(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-04
(45)【発行日】2022-10-13
(54)【発明の名称】鉛蓄電池
(51)【国際特許分類】
H01M 10/12 20060101AFI20221005BHJP
H01M 50/46 20210101ALI20221005BHJP
H01M 50/44 20210101ALI20221005BHJP
H01M 50/42 20210101ALI20221005BHJP
H01M 50/466 20210101ALI20221005BHJP
H01M 50/489 20210101ALI20221005BHJP
H01M 50/417 20210101ALI20221005BHJP
【FI】
H01M10/12 K
H01M50/46
H01M50/44
H01M50/42
H01M50/466
H01M50/489
H01M50/417
(21)【出願番号】P 2017232409
(22)【出願日】2017-12-04
【審査請求日】2020-11-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】昭和電工マテリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100169454
【氏名又は名称】平野 裕之
(74)【代理人】
【識別番号】100185591
【氏名又は名称】中塚 岳
(72)【発明者】
【氏名】原田 素子
(72)【発明者】
【氏名】島田 康平
(72)【発明者】
【氏名】木村 隆之
(72)【発明者】
【氏名】春名 博史
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 富生
【審査官】小森 利永子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/046498(WO,A1)
【文献】特開平09-289013(JP,A)
【文献】国際公開第2017/150279(WO,A1)
【文献】特開平07-201310(JP,A)
【文献】国際公開第2013/046499(WO,A1)
【文献】特開2017-054629(JP,A)
【文献】特開2016-177872(JP,A)
【文献】国際公開第2012/157311(WO,A1)
【文献】特開2017-142888(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/12
H01M 10/06
H01M 50/409-50/489
H01M 4/14
H01M 4/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極板と、
負極板と、
前記正極板と前記負極板との間に配置されたセパレータと、
前記正極板又は前記負極板と前記セパレータとの間に配置された膜体と、
を備え、
前記膜体は、アクリロニトリル
とハロゲン化モノマとをモノマ単位として有する
コポリマの繊維を含み、
前記コポリマにおけるアクリロニトリル単位の含有量は、コポリマを構成するモノマ単位の全量を基準として、50質量%以上であり、
前記セパレータが袋状のセパレータであり、前記正極板又は前記負極板が前記セパレータ内に収容されている、鉛蓄電池。
【請求項2】
前記膜体が、平均細孔径が20μm以下の細孔を有する、請求項
1に記載の鉛蓄電池。
【請求項3】
前記繊維に占める繊維径が5μm未満の繊維の割合が60%以上である、請求項1
又は2に記載の鉛蓄電池。
【請求項4】
前記繊維に占める繊維径が5μm以上10μm以下の繊維の割合が10%以上である、請求項1~
3のいずれか一項に記載の鉛蓄電池。
【請求項5】
前記膜体が前記セパレータ内に収容されている、請求項1~
4のいずれか一項に記載の鉛蓄電池。
【請求項6】
前記膜体の厚さが0.3mm以下である、請求項1~
5のいずれか一項に記載の鉛蓄電池。
【請求項7】
前記セパレータが、ポリエチレン又はポリプロピレンを含むセパレータである、請求項1~6のいずれか一項に記載の鉛蓄電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉛蓄電池に関する。
