(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-05
(45)【発行日】2022-10-14
(54)【発明の名称】画像処理装置および画像処理装置の作動方法並びに画像処理プログラム
(51)【国際特許分類】
A61B 6/03 20060101AFI20221006BHJP
A61B 8/14 20060101ALI20221006BHJP
A61B 8/08 20060101ALI20221006BHJP
A61B 5/055 20060101ALI20221006BHJP
【FI】
A61B6/03 370Z
A61B6/03 360G
A61B8/14
A61B8/08
A61B5/055 380
(21)【出願番号】P 2017221161
(22)【出願日】2017-11-16
【審査請求日】2020-01-24
(73)【特許権者】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(73)【特許権者】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】特許業務法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西江 昭弘
(72)【発明者】
【氏名】赤堀 貞登
【審査官】佐藤 秀樹
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2016/0000384(US,A1)
【文献】特表2015-521880(JP,A)
【文献】特開2005-078176(JP,A)
【文献】特開2011-161220(JP,A)
【文献】特開2016-022337(JP,A)
【文献】特開平06-311978(JP,A)
【文献】特開2011-092677(JP,A)
【文献】国際公開第2017/139367(WO,A1)
【文献】特開2012-179359(JP,A)
【文献】特開2014-036778(JP,A)
【文献】国際公開第2006/132203(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 6/00-6/14
A61B 5/055
A61B 8/00-8/15
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検者の肝臓を形態的変化が生じた2つの状態で撮影を行ったボリュームデータであって、前記被検者の肺野が拡大した状態の肝臓の画像を含む第1のボリュームデータと前記被検者の肺野が前記第1のボリュームデータの肺野より縮小した状態の肝臓の画像を含む第2のボリュームデータを取得する取得部と、
前記第1のボリュームデータの肝臓領域および前記第2のボリュームデータの肝臓領域間で剛体位置合わせ処理を行った前記第1のボリュームデータの肝臓領域および前記第2のボリュームデータの肝臓領域に対して、非剛体位置合わせ処理を行うことにより、2つの肝臓領域内の対応する位置が変形した方向および距離を表す変形ベクトルを解析して、前記距離に応じた肝臓の硬さを表す指標を出力する指標出力部と、
を備え、
前記指標出力部が、
前記第1のボリュームデータの肝臓領域および前記第2のボリュームデータの肝臓領域間の前記剛体位置合わせ処理および前記非剛体位置合わせ処理が行われる前の前記第1のボリュームデータの肝臓領域の上端位置と前記第2のボリュームデータの肝臓領域の上端位置との体軸方向の差分値を用いて、前記指標が表す硬さのレベルを前記差分値が大きいほど前記指標が表す硬さのレベルを高くする調整、または前記差分値が小さくなるにしたがって前記指標が表す硬さのレベルを低くする調整を行う画像処理装置。
【請求項2】
前記指標出力部が、前記指標を表す指標値として、前記変形ベクトルの大きさに基づいて取得した変形量を出力する請求項1記載の画像処理装置。
【請求項3】
前記変形量が、前記変形ベクトルの大きさの平均値である請求項2に記載の画像処理装置
。
【請求項4】
前記指標出力部が、前記指標を表す指標値として、前記変形ベクトルの大きさに基づいて取得した変形量を前記差分値で割った値を出力する請求項1に記載の画像処理装置。
【請求項5】
前記指標出力部が、前記指標を予め用意したテーブルを用いて調整する請求項1~
3のいずれか1項に記載の画像処理装置。
【請求項6】
前記指標出力部が、前記第1のボリュームデータの肝臓領域および前記第2のボリュームデータの肝臓領域を構成する複数の肝臓の区域ごとに前記指標を取得する請求項1~
5のいずれか1項に記載の画像処理装置。
【請求項7】
前記指標出力部が、前記第1のボリュームデータの肝臓領域および前記第2のボリュームデータの肝臓領域の肝臓右葉上部の変形ベクトルを解析して前記指標を取得する請求項1~
5のいずれか1項に記載の画像処理装置。
【請求項8】
前記指標が肝線維化レベルであり、
前記指標出力部が、前記肝線維化レベルおよび患者の肝臓を形態的変化が生じた2つの状態で撮影を行った第1のボリュームデータと第2のボリュームデータとを有する教師データセットを用いて前記肝線維化レベルと前記変形ベクトルとの関係を学習させた判別器に、前記被検者の前記第1のボリュームデータと前記第2のボリュームデータを入力して前記肝線維化レベルを取得する請求項1に記載の画像処理装置。
【請求項9】
前記指標出力部が、前記第1のボリュームデータの肝臓領域および前記第2のボリュームデータの肝臓領域の各位置の前記変形ベクトルの大きさを前記指標として取得し、前記第1のボリュームデータの肝臓領域および前記第2のボリュームデータの肝臓領域の各位置の前記指標に応じた色で肝臓領域の各位置に対応する肝臓領域の外形を表す外形形状上の各位置を色分けして表示する請求項1に記載の画像処理装置。
