(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-04
(45)【発行日】2022-10-13
(54)【発明の名称】災害情報システム
(51)【国際特許分類】
G08B 27/00 20060101AFI20221005BHJP
G08B 21/10 20060101ALI20221005BHJP
G08B 25/08 20060101ALI20221005BHJP
G01V 1/00 20060101ALI20221005BHJP
【FI】
G08B27/00 C
G08B21/10
G08B25/08 A
G01V1/00 D
(21)【出願番号】P 2019009541
(22)【出願日】2019-01-23
【審査請求日】2021-07-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000221546
【氏名又は名称】東電設計株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】501331544
【氏名又は名称】東電タウンプランニング株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】特許業務法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】瀬下 雄一
(72)【発明者】
【氏名】小島 浩
(72)【発明者】
【氏名】栗田 哲史
(72)【発明者】
【氏名】平岩 直哉
(72)【発明者】
【氏名】土山 滋郎
(72)【発明者】
【氏名】赤羽 省吾
(72)【発明者】
【氏名】関谷 毅
(72)【発明者】
【氏名】植村 隆文
(72)【発明者】
【氏名】和泉 慎太郎
(72)【発明者】
【氏名】荒木 徹平
(72)【発明者】
【氏名】野田 祐樹
(72)【発明者】
【氏名】吉本 秀輔
【審査官】松原 徳久
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-277384(JP,A)
【文献】特開2017-167883(JP,A)
【文献】特開平09-197056(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2016-0038596(KR,A)
【文献】国際公開第2007/072594(WO,A1)
【文献】特開平10-241092(JP,A)
【文献】特開2005-295608(JP,A)
【文献】特開2016-031237(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F21K9/00-9/90
F21S2/00-45/70
G01H1/00-17/00
G01S1/72-1/82
3/80-5/14
5/18-7/42
7/52-7/64
13/00-15/96
19/00-19/55
G01V1/00-99/00
G08B13/00-15/02
19/00-31/00
G08G1/00-99/00
H04M3/00
3/16-3/20
3/38-3/58
7/00-7/16
11/00-11/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
サーバと、
ネットワークを介して前記サーバと接続され、複数の既設構築物に取り付けられた複数のマルチセンサと、を備える災害情報システムであって、
前記マルチセンサは、
当該マルチセンサの位置における地震情報を取得する地震情報取得部と、
差分情報を取得する差分モニタを用いて、当該マルチセンサの周辺情報を取得する周辺情報取得部と、
前記地震情報及び前記周辺情報を含むセンサ情報を前記サーバへ送信するセンサ情報送信部と、を有し、
前記サーバは、
前記センサ情報を収集する収集部と、
前記センサ情報を分析することで災害関連情報を作成する分析部と、を有
し、
前記マルチセンサは、シート型振動センサと、入射波発生装置と、を含んで構成され、
前記地震情報取得部は、前記シート型振動センサにより前記地震情報を取得し、
前記周辺情報取得部は、前記入射波発生装置が発生させた入射波の反射波を前記シート型振動センサにより検出することで、前記周辺情報を取得する、
