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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-03
(45)【発行日】2022-10-12
(54)【発明の名称】レーザ加工方法及びレーザ加工システム
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/02 20140101AFI20221004BHJP
   B23K 26/064 20140101ALI20221004BHJP
   B23K 26/066 20140101ALI20221004BHJP
   B23K 26/00 20140101ALI20221004BHJP
   B23K 26/50 20140101ALI20221004BHJP
   B23K 26/382 20140101ALI20221004BHJP
   B23K 26/046 20140101ALI20221004BHJP
【FI】
B23K26/02 Z
B23K26/064 A
B23K26/066
B23K26/00 Q
B23K26/00 N
B23K26/50
B23K26/382
B23K26/046
【請求項の数】 24
(21)【出願番号】P 2019567448
(86)(22)【出願日】2018-01-24
(86)【国際出願番号】 JP2018002152
(87)【国際公開番号】W WO2019146021
(87)【国際公開日】2019-08-01
【審査請求日】2020-12-03
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「高輝度・高効率次世代レーザー技術開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】300073919
【氏名又は名称】ギガフォトン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083116
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 憲三
(72)【発明者】
【氏名】諏訪 輝
(72)【発明者】
【氏名】柿崎 弘司
(72)【発明者】
【氏名】小林 正和
(72)【発明者】
【氏名】若林 理
【審査官】岩見 勤
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-297478(JP,A)
【文献】特表2016-528048(JP,A)
【文献】特開平05-032428(JP,A)
【文献】特開平10-113780(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/02
B23K 26/064
B23K 26/066
B23K 26/00
B23K 26/50
B23K 26/382
B23K 26/046
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
紫外線のパルスレーザ光を出力するレーザ装置と、前記パルスレーザ光を透過する転写パターンが形成された転写マスクと、前記パルスレーザ光が前記転写パターンを透過することによって形成され前記転写パターンに応じた形状の転写像を転写する転写光学系とを備えたレーザ加工システムを用いて、前記紫外線に対して透明な透明材料に対して加工を施すレーザ加工方法は、以下のステップを備える:
A.前記パルスレーザ光の光軸方向において、前記転写光学系によって転写される前記転写像の転写位置と、前記透明材料との相対的な位置決めを行う位置決めステップであって、前記転写位置が、前記光軸方向において前記透明材料の表面から所定の深さΔZsfだけ前記透明材料の内部に進入した位置となるように前記位置決めを行う位置決めステップ;
B.前記転写位置における前記パルスレーザ光の目標フルーエンス及び前記深さΔZsfを含む照射条件を取得する照射条件取得ステップ;
C.前記照射条件に基づいて、前記透明材料の表面における前記パルスレーザ光の最大フルーエンスが前記穴加工においてクラックの発生を抑制する所定の範囲内か否かを判定する判定ステップ;及び
D.前記最大フルーエンスが前記所定の範囲内と判定された場合に前記パルスレーザ光の照射を許容する制御ステップ,
ここで、前記目標フルーエンスは、前記パルスレーザ光の光軸と直交する方向のビームの断面であって、前記転写位置における前記ビームの断面内における平均的なフルーエンスであり、前記最大フルーエンスは、前記透明材料の表面における前記ビームの断面を複数の小領域に分割し、分割された前記小領域毎のフルーエンスの中の最大値である。
【請求項2】
請求項1に記載のレーザ加工方法であって、さらに以下のステップを備える:
E.前記判定ステップにおいて、前記最大フルーエンスが前記所定の範囲外と判定された場合に警告する警告ステップ。
【請求項3】
請求項1に記載のレーザ加工方法であって、
前記パルスレーザ光は、パルス幅が1ns~100nsの範囲であって、かつ、前記転写位置でのビームの直径が10μm以上150μm以下である。
【請求項4】
請求項1に記載のレーザ加工方法であって、
前記透明材料は、合成石英ガラスであって、前記パルスレーザ光の波長は157.6nm~248.7nmである。
【請求項5】
請求項4に記載のレーザ加工方法であって、
前記パルスレーザ光は、ArFレーザ光である。
【請求項6】
請求項5に記載のレーザ加工方法であって、
前記深さΔZsfの範囲は、0mm以上4mm以下である。
【請求項7】
請求項6に記載のレーザ加工方法であって、
前記所定の範囲は、10J/cm以上40J/cm以下である。
【請求項8】
請求項7に記載のレーザ加工方法であって、
前記パルスレーザ光の前記転写位置における目標フルーエンスは、5J/cm以上30J/cm以下である。
【請求項9】
請求項5に記載のレーザ加工方法であって、
前記パルスレーザ光の照射パルス数は、5,000パルス以上である。
【請求項10】
請求項9に記載のレーザ加工方法であって、
前記照射パルス数は、20,000パルス以下である。
【請求項11】
紫外線のパルスレーザ光を出力するレーザ装置と、前記パルスレーザ光を集光する集光光学系とを備えたレーザ加工システムを用いて、前記紫外線に対して透明な透明材料に対して加工を施すレーザ加工方法は、以下のステップを備える:
A.前記パルスレーザ光の光軸方向において、前記パルスレーザ光のビームウエスト位置と、前記透明材料との相対的な位置決めを行う位置決めステップであって、前記ビームウエスト位置が、前記光軸方向において前記透明材料の表面から所定の深さΔZsfwだけ前記透明材料の内部に進入した位置となるように前記位置決めを行う位置決めステップ;
B.前記ビームウエスト位置における前記パルスレーザ光の目標フルーエンス及び前記深さΔZsfを含む照射条件を取得する照射条件取得ステップ;
C.前記照射条件に基づいて、前記透明材料の表面における前記パルスレーザ光の最大フルーエンスが前記穴加工においてクラックの発生を抑制する所定の範囲内か否かを判定する判定ステップ;及び
D.前記最大フルーエンスが前記所定の範囲内と判定された場合に前記パルスレーザ光の照射を許容する制御ステップ,
ここで、前記目標フルーエンスは、前記パルスレーザ光の光軸と直交する方向のビームの断面であって、前記ビームウエスト位置における前記ビームの断面内における平均的なフルーエンスであり、前記最大フルーエンスは、前記透明材料の表面における前記ビームの断面を複数の小領域に分割し、分割された前記小領域毎のフルーエンスの中の最大値である。
【請求項12】
請求項11に記載のレーザ加工方法であって、さらに以下のステップを備える:
E.前記判定ステップにおいて、前記最大フルーエンスが前記所定の範囲外と判定された場合に警告する警告ステップ。
【請求項13】
請求項11に記載のレーザ加工方法であって、
前記パルスレーザ光は、パルス幅が1ns~100nsの範囲であって、かつ、前記ビームウエスト位置でのビームの直径が10μm以上150μm以下である。
【請求項14】
請求項11に記載のレーザ加工方法であって、
前記透明材料は、合成石英ガラスであって、前記パルスレーザ光の波長は157.6nm~248.7nmである。
【請求項15】
請求項14に記載のレーザ加工方法であって、
前記パルスレーザ光は、ArFレーザ光である。
【請求項16】
請求項15に記載のレーザ加工方法であって、
前記深さΔZsfの範囲は、0mm以上4mm以下である。
【請求項17】
請求項16に記載のレーザ加工方法であって、
前記所定の範囲は、10J/cm以上40J/cm以下である。
【請求項18】
請求項17に記載のレーザ加工方法であって、
前記パルスレーザ光の前記ビームウエスト位置における目標フルーエンスは、5J/cm以上30J/cm以下である。
【請求項19】
請求項18に記載のレーザ加工方法であって、
前記パルスレーザ光の照射パルス数は、5,000パルス以上である。
【請求項20】
紫外線に対して透明な透明材料に対して前記紫外線のパルスレーザ光を照射して加工を施すレーザ加工システムは、以下を備える:
A.パルスレーザ光を出力するレーザ装置;
B.前記レーザ装置から出力される前記パルスレーザ光を透過する転写パターンが形成された転写マスク;
C.前記パルスレーザ光が前記転写パターンを透過することによって形成され前記転写パターンに応じた形状の転写像を前記透明材料に転写する転写光学系;
D.前記パルスレーザ光の光軸方向において、前記転写光学系によって転写される前記転写像の転写位置と、前記透明材料との相対的な位置決めを行う位置決め機構であって、前記転写位置が、前記光軸方向において前記透明材料の表面から所定の深さΔZsfだけ前記透明材料の内部に進入した位置となるように前記位置決めを行う位置決め機構;
E.前記転写位置における前記パルスレーザ光の目標フルーエンス及び前記深さΔZsfを含む照射条件を取得する照射条件取得部;
F.前記照射条件に基づいて、前記透明材料の表面における前記パルスレーザ光の最大フルーエンスが前記穴加工においてクラックの発生を抑制する所定の範囲内か否かを判定する判定部;及び
G.前記最大フルーエンスが前記所定の範囲内と判定された場合に前記パルスレーザ光の照射を許容する制御部,
ここで、前記目標フルーエンスは、前記パルスレーザ光の光軸と直交する方向のビームの断面であって、前記転写位置における前記ビームの断面内における平均的なフルーエンスであり、前記最大フルーエンスは、前記透明材料の表面における前記ビームの断面を複数の小領域に分割し、分割された前記小領域毎のフルーエンスの中の最大値である。
【請求項21】
請求項1又は11に記載のレーザ加工方法であって、
前記クラックは、穴の径方向に延びるクラックである。
【請求項22】
請求項20に記載のレーザ加工システムであって、
前記クラックは、穴の径方向に延びるクラックである。
【請求項23】
請求項1又は11に記載のレーザ加工方法であって、
前記穴加工は、高アスペクト比の穴加工である。
【請求項24】
請求項20に記載のレーザ加工システムであって、
前記穴加工は、高アスペクト比の穴加工である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、レーザ加工方法及びレーザ加工システムに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体集積回路の微細化、高集積化につれて、半導体露光装置においては解像力の向上が要請されている。半導体露光装置を以下、単に「露光装置」という。このため露光用光源から出力される光の短波長化が進められている。露光用光源には、従来の水銀ランプに代わってガスレーザ装置が用いられている。現在、露光用のガスレーザ装置としては、中心波長約248.4nmの紫外線を出力するKrFエキシマレーザ装置ならびに、中心波長約193.4nmの紫外線を出力するArFエキシマレーザ装置が用いられている。
【0003】
現在の露光技術としては、露光装置側の投影レンズとウエハ間の間隙を液体で満たして、当該間隙の屈折率を変えることによって、露光用光源の見かけの波長を短波長化する液浸露光が実用化されている。ArFエキシマレーザ装置を露光用光源として用いて液浸露光が行われた場合は、ウエハには水中における波長134nmの紫外光が照射される。この技術をArF液浸露光という。ArF液浸露光はArF液浸リソグラフィーとも呼ばれる。
【0004】
KrF、ArFエキシマレーザ装置の自然発振におけるスペクトル線幅は約350~400pmと広いため、露光装置側の投影レンズによってウエハ上に縮小投影されるレーザ光(紫外線光)の色収差が発生して解像力が低下する。そこで色収差が無視できる程度となるまでガスレーザ装置から出力されるレーザ光のスペクトル線幅を狭帯域化する必要がある。スペクトル線幅はスペクトル幅とも呼ばれる。このためガスレーザ装置のレーザ共振器内には狭帯域化素子を有する狭帯域化部(Line Narrow Module)が設けられ、この狭帯域化部によりスペクトル幅の狭帯域化が実現されている。なお、狭帯域化素子はエタロンやグレーティング等であってもよい。このようにスペクトル幅が狭帯域化されたレーザ装置を狭帯域化レーザ装置という。
【0005】
また、エキシマレーザ光はパルス幅が1ns~100nsであって、中心波長はそれぞれ、248.4nmと193.4nmと短い。こうした特性を利用して、エキシマレーザ光は、露光用途以外に、高分子材料やガラス材料等の直接加工に用いられることがある。高分子材料は、結合エネルギよりも高いフォトンエネルギをもつエキシマレーザ光によって、高分子材料の結合を切断できる。そのため、非加熱加工が可能となり、加工形状が綺麗になることが知られている。また、ガラスやセラミックス等はエキシマレーザ光に対する吸収率が高いので、可視及び赤外線レーザ光では加工することが難しい材料の加工もできることが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2008/126742号公報
【文献】米国公開2015/0034613号公報
【文献】特開平4-111800号公報
【文献】特開2005-066687号公報
【文献】特開2003-119044号公報
【概要】
【0007】
本開示の1つの観点に係るレーザ加工方法は、紫外線のパルスレーザ光を出力するレーザ装置と、パルスレーザ光を透過する転写パターンが形成された転写マスクと、パルスレーザ光が転写パターンを透過することによって形成され転写パターンに応じた形状の転写像を転写する転写光学系とを備えたレーザ加工システムを用いて、紫外線に対して透明な透明材料に対してレーザ加工を施すレーザ加工方法は、以下のステップを備える:
A.パルスレーザ光の光軸方向において、転写光学系によって転写される転写像の転写位置と、透明材料との相対的な位置決めを行う位置決めステップであって、転写位置が、光軸方向において透明材料の表面から所定の深さΔZsfだけ透明材料の内部に進入した位置となるように位置決めを行う位置決めステップ;