【請求項10】
前記指標出力部が、前記第1のボリュームデータの肝臓領域および前記第2のボリュームデータの肝臓領域の各位置の前記変形ベクトルを前記指標として取得し、前記第1のボリュームデータの肝臓領域および前記第2のボリュームデータの肝臓領域の各位置の前記変形ベクトルを肝臓領域の各位置に対応する肝臓領域の外形を表す外形形状上の各位置に表示する請求項1に記載の画像処理装置。
【請求項11】
前記指標出力部は、前記非剛体位置合わせの前に剛体位置合わせを行う請求項1~
10のいずれか1項に記載の画像処理装置。
【請求項12】
前記剛体位置合わせは、前記第1のボリュームデータの肝臓領域の重心の位置と前記第2のボリュームデータの肝臓領域の重心の位置を一致させる請求項
11に記載の画像処理装置。
【請求項13】
前記剛体位置合わせは、前記第1のボリュームデータの肝臓領域のランドマークと前記第2のボリュームデータの肝臓領域のランドマークを用いて行う請求項
11に記載の画像処理装置。
【請求項14】
前記第1のボリュームデータおよび前記第2のボリュームデータは、CT装置、MRI装置、および超音波装置のいずれかの撮影により得られたデータである請求項1~
13のいずれか1項に記載の画像処理装置。
【請求項15】
取得部と指標出力部とを備えた画像処理装置の作動方法であって、
前記取得部が、被検者の肝臓を形態的変化が生じた2つの状態で撮影を行ったボリュームデータであって、前記被検者の肺野が拡大した状態の肝臓の画像を含む第1のボリュームデータと前記被検者の肺野が前記第1のボリュームデータの肺野より縮小した状態の肝臓の画像を含む第2のボリュームデータを取得し、
前記指標出力部が、前記第1のボリュームデータの肝臓領域および前記第2のボリュームデータの肝臓領域間で剛体位置合わせ処理を行った前記第1のボリュームデータの肝臓領域および前記第2のボリュームデータの肝臓領域に対して、非剛体位置合わせ処理を行うことにより、2つの肝臓領域内の対応する位置が変形した方向および距離を表す変形ベクトルを解析して、前記距離に応じた肝臓の硬さを表す指標を出力し、
前記第1のボリュームデータの肝臓領域および前記第2のボリュームデータの肝臓領域間の前記剛体位置合わせ処理および前記非剛体位置合わせ処理が行われる前の前記第1のボリュームデータの肝臓領域の上端位置と前記第2のボリュームデータの肝臓領域の上端位置との体軸方向の差分値を用いて、前記指標が表す硬さのレベルを前記差分値が大きいほど前記指標が表す硬さのレベルを高くする調整、または前記差分値が小さくなるにしたがって前記指標が表す硬さのレベルを低くする調整を行う画像処理装置の作動方法。
【請求項16】
コンピュータを、
被検者の肝臓を形態的変化が生じた2つの状態で撮影を行ったボリュームデータであって、前記被検者の肺野が拡大した状態の肝臓の画像を含む第1のボリュームデータと前記被検者の肺野が前記第1のボリュームデータの肺野より縮小した状態の肝臓の画像を含む第2のボリュームデータを取得する取得部と、
前記第1のボリュームデータの肝臓領域および前記第2のボリュームデータの肝臓領域間で剛体位置合わせ処理を行った前記第1のボリュームデータの肝臓領域および前記第2のボリュームデータの肝臓領域に対して、非剛体位置合わせ処理を行うことにより、2つの肝臓領域内の対応する位置が変形した方向および距離を表す変形ベクトルを解析して、前記距離に応じた肝臓の硬さを表す指標を出力する指標出力部として機能させる画像処理プログラムであって、
前記指標出力部が、前記第1のボリュームデータの肝臓領域および前記第2のボリュームデータの肝臓領域間の前記剛体位置合わせ処理および前記非剛体位置合わせ処理が行われる前の前記第1のボリュームデータの肝臓領域の上端位置と前記第2のボリュームデータの肝臓領域の上端位置との体軸方向の差分値を用いて、前記指標が表す硬さのレベルを前記差分値が大きいほど前記指標が表す硬さのレベルを高くする調整、または前記差分値が小さくなるにしたがって前記指標が表す硬さのレベルを低くする調整を行う画像処理プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医用画像の画像処理に関し、特に、肝臓を撮影した画像の解析に関する画像処理装置および画像処理装置の作動方法並びに画像処理装置プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
線維化疾患は、全身のあらゆる臓器におこる疾患であり、様々な臓器において臓器不全を起こす。線維化とは、炎症などで受けた損傷を修復するときにできる「線維(コラーゲン)」というタンパク質が増加してひろがった状態をさすが、線維化が過剰になると、組織の伸縮ができなくなり、臓器が正常な機能を果たせなくなる。肝硬変は線維化疾患の1つである。
【0003】
従来から、肝硬変の状態を確認するためには肝生検が行われていた。あるいは、肝硬変が進行すると肝表面の凹凸になるため、腹部CT(Computed Tomography)で得られた画像を使って肝表面の凹凸の程度および/または肝臓の右葉と左葉の大きさのバランスなどを調べることによって肝硬変の診断が行われている。また、特許文献1では、MRI(Magnetic Resonance Imaging)装置を用いて肝臓が形態的に変化する前後(吸気と呼気など)の画像を撮影して、それぞれの画像から2枚の断面画像を取得して、2枚の断面画像中に表れた肝臓の辺縁を抽出し、辺縁の変化を表す指標から肝臓の硬さに関する情報を取得するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
