(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-05
(45)【発行日】2022-10-14
(54)【発明の名称】ホログラム記録装置およびホログラム再生装置
(51)【国際特許分類】
G03H 1/06 20060101AFI20221006BHJP
G03H 1/22 20060101ALI20221006BHJP
【FI】
G03H1/06
G03H1/22
(21)【出願番号】P 2018192541
(22)【出願日】2018-10-11
【審査請求日】2021-09-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000004352
【氏名又は名称】日本放送協会
(74)【代理人】
【識別番号】100097984
【氏名又は名称】川野 宏
(74)【代理人】
【識別番号】100098073
【氏名又は名称】津久井 照保
(72)【発明者】
【氏名】信川 輝吉
(72)【発明者】
【氏名】片野 祐太郎
(72)【発明者】
【氏名】室井 哲彦
(72)【発明者】
【氏名】木下 延博
(72)【発明者】
【氏名】石井 紀彦
【審査官】渡邊 吉喜
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第9360299(US,B1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0139561(US,A1)
【文献】D. Weigel, H. Babovsky, A Kiessling, R. Kowarschik,Aberration correction in coherence imaging microscopy using an image inverting interferometer,Optics Express,vol. 23, issue 16,2015年07月28日,pp. 20505-20520
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03H 1/06
G03H 1/22
G02B 5/18、5/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インコヒーレントな光波を第1分割光と第2分割光からなる2つの光波に分割する光波分割手段と、
これら2つの分割した光波の波面の空間座標を相対的に回転させる波面回転手段と、
該第1分割光および該第2分割光の少なくとも一方の波面の曲率半径を変調して、該2つの分割した光波の波面に、相対的に球面位相の分布を付与する位相分布可変手段と、
前記波面回転手段および前記位相分布可変手段を通過した前記第1分割光および前記第2分割光を合波する光合波手段と、
この光合波手段により合波された前記第1分割光および前記第2分割光が、互いに干渉して形成されたホログラムを記録するホログラム記録手段と、
を備えたことを特徴とするホログラム記録装置。
【請求項2】
前記ホログラム記録手段が撮像手段を備え、
前記位相分布可変手段において、前記第1分割光または前記第2分割光に、曲率半径が無限大である平面位相を付与することにより、前記撮像手段によるパンフォーカス像の撮像を可能とし、前記第1分割光および前記第2分割光の波面の差分が、有限の大きさの曲率半径の球面位相となるように、これら2つの分割光の少なくとも一方に、有限の大きさの曲率半径の球面位相を付与することにより、前記撮像手段による立体像の撮像を可能とするように構成されていることを特徴とする請求項1に記載のホログラム記録装置。
【請求項3】
前記撮像手段により撮像されるパンフォーカス像または立体像について、横倍率、分解能および視野のうち少なくとも1つを変更可能とするように、光波の波面の空間座標の回転角度が任意に調整可能に構成されていることを特徴とする請求項2に記載のホログラム記録装置。
【請求項4】
前記光波分割手段の対象物体側にレンズを配設し、前記撮像手段の撮像面を、該レンズの後側焦点距離だけ離間した位置に配設することを特徴とする請求項2または3に記載のホログラム記録装置。
【請求項5】
前記波面回転手段がダブプリズム、コーナーキューブプリズム、リトロリフレクタおよび直角プリズムのいずれかであることを特徴とする請求項1~4のうちいずれか1項に記載のホログラム記録装置。
【請求項6】
前記位相分布可変手段が、複屈折を有する空間光変調器、回折光学素子および液晶レンズのいずれかであることを特徴とする請求項1~5のうちいずれか1項に記載のホログラム記録装置。
【請求項7】
インコヒーレントな光波を第1分割光と第2分割光からなる2つの光波に分割し、これら2つの分割した光波の波面の空間座標を相対的に回転させるとともに、少なくとも一方の該波面の曲率半径を変調して、該2つの分割した光波の波面に、相対的に球面位相の分布を付与し、これら2つの分割した光波を互いに干渉させて撮像面に形成されたホログラムに基づき、再生像を生成するホログラム再生装置において、
前記球面位相に係る球面波の曲率半径および記録対象である物体の位置に基づき設定される、前記光波の回折伝搬による伝搬距離だけ前記撮像面から離れた位置に再生像が形成されるように構成されていることを特徴とするホログラム再生装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホログラム記録装置およびホログラム再生装置に関し、詳しくは、インコヒーレントな光を用いたホログラフィにより、立体像あるいはパンフォーカス像を記録するホログラム記録装置およびその記録された情報を再生するホログラム再生装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
