(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-03
(45)【発行日】2022-10-12
(54)【発明の名称】塗布装置
(51)【国際特許分類】
B05C 5/02 20060101AFI20221004BHJP
【FI】
B05C5/02
(21)【出願番号】P 2019180294
(22)【出願日】2019-09-30
【審査請求日】2021-07-26
(73)【特許権者】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】特許業務法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】村上 守
(72)【発明者】
【氏名】山口 貴志
(72)【発明者】
【氏名】孤島 永周
【審査官】市村 脩平
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-013989(JP,A)
【文献】特開2003-126761(JP,A)
【文献】特開平06-154687(JP,A)
【文献】特開2005-118770(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0100677(US,A1)
【文献】米国特許第05674556(US,A)
【文献】国際公開第95/029766(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05C5/00-21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗布液を吐出する吐出口を有し、搬送される基材と吐出口との間に該吐出口から吐出された塗布液を架橋させてビードを形成し、該ビードを介して塗布液を基材に塗布するダイを備え、
膜厚30μm以下の塗膜を形成する塗布装置であって、
前記ダイが、基材の搬送方向における上流側リップ部と下流側リップ部とを有し、上流側リップ部と下流側リップ部とで前記吐出口を構成しており、
前記上流側リップ部の基材と対向する面が平面であり、且つ、前記上流側リップ部の基材と対向する面の上流側縁部と基材との距離をD1とし、前記上流側リップ部の基材と対向する面の下流側縁部と基材との距離D2としたとき、D2/D1が1.0超え7.0以下を満たし、
前記下流側リップ部の基材と対向する面と基材との距離をD3としたとき、D3<D1を満たす、塗布装置。
【請求項2】
前記D2/D1が1.5~3.5である、請求項1に記載の塗布装置。
【請求項3】
前記D2-前記D1が15μm~200μmである、請求項1又は請求項2に記載の塗布装置。
【請求項4】
前記D1-前記D3が3μm~150μmである、請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の塗布装置。
【請求項5】
前記D3が10μm~100μmである、請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の塗布装置。
【請求項6】
前記上流側リップ部の前記基材と対向する面の長さが0.1mm~3.0mmである、請求項1~請求項5のいずれか1項に記載の塗布装置。
【請求項7】
前記塗布液の25℃における粘度が0.8mPa・s~10.0mPa・sである、請求項1~請求項6のいずれか1項に記載の塗布装置。
【請求項8】
前記塗布液の固形分濃度が5質量%~50質量%である、請求項1~請求項7のいずれか1項に記載の塗布装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、塗布装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ダイを備えた塗布装置において、基材上に目的とする塗工層を形成する方法が知られている。
【0003】
特許文献1には、正極、負極、電解質を有する化学電池の製造において、スロットノズルを有するエクストルージョン型注液器より、電極材料塗布液を吐出させ、バックアップロールに巻回して走行する導電性支持体上に所定厚に塗布するシート状極板の製造方法が記載されている。
【0004】
