アクリレート、ポリt-ブチル(メタ)アクリレート、ポリグリシジル(メタ)アクリレート、ポリペンタフルオロプロピル(メタ)アクリレート等であり、また、汎用のポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリビニル酢酸エステル、エポキシ樹脂、ポリエステル、ポリイミド、ポリカーボネート等ポリマーを挙げることができる。
【0065】
なお、上記有機化合物は、単独で含まれていても、2種以上を含んでいてもよい。
【0066】
有機化合物の含有形態としては、特に制限されず、アルミナと共有結合により連結されていてもよいし、アルミナを被覆していてもよい。
【0067】
有機化合物の含有率は、板状アルミナ粒子の質量に対して、20質量%以下であることが好ましく、10~0.01質量%であることがさらに好ましい。有機化合物の含有率が20質量%以下であると、板状アルミナ粒子由来の物性発現が容易にできることから好ましい。
【0068】
<板状アルミナ粒子の製造方法>
実施形態の板状アルミナ粒子の製造方法は、特に制限されず、公知の技術が適宜適用されうるが、相対的に低温で高α結晶化率を有するアルミナを好適に制御することができる観点から、好ましくはモリブデン化合物を利用したフラックス法での製造方法が適用されうる。
【0069】
より詳細には、板状アルミナ粒子の好ましい製造方法は、モリブデン化合物および形状制御剤の存在下で、アルミニウム化合物を焼成する工程(焼成工程)を含む。焼成工程は焼成対象の混合物を得る工程(混合工程)で得られた混合物を焼成する工程であってもよい。
【0070】
[混合工程]
混合工程は、アルミニウム化合物と、モリブデン化合物と、形状制御剤と、を混合して混合物とする工程である。以下、混合物の内容について説明する。
【0071】
(アルミニウム化合物)
本実施形態におけるアルミニウム化合物は、アルミニウム元素を含むものであり、実施形態に係る板状アルミナ粒子の原料であり、熱処理によりアルミナになるものであれば特に限定されず、例えば、塩化アルミニウム、硫酸アルミニウム、塩基性酢酸アルミニウム、水酸化アルミニウム、ベーマイト、擬ベーマイト、遷移アルミナ(γ-アルミナ、δ-アルミナ、θ-アルミナなど)、α-アルミナ、二種以上の結晶相を有する混合アルミナなどが使用でき、これら前駆体としてのアルミニウム化合物の形状、粒子径、比表面積等の物理形態については、特に限定されるものではない。
【0072】
下で詳記するフラックス法によれば、実施形態におけるアルミニウム化合物の形状は、例えば、球状、無定形、アスペクトのある構造体(ワイヤ、ファイバー、リボン、チューブなど)、シートなどのいずれであっても好適に用いることができる。
【0073】
同様に、アルミニウム化合物の粒子径は、下で詳記するフラックス法によれば、数nmから数百μmまでのアルミニウム化合物の固体を好適に用いることができる。
【0074】
アルミニウム化合物の比表面積も特に限定されるものではない。モリブデン化合物が効果的に作用するため、比表面積が大きい方が好ましいが、焼成条件やモリブデン化合物の使用量を調整する事で、いずれの比表面積のものでも原料として使用することができる。
【0075】
また、アルミニウム化合物は、アルミニウム化合物のみからなるものであっても、アルミニウム化合物と有機化合物との複合体であってもよい。例えば、有機シランを用いて、アルミニウム化合物を修飾して得られる有機/無機複合体、ポリマーを吸着したアルミニウム化合物複合体などであっても好適に用いることができる。これらの複合体を用いる場合、有機化合物の含有率としては、特に制限はないが、板状アルミナ粒子を効率的に製造できる観点より、当該含有率は60質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることがより好ましい。
【0076】
(形状制御剤)
実施形態に係る板状アルミナ粒子を形成するために、形状制御剤を用いることできる。形状制御剤はモリブデン化合物の存在下でアルミナ化合物を焼成によるアルミナの板状結晶成長に重要な役割を果たす。
【0077】
形状制御剤の存在状態は、特に制限されず、例えば、形状制御剤とアルミニウム化合物と物理混合物、形状制御剤がアルミニウム化合物の表面または内部に均一または局在に存在した複合体などが好適に用いることができる。
【0078】
また、形状制御剤がアルミニウム化合物に添加しても良いが、アルミニウム化合物中に不純物として含んでも良い。
【0079】
形状制御剤は板状結晶成長に重要な役割を果たす。一般的に行なわれる酸化モリブデンフラックス法では酸化モリブデンがアルミニウム化合物と反応することでモリブデン酸アルミニウムを形成させ、次いで、このモリブデン酸アルミニウムが分解する過程における化学ポテンシャルの変化が結晶化の駆動力となっているため、自形面(113)の発達した六角両錘型の多面体粒子が形成する。実施形態の製造方法においては、形状制御剤が、α-アルミナ成長過程において粒子表面近傍に局在化することで、自形面(113)の生長が著しく阻害される結果、相対的に面方向の結晶方位の生長が速くなり、(001)面又は(006)面が成長し、板状形態を形成することができると考えられる。モリブデン化合物をフラックス剤として用いることで、α結晶化率が高い、モリブデンを含む板状アルミナ粒子をより容易に形成できる。
【0080】
なお、上記メカニズムはあくまで推測のものであり、上記メカニズムと異なるメカニズムによって本発明の効果が得られる場合であっても本発明の技術的範囲に含まれる。
【0081】
形状制御剤の種類については、よりアスペクト比が高く、より分散性に優れ、より生産性に優れる板状アルミナ粒子を製造可能な点からも、シリコン、ケイ素化合物、及びゲルマニウム化合物からなる群から選ばれる少なくとも一種を用いることが好ましい。シリコン又はケイ素化合物と、ゲルマニウム化合物とは、併用することができる。ムライトのSiの供給元となりムライトを効率よく生産可能な観点からは、形状制御剤としてシリコン又はケイ素元素を含むケイ素化合物を用いることが好ましい。また、シリコン又はケイ素化合物を使用した場合よりも、よりアスペクト比が高くより粒子径の大きな板状アルミナ粒子を製造可能な点からは、形状制御剤としてゲルマニウム化合物を用いることが好ましい。
形状制御剤として、シリコン又はケイ素化合物を用いた上記フラックス法により、ムライトを表層に含む板状アルミナ粒子を容易に製造することができる。
形状制御剤として、原料ゲルマニウム化合物を用いた上記フラックス法により、ゲルマニウム又はゲルマニウム化合物を含む板状アルミナ粒子を容易に製造することができる。
【0082】
・シリコン又はケイ素化合物
シリコン又はケイ素元素を含むケイ素化合物としては、特に制限されず、公知のものが使用されうる。シリコン又はケイ素元素を含むケイ素化合物の具体例としては、金属シリコン、有機シラン、シリコン樹脂、シリカ微粒子、シリカゲル、メソポーラスシリカ、SiC、ムライト等の人工合成シリコン化合物;バイオシリカ等の天然シリコン化合物等が挙げられる。これらのうち、アルミニウム化合物との複合、混合がより均一的に形成できる観点から、有機シラン、シリコン樹脂、シリカ微粒子を用いることが好ましい。なお、シリコン又はケイ素元素を含むケイ素化合物は、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、本発明における効果を損なわない限りにおいて、他の形状制御剤と併用して使用してもよい。
