(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-04
(45)【発行日】2022-10-13
(54)【発明の名称】角加速度センサ
(51)【国際特許分類】
G01P 15/02 20130101AFI20221005BHJP
G01P 15/12 20060101ALI20221005BHJP
【FI】
G01P15/02 B
G01P15/12 D
(21)【出願番号】P 2018173104
(22)【出願日】2018-09-14
【審査請求日】2021-09-02
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、委託研究「人工知能技術適用によるスマート社会の実現/空間の移動分野/空間移動時のAI融合高精度物体認識システムの研究開発」に係る産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002675
【氏名又は名称】弁理士法人ドライト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】下山 勲
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼畑 智之
(72)【発明者】
【氏名】菅 哲朗
(72)【発明者】
【氏名】高橋 英俊
【審査官】森 雅之
(56)【参考文献】
【文献】特許第6548067(JP,B2)
【文献】米国特許出願公開第2015/0260518(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01P15
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の検出軸まわりの角加速度を検出する角加速度センサにおいて、
管状に形成され、前記検出軸を周回して両端が接続したチャネル部と、
前記チャネル部を横断して設けられたカンチレバー部と、
前記チャネル部の内部に充填され、前記カンチレバー部により移動が制限された充填材と
を備え、
前記チャネル部は、前記検出軸と直交する平面上で渦巻き状に巻回されており、
前記充填材の慣性力により変形する前記カンチレバー部の変形量に基づいて前記角加速度を検出する角加速度センサ。
【請求項2】
前記チャネル部は、前記検出軸の軸方向において異なる位置に設けられており、巻回方向が互いに逆方向である第1チャネルと第2チャネルとを有し、
前記第1チャネルと前記第2チャネルとは、内側端部同士が接続し、外側端部同士が接続している請求項
1に記載の角加速度センサ。
【請求項3】
所定の検出軸まわりの角加速度を検出する角加速度センサにおいて、
管状に形成され、前記検出軸を周回して両端が接続したチャネル部と、
前記チャネル部を横断して設けられたカンチレバー部と、
前記チャネル部の内部に充填され、前記カンチレバー部により移動が制限された充填材と
を備え、
前記チャネル部は、
前記検出軸の軸方向に沿って螺旋状に巻回された構造を有し、前記検出軸の軸方向において異なる位置に設けられており、前記検出軸と直交する平面に対して面対称である第3チャネルと第4チャネルとを有し、
前記カンチレバー部は、前記第3チャネルと前記第4チャネルとのそれぞれに設けられて
おり、
前記充填材の慣性力により変形する前記カンチレバー部の変形量に基づいて前記角加速度を検出する角加速度センサ。
【請求項4】
所定の検出軸まわりの角加速度を検出する角加速度センサにおいて、
管状に形成され、前記検出軸を周回して両端が接続したチャネル部と、
前記チャネル部を横断して設けられたカンチレバー部と、
前記チャネル部の内部に充填され、前記カンチレバー部により移動が制限された充填材と
を備え、
前記チャネル部は、前記検出軸を周回する巻回軸を中心として螺旋状に巻回された第5チャネルを有
し、
前記充填材の慣性力により変形する前記カンチレバー部の変形量に基づいて前記角加速度を検出する角加速度センサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、角加速度センサに関するものである。
【背景技術】
【0002】
角加速度を検出する角加速度センサは、近年のMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)技術の進展によって小型化が進み、例えば、ロボットの運動制御、自動車のナビゲーションシステム、ゲーム機のモーションセンシング機能などの用途に急速に広がりつつある。
【0003】
近年では、非特許文献1,2に示すように、円環中の流体を利用した角加速度センサが提案されている。角加速度センサは、流体の経路を横切るようにピエゾ抵抗型カンチレバーが設けられている。流体が経路を流れることにより、カンチレバーが流体により押されて変形する。カンチレバーは、変形量に応じて電気抵抗値が変化する。このような構造の角加速度センサは、加速度の影響や他軸感度が小さく、また高周波領域での検出が可能であるため注目されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】C.Andreou, Y.Pahitas, and J.Georgiou, “Bio-Inspired Micro-Fluidic Angular-Rate Sensor for Vestibular Prostheses”, Sensors, vol.14, 13173-13185, 2014.
