(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-04
(45)【発行日】2022-10-13
(54)【発明の名称】チーズ類の製造方法、チーズ類の製造装置、およびチーズ類
(51)【国際特許分類】
A23C 19/14 20060101AFI20221005BHJP
【FI】
A23C19/14
(21)【出願番号】P 2016031945
(22)【出願日】2016-02-23
【審査請求日】2019-01-29
【審判番号】
【審判請求日】2020-09-04
(73)【特許権者】
【識別番号】711002926
【氏名又は名称】雪印メグミルク株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】特許業務法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】清水 裕一郎
(72)【発明者】
【氏名】岸田 哲明
(72)【発明者】
【氏名】昆野 慶
(72)【発明者】
【氏名】郷田 雅之
【合議体】
【審判長】加藤 友也
【審判官】奥田 雄介
【審判官】大島 祥吾
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-192557(JP,A)
【文献】特開2006-36725(JP,A)
【文献】特開平3-4951(JP,A)
【文献】特開2011-15680(JP,A)
【文献】特表2008-507291(JP,A)
【文献】特開2011-224484(JP,A)
【文献】特開2002-66393(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
A23C
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
チーズ類の製造装置において、
チーズの表面に水またはエタノールを含む事前処理液を塗布する事前処理部と、
前記表面に水溶性着色料および香料のうちの少なくとも一方を含有する液体を塗布する液体塗布部とを有し、
前記事前処理部および前記液体塗布部は、前記表面側に設置された噴霧装置をそれぞれ備え、
前記事前処理部の噴霧装置は、2流体ノズルを備え、
前記液体塗布部の噴霧装置は、
前記2流体ノズルで噴霧する液滴よりも大きな液滴で噴霧する1流体ノズルを備える
ことを特徴とするチーズ類の製造装置。
【請求項2】
チーズ類の製造装置において、
溶融チーズを連続的に引き出してシート状チーズを成形する成形部と、
前記シート状チーズの表面または前記シート状チーズを積層することで得られる積層チーズの表面に、水またはエタノールを含む事前処理液を塗布する事前処理部と、
前記表面に水溶性着色料および香料のうちの少なくとも一方を含有する液体を塗布する液体塗布部とを有し、
前記事前処理部および前記液体塗布部は、前記表面側に設置された噴霧装置をそれぞれ備え、
前記事前処理部の噴霧装置は、2流体ノズルを備え、
前記液体塗布部の噴霧装置は、
前記2流体ノズルで噴霧する液滴よりも大きな液滴で噴霧する1流体ノズルを備える
ことを特徴とするチーズ類の製造装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のチーズ類の製造装置において、
前記表面を乾燥させる乾燥部を備える
ことを特徴とするチーズ類の製造装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のチーズ類の製造装置において、
前記液体塗布部は、前記表面への液体の塗布領域が可変に設けられている
ことを特徴とするチーズ類の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チーズ類の製造方法、チーズ類の製造装置、およびチーズ類に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、シート状のプロセスチーズ類やナチュラルチーズ類(以下、いずれも単に「チーズ」と称する場合がある)の製造方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