【0083】
シリコン又はケイ素元素を含むケイ素化合物の形状は、特に制限されず、例えば、球状、無定形、アスペクトのある構造体(ワイヤ、ファイバー、リボン、チューブなど)、シートなどを好適に用いることができる。
【0084】
・ゲルマニウム化合物
形状制御剤として用いる原料ゲルマニウム化合物としては、特に制限されず、公知のものが使用されうる。原料ゲルマニウム化合物の具体例としては、ゲルマニウム金属、二酸化ゲルマニウム、一酸化ゲルマニウム、四塩化ゲルマニウム、Ge-C結合を有する有機ゲルマニウム化合物等が挙げられる。なお、原料ゲルマニウム化合物は、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、本発明における効果を損なわない限りにおいて、他の形状制御剤と併用して使用してもよい。
【0085】
原料ゲルマニウム化合物の形状は、特に制限されず、例えば、球状、無定形、アスペクトのある構造体(ワイヤ、ファイバー、リボン、チューブなど)、シートなどを好適に用いることができる。
【0086】
(カリウム化合物)
形状制御剤とともに、さらにカリウム化合物を併用してもよい。
カリウム化合物としては、特に制限されないが、塩化カリウム、亜塩素酸カリウム、塩素酸カリウム、硫酸カリウム、硫酸水素カリウム、亜硫酸カリウム、亜硫酸水素カリウム、硝酸カリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、酢酸カリウム、酸化カリウム、臭化カリウム、臭素酸カリウム、水酸化カリウム、珪酸カリウム、燐酸カリウム、燐酸水素カリウム、硫化カリウム、硫化水素カリウム、モリブデン酸カリウム、タングステン酸カリウム等が挙げられる。この際、前記カリウム化合物は、モリブデン化合物の場合と同様に、異性体を含む。これらのうち、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、酸化カリウム、水酸化カリウム、塩化カリウム、硫酸カリウム、モリブデン酸カリウムを用いることが好ましく、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、塩化カリウム、硫酸カリウム、モリブデン酸カリウムを用いることがより好ましい。なお、上述のカリウム化合物は、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、モリブデン酸カリウムは、モリブデンを含むため、上述のモリブデン化合物としての機能も有しうる。
カリウム化合物は、ムライトがアルミナ表層に効率良く形成されることに寄与する。
カリウム化合物は、ゲルマニウムを含む層がアルミナ表層に効率良く形成されることに寄与する。
【0087】
(モリブデン化合物)
モリブデン化合物は、モリブデン元素を含むものであり、後述するように、アルミナのα結晶成長においてフラックス剤として機能する。
モリブデン化合物としては、特に制限されないが、酸化モリブデン、モリブデン金属が酸素との結合からなる酸根アニオン(MoOx n-)を含有する化合物が挙げられる。
【0088】
前記酸根アニオン(MoOx n-)を含有する化合物としては、特に制限されないが、モリブデン酸、モリブデン酸ナトリウム、モリブデン酸カリウム、モリブデン酸リチウム、H3PMo1240、H3SiMo1240、NH4Mo712、二硫化モリブデン等が挙げられる。
【0089】
モリブデン化合物にシリコンを含むことも可能であり、その場合、シリコンを含むモリブデン化合物がフラックス剤と形状制御剤と両方の役割を果たす。
【0090】
上述のモリブデン化合物のうち、昇華し易く、かつコストの観点から、酸化モリブデンを用いることが好ましい。また、上述のモリブデン化合物は、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0091】
上記のアルミニウム化合物、モリブデン化合物、シリコン又はケイ素化合物、ゲルマニウム化合物、カリウム化合物等の使用量は、適宜定めればよいが、モリブデン化合物の使用量を適度に多くすることで、上記の(006/113)比の値や、板状アルミナ粒子の粒子サイズを大きくでき、得られるアルミナ粒子の光輝性を向上させることができる。更には、アスペクト比を向上できる。
また、シリコン又はケイ素化合物の使用量を適度に多くすることで、上記の(006/113)比の値や、板状アルミナ粒子の粒子サイズを大きくでき、得られるアルミナ粒子の光輝性を向上させることができる。更には、ムライトの形成を促進でき、また更には、アスペクト比を向上できる。
【0092】
上記の観点からは、例えば、酸化物換算した原料全量を100質量%とした際に、Al換算で、好ましくは50質量%以上のアルミニウム化合物、より好ましくは70質量%以上99質量%以下のアルミニウム化合物、さらに好ましくは80質量%以上94.5質量%以下のアルミニウム化合物と、
MoO換算で、好ましくは7質量%以上40質量%以下のモリブデン化合物、より好ましくは9質量%以上30質量%以下のモリブデン化合物、さらに好ましくは10質量%以上17質量%以下のモリブデン化合物と、
SiO換算及び/又はGeO換算で、好ましくは0.4質量%以上10質量%未満のシリコン、ケイ素化合物及び/又はゲルマニウム化合物と、より好ましくは0.5質量%以上10質量%以下のシリコン、ケイ素化合物及び/又はゲルマニウム化合物と、さらに好ましくは0.7質量%以上7質量%以下のシリコン、ケイ素化合物及び/又はゲルマニウム化合物、特に好ましくは、1質量%以上3質量%以下のシリコン、ケイ素化合物及び/又はゲルマニウム化合物と、
を、混合して混合物とし、前記混合物を焼成することができる。
【0093】
上記の形状制御剤のシリコン、ケイ素化合物及び/又はゲルマニウム化合物としては、シリコン又はケイ素化合物であってよく、ゲルマニウム化合物であってよい。
上記の形状制御剤としては、シリコン又はケイ素化合物のみを用いてもよく、ゲルマニウム化合物のみを用いてもよく、シリコン又はケイ素化合物とゲルマニウム化合物とのみを組み合わせて用いてもよい。
形状制御剤としてゲルマニウム化合物を用いる場合には、酸化物換算した原料全量を100質量%とした際に、GeO換算で、好ましくは0.4質量%以上1.5質量%未満の原料ゲルマニウム化合物、より好ましくは0.7質量%以上1.2質量%以下の原料ゲルマニウム化合物を混合物に配合してもよい。
【0094】
上記の原料配合(質量%)の条件は原料ごとに自由に組み合わせてよく、各原料配合(質量%)における下限値と上限値についても自由に組み合わせることができる。
【0095】
上記の範囲で各種化合物を使用することで、上記の(006/113)比の値を満たし、光輝性に優れた板状アルミナ粒子を容易に製造できる。
【0096】
