(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-05
(45)【発行日】2022-10-14
(54)【発明の名称】電気特性測定装置及び電気特性測定方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/66 20060101AFI20221006BHJP
G01N 27/04 20060101ALI20221006BHJP
G01N 27/00 20060101ALI20221006BHJP
【FI】
H01L21/66 Q
H01L21/66 L
G01N27/04 Z
G01N27/00 Z
(21)【出願番号】P 2019056966
(22)【出願日】2019-03-25
【審査請求日】2021-10-08
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度国立研究開発法人科学技術振興機構、研究成果展開事業「パルス光伝導法による半導体シリコンの超高感度不純物分析手法の開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願。
(73)【特許権者】
【識別番号】312007423
【氏名又は名称】グローバルウェーハズ・ジャパン株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504159235
【氏名又は名称】国立大学法人 熊本大学
(74)【代理人】
【識別番号】100101878
【氏名又は名称】木下 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100187506
【氏名又は名称】澤田 優子
(72)【発明者】
【氏名】宮下 守也
(72)【発明者】
【氏名】前田 貴弘
(72)【発明者】
【氏名】久保田 弘
(72)【発明者】
【氏名】橋新 剛
(72)【発明者】
【氏名】小林 一博
(72)【発明者】
【氏名】葛川 翔太郎
(72)【発明者】
【氏名】松山 浩輝
(72)【発明者】
【氏名】阿部 成海
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 祐希
(72)【発明者】
【氏名】古田 正昭
【審査官】堀江 義隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-199775(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0066323(US,A1)
【文献】Masaaki Furuta et al,Noncontact evaluation for interface states by photocarrier counting,Japanese Journal of Applied Physics,57,日本,2018年
【文献】Yuya Nishi et al,Nondestructive Measurement of Nonlinear Conduction of Nanoscale Materials, Nanoscale SiO2, and K0.3MoO3 by Pulse Photoconductive Method,Japanese Journal of Applied Physics,50,日本,2011年
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/66
G01N 27/04
G01N 27/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電体膜が形成された半導体ウェーハの試料から生じる光伝導信号をパルス光伝導法により測定する電気特性測定装置であって、