災害情報システム。
【請求項2】
前記複数の既設構築物に取り付けられた複数の表示装置を更に備え、
前記サーバは、
災害時、前記センサ情報に基づいて避難経路を算出する避難経路算出部と、
算出した避難経路に応じた表示情報を前記表示装置へ送信する表示情報送信部と、を有し、
前記複数の表示装置は、送信された前記表示情報に基づいて、避難誘導情報を表示する、
請求項1に記載の災害情報システム。
【請求項3】
前記複数の既設構築物には、複数の電柱が含まれ、
前記電柱に取り付けられた前記マルチセンサの電源は、当該マルチセンサが取り付けられた前記電柱から供給され、
前記サーバは、前記電柱に取り付けられた前記マルチセンサからの前記センサ情報の送信の有無に基づいて、停電地域を特定する停電地域特定部を有する、
請求項1又は請求項2に記載の災害情報システム。
【請求項4】
前記地震情報取得部は、
地表に対して高さのある位置での振動を示す高所振動情報を取得する高所振動取得部と、
前記高所振動情報を地表での振動を示す地表振動情報に変換する振動情報変換部と、を有する、
請求項1~請求項3の何れか1項に記載の災害情報システム。
【請求項5】
ネットワークを介して前記サーバと接続された複数の携帯端末を更に備え、
前記サーバは、災害関連情報を前記携帯端末へ配信する災害関連情報配信部を更に有する、
請求項1~請求項4の何れか1項に記載の災害情報システム。
【請求項6】
ネットワークを介してサーバと接続され、既設構築物に取り付けられたマルチセンサであって、
当該マルチセンサの位置における地震情報を取得する地震情報取得部と、
差分情報を取得する差分モニタを用いて、当該マルチセンサの周辺情報を取得する周辺情報取得部と、
前記地震情報及び前記周辺情報を含むセンサ情報を前記サーバへ送信するセンサ情報送信部と、を有
し、
前記マルチセンサは、シート型振動センサと、入射波発生装置と、を含んで構成され、
前記地震情報取得部は、前記シート型振動センサにより前記地震情報を取得し、
前記周辺情報取得部は、前記入射波発生装置が発生させた入射波の反射波を前記シート型振動センサにより検出することで、前記周辺情報を取得する、
マルチセンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、災害情報システムに関する。
【背景技術】
【0002】
災害情報システムとしては、例えば、東京ガスの「SUPREME」(シュープリーム)が知られている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、SUPREMEにおける地震計は、約1km四方に1基の密度で配置されている。地震計の配置密度を上げることで、広い地域ごとの平均化された情報ではなく、個々の地域住民に対応した詳細な災害関連情報を作成することができるため、配置密度に関して改善の余地があるといえる。しかし、地震計を高密度に配置するためには、土地所有者との協議が必要な場合が多く、実現は容易でない。
【0004】
また、地震計のみにより情報を収集する場合、建物倒壊、浸水、土砂災害、火災などの災害状況や人や車の交通量を分析することができないので、作成できる災害関連情報及び提供できる災害関連情報が限られる。そこで、カメラを高密度に配置することも考えられるが、通信の負荷となる情報量が大きくなり過ぎてしまい、システムの構築が困難となる。また、カメラを高密度に配置することは、プライバシーの観点からも実現が困難である。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものである。すなわち、本発明は、情報量やプライバシーの問題なく、広域かつ多数のセンサ情報(地震情報及び周辺情報を含む)のリアルタイムでの収集を可能にすることで、個々の地域住民に対応した詳細な災害関連情報の作成及び提供に資する災害情報システムを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の態様に係る災害情報システムは、サーバと、ネットワークを介して前記サーバと接続され、複数の既設構築物に取り付けられた複数のマルチセンサと、を備える災害情報システムであって、前記マルチセンサは、当該マルチセンサの位置における地震情報を取得する地震情報取得部と、差分情報を取得する差分モニタを用いて、当該マルチセンサの周辺情報を取得する周辺情報取得部と、前記地震情報及び前記周辺情報を含むセンサ情報を前記サーバへ送信するセンサ情報送信部と、を有し、前記サーバは、前記センサ情報を収集する収集部と、前記センサ情報を分析することで災害関連情報を作成する分析部と、を有する。