前記混合物が、さらに上記のカリウム化合物を含む場合、カリウム化合物の使用量は、特に限定されるものではないが、好ましくは、酸化物換算した原料全量を100質量%とした際に、KO換算で5質量%以下のカリウム化合物を混合することができる。より好ましくは、酸化物換算した原料全量を100質量%とした際に、KO換算で0.01質量%以上3質量%以下のカリウム化合物を混合することができる。さらに好ましくは、酸化物換算した原料全量を100質量%とした際に、KO換算で0.05質量%以上1質量%以下のカリウム化合物を混合することができる。
カリウム化合物の使用により、モリブデン化合物との反応により形成されるモリブデン酸カリウムは、Si拡散の効果を及ぼし板状アルミナ粒子表面のムライト形成の促進に寄与すると考えられる。
同様に、カリウム化合物の使用により、モリブデン化合物との反応により形成されるモリブデン酸カリウムは、原料ゲルマニウム拡散の効果を及ぼし板状アルミナ粒子表面のゲルマニウム又はゲルマニウム化合物の形成の促進に寄与すると考えられる。
原料仕込み時に用いる又は焼成に当たって昇温過程の反応で生じるカリウム化合物として、水溶性のカリウム化合物、例えばモリブデン酸カリウムは、焼成温度域でも気化することなく、焼成後に洗浄で、容易に回収できるため、モリブデン化合物が焼成炉外へ放出される量も低減され、生産コストとしても大幅に低減することができる。
【0097】
上記の各原料の使用量の数値範囲は、それらの合計含有量が100質量%を超えない範囲において、適宜組み合わせることができる。
【0098】
[焼成工程]
焼成工程は、モリブデン化合物および形状制御剤の存在下で、アルミニウム化合物を焼成する工程である。焼成工程は、前記混合工程で得られた混合物を焼成する工程であってもよい。
【0099】
実施形態に係る板状アルミナ粒子は、例えば、モリブデン化合物および形状制御剤の存在下で、アルミニウム化合物を焼成することで得られる。上記した通り、この製造方法はフラックス法と呼ばれる。
【0100】
フラックス法は、溶液法に分類される。フラックス法とは、より詳細には、結晶-フラックス2成分系状態図が共晶型を示すことを利用した結晶成長の方法である。フラックス法のメカニズムとしては、以下の通りであると推測される。すなわち、溶質およびフラックスの混合物を加熱していくと、溶質およびフラックスは液相となる。この際、フラックスは融剤であるため、換言すれば、溶質-フラックス2成分系状態図が共晶型を示すため、溶質は、その融点よりも低い温度で溶融し、液相を構成することとなる。この状態で、フラックスを蒸発させると、フラックスの濃度は低下し、換言すれば、フラックスによる前記溶質の融点低下効果が低減し、フラックスの蒸発が駆動力となって溶質の結晶成長が起こる(フラックス蒸発法)。なお、溶質およびフラックスは液相を冷却することによっても溶質の結晶成長を起こすことができる(徐冷法)。
【0101】
フラックス法は、融点よりもはるかに低い温度で結晶成長をさせることができる、結晶構造を精密に制御できる、自形をもつ多面体結晶体を形成できる等のメリットを有する。
【0102】
フラックスとしてモリブデン化合物を用いたフラックス法によるα-アルミナ粒子の製造では、そのメカニズムは必ずしも明らかではないが、例えば、以下のようなメカニズムによるものと推測される。すなわち、モリブデン化合物の存在下でアルミニウム化合物を焼成すると、まず、モリブデン酸アルミニウムが形成される。この際、当該モリブデン酸アルミニウムは、上述の説明からも理解されるように、アルミナの融点よりも低温でα-アルミナ結晶を成長する。そして、例えば、モリブデン酸アルミニウムの分解、フラックスの蒸発等を経て、結晶成長が加速されることでアルミナ粒子を得ることができる。すなわち、モリブデン化合物がフラックスとして機能し、モリブデン酸アルミニウムという中間体を経由してα-アルミナ粒子が製造されるのである。
【0103】
フラックス剤として、さらにカリウム化合物を用いた場合の、フラックス法によるα-アルミナ粒子の製造では、そのメカニズムは必ずしも明らかではないが、例えば、以下のようなメカニズムによるものと推測される。まず、モリブデン化合物とアルミニウム化合物が反応してモリブデン酸アルミニウムを形成する。そして、例えば、モリブデン酸アルミニウムが分解して酸化モリブデンとアルミナとなり、同時に、分解によって得られた酸化モリブデンを含むモリブデン化合物は、カリウム化合物と反応してモリブデン酸カリウムを形成する。当該モリブデン酸カリウムを含むモリブデン化合物の存在下でアルミナが結晶成長することで、実施形態に係る板状アルミナ粒子を得ることができる。
【0104】
上記フラックス法により、上記の(006/113)比の値を満たし、光輝性に優れた板状アルミナ粒子を製造することができる。
【0105】
焼成の方法は、特に限定はなく、公知慣用の方法で行う事ができる。焼成温度が700℃を超えると、アルミニウム化合物と、モリブデン化合物が反応して、モリブデン酸アルミニウムを形成する。さらに、焼成温度が900℃以上になると、モリブデン酸アルミニウムが分解し、形状制御剤の作用で板状アルミナ粒子を形成する。また、板状アルミナ粒子では、モリブデン酸アルミニウムが分解することで、アルミナと酸化モリブデンになる際に、モリブデン化合物が酸化アルミニウム粒子内に取り込まれるものと考えられる。
また、焼成温度が900℃以上になると、モリブデン酸アルミニウムの分解により得られるモリブデン化合物(例えば三酸化モリブデン)がカリウム化合物と反応し、モリブデン酸カリウムを形成するものと考えられる。
さらに、焼成温度が1000℃以上となると、モリブデンの存在下、板状アルミナ粒子の結晶成長とともに、板状アルミナ粒子表面のAlとSiOが反応し、高効率にムライトを形成するものと考えられる。
同様に、焼成温度が1000℃以上となると、モリブデンの存在下、板状アルミナ粒子の結晶成長とともに、板状アルミナ粒子表面のAlとGe化合物が反応し、高効率に二酸化ゲルマニウムやGe-O-Alを有する化合物等を形成するものと考えられる。
【0106】
また、焼成する時に、アルミニウム化合物と、形状制御剤と、モリブデン化合物の状態は特に限定されず、モリブデン化合物および形状制御剤がアルミニウム化合物に作用できる同一の空間に存在すれば良い。具体的には、モリブデン化合物と形状制御剤とアルミニウム化合物との粉体を混ぜ合わせる簡便な混合、粉砕機等を用いた機械的な混合、乳鉢等を用いた混合であっても良く、乾式状態、湿式状態での混合であっても良い。
【0107】
焼成温度の条件に特に限定は無く、目的とする板状アルミナ粒子の上記の(006/113)比の値、平均粒子径、アスペクト比、ムライトの形成、上記縦緩和時間Tの値、分散性等により、適宜、決定される。通常、焼成の温度については、最高温度がモリブデン酸アルミニウム(Al2(MoO43)の分解温度である900℃以上が好ましく、ムライトやゲルマニウム化合物が高効率に形成される1000℃以上がより好ましく、上記縦緩和時間Tが5秒以上(高結晶性)の板状アルミナ粒子を容易に得ることができる1200℃以上がより好ましい。
【0108】
一般的に、焼成後に得られるα-アルミナの形状を制御しようとすると、α-アルミナの融点に近い2000℃以上の高温焼成を行う必要があるが、焼成炉へ負担や燃料コストの点から、産業上利用する為には大きな課題がある。
【0109】