前記試料の誘電体膜に対し所定のギャップを空けて配置された電極と、前記電極から前記試料に対し矩形波状のパルス電圧を印加するパルス電圧印加手段と、前記電極の位置から前記試料に対し紫外線のパルス光を照射するパルス光照射手段と、前記試料を挟んで前記電極とは反対側において、前記試料を保持する為の金属製の試料ステージに接続された測定回路のケーブルと、前記印加された電圧により前記試料を充電するため、前記測定回路のケーブル寄生容量と並列に設けられた充電用抵抗と、前記充電用抵抗のオンオフを切り替える充電リレーと、前記測定回路において前記試料ステージが一端に接続された前記ケーブルの他端側に接続された測定用抵抗と、前記パルス光照射手段の動作と前記充電リレーの動作とを制御する制御部とを備え、
前記制御部は、前記試料が充電された後、前記パルス光照射手段により前記試料に紫外線のパルス光を照射させるとともに、該照射のタイミングに基づいて前記充電リレーにより前記充電用抵抗をオフにして前記測定用抵抗のみに切り替えることを特徴とする電気特性測定装置。
【請求項2】
前記請求項1に記載された電気特性測定装置を用いて、パルス光伝導法により試料から生じる光伝導信号を測定する電気特性測定方法であって、
前記パルス電圧印加手段により前記試料の誘電体膜側に矩形波状のパルス電圧を印加する工程と、
前記印加された電圧により前記試料が充電された後、前記パルス光照射手段により前記
試料に紫外線のパルス光を照射させるとともに、該照射のタイミングに基づいて前記充電リレーにより前記充電用抵抗をオフにして前記測定用抵抗のみに切り替える工程と、
前記試料から生じる光伝導信号を前記測定用抵抗で測定する工程と、を備えることを特徴とする電気特性測定方法。
【請求項3】
前記パルス電圧印加手段により前記試料の誘電体膜側に矩形波状のパルス電圧を印加する工程から、
前記試料から生じる光伝導信号を前記測定用抵抗で測定する工程まで、を1測定サイクルとして、所定回数の測定サイクルを繰り返し、
前記印加された電圧により前記試料が充電された後、前記パルス光照射手段により前記
試料に紫外線のパルス光を照射開始させるタイミングを、各測定サイクルにおいてずらすことを特徴とする請求項2に記載された電気特性測定方法。
【請求項4】
前記印加された電圧により前記試料が充電された後、前記パルス光照射手段により前記
試料に紫外線のパルス光を照射させるとともに、該照射のタイミングに基づいて前記充電リレーにより前記充電用抵抗をオフにして前記測定用抵抗のみに切り替える工程において、
前記パルス光の照射のタイミングに対し、所定時間早いタイミングで前記充電リレーをオフに切り替える制御を行うことを特徴とする請求項2または請求項3に記載された電気特性測定方法。
【請求項5】
前記パルス電圧印加手段により前記試料の誘電体膜側に矩形波状のパルス電圧を印加する工程の前に、
予め測定した印加電圧と光信号電圧の関係に基づき、任意の印加電圧の閾値を境に変曲点を検出し、その変曲点以上の印加電圧を強反転状態として印加電圧を設定することを特徴とする請求項2乃至請求項4のいずれかに記載された電気特性測定方法。
【請求項6】
前記試料から生じる光伝導信号を前記測定用抵抗で測定する工程の後、
測定した光伝導信号に基づき、試料に形成された誘電体膜の電気伝導率、或いは、誘電体膜と半導体からなる界面の界面準位密度を求める工程を備えることを特徴とする請求項2乃至請求項5のいずれかに記載された電気特性測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気特性測定装置及び電気特性測定方法に関し、例えば、MIS構造のメモリ、ロジック、イメージセンサを構成する半導体ウェーハにおいて誘電体膜の絶縁特性等を非破壊、非接触に測定する電気特性測定装置及び電気特性測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイス、特にMIS(Metal InsulatorSemiconductor)構造を有するメモリ、ロジック、イメージセンサなどにおいて、誘電体膜(絶縁膜)の絶縁特性は、トランジスタ・キャパシタ・フォトダイオードの動作性能、品質に大きな影響を及ぼすことが知られている。
【0003】
従来の誘電体膜の絶縁特性測定法としては、例えば特許文献1、2、3、及び非特許文献1に示されたものが公知である。
【0004】
