IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社フジミインコーポレーテッドの特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-03
(45)【発行日】2022-10-12
(54)【発明の名称】研磨用組成物
(51)【国際特許分類】
   C09K 3/14 20060101AFI20221004BHJP
   B24B 37/00 20120101ALI20221004BHJP
   H01L 21/304 20060101ALI20221004BHJP
【FI】
C09K3/14 550D
C09K3/14 550Z
B24B37/00 H
H01L21/304 622D
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2018059723
(22)【出願日】2018-03-27
(65)【公開番号】P2019172733
(43)【公開日】2019-10-10
【審査請求日】2020-12-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000236702
【氏名又は名称】株式会社フジミインコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】八田国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 章太
【審査官】田名部 拓也
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-083781(JP,A)
【文献】特開平11-186202(JP,A)
【文献】特開平10-008039(JP,A)
【文献】特開昭49-100689(JP,A)
【文献】特開2000-084832(JP,A)
【文献】国際公開第2017/057156(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 3/14
H01L 21/304
H01L 21/463
B24B 3/00 - 3/60
B24B 21/00 - 39/06
C09G 1/02
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
砥粒と、分散媒と、電荷制御剤とを含む、研磨対象物を研磨するために用いられる、研磨用組成物であって、
前記研磨用組成物中における前記研磨対象物のゼータ電位Yの絶対値が、前記砥粒と、前記分散媒と含む混合物(ただし、前記電荷制御剤は含まない)中における前記研磨対象物のゼータ電位Xの絶対値の1/2未満であり、
前記砥粒が、シリカであり、
前記砥粒の含有量が、10質量%以下であり、
前記電荷制御剤が、ポリ塩化アルミニウム、硫酸アルミニウム、ポリシリカ鉄、アルミン酸ナトリウム、アルミノケイ酸ナトリウム、ポリ硫酸第二鉄、ケイ酸/アルミニウム共重合体、トリス(2,4-ペンタンジオナト)アルミニウム(III)、ビス(2,4-ペンタンジオナト)チタン(IV)オキシド、トリス(ヘキサフルオロアセチルアセトナト)鉄(III)アルミニウムグリシナート、1,1’-フェロセンジカルボン酸、および、フェロセンカルボン酸からなる群から選択される水溶性化合物であり、前記電荷制御剤としてアルミン酸ナトリウムが選択される場合は、その含有量が9mM以下であり、
前記研磨対象物が、酸化ケイ素膜を含み、
酸性または中性に調製されている、研磨用組成物。
【請求項2】
pH調整剤をさらに含む、請求項1に記載の研磨用組成物。
【請求項3】
前記研磨対象物としてさらに、窒化ケイ素膜およびポリシリコン膜からなる群から選択される少なくとも1種が使用される、請求項1または2に記載の研磨用組成物。
【請求項4】
電気伝導度が、120μS/cm以下である、請求項1~のいずれか1項に記載の研磨用組成物。
【請求項5】
電気伝導度が、50μS/cm以下である、請求項1~のいずれか1項に記載の研磨用組成物。
【請求項6】
前記電荷制御剤の含有量が、9mM以下である、請求項1~のいずれか1項に記載の研磨用組成物。
【請求項7】
pHが、3~7である、請求項1~のいずれか1項に記載の研磨用組成物。
【請求項8】
pHが、4~7である、請求項に記載の研磨用組成物。
【請求項9】
pHが、7未満である、請求項またはに記載の研磨用組成物。
【請求項10】
砥粒と、分散媒と、電荷制御剤とを含む、研磨対象物を研磨するために用いられる、研磨用組成物であって、
前記研磨用組成物中における前記研磨対象物のゼータ電位Yの絶対値が、前記砥粒と、前記分散媒と含む混合物(ただし、前記電荷制御剤は含まない)中における前記研磨対象物のゼータ電位Xの絶対値の1/2未満であり、
前記砥粒が、シリカであり、
前記砥粒の含有量が、10質量%以下であり、
前記電荷制御剤が、ポリ塩化アルミニウム、硫酸アルミニウム、ポリシリカ鉄、アルミン酸ナトリウム、アルミノケイ酸ナトリウム、ポリ硫酸第二鉄、ケイ酸/アルミニウム共重合体、トリス(2,4-ペンタンジオナト)アルミニウム(III)、アルミニウムグリシナート、1,1’-フェロセンジカルボン酸、フェロセンカルボン酸、トリス(ヘキサフルオロアセチルアセトナト)鉄(III)またはビス(2,4-ペンタンジオナト)チタン(IV)オキシドであり、
前記電荷制御剤の含有量が、9mM以下であり、
前記研磨対象物が、酸化ケイ素膜を含み、
pHが、3~7である、研磨用組成物。
【請求項11】
砥粒と、分散媒と、電荷制御剤とを含む、研磨対象物を研磨するために用いられる、研磨用組成物の製造方法であって、
砥粒と、前記電荷制御剤とを前記分散媒中で混合することを有し、
前記研磨用組成物中における前記研磨対象物のゼータ電位Yの絶対値が、前記砥粒と、前記分散媒と含む混合物(ただし、前記電荷制御剤は含まない)中における前記研磨対象物のゼータ電位Xの絶対値の1/2未満であり、
前記砥粒が、シリカであり、
前記砥粒の含有量が、10質量%以下であり、