実施形態の製造方法は、2000℃を超えるような高温であっても実施可能であるが、1600℃以下というα-アルミナの融点よりかなり低い温度であっても、前駆体の形状にかかわりなくα結晶化率が高くアスペクト比の高い板状形状となるα-アルミナを形成することができる。
【0110】
本発明の一実施形態によれば、最高焼成温度が900~1600℃の条件であっても、アスペクト比が高く、α結晶化率が90%以上である板状アルミナ粒子の形成を低コストで効率的に行うことができ、最高温度が950~1500℃での焼成がより好ましく、最高温度が1000~1400℃の範囲の焼成がさらに好ましく、最高温度が1200~1400℃での焼成が最も好ましい。
【0111】
焼成の時間については、所定最高温度への昇温時間を15分~10時間の範囲で行い、且つ焼成最高温度における保持時間を5分~30時間の範囲で行うことが好ましい。板状アルミナ粒子の形成を効率的に行うには、10分~15時間程度の時間の焼成保持時間であることがより好ましい。
最高温度1000~1400℃かつ10分~15時間の焼成保持時間の条件を選択することで、緻密なα結晶形の多角板状アルミナ粒子が凝集し難く、容易に得られる。
最高温度1200~1400℃かつ10分~15時間の焼成保持時間の条件を選択することで、上記縦緩和時間Tが5秒以上(高結晶性)の板状アルミナ粒子が、容易に得られる。
【0112】
焼成の雰囲気としては、本発明の効果が得られるのであれば特に限定されないが、例えば、空気や酸素のといった含酸素雰囲気や、窒素やアルゴン、または二酸化炭素といった不活性雰囲気が好ましく、コストの面を考慮した場合は空気雰囲気がより好ましい。
【0113】
焼成するための装置としても必ずしも限定されず、いわゆる焼成炉を用いることができる。焼成炉は昇華した酸化モリブデンと反応しない材質で構成されていることが好ましく、さらに酸化モリブデンを効率的に利用するように、密閉性の高い焼成炉を用いる事が好ましい。
【0114】
[モリブデン除去工程]
板状アルミナ粒子の製造方法は、焼成工程後、必要に応じてモリブデンの少なくとも一部を除去するモリブデン除去工程をさらに含んでいてもよい。
【0115】
上述のように、焼成時においてモリブデンは昇華を伴うことから、焼成時間、焼成温度等を制御することで、板状アルミナ粒子表層に存在するモリブデン含有量を制御することができ、またアルミナ粒子表層以外(内層)に存在するモリブデン含有量やその存在状態を制御することができる。
【0116】
モリブデンは、板状アルミナ粒子の表面に付着しうる。上記昇華以外の手段として、当該モリブデンは水、アンモニア水溶液、水酸化ナトリウム水溶液、酸性水溶液で洗浄することにより除去することができる。なお、モリブデンは板状アルミナ粒子から除去されていなくとも良いが、少なくとも表面のモリブデンは除去した方が、各種バインダーに基づく被分散媒体に分散させて用いる様な際には、アルミナ本来の性質を充分に発揮でき、表面に存在したモリブデンによる不都合が生じないので好ましい。
【0117】
この際、使用する水、アンモニア水溶液、水酸化ナトリウム水溶液、酸性水溶液の濃度、使用量、および洗浄部位、洗浄時間等を適宜変更することで、モリブデン含有量を制御することができる。
【0118】
[粉砕工程]
焼成物は板状アルミナ粒子が凝集して、本発明に好適な粒子径の範囲を満たさない場合がある。そのため、板状アルミナ粒子は、必要に応じて、本発明に好適な粒子径の範囲を満たすように粉砕してもよい。
焼成物の粉砕の方法は特に限定されず、ボールミル、ジョークラッシャー、ジェットミル、ディスクミル、スペクトロミル、グラインダー、ミキサーミル等の従来公知の粉砕方法を適用できる。
【0119】
[分級工程]
板状アルミナ粒子は、平均粒子径を調整し、粉体の流動性を向上するため、またはマトリックスを形成するためのバインダーに配合したときの粘度上昇を抑制するために、好ましくは分級処理される。「分級処理」とは、粒子の大きさによって粒子をグループ分けする操作をいう。
分級は湿式、乾式のいずれでも良いが、生産性の観点からは、乾式の分級が好ましい。乾式の分級には、篩による分級のほか、遠心力と流体抗力の差によって分級する風力分級などがあるが、分級精度の観点からは、風力分級が好ましく、コアンダ効果を利用した気流分級機、旋回気流式分級機、強制渦遠心式分級機、半自由渦遠心式分級機などの分級機を用いて行うことができる。
上記した粉砕工程や分級工程は、後述する有機化合物層形成工程の前後を含めて、必要な段階において行うことができる。これら粉砕や分級の有無やそれらの条件選定により、例えば、得られる板状アルミナ粒子の平均粒子径を調整することができる。
【0120】
実施形態の板状アルミナ粒子、或いは実施形態の製造方法で得る板状アルミナ粒子は、凝集が少ないもの或いは凝集していないものが、本来の性質を発揮しやすく、それ自体の取扱性により優れており、また被分散媒体に分散させて用いる場合において、より分散性に優れる観点から、好ましい。板状アルミナ粒子の製造方法においては、上記した粉砕工程や分級工程は行わずに、凝集が少ないもの或いは凝集していないものが得られれば、左記工程を行う必要もなく、目的の優れた性質を有する板状アルミナを、生産性高く製造することが出来るので好ましい。
【0121】
[有機化合物層形成工程]
一実施形態において、板状アルミナ粒子の製造方法は、有機化合物層形成工程をさらに含んでいてもよい。当該有機化合物層形成工程は、通常、焼成工程の後、またはモリブデン除去工程の後に行われる。
【0122】
有機化合物層を形成する方法としては、特に制限されず、公知の方法が適宜採用されうる。例えば、有機化合物を含む液をモリブデンを含む板状アルミナ粒子に接触させ、乾燥する方法が挙げられる。
【0123】
なお、有機化合物層の形成に使用されうる有機化合物としては、上述したものが用いられうる。
【0124】
<樹脂組成物>
本発明の一実施形態として、樹脂と実施形態の板状アルミナ粒子とを含有する樹脂組成物を提供する。樹脂としては、特に限定されず、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂等を例示できる。
【0125】
樹脂組成物は、硬化させて樹脂組成物の硬化物とすることができ、硬化及び成形して、樹脂組成物の成形物とすることができる。成形のために、樹脂組成物に対して溶融や混練などの処理を、適宜施すことができる。成形方法としては、圧縮成型、射出成型、押出成型、発泡成形等が挙げられる。なかでも、押出成形機による押出成形が好ましく、二軸押出機による押出成形がより好ましい。
樹脂組成物をコート剤や塗料等として用いる場合、樹脂組成物を塗布対象に塗布して、樹脂組成物の硬化物を有する塗膜を形成することができる。
【0126】
<樹脂組成物の製造方法>
本発明の一実施形態によれば、樹脂組成物の製造方法が提供される。
【0127】
当該製造方法は、実施形態の板状アルミナ粒子と、樹脂とを混合する工程を含む。
板状アルミナ粒子としては、上述したものが用いられうることからここでは説明を省略する。
【0128】
なお、前記板状アルミナ粒子は、表面処理されたものを用いることができる。
【0129】
