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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-04
(45)【発行日】2022-10-13
(54)【発明の名称】鉛蓄電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/62 20060101AFI20221005BHJP
   H01M 4/14 20060101ALI20221005BHJP
【FI】
H01M4/62 B
H01M4/14 Q
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018188141
(22)【出願日】2018-10-03
(65)【公開番号】P2020057541
(43)【公開日】2020-04-09
【審査請求日】2021-09-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】昭和電工マテリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100169454
【弁理士】
【氏名又は名称】平野 裕之
(74)【代理人】
【識別番号】100185591
【弁理士】
【氏名又は名称】中塚 岳
(72)【発明者】
【氏名】木暮 耕二
(72)【発明者】
【氏名】宮下 夏己
(72)【発明者】
【氏名】島田 康平
(72)【発明者】
【氏名】原 耕介
(72)【発明者】
【氏名】山下 剛
【審査官】冨士 美香
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-071477(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/62
H01M 4/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と、負極と、セパレータとを備え、
前記負極が、集電体と、前記集電体に保持された負極活物質とを有し、
前記負極活物質が、
ビスフェノールAに由来する第1の構造単位、及び、ビスフェノールSに由来する第2の構造単位を有する樹脂と、
リグニンスルホン酸又はその塩と、を含む、鉛蓄電池であって、
前記第1の構造単位及び前記第2の構造単位のそれぞれが、アミノベンゼンスルホン酸又はその誘導体に由来する基を有する、鉛蓄電池。
【請求項2】
正極と、負極と、セパレータとを備え、
前記負極が、集電体と、前記集電体に保持された負極活物質とを有し、
前記負極活物質が、
ビスフェノールAに由来する第1の構造単位、及び、ビスフェノールSに由来する第2の構造単位を有する樹脂と、
リグニンスルホン酸又はその塩と、を含む、鉛蓄電池であって、
前記第1の構造単位及び前記第2の構造単位のそれぞれが、ホルムアルデヒド又はその誘導体に由来する基を有する、鉛蓄電池。
【請求項3】
前記第1の構造単位及び前記第2の構造単位のそれぞれが、ホルムアルデヒド又はその誘導体に由来する基を有する、請求項に記載の鉛蓄電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉛蓄電池に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のバッテリー、バックアップ用電源、電動車の主電源等に用いられる鉛蓄電池の負極には、要求される特性に応じて、種々の添加剤が添加されている。例えば、特許文献1には、負極の放電性能を更に向上させるために、ビスフェノールA・スルホン酸・ホルムアルデヒド縮合物、リグニン等を負極に添加することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2012-43594号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、鉛蓄電池の製造工程には、化成処理と呼ばれる工程が含まれる。化成処理は、例えば、正極、負極及びセパレータを電解液(希硫酸)に浸漬させた状態で通電することにより行われる。本発明者らの検討によれば、特許文献1に開示されているような負極を用いると、化成処理によって添加剤が負極から脱離してしまう場合があることが判明した。添加剤を効率的に利用する観点からは、このような添加剤の脱離をできる限り抑制することが望ましい。その一方で、脱離しにくいような添加剤の組成に変更すると、低温環境下での鉛蓄電池の寿命に悪影響を及ぼすおそれがあることも分かった。
