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特許7153014側鎖オレフィン含有ビニルアルコール系重合体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-04
(45)【発行日】2022-10-13
(54)【発明の名称】側鎖オレフィン含有ビニルアルコール系重合体
(51)【国際特許分類】
   C08F 8/32 20060101AFI20221005BHJP
   C08F 218/08 20060101ALI20221005BHJP
   C08F 299/00 20060101ALN20221005BHJP
【FI】
C08F8/32
C08F218/08
C08F299/00
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019523918
(86)(22)【出願日】2018-06-05
(86)【国際出願番号】 JP2018021579
(87)【国際公開番号】W WO2018225742
(87)【国際公開日】2018-12-13
【審査請求日】2021-02-08
(31)【優先権主張番号】P 2017111037
(32)【優先日】2017-06-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】110002206
【氏名又は名称】弁理士法人せとうち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】立花 祐貴
(72)【発明者】
【氏名】天野 雄介
(72)【発明者】
【氏名】前川 一彦
【審査官】松元 洋
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-072720(JP,A)
【文献】国際公開第2013/105188(WO,A1)
【文献】特開平04-255702(JP,A)
【文献】特開昭56-008408(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 8/00 - 8/50
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表わされる構成単位を全構成単位に対して0.001~10モル%含み、X、R、R、RおよびRの合計炭素数が2以上である、α,β-不飽和型ではない側鎖オレフィン含有ビニルアルコール系重合体。
【化1】
[式(1)中、Xは、置換基を有していてもよい2価の脂肪族炭化水素基、置換基を有していてもよい2価の脂環式炭化水素基、置換基を有していてもよい2価の芳香族炭化水素基、またはそれらの基がアミド結合、エステル結合、エーテル結合およびスルフィド結合からなる群から選択される少なくとも1種の結合を介して2つ以上結合された基を表す。R、R、RおよびRは、それぞれ独立して水素原子、置換基を有していてもよい脂肪族炭化水素基、置換基を有していてもよい脂環式炭化水素基、または置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基を表し、X、R、R、RおよびRはそれぞれ任意の組合せで環構造を形成していてもよい。]
【請求項2】
X、R、R、RおよびRの合計炭素数が4~7である、請求項1に記載のα,β-不飽和型ではない側鎖オレフィン含有ビニルアルコール系重合体。
【請求項3】
が水素原子である、請求項1または2に記載のα,β-不飽和型ではない側鎖オレフィン含有ビニルアルコール系重合体。
【請求項4】
Xが置換基を有していてもよい2価の脂肪族炭化水素基である、請求項1~3のいずれか1項に記載のα,β-不飽和型ではない側鎖オレフィン含有ビニルアルコール系重合体。
【請求項5】
およびRがともに水素原子である、請求項1~4のいずれか1項に記載のα,β-不飽和型ではない側鎖オレフィン含有ビニルアルコール系重合体。
【請求項6】
下記式(2)で表わされる構成単位を含むビニルアルコール系重合体に対し、下記式(3)で表わされるアミン化合物を付加反応させる、請求項1~5のいずれか1項に記載のα,β-不飽和型ではない側鎖オレフィン含有ビニルアルコール系重合体の製造方法。
【化2】
[式(2)中、Rは、水素原子またはメチル基を表す。]
【化3】
[式(3)中、X、R、R、RおよびRは、式(1)と同義である。]
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、側鎖にオレフィンを有する新規な変性ビニルアルコール系重合体および当該変性ビニルアルコール系重合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ビニルアルコール系重合体は、高い結晶性に起因する優れた皮膜特性(強度、耐油性、造膜性、酸素ガスバリア性等)や親水性を利用して、乳化剤、懸濁剤、界面活性剤、繊維加工剤、各種バインダー、紙加工剤、接着剤、種々の包装体、シート、容器等に広く利用されている。一方、通常、ビニルアルコール系重合体は、その高い親水性に起因して高湿下での物性低下が著しいといった点や、反応性が低いなど、用途によっては大きな課題となる物性的欠点を抱えている。これらの課題に対し、官能基を導入して特定の性能を向上させた高機能化の追及も行われており、いわゆる変性ビニルアルコール系重合体も種々開発されている。
【0003】
オレフィンは反応性官能基であり、オレフィンをビニルアルコール系重合体の側鎖に導入することにより、高エネルギー線で架橋することによる耐水化や、グラフト重合による重合体の改質などが可能になる。
【0004】
側鎖にオレフィンを有する変性ビニルアルコール系重合体として、これまでにいくつかの提案がなされている。例えば、特許文献1には、グリシジルメタクリレートを用いることにより、メタクリレート基を側鎖に導入した変性ビニルアルコール系重合体が例示されており、特許文献2には、メタクリルアミド化合物を用いることにより、アクリルアミド基を側鎖に導入した変性ビニルアルコール系重合体が例示されている。また、特許文献3にも、アクリレート基を側鎖に導入した変性ビニルアルコール系重合体が例示されている。しかしながら、アクリレート基、メタクリレート基及びアクリルアミド基のようなα,β-不飽和型のオレフィンは反応性が高すぎるため、変性ビニルアルコール系重合体の保存中に当該官能基同士が架橋してしまい、不溶化してしまうなど、保存安定性に問題があった。
【0005】
一方、特許文献4には、1,4-ブタンジオールジビニルエーテル等を用いることにより、α,β-不飽和型ではないオレフィンを側鎖に有する変性ビニルアルコール系重合体が例示されている。しかしながら、側鎖に導入する構造が疎水的であったり、製造工程中でゲル化しやすいなどの安定性に問題を抱えていた。水や有機溶媒への溶解性が高く、保存安定性が高く、且つ反応性にも優れたビニルアルコール系重合体が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平4-283749号公報
【文献】特開2001-72720号公報
【文献】特開平10-312166号公報
【文献】WO2014/171502号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、保存安定性が高く、熱処理後でも水や有機溶媒への溶解性が良好であり、高エネルギー線に対する反応性に優れた側鎖オレフィン含有ビニルアルコール系重合体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、ビニルアルコール系重合体の側鎖にオレフィンを含有する特定構造を導入することによって、保存安定性が高く、熱処理後でも良好な水溶性を有するとともに、高エネルギー線に対する反応性に優れた側鎖オレフィン含有ビニルアルコール系重合体が得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、上記課題は、
[1]下記式(1)で表わされる構成単位を全構成単位に対して0.001~10モル%含み、X、R、R、RおよびRの合計炭素数が2以上である、側鎖オレフィン含有ビニルアルコール系重合体;
【化1】
[式(1)中、Xは、置換基を有していてもよい2価の脂肪族炭化水素基、置換基を有していてもよい2価の脂環式炭化水素基、置換基を有していてもよい2価の芳香族炭化水素基、またはそれらの基がアミド結合、エステル結合、エーテル結合およびスルフィド結合からなる群から選択される少なくとも1種の結合を介して2つ以上結合された基を表す。R、R、RおよびRは、それぞれ独立して水素原子、置換基を有していてもよい脂肪族炭化水素基、置換基を有していてもよい脂環式炭化水素基、または置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基を表し、X、R、R、RおよびRはそれぞれ任意の組合せで環構造を形成していてもよい。]
[2]X、R、R、RおよびRの合計炭素数が4~7である、[1]に記載の側鎖オレフィン含有ビニルアルコール系重合体;
[3]Rが水素原子である、[1]または[2]に記載の側鎖オレフィン含有ビニルアルコール系重合体;