B.転写位置におけるパルスレーザ光の目標フルーエンス及び深さΔZsfを含む照射条件を取得する照射条件取得ステップ;
C.照射条件に基づいて、透明材料の表面におけるパルスレーザ光の最大フルーエンスが所定の範囲内か否かを判定する判定ステップ;及び
D.最大フルーエンスが所定の範囲内と判定された場合にパルスレーザ光の照射を許容する制御ステップ,
ここで、目標フルーエンスは、パルスレーザ光の光軸と直交する方向のビームの断面であって、転写位置におけるビームの断面内における平均的なフルーエンスであり、最大フルーエンスは、透明材料の表面におけるビームの断面を複数の小領域に分割し、分割された小領域毎のフルーエンスの中の最大値である。
【0008】
本開示の1つの観点に係るレーザ加工方法は、紫外線のパルスレーザ光を出力するレーザ装置と、パルスレーザ光を集光する集光光学系とを備えたレーザ加工システムを用いて、紫外線に対して透明な透明材料に対してレーザ加工を施すレーザ加工方法は、以下のステップを備える:
A.パルスレーザ光の光軸方向において、パルスレーザ光のビームウエスト位置と、透明材料との相対的な位置決めを行う位置決めステップであって、ビームウエスト位置が、光軸方向において透明材料の表面から所定の深さΔZsfwだけ透明材料の内部に進入した位置となるように位置決めを行う位置決めステップ;
B.ビームウエスト位置におけるパルスレーザ光の目標フルーエンス及び深さΔZsfを含む照射条件を取得する照射条件取得ステップ;
C.照射条件に基づいて、透明材料の表面におけるパルスレーザ光の最大フルーエンスが所定の範囲内か否かを判定する判定ステップ;及び
D.最大フルーエンスが所定の範囲内と判定された場合にパルスレーザ光の照射を許容する制御ステップ,
ここで、目標フルーエンスは、パルスレーザ光の光軸と直交する方向のビームの断面であって、ビームウエスト位置におけるビームの断面内における平均的なフルーエンスであり、最大フルーエンスは、透明材料の表面におけるビームの断面を複数の小領域に分割し、分割された小領域毎のフルーエンスの中の最大値である。
【0009】
本開示の1つの観点に係るレーザ加工システムは、 紫外線に対して透明な透明材料に対して紫外線のパルスレーザ光を照射してレーザ加工を施すレーザ加工システムは、以下を備える:
A.パルスレーザ光を出力するレーザ装置;
B.レーザ装置から出力されるパルスレーザ光を透過する転写パターンが形成された転写マスク;
C.パルスレーザ光が転写パターンを透過することによって形成され転写パターンに応じた形状の転写像を透明材料に転写する転写光学系;
D.パルスレーザ光の光軸方向において、転写光学系によって転写される転写像の転写位置と、透明材料との相対的な位置決めを行う位置決め機構であって、転写位置が、光軸方向において透明材料の表面から所定の深さΔZsfだけ透明材料の内部に進入した位置となるように位置決めを行う位置決め機構;
E.転写位置におけるパルスレーザ光の目標フルーエンス及び深さΔZsfを含む照射条件を取得する照射条件取得部;
F.照射条件に基づいて、透明材料の表面におけるパルスレーザ光の最大フルーエンスが所定の範囲内か否かを判定する判定部;及び
G.最大フルーエンスが所定の範囲内と判定された場合にパルスレーザ光の照射を許容する制御部,
ここで、目標フルーエンスは、パルスレーザ光の光軸と直交する方向のビームの断面であって、転写位置におけるビームの断面内における平均的なフルーエンスであり、最大フルーエンスは、透明材料の表面におけるビームの断面を複数の小領域に分割し、分割された小領域毎のフルーエンスの中の最大値である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
本開示のいくつかの実施形態を、単なる例として、添付の図面を参照して以下に説明する。
図1図1は、比較例のレーザ加工システムの構成を概略的に示す。
図2図2は、転写位置FPの説明図である。図2Aは、転写位置FPを被加工物の表面に設定した例であり、図2Bは、転写位置FPを被加工物の表面から内部に進入した位置に設定した例である。
図3図3は、比較例のレーザ加工手順を示すフローチャートである。
図4図4は、比較例のレーザ加工の処理手順を示すフローチャートである。
図5図5は、第1実施形態におけるレーザ加工を施した場合の被加工物の状態遷移を示す説明図である。図5Aは、パルスレーザ光の転写位置を、被加工物の表面から深さΔZsfだけ内部に進入した位置に合わせてパルスレーザ光を照射した状態を示す。図5Bは、パルスレーザ照射直後の被加工物の加工状態を示す。図5Cは、パルスレーザ光が自己収束している状態を示す。図5Dは、パルスレーザ光の照射による被加工物の加工状態を示す。
図6図6は、表面付近に穴Hに生じるクラックCRの説明図である。
図7図7は、クラックCRを撮影した写真である。
図8図8は、トップハット型のビームプロファイルの説明図である。
図9図9は、ガウシアン分布のビームプロファイルの説明図である。
図10図10は、最大フルーエンスを求める基礎となる小領域のフルーエンスの説明図である。
図11図11は、転写光学系を使用したパルスレーザ光の光束の集束と発散の態様を示す説明図である。
図12図12は、転写位置FPを被加工物41の内部にした場合のパルスレーザ光の光束の態様を示す説明図である。
図13図13は、転写位置FPからの各距離ZLにおけるビームの断面SPの形状と光強度分布を示す計測データである。図13Aは、距離ZLが最も大きな位置の計測データである。図13Eは距離ZLが「0」の転写位置FPにおける計測データである。図13C及び図13Dは、図13A図13Eの間の各距離ZLにおける計測データである。
図14図14は、距離ZLと光強度比Rの相関関係データを示すグラフである。
図15図15は、転写位置FPでの目標フルーエンスFtと加工深さΔZdの関係を示す第1のグラフである。
図16図16は、図15とは別の条件の第2のグラフである。
図17図17は、図15及び図16のグラフに含まれる条件で加工した場合のクラックCRの発生状況を示す写真である。
図18図18は、図16とは別の条件の第3のグラフである。
図19図19は、図18とは別の条件の第4のグラフである。
図20図20は、図19及び図18のグラフに含まれる条件で加工した場合のクラックCRの発生状況を示す写真である。
図21図21は、図15から図20に示す実験結果をまとめた表である。
図22図22は、第1実施形態のレーザ加工システムの構成を概略的に示す。
図23図23は、第1実施形態のレーザ加工手順を示すフローチャートである。
図24図24は、第1実施形態の最大フルーエンスの評価手順を示すフローチャートである。
図25図25は、照射パルス数Nと加工深さΔZdの関係を示すグラフである。
図26図26は、第2実施形態のレーザ加工システムの構成を概略的に示す。
図27図27は、集光光学系を使用した場合のパルスレーザ光の態様を示す説明図である。
図28図28は、ビームウエスト位置及び被加工物の表面におけるビームプロファイルの説明図である。
図29図29は、第2実施形態の距離ZLwと光強度比Rとの相関関係データを示すグラフである。
図30図30は、第2実施形態のレーザ加工手順を示すフローチャートである。
図31図31は、第2実施形態の最大フルーエンスの評価手順を示すフローチャートである。
図32図32は、レーザ加工の処理手順を示すフローチャートである。
図33図33は、第3実施形態のレーザ加工システムの構成の概略を示す。
図34図34は、相関関係データの取得手順を示すフローチャートである。
図35図35は、最大光強度と平均光強度の計算手順を示すフローチャートである。
図36図36は、最大光強度の計算手順を示すフローチャートである。
図37図37は、レーザ加工装置の第1の変形例を示す。
図38図38は、レーザ加工装置の第2の変形例を示す。
図39図39は、レーザ装置の第1の変形例を示す。
図40図40は、レーザ装置の第2の変形例を示す。
【実施形態】
【0011】
<内容>
1.概要
2.比較例に係るレーザ加工システム及びレーザ加工方法
2.1 構成
2.1.1 全体構成
2.1.2 転写位置の深さΔZsf
2.2 動作
2.2.1 高アスペクト比の穴加工の推定メカニズム
2.3 課題
3.クラックが生じる原因の分析
4.第1実施形態のレーザ加工システム及びレーザ加工方法
4.1 構成
4.2 動作
4.3 作用
4.4 好ましい加工条件
4.4.1 パルスレーザ光のパルス幅
4.4.2 ビームの直径Diの範囲
4.4.3 被加工物41が合成石英ガラスの場合の好ましい条件
4.4.3.1 パルスレーザ光の波長
4.4.3.2 深さΔZsfの範囲
4.4.3.3 目標フルーエンスFtの範囲
4.4.3.4 最大フルーエンスFsfpの許容範囲
4.4.3.5 照射パルス数Nの範囲
4.5 その他
5.第2実施形態のレーザ加工システム及びレーザ加工方法
5.1 構成
5.1 構成
5.2 動作
5.3 作用
5.4 その他
6.第3実施形態のレーザ加工システム及びレーザ加工方法
6.1 構成
6.2 動作
6.3 作用
6.4 その他
7.レーザ加工装置の変形例
7.1 変形例7-1
7.2 変形例7-2
8.レーザ装置の変形例
8.1 変形例8-1
8.2 変形例8-2
【0012】
以下、本開示の実施形態について、図面を参照しながら詳しく説明する。以下に説明される実施形態は、本開示のいくつかの例を示すものであって、本開示の内容を限定するものではない。また、各実施形態で説明される構成及び動作の全てが本開示の構成及び動作として必須であるとは限らない。なお、同一の構成要素には同一の参照符号を付して、重複する説明を省略する。
【0013】
1.概要
本開示は、被加工物にレーザ光を照射してレーザ加工を行うレーザ加工システム及びレーザ加工方法に関する。
【0014】
2.比較例に係るレーザ加工システム及びレーザ加工方法
2.1 構成
2.1.1 全体構成
図1は、比較例に係るレーザ加工システムの構成を概略的に示す。レーザ加工システム2は、レーザ装置3と、レーザ加工装置4とを備えている。レーザ装置3とレーザ加工装置4は光路管5によって接続されている。
【0015】
レーザ装置3は、マスターオシレータ10と、モニタモジュール11と、シャッタ12と、レーザ制御部13とを含んでいる。レーザ装置3は、レーザ媒質として、アルゴン(Ar)及びフッ素(F)を含むArFレーザガスを使用する、ArFエキシマレーザ装置である。レーザ装置3は、中心波長が約193.4nmのArFレーザ光である紫外線のパルスレーザ光を出力する。
【0016】
マスターオシレータ10は、レーザチャンバ21と、一対の電極22a及び22bと、充電器23と、パルスパワーモジュール(PPM)24とを含んでいる。図1においては、レーザ光の進行方向に略垂直な方向からみたレーザチャンバ21の内部構成が示されている。
【0017】
レーザチャンバ21は、ArFレーザガスが封入されるチャンバである。一対の電極22a及び22bは、レーザ媒質を放電により励起するための電極として、レーザチャンバ21内に配置されている。
【0018】
レーザチャンバ21には開口が形成され、この開口を電気絶縁部28が塞いでいる。電極22aは電気絶縁部28に支持され、電極22bはリターンプレート21dに支持されている。このリターンプレート21dは図示しない配線でレーザチャンバ21の内面と接続されている。電気絶縁部28には、導電部が埋め込まれている。導電部は、パルスパワーモジュール24から供給される高電圧を電極22aに印加する。
【0019】
充電器23は、パルスパワーモジュール24の中の図示しない充電コンデンサに所定の電圧で充電する直流電源装置である。パルスパワーモジュール24は、レーザ制御部13によって制御されるスイッチ24aを含んでいる。スイッチ24aがOFFからONになると、パルスパワーモジュール24は、充電器23に保持されていた電気エネルギからパルス状の高電圧を生成し、この高電圧を一対の電極22a及び22b間に印加する。
【0020】
一対の電極22a及び22b間に高電圧が印加されると、一対の電極22a及び22b間の絶縁が破壊され、放電が起こる。この放電のエネルギにより、レーザチャンバ21内のレーザ媒質が励起されて高エネルギ準位に移行する。励起されたレーザ媒質が、その後低エネルギ準位に移行するとき、そのエネルギ準位差に応じた光を放出する。
【0021】
レーザチャンバ21の両端には、ウインドウ21a及び21bが設けられている。レーザチャンバ21内で発生した光は、ウインドウ21a及び21bを介してレーザチャンバ21の外部に出射する。
【0022】
マスターオシレータ10は、さらに、リアミラー26と、出力結合ミラー27とを含んでいる。リアミラー26には高反射膜がコートされており、出力結合ミラー27には部分反射膜がコートされている。リアミラー26は、レーザチャンバ21のウインドウ21aから出射された光を高い反射率で反射してレーザチャンバ21に戻す。出力結合ミラー27は、レーザチャンバ21のウインドウ21bから出力される光のうちの一部を透過させて出力し、他の一部を反射させてレーザチャンバ21内に戻す。
【0023】
従って、リアミラー26と出力結合ミラー27とで、光共振器が構成される。レーザチャンバ21は、光共振器の光路上に配置される。レーザチャンバ21から出射した光は、リアミラー26と出力結合ミラー27との間で往復し、電極22aと電極22bとの間のレーザゲイン空間を通過する度に増幅される。増幅された光の一部が、出力結合ミラー27を介して、パルスレーザ光として出力される。
【0024】
モニタモジュール11は、マスターオシレータ10を出射したパルスレーザ光の光路上に配置されている。モニタモジュール11は、例えば、ビームスプリッタ11aと、光センサ11bとを含んでいる。
【0025】
ビームスプリッタ11aは、マスターオシレータ10から出射したパルスレーザ光を高い透過率でシャッタ12に向けて透過させるとともに、パルスレーザ光の一部を光センサ11bの受光面に向けて反射する。光センサ11bは、受光面に入射したパルスレーザ光のパルスエネルギを検出し、検出されたパルスエネルギのデータをレーザ制御部13に出力する。
【0026】
レーザ制御部13は、レーザ加工制御部32との間で各種信号を送受信する。例えば、レーザ制御部13は、レーザ加工制御部32から、発光トリガTr、目標パルスエネルギEtのデータ等を受信する。また、レーザ制御部13は、充電器23に対して充電電圧の設定信号を送信し、かつ、パルスパワーモジュール24に対してスイッチ24aのON又はOFFの指令信号を送信する。
【0027】
レーザ制御部13は、モニタモジュール11からパルスエネルギのデータを受信し、受信したパルスエネルギのデータを参照して充電器23の充電電圧を制御する。充電器23の充電電圧を制御することにより、パルスレーザ光のパルスエネルギが制御される。
【0028】