インコヒーレントホログラフィの技術では、レーザなどのコヒーレンスが高い光源を必要とせず、太陽光や蛍光などのコヒーレンス性が低い光源を用いて、物体のホログラムを記録することができる。このように、インコヒーレントホログラフィは、従来のホログラフィで要求されていた光源のコヒーレンス性の条件を緩和できるため、ホログラフィの応用範囲を拡大する可能性を秘めている。
【0003】
従来から知られているインコヒーレントホログラフィの光学系の一例を
図12に示す(特許文献1、非特許文献1、2、3、4、5を参照)。
このうち、
図12(a)に示す、非共通光路干渉計の代表格であるマイケルソン干渉計を用いたインコヒーレントホログラフィでは、物体801から伝搬された空間的にインコヒーレントな光波を、ビームスプリッター802を用いて2つの光波に分割する。これら分割された2つの光波のうち一方を第1分割光、他方を第2分割光と各々称する。これら2つの分割光のうち、第1分割光をミラー803aにより反射させるとともに、第2分割光を、ミラー803aとは曲率半径が異なるミラー803bにより反射させて、それぞれの位相分布を変調する。
【0004】
ミラー803a、ミラー803bで各々反射した2つの光波は、再びビームスプリッター802に入射され、重ね合わされる。光源のコヒーレンス長よりも、2つの光波の光路長差が短い場合、第1分割光と第2分割光は干渉するため、撮像素子805により自己干渉のホログラムを撮像することができる。なお、光源のコヒーレンス長が短く、ホログラムが形成されない場合には、光源からの光波の波長範囲を狭くするために、バンドパスフィルター804が用いられる。
【0005】
これに対し、
図12(b)に示す、共通光路干渉計を用いたインコヒーレントホログラフィは、単一の光路により光学系が構成されるため、振動や空気の擾乱に強いことが特徴である。
【0006】
図12(b)に示す光学系においては、物体から伝搬してきた空間的にインコヒーレントな光波を、偏光子816a、およびこの偏光子816aに対して直交する偏光成分を出力する偏光子816bに通過させる。すなわち、光波を、互いに直交する偏光成分を有する2つの光波の重ね合わせと考え、それぞれの光波を第1分割光と第2分割光とする。そして、2つの偏光子816a、816bの間に配された、複屈折を有する空間光変調器、回折光学素子あるいは液晶レンズ等のいずれか(
図12(b)においては空間光変調器817)を用いて、第1分割光と第2分割光の位相分布を変調する。
【0007】
この後、第1分割光と第2分割光を偏光子816bに通過させることにより、偏光状態が互いに直交していた第1分割光と第2分割光の偏光状態を揃える。その結果、第1分割光と第2分割光が撮像素子815の撮像面上で干渉し、自己干渉のホログラムを撮像することができ、このホログラム情報を記録する。
【0008】
図12(a)、
図12(b)の各干渉計により取得したホログラムを再生する際の手順は共通しており、コンピュータ内で回折伝搬の計算を適用することにより、撮像物体の立体像を再構成することができる。下記特許文献1および下記非特許文献1、2では、上述の光学系を用いて、蛍光を発する3次元物体の立体像を撮像することに成功している。下記非特許文献3、4、5では、上述の光学系を用いて、アークランプ、発光ダイオード、あるいは太陽光で照明された3次元物体の立体像を撮像することに成功している。
【0009】
上述の光学系はいずれも、インコヒーレントホログラフィの技術により、3次元物体の立体像を撮像するものであるが、このようなインコヒーレントホログラフィの技術を用い、3次元物体の手前の面から奥の面まで、光軸方向の広い範囲にわたって合焦した像、すなわちパンフォーカス像を撮像するための光学系も知られている(下記非特許文献6、7を参照)。
【0010】
図13に、インコヒーレントホログラフィによりパンフォーカス像を取得するための光学系の一例を示す。本光学系では、物体から伝搬してきた空間的にインコヒーレントな光波を、ビームスプリッター922により2つの光波に分割し、第1分割光と第2分割光を得、それぞれの光波を各々対応するダブプリズム928a、928bに入射させる。これらの2つのダブプリズム928a、928bは、光軸を回転軸として回転角が相対的に90度だけ異なるようにして配置されている。その結果、ダブプリズム928a、928bを通過した第1分割光と第2分割光の空間座標は、上記90°の2倍である180°だけ相対的に回転した値となる。
【0011】
これらの第1分割光と第2分割光をビームスプリッター929に入射させて、互いに重畳させる。
図12(b)の共通光路干渉計は、
図12(a)のマイケルソン干渉計と同様に、2つの光波の光路長差が、光源のコヒーレンス長よりも短い場合に干渉するため、撮像素子925を配置して自己干渉のホログラムを撮像し、記録することができる。この光学系で記録したホログラムは、フーリエ変換型のホログラムに相当しているため、コンピュータ内で、フーリエ変換の演算を適用することにより、3次元物体のパンフォーカス像を再生することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【非特許文献】
【0013】
【文献】J. Rosen and G. Brooker、「Non-scanning motionless fluorescence three-dimensional holographic microscopy」、Nature Photonics、(2008)、vol. 2、pp. 190-195
【文献】N. Siegel, V. Lupashin, B. Storrie, and G. Brooker、「High-magnification super-resolution FINCH microscopy using birefringent crystal lens interferometers」、Nature Photonics、(2016)、vol. 10、pp. 802-808