[4]Xが置換基を有していてもよい2価の脂肪族炭化水素基である、[1]~[3]のいずれかに記載の側鎖オレフィン含有ビニルアルコール系重合体;
[5]RおよびRがともに水素原子である、[1]~[4]のいずれかに記載の側鎖オレフィン含有ビニルアルコール系重合体;
[6]下記式(2)で表わされる構成単位を含むビニルアルコール系重合体に対し、下記式(3)で表わされるアミン化合物を付加反応させる、[1]~[5]のいずれかに記載の側鎖オレフィン含有ビニルアルコール系重合体の製造方法;
【化2】
[式(2)中、Rは、水素原子またはメチル基を表す。]
【化3】
[式(3)中、X、R、R、RおよびRは、式(1)と同義である。]
を提供することにより解決される。
【発明の効果】
【0010】
本発明の側鎖オレフィン含有ビニルアルコール系重合体は、保存安定性が高く、熱処理後でも水や有機溶媒への良好な溶解性を有するうえに、高エネルギー線に対する優れた反応性を有する。したがって、ビニルアルコール系重合体の様々な用途に好適に用いられる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施形態に基づいて詳細に説明する。なお、以下に説明する実施形態は本発明を限定するものではなく、本発明の趣旨を損なわない範囲で種々の変更をすることができる。
【0012】
[式(1)で表される構成単位]
本発明の側鎖オレフィン含有ビニルアルコール系重合体は、下記式(1)で表される構成単位を全構成単位に対して0.001~10モル%含み、X、R、R、RおよびRの合計炭素数が2以上である。
【0013】
【化4】
[式(1)中、Xは、置換基を有していてもよい2価の脂肪族炭化水素基、置換基を有していてもよい2価の脂環式炭化水素基、置換基を有していてもよい2価の芳香族炭化水素基、またはそれらの基がアミド結合、エステル結合、エーテル結合およびスルフィド結合からなる群から選択される少なくとも1種の結合を介して2つ以上結合された基を表す。R、R、RおよびRは、それぞれ独立して水素原子、置換基を有していてもよい脂肪族炭化水素基、置換基を有していてもよい脂環式炭化水素基、または置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基を表し、X、R、R、RおよびRはそれぞれ任意の組合せで環構造を形成していてもよい。]
【0014】
重合体の繰り返し単位中に存在するオレフィンは、高エネルギー線で架橋できるため、本発明の側鎖オレフィン含有ビニルアルコール系重合体は、架橋による耐水化やゲルの生成が可能になる。また、本発明のビニルアルコール系重合体における側鎖オレフィンは、α,β-不飽和型ではないため、耐熱性が高く、乾燥工程や熱成形中でも架橋することなく安定に存在できる。さらに、本発明のビニルアルコール系重合体における側鎖オレフィンは、ビニルアルコール系重合体主鎖とアミド構造を介して結合しているため、耐加水分解性が高く、例えば水溶液状態であっても長期にわたって安定して保存することが可能である。
【0015】
式(1)において、Xは、置換基を有していてもよい2価の脂肪族炭化水素基、置換基を有していてもよい2価の脂環式炭化水素基、置換基を有していてもよい2価の芳香族炭化水素基、またはそれらの基がアミド結合、エステル結合、エーテル結合およびスルフィド結合からなる群から選択される少なくとも1種の結合を介して2つ以上結合された基を表す。
【0016】
置換基を有していてもよい2価の脂肪族炭化水素基としては、置換基を有していてもよいアルキレン基等が挙げられる。置換基を有していてもよい2価の脂環式炭化水素基としては、置換基を有していてもよいシクロアルキレン基等が挙げられる。置換基を有していてもよい2価の芳香族炭化水素基としては、置換基を有していてもよいアリーレン基等が挙げられる。
【0017】
アルキレン基としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基、ヘプチレン基、オクチレン基、ノニレン基、デシレン基等が挙げられる。
【0018】
上記アルキレン基は置換基を有していてもよく、かかる置換基としては、例えば、メチル基、エチル基等の分岐構造;ビニル基、アリル基、メチルビニル基、プロペニル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、シクロプロペニル基、シクロブテニル基、シクロペンテニル基、シクロヘキセニル基等のアルケニル基;エチニル基、プロピニル基、プロパルギル基、ブチニル基、ペンチニル基、ヘキシニル基、フェニルエチニル基等のアルキニル基;フェニル基、ナフチル基、アントリル基、フェナントリル基等のアリール基;ピリジル基、チエニル基、フリル基、ピロリル基、イミダゾリル基、ピラジニル基、オキサゾリル基、チアゾリル基、ピラゾリル基、ベンゾチアゾリル基、ベンゾイミダゾリル基等の複素芳香環基;メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、sec-ブトキシ基、tert-ブトキシ基、ペンチルオキシ基、イソペンチルオキシ基、ネオペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基、ヘプチルオキシ基、オクチルオキシ基、ノニルオキシ基、デシルオキシ基、ドデシルオキシ基等のアルコキシ基;メチルチオ基、エチルチオ基、プロピルチオ基、ブチルチオ基等のアルキルチオ基;フェニルチオ基、ナフチルチオ基等のアリールチオ基;tert-ブチルジメチルシリルオキシ基、tert-ブチルジフェニルシリルオキシ基等の三置換シリルオキシ基;アセトキシ基、プロパノイルオキシ基、ブタノイルオキシ基、ピバロイルオキシ基、ベンゾイルオキシ基等のアシロキシ基;メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、プロポキシカルボニル基、イソプロポキシカルボニル基、ブトキシカルボニル基、イソブトキシカルボニル基、sec-ブトキシカルボニル基、tert-ブトキシカルボニル基、ペンチルオキシカルボニル基、ヘキシルオキシカルボニル基、ヘプチルオキシカルボニル基、オクチルオキシカルボニル基等のアルコキシカルボニル基;メチルスルフィニル基、エチルスルフィニル基等のアルキルスルフィニル基;フェニルスルフィニル基等のアリールスルフィニル基;メチルスルフォニルオキシ基、エチルスルフォニルオキシ基、フェニルスルフォニルオキシ基、メトキシスルフォニル基、エトキシスルフォニル基、フェニルオキシスルフォニル基等のスルホン酸エステル基;アミノ基;水酸基;シアノ基;ニトロ基;フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子;などが挙げられる。中でも、反応性の観点から、分岐構造、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アルコキシ基、アシロキシ基、アルコキシカルボニル基、水酸基が特に好ましく、分岐構造、アルコキシ基、水酸基がさらに好ましい。
【0019】
上記置換基の一例であるアミノ基としては、1級アミノ基(-NH)の他、2級アミノ基、3級アミノ基であってもよい。2級アミノ基は、-NHR(Rは任意の一価の置換基である)で示されるモノ置換アミノ基であり、Rとしては、アルキル基、アリール基、アセチル基、ベンゾイル基、ベンゼンスルホニル基、tert-ブトキシカルボニル基等が挙げられる。2級アミノ基としては、例えば、メチルアミノ基、エチルアミノ基、プロピルアミノ基、イソプロピルアミノ基等のようにRがアルキル基である2級アミノ基や、フェニルアミノ基、ナフチルアミノ基等のようにRがアリール基である2級アミノ基等が挙げられる。また、Rにおけるアルキル基やアリール基の水素原子が、更にアセチル基、ベンゾイル基、ベンゼンスルホニル基、tert-ブトキシカルボニル基等で置換されていてもよい。
【0020】
3級アミノ基は、-NR(R及びRは任意の一価の置換基である)で示されるジ置換アミノ基であり、Rとしては、Rと同様のものを用いることができ、R及びRは互いに同じでも異なっていてもよい。3級アミノ基の具体例としては、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジブチルアミノ基、エチルメチルアミノ基、ジフェニルアミノ基、メチルフェニルアミノ基等のようにR及びRがアルキル基及びアリール基からなる群から選択される少なくとも1種である3級アミノ基等が挙げられる。
【0021】
シクロアルキレン基としては、シクロプロピレン基、シクロブチレン基、シクロペンチレン基、シクロヘキシレン基等が挙げられる。これらシクロアルキレン基は置換基を有していてもよく、かかる置換基としては、上記アルキレン基の説明のところで例示された置換基と同様のものを用いることができる。
【0022】
アリーレン基としては、フェニレン基、ナフチレン基、アントリレン基、フェナントリレン基、フルオレニレン基等が挙げられる。これらアリーレン基は置換基を有していてもよく、かかる置換基としては、上記アルキレン基の説明のところで例示された置換基と同様のものを用いることができる。
【0023】