シャッタ12は、モニタモジュール11のビームスプリッタ11aを透過したパルスレーザ光の光路に配置される。レーザ制御部13は、レーザ発振の開始後、モニタモジュール11から受信するパルスエネルギと目標パルスエネルギEtとの差が許容範囲内となるまでの間は、シャッタ12を閉じるように制御する。レーザ制御部13は、モニタモジュール11から受信するパルスエネルギと目標パルスエネルギEtとの差が許容範囲内となったら、シャッタ12を開くように制御する。レーザ制御部13は、シャッタ12の開閉信号と同期して、パルスレーザ光の発光トリガTrの受け付けが可能となったことを表す信号を、レーザ加工装置4のレーザ加工制御部32に送信する。
【0029】
レーザ加工装置4は、レーザ加工制御部32と、テーブル33と、XYZステージ34と、光学システム36と、筐体37と、フレーム38とを含んでいる。筐体37内には光学システム36が配置される。フレーム38には、筐体37とXYZステージ34が固定される。
【0030】
テーブル33は、被加工物41を支持する。被加工物41は、パルスレーザ光が照射されてレーザ加工が行われる加工対象である。被加工物41は、紫外線のパルスレーザ光に対して透明な透明材料であり、例えば、合成石英ガラスである。レーザ加工は、例えば、被加工物41に穴を空ける穴加工である。XYZステージ34は、テーブル33を支持している。XYZステージ34は、X軸方向、Y軸方向、Z軸方向に移動可能であり、テーブル33の位置を調整することにより、被加工物41の位置を調整可能である。XYZステージ34は、レーザ加工制御部32の制御の下、光学システム36から出射するパルスレーザ光が、所望の加工位置に照射されるように被加工物41の位置を調整する。
【0031】
レーザ加工システム2は、例えば、被加工物41の1つの位置又は複数の位置に穴加工を施す。レーザ加工制御部32には、複数の加工位置に応じた位置データが順次セットされる。各加工位置の位置データは、例えば、XYZステージ34の原点位置を基準とした、各加工位置のX軸方向、Y軸方向、Z軸方向のそれぞれの位置を規定した座標データである。レーザ加工制御部32は、こうした座標データに基づいてXYZステージ34の移動量を制御して、XYZステージ34上の被加工物41を位置決めする。
【0032】
光学システム36は、例えば、高反射ミラー36a~36cと、転写マスク47と、転写レンズ48とを備えており、被加工物41の表面に、加工形状に対応する像を転写する。高反射ミラー36a~36c、転写マスク47及び転写レンズ48は、それぞれが図示しないホルダに固定されており、筐体37内において所定の位置に配置されている。
【0033】
高反射ミラー36a~36cは、紫外領域のパルスレーザ光を高い反射率で反射する。高反射ミラー36aは、レーザ装置3から入力されたパルスレーザ光を高反射ミラー36bに向けて反射し、高反射ミラー36bは、パルスレーザ光を、高反射ミラー36cに向けて反射する。高反射ミラー36cは、パルスレーザ光を転写レンズ48に向けて反射する。高反射ミラー36a~36cは、例えば、合成石英やフッ化カルシウムで形成された透明基板の表面に、パルスレーザ光を高反射する反射膜がコートされている。
【0034】
転写マスク47は、高反射ミラー36b及び36cの間の光路上に配置されている。転写マスク47は、高反射ミラー36bで反射されたパルスレーザ光の一部を透過させることで、被加工物41に対する加工形状に対応するパルスレーザ光の像を形成する。転写マスク47は、例えば、パルスレーザ光を遮光する遮光性を有する遮光板に、光を透過する透過孔で構成される転写パターンが形成されたものである。ここで、転写マスク47の転写パターンの形状に応じて形成される、パルスレーザ光の像を転写像と呼ぶ。
【0035】
本例においては、転写マスク47の転写パターンは、円形のピンホールである。こうした転写マスク47を用いて、本例のレーザ加工装置4は、被加工物41に対して、断面が円形の穴を形成する穴加工を施す。また、転写マスク47は、ピンホールの大きさを変更することが可能な可変機構を備えており、被加工物41への加工寸法に応じて、ピンホールの大きさを調節することができる。レーザ加工制御部32は、転写マスク47の可変機構を制御してピンホールの大きさを調節する。
【0036】
転写レンズ48は、入射したパルスレーザ光を集光して、ウインドウ42を介して、集光したパルスレーザ光を被加工物41に向けて出射する。転写レンズ48は、転写マスク47を透過することにより生成されたパルスレーザ光のピンホール形状の転写像を、転写レンズ48の焦点距離に応じた位置に結像させる転写光学系を構成する。ここで、転写レンズ48の作用によって、転写像が結像する結像位置を転写位置と呼ぶ。
【0037】
この転写位置のZ軸方向の位置は、予め取得される照射条件に基づいて、パルスレーザ光が入射する入射側の表面を基準とした所定の位置に設定される。転写位置のZ軸方向の位置決めは、パルスレーザ光の光軸方向の位置決めに相当する。この転写位置の位置決めについては、後述する。また、以下、単に、被加工物41の表面という場合は、被加工物41の入射側の表面を意味する。ここで、Z軸方向は、転写レンズ48を出射して被加工物41に入射するパルスレーザ光の光軸方向と平行である。
【0038】
転写レンズ48は、複数枚のレンズの組み合わせによって構成される。転写レンズ48は、転写マスク47に設けられるピンホールの実際の寸法よりも小さな寸法のピンホール形状の転写像を、転写位置に結像させる縮小光学系である。転写レンズ48で構成される転写光学系の倍率Mは、たとえば、M=1/10~1/5である。また、本例では、転写レンズ48を組合せレンズの例で示したが、転写レンズ48の光軸上近傍に1つの小さな円形の転写像を結像させる場合は、転写レンズ48を単レンズで構成してもよい。
【0039】
ウインドウ42は、転写レンズ48と被加工物41との間の光路上に配置されており、筐体37に形成された開口にOリング(図示せず)によってシールされた状態で固定される。
【0040】
アッテネータ52は、筐体37内において、高反射ミラー36aと高反射ミラー36bの間の光路上に配置されている。アッテネータ52は、例えば、2枚の部分反射ミラー52a及び52bと、これらの部分反射ミラーの回転ステージ52c及び52dとを含んでいる。2枚の部分反射ミラー52a及び52bは、パルスレーザ光の入射角度によって、透過率が変化する光学素子である。部分反射ミラー52a及び部分反射ミラー52bは、パルスレーザ光の入射角度が互いに一致し、且つ所望の透過率となるように、回転ステージ52c及び回転ステージ52dによって傾斜角度が調整される。
【0041】
これにより、パルスレーザ光は、所望のパルスエネルギに減光されてアッテネータ52を通過する。アッテネータ52は、レーザ加工制御部32の制御信号に基づいて透過率Tが制御される。レーザ加工制御部32は、目標パルスエネルギEtを通じてレーザ装置3が出力するパルスレーザ光のフルーエンスを制御することに加えて、アッテネータ52の透過率Tを制御して、パルスレーザ光のフルーエンスを制御する。目標パルスエネルギEtを変化させればフルーエンスを変化させることができるが、レーザ装置3のマスターオシレータ10では、パルスエネルギを大きく変化させることは難しい。アッテネータ52を使用することで、マスターオシレータ10の出力が一定でも、フルーエンスを変化させることができる。
【0042】
筐体37の内部には、レーザ加工システム2の稼働中、不活性ガスである窒素(N2)ガスが常時流れている。筐体37には、窒素ガスを筐体37に吸入する吸入ポート37aと、筐体37から窒素ガスを外部に排出する排出ポート37bが設けられている。吸入ポート37a及び排出ポート37bには、図示しない吸気管や排出管を接続できるようになっている。吸入ポート37a及び排出ポート37bは、吸気管や排出管を接続した状態では、筐体37内に外気が混入するのを抑制するようにOリング(図示せず)によってシールされている。吸入ポート37aには、窒素ガス供給源43が接続される。また、レーザ装置3内の光路は、シールされ不活性ガスである窒素ガスでパージされている。
【0043】
光路管5内も窒素ガスが流れており、光路管5も、レーザ加工装置4の接続部分と、レーザ装置3との接続部分とにおいてOリングでシールされている。
【0044】
2.1.2 転写位置の深さΔZsf
図2に示すように、レーザ加工制御部32は、パルスレーザ光PLの転写位置FPと被加工物41とのZ軸方向における相対的な位置決めを、被加工物41の表面41aを基準として行う。具体的には、レーザ加工制御部32は、転写位置FPが、光軸方向において被加工物41の表面41aから所定の深さΔZsfだけ被加工物41の内部に進入した位置となるように位置決めを行う。深さΔZsfは、照射条件として入力される。レーザ加工制御部32は、深さΔZsfの値に応じて、XYZステージ34を制御して、転写位置FPと被加工物41とのZ軸方向における位置決めを行う。
【0045】
図2Aに示すように、深さΔZsfの値が0mmの場合は、転写位置FPが表面41aの位置に設定される。この場合、Z軸方向において、転写位置FPと被加工物41の表面41aは一致する。図2Bに示すように、ΔZsfの値が、例えば1mmなど、0よりも大きい場合は、その値に応じて、転写位置FPが表面41aから深さΔZsfだけ内部に進入した位置に設定される。レーザ加工制御部32は、位置決め機構であるXYZステージ34を制御することにより、パルスレーザ光の光軸方向において、転写位置FPと被加工物41との相対的な位置決めを行う位置決め制御部に相当する。
【0046】
2.2 動作
図3及び図4を参照しながら、レーザ加工システム2の動作を説明する。図3に示すように、レーザ加工を行う場合には、被加工物41がXYZステージ34のテーブル33にセットされる(S1100)。レーザ加工制御部32は、初期の加工位置の位置データをXYZステージ34にセットする(S1200)。
【0047】
レーザ加工制御部32は、XYZステージ34を制御して、被加工物41のXY平面の位置を調整する(S1300)。S1300において、レーザ加工制御部32は、位置データに含まれるXY平面内の座標データに基づいてXYZステージ34の移動量を制御することにより、被加工物41のXY平面内の位置を調整する。これにより、被加工物41のXY平面内の位置が位置決めされる。
【0048】
レーザ加工制御部32は、パルスレーザ光PLの照射条件を取得する(S1400)。照射条件のデータは、例えば、操作パネルなどからオペレータの操作によってマニュアルで入力され、レーザ加工制御部32内のメモリや外部のデータストレージに格納される。レーザ加工制御部32は、メモリやデータストレージから照射条件のデータを読み出すことによって、照射条件を取得する。照射条件には、転写位置FPにおける目標フルーエンスFt、転写位置FPの深さΔZsf、照射するパルスレーザ光の照射パルス数N、及びパルスレーザ光の繰り返し周波数fが含まれる。なお、照射条件のうち、深さΔZsfは、S1200においてセットされる位置データに含まれている。
【0049】
次に、レーザ加工制御部32は、パルスレーザ光PLの転写像の転写位置FPが、照射条件の深さΔZsfになるように、XYZステージ34を制御して、被加工物41のZ軸方向の位置を調整する(S1500)。
【0050】
本例において、転写位置FPは、転写マスク47と転写レンズ48間の距離と、転写レンズ48の焦点距離等に応じて決まる。そのため、S1500において、レーザ加工制御部32は、XYZステージ34の移動量を制御することにより、パルスレーザ光PLの転写像の転写位置FPと被加工物41の表面41aとのZ軸方向の相対的な位置決めを行う。上述したとおり、Z軸方向は、被加工物41に入射するパルスレーザ光の光軸方向と平行であるので、Z軸方向の位置決めは、パルスレーザ光の光軸方向の位置決めに相当する。
【0051】
被加工物41の位置決めが終了すると、レーザ加工が行われる(S1600)。初期の加工位置に対するレーザ加工が終了した場合は、レーザ加工制御部32は、次の加工位置がある場合(S1700でN)には、次の加工位置の位置データをXYZステージ34にセットする(S1800)。そして、レーザ加工制御部32は、被加工物41の次の加工位置への移動と照射条件の取得を行う(S1300からS1500)。次の加工位置において、被加工物41に対してレーザ加工が行われる(S1600)。次の加工位置が無い場合は、レーザ加工が終了する(S1700でY)。こうした手順が、すべての加工位置に対するレーザ加工が終了するまで繰り返される。
【0052】
本例においては、加工位置毎に、XY平面の位置とZ軸方向の位置の両方の調整を行っている。また、加工位置毎に照射条件を取得している。しかし、複数の加工位置間で、Z軸方向の位置が同じで、かつ、照射条件も同じ場合は、次のようにしてもよい。
【0053】
すなわち、初期の加工位置において、照射条件を取得するステップS1400及びZ軸方向の位置を調整するステップS1500を実施した後は、それ以降の加工位置についてはステップS1400及びS1500を省略してもよい。この場合には、例えば、初期の加工位置の位置データをセットするステップS1200の後、まず、照射条件を取得するステップS1400とZ軸方向の位置を調整するステップS1500を実施する。その後に、ステップS1300を実施して、初期の加工位置に関するXY平面の位置を調整して、ステップSS1600を実施する。そして、次の加工位置についてステップS1800を実施した後は、ステップS1300のみを実施し、ステップS1400及びS1500を省略して、ステップS1600を実施する。
【0054】
図3におけるS1600のレーザ加工は、図4に示すフローチャートに従って行われる。レーザ加工制御部32は、レーザ装置3のレーザ制御部13に対して、目標パルスエネルギEtを送信する。これにより、レーザ制御部13において、目標パルスエネルギEtが設定される(S1601)。
【0055】
レーザ制御部13は、レーザ加工制御部32から目標パルスエネルギEtを受信すると、シャッタ12を閉じて、充電器23を作動させる。そして、レーザ制御部13は、図示しない内部トリガによってパルスパワーモジュール24のスイッチ24aをONする。これにより、マスターオシレータ10はレーザ発振する。
【0056】
モニタモジュール11は、マスターオシレータ10から出力されるパルスレーザ光をサンプルして、パルスエネルギの実測値であるパルスエネルギEを計測する。レーザ制御部13は、パルスエネルギEと目標パルスエネルギEtとの差ΔEが0に近づくように、充電器23の充電電圧を制御する。具体的には、レーザ制御部13は、差ΔEが許容範囲になるように充電電圧を制御する。
【0057】
レーザ制御部13は、差ΔEが許容範囲となったか否かを監視する(S1602)。レーザ制御部13は、差ΔEが許容範囲となった場合(S1602でY)、レーザ加工制御部32に対して、発光トリガTrの受信準備が完了したことを知らせる受信準備完了信号を送信し、かつ、シャッタ12を開ける。これにより、レーザ装置3は、発光トリガTrの受信準備完了状態となる(S1603)。
【0058】