また、使用する板状アルミナ粒子は、1種のみ使用しても、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0130】
さらに、板状アルミナ粒子と他のフィラー(アルミナ、スピネル、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム等)とを組み合わせて使用してもよい。
【0131】
板状アルミナ粒子の含有量は、樹脂組成物の質量100質量%に対して、5~95質量%であることが好ましく、10~90質量%であることがより好ましく、30~80質量%であることがさらに好ましい。板状アルミナ粒子の含有量が5質量%以上であると、板状アルミナ粒子の高熱伝導性を効率的に発揮できることから好ましい。一方、板状アルミナ粒子の含有量が95質量%以下であると、成形性に優れた樹脂組成物を得ることができることから好ましい。
樹脂組成物をコート剤や塗料等として用いる場合、優れた光輝性を発揮させ、塗膜の形成を容易とする観点から、板状アルミナ粒子の含有量は、樹脂組成物の固形分質量100質量%に対して、0.1~95質量%であることが好ましく、1~50質量%であることがより好ましく、3~30質量%であることがさらに好ましい。
【0132】
[樹脂]
樹脂としては、特に制限されず、熱可塑性樹脂および熱硬化性樹脂が挙げられる。
【0133】
前記熱可塑性樹脂としては、特に制限されず、成形材料等に使用される公知慣用の樹脂が用いられうる。具体的には、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリメタクリル酸メチル樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリフェニレンオキシド樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリアリルスルホン樹脂、熱可塑性ポリイミド樹脂、熱可塑性ウレタン樹脂、ポリアミノビスマレイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ビスマレイミドトリアジン樹脂、ポリメチルペンテン樹脂、フッ化樹脂、液晶ポリマー、オレフィン-ビニルアルコール共重合体、アイオノマー樹脂、ポリアリレート樹脂、アクリロニトリル-エチレン-スチレン共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体、アクリロニトリル-スチレン共重合体などが挙げられる。
【0134】
前記熱硬化性樹脂としては、加熱または放射線や触媒などの手段によって硬化される際に実質的に不溶かつ不融性に変化し得る特性を持った樹脂であり、一般的には、成形材料等に使用される公知慣用の樹脂が用いられうる。具体的には、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂等のノボラック型フェノール樹脂;未変性のレゾールフェノール樹脂、桐油、アマニ油、クルミ油等で変性した油変性レゾールフェノール樹脂等のレゾール型フェノール樹脂等のフェノール樹脂;ビスフェノールAエポキシ樹脂、ビスフェノールFエポキシ樹脂等のビスフェノール型エポキシ樹脂;脂肪鎖変性ビスフェノール型エポキシ樹脂、ノボラックエポキシ樹脂、クレゾールノボラックエポキシ樹脂等のノボラック型エポキシ樹脂;ビフェニル型エポキシ樹脂、ポリアルキレングルコール型エポキシ樹脂等のエポキシ樹脂;ユリア(尿素)樹脂、メラミン樹脂等のトリアジン環を有する樹脂;(メタ)アクリル樹脂やビニルエステル樹脂等のビニル樹脂:不飽和ポリエステル樹脂、ビスマレイミド樹脂、ポリウレタン樹脂、ジアリルフタレート樹脂、シリコーン樹脂、ベンゾオキサジン環を有する樹脂、シアネートエステル樹脂等が挙げられる。
【0135】
上述の樹脂は単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。この際、熱可塑性樹脂を2種以上使用してもよいし、熱硬化性樹脂を2種以上使用してもよいし、熱可塑性樹脂を1種以上および熱硬化性樹脂を1種以上使用してもよい。
【0136】
樹脂の含有量は、樹脂組成物の質量100質量%に対して、5~90質量%であることが好ましく、10~70質量%であることがより好ましい。樹脂の含有量が5質量%以上であると、樹脂組成物に優れた成形性を付与できることから好ましい。一方、樹脂の含有量が90質量%以下であると、成形してコンパウンドとして高熱伝導性を得ることができることから好ましい。
【0137】
[硬化剤]
樹脂組成物には、必要に応じて硬化剤を混合してもよい。
【0138】
硬化剤としては、特に制限されず、公知のものが使用されうる。
【0139】
具体的には、アミン系化合物、アミド系化合物、酸無水物系化合物、フェノ-ル系化合物などが挙げられる。
【0140】
前記アミン系化合物としては、ジアミノジフェニルメタン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、ジアミノジフェニルスルホン、イソホロンジアミン、イミダゾ-ル、BF-アミン錯体、グアニジン誘導体等が挙げられる。
【0141】
前記アミド系化合物としては、ジシアンジアミド、リノレン酸の2量体とエチレンジアミンとより合成されるポリアミド樹脂等が挙げられる。
【0142】
前記酸無水物系化合物としては、無水フタル酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、無水マレイン酸、テトラヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、無水メチルナジック酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸等が挙げられる。
【0143】
前記フェノール系化合物としては、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、芳香族炭化水素ホルムアルデヒド樹脂変性フェノール樹脂、ジシクロペンタジエンフェノール付加型樹脂、フェノールアラルキル樹脂(ザイロック樹脂)、レゾルシンノボラック樹脂に代表される多価ヒドロキシ化合物とホルムアルデヒドから合成される多価フェノールノボラック樹脂、ナフトールアラルキル樹脂、トリメチロールメタン樹脂、テトラフェニロールエタン樹脂、ナフトールノボラック樹脂、ナフトール-フェノール共縮ノボラック樹脂、ナフトール-クレゾール共縮ノボラック樹脂、ビフェニル変性フェノール樹脂(ビスメチレン基でフェノール核が連結された多価フェノール化合物)、ビフェニル変性ナフトール樹脂(ビスメチレン基でフェノール核が連結された多価ナフトール化合物)、アミノトリアジン変性フェノール樹脂(メラミン、ベンゾグアナミンなどでフェノール核が連結された多価フェノール化合物)やアルコキシ基含有芳香環変性ノボラック樹脂(ホルムアルデヒドでフェノール核およびアルコキシ基含有芳香環が連結された多価フェノール化合物)等の多価フェノール化合物が挙げられる。
【0144】
上述硬化剤は、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0145】
[硬化促進剤]
樹脂組成物には、必要に応じて硬化促進剤を混合してもよい。
