(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-05
(45)【発行日】2022-10-14
(54)【発明の名称】導電性高分子組成物、導電性高分子含有多孔質体及びその製造方法並びに固体電解コンデンサ及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01G 9/028 20060101AFI20221006BHJP
H01G 9/00 20060101ALI20221006BHJP
C08L 101/12 20060101ALI20221006BHJP
C08K 5/09 20060101ALI20221006BHJP
C08K 5/098 20060101ALI20221006BHJP
C08L 65/00 20060101ALI20221006BHJP
C08L 79/00 20060101ALI20221006BHJP
C08K 5/52 20060101ALI20221006BHJP
【FI】
H01G9/028 G
H01G9/00 290H
C08L101/12
C08K5/09
C08K5/098
C08L65/00
C08L79/00 A
C08K5/52
H01G9/028 F
(21)【出願番号】P 2018503120
(86)(22)【出願日】2017-02-27
(86)【国際出願番号】 JP2017007319
(87)【国際公開番号】W WO2017150407
(87)【国際公開日】2017-09-08
【審査請求日】2019-10-08
(31)【優先権主張番号】P 2016037858
(32)【優先日】2016-02-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2016111939
(32)【優先日】2016-06-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2016111945
(32)【優先日】2016-06-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2016174881
(32)【優先日】2016-09-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000183646
【氏名又は名称】出光興産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002354
【氏名又は名称】弁理士法人平和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小野寺 真吾
(72)【発明者】
【氏名】板東 徹
【審査官】北原 昂
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-294504(JP,A)
【文献】特開平08-255730(JP,A)
【文献】特開2006-287182(JP,A)
【文献】国際公開第2012/137969(WO,A1)
【文献】特開2013-247312(JP,A)
【文献】国際公開第2002/037536(WO,A1)
【文献】特開平10-012497(JP,A)
【文献】特開2014-037508(JP,A)
【文献】特開2012-046705(JP,A)
【文献】特開2016-192425(JP,A)
【文献】国際公開第2010/143450(WO,A1)
【文献】特開2014-037504(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 9/028
H01G 9/00
C08L 101/12
C08K 5/09
C08K 5/098
C08L 65/00
C08L 79/00
C08K 5/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)ポリアニリン及びポリアニリン誘導体から選択される1以上の導電性高分子、
(b)溶剤、及び
(c)プロピオン酸、DL-2-メチル酪酸、2-メチル吉草酸、3,5,5-トリメチルヘキサン酸、ミリスチン酸、リン酸モノメチル、リン酸ジメチル、リン酸モノメチルとリン酸ジメチルの混合物、リン酸モノエチル、リン酸ジエチル、リン酸モノエチルとリン酸ジエチルの混合物、リン酸モノイソプロピル、リン酸ジイソプロピル、リン酸モノイソプロピルとリン酸ジイソプロピルの混合物、リン酸ジブチル、リン酸モノブチルとリン酸ジブチルの混合物、グリシン及びその塩、βアラニン及びその塩、DL-アラニン及びその塩、DL-バリン及びその塩、ホウ酸及びホウ酸塩、フェニルボロン酸及びフェニルボロン酸塩、並びにカンファースルホン酸からなる群から選択される1以上である酸又は塩
を含む導電性高分子組成物であって、
前記(c)酸又は塩の含有量が、前記(a)導電性高分子100質量部に対し、57~7000質量部であ
り、
前記成分(a)が、ポリアニリン又はポリアニリン誘導体とプロトン供与体とを含むポリアニリン複合体であって、前記ポリアニリン又はポリアニリン誘導体が前記プロトン供与体でドープされている、導電性高分子組成物。
【請求項2】
前記成分(c)の含有量が、前記導電性高分子組成物の合計に対して1.0~70質量%である請求項1に記載の導電性高分子組成物。
【請求項3】
さらに(d)耐熱安定化剤を含む請求項
1又は2に記載の導電性高分子組成物。
【請求項4】
さらに(e)フェノール性化合物を含む請求項1~
3のいずれかに記載の導電性高分子組成物。
【請求項5】
弁金属の酸化物を有する多孔質体に酸又は塩の溶液を接触させる工程、及び
前記接触後に、前記多孔質体に、ポリアニリン及びポリアニリン誘導体から選択される1以上の導電性高分子を含む導電性高分子溶液を含浸させる工程
を含み、