【背景技術】
【0002】
鉛蓄電池は、産業用に広く用いられており、例えば自動車のバッテリー、バックアップ用電源、及び電動車の主電源に用いられる。近年の自動車では、炭酸ガス排出規制対策、低燃費化等を目的として、発電制御、信号待ち等の際にエンジンを停止するアイドリングストップアンドスタートシステム(以下、「ISS」と称する。)が採用されるようになっている。
【0003】
アイドリングストップ中はオルタネータによる発電が行われないため、電動装備への電力は全て鉛蓄電池から供給され、鉛蓄電池では従来よりも深い放電が行われる。また、走行中もオルタネータの発電が制御されるため、充電不足の状態となる。
【0004】
鉛蓄電池において深い放電と充電不足とが繰り返されると、徐々に過放電状態となり、硫酸イオン(SO4
2-)が大幅に消費されることで電解液の比重が低下する。電解液の比重が低下すると負極板に生成された硫酸鉛(PbSO4)の溶解度が大きくなり、セパレータ内の細孔に鉛イオン(Pb2+)が浸透しやすくなる。過放電状態から充電するとセパレータの細孔内でPb2+が析出し、負極板と正極板の間で導電箇所が生じてしまう(この現象を浸透短絡と呼ぶ)ことがある。浸透短絡が発生すると、鉛蓄電池が突然故障するおそれがあるため、鉛蓄電池の信頼性を高めるためには、浸透短絡の抑制が求められる。過放電状態になりやすいISS車においては、浸透短絡を抑制する技術が特に重要となる。
【0005】
このような浸透短絡を抑制する技術として、例えば特許文献1では、第一繊維質層、第二繊維質層、及び2つの繊維質層間に挟まれている微細孔ポリマー層を有し、微細孔ポリマー層の平均孔径が1μm未満であり、第一繊維質層の厚さが少なくとも0.6mmであることを特徴とするセパレータが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1に記載されたようなセパレータを用いた鉛蓄電池では、浸透短絡が充分に抑制されているとは必ずしもいえない。そこで、本発明は、浸透短絡を好適に抑制できる鉛蓄電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、アクリルニトリル系ポリマの繊維を含む膜体を正極又は負極近傍に配置することで、浸透短絡を好適に抑制できることを見出した。本発明者らは、アクリロニトリル系ポリマが、過放電時にセパレータへのPb2+の浸透を低減することにより、浸透短絡の抑制が可能になったと推察している。
【0009】
すなわち、本発明は、一態様において、正極板と、負極板と、正極板と負極板との間に配置されたセパレータと、正極板又は負極板とセパレータとの間に配置された膜体と、を備え、膜体は、アクリロニトリルをモノマ単位として有するポリマの繊維を含む、鉛蓄電池である。
【0010】
一態様において、上記のポリマはコポリマである。
【0011】
一態様において、膜体は、平均細孔径が20μm以下の細孔を有する。
【0012】
一態様において、繊維に占める繊維径が、5μm未満の繊維の割合が60%以上である。一態様において、繊維に占める繊維径が5μm以上10μm以下の繊維の割合が、10%以上である。
【0013】
一態様において、セパレータは袋状のセパレータであり、正極板又は負極板と膜体とがセパレータ内に収容されている。
【0014】
一態様において、膜体の厚さは、0.3mm以下である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、浸透短絡を好適に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】一実施形態に係る鉛蓄電池の全体構成及び内部構造を示す斜視図である。
【
図2】一実施形態に係る鉛蓄電池の電極群を示す斜視図である。
【
図3】
図2におけるIII-III線に沿った矢視断面を示す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を適宜参照しながら、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0018】