式(1)におけるXとしては、反応性の観点から、置換基を有していてもよい2価の脂肪族炭化水素基または置換基を有していてもよい2価の脂環式炭化水素基であることが好ましく、置換基を有していてもよい2価の脂肪族炭化水素基であることがより好ましい。置換基を有していてもよい脂肪族炭化水素基の中では、置換基を有していてもよい2価のアルキレン基がXとして好適に用いられ、アルキレン基の炭素数としては、1~15が好ましく、1~10がより好ましい。アルキレン基の中でも、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、イソプロピレン基、ブチレン基、イソブチレン基、sec-ブチレン基、tert-ブチレン基、ペンチレン基、イソペンチレン基及びネオペンチレン基からなる群から選択される少なくとも1種がさらに好適に用いられる。置換基を有していてもよい脂環式炭化水素基の中では、置換基を有していてもよいシクロアルキレン基がXとして好適に用いられる。シクロアルキレン基の中でも、シクロプロピレン基、シクロブチレン基及びシクロペンチレン基からなる群から選択される少なくとも1種がより好適に用いられる。
【0024】
式(1)において、R、R、RおよびRは、それぞれ独立して水素原子、置換基を有していてもよい脂肪族炭化水素基、置換基を有していてもよい脂環式炭化水素基、または置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基を表す。
【0025】
置換基を有していてもよい脂肪族炭化水素基としては、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルケニル基、置換基を有していてもよいアルキニル基等が挙げられる。置換基を有していてもよい脂環式炭化水素基としては、置換基を有していてもよいシクロアルキル基等が挙げられる。置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基としては、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよいアリールアルキル基等が挙げられる。
【0026】
アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert-ペンチル基、n-ヘキシル基、イソヘキシル基、2-エチルヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基等が挙げられる。これらアルキル基は置換基を有していてもよく、かかる置換基としては、アルキレン基の説明のところで例示された置換基と同様のものを用いることができ、メチル基、エチル基等のアルキル基を分岐構造として有するもの、アルコキシ基を有するもの、水酸基を有するものが好適に採用される。
【0027】
アルケニル基としては、例えば、ビニル基、アリル基、メチルビニル基、プロペニル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、シクロプロペニル基、シクロブテニル基、シクロペンテニル基、シクロヘキセニル基等が挙げられる。これらアルケニル基は置換基を有していてもよく、かかる置換基としては、アルキレン基の説明のところで例示された置換基と同様のものを用いることができる。
【0028】
アルキニル基としては、例えば、エチニル基、プロピニル基、プロパルギル基、ブチニル基、ペンチニル基、ヘキシニル基、フェニルエチニル基等が挙げられる。これらアルキニル基は置換基を有していてもよく、かかる置換基としては、アルキレン基の説明のところで例示された置換基と同様のものを用いることができる。
【0029】
シクロアルキル基としては、例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプタニル基、シクロオクタニル基、シクロノナニル基、シクロデカニル基、シクロウンデカニル基、シクロドデカニル基等が挙げられる。これらシクロアルキル基は置換基を有していてもよく、かかる置換基としては、アルキレン基の説明のところで例示された置換基と同様のものを用いることができる。
【0030】
アリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基、アントリル基、フェナントリル基等が挙げられる。これらアリール基は置換基を有していてもよく、かかる置換基としては、アルキレン基の説明のところで例示された置換基と同様のものや、上述のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基等を用いることができる。
【0031】
アリールアルキル基としては、例えば、ベンジル基、4-メトキシベンジル基、フェネチル基、ジフェニルメチル基等が挙げられる。これらアリールアルキル基は置換基を有していてもよく、かかる置換基としては、アルキレン基の説明のところで例示された置換基と同様のものを用いることができる。
【0032】
式(1)におけるRとしては、反応性の観点から、水素原子、置換基を有していてもよい脂肪族炭化水素基または置換基を有していてもよい脂環式炭化水素基であることが好ましく、水素原子または置換基を有していてもよい脂肪族炭化水素基であることがより好ましく、水素原子であることがさらに好ましい。置換基を有していてもよい脂肪族炭化水素基の中では、置換基を有していてもよいアルキル基がRとして好適に用いられ、アルキル基の炭素数としては、1~15が好ましく、1~10がより好ましく、1~5がさらに好ましい。アルキル基の中でも、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基及びネオペンチル基からなる群から選択される少なくとも1種がさらに好適に用いられ、メチル基及びエチル基からなる群から選択される少なくとも1種が特に好適に用いられる。置換基を有していてもよい脂環式炭化水素基の中では、置換基を有していてもよいシクロアルキル基がRとして好適に用いられる。シクロアルキル基の中でも、シクロプロピル基、シクロブチル基及びシクロペンチル基からなる群から選択される少なくとも1種がより好適に用いられる。
【0033】
式(1)におけるR、RおよびRとしては、反応性の観点から、それぞれ独立して水素原子、置換基を有していてもよい脂肪族炭化水素基または置換基を有していてもよい脂環式炭化水素基であることが好ましく、それぞれ独立して水素原子または置換基を有していてもよい脂肪族炭化水素基であることがより好ましく、RおよびRが水素原子であることがさらに好ましい。置換基を有していてもよい脂肪族炭化水素基の中では、置換基を有していてもよいアルキル基がR、RおよびRとして好適に用いられ、アルキル基の炭素数としては、1~15が好ましく、1~10がより好ましく、1~5がさらに好ましい。アルキル基の中でも、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基及びネオペンチル基からなる群から選択される少なくとも1種がさらに好適に用いられ、メチル基、エチル基、プロピル基が特に好適に用いられる。置換基を有していてもよい脂環式炭化水素基の中では、置換基を有していてもよいシクロアルキル基がR、RおよびRとして好適に用いられる。中でも、シクロプロピル基、シクロブチル基及びシクロペンチル基からなる群から選択される少なくとも1種のシクロアルキル基がより好適に用いられる。上記式(1)におけるR、RおよびRとしては、水素原子であることが本発明の好適な実施態様である。
【0034】
式(1)において、X、R、R、RおよびRは、それぞれ任意の組合せで環構造を形成していてもよく、例えば、RとRが環構造を形成し、オレフィンが環構造の一部であってよい。
【0035】
オレフィンの反応性および製造上の安全性の観点から、X、R、R、RおよびRの合計炭素数が2以上であることが重要である。主鎖から離れた位置にオレフィンを配置することにより、オレフィンの反応性を十分に発揮されやすくする観点から、前記合計炭素数は、4以上であることが好ましく、5以上であることがより好ましく、6以上であることが更に好ましい。また、Xとしては、3以上であることが好ましく、4以上であることがより好ましい。合計炭素数が1以下の場合、構造中に極めて毒性の高いフラグメントが存在することになり、分解等が進行した場合に取り扱い上の安全性が不十分となり好ましくない。また、水溶性の観点から、合計炭素数は15以下であることが好ましく、11以下であることがより好ましく、9以下であることがさらに好ましく、7以下であることが最も好ましい。合計炭素数が15以下である場合、水溶液中で側鎖同士が疎水性相互作用を生じることで増粘、あるいは含水ゲル化することを抑制でき、塗工などのプロセスにおいて成形が容易になる傾向にある。合計炭素数が7以下である場合、透明性の高い水溶液が調製でき、透明性が要求される用途でも好適に用いられる。Xとしては、9以下であることが好ましく、7以下であることがより好ましい。
【0036】
