(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-05
(45)【発行日】2022-10-14
(54)【発明の名称】慢性腎臓病進行抑制剤
(51)【国際特許分類】
A61K 35/744 20150101AFI20221006BHJP
A61K 35/74 20150101ALI20221006BHJP
A61P 13/12 20060101ALI20221006BHJP
A23L 33/135 20160101ALI20221006BHJP
C12N 1/20 20060101ALN20221006BHJP
【FI】
A61K35/744
A61K35/74 A
A61P13/12
A23L33/135
C12N1/20 E
(21)【出願番号】P 2019234189
(22)【出願日】2019-12-25
【審査請求日】2020-10-13
【微生物の受託番号】IPOD FERM BP-10902
(73)【特許権者】
【識別番号】509349141
【氏名又は名称】京都府公立大学法人
(73)【特許権者】
【識別番号】519135633
【氏名又は名称】公立大学法人大阪
(73)【特許権者】
【識別番号】591246849
【氏名又は名称】ニチニチ製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】南山 幸子
(72)【発明者】
【氏名】竹村 茂一
(72)【発明者】
【氏名】嶋田 貴志
【審査官】池上 文緒
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-001961(JP,A)
【文献】特表2019-535828(JP,A)
【文献】特表2008-501728(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2019-0041864(KR,A)
【文献】特開2014-133731(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0358273(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0157183(US,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2018-0125895(KR,A)
【文献】Front. Physiol. (2018) vol.9, Article 105, p.1-11
【文献】実験医学 (2018) vol.36, no.5(増刊), p.189-194
【文献】J. Toxicol. Sci. (2006) vol.31, Suppl., p.S131(P-041)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 35/744
A61K 35/74
A61P 13/12
A23L 33/135
C12N 1/20
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンテロコッカス・フェカリス
に属する乳酸菌の菌体
並びに該乳酸菌の溶菌酵素及び加熱処理物からなる群から選択される少なくとも1種を含有する、慢性腎臓病進行抑制剤。
【請求項2】
線維化抑制剤である、請求項1に記載の慢性腎臓病進行抑制剤。
【請求項3】
前記
エンテロコッカス・フェカリスに属する乳酸菌がエンテロコッカス・フェカリスNF-1011株(FERM BP-10902)である、請求項1
又は2に記載の慢性腎臓病進行抑制剤。
【請求項4】
前記菌体が死菌体である、請求項1~
3のいずれか一項に記載の慢性腎臓病進行抑制剤。
【請求項5】
経口製剤形態である、請求項1~
4のいずれか一項に記載の慢性腎臓病進行抑制剤。
【請求項6】
食品組成物である、請求項1~
4のいずれか一項に記載の慢性腎臓病進行抑制剤。
【請求項7】
食品添加物である、請求項1~
4のいずれか一項に記載の慢性腎臓病進行抑制剤。
【請求項8】
医薬である、請求項1~