前記電荷制御剤が、ポリ塩化アルミニウム、硫酸アルミニウム、ポリシリカ鉄、アルミン酸ナトリウム、アルミノケイ酸ナトリウム、ポリ硫酸第二鉄、ケイ酸/アルミニウム共重合体、トリス(2,4-ペンタンジオナト)アルミニウム(III)、ビス(2,4-ペンタンジオナト)チタン(IV)オキシド、トリス(ヘキサフルオロアセチルアセトナト)鉄(III)アルミニウムグリシナート、1,1’-フェロセンジカルボン酸、および、フェロセンカルボン酸からなる群から選択される水溶性化合物であり、前記電荷制御剤としてアルミン酸ナトリウムが選択される場合は、その含有量が9mM以下であり、
前記研磨対象物が、酸化ケイ素膜を含み、
酸性または中性に調製される、製造方法。
【請求項12】
前記砥粒と、前記分散媒と、含む成分を混合することを有して混合物を調製し、当該混合物中における研磨対象物のゼータ電位Xを測定する工程と、
前記混合物に対して、前記ゼータ電位Xの絶対値が1/2未満となるように前記電荷制御剤を混合する工程と、を有する、請求項11に記載の製造方法。
【請求項13】
請求項1~10のいずれか1項に記載の研磨用組成物を用いて、あるいは、請求項11または12に記載の製造方法を使って研磨用組成物を得、当該研磨用組成物を用いて、研磨対象物を研磨することを有する、研磨方法。
【請求項14】
請求項13に記載の研磨方法を有する、半導体基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研磨用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
LSI(Large Scale Integration)の高集積化、高性能化に伴って新たな微細加工技術が開発されている。化学機械研磨(chemical mechanical polishing;CMP)法もその一つであり、LSI製造工程、特に多層配線形成工程における層間絶縁膜の平坦化、金属プラグ形成、埋め込み配線(ダマシン配線)形成において頻繁に利用される技術である。
【0003】
近年では、CMPプロセスコスト削減のために高生産性が益々求められるようになってきている。生産性を高める効果的な方法の一つとして、研磨対象物の除去能率を向上することが挙げられる。
【0004】
研磨対象物の除去能率を向上する方法としては、研磨用組成物の電気伝導度を上げ、砥粒表面の静電反発層の厚みを薄くして、砥粒が研磨対象物に接近し易くする作用を利用する方法が知られている(特許文献1 段落「0033」)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2017/057156号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らが、更に研究を進めていった過程で、研磨用組成物の電気伝導度を上げると研磨速度が高くなるという当業者の常識に反し、研磨対象物の研磨速度が下がってしまう場合があることが分かった。
【0007】
そこで、発明が解決しようとする課題は、研磨対象物の研磨速度を向上させる新規な手段を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
砥粒と、分散媒と、電荷制御剤とを含む、研磨対象物を研磨するために用いられる、研磨用組成物であって、前記研磨用組成物中における前記研磨対象物のゼータ電位Yの絶対値が、前記砥粒と、前記分散媒と含む混合物(ただし、前記電荷制御剤は含まない)中における前記研磨対象物のゼータ電位Xの絶対値の1/2未満である、研磨用組成物によって、上記課題を解決する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、研磨対象物の研磨速度を向上させる新規な手段を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態のみには限定されない。また、特記しない限り、操作および物性等の測定は室温(20~25℃)/相対湿度40~50%RHの条件で測定する。
【0011】
<研磨用組成物>
本発明は、砥粒と、分散媒と、電荷制御剤とを含む、研磨対象物を研磨するために用いられる、研磨用組成物であって、前記研磨用組成物中における前記研磨対象物のゼータ電位Yの絶対値が、前記砥粒と、前記分散媒と含む混合物(ただし、前記電荷制御剤は含まない)中における前記研磨対象物のゼータ電位Xの絶対値の1/2未満である、研磨用組成物である。かかる構成によって、研磨対象物の研磨速度を向上させる新規な手段を提供することができる。本発明の別の実施形態は、研磨対象物を研磨するために用いられる、研磨用組成物であって、砥粒と、分散媒と、前記研磨対象物のゼータ電位の絶対値を1/2未満にする電荷制御剤と、を含む、研磨用組成物である。かかる構成によって、研磨対象物の研磨速度を向上させる新規な手段を提供することができる。
【0012】
(砥粒)
砥粒の種類としては、例えば、シリカ、アルミナ、ジルコニア、セリア、チタニア等の金属酸化物が挙げられる。本発明の所期の効果を効率的に奏するためにはシリカであることが好ましい。好適な例であるシリカの種類は特に限定されるものではないが、例えば、コロイダルシリカ、フュームドシリカ、ゾルゲル法シリカ等があげられる。これらの中でも、コロイダルシリカが好ましい。
【0013】
本発明の実施形態においては、砥粒は、スルホン酸や、カルボン酸等で表面が修飾された表面修飾砥粒であってもよいが、砥粒のゼータ電位が過度に負に振れるので、表面が修飾されていない砥粒であることが好ましい。
【0014】
本発明の実施形態において、前記砥粒の平均一次粒子径が5nm以上であることが好ましく、10nm以上であることがより好ましく、15nm以上であることがさらに好ましく、20nm以上であることがよりさらに好ましく、25nm以上であることがよりさらに好ましい。かような下限を有することによって、研磨速度の過度な低下を防ぐ技術的効果がある。本発明の実施形態において、前記砥粒の平均一次粒子径が60nm以下であることが好ましく、55nm以下であることがより好ましく、50nm以下であることがさらに好ましく、45nm以下であることがよりさらに好ましく、40nm以下であることがよりさらに好ましく、35nm以下であることがよりさらに好ましい。かような上限を有することによって、エロージョンの抑制など高い平坦性が求められる要求性能を満たす技術的効果がある。なお、本発明において、砥粒の平均一次粒子径の測定方法は、実施例の記載の方法による。