図1は、一実施形態に係る鉛蓄電池の全体構成及び内部構造を示す斜視図である。
図1に示すように、本実施形態に係る鉛蓄電池1は、上面が開口している電槽2と、電槽2の開口を閉じる蓋3とを備えている。電槽2及び蓋3は、例えばポリプロピレンで形成されている。蓋3には、負極端子4と、正極端子5と、蓋3に設けられた注液口を閉塞する液口栓6とが設けられている。
図1に示した鉛蓄電池1は液式鉛蓄電池であるが、鉛蓄電池は、制御弁式鉛蓄電池であってもよい。
【0019】
電槽2の内部には、電極群7と、電極群7を負極端子4に接続する負極柱8と、電極群7を正極端子5に接続する正極柱(図示せず)と、希硫酸等の電解液とが収容されている。
【0020】
図2は、電極群7を示す斜視図である。
図2に示すように、電極群7は、板状の負極板9と、板状の正極板10と、負極板9と正極板10との間に配置されたセパレータ11とを備えている。電極群7は、複数の負極板9と正極板10とが、セパレータ11を介して、電槽2の開口面と略平行方向に交互に積層された構造を有している。すなわち、負極板9及び正極板10は、それらの主面が電槽2の開口面と垂直方向に広がるように配置されている。
【0021】
負極板9は、負極集電体12と、負極集電体12に保持され、金属鉛(Pb)を活物質として含む負極材13とを有している。正極板10は、正極集電体14と、正極集電体14上に保持され、二酸化鉛(PbO2)を活物質として含む正極材15とを有している。複数の負極板9における負極集電体12の耳部12a同士は、負極側ストラップ16で集合溶接されている。同様に、複数の正極板10における正極集電体14の耳部14a同士は、正極側ストラップ17で集合溶接されている。そして、負極側ストラップ16及び正極側ストラップ17が、それぞれ負極柱8及び正極柱を介して負極端子4及び正極端子5に接続されている。
【0022】
図3は、
図2におけるIII-III線に沿った矢視断面を示す模式断面図である。
図3に示すように、一実施形態において、負極板9とセパレータ11との間には、膜体18が設けられている。
【0023】
セパレータ11は、例えば袋状に形成されており、一実施形態において、負極板9及び膜体18は、セパレータ11内に収容されている。セパレータ11を形成する材料の例としては、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等が挙げられる。セパレータ11は、これらの材料で形成された織布、不織布、多孔質膜等にSiO2、Al2O3等の無機系粒子を付着させたものであってよい。
【0024】
セパレータ11の厚さは、好ましくは0.1mm以上0.5mm以下、より好ましくは0.2mm以上0.3mm以下である。セパレータ11の厚さが0.1mm以上であると、セパレータの強度を確保できる。セパレータ11の厚さが0.5mm以下であると、電池の内部抵抗の上昇を抑制できる。
【0025】
セパレータ11の平均孔径は、好ましくは10nm以上500nm以下、より好ましくは30nm以上200nm以下である。セパレータ11の平均孔径が10nm以上であると、硫酸イオンを好適に通過させ、硫酸イオンの拡散速度を確保できる。セパレータ11の平均孔径が500nm以下であると、鉛のデンドライトの成長が抑制され、短絡が生じにくくなる。
【0026】
膜体18は、一実施形態において、負極板9の表面を覆うように負極板9に密着した状態で設けられている。膜体18は、例えばシート状又は袋状であってよい。膜体18がシート状である場合、膜体18は、負極板9に巻きつけられるようにして負極板9の表面を覆っている。膜体18が袋状である場合、負極板9は、膜体18内に収容されている。
【0027】
膜体18は、アクリロニトリルをモノマ単位として有するポリマ(以下「アクリロニトリル系ポリマ」ともいう)の繊維を含んでいる。アクリロニトリル系ポリマは、モノマ単位としてアクリロニトリルのみを有するホモポリマであってよく、モノマ単位として、アクリロニトリルと、アクリロニトリルと共重合可能なその他のモノマとを有するコポリマであってもよい。