4のいずれか一項に記載の慢性腎臓病進行抑制剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、慢性腎臓病進行抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
慢性腎臓病(CKD)は、慢性に経過する全ての腎臓病のことであり、成人の8人に1人(1330万人)が罹患している。そして、病態進行により腎不全に至った透析患者数は33万人にも達するため、新たな国民病ともいわれている。その病因は単一でなく、生活習慣病との関連が深い。さらに、CKD患者は循環器疾患の発症率が非常に高いことが知られている。以上より、CKD進行抑制による透析導入患者の減少や脳血管疾患、心筋梗塞等の発症リスクを低下させることは重要な臨床課題である。
【0003】
したがって、CKDの発症予防や進行抑制のため、生活習慣病の発症抑制が提唱されているが、特異的な治療法はない。一方、この生活習慣病の発症には近年、食生活の欧米化や経済優先主義の結果、エネルギーの過剰摂取、栄養のインバランスによる免疫の関与が示唆されており、特に腸管内に常在する細菌叢(腸内フローラ)が注目されている。
【0004】
腸内フローラに影響する因子として従来、乳酸菌が有名でその作用には整腸作用以外にも各種の作用が報告されている。また、エンテロコッカス属に属する乳酸菌は、生体に対して多様な効果を有することが知られている。
【0005】
例えば、エンテロコッカス・フェカリス(Enterococcus faecalis) NF-1011株は、血圧上昇抑制作用及び心臓肥大防止効果(特許文献1)、免疫賦活効果(特許文献2)、インターフェロン産生増強効果(特許文献3)、感染防御効果(特許文献4)、制癌増強効果(特許文献5)、抗癌剤の毒性軽減効果(特許文献6)、がん転移抑制効果(特許文献7)などが報告されている。
【0006】
腎臓は尿細管細胞、メサンギウム細胞、細胞外基質産生細胞、血管内皮細胞といった多様な細胞で構成され、その他特有の細胞も存在するためCKDにおける線維化の機序は非常に複雑である。よって、線維化の機序は不明な部分も多い。しかしながら、線維化抑制はCKD進行抑制、末期腎不全・透析導入患者の減少に繋がることが予想される。
【0007】
また、CKDの進行抑制には、タンパク質の摂取量の制限が推奨されている。エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2018 (編集:一般社団法人日本腎臓学会)では、積極的にCKDの進行抑制並びに予防に推奨される薬剤は記載されておらず、球形吸着炭の投与が腎機能悪化速度を遷延させる可能性があるとの記載があるのみである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開平5-201871号公報
【文献】特開平8-99887号公報
【文献】特開平8-259450号公報
【文献】特開平8-283166号公報
【文献】特開平8-295631号公報
【文献】特開平9-48733号公報
【文献】特開2019-131475号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、優れた慢性腎臓病の進行抑制作用を有する慢性腎臓病進行抑制剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、エンテロコッカス・フェカリスNF-1011株の菌体及びその菌体成分が、ラットの慢性腎臓病モデルにおいて慢性腎臓病による線維化を著明に抑制することを見出した。さらには、エンテロコッカス・フェカリスNF-1011株の菌体及びその菌体成分は、腎機能の指標である血漿中BUN及びクレアチニンの上昇をも抑制させるという知見を得た。
【0011】
本発明は、これら知見に基づき、更に検討を重ねて完成されたものであり、次の慢性腎臓病進行抑制剤を提供するものである。
【0012】
項1.エンテロコッカス属に属する乳酸菌の菌体及びその菌体成分からなる群から選択される少なくとも1種を含有する、慢性腎臓病進行抑制剤。
項2.線維化抑制剤である、項1に記載の慢性腎臓病進行抑制剤。
項3.前記エンテロコッカス属に属する乳酸菌がエンテロコッカス・フェカリスである、項1又は2に記載の慢性腎臓病進行抑制剤。