【0015】
本発明の実施形態において、前記砥粒の平均二次粒子径が35nm以上であることが好ましく、40nm以上であることがより好ましく、45nm以上であることがさらに好ましく、50nm以上であることがよりさらに好ましく、55nm以上であることがよりさらに好ましく、60nm以上であることがよりさらに好ましい。かような下限を有することによって、研磨速度の過大な低下を防ぐ技術的効果がある。本発明の実施形態において、前記砥粒の平均二次粒子径が85nm以下であることが好ましく、80nm以下であることがより好ましく、75nm以下であることがさらに好ましく、70nm以下であることがよりさらに好ましい。かような上限を有することによって、エロージョンなどの平坦化性能の向上との技術的効果がある。なお、本発明において、砥粒の平均二次粒子径の測定方法は、実施例の記載の方法による。
【0016】
本発明の実施形態において、研磨用組成物中の砥粒における、レーザー回折散乱法により求められる粒度分布において、微粒子側から積算粒子質量が全粒子質量の90%に達するときの粒子の直径D90と、全粒子の全粒子質量の10%に達するときの粒子の直径D10との比(本明細書中、単に「D90/D10」とも称する)の下限は、1.0以上であることが好ましく、1.1以上であることがより好ましく、1.15以上であることがさらに好ましい。かような下限を有することによって研磨速度向上の技術的効果がある。本発明の実施形態において、D90/D10の上限は、3.0以下であることが好ましく、2.5以下であることがより好ましく、2.0以下であることがさらに好ましく、1.5以下であることがよりさらに好ましく、1.3以下であることがよりさらに好ましい。かような上限を有することによって研磨後の表面粗さ低下や表面欠陥の低減の技術的効果がある。
【0017】
本発明の実施形態において、砥粒の会合度(平均二次粒子径/平均一次粒子径)は、1.6以上であることが好ましく、1.8以上であることがより好ましい。かような下限を有することによって研磨速度向上の技術的効果がある。また、本発明の実施形態において、砥粒の会合度(平均二次粒子径/平均一次粒子径)は、4.5以下であることが好ましく、3.0以下であることがより好ましく、2.6以下であることがさらに好ましく、2.3以下であることがよりさらに好ましく、2.2以下であることがよりさらに好ましい。かような上限を有することによって研磨後の表面粗さ低下や表面欠陥の低減の技術的効果がある。
【0018】
前述もしたが、研磨対象物の除去能率を向上する方法として、研磨用組成物の電気伝導度を上げ、砥粒表面の静電反発層の厚みを薄くして、砥粒が研磨対象物に接近し易くする作用を利用する方法が知られている。しかし、本発明者が、更に研究を進めていった過程で、研磨用組成物の電気伝導度を上げると研磨速度が高くなるという当業者の常識に反し、研磨対象物の研磨速度が下がってしまう現象が起きることが分かり、その現象が、低い砥粒濃度で起きるようであることが分かった。一方、研磨用組成物中の砥粒の含有量が少なくなれば少なくなるほど研磨対象物の研磨速度が低下する傾向にあることが技術常識である。よって、現に、特に酸化ケイ素膜(TEOS由来の酸化ケイ素膜)を研磨対象物とする場合、研磨用組成物中の砥粒の含有量を(一般的に高い濃度と認識されている)10重量%程度にする必要があることが当業者の常識であった。これに対し、本発明は、砥粒と、分散媒と、電荷制御剤とを含む、研磨対象物を研磨するために用いられる、研磨用組成物であって、前記研磨用組成物中における前記研磨対象物のゼータ電位Yの絶対値が、前記砥粒と、前記分散媒と含む混合物(ただし、前記電荷制御剤は含まない)中における前記研磨対象物のゼータ電位Xの絶対値の1/2未満である、研磨用組成物との構成を有する。かかる構成によって、常識では研磨速度が低下するはずの低い砥粒濃度であっても、かつ、常識では研磨速度が低下するはずの低い電気伝導度であっても、当業者の予想に反し、研磨対象物の研磨速度を顕著に向上させる。
【0019】
本発明の実施形態において、研磨用組成物中の砥粒の含有量の上限は、10質量%以下であることが好ましく、9質量%以下であることがより好ましく、8質量%以下であることがさらに好ましく、7質量%以下であることがよりさらに好ましく、6質量%以下であることがよりさらに好ましく、5質量%以下であることがよりさらに好ましく、4質量%以下であることがよりさらに好ましく、3質量%以下であることがよりさらに好ましく、2質量%以下であることがよりさらに好ましく、1.5質量%以下であることがよりさらに好ましく、1.4質量%以下であることがよりさらに好ましく、1.3質量%以下であることがよりさらに好ましく、1.2質量%以下であることがよりさらに好ましく、1.1質量%以下であることがよりさらに好ましい。本発明の所期の効果はかような上限であることによって効率的に発揮される。研磨用組成物中の砥粒の含有量の下限は、特に制限はないが、例えば、0.01質量%以上であることが好ましく、0.1質量%以上であることがより好ましく、0.3質量%以上であることがさらに好ましく、0.5質量%以上であることがよりさらに好ましく、1.0質量%以上であることがよりさらに好ましく、1.5質量%以上であることがよりさらに好ましく、1.8質量%以上であることがよりさらに好ましい。かような下限であることによって、砥粒と、電荷制御剤とが有効に協働し、研磨速度を有意に向上させることができる。
【0020】