実際に肝硬変の程度を知るには、肝生検を行うのが最も正確だが、肝生検では同じ位置のサンプリングを再現するはむずかしいため経時変化の観察には適さない。一方、特許文献1の手法では、断面画像の2次元画像の解析を行っているだけであり、断面の選び方によって結果がかわってくると考えられる。また、辺縁の情報だけ利用しているため、臓器内部の情報は活用されておらず正確な結果が得られていない可能性がある。このように、肝臓の硬さ、あるいは、肝臓の線維化の状態の変化を簡便かつ客観的に確認する有効な手段が確立されていない。
【0006】
そこで、本発明では、上述のような問題を解決するために、肝臓の線維化の状態を簡便かつ客観的に確認することが可能な画像処理装置および画像処理装置の作動方法並びに画像処理装置プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の画像処理装置は、被検者の肝臓を形態的変化が生じた2つの状態で撮影を行った第1のボリュームデータと第2のボリュームデータを取得する取得部と、第1のボリュームデータの肝臓領域および第2のボリュームデータの肝臓領域間で非剛体位置合わせ処理を行うことにより、2つの肝臓領域内の対応する位置が変形した方向および距離を表す変形ベクトルを解析して取得した肝臓の硬さを表す指標を出力する指標出力部と、を備える。
【0008】
本発明の画像処理装置の作動方法は、取得部と指標出力部とを備えた画像処理装置の作動方法であって、取得部が、被検者の肝臓を形態的変化が生じた2つの状態で撮影を行った第1のボリュームデータと第2のボリュームデータを取得し、指標出力部が、第1のボリュームデータの肝臓領域および第2のボリュームデータの肝臓領域間で非剛体位置合わせ処理を行うことにより、2つの肝臓領域内の対応する位置が変形した方向および距離を表す変形ベクトルを解析して取得した肝臓の硬さを表す指標を出力する。
【0009】
本発明の画像処理プログラムは、コンピュータを、被検者の肝臓を形態的変化が生じた2つの状態で撮影を行った第1のボリュームデータと第2のボリュームデータを取得する取得部と、第1のボリュームデータの肝臓領域および第2のボリュームデータの肝臓領域間で非剛体位置合わせ処理を行うことにより、2つの肝臓領域内の対応する位置が変形した方向および距離を表す変形ベクトルを解析して取得した肝臓の硬さを表す指標を出力する指標出力部として機能させる。
【0010】
また、指標出力部が、指標を表す指標値として、変形ベクトルの大きさに基づいて取得した変形量を出力することが望ましい。
【0011】
また、変形量が、変形ベクトルの大きさの平均値であってもよい。
【0012】
また、第1のボリュームデータは、被検者が仰臥位の状態で撮影されたデータであり、第2のボリュームデータは、被検者が伏臥位の状態で撮影されたデータであってもよい。
【0013】
また、第1のボリュームデータは、被検者の肺野が拡大した状態で撮影されたデータであり、第2のボリュームデータは、被検者の肺野が第1のボリュームデータの肺野より縮小した状態で撮影されたデータであってもよい。
【0014】
また、指標出力部が、第1のボリュームデータの肝臓領域の上端と第2のボリュームデータの肝臓領域の上端位置との体軸方向の差分値を用いて、指標が表す硬さのレベルを差分値が大きいほど指標が表す硬さのレベルを高くする調整、または差分値が小さくなるにしたがって指標が表す硬さのレベルを低くする調整を行うことが望ましい。
【0015】
「硬さのレベルが高い」とは、「硬さのレベルが低い」場合より肝臓が硬い状態を指す。「指標が表す硬さのレベルを高くする調整」は、指標が現在の指標より肝臓がより硬い状態を指すように調整を行い、「指標が表す硬さのレベルを低くする調整」は、指標が現在の指標より肝臓がより柔らかい状態を指すように調整を行うことをいう。
【0016】
また、指標出力部が、指標を表す指標値として、変形ベクトルの大きさに基づいて取得した変形量を差分値で割った値を出力してもよい。
【0017】
また、指標出力部が、指標を予め用意したテーブルを用いて調整してもよい。
【0018】
また、指標出力部が、第1のボリュームデータの肝臓領域および第2のボリュームデータの肝臓領域を構成する複数の肝臓の区域ごとに指標を取得してもよい。
【0019】
また、指標出力部が、第1のボリュームデータの肝臓領域および第2のボリュームデータの肝臓領域の肝臓右葉上部の変形ベクトルを解析して指標を取得してもよい。
【0020】
また、指標が肝線維化レベルであり、指標出力部が、肝線維化レベルおよび患者の肝臓を形態的変化が生じた2つの状態で撮影を行った第1のボリュームデータと第2のボリュームデータとを有する教師データセットを用いて肝線維化レベルと変形ベクトルとの関係を学習させた判別器に、被検者の第1のボリュームデータと第2のボリュームデータを入力して肝線維化レベルを取得してもよい。
【0021】
また、指標出力部が、第1のボリュームデータの肝臓領域および第2のボリュームデータの肝臓領域の各位置の変形ベクトルの大きさを指標として取得し、第1のボリュームデータの肝臓領域および第2のボリュームデータの肝臓領域の各位置の指標に応じた色で肝臓領域の各位置に対応する肝臓領域の外形を表す外形形状上の各位置を色分けして表示してもよい。
【0022】
また、指標出力部が、第1のボリュームデータの肝臓領域および第2のボリュームデータの肝臓領域の各位置の変形ベクトルを指標として取得し、第1のボリュームデータの肝臓領域および第2のボリュームデータの肝臓領域の各位置の変形ベクトルを肝臓領域の各位置に対応する肝臓領域の外形を表す外形形状上の各位置に表示してもよい。
【0023】