【文献】S.Cheng, M.Fu, M.Wang, L.Ming, H.Fu, and T.Wang, “Dynamic Fluid in a Porous Transducer-Based Angular Accelerometer”, Sensors, vol.17, 416, 2017.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、非特許文献1,2の角加速度センサは、小型化すると大きさの2乗に比例して感度が低下する。さらに、感度の低下に伴って他軸感度が相対的に増大する。
【0006】
本発明は、上記課題を鑑みてなされたものであり、小型化と高感度化とを実現できる角加速度センサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の角加速度センサは、所定の検出軸まわりの角加速度を検出する角加速度センサにおいて、管状に形成され、前記検出軸を周回して両端が接続したチャネル部と、前記チャネル部を横断して設けられたカンチレバー部と、前記チャネル部の内部に充填され、前記カンチレバー部により移動が制限された充填材とを備え、前記充填材の慣性力により変形する前記カンチレバー部の変形量に基づいて前記角加速度を検出する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の角加速度センサによれば、小型化と高感度化とを実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】第1実施形態の角加速度センサの概略図である。
【
図2】第1実施形態の角加速度センサの分解斜視図である。
【
図4】
図3のA-A線に沿った検知部の断面図である。
【
図5】第1実施形態の角加速度センサの角加速度に対する応答結果を示すグラフである。
【
図6】第1実施形態の角加速度センサの周波数応答と多軸感度を示すグラフである。
【
図7】第2実施形態の角加速度センサの概略図である。
【
図8】第2実施形態の角加速度センサの分解斜視図である。
【
図9】第2実施形態の角加速度センサの側面図である。
【
図10】ホイートストンブリッジ回路を説明する説明図である。
【
図11】第2実施形態の角加速度センサの作用を説明する説明図である。
図11(a)は角加速度センサをz軸からみた図である。
図11(b)は角加速度センサをx軸からみた図である。
図11(c)は角加速度センサをy軸からみた図である。
【
図12】第2実施形態の角加速度センサの角加速度に対する応答結果を示すグラフである。
【
図13】第2実施形態の角加速度センサの周波数応答と多軸感度を示すグラフである。
【
図14】チャネル部の変形例を説明する説明図である。
【
図15】チャネル部の別の変形例を説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[第1実施形態]
図1は、角加速度センサ10の概略図である。角加速度センサ10は、所定の検出軸まわりの角加速度を検出するために用いられる。以下の説明では、角加速度センサ10により角加速度を検出する検出軸を、互いに直交するx軸、y軸、およびz軸のうち、z軸とする。
【0011】
図1に示すように、角加速度センサ10は、パッケージ11と、センサ部12と、回路基板13とを備える。パッケージ11とセンサ部12と回路基板13とは、例えばねじを用いて一体化されている。
【0012】
パッケージ11は、蓋板11aと支持板11bにより形成される。蓋板11aと支持板11bは平板である。蓋板11aと支持板11bの平面形状は、この例では、角を面取りした略矩形状とされている。蓋板11aと支持板11bは、例えば、金属や樹脂などにより形成される。
【0013】
センサ部12は、後述するカンチレバー部15(
図2参照)によって、検出軸まわりの角加速度を検出する。センサ部12は、蓋板11aと支持板11bの間に配置されている。なお、以下の説明では、蓋板11a側を上側とし、支持板11b側を下側とする。センサ部12は、管状に形成され、検出軸を周回して両端が接続したチャネル部14を有する。詳しくは後述するが、本実施形態の場合、チャネル部14は、検出軸と直交する平面上で渦巻き状に巻回されている。
【0014】
回路基板13は、センサ部12の下側に配置されており、図示しないケーブルを介して、センサ部12と電気的に接続する。回路基板13は、センサ部12によって検出される角加速度に応じた検出信号を出力する検出回路を有する。検出回路として、例えば増幅回路やブリッジ回路などが設けられる。