【0007】
この態様に係る災害情報システムは、複数のマルチセンサを備えている。マルチセンサの各々は、地震情報取得部において当該マルチセンサの位置における地震情報を取得すると共に、周辺情報取得部において当該マルチセンサの周辺情報(例えば、周辺の建物倒壊、浸水、土砂災害、火災などに関する情報、人や車の有無及びその流れに関する情報)を取得する。そして、マルチセンサは、センサ情報送信部において、地震情報及び周辺情報を含むセンサ情報をサーバへ送信する。サーバは、収集部においてセンサ情報を収集し、分析部においてセンサ情報を分析することで災害関連情報を作成する。
【0008】
特に、この態様では、マルチセンサを、既に高密度に設けられている既設構築物(例えば、電柱、街灯)を利用して配置する。すなわち、マルチセンサが取り付けられるのが既に高密度に設けられている既設構築物であるので、マルチセンサを従来よりも高密度に配置することができる。これにより、高密度の観測網を構築することができ、広域かつ多数のセンサ情報をリアルタイムに収集することができる。
【0009】
更に、マルチセンサにおいて周辺情報の取得を担うのが、差分モニタ(差分情報を取得する装置、例えばドップラー効果を利用した装置)であるので、周辺情報の取得をカメラが担う態様と比較して、通信の負荷となる情報量を大幅に低減できると共に、プライバシーの問題を解決することができる。
【0010】
以上より、この態様の災害情報システムによれば、情報量やプライバシーの問題なく、広域かつ多数のセンサ情報をリアルタイムに獲得できるので、個々の地域住民に必要な個別の災害関連情報(例えば、地震の揺れやすさ等の災害への備えに関し有益な情報、避難経路や被災状況等の被災民の安全安心に関わる情報)の作成及び提供に資する。
【0011】
第2の態様に係る災害情報システムは、第1の態様において、前記複数の既設構築物に取り付けられた複数の表示装置を更に備え、前記サーバは、災害時、前記センサ情報に基づいて避難経路を算出する避難経路算出部と、算出した避難経路に応じた表示情報を前記表示装置へ送信する表示情報送信部と、を有し、前記複数の表示装置は、送信された前記表示情報に基づいて、避難誘導情報を表示する。
【0012】
この態様では、高密度に配置された既設構築物を利用して、避難経路という避難民の安全安心に関わる情報を避難民に対してリアルタイムに提供することができる。
【0013】
第3の態様に係る災害情報システムは、第1又は第2の態様において、前記複数の既設構築物には、複数の電柱が含まれ、前記電柱に取り付けられた前記マルチセンサの電源は、当該マルチセンサが取り付けられた前記電柱から供給され、前記サーバは、前記電柱に取り付けられた前記マルチセンサからの前記センサ情報の送信の有無に基づいて、停電地域を特定する停電地域特定部を有する。
【0014】
第4の態様に係る災害情報システムは、第1~第3の何れかの態様において、前記地震情報取得部は、地表に対して高さのある位置での振動を示す高所振動情報を取得する高所振動取得部と、前記高所振動情報を地表での振動を示す地表振動情報に変換する振動情報変換部と、を有する。
【0015】
この態様によれば、地表に対して高さのある位置に振動センサを設置した場合において、地震の揺れについて適切な分析を行うことができる。
【0016】
第5の態様に係る災害情報システムは、第1~第4の何れかの態様において、前記マルチセンサは、シート型振動センサと、入射波発生装置と、を含んで構成され、前記地震情報取得部は、前記シート型振動センサにより前記地震情報を取得し、前記周辺情報取得部は、前記入射波発生装置が発生させた入射波の反射波を前記シート型振動センサにより検出することで、前記周辺情報を取得する。
【0017】
この態様によれば、シート型振動センサに入射波発生装置を付加することでマルチセンサを構成することができる。シート型振動センサは、印刷技術により安価に製造することができる。