一方、近年、フードプリンタ技術が発展してきた。この技術は、インクジェットプリンタの技術を食品に応用したもので、クッキーやチョコレートなどの食品の表面に可食インクにて文字や絵柄等を非接触で印刷する技術である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで、本発明者等は、チーズの成形後、香料を含む液体や水溶性着色料を含む液体をチーズの表面の所定の領域に隙間なく塗布(べた塗り)することで、多品種チーズを容易に製造することを試みた。この試みには、前述のフードプリンタ技術や、2流体ノズルおよび1流体ノズルといった噴霧ノズルを用いて、香料を含む液体や水溶性着色料を含む液体を噴霧して塗布することを行った。
【0005】
しかしながら、いずれの技術を用いてもチーズ表面でインクが弾かれてしまい、べた塗り塗布ができなかった。この理由として、チーズ表面には水分、油分、タンパク質が混在しており、表面の特性が一様でないためであると考えられる。水溶性着色料であれば、2度塗りや3度塗りなど過剰に塗布することで、べた塗りが可能であるが、液垂れや乾燥などに課題が残る。また過剰な塗布はコスト的な問題になりうる。一方、油溶性着色料の場合、過剰に塗布することで、べた塗りが可能ではあるが、乾燥が困難なため、現実的ではない。
【0006】
本発明の目的は、チーズ表面の所定領域に香料や着色料を過剰に塗布しなくとも、弾くことなく隙間がない状態で塗布できるチーズ類の製造方法、チーズ類の製造装置、およびチーズ類を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のチーズ類の製造方法は、チーズの表面に水またはエタノールを含む事前処理液を塗布する事前処理工程と、前記表面に水溶性着色料および香料のうちの少なくとも一方を含有する液体を塗布する液体塗布工程とを有し、前記液体塗布工程を前記事前処理工程よりも後の工程として実施することを特徴とする。
【0008】
ここで、「チーズ類」とは、プロセスチーズやナチュラルチーズの規格に属するものの他、チーズフードの規格や乳等を主要原料とする食品の規格に属するものを含む。
また、「積層チーズ」とは、連続して形成されるシート状チーズを切断工程にて所定の幅寸法(連続して形成されるシート状チーズの搬送方向に対して直交する水平方向の寸法)を有した複数の帯状の切断チーズとして切断した後、これらの帯状の切断チーズを一連の流れ工程の中で積層したものと、シート状チーズを所定の大きさの切断チーズに切断した後に、複数枚の切断チーズを一連の流れ工程から外れた工程にて積層したものとの両方を含む。
なお、以下の説明においては、「液体」を「インク液」と称する場合がある。また、「シート状チーズの表面」には、「シート状チーズの片面」が含まれる。さらに、「シート状チーズの片面」および「積層チーズの表面」に対する共通な表現として、「チーズ表面」を用いることがある。
【0009】
本発明のチーズ類の製造方法は、溶融チーズを連続的に引き出してシート状チーズを成形する成形工程と、前記シート状チーズの表面または前記シート状チーズを積層することで得られる積層チーズの表面に、水またはエタノールを含む事前処理液を塗布する事前処理工程と、前記表面に水溶性着色料および香料のうちの少なくとも一方を含有する液体を塗布する液体塗布工程とを有し、前記液体塗布工程を前記事前処理工程よりも後の工程として実施することを特徴とする。
【0010】
本発明の製造方法によれば、シート状チーズや積層チーズのチーズ表面に、水溶性着色料や香料を含有する液体を塗布することで着色したり、風味を付与したりできる。この際、水やエタノールを含む事前処理液を塗布する事前処理工程を経ることで、チーズ表面とインク液との親和性を向上させた状態にしておき、この状態のチーズ表面に対して液体を塗布するから、過剰に塗布することなく、チーズ表面の所定領域に弾くことなく隙間がない状態で(べた塗り状に)塗布できる。
【0011】
前記液体塗布工程を前記事前処理工程の次工程として実施することが好ましい。
本発明の製造方法であれば、チーズ表面のインクとの親和性が確保された状態で液体を塗布できる。
【0012】
前記液体塗布工程よりも後に、前記表面を乾燥させる乾燥工程を有することが好ましい。
本発明の製造方法であれば、水溶性着色料や香料を含んだ液体等を自然乾燥ではなく、積極的に乾燥でき、生産性を向上させることができる。
【0013】
前記事前処理液および前記液体の少なくとも一方にシュラックを5%以上含有させることが好ましい。
本発明の製造方法であれば、5%以上のシュラックを含有させることで、水溶性着色料や香料をチーズ表面から剥がれ難くして定着化でき、安定した品質を維持できる。
【0014】
前記液体塗布工程では、前記水溶性着色料および香料のうちの少なくとも一方を含有する液体を50ml/m2以下の塗布量で塗布することが好ましい。
