(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-05
(45)【発行日】2022-10-14
(54)【発明の名称】視線誘導装置及びそのプログラム
(51)【国際特許分類】
G06T 7/00 20170101AFI20221006BHJP
G06T 5/50 20060101ALI20221006BHJP
H04N 5/66 20060101ALI20221006BHJP
G09G 5/00 20060101ALI20221006BHJP
G09G 5/377 20060101ALI20221006BHJP
G09G 5/10 20060101ALI20221006BHJP
【FI】
G06T7/00 130
G06T5/50
H04N5/66 D
G09G5/00 530M
G09G5/36 520L
G09G5/10 B
(21)【出願番号】P 2018162264
(22)【出願日】2018-08-31
【審査請求日】2021-07-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000004352
【氏名又は名称】日本放送協会
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】澤畠 康仁
【審査官】松浦 功
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-138995(JP,A)
【文献】特開2004-220179(JP,A)
【文献】特開2010-033367(JP,A)
【文献】特開2006-069522(JP,A)
【文献】特開2014-052681(JP,A)
【文献】特開2013-168005(JP,A)
【文献】特開2006-184854(JP,A)
【文献】国際公開第2013/179424(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06T 7/00 - 7/90
G06T 5/00 - 5/50
H04N 5/66 - 5/74
G09G 5/00 - 5/40
G06T 11/00 -19/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
視距離に応じたパターンの視認可否を前記パターンのコントラストと空間周波数との関係により表したコントラスト感度曲線に基づいて、広視野画像上の視線誘導位置に視聴者の視線を誘導する視線誘導装置であって、
前記広視野画像上で前記視線誘導位置から離れる程、前記コントラスト感度曲線におけるコントラスト及び空間周波数が低くなるパターンが描かれた視線誘導画像を生成する視線誘導画像生成部と、
前記視線誘導画像生成部が生成した視線誘導画像を前記広視野画像に合成する画像合成部と、
を備えることを特徴とする視線誘導装置。
【請求項2】
前記視線誘導画像生成部は、前記パターンとして、集中線又は同心円が描かれた前記視線誘導画像を生成することを特徴とする請求項1に記載の視線誘導装置。
【請求項3】
前記視線誘導画像生成部は、前記視線誘導位置を中心とした視線誘導領域に前記パターンを描かずに前記視線誘導画像を生成することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の視線誘導装置。
【請求項4】
前記視線誘導画像生成部は、
前記広視野画像を表示する表示装置の画素ピッチp、前記パターンの周波数f、前記パターンのコントラストc、前記視線誘導領域の大きさs
1、前記パターンを描くパターン領域の大きさs
2、及び、予め設定された係数x,y,z,wが含まれる式(1)を用いて、前記パターンの周波数f´、前記パターンのコントラストc´、前記視線誘導領域の大きさs
1´、前記パターン領域の大きさs
2´を算出し、
【数1】
前記視線誘導位置(P
x,P
y)、及び、前記視線誘導画像の任意位置(p
x,p
y)が含まれる式(2)を用いて、前記任意位置(p
x,p
y)の輝度値v
g(p
x,p
y)を算出し、
【数2】
式(3)を用いて、前記任意位置(p
x,p
y)の輝度調整係数v
n(p
x,p
y)を算出し、
【数3】
最大値を取得する関数maxが含まれる式(4)を用いて、前記任意位置(p
x,p
y)の輝度値v(p
x,p
y)を算出し、
【数4】
算出した前記輝度値v(p
x,p
y)の前記視線誘導画像を生成することを特徴とする請求項1から請求項3の何れか一項に記載の視線誘導装置。
【請求項5】