本発明の実施形態において、研磨用組成物中の砥粒のゼータ電位は、好ましくは0mV未満であり、より好ましくは-5mV以下であり、さらに好ましくは-10mV以下であり、よりさらに好ましくは-15mV以下である。かような上限であることによって、砥粒と、電荷制御剤との過度な静電吸着を回避し、研磨後の研磨対象物(特にTEOS)に対する砥粒残渣を低減することができる。よって、かかる実施形態の形態によれば、研磨対象物の研磨レートを有意に向上することができ、かつ、砥粒残渣を低減できることによって、基板(特には半導体)の品質の信頼性も向上する。なお、有機残渣の有無は例えば次の様な測定によって確認することができる。ケーエルエー・テンコール(KLA-TENCOR)株式会社製の欠陥検出装置(ウエハ検査装置)“Surfscan SP2”を用いて、ウェーハ(研磨対象物)全面(ただし外周5mmは除く)上の0.13μm以上の欠陥を検出し、その検出した欠陥を、Review-SEM(RS-6000、株式会社日立ハイテクノロジーズ製)で全数観察した結果を、スクラッチ、砥粒残渣などと分類した後に砥粒残渣の検出個数をカウントする。また、本発明の実施形態において、研磨用組成物中の砥粒のゼータ電位は、好ましくは-30mV以上であり、より好ましくは-28mV以上、さらに好ましくは-26mV以上である。かような下限であることによって、適度なゼータ電位を有する砥粒と、電荷制御剤とが有効に協働し、研磨速度を有意に向上させることができる。
【0021】
本発明の実施形態において、研磨用組成物の電気伝導度が、120μS/cm以下であることが好ましく、110μS/cm以下であることがより好ましく、100μS/cm以下であることがさらに好ましく、90μS/cm以下であることがさらに好ましく、80μS/cm以下であることがさらに好ましく、70μS/cm以下であることがさらに好ましく、60μS/cm以下であることがさらに好ましく、50μS/cm以下であることがさらに好ましい。かような上限を有することによって研磨対象物の研磨速度を顕著に向上させる。このように本発明の好ましい実施形態においては研磨用組成物の電気伝導度を有意に低く抑える。研磨用組成物中の電気伝導度の下限は、特に制限はないが、例えば、1μS/cm以上であることが好ましく、5μS/cm以上であることがより好ましく、10μS/cm以上であることがさらに好ましく、20μS/cm以上であることがよりさらに好ましく、30μS/cm以上であることがよりさらに好ましく、40μS/cm以上であることがよりさらに好ましい。かような下限を有することによって本発明の目的とする被研磨面の表面電荷を得ることができる技術的効果がある。本発明における電気伝導度の値は、実施例に記載の条件で測定した値を言うものとする。
【0022】
ここで、研磨用組成物の電気伝導度は、研磨用組成物に塩化合物を含有させることによって高くなる傾向にある。また、その濃度を高めることによっても研磨用組成物の電気伝導度は高くなる傾向にある。かような塩化合物としては、一般的に、酸の塩、塩基の塩等が含まれ、例えば、硝酸カリウム、硝酸アンモニウム、炭酸水素カリウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸二水素アンモニウム、硫酸アンモニウム、塩化カリウム、塩化ナトリウム、臭化カリウム、ヨウ化カリウム、クエン酸アンモニウム、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化テトラメチルアンモニウムおよび水酸化テトラエチルアンモニウム等が含まれる。本発明の実施形態においては、研磨用組成物は、研磨用組成物の電気伝導度を有意に低く抑えるため、かような塩化合物を実質的に含まない方が好ましい。ここで、「実質的に含まない」とは、研磨用組成物中に全く含まない概念の他、研磨用組成物中に、0.1質量%以下、好ましくは0.01質量%以下含む場合を含む。
【0023】
(分散媒)
本発明の研磨用組成物は、研磨用組成物を構成する各成分の分散のために分散媒が用いられる。分散媒としては、有機溶媒、水が考えられるが、その中でも水を含むことが好ましい。
【0024】
研磨対象物の汚染や他の成分の作用を阻害するという観点から、不純物をできる限り含有しない水が好ましい。具体的には、イオン交換樹脂にて不純物イオンを除去した後フィルタを通して異物を除去した純水や超純水、または蒸留水が好ましい。
【0025】
(電荷制御剤)
本発明の実施形態において、電荷制御剤とは、前記混合物中における研磨対象物のゼータ電位Xの絶対値を1/2未満にするものである。本発明の実施形態において、電荷制御剤とは、ある化合物であって、砥粒と、分散媒とを含む成分(電荷制御剤は含まない)を混合することを有して調製された混合物中における研磨対象物のゼータ電位Xの絶対値を、その化合物が当該混合物に添加されることによって1/2未満とする化合物である。
【0026】
本発明の実施形態によれば、前記混合物は、前記研磨用組成物から前記電荷制御剤を除いたものである。本発明の実施形態において、前記電荷制御剤は、前記混合物1Lに対して好ましくは、1mM以下、より好ましくは0.8mM以下、さらに好ましくは0.4mM以下、よりさらに好ましくは0.2mM以下、混合された場合に、前記ゼータ電位Xの絶対値を1/2未満にできる化合物である。
【0027】
また、本発明の実施形態において、前記電荷制御剤は、好ましくはpHが3以上7未満、より好ましくはpH3.1~6.5、さらに好ましくはpH3.3~6、よりさらに好ましくはpH3.5~5.8、よりさらに好ましくは4~5.5である環境において前記ゼータ電位Xの絶対値を1/2未満にできる化合物である。
【0028】
本発明の実施形態において、研磨用組成物が、電荷制御剤を含むことによって、詳細は不明であるが、前記研磨対象物の表面と、前記電荷抑制剤の官能基とが、他の化合物よりも選択的に結合するメカニズムで本発明の所期の効果を効率的に奏する。なお、本発明の技術的範囲は、明細書中に記載のメカニズムや推測等によって制限されない。
【0029】
本発明の実施形態において、前記電荷制御剤が、金属原子を含む。かかる実施形態において、電荷制御剤における金属に配位した部分が外れて、-OH基となり、研磨対象物表面と結合(または吸着)するものと考えられる。なお、結合の形態にも制限はないが、水素結合や配位結合、共有結合のいずれかであると推定できる。
【0030】