本発明の製造方法であれば、インク液を無駄に使用することなく、着色や風味付けを実現できる。また、乾燥の効率化を実現できる。
【0015】
前記インク液は、燻製液であることが好ましい。
本発明の製造方法であれば、香料と着色料として機能する燻製液をインク液として含ますことができるため、実際にスモークすることなく、スモークされたような着色および風味付けを同時に実現できる。
【0016】
本発明のチーズ類の製造装置は、チーズの表面に水またはエタノールを含む事前処理液を塗布する事前処理部と、前記表面に水溶性着色料および香料のうちの少なくとも一方を含有する液体を塗布する液体塗布部とを有することを特徴とする。
【0017】
本発明のチーズ類の製造装置は、溶融チーズを連続的に引き出してシート状チーズを成形する成形部と、前記シート状チーズの表面または前記シート状チーズを積層することで得られる積層チーズの表面に、水またはエタノールを含む事前処理液を塗布する事前処理部と、前記表面に水溶性着色料および香料のうちの少なくとも一方を含有する液体を塗布する液体塗布部とを有することを特徴とする。
【0018】
本発明は、前述したチーズ類の製造方法を実現するための装置発明であり、製造方法発明と同様、インク液を過剰に塗布することなく、チーズ表面の所定領域に弾くことなく隙間がない状態で(べた塗り状に)塗布でき、本発明の目的を達成できる。
【0019】
前記事前処理部および前記液体塗布部は、前記表面側に設置された噴霧装置をそれぞれ備えることが好ましい。
本発明の装置構成であれば、従来の装置ではできなかったインク液のべた塗り塗布が可能となるため、表面着色や風味付けを短時間で実施でき、生産性を向上させることができる。
【0020】
前記事前処理部の噴霧装置は、2流体ノズルを備えることが好ましい。
本発明の装置構成であれば、事前処理液を可能な限り少ない噴霧量でチーズ表面に均一に噴霧できる。また、可能な限り少ない噴霧量であるため、その後に乾燥させる際の負担を減らすことができる。
【0021】
前記液体塗布部の噴霧装置は、1流体ノズルを備えることが好ましい。
本発明の装置構成であれば、水溶性着色料や香料を含む液体の空気中への飛散をより確実に抑制することができる。
【0022】
前記表面を乾燥させる乾燥部を備えることが好ましい。
本発明の装置構成であれば、水溶性着色料や香料を含んだ液体等を自然乾燥ではなく、積極的に乾燥でき、生産性を向上させることができる。
【0023】
前記液体塗布部は、前記表面への液体の塗布領域が可変に設けられていることが好ましい。
本発明の装置構成であれば、液体塗布部でのチーズ表面に対する液体の塗布領域の大きさや位置を変えることにより、見た目に変化のある多種類のチーズ類を容易に製造できる。
【0024】
本発明のチーズ類は、水またはエタノールを含む事前処理液にて事前処理された表面に、水溶性着色料および香料のうちの少なくとも一方を含有する被膜が形成されていることを特徴とする。
本発明は、前述したチーズ類の製造方法によって得られるチーズ類、または前述のチーズ類の製造装置によって製造されるチーズ類であり、製造方法の発明や製造装置の発明と同様、インク液を過剰に塗布することなく、チーズ表面の所定領域に弾くことなく隙間がない状態で(べた塗り状に)塗布でき、本発明の目的を達成できる。
【0025】
前記被膜には、シュラックが含有されていることが好ましい。
また、前記被膜は、前記水溶性着色料および香料のうちの少なくとも一方を含有する液体の塗布により形成されていることが好ましい。
さらに、前記液体は、燻製液であることが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本発明の第1実施形態に係るチーズ類の製造装置を示す模式図。
【
図2】第1実施形態の製造装置の要部を示す拡大図であり、(A)は
図1のIIA-IIA矢印断面図、(B)は
図1の矢印IIB方向からの平面図。
【
図3】製造装置で製造されるチーズの形態を示す図であり、(A)は短冊状の切断チーズ、(B)はダイス状のチーズ、(C)はシュレッド状のチーズを示す図。
【
図4】シート状チーズに着色した積層チーズを示す図。
【
図5】第1実施形態の製造方法を説明するための工程図。
【
図6】第2実施形態の製造方法を説明するための工程図。
【
図7】第3実施形態の製造方法を説明するための工程図。
【
図9】積層チーズの表面を着色した状態を示す斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0027】