特許文献1(特許第4844101号)には、半導体基板上に形成された誘電体膜と電極からなる複数のMIS型半導体素子の評価方法が開示されている。
特許文献1に開示される評価方法では、同一基板上の複数の半導体素子における絶縁膜の絶縁破壊の検出を、半導体基板表面を複数の半導体素子を含む複数の測定領域に分け、この複数の測定領域においてそれぞれ行う。複数の測定領域において順次絶縁破壊の検出を行うにあたり、各測定領域において、測定領域内に流れる電流値が常時同一値となるように電流が印加される。
【0005】
即ち、複数の素子に同時に電流ストレス印加をする際に、評価中に絶縁破壊が発生した素子に対しても、電流を印加し続ける。また、測定領域内に含まれる素子数が異なる場合でも、領域内に流れる電流値が同一となるよう電流を印加する。
【0006】
絶縁破壊を起こした素子への電流ストレス印加を絶縁破壊発生直後に逐次止めると、それによって測定系全体に流れる電流値が絶縁破壊前後で変化することになる。
このように特許文献1に開示された評価方法では、測定領域単位での絶縁破壊の検出を行うことで、1素子ずつ測定する場合よりも迅速に評価を行うものである。
【0007】
また、特許文献2(特許第4040446号)には、半導体基板上に形成された誘電体膜と電極、ソース、ドレイン領域からなるMIS型半導体装置のゲートリーク電流の評価方法が開示されている。
【0008】
特許文献2に開示される評価方法は、(a)MIS型半導体装置の閾値電圧の初期値を測定する工程と、(b)ゲートリーク電流の初期値を測定する工程と、(c)基板とゲート電極との間に試験電圧を印加した状態である時間経過させる工程と、(d)基板とゲート電極との間に測定電圧を印加してゲートリーク電流を測定する工程と、(e)MIS型半導体装置の閾値電圧を測定しその初期値からの変動量を求める工程と、(f)閾値電圧の変動量に基づいてゲートリーク電流の補正値を求める工程とからなるものである。
【0009】
このような評価方法によれば、閾値電圧の変動量に基づいて補正されたゲートリーク電流の補正値を求めるため、閾値電圧の変動量による影響を排除して、ゲートリーク電流の変動を観測することが可能となる。
【0010】
また、特許文献3(特開2003-92319)には、MIS型キャパシタの電気特性量を評価する方法が開示されている。
この特許文献3に開示される評価方法は、理想的なMISキャパシタについて測定されたC-V特性に基づき、基板表面容量Csと基板表面電位φsとについてフラットバンド状態より蓄積状態側において、シリコン酸化膜換算電界Eox依存性を考慮した量子補正項を導入した表現式を用いて、理想C-V特性を作成する。
【0011】
そして、評価すべきMISキャパシタのC-V特性を測定し、前記理想C-V特性と前記評価すべきMISキャパシタについて測定されたC-V特性とを比較して、そのC-V特性の相違から評価すべきMISキャパシタのゲート誘電体膜及びその界面の電気的特性を高精度且つ短時間に評価する方法である。
【0012】
また、非特許文献1には、半導体基板上に形成された誘電体膜の電気伝導率を非破壊で評価する方法が開示される。
具体的には、パルス光伝導法(pulse photoconductivitymethod :PPCM)を用いた評価方法が提案される。
【0013】
非特許文献1で述べられているパルス光伝導法の原理をシリコンウェーハ表面に形成された酸化膜(SiO
2)の電気伝導率測定を例にとって説明する。
パルス光伝導法を用いた測定装置の等価回路を
図8に示し、測定シーケンスのタイミング図を
図9に示す。
【0014】
図8に等価回路を示す測定装置では、シリコンウェーハの試料(酸化膜抵抗R
oxと酸化膜容量C
ox)12の上面(酸化膜側)に対し所定のギャップ(容量C
gap)を空けて電極(図示せず)が設置され、この電極からパルス電圧印加部11より試料12に対し矩形波状のパルス電圧が印加される。
尚、前記電極内には、光ファイバが通され、前記パルス電圧の印加と同時に、試料12に対し紫外線(UV)のパルス光を照射できるように構成されている。
【0015】
