(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-03
(45)【発行日】2022-10-12
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池セパレータ耐熱層バインダー用水性樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
H01M 50/42 20210101AFI20221004BHJP
H01M 50/449 20210101ALI20221004BHJP
【FI】
H01M50/42
H01M50/449
(21)【出願番号】P 2022521343
(86)(22)【出願日】2021-05-20
(86)【国際出願番号】 JP2021019097
(87)【国際公開番号】W WO2021251092
(87)【国際公開日】2021-12-16
【審査請求日】2022-04-07
(31)【優先権主張番号】P 2020101602
(32)【優先日】2020-06-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149445
【氏名又は名称】大野 孝幸
(74)【代理人】
【識別番号】100163290
【氏名又は名称】岩本 明洋
(74)【代理人】
【識別番号】100214673
【氏名又は名称】菅谷 英史
(74)【代理人】
【識別番号】100186646
【氏名又は名称】丹羽 雅裕
(72)【発明者】
【氏名】梶川 正浩
(72)【発明者】
【氏名】植村 幸司
(72)【発明者】
【氏名】松村 優佑
【審査官】式部 玲
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/146515(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/148577(WO,A1)
【文献】特開2020-087591(JP,A)
【文献】特開2018-026266(JP,A)
【文献】特開2015-041603(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 50/42
H01M 50/449
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素原子数4~18のアルキル基を有するアクリル単量体(a1)、ジアセトン(メタ)アクリルアミド及びN-メチロール(メタ)アクリルアミドから選ばれる少なくとも1以上の単量体(a2)、カルボキシル基を有する不飽和単量体(a3)、及びアクリロニトリル(a4)、を必須原料とするラジカル重合体(A)と、水性媒体(B)とを含有するリチウムイオン二次電池セパレータ耐熱層バインダー用水性樹脂組成物であって、前記ラジカル重合体(A)の単量体原料中の前記単量体(a2)が3~20質量
%であり、前記アクリロニトリル(a4)が5~35質量%であることを特徴とするリチウムイオン二次電池セパレータ耐熱層バインダー用水性樹脂組成物。
【請求項2】
前記ラジカル重合体(A)中の、前記アクリル単量体(a1)由来成分が50~85質量%であり
、前記不飽和単量体(a3)由来成分が0.5~5質量%である請求項1記載のリチウムイオン二次電池セパレータ耐熱層バインダー用水性樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池セパレータ耐熱層バインダー用水性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池の製造に使用するセパレータとしては、一般に、ポリオレフィン樹脂等を用いて得られる多孔体を使用することが多い。リチウムイオン二次電池は、通常、電解液中のイオンが前記セパレータを構成する孔を介して移動することによって、電池としての機能を発揮する。
【0003】
一方、前記リチウムイオン二次電池の出力が増大するなかで、前記リチウムイオン二次電池には、異常発熱に起因した発火等を引き起こす可能性があるという問題が懸念されている。
【0004】
前記発火等を防止する方法としては、例えば前記リチウムイオン二次電池が発熱した際に、前記セパレータの微多孔がその熱の影響によって無孔化しうるセパレータを使用する方法が知られている。これにより、電解液内におけるイオンの伝導を停止し、さらなる発熱や発火を防止することが期待されている。
【0005】
しかし、前記セパレータは、その熱の影響によって著しい収縮を引き起こし、その結果、電解液内におけるイオンの伝導を停止することができず、リチウムイオン二次電池の短絡を引き起こす可能性を有していた。
【0006】
