IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 出光興産株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-05
(45)【発行日】2022-10-14
(54)【発明の名称】潤滑油組成物、及び含浸軸受
(51)【国際特許分類】
   C10M 169/04 20060101AFI20221006BHJP
   F16C 33/12 20060101ALI20221006BHJP
   F16C 33/14 20060101ALI20221006BHJP
   F16C 33/10 20060101ALI20221006BHJP
   C10M 105/32 20060101ALN20221006BHJP
   C10M 145/14 20060101ALN20221006BHJP
   C10M 105/36 20060101ALN20221006BHJP
   C10N 20/00 20060101ALN20221006BHJP
   C10N 20/02 20060101ALN20221006BHJP
   C10N 20/04 20060101ALN20221006BHJP
   C10N 30/08 20060101ALN20221006BHJP
   C10N 40/02 20060101ALN20221006BHJP
【FI】
C10M169/04
F16C33/12 B
F16C33/14 A
F16C33/10 A
C10M105/32
C10M145/14
C10M105/36
C10N20:00 A
C10N20:02
C10N20:04
C10N30:08
C10N40:02
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2018110691
(22)【出願日】2018-06-08
(65)【公開番号】P2019210443
(43)【公開日】2019-12-12
【審査請求日】2021-01-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000183646
【氏名又は名称】出光興産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100119666
【弁理士】
【氏名又は名称】平澤 賢一
(74)【代理人】
【識別番号】100153866
【弁理士】
【氏名又は名称】滝沢 喜夫
(74)【代理人】
【識別番号】100078732
【弁理士】
【氏名又は名称】大谷 保
(74)【代理人】
【識別番号】100158481
【弁理士】
【氏名又は名称】石原 俊秀
(72)【発明者】
【氏名】古賀 麻未
【審査官】松原 宜史
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-113400(JP,A)
【文献】特開2007-046009(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M 101/00-177/00
C10N 10/00- 80/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エステル系油(A1)を含む基油(A)と、アルキル(メタ)アクリレートに由来する構成単位(b)を有する重合体(B)とを含有する潤滑油組成物であって、
前記重合体(B)が、前記構成単位(b)として、メチル(メタ)アクリレートに由来する構成単位(b1)及び炭素数25以上の分岐鎖アルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレートに由来する構成単位(b2)を有し、
前記構成単位(b1)及び(b2)の合計含有量が、前記重合体(B)の構成単位の全量(100モル%)基準で、95~100モル%であり、
前記重合体(B)の含有量が、前記潤滑油組成物の全量基準で、0.1~10.0質量%であり、
前記潤滑油組成物の粘度指数が350以上であり、
前記潤滑油組成物の-40℃におけるBF粘度が4000mPa・s以下であり、
含浸軸受に用いられる、
潤滑油組成物。
【請求項2】
前記重合体(B)の重量平均分子量(Mw)が、35万以上である、請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項3】
前記重合体(B)の分子量分布(Mw/Mn)(Mw:重合体(B)の重量平均分子量、Mn:重合体(B)の数平均分子量)が、2.2以下である、請求項1又は2に記載の潤滑油組成物。