上記酸又は塩は、プロピオン酸、DL-2-メチル酪酸、2-メチル吉草酸、3,5,5-トリメチルヘキサン酸、ミリスチン酸、リン酸モノメチル、リン酸ジメチル、リン酸モノメチルとリン酸ジメチルの混合物、リン酸モノエチル、リン酸ジエチル、リン酸モノエチルとリン酸ジエチルの混合物、リン酸モノイソプロピル、リン酸ジイソプロピル、リン酸モノイソプロピルとリン酸ジイソプロピルの混合物、リン酸ジブチル、リン酸モノブチルとリン酸ジブチルの混合物、グリシン及びその塩、βアラニン及びその塩、DL-アラニン及びその塩、DL-バリン及びその塩、ホウ酸及びホウ酸塩、フェニルボロン酸及びフェニルボロン酸塩、並びにカンファースルホン酸からなる群から選択される1以上であ
り、
前記導電性高分子が、ポリアニリン又はポリアニリン誘導体とプロトン供与体とを含むポリアニリン複合体であって、前記ポリアニリンが前記プロトン供与体でドープされており、
前記プロトン供与体が、スルホフタール酸エステル、又は下式(II)で表される化合物である、導電性高分子含有多孔質体の製造方法。
【化1】
{式中、Mは、水素原子、有機遊離基又は無機遊離基である。
Xは、アニオン基である。
mは、Mの価数/Xの価数である。
R
4
、R
5
及びR
6
は、それぞれ独立して水素原子、炭化水素基又はR
9
3
Si-基(ここで、R
9
は炭化水素基であり、3つのR
9
は同一又は異なっていてもよい)である。
R
7
及びR
8
は、それぞれ独立に、炭化水素基又は-(R
10
O)
q
-R
11
基[ここで、R
10
は炭化水素基又はシリレン基であり、R
11
は水素原子、炭化水素基又はR
12
3
Si-基(ここで、R
12
は、炭化水素基であり、3つのR
12
は同一又は異なっていてもよい)であり、qは1以上の整数である]である。}
【請求項6】
弁金属の酸化物を有する多孔質体に酸又は塩の溶液を接触させる工程、及び
前記接触と同時に、前記多孔質体に、ポリアニリン及びポリアニリン誘導体から選択される1以上の導電性高分子を含む導電性高分子溶液を含浸させる工程
を含み、
上記酸又は塩は、プロピオン酸、DL-2-メチル酪酸、2-メチル吉草酸、3,5,5-トリメチルヘキサン酸、ミリスチン酸、リン酸モノメチル、リン酸ジメチル、リン酸モノメチルとリン酸ジメチルの混合物、リン酸モノエチル、リン酸ジエチル、リン酸モノエチルとリン酸ジエチルの混合物、リン酸モノイソプロピル、リン酸ジイソプロピル、リン酸モノイソプロピルとリン酸ジイソプロピルの混合物、リン酸ジブチル、リン酸モノブチルとリン酸ジブチルの混合物、グリシン及びその塩、βアラニン及びその塩、DL-アラニン及びその塩、DL-バリン及びその塩、ホウ酸及びホウ酸塩、フェニルボロン酸及びフェニルボロン酸塩、並びにカンファースルホン酸からなる群から選択される1以上である、導電性高分子含有多孔質体の製造方法であって、
前記酸又は塩の含有量が、前記導電性高分子100質量部に対し、57~7000質量部である、導電性高分子含有多孔質体の製造方法。
【請求項7】
前記酸又は塩の溶液の濃度が1.0~15.0質量%である請求項
5又は6に記載の導電性高分子含有多孔質体の製造方法。
【請求項8】
前記導電性高分子が、ポリアニリンとプロトン供与体とを含むポリアニリン複合体であって、前記ポリアニリンが前記プロトン供与体でドープされている請求項
6に記載の導電性高分子含有多孔質体の製造方法。
【請求項9】
前記導電性高分子溶液が、前記ポリアニリン複合体とフェノール性化合物を含む請求項
5又は8に記載の導電性高分子含有多孔質体の製造方法。
【請求項10】
前記導電性高分子溶液が、前記ポリアニリン複合体と、耐熱安定化剤とを含む請求項
5、8及び9のいずれかに記載の導電性高分子含有多孔質体の製造方法。
【請求項11】
弁金属の酸化物を有する多孔質体に、請求項1~
4のいずれかに記載の導電性高分子組成物を含浸させることにより、
前記接触と同時に、前記多孔質体に導電性高分子溶液を含浸させる請求項
6及び8に記載の導電性高分子含有多孔質体の製造方法。
【請求項12】
弁金属の酸化物を有する多孔質体であって、
ポリアニリン及びポリアニリン誘導体から選択される1以上の導電性高分子、及び
プロピオン酸、DL-2-メチル酪酸、2-メチル吉草酸、3,5,5-トリメチルヘキサン酸、ミリスチン酸、リン酸モノメチル、リン酸ジメチル、リン酸モノメチルとリン酸ジメチルの混合物、リン酸モノエチル、リン酸ジエチル、リン酸モノエチルとリン酸ジエチルの混合物、リン酸モノイソプロピル、リン酸ジイソプロピル、リン酸モノイソプロピルとリン酸ジイソプロピルの混合物、リン酸ジブチル、リン酸モノブチルとリン酸ジブチルの混合物、グリシン及びその塩、βアラニン及びその塩、DL-アラニン及びその塩、DL-バリン及びその塩、ホウ酸及びホウ酸塩、フェニルボロン酸及びフェニルボロン酸塩、並びにカンファースルホン酸からなる群から選択される1以上である酸又は塩を含み、
前記酸又は塩の含有量が、前記導電性高分子100質量部に対し、57~7000質量部であ
り、
前記導電性高分子が、ポリアニリン又はポリアニリン誘導体とプロトン供与体とを含むポリアニリン複合体であって、前記ポリアニリンが前記プロトン供与体でドープされており、
前記プロトン供与体が、スルホフタール酸エステル、又は下式(II)で表される化合物である、導電性高分子含有多孔質体。
【化2】
{式中、Mは、水素原子、有機遊離基又は無機遊離基である。
Xは、アニオン基である。
mは、Mの価数/Xの価数である。
R
4
、R
5
及びR
6
は、それぞれ独立して水素原子、炭化水素基又はR
9
3
Si-基(ここで、R
9
は炭化水素基であり、3つのR
9
は同一又は異なっていてもよい)である。
R
7
及びR
8
は、それぞれ独立に、炭化水素基又は-(R
10
O)
q
-R
11
基[ここで、R
10
は炭化水素基又はシリレン基であり、R
11
は水素原子、炭化水素基又はR
12
3
Si-基(ここで、R
12
は、炭化水素基であり、3つのR
12
は同一又は異なっていてもよい)であり、qは1以上の整数である]である。}
【請求項13】
請求項
12に記載の導電性高分子含有多孔質体を含む固体電解コンデンサ。
【請求項14】
