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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-04
(45)【発行日】2022-10-13
(54)【発明の名称】応力ひずみ曲線の推定方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 3/303 20060101AFI20221005BHJP
【FI】
G01N3/303 D
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2019002701
(22)【出願日】2019-01-10
(65)【公開番号】P2020112409
(43)【公開日】2020-07-27
【審査請求日】2021-11-02
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 (1)平成30年7月1日頒布の「6th International Indentation Workshop PROGRAM BOOK,第93頁」に掲載 (2)平成30年7月2日~平成30年7月6日に集会名「6th International Indentation Workshop(IIW6)」においてポスター掲示 平成30年7月3日開催の「6th International Indentation Workshop(IIW6)」にて発表
(73)【特許権者】
【識別番号】504174135
【氏名又は名称】国立大学法人九州工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】松田 健次
(72)【発明者】
【氏名】森田 浩平
【審査官】野田 華代
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-87349(JP,A)
【文献】特開2003-294880(JP,A)
【文献】特開2018-99316(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/372060(US,A1)
【文献】特開昭50-40032(JP,A)
【文献】特開2006-285503(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 3/00-3/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端形状を示すパラメータが同一である衝突物が衝突した場合に同一の反発係数を与える物質の応力ひずみ曲線が集中する位置に基づくマスターカーブを取得するステップであって、前記パラメータと前記反発係数との組み合わせを変えていくことで得られた複数の前記位置の相関を示す前記マスターカーブを取得するステップと、
測定衝突物が測定対象物に衝突した場合の前記測定衝突物の先端形状に対応する前記パラメータと前記反発係数との関係を取得するステップと、
前記マスターカーブと、前記測定衝突物が前記測定対象物に衝突した場合の前記測定衝突物の先端形状に対応する前記パラメータと前記反発係数との関係と、に基づいて、前記測定対象物の応力ひずみ曲線を推定するステップと、を備える、
応力ひずみ曲線の推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、応力ひずみ曲線の推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
応力ひずみ曲線は、物質のひずみに対する応力の関係を表す曲線であり、当該物質の引張強さや降伏応力等の機械的性質に関する情報を含むものである。応力ひずみ曲線を実験的に求める一般的な方法としては、例えば引張試験が知られている。引張試験とは、棒状の試験片を両端から引っ張り、試験片のひずみに対する応力の関係を測定する試験である。
【0003】
上述した引張試験には、大規模な設備や時間を必要とする場合が多く、より簡易な方法で応力ひずみ曲線を求めたいという要望がある。特許文献1には、溶接金属部分に対して、その金属の化学成分と硬さに基づいてFEM(Finite Element Method:有限要素法)解析を行い、当該溶接金属部分の破断ひずみを求める方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-087349号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の方法では、材質に応じた破断ひずみの値を推定することができるが、破断に至るまでの応力とひずみの関係を推定することができない。すなわち、結局、簡易な実験で応力ひずみ曲線を推定することが難しいという問題があった。
【0006】