【0005】
そこで、本発明は、負極における添加剤の脱離を抑制すると共に、低温環境下での鉛蓄電池の寿命を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一側面は、正極と、負極と、セパレータとを備え、負極が、集電体と、集電体に保持された負極活物質とを有し、負極活物質が、ビスフェノールAに由来する第1の構造単位、及び、ビスフェノールSに由来する第2の構造単位を有する樹脂と、リグニンスルホン酸又はその塩と、を含む、鉛蓄電池である。
【0007】
第1の構造単位及び第2の構造単位のそれぞれは、アミノベンゼンスルホン酸又はその誘導体に由来する基を有してよく、ホルムアルデヒド又はその誘導体に由来する基を有してよい。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、負極における添加剤の脱離を抑制すると共に、低温環境下での鉛蓄電池の寿命を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】一実施形態に係る鉛蓄電池の全体構成及び内部構造を示す斜視図である。
図2図1に示した鉛蓄電池の電極群を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を適宜参照しながら、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0011】
図1は、一実施形態に係る鉛蓄電池の全体構成及び内部構造を示す斜視図である。図1に示すように、鉛蓄電池1は、上面が開口している電槽2と、電槽2の開口を閉じる蓋3とを備える液式鉛蓄電池である。電槽2及び蓋3は、例えばポリプロピレンで形成されている。蓋3には、負極端子4と、正極端子5と、蓋3に設けられた注液口を閉塞する液口栓6とが設けられている。
【0012】
電槽2の内部には、電極群7と、電極群7を負極端子4に接続する負極柱8と、電極群7を正極端子5に接続する正極柱(図示せず)と、電解液とが収容されている。
【0013】
電解液は、希硫酸を含有する。希硫酸は、例えば、化成後の比重(20℃)が1.25~1.33である希硫酸であってよい。電解液は、アルミニウムイオンを更に含有していてもよい。アルミニウムイオンは、アルミニウムの硫酸塩、亜硫酸塩、炭酸塩、炭酸水素塩、リン酸塩、ホウ酸塩、金属酸塩等を希硫酸に溶解させることにより電解液に含有させることができる。電解液におけるアルミニウムイオンの濃度は、例えば、0.005mol/L以上であってよく、0.4mol/L以下であってよい。
【0014】
図2は、電極群7を示す斜視図である。図2に示すように、電極群7は、板状の負極9と、板状の正極10と、負極9と正極10との間に配置されたセパレータ11と、を備えている。負極9は、負極集電体12と、負極集電体12に保持された負極活物質13と、を有している。正極10は、正極集電体14と、正極集電体14に保持された正極活物質15と、を有している。本明細書では、化成後の負極から負極集電体を除いたものを「負極活物質」、化成後の正極から正極集電体を除いたものを「正極活物質」とそれぞれ定義する。
【0015】
電極群7は、複数の負極9と正極10とが、セパレータ11を介して、電槽2の開口面と略平行方向に交互に積層された構造を有している。すなわち、負極9及び正極10は、それらの主面が電槽2の開口面と垂直方向に広がるように配置されている。電極群7において、複数の負極9における各負極集電体12が有する負極耳部12a同士は、負極ストラップ16で集合溶接されている。同様に、複数の正極10における各正極集電体14が有する正極耳部14a同士は、正極ストラップ17で集合溶接されている。負極ストラップ16及び正極ストラップ17は、それぞれ、負極柱8及び正極柱を介して負極端子4及び正極端子5に接続されている。
【0016】
セパレータ11は、例えば、袋状に形成されており、負極9を収容している。セパレータ11は、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等で形成されている。セパレータ11は、これらの材料で形成された織布、不織布、多孔質膜等にSiO、Al等の無機系粒子を付着させたものであってよい。
【0017】