一方、試料12の下面(シリコン)側には試料を保持する為の金属製の試料ステージ(図示せず)と、それに接続された、試料中のフォトキャリアの移動に伴う過渡的な信号応答を拾うための同軸ケーブル(寄生容量Cf)13とが設けられている。同軸ケーブルの他端の測定部15はプリアンプ(内部抵抗Rin)14を介してオシロスコープ(図示せず)に接続されている。
【0016】
また、前記寄生容量Cfと並列に充電抵抗(充電用抵抗)Rcが接続され、それにより試料12を充電可能となされている。
また、測定部15には、負荷抵抗(測定用抵抗)RLが接続されている。測定時においては、前記充電抵抗Rcを測定回路から除くと同時に負荷抵抗RLに切り替えることで、試料12の内部電界を緩和し、測定可能な状態を作るように構成されている。
【0017】
このような回路においては
図9のシーケンスに示すように、パルス電圧印加部11が試料12に矩形波パルスの電圧を印加して試料12を充電後、充電抵抗R
cから負荷抵抗R
Lに切り替えると、試料12中の内部電界は、経時的に減少していく。
その過程において試料12の酸化膜(誘電体膜)上から、パルス状の紫外光を照射する。このパルス光はトリガ入力となり、酸化膜の下にあるシリコン中で電子を光励起させ、励起させた光電子が電界に従って酸化膜からリーク電流を流す。このリーク電流が光信号として測定部15(オシロスコープ)において観測される。
尚、パルス光(トリガ入力)を照射するタイミングt
dに対する光信号ΔV(t
d)は、式1で与えられる。
【0018】
【0019】
ここで、Cgap:試料と電極間の容量、Cinsul:試料の容量、ΔV(td):光信号、Qphoto(td):光励起キャリア、ΔQ(td):電圧信号、Cf:測定回路の浮遊容量、l:試料の厚さ、τ:試料の時定数である。
【0020】
このようにして、パルス光を照射するタイミングtd(電圧を印加してからパルス光を照射するまでの時間)を変えて複数回測定し、時定数(電圧と時間との関係)を算出する。誘電体膜(SiO2)の誘電率が固有値であるとすると、時定数が分かることで誘電体膜の電気伝導率を算出することができる。
誘電体膜の誘電率εinsulと電気伝導率σinsulと光伝導信号ΔV(td)との関係は、下記式2で表すことができる。
【0021】
【0022】
(logΔV(td))/Δtは、光伝導信号強度の時間依存性(時間に対する信号強度の傾き)であり、それを計測することで、電気伝導率σinsulを求めることができる。
【0023】
また、前記したようなパルス光伝導法を用いた評価方法としては、特許文献4(特開2017-199775号)に開示されている。
特許文献4に開示された方法は、パルス光伝導法により、半導体ウェーハに形成された酸化膜の電気伝導率を計測し、その結果から酸化膜中の金属不純物濃度を推定するものである。
【0024】
また、非特許文献2においては、パルス光伝導法により、非破壊で、光照射による光励起キャリア数を数えることで界面準位密度を求める方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0025】
【文献】特許第4844101号
【文献】特許第4040446号
【文献】特開2003-92319号公報
【文献】特開2017-199775号公報
【非特許文献】
【0026】
【文献】Y. Nishi,T. Hirano,Y. Soh,H. Kubota,K. Kobayashi, A. Yoshino and K.Kanayama :Japanese Journal of Applied Physics,Vol. 50,(2011) 116602
【文献】Masaaki Furuta, Kojiro Shimizu, Takahiro Maeta, Moriya Miyashita,Koji Izunome, and Hiroshi Kubota: Japanese Journal of Applied Physics, Vol.57,(2018) 031301
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0027】