コンピュータを、請求項1から請求項4の何れか一項に記載の視線誘導装置として機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、視聴者の視線を誘導する視線誘導装置及びそのプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、人物に注意を向けてほしい場所に視線を誘導するための手法が提案されている。例えば、特許文献1には、商品カタログ等のビジュアルドキュメントにおける視線誘導手法が記載されている。また、特許文献2,3には、車両の運転者に対する視線誘導手法が記載されている。
【0003】
ところで、近年、解像度が8K(横7680画素×縦4320画素)以上の超高精細映像システムの研究が進んでいる。超高精細映像システムでは、視聴者の臨場感を高める効果を狙い、広視野映像提示を可能としている。この広視野映像提示は、約100度の視野角で映像を提示することで、あたかもその場にいるような高い臨場感の映像視聴体験を提供することができる。
【0004】
広視野で映像を視聴するということは、視聴者が、従前のテレビ視聴よりも画面に近づいて映像を視聴するということに他ならない。人間の視覚が高い解像度で視覚像を知覚できる範囲(網膜の中心窩が捉える範囲)は、視野角で数十度の範囲内にすぎない。このため、広視野映像提示において、視聴者は、画面全体を視野の中心で捉えることが困難である。
【0005】
従って、広視野映像提示では、視対象が視野内で広範囲に分散している場合や視対象が移動する場合、視聴者が視対象を見つけることが難しく、視対象を見失ってしまう可能性がある。このように、広視野映像提示では、臨場感が高められる一方、映像制作者の意図を正しく伝えることが難しくなる。さらに、広視野映像提示では、視対象を探すという作業が必要になり視聴者の負担が生じる。その結果、広視野映像提示では、視聴者が広視野で映像を見ようとしない、すなわち、視聴者が画面から離れて映像を視聴する傾向がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2005-182746号公報
【文献】特開2014-99105号公報
【文献】特開2006-327310号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
超高精細映像システムは、視聴者が画面に近づいて視聴した場合でも映像品質が保てるという考えの元に設計されている。超高精細映像システムの高品質さがもたらす特別な視聴体験を保ちながら、効率的な情報伝達を実現するために、広視野映像提示における視聴者の負担を軽減する必要がある。つまり、広視野映像提示において、画面に近い視聴者の視線のみを誘導する手法が求められている。
【0008】
しかし、前記した特許文献1~3に記載の技術は、広視野映像提示において、画面に近い視聴者のみ視線を誘導するような、視距離に応じて選択的に視線誘導効果を及ぼす仕組みとなっていない。
【0009】
本発明は、視距離に応じて視聴者の視線を誘導できる視線誘導装置及びそのプログラムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記した課題に鑑みて、本発明に係る視線誘導装置は、視距離に応じたパターンの視認可否をパターンのコントラストと空間周波数との関係により表したコントラスト感度曲線に基づいて、広視野画像上の視線誘導位置に視聴者の視線を誘導する視線誘導装置であって、視線誘導画像生成部と、画像合成部と、を備える構成とした。
【0011】
かかる構成によれば、視線誘導画像生成部は、広視野画像上で視線誘導位置から離れる程、コントラスト感度曲線におけるコントラスト及び空間周波数が低くなるパターンが描かれた視線誘導画像を生成する。
そして、画像合成部は、視線誘導画像生成部が生成した視線誘導画像を広視野画像に合成する。
【0012】
この視線誘導画像のパターンは、コントラスト感度曲線に基づいて描かれているので、パターンの視認可否が視距離に応じて異なる。つまり、視線誘導装置は、画面に近い視聴者が視線誘導用のパターンを視認できるので、画面に近い視聴者のみ視線を誘導できる。一方、視線誘導装置は、画面から遠い視聴者が視線誘導用のパターンを視認できないので、画面から遠い視聴者の臨場感を損なうことがない。
【0013】
なお、本発明に係る視線誘導装置は、一般的なコンピュータを前記した各手段として協調動作させるプログラムで実現することもできる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、視距離に応じて視聴者の視線を誘導することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】(a)及び(b)は、本発明におけるコントラスト感度曲線を説明する説明図である。