負極集電体12及び正極集電体14は、それぞれ、鉛合金で形成されている。鉛合金は、Pbに加えて、Sn、Ca、Sb、Se、Ag、Bi等を含有する合金であってよく、具体的には、例えば、Pb、Sn及びCaを含有する合金(Pb-Sn-Ca系合金)であってよい。
【0018】
正極活物質15は、Pb成分として少なくともPbOを含み、必要に応じて、PbO以外のPb成分(例えばPbSO)を更に含んでいてよい。Pb成分の含有量は、正極活物質の全質量を基準として、90質量%以上又は95質量%以上であってよく、99質量%以下又は98質量%以下であってよい。
【0019】
正極活物質15は、炭素材料、補強用短繊維等を更に含んでいてよい。炭素材料としては、例えば、カーボンブラック及び黒鉛が挙げられる。カーボンブラックとしては、例えば、ファーネスブラック、チャンネルブラック、アセチレンブラック、サーマルブラック及びケッチェンブラックが挙げられる。補強用短繊維としては、アクリル繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維等が挙げられる。
【0020】
負極活物質13は、Pb成分として少なくともPb(単体)を含み、必要に応じて、Pb以外のPb成分(例えばPbSO)を更に含んでいてよい。負極活物質13は、Pb成分として、好ましくは多孔質の海綿状鉛(Spongy Lead)を含む。Pb成分の含有量は、負極活物質の全質量を基準として、90質量%以上又は95質量%以上であってよく、99質量%以下又は98質量%以下であってよい。
【0021】
負極活物質13は、ビスフェノールA(2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン)に由来する第1の構造単位、及び、ビスフェノールS(ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホン)に由来する第2の構造単位を有する樹脂(以下「ビスフェノール系樹脂」ともいう)を更に含む。
【0022】
ビスフェノール系樹脂において、第1の構造単位及び第2の構造単位のそれぞれは、アミノベンゼンスルホン酸又はその誘導体に由来する基(以下、これらをまとめて「アミノベンゼンスルホン酸基」ともいう)を有していてよい。
【0023】
アミノベンゼンスルホン酸としては、2-アミノベンゼンスルホン酸(別名オルタニル酸)、3-アミノベンゼンスルホン酸(別名メタニル酸)、4-アミノベンゼンスルホン酸(別名スルファニル酸)等が挙げられる。
【0024】
アミノベンゼンスルホン酸の誘導体としては、アミノベンゼンスルホン酸の一部の水素原子がアルキル基(例えば炭素数1~5のアルキル基)等で置換された化合物、アミノベンゼンスルホン酸のスルホ基(-SOH)の水素原子がアルカリ金属(例えばナトリウム及びカリウム)で置換された化合物などが挙げられる。アミノベンゼンスルホン酸の一部の水素原子がアルキル基で置換された化合物としては、4-(メチルアミノ)ベンゼンスルホン酸、3-メチル-4-アミノベンゼンスルホン酸、3-アミノ-4-メチルベンゼンスルホン酸、4-(エチルアミノ)ベンゼンスルホン酸、3-(エチルアミノ)-4-メチルベンゼンスルホン酸等が挙げられる。アミノベンゼンスルホン酸のスルホ基の水素原子がアルカリ金属で置換された化合物としては、2-アミノベンゼンスルホン酸ナトリウム、3-アミノベンゼンスルホン酸ナトリウム、4-アミノベンゼンスルホン酸ナトリウム、2-アミノベンゼンスルホン酸カリウム、3-アミノベンゼンスルホン酸カリウム、4-アミノベンゼンスルホン酸カリウム等が挙げられる。
【0025】
ビスフェノール系樹脂は、例えば、ビスフェノールA及びビスフェノールSを反応させることにより得られ、好ましくは、ビスフェノールA及びビスフェノールSに加えて、アミノベンゼンスルホン酸又はその誘導体、及び、ホルムアルデヒド又はその誘導体の一方又は両方を更に反応させることにより(例えば国際公開第2016/088836号に記載の公知の方法により)得られる。すなわち、ビスフェノール系樹脂における第1の構造単位及び第2の構造単位のそれぞれは、好ましくは、ホルムアルデヒド又はその誘導体に由来する基(以下「ホルムアルデヒド基」ともいう)を更に有している。ホルムアルデヒドの誘導体は、例えば、パラホルムアルデヒド、ヘキサメチレンテトラミン、トリオキサン等であってよい。
【0026】
第1の構造単位は、例えば、下記式(1-1)又は(1-2)で表される構造単位である。
【化1】

【化2】