【文献】M. K. Kim、「Full color natural light holographic camera」、Optics Express、(2013)、 vol. 21、issue 8、pp. 9636-9642
【文献】J. Rosen and G. Brooker、「Fluorescence incoherent color holography」、Optics Express、(2007) vol. 15、issue 5、pp. 2244-2250
【文献】P. Bouchal and Z. Bouchal、「Selective edge enhancement in three-dimensional vortex imaging with incoherent light」、Optics Letters、(2012) vol. 37、issue 14、pp. 2949-2951
【文献】P. Potuluri, M. R. Fetterman, and D. J. Brady、「High depth of field microscopic imaging using an interferometric camera」、Optics Express、(2001)、 vol. 8、pp. 624-630
【文献】D. Weigel, H. Babovsky, A Kiessling, and R. Kowarschik、「Aberration correction in coherence imaging microscopy using an image inverting interferometer」、Optics Express、(2015)、 vol. 23、issue 16、pp. 20505-20520
【文献】M. Takeda, H. Ina, and S. Kobayashi、「Fourier-transform method of fringe-pattern analysis for computer-based topography and interferometry」、Journal of the Optical Society of America、(1982)、 vol. 72、issue 1、pp. 156-160
【文献】I. Yamaguchi and T. Zhang、「Phase-shifting digital holography」、Optics Letters、(1997)、 vol. 22、issue 16、pp. 1268-1270
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
上述したように、インコヒーレントホログラフィの技術を用いることにより、立体像あるいはパンフォーカス像いずれかの撮像を実現することができるが、仮に、1台の装置で立体像およびパンフォーカス像の撮像機能を自在に切り替えるようにして、立体像およびパンフォーカス像のいずれをも撮像することができれば、撮影状況に応じた多様な撮像を容易に実現することができるので好ましい。
【0015】
しかしながら、上述した特許文献1および非特許文献1~5に開示された光学系のいずれにおいても、3次元物体の立体像を撮像することは可能であるが、パンフォーカス像を撮像することはできない。一方、上述した非特許文献6、7の技術によっては、3次元物体のパンフォーカス像を撮像することは可能であるが、立体像を撮像することはできない。
【0016】
本発明では、単一の光学系を用い、撮影状況に応じて立体像およびパンフォーカス像の撮像機能を切り替え可能なホログラム記録装置およびホログラム再生装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明のホログラム記録装置は、
インコヒーレントな光波を第1分割光と第2分割光からなる2つの光波に分割する光波分割手段と、
これら2つの分割した光波の波面の空間座標を相対的に回転させる波面回転手段と、
該第1分割光および該第2分割光の少なくとも一方の波面の曲率半径を変調して、該2つの分割した光波の波面に、相対的に球面位相の分布を付与する位相分布可変手段と、
前記波面回転手段および前記位相分布可変手段を通過した前記第1分割光および前記第2分割光を合波する光合波手段と、
この光合波手段により合波された前記第1分割光および前記第2分割光が、互いに干渉して形成されたホログラムを記録するホログラム記録手段と、
を備えたことを特徴とするものである。
ここで、「前記波面回転手段および前記位相分布可変手段を通過した前記第1分割光および前記第2分割光」とは、「前記第1分割光および前記第2分割光の少なくともいずれかは前記波面回転手段を通過し、前記第1分割光および前記第2分割光の少なくともいずれかは前記位相分布可変手段を通過する」状況となっていることを意味する。
【0018】
また、前記ホログラム記録手段が撮像手段を備え、
前記位相分布可変手段において、前記第1分割光または前記第2分割光に、曲率半径が無限大である平面位相を付与することにより、前記撮像手段によるパンフォーカス像の撮像を可能とし、前記第1分割光および前記第2分割光の波面の差分が、有限の大きさの曲率半径の球面位相となるように、これら2つの分割光の少なくとも一方に、有限の大きさの曲率半径の球面位相を付与することにより、前記撮像手段による立体像の撮像を可能とするように構成されていることが好ましい。
【0019】
また、前記撮像手段により撮像されるパンフォーカス像または立体像について、横倍率、分解能および視野のうち少なくとも1つを変更可能とするように、光波の波面の空間座標の回転角度が任意に調整可能に構成されていることが好ましい。
