(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-05
(45)【発行日】2022-10-14
(54)【発明の名称】光信号処理装置
(51)【国際特許分類】
G02F 1/39 20060101AFI20221006BHJP
H04B 10/80 20130101ALI20221006BHJP
【FI】
G02F1/39
H04B10/80
(21)【出願番号】P 2019038551
(22)【出願日】2019-03-04
【審査請求日】2021-04-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000125369
【氏名又は名称】学校法人東海大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】弁理士法人谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】遊部 雅生
(72)【発明者】
【氏名】梅木 毅伺
(72)【発明者】
【氏名】圓佛 晃次
(72)【発明者】
【氏名】風間 拓志
(72)【発明者】
【氏名】柏崎 貴大
(72)【発明者】
【氏名】笠原 亮一
【審査官】奥村 政人
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-240780(JP,A)
【文献】特開2004-020870(JP,A)
【文献】特開2003-133620(JP,A)
【文献】特開2005-242219(JP,A)
【文献】特開2002-031827(JP,A)
【文献】特開平05-333392(JP,A)
【文献】特開2001-021928(JP,A)
【文献】特開平06-082861(JP,A)
【文献】特開2016-218373(JP,A)
【文献】特開昭59-128525(JP,A)
【文献】特開平02-221937(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0280886(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/00- 1/125
G02F 1/21- 7/00
IEEE Xplore
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
波長λ
1の信号光および波長λ
3の励起光の差周波に相当する波長λ
2の差周波光を発生し、波長λ
1の前記信号光をパラメトリック増幅する波長変換装置において、
波長2λ
3の基本波励起光を発生する光源と、
一方の端から前記基本波励起光が入射し、前記基本波励起光の第二高調波発生によって波長λ
3の励起光を発生し、他方の端から波長λ
1の信号光を入射する擬似位相整合型波長変換素子と、
前記擬似位相整合型波長変換素子を伝搬した前記励起光を反射して、再び前記擬似位相整合型波長変換素子に入射し、逆方向に伝搬させる反射手段と
を備え、
前記擬似位相整合型波長変換素子は、前記励起光の波長λ
3における伝搬定数β (λ
3)、前記信号光の波長λ
1における伝搬定数β (λ
1)および前記差周波光の波長λ
2における伝搬定数β (λ
2)の間で、第1の擬似位相整合条件
を満たす非線形定数の空間分布の変調周期Λ
1を有し、
波長λ
3における伝搬定数β(λ
3)および波長2λ
3における伝搬定数β(2λ
3) 間で、第
2の擬似位相整合条件
を満たす非線形定数の空間分布の変調周期Λ
2を有し、前記変調周期Λ
1およびΛ
2は
の関係を満た
し、
前記擬似位相整合型波長変換素子は、非線形媒質で構成され、周期分極反転構造を有するニオブ酸リチウムによる導波路であり、
前記周期分極反転構造の非線形定数の空間分布の基本周期Λ0および別の周期Λphで空間的な位相変調または周波数変調が施されており、
前記励起光の波長λ3における伝搬定数β(λ3)と前記信号光の波長λ1における伝搬定数β(λ1)と前記差周波光の波長λ2における伝搬定数β(λ2)の間で第1の擬似位相整合条件
を満足し、
前記擬似位相整合型波長変換素子は波長λ3における伝搬定数β(λ3)と波長2λ3における伝搬定数β(2λ3)間で、第2の擬似位相整合条件
を満足することを特徴とする光信号処理装置。
【請求項2】
前記非線形媒質の中で生じる2次非線形光学効果によって、
満たす前記差周波光の波長λ
2を生成することを特徴とする請求項
1に記載の光信号処理装置。
【請求項3】
前記反射手段は、前記擬似位相整合型波長変換素子の一方の端面に形成された誘電体多層膜であることを特徴とする、請求項
1または2に記載の光信号処理装置。
【請求項4】
前記反射手段は、前記擬似位相整合型波長変換素子から前記励起光のみを取り出す波長分離手段と、波長λ
3を反射する金属または誘電体多層膜からなることを特徴とする請求項
1または2に記載の光信号処理装置。
【請求項5】
前記光源は、波長2λ
3の単色レーザ光を出力し、
前記第二高調波発生の前に、前記単色レーザ光は光ファイバ増幅器によって増幅されることを特徴とする請求項1乃至
4いずれかに記載の光信号処理装置。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
本発明は、光通信システムやレーザ装置において用いられる波長変換または光増幅が可能な光信号処理装置に関する。
【0002】
光通信システムにおいては、光ファイバを伝搬することにより減衰した信号を中継するために、エルビューム添加光ファイバ増幅器(EDFA)が広く用いられている。EDFAは、光ファイバにエルビュームを添加した光ファイバ(EDF:Erbium-Doped Fiber)に励起光を入射し、EDF中の誘導放出により入射光を増幅する。EDFAが実用化されるまでは、減衰した光を一旦電気信号へ変換して、デジタル信号を識別した後に、再び光信号に変換する方法が用いられてきた。この光―電気―光の変換を行うためには多くの光部品および電気部品が必要となり、光通信の中継コストを大きなものにしてきた。しかし、EDFAの実用化により、光信号を光のまま増幅することが可能になり、さらには複数の波長に別々の情報を載せて伝送する波長多重(WDM:Wavelength Division Multiplexing)の信号を一括して、増幅することが可能である。このため、光信号の増幅・中継を簡単な構成で行うことが可能になり、光中継のコストを著しく低減することができる。特に長距離を伝送する光通信ネットワークは、EDFAを使用することを前提に全体のシステムが設計されていると言っても過言ではない。