【0018】
第6の態様に係る災害情報システムは、サーバと、ネットワークを介して前記サーバと接続され、複数の既設構築物に取り付けられた複数のマルチセンサと、ネットワークを介して前記サーバと接続された複数の携帯端末と、を備える災害情報システムであって、前記マルチセンサは、当該マルチセンサの位置における地震情報を取得する地震情報取得部と、差分情報を取得する差分モニタを用いて、当該マルチセンサの周辺情報を取得する周辺情報取得部と、前記地震情報及び前記周辺情報を含むセンサ情報を前記サーバへ送信するセンサ情報送信部と、を有し、前記サーバは、前記センサ情報を収集する収集部と、前記センサ情報を分析することで災害関連情報を作成する分析部と、災害関連情報を前記携帯端末へ配信する災害関連情報配信部と、を有する。
【0019】
第7の態様に係るマルチセンサは、ネットワークを介してサーバと接続され、既設構築物に取り付けられたマルチセンサであって、当該マルチセンサの位置における地震情報を取得する地震情報取得部と、差分情報を取得する差分モニタを用いて、当該マルチセンサの周辺情報を取得する周辺情報取得部と、前記地震情報及び前記周辺情報を含むセンサ情報を前記サーバへ送信するセンサ情報送信部と、を有する。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、情報量やプライバシーの問題なく、広域かつ多数のセンサ情報をリアルタイムに獲得できるので、個々の地域住民に対応した詳細な災害関連情報の作成及び提供に資する災害情報システムを得ることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】実施形態の災害情報システムを示す構成図である。
【
図3】マルチセンサの具体的構成を示す構成図である。
【
図4】マルチセンサにおいて実行される処理をの一例を示す図である。
【
図5】マルチセンサの電源供給方法のバリエーションを示す図である。
【
図6】本発明の災害情報システムの活用例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の一実施形態について説明する。
【0023】
図1は、本実施形態に係る災害情報システムを示す構成図である。
【0024】
本実施形態に係る災害情報システムは、複数のマルチセンサが取得したセンサ情報に基づいて、災害関連情報(例えば、避難経路や被災状況等の被災民の安全安心に関わる情報)を作成する。また、災害情報システムは、作成した災害関連情報を必要に応じて住民の所持する携帯端末30、マスコミ、公的機関などへ提供する。
【0025】
作成する災害関連情報としては、例えば、以下の情報が挙げられる。
・避難経路や避難状況情報(渋滞、混雑など)などの被災民の安全安心に関わる情報
・各地域別の地盤の揺れやすさに関する情報(揺れやすさマップ情報)
・防災観点からの脆弱性評価などの防災計画を立案する際に資する情報
【0026】
(マルチセンサ)
災害情報システムは、複数のマルチセンサ10を備える。複数のマルチセンサ10の各々は、電柱、街灯、ポール、建物などの既設構築物40に取り付けられる。図では、電柱にマルチセンサが取り付けられた状態を示している。
【0027】
マルチセンサ10は、当該マルチセンサ10の位置における地震情報を取得する機能を有する(地震情報取得部)。ここで、地震情報とは、地震の揺れに関する情報である。
【0028】
マルチセンサ10は、シート型振動センサ120を含んで構成されており、当該シート型振動センサ120により地震情報を取得する。シート型振動センサ120は、メムス(MEMS:Micro Electro Mechanical Systems)によって実現される。また、シート型振動センサは、柔軟性を有するシート状のセンサである。
【0029】
また、マルチセンサ10は、当該マルチセンサの周辺情報を取得する機能を有する(周辺情報取得部)。ここで、マルチセンサの周辺情報とは、地震情報以外の情報であって、当該マルチセンサの周辺に関する情報を広く含む。
【0030】
周辺情報としては、例えば以下の情報が挙げられる。