弁金属の酸化物からなる表面を有する、弁金属からなる多孔質体である陽極体に、酸又は塩の溶液を接触させる工程、及び
前記接触後に、前記陽極体に、ポリアニリン及びポリアニリン誘導体から選択される1以上の導電性高分子を含む導電性高分子溶液を含浸させ乾燥することによって、前記陽極体上に導電性高分子からなる固体電解質層を形成する工程
を含み、
上記酸又は塩は、プロピオン酸、DL-2-メチル酪酸、2-メチル吉草酸、3,5,5-トリメチルヘキサン酸、ミリスチン酸、リン酸モノメチル、リン酸ジメチル、リン酸モノメチルとリン酸ジメチルの混合物、リン酸モノエチル、リン酸ジエチル、リン酸モノエチルとリン酸ジエチルの混合物、リン酸モノイソプロピル、リン酸ジイソプロピル、リン酸モノイソプロピルとリン酸ジイソプロピルの混合物、リン酸ジブチル、リン酸モノブチルとリン酸ジブチルの混合物、グリシン及びその塩、βアラニン及びその塩、DL-アラニン及びその塩、DL-バリン及びその塩、ホウ酸及びホウ酸塩、フェニルボロン酸及びフェニルボロン酸塩、並びにカンファースルホン酸からなる群から選択される1以上であ
り、
前記導電性高分子が、ポリアニリン又はポリアニリン誘導体とプロトン供与体とを含むポリアニリン複合体であって、前記ポリアニリンが前記プロトン供与体でドープされており、
前記プロトン供与体が、スルホフタール酸エステル、又は下式(II)で表される化合物である、固体電解コンデンサの製造方法。
【化3】
{式中、Mは、水素原子、有機遊離基又は無機遊離基である。
Xは、アニオン基である。
mは、Mの価数/Xの価数である。
R
4
、R
5
及びR
6
は、それぞれ独立して水素原子、炭化水素基又はR
9
3
Si-基(ここで、R
9
は炭化水素基であり、3つのR
9
は同一又は異なっていてもよい)である。
R
7
及びR
8
は、それぞれ独立に、炭化水素基又は-(R
10
O)
q
-R
11
基[ここで、R
10
は炭化水素基又はシリレン基であり、R
11
は水素原子、炭化水素基又はR
12
3
Si-基(ここで、R
12
は、炭化水素基であり、3つのR
12
は同一又は異なっていてもよい)であり、qは1以上の整数である]である。}
【請求項15】
弁金属の酸化物からなる表面を有する、弁金属からなる多孔質体である陽極体に、酸又は塩の溶液を接触させる工程、及び
前記接触と同時に、前記陽極体に、ポリアニリン及びポリアニリン誘導体から選択される1以上の導電性高分子を含む導電性高分子溶液を含浸させ乾燥することによって、前記陽極体上に導電性高分子からなる固体電解質層を形成する工程
を含み、
上記酸又は塩は、プロピオン酸、DL-2-メチル酪酸、2-メチル吉草酸、3,5,5-トリメチルヘキサン酸、ミリスチン酸、リン酸モノメチル、リン酸ジメチル、リン酸モノメチルとリン酸ジメチルの混合物、リン酸モノエチル、リン酸ジエチル、リン酸モノエチルとリン酸ジエチルの混合物、リン酸モノイソプロピル、リン酸ジイソプロピル、リン酸モノイソプロピルとリン酸ジイソプロピルの混合物、リン酸ジブチル、リン酸モノブチルとリン酸ジブチルの混合物、グリシン及びその塩、βアラニン及びその塩、DL-アラニン及びその塩、DL-バリン及びその塩、ホウ酸及びホウ酸塩、フェニルボロン酸及びフェニルボロン酸塩、並びにカンファースルホン酸からなる群から選択される1以上である、固体電解コンデンサの製造方法であって、
前記酸又は塩の含有量が、前記導電性高分子100質量部に対し、57~7000質量部である、固体電解コンデンサの製造方法。
【請求項16】
前記酸又は塩の溶液の濃度が1.0~15.0質量%である請求項
14又は15に記載の固体電解コンデンサの製造方法。
【請求項17】
前記導電性高分子が、ポリアニリンとプロトン供与体とを含むポリアニリン複合体であって、前記ポリアニリンが前記プロトン供与体でドープされている請求項
15に記載の固体電解コンデンサの製造方法。
【請求項18】
前記導電性高分子溶液が、前記ポリアニリン複合体とフェノール性化合物を含む請求項
14又は17に記載の固体電解コンデンサの製造方法。
【請求項19】
前記導電性高分子溶液が、前記ポリアニリン複合体と、耐熱安定化剤とを含む請求項
14、17及び18のいずれかに記載の固体電解コンデンサの製造方法。
【請求項20】
前記陽極体に、請求項1~
4のいずれかに記載の導電性高分子組成物を含浸させることにより、
前記接触と同時に、前記陽極体に前記導電性高分子溶液を含浸させる請求項
15及び17に記載の固体電解コンデンサの製造方法。
【請求項21】
請求項
14~20のいずれかに記載の固体電解コンデンサの製造方法により得られた固体電解コンデンサ。
【請求項22】
前記(c)酸又は塩の含有量が、前記(a)導電性高分子100質量部に対し、100~7000質量部である、請求項1~
4のいずれかに記載の導電性高分子組成物。
【請求項23】
前記(c)酸又は塩の含有量が、前記(a)導電性高分子100質量部に対し、100~400質量部である、請求項1~
4のいずれかに記載の導電性高分子組成物。
【請求項24】
前記(c)酸又は塩の含有量が、前記(a)導電性高分子100質量部に対し、100~200質量部である、請求項1~
4のいずれかに記載の導電性高分子組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性高分子組成物、導電性高分子含有多孔質体及びその製造方法、並びに固体電解コンデンサ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
導電性高分子の用途の1つとしてコンデンサの固体電解質が挙げられる。導電性高分子を使用することで、耐熱性が高く、抵抗の低い高性能なコンデンサを製造することができ、近年車載用途に普及しつつある。
特許文献1には、コンデンサ素子を導電性高分子溶液に浸漬してコンデンサ素子内部に導電性高分子を浸透させ、その後乾燥することによって固体電解質層を形成する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【0004】