特許文献2には、液入口からの塗布液を幅方向に広がらせるためのマニホールドと、そのマニホールドから塗布液が押し出される吐出スリットとを具備してなるダイヘッドを使用し、粘度ηが0cps<η<100cpsの範囲にある低粘度の塗布液を基材に塗布する用途の塗工装置において、吐出スリットから両側に広がるヘッド先端のリップ部の長さtを0.1mm<t<1mmとし、少なくとも一方のリップ部を0°<θ<10°の角度θで内側に傾斜させた形状のダイヘッドを用いた塗工装置が記載されている。
【0005】
特許文献3には、バックアップローラに巻き掛けられて連続走行するウエブと、塗布液をスロットから吐出するスロットダイ先端との間のリップクリアランスに上記吐出した塗布液を架橋させてビードを形成し、上記ビードを介して塗布液を上記ウエブに塗布すると共に、上記スロットの幅方向両端部に塗布幅規制のためのスペーサが挿入されたエクストルージョン塗布装置において、上記スペーサの少なくとも先端部を可撓性部材で形成すると共に、上記先端部を上記スロット先端から突出させて上記ウエブ面に当接させた状態で塗布するエクストルージョン塗布装置が記載されている。
【0006】
特許文献4には、押出し型塗布ヘッドの上流側リップと下流側リップの間に設けられたスロットから塗布液を押出し、両リップ面に沿うように走行するウエブに塗布液を塗布する塗布装置において、上記塗布ヘッドの上流側リップにそのスロット側エッジBを起点とする面取りを施し、上流側リップから下流側リップに引いた接線をL、接線と上流側リップとの接点をOとするとき、接線Lと線分OBとのなす角θが、O<θ<45度を満たす塗布装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平7-65816号公報
【文献】特開2003-80148号公報
【文献】特開2009-220025号公報
【文献】特開平6-154690号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来のエクストルージョン型のダイを備えた塗布装置にて薄い塗膜(例えば、膜厚30μm以下の塗膜)を形成する際、塗膜の幅方向側端部に発生するスジが問題となっていた。
このスジは、塗膜の幅方向側端部において、塗膜の形成開始からある程度経った後で、且つ、断続的に発生する。
【0009】
そこで、本開示の一実施形態が解決しようとする課題は、膜厚30μm以下の塗膜を形成する塗布装置であって、塗膜の幅方向側端部に発生するスジを抑制しうる塗布装置を提供することにある。
ここで、本開示において、「塗膜の幅方向側端部に発生するスジを抑制しうる」とは、塗膜の形成開始から、塗膜の幅方向側端部にスジが発生するまでの時間又は距離を伸ばすことを意味する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
課題を解決するための具体的手段には、以下の態様が含まれる。
【0011】
<1> 塗布液を吐出する吐出口を有し、搬送される基材と吐出口との間に上記吐出口から吐出された塗布液を架橋させてビードを形成し、上記ビードを介して塗布液を基材に塗布するダイを備え、
上記ダイが、基材の搬送方向における上流側リップ部と下流側リップ部とを有し、上流側リップ部と下流側リップ部とで上記吐出口を構成しており、
上記上流側リップ部の基材と対向する面が平面であり、且つ、上記上流側リップ部の基材と対向する面の上流側縁部と基材との距離をD1とし、上記上流側リップ部の基材と対向する面の下流側縁部と基材との距離D2としたとき、D2/D1が1.0超え7.0以下を満たし、
上記下流側リップ部の基材と対向する面と基材との距離をD3としたとき、D3<D1を満たす、塗布装置。
【0012】
<2> 上記D2/D1が1.5~3.5である、<1>に記載の塗布装置。
<3> 上記D2-上記D1が15μm~200μmである、<1>又は<2>に記載の塗布装置。
<4> 上記D1-上記D3が3μm~150μmである、<1>~<3>のいずれか1つに記載の塗布装置。
<5> 上記D3が10μm~100μmである、<1>~<4>のいずれか1つに記載の塗布装置。
<6> 上記上流側リップ部の前記基材と対向する面の長さが0.1mm~3.0mmである、<1>~<5>のいずれか1つに記載の塗布装置。
【0013】
<7> 上記塗布液の粘度が0.8mPa・s~10.0mPa・sである、<1>~<6>のいずれか1つに記載の塗布装置。
<8> 上記塗布液の固形分濃度が5質量%~50質量%である、<1>~<7>のいずれか1つに記載の塗布装置。
【発明の効果】
【0014】