【0015】
図2を用いて角加速度センサ10の構成を詳細に説明する。角加速度センサ10は、チャネル部14と、カンチレバー部15を有する検知部16と、充填材17とを備える。
【0016】
チャネル部14は、第1チャネル21と第2チャネル22とを有する。第1チャネル21と第2チャネル22とは、検出軸の軸方向において異なる位置に設けられている。この例では、第1チャネル21が上側に設けられ、第2チャネル22が下側に設けられている。
【0017】
第1チャネル21は、検出軸と直交する平面上で渦巻き状に巻回されている。第2チャネル22も、検出軸と直交する平面上で渦巻き状に巻回されている。第1チャネル21と第2チャネル22とは、巻回方向が互いに逆方向である。この例では、第1チャネル21の巻回方向は、内側端部から外側端部に向けて反時計回りである。したがって、第2チャネル22の巻回方向は、内側端部から外側端部に向けて時計回りである。第1チャネル21と第2チャネル22の巻き数は、チャネル部14の巻き数に対応する。
【0018】
第1チャネル21は、例えば、Si基板の表面に、フォトリソグラフィとDRIE(Deep Reactive Ion Etching)により渦巻き状の溝を形成し、溝を覆うように上からガラス基板を貼り付けることにより形成される。第2チャネル22の形成方法については、渦巻き状の溝を第1チャネル21とは反対回りに形成すること以外は第1チャネル21と同様にして形成されるので、説明を省略する。
【0019】
第1チャネル21は、上部ハウジング23に設けられている。上部ハウジング23は、第1チャネル21の内側端部に対応する位置に設けられた内側貫通孔23aと、第1チャネル21の外側端部に対応する位置に設けられた外側貫通孔23bとを有する。
【0020】
第2チャネル22は、下部ハウジング24に設けられている。下部ハウジング24は、第2チャネル22の内側端部に対応する位置に設けられた内側貫通孔24aと、第2チャネル22の外側端部に対応する位置に設けられた外側貫通孔24bとを有する。
【0021】
第1チャネル21と第2チャネル22とは、内側貫通孔23aと内側貫通孔24aを介して内側端部同士が接続し、外側貫通孔23bと外側貫通孔24bを介して外側端部同士が接続している。これにより、第1チャネル21の内部と第2チャネル22の内部とが連通する。
【0022】
検知部16は、上部ハウジング23と下部ハウジング24の間に配置されている。検知部16のカンチレバー部15は、外側貫通孔23bと外側貫通孔24bの間に配置される。これにより、カンチレバー部15は、チャネル部14を横断して設けられている。
【0023】
図3および
図4を用いて検知部16を説明する。
図3は、検知部16の平面図である。
図4は、
図3のA-A線に沿った断面図である。検知部16は、開口26が形成された基板27に、開口26を閉塞するように設けられている(
図4)。検知部16は、Si層31と、絶縁層32と、上部Si層33と、ピエゾ抵抗層34と、電極層35とにより形成される。上部Si層33とピエゾ抵抗層34とによりカンチレバー部15が形成される。なお、
図3では基板27の図示を省略している。
【0024】
検知部16は、厚さ方向に貫通する隙間37を有する。検知部16の厚さ方向は、Si層31、絶縁層32、上部Si層33、ピエゾ抵抗層34、および電極層35の積層方向に沿った方向である。隙間37は、カンチレバー部15の一側と他側とを接続する。
【0025】
隙間37は、後述する充填材17の流通が抑制される大きさ(幅)に形成される。隙間37の幅は、充填材17の分子の平均自由行程の約100倍以下であることが好ましい。隙間37の幅が充填材17の分子の平均自由行程の100倍より大きいと、隙間37において充填材17の漏れが生じ感度が低下するからである。
【0026】
隙間37は、カンチレバー部15の外縁に形成されている(
図3)。上部Si層33とピエゾ抵抗層34とが隙間37で画定されることにより、カンチレバー部15が形成される。
【0027】
カンチレバー部15は、平板状の受圧部38と、受圧部38の一側面に一体に形成されたヒンジ部39とを有し、ヒンジ部39が固定端とされ、受圧部38が自由端とされている。カンチレバー部15は、一側に生じる圧力と他側に生じる圧力との圧力差によって、ヒンジ部39を中心に弾性変形する。
【0028】
充填材17は、第1チャネル21の内部と第2チャネル22の内部、すなわちチャネル部14の内部に充填されている(