・周辺の建物倒壊、浸水、土砂災害、火災などの災害状況に関する情報
・周辺の道路上などにおける人や車の有無及びその流れ(交通量)に関する情報
【0031】
また、マルチセンサ10は、シート型振動センサ120の他に、マイクロ波又は超音波などの入射波を照射する入射波発生装置130を有する。
図2に示すように、入射波発生装置130がマイクロ波又は超音波などを照射し、マイクロ波または超音波を周辺の建物や道路上などに入射させ、その反射波をシート型振動センサ120で検出することで、周辺情報を取得することができる。具体的には、ドップラー効果を利用して周辺情報を取得する。このように、本実施形態では、シート型振動センサ120及び入射波発生装置130により、差分情報を取得する差分モニタが構成されている。
【0032】
なお、地震情報の取得を担うシート型振動センサが、同時に周辺情報の取得を担うようにマルチセンサを構成してもよいが、地震情報の取得を担うシート型振動センサと周辺情報の取得を担うシート型振動センサとを別々に設けてもよい。
【0033】
また、マルチセンサ10は、地震情報及び周辺情報を含むセンサ情報をサーバ20へ送信する(センサ情報送信部)。
【0034】
なお、各々のマルチセンサ10において、マルチセンサ10とサーバ20との間の通信が直接的に行われてもよいが、マルチセンサ10とサーバ20との間の通信は、中継装置を介して行われてもよい。具体的には、町などの所定の地域毎に中継装置を設置し、その地域に配置された複数のマルチセンサ10からのセンサ情報を中継装置に一旦集約し、集約したセンサ情報を中継装置からサーバ20へ送信されるようにしてもよい。マルチセンサ10の各々と中継装置との通信は、無線通信であっても有線通信であってもよい。
【0035】
(サーバ20)
また、災害情報システムは、サーバ20を備える。サーバ20は、例えば、CPUなどのプロセッサ及びRAM、ROM、HDDなどの記憶装置を備えるコンピュータによって構成される。
【0036】
サーバ20は、複数のマルチセンサ10から、地震情報及び周辺情報を含む多数のセンサ情報を収集する(収集部21)。収集されたセンサ情報は、HDDなどの記憶部に蓄積される。
【0037】
また、サーバ20は、収集した複数のセンサ情報を分析することで災害関連情報を作成する(分析部22)。災害関連情報としては、様々な情報が挙げられる。
【0038】
災害関連情報として、各地域別の地盤の揺れやすさを示す情報(揺れやすさマップ情報)を作成する場合について説明する。
この場合、マルチセンサ10は、災害時だけでなく、通常時(非災害時)にも地震情報及び周辺情報を継続的に取得する。そのため、サーバ20が収集するセンサ情報には、通常時における微小地震の情報が含まれる。サーバ20は、分析部22において、通常時における微小地震の情報を含むセンサ情報の分析を行うことで、各地域別の地盤の揺れやすさを示す情報を作成する。具体的には、サーバ20は分析部22において、収集したセンサ情報を含むビッグデータをAI等の技術によって処理することで分析する。これにより、従来の分析では気付けなかった新たな情報を抽出することが可能となる。
各地域別の地盤の揺れやすさを示す情報(揺れやすさマップ情報)は、防災計画への反映などに有効活用できる。
【0039】
災害関連情報として、避難経路に関する情報を作成する場合について説明する。
この場合、マルチセンサ10は、災害時に、地震情報及び周辺情報を継続的に取得する。そのため、サーバ20が収集するセンサ情報には、建物倒壊、浸水、土砂災害、火災などに関する情報、人や車の有無及びその流れに関する情報が含まれる。サーバ20は、これらの情報を含むセンサ情報と他の情報(例えば、サーバ20が別途有している避難所情報(食料の余裕に関する情報を含んでもよい。)、他機関から提供される気象情報)の分析を行うことで、浸水地域や倒壊地域を避けるなど、適切な避難経路を作成する(避難経路算出部)。そして、サーバ20は、被災民が所持している携帯端末30から送信された当該携帯端末30の位置情報に基づいて、当該位置情報に対応する避難経路に関する情報を携帯端末30に送信する。
なお、本実施形態の災害情報システムによれば、電柱などを利用して高密度に配置された複数のマルチセンサ10からのセンサ情報を収集できるので、個別の被災民に応じたより適切な情報を提供することができる。