また、前記光波分割手段の対象物体側にレンズを配設し、前記撮像手段の撮像面を、該レンズの後側焦点距離だけ離間した位置に配設することが好ましい。
【0020】
また、前記波面回転手段がダブプリズム、コーナーキューブプリズム、リトロリフレクタおよび直角プリズムのいずれかであることが好ましい。
また、前記位相分布可変手段が、複屈折を有する空間光変調器、回折光学素子および液晶レンズのいずれかであることが好ましい。
【0021】
また、本発明のホログラム再生装置は、
インコヒーレントな光波を第1分割光と第2分割光からなる2つの光波に分割し、これら2つの分割した光波の波面の空間座標を相対的に回転させるともに、少なくとも一方の該波面の曲率半径を変調して、該2つの分割した光波の波面に、相対的に球面位相の分布を付与し、これら2つの分割した光波を互いに干渉させて撮像面に形成されたホログラムに基づき、再生像を生成するホログラム再生装置において、
前記球面位相に係る球面波の曲率半径および記録対象である物体の位置に基づき設定される、前記光波の回折伝搬による伝搬距離だけ前記撮像面から離れた位置に再生像が形成されるように構成されていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0022】
本発明のホログラム記録装置およびホログラム再生装置によれば、立体像とパンフォーカス像の両者の撮像を、撮像機能の切換操作により、1台の装置で容易に行うことができる。このホログラム記録装置を用いることにより、撮影対象・撮影状況に応じて、ユーザーが立体像とパンフォーカス像の撮像を容易に切り替えることができるようになり、多様なニーズの撮像態様に対応することができる。
【0023】
本発明のホログラム記録装置の原理およびその作用効果を説明する概念図を
図1に示す。なお、以下の説明に用いられる
図1は、説明の便宜のために例示されている部分を含んでいるが、本発明の構成としてはこれに限られるものではない。
このホログラム記録装置においては、物体101から伝搬してきた空間的にインコヒーレントな光波を分割手段102により分割し、第1分割光110と第2分割光111を得る。光波回転素子113により、第1分割光と第2分割光の波面の空間座標を相対的に任意の角度だけ回転させる。
【0024】
さらに、位相分布変調素子112により、第1分割光あるいは第2分割光の位相分布を変調する。位相分布変調素子112を用いて光波に付与する位相分布を変化させることにより、パンフォーカス像と立体像の撮像機能を切り替えることができる。すなわち、パンフォーカス像を撮像する場合には、位相分布変調素子112に、曲率半径が無限大の球面位相、つまり平面位相を入力する。このとき、第1分割光110と第2分割光111の各波面の空間座標は回転角度のみが異なっている。したがって、第1分割光110と第2分割光111を合波手段104により合波し、互いの干渉により生じたホログラムを撮像素子105により記録する際には、撮像対象の物体101の奥行情報がホログラムに反映されずに、パンフォーカス像を撮像することができる。
【0025】
一方、立体像を撮像する場合には、位相分布変調素子112に球面位相を入力する。すなわち、この球面位相の曲率半径は、無限大ではなく、有限の大きさのものである。
球面位相を光波に付与することにより、第1分割光110と第2分割光111を干渉させて得られたホログラムを撮像素子105により撮像する際に、撮像対象である物体101の奥行情報がホログラムに反映されるため、立体像を撮像することができることになる。
【0026】
また、本発明のホログラム再生装置においては、撮像面に形成され、記録されたホログラムに対して、該ホログラムを作成する際に用いた球面位相に係る球面波の曲率半径と記録対象である物体の位置との2つのパラメータを用いて、光波の回折伝搬による伝搬距離に相当する位置に再生像を形成するようにしているので、所望する位置にホログラムの立体像を再生することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本発明の実施形態に係るホログラム記録装置の原理を説明するための概念図である。
【
図2】光波回転素子としてダブプリズムを用いた光学系((a)は配置パターン1、(b)は配置パターン2)を示すものである(実施形態1)。
【
図3】本発明の実施形態に係るホログラム再生装置を説明するための概念図((a)はパンフォーカス像の再生を示す図、(b)は立体像の再生を示す図)である。
【
図4】光波回転素子としてリトロリフレクタを用いた光学系を示すものである(実施形態2)。
【
図5】光波回転素子としてコーナーキューブプリズムを用いた光学系を示すものである(実施形態3)。
【
図6】光波回転素子として直角プリズムを用いた光学系を示すものである(実施形態4)。
【
図7】記録対象である3次元物体を表すものであり、特に、(a)は伝搬方向の位置関係を表すものであり、(b)は伝搬方向から見た物体を表すものである。
【
図8】本発明の具体的な実施例に係るホログラム記録装置(ダブプリズムを用いた例)を示すものである。
【
図9】パンフォーカス像を撮像した際において、(a)はホログラムを表すものであり、(b)は、その再生像を表すものである。
【
図10】立体像を撮像した際において、(a)はホログラムを表すものであり、(b)は物体1に合焦した再生像を表すものであり、(c)は物体2に合焦した再生像を表すものである。
【
図11】物体の配置距離z
sと、ホログラム面からの再生距離z
rとの関係を示すグラフである。
【
図12】立体像の撮像が可能な光学系を示すものであり、(a)はマイケルソン干渉計を、(b)は共通光路干渉計を各々示すものである。
【