また、指標出力部は、非剛体位置合せの前に剛体位置合せを行うのが望ましい。
【0024】
また、剛体位置合せは、第1のボリュームデータの肝臓領域の重心の位置と第2のボリュームデータの肝臓領域の重心の位置を一致させることが望ましい。
【0025】
また、剛体位置合せは、第1のボリュームデータの肝臓領域のランドマークと第2のボリュームデータの肝臓領域のランドマークを用いて行うようにしてもよい。
【0026】
また、第1のボリュームデータおよび第2のボリュームデータは、CT装置、MRI装置、および超音波装置のいずれかの撮影により得られたデータが望ましい。
【0027】
本発明の他の画像処理装置は、コンピュータに実行させるための命令を記憶するメモリと、記憶された命令を実行するよう構成されたプロセッサとを備え、プロセッサは、被検者の肝臓を形態的変化が生じた2つの状態で撮影を行った第1のボリュームデータと第2のボリュームデータを取得し、第1のボリュームデータの肝臓領域および第2のボリュームデータの肝臓領域間で非剛体位置合わせ処理を行うことにより、2つの肝臓領域内の対応する位置が変形した方向および距離を表す変形ベクトルを取得し、変形ベクトルを解析して肝臓の硬さを表す指標を取得し、指標を出力する処理を実行する。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、被検者の肝臓を形態的変化が生じた2つの状態で撮影を行った第1のボリュームデータと第2のボリュームデータの肝臓領域間で非剛体位置合わせ処理を行うことにより、2つの肝臓領域内の対応する位置が変形した方向および距離を表す変形ベクトルを取得して肝臓の硬さを表す指標を出力するようにしたので、肝臓の線維化の状態の変化を簡便かつ客観的に確認することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図2】本発明の第1の実施の形態の画像処理装置の概略構成を表す図
【
図3A】被検者が仰臥位の状態と伏臥位の状態で肝臓を撮影した正常例の画像
【
図3B】被検者が仰臥位の状態と伏臥位の状態で肝臓を撮影した非正常例の画像
【
図4A】被検者が呼気の状態と吸気の状態で肝臓を撮影した正常例の画像
【
図4B】被検者が呼気の状態と吸気の状態で肝臓を撮影した非正常例の画像
【
図7】肝臓領域を構成する複数の区域を説明するための図
【
図8】肝臓領域内部の各位置の変形ベクトルを矢印で表示した例
【
図9】肝臓領域内の複数の位置の変形ベクトルの大きさを色分け表示した例
【
図10】第1の実施の形態の画像処理装置の処理の流れを示すフローチャート
【
図11】本発明の第2の実施の形態の画像処理装置の概略構成を表す図
【
図12】第2の実施の形態の画像処理装置の処理の流れを示すフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、図面を参照して本発明の第1の実施の形態の画像処理装置を備えた医療情報システムについて説明する。
図1は、本実施の形態の医療情報システムの概略構成を示すブロック図である。
【0031】
本実施の形態の医療情報システムは、
図1に示すように、画像処理装置1、医用画像保管サーバ2、および、撮影装置3(以下、モダリティという)がネットワーク4を介して互いに通信可能な状態で接続されて構成されている。
【0032】
モダリティ3は、たとえばCT装置、MRI装置および超音波装置などであり、撮影された3次元のボリュームデータは、DICOM(Digital Imaging and COmmunicationin Medicine)規格に準拠した格納フォーマットおよび通信規格に従って、ネットワーク4を介して医用画像保管サーバ2に送信されて格納される。
【0033】
画像処理装置1は、汎用のコンピュータであり、CPU(Central Processing Unit)、メモリ(主記憶装置)、ストレージ(補助記憶装置)、入出力インターフェース、通信インターフェース、入力装置、表示装置、および、データバスなどの周知のハードウェア構成を備え、周知のオペレーションシステムなどがインストールされている。また、表示装置として液晶ディスプレイなどを有し、入力装置としてキーボードおよび/またはマウスなどのポインティングデバイスを有している。ストレージは、ハードディスクまたはSSD(Solid State Drive)などで構成される。なお、必要に応じてコンピュータにGPU(Graphics Processing Unit)を設けるようにしてもよい。このコンピュータに、本実施の形態の画像処理プログラムをインストールすることにより画像処理装置1として機能する。また、画像処理装置1は、医用画像保管サーバ2に対する画像の送信要求、および、医用画像保管サーバ2から画像の受信を行う機能を備え、各機能のためのソフトウェアプログラムを実行することにより行われる。
【0034】
画像処理プログラムは、DVD(Digital Versatile Disc)またはCD-ROM(Compact Disc Read Only Memory)などの記録媒体に記録されて配布され、その記録媒体からコンピュータにインストールされる。または、画像処理プログラムは、ネットワークに接続されたサーバコンピュータの記憶装置もしくはネットワークストレージに対して、外部からアクセス可能な状態で記憶され、外部からの要求に応じてコンピュータにダウンロードされた後に、インストールされるようにしてもよい。
【0035】
第1の実施の形態の画像処理装置1は、
図2に示すように、取得部10、肝臓領域抽出部11、グローバル位置合せ部12、ローカル位置合せ部13、指標取得部14、および指標出力部15を備える。
【0036】