項4.前記エンテロコッカス属に属する乳酸菌がエンテロコッカス・フェカリスNF-1011株(FERM BP-10902)である、項1~3のいずれか一項に記載の慢性腎臓病進行抑制剤。
項5.前記菌体が死菌体である、項1~4のいずれか一項に記載の慢性腎臓病進行抑制剤。
項6.前記乳酸菌の菌体成分が、乳酸菌の溶菌酵素及び加熱処理物である、項1~5のいずれか一項に記載の慢性腎臓病進行抑制剤。
項7.経口製剤形態である、項1~6のいずれか一項に記載の慢性腎臓病進行抑制剤。
項8.食品組成物である、項1~6のいずれか一項に記載の慢性腎臓病進行抑制剤。
項9.食品添加物である、項1~6のいずれか一項に記載の慢性腎臓病進行抑制剤。
項10.医薬である、項1~6のいずれか一項に記載の慢性腎臓病進行抑制剤。
【発明の効果】
【0013】
エンテロコッカスに属する乳酸菌の菌体及びその菌体成分は、慢性腎臓病による線維化の抑制作用に基づき、優れた慢性腎臓病の進行抑制作用を有するので、慢性腎臓病進行抑制剤の有効成分として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】腎臓のAZAN染色像を示す写真である。1K-IR(-):虚血再灌流を施していない対照群、1K-IR(8w):虚血再灌流を施した群、1K-IR FK23:1K-IRにFK23を摂取させた群、1K-IR LFK:1K-IRにLFKを摂取させた群、最右図は1K-IR(8w)の□部分の強拡大
【
図2】腎線維芽細胞の活性化指標(α-SMA)の分析結果を示す図である。左上:ウェスタンブロッティングの結果、左下:α-SMAの検出量を示すグラフ(値は平均±SE (n=5~12). ##; p<0.01 vs. Sham, **; p<0.01 vs. 1K-IR(8W))、右:α-SMAの検出結果を示す写真
【
図3】腎線維芽細胞の活性化指標(α-SMA)の検出結果を示す写真である。
【
図4】線維化マーカーであるPAI-1及びHSP47の分析結果を示す図である。左側:PAI-1の結果、右側:HSP47の結果、上段:ウェスタンブロッティングの結果、下段:検出量を示すグラフ(値は平均±SE (n=5~12). ##; p<0.01 vs. Sham, *; p<0.05 vs. 1K-IR (8W), **; p<0.01 vs. 1K-IR (8W))
【
図5】血漿尿素窒素(BUN)及びクレアチニンの測定結果を示すグラフである。左側:BUNの結果、右側:クレアチニンの結果、値は平均±SE (n=5~12).##; p<0.01 vs. Sham, *; p<0.05 vs. 1K-IR (8W)
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0016】
なお、本明細書において「含有する、含む(comprise)」とは、「本質的にからなる(essentially consist of)」という意味と、「のみからなる(consist of)」という意味をも包含する。
【0017】
本発明において「慢性腎臓病(慢性腎障害)(CKD)」とは、以下のいずれか又は両方が3ヶ月以上持続した状態のことである。
1. 尿検査、画像・病理診断や身体所見などにおいて、腎障害の存在を示唆する所見が明らかであり、特に0.15 g/gCr以上のタンパク尿がある。
2.糸球体濾過量(GFR)が60 mL/min/1.73 m2未満に低下している。
【0018】
本発明においてCKDのステージは特に限定されず、いずれのステージのCKDも包含される。
【0019】
本発明の慢性腎臓病進行抑制剤は、エンテロコッカス属に属する乳酸菌の菌体及びその菌体成分からなる群から選択される少なくとも1種を含有することを特徴とする。
【0020】