図13】パンフォーカス像の撮像が可能な光学系を示すものである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施形態に係るホログラム記録装置およびホログラム再生装置を、図面を参照しながら説明する。
【0029】
<実施形態1>
図2(a)は、本発明の実施形態1に係るホログラム記録装置の光学系部分を概略的に示すものであり、光波回転素子として、2つのダブプリズム208a、208bを用いている。すなわち、この実施形態1に係るホログラム記録装置は、物体201から伝搬してきた空間的にインコヒーレントな光波をレンズ216に通過させた後、分割手段202により分割し、第1分割光と第2分割光を得る。第1分割光はミラー203aを介してダブプリズム208aを通過し、空間光変調器207を透過する際に位相変調を受けてビームスプリッター209に到達する。一方、第2分割光は、ダブプリズム208bを通過した後、ミラー203bを介してビームスプリッター209に到達する。
ビームスプリッター209に到達した第1分割光は撮像素子205方向に反射され、ビームスプリッター209に到達した第2分割光は撮像素子205方向に透過することで、これら2つの分割光が重畳して撮像素子205の撮像面上でホログラムを形成する。なお、ビームスプリッター209と撮像素子205の間にはバンドパスフィルター204が配設されている。
【0030】
実施形態1の光学系においては、光波回転素子(波面回転手段)113として、2つのダブプリズム208a、bを用いている。2つのダブプリズム208a、bは、光軸を回転軸として互いに90°回転した形状に配置されている。ダブプリズム208a、bには光波の空間座標を回転する効果に加え、光波を1方向に反転させる効果を有しているので、ダブプリズム208a、bを、このような配置とすることにより、光波の反転効果のみを互いに打ち消すことが可能である。
このように、光波回転素子113により光波を相対的に回転させることにより、2つの分割光の光波間で面内のx、y方向それぞれにずれ量を与えることができる。相対的に回転量が与えられた2つの光波を互いに干渉させると、光波の奥行情報は消失した干渉縞が得られる。この干渉縞はフーリエ変換ホログラムに対応しており、フーリエ変換の演算でパンフォーカス撮像機能を担保することが可能となる。
また、このように光波を相対的に回転させることにより、パンフォーカス撮像と立体撮像の両方について、レンズを変更することなく、撮像画像の空間分解能・視野・倍率を自在に変更することが可能となる。すなわち、2つの分割光の光波間の回転量が変化することにより、光波のx、y位置も変化するため、それらの光波の干渉によって形成される干渉縞の周期も変化する。干渉縞の周期はパンフォーカス像、あるいは立体像の空間分解能・視野・倍率の変数であるため、相対的な回転を与えることによって、光学系の構成を変更することなく空間分解能・視野・倍率を制御することができることになる。
【0031】
また、実施形態1の光学系においては、位相分布変調素子(位相分布可変手段)112として、光波を位相変調する空間光変調器207を用いている。
この空間光変調器207においては、第1分割光あるいは第2分割光の位相分布を変調する(
図2(a)、(b)においては、第1分割光に対してのみ変調処理を行っている)。空間光変調器207を用いて光波に付与する位相分布を変化させることにより、パンフォーカス像と立体像の撮像機能を切り替えることができる。
パンフォーカス像を撮像する場合には、空間光変調器207に平面位相を入力する。このとき、第1分割光と第2分割光の各波面の空間座標は回転角度のみが異なっており、第1分割光と第2分割光をビームスプリッター209により合波し、互いの干渉により生じたホログラムを撮像素子205により記録する際には、撮像対象である物体201の奥行情報がホログラムに反映されずに、パンフォーカス像を撮像することができる。
一方、立体像を撮像する場合には、空間光変調器207に球面位相を入力する。すなわち、この球面位相の曲率半径は有限の大きさのものである。
球面位相を光波に付与することにより、第1分割光と第2分割光を干渉させて得られたホログラムを撮像素子205により撮像する際に、撮像対象である物体201の奥行情報がホログラムに反映されるため、立体像を撮像することができることになる。
なお、位相分布変調素子112としては、他に、可変焦点レンズ、液晶レンズなど、球面位相の曲率半径を任意に変更可能な素子であればよい。
【0032】
また、実施形態1の光学系においては、物体201から伝搬してきた空間的にインコヒーレントな光波を、レンズ216を用いて収束あるいは発散させている。このレンズ216は像の倍率を調整するために用いており、レンズ216を挿入しない構成とすることもでき、さらにレンズ216を配設した場合に、これを複数のレンズによる組合せレンズにより構成することも可能である。
なお、一方の分割光を通過させる、ダブプリズム208aと空間光変調器207の配置を入れ替え、先に位相分布を変調してから、後にダブプリズム208aを用いて空間座標を回転させてもよい。
【0033】
図2(b)は、本発明の実施形態1に係るホログラム記録装置の変型例を概略的に示すものであり、
図2(a)の部材に対応する部材については、
図2(a)の各部材に付した符号に100を加えた符号を付すものとし、詳しい説明は省略する。
【0034】
ただし、
図2(b)に示すホログラム記録装置は、
図2(a)に示すホログラム記録装置に対し、第1の分割光が通過するダブプリズム308aをミラー303aの後段ではなく、前段に設けるようにしている。なお、
図2(a)に示すホログラム記録装置の光学系において、第2の分割光が通過するダブプリズム208bをミラー203bの前段ではなく、後段に設けるようにした変型例を採用することも可能である。
【0035】