本発明の側鎖オレフィン含有ビニルアルコール系重合体における式(1)で表される構成単位の含有量は、全構成単位を100モル%として、0.001~10モル%である。式(1)で表される構成単位の含有量が0.001~10モル%の範囲にあることにより、保存安定性が高く、熱処理後でも水や有機溶媒への良好な溶解性を有するうえに、高エネルギー線に対する優れた反応性を有する。式(1)で表される構成単位の含有量が0.001モル%未満であると、式(1)で表される構成単位によるビニルアルコール系重合体の変性の効果が不十分となる。式(1)で表される構成単位の含有量が10モル%を超えると、ビニルアルコール系重合体の結晶性が低下し始める傾向にあり、架橋皮膜の耐水性が低下するだけでなく、疎水化されることで水溶性も悪化する。式(1)で表される構成単位の含有量は、好ましくは0.05モル%以上であり、より好ましくは0.1モル%以上であり、特に好ましくは0.3モル%以上である。また、上記式(1)で表される構成単位の含有量は、好ましくは7モル%以下であり、より好ましくは5モル%以下である。本発明の側鎖オレフィン含有ビニルアルコール系重合体は、式(1)で表される構成単位を1種又は2種以上有していてもよい。2種以上の当該構成単位を有する場合、これら2種以上の構成単位の含有量の合計が上記範囲にあることが重要である。なお、本発明において重合体中の構成単位とは、重合体を構成する繰り返し単位のことをいう。例えば、下記のビニルアルコール単位や、下記のビニルエステル単位も構成単位である。
【0037】
[式(2)で表わされる構成単位]
本発明の側鎖オレフィン含有ビニルアルコール系重合体は、下記式(2)で表される構成単位を全構成単位に対して0~10モル%含むことが好ましい。
【0038】
【化5】
[式(2)中、Rは、水素原子またはメチル基を表す。]
【0039】
式(2)中、Rは、水素原子またはメチル基を表す。式(2)で示される構成単位を導入したビニルアルコール系重合体[以下、「ラクトン環含有ビニルアルコール系重合体」と略称する場合がある]の合成が容易となる観点から、Rは、水素原子であることが好ましい。
【0040】
本発明の側鎖オレフィン含有ビニルアルコール系重合体における式(2)で表される構成単位の含有量は、全構成単位を100モル%として、0~10モル%であることが好ましい。式(2)で表される構成単位の含有量が10モル%以下であると、ビニルアルコール系重合体の結晶性が低下しにくく、架橋皮膜の耐水性が低下しにくい傾向にあり、8モル%以下であることがより好ましく、7モル%以下であることがさらに好ましい。一方、式(2)で表される構成単位の含有量は、0.005モル%以上であることがより好ましく、0.01モル%以上であることがさらに好ましく、0.1モル%以上であることが特に好ましい。本発明の側鎖オレフィン含有ビニルアルコール系重合体は、式(2)で表される構成単位を1種又は2種有していてもよい。当該構成単位を2種有する場合、これら構成単位の含有量の合計が上記範囲にあることが好ましい。
【0041】
[ビニルアルコール単位]
本発明の側鎖オレフィン含有ビニルアルコール系重合体におけるビニルアルコール単位の含有量は特に限定されないが、水に対する溶解性の観点から、重合体中の全構成単位を100モル%として、好ましくは50モル%以上であり、より好ましくは70モル%以上、さらに好ましくは75モル%以上、特に好ましくは80モル%以上である。また、上記ビニルアルコール単位の含有量は、重合体中の全構成単位を100モル%として、好ましくは99.95モル%以下であり、より好ましくは99.90モル%以下である。
【0042】
ビニルアルコール単位は、加水分解や加アルコール分解などによってビニルエステル単位から誘導できる。そのためビニルエステル単位からビニルアルコール単位に変換する際の条件等によってはビニルアルコール系重合体中にビニルエステル単位が残存することがある。よって、本発明の側鎖オレフィン含有ビニルアルコール系重合体は、上記に由来するビニルエステル単位を含んでいてもよい。
【0043】
上記ビニルエステル単位のビニルエステルの例としては、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、バーサチック酸ビニル、カプロン酸ビニル、カプリル酸ビニル、ラウリル酸ビニル、パルミチン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、オレイン酸ビニル、安息香酸ビニルなどを挙げることができ、これらの中でも酢酸ビニルが工業的観点から好ましい。
【0044】
本発明の側鎖オレフィン含有ビニルアルコール系重合体は、好適には下記式(A)で表わされる。
【0045】
【化6】
[式(A)中、X、R、R、RおよびRは式(1)と同義であり、Rは式(2)と同義であり、X、R、R、RおよびRの合計炭素数が2以上であり、a、b、c及びdは、全構成単位に対する各構成単位の含有率を表し、aは50~99.95モル%であり、bは0.05~30モル%であり、cは0~10モル%であり、dは0.001~10モル%である。]
【0046】
上記式(A)において、aは、重合体中の全構成単位を100モル%として、50~99.95モル%であることが好ましい。aは、より好ましくは70モル%以上であり、さらに好ましくは75モル%以上であり、特に好ましくは80モル%以上である。一方、aは、より好ましくは99.90モル%以下である。
【0047】
上記式(A)において、bは、重合体中の全構成単位を100モル%として、0.05~30モル%であることが好ましい。bは、より好ましくは0.1モル%以上であり、さらに好ましくは0.2モル%以上であり、特に好ましくは0.5モル%以上である。一方、bは、より好ましくは25モル%以下であり、さらに好ましくは20モル%以下である。
【0048】
上記式(A)において、cは、重合体中の全構成単位を100モル%として、0~10モル%であることが好ましい。cは、より好ましくは0.005モル%以上であり、さらに好ましくは0.01モル%以上であり、特に好ましくは0.1モル%以上である。一方、cは、より好ましくは8モル%以下であり、さらに好ましくは7モル%以下である。
【0049】
上記式(A)において、dは、重合体中の全構成単位を100モル%として、0.001~10モル%である。dが0.001~10モル%の範囲にあることにより、熱処理後でも水や有機溶媒への良好な溶解性を有し、高い保存安定性を有するうえに、高エネルギー線に対する優れた反応性を有する。dは、好ましくは0.05モル%以上であり、より好ましくは0.1モル%以上であり、さらに好ましくは0.3モル%以上である。一方、dは、重合体中の全構成単位を100モル%として、好ましくは7モル%以下であり、より好ましくは5モル%以下である。
【0050】
本発明の側鎖オレフィン含有ビニルアルコール系重合体は、本発明の効果が得られる限り、式(1)で表される構成単位、式(2)で表される構成単位、ビニルアルコール単位及びビニルエステル単位以外の構成単位をさらに有することができる。当該構成単位は、例えば、ビニルエステルと共重合可能であり、かつ式(1)で表される構成単位に変換可能な不飽和単量体や、ビニルエステルと共重合可能なエチレン性不飽和単量体等に由来する構成単位である。エチレン性不飽和単量体は、例えば、エチレン、プロピレン、n-ブテン、イソブチレン、1-ヘキセンなどのα-オレフィン類;アクリル酸及びその塩;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n-プロピル、アクリル酸i-プロピル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸i-ブチル、アクリル酸t-ブチル、アクリル酸2-エチルヘキシル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸オクタデシルなどのアクリル酸エステル類;メタクリル酸及びその塩;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n-プロピル、メタクリル酸i-プロピル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸i-ブチル、メタクリル酸t-ブチル、メタクリル酸2-エチルヘキシル、メタクリル酸ドデシル、メタクリル酸オクタデシルなどのメタクリル酸エステル類;アクリルアミド、N-メチルアクリルアミド、N-エチルアクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、アクリルアミドプロパンスルホン酸及びその塩、アクリルアミドプロピルジメチルアミン及びその塩(例えば4級塩);メタクリルアミド、N-メチルメタクリルアミド、N-エチルメタクリルアミド、メタクリルアミドプロパンスルホン酸及びその塩、メタクリルアミドプロピルジメチルアミン及びその塩(例えば4級塩);メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n-プロピルビニルエーテル、i-プロピルビニルエーテル、n-ブチルビニルエーテル、i-ブチルビニルエーテル、t-ブチルビニルエーテル、ドデシルビニルエーテル、ステアリルビニルエーテル、2,3-ジアセトキシ-1-ビニルオキシプロパンなどのビニルエーテル類;アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどのシアン化ビニル類;塩化ビニル、フッ化ビニルなどのハロゲン化ビニル類;塩化ビニリデン、フッ化ビニリデンなどのハロゲン化ビニリデン類;酢酸アリル、2,3-ジアセトキシ-1-アリルオキシプロパン、塩化アリルなどのアリル化合物;マレイン酸、イタコン酸、フマル酸などの不飽和ジカルボン酸及びその塩又はそのエステル;ビニルトリメトキシシランなどのビニルシリル化合物;酢酸イソプロペニルである。