本発明の実施形態において、前記電荷制御剤が、研磨用組成物中で、プラスに帯電する金属原子を含む。かかる実施形態によって、研磨用組成物中で、マイナスに帯電する研磨対象物に結合(または吸着)するものと推測される。その結果、マイナスに帯電する研磨対象物の電荷が0に近づくことになり、本願の所期の効果が奏され易くなると推測される。なお、結合(または吸着)の程度は、金属イオンの価数に依存するものと推測される。金属イオンの価数が+1~+3であるとマイナスに帯電する基材表面に吸着(または結合)しやすくなり、金属イオンの価数が-1~-3であるとマイナスに帯電する基材と反発する傾向になる。
【0031】
本発明の実施形態において、前記金属原子が、遷移金属および卑金属の少なくとも一方を含む。かかる実施形態であることによって、上記と同様のメカニズムで本発明の所期の効果を効率的に奏すると考えられる。
【0032】
本発明の実施形態において、前記電荷制御剤が、第2族の金属原子(マグネシウム)、第5族の金属原子(バナジウム)、第6族の金属原子(クロム)、第7族の金属原子(マンガン)、第8族の金属原子(鉄、ルテニウム)、第9族の金属原子(コバルト、イリジウム)、第10族の金属原子(プラチナ、パラジウム、ニッケル)、第12族の金属原子(亜鉛)、第13族の金属原子(アルミニウム、インジウム)およびランタノイド(プラセオジム)からなる群から選択される少なくとも1種の金属原子を含む。かかる実施形態であることによって、上記と同様のメカニズムで本発明の所期の効果を効率的に奏すると考えられる。本発明の実施形態において、前記電荷制御剤が、第8族の金属原子および第13族の金属原子の少なくとも一方を含む。第2族の金属原子としては、マグネシウムが好ましい。第5族の金属原子としては、バナジウムが好ましい。第6族の金属原子としては、クロムが好ましい。第7族の金属原子としては、マンガンが好ましい。第8族の金属原子としては、鉄またはルテニウムが好ましい。第9族の金属原子としては、コバルトまたはイリジウムが好ましい。第10族の金属原子としては、ニッケル、パラジウムまたは白金が好ましい。第12族の金属原子としては、亜鉛が好ましい。第13族の金属原子としては、アルミニウムまたはインジウムが好ましい。ランタノイドとしては、プラセオジムが好ましい。これらの実施形態であることによって、上記と同様のメカニズムで本発明の所期の効果を効率的に奏すると考えられる。
【0033】
本発明の実施形態において、前記電荷制御剤が、鉄およびアルミニウムの少なくとも一方を含む化合物である。かかる実施形態において、鉄およびアルミニウムは、研磨用組成物中で、プラスに帯電するため、マイナスに帯電する研磨対象物に対して本発明の所期の効果を効率的に奏する。本発明の実施形態において、前記電荷制御剤が、ケイ素原子を含む。かかる実施形態においては、研磨用組成物中で、-Si-OH基が生成されるため、研磨対象物と配位結合を形成して、本発明の所期の効果を効率的に奏するものと考えられる。
【0034】
本発明の実施形態において、前記電荷制御剤が、ペンタンジオナト化合物、グリシン誘導体、アラニン誘導体およびジシクロペンタジエニル錯体の水溶性化合物からなる群から選択される。かかる実施形態において、これらの電荷制御剤はプラスに帯電する金属原子を含むため、上記と同様のメカニズムで本発明の所期の効果を効率的に奏するものと思われる。
【0035】
本発明の実施形態において、ペンタンジオナト化合物は、金属錯体、金属オキシド錯体、金属錯体の水和物等の形態でありうるが、本発明の所期の効果を効率的に奏させるためには、金属錯体であることが好ましい。本発明の実施形態において、ペンタンジオナト化合物が金属錯体である場合、当該金属は、アルミニウム、銅、ジルコニウム、チタンまたは鉄であることが好ましい。本実施形態において、アルミニウムは、クロム、コバルト、ルテニウム、インジウムまたはイリジウムに置換されてもよい。また、本実施形態において、銅は、ニッケル、亜鉛、コバルト、パラジウム、プラチナ、マンガンまたはマグネシウムに置換されてもよい。本発明の実施形態において、ペンタンジオナト化合物におけるペンタン部位の水素原子の一部は、置換基によって置換されてもよい。本実施形態において、置換基としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子などが好適である。
【0036】
本発明の実施形態において、ペンタンジオナト化合物は、以下:
【0037】
【化1】
【0038】
で示されるトリス(2,4-ペンタンジオナト)アルミニウム(III)であり、式中のアルミニウム(III)カチオンは、鉄(III)、クロム(III)、コバルト(III)、ルテニウム(III)、インジウム(III)、イリジウム(III)等に置換されることも好適である。
【0039】
本発明の実施形態において、ペンタンジオナト化合物は、以下:
【0040】
【化2】
【0041】
で示されるビス(2,4-ペンタンジオナト)銅(II)であり、式中の銅(II)カチオンは、ニッケル(II)、亜鉛(II)、コバルト(II)、パラジウム(II)、プラチナ(II)等に置換されることも好適である。
【0042】
本発明の実施形態において、ペンタンジオナト化合物は、以下:
【0043】
【化3】
【0044】
で示されるテトラキス(2,4-ペンタンジオナト)ジルコニウム(IV)である。
【0045】
本発明の実施形態において、ペンタンジオナト化合物は、以下:
【0046】
【化4】
【0047】
で示されるビス(2,4-ペンタンジオナト)チタン(IV)オキシドであり、式中のチタン(IV)カチオンは、バナジウム(IV)等に置換されることも好適である。
【0048】
本発明の実施形態において、ペンタンジオナト化合物は、以下:
【0049】
【化4】
【0050】
で示されるトリス(ヘキサフルオロアセチルアセトナト)鉄(III)であり、式中の鉄(III)カチオンは、プラセオジム(III)等に置換されることも好適である。
【0051】
本発明の実施形態において、ペンタンジオナト化合物は、以下:
【0052】
【化5】
【0053】
で示されるビス(ヘキサフルオロアセチルアセトナト)銅(II)水和物であり、式中の銅(II)カチオンは、ニッケル(II)、亜鉛(II)、コバルト(II)、マンガン(II)、マグネシウム(II)等に置換されることも好適である。
【0054】