【
図2】実施形態において、視線誘導装置の処理概要を説明する説明図である。
【
図3】実施形態に係る視線誘導装置の構成を示すブロック図である
【
図4】実施形態において、視線誘導装置に設定するパラメータを説明する説明図である。
【
図5】実施形態において、視線誘導画像を説明する説明図である。
【
図6】
図3の視線誘導装置の動作を示すフローチャートである。
【
図7】変形例において、視線誘導画像を説明する説明図である。
【
図8】実施例における各画像の一例を表しており、(a)は広視野画像であり、(b)は視線誘導画像であり、(c)は合成画像である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(本発明の原理:コントラスト感度曲線)
図1を参照し、本発明の原理について説明した後、実施形態を詳述する。
本発明では、視線誘導用のパターン(例えば、集中線や同心円)を広視野画像に合成表示することによって、視聴者の視線誘導を促す。このパターンは、人間の視覚で捉えられる限界付近の低コントラスト、かつ、低空間周波数(高空間周波数でも可)で描画される。
【0017】
図1(a)に示すように、人間の視覚におけるコントラストと網膜上の空間解像度の間には関係があることが知られている。
図1では、縦軸がコントラストを表し、横軸が空間周波数を表す。人間の視覚は、バンドパスフィルタのように働く。すなわち、網膜上に投射されたパターンの空間周波数が低すぎる場合又は高すぎる場合、そのパターンを視認することができない。さらに、パターンのコントラスト値(白・黒の輝度値の差)が低下すると、その傾向が強まる。
図1(b)に示すように、人間が視認できる領域と視認できない領域の境界は、コントラスト感度曲線CVで表される。
なお、
図1(b)では、コントラスト感度曲線CVの下側が人間が視認できる領域となり、コントラスト感度曲線CVの上側が人間が視認できない領域となる。また、
図1(b)は、
図1(a)にコントラスト感度曲線CVを描いたものである。
【0018】
前記したように、空間周波数が網膜上で定義されるため、視距離が変化すると、コントラスト感度曲線CVが上下に移動することになる。このとき、コントラスト感度曲線CVの曲がり方も若干変化する。従って、コントラスト感度曲線CV付近のコントラスト及び空間周波数で描かれたパターンは、視距離により、見える場合と見えない場合に分かれる。つまり、コントラスト感度曲線CVは、視距離に応じたパターンの視認可否を、コントラストと空間周波数との関係から定めたものと言える。このコントラスト感度曲線CVの特性を利用して、画面から遠い視聴者には視線誘導効果を発揮することなく、画面に近い視聴者のみに視線誘導効果を発揮するパターンを描くことができる。
なお、視距離は、広視野画像表示装置2の画面の高さと、広視野画像表示装置2から視聴者までの距離との比とする。
【0019】
このパターンは、視距離に応じて、空間周波数とコントラストを調整することによって、画面に近づいて視聴したときに辛うじて視認できるようにする。人間の特性として、意識的に視覚像を知覚することができなくても、人間の行動に影響をもたらす効果(例えば、サブリミナル効果)によって視線の誘導を期待することができる。
【0020】
(実施形態)
[注視誘導画像生成装置の構成]
以下、本発明の実施形態について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。なお、実施形態において、同一の手段には同一の符号を付し、説明を省略した。
図2,
図3を参照し、本実施形態に係る注視誘導画像生成装置(視線誘導装置)1の構成について、説明する。
【0021】
注視誘導画像生成装置1は、広視野画像上の注視誘導位置(視線誘導位置)に視聴者の視線を誘導するものである。具体的には、注視誘導画像生成装置1は、
図2に示すように、注視誘導用のパターンMがコントラスト感度曲線CVに基づいて描かれた注視誘導画像(視線誘導画像)Eを生成する。そして、注視誘導画像生成装置1は、生成した注視誘導画像Eと広視野画像Fとを合成し、その合成画像Gを広視野画像表示装置2に出力する。
【0022】
なお、広視野画像Fとは、広視野画像表示装置2で想定する視距離(例えば、0.75H)において、100度以上の広い視野角で視聴可能な画像のことである。例えば、広視野画像Fは、解像度が8K以上の画像である。例えば、広視野画像Fが8K以上の解像度であれば、1画素あたりの視野角が1分(1/60度)以下となり、画素構造に起因する意図しない空間周波成分の発生を抑制することができる。