エンテロコッカス属に属する乳酸菌としては、特に限定されず、例えば、エンテロコッカス・フェカリス(Enterococcus faecalis)、エンテロコッカス・フェシウム(Enterococcus faecium)、エンテロコッカス・アビウム(Enterococcus avium)、エンテロコッカス・カッセリフラバス(Enterococcus casseliflavus)、エンテロコッカス・ガリナルム(Enterococcus gallinarum)、エンテロコッカス・フラベセンス(Enterococcus flavescens)等が挙げられる。これらの中でも、好ましくはエンテロコッカス・フェカリス、エンテロコッカス・フェシウム等であり、より好ましくはエンテロコッカス・フェカリスである。また、エンテロコッカス・フェカリスの中でも、好ましくは健常者の糞便から分離された菌株であるエンテロコッカス・フェカリスNF-1011株である。エンテロコッカス・フェカリスNF-1011株は、1991年10月8日に受託番号FERM P-12564として寄託されている。また、この菌株は、現在国際寄託に移管されており、その受託番号はFERM BP-10902である。
【0021】
エンテロコッカス属に属する乳酸菌の菌体は、エンテロコッカス属に属する乳酸菌の構成物全体である限り特に限定されず、生菌体であっても、死菌体であってもよい。菌体は、凍結乾燥物等の乾燥物であってもよい。エンテロコッカス属に属する乳酸菌の生菌体は、ATCC、IFO、JCM等の国内分譲機関、国際分譲機関等から取り寄せることができるし、生物体から単離することもできる。
【0022】
また、培養により容易に大量に得ることができるため、培養して得られた生菌体を用いると生産コストが安く経済的である。エンテロコッカス属に属する乳酸菌の生菌体は、公知の方法に従って培養することにより、増殖させることもできる。例えば、該乳酸菌を、適量の滅菌ロゴザ液体培地に播種し、35~37℃にて10~16時間好気的に静置培養し、前培養液を得て、これを大容量の滅菌ロゴザ液体培地に加え同様に静置培養することによって、大量の生菌体を得ることができる。生菌体を採用する場合、例えば、培養液そのものを用いてもよいし、該培養液の固形分(例えば、培養液から遠心分離等で生菌体を沈殿させて得られた沈殿物、その後必要に応じて生理食塩水等で洗浄して得られた沈殿物等)を用いてもよいし、該固形分の懸濁液(例えば、生理食塩水などの等張液に懸濁して得られた懸濁液等)を用いてもよい。
【0023】
エンテロコッカス属に属する乳酸菌の死菌体は、特に限定されないが、例えば、生菌体の加熱処理物であることができる。熱処理の温度は、100℃以上であれば特に限定されないが、好ましくはオートクレーブ処理ができる温度(例えば、110~125℃)である。熱処理時間は、例えば、1分間以上、好ましくは5~20分間、より好ましくは5~15分間程度である。
【0024】
乳酸菌エンテロコッカス・フェカリスNF-1011株の菌体は、例えば、FK-23 (商標)としてニチニチ製薬株式会社より市販されている。
【0025】
本発明において「乳酸菌の菌体成分」とは、乳酸菌の細胞壁が破壊されることにより細胞外に放出される成分を意味する。
【0026】
乳酸菌の菌体成分は、特に限定されないが、例えば、生菌体の細胞壁破壊処理物である。この細胞壁破壊は、生菌体の細胞壁の全体であってもよいし、又は一部分であってもよい。細胞壁破壊処理方法としては、例えば、熱処理、物理的力による処理、溶菌酵素による処理等、或いはこれらを組み合わせた処理が挙げられる。これらの中でも、好ましくは溶菌酵素による処理を含む方法が挙げられ、より好ましくは(a)溶菌酵素による処理、並びに(b)熱処理及び物理的力による処理からなる群より選択される少なくとも1種の処理(好ましくは熱処理)を含む方法が挙げられ、更に好ましくは(a)溶菌酵素による処理後に、(b)熱処理及び物理的力による処理からなる群より選択される少なくとも1種の処理(好ましくは熱処理)を行うことを含む方法が挙げられる。
【0027】
熱処理の温度は、100℃以上であれば特に限定されないが、好ましくはオートクレーブ処理ができる温度(例えば、110~125℃)である。熱処理時間は、細胞壁の一部又は全部を破壊できる限り特に限定されず、熱処理の温度に応じて適宜設定することができる。熱処理時間は、例えば1分間以上、好ましくは5~20分間、より好ましくは5~15分間程度である。
【0028】
物理的力による処理の方法は、細胞壁の一部又は全部を破壊できる限り特に限定されない。例えば、超音波処理、フレンチプレス等が挙げられる。