本開示の一実施形態によれば、膜厚30μm以下の塗膜を形成する塗布装置であって、塗膜の幅方向側端部に発生するスジを抑制しうる塗布装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、本開示の塗布装置におけるダイの先端部の一例を示す概略側面図である。
【
図2】
図2は、本開示の塗布装置におけるビード内での塗布液の流線モデルを示した図である。
【
図3】
図3は、従来の塗布装置におけるビード内での塗布液の流線モデルを示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本開示の塗布装置について詳細に説明する。
なお、本開示は、以下において図面を参照して説明する実施形態に何ら制限されず、本開示の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。各図面において同一の符号を用いて示す構成要素は、同一の構成要素であることを意味する。各実施形態において重複する構成要素及び符号については、説明を省略することがある。
図面における寸法は、必ずしも実際の寸法及び比率を表すものではない。
【0017】
本開示において、「工程」の語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。
本開示において、「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。
本開示に段階的に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本開示に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
本開示において、2以上の好ましい態様の組み合わせはより好ましい態様である。
本開示において、「固形分」とは溶剤(好ましくは有機溶剤)以外の成分をいう。
【0018】
既述のように、従来のダイを備えた塗布装置においては、膜厚30μm以下の塗膜を形成する際、塗膜の幅方向側端部にスジが発生する。
このスジは、ビード内での塗布液の滞留部にて生じる気泡に起因すると考えられる。より具体的には、以下の理由によるものと考えられる。
まず、従来のダイを備えた塗布装置におけるビード内での塗布液の動きについて説明する。ここで、
図3は、従来の塗布装置におけるビード内での塗布液の流線モデルを示した図である。
図3中、ビードB中の矢印が塗布液の動きを示している。
図3に示すように、従来のダイ40を備えた塗布装置においては、被塗布部材である基材10の搬送方向Xに対して上流側にある、上流側リップ部42のランド面(即ち、基材10と対向する面)42Aの上流側縁部付近のビード内にて、塗布液の滞留部Tが形成される。ビードB内における塗布液の滞留部Tは、上流側リップ部42の形状に起因して形成されるものと考えられる。
このように、ビードB内に塗布液の滞留部Tが形成されると、滞留部Tにて溶存空気が過飽和状態となり、及び/又は、塗布液中に存在する微細な泡が滞留部Tにて補足され、そこへビードB内の塗布液の流れによる流速が剪断刺激を与えることで、例えば、1μm~100μm程度の気泡が断続的に生じてしまうと考えられる。また、ダイ40の幅方向側端部(
図3に示すダイ40では奥行方向の手前側及び奥側に該当する)は、空気層との界面に隣接することから、空気を取り込みやすく、気泡の発生頻度も高いものと考えられる。
本発明者らの検討によって、塗布中に、塗布液の流量増加などの刺激を加えると(即ち、
図3でいえば、滞留部Tに与えられる剪断刺激が強くなると)、塗膜の幅方向側端部にスジが多数発生することがわかってきた。また、本発明者らは、ビードの観察により、ビード内に泡が発生することも確認している。これらのことから、スジの発生に寄与するビード内の泡は、上記のように、塗布液が滞留することで溶存酸素が過飽和状態となること、及び/又は、塗布液中に存在する微細な泡が滞留部Tにて捕捉されること、そこへ剪断刺激が加わること、により生じるものと、本発明者らは推測している。
そして、発生した気泡は、そのまま、又は、ダイ40の幅方向側端部(
図3では奥行方向の手前側及び奥側)へと移動し、ダイ40の下流側リップ部44で捕捉されずに、塗布液に含まれた状態で基材10上へと塗布される。そのため、気泡を含んだ塗布液が基材10の搬送方向に引き延ばされると共に、気泡が塗布液(塗膜)外へと排出することで(即ち、発泡することで)、局所的に膜厚の変動領域が形成されて、これがスジとなる。
