(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-05
(45)【発行日】2022-10-14
(54)【発明の名称】ペロブスカイト化合物、並びにこれを含む熱電変換材料及び熱電変換素子
(51)【国際特許分類】
C01G 19/00 20060101AFI20221006BHJP
H01L 35/14 20060101ALI20221006BHJP
H01L 35/24 20060101ALI20221006BHJP
H01L 35/34 20060101ALN20221006BHJP
【FI】
C01G19/00 A
H01L35/14
H01L35/24
H01L35/34
(21)【出願番号】P 2018094832
(22)【出願日】2018-05-16
【審査請求日】2021-04-22
(73)【特許権者】
【識別番号】504174135
【氏名又は名称】国立大学法人九州工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100120086
【氏名又は名称】▲高▼津 一也
(72)【発明者】
【氏名】早瀬 修二
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 康次
【審査官】▲高▼橋 真由
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-178290(JP,A)
【文献】特開2019-125775(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 19/00-19/08
H01L 35/14
H01L 35/24
H01L 35/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ABX
3(Aはカチオン、Bは金属、Xはハロゲンを示し、A、B及びXは、それぞれ複数の元素から構成されてもよい。)からなるペロブスカイト化合物を含有する熱電変換材料であって、
Bが、Sn及び周期律表3族の金属を含
み、
BにおけるSn及び周期律表3族の金属の元素構成割合が、Snが90~99.99%であると共に、周期律表3族の金属が0.01~10%であることを特徴とする熱電変換材料。
【請求項2】
Bが、Sn及びYを含むことを特徴とする請求項1記載の熱電変換材料。
【請求項3】
Bが、Sn及びYからなることを特徴とする請求項2記載の熱電変換材料。
【請求項4】
Aが、有機アミン又はアルカリ金属であることを特徴とする請求項1~
3のいずれか記載の熱電変換材料。
【請求項5】
請求項1~
4のいずれか記載の熱電変換材料を含有する熱電変換層を有することを特徴とする熱電変換素子。
【請求項6】
ABX
3(Aはカチオン、Bは金属、Xはハロゲンを示し、A、B及びXは、それぞれ複数の元素から構成されてもよい。)からなる化合物であって、
Bが、Sn及び周期律表3族の金属を含み、
BにおけるSn及び周期律表3族の金属の元素構成割合が、Snが90~95%であると共に、周期律表3族の金属が5~10%であることを特徴とするペロブスカイト化合物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペロブスカイト化合物、並びにこれを含む熱電変換材料及び熱電変換素子に関する。
【背景技術】
【0002】
ペロブスカイト化合物は、光電変換効率が極めて高いことで知られている。このペロブスカイト化合物を含むペロブスカイト太陽電池は、プリンタブルな次世代型の太陽電池として注目されており、これに関する様々な技術が報告されている(非特許文献1)。その中でも、環境に安全なPbを含有しないPbフリーのペロブスカイト太陽電池が注目されている。
【0003】
一方、上記のような光電変換材料と共に、物体の温度差が電圧に直接変換される現象(ゼーベック効果)を利用した熱電変換材料も注目されている。この熱電変換材料を用いることにより、例えば、工場やごみ焼却場からの排熱を利用して電気エネルギーを得ることができ、クリーンエネルギー技術として期待されている。
【0004】
熱電変換材料としてペロブスカイト化合物も古くから検討されており、実用化に向けた研究がなされている(例えば、特許文献1,2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開昭64-5911号公報