【0040】
また、災害情報システムは、複数の表示装置50(
図6における表示灯)を備える。複数の表示装置50は、それぞれ複数の既設構築物40に取り付けられる。サーバ20は、上述した避難経路に関する情報に応じた表示情報を各表示装置50へ送信する。表示装置50の各々は、送信された表示情報に基づいて、避難誘導情報を表示する。避難誘導情報は、例えば、進むべき方向を示す矢印表示である。
【0041】
また、災害情報システムは、停電地域の特定を行う。
電柱40に取り付けられたマルチセンサ10の電源は、当該電柱40から供給されるように構成されている。サーバ20は、複数のマルチセンサ10からのセンサ情報の送信の有無に基づいて停電地域を特定する(停電地域特定部)。これにより、停電地域を高い精度で特定することができる。
【0042】
また、サーバ20は、作成した様々な災害関連情報を、被災者の所持する携帯端末30やマスコミ、公的機関などの適切な配信先へ配信する(配信部23)。
【0043】
次に、
図3を用いて、マルチセンサ10の具体的構成について説明する。
【0044】
マルチセンサ10は、振動センサ120、入射波発生装置130、通信部110、記憶部140、及び情報処理部150を備えている。
【0045】
振動センサ120は、電柱上部などの高所に取り付けられている。振動センサ120が取り付けられる箇所は、例えば電柱の腕金である。振動センサ120は、地表から高さのある位置(例えば地表から5.0~5.3m)における揺れを示す振動情報(高所振動情報)を取得し、情報処理部150へ出力する。振動センサ120は、例えば、シート型振動センサである。シート型振動センサは、印刷技術を用いて安価に製造することができる。
【0046】
また、振動センサ120は、入射波発生装置130が発生させたマイクロ波又は超音波などの反射波を検出し、情報処理部150へ出力する。
【0047】
情報処理部150は、例えばCPU(Central Processing Unit)が記憶部140に格納されたプログラム141を実行することにより実現される機能部である。情報処理部150は、取得部151と、処理部152と、出力部153と、を備えている。
【0048】
例えば、取得部151は、振動センサ120から振動情報(高所振動情報)を受信する。そして、処理部152は、高所振動情報を後述する処理により、地表振動情報(地表での振動を示す情報)に変換する。そして、出力部153は、地表振動情報を通信部110へ出力する。
【0049】
通信部110は、センサ情報を中継装置に送信する。通信部110は、通信モジュールによって実現される。
【0050】
(変換処理)
次に、高所振動情報を地表振動情報に変換する処理について説明する。
【0051】
処理部152は、地表から所定の高さ位置の加速度(地震の揺れ)情報に含まれる三成分の時間領域信号の各々をフーリエ変換することによって、三成分の周波数領域の信号へ変換する。処理部152は、三成分の周波数領域の信号の各々に対して、フィルタリング処理を施す。具体的には、処理部152は、三成分の周波数領域の信号の各々に対して、周波数効果フィルタと、ハイカット(高域除去)フィルタ、と、ローカット(低域除去)フィルタとによって、フィルタリング処理を施す。
【0052】
図4は、マルチセンサにおいて行われる処理の一例を示す図である。
図4において、応答R(x,y,z)は、振動センサ120が検出した電柱1の地表からの所定の高さの位置の加速度を示し、xとyとは地表に平行な二成分(南北動と東西動)を示し、zは地表に垂直な成分(上下動)を示す。振動センサ120が計測することによって得られた電柱1の地表からの所定の高さの位置の加速度(地震の揺れ)を、地表の加速度(地震の揺れ)に変換するにあたり、地表に設置された振動センサ120Gを考える。振動センサ120Gに入力される震度I(x,y,z)を仮定する。入力I(x,y,z)は、振動センサ120Gが検出する地表での加速度(地震の揺れ)を示し、xとyとは地表に平行な二成分(南北動と東西動)を示し、zは地表に垂直な成分(上下動)を示す。
ここで、電柱1(柱状構築物)の応答特性の一例として、伝達関数行列を求めるために、地表での加速度(地震の揺れ)の成分(ベクトル)間のクロススペクトル行列である入力ベクトル間クロススペクトル行列