本発明の実施形態において、前記電荷制御剤が、グリシン誘導体またはアラニン誘導体である。本実施形態において、グリシン誘導体またはアラニン誘導体は、金属原子を含む。当該金属原子としては上述したものが挙げられる。本発明の実施形態において、前記電荷制御剤が、グリシン誘導体またはアラニン誘導体である場合、グリシン誘導体またはアラニン誘導体は、アルミニウムを含むことが好ましい。本実施形態において、アルミニウムは、鉄に置換されてもよい。
【0055】
本発明の実施形態において、グリシン誘導体は、以下:
【0056】
【化6】
【0057】
で示されるアルミニウムグリシナートが好適であり、式中のアルミニウム(III)カチオンは、鉄(III)等に置換されることも好適である。
【0058】
本発明の実施形態において、前記電荷制御剤が、ジシクロペンタジエニル錯体の水溶性化合物である。本発明の実施形態において、ジシクロペンタジエニル錯体の水溶性化合物は、金属原子を含む。当該金属原子としては上述したものが挙げられる。本発明の実施形態において、前記電荷制御剤が、ジシクロペンタジエニル錯体の水溶性化合物は、鉄を含むことが好ましい。
【0059】
本発明の実施形態において、ジシクロペンタジエニル錯体は、以下:
【0060】
【化7】
【0061】
で示される1,1’-フェロセンジカルボン酸であり、式中の鉄(II)カチオンは、コバルト(II)等に置換されることも好適である。
【0062】
本発明の実施形態において、ジシクロペンタジエニル錯体は、以下:
【0063】
【化8】
【0064】
で示されるフェロセンカルボン酸であり、式中の鉄(II)カチオンは、コバルト(II)等に置換されることも好適である。
【0065】
本発明の実施形態において、前記電荷制御剤が、ポリ塩化アルミニウム、硫酸アルミニウム、ポリシリカ鉄、アルミン酸ナトリウム、アルミノケイ酸ナトリウム、ポリ硫酸第二鉄、ケイ酸/アルミニウム共重合体、トリス(2,4-ペンタンジオナト)アルミニウム(III)、アルミニウムグリシナート、1,1’-フェロセンジカルボン酸、フェロセンカルボン酸トリス(ヘキサフルオロアセチルアセトナト)鉄(III)またはビス(2,4-ペンタンジオナト)チタン(IV)オキシドである。ここで、ポリ塩化アルミニウムは、一般式〔Al(OH)Cl6-n(但し1≦n≦5、m≦10)で示され、水溶液中では、たとえば、〔Al(OH)153+、〔Al(OH)204+、〔Al13(OH)345+などのイオンの形で存在する。ポリ硫酸第二鉄は、一般式[Fe(OH)(SO3-n/2で示され、n=1~50の整数であり、m=1~10の整数である。ポリシリカ鉄は、一般式[SiO・[Feで示され、n=1~50の整数であり、m=1~10の整数である。ケイ酸アルミニウム共重合体は、一般式[SiO・[Alで示され、n=1~50の整数であり、m=1~10の整数である。アルミノケイ酸ナトリウムは、ケイ素と酸素が網目状に連なった構造を持つケイ酸塩の中で、Si4+をAl3+で置き換えることにより失われる陽電荷を補償する形でアルカリ金属イオン(M)などのカチオンを含み、一般式:[NaO]・[Al]・[SiO]・[HO]で示される。
【0066】
本発明の実施形態において、前記電荷制御剤は、前記混合物1Lに対して、好ましくは9mM以下、より好ましくは4mM以下、さらに好ましくは1mM以下、よりさらに好ましくは0.9mM以下、よりさらに好ましくは0.8mM以下、よりさらに好ましくは0.7mM以下、よりさらに好ましくは0.6mM以下、よりさらに好ましくは0.5mM以下、よりさらに好ましくは0.4mM以下、よりさらに好ましくは0.3mM以下、よりさらに好ましくは0.2mM以下、よりさらに好ましくは0.15mM以下含まれる。特に、0.4mM以下、0.3mM以下、0.2mM以下あるいは0.15mM以下含まれることによって本発明の所期の効果を効率よく奏することができる。
【0067】
本発明の実施形態において、前記電荷制御剤は、前記混合物1Lに対して、好ましくは0.01mM以上、より好ましくは0.02mM以上、さらに好ましくは0.03mM以上、よりさらに好ましくは0.04mM以上、よりさらに好ましくは0.05mM以上、よりさらに好ましくは0.06mM以上、よりさらに好ましくは0.07mM以上、よりさらに好ましくは0.08mM以上、よりさらに好ましくは0.09mM以上含まれる。特に、0.06mM以上、0.07mM以上、0.08mM以上、あるいは、0.09mM以上含まれることによって本発明の所期の効果を効率よく奏することができる。
【0068】
(pH調整剤)
本発明の実施形態において、特に酸性(pH7未満)または塩基性(pH7超)の領域へと調整するために、研磨用組成物中に、pH調整剤を含有させてもよい。
【0069】
本発明の実施形態において、酸性の領域に調整するためのpH調整剤の具体例としては、無機化合物および有機化合物のいずれであってもよいが、例えば、硫酸、硝酸、ホウ酸、炭酸、次亜リン酸、亜リン酸およびリン酸等の無機酸;クエン酸、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、安息香酸、サリチル酸、グリセリン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、マレイン酸、フタル酸、リンゴ酸、酒石酸、および乳酸などのカルボン酸、ならびにメタンスルホン酸、エタンスルホン酸およびイセチオン酸等の有機硫酸等の有機酸等が挙げられる。また、上記の酸で2価以上の酸(たとえば、硫酸、炭酸、リン酸、シュウ酸など)の場合、プロトン(H)が1つ以上放出できるようであれば、塩の状態でもよい。具体的には、例えば、炭酸水素アンモニウム、リン酸水素アンモニウムが好ましい(カウンター陽イオンの種類は基本的に何でもよいが、弱塩基の陽イオン(アンモニウム、トリエタノールアミンなど)が好ましい)。塩基性の領域に調整するためのpH調整剤の具体例としては、無機化合物および有機化合物のいずれであってもよいが、アルカリ金属の水酸化物またはその塩、第四級アンモニウム、水酸化第四級アンモニウムまたはその塩、アンモニア、アミン等が挙げられる。アルカリ金属の具体例としては、カリウム、ナトリウム等が挙げられる。塩の具体例としては、炭酸塩、炭酸水素塩、硫酸塩、酢酸塩等が挙げられる。
【0070】