【0146】
硬化促進剤は、組成物を硬化する際に硬化を促進させる機能を有する。
【0147】
前記硬化促進剤としては、特に制限されないが、リン系化合物、第3級アミン、イミダゾール、有機酸金属塩、ルイス酸、アミン錯塩等が挙げられる。
【0148】
上述の硬化促進剤は単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0149】
[硬化触媒]
樹脂組成物には、必要に応じて硬化触媒を混合してもよい。
【0150】
硬化触媒は、前記硬化剤の代わりに、エポキシ基を有する化合物の硬化反応を進行させる機能を有する。
【0151】
硬化触媒としては、特に制限されず、公知慣用の熱重合開始剤や活性エネルギー線重合開始剤が用いられうる。
【0152】
なお、硬化触媒は単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0153】
[粘度調節剤]
樹脂組成物には、必要に応じて粘度調節剤を混合してもよい。
【0154】
粘度調節剤は、組成物の粘度を調整する機能を有する。
【0155】
粘度調節剤としては、特に制限されず、有機ポリマー、ポリマー粒子、無機粒子等が用いられうる。
【0156】
なお、粘度調節剤は単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0157】
[可塑剤]
樹脂組成物には、必要に応じて可塑剤を混合してもよい。
【0158】
可塑剤は、熱可塑性合成樹脂の加工性、柔軟性、耐候性等を向上させる機能を有する。
【0159】
可塑剤としては、特に制限されず、フタル酸エステル、アジピン酸エステル、リン酸エステル、トリメリット酸エステル、ポリエステル、ポリオレフィン、ポリシロキサン等が用いられうる。
【0160】
なお、上述の可塑剤は単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0161】
[混合]
本形態に係る樹脂組成物は、板状アルミナ粒子と樹脂、さらに必要に応じてその他の配合物を混合することにより得られる。その混合方法に特に限定はなく、公知慣用の方法により、混合される。
【0162】
樹脂が熱硬化性樹脂である場合、一般的な熱硬化性樹脂と板状アルミナ粒子等との混合方法としては、所定の配合量の熱硬化性樹脂と、板状アルミナ粒子、必要に応じてその他の成分をミキサー等によって充分に混合した後、三本ロール等で混練し、流動性ある液状の組成物を得る方法が挙げられる。また、別の実施形態における熱硬化性樹脂と板状アルミナ粒子等との混合方法として、所定の配合量の熱硬化性樹脂と、板状アルミナ粒子、必要に応じてその他の成分をミキサー等によって充分に混合した後、ミキシングロール、押出機等で溶融混練した後、冷却することで、固形の組成物として得る方法が挙げられる。
混合状態に関して、硬化剤や触媒等を配合した場合は、硬化性樹脂とそれらの配合物が充分に均一に混合されていればよいが、板状アルミナ粒子も均一に分散混合された方がより好ましい。
【0163】
樹脂が熱可塑性樹脂である場合の一般的な熱可塑性樹脂と板状アルミナ粒子等との混合方法としては、熱可塑性樹脂、板状アルミナ粒子、および必要に応じてその他の成分を、例えばタンブラーやヘンシェルミキサーなどの各種混合機を用い予め混合した後、バンバリーミキサー、ロール、ブラベンダー、単軸混練押出機、二軸混練押出機、ニーダー、混合ロールなどの混合機で溶融混練する方法が挙げられる。なお、溶融混練の温度は特に制限されないが、通常100~320℃の範囲である。
【0164】
樹脂組成物の流動性や板状アルミナ粒子等のフィラー充填性をより高められることから、樹脂組成物にカップリング剤を外添してもよい。なお、カップリング剤を外添することで、樹脂と板状アルミナ粒子の密着性が更に高められ、樹脂と板状アルミナ粒子の間での界面熱抵抗が低下し、樹脂組成物の熱伝導性が向上しうる。
【0165】
前記有機シラン化合物としては、例えば、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、n-プロピルトリメトキシシラン、n-プロピルトリエトキシシラン、iso-プロピルトリメトキシシラン、iso-プロピルトリエトキシシラン、ペンチルトリメトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、オクテニルトリメトキシシラン等のアルキル基の炭素数が1~22までのアルキルトリメトキシシランまたはアルキルトリクロロシラン類、3,3,3-トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、トリデカフルオロ-1,1,2,2-テトラヒドロオクチル)トリクロロシラン類、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、p-クロロメチルフェニルトリメトキシシラン、p-クロロメチルフェニルトリエトキシシラン類等、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、グリシドキシオクチルトリメトキシシラン等のエポキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-β(アミノエチル)γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-β(アミノエチル)γ-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-ウレイドプロピルトリエトキシシラン等のアミノシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン等のメルカプトシラン、p-スチリルトリメトキシシラン、ビニルトリクロルシラン、ビニルトリス(β-メトキシエトキシ)シラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、メタクリロキシオクチルトリメトキシシラン等のビニルシラン、さらに、エポキシ系、アミノ系、ビニル系の高分子タイプのシランが挙げられる。なお、上記有機シラン化合物は、単独で含まれていても、2種以上を含んでいてもよい。
【0166】
上述のカップリング剤は、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0167】
カップリング剤の添加量は特に制限されないが、樹脂の質量に対して、0.01~5質量%であることが好ましく、0.1~3質量%であることがより好ましい。
【0168】
一実施形態によれば、樹脂組成物は、熱伝導性材料に使用される。
【0169】
樹脂組成物に含有される板状アルミナ粒子は、樹脂組成物の熱伝導性に優れることから、当該樹脂組成物は、好ましくは絶縁放熱部材として使用される。これにより、機器の放熱機能を向上させることができ、機器の小型軽量化、高性能化に寄与することができる。
【0170】
樹脂組成物に含有される板状アルミナ粒子は、光輝性に優れることから、樹脂組成物は、コート剤、塗料等として好適に使用される。
【0171】
<硬化物の製造方法>