【0029】
溶菌酵素による処理に用いる酵素は、細胞壁の一部又は全部を破壊できる限り特に限定されず、細菌類を溶菌するために一般的に用いられている酵素を広く用いることができる。溶菌酵素としては、例えば、リゾチーム、アクチナーゼ、ザイモリエース、キタラーゼ、ムタノシリン、アクロモペプチダーゼ等が挙げられる。これらの中でも、好ましくはリゾチームである。溶菌酵素は、1種単独で用いてもよいし、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0030】
溶菌酵素による処理条件は、溶菌酵素の種類、溶菌対象(生菌体)量等に応じて適宜設定することができる。例えば、溶菌酵素を終濃度0.01~1 mg/mLになるように生菌体懸濁液に添加し、30~40℃で1~10時間処理すればよい。
【0031】
乳酸菌の菌体成分は、該乳酸菌の菌体を構成する成分である限り特に制限されない。該菌体成分は、好ましくは水溶性成分である。水溶性成分は、例えば、乳酸菌を細胞壁破壊した物から、遠心分離等により固形分を除いて得られる。
【0032】
乳酸菌エンテロコッカス・フェカリスNF-1011株の菌体成分は、例えば、LFK (登録商標)としてニチニチ製薬株式会社より市販されている。
【0033】
エンテロコッカス属に属する乳酸菌の菌体は、1種単独又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0034】
本発明の剤は、各種分野において、例えば、医薬、食品組成物(例えば、健康食品、栄養補助食品(バランス栄養食、サプリメントなど)、栄養機能食品、特定保健用食品、機能性表示食品等を含む)、食品添加剤などとして利用することができる。
【0035】
本発明の剤の製剤形態は、特に限定されず、本発明の剤の利用分野に応じて、各利用分野において通常使用される製剤形態をとることができる。必須成分を必要に応じて濃縮状態とすることにより、多量の菌体又はその菌体成分であっても投与可能な剤形に調製することができる。製剤形態としては、例えば、錠剤(口腔内側崩壊錠、咀嚼可能錠、発泡錠、トローチ剤、ゼリー状ドロップ剤などを含む)、丸剤、顆粒剤、細粒剤、散剤、硬カプセル剤、軟カプセル剤、ドライシロップ剤、液剤(ドリンク剤、懸濁剤、シロップ剤等を含む)、ゼリー剤などの経口摂取に適した製剤形態(経口製剤形態)、注射剤、貼付剤、ローション剤、クリーム剤などの非経口摂取に適した製剤形態(非経口製剤形態)が挙げられ、好ましくは経口製剤形態が挙げられる。特に、食品組成物としては、液状、ゲル状あるいは固形状の食品、例えば、ガム、錠菓等の菓子類、栄養飲料等の飲料類などのバランス栄養食、粉末、カプセル、錠剤などが挙げられる。
【0036】
本発明の剤は、必須成分の他に、利用分野、製剤形態等に応じて、他の成分を適宜配合してもよい。配合できる成分としては、特に制限されず、例えば、水、アミノ酸類、アルコール類、多価アルコール類、糖類、ガム質、多糖類などの高分子化合物、界面活性剤、防腐・抗菌・殺菌剤、pH調整剤、キレート剤、抗酸化剤、酵素成分、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、流動化剤、清涼化剤の他、ミネラル類、細胞賦活剤、滋養強壮剤、賦形剤、増粘剤、安定化剤、保存剤、等張化剤、分散剤、吸着剤、崩壊補助剤、湿潤剤又は湿潤調節剤、防湿剤、着色料、着香剤又は香料、芳香剤、還元剤、可溶化剤、溶解補助剤、発泡剤、粘稠剤又は粘稠化剤、溶剤、基剤、乳化剤、可塑剤、緩衝剤、光沢化剤などを挙げることができる。
【0037】
本発明の剤における必須成分の含有量は、その使用形態により適宜選択することができるので特に限定されない。本発明の剤中に必須成分を有効量配合すればよいが、本発明の剤の質量に対して必須成分を乾燥質量で、通常0.001~60%、より好ましくは0.01~40%、特に好ましくは0.1~30%の比率で配合できる。
【0038】
本発明の剤の適用(例えば、投与、摂取、接種など)量は、症状、患者の年齢、体重、製剤形態等に応じて適宜増減することができる。成人1日あたり必須成分を乾燥質量として、通常0.001~0.5 g/kg体重を、好ましくは0.002~0.1 g/kg体重を適用することができ、更に、1日1回又は数回に分けて適用することができる。