また、注視誘導画像Eとは、広視野画像F上の注視誘導位置(
図2では航空機Tの位置)に視聴者の視線を誘導するパターンMが描かれた画像のことである。本実施形態では、注視誘導画像Eが、パターンMとして、航空機Tの周囲から放射状に広がる集中線が描かれた集中線画像である。
また、広視野画像F及び注視誘導画像Eは、同一サイズであり、互いの画素位置が対応することとする。
【0023】
広視野画像表示装置2は、注視誘導画像生成装置1から入力された合成画像Gを表示する一般的な表示装置である。例えば、広視野画像表示装置2としては、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、有機ELディスプレイ等のフラットパネルディスプレイがあげられる。
【0024】
図3に示すように、注視誘導画像生成装置1は、映像受信・デコード部10と、注視誘導用パラメータ取得部20と、画面パラメータ取得部30と、注視誘導画像生成部(視線誘導画像生成部)40と、画像合成部50とを備える。
【0025】
映像受信・デコード部10は、広視野画像表示装置2に表示する映像を受信し、受信した映像をデコードするものである。例えば、映像受信・デコード部10は、放送又は通信により映像を受信し、エンコードに対応した手法で映像をデコードする。そして、映像受信・デコード部10は、デコードした映像の各フレーム画像(広視野画像)Fを画像合成部50に出力する。
【0026】
注視誘導用パラメータ取得部20は、注視誘導画像Eの生成に必要な注視誘導用パラメータを取得するものである。例えば、注視誘導用パラメータ取得部20は、放送又は通信により、映像制作者が予め設定した注視誘導用パラメータを取得する。そして、注視誘導用パラメータ取得部20は、取得した注視誘導用パラメータを注視誘導画像生成部40に出力する。
【0027】
画面パラメータ取得部30は、広視野画像表示装置2の画面に関連した画面パラメータを取得するものである。例えば、画面パラメータ取得部30は、注視誘導画像生成装置1の利用者が予め設定した画面パラメータを取得する。そして、画面パラメータ取得部30は、取得した画面パラメータを注視誘導画像生成部40に出力する。
【0028】
注視誘導画像生成部40は、広視野画像F上で注視線誘導位置から離れる程、コントラスト感度曲線CVにおけるコントラスト及び空間周波数が低くなるパターンMが描かれた注視誘導画像Eを生成するものである。そして、注視誘導画像生成部40は、生成した注視誘導画像Eを画像合成部50に出力する。
なお、注視誘導画像生成部40の詳細は、後記する。
【0029】
画像合成部50は、注視誘導画像生成部40からの注視誘導画像Eと、映像受信・デコード部10からの広視野画像Fとを合成し、その合成画像Gを広視野画像表示装置2に出力するものである。
【0030】
<注視誘導画像の生成及び合成>
図4,
図5を参照し、注視誘導画像Eの生成及び合成について説明する(適宜
図1~
図3参照)。
なお、
図4,
図5では、図面を見やすくするため、白地に黒色のパターンMを図示したが、実際は、黒地に白色のパターンMを描くことになる(
図8参照)。また、
図4,
図5では、パターンMのコントラストの強弱をドットの濃淡で図示した。
【0031】
図4に示すように、注視誘導用パラメータには、注視誘導位置(P
x,P
y)、パターンMの周波数f、パターンMのコントラストc、注視誘導領域A
1の大きさs
1、パターン領域A
2の大きさs
2が含まれる。
【0032】
パターンMの周波数(空間周波数)fは、パターンMが集中線の場合には集中線の本数に相当する。
パターンMのコントラストcは、注視誘導画像Eの背景とパターンMとの輝度比である。
注視誘導領域A1は、注視誘導画像Eにおける視聴者の視線誘導先の領域であり、この領域内部にはパターンMを描かない。この注視誘導領域A1は、注視誘導位置(Px,Py)を中心とした半径s1の円領域である。
パターン領域A2は、注視誘導画像EにおいてパターンMを描く領域であり、注視誘導位置(Px,Py)を中心とした半径s2の円領域である。
【0033】
この注視誘導用パラメータは、任意の値で予め設定する。また、パターンMの周波数f及びコントラストcは、広視野画像表示装置2で想定する視距離(例えば、0.75H)において、コントラスト感度曲線CVを考慮して設定するとよい。つまり、パターンMの周波数f及びコントラストcは、想定した視距離以下の視聴者がパターンMを視認できる一方、その視距離を超える視聴者がパターンMを視認できないように、コントラスト感度曲線CVに基づいて設定すればよい。
【0034】
なお、注視誘導画像Eでは、注視誘導領域A
1とパターン領域A