取得部10は、被検者の肝臓を形態的変化が生じた2つの状態で撮影を行った第1のボリュームデータV1と第2のボリュームデータV2を医用画像保管サーバ2から取得する。ボリュームデータV1,V2は、本実施の形態においては、CT装置、MRI装置または超音波撮影装置などによって撮影された3次元の画像データである。ボリュームデータは、3次元空間を細かく区切ったボクセル位置の物理量を表わすデータで構成され、データは各ボクセルの位置に存在する臓器または組織などを放射線または磁気が透過した透過量に応じた値、あるいは、臓器または組織などで反射された超音波に応じた値で表される。
【0037】
第1のボリュームデータV1と第2のボリュームデータV2は、肝臓の形態的変化が生じる前後の2つの状態で撮影を行った画像である。具体的には、肝臓の形態的変化は、体位の変化または呼吸の影響などによって生じる。
【0038】
例えば、被検者が、仰向け(仰臥位)になっているか、うつ伏せ(伏臥位)になっているかによって肝臓に形態的変化が生じる。そこで、被検者が仰臥位の状態で撮影された画像を第1のボリュームデータV1とし、被検者が伏臥位の状態で撮影された画像を第2のボリュームデータV2とする。
図3Aは、正常な肝臓を被検者が仰臥位の状態と伏臥位の状態で撮影した画像である。左側のaの下にある画像が仰臥位の状態で撮影したアキシャル画像、サジタル画像、およびコロナル画像である。右側のbの下にある画像が伏臥位の状態で撮影したアキシャル画像、サジタル画像、およびコロナル画像である。
図3Bは、肝硬変が進んだ肝臓を被検者が仰臥位の状態(左側のa)と伏臥位の状態(右側のb)で撮影した画像である。
図3Aの正常例の画像の肝臓の上部の形状と下部の形状(黒い線)が大きく変化しているが、
図3Bの非正常例の画像の肝臓の上部の形状(黒い線)の変化が少なく、2つを比較すると、非正常例は正常例に比べて形状変化が少ない。
【0039】
あるいは、呼吸をすることで肺野の大きさが変わることによっても肝臓に形態的変化が生じる。そこで、被検者の肺野が拡大した状態で撮影した画像を第1のボリュームデータV1とし、被検者の肺野が第1のボリュームデータV1の肺野より縮小した状態で撮影された画像を第2のボリュームデータV2としてもよい。第1のボリュームデータV1と第2のボリュームデータV2は肺野の大きさの変化が大きい方が好ましく、肺野の大きさが最大になる最大吸気の状態と、肺野の大きさが最小になる最小呼気の状態で撮影するのが好ましい。
図4Aは、正常な肝臓を被検者が吸気の状態と呼気の状態で撮影した画像である。左側のaの下にある画像が吸気の状態で撮影したアキシャル画像、サジタル画像、およびコロナル画像である。右側のbの下にある画像が呼気の状態で撮影したアキシャル画像、サジタル画像、およびコロナル画像である。
図4Bは、肝硬変が進んだ肝臓を被検者が吸気の状態(左側のa)と呼気の状態(右側のb)で撮影した画像である。
図4Aの正常例の画像の肝臓の上部の形状(白い矢印)と、
図4Bの非正常例の画像の肝臓の上部の形状(白い矢印)を比較すると、非正常例は正常例に比べて形状変化が少ない。
【0040】
第1のボリュームデータV1と第2のボリュームデータV2は、肺野の大きさが大きく変わる最大吸気と最小呼気の状態で撮影するのが好ましいが、肺野の大きさが異なっていればよい。例えば、造影剤を投与して複数のフェーズで撮影を行った時の画像を利用することができる。通常、造影剤を用いてCT撮影を行なう際には造影剤が拡散する状態に応じて4相のフェーズで撮影が行われる。まず、息を吸った状態で呼吸停止を行い2相(早期動脈相、後期動脈相)の撮影を行い、その後息を吐いた状態で残りの2相の撮影を行うようにすることで、肺野の大きさが変化した状態でボリュームデータを撮影することができる。この4相のボリュームデータ中から肺野の大きさが大きく変わったボリュームデータを選んで、第1のボリュームデータV1と第2のボリュームデータV2としてもよい。
【0041】
ボリュームデータV1,V2は、医用画像保管サーバ2に患者の識別情報とともに予め保管されている。取得部10は、キーボードなどの入力装置を用いてユーザによって入力された患者の識別情報に基づいて、診断対象の患者の第1のボリュームデータV1と第2のボリュームデータV2を医用画像保管サーバ2から読み出してストレージ(不図示)に記憶する。
【0042】
肝臓領域抽出部11は、第1のボリュームデータV1と第2のボリュームデータV2のそれぞれから肝臓領域を抽出する。肝臓領域は、撮影されたモダリティに応じた画素値などに応じて抽出され、既知の様々な手法を用いることができる。
【0043】
グローバル位置合せ部12は、剛体位置合せによって肝臓の大域的な位置合せを行う。剛体位置合せでは、肝臓の形を変えないように平行移動と回転移動だけを用いた位置合わせが行われる。具体的には、第1のボリュームデータV1の肝臓領域の重心の位置と第2のボリュームデータV2の肝臓領域の重心の位置を一致させるように、X,Y,およびZのそれぞれの軸方向に平行移動を行う。さらに、剛体変換モデルのX,Y,およびZのそれぞれの軸方向の平行移動と回転移動の6つのパラメータを最適化して、2つの肝臓領域の重なる体積が最も大きくなるように位置合わせを行うようにする。あるいは、第1のボリュームデータV1の肝臓領域のランドマークに対応する第2のボリュームデータV2の肝臓領域のランドマークが近づくように、平行移動および/または回転移動を行う。ランドマークは、肝臓を代表する位置を用いればよく、肝臓領域の上端、右葉と左葉の境界、門脈、または肝動脈などの位置を用いることができ、これらのランドマークのうち1つ以上のランドマークを用いて、2つの肝臓のランドマーク間の距離の合計が最も小さくなるように位置合せを行う。