熱収縮を引き起こしにくいセパレータとしては、ポリオレフィン樹脂等を用いて得られる多孔体の表面に、多孔状の耐熱層を設けたものが知られており、例えば、ポリオレフィン樹脂を主成分とする多孔膜の少なくとも片面に、無機粒子と樹脂製バインダーとを含む多孔層を備えた多層多孔膜であって、前記樹脂製バインダーが、(メタ)アクリル酸エステル単量体から選ばれる1種以上の単量体と、不飽和カルボン酸単量体と、架橋性単量体とを原料単位として含む共重合体であることを特徴とする多層多孔膜が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0007】
しかしながら、この材料は耐熱層として一定の効果を発現するものの、180℃等の高温環境下においては、耐熱性が不十分であるため、異常発熱の際に電池の短絡を引き起こす可能性があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、耐熱収縮性に優れたリチウムイオン二次電池セパレータ耐熱層バインダー用水性樹脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、特定のラジカル重合体、及び水性媒体を含有する水性樹脂組成物を用いることで、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成した。
【0011】
すなわち、本発明は、炭素原子数4~18のアルキル基を有するアクリル単量体(a1)、ジアセトン(メタ)アクリルアミド及びN-メチロール(メタ)アクリルアミドから選ばれる少なくとも1以上の単量体(a2)、カルボキシル基を有する不飽和単量体(a3)、及びアクリロニトリル(a4)、を必須原料とするラジカル重合体(A)と、水性媒体(B)とを含有するリチウムイオン二次電池セパレータ耐熱層バインダー用水性樹脂組成物であって、前記ラジカル重合体(A)の単量体原料中の前記アクリロニトリル(a4)が5~30質量%であることを特徴とするリチウムイオン二次電池セパレータ耐熱層バインダー用水性樹脂組成物に関するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明のリチウムイオン二次電池セパレータ耐熱層バインダー用水性樹脂組成物は、耐熱収縮性に優れるセパレータが得られることから、リチウムイオン二次電池セパレータ耐熱層のバインダーに好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のリチウムイオン二次電池セパレータ耐熱層バインダー用水性樹脂組成物は、炭素原子数4~18のアルキル基を有するアクリル単量体(a1)、ジアセトン(メタ)アクリルアミド及びN-メチロール(メタ)アクリルアミドから選ばれる少なくとも1以上の単量体(a2)、カルボキシル基を有する不飽和単量体(a3)、及びアクリロニトリル(a4)、を必須原料とするラジカル重合体(A)と、水性媒体(B)とを含有するリチウムイオン二次電池セパレータ耐熱層バインダー用水性樹脂組成物であって、前記ラジカル重合体(A)の単量体原料中の前記アクリロニトリル(a4)が5~30質量%であるものである。
【0014】
まず、前記ラジカル重合体(A)について説明する。前記アクリル単量体(a1)は、炭素原子数4~18のアルキル基を有するアクリル単量体であるが、例えば、n-ブチル(メタ)アクリレート、i-ブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、n-ヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n-オクチル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらのアクリル単量体(a1)は、単独で用いることも2種以上併用することもできる。これらの中でも、ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレートを用いるのが好ましい。
【0015】
なお、本発明において、「(メタ)アクリレート」とは、アクリレートとメタクリレートの一方又は両方をいい、「(メタ)アクリルアミド」とは、アクリルアミドとメタクリルアミドの一方又は両方をいい、「(メタ)アクリル酸」とは、アクリル酸とメタクリル酸の一方又は両方をいい、「(メタ)アクリロイル」とは、アクリロイルとメタクリロイルの一方又は両方をいう。
【0016】
前記単量体(a2)は、ジアセトン(メタ)アクリルアミド及びN-メチロール(メタ)アクリルアミドから選ばれる少なくとも1以上のアクリル単量体である。
【0017】
前記不飽和単量体(a3)は、カルボキシル基を有する不飽和単量体であるが、例えば、(メタ)アクリル酸、クロトン酸等の不飽和モノカルボン酸、無水マレイン酸、マレイン酸、無水イタコン酸、イタコン酸、フマル酸等の不飽和ジカルボン酸などが挙げられるが、耐熱収縮性がより向上することから、(メタ)アクリル酸が好ましい。なお、これらの単量体(a3)は、単独で用いることも2種以上併用することもできる。
【0018】