上記の塗膜の幅方向側端部におけるスジは、断続的に発生する気泡の発泡のたびに生じることから、塗膜の幅方向側端部において断続的に発生する。また、ビード内で溶存空気が過飽和となるまである程度の時間を要すため、塗膜の形成開始からある程度経った後で発生する(以降、「中途発生」ともいう)。
【0019】
本発明者らが検討を行った結果、膜厚30μm以下の塗膜を形成する塗布装置において、塗布装置におけるダイの上流側リップ部を特定の形状とすることで、上記の塗膜の幅方向側端部に発生するスジを抑制しうる、といった知見を見出した。
上記知見に基づく、本開示の塗布装置は、以下の構成を有する。
即ち、本開示の塗布装置は、塗布液を吐出する吐出口を有し、搬送される基材と吐出口との間に上記吐出口から吐出された塗布液を架橋させてビードを形成し、上記ビードを介して塗布液を基材に塗布するダイを備え、上記ダイが、基材の搬送方向における上流側リップ部と下流側リップ部とを有し、上流側リップ部と下流側リップ部とで上記吐出口を構成しており、上記上流側リップ部の基材と対向する面が平面であり、且つ、上記上流側リップ部の基材と対向する面の上流側縁部と基材との距離をD1とし、上記上流側リップ部の基材と対向する面の下流側縁部と基材との距離D2としたとき、D2/D1が1.0超え7.0以下を満たし、上記下流側リップ部の基材と対向する面と基材との距離をD3としたとき、D3<D1を満たす、塗布装置である。
上記距離D1、距離D2、及び距離D3は、いずれも、面と基材との最短距離を示す。
上記の構成とすることで、ビードを構成する塗布液の容積が大きくなり、また、ビードにおける塗布液の滞留部が小さくなることから、ビード内での気泡の発生が抑制されるものと推測される。その結果、ビード内で発生した気泡に起因して発生する、塗膜の幅方向側端部のスジが抑制される。
【0020】
上記の特許文献1~4に記載のダイを備えた塗布装置では、ビード内で気泡が発生すること、また、この気泡の発生に起因して塗膜の幅方向側端部にスジが発生することについて、まったく言及していない。
また、特許文献1~4に記載のダイは、D2/D1が1.0超え7.0以下を満たし、且つ、D3<D1を満たす、といった構成も有していない。
よって、特許文献1~4に記載のダイを備えた塗布装置では、塗膜の幅方向側端部に発生するスジを抑制することはできないものと推測される。
【0021】
本開示の塗布装置が備えるダイは、エクストルージョン型のダイであり、搬送される基材と塗布液を吐出する吐出口との間に、塗布液を溜めて架橋させたビードを形成し、ビードを介して塗布液を基材に塗布するものである。
即ち、ビードとは、ダイと基材(即ち被塗布部材)との間に形成される塗布液溜まりである。
【0022】
以下、図面を参照して、本開示の塗布装置について詳細に説明する。
図1は、本開示におけるダイの先端部の一例を示す概略側面図である。
【0023】
図1に示すダイ20は、被塗布部材である基材10の搬送方向Xに対し、上流側にある上流側リップ22と、下流側にある下流側リップ部24と、を有する。
ダイ20では、上流側リップ部22と下流側リップ部24との間に、塗布液を移送及び吐出するスロット30が形成されている。
スロット30は不図示のマニホールドに連通している。マニホールドは、ダイ20の幅方向(即ち、
図1中の奥行方向)に沿って伸びる空間であり、ダイ20に供給された塗布液を塗布幅方向(即ち、ダイ20の幅方向)に拡流し、塗布液を一時的に貯留する。
図1に示すダイ20は、塗布時には、スロット30の開口部(即ち、塗布液の吐出口)と基材10との間にビードが形成されており、このビードを介して塗布液が基材10へと塗布される。
【0024】
ダイ20において、上流側リップ部22のランド面(即ち、基材10と対向する面)22A、及び、下流側リップ部24のランド面(即ち、基材10と対向する面)24Aは、共に平面である。
なお、上記平面とは、微小な凹凸、微小な曲面を有する略平面を含む。
下流側リップ部24のランド面24Aは、対向する基材10の表面と平行になっているが、この形態に限定されるものではなく、対向する基材10の表面に対して傾いていてもよい。
【0025】
ダイ20において、
図1に示すように、上流側リップ部22のランド面22Aの上流側縁部と基材10との距離をD1とし、上流側リップ部22のランド面22Aの下流側縁部と基材10との距離D2としたとき、D2/D1は1.0超え7.0以下を満たし、且つ、下流側リップ部24のランド面24Aのと基材との距離をD3としたとき、D3<D1を満たす。