【0051】
本発明の側鎖オレフィン含有ビニルアルコール系重合体における式(1)で表される構成単位、式(2)で表される構成単位、ビニルアルコール単位、及びその他の任意の構成単位の配列順序には特に制限はなく、本発明の側鎖オレフィン含有ビニルアルコール系重合体は、ランダム共重合体、ブロック共重合体、交互共重合体などのいずれであってもよい。
【0052】
本発明の側鎖オレフィン含有ビニルアルコール系重合体のJIS K6726に準拠して測定した粘度平均重合度は特に限定されず、好ましくは100~5,000であり、より好ましくは200~4,000である。粘度平均重合度が100以上であると、フィルムとしたときに当該フィルムの機械的強度が優れる傾向にある。粘度平均重合度が5,000以下である場合、側鎖オレフィン含有ビニルアルコール系重合体の工業的な製造が容易となりやすい。
【0053】
[製造方法]
本発明の側鎖オレフィン含有ビニルアルコール系重合体の製造方法は特に限定されない。例えば、式(1)で示される構成単位を有する不飽和単量体とビニルエステルとを共重合したのちビニルエステル単位を加水分解又は加アルコール分解する方法や、式(1)で示される構成単位に変換可能な不飽和単量体とビニルエステルとを共重合したのちビニルエステル単位を加水分解又は加アルコール分解するとともに、式(1)で示される構成単位に変換可能な構成単位を式(1)で示される構成単位に変換する方法や、ビニルアルコール系重合体に反応点を導入し、当該反応点を基点とする後反応により式(1)で示される構成単位を導入する方法などが用いられる。中でも、製造の容易さから、ビニルアルコール系重合体に導入した反応点を基点とする後反応を用いる方法が好ましく、当該方法としては、例えば、カルボン酸を導入したビニルアルコール系重合体に下記式(3)で示されるアミン化合物を脱水縮合反応させる方法が挙げられる。また、カルボン酸エステルを導入したビニルアルコール系重合体、カルボン酸ハライドを導入したビニルアルコール系重合体、カルボン酸無水物を導入したビニルアルコール系重合体、ラクトン環を導入したビニルアルコール系重合体など、アミン化合物との反応性を有する官能基を導入したビニルアルコール系重合体に下記式(3)で示されるアミン化合物を反応させる方法が挙げられる。特に、下記式(2)で示される構成単位を導入したビニルアルコール系重合体に下記式(3)で示されるアミン化合物を反応させる方法が、比較的反応効率が高いことから、より好ましい態様である。
【0054】
【化7】
[式(2)中、Rは、水素原子またはメチル基を表す。]
【0055】
【化8】
[式(3)中、X、R、R、RおよびRは、式(1)と同義である。]
【0056】
式(3)で示されるオレフィン含有アミン化合物としては、X、R、R、RおよびRの合計炭素数が2以上であれば、特に限定されない。合計炭素数が1以下であるものは、毒性が極めて高いために、取り扱いが著しく困難であり適用できない。X、R、R、RおよびRの合計炭素数が2以上であるオレフィン含有アミン化合物としては例えば、3-ブテニルアミン、4-ペンテニルアミン、5-ヘキセニルアミン、6-ヘプテニルアミン、7-オクテニルアミン、8-ノネニルアミン、9-デセニルアミン、10-ウンデセニルアミン、10-オレイルアミン、2-メチルアリルアミン、4-アミノスチレン、4-ビニルベンジルアミン、2-アリルグリシン、S-アリルシステイン、α-アリルアラニン、2-アリルアニリン、ゲラニルアミン、ビガバトリン、4-ビニルアニリン、4-ビニロキシアニリンなどのオレフィン含有1級アミン化合物およびそれらの塩;ジアリルアミン、N-メチルアリルアミン、N-アリルーN-イソプロピルアミン、N-アリル-N-tert-ブチルアミン、N-アリルアニリン、N-アリルベンジルアミン、N-アリルピペラジンなどのオレフィン含有2級アミン化合物およびそれらの塩が挙げられる。中でも、反応性の観点から、オレフィン含有1級アミン化合物がより好ましい。
【0057】
式(3)で示されるオレフィン含有アミン化合物の中でも、3-ブテニルアミン、4-ペンテニルアミン、5-ヘキセニルアミン、6-ヘプテニルアミン、7-オクテニルアミン、8-ノネニルアミン、9-デセニルアミン、10-ウンデセニルアミン、オレイルアミン、2-メチルアリルアミン、4-アミノスチレン、4-ビニルベンジルアミン、2-アリルグリシン、S-アリルシステイン、α―アリルアラニン、2-アリルアニリン、ゲラニルアミン、ビガバトリン、4-ビニルアニリン、4-ビニロキシアニリンが好ましく、3-ブテニルアミン、4-ペンテニルアミン、5-ヘキセニルアミン、6-ヘプテニルアミン、7-オクテニルアミン、8-ノネニルアミン、9-デセニルアミン、10-ウンデセニルアミン、オレイルアミン、2-メチルアリルアミン、4-アミノスチレン、4-ビニルベンジルアミン、2-アリルアニリン、4-ビニルアニリン、4-ビニロキシアニリンがより好ましく、3-ブテニルアミン、4-ペンテニルアミン、5-ヘキセニルアミン、6-ヘプテニルアミン、7-オクテニルアミン、8-ノネニルアミン、9-デセニルアミン、10-ウンデセニルアミン、2-メチルアリルアミンがさらに好ましく、5-ヘキセニルアミン、6-ヘプテニルアミン、7-オクテニルアミン、8-ノネニルアミンが最も好ましい。
【0058】
ラクトン環含有ビニルアルコール系重合体の製造方法は特に限定されないが、例えば、ビニルエステルと、式(2)で表される構成単位[以下、単に「ラクトン環単位」と略称する場合がある]を有する不飽和単量体とを共重合する工程を含む方法や、ビニルエステルと、ラクトン環単位に変換可能な不飽和単量体とを共重合する工程を含む方法が挙げられる。特に、製造の容易さから、ビニルエステルとラクトン環単位に変換可能な不飽和単量体とを共重合する工程を含む方法が好ましい。より具体的には、ビニルエステルと、ラクトン環単位に変換可能な不飽和単量体とを共重合し、得られた共重合体のビニルエステル単位をビニルアルコール単位に変換し、一方でラクトン環単位に変換可能な不飽和単量体に由来する単位をラクトン環単位に変換する方法が挙げられる。特に、ビニルエステルと不飽和二重結合を有するカルボン酸誘導体とを共重合し、得られた共重合体のビニルエステル単位のエステル結合を、加水分解又は加アルコール分解するとともに、カルボン酸誘導体部と縮合させる方法が簡便であり好ましく用いられる。
【0059】
不飽和二重結合を有するカルボン酸誘導体としては、例えば、不飽和結合を有するカルボン酸およびその塩、不飽和結合を有するカルボン酸エステル、不飽和結合を有するカルボン酸ハライド、不飽和結合を有するカルボン酸無水物が好適に用いられ、不飽和結合を有するカルボン酸およびその塩、不飽和結合を有するカルボン酸エステルがより好ましい。不飽和結合を有するカルボン酸およびその塩、不飽和結合を有するカルボン酸エステルとしては、たとえば、アクリル酸及びその塩;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n-プロピル、アクリル酸i-プロピル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸i-ブチル、アクリル酸t-ブチル、アクリル酸2-エチルヘキシル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸オクタデシルなどのアクリル酸エステル類;メタクリル酸及びその塩;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n-プロピル、メタクリル酸i-プロピル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸i-ブチル、メタクリル酸t-ブチル、メタクリル酸2-エチルヘキシル、メタクリル酸ドデシル、メタクリル酸オクタデシルなどのメタクリル酸エステル類;マレイン酸、イタコン酸、フマル酸などの不飽和ジカルボン酸及びその塩又はそのエステル類などかなる群から選択される少なくとも一種が好ましい。
【0060】
ビニルエステルとラクトン環単位に変換可能な不飽和単量体とを共重合する工程[以下、単に「共重合工程」と略称する場合がある]における共重合方法に特に制限はなく、塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法、分散重合法等の従来公知の方法を採用できる。工業的観点から好ましい重合方法は、溶液重合法、乳化重合法および分散重合法である。重合操作にあたっては、回分法、半回分法および連続法のいずれの重合方式を採用することも可能である。
【0061】
例えば、溶液重合法においては、溶媒として、メタノール、エタノール、イソパノール等のアルコール;ヘキサン、ヘプタン等の炭化水素;水などが好適に用いられ、これらの中でも、アルコールが好ましく、メタノール、エタノールがより好ましく、メタノールがさらに好ましい。溶媒の使用量に特に制限はないが、生産性等の観点から、ビニルエステル100質量部に対して溶媒が1000質量部以下であることが好ましく、200質量部以下であることがより好ましい。また、ビニルエステル100質量部に対し、溶媒が5質量部以上であることが好ましい。
【0062】