第四級アンモニウムの具体例としては、テトラメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、テトラブチルアンモニウム等が挙げられる。水酸化第四級アンモニウムまたはその塩としては、具体例としては、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム、水酸化テトラブチルアンモニウム等が挙げられる。
【0071】
本発明の実施形態において、研磨用組成物は、酸性または中性に調製されていることが好ましく、好ましくはpHが3以上7未満、より好ましくはpH3.1~6.5、さらに好ましくはpH3.3~6、よりさらに好ましくはpH3.5~5.8、よりさらに好ましくは4~5.5である。なお、本発明におけるpHの値は、実施例に記載の条件で測定した値を言うものとする。本発明の実施形態において、研磨対象物として酸化ケイ素膜(TEOS由来の酸化ケイ素膜)を用いる場合、pHは6以下であることが特に好ましい。
【0072】
(その他の成分)
本発明において、研磨用組成物は、本発明の効果が妨げられない範囲で、酸化剤、キレート剤、水溶性高分子、界面活性剤、防腐剤、または防カビ剤等の、研磨用組成物に用いられ得る公知の添加剤を、必要に応じてさらに含有してもよい。
【0073】
(研磨対象物)
本発明の実施形態においては、研磨対象物が、酸化ケイ素膜、窒化ケイ素膜、ポリシリコン膜、単結晶シリコン膜、タングステン膜およびニッケルリン合金からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。本発明の実施形態においては、酸化ケイ素膜、窒化ケイ素膜およびポリシリコン膜からなる群から選択される少なくとも1種であることがより好ましい。研磨対象物としてかようなものを選択することによって本発明の所期の効果を効率的に奏することができる。本発明の実施形態において、研磨対象物として酸化ケイ素膜のような「-OH」が含まれるものを使用し、前記電荷抑制剤として「-OH」が含まれるものを使用すると、互いが、選択的に水素結合または配位結合して、研磨対象物の電位を低くせしめる効果がある。また、本発明の実施形態において、特に、研磨対象物として酸化ケイ素膜を使用し、前記電荷抑制剤としてペンタンジオナト化合物を使用することによって、研磨対象物の電位を低くせしめる効果がある。
【0074】
本発明の実施形態において、研磨用組成物中の研磨対象物が、酸化ケイ素(特にはTEOS由来の酸化ケイ素)である場合、当該研磨対象物のゼータ電位はマイナスであることが好ましい。また、本実施形態において、当該研磨対象物のゼータ電位の絶対値が、3以下であることが好ましく、2以下であることがより好ましく、1.8以下であることがさらに好ましく、1.6以下であることがよりさらに好ましく、1.5以下であることがよりさらに好ましい。また、本実施形態において、当該研磨対象物のゼータ電位の絶対値が、0.1以上であっても、0.2以上であっても、0.3以上であっても、0.4以上であっても、0.5以上であってもよい。
【0075】
本実施形態において、研磨用組成物中の研磨対象物が、窒化ケイ素である場合、ゼータ電位はプラスであることが好ましい。また、本実施形態において、当該研磨対象物のゼータ電位の絶対値が、15以下であることが好ましく、14以下であることがより好ましく、13以下であることがさらに好ましく、12以下であることがよりさらに好ましく、11以下であることがよりさらに好ましい。また、本実施形態において、当該研磨対象物のゼータ電位の絶対値が、5以上であっても、6以上であっても、7以上であってもよい。
【0076】
本実施形態において、研磨用組成物中の研磨対象物が、ポリシリコンである場合、ゼータ電位はマイナスであることが好ましい。また、本実施形態において、当該研磨対象物のゼータ電位の絶対値が、18以下であることが好ましく、15以下であることがより好ましく、13以下であることがさらに好ましく、10以下であることがよりさらに好ましく、9以下であることがよりさらに好ましく、8以下であることがよりさらに好ましい。また、本実施形態において、当該研磨対象物のゼータ電位の絶対値が、2以上であっても、3以上であっても、4以上であってもよい。
【0077】
<研磨用組成物の製造方法>
本発明の研磨用組成物の製造方法は、砥粒と、分散媒と、電荷制御剤とを含む、研磨対象物を研磨するために用いられる、研磨用組成物の製造方法であって、砥粒と、前記電荷制御剤とを前記分散媒中で混合することを有し、前記研磨用組成物中における前記研磨対象物のゼータ電位Yの絶対値が、前記砥粒と、前記分散媒と含む混合物(ただし、前記電荷制御剤は含まない)中における前記研磨対象物のゼータ電位Xの絶対値の1/2未満である、製造方法である。また、本発明の実施形態においては、砥粒と、分散媒と、必要に応じて他の成分とを、含む成分を混合することを有して混合物を調製し、当該混合物中における研磨対象物のゼータ電位Xを測定する工程と、前記混合物に対して、前記ゼータ電位Xの絶対値が1/2未満となるように電荷制御剤を混合する工程と、を有する、研磨用組成物の製造方法が提供される。前記ゼータ電位Xの絶対値を1/2未満にするように電荷制御剤を混合する方法には特に制限はなく、前記ゼータ電位Xの測定結果に応じて、電荷制御剤を選択、添加量を適宜変更すること等によって達成することができる。各成分を混合する際の温度は特に制限されないが、10~40℃が好ましく、溶解速度を上げるために加熱してもよい。また、混合時間も特に制限されない。
【0078】
<研磨方法>
本発明においては、前記研磨用組成物を用いて、または前記製造方法によって研磨用組成物を得、当該研磨用組成物を用いて、研磨対象物を研磨する、研磨方法も提供される。
【0079】
研磨装置としては、研磨対象物を有する基板等を保持するホルダーと回転数を変更可能なモータ等とが取り付けてあり、研磨パッド(研磨布)を貼り付け可能な研磨定盤を有する一般的な研磨装置を使用することができる。
【0080】
前記研磨パッドとしては、一般的な不織布、ポリウレタン、および多孔質フッ素樹脂等を特に制限なく使用することができる。研磨パッドには、研磨用組成物が溜まるような溝加工が施されていることが好ましい。