前記ラジカル重合体(A)は、前記アクリル単量体(a1)、前記単量体(a2)、前記不飽和単量体(a3)、及びアクリロニトリル(a4)を必須原料とするが、これら以外のその他の単量体(a5)を単量体原料として使用してもよい。
【0019】
前記単量体(a5)としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート;2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシ-n-ブチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-n-ブチル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシ-n-ブチル(メタ)アクリレート、1,4-シクロヘキサンジメタノールモノ(メタ)アクリレート、N-(2-ヒドロキシエチル)(メタ)アクリルアミド、グリセリンモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチル-2-ヒドロキシエチルフタレート、末端に水酸基を有するラクトン変性(メタ)アクリレート等の水酸基を有する単量体;N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、N,N-ジエチルアミノプロピル(メタ)アクリレート等のアミノ基を有する(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド等のN-ヒドロキシメチルアミド基を有する単量体、N-ブトキシメチルアクリルアミド等のN-アルコキシメチルアミド基を有する単量体などの窒素原子を有する単量体;グリシジル(メタ)アクリレート等のグリシジル基を有する(メタ)アクリレート;ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン等のアルコキシシリル基を有する単量体;ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、ポリブチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリブチレングリコール(メタ)アクリレート等のポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート;スチレン、α-メチルスチレン、パラメチルスチレン、クロロメチルスチレン、酢酸ビニル等のビニル単量体;テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート;エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート等のジ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。なお、これらの単量体(a5)は、単独で用いることも2種以上併用することもできる。
【0020】
前記ラジカル重合体(A)の単量体原料中の前記単量体(a1)は、基材密着性がより向上することから、50~80質量%が好ましく、55~75質量%がより好ましい。
【0021】
前記ラジカル重合体(A)の単量体原料中の前記単量体(a2)は、耐熱収縮性がより向上することから、1~20質量%が好ましく、3~20質量%がより好ましく、5~15質量%がさらに好ましい。
【0022】
前記ラジカル重合体(A)の単量体原料中の前記単量体(a3)は、耐熱収縮性がより向上することから、0.5~5質量%が好ましく、0.5~3質量%がより好ましい。
【0023】
前記ラジカル重合体(A)の単量体原料中のアクリロニトリル(a4)は、5~35質量%であるが、耐熱収縮性がより向上することから、10~35質量%が好ましく、20~35質量%がより好ましい。
【0024】
前記ラジカル重合体(A)の製造方法としては、各種の方法が挙げられるが、簡便に前記ラジカル重合体(A)を得られることから、水中重合法若しくは乳化重合法が好ましい。
【0025】
乳化重合法により、前記ラジカル重合体(A)を得る方法としては、例えば、前記ラジカル重合体(A)の原料となる前記単量体(a1)等を、水性媒体中で、乳化剤及び重合開始剤存在下、50~100℃の温度でラジカル重合する方法が挙げられる。
【0026】
前記乳化剤としては、例えば、高級アルコールの硫酸エステル及びその塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルジフェニルエーテルスルホン酸塩、ポリオキシエチレンア