レーザ加工制御部32は、受信準備完了信号を受信した場合、パルスレーザ光の転写像の転写位置FPにおけるフルーエンスが、照射条件で規定された目標フルーエンスFtとなるようにアッテネータ52の透過率Tを設定する(S1604)。
【0059】
光学システム36の光損失が無い場合、転写位置FPにおけるフルーエンスFは下記式(1)から求められる。
F=(Et/Tsl)・T/{π(Di/2)2}・・・・・(1)
ここで、T:アッテネータの透過率、Et:レーザ装置から出力されるパルスレーザ光のパルスエネルギ、Tsl:転写マスク47におけるパルスレーザ光の透過率、Di:転写像の直径である。Diは、言い換えると、パルスレーザ光の光軸方向と直交するビームの断面であって、転写位置におけるビームの断面の直径である。
【0060】
アッテネータの透過率Tは、光学システム36の光損失が無い場合、上記式(1)から下記式(2)で求められる。
T=π(Di/2)2・F/(Et・Tsl)・・・・・(2)
なお、上記式(2)は、高反射ミラー36a~36c、転写レンズ48、ウインドウ42の透過率が100%であるというように、光学システム36の光損失が無いと仮定した場合の式である。光学システム36の光損失を考慮するために、光学システム36の透過率TS0を用いて下記式(3)のように計算してもよい。
T=π(Di/2)2・F/(Et・Tsl・TS0)・・・・・(3)
【0061】
レーザ加工制御部32は、アッテネータ52の透過率Tを設定した後、所定の繰り返し周波数fと所定の照射パルス数Nで規定される発光トリガTrを、レーザ制御部13に送信する。その結果、発光トリガTrに同期して、モニタモジュール11のビームスプリッタ11aを透過したパルスレーザ光はレーザ装置3から出力されて、レーザ加工装置4に入射する。
【0062】
レーザ加工装置4に入射したパルスレーザ光は、高反射ミラー36aを径由してアッテネータ52において減光される。アッテネータ52を透過したパルスレーザ光は、高反射ミラー36bで反射して、転写マスク47に照射される。
【0063】
転写マスク47に照射されたパルスレーザ光のうち、ピンホールを透過したパルスレーザ光が高反射ミラー36cで反射して転写レンズ48に入射する。転写マスク47のピンホールを透過したパルスレーザ光は転写レンズ48に入射する。転写レンズ48によって、転写マスク47のピンホールの縮小された転写像がウインドウ42を介して被加工物41の表面に対して深さΔZsfの位置に転写される。転写レンズ48を透過したパルスレーザ光は、この転写像の領域の被加工物41の表面及び内部を照射する。こうしたパルスレーザ光のレーザ照射が、レーザ加工に必要な繰り返し周波数f及び照射パルス数Nで規定される発光トリガTrに従って行われる(S1605)。このレーザ照射により、被加工物41に対してピンホール形状の穴を形成するレーザ加工が施される。
【0064】
2.2.1 高アスペクト比の穴加工の推定メカニズム
このような被加工物41に穴を形成するレーザ加工により、高アスペクト比の穴が形成されることがわかっている。高アスペクト比の穴とは、穴の直径に対して、穴の深さである加工深さが深い細長い穴を意味する。具体的には、高アスペクト比の穴とは、例えば、穴の直径が約10μmから約150μmに対して、加工深さが約1.0mm(1000μm)以上ある穴である。ここでは、高アスペクト比を、1000μm/100μm=10以上と定義する。
【0065】
図5は、比較例のレーザ加工システム2及びレーザ加工方法を用いて、被加工物41に対してレーザ加工を施した場合の被加工物41の状態遷移を示す説明図である。図5においては、深さΔZsfは例えば1mmであり、図5Aに示すように、パルスレーザ光PLの転写像の転写位置FPが、被加工物41の表面41aの内部に1mm進入した位置となるように位置決めされる例である。この状態でレーザ照射が行われて、ウインドウ42を透過したパルスレーザ光PLは、被加工物41に照射される。
【0066】
パルスレーザ光PLは、中心波長が約193.4nmのArFレーザであり、被加工物41はArFレーザに対して透明な合成石英ガラスであるため、図5Aに示すように、照射直後において、パルスレーザ光PLは被加工物41を透過する。パルスレーザ光PLの照射が継続されると、図5Bに示すように、被加工物41の表面付近に欠陥DFが生じ、パルスレーザ光PLの吸収が開始される。
【0067】
パルスレーザ光の照射が継続されると、パルスレーザ光PLの吸収を開始する被加工物41の表面41a付近では、パルスレーザ光の吸収率が増加して、図5Bに示すように、アブレーション加工が開始される。アブレーション加工が開始された後も、パルスレーザ光の一部は吸収されずに、被加工物41内部を透過する。このパルスレーザ光の透過光は、アブレーション加工が開始された後、ある時点から、図5Cに示すように、被加工物41の内部において発散することなく、自己収束して、Z軸方向と平行な深さ方向に進行する。そして、自己収束したパルスレーザ光は、深さ方向にアブレーション加工を進行させる。これにより、図5Dに示すように、穴Hの直径が約10μmから約150μmに対して、加工深さΔZdが1.5mm以上の高アスペクト比の穴Hの加工が施される。
【0068】
このような高アスペクト比の穴Hが形成されるという加工結果から考えると、図5Cに示したとおり、被加工物41の内部においてパルスレーザ光が何らかの理由で自己収束していると考えられる。自己収束の理由としては、図5Cに示すとおり、被加工物41の内部においてパルスレーザ光が透過する光路に改質が生じて、深さ方向に細長く延びる改質層RFが生成されることが原因と考えられる。
【0069】
1つの仮説としては、この改質層RFは、パルスレーザ光の透過により他の部分と比較して屈折率が増大しており、それによって自己収束が生じていることが考えられる。もう1つの仮説としては、あたかも光ファイバ内を伝播する光のように、改質層RFと未改質部分との境界となる穴Hの内壁面においてパルスレーザ光がフレネル反射を繰り返して深さ方向に進行することによって自己収束が生じていることが考えられる。
【0070】
こうした自己収束の理由はともかく、上述した加工条件で、被加工物41にレーザ加工を行ったところ、高アスペクト比の穴加工を精度よく行うことが確認できている。
【0071】
2.3 課題
上述した比較例に係るレーザ加工システム2においては、高アスペクト比の穴加工は可能であるものの、図6に示すように、穴Hの表面41a付近に穴Hの径方向に小枝のように延びるクラックCRが生じる場合があるという問題がある。図7は、穴Hの実際の加工状態を撮影した写真であり、クラックCRが生じたところに丸枠が付されている。
【0072】
3.クラックが生じる原因の分析
発明者らは実験を行って、クラックCRが生じる原因を分析した。実験結果を考察したところ、クラックCRの原因は、被加工物41の表面41aにおけるパルスレーザ光の後述する最大フルーエンスFsfpが関係しているという結論に至っている。
【0073】
図8及び図9は、パルスレーザ光PLのビームの断面SPにおける径方向の光強度の分布であるビームプロファイルの例を示す。図8は、径方向の光強度の分布がほぼ均一なトップハット型のビームプロファイルの例である。図9は、径方向の光強度の分布が、中心で最大となり、その周辺で大きく落ち込むガウシアン分布のビームプロファイルの例である。ビームプロファイルは、図10に示すように、パルスレーザ光PLの光軸の位置にビームプロファイラ81のイメージセンサ81aを挿入して、イメージセンサ81aによってビームの断面SP内における光強度Iを検出することによって測定される。
【0074】
図10に示すように、イメージセンサ81aは、複数の画素PXが二次元に配列された受光面を有しており、受光するパルスレーザ光PLの光強度Iを表す電気信号を画素PX毎に出力する。イメージセンサ81aとしては、例えば、CCD(Charge Coupled Device)イメージセンサやCMOS(complementary metal oxide semiconductor)イメージセンサが使用される。こうした画素PX毎に出力される光強度Iを、ビームの断面SPの径方向に沿ってプロットしたものが、図8及び図9に示すビームプロファイルである。
【0075】
断面SPの面積は、より正確には、ビームの総断面SP0において、閾値Ith以上の光強度Iが検出される部分の面積である。閾値Ithは、各画素PXから出力される光強度Iの中の最大値に対して1/e2となる値である。
【0076】
目標フルーエンスFt(J/cm2)は、転写位置FPにおけるビームの断面SP内における平均的なフルーエンスである。つまり、目標フルーエンスFtは、転写位置FPにおけるビームの断面SPの全域における平均光強度Iavsに基づいて算出される値に相当する。
【0077】
これに対して、最大フルーエンスFsfpとは、被加工物41の表面41aにおけるパルスレーザ光のビームの断面SPを複数の小領域に分割し、分割された小領域毎に求めたフルーエンスの中の最大値である。つまり、最大フルーエンスFsfpは、表面41aにおけるビームの断面SP内の複数の小領域のそれぞれの光強度Iの中の最大値を基準にして求めた値である。
【0078】
各小領域は、本例では、イメージセンサ81aの1つの画素PXの領域である。この場合、最大フルーエンスFsfpは、画素PX毎に検出される光強度Iの中の最大値に基づいて算出される。転写位置FPにおける断面SPの直径Diは、10μm~150μmである。画素PXの大きさは、イメージセンサ81aの分解能に依存する。画素PXの大きさは、例えば、約4μm四方である。直径Diが10μm~150μmの範囲の場合は、このイメージセンサ81aの分解能としては、4μm以上50μm以下の分解能であることが好ましい。
【0079】
また、必要な分解能が確保できる場合は、例えば隣接する4つの画素PXを合計した領域など、複数の画素PXを合計した領域を1つの小領域として、その小領域毎に検出される光強度Iの中の最大値に基づいて最大フルーエンスFsfpを算出してもよい。
【0080】
一方、イメージセンサ81aの1つの画素PXの大きさが約4μm四方よりも大きい場合など、イメージセンサ81aの分解能が相対的に低い場合は、ビームプロファイルの計測に際して、パルスレーザ光のビームを拡大した転写像を、イメージセンサ81aに結像させてもよい。こうすれば、イメージセンサ81aの分解能が相対的に低い場合でも、パルスレーザ光PLのビームプロファイルの分解能を上げることができる。この場合のビームプロファイルの分解能についても、上述した4μm以上50μm以下の分解能であることが好ましい。
【0081】
図8に示すようなトップハット型のビームプロファイルの場合、断面SP内における光強度Iは、断面SPの中心で最大光強度Imaxを示すものの、断面SPの全域に渡ってほぼ同じ値である。そのため、断面SP内の平均光強度Iavsと、最大光強度Imaxは、ほぼ同じ値となる。
【0082】
これに対して、図9に示すようなガウシアン分布のビームプロファイルの場合、断面SP内における光強度Iは、断面SPの中心で最大光強度Imaxを示し、トップハット型に比べて、その周辺で大きく落ち込む。そのため、断面SP内の平均光強度Iavsは、最大光強度Imaxに対して小さくなり、平均光強度Iavsと最大光強度Imaxの差は大きい。
【0083】
ここで、基準位置における平均光強度Iavsに対する最大光強度Imaxの比を、下記式(4)に示すように光強度比Rとして定義する。
R=Imax/Iavs・・・(4)
図8に示すようなトップハット型のビームプロファイルの場合は、光強度比Rは、例えば約1となる。一方、図9に示すようなガウシアン分布のビームプロファイルの場合は、光強度比Rは、例えば約2以上の値となる。
【0084】
ここで、基準位置は、本例においては転写位置FPであり、平均光強度Iavsは転写位置FPにおける断面SP内の平均光強度Iavsである。これに対して、最大光強度Imaxは、パルスレーザ光PLの光軸方向の各位置のビームプロファイルにおいて示される最大光強度Imaxである。すなわち、本例においては、図13及び図14を用いて後に示すように、光強度比Rは、転写位置FPにおける平均光強度Iavsを基準として、光軸方向の各位置における最大光強度Imaxが、基準となる平均光強度Iavsに対してどの程度の大きさかを示す値である。
【0085】
また、図11及び図12に示すように、パルスレーザ光のビームの断面SPの面積は、Z軸方向の位置によって変化する。図2図5においては簡略化して示したが、転写レンズ48を用いた場合のパルスレーザ光PLの光束は、正確には、図11及び図12に示すようになる。すなわち、ウインドウ42から出射したパルスレーザ光PLの光束は、集光点CPにおいていったん集光して、その後、発散して、転写位置FPにおいて転写像を結ぶ。ビームの断面SPの面積は、転写位置FPから集光点CPに向かって小さくなる。
【0086】
図11は、深さΔZsfが0mmで、転写位置FPと被加工物41の表面41aが一致している例である。図11の場合は、転写位置FPにおける光強度比Rが約1の場合は、転写位置FPにおける目標フルーエンスFtと、表面41aにおける最大フルーエンスFsfpはほぼ一致する。
【0087】
これに対して、図12は、深さΔZsfが例えば1mmで、転写位置FPが、表面41aから内部に進入している例である。図12の場合は、転写位置FPにおける光強度比Rが約1でも、転写位置FPにおける目標フルーエンスFtと、表面41aにおける最大フルーエンスFsfpは一致しない。というのも、パルスレーザ光PLの光軸方向においてビームの断面SPのビームプロファイルが変化する。そのため、最大光強度Imaxについても、基準位置となる転写位置FPの最大光強度Imaxと、表面41aの最大光強度Imaxとでは一致せず、光強度比Rが変化するためである。
【0088】
図13は、パルスレーザ光PLの光軸方向の各位置におけるビームの断面SPの形状と光強度分布を計測したデータである。距離ZLは、転写位置FPを基準とした光軸方向(Z軸方向)の距離であり、転写位置FPからウインドウ42及び転写レンズ48に向かう方向をプラスとしている。
【0089】
図13において、図13Eは、ZL=0の転写位置FPにおけるビームの断面SPの形状と光強度分布を示し、図13D図13C図13B図13Aの順に、ウインドウ42に近づいた位置のビームの断面SPの形状と光強度分布を示している。図13Dは距離ZL=0.5mmの断面SPを示し、図13Cは距離ZL=0.9mmの断面SPを示し、図13Bは距離ZL=1.1mmの断面SPを示し、図13Aは距離ZL=1.5mmの断面SPを示す。図13Dから図13Aは、転写位置FPと集光点CPの間に存在する断面SPである。
【0090】
光強度分布は、断面SP内の濃淡の変化で示されており、濃淡の差が大きいほど光強度Iの差が大きい。図13からは、各距離ZLにおける断面SP内の中央部分と周辺の濃度差が、図13Eから図13Aに向かうほど大きくなっている様子がわかる。
【0091】