【請求項4】
前記構成単位(b1)の含有量が、前記重合体(B)の構成単位の全量(100モル%)基準で、70~99モル%である、請求項1~3のいずれか一項に記載の潤滑油組成物。
【請求項5】
前記構成単位(b2)の含有量が、前記重合体(B)の構成単位の全量(100モル%)基準で、0.1~30モル%である、請求項1~4のいずれか一項に記載の潤滑油組成物。
【請求項6】
前記基油(A)が、二塩基酸エステル(A11)を含有する、請求項1~のいずれか一項に記載の潤滑油組成物。
【請求項7】
前記基油(A)中の鉱油の含有量が、前記基油(A)の全量基準で、5質量%未満である、請求項1~のいずれか一項に記載の潤滑油組成物
【請求項8】
前記潤滑油組成物の流動点が、-40℃以下である、請求項1~のいずれか一項に記載の潤滑油組成物。
【請求項9】
前記潤滑油組成物の100℃における動粘度が、10.0~15.0mm/sである、請求項1~のいずれか一項に記載の潤滑油組成物。
【請求項10】
更に酸化防止剤、金属系清浄剤、分散剤、摩擦調整剤、耐摩耗剤、極圧剤、流動点降下剤、消泡剤、防錆剤、金属不活性化剤及び帯電防止剤から選ばれる少なくとも1種を含有する、請求項1~9のいずれか一項に記載の潤滑油組成物。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか一項に記載の潤滑油組成物を含浸された、含浸軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潤滑油組成物、及び当該潤滑油組成物を含浸させた含浸軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車電装機器、家電機器、及びOA事務機器等の機器に組み込まれる軸受として、金属粉末を焼結して成形した含浸軸受が広く使用されている。
含浸軸受は、一般的に、原料である金属粉末を、混合、成形、焼結、及びサイジング等の各工程を経て多孔質の金属体に成形した後、含浸装置を用いて、当該金属体に潤滑油を真空含油して製造されたものであって、自己給油の状態で使用される滑り軸受である。
含浸軸受は、回転軸の回転に起因するポンピング作用により、多孔質の金属体に含浸されていた潤滑油が回転軸と軸受内面との摺動面に供給され、潤滑を行うものであって、耐久性や剛性に優れるだけでなく、生産コストも低く抑えられるという利点もある。
【0003】
含浸軸受に含浸される潤滑油には、含浸軸受を備える機器の種類に応じて、粘度特性、長期安定性、耐揮発性、材料適合性等の特性が良好であることが求められる。
例えば、特許文献1には、所定の炭素数の二塩基酸と一級アルコールとから構成されるエステルを基油として、SP値が9.2以上、質量平均分子量が10万~100万の(メタ)アクリル酸アルキル重合体を所定量含有し、100℃動粘度を9.3~11.5mm/sに調製した、含浸軸受用の潤滑油組成物について記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2007-46009号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、近年の自動車には、電動モータが搭載されることが多くなっており、電動モータの軸受として、含浸軸受が使用されることが増えている。
自動車用の電動モータは、北欧や北米等の寒冷地では-40℃程度の低温環境下でも駆動することが要求される。このような低温環境下で用いられる潤滑油組成物は、粘度が上昇するため、低温流動性の悪化が問題となる。
その一方で、エンジン駆動時のエンジンルーム内は高温となるため、当該潤滑油組成物には、高温環境下でも優れた潤滑性が求められる。
【0006】
また、含浸軸受に用いる潤滑油組成物には、軸受を構成する多孔質の金属体の細孔から潤滑油組成物を安定的に供給し得るように、優れた浸潤性も求められる。潤滑油組成物の浸潤性が低下すると、鳴きの発生頻度が高まる等の弊害が生じ得る。
ところで、本発明者の検討によれば、低温時と高温時の温度差が大きく、温度変化が激しい環境下で使用される含浸軸受用の潤滑油組成物は、浸潤性が低下し、金属体の細孔から潤滑油組成物を安定的に供給し難くなる場合があり、鳴きの発生頻度が高まるということが分かった。
そのため、低温時と高温時との温度変化が激しい環境下でも、優れた浸潤性を維持し得る含浸軸受用の潤滑油組成物が求められる。
なお、上述の特許文献1では、上記のような浸潤性に関する検討は行われていない。
【0007】