ルキルエーテルの硫酸ハーフエステル塩、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸塩、コハク酸ジアルキルエステルスルホン酸塩等の陰イオン性乳化剤;ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンジフェニルエーテル、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンブロック共重合体、アセチレンジオール系等の非イオン性乳化剤;アルキルアンモニウム塩等の陽イオン性乳化剤;アルキル(アミド)ベタイン、アルキルジメチルアミンオキシド等の両イオン性乳化剤などが挙げられる。なお、これらの乳化剤は、単独で用いることも2種以上併用することもできる。なお、前記単量体(a1)を乳化剤として使用することもできる。
【0027】
前記重合開始剤としては、例えば、2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、アゾビスシアノ吉草酸等のアゾ化合物;tert-ブチルパーオキシピバレート、tert-ブチルパーオキシベンゾエート、tert-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、ジ-tert-ブチルパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、tert-ブチルハイドロパーオキサイド等の有機過酸化物;過酸化水素、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム等の無機過酸化物などが挙げられる。なお、これらの重合体開始剤は、単独で用いることも2種以上併用することもできる。また、これらの重合開始剤は、重合体の原料となる単量体の合計に対して、0.1~10質量%の範囲内で使用することが好ましい。
【0028】
前記ラジカル重合体(A)の分散安定性がより向上することから、塩基性化合物及び/又は酸性化合物により、pHを調整することが好ましく、前記塩基性化合物としては、例えば、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、2-アミノエタノール、2-ジメチルアミノエタノール等の有機アミン;アンモニア(水)、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の無機塩基性化合物;テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド、テトラ-n-ブチルアンモニウムハイドロオキサイド、トリメチルベンジルアンモニウムハイドロオキサイドの四級アンモニウムハイドロオキサイドなどが挙げられる。なお、これらの塩基性化合物は、単独で用いることも2種以上併用することもできる。
【0029】
前記酸性化合物としては、例えば、蟻酸、酢酸、プロピオン酸または乳酸等のカルボン酸化合物;燐酸モノメチルエステル、燐酸ジメチルエステル等の燐酸のモノエステルまたはジエステル;メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸等の有機スルホン酸化合物;塩酸、硫酸、硝酸、燐酸等の無機酸などである。これらの中でも、カルボン酸化合物が好ましい。なお、これらの酸性化合物は、単独で用いることも2種以上併用することもできる。
【0030】
前記水性媒体(B)としては、水、水と混和する有機溶剤、及び、これらの混合物が挙げられる。水と混和する有機溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、n-プロパノール及びイソプロパノール等のアルコール;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン;エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール等のポリアルキレングリコール;ポリアルキレングリコールのアルキルエーテル;N-メチル-2-ピロリドン等のラクタム等が挙げられる。本発明では、水のみを用いても良く、また水及び水と混和する有機溶剤との混合物を用いても良く、水と混和する有機溶剤のみを用いても良い。安全性や環境に対する負荷の点から、水のみ、または、水及び水と混和する有機溶剤との混合物が好ましく、水のみを使用することが特に好ましい。
【0031】
前記水性媒体(B)は、前記重合体(A)を水中重合法および乳化重合法により製造する際に使用される水性媒体をそのまま使用することが、簡便であり好ましい。
【0032】
本発明の水性樹脂組成物は、前記ラジカル重合体(A)及び前記水性媒体(B)を含有するものであるが、乳化重合法等により得られた、前記ラジカル重合体(A)が前記水性媒体(B)に分散したものであることが好ましい。
【0033】
また、必要に応じて脱溶剤工程を経ることにより、本発明の樹脂組成物中の有機溶剤量を低減することができる。
【0034】
前記方法で得られた本発明の水性樹脂組成物は、塗工作業性がより向上することから、水性樹脂組成物の全量に対して前記ラジカル重合体(A)を5~60質量%の範囲で含有するものが好ましく、10~50質量%の範囲で含有するものがより好ましい。