【0003】
近年の情報通信技術サービスの多様化により、通信ネットワークのバックボーンを支える光通信システムには、伝送容量のさらなる増大が求められている。シャノンの通信理論によれば、単位周波数帯域あたりの伝送容量の比率で与えられる周波数利用効率は信号対雑音(S/N)比に対してlog2(1+S/N)で与えられる。このためS/N比の上限が、原理的な伝送容量の上限を決定してしまう。光通信の受信機におけるS/N比はいわゆるショット雑音が支配的になる条件下では、光信号のパワーに比例する。従って、周波数利用効率を高めるためには、高い光パワーで伝送を行うことが原理的には理にかなっている。しかしながら、現実には光通信の伝送媒体である光ファイバには非線形光学効果が存在する。非線形光学効果のため、必要以上に伝送パワーを大きくすると、非線形光学効果の影響により、かえって光信号のS/N比が劣化する現象が指摘されている。このS/N比の劣化は非線形シャノン限界と呼ばれており、光通信システムの伝送容量の上限を制限しかねない現象として議論されている。
【0004】
上述のように非線形シャノン限界により、光通信システムにおける周波数利用効率には原理的な上限が見え始めている。通信容量のさらに増大させるためには、光通信に用いる周波数帯域を拡大することが本質的な課題となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【文献】M.H. Chou, I. Brener, K.R. Parameswaran and M.M. Fejer,“Stability and bandwidth enhancement of difference frequency generation (DFGI-based wavelength conversion by pump detuning”, ELECTRONICS LETTERS 10th June 1999 Vol. 35 No. 12, pp978-990
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述のEDFAを使用する光通信システムでは、依然として以下のような問題が存在していた。現在の光通信システムで広く用いられているEDFAで増幅できる波長帯域は、Cバンド(1530-1565nm)およびLバンド(1565-1625nm)に限られている。したがって、現在の光通信システムは、これらの波長帯域の利用を前提に構築されている。光ファイバ自体の透明波長帯域は非常に広いため、上述の波長帯以外の波長帯域を用いることができれば、光通信の伝送容量の大幅拡大が可能になる。
【0008】
EDFAに類似の技術としてイットリビュームを添加した光ファイバを用いた光増幅器(YDFA:Ytterbium Doped Fiber Amplifier)が開発されている。YDFAによって増幅ができる波長帯域は1.06μm帯であり、この波長帯では通常用いられるシングルモードファイバ(SMF)がシングルモード伝搬でなくなってしまう。SMFは1.06μm帯における高速信号の伝送に適さず、YDFAを用いて通信システムを構成するには、従来とは異なる特殊な光ファイバを用いる必要がある。したがって、光通信システムにおいてYDFAを使用すると、既存の光ファイバ通信網との親和性に問題があった。現在、既存の光ファイバ通信網との親和性を維持したままで、CバンドおよびLバンド以外の波長帯域で使用可能な光増幅装置は、存在していない。
【0009】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、CバンドおよびLバンド以外の波長帯域において、EDFAでは増幅できない波長域の光信号を光のまま増幅することができる光信号処理装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は、このような目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、波長λ1の信号光および波長λ3の励起光の差周波に相当する波長λ2の差周波光を発生し、波長λ1の前記信号光をパラメトリック増幅する波長変換装置において、波長2λ3の基本波励起光を発生する光源と、一方の端から前記基本波励起光が入射し、前記基本波励起光の第二高調波発生によって波長λ3の励起光を発生し、他方の端から波長λ1の信号光を入射する擬似位相整合型波長変換素子と、前記擬似位相整合型波長変換素子を伝搬した前記励起光を反射して、再び前記擬似位相整合型波長変換素子に入射し、逆方向に伝搬させる反射手段とを備え、前記擬似位相整合型波長変換素子は、前記励起光の波長λ3における伝搬定数β (λ3)、前記信号光の波長λ1における伝搬定数β (λ1)および前記差周波光の波長λ2における伝搬定数β (λ2)の間で、第1の擬似位相整合条件
【0019】
【0020】
を満たす非線形定数の空間分布の変調周期Λ1を有し、波長λ3における伝搬定数β(λ3)および波長2λ3における伝搬定数β(2λ3) 間で、第2の擬似位相整合条件
【0021】
【0022】
を満たす非線形定数の空間分布の変調周期Λ2を有し、前記変調周期Λ1およびΛ2は
【0023】
【0024】
の関係を満たし、前記擬似位相整合型波長変換素子は、非線形媒質で構成され、周期分極反転構造を有するニオブ酸リチウムによる導波路であり、前記周期分極反転構造の非線形定数の空間分布の基本周期Λ
0
および別の周期Λ
ph
で空間的な位相変調または周波数変調が施されており、前記励起光の波長λ
3
における伝搬定数β(λ
3
)と前記信号光の波長λ
1
における伝搬定数β(λ
1
)と前記差周波光の波長λ
2
における伝搬定数β(λ
2
)の間で第1の擬似位相整合条件
【0026】
【0027】
を満足し、前記擬似位相整合型波長変換素子は波長λ3における伝搬定数β(λ3)と波長2λ3における伝搬定数β(2λ3)間で、第2の擬似位相整合条件
【0028】
【0029】