しかしながら、従来の方法では得られたコンデンサの静電容量や等価直列抵抗(ESR)等の特性が未だ十分ではなく、改善の余地があった。
本発明の目的の1つは、高性能な固体電解コンデンサ及びその製造方法を提供することである。
本発明の他の目的は、新規な導電性高分子含有多孔質体及びその製造方法を提供することである。
本発明の他の目的は、高性能な固体電解コンデンサを製造することができる導電性高分子組成物を提供することである。
【0005】
本発明者らは、コンデンサ特性が十分でない原因を検討した結果、従来の方法では、陽極表面に存在する微細な細孔の奥部(内部)まで導電性高分子組成物が十分に浸透しないため、固体電解質層を細孔内部まで均一かつ密に形成することが困難であり、そのため静電容量及びESRを十分に向上できないことを見出した。
【0006】
本発明者は、当該知見に基づき、アルミナ等の弁金属の酸化物の表面に存在する細孔内部に導電性高分子溶液を十分に浸透させる方法を鋭意検討した結果、弁金属の酸化物を酸又は塩で処理することにより弁金属の酸化物の表面が改質され、導電性高分子の浸透性が向上し、導電性高分子溶液を細孔の内部まで浸透させることができることを見出した。
また、当該技術を固体電解コンデンサに適用し、固体電解コンデンサの弁金属とその酸化物からなる陽極体を酸又は塩によって処理することで陽極体の表面が改質され、導電性高分子溶液の浸透性が向上して細孔の奥まで固体電解質層を形成でき、固体電解コンデンサの静電容量とESRを向上できることを見出し、本発明を完成した。
さらに、本発明者らは、導電性高分子組成物に酸又は塩を添加することによって導電性高分子組成物の浸透性を向上することができることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
本発明によれば、以下の導電性高分子組成物が提供される。
「(a)導電性高分子、
(b)溶剤、及び
(c)酸又は塩
を含む導電性高分子組成物。」
この組成物の一態様として以下を例示できる。
「(a)導電性高分子、
(b)溶剤、及び
(c)前記溶剤に可溶な酸
を含む導電性高分子組成物。」
【0008】
本発明によれば、以下の導電性高分子含有多孔質体の製造方法が提供される。
「弁金属の酸化物を有する多孔質体に酸又は塩の溶液を接触させる工程、及び
前記接触と同時に又は前記接触後に、前記多孔質体に導電性高分子溶液を含浸させる工程
を含む、導電性高分子含有多孔質体の製造方法。」
この製造方法の一態様として以下を例示できる。
「弁金属の酸化物を有する多孔質体に酸又は塩の溶液を接触させる工程、及び
前記接触後の多孔質体に導電性高分子溶液を含浸させる工程
を含む、導電性高分子含有多孔質体の製造方法。」
【0009】
本発明によれば、以下の導電性高分子含有多孔質体が提供される。
「弁金属の酸化物を有する多孔質体であって、
導電性高分子、及び酸又は塩を含む
導電性高分子含有多孔質体。」
この多孔質体の一態様として以下を例示できる。
「弁金属の酸化物を有する多孔質体であって、
導電性高分子、及び疎水性基を有する酸を含む
導電性高分子含有多孔質体。」
【0010】
本発明によれば、以下の固体電解コンデンサの製造方法が提供される。
「弁金属の酸化物からなる表面を有する、弁金属からなる多孔質体である陽極体に、酸又は塩の溶液を接触させる工程、及び
前記接触と同時に又は前記接触後に、前記陽極体に導電性高分子溶液を含浸させ乾燥することによって、前記陽極体上に導電性高分子からなる固体電解質層を形成する工程
を含む、固体電解コンデンサの製造方法。」
この製造方法の一態様として以下を例示できる。
「弁金属とその酸化物からなる陽極体に、導電性高分子からなる固体電解質層を形成する固体電解コンデンサの製造方法であって、
前記陽極体に酸又は塩の溶液を接触させる工程、及び
前記接触後の陽極体に導電性高分子溶液を含浸させる工程
を含む、固体電解コンデンサの製造方法。」
この製造方法の他の態様として以下を例示できる。
「弁金属とその酸化物からなる陽極体に、上記導電性高分子組成物を含浸させ、乾燥することによって、前記陽極体上に導電性高分子からなる固体電解質層を形成する工程を含む、固体電解コンデンサの製造方法。」
【0011】
本発明によれば、以下の固体電解コンデンサが提供される。
「上記導電性高分子含有多孔質体を含む固体電解コンデンサ。」
「上記固体電解コンデンサの製造方法により得られた固体電解コンデンサ。」
【0012】
本発明によれば、高性能な固体電解コンデンサ及びその製造方法が提供できる。
本発明によれば、新規な導電性高分子含有多孔質体及びその製造方法が提供できる。
本発明によれば、高性能な固体電解コンデンサを製造することができる導電性高分子組成物が提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の固体電解コンデンサに用いる導電性高分子含有多孔質体(陽極体と固体電解質層)の模式図である。
【
図2】実施例1-1で得られた導電性高分子含有多孔質体の断面の顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[導電性高分子含有多孔質体の製造方法]
本発明の導電性高分子含有多孔質体の製造方法は、弁金属の酸化物を有する多孔質体に酸又は塩の溶液を接触させる工程、及び上記接触と同時に、又は接触後に、多孔質体に導電性高分子溶液を含浸させる工程を含む。
弁金属の酸化物を有する多孔質体に酸又は塩の溶液を接触させることによって当該多孔質体の表面を改質し、導電性高分子溶液を多孔質体の細孔の奥まで浸透させることができる。また、後述するように、当該方法を電解コンデンサの製造に適用することにより、導電性高分子からなる固体電解質層を細孔の奥まで形成できるため、静電容量及びESRに優れる固体電解コンデンサを製造することができる。
以下、当該製造方法について説明する。
【0015】
(弁金属の酸化物を有する多孔質体に酸又は塩の溶液を接触させる工程)
本工程では、弁金属の酸化物を有する多孔質体に酸又は塩の溶液を接触させ、その後、通常、多孔質体の乾燥を行う。