図2参照)。充填材17は、チャネル部14を横断するカンチレバー部15により移動が制限されている。充填材17としては、流体またはゲルが用いられる。流体は、液体または気体である。液体としては、例えば、水、シリコンオイル、イオン液体などが用いられる。気体としては、例えば、二酸化炭素、キセノンなどが用いられる。ゲルとしては、例えば、コラーゲン、アガロースゲルなどが用いられる。
【0029】
上記のように構成された角加速度センサ10は、
図1に示す矢印方向に回転すると、チャネル部14の内部に充填された充填材17がカンチレバー部15によって押される。これによって、充填材17は、チャネル部14と一体的に回転する。カンチレバー部15には、充填材17をチャネル部14と一体的に回転させるために必要な力、すなわち充填材17の慣性力が作用する。このとき、カンチレバー部15に生じる圧力ΔPは、以下の数式(1)によって表される。
【0030】
【0031】
ρは、充填材17の密度である。αzは、検出軸としてのz軸まわりの角加速度である。rは、チャネル部14の所定位置における半径である。rは、以下の数式(2)によって表される。
r=r0(1-θ/θ0) ・・・(2)
【0032】
r0は、チャネル部14の外側端部における半径である。θは、チャネル部14の所定位置における角度である。θ0は、チャネル部14の巻き数を決定する角度である。θは、0<θ<θ0-πの範囲内である。θは、検出軸と直交する平面上において、チャネル部14の内側端部と外側端部とを結ぶ直線と、チャネル部14の内側端部と所定位置における点とを結ぶ直線とのなす角として表される。θ0は、例えば、チャネル部14の巻き数が1の場合は2πとされ、チャネル部14の巻き数が25の場合は50πとされる。
【0033】
カンチレバー部15は、作用する圧力ΔPによってヒンジ部39を中心として弾性変形する。そうすると、カンチレバー部15は、変形量に応じて電気抵抗値が変化する。角加速度センサ10は、カンチレバー部15の抵抗変化率を測定することにより圧力ΔPを計測し、これにより角加速度αを測定することができる。
【0034】
角加速度センサ10は、チャネル部14の巻き数に比例して充填材17の慣性力が増大するので、小型化と高感度化とを実現できる。
【0035】
実際に、長さ80μm、幅80μm、厚さ0.15μmのカンチレバー部15を有する角加速度センサ10を製造し、検出軸まわりの角加速度に対する応答を計測した。隙間37の幅は、1μmとした。チャネル部14は、管路の幅が400μm、管路の高さが500μmであり、第1チャネル21と第2チャネル22のそれぞれの巻き数が24である。充填材17として、空気(ρ=1.0kg/m3)を用いた。
【0036】
角加速度センサ10を図示しない回転テーブルの上に固定し、振幅π/2[rad/s]、1[Hz]で正弦波駆動したときの角加速度に対する応答結果を
図5に示す。
図5は、縦軸が抵抗変化率ΔR/R、横軸が角加速度αである。
図5より、角加速度センサ10は、角加速度に対して線形に応答していることが確認できる。
【0037】
角加速度センサ10の回転運動の周波数応答を計測した結果を
図6に示す。
図6は、縦軸が角加速度感度、横軸が周波数である。
図6において、点線はz軸まわりの角加速度α
zの感度を示し、一点鎖線はx軸まわりの角加速度α
xの感度を示し、実線はy軸まわりの角加速度α
yの感度を示す。
図6より、角加速度センサ10は、z軸まわりの角加速度に対し、1Hzから100Hzにかけて一定の感度で応答していることが確認できる。さらに、角加速度センサ10を、回転テーブルに対し90°傾けて配置し、x軸まわりの角加速度感度と、y軸まわりの角加速度感度との評価を行った。
図6より、x軸まわりの角加速度感度とy軸まわりの角加速度感度とは、z軸まわりの角加速度感度に対して、1/100程度となることが確認できた。
【0038】
[第2実施形態]
図7に示す角加速度センサ40は、チャネル部42の構成が上記第1実施形態と異なる。チャネル部42は第3チャネル43と第4チャネル44とを有する。本図では、第3チャネル43が上側に設けられており、第4チャネル44が下側に設けられている。以下の説明では、上記第1実施形態と同様の構成については説明を省略する。
【0039】