【0035】
また、本発明の水性樹脂組成物は、塗工作業性がより向上することから、水性樹脂組成物の全量に対して前記水性媒体(B)を95~40質量%の範囲で含有するものが好ましく、90~50質量%の範囲で含有するものがより好ましい。
【0036】
本発明の水性樹脂組成物は、必要に応じて、硬化剤、硬化触媒、潤滑剤、充填剤、チキソ付与剤、粘着付与剤、ワックス、熱安定剤、耐光安定剤、蛍光増白剤、発泡剤等の添加剤、pH調整剤、レベリング剤、ゲル化防止剤、分散安定剤、酸化防止剤、ラジカル捕捉剤、耐熱性付与剤、無機充填剤、有機充填剤、可塑剤、補強剤、触媒、抗菌剤、防カビ剤、防錆剤、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、顔料、染料、導電性付与剤、帯電防止剤、透湿性向上剤、撥水剤、撥油剤、中空発泡体、結晶水含有化合物、難燃剤、吸水剤、吸湿剤、消臭剤、整泡剤、消泡剤、防黴剤、防腐剤、防藻剤、顔料分散剤、ブロッキング防止剤、加水分解防止剤、顔料を併用することができる。
【0037】
なお、前記単量体(a2)として、ジアセトン(メタ)アクリルアミドを使用する際は、ジヒドラジド化合物を併用することが好ましい。
【0038】
本発明の水性樹脂組成物は、熱収縮率の小さいセパレータが得られることから、リチウムイオン二次電池耐熱層のバインダーとして好適に用いることができる。
【0039】
本発明の水性樹脂組成物に無機充填剤を添加することで、優れた耐熱性を有する耐熱層が得られる。
【0040】
前記無機充填剤としては、例えば、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、マグネシア、酸化亜鉛、酸化鉄等の酸化物、窒化ケイ素、窒化チタン、窒化ホウ素等の窒化物、シリコンカーバイド、炭酸カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸アルミニウム、水酸化アルミニウム、水酸化酸化アルミニウム、チタン酸カリウム、タルク、カオリナイト、ディカイト、ナクライト、ハロイサイト、パイロフィライト、モンモリロナイト、セリサイト、マイカ、アメサイト、ベントナイト、アスベスト、ゼオライト、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ藻土、ケイ砂、焼成カオリンなどを使用することができる。これらの中でも、焼成カオリンまたはアルミナを使用することが、より一層、耐熱性に優れた耐熱層を形成するうえで好ましい。
【0041】
前記無機充填剤と本発明の水性樹脂組成物との固形分質量比が1/1,000~1/5となる範囲で使用することが、イオンを伝導可能な程度の連通孔を備えたセパレータを形成し、かつ耐熱性に優れたセパレータを形成するうえで好ましい。
【実施例】
【0042】
以下に本発明を具体的な実施例を挙げてより詳細に説明する。
【0043】
(実施例1:リチウムイオン二次電池セパレータ耐熱層バインダー用水性樹脂組成物(1)の合成及び評価)
攪拌機、温度計および冷却器、窒素ブローを取り付けた1.0Lの反応容器中に、イオン交換水112.0質量部、を仕込み60℃まで加熱したのち、これにアクリル酸1.0質量部、N-メチロールアクリルアミド5.0質量部、n-ブチルアクリレート60.0質量部、アクリロニトリル34.0質量部の混合物を、乳化剤(第一工業製薬製「ハイテノールN-08」、アニオン乳化剤)1.5質量部をイオン交換水35.5質量部に溶解した乳化剤水溶液にて乳化し、モノマープレミックスとした。このモノマープレミックスと過硫酸アンモニウム0.4質量部とをイオン交換水35質量部で溶解した水溶液を3時間滴下し、反応を行った。反応終了後同温度にて2時間ホールド後、冷却を行った。
冷却後イオン交換水および12.5質量%アンモニア水溶液を用い不揮発分39.8質量%、pH3.8に調整を行った。このときの粘度は185mPa・sであった。なお、粘度は、BM型粘度計(25℃、φNo.2、60rpm)で測定した値である。
【0044】
[耐熱層スラリーの調製]
ホモディスパーで5,000回転にて撹拌しながら1質量%カルボキシメチルセルロース(ダイセル化学株式会社性「DN-800H」)100質量部にアルミナ(住友化学株式会社製「AKP-50」)100質量部を徐々に加え、分散を行った。これらが均一混合された後、上記で合成した水性樹脂組成物(1)20.0質量部、イオン交換水305.0質量部を添加し、均一に混合し、耐熱層スラリー(1)を調製した。
【0045】
[耐熱層を有するセパレータの作製]
厚み12μmのポリエチレンセパレータ基材両面に上記で得た耐熱層スラリー(1)をバーコーターにて乾燥後の膜厚が4μmとなるように塗工し、セパレータ(1)を得た。乾燥温度は60℃、乾燥時間は5分間とした。
【0046】
[耐熱収縮性の評価]