本発明は、このような問題を解決するためになされたものであり、簡易な実験に基づいて応力ひずみ曲線を推定することができる、応力ひずみ曲線の推定方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る応力ひずみ曲線の推定方法は、先端形状を示すパラメータが同一である衝突物が衝突した場合に同一の反発係数を与える物質の応力ひずみ曲線が集中する位置に基づくマスターカーブを取得するステップであって、前記パラメータと前記反発係数との組み合わせを変えていくことで得られた複数の前記位置の相関を示す前記マスターカーブを取得するステップと、測定衝突物が測定対象物に衝突した場合の前記測定衝突物の先端形状に対応する前記パラメータと前記反発係数との関係を取得するステップと、前記マスターカーブと、前記測定衝突物が前記測定対象物に衝突した場合の前記測定衝突物の先端形状に対応する前記パラメータと前記反発係数との関係と、に基づいて、前記測定対象物の応力ひずみ曲線を推定するステップと、を備えることを特徴としたものである。
【0008】
上記の構成によれば、簡易な実験に基づいて測定対象物の応力ひずみ曲線を推定することができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、簡易な実験に基づいて応力ひずみ曲線を推定することができる、応力ひずみ曲線の推定方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本実施形態に係る応力ひずみ曲線の推定方法の全体フローチャートである。
図2図1のステップS10の詳細フローチャートである。
図3】対面角136°、反発係数0.5に対応する応力ひずみ曲線の例である。
図4】対面角160°、反発係数0.5に対応する応力ひずみ曲線の例である。
図5】対面角172°、反発係数0.5に対応する応力ひずみ曲線の例である。
図6】マスターカーブの例である。
図7】衝突物の反発係数を求める実験の例である。
図8】マスターカーブに反発係数の実測値を適用した例である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明者は、鋭意研究の結果、所定の先端形状を有する衝突物が衝突した場合の反発係数と応力ひずみ曲線との間に相関があることを見出した。具体的には、先端形状を示すパラメータが同一である衝突物が衝突した場合の反発係数が所定値になるような物質の応力ひずみ曲線は、それぞれの当該パラメータと反発係数の組み合わせに固有の位置に集中することを見出した。本発明は、上記の知見に基づくものである。
【0012】
以下、本発明を適用した具体的な実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。ただし、本発明が以下の実施形態に限定される訳ではない。また、説明を明確にするため、以下の記載および図面は、適宜、簡略化されている。
【0013】
まず、図1を参照して、本実施形態に係る応力ひずみ曲線の推定方法について説明する。図1は、本実施形態に係る応力ひずみ曲線の推定方法の全体フローチャートである。図1に示すように、本実施形態に係る応力ひずみ曲線の推定方法は、ステップS10~ステップS30の工程を含む。
なお、本実施形態において、ステップS10~ステップS30の各工程は、CPU(Central Processing Unit)を備える制御部(不図示)によって実行されるものとして説明するが、可能であれば、各工程の一部または全部が作業者によって行われてもよい。
【0014】
ステップS10において、制御部は、先端形状を示すパラメータが同一である衝突物が衝突した場合に同一の反発係数eを与える物質の応力ひずみ曲線が集中する位置に基づいて作成されるマスターカーブを取得する。当該マスターカーブは、先端形状を示すパラメータと反発係数との組み合わせを変えていくことで得られた複数の前記位置の相関を示す。
次に、ステップS20において、制御部は、測定衝突物が測定対象物に衝突した場合の、当該測定衝突物の先端形状に対応するパラメータと反発係数eの関係を取得する。
次に、ステップS30において、制御部は、ステップS10で取得したマスターカーブと、ステップS20で取得したパラメータと反発係数eとの関係と、に基づいて、測定対象物の応力ひずみ曲線を推定する。
【0015】
後述するように、所定の先端形状を有する衝突物が衝突した場合の反発係数eと、応力ひずみ曲線との間には、相関がある。したがって、測定対象物に対する測定衝突物の先端形状を示すパラメータと反発係数eの関係を取得すれば、当該相関に基づいて作成されたマスターカーブを適用することによって、当該測定対象物の応力ひずみ曲線を推定することができる。
【0016】
本実施形態のステップS10で用いられる衝突物は、例えば、棒状のハンマの先端に針状のチップを備えたものとすることができる。ハンマ及びチップの材質は、ある程度の硬度を備えていればよく、例えば、ダイヤモンド、金属、合金、セラミックス、その他の無機材料などから、適宜組み合わせて用いることができる。ハンマとチップの材質は、異なっていてもよいし、同一であってもよい。
【0017】
チップの先端形状は特に限定されないが、本実施形態においては四角錐であるものとして説明する。チップの先端形状が四角錐である場合は、チップの対面角αを、衝突物の先端形状を示すパラメータとすることができる。チップの対面角αは、例えば30°~176°の範囲で適宜設定される。また、対面角αがα=136°のチップには、ビッカース硬さ試験に用いられる四角錐の圧子を好適に用いることができる。