【0039】
本発明の剤は、哺乳動物(ヒト、サル、イヌ、ネコ、ウマ、ウシ、マウス、ラット、モルモット、ブタ、ウサギ、ヒツジ等)、特にヒト、ネコに適用されるものである。
【0040】
エンテロコッカスに属する乳酸菌の菌体及びその菌体成分は、後述する実施例で示す様に、慢性腎臓病による線維化の抑制作用を有しているため、優れた慢性腎臓病の進行抑制作用を有するので、慢性腎臓病進行抑制剤の有効成分として有用である。
【0041】
有効成分であるエンテロコッカス属に属する乳酸菌の菌体及びその菌体成分は、従来より食品として摂取されてきた物質であるため安全性が高い。
【実施例】
【0042】
以下、本発明を更に詳しく説明するため実施例を挙げる。しかし、本発明はこれら実施例等になんら限定されるものではない。
【0043】
菌体試料の調製方法
1.FK-23
エンテロコッカス・フェカリスNF-1011株を液体培地(グルコース2%、酵母エキス2%、ペプトン2%、リン酸水素二カリウム4%)中で37℃、18時間培養した。マイクロフィルトレーション膜で集菌及び洗浄し、生菌体を回収した。これを110℃で10分間熱処理し、処理後、スプレードライで乾燥させた。得られた死菌体乾燥物を、菌体試料(FK-23)として、以下の実験で用いた。
【0044】
2.LFK
エンテロッコカス・フェカリスNF-1011株をロゴサ液体培地10 mlに播種し、37℃にて15時間好気的に静置培養(前培養)し、菌体濃度が約109個/mlの菌体液(シード)を得た。これをロゴサ液体培地10Lに播種(菌体濃度:106個/ml)し、37℃で16時間好気的に静置培養し、生菌数約109個/mlの菌体液を得た。得られた菌体液を遠心分離(12,000×g、20分間)して集菌し、これを生理食塩水(0.85%塩化ナトリウム水溶液)で2回洗浄して、蒸留水100 mlに懸濁し、菌体懸濁液を得た。当該菌体懸濁液にリゾチームを終濃度0.1 mg/ml量となるよう添加し、37℃で4時間処理後、110℃で10分間加熱処理して、菌体処理物を得た。得られた菌体処理物を、菌体試料(LFK)として、以下の実験で用いた。
【0045】
AZAN染色
AZAN染色は定法に従い、線維性結合組織のうち膠原線維(コラーゲン)を青色に染色した。
【0046】
ウェスタンブロット法
腎組織をホモジナイズしタンパク定量を行った後、SDSバッファーを添加して95℃・5分間処理した。
SDS Buffer: 0.35M Tris-HCl pH6.8, 10% SDS, 30%グリセロール, 0.06%ブロモフェノールブルー
SDS-PAGEを行った後、PVDFメンブレンに転写した。以下の抗体を用いて抗原抗体反応後、発光基質を添加しFUSION SOLO S (Vilber-Lourmat)を用いてバンドを検出した。検出したバンドはImageJ version 1.63 (National Institutes of Health)を用いて定量した。
・用いた抗体と希釈倍率
HSP47: Enzo Life Sciences, ADI-SPA-470-F, 1:2000
α-SMA: Dako, M0851, 1:2000
PAI-1: BD Biosciences, 612024, 1:2000
β-actin: Sigma-Aldrich, A5441, 1:5000
【0047】
免疫組織染色(α-SMA)
免疫組織染色は以下の手順に従って行った。
(1)脱パラフィン処理
100% Hemo-De 5分×3
100% EtOH 3分×2
70% EtOH 3分×1
50% EtOH 3分×1
dH2O 3分×2
(2)オートクレーブによる抗原賦活化処理
耐熱プラスチック製蓋付きドーゼに10 mMクエン酸ナトリウム緩衝液(pH 6.0)と切片を入れて軽く蓋をし、121℃5分オートクレーブを行った後、dH2Oで切片をすすぎ、PBSで5分×2ウォッシュした。
(3)内因性ペルオキシダーゼ除去
切片にDako REAL Peroxidase-Blocking Solution (Dako, S2023, 4℃)を滴下し、室温で10分間反応させた後、PBSで5分×2ウォッシュした。