本発明は、低温領域から高温領域の広範な温度環境下での使用において優れた潤滑性を有し、低温時と高温時との温度変化が激しい環境下でも、優れた浸潤性を維持し得る、含浸軸受に好適に使用し得る潤滑油組成物、及び当該潤滑油組成物を含浸させた含浸軸受を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、エステル系油を含む基油と共に、アルキル(メタ)アクリレートに由来する構成単位を有する重合体を所定量含有し、粘度指数を350以上とし、-40℃におけるBF粘度(ブルックフィールド粘度)を4000mPa・s以下とした潤滑油組成物が、上記課題を解決し得ることを見出した。
【0009】
すなわち本発明は、下記[1]~[2]を提供する。
[1]エステル系油(A1)を含む基油(A)と、アルキル(メタ)アクリレートに由来する構成単位(b)を有する重合体(B)とを含有する潤滑油組成物であって、
重合体(B)の含有量が、前記潤滑油組成物の全量基準で、0.1~10.0質量%であり、
前記潤滑油組成物の粘度指数が350以上であり、
前記潤滑油組成物の-40℃におけるBF粘度が4000mPa・s以下であり、
含浸軸受に用いられる、
潤滑油組成物。
[2]上記[1]に記載の潤滑油組成物を含浸させた、含浸軸受。
【発明の効果】
【0010】
本発明の潤滑油組成物は、低温領域から高温領域の広範な温度環境下での使用において優れた潤滑性を有し、低温時と高温時との温度変化が激しい環境下でも、優れた浸潤性を維持し得るため、含浸軸受に好適に使用し得る。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書において、動粘度及び粘度指数は、JIS K2283:2000に準拠して測定又は算出された値を意味する。
本明細書において、重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法で測定される標準ポリスチレン換算の値であり、具体的には実施例に記載の方法により測定された値を意味する。
本明細書において、例えば、「アルキル(メタ)アクリレート」とは、「アルキルアクリレート」及び「アルキルメタクリレート」の双方を示す語として用いており、他の類似用語や同様の標記についても、同じである。
【0012】
〔潤滑油組成物〕
本発明の潤滑油組成物は、エステル系油(A1)を含む基油(A)と、アルキル(メタ)アクリレートに由来する構成単位(b)を有する重合体(B)とを含有する潤滑油組成物である。
そして、本発明の潤滑油組成物は、含浸軸受に好適に使用し得るように、下記要件(I)及び(II)を満たすように調製されたものである。
・要件(I):前記潤滑油組成物の粘度指数が350以上である。
・要件(II):前記潤滑油組成物の-40℃におけるBF粘度が4000mPa・s以下である。
なお、本明細書において、BF粘度は、ASTM D2983に準拠して測定した値を意味する。
【0013】
一般的に、広範な温度環境下での使用に適した潤滑油組成物とする観点から、潤滑油組成物の高粘度指数化は行われている。ただし、一般的な高粘度指数化された潤滑油組成物であっても、その粘度指数は通常300程度であり、上記観点からは、その粘度指数で十分であった。
しかしながら、上述のとおり、低温時と高温時の温度差が大きく、温度変化が激しい環境下で使用される含浸軸受用の潤滑油組成物において、粘度指数を300程度と高粘度指数化したとしても、浸潤性が不十分となり、金属体の細孔から安定的に供給し難くなる場合があり、鳴きの発生頻度が高くなることが分かった。
【0014】
このような問題に対して、本発明の潤滑油組成物は、要件(I)で規定するとおり、粘度指数が350以上に調製しているため、粘性の温度依存性が非常に小さい。そのため、低温時と高温時との温度変化が激しい環境下でも、粘性の変化が小さいため、良好な浸潤性を維持することができる。その結果、本発明の潤滑油組成物は、含浸軸受に用いた場合に、鳴きの発生頻度を効果的に低下させることができる。
また、本発明の潤滑油組成物は、粘度指数が350以上に調製されたものであるため、低温領域から高温領域の広範な温度環境下での使用に際して、良好な潤滑性を発現することができる。
【0015】
本発明の潤滑油組成物の粘度指数は、要件(I)で規定するとおり、350以上であるが、上記観点から、好ましくは370以上、より好ましくは380以上、更に好ましくは390以上、より更に好ましくは400以上である。
【0016】
また、上記要件(II)は、寒冷地の使用を想定した-40℃程度の低温環境下での潤滑油組成物の流動性に着目した規定である。