【0018】
ここで、各工程の詳細について順に説明する。まず、図2を用いて、ステップS10の詳細を説明する。図2は、ステップS10の詳細なフローチャートである。図2に示すように、ステップS10は、ステップS11~ステップS14を備える。
【0019】
まず、ステップS11において、制御部は、複数の異なる物質に対して、先端形状を示すパラメータが同一である衝突物が衝突した際の反発係数eを推定する。すなわち本実施形態においては、制御部は、所定の対面角αを有する衝突物が衝突した際の反発係数eを推定する。例えば、まず制御部は、加工硬化係数aや、降伏応力b、加工硬化指数nのような物性が異なる複数の物質を仮想する。次いで、当該複数の物質に対して、対面角αの衝突物が衝突した際の反発係数eをFEM解析によって推定する。このとき、対面角αは、例えば30°~176°の範囲で適宜設定される。
【0020】
次に、ステップS12において、制御部は、所定の対面角αを有する衝突物が衝突した際の反発係数eが所定値になると推定された物質ごとに、応力ひずみ曲線を描画する。例えば具体的には、制御部は、次式(1)に各物質において仮定した加工硬化係数a、降伏応力b、及び加工硬化指数nを代入し、応力ひずみ曲線を推定する。ただし、式(1)中、εは塑性ひずみを表し、σ(ε)は応力を表すものとする。
σ(ε)=aε+b ・・・式(1)
なお、式(1)は、Ludwikの式として知られる応力ひずみ曲線の近似式である。制御部は、当該応力ひずみ曲線を、異なる近似式で近似してもよい。例えば、n乗硬化式や、Swiftの式などの近似式を用いてもよい。また、これらの式は、測定対象物の物質に合わせて適宜選択されてもよい。
また、制御部は、対面角α及び反発係数eの値が厳密に所定値と一致していない場合であっても、その誤差が小さければ許容するようにしてもよい。例えば、制御部は、反発係数eが0.5±0.01の範囲内の場合に反発係数eはe=0.5であるとみなすようにしてもよい。この場合、当該誤差の大きさはユーザによって任意に設定されうる。
【0021】
図3図5は、ステップS12において推定された応力ひずみ曲線の例である。図3図5の全てにおいて、縦軸は応力(MPa)、横軸は塑性ひずみを表している。
図3は、対面角αが136°の衝突物が衝突した際に反発係数eが0.5になると推定される物質の応力ひずみ曲線の例である。図4は、対面角αが160°の衝突物が衝突した際に反発係数eが0.5になると推定される物質の応力ひずみ曲線の例である。図5は、対面角αが172°の衝突物が衝突した際に反発係数eが0.5になると推定される物質の応力ひずみ曲線の例である。
【0022】
図3図5に示されるように、所定の対面角αを有する衝突物が衝突した場合の反発係数eが所定値になる物質の応力ひずみ曲線は、それぞれの対面角αと反発係数eの組み合わせに固有の位置(固有点Pα,e)に集中する。
例えば、図3では、塑性ひずみ約0.06、応力約3000MPa付近の位置(固有点P136,0.5)に応力ひずみ曲線が集中している。また、図4では、塑性ひずみ約0.02、応力約1000MPa付近の位置(固有点P160,0.5)に応力ひずみ曲線が集中している。また、図5では、塑性ひずみ約0.01、応力約500MPa付近の位置(固有点P172,0.5)に応力ひずみ曲線が集中している。
【0023】
上記のように応力ひずみ曲線が固有の位置に集中する理由については、現時点で未解明な部分も多い。しかしながら、実験的事実に基づいて、所定の対面角αを有する衝突物が衝突した場合の反発係数eが所定値になる物質の応力ひずみ曲線は、それぞれに特有の固有点Pα,eを通過すると考えられる。
【0024】
ステップS13において、制御部は、対面角αと反発係数eの組み合わせごとに、上記の固有点Pα,eを検出する。例えば、制御部は、対面角αと反発係数eの組み合わせごとに推定された応力ひずみ曲線の密度が最も高いところを固有点Pα,eとする。
なお、固有点Pα,eは厳密な点として規定されなくてもよく、ある程度の幅や面積をもった領域であってもよい。
【0025】
次に、ステップS14において、制御部は、固有点Pα,eの軌跡に基づいてマスターカーブを作成する。例えば、制御部は、対面角αと反発係数eの組み合わせごとに求めた固有点Pα,eを、応力-ひずみグラフ上にプロットする。次いで、制御部は、等しい対面角αに対応する固有点Pα,e同士を結ぶことによってマスターカーブを作成する。
【0026】
図6は、各固有点Pα,eの軌跡に基づいて作成されたマスターカーブの例である。図6には、対面角αがα=136°,160°,172°の衝突物が衝突した場合の反発係数eがe=0.4,0.5,0.6,0.7になる各物質の固有点Pα,eが、黒丸印で表されている。そして、同じ対面角αを有する固有点Pα,e同士が近似曲線によって結ばれている。本明細書中においては、当該近似曲線の集合をマスターカーブと呼ぶ。
なお、近似曲線には、例えば多項式曲線や指数曲線などの公知の曲線を適宜組み合わせて用いることができる。また、近似曲線は、直線形状であってもよいし、線分の集合であってもよい。