【文献】特開2010-27631号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】M. Saliba, T. Matsui,; J.Y. Seo, K. Domanski, J.P. Correa-Baena, M.K. Nazeeruddin, S.M. Zakeeruddin, W.Tress, A. Abate, A. Hagfeldt and M Gratzel. Cesium-containing triple cation perovskite solar cells: improved stability, reproducibility and high efficiency. Energy Environ. Sci., 2016, 9, pp. 1989-1997
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
熱電変換材料において望まれる性能としては、ゼーベック係数が高いことに加えて、導電性が高いこと、熱伝導性が低いことが挙げられる。しかしながら、キャリアは、電荷及びフォノンを運搬するため、導電性が高くなると、熱伝導性が高くなり、一般的にその両立は困難であった。
【0008】
本発明の課題は、熱電変換材料に適したペロブスカイト化合物を提供することにある。また、このペロブスカイト化合物を含有する熱電変換材料及び熱電変換素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、ペロブスカイト太陽電池に用いられるPbフリーのSn系ハロゲン化ペロブスカイト化合物を熱電変換材料として利用することについて研究する中で、ABX3(A:カチオン、B:金属、X:ハロゲン)からなるペロブスカイト化合物において、金属BとしてSn及びYを含む構成とすることにより、金属BがSn単独の場合に比して、導電性が向上すると同時に熱伝導性が低下し、熱電変換材料として有用であることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、以下のとおりのものである。
[1] ABX3(Aはカチオン、Bは金属、Xはハロゲンを示し、A、B及びXは、それぞれ複数の元素から構成されてもよい。)からなる化合物であって、
Bが、Sn及び周期律表3族の金属を含むことを特徴とするペロブスカイト化合物。
[2] Bが、Sn及びYを含むことを特徴とする上記[1]記載のペロブスカイト化合物。
[3] Bが、Sn及びYからなることを特徴とする上記[2]記載のペロブスカイト化合物。
[4] BにおけるSn及び周期律表3族の金属の元素構成割合が、Snが90~99.99%であると共に、周期律表3族の金属が0.01~10%であることを特徴とする上記[1]~[3]のいずれか記載のペロブスカイト化合物。
[5] Aが、有機アミン又はアルカリ金属であることを特徴とする上記[1]~[4]のいずれか記載のペロブスカイト化合物。
【0011】
[6] 上記[1]~[5]のいずれか記載のペロブスカイト化合物を含有することを特徴とする熱電変換材料。
[7] 上記[1]~[5]のいずれか記載のペロブスカイト化合物を含有する熱電変換層を有することを特徴とする熱電変換素子。
【発明の効果】
【0012】
本発明のペロブスカイト化合物は、導電性が高く、熱伝導性が低いことから、熱電変換材料として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明のペロブスカイト化合物のXRD測定の結果を示す図であり、(a)は、X線回析パターンを示す図であり、(b)は、第二ピーク位置のシフトを示す図であり、(c)は、Yの置換率と結晶子サイズの関係を示す図であり、(d)は、Yの置換率と結晶歪の関係を示す図である。
【
図2】実施例1で調製したペロブスカイト化合物の電子物性評価用デバイスの概略図である。
【
図3】本発明のペロブスカイト化合物の電気伝導率を示す図である。
【
図4】(a)は、本発明のペロブスカイト化合物のキャリア密度を示す図であり、(b)は、本発明のペロブスカイト化合物のキャリア移動度を示す図である。
【
図5】実施例1で調製したペロブスカイト化合物の熱電物性評価用デバイスの概略図である。
【
図6】本発明のペロブスカイト化合物の熱伝導率を示す図である。
【
図7】本発明のペロブスカイト化合物の電気伝導率及び熱伝導率の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[ペロブスカイト化合物]
本発明のペロブスカイト化合物は、ABX3(A:カチオン、B:金属、X:ハロゲン)からなる化合物であって、Bが、Sn及び周期律表3族の金属を含むことを特徴とする。なお、A、B及びXは、それぞれ、1種の元素から構成されていてもよく、複数の元素から構成されてもよい。ペロブスカイト化合物は、A-B-X3で表したときに、体心に金属B、各頂点にカチオンA、面心にハロゲンXが配置された立方晶系の構造を有する。
【0015】
本発明のペロブスカイト化合物は、高い導電性及び低い熱伝導性といった従来両立が困難であった熱電変換材料としての要求を満足するものである。また、本発明のペロブスカイト化合物は、環境リスクの高いPbを含まない。従来用いられているPbTe系の熱電変換材料は、資源量が少なく、猛毒であり、耐熱性や耐酸化性に乏しく、また、高温による気化蒸発や酸化分解などによる環境汚染の原因となるという問題があったが、本発明ではこのような問題がない。