を満足することを特徴とする光信号処理装置である。この光信号処理装置は、第2の実施形態および第3の実施形態に相当する。また、擬似位相整合型波長変換素子は、少なくともマルチQPM素子を含む。
【0030】
請求項2に記載の発明は、請求項1の光信号処理装置であって、前記非線形媒質の中で生じる2次非線形光学効果によって、
【0031】
【0032】
を満たす前記差周波光の波長λ2を生成することを特徴とする。
【0033】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2の光信号処理装置であって、前記反射手段は、前記擬似位相整合型波長変換素子の一方の端面に形成された誘電体多層膜であることを特徴とする。この光信号処理装置は、第3の実施形態に相当する。
【0034】
請求項4に記載の発明は、請求項1または2の光信号処理装置であって、前記反射手段は、前記擬似位相整合型波長変換素子から前記励起光のみを取り出す波長分離手段と、波長λ3を反射する金属または誘電体多層膜からなることを特徴とする。
【0035】
請求項5に記載の発明は、請求項1乃至4いずれかの光信号処理装置であって、前記光源は、波長2λ3の単色レーザ光を出力し、前記第二高調波発生の前に、前記単色レーザ光は光ファイバ増幅器によって増幅されることを特徴とする。
【0036】
上述の光信号処理装置は、いずれも光増幅装置または波長変換装置として動作することができる。
【発明の効果】
【0037】
以上説明したように、本発明により従来のEDFAでは増幅できなかった波長帯域の光信号を、光のままで増幅することができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【
図1】本発明の第1の実施形態の光増幅装置の構成を示す図である。
【
図2】本発明の光増幅装置のパラメトリック利得の波長依存性を示す図である。
【
図3】位相整合波長差とパラメトリック利得ピーク波長の関係を示した図である。
【
図4】本発明の第2の実施形態の光増幅装置の構成を示す図である。
【
図5】長周期の空間的な周期的位相変調を施したマルチQPM素子の位相変化を示した図である。
【
図6】マルチQPM素子の変換効率の次数k依存性を示す図である。
【
図7】第2の実施形態の光増幅装置の光増幅動作、特性を説明する図である。
【
図8】本発明の第3の実施形態の光増幅装置の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
本発明は、非線形光学効果であるパラメトリック増幅効果を利用して光信号を増幅する光信号処理装置である。本発明の光信号処理装置は光増幅装置として動作することができ、2つの異なる擬似位相整合条件を利用し、第1の擬似位相整合条件による第二高調波の励起光発生と、第2の擬似位相整合条件による非縮退パラメトリック増幅を行う。従来技術のEDFAを用いて高パワーを得ることが容易な1.55μm帯の励起光を用いながら、1.55μm帯とは異なる波長帯の光増幅を行うことが可能になる。また、第1の擬似位相整合条件および第2の擬似位相整合条件を同時に満足するマルチ擬似位相整合(QPM:Quasi-Phase Matched)素子の往復路を利用して、第二高調波発生および非縮退パラメトリック増幅を行うことで、コンパクトな構成で光増幅が可能になる。マルチQPM素子では2つの擬似位相整合条件の関係を安定的に維持できるため、安定的に光増幅動作を実現できる。
【0040】
本発明の光信号処理装置では、従来技術では実現困難であった、CバンドおよびLバンド以外の波長帯域における光増幅が可能となる。このため、従来よりも多くの波長チャネル数を用いたWDM伝送および中継を行うことが可能になり、その結果より大容量の光通信システムを構築することができる。以下、図面を参照しながら本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0041】
以後の各実施形態の説明では、本発明の光信号処理装置を光増幅装置として説明するが、いずれの実施形態の光増幅装置も、2次の非線形光学媒質を利用して、第二高調波の発生やアイドラ光の生成などの波長変換動作を利用するものである。したがって、本発明の光増幅装置は、波長変換装置としての側面も持っている。「光増幅装置」を「波長変換装置」と言い換えることも可能であって、2つの用語を交換可能に使用できることに留意されたい。したがって以下に説明する光増幅装置は、波長変換および光増幅を同時に行うことのできる光信号処理装置と言い換えることもできる。
【0042】
前述のEDFAのような希土類を用いたレーザ媒質を用いた光増幅は、希土類のもつエネルギー準位間の遷移を用いているため、増幅できる波長域の選択肢には限りがある。このような制限を受けない光増幅を実現するものとしては、2次ないし3次の非線形光学媒質を用いたパラメトリック増幅を用いる方法がある。3次の非線形光学媒質としては、光ファイバ中の四光波混合を利用した例が代表的なものである。しかし、光ファイバの非線形光学効果は上述のように光信号のS/N比を劣化させる原因にもなり得るため、低雑音の光増幅装置としては問題がある。一方、2次の非線形光学媒質としては周期分極反転ニオブ酸リチウム(PPLN:Periodically Poled Lithium Niobate)からなる光導波路を用いる方法が代表的なものである。例えば非特許文献1では、PPLNを用いた2次の非線形光学効果である差周波発生を用いて、広帯域な光増幅動作が可能なことが示されている。また、PPLNを用いる方法では3次の非線形効果が無視できるため、非線形光学効果による信号品質の劣化はほぼ無いと考えて良い。
【0043】
本発明の光増幅装置では、PPLN導波路等の2次の非線形光学媒質を用い、2つの異なる擬似位相整合条件を利用して光増幅を行うことにより, 1.55μm帯以外における光増幅を可能にする。
【0044】
[第1の実施形態]
図1は、本発明の第1の実施形態の光増幅装置の構成を示す図である。本実施形態の光増幅装置100では非線形媒質として、2つの異なる擬似位相整合条件を有するPPLN導波路を用いた。
【0045】