共重合工程における重合開始剤としては、例えば、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)等のアゾ系重合開始剤;過酸化ベンゾイル、n-プロピルパーオキシカーボネート等の過酸化物系重合開始剤などが挙げられ、これらの中でも、アゾ系重合開始剤が好ましく、2,2’-アゾビスイソブチロニトリルがより好ましい。
【0063】
重合開始剤の使用量に特に制限はないが、ビニルエステルとラクトン環単位に変換可能な不飽和単量体の合計100質量部に対し、好ましくは0.001~10質量部であり、より好ましくは0.01~1質量部である。
【0064】
共重合工程においては、ビニルエステルおよびラクトン環単位に変換可能な不飽和単量体とともにさらに他の単量体を共重合してもよい。このような他の単量体としては、上記のビニルアルコール単位が含むことのできる他の構成単位を与える単量体として上記したものなどが挙げられる。
【0065】
ラクトン環単位に変換可能な不飽和単量体の使用量は、目的とするラクトン環単位の含有量やラクトン環単位に変換可能な不飽和単量体の種類などに応じて適宜決定すればよいが、共重合工程に使用するすべての単量体の合計モル数に基づいて、ラクトン環単位に変換可能な不飽和単量体が0.1~10モル%であることが好ましく、0.5~7モル%であることがより好ましい。
【0066】
共重合工程においては、得られるラクトン環含有ビニルアルコール系重合体の重合度を調節することなどを目的として、連鎖移動剤を共存させても差し支えない。連鎖移動剤としては、例えば、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ブチルアルデヒド、ベンズアルデヒド等のアルデヒド;アセトン、メチルエチルケトン、ヘキサノン、シクロヘキサノン等のケトン;2-ヒドロキシエタンチオール、ドデシルメルカプタン等のメルカプタン;トリクロロエチレン、パークロロエチレン等のハロゲン化炭化水素などが挙げられ、これらの中でも、アルデヒドおよびケトンが好適に用いられる。連鎖移動剤の使用量は、使用する連鎖移動剤の連鎖移動定数および目的とするラクトン環含有ビニルアルコール系重合体の重合度などに応じて適宜決定できるが、一般にビニルエステルとラクトン環単位に変換可能な不飽和単量体の合計質量に対して0.1~10質量%が好ましい。
【0067】
さらに共重合工程において、チオール酢酸、メルカプトプロピオン酸等のチオールを存在させることにより、ラクトン環含有ビニルアルコール系重合体の末端、ひいては側鎖オレフィン含有ビニルアルコール系重合体の末端を変性してもよい。
【0068】
共重合工程における重合温度は、重合開始剤の種類や目的とする共重合体の特性に応じて適宜決定すればよく、好ましくは0~100℃であり、より好ましくは40~80℃である。
【0069】
共重合工程における雰囲気は、窒素ガス雰囲気、アルゴンガス雰囲気等の不活性雰囲気であることが好ましい。
【0070】
反応終了後の重合体は、公知の方法に従い回収できる。例えば、分別沈殿法を採用することができ、沈殿剤として、アセトン、ヘキサン、ヘプタン等を用いることができる。
【0071】
ビニルエステルとラクトン環単位に変換可能な不飽和単量体との共重合体のビニルエステル単位を、加水分解や加アルコール分解などによりビニルアルコール単位に変換するとともに、ラクトン環単位に変換可能な不飽和単量体が有するカルボン酸誘導体部と縮合させることによって、ラクトン環含有ビニルアルコール系重合体を得ることができる。具体的には、例えば、共重合体を酸性物質やアルカリ性物質と接触させる、いわゆるけん化工程、およびそれに続く乾燥工程を採用することにより、導入されたカルボン酸誘導体部の一部または全部が、隣接する水酸基と縮合することにより、ラクトン環に変換される。けん化工程および乾燥工程は、ポリビニルアルコールを製造する際の公知の方法に準じて行うことができる。
【0072】
けん化工程では、例えば、共重合体を、水および/またはアルコールを含む溶媒に溶解し、酸性物質またはアルカリ性物質を添加することにより行うことができる。この際、共重合体や、酸性物質またはアルカリ性物質の溶解性を向上させるために、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジメチルスルホキシド、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トルエン、アセトン等の溶媒を併用してもよい。特に、ラクトン環含有ビニルアルコール系重合体の製造の容易さの観点から、アルカリ性物質を添加するけん化工程を採用するのが好ましい。なお、上記の共重合工程において、溶媒に水および/またはアルコールを用いた場合には、共重合工程の反応溶液をそのままけん化工程における溶液として用いることもできる。
【0073】
共重合体を溶解する際に使用される上記アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、エチレングリコール等が挙げられる。アルコールの中でも、炭素数1~4のアルコールが好ましく、メタノールがより好ましい。
【0074】
溶媒の使用量(使用する溶媒の合計使用量)に特に制限はないが、共重合体の質量に対して、好ましくは1~50質量倍であり、より好ましくは2~10質量倍である。
【0075】
けん化工程に用いることのできる酸性物質としては、例えば、p-トルエンスルホン酸などが挙げられる。また、けん化工程に用いることのできるアルカリ性物質としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物;ナトリウムメチラート等のアルカリ金属アルコキシドなどが挙げられる。酸性物質またはアルカリ性物質の使用量は、共重合体のビニルエステル単位1モルに対し、0.0001~2モルとなる割合であることが好ましく、0.001~1.2モルとなる割合であることがより好ましい。
【0076】
けん化工程における反応温度としては、好ましくは0~180℃であり、より好ましくは20~80℃である。反応時間としては、反応速度にもよるが、好ましくは0.01~20時間であり、より好ましくは0.1~3時間である。
【0077】
使用する溶媒の種類などにもよるが、反応が進行すると、けん化物が粒子状に析出することが多い。反応終了後、析出したけん化物を、公知の方法により回収できる。例えば、析出した粒子をろ別し、メタノール等のアルコールで洗浄後、乾燥することによって、ラクトン環含有ビニルアルコール系重合体を回収できる。
【0078】
ラクトン環含有ビニルアルコール系重合体に式(3)で示されるオレフィン含有アミン化合物を反応させる方法は、特に限定されず、目的とする側鎖オレフィン含有ビニルアルコール系重合体の要求特性によって選択できる。例えば、溶融させたラクトン環含有ビニルアルコール系重合体に、式(3)で表されるオレフィン含有アミン化合物を混合し反応させる方法;式(3)で表されるオレフィン含有アミン化合物が溶解し、且つラクトン環含有ビニルアルコール系重合体が溶解しない溶媒中で、スラリー状態で反応させる方法;ラクトン環含有ビニルアルコール系重合体に式(3)で表されるオレフィン含有アミン化合物を含浸させて固体状態で反応させる方法;ラクトン環含有ビニルアルコール系重合体に、ガス化させたオレフィン含有アミン化合物を接触させ反応させる方法;ラクトン環含有ビニルアルコール系重合体、式(3)で表されるオレフィン含有アミン化合物が全て均一に溶解した溶液状態で反応させる方法;などが挙げられ、反応性や側鎖オレフィン含有ビニルアルコール系重合体の単離性などを考慮した上で、適宜好適な手法を採用できる。
【0079】
ラクトン環含有ビニルアルコール系重合体と式(3)で示されるオレフィン含有アミン化合物との反応をスラリー状態もしくは均一溶液状態で行う場合、反応時のラクトン環含有ビニルアルコール系重合体の濃度は特に限定されないが、1質量%~50質量%が好適であり、2質量%~40質量%がより好ましく、3質量%~30質量%がさらに好ましい。1質量%以上の場合、ラクトン環含有ビニルアルコール系重合体の濃度が希薄なことによる反応速度の低下を抑制しやすい。50質量%以下である場合、撹拌不良を抑制できる傾向にある。
【0080】
ラクトン環含有ビニルアルコール系重合体と式(3)で示されるオレフィン含有アミン化合物との反応に用いられる溶媒は特に限定されないが、水;メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、イソブタノール、sec-ブタノール、tert-ブタノールなどのアルコール類;n-ヘキサン、n-ペンタン、シクロヘキサンなどの脂肪族または脂環式炭化水素類;ベンゼン、トルエンなどの芳香族炭化水素類;クロロホルム、クロロベンゼン、ジクロロベンゼンなどの脂肪族または芳香族ハロゲン化物;アセトニトリル、ベンゾニトリルなどのニトリル類;ジエチルエーテル、ジフェニルエーテル、アニソール、1,2-ジメトキシエタン、1,4-ジオキサンなどのエーテル類;アセトン、メチルイソプロピルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類;酢酸エチル、プロピオン酸エチルなどのエステル類;N-メチル-2-ピロリドンなどのN-アルキルラクタム類;N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミドなどのN,N-ジアルキルアミド類;ジメチルスルホキシドなどのスルホキシド類;スルホランなどのスルホラン類などが挙げられる。また、式(3)で示されるオレフィン含有アミン化合物を基質兼溶媒として用いてもよい。特にこれらのうち、反応性の観点から、アルコール類、脂肪族または脂環式炭化水素類、芳香族炭化水素類、エーテル類、ケトン類、式(3)で示されるオレフィン含有アミン化合物が好ましい。溶媒は2種類以上を組み合わせて用いてもよく、例えばスラリー反応では、ラクトン環含有ビニルアルコール系重合体が溶解しない溶媒とN,N-ジアルキルラクタム類、スルホキシド類などのラクトン環含有ビニルアルコール系重合体を膨潤させる溶媒とを組み合わせて用いてもよい。