図8に示すように、第3チャネル43は、上部ハウジング46と下部ハウジング47とにより形成されている。上部ハウジング46と下部ハウジング47は、例えばアルミニウムにより形成される。上部ハウジング46は、半円形状の溝49と、溝49の一端に設けられた貫通穴50と、溝49の他端に設けられた貫通穴51と、溝49を塞ぐ蓋部材52とを有する。溝49は、上部ハウジング46の上面に形成されている。下部ハウジング47は、半円形状の溝53と、溝53の一端に設けられた貫通穴54と、溝53の他端に設けられた貫通穴55と、溝53を塞ぐ蓋部材56とを有する。蓋部材56は、例えばガラスにより形成される。溝53は、下部ハウジング47の下面に形成されている。貫通穴50と貫通穴54とが接続し、貫通穴51と貫通穴55とが接続する。第3チャネル43は、上部の溝49と下部の溝53とが接続することにより、検出軸の軸方向に沿って螺旋状に巻回された構造を有する。本図では、第3チャネル43の巻き数を1としてある。貫通穴50と貫通穴54との間にはカンチレバー部58を有する検知部59が配置されている。カンチレバー部58は、カンチレバー部15と同様の構成を有する。検知部59は、検知部16と同様の構成を有する。
【0040】
第4チャネル44は、上部ハウジング60と下部ハウジング61とにより形成されている。上部ハウジング60と下部ハウジング61は、例えばアルミニウムにより形成される。上部ハウジング60は、半円形状の溝62と、溝62の一端に設けられた貫通穴63と、溝62の他端に設けられた貫通穴64と、溝62を塞ぐ蓋部材65とを有する。溝62は、上部ハウジング60の上面に形成されている。下部ハウジング61は、半円形状の溝66と、溝66の一端に設けられた貫通穴67と、溝66の他端に設けられた貫通穴68と、溝66を塞ぐ蓋部材69とを有する。蓋部材69は、例えばガラスにより形成される。溝66は、下部ハウジング61の下面に形成されている。貫通穴63と貫通穴67とが接続し、貫通穴64と貫通穴68とが接続する。これにより、第4チャネル44は、上部の溝62と下部の溝66とが接続することにより、検出軸の軸方向に沿って螺旋状に巻回された構造を有する。本図では、第4チャネル44の巻き数を1としてある。貫通穴63と貫通穴67との間にはカンチレバー部70を有する検知部71が配置されている。カンチレバー部70は、カンチレバー部15と同様の構成を有する。検知部71は、検知部16と同様の構成を有する。
【0041】
図9に示すように、第3チャネル43の溝49は、第4チャネル44の溝66の上側に配置されている。第3チャネル43の溝53は、第4チャネル44の溝62の上側に配置されている。すなわち、チャネル部42は、検出軸の軸方向において異なる位置に設けられており、検出軸と直交する平面Pに対して面対称である第3チャネル43と第4チャネル44とを有する。チャネル部42の巻き数は、第3チャネル43と第4チャネル44の巻き数に対応する。
図9は、角加速度センサ40の一部の側面図であり、x軸方向において、角加速度センサ40をカンチレバー部58,70が設けられた面側(
図8参照)からみた図である。
【0042】
第2実施形態では、回路基板13は、
図10に示すホイートストンブリッジ回路72を有する。ホイートストンブリッジ回路72により、第3チャネル43に設けられたカンチレバー部58の電気抵抗値と、第4チャネル44に設けられたカンチレバー部70の電気抵抗値との差分値が、検出信号として出力される。
【0043】
図11を用いて、角加速度センサ40の作用を説明する。
図11(a)は、z軸方向において、角加速度センサ40を上側からみた図である。
図11(b)は、x軸方向において、角加速度センサ40をカンチレバー部58,70が設けられた面側(
図8参照)からみた図である。
図11(c)は、y軸方向において、角加速度センサ40を溝53,62が設けられた面側からみた図である。
図11において、α
zはz軸まわりの角加速度を示し、α
xはx軸まわりの角加速度を示し、α
yはy軸まわりの角加速度を示す。なお、
図11では、第3チャネル43の部分のみを示し、第4チャネル44の部分は図示を省略している。
【0044】
角加速度センサ40は、
図11(a)に示す矢印方向、すなわちz軸まわりに回転すると、チャネル部42の内部に充填された充填材17の慣性力によって、カンチレバー部58,70のそれぞれに圧力ΔPが生じる。カンチレバー部58,70に生じる圧力ΔPは、以下の数式(3)によって表される。rは、
図11(a)に示すリング構造、すなわちチャネル部42の半径である。
ΔP=2π・ρ・r
2・α
z ・・・(3)
【0045】
カンチレバー部58は上側へ向けて弾性変形し、カンチレバー部70は下側へ向けて弾性変形するので、ホイートストンブリッジ回路72により出力される検出信号は倍増する。すなわち、角加速度センサ40は、z軸まわりの角加速度感度が倍増する。