【0016】
弁金属の酸化物を有する多孔質体の弁金属としては、アルミニウム、タンタル、ニオブ、チタン、ハフニウム、ジルコニウム、亜鉛、タングステン、ビスマス、アンチモン等が挙げられ、アルミニウム又はタンタルが好ましい。酸化物としては、これら金属の酸化物が挙げられる。
【0017】
弁金属の酸化物を有する多孔質体としては、弁金属の酸化物のみからなる多孔質体や、構造の一部が弁金属の酸化物である多孔質体が挙げられる。後者の場合、多孔質体の表面に弁金属の酸化物が存在すると好ましい。
多孔質体は細孔が存在する材料であり、好ましくはその表面に直径1nm~10μm程度の細孔を多数有する。
【0018】
多孔質体の形状は特に制限されず、例えば成形体又は膜(箔)であって、一定の厚さを有するものである。
当該多孔質体としては、例えば弁金属の酸化物のみからなる成形体(例えば細孔を有する酸化アルミニウムからなる球体(アルミナボール))が挙げられる。また、弁金属とその酸化物からなる膜(箔)(例えば粗面化によりエッチング孔を有するアルミニウムと、その表面に形成された酸化アルミニウムとからなる膜(箔)(アルミニウム電解コンデンサの陽極材料))が挙げられる。
【0019】
接触に用いる酸又は塩としては特に制限はない。酸とは、酸性基(H+)を有するアレニウス酸又はブレンステッド酸である。例えば、スルホン酸及びその塩、リン酸及びその塩、リン酸エステル及びその塩、カルボン酸及びその塩、アミノ酸及びその塩、ホウ酸及びその塩、ボロン酸及びその塩等が挙げられる。
塩は、対応する酸のアンモニウム塩、アルカリ金属塩(例えばナトリウム塩、リチウム塩、カリウム塩等)等を用いることができる。
【0020】
具体的には、リン酸及びその塩;リン酸モノメチル、リン酸ジメチル、リン酸モノメチルとリン酸ジメチルの混合体及びそれらの塩;リン酸モノエチル、リン酸ジエチル、リン酸モノエチルとリン酸ジエチルの混合体及びそれらの塩;リン酸モノイソプロピル、リン酸ジイソプロピル、リン酸モノイソプロピル及びリン酸ジイソプロピルの混合体及びそれらの塩;リン酸モノブチル、リン酸ジブチル、リン酸モノブチルとリン酸ジブチルの混合体及びそれらの塩;リン酸モノ(2-エチルヘキシル)、リン酸ジ(2-エチルヘキシル)、リン酸モノ(2-エチルヘキシル)とリン酸ジ(2-エチルヘキシル)の混合体及びそれらの塩;酢酸及びその塩;プロピオン酸及びその塩;酪酸及びその塩;DL-2-メチル酪酸及びその塩;2-エチルヘキサン酸及びその塩;3,5,5-トリメチルヘキサン酸及びその塩;ミリスチン酸及びその塩;2-メチル吉草酸及びその塩;アジピン酸及びその塩;グリシン及びその塩;βアラニン及びその塩;DL-アラニン及びその塩;DL-バリン及びその塩;(±)-10-カンファースルホン酸及びその塩;スルホコハク酸ジオクチル及びその塩;2-[4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ビペラジニル]エタンスルホン酸及びその塩;ホウ酸及びホウ酸塩;ドデシルベンゼンスルホン酸及びドデシルベンゼンスルホン酸塩;フェニルボロン酸及びフェニルボロン酸塩等が挙げられる。
これらは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0021】
上記のうち、リン酸エステル及びその塩、カルボン酸及びその塩、カルボン酸エステル及びその塩、アミノ酸及びその塩等であってもよい。尚、耐熱安定化剤とは異なる酸を用いるように構成してもよい。
【0022】
酸又は塩の溶液の濃度は、通常0.5~15.0質量%であり、好ましくは1.0~5.0質量%である。使用する酸又は塩の種類に応じて、弁金属の酸化物を溶解させない範囲で適宜設定する。
当該溶液の溶媒は、酸又は塩が溶解するものであれば特に制限はない。例えば、水、アルコール、ケトン、エーテル等が挙げられる。または導電性高分子溶液の溶媒と共通する同じ溶媒でもよい。これらは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0023】
接触の方法は、多孔質体と酸又は塩の溶液が十分に接触する方法であれば特に制限されないが、多孔質体を酸又は塩の溶液に浸漬する方法が好ましい。
当該溶液との接触(浸漬)時間は、通常1~30分であり、好ましくは1~10分である。接触温度は特に制限はないが、通常、常温である。接触は常圧又は減圧下で行うことが好ましい。
【0024】
酸又は塩の溶液との接触の後、通常、多孔質体を乾燥する。乾燥条件は、用いる酸又は塩の溶液や溶媒の種類によって異なるが、当該溶液の溶媒を除去できる条件であれば特に制限はない。乾燥温度は、通常80~250℃であり、好ましくは110~200℃であり、より好ましくは150~200℃である。乾燥時間は、通常10~60分であり、好ましくは30~60分である。
より高温で乾燥することで溶媒等の残留量が少なくなり、導電性高分子溶液の浸透性を向上することができる。
【0025】
(多孔質体に導電性高分子溶液を含浸させる工程)
本工程では、酸又は塩と接触した又は酸又は塩と接触する多孔質体に、導電性高分子溶液を含浸させる。その後、通常、乾燥を行うことにより、多孔質体の細孔内部とその上に導電性高分子からなる固体電解質層を形成して、導電性高分子含有多孔質体を得る。
導電性高分子含有多孔質体とは、導電性高分子を含む多孔質体であり、具体的には、細孔内部やその上に導電性高分子からなる固体電解質(固体電解質層)を含む多孔質体等である。
導電性高分子含有多孔質体としては、例えば、導電性高分子からなる固体電解質を含む酸化アルミニウムの球体(アルミナボール)や、導電性高分子からなる固体電解質(固体電解質層)が形成されたアルミニウム電解コンデンサの陽極材料(弁金属とその酸化物からなる陽極体)が挙げられる。
【0026】
導電性高分子としては、ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリピロール及びこれらの誘導体等が挙げられる。これらは置換基を有してもよいし有していなくてもよい。これらは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0027】