ところで、本実施形態に係るホログラム記録装置においては、撮像素子205を用いて、第1分割光と第2分割光との干渉により生成されるホログラムを撮像し、記録する。一回の露光でホログラムを取得する必要がある場合には、光学系のミラー303a、bの角度を調整し、撮像素子205の撮像面に斜めから光を入射させることで、オフアクシスのホログラムを記録することが可能である。
【0036】
前述した非特許文献8に開示されたフーリエ縞解析技術に基づき、オフアクシスのホログラムから不要な成分を除去することにより、ホログラム面の複素振幅分布を取得する。また、2光波間の位相シフト量を変化させることができ、ホログラムの記録枚数の増加が許容される場合には、非特許文献9に開示された位相シフト法を用いてホログラム面の複素振幅分布を取得することが可能である。
すなわち、ホログラム面の複素振幅分布の取得はフーリエ縞解析法、位相シフト法のいずれを用いることも可能である。
【0037】
また、光源のコヒーレンス長が短く、2光波間の光路長差の方が大きい場合には
図2(a)、(b)に示すように、バンドパスフィルター204、304を用いて光源のコヒーレンス長を長くすることによって、2光波が互いに干渉し易くするようにしてもよい。
【0038】
上述したように構成されたホログラム記録装置において、空間光変調器207、307から平面位相を入力した場合には、撮像素子205、305によりフーリエ変換型のホログラムが撮像され、記録される。
図3(a)に示すように、このホログラム318a、あるいはこのホログラム318aにフーリエ縞解析あるいは位相シフト法を適用して得られる複素振幅分布に対してフーリエ変換の演算を適用することにより、パンフォーカス像(再生像)317aを再生することができる。このパンフォーカス像317aの横倍率は、物体201の配置、光学系のパラメータに応じて変化する。レンズ216から物体201までの距離をz
s、レンズ216の焦点距離をf
o、レンズ216と撮像素子205間の距離をz
h1とすると、横倍率M
Tは、下式(1)で表される。
【0039】
ここで、物体201までの配置距離zsに依存せず、横倍率を一定にしたい場合には、撮像素子205をレンズ216の後ろ側の焦点距離の位置に配置する。
つまり、zh1=foとすると、横倍率MTは1/foで一定となる。
ホログラム318aを記録する際に、空間光変調器207で曲率半径fdの球面位相を入力した場合には、物体の奥行情報を反映したホログラムが記録される。
【0040】
一方、
図3(b)に示すように、このホログラム318b、あるいはこのホログラム318bにフーリエ縞解析あるいは位相シフト法を適用して得られる複素振幅分布に対してコンピュータ内で伝搬距離z
rの回折伝搬の計算を行うことにより、任意の伝搬面の像を再構成することができ、立体像(再生像)317bを再生することができる。特に、物体201の配置距離z
sがあらかじめ既知であり、この配置距離z
sの物体に合焦した像を得たい場合には、伝搬距離z
rを、下式(2)~(4)を用いて算出する。
ここで、dはレンズ216から空間光変調器207までの距離である。
また、z
h2は、立体像撮像時における、空間光変調器207と撮像素子205の距離であり、上記z
h1とこのz
h2は、ともに光学系を構築した際に決定されるパラメータである。
このように、伝搬距離z
rは像を再生する際の再生距離を示しており、撮影者が像を再構成する際に任意に設定する値となっている。特に、撮像対象の物体201の配置距離z
sが既知で、その物体201に焦点が合った像を取得したい場合には、上記数式(2)~(4)で定義される値をz
rとして用いることができる。
また、上記数式(2)~(4)のパラメータのうち、z
sは、「記録対象である物体の位置」を示すものであり、z
s以外のパラメータは「球面波の曲率半径」を決定するものである。したがって、光学系を構築すると、z
sを除くすべての変数に値を代入することができ、数式(2)~(4)に基づき、物体201の配置距離z
s(mm)と再生距離z
r(mm)の関係は、
図11に示すグラフで表される。すなわち、z
sが既知の場合には、記録対象である物体201の位置に応じ、
図13のグラフで表される関係に基づきz
rを決定することができ、焦点のあった像を再構成することができる。
【0041】
<実施形態2>
図4は、本発明の実施形態2に係るホログラム記録装置を概略的に示すものであり、上記実施形態1と同様の等光路長型かつ非共通光路型の干渉計であるが、
図2(a)、(b)がいずれもマッハ・ツェンダ干渉計であるのに対し、
図4に示す実施形態2のものはマイケルソン干渉計である。
【0042】
実施形態2に係るホログラム記録装置の光学系は、波面回転手段としてリトロリフレクタを用いている。
すなわち、物体401からの空間的にインコヒーレントな光波をビームスプリッター402により分割し、第1分割光と第2分割光を得る。いずれか一方の分割光の光波の位相分布を空間光変調器407により変調し、他方の分割光の光波を、該一方の分割光の光波に対し、リトロリフレクタ419を用いて、空間座標を回転する。この後、ビームスプリッター402に再帰した、これら2つの分割光の光波を互いに干渉させ、生成されたホログラムを、撮像素子405により撮像し、記録する。
【0043】
実施形態2に係るホログラム記録装置の光学系は、前述した実施形態2に係るホログラム記録装置の光学系と同様に、空間光変調器407に平面位相を入力した場合には、パンフォーカス像を撮像することができ、球面位相を入力した場合には、立体像を撮像することができる。また、リトロリフレクタ419を用いて2つの分割光の波面の空間座標軸を互いに回転させており、立体画像のみならず、パンフォーカス画像を形成することができる。また、記録されたパンフォーカス像および立体像それぞれの像を再生するホログラム再生装置は、
図3に示す手法と同様の手法によりホログラムを再生する。
【0044】