擬似位相整合条件は、PPLN導波路の周期分極反転構造の分極反転周期を調整することで設定できる。PPLN導波路において擬似位相整合波長を設定するためには、例えば通常のPPLN導波路において第二高調波発生を行う場合、基本波および第二高調波の間の伝搬定数差Δβを周期構造により補償して、擬似位相整合条件を満足するよう分極反転周期Λを設定する。具体的に擬似位相整合波長とは、PPLN導波路における非線形定数の空間分布の周期をΛとして、擬似位相整合波長λQPMにおける伝搬定数β(λQPM)および第二高調波波長2λQPMにおける伝搬定数β(2λQPM)の間で、次式の関係を満たす波長λQPMである。
【0046】
【0047】
光増幅装置100では、DFBレーザ108からの励起光に非線形光学効果を生じさせるのに十分なパワーを得るために、EDFA101を用いて、波長1550nmの励起基本波光102を増幅する。増幅した基本波光を第1の二次非線形光学素子であるPPLN導波路103-1に入射して、第二高調波104を発生させる。第2の二次非線形光学素子であるPPLN導波路103-2に、信号光105および第二高調波104を入射する。PPLN導波路103-2において非縮退パラメトリック増幅を行うことで、信号光の増幅光106を出力するとともに、信号光105と第二高調波104とのアイドラ光107を出力する。
【0048】
したがって、光増幅装置100は、波長λ1の信号光および波長λ3の励起光の差周波に相当する波長λ2の差周波光(アイドラ光)を発生し、波長λ1の前記信号光をパラメトリック増幅する波長変換装置(光増幅装置)であって、前記非線形媒質の中で生じる2次非線形光学効果によって、次式を満たす差周波光の波長λ2を生成するよう動作する。
【0049】
【0050】
2つのPPLN導波路を同一構造のもの(非線形定数の空間分布の周期がΛ)を使用すれば、第2の二次非線形光学素子であるPPLN導波路103-2における非縮退パラメトリック増幅過程における波長λ1の信号光および波長λ3の励起光、波長λ2の差周波光の3つの波長の間に、次の位相整合条件が成立する。すなわち、励起光の波長λ3における伝搬定数β (λ3)、信号光の波長λ1における伝搬定数β (λ1)および差周波光の波長λ2における伝搬定数β (λ2)の間で、次式を非縮退パラメトリック増幅の位相整合条件を満足する。
【0051】
【0052】
図1の光増幅装置100のような構成をとることで、以下に述べるような従来技術では実現できなかった、CバンドおよびLバンド以外の新たな波長帯域における光増幅能力と、付随した優れた効果が得られる。
【0053】
図2は、第1の実施形態の光増幅装置におけるパラメトリック利得の波長依存性を示す図である。横軸に第2のPPLN導波路103-2における非縮退パラメトリック増幅を行う信号光の波長を示し、縦軸にピーク値で正規化した増幅光の強度、すなわちパラメトリック利得を示している。各曲線は、第1のPPLN導波路103-1の温度を変化させてその擬似位相整合条件を基準温度(例えば50℃)から変化させ、各温度における擬似位相整合条件に対応する異なる波長の第二高調波104を用いて非縮退パラメトリック増幅を行ったものである。すなわち、
図2のグラフの欄外の第二高調波(pump)の波長をパラメータとして、第2のPPLN導波路103-2におけるパラメトリック利得の波長依存性を示している。具体的には、第二高調波波長(pump)が775.0nmの曲線は基準温度のパラメトリック利得であって、このときの基本波励起光の波長は、2倍の1550.0nmである。同様に、第二高調波波長が774.3nmの曲線は別の温度(40℃)におけるパラメトリック利得であって、このときの基本波励起光の波長は、1548.6nmである。
【0054】
従来技術では、
図1の構成において第1のPPLN導波路103-1および第2のPPLN導波路103-2の各擬似位相整合波長を同じとし、1550nmの基本波励起光および775nmの第二高調波を用いて増幅を行っていた。この場合は
図2でpump波長775.0nm時のパラメトリック利得の曲線に示したように、1550nmを中心として幅が約60nm程度の帯域でパラメトリック増幅を行うことができる。しかしながらこの波長域は、既存のEDFAでも増幅が可能な帯域であり、他の光増幅装置によってEDFAを置き換えるメリットは小さい。
【0055】
本実施形態の光増幅装置100では、第二高調波発生のための第1のPPLN導波路103-1の温度を変化させて、擬似位相整合波長を短波長側へとシフトさせている。第1のPPLN導波路103-1に入射する励起基本波光102を、シフトした擬似位相整合波長に同調させ、第2のPPLN導波路103-2の擬似位相整合波長よりも短波長となる第二高調波104を入射する。したがって励起光104の波長λ3は擬似位相整合波長λQPMよりも短波長である。2つのPPLN導波路103-1、103-2は、第二高調波の励起光発生および非縮退パラメトリック増幅のために、異なる条件の擬似位相整合波長を有することになる。
【0056】
本実施形態の光増幅装置100は、2つのPPLN導波路がそれぞれの擬似位相整合波長で動作し、2つの異なる擬似位相整合条件を利用する。2つのPPLN導波路がそれぞれの擬似位相整合波長で動作するとき、すなわちpump波長が775.0nmよりも短い場合は、パラメトリック利得の曲線は2つに分裂する。
図2では、PPLN導波路103-1の温度を変化させることで、第二高調波を775.0nmから774.3nmに変化させると、ゲインの2つのピーク波長が次第に離れていく様子を確認できる。例えば、774.3nmの第二高調波104を用いた場合は、
図2において最も離れた2つのピークを有するパラメトリック利得の曲線に対応し、1450nm帯および1660nm帯において非縮退パラメトリック増幅が可能となる。
【0057】
図3は、2つのPPLN導波路の位相整合波長差とパラメトリック利得のピーク波長との関係を示した図である。
図3の横軸は、第1のPPLN導波路103-1の位相整合波長および第2のPPLN導波路103-2の位相整合波長をそれぞれ2倍して1.55μm帯に換算した上で、対応する光周波数の差の値をGHz単位で示したものである。上述のように第1のPPLN導波路103-1の位相整合波長を774.3nm、第2のPPLN導波路103-2の位相整合波長を775.0nmとした場合、2倍した各波長および光周波数は、1548.6nm(193.589THz)、1550nm(193.414THz)となる。したがって、対応する光周波数の差の値は約175GHzである。この状態は、