【0046】
角加速度センサ40は、
図11(b)に示す矢印方向、すなわちx軸まわりに回転する場合、カンチレバー部58,70は弾性変形しないので、検出信号は出力されない。これは、x軸まわりに回転した際に、充填材17に慣性力を発生させるリング構造が存在しないからである。したがって、角加速度センサ40は、x軸まわりの角加速度感度をほぼ有しない。
【0047】
一方、角加速度センサ40は、
図11(c)に示す矢印方向、すなわちy軸まわりに回転する場合、充填材17に慣性力を発生させるリング構造が存在するので、カンチレバー部58,70は弾性変形する。カンチレバー部58,70に生じる圧力ΔPは、数式(3)に基づき計算することができる。この場合のrは、
図11(c)に示すリング構造の半径とされる。このため、充填材17に発生する慣性力は、z軸まわりに回転する場合と比較して小さい。さらに、カンチレバー部58,70は同じ方向に弾性変形する。この結果、ホイートストンブリッジ回路72によりカンチレバー部58,70の各出力がキャンセルされる。したがって、角加速度センサ40は、y軸まわりの角加速度感度をほぼ有しない。
【0048】
角加速度センサ40は、チャネル部42の巻き数に比例して充填材17の慣性力が増大するので、角加速度センサ10と同様に、小型化と高感度化とを実現できる。さらに、角加速度センサ40は、検出軸の出力が倍増し、他の軸の出力がキャンセルされるので、より高感度化が図れる。
【0049】
実際に、チャネル部42の半径が17.5mmである角加速度センサ40を製造し、検出軸まわりの角加速度に対する応答を計測した。チャネル部42は、管路の幅が2mm、管路の高さが2mmである。充填材17として純水(ρ=1000kg/m3)を用いた。カンチレバー部58,70は、長さ100μm、幅80μm、厚さ0.3μmである。カンチレバー部58,70の隙間37は、1μmとした。
【0050】
角加速度センサ40を図示しない回転テーブルの上に固定し、振幅π/2[rad/s]、1[Hz]で正弦波駆動したときの角加速度に対する応答結果を
図12に示す。
図12は、縦軸が抵抗変化率ΔR/R、横軸が角加速度αである。
図12より、角加速度センサ40は、角加速度に対して線形に応答していることが確認できる。
【0051】
角加速度センサ40の回転運動の周波数応答を計測した結果を
図13に示す。
図13は、縦軸が角加速度感度、横軸が周波数である。
図13において、点線はz軸まわりの角加速度α
zの感度を示し、実線はy軸まわりの角加速度α
yの感度を示す。なお、x軸まわりの角加速度感度は図示していない。
図13より、角加速度センサ40は、z軸まわりの角加速度に対し、0.1Hzから100Hzにかけて一定の感度で応答していることが確認できる。さらに、角加速度センサ40を、回転テーブルに対し90°傾けて配置し、y軸まわりの角加速度感度の評価を行った。
図13より、y軸まわりの角加速度感度は、z軸まわりの角加速度感度に対して、1/100程度となることが確認できた。
【0052】
本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨の範囲内で適宜変更することが可能である。
【0053】
例えば、チャネル部14の構成とチャネル部42の構成を組み合わせてもよい。例えば、第1実施形態の角加速度センサ10において、チャネル部14の他、検出軸の軸方向において異なる位置に設けられており、検出軸と直交する平面に対して面対称であるチャネル部とを設けてもよい。
【0054】
第1実施形態の角加速度センサ10において、第1チャネル21と第2チャネル22のセットを2以上設けてもよい。
【0055】
以下、チャネル部の変形例を説明する。チャネル部は、環状に形成された環状体と、この環状体の外周面に螺旋状に設けられた第5チャネルとにより構成してもよい。環状体は、例えば、中心曲線が半径Rの円(大円)であり、周方向に直交する断面形状が半径rの円(小円)であるトーラス形状とされる。第5チャネルは、環状体に沿って螺旋状に巻回しながら検出軸を周回している。すなわち、第5チャネルは、検出軸を周回する巻回軸を中心として螺旋状に巻回されている。第5チャネルは、両端が接続して閉曲線をなしている。
【0056】
第5チャネルの形状は、第5チャネル上の所定位置における点の位置ベクトルcを表す以下の数式(4)によって表される。
【0057】
【0058】