本発明の一実施形態によれば、硬化物の製造方法が提供される。当該製造方法は、上述で製造された樹脂組成物を硬化させることを含む。
【0172】
硬化温度については、特に制限されないが、20~300℃であることが好ましく、50~200℃であることがより好ましい。
【0173】
硬化時間については、特に制限されないが、0.1~10時間であることが好ましく、0.2~3時間であることがより好ましい。
【0174】
硬化物の形状については、所望の用途によって異なり、当業者が適宜設計しうる。
【実施例
【0175】
次に実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0176】
≪板状アルミナ粒子の製造≫
<実施例1>
水酸化アルミニウム(平均粒子径1~2μm)100gと、二酸化珪素(関東化学株式会社製、特級)0.65gと、三酸化モリブデン(太陽鉱工株式会社製)6.5gと、を乳鉢で混合し、混合物を得た。得られた混合物を坩堝に入れ、セラミック電気炉にて5℃/分の条件で1200℃まで昇温し、1200℃で10時間保持し焼成を行なった。その後5℃/分の条件で室温まで降温後、坩堝を取り出し、67.0gの薄青色の粉末を得た。得られた粉末を乳鉢で、2mm篩を通るまで解砕した。
続いて、得られた前記薄青色粉末の65.0gを0.25質量%アンモニア水250mLに分散し、分散溶液を室温(25~30℃)で3時間攪拌後、106μm篩を通し、ろ過によりアンモニア水を除き、水洗浄と乾燥を行う事で、粒子表面に残存するモリブデンを除去し、60.0gの薄青色の粉末を得た。
得られた粉末はSEM観察により形状が多角板状であり、凝集体が極めて少なく、優れた取り扱い性を有する板状形状の粒子であることが確認された。さらに、XRD測定を行ったところ、α-アルミナに由来する鋭いピーク散乱が現れ、α結晶構造以外のアルミナ結晶系ピークは観察されなく、緻密な結晶構造を有する板状アルミナであることを確認した。さらに、蛍光X線定量分析の結果から、得られた粒子100質量%に対し、モリブデンを三酸化モリブデン換算で0.3質量%含むものであることを確認した。
【0177】
<実施例2~7、比較例1>
混合物における、原料の二酸化珪素、三酸化モリブデン、二酸化ゲルマニウム(三菱マテリアル電子化成株式会社製)の配合を、表1のとおり変更した以外は、上記実施例1と同様にして、実施例2~7の板状アルミナ粒子を製造した。
比較例1については、配合を、表1のとおり変更し、1100℃3時間で焼成した以外は、上記実施例1と同様にして、比較例1の板状アルミナ粒子を製造した。
【0178】
<比較例2>
市販の板状アルミナ(キンセイマテック製 セラフ)を用いて評価を行った。
【0179】
【表1】
【0180】
≪評価≫
上記の実施例1~7、及び比較例1~2の粉末を試料とし、以下の評価を行った。測定方法を以下に示す。
【0181】
[板状アルミナの長径Lの計測]
レーザー回折粒子径測定装置SALD-7000(株式会社島津製作所)を用い、アルミナ粉末1mgを0.2質量%に調製したヘキサメタリン酸ナトリウム(富士フィルム和光純薬株式会社製)水溶液で合計18gになるように希釈し、これをサンプルとして測定を行い、平均粒子径D50を求め長径Lとした。また、粒子径D10(μm)及び粒子径D90(μm)も求めた。
【0182】
[板状アルミナの厚みDの計測]
走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、50個の厚みを測定した平均値を採用し、厚みD(μm)とした。
【0183】
[アスペクト比L/D]
アスペクト比は下記の式を用いて求めた。
アスペクト比 = 板状アルミナの長径L/板状アルミナの厚みD
【0184】
[XRDピーク強度比・ムライトの有無の分析]
作製した試料を0.5mm深さの測定試料用ホルダーにのせ、一定荷重で平らになるように充填し、それを広角X線回折(XRD)装置(株式会社リガク製 Ultima IV)にセットし、Cu/Kα線、40kV/40mA、スキャンスピード2度/分、走査範囲10~70度の条件で測定を行った。
2θ=26.2±0.2度に認められるムライトのピーク高さをA、2θ=35.1±0.2度に認められる(104)面のα-アルミナのピーク高さをBとし、2θ=30±0.2度のベースラインの値をCとして下記の式よりムライトの有無を判定した。
値が0.02以上はムライトが「有」とし、0.02未満はムライトが「無」と判定した。
【0185】
α-アルミナの(104)面のピーク高さに対するムライトのピーク高さの比=(A-C)/(B-C)
【0186】
[XRDピーク強度比・晶癖の評価]
作製した試料を0.5mm深さの測定試料用ホルダーにのせ、一定荷重で平らになるように充填し、それを広角X線回折(XRD)装置(株式会社リガク製 Ultima IV)にセットし、Cu/Kα線、40kV/40mA、スキャンスピード2度/分、走査範囲10~70度の条件で測定を行った。
2θ=41.6±0.3度に認められる(006)面のピーク強度と、2θ=43.3±0.3度に認められる(113)面のピーク強度との比(006/113)を求めた。
(006/113)比の値が低いほど、(113)面が発達した六角両錘型の形状に近く、(006/113)比の値が高いほど、(113)面の発達が抑えられ、(006)面が発達した板状形状の形態にあると判定される。
【0187】
[板状アルミナ粒子表層のSi量・Ge量の分析]
X線光電子分光(XPS)装置Quantera SXM(アルバックファイ社 )を用い、作製した試料を両面テープ上にプレス固定し、以下の条件で組成分析を行った。
・X線源:単色化AlKα、ビーム径100μmφ、出力25W
・測定:エリア測定(1000μm四方)、n=3
・帯電補正:C1s=284.8eV
XPS分析結果により求められる[Si]/[Al]を板状アルミナ粒子表層のSi量とした。
XPS分析結果により求められる[Ge]/[Al]を板状アルミナ粒子表層のGe量とした。
【0188】
[板状アルミナ粒子内に含まれるSi量・Ge量の分析]
蛍光X線(XRF)分析装置PrimusIV (株式会社リガク製)を用い、作製した試料約70mgをろ紙にとり、PPフィルムをかぶせて組成分析を行った。
XRF分析結果により求められる[Si]/[Al]を板状アルミナ粒子内のSi量とした。
XRF分析結果により求められる[Ge]/[Al]を板状アルミナ粒子内のGe量とした。
【0189】
[板状アルミナ粒子内に含まれるSi量、Ge量、及びMo量の分析]
蛍光X線分析装置PrimusIV(株式会社リガク製) を用い、作製した試料約70mgをろ紙にとり、PPフィルムをかぶせて組成分析を行った。
XRF分析結果により求められるケイ素量、モリブデン量、およびゲルマニウム量を、板状アルミナ粒子100質量%に対する二酸化ケイ素換算(質量%)、二酸化ゲルマニウム換算(質量%)、および三酸化モリブデン換算(質量%)により求めた。
【0190】
[α化率の分析]
作製した試料を0.5mm深さの測定試料用ホルダーにのせ、一定荷重で平らになる様充填し、それを広角X線回折装置(株式会社リガク製 Ultima IV)にセットし、Cu/Kα線、40kV/40mA、スキャンスピード2度/分、走査範囲10~70度の条件で測定を行った。α-アルミナと遷移アルミナの最強ピーク高さの比よりα化率を求めた。