【0081】
研磨条件にも特に制限はなく、例えば、研磨定盤の回転速度は、10~500rpmが好ましく、キャリア回転速度は、10~500rpmが好ましく、研磨対象物を有する基板にかける圧力(研磨圧力)は、0.1~10psiが好ましい。研磨パッドに研磨用組成物を供給する方法も特に制限されず、例えば、ポンプ等で連続的に供給する方法が採用される。この供給量に制限はないが、研磨パッドの表面が常に本発明の研磨用組成物で覆われていることが好ましい。
【0082】
<半導体基板の製造方法>
本発明においては、上記の研磨方法を有する、半導体基板の製造方法も提供される。本発明の半導体基板の製造方法は、上記の研磨方法を有するので、段差性能が向上した、つまり、高い平坦性を実現した半導体基板を作製することができる。
【実施例
【0083】
本発明を、以下の実施例および比較例を用いてさらに詳細に説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。また、下記実施例において、特記しない限り、操作は室温(25℃)/相対湿度40~50%RHの条件下で行われた。
【0084】
<研磨用組成物の製造>
(実施例1~17、比較例1~4)
砥粒としてコロイダルシリカ(平均一次粒子径30nm、平均二次粒子径65nm、D90/D10:1.2)と;pH調整剤としてKOHおよび硝酸の少なくとも一方と;分散媒(純水)と;の混合物であって、pHが5.5、砥粒濃度が1質量%である混合物を1L調製した。当該混合物に表1(表1-1と表1-2、以下同様)に記載の電荷調整剤を表1の添加量で添加することによって研磨用組成物を調製した。また、表1に示される一部の実施例等については上記pH調整剤の少なくとも一方の添加量を変更してpHが4である研磨用組成物を上記と同様に作製した。なお、表1中の空白は、研磨用組成物を作製しておらず、評価も行っていないことを意味する。
【0085】
なお、砥粒の平均一次粒子径は、マイクロメリテックス社製の“Flow SorbII 2300”を用いて測定されたBET法による砥粒の比表面積と、砥粒の密度とから算出した。また、砥粒の平均二次粒子径は、Microtrac社製の“UPA-UT151”を用いて測定された動的光散乱法により算出した。また、研磨用組成物(液温:25℃)のpHは、pHメータ(株式会社 堀場製作所製 型番:LAQUA)により確認した。
【0086】
<研磨用組成物の電気伝導度(EC)>
上記で調製した各研磨用組成物の電気伝導度は、卓上型電気伝導度計(株式会社堀場製作所製 型番:DS-71)により測定した。
【0087】
<砥粒のゼータ電位>
上記で調製した各研磨用組成物を大塚電子株式会社製ELS-Z2に供し、測定温度25℃でフローセルを用い、レーザードップラー法(電気泳動光散乱測定法)により測定を行った。得られたデータをSmoluchowskiの式で解析することにより、各研磨用組成物中の砥粒のゼータ電位を算出した。
【0088】
<研磨対象物のゼータ電位>
200mmウェハ(TEOS(酸化ケイ素膜))、200mmウェハ(SiN(窒化ケイ素膜))、200mmウェハ(PolySi(ポリシリコン膜))の各ウェハのゼータ電位については、大塚電子株式会社製ELS-Z2を使用してレーザードップラー法(電気泳動光散乱測定法)により測定を行った。具体的には、測定温度25℃の条件下で平板試料用セルユニット(大塚電子株式会社製)のセル上面に、上記の各ウェハを取り付けた。一方、上記で調製した各研磨用組成物において、砥粒としてモニター粒子としてゼータ電位が既知のコロイダルシリカ粒子に変更した以外は同様にして、別途、試験用組成物を調製した。その試験用組成物にセルを満たし、モニター粒子の電気泳動を行い、セル上下面間の7点においてモニター粒子の電気移動度を測定した。得られた電気移動度のデータを森・岡本の式、及びSmoluchowskiの式で解析することにより、ゼータ電位を算出した。なお、本実施例の欄において、比較例1のゼータ電位が「ゼータ電位X」であり、実施例および他の比較例のゼータ電位が「ゼータ電位Y」に相当する。
【0089】
<研磨性能評価>
上記で調製した各研磨用組成物を用いて、各ウェハを以下の研磨条件で研磨し、研磨レートを測定した。
【0090】
(研磨条件)
研磨機:片面CMP研磨機(日本エンギス株式会社製、EJ380IN)
研磨パッド:硬質ポリウレタン製パッド(ニッタ・ハース株式会社製、IC1000)
圧力:約21kPa(3.0psi)
プラテン(定盤)回転数:60rpm
ヘッド(キャリア)回転数:60rpm
研磨用組成物の流量:100ml/min
研磨時間:1min.
コンディショニング:in-situ dress
(研磨レート)
研磨レート(Removal Rate; RR)は、以下の式により計算した。
【0091】
【数1】
【0092】
膜厚は、光干渉式膜厚測定装置(ケーエルエー・テンコール(KLA)株式会社製 型番:ASET)によって求めて、その差を研磨時間で除することにより評価した。結果を表1に示す。
【0093】
【表1-1】
【0094】
【表1-2】
【0095】
<考察>
比較例1の組成物は、電荷制御剤を含んでおらず、つまり、研磨用組成物から電荷制御剤を除いた混合物であるが、各実施例の研磨用組成物中における研磨対象物のゼータ電位Yの絶対値は、前記混合物における研磨対象物のゼータ電位の絶対値の1/2未満となっている。より平たく言えば、研磨用組成物に電荷制御剤を含有させることによって研磨対象物のゼータ電位Yを0に近づけさせている。その結果、常識では研磨速度が低下するはずの低い砥粒濃度であっても、かつ、常識では研磨速度が低下するはずの低い電気伝導度であっても、当業者の予想に反し、研磨対象物の研磨速度を顕著に向上させている。
【0096】
これに対し、比較例の研磨用組成物中における研磨対象物のゼータ電位Yの絶対値は、前記混合物における研磨対象物のゼータ電位の絶対値の1/2未満となっていない。より平たく言えば、研磨用組成物中における研磨対象物のゼータ電位Yがあまり0に近づいていない。その結果、何の添加もしていない比較例1に比しても研磨速度が寧ろ低い結果となっている。