【0081】
ラクトン環含有ビニルアルコール系重合体と式(3)で示されるオレフィン含有アミン化合物との反応の温度は特に限定されないが、反応性の観点から、20~150℃が好適であり、30~140℃がより好ましく、40~130℃がさらに好ましく、50~120℃が最も好ましい。また、必要に応じて反応系を加圧もしくは減圧にしてもよい。
【0082】
ラクトン環含有ビニルアルコール系重合体と式(3)で示されるオレフィン含有アミン化合物との反応後に側鎖オレフィン含有ビニルアルコール系重合体を取り出す方法としては、特に限定されるものではなく、公知の方法により行うことができる。例えば、ラクトン環含有ビニルアルコール系重合体を溶媒に溶解させて反応させる均一系反応の場合には、反応溶液を、ラクトン環含有ビニルアルコール系重合体および側鎖オレフィン含有ビニルアルコール系重合体が溶解しない溶媒(貧溶媒)に添加、析出させることで取り出してもよい。このとき、ミキサーを使用して反応溶液と貧溶媒の混合と析出した樹脂の切断とを同時に行うことによりスラリー化したり、湿式紡糸装置、乾湿式紡糸装置により繊維状の形態で取り出してもよい。あるいは、スプレードライ法による微粉化、または流廷法やダイ等から押し出して成膜する方法を採用することもできる。取り出した樹脂は、樹脂が溶解しないような有機溶媒や水などで洗浄してもよく、送風乾燥機などで乾燥してもよい。ラクトン環含有ビニルアルコール系重合体が溶解しないようなスラリー状態や固体状態で反応させる場合には、反応後にろ過、遠心脱液、乾燥等で固液分離することで樹脂を分離してもよい。分離された樹脂は、樹脂が溶解しないような有機溶媒や水で洗浄してもよく、送風乾燥機などで乾燥してもよい。ラクトン環含有ビニルアルコール系重合体に対して、ガス化させた式(3)で示されるオレフィン含有アミン化合物を反応させた場合には、反応後に空気や窒素、アルゴンなどのガスと置換してオレフィン含有アミン化合物を除去してもよい。
【0083】
[側鎖オレフィン含有ビニルアルコール系重合体]
本発明で得られる側鎖オレフィン含有ビニルアルコール系重合体は、側鎖にオレフィンが導入されている限り、さらに他の官能基が導入されていてもよい。例えば、ラクトン環含有ビニルアルコール系重合体に式(3)で表されるオレフィン含有アミン化合物を付加させて側鎖にオレフィンを含む特定構造を導入するとともに、酸、アルカリ、または他の官能基を有するアミン化合物をラクトン環含有ビニルアルコール系重合体に反応させることで各種官能基を導入できる。例えば、塩酸、炭酸などの酸化合物との反応によるカルボン酸基の導入;水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属化合物との反応によるカルボン酸塩基の導入;アンモニアとの反応によるアミド基の導入;アルキルアミン化合物との反応によるアルキル基の導入;アルキニルアミン化合物との反応によるアルキニル基の導入;アリールアミン化合物との反応によるアリール基の導入;水酸基を有するアミン化合物との反応による水酸基の導入;シリル基を有するアミン化合物との反応によるシリル基の導入;フリル基を有するアミン化合物との反応によるフリル基の導入;チオール基を有するアミン化合物との反応によるチオール基の導入;アミノ基を分子内に2つ以上有するアミン化合物との反応によるアミノ基の導入などが挙げられる。
【0084】
本発明の側鎖オレフィン含有ビニルアルコール系重合体は、その特性を利用して、単独で又は他の成分を添加した組成物として、成形、紡糸、エマルジョン化等の公知方法に従い、ビニルアルコール系重合体が用いられる各種用途に使用可能である。例えば、各種用途の界面活性剤、紙用コーティング剤、紙用内添剤及び顔料バインダーなどの紙用改質剤、木材、紙、アルミ箔及び無機物などの接着剤、不織布バインダー、塗料、経糸糊剤、繊維加工剤、ポリエステルなどの疎水性繊維の糊剤、その他各種フィルム、シート、ボトル、繊維、増粘剤、凝集剤、土壌改質剤、含水ゲルなどに使用できる。
【0085】
本発明の側鎖オレフィン含有ビニルアルコール系重合体には、その用途に応じ、本発明の効果を阻害しない範囲において、充填材、銅化合物などの加工安定剤、耐候性安定剤、着色剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、帯電防止剤、難燃剤、可塑剤、他の熱可塑性樹脂、潤滑剤、香料、消泡剤、消臭剤、増量剤、剥離剤、離型剤、補強剤、防かび剤、防腐剤、結晶化速度遅延剤などの添加剤を、必要に応じて適宜配合できる。
【実施例
【0086】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されない。なお、実施例、比較例中の「%」および「部」は特に断りのない限り、それぞれ「質量%」および「質量部」を表す。
【0087】
[変性率の算出]
日本電子株式会社製核磁気共鳴装置「LAMBDA 500」を用い、室温で側鎖オレフィン含有ビニルアルコール系重合体のH-NMRを測定し、アミドプロトン(7.6~7.7ppm)もしくはオレフィンプロトン由来のピーク(5.0~7.5ppm)の積分値から、変性率を算出した。例えば、実施例1においては、5.75ppmに表れるオレフィンプロトン由来のピークの積分値から、変性率を算出した。ここで、上記変性率は、側鎖オレフィン含有ビニルアルコール系重合体を構成する全構成単位に対する、式(1)で表される構成単位の含有量に相当する。なお、NMR分析は目的生成物の構造を明確化するために、種々の温度条件、核種での測定や、添加剤を用いた測定を組み合わせてもよい。
【0088】
[水溶性の評価]
以下の実施例又は比較例で得られたビニルアルコール系重合体を、150℃の熱風乾燥機内で6時間熱処理した。その後、室温(25℃)でイオン交換水100gに対してビニルアルコール系重合体2gを添加した後、得られた混合物を撹拌(150rpm)しながら10℃/minにて100℃まで昇温させ、100℃で撹拌した。ビニルアルコール系重合体が完全に溶解した場合、加熱を停止し、室温(25℃)まで自然冷却した。このときのビニルアルコール系重合体からなる粉末を以下の基準で評価した。

A:100℃に昇温後120分以内に完全に溶解し、冷却してから1日経過後も溶解した状態が維持された。
B:100℃に昇温後120分以内に溶解したが、水溶液が白濁した。
C:100℃に昇温後120分経過しても完全には溶解しなかった。
【0089】
[フィルムの耐水性評価]
以下の実施例又は比較例で得られたビニルアルコール系重合体を含む水溶液(濃度5質量%)に、光開始剤として2-ヒドロキシ-4’-(2-ヒドロキシエトキシ)-2-メチルプロピオフェノンを、ビニルアルコール系重合体100質量部に対して1質量部添加し溶解させ、塗工液を調製した。当該塗工液を、ポリエチレンテレフタレートフィルムの端を折り曲げて作製した15cm×15cmの型枠に流延し、室温大気圧下で溶媒を十分に揮発させ、厚さ約100μmのフィルムを得た。ここに120J/cmの強度でUV光を照射し、評価用フィルムを作製した。得られた評価用フィルムを沸騰水中に1時間浸漬し、水から取り出して、40℃で12時間真空乾燥した後に質量(W1)を測定した。得られた質量(W1)と浸漬前の質量(W2)とから、以下の式に従って煮沸条件下における溶出率を算出した。そして、この溶出率を架橋後の耐水性の指標とした。なお、水中に浸漬中に評価用フィルムが溶解した場合には「測定不能」と評価した。
溶出率(質量%)=100×([W2]-[W1])/[W2]
【0090】
[合成例1]
攪拌機、還流冷却管、窒素導入管、滴下漏斗および反応基質の添加口を備えた反応器に、酢酸ビニル640質量部、メタノール254質量部、およびアクリル酸メチル1.05質量部を仕込み、窒素バブリングをしながら30分間系内を窒素置換した。これとは別に、コモノマーの逐次添加溶液として、アクリル酸メチルのメタノール溶液(濃度20質量%)を調製し、30分間窒素バブリングした。反応器の昇温を開始し、内温が60℃となったところで、2,2’-アゾビスイソブチロニトリルを0.06質量部投入し、60℃で重合を開始した。重合反応の進行中は、調製した前記アクリル酸メチルのメタノール溶液を系内に滴下することで、重合溶液におけるモノマー組成(酢酸ビニルとアクリル酸メチルのモル比率)が一定となるようにした。酢酸ビニルの重合率が30モル%となった時点で重合を終了し、未反応の酢酸ビニルモノマーを系外に除去することにより、共重合体のメタノール溶液を得た。
【0091】