式中、Y11及びY12は、それぞれ独立に、置換又は無置換のフェニレン基を表し、R11、R12、R13、R14、R15及びR16は、それぞれ独立に、アルカリ金属原子又は水素原子を表し、n11及びn12は、それぞれ独立に、0又は1を表す。
【0027】
第2の構造単位は、例えば、下記式(2-1)又は(2-2)で表される構造単位である。
【化3】

【化4】

式中、Y21及びY22は、それぞれ独立に、置換又は無置換のフェニレン基を表し、R21、R22、R23、R24、R25及びR26は、それぞれ独立に、アルカリ金属原子又は水素原子を表し、n21及びn22は、それぞれ独立に、0又は1を表す。
【0028】
11、Y12、Y21又はY22で表される置換のフェニレン基は、例えば、フェニル環を構成する炭素原子に直接結合している水素原子が炭素数1~5のアルキル基で置換されたフェニル基であってよい。R11~R16又はR21~R26で表されるアルカリ金属原子は、例えば、ナトリウム原子又はカリウム原子であってよい。
【0029】
第1の構造単位の含有量は、第1の構造単位の含有量及び第2の構造単位の含有量の合計1モルに対して、0.5モル以上、0.55モル以上、0.6モル以上、0.65モル以上、又は0.7モル以上であってよく、0.9モル以下、0.85モル以下、又は0.8モル以下であってよい。
【0030】
第2の構造単位の含有量は、第1の構造単位の含有量及び第2の構造単位の含有量の合計1モルに対して、0.1モル以上、0.15モル以上、又は0.2モル以上であってよく、0.5モル以下、0.45モル以下、0.4モル以下、0.35モル以下、又は0.3モル以下であってよい。
【0031】
アミノベンゼンスルホン酸基の含有量は、第1の構造単位の含有量及び第2の構造単位の含有量の合計1モルに対して、0.6モル以上、0.65モル以上、0.7モル以上、又は0.75モル以上であってよく、1モル以下、0.95モル以下、0.9モル以下、又は0.85モル以下であってよい。なお、アミノベンゼンスルホン酸基の含有量は、ビスフェノール系樹脂中に含まれるすべてのアミノベンゼンスルホン酸基の含有量の合計を意味し、当該アミノベンゼンスルホン酸基はいずれの構造単位に含まれていてもよい。
【0032】
ホルムアルデヒド基の含有量は、第1の構造単位の含有量及び第2の構造単位の含有量の合計1モルに対して、2モル以上、2.1モル以上、又は2.2モル以上であってよく、3.5モル以下、3.2モル以下、又は3モル以下であってよい。なお、ホルムアルデヒド基の含有量は、ビスフェノール系樹脂中に含まれるすべてのホルムアルデヒド基の含有量の合計を意味し、当該ホルムアルデヒド基はいずれの構造単位に含まれていてもよい。
【0033】
上述した第1の構造単位の含有量、第2の構造単位の含有量、アミノベンゼンスルホン酸基の含有量、及びホルムアルデヒド基の含有量は、例えば、ビスフェノール系樹脂を合成する際の、ビスフェノールA、ビスフェノールS、アミノベンゼンスルホン酸又はその誘導体、及びホルムアルデヒド又はその誘導体の配合量を調整することにより、上記の範囲内にすることができる。
【0034】
ビスフェノール系樹脂は、第1の構造単位及び第2の構造単位のみを含んでいてよく、第1の構造単位及び第2の構造単位以外の構造単位を更に含んでいてもよい。その他の構造単位は、例えば、ビスフェノールA及びビスフェノールS以外のフェノール系化合物に由来する構造単位(アミノベンゼンスルホン酸基を有しても有さなくてもよい)等であってよい。
【0035】
ビスフェノールA及びビスフェノールS以外のフェノール系化合物は、例えば、ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1-フェニルエタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン等であってよい。
【0036】
第1の構造単位の含有量及び第2の構造単位の含有量の合計は、ビスフェノール系樹脂に含まれる全構造単位を基準として、例えば、90モル%以上、95モル%以上、又は98モル%以上であってよい。ビスフェノール系樹脂がその他の構造単位を更に含む場合、その他の構造単位の含有量は、ビスフェノール系樹脂に含まれる全構造単位を基準として、例えば、1モル%以上であってよく、10モル%以下、5モル%以下、又は2モル%以下であってよい。
【0037】
ビスフェノール系樹脂の重量平均分子量は、20000以上、30000以上、40000以上、又は50000以上であってよく、80000以下、70000以下、又は60000以下であってよい。