(4)ブロッキング
切片にProtein Block Serum-Free Ready-To-Use (Dako, X090, 4℃)を滴下し、室温で20分間反応させた。
(5)1次抗体反応
切片にCan Get Signal immunostain solution A (TOYOBO, NKB-501)で上記の抗α-SMA抗体を希釈した希釈液(200倍)を滴下し、室温1時間又は4℃オーバナイトで反応させた後、PBSで5分×2ウォッシュした。
(6)標識2次抗体反応
1次抗体を認識する標識2次抗体希釈液を滴下し、室温で90分反応させPBSでウォッシュした。
(7)発色
切片に1 mL bufferに発色基質を1滴(20μL)加えて調製した基質溶液を滴下し室温で反応させた後、dH2Oで切片をすすいだ。
(8)対比染色
金属製ラックにスライドをさし、マイヤーヘマトキシリン(武藤化学株式会社)に浸し室温で1~5分反応させた後、流水ですすいだ。
(9)脱水、封入
50% EtOH 3分×1
70% EtOH 3分×1
100% EtOH 3分×2
100% Hemo-De 5分×3
【0048】
血漿中BUN及びクレアチニンの測定
血漿中BUN及びクレアチニンの測定は、株式会社エスアールエルにより、それぞれウレアーゼ法、酵素法に基づき行われた。
【0049】
試験例
ラット右腎摘出及び左腎の虚血再灌流(one kidney-ischemia reperfusion, 1K-IR)による尿細管線維化モデル(腎線維症)におけるFK-23及びLFKの腎機能障害抑制効果を確認した。
【0050】
7週齢の雄性Wistar ratについてドミトール、ドルミカム、ベトルファールの3種混合麻酔下に右腎臓を摘出し、その2週間後に左腎の動静脈を45分間遮断後、再灌流を行った。虚血再灌流処置後、8週間経過後に採血及び犠牲死させ、左腎の採取を行った。一部の動物にはFK-23又はLFKを標準飼料に混じ、右腎臓摘出の直後から3%の混餌飼料として10週間、自由摂食させた。
【0051】
図1にAZAN染色した左腎臓の光学顕微鏡像を示す。線維化部位は、青く染色される。本病態モデルは、虚血再灌流後の急性期では主に腎髄質において広範囲にわたる組織障害が惹起され、尿細管壊死(外層外帯)、鬱血出血(外層内帯)及びタンパク円柱(内層)などの特徴ある病理所見が得られる。一方、慢性期には、尿細管壊死部に一致して線維化が進行する。
図1の結果からも、虚血再灌流を施さない対照群(1K-IR(-))に比べ、虚血再灌流を施した群(1K-IR (8w))ではこの尿細管壊死部に一致して著明な線維化が出現した。そして、FK-23又はLFK投与ラットにおける腎臓では、この線維化が顕著に少なかった(1K-IR FK23及び1K-IR LFK)。
【0052】
腎線維芽細胞の活性化指標(α-smooth muscle actin (α-SMA))の分析結果を
図2及び3に示す。腎のAZAN染色陽性を呈した線維化した局所では、
図2及び3で示すα-SMA陽性の腎線維芽細胞が増加することにより線維素を産生する。
図2及び3の結果から、1K-IR (8w)の群ではα-SMAが有意に増加しているのに対して、FK-23又はLFKを投与した群では組織中のα-SMA陽性細胞の出現を有意に抑制した。
【0053】
さらに、臓器線維化の指標として、線維化マーカーであるPlasminogen activator inhibitor-1 (PAI-1)及びコラーゲン重合に関わるシャペロンタンパクであるHeat shock protein (HSP)47をウェスタンブロット法により解析した。結果を
図4に示す。
図4から、1K-IR (8w)ではPAI-1及びHSP47ともに著明に増加していたが、FK-23及びLFK投与群では有意にこの増加が抑制されることが判明した。
【0054】
また、一般的な腎機能の指標である血漿中BUN及びクレアチニンについても測定を行った。結果を
図5に示す。
図5から、1K-IR (8w)ではBUN及びクレアチニンともに著明に増加していたが、FK-23及びLFK投与群では有意にその上昇が抑制され、線維化の程度と相関していた。