図13Eに示す転写位置FPにおいては、ビームの断面SPの形状は、転写マスク47のピンホールの形状に応じた円形になっており、断面SP内の光強度分布はほぼフラットなトップハット型をしている。図13Eから図13Aに示すように、転写位置FPからの距離ZLが大きくなるほど、断面SPの形状は楕円に近づき、また、断面SPの径方向のビームプロファイルも、中心と周辺の差が大きいガウシアン分布に近づいている。このようにパルスレーザ光PLの光軸方向において断面SPのビームプロファイルが変化する。その結果、具体的には、図14に示すように、距離ZLに応じて光強度比Rも変化する。
【0092】
図14は、図13に示す計測データから生成された、距離ZLと光強度比Rとの相関関係データである。上述したとおり、光強度比Rは、図13Eに示す、基準位置である転写位置FPの平均光強度Iavsに対する、図13Eから図13Aに示すような各位置における最大光強度Imaxの大きさを示す値である。
【0093】
転写位置FPにおいては、断面SPのビームプロファイルはトップハット型であるため、図14のグラフに示すように、光強度比Rは約1である。そして、距離ZLが0から1.5mmまで、すなわち、転写位置FPから集光点CPに向かう間は、距離ZLが大きくなるほど、光強度比Rが大きくなり、距離ZL=0.5mm、1.0mm及び1.5mmにおいては、それぞれ光強度比R=1.5、2、2.5となっている。これは、距離ZLが大きくなるほど、断面SPのビームプロファイルがガウシアン分布のような形状に近づいており、その結果、各距離ZLにおける最大光強度Imaxが、転写位置FPの平均光強度Iavsに対して大きくなっていることを示している。
【0094】
そのため、図11に示すように、転写位置FPを表面41aに設定した場合においては、ビームプロファイルが例えば図8に示すようなトップハット型であるならば、転写位置FPにおける目標フルーエンスFtと表面41aにおける最大フルーエンスFsfpは略一致する。しかしながら、図12に示すように、転写位置FPを表面41aから内部に進入した位置に設定した場合には、図14に示した距離ZLと光強度比Rの関係から、表面41aにおける最大フルーエンスFsfpは、転写位置FPにおける目標フルーエンスFtよりも大きな値を示すことになる。
【0095】
ここで、被加工物41の表面41aにおける最大フルーエンスFsfpは、光強度比Rと転写位置FPにおける目標フルーエンスFtから、以下の式によって求めることができる。
Fsfp=R・Ft・・・・(5)
【0096】
例えば、距離ZL=1.0mmにおいては光強度比R=2である。これは、距離ZL=1.0mmの位置における最大光強度Imaxは、転写位置FPにおける平均光強度Iavsの2倍であることを意味する。そのため、転写位置FPにおける平均光強度Iavsを基準とする目標フルーエンスFtに対して、距離ZL=1.0mmにおける最大フルーエンスFsfpは、目標フルーエンスFtの2倍となる。
【0097】
このような最大フルーエンスFsfpと目標フルーエンスFtとの関係と、以下に示す図15から図20の実験結果を考察した結果、この被加工物41の表面41aにおける最大フルーエンスFsfpがクラックCRと関係しているという結論に至っている。
【0098】
図15は、転写位置FPにおける目標フルーエンスFtと加工深さΔZdとの関係を示すグラフである。横軸が目標フルーエンスFtであり、縦軸が加工深さΔZdである。図15の照射条件は、転写位置FPにおけるビームの断面SPの直径Di=55μm、繰り返し周波数f=1kHz、照射パルス数N=5000パルス、照射時間5secである。そして、図15の例は、深さΔZfs=0であり、図11に示すように、転写位置FPと表面41aは一致している。
【0099】
図15の例では、目標フルーエンスFtを5J/cm2から30J/cm2まで変化させている。図15のグラフから明らかなように、目標フルーエンスFtが10J/cm2から30J/cm2の範囲では、加工深さΔZdが1mm以上の高アスペクト比の穴加工ができている。この目標フルーエンスFtの範囲では、クラックCRは発生していない。
【0100】
図16は、図15に示したのと同じ深さΔZfs=0のグラフに加えて、深さΔZfs=0.5mmのグラフを加えたものである。深さΔZfs=0のグラフはプロット点を菱形で示し、深さΔZfs=0.5mmのグラフはプロット点を四角形で示している。他の照射条件は図15と同一である。
【0101】
図16に示すように、深さΔZfs=0.5mmにおいても、目標フルーエンスFtが10J/cm2から30J/cm2の範囲では、加工深さΔZdが1mm以上の高アスペクト比の穴加工ができている。しかし、深さΔZfs=0.5mmの場合は、目標フルーエンスFtが25J/cm2まではクラックCRは発生しなかったが、丸枠で示す30J/cm2においては、クラックCRが発生している。
【0102】
図17は、目標フルーエンスFtを30J/cm2に設定した場合において、深さΔZfs=0mmに設定して穴加工した場合と、深さΔZfs=0.5mmに設定して穴加工した場合のそれぞれの穴Hの状態を示す写真である。図17に示すとおり、深さΔZfs=0mmの場合は、クラックCRは発生していないが、深さΔZfs=0.5mmの場合は、クラックCRが発生している様子がわかる。
【0103】
深さΔZfs=0mmの場合、距離ZL=0mmなので、図14のグラフより、光強度比Rは約1である。したがって、転写位置FPの目標フルーエンスFtが30J/cm2の場合は、最大フルーエンスFsfpも約30J/cm2で変わらない。これに対して、深さΔZfs=0.5mmの場合、距離ZL=0.5mmなので、図14のグラフより、光強度比Rは約1.5である。そのため、転写位置FPの目標フルーエンスFtが30J/cm2でも、最大フルーエンスFsfpは約45J/cm2となる。
【0104】
図18及び図19も、図16と同様な実験結果のグラフを示す。図18及び図19においても、図16と同様に、図15のグラフと比較できるように、図15のグラフも挿入されている。
【0105】
図18は、深さΔZfsを1mmに設定した場合の例であり、図18において、深さΔZfs=1mmのグラフは、プロット点を三角で示している。図18において、プロット点が菱形のグラフは、深さΔzfs=0mmの図15と同じグラフである。図19は、深さΔZfsを1.5mmにした場合の例であり、図19において、深さΔZfs=1.5mmのグラフは、プロット点を*印で示している。図19においても、プロット点が菱形のグラフは、深さΔzfs=0mmの図15と同じグラフである。図18及び図19において、深さΔZfs以外の照射条件は、図15の例と同様である。
【0106】
図18及び図19に示すように、深さΔZfs=0.5mmにおいても、目標フルーエンスFtが10J/cm2から30J/cm2の範囲では、加工深さΔZdが1mm以上の高アスペクト比の穴加工ができている。
【0107】
しかし、図18及び図19においては、丸枠で示すように、目標フルーエンスFtが20J/cm2から30J/cm2の範囲で、クラックCRが発生している。
【0108】
深さΔZfs=1mmの場合、距離ZL=1mmなので、図14のグラフより、光強度比Rは約2である。したがって、転写位置FPの目標フルーエンスFtが20J/cm2の場合は、最大フルーエンスFsfpは約40J/cm2となる。同様に、目標フルーエンスFtが30J/cm2の場合は、最大フルーエンスFsfpは約60J/cm2となる。
【0109】
また、深さΔZfs=1.5mmの場合、距離ZL=1.5なので、図14のグラフより、光強度比Rは約2.5である。そのため、転写位置FPの目標フルーエンスFtが20J/cm2でも、最大フルーエンスFsfpは約50J/cm2となる。同様に、目標フルーエンスFtが30J/cm2の場合は、最大フルーエンスFsfpは約75J/cm2となる。
【0110】
図20は、目標フルーエンスFtを20J/cm2に設定した場合において、図18の深さΔZfs=1mmに設定して穴加工した場合と、図19の深さΔZfs=1.5mmに設定して穴加工した場合のそれぞれの穴Hの状態を示す写真である。図20に示すとおり、深さΔZfs=1mmの場合も1.5mmの場合も、どちらもクラックCRが発生している様子がわかる。
【0111】
図21に、図15から図19の実験結果をまとめた表を示す。図21において、条件1-1から条件1-3のデータは、図15のグラフに示される実験結果に対応するデータである。すなわち、条件1-1から条件1-3のデータは、深さΔZfs=0に設定し、かつ、目標フルーエンスFtをそれぞれ10J/cm2、20J/cm2、30J/cm2に設定して穴加工した場合の実験結果である。
【0112】
同様に、図21において、条件2-1から条件2-3のデータは、図16のグラフに示す実験結果に対応するデータである。すなわち、条件2-1から条件2-3のデータは、深さΔZfs=0.5mmに設定し、かつ、目標フルーエンスFtをそれぞれ10J/cm2、20J/cm2、30J/cm2に設定して穴加工した場合の実験結果である。
【0113】
同様に、図21において、条件3-1から条件3-3のデータは、図18のグラフに示す実験結果に対応するデータである。すなわち、条件3-1から条件3-3のデータは、深さΔZfs=1mmに設定し、かつ、目標フルーエンスFtをそれぞれ10J/cm2、20J/cm2、30J/cm2に設定して穴加工した場合の実験結果である。
【0114】
同様に、図21において、条件4-1から条件4-3のデータは、図19のグラフに示す実験結果に対応するデータである。すなわち、条件4-1から条件4-3のデータは、深さΔZfs=1.5mmに設定し、かつ、目標フルーエンスFtをそれぞれ10J/cm2、20J/cm2、30J/cm2に設定して穴加工した場合の実験結果である。
【0115】
図21において、条件2-3、3-2、3-3、4-2、4-3のように、セルをグレイアウトさせた条件に示されるように、表面41aにおける最大フルーエンスFsfpが40J/cm2以上の場合に、クラックCRが発生していることがわかる。発明者らは、こうした実験結果から、最大フルーエンスFsfpが、クラックCRの原因と考えられることを見いだしている。
【0116】
4.第1実施形態のレーザ加工システム及びレーザ加工方法
4.1 構成
図22は、第1実施形態に係るレーザ加工システム2Aの構成を概略的に示す。第1実施形態のレーザ加工システム2Aは、図1を参照しながら説明した比較例のレーザ加工システム2のレーザ加工装置4に代えて、レーザ加工装置4Aを備えている。第1実施形態の以下の説明においては、比較例のレーザ加工システム2との相違点を中心に説明し、同一の構成については同一の符号を付して説明を省略する。
【0117】
第1実施形態のレーザ加工装置4Aは、比較例のレーザ加工装置4と異なり、レーザ加工制御部32の代わりにレーザ加工制御部32Aを備えている。レーザ加工装置4Aのその他の構成については、比較例のレーザ加工装置4と同様である。
【0118】
レーザ加工制御部32Aにおいて、比較例のレーザ加工制御部32と異なる点は、レーザ加工に先立って、照射条件として設定される、転写位置FPにおける目標フルーエンスFtに基づいて、被加工物41の表面41aにおける最大フルーエンスFsfpが所定の範囲内か否かを判定する処理が追加されている点である。その他の点については、レーザ加工制御部32Aと同様である。
【0119】
4.2 動作
図23及び図24を参照しながら、レーザ加工システム2Aの動作を説明する。第1実施形態の図23のフローチャートと、比較例における図3のフローチャートと異なる点は、ステップS1400とステップS1500の間に、ステップS1410とS1420が追加されている点である。また、S1900が追加されている点が異なる。その他の点は同様である。
【0120】
第1実施形態のレーザ加工制御部32Aは、比較例と同様にS1100からS1400の処理を実行する。この後、S1410及びS1420の処理を実行する。S1410は、被加工物41の表面41aにおける最大フルーエンスFsfpを評価する処理である。S1420は、S1410の評価結果に基づいて、最大フルーエンスFsfpが許容範囲内か否かを判定する処理である。許容範囲のデータは、例えばレーザ加工制御部32A内のメモリや外部ストレージなどに予め格納される。レーザ加工制御部32Aは、S1420において、最大フルーエンスFsfpが許容範囲内と判定した場合(S1420でY)は、S1500に進む。以降の処理は、比較例と同様である。
【0121】
このように、レーザ加工制御部32Aは、透明材料である被加工物41の表面41aにおけるパルスレーザ光PLの最大フルーエンスFsfpが所定の許容範囲内か否かを判定する判定部として機能する。さらに、レーザ加工制御部32Aは、最大フルーエンスFsfpが所定の許容範囲と判定された場合に、パルスレーザ光PLの照射を許容する制御部として機能する。
【0122】
一方、レーザ加工制御部32Aは、S1420において、最大フルーエンスFsfpが許容範囲外と判定した場合(S1420でN)は、S1900に進み、警告を行う。警告の内容は、設定した照射条件ではクラックCRが発生する可能性があるため、レーザ加工ができないことを通知する内容である。レーザ加工制御部32Aは、警告処理において、図示しないディスプレイを制御してこうした内容のメッセージをユーザに対して通知する。または、スピーカを制御して音声でメッセージを通知してもよい。さらに、レーザ加工システム2Aのディスプレイやスピーカに代えてまたはそれらに加えて、工場内を管理する工場管理システムに対して警告のメッセージを通知してもよい。
【0123】
図24は、S1410における最大フルーエンスFsfpを評価する処理手順を示すフローチャートである。レーザ加工制御部32Aは、照射条件のデータから深さΔZsfの値を読み出して、メモリ内において、読み出したΔZsfを距離ZLとしてセットする(S1411)。レーザ加工制御部32Aは、S1412において、図14に示す距離ZLと光強度比Rとの相関関係データから、照射条件に対応する光強度比Rを読み出す。具体的には、S1411において深さΔZsfの値がセットされた距離ZLに対応する光強度比Rを読み出す(S1412)。
【0124】
なお、図14に示す相関関係データは、レーザ加工制御部32Aのメモリや外部ストレージに予め格納されている。相関関係データは、テーブル形式で記録されていてもよいし、関数の形式で記録されていてもよい。
【0125】
レーザ加工制御部32Aは、読み出した光強度比Rに基づいて、転写位置FPにおける目標フルーエンスFtから、被加工物41の表面41aにおける最大フルーエンスFsfpを、上述した式(5)に基づいて計算する(S1413)。
【0126】
レーザ加工制御部32Aは、S1414において、最大フルーエンスFsfpが許容範囲内と判定した場合は、評価結果としてフラグFRGに「0」を記録する(S1415)。レーザ加工制御部32Aは、S1414において、最大フルーエンスFsfpが許容範囲外と判定した場合は、評価結果としてフラグFRGに「1」を記録する(S1416)。この後、レーザ加工制御部32Aは、図23に示すメインルーチンに戻り、S1420を実行する。