-40℃程度の低温環境下では、潤滑油組成物の粘度が上昇し、流動性の悪化が問題となると共に、低温環境下での浸潤性も低下し、鳴きの発生頻度が高まる等の弊害が生じ得る。
このような問題に対して、本発明の潤滑油組成物は、要件(II)で規定するとおり、-40℃におけるBF粘度が4000mPa・s以下に調製することで、含浸軸受に用いた際の-40℃程度の低温環境下における浸潤性を良好とすることができる。
【0017】
本発明の潤滑油組成物の-40℃におけるBF粘度は、要件(II)で規定するとおり、4000mPa・s以下であるが、上記観点から、好ましくは3800mPa・s以下、より好ましくは3600mPa・s以下、更に好ましくは3500mPa・s以下、より更に好ましくは3400mPa・s以下であり、また、通常1000mPa・s以上である。
【0018】
なお、単に要件(I)のみを満たす潤滑油組成物を得るには、重合体(B)の含有量を増やせば調製可能かもしれないが、このようにして得られた潤滑油組成物は、上記要件(II)を満たさない蓋然性が極めて高い。つまり、重合体(B)の多量の添加によって、-40℃程度の低温環境下において、重合体(B)が存在に起因したBF粘度の上昇を招き易い。
また、基油(A)と重合体(B)との相溶性によっては、要件(I)及び(II)を満たす潤滑油組成物の調製が困難となる場合がある。つまり、低温環境下、及び、低温時と高温時との温度変化が激しい環境下における、潤滑油組成物の浸潤性の改善するためには、基油(A)と重合体(B)との相溶性を考慮し、要件(I)及び(II)を満たすように調製する必要がある。
【0019】
本発明の潤滑油組成物は、少なくとも以下の事項を考慮することで、要件(I)及び(II)を満たす潤滑油組成物としている。
・重合体(B)が、アルキル(メタ)アクリレートに由来する構成単位(b)を有するものであること。
・重合体(B)の含有量を、潤滑油組成物の全量基準で、0.1~10.0質量%となるように調製していること。
なお、上記の事項以外にも、エステル系油(A)の種類や、重合体(B)の構成単位(b)のアルキル(メタ)アクリレートの種類、重合体(B)の構成単位の含有割合、重合体(B)の分子量等を適宜考慮することで、上記要件(I)及び(II)を満たす潤滑油組成物とすることができる。
具体的な調製方法については、後述の成分(A)及び(B)の項目に記載のとおりである。
【0020】
本発明の一態様の潤滑油組成物の流動点としては、低温環境下で使用した際に、より優れた潤滑性及び浸潤性を発現し得る潤滑油組成物とする観点から、好ましくは-40℃以下、より好ましくは-45℃以下、更に好ましくは-50℃以下である。
本明細書において、流動点は、JIS K2269:1987に準拠して測定された値を意味する。
【0021】
また、本発明の一態様の潤滑油組成物の100℃における動粘度としては、自動車のエンジン駆動時のエンジンルーム内等の高温環境下において、より優れた潤滑性を発現し得る潤滑油組成物とする観点から、好ましくは10.0~15.0mm/s、より好ましくは10.5~14.5mm/s、更に好ましくは11.0~14.0mm/s、より更に好ましくは11.6~13.5mm/sである。
【0022】
本発明の潤滑油組成物は、成分(A)及び(B)を含むものであるが、本発明の効果を損なわない範囲で、成分(B)以外の潤滑油用添加剤をさらに含有してもよい。
【0023】
本発明の一態様の潤滑油組成物において、成分(A)及び(B)の合計含有量としては、当該潤滑油組成物の全量(100質量%)基準で、好ましくは70~100質量%、より好ましくは80~100質量%、更に好ましくは85~100質量%、より更に好ましくは90~100質量%である。
以下、本発明の一態様の潤滑油組成物に含まれる各成分の詳細について説明する。
【0024】
<基油(A)>
本発明の一態様の潤滑油組成物は、エステル系油(A1)を含む基油(A)を含有する。
基油(A)として、エステル系油(A1)を含有することで、重合体(B)との相溶性が向上し、上記要件(I)及び(II)の潤滑油組成物に調製し易くなる。
上記観点から、本発明の一態様で用いる基油(A)中のエステル系油(A1)の含有量としては、基油(A)の全量(100質量%)基準で、好ましくは60~100質量%、より好ましくは75~100質量%、更に好ましくは90~100質量%、より更に好ましくは95~100質量%である。
【0025】
本発明の一態様で用いる基油(A)の100℃における動粘度としては、好ましくは2.0~5.5mm/s、より好ましくは2.5~5.0mm/s、更に好ましくは3.0~4.5mm/s、より更に好ましくは3.2~4.2mm/sである。
【0026】