導電性高分子としてはポリアニリンが好ましい。
ポリアニリンは、好ましくは重量平均分子量が10,000以上であり、より好ましくは20,000以上であり、さらに好ましくは30,000以上1,000,000以下であり、よりさらに好ましくは40,000以上1,000,000以下であり、特に好ましくは52,000以上1,000,000以下である。
【0028】
例えば、固体電解コンデンサの固体電解質層に用いる場合、得られる電解質層の強度を高くできる観点から、一般に、導電性高分子の分子量が大きいほど好ましい。一方、分子量が大きいと粘度が高くなるため、多孔質体の細孔内部に含浸させることがより困難となる。
本発明によれば、酸又は塩の溶液による処理を行うことで、粘度が高い導電性高分子であっても細孔内部に含浸させることができる。
【0029】
ポリアニリンの分子量は、例えば以下の方法により測定することができる:
ポリアニリン複合体0.25gをトルエン5gに溶解し、1M水酸化ナトリウム水溶液を10mL加えて15分間攪拌を行った後吸引ろ過する。得られた残渣をトルエン10mLで3回、イオン交換水10mLで3回、メタノール10mLで3回洗浄を行い、得られた固形分を減圧乾燥し、得られたポリアニリンの分子量をGPCで測定する。
尚、上記方法で得られる分子量は、ポリスチレン(PS)換算値である。
【0030】
ポリアニリンは置換基を有しても有さなくてもよいが、汎用性及び経済性の観点から、好ましくは無置換のポリアニリンである。
置換基を有する場合の置換基としては、例えばメチル基、エチル基、ヘキシル基、オクチル基等の直鎖又は分岐の炭化水素基;メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基;フェノキシ基等のアリールオキシ基;トリフルオロメチル基(-CF3基)等のハロゲン化炭化水素が挙げられる。
【0031】
また、ポリアニリンにプロトン供与体がドープしたポリアニリン複合体であると好ましい。
プロトン供与体がポリアニリンにドープしていることは、紫外・可視・近赤外分光法やX線光電子分光法によって確認することができ、当該プロトン供与体は、ポリアニリンにキャリアを発生させるに十分な酸性を有していれば、特に化学構造上の制限なく使用できる。
当該ポリアニリン複合体を用いることにより、溶媒への溶解性が向上するため好ましい。
【0032】
プロトン供与体としては、例えばブレンステッド酸、又はそれらの塩が挙げられ、好ましくは有機酸、又はそれらの塩であり、さらに好ましくは下記式(I)で示されるプロトン供与体である。
M(XARn)m (I)
式(I)のMは、水素原子、有機遊離基又は無機遊離基である。
上記有機遊離基としては、例えば、ピリジニウム基、イミダゾリウム基、アニリニウム基が挙げられる。また、上記無機遊離基としては、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム、セシウム、アンモニウム、カルシウム、マグネシウム、鉄が挙げられる。
式(I)のXは、アニオン基であり、例えば-SO3
-基、-PO3
2-基、-PO4(OH)-基、-OPO3
2-基、-OPO2(OH)-基、-COO-基が挙げられ、好ましくは-SO3
-基である。
【0033】
式(I)のAは(M(XARn)mのAの定義は)、置換又は無置換の炭化水素基である。
上記炭化水素基は、鎖状若しくは環状の飽和脂肪族炭化水素基、鎖状若しくは環状の不飽和脂肪族炭化水素基、又は芳香族炭化水素基である。
鎖状の飽和脂肪族炭化水素としては、直鎖若しくは分岐状のアルキル基が挙げられる。環状の飽和脂肪族炭化水素基としては、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基等のシクロアルキル基が挙げられる。ここで環状の飽和脂肪族炭化水素基は、複数の環状の飽和脂肪族炭化水素基が縮合していてもよい。例えば、ノルボルニル基、アダマンチル基、縮合したアダマンチル基が挙げられる。芳香族炭化水素基としては、フェニル基、ナフチル基、アントラセニル基等が挙げられる。鎖状の不飽和脂肪族炭化水素としては、直鎖若しくは分岐状のアルケニル基等が挙げられる。
ここで、Aが置換の炭化水素基である場合の置換基は、アルキル基、シクロアルキル基、ビニル基、アリル基、アリール基、アルコキシ基、ハロゲン基、ヒドロキシ基、アミノ基、イミノ基、ニトロ基、シリル基又はエステル基等である。
【0034】
式(I)のRは、Aと結合しており、それぞれ独立して、-H、-R1、-OR1、-COR1、-COOR1、-(C=O)―(COR1)、又は―(C=O)―(COOR1)で表わされる置換基あり、R1は、置換基を含んでもよい炭化水素基、シリル基、アルキルシリル基、-(R2O)x-R3基、又は-(OSiR3
2)x-OR3(R2はそれぞれ独立にアルキレン基、R3はそれぞれ独立に炭化水素基であり、xは1以上の整数である)である。
R1の炭化水素基としては、メチル基、エチル基、直鎖若しくは分岐のブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基、ペンタデシル基、エイコサニル基等が挙げられる。また、当該炭化水素基の置換基は、アルキル基、シクロアルキル基、ビニル基、アリル基、アリール基、アルコキシ基、ハロゲン基、ヒドロキシ基、アミノ基、イミノ基、ニトロ基又はエステル基等である。R3の炭化水素基もR1と同様である。
R2のアルキレン基としては、例えばメチレン基、エチレン基、プロピレン基等が挙げられる。
式(I)のnは1以上の整数であり、式(I)のmは、Mの価数/Xの価数である。
【0035】
式(I)で示される化合物としては、ジアルキルベンゼンスルフォン酸、ジアルキルナフタレンスルフォン酸、又はエステル結合を2以上含有する化合物が好ましい。