IISと、地表での加速度(地震の揺れ)の成分(ベクトル)と電柱1の地表から所定の高さの位置の加速度(地震の揺れ)の成分(ベクトル)との間のクロススペクトル行列である入出力ベクトル間クロススペクトル行列
RISとを定義する。
【0053】
【0054】
【0055】
式(1)-式(2)において、行列の各成分がクロススペクトルである。ここで、二つの時刻歴信号(地震記録)を、sx(t)、sy(t)とする。これらのフーリエ変換を、それぞれ、Sx(ω)、Sy(ω)で表す場合、「S*x(ω)・Sy(ω)」、「Sx(ω)・S*y(ω)」が両者のクロススペクトルとなる。(・)*は共役複素数を表す。
入出力ベクトル間クロススペクトル行列RISは、入力ベクトル間クロススペクトル行列IISと、伝達関数行列(周波数応答関数)Hとの積で表されるため、式(3)が得られる。
RIS=IIS・H (3)
式(3)の両辺に、入力ベクトル間クロススペクトル行列IISの逆行列であるIIS-1を左から乗算することによって、式(4)が得られる。
H=IIS-1・RIS (4)
さらに、偶然的誤差を除去することによって、安定的な、伝達関数を得ることができる。具体的には、複数の観測データのアンサンブル平均を求めると、式(5)が得られる。
E[RI
-S]=E[II
-S]・H (5)
式(5)において、II
-SとRI
-Sとは、正規化クロススペクトルであり、E・[・]は期待値である。式(5)から式(6)が得られる。
H=E[II
-S-1]・E[RI
-S] (6)
【0056】
処理部152は、式(7)に示されるように、伝達関数行列の逆行列H-1に、所定の期間の間に得られた加速度時刻歴(地震の揺れ)情報をフーリエ変換した結果(フィルタリング処理した三成分の周波数領域信号)ベクトルFk(ω)を、取得する。
FI(ω)=H-1・Fk(ω) (7)
処理部152は、地表の加速度(地震の揺れ)情報をフーリエ変換した結果FI(ω)ベクトルを逆フーリエ変換することによって、地表の加速度(地震の揺れ)の三成分の時間領域信号を取得する。以下、一例として、加速度時刻歴から震度を求める場合について説明する。
処理部152は三成分の時間領域信号を合成することによって、合成加速度を作成する。処理部152は、作成した合成加速度の絶対値がある値α以上になる時間の合計が0.3秒であるαを導出する。
処理部152は、2×log10α+0.94を算出することによって、地表震度を導出する。
【0057】
<作用効果>
次に、本実施形態の作用効果について説明する。
【0058】
本実施形態の災害情報システムは、複数のマルチセンサを備えている。マルチセンサの各々は、地震情報取得部において当該マルチセンサの位置における地震情報を取得すると共に、周辺情報取得部において当該マルチセンサの周辺情報(例えば、周辺の建物倒壊、浸水、土砂災害、火災などに関する情報、人や車の有無及びその流れに関する情報)を取得する。そして、マルチセンサは、センサ情報送信部において、地震情報及び周辺情報を含むセンサ情報をサーバへ送信する。サーバは、収集部においてセンサ情報を収集し、分析部においてセンサ情報を分析することで災害関連情報を作成する。
【0059】
特に、マルチセンサを、既に高密度に設けられている既設構築物(例えば、電柱、街灯)を利用して配置する。すなわち、マルチセンサが取り付けられるのが既に高密度に設けられている既設構築物であるので、マルチセンサを従来よりも高密度に配置することができる。これにより、高密度の観測網を構築することができ、広域かつ多数のセンサ情報をリアルタイムに収集することができる。
【0060】
更に、マルチセンサにおいて周辺情報の取得を担うのが、差分モニタ(差分情報を取得する装置、例えばドップラー効果を利用した装置)であるので、周辺情報の取得をカメラが担う態様と比較して、通信の負荷となる情報量を大幅に低減できると共に、プライバシーの問題を解決することができる。
【0061】
以上より、本実施形態の災害情報システムによれば、情報量やプライバシーの問題なく、広域かつ多数のセンサ情報をリアルタイムに獲得できるので、個々の地域住民に必要な個別の災害関連情報(例えば、地震の揺れやすさ等の災害への備えに関し有益な情報、避難経路や被災状況等の被災民の安全安心に関わる情報)の作成及び提供に資する。