図2において最も離れた2つのピークを有するパラメトリック利得の曲線に対応し、1450nm帯および1660nm帯において非縮退パラメトリック増幅が可能となる。またこの状態は、
図3において横軸の光周波数差175GHzの時の縦軸の信号光波長の2つのプロット点(1450nmおよび1660nm)に対応している。
【0058】
1.55μm帯においては100GHzの光周波数差は、位相整合波長の波長差にして約0.8nmの違いに相当する。
図3の縦軸は、第2のPPLN導波路103-2で信号光に対して得られるパラメトリック利得のピーク波長(nm)を示している。
図3において、概ね波長1550nmを中心に、波長1600nmより上および波長1500nmより下の2つに曲線が分かれていることは、
図2のパラメトリック利得の波長依存曲線が分裂した2つのピークを持っていることに対応する。
図3によれば、2つのPPLNの擬似位相整合波長の光周波数差(波長差)を100GHz(0.8nm)から1200GHz(9.6nm)程度まで制御することで、1300nmから1900nmまでの波長範囲の光信号を非縮退パラメトリック増幅することができる。また非縮退パラメトリック増幅では、WDMの信号を一括して増幅することができるため、本実施形態の光増幅装置100はWDM伝送の中継器としても好適である。
【0059】
したがって本発明の光増幅装置は、波長λ1の信号光および波長λ3の励起光の差周波に相当する波長λ2の差周波光を発生し、波長λ1の前記信号光をパラメトリック増幅する波長変換装置(光増幅装置)100において、波長2λ3の基本波励起光を発生する光源108と、前記基本波励起光の第二高調波発生によって、波長λ3の励起光を発生する第1の擬似位相整合型波長変換素子103-1と、波長λ1の信号光および波長λ3の前記励起光が入射し、前記励起光を用いて前記信号光をパラメトリック増幅する第2の擬似位相整合型波長変換素子103-2とを備え、前記第2の擬似位相整合型波長変換素子の非線形定数の空間分布の変調周期をΛとして、擬似位相整合波長λQPMにおける伝搬定数β(λQPM)および波長2λQPMにおける伝搬定数β(2λQPM)の間で、
【0060】
【0061】
を満足し、前記励起光104の波長λ3は前記擬似位相整合波長λQPMよりも短波長であり、前記励起光の波長λ3における伝搬定数β (λ3)、前記信号光の波長λ1における伝搬定数β (λ1)および前記差周波光の波長λ2における伝搬定数β (λ2)の間で
【0062】
【0063】
を満足するものとして実施できる。
【0064】
本実施形態の光増幅装置100では、2つのPPLN導波路103-1、103-2はそれぞれ、個別の温度調節器により一定の温度となるように制御されている。2つのPPLN導波路の作製誤差のため、同一温度において2つのPPLN導波路の各位相整合波長および波長差が、所望の値とならない場合が起こり得る。そのような場合でも、2つのPPLN導波路を個々に温度制御することにより、両者の位相整合波長を所望の値に設定することができる。
【0065】
本発明の光増幅装置では、位相整合波長の異なる2つの波長変換素子を用いることで、非縮退パラメトリック増幅の帯域を拡大して、広い波長範囲において光信号を増幅することができる。第二高調波の発生には様々な波長の光源を用いることが可能であるが、第二高調波発生を効率良く行うためには、高パワーの光入力が必要となる。このため具体的にはCバンド(1530-1565nm)およびLバンド(1565-1625nm)の光源を用い、それらの光源からの基本波励起光をEDFAによって増幅し、利用するのが好ましい。このようにCバンドおよびLバンドの光源を利用する構成を採ることにより、光通信分野で既に広く実用化されている光部品を用いて、従来技術では光増幅できなかった波長帯域で安価に非縮退パラメトリック増幅を実現することができる。このようなメリットは本発明の光増幅装置100による構成によって初めて可能になる。
【0066】
本発明の光増幅装置では、位相整合波長の異なる2つの波長変換素子(PPLN導波路)を用いることで、非縮退パラメトリック増幅の帯域を拡大して、広い波長範囲において光信号を増幅することができる。したがって、
図1の2つのPPLN導波路として全く同一の構成のものを使用し、それぞれの温度を別々に制御して、位相整合波長を所望の値に設定することができる。また導波路のコアサイズなどの変更によって周期構造の反転周期を異なるものにして、2つのPPLN導波路に異なる構成のものを使用し、さらにそれぞれの温度を別々に制御して、両者の位相整合波長を所望の値に設定しても良い。
【0067】
したがって本発明の光増幅装置では、第二高調波である励起光波長を生成するための位相整合波長と、非縮退パラメトリック増幅過程に利用される位相整合波長とを異なるように設定することが重要である。具体的には、上述のようにPPLN導波路103-1における励起光104の波長λ3を、PPLN導波路103-2における擬似位相整合波長λQPMよりも短波長にすれば良い。本発明の光増幅装置は、以降に述べるように、単一の波長変換素子を使ってさらに簡略化した構成とすることができる。
【0068】
[第2の実施形態]
図4は、本発明の第2の実施形態の光増幅装置の構成を示す図である。上述の第1の実施形態の光増幅装置100では2つのPPLN導波路の位相整合波長の差を、それぞれのPPLN導波路を温度制御することにより実現していた。このような温度制御による方法は、PPLN導波路の温度を変更することによって、増幅できる波長範囲も変更できるメリットはある。一方で、予め決められた波長帯域を増幅するには、安定性に欠けるデメリットがあり得る。本実施形態の光増幅装置400は、増幅する波長帯域の安定性の面にも着目し、よりコンパクトで安定な増幅が可能となる構成を実現する。本実施形態の光増幅装置400は、第二高調波発生による励起光の発生およびパラメトリック増幅を1つの素子で行う構成となっている。
【0069】