2との間にパターンMを描くことになる。また、パターン領域A
2が注視誘導画像Eに含まれる範囲のみ、パターンMを描けばよい。言い換えるなら、パターン領域A
2が注視誘導画像Eから外れる範囲には、パターンMを描く必要がない(
図4)。
【0035】
画面パラメータには、広視野画像表示装置2の画面サイズ及び解像度が含まれる。この画面サイズは、広視野画像表示装置2の画面の高さ及び幅を表す。また、解像度は、広視野画像表示装置2の縦横の画素数を表す。
まず、注視誘導画像生成部40は、画面パラメータを参照し、物理的な画面サイズ及び解像度から、画素ピッチpを求める。具体的には、注視誘導画像生成部40は、画面サイズを解像度で除算し、画素ピッチpを算出する。
【0036】
次に、注視誘導画像生成部40は、画素ピッチpに応じて、注視誘導用パラメータを調整する。具体的には、注視誘導画像生成部40は、式(1)を用いて、パターンMの周波数f´と、パターンMのコントラストc´、注視誘導領域A1の大きさs1´、パターン領域A2の大きさs2´を算出する。なお、x,y,z,wは、調整用に予め設定された係数である(0≦x,y,z,w≦1)。
【0037】
【0038】
ここで、注視誘導画像E上に任意位置を1点設定し、この任意位置(px,py)の輝度値vgを決めることとする。この場合、注視誘導画像生成部40は、式(2)を用いて、注視誘導位置(Px,Py)を中心とした注視誘導画像Eを生成すればよい(0≦vg≦1)。この式(2)では、任意位置(px,py)において、周波数f´に応じた輝度値vg(px,py)を算出することになる。
【0039】
【0040】
注視誘導位置(Px,Py)の付近では、折り返しによって知覚できる模様(折り返し歪)が生じてしまうため、この付近(注視誘導領域A1の領域内)にパターンMを描かないこととする。また、注視誘導位置(Px,Py)から離れる程、パターンMの空間周波数の低下に伴ってパターンMが視認されやすくなるため、コントラストも低下させる必要がある。そこで、注視誘導画像生成部40は、式(3)を用いて、任意位置(px,py)の輝度調整係数vn(px,py)を算出する。
【0041】
【0042】
なお、式(3)では、右辺第1項がパターン領域A2の外側ほど値が小さくなり、右辺第2項が注視誘導領域A1の外側ほど値が小さくなることを表す。
【0043】
そして、注視誘導画像生成部40は、式(4-1)及び式(4-2)を用いて、任意位置(p
x,p
y)の輝度値v(p
x,p
y)を算出する。このように、任意位置(p
x,p
y)における輝度値v
g(p
x,p
y)と輝度調整係数v
n(p
x,p
y)を乗じることで、
図5に示すように注視誘導画像Eを生成できる。
【0044】
【0045】
なお、maxは、最大値を取得する関数である。また、式(4-1)は、注視誘導領域A1とパターン領域A2との間において、注視誘導位置(Px,Py)から離れる程、パターンMのコントラスト及び空間周波数が低くなることを表す。また、式(4-2)の係数γは、正規化のためのものである。つまり、式(4-2)は、注視誘導画像Eにおいて、輝度値v(px,py)の最大値を1とすることを表す。
【0046】
次に、画像合成部50は、式(5)を用いて、合成画像Gの任意位置(px,py)におけるRGB値r´,g´,b´を算出する。この式(5)では、広視野画像Fの任意位置(px,py)におけるRGB値がr,g,bである(0≦r,g,b≦1)。
なお、画像合成部50は、RGB値r´,g´,b´のそれぞれが1を超える場合、1に調整するとよい。
【0047】
【0048】
なお、1点の任意位置(px,py)について説明したが、実際には、注視誘導画像Eの各画素について前記した演算を行う。つまり、注視誘導画像生成部40及び画像合成部50は、注視誘導画像Eの各画素を任意位置(px,py)として設定し、式(1)~式(5)の演算を注視誘導画像Eの各画素について行う。
【0049】
[注視誘導画像生成装置の動作]
図6を参照し、注視誘導画像生成装置1の動作について説明する。
図6に示すように、画面パラメータ取得部30は、広視野画像表示装置2の画面パラメータ(画面サイズ及び解像度)を取得する(ステップS1)。
【0050】
映像受信・デコード部10は、広視野画像表示装置2に表示する映像を受信し、受信した映像をデコードする(ステップS2)。
注視誘導用パラメータ取得部20は、注視誘導用パラメータとして、注視誘導位置(Px,Py)、パターンMの周波数f、パターンMのコントラストc、注視誘導領域A1の大きさs1、パターン領域A2の大きさs2を取得する(ステップS3)。
【0051】