また、本発明の一態様で用いる基油(A)の粘度指数としては、好ましくは100以上、より好ましくは120以上、更に好ましくは140以上、より更に好ましくは160以上である。
なお、本発明の一態様において、基油(A)として、2種以上の基油を組み合わせた混合油を用いる場合、当該混合油の動粘度及び粘度指数が上記範囲であることが好ましい。
【0027】
本発明の一態様の潤滑油組成物において、基油(A)の含有量は、当該潤滑油組成物の全量(100質量%)基準で、好ましくは60質量%以上、より好ましくは70質量%以上、更に好ましくは80質量%以上、より更に好ましくは85質量%以上であり、また、好ましくは99質量.5%以下、より好ましくは99.0質量%以下、更に好ましくは97.0質量%以下である。
【0028】
[エステル系油(A1)]
エステル系油(A1)としては、エステル結合を有する化合物が挙げられ、例えば、二塩基酸エステル、ポリオールエステル、芳香族エステル、リン酸エステル等が挙げられる。
上記エステル系油は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0029】
これらの中でも、エステル系油(A1)としては、二塩基酸エステルが好ましい。
つまり、本発明の一態様において、重合体(B)との相溶性をより向上させ、上記要件(I)及び(II)を満たす潤滑油組成物とする観点から、基油(A)が、二塩基酸エステル(A11)を含有することが好ましい。
上記観点から、本発明の一態様で用いる基油(A)中の二塩基酸エステル(A11)の含有量としては、基油(A)の全量(100質量%)基準で、好ましくは60~100質量%、より好ましくは75~100質量%、更に好ましくは90~100質量%、より更に好ましくは95~100質量%である。
【0030】
二塩基酸エステル(A11)としては、二塩基酸と第1級アルコールとのエステルが挙げられるが、上記要件(I)及び(II)を満たす潤滑油組成物とする観点から、下記一般式(a-1)で表される化合物が好ましい。
【化1】
【0031】
前記一般式(a-1)中、R及びRは、それぞれ独立に、炭素数2~20(好ましくは4~16、より好ましくは6~13、更に好ましくは8~12)のアルキル基である。
また、Rは、炭素数2~20(好ましくは4~16、より好ましくは6~13、更に好ましくは8~12)のアルキレン基である。
【0032】
及びRとして選択し得る、当該アルキル基としては、例えば、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、ヘキシル基、オクチル基、2-エチルヘキシル基、ノニル基、3,3,5-トリメチルヘキシル基、デシル基、ジメチルオクチル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基等が挙げられる。
なお、当該アルキル基は、直鎖アルキル基であってもよく、分岐鎖アルキル基であってもよいが、分岐鎖アルキル基であることが好ましい。
【0033】
また、Rとして選択し得る、当該アルキレン基としては、例えば、エチレン基、プロピレン基、イソプロピレン基、ブチレン基、イソブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基、ヘプチレン基、オクチレン基、2-エチルヘキシレン基、ノニレン基、デシレン基、ウンデシレン基、トリデシレン基、ヘキサデシレン基等が挙げられる。
なお、当該アルキレン基は、直鎖アルキレン基であってもよく、分岐鎖アルキレン基であってもよいが、直鎖アルキレン基であることが好ましい。
【0034】
[エステル系油(A1)以外の基油]
本発明の一態様の潤滑油組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、基油(A)として、エステル系油(A1)以外の合成油を含有してもよい。
エステル系油(A1)以外の合成油としては、例えば、α-オレフィン単独重合体、又はα-オレフィン共重合体(例えば、エチレン-α-オレフィン共重合体等の炭素数8~14のα-オレフィン共重合体)等のポリα-オレフィン;イソパラフィン;ポリアルキレングリコール、ポリフェニルエーテル等の各種エーテル;アルキルベンゼン;アルキルナフタレン;等が挙げられる。
これらの合成油は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0035】
また、本発明の一態様の潤滑油組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、基油(A)として、鉱油を含有してもよいが、重合体(B)との溶解性を良好とする観点から、当該鉱油の含有量は極力少ないほど好ましい。