【0028】
その他のモノマとしては、エチレン、プロピレン等のオレフィンモノマ、ブタジエン等のジエンモノマ、スチレンモノマ、アミドモノマ、エステルモノマなどであってよい。その他のモノマは、その一部がハロゲンで置換されたハロゲン化モノマであってもよい。ハロゲン化モノマとしては、塩化ビニル、フッ化ビニル、塩化ビニリデン等が挙げられる。
【0029】
アクリロニトリル系ポリマは、好ましくは、モノマ単位として、アクリロニトリルと、アクリロニトリルと共重合可能なその他のモノマとを有するコポリマであり、より好ましくは、モノマとして、アクリロニトリルとハロゲン化モノマとを有するコポリマである。
【0030】
アクリロニトリル系ポリマがコポリマである場合、アクリロニトリル系ポリマにおけるアクリロニトリル単位の含有量は、アクリロニトリル系ポリマを構成するモノマ単位の全量を基準として、35質量%以上、50質量%以上、又は70質量%以上であってよく、また、85質量%以下であってよい。
【0031】
膜体18は、例えば、上述した繊維を含む不織布を備えている。不織布は、アクリロニトリル系ポリマの繊維に加えて、その他の有機繊維、無機繊維等を含んでいてもよい。その他の有機繊維としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ナイロン、アラミド等の合成繊維が挙げられる。無機繊維としては、SiO2の繊維(ガラス繊維)等が挙げられる。不織布は、SiO2等で形成された無機粉体を更に含んでいてもよい。
【0032】
膜体18には、乾式又は湿式の親水化処理によって、水酸基、カルボキシル基、スルホ基等の親水性官能基を付与することが好ましい。親水性官能基を膜体18(特にその表面)に付与することで、Pb2+の吸着サイトを確保でき、浸透短絡の抑制効果がより一層向上する。
【0033】
膜体18は、繊維径が異なる複数種類の繊維を含んでいてもよい。繊維径が5μm未満(特に1μm以上2μm以下程度)の細い繊維は、膜体18の比表面積を増加させることにより、硫酸の沈降を抑制する効果を奏すると考えられる。繊維径が5μm以上(特に5μm以上10μm以下程度)の太い繊維は、膜体18の強度を確保すると共に、膜体18の空間を増加させることにより、硫酸の拡散係数を大きくする効果を奏すると考えられる。太い繊維の繊維径は、好ましくは、細い繊維の繊維径の2.5倍以上である。
【0034】
膜体18に含まれる全繊維中、繊維径が5μm以上の繊維が占める割合は、硫酸の拡散係数を大きくする観点から、好ましくは5%以上、より好ましくは7%以上、更に好ましくは9%以上、特に好ましくは10%以上であり、また、硫酸の沈降を抑制する観点から、好ましくは90%以下、より好ましくは85%以下、更に好ましくは80%以下、特に好ましくは75%以下である。繊維径が5μm以上10μm以下の繊維が占める割合が、上記の範囲であることが好ましい。
【0035】
膜体18に含まれる全繊維中、繊維径が5μm未満の繊維が占める割合は、硫酸の沈降を更に抑制する観点から、好ましくは60%以上、より好ましくは65%以上、更に好ましくは70%以上、特に好ましくは75%以上であり、また、硫酸の拡散係数を更に大きくする観点から、好ましくは95%以下、より好ましくは90%以下、更に好ましくは85%以下、特に好ましくは80%以下である。繊維径が1μm以上2μm以下の繊維が占める割合が、上記の範囲であることが好ましい。
【0036】
膜体に含まれる繊維に占める所定の繊維径の繊維の割合は、走査電子顕微鏡(例えば株式会社日立ハイテクノロジーズ製)で得られるSEM像に基づいて測定される。具体的には、SEM像における繊維100本についてその径(SEM像における繊維の短手方向の長さ(最短距離))を測定し、繊維径の分布を求める。次いで、測定した全繊維の本数に占める所定の繊維径の繊維の本数の割合を算出する。
【0037】
膜体18は、細孔を有している。膜体18の平均細孔径は、電解液の成層化を抑制する観点から、好ましくは、20μm以下、19μm以下、18μm以下、17μm以下、16μm以下、15μm以下、14μm以下、13μm以下、12μm以下、11μm以下又は10μm以下である。膜体18の平均細孔径は、電池の出力を向上させる観点から、好ましくは、1μm以上、2μm以上又は3μm以上である。