上記で作成した耐熱層を有するセパレータを5cm角に切り、厚紙に挟んだ状態で180℃温風乾燥機に1時間静置し、耐熱性試験を行った。試験後のセパレータの縦、横各々の長さを測定し、縦方向の収縮率(MD収縮率(%))及び横方向の収縮率(TD収縮率(%))を算出し、耐熱収縮性を評価した。
収縮率(%)=試験後のセパレータの長さ/試験前のセパレータの長さ×100(%)
【0047】
(実施例2:リチウムイオン二次電池セパレータ耐熱層バインダー用水性樹脂組成物(2)の合成及び評価)
攪拌機、温度計および冷却器、窒素ブローを取り付けた1.0Lの反応容器中に、イオン交換水112.0質量部、を仕込み60℃まで加熱したのち、これにアクリル酸3.0質量部、N-メチロールアクリルアミド10.0質量部、n-ブチルアクリレート60.0質量部、アクリロニトリル27.0質量部の混合物を、乳化剤(第一工業製薬製「ハイテノールN-08」、アニオン乳化剤)1.5質量部をイオン交換水35.5質量部に溶解した乳化剤水溶液にて乳化し、モノマープレミックスとした。このモノマープレミックスと過硫酸アンモニウム0.4質量部とをイオン交換水35質量部で溶解した水溶液を3時間滴下し、反応を行った。反応終了後同温度にて2時間ホールド後、冷却を行った。
冷却後イオン交換水および12.5質量%アンモニア水溶液を用い不揮発分39.9質量%、pH3.9に調整を行った。このときの粘度は315mPa・sであった。
【0048】
実施例1で用いたリチウムイオン二次電池セパレータ耐熱層バインダー用水性樹脂組成物(1)をリチウムイオン二次電池セパレータ耐熱層バインダー用水性樹脂組成物(2)に変更した以外は、実施例1と同様に操作することにより、耐熱層スラリー(2)及びセパレータ(2)を作製し、耐熱収縮性を評価した。
【0049】
(実施例3:リチウムイオン二次電池セパレータ耐熱層バインダー用水性樹脂組成物(3)の合成及び評価)
攪拌機、温度計および冷却器、窒素ブローを取り付けた1.0Lの反応容器中に、イオン交換水112.0質量部、を仕込み60℃まで加熱したのち、これにアクリル酸3.0質量部、ジアセトンアクリルアミド10.0質量部、n-ブチルアクリレート60.0質量部、アクリロニトリル27.0質量部の混合物を、乳化剤(第一工業製薬製「ハイテノールN-08」、アニオン乳化剤)1.5質量部をイオン交換水35.5質量部に溶解した乳化剤水溶液にて乳化し、モノマープレミックスとした。このモノマープレミックスと過硫酸アンモニウム0.4質量部とをイオン交換水35質量部で溶解した水溶液を3時間滴下し、反応を行った。反応終了後同温度にて2時間ホールド後、冷却を行った。
冷却後アジピン酸ジヒドラジド5.0質量部添加溶解後、イオン交換水および12.5質量%アンモニア水溶液を用い不揮発分40.1質量%、pH4.1に調整を行った。このときの粘度は128mPa・sであった。
【0050】
実施例1で用いたリチウムイオン二次電池セパレータ耐熱層バインダー用水性樹脂組成物(1)をリチウムイオン二次電池セパレータ耐熱層バインダー用水性樹脂組成物(3)に変更した以外は、実施例1と同様に操作することにより、耐熱層スラリー(3)及びセパレータ(3)を作製し、耐熱収縮性を評価した。
【0051】
(比較例1:リチウムイオン二次電池セパレータ耐熱層バインダー用水性樹脂組成物(R1)の合成及び評価)
攪拌機、温度計および冷却器、窒素ブローを取り付けた1.0Lの反応容器中に、イオン交換水112.0質量部、を仕込み60℃まで加熱したのち、これにメタクリル酸2.0質量部、アクリルアミド1.6質量部、n-ブチルアクリレート92.8質量部、アクリロニトリル2.0質量部の混合物を、乳化剤(第一工業製薬製「ハイテノールN-08」、アニオン乳化剤)1.5質量部をイオン交換水35.5質量部に溶解した乳化剤水溶液にて乳化し、モノマープレミックスとした。このモノマープレミックスと過硫酸アンモニウム0.4質量部とをイオン交換水35質量部で溶解した水溶液を3時間滴下し、反応を行った。反応終了後同温度にて2時間ホールド後、冷却を行った。
冷却後イオン交換水および5質量%水酸化ナトリウム水溶液を用い不揮発分39.9質量%、pH6.0に調整を行った。このときの粘度は35mPa・sであった。
【0052】
実施例1で用いたリチウムイオン二次電池セパレータ耐熱層バインダー用水性樹脂組成物(1)をリチウムイオン二次電池セパレータ耐熱層バインダー用水性樹脂組成物(R1)に変更した以外は、実施例1と同様に操作することにより、耐熱層スラリー(R1)及びセパレータ(R1)を作製し、耐熱収縮性を評価した。
【0053】
上記の実施例1~3及び比較例1の評価結果を表1に示す。
【0054】
【0055】
本発明の水性樹脂組成物である実施例1~3のものから得られる耐熱層は、耐熱収縮性に優れることが確認された。
【0056】
一方、比較例1は、単量体原料中の前記アクリロニトリル(a4)が、本発明の下限である5質量%未満の例であるが、得られる耐熱層の耐熱収縮性が劣ることが確認された。