光増幅装置400では、DFBレーザ401からの励起光に非線形光学効果を生じさせるのに十分なパワーを得るため、EDFA403を用いて、波長1536.3nmの励起基本波光402を増幅する。EDFA403により増幅された励起基本波光はアイソレータ404およびサーキュレータ405を介して、波長変換素子モジュール406に入射される。波長変換素子モジュール406には、複数の波長で擬似位相整合が得られるマルチQPM素子407が内蔵されている。波長変換素子モジュール406に入射された励起基本波光は、マルチQPM素子407中で波長768.15nmの第二高調波410に変換される。波長変換素子モジュール406は、780nm帯と1550nm帯を分波するダイクロイックミラー408が内蔵しており、第二高調波410は780nm帯用偏波保持ファイバ409より出力される。偏波保持ファイバ409の端部には金ミラー411が密着されており、第二高調波410は金ミラー411により反射されて、偏波保持ファイバ409を逆に伝搬して再び波長変換素子モジュール406に入射される。
【0070】
本実施形態の光増幅装置400では、アイソレータ413およびサーキュレータ414を介して、増幅される信号光412を波長変換素子モジュール406に励起基本波光402とは逆向きに入射した。波長変換素子モジュール406から出力される励起基本波光415は、サーキュレータ414から外部に出力される。波長変換素子モジュール406には、信号光412および第二高調波410が同じ向きに入射され、第二高調波410を励起光とした非縮退パラメトリック増幅が行われる。増幅された信号光416およびアイドラ光417が、サーキュレータ405から出力される。
【0071】
ここで、波長変換素子モジュール406に内蔵されているマルチQPM素子407の詳細について説明する。本実施形態の光増幅装置においても、第二高調波発生を行うための位相整合条件と、非縮退パラメトリック増幅を行うための位相整合条件とは異なっている。このような2つの異なる擬似位相整合条件を同時に満足するために、マルチQPM素子407のPPLN導波路の周期分極反転構造に、追加の空間的な位相変調を施している。マルチQPM素子407における基本的な分極反転周期Λ0は17μmとした。通常のPPLN導波路において第二高調波発生を行う場合は、基本波と第二高調波との間の伝搬定数差Δβを、周期構造で補償して擬似位相整合条件を満足するよう、次式のように分極反転周期Λ0を設定する。
【0072】
【0073】
ここで、λ3は第二高調波の波長、2λ3は基本波の波長、n(λ3)は第二高調波の波長における導波路の実効屈折率、n(2λ3)は基本波の波長における導波路の実効屈折率である。本実施形態のマルチQPM素子407では、式(3)で表される基本的な周期分極反転構造に、さらに、より長周期の空間的な周期的位相変調を施した。
【0074】
図5は、長周期の空間的な周期的位相変調を施したマルチQPM素子の位相変化を示した図である。ここでは、式(3)によって表されるQPM素子の周期分極反転構造に、さらに、より長周期の空間的な周期的位相変調を施した場合を説明する。
図5の横軸は、素子の長さ方向の位置を示しており、縦軸は素子の周期分極反転構造による位相変化をπで割って正規化した値を示している。長周期の位相変調を施した場合、次式に示すように、複数の擬似位相整合条件を満足することが知られている。
【0075】
【0076】
ここで、Λ
phは長周期の位相変調の周期(次元は長さ)、kは任意の整数である。
図5に示した位相変化を持つ構造では複数の擬似位相整合条件を満足することができるので、マルチQPM素子と呼ばれている。マルチQPM素子の設計においては、位相変調の深さを大きくするほど、kの値がより大きい、高次の項の位相整合ピークにおける波長変換効率も高くなる。素子長が同じ場合には、有効なピーク数が多くなるほど個々のピークにおける変換効率が小さくなる。
【0077】
図6は、本実施形態の光増幅装置のマルチQPM素子における変換効率の次数kに対する理論的な依存性を計算した結果を示す。本実施形態のマルチQPM素子では、kが0次と1次の2つのピークのみで、変換効率が大きくなるように位相変調の深さ、関数の形状を調整している。本実施形態の光増幅装置のマルチQPM素子では、位相変調の周期Λ
phは14mmとした。その結果、マルチQPM素子内で生じる2つの擬似位相整合波長のピークの間隔は、1.55μm帯において光周波数間隔に換算して、100GHzとなった。本実施形態の光増幅装置400では、このマルチQPM素子の2つの擬似位相整合波長のピークのうち短波側のピーク、すなわち、kが1次のピークを第二高調波発生用に用いた。さらに、1550nm帯において短波側のピークから光周波数換算で100GHz分だけ長波長側に得られる擬似位相整合波長のピーク、すなわち、kが0次のピークを非縮退パラメトリック増幅用に用いた。このようなマルチQPM素子への2つの擬似位相整合波長のピーク設定は、第1の実施形態の光増幅装置で、2つのPPLN導波路の温度を制御することで、PPLN導波路の各位相整合波長および波長差を、所望の値に設定することに対応している。
【0078】
マルチQPM素子の長周期の位相変調の周期(Λ
ph)を小さくすることによって、非縮退パラメトリック増幅の2つのピークの間隔をさらに広げるように設計を変更することができる。第1の実施形態で説明したように、非縮退パラメトリック増幅の利得帯域は、第二高調波発生用の位相整合波長および励起光波長を、非縮退パラメトリック増幅用の位相整合波長から離調することで決定する。例えば1550nm帯では、この離調幅、すなわち2つの異なる擬似位相整合波長の波長差(光周波数差)を、
図2および
図3に従って設定することによって、非縮退パラメトリック増幅の利得帯域が決定される。本実施形態においても、マルチQPM素子の長周期の位相変調の周期(Λ
ph)を変更することにより、様々な信号波長を増幅できるように容易に設計を変更できる。
【0079】
本実施形態のマルチQPM素子を使用する場合には、次のように2つの疑似位相整合条件を満たす。ここで一般的にマルチQPM素子410が、2つの異なる疑似位相整合波長を有しており、長いほうの非線形定数の空間分布の変調周期をΛ1、短いほうの非線形定数の空間分布の変調周期をΛ2とする。マルチQPM素子(擬似位相整合型波長変換素子)410は、励起光410の波長λ3における伝搬定数β (λ3)、信号光412の波長λ1における伝搬定数β (λ1)および差周波光の波長λ2における伝搬定数β (λ2)の間で、次の第1の擬似位相整合条件を満たす非線形定数の空間分布の変調周期Λ1を有することになる。
【0080】
【0081】
さらに、波長λ3における伝搬定数β(λ3)および波長2λ3における伝搬定数β(2λ3) 間で、次の第2の擬似位相整合条件を満たす非線形定数の空間分布の変調周期Λ2を有することになる。