得られた共重合体のメタノール溶液に、共重合体の濃度が10質量%となるようにさらにメタノールを加えた。次いで温度を60℃に保ちながら、共重合体中の酢酸ビニル単位1モルに対して水酸化ナトリウムが10ミリモルとなる割合で、濃度10質量%の水酸化ナトリウムのメタノール溶液を加えて、2時間、けん化を行った。けん化が進行するとともにけん化物が粒子状に析出した。酢酸メチルを加えてアルカリを中和した後、得られた粒子状のけん化物を溶液から分離し、メタノールでよく洗浄し、熱風乾燥機中50℃で12時間乾燥することにより共重合体を得た。
【0092】
得られた共重合体をH-NMRで解析したところ、全構成単位のモル数に対して、式(2)においてRが水素原子である構造が5モル%導入されたラクトン環含有ビニルアルコール系重合体であることが分かった。当該ラクトン環含有ビニルアルコール系重合体中、ビニルアルコール単位と酢酸ビニル単位の合計モル数に対するビニルアルコール単位のモル数の占める割合は99モル%以上であった。また、得られた重合体について、30℃の水中で測定した極限粘度[η](単位:デシリットル/g)から次式によってその重合度を求めたところ1700であった。
重合度=([η]×10/8.29)(1/0.62)
【0093】
[実施例1]
攪拌機及び反応基質の添加口を備えた反応器に、合成例1で得られたラクトン環含有ビニルアルコール系重合体100質量部を加えた。ここに、メタノール300質量部と4-ペンテニルアミン(アルドリッチ製JWP00285)39.8質量部を混合して加え、反応器内を減圧にしながら60℃に昇温し、メタノールが全量揮発するまで攪拌した。メタノールが揮発した後、90℃に昇温し10時間攪拌した。その後、室温まで放冷した後、反応器に1000質量部のメタノールを加え、室温で30分間攪拌した後、溶液をろ過した。これを2回繰り返した後、40℃で12時間真空乾燥することにより、目的の側鎖オレフィン含有ビニルアルコール系重合体を得た。式(1)においてR、R、RおよびRが水素原子であり、Xがプロピレン基である構成単位が1.0モル%含まれていることが分かった。また、ビニルアルコール単位は94.5モル%であり、ビニルエステル単位は0.5モル%であり、式(2)で表わされる構成単位は4.0モル%であった。物性評価結果を表1に示す。
【0094】
[実施例2]
攪拌機、還流冷却管及び反応基質の添加口を備えた反応器に、合成例1で得られたラクトン環含有ビニルアルコール系重合体100質量部を加えた。ここに、メタノール400質量部と7-オクテニルアミン69.3質量部を混合して加え、66℃に昇温し、15時間攪拌した。その後、反応溶液をろ過し、ろ取した樹脂を反応器に移した。1000質量部のメタノールを加え、室温で30分間攪拌した後、溶液をろ過した。これを2回繰り返した後、40℃で12時間真空乾燥することにより、目的の側鎖オレフィン含有ビニルアルコール系重合体を得た。なお、7-オクテニルアミンは、非特許文献 バイオオーガニック アンド メディシナル ケミストリー、14巻、2204頁(2006年)に記載の方法に従って合成した。得られた側鎖オレフィン含有ビニルアルコール系重合体のH-NMRを測定した結果、式(1)においてR、R、RおよびRが水素原子であり、Xがヘキシレン基である構成単位が1.8モル%含まれていることが分かった。また、ビニルアルコール単位は94.5モル%であり、ビニルエステル単位は0.5モル%であり、式(2)で表わされる構成単位は3.2モル%であった。物性評価結果を表1に示す。
【0095】
[実施例3]
攪拌機、還流冷却管及び反応基質の添加口を備えた反応器に、合成例1で得られたラクトン環含有ビニルアルコール系重合体100質量部とジメチルスルホキシド400質量部を添加し、濃度20質量%の溶液を調製した。ここに7-オクテニルアミン13.9質量部を加え、120℃に昇温し、5時間撹拌した。その後、溶液をメタノールに滴下してポリマーを単離し、40℃で12時間真空乾燥することにより、目的の側鎖オレフィン含有ビニルアルコール系重合体を得た。式(1)においてR、R、RおよびRが水素原子であり、Xがヘキシレン基である構成単位が0.9モル%含まれていることが分かった。また、ビニルアルコール単位は94.5モル%であり、ビニルエステル単位は0.5モル%であり、式(2)で表わされる構成単位は4.1モル%であった。物性評価結果を表1に示す。
【0096】
[実施例4]
実施例2において、メタノールに代えて1,4-ジオキサン300質量部を用い、アミン化合物として7-オクテニルアミンに代えて3-ブテニルアミン(アルドリッチ製CDS021978-100MG)3.9質量部を用い、反応温度を70℃とし、反応時間を3時間とした以外は、実施例2と同様に反応、後処理および分析をおこなった。式(1)においてR、R、RおよびRが水素原子であり、Xがエチレン基である構成単位が0.2モル%含まれていることが分かった。また、ビニルアルコール単位は94.5モル%であり、ビニルエステル単位は0.5モル%であり、式(2)で表わされる構成単位は4.8モル%であった。物性評価結果を表1に示す。
【0097】
[実施例5]
攪拌機及び反応基質の添加口を備えた反応器に、合成例1で得られたラクトン環含有ビニルアルコール系重合体100質量部を加え、120℃に昇温した。ここに、蒸発器でガス化し120℃に加熱された2-メチルアリルアミン(東京化成工業製M2726)のガスを、毎時15.6質量部、通気しながら15時間反応させた。その後、反応器体積の100倍量の窒素ガスを通気し、反応器内の2-メチルアリルアミンを除去した。得られた樹脂を、1000質量部のメタノール中に加え、室温で30分間攪拌した後、溶液をろ過した。これを2回繰り返した後、40℃で12時間真空乾燥することにより、目的の側鎖オレフィン含有ビニルアルコール系重合体を得た。式(1)においてR、RおよびRが水素原子であり、Xがメチレン基であり、Rがメチル基である構成単位が1.2モル%含まれていることが分かった。また、ビニルアルコール単位は94.5モル%であり、ビニルエステル単位は0.5モル%であり、式(2)で表わされる構成単位は3.8モル%であった。物性評価結果を表1に示す。
【0098】
[実施例6]
実施例2において、メタノールを300質量部、アミン化合物として7-オクテニルアミンに代えて10-ウンデセニルアミン73.8質量部を用い、反応時間を20時間とした以外は、実施例2と同様に反応、後処理および分析をおこなった。なお、10-ウンデセニルアミンは、非特許文献 ジャーナル オブ オーガニック ケミストリー、52巻、2495頁(1987年)に記載の方法に従って合成した。式(1)においてR、R、RおよびRが水素原子であり、Xがノニレン基である構成単位が1.4モル%含まれていることが分かった。また、ビニルアルコール単位は94.5モル%であり、ビニルエステル単位は0.5モル%であり、式(2)で表わされる構成単位は3.6モル%であった。物性評価結果を表1に示す。
【0099】
[実施例7]
攪拌機、還流冷却管及び反応基質の添加口を備えた反応器に、実施例2で得られた側鎖オレフィン含有ビニルアルコール系重合体10質量部とメタノール30質量部を添加し、ここに2N水酸化ナトリウム水溶液を6.3質量部加え、25℃で1時間撹拌した。その後、樹脂をろ取し、40℃で12時間真空乾燥することにより、目的の側鎖オレフィン含有ビニルアルコール系重合体を得た。得られた側鎖オレフィン含有ビニルアルコール系重合体のH-NMRを測定した結果、式(1)においてR、R、RおよびRが水素原子であり、Xがヘキシレン基である構成単位が1.8モル%含まれていることが分かった。また、ビニルアルコール単位は94.5モル%であり、ビニルエステル単位は0.5モル%であり、式(2)で表わされる構成単位は含まれていなかった。また、ラクトン環が開環して生成したカルボン酸ナトリウム基が3.2モル%含有されていた。物性評価結果を表1に示す。
【0100】
[比較例1]
合成例1で得られたラクトン環含有ビニルアルコール系重合体は、式(1)で表わされる構成単位は0モル%であり、ビニルアルコール単位は94.5モル%であり、ビニルエステル単位は0.5モル%であり、式(2)で表わされる構成単位は5.0モル%であった。物性評価結果を表1に示す。
【0101】
[比較例2]
特開2001-72720号公報の実施例1に記載の方法により、側鎖メタクリルアミド基変性ポリビニルアルコールを得た。メタクリルアミド基の変性率は4.3モル%であった。式(1)で表わされる構成単位は0モル%であり、ビニルアルコール単位は95.6モル%であり、ビニルエステル単位は0.1モル%であり、式(2)で表わされる構成単位は0モル%であった。物性評価結果を表1に示す。
【0102】
【表1】
【0103】
実施例1~7から明らかなように、本発明の側鎖オレフィン含有ビニルアルコール系重合体は熱処理後も高い水溶性を維持しており、またUV光で架橋することで耐水化できることが分かる。したがって、本発明の側鎖オレフィン含有ビニルアルコール系重合体は、ビニルアルコール系重合体の幅広い用途に利用できる。
【0104】
比較例1のように、側鎖オレフィンを有さないビニルアルコール系重合体は、UV光で耐水化することができない。比較例2のように、α、β-不飽和のオレフィンを導入した場合、熱処理で架橋してしまい、水への溶解性が著しく悪化する。