【0044】
次に、ローカル位置合せ部13は、グローバル位置合せ部12で剛体位置合わせが行われた肝臓領域に対して、非剛体位置合せによって肝臓領域内の詳細な位置合せを行う。非剛体位置合せでは、位置合わせする2つの肝臓のうち少なくとも一方の形を変えて位置合せが行われる。2つの異なるボリュームデータ間で位置合わせをするための非剛体位置合せとして、アフィン変換などの線形位置合せと、B-splineを用いた非線形位置合せが知られている。このような線形位置合わせと非線形位置合わせを用いて医用画像の位置合せが行われる。
【0045】
医用画像の位置合せは、第1のボリュームデータV1の画像I
F内の各点x
Fは固定したままにして、第2のボリュームデータV2の画像I
M内の各点x
Mを移動させることで、画像I
Mの各点x
Mの位置を解剖学的に対応する画像I
Fの各点x
Fの位置に一致させるための幾何学的変換の関数Tを求める問題である。この問題は、
図5に示すように、一方の画像I
Fと、他方の画像I
MをTによって変形した画像との一致度を評価関数として、これを最大化させる最適化問題として解くことができる。大域的な最適解を得る方法はないので、ある初期値を設定した後に、勾配法などを使って反復的によりよい解を探索することによって解を求める。一致度には、相互情報量を用いることができる。相互情報量はCT画像とMRI画像のように異なるモダリティで撮影された画像の位置合わせに用いられるが、同じモダリティで撮影した画像間の場合には、相互相関関数を用いるようにしてもよい。
【0046】
具体的には、まず、幾何学的変換のモデルとして、B-spline変換モデルを用いてボリュームデータの中に格子点を設け、格子点を移動させて一致する点を捜すことで粗い位置合わせを行う。その後、Diffecomorphic(微分同相)変換モデルで画素単位で詳細な位置合わせ行う。つまり、まずB-spline変換モデルの最適解を求めた後、その結果を初期値としてDiffecomorphic変換モデルの最適解を得る。これにより、剛体位置合わせ後の第1のボリュームデータと第2のボリュームデータの2つの肝臓領域間において、2つの肝臓領域内の対応する位置を見つけることができる。
【0047】
指標取得部14は、ローカル位置合せ部13の非剛体位置合せで得られた2つの肝臓領域内の対応する位置から、2つの肝臓領域が変形した方向および距離を表す変形ベクトルを取得する。つまり、非剛体位置合わせによって見つけられた画像IFの肝臓領域内の各点xFに対応する画像IMの肝臓領域内の各点xMを結ぶベクトルを変形ベクトルとして取得する(なお、画像IFと画像IMは肝臓領域が剛体位置合わせされた後の画像である)。さらに、変形ベクトル場から肝臓の硬さを表す指標を取得する。例えば、この変形ベクトルの変形量を指標値として算出する。
【0048】
図6に、変形ベクトルの大きさの分布の例を示す。
図6は横軸が変形ベクトルの大きさ(変形ベクトル長)を示し、縦軸が相対頻度を示す。また、実線は、移植が必要なくらい線維化が進んだ状態の肝臓の変形ベクトルの分布の例を示し、破線は、線維化はしているが重篤ではない状態の肝臓の変形ベクトルの分布の例を示し、一点鎖線は、健康な状態の肝臓の変形ベクトルの分布の例を示す。このような変形ベクトルの大きさの平均値を求めて指標値とすることができる。変形ベクトルの大きさの平均値は、値が小さいほど線維化が進んだ状態を示す。また、変形ベクトルの大きさの平均値と標準偏差を、肝臓の硬さを表す指標値として算出してもよい。あるいは、変形ベクトルの大きさの分布と肝線維化レベルとの関係を多数のデータから統計的に解析して、線維化ステージを表す肝線維化レベルを指標としてもよい。肝線維化レベルは線維化ステージに対応させるのが好ましい。
【0049】
また、指標は、数値でなくてもよく、肝臓の硬さのレベルを文字で表してもよい。例えば、変形ベクトルの大きさの平均値または肝線維化レベルに応じて、肝硬変の所見がない健康な肝臓の場合には「A」、軽度の肝硬変の場合には「B」、中程度の肝硬変の場合には「C」、重度の肝硬変の場合には「D」というように、肝臓の硬さのレベルを文字で表わした指標を用いてもよい。さらに、指標は、文字に限らず、数字であってもよいし、文字と数字の組み合わせであってもよい。さらに、指標が「中程度の肝硬変」というように文章であってもよい。
【0050】
あるいは、指標取得部14が、肝臓領域を構成する複数の区域ごとに指標を取得するようにしてもよい。肝臓は、肝鎌状間膜を境に左葉と右葉に分かれ、さらに、外側区域、内側区域、前区域、および後区域の4区域に分かれる。これらの区域をさらに2区域ずつに分けて、S1の尾状葉区域、S2の後外側区域(外側上区域)、S3の前外側区域(外側下区域)、S4の内側上下区域(方形葉)、S5の前下区域、S6の後下区域、S7の後上区域、およびS8の前上区域の8区域に分けられる(
図7参照)。これらのそれぞれの区域ごとに指標を求めるようにしてもよい。
【0051】
また、肝臓の右葉上部は肝臓の中でも薄く平べったい形状をしているため、被検者の体位や呼吸の状態によって形態的変化が大きく表れる。そこで、肝臓領域の肝臓右葉上部の変形ベクトルを解析して指標を取得することが好ましい。
【0052】
さらに、指標取得部14は、判別器を用いて肝線維化レベルを指標値として取得するようにしてもよい。例えば、患者の肝臓を形態的変化が生じた2つの状態で撮影を行った第1のボリュームデータV1と第2のボリュームデータV2に対して肝線維化レベルが対応付けられたデータを教師データセットとして多数用意して、肝線維化レベルと変形ベクトルとの関係を機械学習させた判別器をあらかじめ生成しておき、判別器を用いて、被検者の第1のボリュームデータV1と第2のボリュームデータV2を入力して肝線維化レベルを取得するようにしてもよい。