【0082】
【0083】
さらに、変調周期Λ1およびΛ2の間で次式を満たすことになる。
【0084】
【0085】
マルチQPM素子の製造過程においては、まずZnを添加したLiNbO3基板に位相変調を施した周期分極反転構造を電界印加により形成し、LiTaO3基板上に接合を行う。その後に、LiNbO3部分の厚みを6μmまで研磨により薄膜化し、ドライエッチングにより幅7μmのリッジ導波路に加工している。マルチQPM素子の素子長は56mmである。
【0086】
図7は、本実施形態の光増幅装置の光増幅特性を説明する図である。再び
図4を参照すれば、励起基本波として波長1536.3nmを用い、波長1459.1nmの信号光412を入力した。励起光基本波はEDFA403で増幅され、33dBmまで増幅して、波長変換モジュール406に入射した。
図7では、光増幅装置の光増幅特性としてサーキュレータ405からの出力の光スペクトルを示している。EDFA403の利得を最小にして、パラメトリック増幅を生じないようにしたときの、信号光の出力強度は0dBmであった。EDFA403を動作させると、
図7に示すように波長1459.1nmの信号光は+10dBm程度まで増幅されている。同時に、波長1622.1nmのアイドラ光が信号光と同程度の光強度で出力され、非縮退パラメトリック増幅が生じていることが確認された。尚1536.3nmに見られる励起基本波は、原理的には光増幅装置の出力には現れないものであるが、実際には
図7に示したように波長変換モジュール406やサーキュレータ405、414内から反射する光が観測される。サーキュレータ405出力の後段にバンドパスフィルタ等を用いることにより、増幅された信号光またはアイドラ光のみを出力として取り出すことができる。
【0087】
本実施形態の光増幅装置400では、マルチQPM素子として構成された導波路内で発生した第二高調波を、偏波保持ファイバの端部の金ミラーによって反射させ、再び導波路を逆向きに伝搬させることにより非縮退パラメトリック増幅の励起光として利用できる。単一のPPLN導波路を第二高調波発生および縮退パラメトリック増幅の両方に用いるため、本実施形態の光増幅装置400ではコンパクトな構成で光増幅が可能となる。上述のように、本発明の光増幅装置における非縮退パラメトリック増幅の利得波長は、第二高調波である励起光波長を生成するための位相整合波長と、非縮退パラメトリック増幅過程に利用される位相整合波長との差で決定される。本実施形態ではマルチQPM素子を備えた1つの導波路で2つの波長変換過程を行うため、両者の位相整合波長の差は常に一定である。このため、第1の実施形態に比べてパラメトリック増幅の利得波長が安定し、安定した増幅動作を実現でき、しかも第1の実施形態に比べて格段に簡素で、コンパクトな構成となる。
【0088】
上述のように、第2の実施形態の光増幅装置では、異なる2つの擬似位相整合条件を満足する単一のマルチQPM素子によって、第1の実施形態の構成を大幅に簡略化している。しかしながら、2つの擬似位相整合条件を満足する単一のマルチQPM素子は、
図5に示した周期分極反転構造の分極反転周期を調整し、より長周期の空間的な周期的位相変調をさらに施したものだけに限られない。例えば、波長変換素子の非線形定数の空間分布の変調周期について、素子長の前半の半分を変調周期Λ
1とし、引き続く後半の半分を変調周期Λ
2とするように、Λ
1およびΛ
2の周期構造を単に並べる構成でも2つの擬似位相整合条件を満足することができる。
【0089】
したがって本発明は、波長λ1の信号光および波長λ3の励起光の差周波に相当する波長λ2の差周波光を発生し、波長λ1の前記信号光をパラメトリック増幅する波長変換装置400において、波長2λ3の基本波励起光を発生する光源401と、一方の端から前記基本波励起光が入射し、前記基本波励起光の第二高調波発生によって波長λ3の励起光を発生し、他方の端から波長λ1の信号光を入射する擬似位相整合型波長変換素子407と、前記擬似位相整合型波長変換素子を伝搬した前記励起光を反射して、再び前記擬似位相整合型波長変換素子に入射し、逆方向に伝搬させる反射手段411とを備え、前記擬似位相整合型波長変換素子410は、前記励起光410の波長λ3における伝搬定数β (λ3)、前記信号光412の波長λ1における伝搬定数β (λ1)および前記差周波光の波長λ2における伝搬定数β (λ2)の間で、第1の擬似位相整合条件
【0090】
【0091】
を満たす非線形定数の空間分布の変調周期Λ1を有し、波長λ3における伝搬定数β(λ3)および波長2λ3における伝搬定数β(2λ3) 間で、第2の擬似位相整合条件
【0092】
【0093】
を満たす非線形定数の空間分布の変調周期Λ2を有し、前記変調周期Λ1およびΛ2は
【0094】
【0095】
の関係を満たすものとして実施できる。
【0096】
上述のようにΛ
1およびΛ
2の周期構造を単に並べる構成でも2つの擬似位相整合条件を満足できるが、このように異なる周期構造のQPM素子を単に並べただけでは、波長変換効率が十分ではない。
図5および
図6で説明したような長周期の空間的な周期的位相変調を施したマルチQPM素子がより好ましい。
【0097】
したがって、
図5および
図6に示したようなマルチQPM素子を利用して、本発明は、擬似位相整合型波長変換素子が非線形媒質で構成され、周期分極反転構造を有するニオブ酸リチウムによる導波路であり、前記周期分極反転構造の非線形定数の空間分布の基本周期Λ
0および別の周期Λ
phで空間的な位相変調または周波数変調が施されており、前記励起光の波長λ
3における伝搬定数β(λ
3)と前記信号光の波長λ
1における伝搬定数β(λ
1)と前記差周波光の波長λ
2における伝搬定数β(λ
2)の間で第1の擬似位相整合条件を満足し
【0098】
【0099】
前記擬似位相整合型波長変換素子は波長λ3における伝搬定数β(λ3)と波長2λ3における伝搬定数β(2λ3)間で、第2の擬似位相整合条件
【0100】
【0101】
を満足するものとして実施できる。
【0102】
ここで、マルチQPM素子における2つの異なる長さの変調周期について、一般的な例として、長いほうの非線形定数の空間分布の変調周期Λ
1、短いほうの非線形定数の空間分布の変調周期Λ
2を持つものを、式(5)および式(6)で示した。上述の