【0127】
4.3 作用
以上のように、第1実施形態のレーザ加工システム2Aは、パルスレーザ光PLを照射して高アスペクト比の穴加工を施すレーザ加工において、最大フルーエンスFsfpが許容範囲内と判定された場合にパルスレーザ光の照射を許容する。そのため、クラックCRの発生を抑制することができる。
【0128】
また、レーザ加工システム2Aは、最大フルーエンスFsfpが許容範囲外と判定された場合には、警告を行う。そのため、ユーザは照射条件が不適正であることを確実に把握することができる。また、レーザ加工システム2Aは、最大フルーエンスFsfpが許容範囲外と判定された場合には、レーザ加工を禁止する。そのため、クラックCRの発生を未然に防止することができる。
【0129】
なお、最大フルーエンスFsfpが許容範囲外と判定された場合には、レーザ加工制御部32Aが、クラックCRの発生のおそれが無い適正な照射条件に自動的に変更して、レーザ加工を行うようにしてもよい。
【0130】
4.4 好ましい加工条件
4.4.1 パルスレーザ光のパルス幅
紫外線のパルスレーザ光を使用する場合は、パルス幅が半値全幅で、1ns~100nsのナノ秒オーダのパルスレーザ光を使用することが望まれる。というのも、パルス幅はレーザ装置3の性能によって決まるが、現時点においては、紫外線のパルスレーザ光として、パルス幅がピコ秒オーダで高いパルスエネルギのパルスレーザ光を出力できるレーザ装置3を製造することが難しいためである。本例のように、ナノ秒オーダの紫外線のパルスレーザ光を使用することで、現時点において容易に入手可能なレーザ装置3を使用することができる。
【0131】
好ましいパルス幅としては、半値全幅で1ns~100nsであり、さらに好ましくは、10ns~20nsである。レーザ装置3としては、こうしたパルス幅のパルスレーザ光を出力するレーザ装置3を使用することが好ましい。
【0132】
こうしたナノ秒オーダの紫外線のパルスレーザ光を使用して、合成石英ガラスなどの紫外線に対して透明な透明材料である被加工物41に対して、高アスペクト比の穴加工を施す場合の好ましい加工条件は、以下のとおりである。
【0133】
4.4.2 ビームの直径Diの範囲
パルスレーザ光PLの転写位置FPでのビームの直径Diの範囲は10μm以上150μm以下であることが好ましい。というのも、紫外線のパルスレーザ光PLを使用する場合において、図5に示すような現象は、直径Diの範囲は10μm以上150μm以下である場合に発生する。こうした現象が、高アスペクト比の穴加工を実現するための前提条件であるためである。
【0134】
4.4.3 被加工物41が合成石英ガラスの場合の好ましい条件
4.4.3.1 パルスレーザ光の波長
合成石英ガラスに対して穴加工を施す場合には、パルスレーザ光の中心波長は157.6nm~248.7nmであることが好ましい。特に、パルスレーザ光としては、中心波長が約193.4nmのArFレーザ光であることが好ましい。
【0135】
4.4.3.2 深さΔZsfの範囲
また、深さΔZsfの範囲は、0mm以上4mm以下であることが好ましい。一定の値までは、深さΔZsfを深くするほど、加工深さΔZdが大きくなることが実験結果より明らかになっている。しかし、深さΔZsfが約4mmを超えると、加工深さΔZdが1mmを大きく割り込み、高アスペクト比の穴加工ができなくなる。これは、転写位置FPが深くなりすぎると、被加工物41の表面41a付近のフルーエンスが不足して、表面付近のアブレーション加工が進まず、その結果、深さ方向にもアブレーション加工が進行しなくなるためと考えられる。
【0136】
4.4.3.3 目標フルーエンスFtの範囲
目標フルーエンスFtは、5J/cm2以上30J/cm2以下であることが好ましい。目標フルーエンスFtが5J/cm2未満では、図5に示したような高アスペクト比の穴加工ができないことがわかっている。すなわち、目標フルーエンスFtの好ましい範囲の下限値は5J/cm2である。また、図16から図21で示したように、転写位置FPの深さΔZfs=0.5mm以上1.5mm以下の範囲においては、目標フルーエンスFtが30J/cm2を超えると、クラックCRの発生が懸念される。そのため、目標フルーエンスFtの好ましい範囲の上限値は30J/cm2である。
【0137】
4.4.3.4 最大フルーエンスFsfpの許容範囲
最大フルーエンスFsfpの許容範囲としては、図15から図21に示した実験結果から、10J/cm2以上40J/cm2以下であることが好ましい。許容範囲において、下限の10J/cm2という値は、高アスペクト比の穴加工に必要な目標フルーエンスFtの下限値の5J/cm2が根拠である。
【0138】
図14のグラフに示すように、距離ZLの値によっては光強度比Rの最大値は2以上になる。そのため、目標フルーエンスFtの下限値である5J/cm2に、光強度比Rの最大値を少なく見積もった値として「2」を乗じると、10J/cm2となる。すなわち、高アスペクト比の穴加工を実現するには目標フルーエンスFtとして5J/cm2は最低限必要であり、光強度比を2以上とすると、最大フルーエンスFsfpは10J/cm2以上になる。これが最大フルーエンスFsfpの下限値を10J/cm2とした根拠である。
【0139】
一方、図21に示したとおり、最大フルーエンスFsfpが40J/cm2を超えると、クラックCRが発生する。そのため、許容範囲の上限値の40J/cm2であることが好ましい。
【0140】
4.4.3.5 照射パルス数Nの範囲
図25は、照射パルス数Nと加工深さΔZdの関係を示すグラフである。図25に示す6つのグラフは、すべて、転写位置FPの深さΔZdsf=0.5mmの場合のグラフである。各グラフの相違点は、目標フルーエンスFt及び最大フルーエンスFsfpの値である。図25は、照射パルス数Nを5,000パルスから30,000パルスまで変化させた場合に、加工深さΔZdがどのように変化するかを示している。また、各グラフにおいて共通するその他の照射条件としては、照射時間が5secから30secであること、ビームの断面SPの直径Diが55μmであること、繰り返し周波数f=1kHzであることである。
【0141】
図25において、プロット点が菱形のグラフは、目標フルーエンスFt=5.1J/cm2で、最大フルーエンスFsfp=7.5J/cm2の場合のグラフである。プロット点が四角形のグラフは、目標フルーエンスFt=10.1J/cm2で、最大フルーエンスFsfp=15J/cm2の場合のグラフである。プロット点が三角形のグラフは、目標フルーエンスFt=15.2J/cm2で、最大フルーエンスFsfp=22.5J/cm2の場合のグラフである。
【0142】
プロット点が×印のグラフは、目標フルーエンスFt=20.2J/cm2で、最大フルーエンスFsfp=30J/cm2の場合のグラフである。プロット点が*印のグラフは、目標フルーエンスFt=25.3J/cm2で、最大フルーエンスFsfp=37.5J/cm2の場合のグラフである。プロット点が丸印のグラフは、目標フルーエンスFt=30.3J/cm2で、最大フルーエンスFsfp=45J/cm2の場合のグラフである。
【0143】
図25に示すように、照射パルス数Nが5,000パルスから20,000パルスまでの領域においては、目標フルーエンスFtを約5J/cm2から約25J/cm2まで増加させると、加工深さΔZdが約1mm(1,000μm)から約5mm(5,000μm)まで増加している。また、加工深さΔZdは、照射パルス数Nが20,000パルスで飽和しており、照射パルス数Nをそれ以上に多くしても増加しない。
【0144】
また、照射パルス数Nが5,000パルスから20,000パルスの領域では、加工深さΔZdが最大で5mm(5,000μm)の穴加工が可能である。加工深さΔZdの最大値である5mm(5,000μm)の場合のアスペクト比は、ビームの断面SPの直径Diが55μmであるため、5,000μm/55μm=約90となる。照射パルス数Nが5,000パルスから20,000パルスの領域では、最大で約90の高アスペクト比の穴加工が可能となる。以上より、照射パルス数Nは5,000パルスから20,000パルスの範囲が好ましい。
【0145】
4.5 その他
また、本例では、XYZステージ34を制御して被加工物41を移動させることにより、パルスレーザ光PLの転写位置FPと被加工物41との相対的な位置決めを行っている。このように被加工物41を移動する代わりに、転写マスク47をパルスレーザ光の光軸方向に移動させることによって相対的な位置決めを行ってもよい。すなわち、転写マスク47をパルスレーザ光PLの光軸方向に移動させることは、転写レンズ48が転写する転写像の物体側の位置を、転写レンズ48に対して変化させることに他ならないので、転写像の転写位置も光軸方向に変化する。これにより、パルスレーザ光PLの転写位置FPと被加工物41との相対的な位置決めが可能となる。なお、この場合、転写レンズ48に対して転写マスク47を光軸方向に移動させると、転写像の大きさも変化する。このような、転写マスク47の移動に起因する転写像の直径の変化が抑制されるように、転写マスク47のピンホールの直径を変化させてもよい。
【0146】
また、本例のように、転写光学系を用いてピンホール形状の転写像を被加工物41に転写する場合には、後述する第2実施形態のようにパルスレーザ光を単に集光して被加工物41に照射する場合と比較して、ビームの直径の変化が抑制されるというメリットがある。レーザ装置3が出力するパルスレーザ光のビームは、レーザ装置3の光共振器などの状態でモードが変化してビームの直径が変化する。これに対して、転写光学系を用いる場合は、パルスレーザ光のビームをそのまま被加工物41に照射するのではなく、転写マスク47でパルスレーザ光のピンホール形状の転写像を形成して、形成した転写像を被加工物41に転写する。そのため、パルスレーザ光のモード変化に起因するビームの直径の変化が抑制される。
【0147】
また、本例では、レーザ装置3として、レーザ媒質としてArFレーザガスを使用し、中心波長約193.4nmのパルスレーザ光を出力するArFエキシマレーザ装置を例に説明したが、他のレーザ装置でもよい。レーザ装置3としては、レーザ媒質としてKrFレーザガスを使用し、中心波長が約248.4nmのパルスレーザ光を出力するKrFエキシマレーザ装置を使用してもよい。被加工物41として合成石英ガラスを使用する場合には、パルスレーザ光の中心波長の範囲は、F2レーザの中心波長である約157.6nmからKrFレーザの中心波長である248.4mnの範囲であることが好ましい。
【0148】
被加工物41として合成石英ガラスを例にしたが、合成石英ガラスに限定されるものではなく、被加工物41としては、紫外線のパルスレーザ光に対して透明な透明材料であればよい。たとえば、紫外線のパルスレーザ光に対して透明な透明材料としては、MgF2結晶、CaF2結晶、サファイヤ、水晶等がある。
【0149】
5.第2実施形態のレーザ加工システム及びレーザ加工方法
5.1 構成
図26は、第2実施形態のレーザ加工システム2Bを示す。図26に示すように、第2実施形態のレーザ加工システム2Bは、レーザ装置3と、レーザ加工装置4Bとを備えている。レーザ装置3は、第1実施形態と同様である。レーザ加工装置4Bは、第1実施形態のレーザ加工装置4Aの光学システム36に変えて、光学システム61を備えている。光学システム61は、第1実施形態の光学システム36のように転写マスク47や転写レンズ48を備えておらず、レーザ装置3が出力するガウシアン分布を持つパルスレーザ光のビームをそのまま集光して被加工物41に照射する集光光学系を備えた光学システムである。
【0150】
レーザ加工制御部32Bは、第1実施形態のレーザ加工制御部32Aのようにパルスレーザ光の転写位置と被加工物41との相対的な位置決めを行う代わりに、パルスレーザ光PLのビームウエスト位置BWと被加工物41との相対的な位置決めを行う。第2実施形態における深さΔZsfwは、転写位置FPの深さΔZsfではなく、ビームウエスト位置の深さである。また、第2実施形態における目標フルーエンスFtwは、転写位置FPにおける目標フルーエンスFtではなく、ビームウエスト位置BWにおける目標フルーエンスである。また、レーザ加工制御部32Bは、被加工物41の表面41aにおける最大フルーエンスFsfpが許容範囲内か否かを、ビームウエスト位置BWにおける目標フルーエンスFtwに基づいて判定する。
【0151】
レーザ加工システム2Bのそれ以外の構成は、第1実施形態のレーザ加工システム2Aと同様であるので、以下、相違点を中心に説明する。
【0152】
光学システム61は、高反射ミラー36aから36cと、アッテネータ52と、集光レンズ62とを備えている。高反射ミラー36aから36c及びアッテネータ52は、第1実施形態の光学システム36と同様である。高反射ミラー36cは、パルスレーザ光を集光レンズ62に向けて反射する。
【0153】
集光レンズ62は、入射したパルスレーザ光を、ウインドウ42を介して被加工物41に集光するように配置される。
【0154】
また、第2実施形態のレーザ加工システム2Bも、第1実施形態のレーザ加工システム2Aと同様に、被加工物41に対して、加工直径が10μm以上150μm以下の高アスペクト比の穴を加工する。そのため、レーザ加工システム2Bも、ビームウエスト位置BWにおけるビームの直径Dwが10μm以上150μm以下のパルスレーザ光を被加工物41に照射する。ビームウエスト位置におけるパルスレーザ光PLのビームの直径Dwは、図9で示した直径Diと同様に、ビームプロファイルにおいて最大光強度Imaxに対して1/e2の値になる位置の幅である1/e2全幅である。
【0155】
レーザ加工システム2Bの場合は、レーザ加工システム2Aと異なり、ガウシアン分布のパルスレーザ光PLを、転写像に変換することなく被加工物41に照射する。そのため、パルスレーザ光PLのビームの直径は、レーザ装置3の仕様によって決まる。
【0156】
光学システム36の光損失が無い場合、ビームウエスト位置BWにおけるフルーエンスFwは下記式(6)から求められる。
Fw=Et・T/{π(Dw/2)2}・・・・・(6)
ここで、T:アッテネータの透過率、Et:レーザ装置から出力されるパルスレーザ光のパルスエネルギ、Dw:ビームウエスト位置BWにおけるビームの断面SPの直径である。
【0157】
アッテネータの透過率Tは、光学システム36の光損失が無い場合、上記式(6)から下記式(7)で求められる。
T=π(Dw/2)2・Fw/Et・・・・・(7)
【0158】
図27に示すように、第2実施形態のパルスレーザ光PLの光束は、集光レンズ62を出射した後、ビームウエスト位置BWで最も絞られて、その後、発散する。ビームの断面SPの直径はビームウエスト位置BWが最小となる。集光レンズ62を用いた第2実施形態では、転写レンズ48を用いた第1実施形態のように、集光レンズ62と被加工物41の間に集光点CP(図12参照)は存在しない。
【0159】