【0027】
ステップS10で制御部がマスターカーブを取得すると、図1及び図2に示すように、ステップS20に進む。ステップS20において、制御部は、測定衝突物が測定対象物に衝突した場合の、測定衝突物の先端形状に対応するパラメータと反発係数eとの関係を取得する。
【0028】
なお、測定衝突物の先端形状は特に限定されないが、本実施形態においては四角錐であるものとして説明する。測定衝突物の先端形状が四角錐であるとき、制御部は、測定衝突物の対面角αと反発係数eとの関係を取得する。このとき制御部は、予め実験等で求められた当該測定衝突物の対面角αと反発係数eとの関係を、ユーザの入力によって取得してもよい。
【0029】
なお、ステップS20における測定衝突物は、ステップS10における衝突物と同一の材質や形状を有していてもよいし、異なる材質や形状を有していてもよい。ただし、測定衝突物と衝突物は、反発係数eに関する物性が近いものであることが好ましい。例えば、衝突物及び測定衝突物の対面角αがいずれも136°である場合は、それぞれの質量が40倍程度異なっていてもほぼ同一の反発係数eを示すことがある。そのような条件のときは、衝突物と測定衝突物の質量が40倍程度異なっていても構わない。
【0030】
ここで、測定衝突物が測定対象物に衝突した場合の、測定衝突物の対面角αと反発係数eの関係を求める実験方法について簡単に説明する。
図7は、測定衝突物の反発係数eを求める実験の例を示す模式図である。図7の例において、測定衝突物は、ハンマ20の先端にチップ21を備えたものである。図7(a)には、静止した測定対象物10の上からハンマ20が鉛直方向に自由落下する様子が示されている。ハンマ20の先端には、ダイヤモンド製で対面角αのチップ21が備えられている。また、図7(b)には、図7(a)の後で測定対象物10に衝突したハンマ20が跳ね返る様子が示されている。測定対象物10に衝突する直前のハンマ20の速度をv、測定対象物10に衝突した直後のハンマ20の速度をvとすると、反発係数eは次式(2)で表される。
e=-v/v ・・・式(2)
【0031】
あるいは、反発係数eは、ハンマ20の落下時間の比に基づいて求めることもできる。例えば、初めにハンマ20が自由落下してから測定対象物10に衝突するまでの時間を時間t、測定対象物10に衝突したハンマ20が再び自由落下を開始するまでの時間を時間tとすると、反発係数eは次式(3)で表される。
e=t/t ・・・式(3)
また、反発係数eは、ハンマ20の高さに基づいて求めることもできる。例えば、自由落下する前のハンマ20の、測定対象物10から見た高さを高さh、測定対象物10に衝突したハンマ20が到達した最高点の高さを高さhとすると、反発係数eは次式(4)で表される。
e=(h/h1/2 ・・・式(4)
【0032】
以上に示すように、反発係数eは、引張試験のような実験に比べて簡単な物理実験で測定することができる。制御部は、測定衝突物の対面角αに対応する反発係数eを取得した後、ステップS30に進む。
【0033】
ステップS30において、制御部は、ステップS20で取得した測定衝突物の先端形状に対応するパラメータと反発係数eとの関係を、ステップS10で取得したマスターカーブに当てはめることによって、測定対象物の応力ひずみ曲線を推定する。本実施形態においては、制御部は、ステップS20で取得した対面角αと反発係数eとの関係を当該マスターカーブに当てはめる。
【0034】
例えば、測定対象物10に衝突したハンマ20の反発係数eの実測値が
(i) α=172°のときにe=0.63
(ii) α=160°のときにe=0.58
(iii) α=136°のときにe=0.52
であったとする。このとき制御部は、それぞれの対面角αと反発係数eとの関係をマスターカーブに当てはめることで、各対面角αと反発係数eの組み合わせに特有の固有点を推定する。例えば制御部は、図8に示すように、(i)α=172°,e=0.63に対応する固有点として、α=172°の固有点を結んだ曲線上において、e=0.6に対応する固有点とe=0.7に対応する固有点を3:7の距離で分けた位置を実測点P(i)とする。また、制御部は、(ii)α=160°,e=0.58に対応する固有点として、α=160°の固有点を結んだ曲線上において、e=0.5に対応する固有点とe=0.6に対応する固有点を8:2の距離で分けた位置を実測点P(ii)とする。また、制御部は、(iii)α=136°,e=0.52に対応する固有点として、α=136°の固有点を結んだ曲線上において、e=0.5に対応する固有点とe=0.6に対応する固有点を2:8の距離で分けた位置を実測点P(iii)とする。なお、図8において、各実測点P(i)、P(ii)、P(iii)は二重丸印で表されている。
【0035】