【0062】
電柱は、既に高密度に設けられている。そのため、電柱を用いてマルチセンサ10を配置することで高密度にセンサ網を構築することが容易となる。また、電柱は、電源供給が容易である。この点においても、電柱を用いてマルチセンサ10を配置することに利点がある。
【0063】
特に、既設構築物として電柱や街灯、建物などを利用することで、従来と比較して非常に高密度(例えば数十メートルに1台)でマルチセンサを配置することができる。このような高密度でマルチセンサを配置し、高密度のセンサ網を構築したシステムとすることで、従来と比較して高分解能な地震の揺れや災害情報の把握を実現することができる。
【0064】
(太陽光発電)
マルチセンサ10の電源は、太陽光発電装置又は温度差発電装置によって供給されてもよい。この場合、例えば、マルチセンサ10が取り付けられる既設構築物40(例えば電柱)の最上部などに太陽光発電装置又は温度差発電装置を設置すればよい。電柱のみから電源供給する場合と異なり、停電発生時にもマルチセンサ10による情報取得を継続でき、電源供給の堅牢性を確保することができる。
なお、太陽光発電装置又は温度差発電装置からの電源供給は、電柱からの電源供給と併用してもよいが、マルチセンサの電源は、太陽光発電装置又は温度差発電装置のみから供給されるように構成してもよい。
【0065】
また、本実施形態では、振動センサ120が、印刷技術により製造できるシート型振動センサである。このため、災害情報システムの構築のため多数必要となる振動センサ120の製造コストが抑えられ、もって災害情報システムの実現が容易となる。
【0066】
〔補足説明〕
停電が発生し、マルチセンサ10に電源が供給されなくなった場合に、
図5に示すように、ドローンによる無線給電が行われるようにしてもよい。この場合、例えば以下のように構成すればよい。
すなわち、サーバ20は、センサ情報の送信の有無に基づいて、電源が供給されていないマルチセンサ10を特定する。また、サーバ20は、複数の給電用ドローンからの位置情報を受信し、電源が供給されていないマルチセンサ10(以下、給電すべきマルチセンサ10)に距離的に近い給電用ドローンを特定する。そして、サーバ20は、この給電用ドローンに給電すべきマルチセンサ10の位置情報を送信する。給電用ドローンは、受信した位置情報に基づいて、給電すべきマルチセンサ10まで自動飛行し、マルチセンサ10に無線による給電を行う。
【0067】
また、上記実施形態では、マルチセンサ10が、地震情報を取得するためにシート型振動センサ120を備える例を説明したが、本発明はこれに限られず、シート型以外の振動センサであってもよい。
【0068】
また、上記実施形態では、マルチセンサ10において、高所振動情報を地表振動情報に変換する処理を行う例を説明したが、本発明はこれに限定されない。そのため、本開示の「地震情報」は、電柱上部における振動を地表の振動に変換した情報でなく、電柱上部(地表から高さのある位置)における振動情報であってもよい。
【0069】
また、上記実施形態では、マルチセンサ10が取り付けられる複数の既設構築物40が、電柱である例を主に説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、電柱以外の既設構築物のみにマルチセンサ10を取り付けて災害情報システムを構成してもよい。
【0070】
また、上記実施形態では、マルチセンサ10がシート型振動センサ及び入射波発生装置を含んで構成され、地震情報と周辺情報を取得する例を説明したが、マルチセンサは、その他にも、温度センサ、雨量計、風速計、地滑りセンサ、降雪量センサなどを含んで構成されてもよい。
【符号の説明】
【0071】
10 マルチセンサ
20 サーバ
21 収集部
22 分析部
23 配信部(災害関連情報配信部)
30 携帯端末
40 電柱(既設構築物)
50 表示装置
110 通信部(センサ情報送信部)
120 シート型振動センサ(振動センサ)
130 入射波発生装置
150 情報処理部
151 取得部(高所振動取得部)
152 処理部(振動情報変換部)
153 出力部