<実施形態3>
図5は、本発明の実施形態3に係るホログラム記録装置を概略的に示すものである。上記実施形態2と同様のマイケルソン干渉計とされているが、主に、光波回転素子113として、コーナーキューブプリズム519を用いていることが異なっているので、
図4の部材に対応する部材については、
図4の各部材に付した符号に100を加えた符号を付すものとし、その部材の詳しい説明は省略する。
【0045】
本実施形態に係るホログラム記録装置においては、光波回転素子113として、実施形態2におけるリトロリフレクタ419とは異なり、中実のコーナーキューブプリズム519を用いているので、光源からの光波の波長幅が広い場合は、コーナーキューブプリズム519を構成する硝材による波長分散の影響により、ホログラムのコントラストの低下が問題となる。波長分散の影響が大きい場合には、バンドパスフィルター504により光源の波長範囲を狭くするか、光路中に、波長分散を補償するガラス板521等の光学素子を配置することが肝要である。
【0046】
実施形態3に係るホログラム記録装置の光学系は、前述した実施形態2に係るホログラム記録装置の光学系と同様に、空間光変調器507に平面位相を入力した場合には、パンフォーカス像を撮像することができ、球面位相を入力した場合には、立体像を撮像することができる。また、コーナーキューブプリズム519を用いて2つの分割光の波面の空間座標軸を互いに回転させており、立体画像のみならず、パンフォーカス画像を形成することができる。記録されたパンフォーカス像および立体像それぞれの像を再生するホログラム再生装置は、
図3に示す手法と同様の手法によりホログラムを再生する。
【0047】
<実施形態4>
図6は、本発明の実施形態4に係るホログラム記録装置を概略的に示すものである。上記実施形態2、3と同様のマイケルソン干渉計とされているが、主として、光波回転素子113として直角プリズム619a、bを用いていることが異なっているので、
図4の部材に対応する部材については、
図4の各部材に付した符号に200を加えた符号を付すものとし、その部材の詳しい説明は省略する。
【0048】
実施形態4に係るホログラム記録装置の光学系は、前述した実施形態2、3に係るホログラム記録装置の光学系と同様に、空間光変調器607に平面位相を入力した場合には、パンフォーカス像を撮像することができ、球面位相を入力した場合には、立体像を撮像することができる。また、直角プリズム619a、bを用いて2つの分割光の波面の空間座標軸を互いに回転させており、立体画像のみならず、パンフォーカス画像を形成することができる。また、直角プリズム619a、bを用いて2つの分割光の波面の空間座標軸を互いに回転させており、立体画像のみならず、パンフォーカス画像を形成することができる。記録されたパンフォーカス像および立体像それぞれの像を再生するホログラム再生装置は、
図3に示す手法と同様の手法によりホログラムを再生する。
【0049】
<実験例>
本発明によるインコヒーレントホログラフィを用いたホログラム記録装置を実験例を用いてさらに説明する。
撮像対象を3次元物体とし、以下に説明する実験によって、その3次元物体のパンフォーカス像および立体像を1台の記録装置で切り替えて撮像した。
【0050】
本実験においては、
図7(a)に示すように、所定間隔(ここでは24mm)を置いて配された2枚のマスク725、726に配された「1」、「2」の数字の組合せ全体で記録対象の3次元物体とした。この「1」、「2」の数字は、各々、物体1(623)、物体2(624)とした。これら物体1(623)の大きさ(横×縦)は0.37 mm×1.31 mmとし、物体2(624)の大きさ(横×縦)は、0.96 mm×1.35 mmとした。また、物体1(623)と物体2(624)間の距離は前述したように24mmである。
【0051】
上述のようにして構成された3次元物体に係るホログラムを、
図8に示すダブプリズムを用いたホログラム記録装置により生成し、撮像した。
図8に示すホログラム記録装置の光学系は、
図2(a)に示す光学系と同様の機能を実現するものである。なお、上述した3次元物体は、
図8に示すように、2つの発光ダイオード(中心波長625 nm、波長幅18 nm)727a、bにより、物体1(623)である「1」の数字と、物体2(624)である「2」の数字の形状を各々有する透過型のマスク725、726を各々照明し、「1」の形状情報を担持した光波と「2」の形状情報を担持した光波をビームスプリッター728で合波することにより実現した。
【0052】
ビームスプリッター728により合波された光波は偏光子706を通過させ、その偏光方向を、空間光変調器707が変調可能な光波の偏光方向(液晶の配向方向)と一致させる。その後、光学素子を保持する筐体内での光波の反射に伴う迷光の発生を防止するために、開口729を用いて、透過光の直径がビームスプリッター702aの大きさよりも十分小さくなるように設定する。開口729を通過した光波は焦点距離200mmのレンズ716を通過し、ビームスプリッター702aに入射し、このビームスプリッター702aにおいて2つの光波に分割される。
【0053】
一方の光波(第1分割光)は、ダブプリズム708aを通過し、ビームスプリッター702を透過してミラー703で反射され、ビームスプリッター702に戻り、このビームスプリッター702で反射されて、ビームスプリッター709に入射し、このビームスプリッター709を透過する。
ビームスプリッター702aを透過した他方の光波(第2分割光)は、ビームスプリッター702bを透過し、その位相分布が空間光変調器(画素数1408×1058、画素ピッチ10.4μm)707で所定の変調を受けて反射され、戻ったビームスプリッター702bでさらに反射される。この後、他方の光波(第2分割光)は、ダブプリズム708bを通過し、ビームスプリッター709に入射し、このビームスプリッター709により反射される。