特許文献1、2、3の方法は、いずれも半導体基板に誘電体膜、電極からなるMIS構造を形成する必要があり、評価サンプルを準備するのに時間を要し、破壊検査するものである。即ちシリコンウェーハを酸化、多結晶シリコン堆積、パターンニング、エッチング、という長い工程が必要で、サンプル形成に一週間以上の時間が必要される。
しかしながら、半導体デバイスの製造現場では、プロセスで形成した誘電体膜の絶縁特性を迅速に評価して、プロセス装置の状態などに迅速にフィードバックすることが求められており、このように長い時間がかかっていては、実用に適さないという課題があった。
【0028】
また、特許文献4、非特許文献1、2に示されたパルス光伝導法は、非破壊で誘電体膜の電気伝導率が測定できるという利点があるが、測定条件の設定、回路の切換えなどで1点あたり1時間程度の時間を要し、測定時間の短縮が求められていた。
【0029】
本願発明者は、上記したような従来技術のうち、特にパルス光伝導法を用いることにより誘電体膜の電気伝導率を非破壊に且つ高精度に評価できることに着目し、その技術をベースに、測定時間をより短縮することを課題に鋭意研究を重ねてきた。
【0030】
本発明は、前記したような事情の下になされたものであり、誘電体膜が形成された半導体ウェーハの電気特性測定において、パルス光伝導法を用い、測定効率を向上することのできる電気特性測定装置及び電気特性測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0031】
前記課題を解決するためになされた、本発明に係る電気特性測定装置は、誘電体膜が形成された半導体ウェーハの試料から生じる光伝導信号をパルス光伝導法により測定する電気特性測定装置であって、前記試料の誘電体膜に対し所定のギャップを空けて配置された電極と、前記電極から前記試料に対し矩形波状のパルス電圧を印加するパルス電圧印加手段と、前記電極の位置から前記試料に対し紫外線のパルス光を照射するパルス光照射手段と、前記試料を挟んで前記電極とは反対側において、前記試料を保持する為の金属製の試料ステージに接続された測定回路のケーブルと、前記印加された電圧により前記試料を充電するため、前記測定回路のケーブル寄生容量と並列に設けられた充電用抵抗と、前記充電用抵抗のオンオフを切り替える充電リレーと、前記測定回路において前記試料ステージが一端に接続された前記ケーブルの他端側に接続された測定用抵抗と、前記パルス光照射手段の動作と前記充電リレーの動作とを制御する制御部とを備え、前記制御部は、前記試料が充電された後、前記パルス光照射手段により前記試料に紫外線のパルス光を照射させるとともに、該照射のタイミングに基づいて前記充電リレーにより前記充電用抵抗をオフにして前記測定用抵抗のみに切り替えることに特徴を有する。
【0032】
このような構成によれば、パルス光伝導法を用いた電気特性測定において、試料への充電と電界緩和の切り替えを、光トリガ入力のタイミングに合わせたリレー制御により自動的に行うようにしたため、光トリガ入力の遅延時間の異なる場合の複数の光信号観測を短時間且つ容易に行うことができる。そのため、半導体ウェーハの電気特性の測定時間を従来よりも大幅に短縮することができる。
【0033】
また、前記課題を解決するためになされた、本発明に係る電気特性測定方法は、前記電気特性測定装置を用いて、パルス光伝導法により試料から生じる光伝導信号を測定する電気特性測定方法であって、前記パルス電圧印加手段により前記試料の誘電体膜側に矩形波状のパルス電圧を印加する工程と、前記印加された電圧により前記試料が充電された後、前記パルス光照射手段により前記試料に紫外線のパルス光を照射させるとともに、該照射のタイミングに基づいて前記充電リレーにより前記充電用抵抗をオフにして前記測定用抵抗のみに切り替える工程と、前記試料から生じる光伝導信号を前記測定用抵抗で測定する工程と、を備えることに特徴を有する。
【0034】
尚、前記パルス電圧印加手段により前記試料の誘電体膜側に矩形波状のパルス電圧を印加する工程から、前記試料から生じる光伝導信号を前記測定用抵抗で測定する工程まで、を1測定サイクルとして、所定回数の測定サイクルを繰り返し、前記印加された電圧により前記試料が充電された後、前記パルス光照射手段により前記試料に紫外線のパルス光を照射開始させるタイミングを、各測定サイクルにおいてずらすことが望ましい。