上記エステル結合を2以上含有する化合物は、スルホフタール酸エステル、又は下式(II)で表される化合物がより好ましい。
【化1】
(式中、M,X及びmは、式(I)と同様である。Xは、-SO
3
-基が好ましい。)
【0036】
式(II)のR4、R5及びR6は、それぞれ独立して水素原子、炭化水素基又はR9
3Si-基(ここで、R9は炭化水素基であり、3つのR9は同一又は異なっていてもよい)である。
R4、R5及びR6が炭化水素基である場合の炭化水素基としては、炭素数1~24の直鎖若しくは分岐状のアルキル基、芳香環を含むアリール基、アルキルアリール基等が挙げられる。
R9の炭化水素基としては、R4、R5及びR6の場合と同様である。
【0037】
式(II)のR7及びR8は、それぞれ独立に、炭化水素基又は-(R10O)q-R11基[ここで、R10は炭化水素基又はシリレン基であり、R11は水素原子、炭化水素基又はR12
3Si-(R12は、炭化水素基であり、3つのR12は同一又は異なっていてもよい)であり、qは1以上の整数である]である。
R7及びR8が炭化水素基である場合の炭化水素基としては、炭素数1~24、好ましくは炭素数4以上の直鎖若しくは分岐状のアルキル基、芳香環を含むアリール基、アルキルアリール基等が挙げられ、R7及びR8が炭化水素基である場合の炭化水素基の具体例としては、例えば、直鎖又は分岐状のブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基等が挙げられる。
【0038】
R7及びR8における、R10が炭化水素基である場合の炭化水素基としては、例えば炭素数1~24の直鎖若しくは分岐状のアルキレン基、芳香環を含むアリーレン基、アルキルアリーレン基、アリールアルキレン基である。また、R7及びR8における、R11及びR12が炭化水素基である場合の炭化水素基としては、R4、R5及びR6の場合と同様であり、qは、1~10であることが好ましい。
【0039】
R
7及びR
8が-(R
10O)
q-R
11基である場合の式(II)で表わされる化合物の具体例としては、下記式で表わされる2つの化合物である。
【化2】
(式中、Xは式(I)と同様である。)
【0040】
上記式(II)で表わされる化合物は、下記式(III)で示されるスルホコハク酸誘導体であることがさらに好ましい。
【化3】
(式中、Mは、式(I)と同様である。m’は、Mの価数である。)
【0041】
式(III)のR13及びR14は、それぞれ独立に、炭化水素基又は-(R15O)r-R16基[ここで、R15はそれぞれ独立に炭化水素基又はシリレン基であり、R16は水素原子、炭化水素基又はR17
3Si-基(ここで、R17はそれぞれ独立に炭化水素基である)であり、rは1以上の整数である]である。
R13及びR14が炭化水素基である場合の炭化水素基としては、R7及びR8と同様である。
R13及びR14において、R15が炭化水素基である場合の炭化水素基としては、上記R10と同様である。また、R13及びR14において、R16及びR17が炭化水素基である場合の炭化水素基としては、上記R4、R5及びR6と同様である。
rは、1~10であることが好ましい。
【0042】
R13及びR14が-(R15O)r-R16基である場合の具体例としては、R7及びR8における-(R10O)q-R11と同様である。
R13及びR14の炭化水素基としては、R7及びR8と同様であり、ブチル基、ヘキシル基、2-エチルヘキシル基、デシル基等が好ましい。
【0043】
上記プロトン供与体はその構造を変えることにより、ポリアニリン複合体の導電性や、溶剤への溶解性をコントロールできることが知られている(特許第3384566号)。本発明においては、用途毎の要求特性によって最適なプロトン供与体を選択できる。
【0044】
ポリアニリンに対するプロトン供与体のドープ率は、好ましくは0.30以上0.65以下であり、より好ましくは0.32以上0.60以下であり、さらに好ましくは0.33以上0.57以下であり、特に好ましくは0.34以上0.55以下である。ドープ率が0.30未満である場合、ポリアニリン複合体の有機溶剤への溶解性が高くならないおそれがある。
ドープ率は(ポリアニリンにドープしているプロトン供与体のモル数)/(ポリアニリンのモノマーユニットのモル数)で定義される。例えば無置換ポリアニリンとプロトン供与体を含むポリアニリン複合体のドープ率が0.5であることは、ポリアニリンのモノマーユニット分子2個に対し、プロトン供与体が1個ドープしていることを意味する。
尚、ドープ率は、ポリアニリン複合体中のプロトン供与体とポリアニリンのモノマーユニットのモル数が測定できれば算出可能である。例えば、プロトン供与体が有機スルホン酸の場合、プロトン供与体由来の硫黄原子のモル数と、ポリアニリンのモノマーユニット由来の窒素原子のモル数を、有機元素分析法により定量し、これらの値の比を取ることでドープ率を算出できる。但し、ドープ率の算出方法は、当該手段に限定されない。
【0045】
ポリアニリン複合体は、無置換ポリアニリンとプロトン供与体であるスルホン酸とを含み、下記式(5)を満たすことが好ましい。
0.32≦S5/N5≦0.60 (5)
(式中、S5はポリアニリン複合体に含まれる硫黄原子のモル数の合計であり、N5はポリアニリン複合体に含まれる窒素原子のモル数の合計である。
尚、上記窒素原子及び硫黄原子のモル数は、例えば有機元素分析法により測定した値である。)
【0046】
導電性高分子溶液の濃度は、通常0.1~15.0質量%であり、好ましくは1.0~10.0質量%である。溶媒は導電性高分子を溶解できるものであれば特に制限はないが、例えば、芳香族系炭化水素、脂肪族炭化水素、アルコール、フェノール、ケトン、エーテル等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0047】
導電性高分子溶液は、好ましくはさらにフェノール性化合物を含む。