Rは、環状体の大円の半径である。rは、環状体の小円の半径である。mは、第5チャネルが螺旋状に巻回する巻回数である。nは、第5チャネルが検出軸を周回する周回数であり、チャネル部の巻き数に対応する。mとnとは互いに素である。パラメータθは、0≦θ≦2πの範囲内である。
【0059】
チャネル部は、環状体に第5チャネルが設けられた構成を有するものに限られず、数式(4)により表される第5チャネルを有するものであればよい。すなわち、チャネル部は、環状体を有さずに、数式(4)により表される第5チャネルのみを有するものでもよい。環状体を有さない場合は、第5チャネルの内部にトーラス状の空間が形成される。数式(4)において、トーラス状の空間の大円の半径がRとされ、トーラス状の空間の小円の半径がrとされる。
【0060】
以下、
図14と
図15を用いて、環状体に第5チャネルが設けられた構成を有するチャネル部の具体例を説明する。
【0061】
図14は、数式(4)においてr=0.1R、n=3、m=29としたときの第5チャネル74を有するチャネル部75の概略図である。
図14では環状体の図示を省略している。
図14では、第5チャネル74が検出軸を1周するごとに濃淡を変えて示している。
図15は、数式(4)においてr=0.1R、n=5、m=3としたときの第5チャネル76を有するチャネル部77の概略図である。
図15では環状体の図示を省略している。
図15では、第5チャネル76が検出軸を1周するごとに濃淡を変えて示している。チャネル部75とチャネル部77は、nとmが異なること以外は同じ構成を有する。以下、チャネル部75について説明し、チャネル部77の説明は省略する。
【0062】
チャネル部75の形成方法の一例を説明する。チャネル部75は、例えば、図示しない環状体と、管状に形成された第5チャネル74とを準備し、環状体に沿って第5チャネル74を巻き付けることにより形成される。環状体は、例えば、金属や樹脂などにより形成される。第5チャネル74は、例えば、シリコーンチューブとすることにより管状に形成される。または、紫外線の照射により硬化する厚膜の感光性フィルムをチャネル部75の断面形状となるようにフォトリソグラフィにより形成し、これを多層に繰り返すことでチャネル部75を形成する。
【0063】
チャネル部75を横断してカンチレバー部15が設けられ、チャネル部75の内部に充填材17が充填されることにより、角加速度センサが形成される。以下、チャネル部75を有する角加速度センサの作用について説明する。
【0064】
チャネル部75を有する角加速度センサが
図14に示すz軸まわりに1回転したとき、カンチレバー部15に生じる圧力ΔPは、以下の数式(5)によって表される。
【0065】
【0066】
数式(5)において、αは、角加速度ベクトルを示す。角加速度ベクトルαは、以下の数式(6)によって表される。
【0067】
【0068】
tは、第5チャネル74の接線ベクトルを示す。接線ベクトルtは、以下の数式(7)によって表される。
【0069】
【0070】
数式(5)において、α×cは、第5チャネル74上の所定位置における点が受ける角加速度を表す。-ρ(α×c)は、第5チャネル74の内部の充填材17が受ける体積あたりの慣性力を表す。
【0071】
チャネル部75を有する角加速度センサは、数式(5)より、x軸まわりの回転とy軸まわりの回転に対しては感度を有しておらず、z軸まわりの回転にのみ感度を有する。チャネル部75を有する角加速度センサの感度は、充填材17の密度ρ、第5チャネル74の形状を決める定数であるn,R,rにより表される。したがって、チャネル部75を有する角加速度センサは、小型化と高感度化とを実現できる。
【0072】
チャネル部77を有する角加速度センサについても、チャネル部75を有する角加速度センサと同様に、z軸まわりの回転にのみ感度を有する。チャネル部77を有する角加速度センサの感度は、充填材17の密度ρ、第5チャネル76の形状を決める定数であるn,R,rにより表される。したがって、チャネル部77を有する角加速度センサは、小型化と高感度化とを実現できる。
【0073】
チャネル部14,42,75,77の巻き数を適宜変更してもよい。チャネル部14,42,75,77の平面視における形状は、適宜変更することができ、例えば矩形状などとしてもよい。
【符号の説明】
【0074】
10,40 角加速度センサ
12 センサ部
13 回路基板
14,42,75,77 チャネル部
15,58,70 カンチレバー部
16,59,71 検知部
17 充填材
21 第1チャネル
22 第2チャネル
37 隙間
43 第3チャネル
44 第4チャネル
74,76 第5チャネル