【0038】
膜体の平均細孔径は、水銀圧入法により測定される積算細孔径分布において、分布曲線のY軸(細孔容積又は細孔比表面積)における最小値と最大値との中間値に対応するX軸(細孔径)の値であるメディアン径として算出される。膜体の平均細孔径は、例えば、株式会社島津製作所製、オートポアIV 9500で測定できる。
【0039】
膜体18の空孔率は、硫酸イオンの拡散性を更に確保しやすくすると共に、硫酸イオンを保持する空間を更に大きくする観点から、好ましくは60%以上、より好ましくは65%以上、更に好ましくは70%以上、特に好ましくは75%以上、きわめて好ましくは80%以上である。膜体の空孔率は、膜体から適当な大きさの直方体状に切り取った試料について、下記式(1)~(3)に従い実際の体積と見かけの体積とから算出される。
空孔率(%)={1-(実際の体積/見かけの体積)}×100 …(1)
実際の体積(cm3)=重量の実測値(g)/密度(g/cm3) …(2)
見かけの体積(cm3)=縦(cm)×横(cm)×厚さ(cm) …(3)
なお、見かけの体積を算出する際の試料の縦、横及び厚さはいずれも実測値を用いる。
【0040】
膜体18の厚さは、内部抵抗の上昇を抑制する観点から、好ましくは0.3mm以下、より好ましくは0.25mm以下、更に好ましくは0.2mm以下、特に好ましくは0.15mm以下である。膜体18の厚さは、硫酸の沈降の防止能力、電池反応への影響、強度等の観点から、例えば0.03mm以上である。膜体18が不織布を備える場合には、不織布を構成する繊維の太さ等に応じて膜体18の厚さが決定される。
【0041】
上記実施形態では、膜体18は負極板9の主面(セパレータ11に対向する面)、側面及び底面のすべてを覆い、それらの表面に接触するように(密着した状態で)設けられていたが、他の実施形態では、膜体は、負極板9から離間するように、負極板9とセパレータ11との間に設けられていてもよい。この場合、膜体18は、例えばセパレータ11の負極側の面上に設けられていてよい。浸透短絡をより抑制する観点からは、膜体18は、負極板9の表面に接触するように(密着した状態で)設けられていることが好ましい。
【0042】
上記実施形態では、膜体18は負極板9の主面(セパレータ11に対向する面)、側面及び底面のすべてを覆っていたが、他の実施形態では、膜体は、負極板9の主面(セパレータ11に対向する面)のみを覆うように設けられていてもよい。
【0043】
上記実施形態では、膜体18は、負極板9とセパレータ11との間に設けられていたが、他の実施形態では、膜体は、正極板10とセパレータ11との間に設けられていてよい。すなわち、上述した膜体に関する説明において、「負極板」を「正極板」と読み替えてよい。
【実施例】
【0044】
<実施例1>
一酸化鉛を主成分とする鉛粉を希硫酸で練って調製したペーストを鉛合金格子に充填したペースト式極板を用いた。その後、熟成と乾燥工程とを経て未化成極板が得られた。なお、未化成の正極板及び負極板は、いずれも2価の鉛化合物である一酸化鉛(PbO)、三塩基性希硫酸鉛(3PbO・PbSO4・H2O)等の混合物で構成されている。化成により、正極板の未化成物質は二酸化鉛(PbO2)に酸化され、負極板の未化成物質は海綿状鉛(Pb)に還元され、既化極板(正極板、負極板)が得られた。
【0045】
膜体として、アクリロニトリルと塩化ビニルとのコポリマ(アクリロニトリル:塩化ビニル=85:15(質量比))の繊維を含む不織布(平均細孔径:15μm、厚さ:0.2mm)を用い、負極板近傍に配置した。当該不織布を構成する繊維は、繊維径が1~2μmの繊維65%と、繊維径5~10μmの繊維35%との2種類を含んでいる。セパレータとしては、厚さが0.25mm、平均孔径が30nm~200nmである袋状のポリエチレン製セパレータを用い、負極板及び膜体をセパレータ内に収容した。電解液としては希硫酸を用いて、Dサイズ(JIS D5301。幅:173mm、箱高さ:204mm。負極板の幅:145mm、負極板の高さ(上枠部込み):113mm。)の定格容量35Ahの鉛蓄電池を作製した。