【0053】
指標出力部15は、液晶ディスプレイなどの表示装置に指標値または指標を表す文字を出力して表示する。具体的には、
図3A,
図3B,
図4A,
図4Bのようにボリュームデータを表示した画面上に硬さのレベルを表す数値や文字を表示する。あるいは、指標をプリンターに出力して、紙などに印刷するようにしてもよい。
【0054】
あるいは、指標取得部14が、指標として肝臓領域内の複数の位置の変形ベクトル自体を取得してもよい。この場合には、指標出力部15は、肝臓領域の各位置の変形ベクトルを肝臓領域の各位置に対応する肝臓領域の外形を表す外形形状上の各位置に表示するようにしてもよい。
図8は、肝臓のあるアキシャル断面における肝臓領域内部の各位置の変形ベクトルを表示した例である。また、
図8では、Z方向(体軸方向)の変位を黒矢印が+方向、白抜きの矢印が-方向を表している。また、
図8は、便宜上、Z方向の変位を黒の矢印と白抜きの矢印で表しているが、赤と青など異なる色でディスプレイ上に表示するようにしてもよい。
【0055】
さらに、指標取得部14が、指標として肝臓領域内の複数の位置の変形ベクトルから得られた大きさを取得してもよい。この場合には、指標出力部15は、肝臓領域の各位置の指標に応じた色で、肝臓領域の外形を表す外形形状上の各位置を色分けして表示するようにしてもよい。
図9は、便宜上、色分けをハッチングで表した例である。
図9の異なるハッチングがそれぞれ赤と青の色分けに対応し、赤の場所は変位ベクトルの大きさが所定の値以上であり、青の場所は変位ベクトルの大きさが所定の値以下であることを示すようにしてもよい。
【0056】
次に本実施の形態の画像処理装置1の処理の流れについて、
図10に示すフローチャートを参照しながら説明する。
【0057】
まず、ユーザによって患者の識別情報が入力されると、その患者の造影CT画像から2つのボリュームデータV1,V2を取得部10で取得する(ST10)。
【0058】
次に、取得部10で取得された2つのボリュームデータV1,V2から肝臓領域抽出部11を用いて肝臓領域を抽出する(ST11)。グローバル位置合せ部12で、肝臓の重心が一致するように剛体変換のX,Y,およびZのそれぞれの軸方向に平行移動させる。さらに、肝臓の重心を一致させる平行移動のパラメータを初期値として、X,Y,およびZのそれぞれの軸方向の平行移動と回転移動の6つのパラメータを最適化して剛体位置合わせを行う(ST12)。
【0059】
さらに、ローカル位置合せ部13は、グローバル位置合せ部12で剛体位置合わせが行われた肝臓領域に対して非剛体位置合せを行うことで肝臓領域内の詳細な位置合せを行ない、第1のボリュームデータV1と第2のボリュームデータV2の肝臓領域内の対応する位置を見つける(ST13)。
【0060】
指標取得部14は、非剛体位置合せの結果に基づいて、第1のボリュームデータV1と第2のボリュームデータV2の2つの肝臓領域が変形した方向および距離を表す変形ベクトルを取得する(ST14)。さらに、変形ベクトルから指標を取得する(ST15)。指標出力部15は、指標をディスプレイ上に表示する(ST16)。
【0061】
以上詳細に説明したように、非剛体位置合わせにより肝臓の変形ベクトルを取得して、肝臓の硬さのレベルを取得するようにしたので、肝臓の線維化の状態を簡便かつ客観的に確認することが可能になる。
【0062】
上述の第1の実施の形態では、非剛体位置合わせの前に剛体位置合わせを行う場合について説明したが、例えば、仰臥位の状態と伏臥位の状態で撮影する場合のように、肝臓の体軸方向の位置が大きく変わらないで2つのボリュームデータの撮影が行われる場合には、剛体位置合わせを行うことなく、非剛体位置合わせのみ行うようにしてもよい。
【0063】
次に、第2の実施の形態について説明する。本実施の形態では、肺野の大きさに応じて肝臓の形態的変化が生じる場合に、より正確に硬さのレベルを取得する手法について説明する。第1の実施の形態と同じ構成については、第1の実施の形態と同一符号を付して、詳細な説明は省略し、異なる構成についてのみ詳細な説明を行う。
【0064】
第2の実施の形態の医療情報システムは、第1の実施の形態と同様であるので詳細な説明は省略する。第2の実施の形態の画像処理装置1aは、
図11に示すように、取得部10、肝臓領域抽出部11、グローバル位置合せ部12、ローカル位置合せ部13、指標取得部14a、および指標出力部15を備える。また、本実施の形態の指標取得部14aは、指標の調整を行う調整部16を備える点で第1の実施の形態とは異なる。
【0065】
指標取得部14aは、第1の実施の形態と同様に、ローカル位置合せ部13によって行われた非剛体位置合せの結果に基づいて、第1のボリュームデータV1と第2のボリュームデータV2の2つの肝臓領域が変形した方向および距離を表す変形ベクトルを取得し、変形ベクトルに基づいて指標を求める。
【0066】
しかし、同じ被検者でも、呼気や吸気の状態が異なると結果も異なってしまう。例えば、2つのボリュームデータV1,V2を撮影した時の呼吸の状態が最大吸気と最小呼気であれば、肝硬変が進行していないときは肺野の大きさが大きく変わるため肝臓領域の変形量は大きな値になるが、2つのボリュームデータV1,V2を撮影した時の肺野の大きさの変化が小さいときには、肝硬変が進行していなくても肝臓領域の変形量は比較的小さい値になる。一方、肝硬変が進んでいる場合には、肺野の大きさが大きく変わっていても、肺野の大きさがあまり変わらなくても変形量は小さい値となる。
【0067】