【0035】
また、前記印加された電圧により前記試料が充電された後、前記パルス光照射手段により前記試料に紫外線のパルス光を照射させるとともに、該照射のタイミングに基づいて前記充電リレーにより前記充電用抵抗をオフにして前記測定用抵抗のみに切り替える工程において、前記パルス光の照射のタイミングに対し、所定時間早いタイミングで前記充電リレーをオフに切り替える制御を行うことが望ましい。
【0036】
また、前記パルス電圧印加手段により前記試料の誘電体膜側に矩形波状のパルス電圧を印加する工程の前に、予め測定した印加電圧と光信号電圧の関係に基づき、任意の印加電圧の閾値を境に変曲点を検出し、その変曲点以上の印加電圧を強反転状態として印加電圧を設定することが望ましい。
【0037】
また、前記試料から生じる光伝導信号を前記測定用抵抗で測定する工程の後、測定した光伝導信号に基づき、試料に形成された誘電体膜の電気伝導率、或いは、誘電体膜と半導体からなる界面の界面準位密度を求める工程を備えることが望ましい。
【0038】
このような方法によれば、パルス光伝導法を用いた電気特性測定において、試料への充電と電界緩和の切り替えを、光トリガ入力のタイミングに合わせたリレー制御により自動的に行うようにしたため、光トリガ入力の遅延時間の異なる場合の複数の光信号観測を短時間且つ容易に行うことができる。そのため、半導体ウェーハの電気特性の測定時間を従来よりも大幅に短縮することができる。
【発明の効果】
【0039】
本発明によれば、誘電体膜が形成された半導体ウェーハの電気特性測定において、パルス光伝導法を用い、測定効率を向上することのできる電気特性測定装置及び電気特性測定方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【
図1】
図1は、本発明に係る電気特性測定装置の構成を模式的に示すブロック図である。
【
図3】
図3は、電気特性測定装置1の動作シーケンスを示すタイミング図である。
【
図4】
図4は、電気特性測定装置1におけるリレー制御アルゴリズムのフローである。
【
図5】
図5は、印加電圧と光信号のピーク電圧の関係をプロットしたグラフである。
【
図6】
図6(a)、(b)は、実施例1におけるリレー制御動作を実機確認した結果を示すタイミング図である。
【
図7】
図7は、実施例2における印加電圧に対する光信号強度を示すグラフである。
【
図8】
図8は、従来の電気特性測定装置の等価回路である。
【
図9】
図9は、
図8の電気特性測定装置の動作シーケンスを示すタイミング図である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
以下、本発明に係る実施の形態について図面を用いて説明する。
図1は、本発明に係る電気特性測定装置の構成を模式的に示すブロック図である。
図2は、
図1の電気特性測定装置の等価回路である。
尚、
図1、
図2において、
図8で示した回路と同じ構成部材については同じ符号で示す。
【0042】
図1の電気特性測定装置1は、シリコンウェーハ(半導体ウェーハ)12a上に酸化膜(誘電体膜)12bが形成された試料12に対し、例えば酸化膜(誘電体膜)12bの電気伝導率、或いは酸化膜(誘電体膜)12bとシリコンウェーハ12aとの界面順位密度を測定するために用いられる。
【0043】
この電気特性測定装置1は、前記試料12の上面(酸化膜側)に対し所定のギャップ(容量Cgap)を空けて設置する電極2と、この電極2から試料12に対し矩形波状のパルス電圧を印加するためのパルス電圧印加部11(パルス電圧印加手段)とを備える。
【0044】
また、前記電極2は円筒状に形成され、その内部に光ファイバ3が通されている。電気特性測定装置1は、前記光ファイバ3にパルス状の紫外線(UV)光を供給する紫外線パルス発光部4(パルス光照射手段)を備える。
【0045】
また、試料12の下面(シリコンウェーハ側)には、前記試料を保持する為の金属製の試料ステージ(図示せず)と、それに接続された、試料中のフォトキャリアの移動に伴う過渡的な信号応答を拾うための同軸ケーブル(寄生容量Cf)13とが設けられている。