D2/D1が1.0超えであることは、上流側リップ部22のランド面22Aが、対向する基材10の表面に対して傾きを有することを意味する。このようにランド面22Aを傾かせることで、ビード内の塗布液の滞留部が、形成されにくくなる又は小さくなる。
なお、D2/D1を7超とすると、ビードの形成限界(即ち、塗布液の架橋限界)を超えやすく、また、基材との接触懸念も生じやすくなる。
【0026】
ここで、D2/D1が1.0超えであることで、ビード内の塗布液の滞留部が、形成されにくくなる又は小さくなる点について、
図2を参照して説明する。
ここで、
図2は、本開示の塗布装置におけるビード内での塗布液の流線モデルを示した図である。
図2中、ビードB中の矢印が塗布液の動きを示している。
図2に示すように、本開示の塗布装置、即ち、ダイ20を備えた塗布装置においては、被塗布部材である基材10の搬送方向Xに対して上流側にある、上流側リップ部22のランド面22Aと、ランド面22Aの上流側縁部と基材とを結ぶ直線と、でなす角が90°を超え、鈍角になる。このようにすることで、
図2に示すように、ビードB内に塗布液の動き(即ち矢印の動き)が滑らかになり、
図3にて示した滞留部Tが、形成されにくくなる又は小さくなると考えられる。
【0027】
上記D2/D1は、塗膜の幅方向側端部のスジの抑制の観点から、1.5~7.0が好ましく、1.5~3.5がより好ましい。
【0028】
また、D2-D1は、上記D2/D1を満たす範囲で設定すればよく、例えば、15μm~200μmであることが好ましく、15μm~180μmがより好ましい。
D1は、15μm~250μmが好ましく、20μm~220μmがより好ましい。
D2は、100μm~400μmが好ましく、120μm~380μmがより好ましい。
【0029】
更に、D1-D3は、ビードの容量を大きくする観点、及び、ビードの形成限界(即ち、塗布液の架橋限界)の観点から、3μm~150μmであることが好ましく、5μm~130μmであることがより好ましく、10μm~50μmが更に好ましい。
【0030】
D3は、ビードの形成限界(即ち、塗布液の架橋限界)の観点、及び、基材との接触懸念の観点から、10μm~100μmであることが好ましく、15μm~80μmであることがより好ましく、20μm~70μmであることが更に好ましい。
【0031】
上流側リップ部22のランド面(即ち基材10と対向する面)22Aの長さは、形成する塗膜の膜厚に応じて決定されればよく、例えば、0.1mm~3.0mmであることが好ましく、ビードの容量を大きくする観点、及び、他の製造故障を防止する観点から、0.5mm~2.0mmであることがより好ましく、0.5mm~1.5mmであることが更に好ましい。
ここで、上流側リップ部22のランド面22Aの長さは、基材10の搬送方向Xに沿った方向における、ランド面22A自体の長さを指す。
【0032】
下流側リップ部24のランド面(即ち基材10と対向する面)24Aの長さは、形成する塗膜の膜厚に応じて決定されればよく、例えば、0.01mm~0.5mmであることが好ましい。
ここで、下流側リップ部24のランド面24A(即ち基材と対向する面)の長さも、上流側リップ部22のランド面(即ち基材と対向する面)22Aと同様、基材10の搬送方向Xに沿った方向における、下流側リップ部24のランド面24A自体の長さを指す。
【0033】
上記した、距離D1、距離D2、及び距離D3は、いずれも、例えば、テーパーゲージ、マイクロスコープ等にて測定することができる。
【0034】
ダイ20は、金属製であることが好ましく、ダイヘッドの本体とリップの先端部とが別の金属にて形成されていてもよい。
本開示の塗布装置を構成する金属として具体的には、ステンレス鋼の他、リップの先端部に用いられる、タングステンカーバイトを主成分とする超硬材料等が挙げられる。
【0035】
以上、説明したダイ20を備えた塗布装置にて、膜厚30μm以下の塗膜が形成される。
ここでいう、塗膜の厚みは、基材の搬送速度、塗布幅、及び体積流量から算出したものである。
【0036】
続いて、本開示の塗布装置により塗布が行われる基材(被塗布部材)、基材の搬送手段、及び塗布液について説明する。
【0037】
[基材]