[第1実施形態]
(製造装置の概略全体)
以下、本発明の第1実施形態について図面を参照して説明する。
図1は、本実施形態に係るチーズ類としてのプロセスチーズ類PCの製造装置1を示す模式図である。
図2は、製造装置1の要部を示す拡大図であり、(A)は
図1のIIA-IIA矢印断面図、(B)は
図1の矢印IIB方向からの平面図である。
【0028】
図1において、本実施形態の製造装置1は、上流から下流に向けて順に、溶融部11、成形部12、事前処理部13、液体塗布部14、乾燥部15、および切断部16を備えている。また、製造装置1には、例えばベルトコンベア式の搬送装置17が設けられている。搬送装置17による搬送方向を図中に白抜き矢印で示してある。
【0029】
(溶融部)
溶融部11は、所定の大きさに砕いたナチュラルチーズを加熱溶融し、添加された溶融塩によって乳化するように構成されている。この溶融部11では、溶融チーズMCを得ることが可能である。
【0030】
(成形部)
成形部12は、例えば内向きに回転する一対の回転式冷却装置121と複数段の回転式冷却装置122,123等で構成される。
図1において、回転式冷却装置121,122,123を実線で示し、成形途中のチーズを点線で示してある。具体的に成形部12では、所定間隔で対向配置された一対の回転式冷却装置121間に溶融部11からの溶融チーズMCが供給され、当該所定間隔によって決定される厚さを有したシート状に溶融チーズMCを成形し、その成形された溶融チーズMCをより下段の回転式冷却装置122,123によってさらに冷却しながら、最終的に連続的に引き出してシート状チーズSCを成形する。ただし、成形部12としては、両面を冷却可能な冷却ベルト式や、片面を冷却可能な冷却ベルト式であってもよい。シート状チーズSCの厚さとしては、1mmから15mmである。成形部12では、その範囲を含んで厚さを任意に設定可能である。
【0031】
(事前処理部)
事前処理部13は、成形部12から搬送装置17の上流端に引き出されたシート状チーズSCへの事前処理として、シート状チーズSCの片面である上面の全領域に対し、水またはエタノールを含む事前処理液をべた塗り状に連続塗布するように構成されている。このために事前処理部13は、搬送装置17によるシート状チーズSCの搬送面の反対側であって、非接触面である前記上面の上方位置に噴霧装置としての第1噴霧装置21を有している。
【0032】
第1噴霧装置21は、後述する液体塗布部14での複数の1流体ノズル22Sと同様(
図2(A)参照)、搬送方向に対して直交する水平方向に並設された複数の2流体ノズル21Wを有している。各2流体ノズル21Wからは、圧縮空気と共に事前処理液が噴霧される。2流体ノズル21Wは、1流体ノズル22Sに比べ、非常に細かい液滴で高密度に噴霧可能である。噴霧パターンPTとしては、
図2(B)に示す1流体ノズル22Sと略同じである。従って、噴霧パターンPTに関しては、1流体ノズル22Sと併せて後述する。
【0033】
(液体塗布部)
液体塗布部14は、事前処理部13にて事前処理液が塗布された後のシート状チーズSCの上面の全領域に対し、水溶性着色料および香料のうちの少なくとも一方を含有する液体を連続塗布するように構成されている。このために液体塗布部14も、搬送装置17によるシート状チーズSCの搬送面の反対側であって、非接触面である前記上面の上方位置に噴霧装置としての第2噴霧装置22を有している。
【0034】
第2噴霧装置22は、
図2(A)に示すように、搬送装置17による搬送方向に対して直交する水平方向に並設された複数の1流体ノズル22Sを有している。各1流体ノズル22Sからは、圧縮空気を伴うことなく前述の液体のみが噴霧される。1流体ノズル22Sは、圧縮空気の噴出がないことにより、前述した事前処理部13での2流体ノズル21Wに比べ、液体の空気中への飛散量が少ない。
【0035】
水溶性着色料や香料が空気中に多量に飛散すると、隣設する他の製造ラインの汚染につながるため、第2噴霧装置22として1流体ノズル22Sを用いることのメリットは大きい。また、1流体ノズル22Sのデメリットである大きな液滴で、かつ低密度な噴霧は、事前処理部13での事前処理により補われる。すなわち、事前処理部13にてチーズ表面とインク液との親和性が十分に確保されるため、液滴がドット状になり易かったり、低密度な噴霧であったりしても、水溶性着色料や香料を含む液体を上面全域に広げることができ、良好なべた塗り塗布を実現できる。
【0036】