【0054】
ビームスプリッター709に入射した一方の光波(第1分割光)と他方の光波(第2分割光)は、このビームスプリッター709で重ね合わされて互いに干渉し、バンドパスフィルター704を介して撮像素子705の撮像面上にホログラムを形成する。この形成されたホログラムは撮像素子705により撮像され、記録される。撮像素子705はCMOS(画素数10000×7096、画素ピッチ3.1 μm)により構成される。
上述した2つのダブプリズム708a、bは光軸を中心として互いに90°回転した状態に配置されているので、これら2つのダブプリズム708a、bを通過した2つの光波の空間座標は、互いに180°回転している。
【0055】
図8に示すホログラム記録装置を用い、空間光変調器707に平面位相を入力してパンフォーカス像を撮像して得たホログラムを
図9(a)に示し、このホログラムに対して、フーリエ変換の演算を適用して取得した再生像を
図9(b)に示す。「1」の数字からなる、物体1(623)と、「2」の数字からなる物体2(624)とは、光波の伝搬方向に間隔を置いた、互いに異なるマスク(マスク1(725)およびマスク2(726))上に配置されているが、両方の物体623、624に合焦した像が得られていることが明らかである。
【0056】
次に、
図8に示すホログラム記録装置を用い、空間光変調器707に曲率半径が460mmの球面位相を入力して立体像を撮像して得たホログラムを
図10(a)に示す。
【0057】
なお、
図8に示すホログラム記録装置における光学系において、レンズの焦点距離f
oは200 mmであり、レンズ716から空間光変調器707までの距離dは117 mmであり、空間光変調器707で変調される球面波の曲率半径f
dは460 mmであり、空間光変調器707と撮像素子705との距離z
h2は270 mmである。
ここで、上記数式(2)、(3)、(4)から導かれる、物体1、2(623、624)からレンズ716までの距離z
sと、ホログラム面から再生像までの伝搬距離z
rの関係を
図11に示す。
【0058】
本実験によれば、レンズ716から、物体1(623)と物体2(624)それぞれまでの距離z
sは200 mmと176 mmであるため、それぞれの物体623、624に合焦した像を得るためには、
図11の関係から、伝搬距離z
rを190 mm、314.2 mmに設定する必要がある。
【0059】
このように、伝搬距離z
rを190 mm、314.2 mmとし、回折伝搬の計算を適用して得られた再生像を、
図10(b)および
図10(c)に各々示す。
図10(b)では物体1(623)に、また
図10(c)では物体2(624)にそれぞれフォーカス位置を合わせられており、立体像が得られていることが明らかである。
【0060】
物体1(623)に、フォーカス位置を合わせた場合には、物体2(624)の像がぼやける。同様に、物体2(624)にフォーカス位置を合わせた場合には、物体1(623)の像がぼやける。
以上の実験により、本実施形態のホログラム記録装置によれば、パンフォーカス像と立体像の撮像が、1つの光学系を用いて機能切替えにより行うことが可能であることが実証された。
【0061】
本発明のホログラム記録装置としては、上記実施形態のものに限られるものではなくその他の種々の態様のものに変更が可能である。例えば、装置の光学系の構成としても、上記実施形態のものに限られるものではない。
また、上記実施形態においては、分割した2つの分割光のうちの一方に位相分布変調素子を配置しているが、分割した2つの分割光のうちの両方に位相分布変調素子を配置して、通過する分割光に、互いに異なる曲率半径の球面波を付与するようにしても、所望の立体画像を撮像、記録することが可能である。
また、上記実施形態においては、空間的にインコヒーレントな光波を、レンズを用いて収束あるいは発散させているが、このレンズは正の屈折力を有するものに限られず負の屈折力を有するものであってもよく、また、単レンズであっても複数枚からなる組み合わせレンズであってもよい。
また、
図8を用いて説明した実験例の光学系においては、所定の直線偏光に対して機能するLCD等の空間光変調器707を用いているため、偏光子706を空間光変調器707よりも物体側の光学系内に導入しているが、位相分布可変素子112が偏光状態に拘わらず、どのような光波に対しても位相を変調できる態様である場合には、光学系内に偏光子を挿入することを要しない。
【符号の説明】
【0062】
101、201、301、401、501、601、801、811、921 物体
102 分割手段
104 合波手段
105、205、305、405、505、605、705、805、815、925 撮像素子
110 第1分割光
111 第2分割光
112 位相分布変調素子
113 光波回転素子
114 球面位相
115 平面位相
202、209、302、309、402、502、602、702、702a、b、709、728、802、922、929 ビームスプリッター
203a、b、303a、b、703、803a、b、923a、b ミラー
204、304、404、504、604、704、804、814、924 バンドパスフィルター
207、307、407、507、607、707、817 空間光変調器
208a、b、308a、b、708a、b、928a、b ダブプリズム
706、816a、b 偏光子
216、316、716 レンズ
317a、b 再生像
318a、b ホログラム
419 リトロリフレクタ
519 コーナーキューブプリズム
521 ガラス板
619a、b 直角プリズム
623 物体1
624 物体2
725 マスク1
726 マスク2
727a、b 発光ダイオード
729 開口