基材10としては、被塗布部材であれば特に制限はなく、塗工層の用途に応じて、適宜、選択すればよい。例えば、本開示の塗布装置により連続塗布を行う場合には、長尺の基材であればよい。特に、搬送性等の観点からは、基材には、ポリマーフィルムが好ましく用いられる。
【0038】
光学フィルム用途であれば、基材の光透過率は、80%以上であることが好ましい。
光学フィルム用途であれば、基材としてポリマーフィルムを用いる場合には、光学的等方性のポリマーフィルムを用いるのが好ましい。
【0039】
基材としては、例えば、ポリエステル系基材(ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のフィルム若しくはシート)、セルロース系基材(ジアセチルセルロース、トリアセチルセルロース(TAC)等のフィルム若しくはシート)、ポリカーボネート系基材、ポリ(メタ)アクリル系基材(ポリメチルメタクリレート等のフィルム若しくはシート)、ポリスチレン系基材(ポリスチレン、アクリロニトリルスチレン共重合体等のフィルム若しくはシート)、オレフィン系基材(ポリエチレン、ポリプロピレン、環状若しくはノルボルネン構造を有するポリオレフィン、エチレンプロピレン共重合体等のフィルム若しくはシート)、ポリアミド系基材(ポリ塩化ビニル、ナイロン、芳香族ポリアミド等のフィルム若しくはシート)、ポリイミド系基材、ポリスルホン系基材、ポリエーテルスルホン系基材、ポリエーテルエーテルケトン系基材、ポリフェニレンスルフィド系基材、ビニルアルコール系基材、ポリ塩化ビニリデン系基材、ポリビニルブチラール系基材、ポリ(メタ)アクリレート系基材、ポリオキシメチレン系基材、エポキシ樹脂系基材等の透明基材、又は上記のポリマー材料をブレンドしたブレンドポリマーからなる基材等が挙げられる。
【0040】
基材としては、上記のポリマーフィルム上に予め層が形成されたものであってもよい。
予め形成される層としては、接着層、水、酸素等に対するバリア層、屈折率調整層、配向層等が挙げられる。
【0041】
[基材の搬送手段]
図1では、基材10が搬送方向Xに向かって搬送されているが、基材の搬送手段はこの態様に限定されるものではない。
つまり、基材の搬送手段は特に制限はなく、例えば、基材を張架した状態にて搬送することができ、塗布精度が高まる観点から、本開示の塗布装置による塗布時の基材の搬送手段は、バックアップロールであることが好ましい。
即ち、本開示の塗布装置による塗布液の塗布は、バックアップロール上に巻き掛けられた基材に対し行われることが好ましい。
【0042】
バックアップロールは、回転自在に構成されており、基材を巻き掛けて連続搬送することができる部材であって、基材の搬送速度を同速度で回転駆動する。
【0043】
バックアップロールは、塗膜の乾燥促進を高めるため、膜面温度低下による塗膜のブラッシング(即ち、微細な結露が生じることによる塗膜の白化)の抑制など観点から、加温されていてもよい。
また、バックアップロールは、表面温度を検知し、その温度に基づいて温度制御手段によってバックアップロールの表面温度が維持されることが好ましい。
バックアップロールが温度制御手段を備える場合、温度制御手段としては、例えば、加熱手段及び冷却手段が挙げられる。加熱手段としては、誘導加熱、水加熱、油加熱等が用いられ、冷却手段としては、冷却水による冷却が用いられる。
【0044】
バックアップロールの直径としては、基材が巻き掛け易い観点、ダイヘッドによる塗布が容易な観点、バックアップロールの製造コストの観点から、100mm~1000mmが好ましく、100mm~800mmがより好ましく、200mm~700mmが更に好ましい。
なお、膜厚30μm以下の塗膜を形成するために用いる本開示の塗布装置におけるダイは、上流側リップのランド面の長さが数mm程度の大きさとなる。バックアップロールに巻き掛けた基材は曲面を形成することになるが、上記の直径の範囲のバックアップロールであれば、その曲面は平面に近似するため、本開示の塗布装置における、距離D1、距離D2、及び距離D3には大きな影響を及ぼさない。
即ち、上記の直径のバックアップロール上に巻き掛けた基材に対し、本開示の塗布装置により塗布を行っても、塗膜の幅方向側端部に発生するスジを抑制しうる。
【0045】
バックアップロールでの基材の搬送速度は、生産性の確保の観点、及び、塗布性の観点から、例えば、10m/min~100m/minであることが好ましい。
【0046】