【0038】
ビスフェノール系樹脂の重量平均分子量は、例えば、下記条件のゲルパーミエイションクロマトグラフィー(以下、「GPC」という)により測定することができる。
(GPC条件)
装置:高速液体クロマトグラフ LC-2200 Plus(日本分光株式会社製)
ポンプ:PU-2080
示差屈折率計:RI-2031
検出器:紫外可視吸光光度計UV-2075(λ:254nm)
カラムオーブン:CO-2065
カラム:TSKgel SuperAW(4000)、TSKgel SuperAW(3000)、TSKgel SuperAW(2500)(東ソー株式会社製)
カラム温度:40℃
溶離液:LiBr(10mM)及びトリエチルアミン(200mM)を含有するメタノール溶液
流速:0.6mL/分
分子量標準試料:ポリエチレングリコール(分子量:1.10×10、5.80×10、2.55×10、1.46×10、1.01×10、4.49×10、2.70×10、2.10×10;東ソー株式会社製)、ジエチレングリコール(分子量:1.06×10;キシダ化学株式会社製)、ジブチルヒドロキシトルエン(分子量:2.20×10;キシダ化学株式会社製)
【0039】
ビスフェノール系樹脂の含有量は、負極活物質の全質量を基準として、0.01質量%以上、0.05質量%以上又は0.1質量%以上であってよく、2質量%以下、1質量%以下又は0.5質量%以下であってよい。
【0040】
負極活物質13は、リグニンスルホン酸又はその塩(以下「リグニンスルホン酸(塩)」ともいう)を更に含む。リグニンスルホン酸(塩)は、リグニン分解物の一部がスルホン化されたリグニンスルホン酸又はその塩である。リグニンスルホン酸(塩)は、フェノール系化合物に由来する構造単位としてリグニンに由来する構造単位を有すると共に、スルホン酸基又はスルホン酸塩基を有している。リグニンスルホン酸(塩)は、例えば、フェニレン基に隣接したα位の炭素原子にスルホン酸基又はスルホン酸塩基が結合した構造を有している。リグニンスルホン酸(塩)は、例えば、下記式(3)で表される構造を有している。
【化5】
【0041】
式(3)中、Rは、金属原子又は水素原子を示す。該金属原子は、例えば、ナトリウム原子、カリウム原子、マグネシウム原子又はカルシウム原子である。
【0042】
リグニンスルホン酸(塩)は、例えば、木材チップを蒸解してセルロースを取り出した後に残った黒液を水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム等によって中和することにより得ることができる。
【0043】
リグニンスルホン酸(塩)の重量平均分子量は、好ましくは3000以上、より好ましくは7000以上、更に好ましくは8000以上であり、好ましくは70000以下、より好ましくは50000以下、更に好ましくは40000以下、特に好ましくは30000以下、極めて好ましくは20000以下である。リグニンスルホン酸(塩)の重量平均分子量は、上述したビスフェノール系樹脂について説明した条件と同じ条件のGPCにより測定することができる。
【0044】
リグニンスルホン酸(塩)の含有量は、負極活物質の全質量を基準として、0.01質量%以上、0.05質量%以上、又は0.1質量%以上であってよく、2質量%以下、1質量%以下、又は0.5質量%以下であってよい。
【0045】
負極活物質13は、炭素材料を更に含んでいてもよい。炭素材料は、例えば、カーボンブラック、黒鉛等であってよい。カーボンブラックとしては、例えば、ファーネスブラック、チャンネルブラック、アセチレンブラック、サーマルブラック及びケッチェンブラックが挙げられる。炭素材料の含有量は、負極活物質の全質量を基準として、0.1質量%以上であってよく、3.5質量%以下、3.0質量%以下、2.5質量%以下又は2.0質量%以下であってよい。
【0046】
負極活物質13は、硫酸バリウム、補強用短繊維等を更に含んでいてもよい。補強用短繊維としては、アクリル繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維等が挙げられる。硫酸バリウムの含有量は、負極活物質の全質量を基準として、例えば、0.5質量%以上であってよく、3.0質量%以下であってよい。補強用短繊維の含有量は、負極活物質の全質量を基準として、例えば、0.05質量%以上であってよく、0.3質量%以下であってよい。
【0047】