また、同軸ケーブル13の他端側に測定部15を有し、測定部15の信号はプリアンプ(内部抵抗Rin)14により増幅されている。また、測定部15はオシロスコープ7に接続され、測定波形を確認できるように構成されている。
【0046】
また、電気特性測定装置1は、
図2の等価回路に示すように、前記寄生容量C
fと並列に接続された充電抵抗(充電用抵抗)R
cと、この充電抵抗R
cをオンオフするための充電リレー16とを備えている。充電抵抗R
cがオンになると試料12を充電可能となる。
また、測定部15には、負荷抵抗(測定用抵抗)R
Lが接続されている。測定時においては、前記充電リレー16の切替操作により、前記充電抵抗R
cを測定回路から除くと同時に負荷抵抗R
Lに切り替えることで、試料12の内部電界を緩和し、測定可能な状態を作ることができる。
【0047】
また、
図1に示すように電気特性測定装置1は、前記充電リレー16のスイッチング制御を行うコンピュータからなる制御部20を備える。
前記制御部20は、例えば演算部20aと、充電リレー16の動作を制御するコンピュータプログラムを記録した記憶部20bとを有する。即ち、記憶部20bに記憶されたコンピュータプログラムを演算部20aに実行させることにより充電リレー16のスイッチング動作を制御する。
【0048】
続いて、
図3を用いて、電気特性測定装置1の動作について説明する。
図3は、電気特性測定装置1の動作シーケンスを示すタイミング図である。
電気特性測定装置1における基本的な測定シーケンスは、
図3に示すように、試料12に対し電圧印加して試料12を充電し、充電リレー16をオフにして試料12の電界を緩和する。
【0049】
また、電圧印加開始タイミング(t
0)から予め設定している遅延時間t
dのタイミングで紫外線光(光トリガ入力)をパルス照射する。
ここで、試料12からのリーク電流(光信号)を測定するには、試料12の電界を緩和するタイミングと、紫外線光のパルス照射(光トリガ入力)のタイミングを同時に行う必要がある。
制御部20は、前記充電リレー16のスイッチング制御を行う際、光トリガ入力のタイミングt
dに基づいて、
図3のリレー制御を破線で示すように、リレーの動作時間を考慮した遅延時間t
rで制御する。
【0050】
測定の流れは
図4のフローに従う。
図4は、電気特性測定装置1におけるリレー制御アルゴリズムのフローである。
先ず、
図4のフローに示すように、例えばf=1Hzで測定周期を設定する(ステップS1)。
次いで、光トリガ入力(紫外線光パルス入力)の遅延時間t
dの範囲(t
d1~t
dn)と、間隔を設定する(ステップS2)。
【0051】
また、充電リレー16の動作時間を考慮して、遅延時間tdの前に動作させる充電リレー16の遅延時間trを設定する(ステップS3)。例えば、tr1=td1-1.0deg、tr2=td2-1.0deg、・・・trn=tdn-1.0degとする。
【0052】
また、充電リレー16をオフにしている時間を矩形波のパルス幅で調整するため、デューティー比(例えば99.5%)として設定する(ステップS4)。
次いで、制御部20の制御により電極間に与えるパルス電圧、光を照射するトリガ入力、リレー制御信号を出力し(ステップS5)、光伝導信号を観測する(ステップS6)。
また、光トリガ入力の遅延タイミングtd1~tdnまで、ステップS5、S6の工程(1測定サイクル)を所定回数(n回)繰り返し行う(ステップS7)。
【0053】
このように充電リレー16を設け、これを開閉することにより、短絡時に充電時間を短縮し、開放時に光信号を増幅させる作用効果が生じる。これにより、意図した通り確実にリレーの開閉タイミング制御が可能となると共に測定効率と測定精度を向上させることができる。
【0054】
尚、MIS構造の半導体素子にあっては、電極に印加する電圧の大きさに応じて、SiO2とSi界面とは、蓄積状態、空乏状態、反転状態と変化する。パルス光伝導法における電圧は、空乏状態・反転状態となる方向に印加する必要がある(p型半導体ならば電極側が正、n型半導体ならば電極側が負)。