バックアップロールに対する基材のラップ角は、塗布時の基材搬送を安定化され、塗膜の厚みムラの発生を抑制する観点から、60°以上が好ましく、90°以上がより好ましい。また、ラップ角の上限は、例えば、180°に設定することができる。
なお、ラップ角とは、基材がバックアップロールに接触する際の基材の搬送方向と、バックアップロールから基材が離間する際の基材の搬送方向と、からなる角度をいう。
【0047】
[塗布液]
塗布液としては、本開示の塗布装置におけるダイにより吐出可能な塗布液であれば特に制限はない。
本開示の塗布装置に適用される塗布液としては、流動性がある液状物であれば特に制限はない。
塗布液としては、重合性又は架橋性化合物を含む硬化性塗布液であってもよいし、非硬化性塗布液であってもよい。
また、塗布液に用いられる溶媒としては、水、及び有機溶剤のいずれであってもよく、これらの混合物であってもよい。
【0048】
本開示の塗布装置に適用しうる塗布液としては、膜厚30μm以下の塗膜を形成する観点、ビードの形成限界(即ち、塗布液の架橋限界)の観点から、例えば、25℃における粘度が0.8mPa・s~10.0mPa・sである塗布液が好ましい。
塗布液の粘度としては、1.0mPa・s~6.0mPa・sが好ましく、1.0mPa・s~4.0mPa・sがより好ましい。
ここで、E型粘度計、振動型粘度計等によって測定されるが、本開示においては、E型粘度計にて測定された値を採用している。
【0049】
本開示の塗布液に適用しうる塗布液としては、膜厚30μm以下の塗膜を形成する観点、ビードの形成限界(即ち、塗布液の架橋限界)の観点から、例えば、固形分濃度が5質量%~50質量%である塗布液が好ましい。
塗布液の固形分濃度としては、10質量%~45質量%が好ましく、20質量%~40質量%がより好ましい。
【0050】
[塗布装置]
本開示の塗布装置は、既述のダイ以外に、その他の部材を含んでいてもよい。
その他の部材としては、ビードの基材の搬送方向の上流側を減圧する減圧チャンバー、外乱等による塗布液(又は塗膜)の振動を抑制する能動型除振装置(アクティブ除振装置ともいう)等が挙げられる。
その他の部材としては、例えば、特開2007-283260号公報に記載の減圧チャンバー、特開2008-253867号公報に記載の能動型除振装置等が好適である。
【0051】
(目的とする塗工層)
塗布液から形成される目的とする塗工層としては、特に制限はない。
例えば、光学フィルム用途であれば、ハードコート層、光学異方性層、偏光層、屈折率調整層等が挙げられる。
【実施例】
【0052】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はその主旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0053】
<基材の準備>
特開2007-283260号公報の段落0073~0074に記載の方法を用いて、厚さ80μm、幅は1340mmのセルロースアセテートフィルム(外層:3μm、内層:74μm、外層:3μm)を作製した。
得られたセルロースアセテートフィルムを基材とした。
【0054】
<塗布液の準備>
(塗布液Aの調製)
下記の組成物を、107質量部のメチルエチルケトンに溶解して塗布液A(光学補償フィルム用塗布液)を調製した。
塗布液Aの粘度は2.5mPa・sであり、固形分濃度は31.0質量%であった。
【0055】
・ディスコティック液晶性化合物(下記構造) : 41.01質量部
・エチレンオキサイド変成トリメチロールプロパントリアクリレート : 4.06質量部
(ビスコート#360、大阪有機化学(株)製)
・セルロースアセテートブチレート : 0.9質量部
(CAB551-0.2、イーストマンケミカル社製)
・セルロースアセテートブチレート : 0.21質量部
(CAB531-1、イーストマンケミカル社製)
・フルオロ脂肪族基含有ポリマー : 0.14質量部
(メガファック(登録商標) F-780、DIC(株)製)
・光重合開始剤 : 1.35質量部
(Omnirad 907(旧Irgacure 907)、IGM Resins B.V.社製)
・増感剤 : 0.45質量部
(KAYACURE DETX、日本化薬(株)製)
【0056】
【0057】
(塗布液Bの調製)
メチルエチルケトンの量を107質量部から85.5質量部へと変更した以外は、塗布液Aと同様にして、塗布液B(光学補償フィルム用塗布液)を調製した。