そのため、図27に示すように、ビームウエスト位置BWを表面41aから内部に進入させた場合でも、表面41aにおけるビームの断面SPの直径及び面積は、ビームウエスト位置BWにおけるビームの断面SPの直径及び面積よりも大きい。
【0160】
また、図28に示すように、ビームウエスト位置BWにおけるビームプロファイルと、表面41aにおけるビームプロファイルを比較すると、どちらもガウシアン分布である。また、ビームウエスト位置BWにおける最大光強度Imax1の方が、表面41aにおける最大光強度Imax2よりも大きい。
【0161】
集光光学系を使用した場合のパルスレーザ光PLはこうした特性を持つ。そのため、第2実施形態において、第1実施形態の距離ZLに相当する値を、ビームウエスト位置BWから表面41aまでの距離ZLwとすると、光強度比Rwと距離ZLwの関係は、図29に示すような関係となる。
【0162】
ここで、光強度比Rwは、第2実施形態のようにパルスレーザ光PLを集光レンズ42によって集光して被加工物41に照射する場合の光強度比であって、ビームウエスト位置BWにおけるビームプロファイルがガウシアン分布に近い場合の光強度比である。光強度比Rwは以下の式(8)から求めることができる。
Rw=Imax/Iavw・・・・(8)
ここで、Iavwは、ビームウエスト位置BWにおける平均光強度であり、平均光強度Imaxは、ビームウエスト位置BWから距離ZLwにある各位置における最大光強度Imaxである。
【0163】
また、被加工物41の表面41aにおける最大フルーエンスFsfpは、光強度比Rwと転写位置FPにおける目標フルーエンスFtから、下記式(9)によって求めることができる。
Fsfp=Rw・Ftw・・・・(9)
【0164】
図29において、距離ZLw=0、すなわち、ビームウエスト位置BWが表面41aと一致している場合における光強度比Rwが最大となり、距離ZLwが大きくなるほど、光強度比Rwは小さくなる。
【0165】
第2実施形態において、レーザ加工制御部32Bは、こうした図29に示す距離ZLwと光強度比Rwとの相関関係のデータとを用いて、被加工物41の表面41aにおける最大フルーエンスFsfpが許容範囲内か否かを判定する。
【0166】
5.2 動作
図30から図32を参照しながら、レーザ加工システム2Bの動作を説明する。第2実施形態の図30のフローチャートと、第1実施形態の図23のフローチャートと異なる点は、ステップS1400がステップS1400Bに変更されている点と、ステップS1410がS1410Bに変更されている点と、S1500及びS1600がそれぞれS1500B及びS1600Bに変更されている点である。その他の点は同様である。レーザ加工制御部32Bは、S1100からS1300を実行した後、S1400Bを実行する。
【0167】
S1400Bにおいて、レーザ加工制御部32Bは、パルスレーザ光の照射条件を取得する。S1400Bにおいては、照射条件には、ビームウエスト位置BWにおける目標フルーエンスFtw、ビームウエスト位置BWの深さΔZfsw、照射パルス数N及び繰り返し周波数fが含まれている。
【0168】
S1410Bは、被加工物41の表面41aにおける最大フルーエンスFsfpを評価する処理である。S1420は、S1410Bの評価結果に基づいて、最大フルーエンスFsfpが許容範囲内か否かを判定する処理である。レーザ加工制御部32Bは、S1420において、最大フルーエンスFsfpが許容範囲内と判定した場合(S1420でY)は、S1500Bに進む。その後、レーザ加工制御部32Bは、S1600Bの処理を実行する。メインフローチャートにおける以降の処理は、第1実施形態と同様である。
【0169】
図32は、S1410Bにおける最大フルーエンスFsfpを評価する処理手順を示すフローチャートである。図32において、第1実施形態の図24との相違点は、S1411からS1413が、S1411BからS1413Bに変更されている点である。S1411Bにおいて、レーザ加工制御部32Bは、照射条件のデータから深さΔZsfwの値を読み出して、読み出したΔZsfwを距離ZLwとしてセットする。レーザ加工制御部32Aは、S1412Bにおいて、図29に示す距離ZLwと光強度比Rwとの相関関係データから、照射条件に対応する光強度比Rwを読み出す。具体的には、S1411Bにおいて深さΔZsfwの値がセットされた距離ZLwに対応する光強度比Rwを読み出す(S1412B)。
【0170】
レーザ加工制御部32Bは、読み出した光強度比Rwに基づいて、ビームウエスト位置BWにおける目標フルーエンスFtwから、被加工物41の表面41aにおける最大フルーエンスFsfpを、上述した式(9)に基づいて計算する(S1413B)。図31のサブルーチンにおいて、以降の処理は、第1実施形態と同様である。
【0171】
図32は、S1600Bのレーザ加工の処理手順を示す。図32において、比較例の図4との相違点は、S1604がS1604Bに変更されている点である。S1604Bにおいて、レーザ加工制御部32Bは、パルスレーザ光PLのビームウエスト位置BWにおけるフルーエンスFwが、照射条件の目標フルーエンスFtwとなるようにアッテネータ52の透過率Tを設定する。その他の処理は、図4と同様である。
【0172】
5.3 作用
第2実施形態のレーザ加工システム2Bは、第1実施形態と同様に、最大フルーエンスFsfpが許容範囲内と判定された場合にパルスレーザ光の照射を許容する。そのため、クラックCRの発生を抑制することができる。また、集光光学系を使用する第2実施形態は、転写レンズ48を使用する第1実施形態と比べて、パルスレーザ光PLの利用効率が高い。そのため、第2実施形態においては、同じ材料に対して同じサイズの穴加工を施す場合には、第1実施形態と比較して、レーザ装置3から出力するパルスレーザ光PLのパルスエネルギを低くすることができる。第2実施形態において、その他の作用効果及び好ましい加工条件についても、第1実施形態と同様である。
【0173】
5.4 その他
レーザ装置3の共振器は、ファブリペロ型の共振器であって、不安定共振器であってもよい。不安定共振器とは、出力結合ミラー27の部分反射面が凸面で形成され、リアミラー26の高反射面が凹面で形成される共振器である。このような不安定共振器を採用することによって、パルスレーザ光PLのビームウエスト位置BWの直径Dwを小さくすることが可能となり、ビームウエスト位置BWにおけるフルーエンスを高くすることができる。
【0174】
6.第3実施形態のレーザ加工システム及びレーザ加工方法
6.1 構成
図33は、第3実施形態のレーザ加工システム2Cを示す。図33に示すように、第3実施形態のレーザ加工システム2Cは、レーザ装置3と、レーザ加工装置4Cとを備えている。レーザ装置3は、第1実施形態と同様である。レーザ加工装置4Cは、第1実施形態のレーザ加工装置4Aの構成に加えて、ビームプロファイラ81を備えている。
【0175】
また、レーザ加工装置4Cは、レーザ加工装置4Aのレーザ加工制御部32Aに代えて、レーザ加工制御部32Cを備えている。レーザ加工制御部32Cは、レーザ加工制御部32Aの機能に加えて、ビームプロファイラ81を制御して、図14に示す距離ZLと光強度比Rの相関関係を示すデータを取得する機能を備えている。第3実施形態において、それ以外の点は第1実施形態と同様である。以下、相違点を中心に説明する。
【0176】
図33に示すように、ビームプロファイラ81は、テーブル33の端部に設けられている。ビームプロファイラ81は、イメージセンサ81a、ブラケット81b、1軸ステージ81cを備えている。ブラケット81bの一端にはイメージセンサ81aが取り付けられており、他端が1軸ステージ81cに取り付けられている。
【0177】
1軸ステージ81cは、イメージセンサ81aをY軸方向に移動する。具体的には、1軸ステージ81cは、イメージセンサ81aを、転写レンズ48から出射するパルスレーザ光PLの光軸の位置に挿入する挿入位置と、挿入位置から退避する退避位置との間で移動する。退避位置は、テーブル33上の被加工物41に対してレーザ加工を施すのに支障が無い位置である。イメージセンサ81aのZ軸方向の位置は、XYZステージ34によって調節が可能である。また、図示は省略するが、ビームプロファイラ81には、図示しないNDフィルタが設けられている。NDフィルタは、イメージセンサ81aの受光面に入射するパルスレーザ光を減光する。
【0178】
6.2 動作
第3実施形態のレーザ加工手順は、第1実施形態における図23及び図24とほぼ同様である。相違点は、図23のフローチャートにおけるS1100の前に、図34に示すS1000の処理が追加される点である。
【0179】
図34に示すS1000は、距離ZLと光強度比Rとの相関関係データの取得処理である。図34のフローチャートに示すように、S1010において、レーザ加工制御部32Cは、1軸ステージ81cを制御して、パルスレーザ光PLの光軸位置にビームプロファイラ81のイメージセンサ81aを挿入する。
【0180】
レーザ加工制御部32Cは、S1015において、XYZステージ34を制御して、イメージセンサ81aのZ軸方向の位置をパルスレーザ光の転写位置FPに合わせる。この位置は、距離ZLとイメージセンサ81aの受光面とが一致する位置である。そのため、レーザ加工制御部32Cは、メモリ上の距離ZLの値を初期値「0」にセットする。
【0181】
さらに、レーザ加工制御部32Cは、典型的な条件でレーザ発振させる制御信号をレーザ制御部13に送信することによって、レーザ装置3をレーザ発振させる(S1020)。ここで、典型的な条件とは、例えば、レーザ装置3の定格値である。具体的な値としては、例えば、目標パルスエネルギEtは40mJ~200mJの範囲、繰返し周波数fは10Hz~6kHzの範囲である。仮にこの時点でレーザ加工の際の加工条件が判明している場合は、加工条件として規定される目標パルスエネルギEtと繰り返し周波数fを設定して、レーザ発振させてもよい。
【0182】
S1030において、レーザ加工制御部32Cは、レーザ装置3からパルスレーザ光PLを出力させて、これをイメージセンサ81aで受光して、ビームプロファイルを測定する。測定したビームプロファイルに基づいてパルスレーザ光の最大光強度Imaxと平均光強度Iavsを計算する。そして、レーザ加工制御部32Cは、上記式(4)に従って、光強度比R=Imax/Iavsを計算する(S1040)。レーザ加工制御部32Cは、距離ZLの値に関係付けて、計算で求めた光強度比Rの値をメモリに記録する(S1045)。
【0183】
光強度比Rの記録が終了すると、レーザ加工制御部32Cは、イメージセンサ81aのZ軸方向の位置をΔdsだけ上方に移動する(S1050)。レーザ加工制御部32Cは、これに伴って、メモリ上の距離ZLの値に、Δdsを加算する。Z軸方向におけるイメージセンサ81aの移動間隔である。すなわち、レーザ加工制御部32Cは、Δds間隔で光強度比Rを計測する。ここで、Δdsの値は、例えば100μmである。
【0184】
レーザ加工制御部32Cは、S1055において、距離ZLが上限値Zmaxを超えたか否かを判定する。上限値Zmaxの値は、例えば1.5mmである。距離ZLが上限値Zmax以下の場合(S1055でN)は、レーザ加工制御部32Cは、S1070に進む。S1070は、S1050において設定された距離ZLにおけるビームプロファイルを測定して、最大光強度Imaxを計算する処理である。
【0185】
レーザ加工制御部32Cは、S1070の処理を終了した後、上述のS1040からS1050の処理を繰り返す。これにより、Δds間隔で光強度比Rのデータが記録される。一方、距離ZLが上限値Zmaxを超えた場合(S1055でY)は、レーザ加工制御部32Cは、計測を終了し、レーザ発振を停止する(S1060)。そして、レーザ加工制御部32Cは、ビームプロファイラ81のイメージセンサ81aを退避位置に移動する(S1065)。レーザ加工制御部32Cは、記録したΔds間隔の光強度比Rのデータに基づいて、図14に示すような距離ZLと光強度比Rの相関関係データを生成する。
【0186】
レーザ加工制御部32Cは、生成した相関関係データをメモリや外部ストレージに格納する。相関関係データは、テーブル形式で記録してもよいし、Δds毎に記録した複数の光強度比Rのデータから近似式を求めて、関数の形式で記録してもよい。また、Δds毎に記録した光強度比Rに基づいて、データを補間してもよい。このように相関関係データを取得した後、レーザ加工制御部32Cは、図23のS1100に進む。以降の処理は第1実施形態と同様である。
【0187】
図35のフローチャートは、S1030の最大光強度Imaxと平均光強度Iavsの計算の処理手順を示す。S1030の処理については、図8から図10において概略的に説明した内容と同様である。S1030においては、転写位置FPにおける平均光強度Iavsと、転写位置FPにおける最大光強度Imaxを計算する。
【0188】
まず、レーザ加工制御部32Cは、イメージセンサ81aによるビームプロファイルの測定を行う(S1031)。次に、イメージセンサ81の各画素PXの光強度Iの中から、最大値である最大光強度Imaxを求める(S1032)。次に、レーザ加工制御部32Cは、最大光強度Imaxに対して1/e2の値を示す光強度である閾値Ithを、下記式(10)に従って計算する(S1033)。
Ith=Imax/e2・・・・・(10)
【0189】
最後に、レーザ加工制御部32Cは、閾値Ith以上の値の画素PXの光強度Iの平均値である平均光強度Iavsを計算する(S1034)。
【0190】
図36のフローチャートは、S1070の最大光強度Imaxの計算の処理手順を示す。S1070の処理においては、図35に示すS1030の処理と異なり、平均光強度は計算せず、転写位置FPから移動した後の距離ZLの位置における最大光強度Imaxを計算する。
【0191】
そのため、S1070の処理は、図35の前半のステップと同様であり、後半の平均光強度を計算するステップはない。すわなち、S1071において、まず、レーザ加工制御部32Cは、イメージセンサによるビームプロファイルの測定を行う。次に、イメージセンサ81の各画素PXの光強度Iの中から、最大値である最大光強度Imaxを求める(S1072)。
【0192】
6.3 作用
第3実施形態においては、レーザ加工の前に、ビームプロファイラ81を使用して、距離ZLと光強度比Rとの相関関係データを実測する。そのため、例えば光学システム36の特性等、レーザ加工システム2Cの個体差を反映した相関関係データを取得することができる。そのため、最大フルーエンスFsfpの算出精度が向上する。
【0193】
6.4 その他
本例において、イメージセンサ81aに入射するパルスレーザ光をNDフィルタで減光している。しかし、NDフィルタを使用しても減光量が不足して、イメージセンサ81aの出力信号が飽和する場合は、アッテネータ52の透過率Tを制御して、イメージセンサ81aに入射するパルスレーザ光のエネルギを低下させてもよい。ただし、相関関係データを取得している間は、アッテネータ52の透過率Tは固定される。取得途中で透過率Tが変動すると、正確な相関関係データが取得できないためである。