【0055】
即ち、印加した電圧は、電極-SiO2間の空気、SiO2、Siの空乏層の拡がりに消費される。空乏状態では、印加電圧によって空乏層幅が変化することから、評価対象である酸化膜にかかる電界(酸化膜内電界強度)が変化してしまい、印加電圧の僅かな変動が信号電圧の大きな変動となり、測定誤差が大きくなる。
【0056】
強反転状態であれば、印加電圧が変動しても空乏層は変化しない為、酸化膜内電界強度は印加電圧に応じて線形に変化する。そのため、強反転状態では、空乏状態に比べて、測定誤差が小さくなる。従って、印加電圧がSiO2とSi界面が反転状態となるような条件設定が、正確なパルス光伝導法の測定には必須である。
【0057】
本実施の形態においては、測定前に
図5にグラフで示すように、印加電圧と光信号のピーク電圧の関係をプロットする。このグラフにおいては、任意の印加電圧の閾値を境に変曲点が存在し、その変曲点以上の印加電圧において強反転状態となることを見出すことができる。即ち、この強反転状態に相当する印加電圧とすることにより、正確なパルス光伝導法を実施することができる。
【0058】
以上のように本発明に係る実施の形態によれば、パルス光伝導法を用いた電気特性測定において、試料への充電と電界緩和の切り替えを、光トリガ入力のタイミングに合わせたリレー制御により自動的に行うようにしたため、光トリガ入力の遅延時間tdの異なる場合の複数の光信号観測を短時間且つ容易に行うことができる。そのため、半導体ウェーハの電気特性の測定時間を従来よりも大幅に短縮することができる。
【実施例】
【0059】
本発明に係る電気特性測定装置及び電気特性測定方法について、実施例に基づきさらに説明する。本実施例では、前記実施の形態に基づき以下の実験を行った。
【0060】
(実施例1)
実施例1では、実機確認により充電リレー制御機能を検証した。
図6(a)は、測定周波数1.0Hz、遅延時間(t
d)13.9msとした場合のリレー制御動作を実機確認した結果を示すタイミング図である。このタイミング図は、充電リレーの制御信号、印加電圧信号(電界印加)、測定信号、光トリガ入力信号をそれぞれ示す。
また、
図6(b)は、
図6(a)の条件に対し、光トリガ信号の入力遅延時間(t
d)を、27.7msとした場合の結果である。
【0061】
図6(a)、(b)に示すようにトリガ入力のタイミングに合わせてリレー開閉動作していることを確認することができた。
即ち、本発明に係る電気特性測定方法により、測定効率及び測定精度を向上することができると確認した。
【0062】
(実施例2)
実施例2では、強反転状態の確認シーケンスについて検証した。
試料としてN型シリコンの上に厚さ8nmの酸化膜を形成した試料を用いて強反転状態を確認するシーケンスを以下の手順で実施した。
【0063】
(1)光信号強度が得られる任意のギャップ幅で、印加電圧を0.2Vから変曲点(印加電圧の閾値)まで0.2V刻みで大きくしていき、それぞれの場合の光信号のピーク値を取得する。
(2)横軸印加電圧、縦軸光信号強度の電圧値のグラフを作成する。
(3)前記グラフ上で、線形の傾きが大きくなる点(変曲点)を確認する。
【0064】
このシーケンスを本測定の前に行い、強反転状態を確認した。その結果を
図7に示す。電圧を大きくしていくと6.8V付近から、印加電圧に対する光信号強度のグラフに変曲点が見られ、6.8V以上ではでは印加電圧依存性が大きくなっていることがわかる。よって、この場合であれば6.8Vで強反転状態になったといえる。このシーケンスを用いることで、3分程度で強反転状態を確認できた。
【0065】
本実施例の結果、光パルス伝導法を用いた測定回路に充電リレー機能を追加し、さらに強反転確認シーケンスを導入することにより、測定時間を大幅に短縮できることを確認した。
【符号の説明】
【0066】
1 電気特性測定装置
2 電極
3 光ファイバ
4 紫外線パルス発光部(パルス光照射手段)
7 オシロスコープ
11 パルス電圧印加部(パルス電圧印加手段)
12 試料
13 同軸ケーブル
14 プリアンプ
15 測定点
16 充電リレー
20 制御部