上記観点から、基油(A)中の鉱油の含有量は、基油(A)の全量(100質量%)基準で、好ましくは5質量%未満、より好ましくは2質量%未満、更に好ましくは1質量%未満、より更に好ましくは0.01質量%未満、特に好ましくは0質量%である。
【0036】
なお、本明細書における鉱油としては、例えば、パラフィン系原油、中間基系原油、ナフテン系原油等の原油を常圧蒸留して得られる常圧残油;これらの常圧残油を減圧蒸留して得られる留出油;当該留出油を、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、接触脱ろう、水素化精製等の精製処理を1つ以上施して得られる鉱油;天然ガスからフィッシャー・トロプシュ法等により製造されるワックス(GTLワックス(Gas To Liquids WAX))を異性化することで得られる鉱油(GTL)等を指す。
【0037】
<重合体(B)>
本発明の潤滑油組成物は、アルキル(メタ)アクリレートに由来する構成単位(b)を有する重合体(B)を含有する。重合体(B)は、粘度指数向上剤としての役割を担うものである。
そして、本発明の潤滑油組成物において、重合体(B)の含有量は、前記潤滑油組成物の全量(100質量%)基準で、0.1~10.0質量%であることを要する。
【0038】
重合体(B)の含有量が0.1質量%未満であると、要件(I)を満たすような高粘度指数の潤滑油組成物とすることが困難となる。特に、高温環境下で使用した際の潤滑性の悪化が問題となり易い。
一方、重合体(B)の含有量が10.0質量%超であると、要件(I)を満たす潤滑油組成物とし易くなるが、要件(II)を満たすような潤滑油組成物に調製することが難しくなる。つまり、-40℃程度の低温環境下において、多量の重合体(B)が存在に起因したBF粘度の上昇を招き易い。
【0039】
本発明の一態様の潤滑油組成物において、重合体(B)の含有量は、前記潤滑油組成物の全量(100質量%)基準で、要件(I)を満たす潤滑油組成物に調製する観点から、好ましくは0.5質量%以上、より好ましくは1.0質量%以上、更に好ましくは1.6質量%以上、より更に好ましくは2.0質量%以上であり、また、要件(II)を満たす潤滑油組成物に調製する観点から、好ましくは8.5質量%以下、より好ましくは7.0質量%以下、更に好ましくは6.0質量%以下、より更に好ましくは5.0質量%以下である。
【0040】
なお、ハンドリング性や基油(A)との溶解性を考慮し、重合体(B)は、希釈油により溶解された溶液の形態で市販されていることが多い。
ただし、本明細書において、上記「重合体(B)の含有量」は、希釈油で希釈された溶液においては、希釈油の質量を除外した、重合体(B)を構成する樹脂分に換算した含有量である。
【0041】
重合体(B)の重量平均分子量(Mw)は、重合体(B)の含有量を制限しつつも、要件(I)を満たす潤滑油組成物に調製する観点から、好ましくは35万以上、より好ましくは40万以上、更に好ましくは45万以上、より更に好ましくは48万以上であり、要件(II)を満たす潤滑油組成物に調製する観点から、好ましくは100万以下、より好ましくは80万以下、更に好ましくは70万以下、より更に好ましくは65万以下である。
【0042】
重合体(B)の分子量分布(Mw/Mn)(Mw:重合体(B)の重量平均分子量、Mn:重合体(B)の数平均分子量)としては、好ましくは2.2以下、より好ましくは2.1以下、更に好ましくは2.0以下、より更に好ましくは1.9以下である。
重合体(B)の分子量分布が小さくなる程、基油(A)との溶解性が良好となると共に、低温環境下で重合体(B)の凝集が抑制され易くなる。そのため、重合体(B)の分子量分布が2.2以下であれば、要件(I)及び(II)を満たす潤滑油組成物に調製し易くなる。
なお、重合体(B)の分子量分布(Mw/Mn)は、下限値としては特に制限はないが、通常1.05以上、好ましくは1.10以上、より好ましくは1.15以上である。
【0043】
本発明の潤滑油組成物に含まれる重合体(B)は、アルキル(メタ)アクリレートに由来する構成単位(b)を有するものであるが、本発明の効果を損なわない範囲で、アルキル(メタ)アクリレート以外の他のモノマーに由来する構成単位を有していてもよい。
ただし、本発明の一態様で用いる重合体(B)において、構成単位(b)の含有量としては、重合体の(B)の構成単位の全量(100モル%)基準で、好ましくは70~100モル%、より好ましくは80~100モル%、更に好ましくは90~100モル%、より更に好ましくは95~100モル%である。