1流体ノズル22Sの噴霧パターンPTとしては、円錐状に噴霧されることで形成される円形状のパターンよりも、
図2(B)に示すように、各1流体ノズル22Sの並設方向に沿った所定幅の一文字状の噴霧パターンPTの方が液体に無駄が生じ難くいため、好ましい。事前処理部13の各2流体ノズル21Wでの噴霧パターンも同じである。
なお、
図2(B)において、塗布された水溶性着色料や香料により形成されるプロセスチーズ類PC表面の被膜を網掛けとして示してある。後の説明で用いられる
図3、
図4でも同様である。
【0037】
(乾燥部)
乾燥部15は、シート状チーズSCの上面に事前処理として塗布された事前処理液を気化するとともに、水性着色料や香料を含有した液体を気化して当該上面を乾燥させるように構成されている。乾燥部15としては、例えば乾燥した気体や熱源からの輻射熱、温風供給によって上面を加熱可能な各種ヒータ等が用いられる。
【0038】
(切断部)
切断部16は、シート状チーズSCを搬送方向に沿って複数列連続して切断することで、所定の幅寸法を有した平面視で帯状の複数の切断チーズCC(
図3(A)参照)に切断したり、切断チーズCCに切断することなく、シュレッド状のプロセスチーズ類PC(
図3(C)参照)に切断したりするように構成されている。この際の切断チーズのCCの切断幅は、任意に設定可能である。切断部16で用いられる具体的な装置としては、スリッターや、ワイヤカッター、円板カッター、魚籠式抜き型などである。
【0039】
図3には、切断部16での切断後の複数の切断チーズCCで構成されるシート状チーズSCや、プロセスチーズ類PCが示されている。
図3(A)には、シート状チーズSCを搬送方向に沿って切断することで得られる複数の帯状の切断チーズCCが示されている。このような切断チーズCCの厚さは、1mmから15mmの間で様々である。
【0040】
その中でも厚めの切断チーズCCは、製造装置1内での一連の流れ工程の中で複数枚積層されることで、
図4に示すように、積層チーズLCとして形成される。
図4において、このような積層チーズLCは、切断部16とは別の切断部(図示略)にて所定の大きさにさらに切断されることで、初めから切れている状態とされたプロセスチーズ類PCが複数枚積層されたものとして提供される。薄めの切断チーズCCは、図示を省略するが、別の切断部にて幅方向に切断されることで、平面視で正方形とされた所定の大きさに形成され、トーストやサンドイッチ等に好適な所謂スライスチーズと称するシート状のプロセスチーズ類PCとして提供される。
【0041】
図3(B)に示すプロセスチーズ類PCは、例えば厚さが8mmあるいはそれに近い厚さのシート状チーズSCを切断部16にて帯状に切断した後、別の切断部にて幅方向に切断することで、ダイス状に形成されたものである。ダイス状のプロセスチーズ類PCは、一口サイズで気軽に食することができ、おつまみやおやつ用に好適である。
【0042】
図3(C)に示すプロセスチーズ類PCは、厚さが1mmあるいはそれに近い比較的薄いシート状チーズSCをシュレッド状に切断したものである。シュレッド状のプロセスチーズ類PCは、ピザやグラタン等に好適に用いられる。このようなプロセスチーズ類PCは、切断部16にてシート状チーズSCを帯状の切断チーズCCに切断した後、別の切断部にて切断チーズCCをシュレッド状に切断したものであってもよいし、帯状の切断チーズCCに切断することなしに、切断部16にてシート状チーズSCを直接的にシュレッド状に切断したものであってもよい。
【0043】
(プロセスチーズ類の製造方法)
以下には、プロセスチーズ類PCの製造方法を
図5も参照して説明する。
プロセスチーズ類PCの製造方法としては、工程順に説明すると、溶融部11による溶融工程、成形部12による成形工程、事前処理部13による事前処理工程、液体塗布部14による液体塗布工程、乾燥部15による乾燥工程、および切断部16による切断工程を有する。このうち液体塗布工程は、事前処理工程よりも後の工程として実施される。乾燥工程は、液体塗布工程よりも後の工程として実施される。
【0044】
ここで、事前処理工程では、事前処理液を50ml/m2以下の塗布量で事前処理部13の第1噴霧装置21から噴霧する。塗布する事前処理液としては水のみでもよいが、乾燥工程での乾燥を容易にするために、揮発性の高いエタノールを含有したエタノール水溶液が好ましい。そして、液体塗布工程の前に気化しないことを条件として、エタノール濃度はより高い方が好ましい。
【0045】