【0191】
[NMRによる配位数の測定]
JEOL RESONANCE製、JNM-ECA600を用いて、静磁場強度14.1Tにて、固体27Al NMR分析を行った。各試料を、φ 4 mm 固体NMR試料管に採取し、測定を行った。試料ごと、90度パルス幅を測定した後、飽和回復法による緩和時間測定、シングルパルス測定を実施した。
【0192】
市販試薬のγ-アルミナ(関東化学)の6配位アルミニウムのピークトップを14.6ppmとした場合の10~30ppmに検出されたピークを6配位アルミニウムのピーク、60~90ppmに検出されたピークを4配位アルミニウムのピークと推定した。
【0193】
条件は下記のとおりである。
・MAS rate:15kHz
・プローブ :SH60T4(JEOL RESONANCE製)
【0194】
14.1Tにおけるシングルパルス測定の測定条件は下記のとおりである。
・パルス延滞時間(秒):(緩和回復法により求められたT(秒)×3)
・パルス幅(μ秒) :各試料の6配位アルミニウムの90度パルス幅(μ秒)/3
・積算回数 :8回
【0195】
[NMRによる縦緩和時間Tの測定]
14.1Tにおける緩和回復法により、10~30ppmに検出された6配位アルミニウムのピークに対する縦緩和時間Tを求めた。
【0196】
[光輝性の評価]
粉体を肉眼で観察し、以下の基準に基づき評価した。
A…粉体由来のキラキラとした強い光の反射が確認できる。
B…粉体由来のキラキラとしたやや強い光の反射が確認できる。
C…粉体由来のキラキラとした光の反射が確認できる。
D…粉体由来のキラキラとした光の反射が確認できない。
【0197】
原料化合物の酸化物換算の配合(全体を100質量%とする)と、上記の評価結果を表2に示す。
【0198】
【表2】
【0199】
上記実施例1~7、及び比較例1~2で得られた粉末は、上記表2に記載の粒子径、厚み、アスペクト比、(006/113)比の値を有するものであることを確認した。
【0200】
図1に、実施例1の板状アルミナ粒子のSEM観察画像を示す。
【0201】
実施例1~7と比較例1~2との比較によれば、(006/113)比の値が高い実施例1~7の板状アルミナ粒子は、比較例1~2のアルミナ粒子よりも、(006)面に対応する面の比率が大きく、より光輝性に優れることが分かる。(006/113)比の値が大きいほど、光輝性が向上することがわかる。実施例3、6及び7の板状アルミナ粒子は、(006/113)比の値が特に大きく、光輝性が非常に高いものであった。実施例2と実施例3との比較から、同等の粒子径であっても、(006/113)比の値が大きいほうが、より光輝性に優れることが確認できた。
【0202】
また、α化率の測定を行ったところ、α結晶構造以外のアルミナ結晶系ピークは観察されなく、上記実施例1~7及び比較例1~2で得られた粉末は、α化率が90%以上であることを確認した。
【0203】
また、縦緩和時間Tが5秒以上である実施例1~7の板状アルミナ粒子は、比較例1~2のアルミナ粒子よりも、おそらく結晶性が高いために、より光輝性に優れていた。
【0204】
原料化合物に由来するSi、Ge及びMoは、XPS分析及びXRF分析により、製造された板状アルミナ粒子において存在が確認された。また、原料化合物のSi、Ge及びMoは、その使用量に応じて粒子に含有される傾向であった。
【0205】
アルミナ粒子の粒子径に着目すると、特に、実施例1~3、実施例5~7の板状アルミナ粒子は、従来得られている板状アルミナと比べて、顕著に粒子径の大きいものであった。
【0206】
実施例1~3では、MoO及びSiOの仕込み量を適度に増やしたことで、(006/113)比の値や粒子径を大きくできたと考えられる。実施例5~7では、MoOの仕込み量を適度に増やたことで、(006/113)比の値や粒子径を大きくできたと考えられる。
【0207】
上記実施例1~4及び実施例7で得られた粉末では、上記XRDピーク強度比の値が0.02以上であり、ムライトの存在が認められた。
【0208】
XRDピーク強度比(ムライト)の値に着目すると、原料のSiOの仕込み量が多いほど、ムライトの生成量が増加する傾向があることが分かる。
なお、さらに原料のSiOの仕込み量を増やしていくことで、XRFで測定された[Si]/[Al]の値が上昇していくが、これに対して、上記のXRDピーク強度比、及びXPSモル比[Si]/[Al]の値はある程度までで頭打ちとなる場合がある。これは、XRF分析が試料全体を分析しているのに対し、XPSが試料表面の数nmを分析していることに起因するものと考えられる。すなわち、XPSモル比[Si]/[Al]の値が上昇しないことは、板状アルミナ粒子表面のSi量が飽和状態となっていることを意味し、この状態の板状アルミナ粒子の表層は、全体がムライトで被覆された状態にあると考えられる。
【0209】
実施例1~4、実施例7で得られた板状アルミナ粒子は、ムライトが表層に形成されており、この表層はSiOを含まないムライトのみが偏在しているか、SiOを含んでいても、ムライトの方が圧倒的に多く偏在していることが示唆される。
【0210】
表層にムライトを含むことで、表層にムライトを含まない粒子よりも機器を摩耗させ難い、板状アルミナ粒子を提供できる。アルミナとムライトとの強固に結着し剥がれ難くなっていることと合わせて、カップリング剤として上記した様な有機シランを用いて板状アルミナ粒子の表面処理を行った場合には、ムライトとこの有機シランカップリング剤のSiとの強いアンカリングに基づく強固な結着が期待できるばかりでなく、この有機シランカップリング剤のSiと対向する側の官能基を選択することで、バインダーの様な被分散媒体への強固な結着をも期待できる。
【0211】
実施例5~7で得られた板状アルミナ粒子は、XRFモル比[Si]/[Al]及びXPSモル比[Si]/[Al]の結果から、表層又は表層及び粒子内に、ゲルマニウム又はゲルマニウム化合物を含むことが示された。
【0212】
表層にゲルマニウム又はゲルマニウム化合物を含むことで、表層にゲルマニウム又はゲルマニウム化合物を含まない粒子よりも機器を摩耗させ難い、板状アルミナ粒子を提供できる。また、カップリング剤として上記した様な有機シランを用いて板状アルミナ粒子の表面処理を行った場合には、ゲルマニウムを含む層とこの有機シランカップリング剤のSiとの強いアンカリングに基づく強固な結着が期待できるばかりでなく、この有機シランカップリング剤のSiと対向する側の官能基を選択することで、バインダーの様な被分散媒体への強固な結着をも期待できる。
【0213】
以上で説明した各実施形態における各構成及びそれらの組み合わせ等は一例であり、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、構成の付加、省略、置換、およびその他の変更が可能である。また、本発明は各実施形態によって限定されることはなく、請求項(クレーム)の範囲によってのみ限定される。
【産業上の利用可能性】
【0214】
(006/113)比の値が高く、(006)面に対応する面の比率の大きな平板状であるという、光輝性に優れた板状アルミナ粒子を提供できる。
図1