注視誘導画像生成部40は、注視線誘導位置から離れる程、コントラスト感度曲線CVにおけるコントラスト及び空間周波数が低くなるパターンMが描かれた注視誘導画像Eを生成する。具体的には、注視誘導画像生成部40は、前記した式(1)~式(4)を用いて、注視誘導画像Eを生成する(ステップS4)。
【0052】
画像合成部50は、ステップS4で生成した注視誘導画Eと、ステップS1で受信した映像(広視野画像F)とを合成する(ステップS5)。具体的には、画像合成部50は、前記した式(5)を用いて、注視誘導画Eと広視野画像Fの合成画像Gを生成する(ステップS5)。
画像合成部50は、ステップS5で生成した合成画像Gを広視野画像表示装置2に出力する(ステップS6)。
【0053】
注視誘導画像生成装置1(画像合成部50)は、処理を終了するか否かを判定する。例えば、注視誘導画像生成装置1は、最終の広視野画像Fを合成した場合(ステップS7でYes)、処理を終了する。
注視誘導画像生成装置1は、処理を終了しない場合(ステップS7でNo)、ステップS2の処理に戻り、次フレームの広視野画像について処理を行う。
【0054】
[作用・効果]
以上のように、注視誘導画像生成装置1は、視距離に応じて視聴者の視線を誘導することができる。つまり、注視誘導画像生成装置1は、画面に近い視聴者のみ視線を誘導するので、画面から遠い視聴者の臨場感を損なうことがなく、映像品質の劣化を抑制することができる。さらに、注視誘導画像生成装置1は、広視野映像提示において、視聴者が視対象を見逃すことによる映像理解の妨げを低減することができる。これにより、注視誘導画像生成装置1は、8Kのような広視野映像提示における視聴体験をより向上させ、広視野映像提示の普及促進に寄与する。
【0055】
パターンMが非常に低いコントラスト、かつ、非常に高い空間周波数で描かれることが多いため、符号化によりパターンMが消失する可能性がある。このため、映像受信側の注視誘導画像生成装置1が、パターンMを別途描画し、映像に合成することで、パターンMの消失を防止することができる。
【0056】
(変形例)
以上、本発明の実施形態を詳述してきたが、本発明は前記した各実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。
前記した実施形態では、注視誘導画像生成装置と広視野画像表示装置を別々の装置として説明したが、両装置を一体化してもよい。
【0057】
前記した実施形態では、注視誘導用のパターンとして、集中線を描くこととして説明したが、パターンはこれに限定されない。例えば、注視誘導画像生成装置は、
図7に示すように、パターンM
2として同心円が描かれた注視誘導画像E
2を生成してもよい。この注視誘導画像E
2では、注視誘導位置から離れる程、同心円のコントラスト及び空間周波数が低くなる。
なお、
図7の注視誘導画像E
2では、図面を見やすくするため、白地に黒色のパターンM
2を図示したが、実際は、黒地に白色のパターンM
2を描くことになる。
【0058】
前記した実施形態では、注視誘導画像生成装置を独立したハードウェアとして説明したが、本発明は、これに限定されない。例えば、本発明は、コンピュータが備えるCPU、メモリ、ハードディスク等のハードウェア資源を、前記した注視誘導画像生成装置として協調動作させるプログラムで実現することもできる。これらのプログラムは、通信回線を介して配布してもよく、CD-ROMやフラッシュメモリ等の記録媒体に書き込んで配布してもよい。
【実施例】
【0059】
本発明の実施例として、注視誘導画像Eを例示する。
図8(a)に示すように、単色背景の広視野画像Fに文字A,B,Cが表示されており、この文字Bに視聴者の視線を誘導することとする。この場合、注視誘導画像生成装置は、
図8(b)に示すように注視誘導画像Eを生成し、
図8(c)に示すように広視野画像Fと注視誘導画像Eを合成する。
図8(c)の合成画像Gでは、文字Bを中心に集中線が描かれており、文字Bから離れる程、集中線が目立ちにくくなる。
【0060】
なお、
図8(b)の注視誘導画像Eは、周波数f=100、コントラストc=0.1、大きさs
1=3、s
2=1500、画素ピッチp=1、x=y=z=w=1というパラメータでパターンMを描いたものである。
【符号の説明】
【0061】
1 注視誘導画像生成装置(視線誘導装置)
2 広視野画像表示装置
10 映像受信・デコード部
20 注視誘導用パラメータ取得部
30 画面パラメータ取得部
40 注視誘導画像生成部(視線誘導画像生成部)
50 画像合成部
A1 注視誘導領域
A2 パターン領域
CV コントラスト感度曲線
E,E2 注視誘導画像(視線誘導画像)
F 広視野画像
G 合成画像
M,M2 パターン
T 航空機