【0044】
本発明の一態様において、要件(I)及び(II)を満たす潤滑油組成物に調製する観点から、重合体(B)が、メチル(メタ)アクリレートに由来する構成単位(b1)を有する重合体であることが好ましい。
構成単位(b1)の含有量は、上記観点から、重合体の(B)の構成単位の全量(100モル%)基準で、好ましくは70~99モル%、より好ましくは75~97モル%、更に好ましくは80~95モル%、より更に好ましくは85~93モル%である。
【0045】
また、本発明の一態様において、要件(I)及び(II)を満たす潤滑油組成物に調製する観点から、重合体(B)が、炭素数25以上(好ましくは25~35、より好ましくは28~32)の分岐鎖アルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレートに由来する構成単位(b2)を有する重合体であることが好ましく、構成単位(b1)及び(b2)を共に有する共重合体であることがより好ましい。
重合体(B)が、分岐鎖アルキル基を有することで、低温環境下で重合体(B)の凝集が抑制され易く、潤滑油組成物の高粘度指数化にも寄与し得る。また、当該分岐鎖アルキル基の炭素数が25以上であることで、重合体(B)の含有量が比較的少量であっても、高粘度指数化された潤滑油組成物が得られ易くなるため、要件(I)及び(II)を満たす潤滑油組成物に調製し易くなる。
【0046】
構成単位(b2)の含有量は、上記観点から、重合体(B)の構成単位の全量(100モル%)基準で、好ましくは0.1~30モル%、より好ましくは1~25モル%、更に好ましくは3~20モル%、より更に好ましくは5~17モル%である。
【0047】
構成単位(b1)及び(b2)の合計含有量は、上記観点から、重合体(B)の構成単位の全量(100モル%)基準で、好ましくは70~100モル%、より好ましくは80~100モル%、更に好ましくは90~100モル%、より更に好ましくは95~100モル%である。
【0048】
<潤滑油用添加剤>
本発明の一態様の潤滑油組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて、更に成分(B)以外の潤滑油用添加剤を含有してもよい。
このような潤滑油用添加剤としては、例えば、酸化防止剤、金属系清浄剤、分散剤、摩擦調整剤、耐摩耗剤、極圧剤、流動点降下剤、消泡剤、防錆剤、金属不活性化剤、帯電防止剤等が挙げられる。
また、上記の添加剤としての機能を複数有する化合物(例えば、耐摩耗剤及び極圧剤としての機能を有する化合物)を用いてもよい。
さらに、各潤滑油用添加剤は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0049】
これらの潤滑油用添加剤のそれぞれの含有量は、本発明の効果を損なわない範囲内で、適宜調製することができるが、潤滑油組成物の全量(100質量%)基準で、それぞれの添加剤ごとに独立して、通常0.001~15質量%、好ましくは0.005~10質量%、より好ましくは0.01~5質量%である。
【0050】
なお、本発明の一態様の潤滑油組成物において、成分(B)以外の粘度指数向上剤を含有してもよいが、要件(I)及び(II)を満たす潤滑油組成物に調製する観点から、成分(B)以外の粘度指数向上剤の含有量は少ないほど好ましい。
具体的な成分(B)以外の粘度指数向上剤の含有量としては、成分(B)の全量100質量部に対して、好ましくは0~10質量部、より好ましくは0~5質量部、更に好ましくは0~1質量部、より更に好ましくは0~0.1質量部である。
【0051】
〔潤滑油組成物の用途〕
本発明の潤滑油組成物は、低温領域から高温領域の広範な温度環境下での使用において優れた潤滑性を有し、低温時と高温時との温度変化が激しい環境下でも、優れた浸潤性を維持し得る。
そのため、本発明の潤滑油組成物は、自動車電装機器、家電機器、及びOA事務機器等の機器に組み込まれる含浸軸受に好適に使用し得るが、自動車に搭載される電動モータに組み込まれる含浸軸受として好適に使用し得る。
特に、本発明の潤滑油組成物は、北欧や北米等の寒冷地では-40℃程度の低温環境下で使用されると共に、低温時と高温時の温度差が大きく、温度変化が激しい環境下で使用される含浸軸受に用いられることがより好ましい。
【0052】
本発明の潤滑油組成物の上述の特性を考慮すると、本発明は、以下の[1]及び[2]も提供し得る。
[1]上述の本発明の潤滑油組成物を含浸された、含浸軸受。
[2]含浸軸受用の潤滑油として、上述の本発明の潤滑油組成物を用いる、潤滑油組成物の使用。