以上説明した鉛蓄電池1は、アイドリングストップシステム(Start-Stop System)車用、又は、マイクロハイブリッド車用の鉛蓄電池として好適に用いられる。すなわち、本発明の一実施形態は、上述した鉛蓄電池1のアイドリングストップシステム(Start-Stop System)車への応用、又は、マイクロハイブリッド車への応用である。
【0048】
鉛蓄電池1は、例えば、電極(負極及び正極)を得る電極製造工程と、電極を含む構成部材を組み立てて鉛蓄電池1を得る組立工程とを備える製造方法により製造される。
【0049】
電極製造工程では、例えば、負極集電体12に負極活物質ペーストを保持させた後に、熟成及び乾燥することにより未化成の負極を得ると共に、正極集電体14に正極活物質ペーストを保持させた後に、上述した条件で熟成及び乾燥することにより未化成の正極を得る。
【0050】
負極活物質ペーストは、例えば、鉛粉、ビスフェノール系樹脂、リグニンスルホン酸(塩)、必要に応じて添加される上述のその他の成分、溶媒(例えば水又は有機溶媒)及び硫酸(例えば希硫酸)を含んでいる。負極活物質ペーストは、例えば、鉛粉と各成分とを混合することにより混合物を得た後に、この混合物に溶媒及び硫酸を加えて混練することにより得られる。
【0051】
正極活物質ペーストは、例えば、鉛粉、必要に応じて添加される上述のその他の成分、溶媒(例えば水又は有機溶媒)及び硫酸(例えば希硫酸)を含んでいる。正極活物質ペーストは、化成時間を短縮できる観点から、鉛丹(Pb)を更に含んでいてもよい。
【0052】
鉛粉としては、例えば、ボールミル式鉛粉製造機又はバートンポット式鉛粉製造機によって製造される鉛粉(ボールミル式鉛粉製造機においては、主成分PbOの粉体と鱗片状金属鉛の混合物)が挙げられる。
【0053】
熟成は、温度35~85℃、湿度50~98RH%の雰囲気で15~60時間行われてよい。乾燥は、温度45~80℃で15~30時間行われてよい。
【0054】
組立工程では、例えば、得られた未化成の負極及び正極を、セパレータ11を介して積層し、同極性の電極の耳部12a,14aをストラップ16,17で溶接させて電極群を得る。この電極群を電槽内に配置して未化成の鉛蓄電池を作製する。次に、未化成の鉛蓄電池にシリカを添加した希硫酸を入れて、直流電流を通電して電槽化成する。続いて、化成後の硫酸の比重(20℃)を適切な電解液の比重に調整することで、鉛蓄電池1が得られる。化成に用いる硫酸の比重(20℃)は、1.15~1.25であってよい。化成条件は、電極の大きさに応じて調整することができる。化成処理は、組立工程において実施されてもよく、電極製造工程において実施されてもよい(タンク化成)。
【実施例
【0055】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明する。ただし、本発明は下記の実施例のみに限定されるものではない。
【0056】
<実施例1>
(正極の作製)
鉛粉に対して、補強用短繊維としてアクリル繊維0.25質量%(鉛粉の全質量基準)を加えて乾式混合した。次に、得られた鉛粉を含む混合物に対して、水3質量%及び希硫酸(比重1.55)30質量%を加えて1時間混練して正極活物質ペーストを作製した。正極活物質ペーストの作製に際しては、急激な温度上昇を避けるため、希硫酸(比重1.55)の添加は段階的に行った。なお、水及び希硫酸の配合量は、鉛粉及び補強用短繊維の全質量を基準とした配合量である。
【0057】
鉛合金からなる圧延シートにエキスパンド加工を施すことにより作製されたエキスパンド式集電体に、正極活物質ペーストを充填した後、温度50℃、湿度98%の雰囲気で24時間熟成した。その後、温度50℃で16時間乾燥して、未化成の正極活物質を有する正極を作製した。
【0058】
(負極の作製)
ビスフェノール系樹脂として、ビスフェノールAに由来する第1の構造単位と、ビスフェノールSに由来する第2の構造単位とを含み、第1の構造単位及び第2の構造単位が4-アミノベンゼンスルホン酸(スルファニル酸)に由来する基及びパラホルムアルデヒドに由来する基を有するビスフェノール系樹脂を用いた。第1の構造単位の含有量は0.8モル、第2の構造単位の含有量は0.2モル、4-アミノベンゼンスルホン酸に由来する基の含有量は0.8モル、パラホルムアルデヒドに由来する基は2.25モルであった。このビスフェノール系樹脂と、リグニンスルホン酸(塩)(日本製紙株式会社製、商品名:バニレックスN)と、ファーネスブラック(キャボット社製、商品名:バルカンXC)との混合物を鉛粉に添加した後に乾式混合した。次に、水を加えた後に混練した。続いて、比重1.280の希硫酸を少量ずつ添加しながら混練して、負極活物質ペーストを作製した。なお、化成後の負極活物質の全質量を基準として、ビスフェノール系樹脂の含有量が0.2質量%、リグニンスルホン酸(塩)の含有量が0.1質量%、ファーネスブラックの含有量が0.2質量%であった。