実測点P(i)は、対面角がα=172°の測定衝突物が衝突した場合の反発係数がe=0.63となる物質の応力ひずみ曲線が集中する位置に対応すると推定される。すなわち、対面角がα=172°の測定衝突物が衝突した場合の反発係数がe=0.63となる物質の応力ひずみ曲線は、実測点P(i)を通ると推定される。同様の理由により、対面角がα=160°の測定衝突物が衝突した場合の反発係数がe=0.58となる物質の応力ひずみ曲線は、実測点P(ii)を通ると推定される。また、対面角がα=136°の測定衝突物が衝突した場合の反発係数がe=0.52となる物質の応力ひずみ曲線は、実測点P(iii)を通ると推定される。
【0036】
以上のことから、測定対象物10の応力ひずみ曲線は、実測点P(i)、P(ii)、P(iii)の全てを通過するものと推定される。したがって、実測点P(i)、P(ii)、P(iii)を通るように引いた曲線が(図8の破線)、測定対象物10の応力ひずみ曲線であると推定できる。
なお、上記推定曲線を引く際は、Ludwikの式(上記式(1))を用いてフィッティングしてもよいし、n乗硬化式やSwiftの式などの、他の応力ひずみ曲線の近似式を用いてフィッティングしてもよい。また、これらの式は、測定対象物の物質に合わせて適宜選択されてもよい。
【0037】
以上で説明したように、応力ひずみ曲線の推定方法では、測定対象物10に衝突した測定衝突物(ハンマ20及びチップ21)の対面角α及び反発係数eの測定結果と、マスターカーブの形状と、に基づいて、測定対象物10の応力ひずみ曲線を推定することができる。したがって、簡易な実験に基づいて測定対象物10の応力ひずみ曲線を推定することができる。
なお、本発明は上記の実施形態に限られたものではなく、趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。
【0038】
例えば、上記の実施形態において、ステップS10は、ステップS11~S14を備えるものとして説明したが、ステップS10は必ずしもステップS11~S14を備えていなくてもよい。例えば、当該マスターカーブが既に別の手法によって求められている場合は、制御部は、ステップS10において、求められている当該マスターカーブを取得してもよい。
【0039】
また、ステップS11~S14において仮想される複数の物質は、それぞれ実質的に同一のヤング率を有するように設定されることが好ましい。このようにすることで、制御部は、固有点P(α,e)及びマスターカーブの形状をより精度よく求めることができる。ここで、ヤング率が実質的に同一であるとは、ヤング率の誤差が10%以内であることを意味し、5%以内であることが好ましい。また、ステップS10がステップS11~S14を備えていない場合は、制御部は、ステップS10において、実質的に同一のヤング率を有する複数の物質に対して求められたマスターカーブを取得することが好ましい。
【0040】
また、ステップS11~S14において仮想される複数の物質は、測定対象物10と実質的に同一のヤング率を有するように設定されることが好ましい。例えば、ヤング率が206GPaの炭素鋼を測定対象物10とする場合は、ステップS11~S14において仮想される複数の物質のヤング率を206GPaに設定することが好ましい。このようにすることで、制御部は、測定対象物10の応力ひずみ曲線をより精度よく推定することができる。また、ステップS10がステップS11~S14を備えていない場合は、制御部は、ステップS10において、測定対象物10と実質的に同一のヤング率を有する物質に対して求められたマスターカーブを取得することが好ましい。
【0041】
また、上記の実施形態では、衝突物及び測定衝突物の先端形状が四角錐である場合について説明したが、それぞれの先端形状は円錐や三角錐等の他の形状であってもよい。衝突物や測定衝突物の先端形状が円錐である場合は、その頂角を、当該衝突物や測定衝突物の先端形状を示すパラメータとすることができる。また、衝突物や測定衝突物の先端形状が三角錐である場合は、その対稜角を、当該衝突物や測定衝突物の先端形状を示すパラメータとすることができる。
【0042】
また、衝突物や測定衝突物の先端形状が円錐や三角錐等である場合、同じ高さで同じ体積を有する四角錐の対面角αを、当該衝突物や測定衝突物の先端形状を示すパラメータとしてもよい。この場合、例えば上記の実施形態において図3の応力ひずみ曲線を求める場合の衝突物の先端形状を三角錐とし、図4の応力ひずみ曲線を求める場合の衝突物の先端形状を円錐としても、同一のパラメータに基づいてマスターカーブを作成することができる。
【0043】
また、上記の実施形態では、ステップS10の後にステップS20を実行する例を説明したが、ステップS10とステップS20の順番は入れ替わっていてもよい。すなわち、制御部は、ステップS20の後にステップS10を実行するようにしてもよい。
【0044】
以上で説明した複数の構成例は、適宜組み合わせて実施されることもできる。これら複数の構成は、互いに異なる新規な特徴を有している。したがって、これら複数の構成は、互いに異なる目的又は課題を解決することに寄与し、互いに異なる効果を奏することに寄与する。
【符号の説明】
【0045】
10 測定対象物
20 ハンマ
21 チップ
α 対面角
e 反発係数
(α,e) 固有点
(i)、P(ii)、P(iii) 実測点
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8