液体塗布工程では、水溶性着色料や香料を含有した液体を50ml/m2以下の塗布量で液体塗布部14の第2噴霧装置22から噴霧する。水溶性着色料としては天然着色料や合成着色料のどちらでもよく、例えばカラメル色素、クチナシ色素、タマリンド色素、フラボノイド色素、コチニール色素、赤色2号、赤色102号、黄色4号などの食用色素から選択できる。香料としては食用フレーバーであれば何れでもよく、スモークフレーバーやカマンベールフレーバーなどチーズに合う香料が好ましい。また、燻製液のような色がついた食用フレーバーは、香料や着色料として機能する。また、水溶性着色料や香料をシート状チーズSCの表面から剥がれ難くして定着化させるために、事前処理液および液体の少なくとも一方にシュラックを5%以上含有させることが好ましい。
【0046】
(実施形態の効果)
以上に説明した実施形態によれば、シート状チーズSCに成形後、その片面に水溶性着色料や香料を含有する液体を塗布することで着色したり、風味を付与したりできる。この際、当該片面に水やエタノールを含む事前処理液を塗布する事前処理を施すことで、シート状チーズSCのチーズ表面とインク液との親和性を向上させた状態にしておき、この状態の表面に対して液体を塗布するから、液体を過剰に塗布することなく、かつ弾くことなく隙間がない状態で塗布できるという効果がある。
【0047】
[第2実施形態]
(プロセスチーズ類の製造方法)
図6には、本実施形態でのプロセスチーズ類の製造方法が示されている。
図6に示すように、溶融部11による溶融工程、成形部12による成形工程、切断部16による切断工程、事前処理部13による事前処理工程、液体塗布部14による液体塗布工程、および乾燥部15による乾燥工程を有する。すなわち、前述の第1実施形態とでは、切断工程の順番が異なる。
ただし、これらの各工程での具体的な内容は、前述した第1実施形態と同じであるため、ここでの説明を省略する。
【0048】
[第3実施形態]
(ナチュラルチーズ類の製造方法)
以下には、チーズ類としてのナチュラルチーズ類の製造方法を
図7に基づいて説明する。
ナチュラルチーズ類の製造方法としては、工程順に説明すると、チーズカード製造工程、成形工程、事前処理部13による事前処理工程、液体塗布部14による液体塗布工程、および乾燥部15による乾燥工程を有する。このようなナチュラルチーズ類の製造装置としては、図示を省略するが、既存のチーズカード製造装置、事前処理部13、液体塗布部14、乾燥部15、および搬送装置17を備えている。
【0049】
ここで、チーズカード製造工程では、原料となる乳を凝固させた後、ホエイを排除してチーズカードを製造する。その後、このチーズカードを熟成させる。
成形工程では、チーズカードを熟成して得られたナチュラルチーズを切断したり、モールドで成形したりして、所定の形状に成形する。
成形工程以降に実施される事前処理工程、液体塗布工程、乾燥工程は、前述した第1実施形態と同じであるため、ここでの説明を省略する。
【0050】
以上に説明した実施形態によれば、ナチュラルチーズの表面に水溶性着色料や香料を含有する液体を塗布することで着色したり、風味を付与したりできる。この際、ナチュラルチーズの表面に前述した事前処理液を塗布する事前処理を施すことで、ナチュラルチーズの表面とインク液との親和性を向上させた状態にしておき、この状態の表面に対して液体を塗布するから、液体を過剰に塗布することなく、かつ弾くことなく隙間がない状態で塗布できる。
【0051】
[変形例]
なお、本発明は、上述した各実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形例等は、本発明に含まれる。
例えば前記第1実施形態のように、1流体ノズル22Sによる噴霧パターンPTが一文字状である場合、
図8の上段に示すように、隣り合う噴霧パターンPTの端部同士が長さL1に渡って大きく重なることで、周囲とは塗布量が違ってしまい、着色状態に濃淡が生じる。このような場合には、
図8の下段に示すように、各1流体ノズル22Sの間隔を大きめに設定するなどし、搬送方向とは直交する水平方向に対し、所定の角度θを持って1流体ノズル22Sを並設してもよい。これにより、各噴霧パターンPTの大きさを変えずに、噴霧パターンPTの重なり部分の長さをL2に短くでき、濃淡を生じ難くできる。
【0052】
前記第1実施形態では、事前処理工程および液体塗布工程より後に切断工程を実施し、第2実施形態では、事前処理工程および液体塗布工程よりも前に切断工程を実施するように説明した。このように、切断工程の順番は任意であってよく、塗布条件によっては事前処理工程および液体塗布工程の間に切断工程を実施してもよい。