【実施例
【0053】
次に、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって何ら限定されるものではない。なお、各種物性の測定法又は評価法は、下記のとおりである。
【0054】
(1)動粘度、粘度指数
JIS K2283:2000に準拠して測定及び算出した。
(2)重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)
ゲル浸透クロマトグラフ装置(アジレント社製、「1260型HPLC」)を用いて、下記の条件下で測定し、標準ポリスチレン換算にて測定した値を用いた。
(測定条件)
・カラム:「Shodex LF404」を2本、順次連結したもの。
・カラム温度:35℃
・展開溶媒:クロロホルム
・流速:0.3mL/min
(3)BF粘度
ASTM D2983に準拠して測定した。
(4)流動点
JIS K2269:1987に準拠して測定した。
【0055】
実施例1~2、比較例1~4
表1に示す種類及び配合量の基油、重合体、及び各種添加剤を添加し、潤滑油組成物をそれぞれ調製した。なお、表1の記載において、重合体及び各種添加剤の配合量は、希釈油を除いた有効成分換算(樹脂分換算)での配合量である。
また、潤滑油組成物の調製に使用した、基油、重合体、及び各種添加剤の詳細は以下のとおりである。
【0056】
<基油>
・二塩基酸エステル:ドデカン二酸ビス(2-エチルヘキシル)、前記一般式(a-1)中のR及びRが2-エチルヘキシル基、Rがデシレン基(-(CH10-)である化合物。40℃動粘度=13.9mm/s、100℃動粘度=3.71mm/s、粘度指数=163。
【0057】
<重合体>
・PMA(1):メチルアクリレート/炭素数28~32の分岐鎖アルキル基を有するアルキルアクリレート=88/12(モル%)の含有量比となるように重合してなる重合体。Mw=59万、Mw/Mn=1.9。
・PMA(2):メチルアクリレート/炭素数28~32の分岐鎖アルキル基を有するアルキルアクリレート=90/10(モル%)の含有量比となるように重合してなる重合体。Mw=49万、Mw/Mn=1.8。
・PMA(3):メチルアクリレート/炭素数12~18の直鎖アルキル基を有するアルキルアクリレート=72/28(モル%)の含有量比となるように重合してなる重合体。Mw=31万、Mw/Mn=2.4。
・PMA(4):メチルアクリレート/炭素数16の直鎖アルキル基を有するアルキルアクリレート/炭素数24の分岐鎖アルキル基を有するアルキルアクリレート=67/22/11(モル%)の含有量比となるように重合してなる重合体。Mw=51万、Mw/Mn=3.2。
・PMA(5):メチルアクリレート/炭素数14~16の直鎖アルキル基を有するアルキルアクリレート=48/52(モル%)の含有量比となるように重合してなる重合体。Mw=40万、Mw/Mn=2.4。
・PMA(6):メチルアクリレート/炭素数24の分岐鎖アルキル基を有するアルキルアクリレート=87/13(モル%)の含有量比となるように重合してなる重合体。Mw=42万、Mw/Mn=2.3。
【0058】
<各種添加剤>
・酸化防止剤(1):アミン系酸化防止剤。
・酸化防止剤(2):フェノール系酸化防止剤。
・分散剤:ポリブテニルコハク酸イミド。
・極圧剤:硫黄・リン系極圧剤。
・金属不活性化剤:ベンゾトリアゾール
【0059】
調製した潤滑油組成物について、上述の方法に準拠して、40℃及び100℃における動粘度、粘度指数、-40℃におけるBF粘度、及び流動点について測定又は算出した。これらの結果を表1に示す。
【0060】
【表1】
【0061】
表1より、実施例1~2で調製した潤滑油組成物は、粘度指数が390以上と高粘度指数であると共に、-40℃におけるBF粘度が3390mPa・s以下と低い。そのため、これらの潤滑油組成物は、低温領域から高温領域の広範な温度環境下での使用において優れた潤滑性を有し、低温時と高温時との温度変化が激しい環境下でも、優れた浸潤性を維持し得ると考えられ、含浸軸受に好適に使用し得る。
【0062】
一方、比較例1~4で調製した潤滑油組成物は、粘度指数が350未満であるため、低温時と高温時との温度変化が激しい環境下で用いた場合に、浸潤性の低下に起因し、鳴きの発生頻度が高くなると推測される。
また、比較例1~3の潤滑油組成物は、上記の事項に加え、-40℃におけるBF粘度が高いため、低温環境下での流動性及び浸潤性に問題がある結果となった。そのため、これらの潤滑油組成物を含浸軸受に用いた場合に、低温環境下での使用時に、鳴きの発生頻度が高くなると推測される。