【0059】
鉛合金からなる圧延シートにエキスパンド加工を施すことにより作製されたエキスパンド式集電体にこの負極活物質ペーストを充填した後、温度50℃、湿度98%の雰囲気で24時間熟成した。その後乾燥して、未化成の負極活物質を有する負極を作製した。
【0060】
(電池の組み立て)
袋状に加工したポリエチレン製のセパレータに未化成の負極を挿入した。次に、未化成の正極5枚と、袋状セパレータに挿入された未化成の負極6枚とを交互に積層した。続いて、キャストオンストラップ(COS)方式で、同極性の電極の耳部同士を溶接して極板群を作製した。
【0061】
この極板群を6つ用意し、電槽に挿入して電池工業会規格SBA S0101規定の12V電池K-42を組み立てた。その後、比重1.230の硫酸溶液を注入し、10.4Aにて20時間の定電流で化成を行った。化成後の電解液(硫酸溶液)の比重を1.28(20℃)に調整した。
【0062】
<比較例1>
負極の作製においてビスフェノール系樹脂を用いなかった以外は、実施例1と同様にして鉛蓄電池を作製した。
【0063】
<比較例2>
負極の作製においてリグニンスルホン酸(塩)を用いなかった以外は、実施例1と同様にして鉛蓄電池を作製した。
【0064】
<比較例3>
負極の作製において、ビスフェノール系樹脂に代えて、ビスフェノールAに由来する構造単位を含み(ビスフェノールSに由来する構造単位を含まない)、当該構造単位が4-アミノベンゼンスルホン酸(スルファニル酸)に由来する基及びパラホルムアルデヒドに由来する基を有する樹脂(日本製紙株式会社製、商品名:ビスパーズP215)を用いた以外は、実施例1と同様にして鉛蓄電池を作製した。
【0065】
<比較例4>
負極の作製においてリグニンスルホン酸(塩)を用いなかった以外は、比較例3と同様にして鉛蓄電池を作製した。
【0066】
[負極における添加剤の脱離の評価]
化成前の鉛蓄電池を解体して負極を取り出し、負極を1時間水洗した後、真空乾燥した。乾燥後の負極から負極活物質を取り分け、粉砕した粉体2.0gを、氷酢酸:過酸化水素水=9:1(体積比)の混合液20mLに加え、完全に溶解するまで、1時間以上超音波処理した。この溶解液に、硫酸濃度27.5質量%の硫酸5mLを加え、混合して10分放置後に遠心分離した。上澄み液を2mL分取し、5N-NaOHを10mL加えた。MnOを少量更に加え、攪拌し、発泡が終わるまで放置することにより、過酸化水素水を除去して、測定用試料を得た。
得られた測定用試料について、UV吸光度測定装置(島津製作所社製、商品名:UV-2450)を用いて以下の条件で吸光度を測定し、波長292nmにおける吸光度を求めた。
(条件)
波長範囲:200~400nm
スキャンスピード:中速
サンプリングピッチ:0.2nm
スリット幅:1.0nm
光源切替波長:360nm
測定モード:シングル
化成後の負極についても、上記と同様にして測定用試料を準備し、波長292nmにおける吸光度を求めた。化成前及び化成後の負極について求められた292nmの吸光度を用いて、下記式に従って添加剤の残存率を算出した。
添加剤の残存率(%)=(化成後の吸光度)/(化成前の吸光度)×100
添加剤の残存率が50%を超えていれば、添加剤の脱離を抑制できているといえる。結果を表1に示す。
【0067】
[低温環境下での鉛蓄電池の寿命]
添加剤の脱離を抑制できていた実施例1及び比較例1については、以下に示すサルフェーション加速試験の手順に従って、低温環境下での鉛蓄電池の寿命も評価した。結果を表1に示す。
【0068】
(サルフェーション加速試験)
試験温度:10℃
下記(1)~(6)を1サイクルとして、電圧が7.2Vを下回った時点を寿命と判定した。
(1)定電圧充電 14V 最大電流50A 90秒間
(2)定電流放電 30A 45秒間
(3)定電流放電 250A 0.5秒間
(4)定電圧充電 12.85V 最大電流50A 80秒間
(5)定電圧充電 13.2V 最大電流50A 40秒間
(6)定電流放電 0.2A 1時間
【0069】
【表1】
【符号の説明】
【0070】
1…鉛蓄電池、9…負極、10…正極、11…セパレータ、12…負極集電体、13…負極活物質。
図1
図2