しかし、事前処理された塗布面が乾燥しないうちに液体塗布を行う必要がある関係で、液体塗布工程については事前処理工程の次工程として行うことがよく、第1、第2実施形態のように、これらの工程の前後に切断工程を実施することが望ましい。
【0053】
前記第各実施形態では、チーズ上面の全体にわたって液体を塗布していたが、1流体ノズル22Sから所定のタイミングにて間欠的に液体を噴霧させることにより液体の塗布領域を可変にし、チーズ上面の一部のみを着色させたり、風味付けをしたりしてもよい。
【0054】
また、1流体ノズル22Sへの液体供給を1流体ノズル22S毎に独立して行ってもよく、異なる水溶性着色料や異なる香料を含有した液体を各1流体ノズル22Sに供給し、チーズ上面の各部で色合いや風味を異ならせてもよい。
また、前記第1、第2実施形態では、シート状チーズSCの片面にのみ事前処理液、および液体を塗布していたが、両面や全ての面に塗布するようにしてもよい。
【0055】
前記第各実施形態では、シート状チーズSCやチーズカードを製造した上で、事前処理工程や液体塗布工程等の工程を施していたが、予め製造されているシート状チーズSCやチーズカードを用いてこれらの工程を施してもよい。
【0056】
前記第1、第2実施形態では、シート状チーズSCに対して事前処理液、および水溶性着色料や香料を含んだ液体を塗布していたが、
図9に示すように、シート状チーズSCの帯状の切断チーズCCを複数積層することで得られる積層チーズLCの表面に、そのような事前処理液、および液体を塗布してもよい。
【0057】
この場合、積層チーズLCとしては、
図4、
図9に示すようなものに限らず、シート状チーズSCを切断工程にて所定の大きさの帯状の切断チーズCCに切断した後に、それらの切断チーズCCをさらに別な切断工程にて幅方向に切断して短冊状に形成し、これを複数枚積層したものであってもよい。
【0058】
前記第3実施形態では、事前処理工程に用いるナチュラルチーズの一例を用いて説明したが、その他公知の各種製造方法で製造したナチュラルチーズに事前処理工程や液体塗布工程等の工程を施してもよい。
【実施例1】
【0059】
以下、本発明を実施例によって説明する。
(実施例)
使用したインク液は、水溶性着色料としてタマリンド色素(OCL-ブラウンTP-P、小川香料(株))、水溶性シェラック(AQシェラック、岐阜シェラック(株)製)、純度95%のエタノール(宝酒造(株)製)、を表1に従って配合した。
【0060】
【0061】
インク液を噴霧するための装置としては、1流体ノズルを取り付けたスプレーガン(パルサジェット(商標登録)、スプレーイングシステムスジャパン(株)製)を使用し、デューティサイクルを調整することで約2L/hrとなるように調整して噴霧した。その時の噴霧圧は0.35MPaであった。
一方、事前処理液として、純度95%のエタノールを使用し、2流体ノズルを持つスプレーガン(FOG-101-15GM、アネスト岩田(株)製)を用いて噴霧した。その際、実測で1.5L/hrの噴霧量に調整した。
チーズを搬送する手段としては、ベルトコンベア(トレベア、マルヤス機械(株)製)を用いた。なお、搬送速度は5m/minとした。
実施にあたっては、切れてるチーズ(雪印メグミルク(株)製)をベルトコンベアで搬送しながら、まず事前処理液を噴霧し、その後インク液を噴霧した。
【0062】
(比較例)
使用したインク液とインク液を噴霧する噴霧装置とは、実施例と同様である。異なる点は、事前処理液を噴霧せずに、ベルトコンベアで切れてるチーズ(雪印メグミルク(株)製)を搬送しながら、インク液のみを噴霧したことである。
【0063】
(結果)
実施例および比較例で着色したチーズ表面の写真を
図10、
図11に示す。明らかに実施例のチーズはべた塗りできているが、比較例のチーズはべた塗りできていなかった。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明は、シート状のプロセスチーズ類に良好に利用できる。また、チーズ表面上への着色方法として、ナチュラルチーズにも利用可能である。
【符号の説明】
【0065】
1…製造装置、12…成形部、13…事前処理部、14…液体塗布部、15…乾燥部、16…切断部、21…噴霧装置である第1噴霧装置、21W…2流体ノズル、22…噴霧装置である第2噴霧装置、22S…1流体ノズル、LC…積層チーズ、MC…溶融チーズ、PC…プロセスチーズ類、SC…シート状チーズ。