呼気と吸気では、横隔膜の位置が大きく変わり、それに伴って肝臓の位置も上下に移動する。呼吸の状態を変えた2つのボリュームデータV1,V2を撮影するときは、撮影装置に対する被検者の体位の移動はないため、肺野の大きさの変化を、肝臓領域の体軸方向の位置の変化から推定することが可能である。
【0068】
そこで、調整部16は、グローバル位置合せ部12による位置合せが行われる前の第1のボリュームデータV1の肝臓領域および第2のボリュームデータV2の肝臓領域の上端位置の体軸方向の差分値を取得し、指標が表す硬さのレベルを差分値が大きいほど指標が表す硬さのレベルを高くする調整を行い、差分値が小さくなるにしたがって指標が表す硬さのレベルを低くする調整を行う。つまり、肺野の大きさの大きく変わる場合には、肺野の大きさがあまり変わらない場合よりも、変形ベクトルの大きさが大きくなり指標は肝臓が柔らかいこと(硬さのレベルが低い)を指すので、硬さのレベルを高くする調整を行う。一方、肺野の大きさがあまり変わらない場合には、肺野の大きさが大きく変わる場合よりも、変形ベクトルの大きさが小さくなり指標は実際より肝臓が硬いこと(硬さのレベルが高い)を指すので、硬さのレベルを低くする調整を行う。これによって、呼気や吸気の状態によって変わる肺野の大きさの差異を吸収するような補正を加えることができる。
【0069】
具体的には、指標取得部14aが、指標を表す指標値として求めた変形ベクトルの大きさに基づいて取得した変形量を差分値で割った値を指標値とする。あるいは、変形量を差分値で割った値に応じて、硬さのレベルを「A」~「D」文字で表した指標で表してもよい。
【0070】
指標取得部14aの調整部16が、指標を予め変形ベクトルの変形量と差分値に応じた指標(指標値、または、硬さのレベルを文字で表した指標)を表すテーブルを用意して、指標を調整するようにしてもよい。あるいは、変形ベクトルから得られた指標と差分値に応じた指標値を表すテーブルを用意して、指標を調整するようにしてもよい。
【0071】
次に本実施の形態の画像処理装置1の処理の流れについて、
図12に示すフローチャートを参照しながら説明する。
【0072】
まず、ユーザが患者の識別情報を入力すると、その患者の造影CT画像から2つのボリュームデータV1,V2を取得部10で取得する(ST20)。
【0073】
次に、取得部10で取得された2つのボリュームデータV1,V2から肝臓領域抽出部11を用いて肝臓領域を抽出する(ST21)。ここで、調整部16は、2つのボリュームデータV1,V2の肝臓領域の上端位置の体軸方向の差分値を取得する(ST22)。
【0074】
次に、グローバル位置合せ部12で、肝臓の重心が一致するように剛体変換のX,Y,およびZのそれぞれの軸方向に平行移動させる。さらに、肝臓の重心を一致させる平行移動のパラメータを初期値として、X,Y,およびZのそれぞれの軸方向の平行移動と回転移動の6つのパラメータを最適化して剛体位置合わせを行う(ST23)。
【0075】
さらに、ローカル位置合せ部13は、グローバル位置合せ部12で剛体位置合わせが行われた肝臓領域に対して非剛体位置合せを行うことで肝臓領域内の詳細な位置合せを行ない、第1のボリュームデータV1と第2のボリュームデータV2の肝臓領域内の対応する位置を見つける(ST24)。
【0076】
指標取得部14aは、非剛体位置合せの結果に基づいて、第1のボリュームデータV1と第2のボリュームデータV2の2つの肝臓領域が変形した方向および距離を表す変形ベクトルを取得する(ST25)。さらに、変形ベクトルから指標を取得する(ST26)。ここで、調整部16で指標が表す硬さのレベルを差分値が大きいほど指標が表す硬さのレベルを高くし、差分値が小さくなるにしたがって指標が表す硬さのレベルを低くするように調整を行う(ST27)。指標出力部15は、調整された指標をディスプレイ上に表示する(ST28)。
【0077】
以上詳細に説明したように、非剛体位置合わせにより肝臓の変形ベクトルを取得して、肝臓の硬さのレベルを取得し、さらに、呼吸の状態によって肝臓の変形の程度が異なってくることを考慮することで、肝臓の線維化の状態をより正確に取得することが可能になる。
【0078】
上記では、1つのコンピュータを画像処理装置として機能させる場合について説明したが、複数のコンピュータに機能を分散させるようにしてもよい。
【0079】
また、上記では、汎用コンピュータが画像処理装置として機能する場合について説明したが、専用コンピュータによって実施されてもよい。専用コンピュータは、内蔵されたROM(Read Only Memory)やフラッシュメモリなど、不揮発メモリに記録されたプログラムを実行するファームウェアであってもよい。さらに、この画像処理装置の少なくとも一部の機能を実行するためのプログラムを永久的に記憶するASIC(Application Specific Integrated Circuit:特定用途向け集積回路)やFPGA(field programmable gate arrays)などの専用回路を設けるようにしてもよい。あるいは、専用回路に記憶されたプログラム命令と、専用回路のプログラムを利用するようにプログラムされた汎用のCPUによって実行されるプログラム命令と組み合わせるようにしてもよい。以上のように、コンピュータのハードウェア構成をどのように組み合わせてプログラム命令を実行してもよい。
【符号の説明】
【0080】
1、1a 画像処理装置
2 医用画像保管サーバ
3 撮影装置
4 ネットワーク
10 取得部
11 肝臓領域抽出部
12 グローバル位置合せ部
13 ローカル位置合せ部
14、14a 指標取得部
15 指標出力部
16 調整部
V1 第1のボリュームデータ
V2 第2のボリュームデータ