【0046】
(平均細孔径の算出)
膜体の平均細孔径は、株式会社島津製作所製、オートポアIV 9500で測定した。膜体の平均細孔径は、水銀圧入法により測定された積算細孔径分布において、分布曲線のY軸(細孔容積又は細孔比表面積)における最小値と最大値との中間値に対応するX軸(細孔径)の値であるメディアン径として算出した。
【0047】
(浸透短絡評価)
浸透短絡を抑制する効果を評価した。充電が完了した鉛蓄電池を、湯浴温度が25℃±2℃に設定された水槽中に配置した。浸透短絡試験では、以下のサイクルユニット(a)~(d)の順に実施した。結果を表1に示す。
(a)3.4A(0.05C相当)で10.5Vまで放電。
(b)水槽の温度を40℃±2℃に設定し、鉛蓄電池を10Wの白熱電球に接続し、5日間抵抗放電。
(c)水槽の温度を25℃±2℃に再設定し、50A(1.43C相当)を最大電流値として4時間充電。充電上限電圧は14Vとした。
(d)上記(a)~(c)を繰り返し、(c)で電流がブレて立ち上がる現象が見られたら、浸透短絡が発生したと判断し、試験を終了。
浸透短絡が発生するまでの週数に応じて、以下の基準により浸透短絡の抑制効果を評価した。なお、(a)~(c)を1サイクル繰り返すとおよそ1週間程度経過するため、(a)~(c)を1サイクル終了した時点で1週間経過したと定義する。
A:13週間以上
B:11~12週間
C:10週間以下
【0048】
<実施例2~5>
アクリロニトリルと塩化ビニルとのコポリマを以下の各コポリマに変更した以外は、実施例1と同様にして鉛蓄電池の作製及び評価を行った。
実施例2:アクリロニトリルとフッ化ビニルとのコポリマ(アクリロニトリル:フッ化ビニル=85:15(質量比))
実施例3:アクリロニトリルとスチレンとのコポリマ(アクリロニトリル:スチレン=85:15(質量比))
実施例4:アクリロニトリルと塩化ビニリデンとのコポリマ(アクリロニトリル:塩化ビニリデン=85:15(質量比))
実施例5:アクリロニトリルとスチレンとブタジエンとのコポリマ(アクリロニトリル:スチレン:ブタジエン=80:10:10(質量比))
【0049】
<実施例6>
鉛蓄電池のサイズを欧州で一般的なLN1サイズ(EN 50342-2。幅:175mm、箱高さ:190mm。負極板の幅:143mm、負極板の高さ(上枠部込み):100mm。)に変更した以外は、実施例1と同様にして鉛蓄電池の作製及び評価を行った。
【0050】
<比較例1>
負極板上に膜体を設けなかった以外は、実施例1と同様にして鉛蓄電池の作製及び評価を行った。
【0051】
<比較例2>
膜体として、無機不織布(主成分:SiO2、平均細孔径:7μm、厚さ:0.2mm)を用いた以外は、実施例1と同様にして鉛蓄電池の作製及び評価を行った。
【0052】
<比較例3>
膜体として、有機・無機混合不織布(多孔シート、パルプ、ガラス繊維及びシリカ粉末を含む混合繊維から構成される不織布、平均細孔径:3μm、厚さ:0.2mm)を用いた以外は、実施例1と同様にして鉛蓄電池の作製及び評価を行った。
【0053】
<比較例4>
膜体として、有機不織布(ポリプロピレン製、平均細孔径:15μm、厚さ:0.2mm)を用いた以外は、実施例1と同様にして鉛蓄電池の作製及び評価を行った。
【0054】
【0055】
以上の結果から、電極板とセパレータとの間に設けた膜体がアクリロニトリル系ポリマの繊維を含む場合に、浸透短絡が抑制されていることが分かる。一方、膜体を設けていない場合、及び、無機不織布又はアクリロニトリル系ポリマを含まない有機・無機混合不織布を用いた場合では、浸透短絡が抑制されないことが分かる。
【0056】
なお、本発明は、上記の実施例に限定されるものではなく、様々な変形例を含む。例えば、上記の実施例は、本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、本発明は、必ずしも説明した全ての構成を備える態様に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0057】
1…鉛蓄電池、9…負極板、10…正極板、11…セパレータ、18…膜体。