【0016】
したがって、本発明のペロブスカイト化合物は、熱電変換材料として好適である。具体的に、本発明のペロブスカイト化合物は、例えば、熱電変換素子における熱電変換層に適用することができる。
【0017】
本発明のペロブスカイト化合物における金属Bは、上記のように、Snと周期律表3族の金属を含むものである。周期律表3族の金属としては、具体的に、Sc(スカンジウム)、Y(イットリウム)、ランタノイド、アクチノイド等を挙げることができるが、Yが特に好ましい。すなわち、金属Bは、Sn及びYを含むことが好ましく、この2種からなることが特に好ましい。
【0018】
金属BにおけるSn及び周期律表3族の金属の元素構成割合としては、本発明の効果の奏する範囲で適宜調整することができ、Snは、90%以上であることが好ましく、95%以上であることがより好ましく、98%以上であることがさらに好ましい。また、周期律表3族の金属は、0.01%以上であることが好ましく、0.1%以上であることがより好ましく、0.3%以上であることがさらに好ましい。具体的には、Snが90~99.99%であると共に、周期律表3族の金属が0.01~10%であることが好ましく、Snが95~99.9%であると共に、周期律表3族の金属が0.1~5%であることがより好ましく、Snが98~99.7%であると共に、周期律表3族の金属が0.3~2%であることがさらに好ましい。
【0019】
カチオンAとしては、アルカリ金属、有機アミンを挙げることができ、アルカリ金属が好ましい。アルカリ金属としては、セシウムが好ましい。有機アミンとしては、例えば1級、2級、3級、又は4級の有機アンモニウム化合物を挙げることができ、Nを含有するヘテロ環、又は炭素環を有していてもよい。具体的に、メチルアンモニウム(MA)、ホルムアミジニウム(FA:NH2CH=NH2+)、エチレンジアンモニウム(EA)、ピラジニウム、2-フェニルエチルアンモニウム(PEA)、ベンジルアミン(Benzylamine)、4-フルオロアニリン(4‐Fluoroaniline)、4-フルオロベンジルアミン(4‐Fluorobenzylamine)、4-フルオロフェネチルアミン(4‐Fluorophenethylamine)、フェネチルアンモニウム(Phenethylammonium)等を挙げることができ、2種以上を組み合わせてもよい。これらの中でも、吸収波長幅が広い3次元構造の点から、メチルアンモニウム(MA)、ホルムアミジニウム(FA)が好ましく、これらの組合せが特に好ましい。
【0020】
ハロゲンXとしては、F、Cl、Br、I等を挙げることができ、2種以上を組み合わせてもよい。これらの中でも、キャリア移動度の大きさの点から、Iが好ましい。
【0021】
本発明のペロブスカイト化合物(ABX3)は、例えば、AX及びBX2を有機溶媒に溶解させて成膜することにより製造することができる。AB1B2X3のペロブスカイト化合物を調製する場合は、例えば、AX及びB1X2を有機溶媒に溶解させたAB1X3前駆体溶液と、AX及びB2X2を有機溶媒に溶解させたAB2X3前駆体溶液とを所定割合で混合して成膜することにより製造することができる。
【0022】
有機溶媒としては、前駆体物質を溶解できれば特に限定されないが、例えば、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、γ-ブチロラクトン、ジメチルアセトアミド(DMA)、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、アセチルアセトン、tert-ブチルピリジン、ジメチルエチレン尿素(DMI)、ジメチルプロピレン尿素(DMU)、テトラメチル尿素(TMU)等を挙げることができ、2種以上を組み合わせてもよい。これらの中でも、溶解度の大きさの点から、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)が好ましい。
【0023】
前駆体溶液の成膜方法は、特に限定されず、真空蒸着法等の気相蒸着法であっても、塗布法であってもよいが、短時間で容易に成膜が行えることから、塗布法が好ましい。塗布方法としては、例えば、ディップコート法、ダイコート法、バーコート法、スピンコート法、オフセット法、スプレーコート法、印刷法等の従来公知の塗布方法を挙げることができる。これらの中でも、薄膜均一性と緻密な多結晶構造の点から、スピンコート法が好ましい。
【0024】