図5で示したような追加の空間的な位相変調を施した単一のマルチQPM素子を利用した場合には、式(7)および式(8)で表され、長いほうの変調周期Λ
1は式(7)ではΛ
0に対応し、Λ
2は式(8)における1/(1/Λ
0+1/Λ
ph)に対応する。
【0103】
[第3の実施形態]
図8は、本発明の第3の実施形態の光増幅装置の構成を示す図である。上述の第2の実施形態の光増幅装置では、波長変換モジュールの外の偏波保持ファイバ端部に配置した金ミラーにより第二高調波を反射し、非縮退パラメトリック増幅の励起光として利用した。この方法では波長変換モジュールの構成が容易であるものの、第二高調波の損失が大きいデメリットがあった。第2の実施形態では、マルチQPM素子から出射された第二高調波を一旦外部の光ファイバへ結合し、再び光ファイバから導波路に結合する過程を経る。このため、第二高調波の損失は光ファイバと導波路間の結合損失の2倍となる。本実施形態では、この励起光の損失に着目し、第二高調波の損失がより少なく、波長変換効率の高い構成を実現するものである。
【0104】
図8の光増幅装置800では、第二高調波発生による励起光の発生および非縮退パラメトリック増幅を1つのマルチQPM素子で行い、QPM素子外部ではなく、マルチQPM素子端面に設けられた誘電体多層膜ミラーによって第二高調波を反射する。本実施形態の光増幅装置800では、DFBレーザ801からの励起光に非線形光学効果を生じさせるのに十分なパワーを得るために、EDFA803を用いて、波長1550nmの励起基本波光802を増幅する。EDFA803により増幅された励起基本波光はアイソレータ804、 サーキュレータ805を介して、波長変換素子モジュール806に入射される。波長変換素子モジュール806には、複数の波長において擬似位相整合が得られるマルチQPM素子807が内蔵されている。波長変換素子モジュール806に入射された励起基本波光は、マルチQPM素子807中で波長775nmの第二高調波810に変換される。マルチQPM素子807の端面に設けられた誘電体多層膜ミラー811によって第二高調波810は反射され、マルチQPM素子中を入射方向とは逆向きに伝搬する。波長変換素子モジュール806には780nm帯および1550nm帯を分波するダイクロイックミラー808が内蔵されている。非縮退パラメトリック増幅を行った第二高調波810は、ダイクロイックミラー808によって780nm帯用偏波保持ファイバ809より外部へ出力される。
【0105】
光増幅装置800では、増幅される信号光812は、アイソレータ813およびサーキュレータ814を介して、励起基本波光802とは逆向きに波長変換素子モジュール806へ入射した。波長変換素子モジュール806から出力される励起基本波光815は、サーキュレータ814から外部に出力される。波長変換素子モジュール806において、信号光812は反射された第二高調波810と同じ向きに入射され、第二高調波810を励起光とした非縮退パラメトリック増幅が生じる。増幅された信号光816およびアイドラ光817が、サーキュレータ805から出力される。
【0106】
本実施形態の光増幅装置800では、2つの異なる位相整合ピークが得られるマルチQPM素子を用い、1550nmにおいて得られる短波長側のピークを第二高調波発生に用いた(第1の疑似位相整合条件)。さらに、短波長側のピークから光周波数換算で100GHz分だけ長波長側に相当する1550.8nmに得られる位相整合ピークを、非縮退パラメトリック増幅に用いた(第2の疑似位相整合条件)。この結果、1474nmおよび1632nmを中心とする波長の信号光を増幅し、アイドラ光を得ることができる。
図5および
図6とともに説明したように、マルチQPM素子の周期分極反転構造の設計を変更することにより、他の波長帯域の非縮退パラメトリック増幅に適用できるのは言うまでもない。
【0107】
本実施形態の光増幅装置では、マルチQPM素子を備えた導波路内で発生した第二高調波をマルチQPM素子の導波路端面に形成した誘電体多層膜ミラー811を利用して、導波路中を逆方向に伝搬する第二高調波を得ている。第二高調波を外部のファイバ等に結合させることなく導波路中に反射させて、第二高調波を非縮退パラメトリック増幅の励起光として利用できる。このため励起光の損失を最小限にすることが可能である。さらに同一の導波路を第二高調波発生および縮退パラメトリック増幅に用いるため、コンパクトな構成で光増幅が可能となる。波長変換素子の外部のファイバ端面に反射用のミラーを備えた第2の実施形態と比較しても、第二高調波の反射手段(誘電体多層膜ミラー)を、マルチQPM素子に一体に作製できるので、低コストに光増幅装置を実現できる。
【0108】
上述のように、本発明の光増幅装置における非縮退パラメトリック増幅の利得波長は、第二高調波である励起光波長を生成するための位相整合波長と、非縮退パラメトリック増幅過程に利用される位相整合波長との差で決定される。本実施形態でもマルチQPM素子を備えた1つの導波路で2つの波長変換過程を行うため、両者の位相整合波長の差は常に一定である。このため、パラメトリック増幅の利得波長が安定しており、安定した増幅動作を実現できる。
【0109】
本発明の光増幅装置では、従来技術では実現困難であった、CバンドおよびLバンド以外の波長帯域における光増幅が可能となる。このため、従来よりも多くの波長チャネル数を用いたWDM伝送および中継を行うことが可能になり、その結果より大容量の光通信システムを構築することに貢献するものである。
【産業上の利用可能性】
【0110】
本発明は、一般的に光通信システムに利用することができる。
【符号の説明】
【0111】
100、400、800 光増幅装置
101、404、803 EDFA
102、402、802 基本波励起光
103-1、103-2 PPLN導波路
104、410、810 励起光(第二高調波)
105、412、812 信号光
106、416、816 増幅された信号光
107、417、817 アイドラ光
108、401、801 DBFレーザ
404、413、804、813 アイソレータ
406、806 波長変換素子モジュール
405、414、805、814 サーキュレータ
407、807 マルチQPM素子
408、808 ダイクロイックミラー
409、809 偏波保持ファイバ
411 ミラー
811 誘電体多層膜ミラー