【0194】
7 レーザ加工装置の変形例
7.1 変形例7-1
図37に示すレーザ加工装置4Dは、図26に示す第2実施形態のレーザ加工装置4Bの変形例である。レーザ加工装置4Dは、レーザ加工装置4Bの光学システム61に代えて、光学システム71を備えている。また、レーザ加工制御部32Bに代えて、レーザ加工制御部32Dを備えている。それ以外の構成は同様である。以下、相違点を中心に説明する。
【0195】
光学システム71は、光学システム61に波面調節器72を追加したものである。波面調節器72は、凹レンズ72a、凸レンズ72b及び1軸ステージ72cを備えている。1軸ステージ72cは、凹レンズ72aを保持し、凹レンズ72aを光軸方向に移動して、凹レンズ72aと凸レンズ72bとの間隔を調節する。凹レンズ72a及び凸レンズ72bは、高反射ミラー36cと集光レンズ62の間のパルスレーザ光の光路上に配置されている。高反射ミラー36cで反射したパルスレーザ光は、凹レンズ72a及び凸レンズ72bを介して集光レンズ62に入射する。
【0196】
凹レンズ72aと凸レンズ72bの間隔を調節することにより、被加工物41に照射されるパルスレーザ光のビームウエスト位置を変更することができる。
【0197】
レーザ加工制御部32Dは、XYZステージ34を制御して、被加工物41のXY平面の位置を調整する。一方、Z軸方向における、パルスレーザ光のビームウエスト位置BWと被加工物41との相対的な位置については、XYZステージ34で被加工物41を移動する代わりに、波面調節器72の1軸ステージ72cを制御してビームウエストのZ軸方向の位置を調整する。具体的には、レーザ加工制御部32Dは、1軸ステージ72cを制御して、凹レンズ72aと凸レンズ72bの間隔を調節することにより、パルスレーザ光の波面を変更する。このパルスレーザ光の波面を制御することによって、パルスレーザ光のビームウエスト位置BWが調整される。
【0198】
7.2 変形例7-2
図38に示すレーザ加工システム2Eは、第1実施形態のレーザ加工システム2Aのレーザ加工装置4Aを、レーザ加工装置4Eに変更したものである。レーザ加工装置4Eは、ビームホモジナイザ46を備えている。ビームホモジナイザ46は、パルスレーザ光の光軸方向において、転写マスク47の上流側に配置される。ビームホモジナイザ46は、フライアイレンズ46aとコンデンサレンズ46bとを備えている。ビームホモジナイザ46は、高反射ミラー36bで反射したパルスレーザ光の光強度分布を均一化して、転写マスク47をケーラ照明するように配置される。レーザ加工装置4Eは、レーザ加工制御部32Aに代えて、レーザ加工制御部32Eを備えている。その他の構成は、第1実施形態と同様である。
【0199】
ビームホモジナイザ46のフライアイレンズ46aは、複数の小レンズが二次元に配列された形態である。そのため、転写像が結像する転写位置FPよりも上流側のビームの断面SPのビームプロファイルにおいては、各小レンズに対応して複数のピークが生じる場合がある。この場合でも転写位置FPにおいては、1つのトップハットは形状1つになる。
【0200】
しかしながら、転写位置FPを被加工物41の表面41aから内部に進入させた場合には、複数のピークが生じるビームの断面SPが、転写位置FPよりも上流側の表面41aと近づく場合がある。この場合には、表面41aにおけるビームの断面SP内において、フルーエンスのピークが複数存在することになる。レーザ加工制御部32Eは、表面41aにおけるフルーエンスのピークが複数存在する場合は、各ピークのうち最大値を示すピークを最大フルーエンスFsfpと判定する。そして、レーザ加工制御部32Eは、この最大フルーエンスFsfpが許容範囲内にあるか否かを判定する。その他の処理は、第1実施形態と同様である。
【0201】
本例のように、ビームホモジナイザ46を使用すると、転写マスク47に光強度が均一化されたパルスレーザ光が照射されるので、転写位置FPでの光強度分布が均一化される。
【0202】
なお、転写マスク47としては、複数の穴が形成された転写マスクを用いてもよい。この場合は、被加工物41に対して同時に複数の穴加工を施すことができる。
【0203】
8.レーザ装置の変形例
上記各実施形態において、レーザ装置は種々の変形が可能である。例えば、レーザ装置として、図39図40に示すレーザ装置を使用してもよい。
【0204】
8.1 変形例1
図39に示す変形例1のレーザ装置3Dは、第1実施形態のレーザ装置3に、増幅器80を追加したものであり、それ以外はほぼ同様である。増幅器80は、マスターオシレータ10とモニタモジュール11の間のパルスレーザ光の光路上に配置されている。増幅器80は、マスターオシレータ10から出力されたパルスレーザ光のエネルギを増幅する増幅器である。
【0205】
増幅器80は、基本的な構成は、マスターオシレータ10と同様であり、マスターオシレータ10と同様に、レーザチャンバ21、充電器23、及びパルスパワーモジュール(PPM)24を備えている。
【0206】
レーザ制御部13Dは、レーザ加工制御部32Aから受信した目標パルスエネルギEtのデータを受信すると、充電器23の充電電圧を制御してパルスエネルギを制御する。
【0207】
レーザ制御部13Dは、レーザ加工制御部32Aから発光トリガTrを受信すると、マスターオシレータ10をレーザ発振させる。加えて、マスターオシレータ10に同期して増幅器80が作動するように制御する。レーザ制御部13Dは、マスターオシレータ10が出力するパルスレーザ光が、増幅器80のレーザチャンバ21内の放電空間に入射したときに放電が生じるように、増幅器80のパルスパワーモジュール24のスイッチ24aをオンする。その結果、増幅器80に入射したパルスレーザ光は、増幅器80において増幅される。
【0208】
増幅器80で増幅されて出力されたパルスレーザ光は、モニタモジュール11においてパルスエネルギが計測される。レーザ制御部13Dは、計測されたパルスエネルギの実測値がそれぞれ目標パルスエネルギEtに近づくように、増幅器80とマスターオシレータ10のそれぞれの充電器23の充電電圧を制御する。
【0209】
シャッタ12が開くと、モニタモジュール11のビームスプリッタ11aを透過したパルスレーザ光は、図22に示したレーザ加工装置4Aに入射する。
【0210】
レーザ装置3Dのように、増幅器80を設けることで、パルスレーザ光のパルスエネルギを高くすることができる。
【0211】
8.2 変形例2
レーザ加工システムにおいて、図40に示す変形例2のレーザ装置3Eを用いてもよい。レーザ装置3Eは、マスターオシレータ83と、増幅器84とを備えている。また、レーザ装置3Eは、モニタモジュール11の代わりにモニタモジュール11Eを備えている。
【0212】
モニタモジュール11Eは、第1実施形態のモニタモジュール11の構成に加えて、波長モニタ11cとビームスプリッタ11dが追加されている。
【0213】
モニタモジュール11Eにおいて、ビームスプリッタ11dは、ビームスプリッタ11aの反射光路上であって、光センサ11bとの間に配置される。ビームスプリッタ11dは、ビームスプリッタ11aが反射する反射光の一部を反射して、残りを透過する。ビームスプリッタ11dを透過した透過光は、光センサ11bに入射し、ビームスプリッタ11dを反射した反射光は波長モニタ11cに入射する。
【0214】
波長モニタ11cは、周知のエタロン分光器である。エタロン分光器は、例えば、拡散板と、エアギャップエタロンと、集光レンズと、ラインセンサとで構成される。エタロン分光器は、拡散板、エアギャップエタロンによって入射するレーザ光の干渉縞を発生させ、発生した干渉縞を集光レンズでラインセンサの受光面に結像させる。そして、ラインセンサに結像した干渉縞を計測することによって、レーザ光の波長λを計測する。
【0215】
マスターオシレータ83は、固体レーザ装置であり、シード光を出力する半導体レーザ86と、シード光を増幅するチタンサファイヤ増幅器87と、波長変換システム88とを備えている。
【0216】
半導体レーザ86は、シード光として、波長が773.6nmで連続発振するレーザ光である、CW(Continuous Wave)レーザ光を出力する分布帰還型の半導体レーザである。半導体レーザ86の温度設定を変更することによって、発振波長を変化させることができる。
【0217】
チタンサファイヤ増幅器87は、チタンサファイヤ結晶(図示せず)と、ポンピング用パルスレーザ装置(図示せず)とを含む。チタンサファイヤ結晶は、シード光の光路上に配置される。ポンピング用パルスレーザ装置は、YLFレーザの第2高調波光を出力するレーザ装置である。
【0218】
波長変換システム88は、第4高調波光を発生させる波長変換システムであって、LBO(LiB35)結晶と、KBBF(KBe2BO32)結晶とを含んでいる。各結晶は、図示しない回転ステージ上に配置されており、各結晶に対するシード光の入射角度を変更できるように構成されている。
【0219】
増幅器84は、図39に示した増幅器80と同様に、1対の電極22a及び22b、レーザ媒質としてArFレーザガスを含むレーザチャンバ21と、パルスパワーモジュール24と、充電器23とを含んでいる。また、増幅器84は、凸面ミラー91と、凹面ミラー92とを備えている。
【0220】
凸面ミラー91と凹面ミラー92は、マスターオシレータ83から出力されたパルスレーザ光が、凸面ミラー91及び凹面ミラー92で反射することにより、レーザチャンバ21の放電空間内を3パスしてビームが拡大するように配置されている。
【0221】
レーザ制御部13Eは、レーザ加工制御部32Aから目標波長λtと目標パルスエネルギEtを受信すると、マスターオシレータ83の固体レーザ制御部89に目標波長λtを送信する。また、レーザ制御部13Eは、目標パルスエネルギとなるように、増幅器84の充電器23の充電電圧を設定する。
【0222】
固体レーザ制御部89は、レーザ制御部13Eから目標波長λtを受信すると、波長変換システム88から出力されるシード光の波長が、目標波長λtとなるように、半導体レーザ86の発振波長λa1を変更する。ここで、発振波長λa1は、目標波長λtの4倍、すなわち、λa1=4λtに設定される。目標波長λtが193.4nmであるので、λa1は、193.4×4=773.6nmとなる。ここで、ArFレーザガスをレーザ媒質とする増幅器84の増幅可能な波長範囲は、193.2nm~193.6nmであるので、必要に応じて、目標波長λtをこの波長範囲で変更してもよい。
【0223】
波長変換システム88において、LBO結晶とKBBF結晶の波長変換効率が最大となるように、固体レーザ制御部89は、図示しない回転ステージを制御して、各結晶に対するレーザ光の入射角度を設定する。
【0224】
固体レーザ制御部89は、レーザ制御部13Eから発光トリガTrが入力されると、チタンサファイヤ増幅器87のポンピング用パルスレーザ装置にトリガ信号を送信する。チタンサファイヤ増幅器87において、ポンピング用パルスレーザ装置はトリガ信号に基づいて、入力されたシード光であるCWレーザ光をパルスレーザ光に変換して出力する。チタンサファイヤ増幅器87から出力されたパルスレーザ光は、波長変換システム88に入力される。波長変換システム88は、λa1のパルスレーザ光を第4高調波である目標波長λtのパルスレーザ光に波長変換して出力する。
【0225】
また、レーザ制御部13Eは、レーザ加工制御部32Aから発光トリガTrを受信すると、マスターオシレータ83から出力されたパルスレーザ光が増幅器84のレーザチャンバ21の放電空間に入射した時に放電するように、パルスパワーモジュール24のスイッチ24aをオンする。
【0226】
その結果、マスターオシレータ83から増幅器84に入射したパルスレーザ光は、レーザチャンバ21において、凸面ミラー91及び凹面ミラー92の作用によって放電空間内を3パスして増幅される。また3パスすることによってパルスレーザ光のビームの直径が拡大される。
【0227】
増幅されたパルスレーザ光は、モニタモジュール11Eによってサンプルされ、パルスエネルギと波長の実測値が計測される。レーザ制御部13Eは、計測されたパルスエネルギと目標パルスエネルギEtとの差が0に近づくように、充電器23の充電電圧を制御する。さらに、レーザ制御部13Eは、計測された波長と目標波長λtとの差が0に近づくように、半導体レーザの発振波長λa1を制御する。モニタモジュール11Eのビームスプリッタ11aを透過したパルスレーザ光は、シャッタ12が開くと、レーザ加工装置に入射する。
【0228】
マスターオシレータ83が固体レーザ装置の場合は、図26に示すレーザ加工装置4Bまたは図37に示すレーザ加工装置4Dの光源として適用するのが好ましい。出力されるパルスレーザ光のビームがシングル横モードのガウシアンビームに近いために、ビームウエスト位置におけるビームの直径を回折限界近くまで小さくすることができる。
【0229】
本例において、増幅器84として、マルチパス増幅器の例を示したが、これに限定されることなく、例えば、ファブリペロ型の共振器や、リング型の共振器を備えた増幅器であってもよい。
【0230】
また、本例において、マスターオシレータ83として固体レーザ装置を用い、固体レーザ装置と、レーザ媒質としてArFレーザガスを使用する増幅器84とを組み合わせて、レーザ装置3Eを構成した。
【0231】
増幅器84がKrFレーザガスをレーザ媒質とする増幅器の場合は、増幅可能な波長範囲は248.1nm~248.7nmである。この場合のレーザ装置としては、マスターオシレータ83が、上記増幅可能な波長範囲で波長を変化させることができる波長可変の固体レーザ装置を用いてもよいし、スペクトル線幅を狭帯域化する狭帯域化KrFエキシマレーザ装置であってもよい。さらに、増幅器84がF2レーザガスをレーザ媒質とする増幅器の場合は、増幅可能な波長は157.6nmである。この場合のレーザ装置は、例えば、マスターオシレータ83がこの波長域で発振する固体レーザ装置が用いられる。以上のように、紫外線のパルスレーザ光を増幅する増幅器の観点から、紫外線のパルスレーザ光の波長は、157.6nm~248.7nmの範囲が好ましい。
【0232】
上記の説明は、制限ではなく単なる例示を意図したものである。従って、添付の特許請求の範囲を逸脱することなく本開示の各実施形態に変更を加えることができることは、当業者には明らかであろう。
【0233】
本明細書及び添付の特許請求の範囲全体で使用される用語は、「限定的でない」用語と解釈されるべきである。例えば、「含む」又は「含まれる」という用語は、「含まれるものとして記載されたものに限定されない」と解釈されるべきである。「有する」という用語は、「有するものとして記載されたものに限定されない」と解釈されるべきである。また、本明細書及び添付の特許請求の範囲に記載される修飾句「1つの」は、「少なくとも1つ」又は「1又はそれ以上」を意味すると解釈されるべきである。
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