本発明のペロブスカイト化合物は、熱エネルギーを電気エネルギーに変換する熱電変換材料として好適に用いることができる。具体的に、本発明のペロブスカイト化合物は、熱電変換素子における熱電変換層に適用することができる。本発明のペロブスカイト化合物を用いた熱電変換素子は、例えば、自動車、工場、ゴミ焼却場から排出される熱(排熱)を利用した発電に用いることができる。
【実施例】
【0025】
以下に本発明の実施例を示すが、本発明の範囲はこれに限定されるものではない。
【0026】
[実施例1]
<ペロブスカイト化合物の調製>
Sn及びYの組成割合を変化させて、本発明のペロブスカイト化合物Cs(Sn)1-x (Y)x I3(x = 0,0.01,0.05,0.1,0.2 (Y 0%, 1%, 5%, 10%, 20%))を調製した。具体的には、以下に示す通りである。
【0027】
ペロブスカイト膜の堆積は、窒素パージしたグローブボックス内で行った。
DMF(1773μL)およびDMSO(227μL)中にSnI2(596mg)、およびCsI (416 mg)を溶解することによって、CsSnI3前駆体溶液を調製した。一方、CsYI3前駆体溶液は、YI3(5.2 mg)およびCsI(4.2 mg)をDMF(500μL)に溶解することによって調製した。最後に、CsSnI3前駆体溶液およびCsYI3前駆体溶液を混合することによって、CsSn(Y)I3前駆体溶液を調製した。
【0028】
前駆体溶液を0.2μmフィルターで濾過し、基板(PEDOT:PSS)上に5000rpmで50秒間スピンコートした。スピンコーティングプロセスにおいては、ペロブスカイトの表面を平坦にするために、ペロブスカイト溶液が完全に乾く前に、逆溶剤(Anti-solvent)としてのトルエンを基板上に滴下した。
スピンコーティング終了後、ペロブスカイト膜を70℃のホットプレート上で10分間アニールした。
【0029】
(XRD測定)
調製されたペロブスカイト化合物のXRD測定を行った。その結果を
図1に示す。
図1(b)に示すように、Yを1%置換させたペロブスカイト化合物は、ピーク位置が右側にシフトしている。また、
図1(c)に示すように、Yを1%置換させたペロブスカイト化合物は、結晶子サイズが成長している。また、
図1(d)に示すように、Yを1%置換させたペロブスカイト化合物は、結晶歪が小さくなる。
【0030】
また、調製されたペロブスカイト化合物のXPS測定を行った結果、Yをドープすることにより、ペロブスカイト構造は安定することが明らかとなった。
【0031】
[実施例2]
実施例1のペロブスカイト化合物(Cs(Sn)1-x (Y)x I3)の物性を評価するために、デバイスを作製し、その物性を評価した。実施例1と同様に、Sn及びYの組成割合を変化させ、その影響を調べた。
【0032】
<電子物性評価>
(電気伝導率の測定)
図2に示すような電子物性評価用デバイスを作製し、4端子法により、本発明のペロブスカイト化合物(Cs
(Sn)
1-x (Y)
x I
3)の電気伝導率(S/cm)を算出した。その結果を
図3に示す。
【0033】
図3に示すように、Yを1%ドープした本発明のペロブスカイト化合物は、ドープさせないものに比べて、電気伝導率が向上した。
【0034】
(キャリア密度及びキャリア移動度の測定)
図2に示すような電子物性評価用デバイスを作製し、ホール効果測定装置を用いて真空領域における本発明のペロブスカイト化合物(Cs
(Sn)
1-x (Y)
x I
3)のキャリア密度及びキャリア移動度を測定した。その結果を
図4に示す。
【0035】
図4(a)に示すように、Yを1%ドープした本発明のペロブスカイト化合物は、ドープさせないものに比べて、キャリア密度が向上した。また、
図4(b)に示すように、Yを1%ドープした本発明のペロブスカイト化合物のキャリア移動度の低下は、比較的小さいものであった。
【0036】
<熱電物性評価>
(熱伝導率の測定)
図5に示すような熱電物性評価用デバイスを作製し、3ω法により、本発明のペロブスカイト化合物(Cs
(Sn)
1-x (Y)
x I
3)の熱伝導率(W/(m・K))を算出した。その結果を
図6に示す。
【0037】
図6示すように、Yを1%、5%、10%ドープした本発明のペロブスカイト化合物は、ドープさせないものに比べて、熱伝導率が低下した。
【0038】
<電子物性及び熱電物性の評価>
(電気伝導率と熱伝導率の関係)
図7に、上記測定した電気伝導率及び熱伝導率の関係を示す。
図7に示すように、Yを1%ドープした本発明のペロブスカイト化合物は、ドープさせないものに比べて、電気伝導率が向上すると同時に熱伝導率が低下した。すなわち、高電気伝導性及び低熱伝導性の両立が実現され、熱電変換材料として有用であることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明のペロブスカイト化合物は、高い電気伝導性を有すると共に低い熱伝導性を有するものであり、熱電変換材料として用いることができることから、産業上有用である。