塗布液Bの粘度は3.0mPa・sであり、固形分濃度は36.0質量%であった。
【0058】
<ダイ1の準備>
ステンレス鋼を用い、
図1に示す形状を有する上流側リップ部22及び下流側リップ部24を作製した。
上流側リップ部22のランド面22Aは、
図1に示す距離D4が17μmとなるようにした。
下流側リップ部24のランド面24Aの長さは30μmとした。
【0059】
<ダイ2の準備>
ステンレス鋼を用い、
図1に示す形状を有する上流側リップ部22及び下流側リップ部24を作製した。
上流側リップ部22のランド面22Aは、
図1に示す距離D4が150μmとなるようにした。
下流側リップ部24のランド面24Aの長さは30μmとした。
【0060】
<ダイ3の準備>
ステンレス鋼を用い、
図1に示す形状を有する上流側リップ部22及び下流側リップ部24を作製した。
上流側リップ部22のランド面22Aは、
図1に示す距離D4が0μmとなるようにした。
下流側リップ部24のランド面24Aの長さは30μmとした。
【0061】
(実施例1)
ダイ1を
図1のように配置し、基材上に塗布液Aの塗布を行い、厚み8μmの塗膜を幅1300mm×長さ5500mで形成した。
具体的には、表面温度25℃、外径200mmのバックアップロール上に、基材を搬送し、バックアップロール上の基材に対し、ダイ1を用い、塗布液Aの塗布を行った。このとき、基材のラップ角は100°であった。
ここで、距離D1は200μm、距離D2は217μm、距離D3は70μm、ダイ1の上流側リップ部22のランド面10Aの長さは994μmであった。
【0062】
(実施例2~9、比較例1~5)
ダイの種類及び配置を適宜変更し、距離D1、距離D2、距離D3、及び、上流側リップ部22のランド面10Aの長さを表1のようにした以外は、実施例1と同様にして、厚み8μmの塗膜を幅1300mm×長さ5500mで形成した。
【0063】
(実施例10~11、比較例6)
塗布液Bを用いた以外は、実施例1、2、又は比較例1と同様にして、厚み6.9μmの塗膜を幅1300mm×長さ5500mで形成した。
【0064】
(評価:スジの評価)
形成された塗膜(幅1300mm×長さ5500m)の幅方向側端部を目視にて観察し、スジが発生するまでの距離を目視及び検査機(幅方向に複数のCCDカメラを並べたもの)にて測定した。
評価指標は以下の通りである。結果を表1に示す。
なお、塗布時、ビードの形成限界(即ち、塗布液の架橋限界)を超え、塗布が不可能となった場合は、本評価を行っていない。スジの評価を行わなかった例は、表1のスジの欄には「-」と表記した。
【0065】
-スジの評価指標-
1:5000mを超えてもスジがみられない。
2:3000mを超えて5000m以下にてスジが見られた。
3:3000m以下でスジが見られた。
【0066】
(評価:ビードの形成限界(塗布液の架橋限界)の評価)
上記した各例での塗布液の塗布時において、ビードの形成状態を観察し、以下のような指標にて評価した。ビードの形成限界(即ち、塗布液の架橋限界)を超えると、塗布が不可能となる。
-ビードの形成限界の評価指標-
1:安定的に塗布が可能であった。
2:ビードの形成状態が不安定だが、塗布は可能であった。
3:ビードが形成できず(即ち、ビードの形成限界を超え)、塗布が不可能であった。
【0067】
(総合評価)
上記スジの評価値と架橋限界の評価値との合計を用い、以下の指標にて総合的に評価した。
-評価指標-
1:スジの評価値と架橋限界の評価値との合計が2である
2:スジの評価値と架橋限界の評価値との合計が3である
3:スジの評価値と架橋限界の評価値との合計が4である、又は塗布が不可能であったもの。
【0068】
【0069】
表1に示すように、実施例により形成された塗膜は、いずれも、スジの発生までの距離が長く、幅方向側端部のスジの発生が抑制されていることが分かる。
【符号の説明】
【0070】
10 基材
20、40 ダイ
22、42 上流側リップ部
22A、42A 上流側リップ部のランド面
24、44 下流側リップ部
24A 下流側リップ部のランド面
30 スロット
D1 上流側リップ部22のランド面22Aの上流側縁部と基材10との距離
D2 上流側リップ部22のランド面22Aの下流側縁部と基材10との距離
D3 下流側リップ部24のランド面24Aと基材10との距離
D4 上流側リップ部22のランド面22Aの上流側縁部と下流側縁部との間の距離
X 基材の搬送方向
B ビード