フェノール性化合物は特に限定されず、ArOH(ここで、Arはアリール基又は置換アリール基である)で示される化合物である。具体的には、フェノール、o-,m-若しくはp-クレゾール、o-,m-若しくはp-エチルフェノール、o-,m-若しくはp-プロピルフェノール、o-,m-若しくはp-ブチルフェノール、o-,m-若しくはp-クロロフェノール、サリチル酸、ヒドロキシ安息香酸、ヒドロキシナフタレン等の置換フェノール類;カテコール、レゾルシノール等の多価フェノール性化合物;及びフェノール樹脂、ポリフェノール、ポリ(ヒドロキシスチレン)等の高分子化合物等を例示することができる。
【0048】
また、下記式(3)で表されるフェノール性化合物を用いることができる。
【化4】
(式中、nは1~5の整数である。
Rは、それぞれ炭素数2~10のアルキル基、炭素数2~20のアルケニル基、炭素数1~20のアルキルチオ基、炭素数3~10のシクロアルキル基、炭素数6~20のアリール基、炭素数7~20のアルキルアリール基又は炭素数7~20のアリールアルキル基である。)
【0049】
上記のRについて、以下に説明する。
アルキル基としては、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、ターシャルブチル、ターシャルアミル等が挙げられる。
アルケニル基としては、上述したアルキル基の分子内に不飽和結合を有する置換基が挙げられる。
シクロアルキル基としては、シクロペンタン、シクロヘキサン等が挙げられる。
アルキルチオ基としては、メチルチオ、エチルチオ等が挙げられる。
アリール基としては、フェニル、ナフチル等が挙げられる。
アルキルアリール基、及びアリールアルキル基としては、上述したアルキル基とアリール基を組み合わせて得られる置換基等が挙げられる。
これらの基のうち、Rとしては、メチル又はエチル基が好ましい。
【0050】
フェノール性化合物の含有量は、好ましくはポリアニリン複合体100質量部に対して10~5000質量部であり、より好ましくは10~2000質量部である。当該フェノール性化合物を用いることにより、導電性が向上したり、アルコールへの溶解性が向上するため好ましい。
【0051】
導電性高分子溶液は、耐熱安定化剤として酸性物質又は酸性物質の塩を含んでもよい。酸性物質はスルホン酸基1つ以上含む有機酸(有機化合物の酸)、無機酸(無機化合物の酸)のいずれでもよい。
【0052】
酸性物質は、有機化合物の酸である有機酸、無機化合物の酸である無機酸のいずれでもよく、好ましくは有機酸である。
酸性物質としては、好ましくはスルホン酸基を1つ以上含む有機酸である。
【0053】
上記スルホン酸基を有する有機酸は、好ましくはスルホン酸基を1つ以上有する、環状、鎖状又は分岐のアルキルスルホン酸、置換又は無置換の芳香族スルホン酸、又はポリスルホン酸である。
上記アルキルスルホン酸としては、例えば、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ジ2-エチルヘキシルスルホコハク酸が挙げられる。ここで、アルキル基は好ましくは炭素数が1~18の直鎖又は分岐のアルキル基である。
上記芳香族スルホン酸としては、炭素数6~20のものが挙げられ、例えば、ベンゼン環を有するスルホン酸、ナフタレン骨格を有するスルホン酸、アントラセン骨格を有するスルホン酸が挙げられる。また、上記芳香族スルホン酸としては、置換又は無置換のベンゼンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸及びアントラセンスルホン酸が挙げられる。
【0054】
置換基としては、例えば、アルキル基(例えば炭素数1~20のもの)、アルコキシ基(例えば炭素数1~20のもの)、ヒドロキシ基、ニトロ基、カルボキシ基、アシル基からなる群から選択される置換基であり、1以上置換していてもよい。例えば、ナフタレンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、アントラキノンスルホン酸が挙げられる。上記芳香族スルホン酸としては、置換又は無置換のナフタレンスルホン酸が好ましい。
【0055】
耐熱安定化剤の含有量は、好ましくはポリアニリン複合体100質量部に対して0.1~1000質量部であり、より好ましくは1~100質量部である。耐熱安定化剤を用いることにより、耐熱性が向上するため好ましい。
【0056】
溶剤は、導電性高分子を溶解するものであれば特に制限はないが、有機溶剤が好ましい。
有機溶剤は、水溶性有機溶剤でもよいし、実質的に水に混和しない有機溶剤(水不混和性有機溶剤)でもよい。
【0057】
水溶性有機溶剤は、プロトン性極性溶媒でも非プロトン性極性溶媒でもよく、例えばイソプロピルアルコール、1-ブタノール、2-ブタノール、2-ペンタノール、ベンジルアルコール、アルコキシアルコール(例えば1-メトキシ-2-プロパノール、3-メトキシ-1-ブタノール)等のアルコール類;アセトン等のケトン類;テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコールモノ-tert-ブチルエーテル等のエーテル類;Nメチルピロリドン等の非プロトン性極性溶剤等が挙げられる。
水不混和性有機溶剤としては、例えば、ヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、テトラリン等の炭化水素系溶剤;塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素、ジクロロエタン、テトラクロロエタン等の含ハロゲン系溶剤;酢酸エチル、酢酸イソブチル、酢酸n-ブチル等のエステル系溶剤;メチルイソブチルケトン(MIBK)、メチルエチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン等のケトン類溶剤;シクロペンチルメチルエーテル等のエーテル類溶剤等が挙げられる。また、炭化水素系溶剤として1種又は2種以上のイソパラフィンを含むイソパラフィン系溶剤を用いてもよい。
【0058】
これらのうち、導電性高分子の溶解性に優れる点でトルエン、キシレン、メチルイソブチルケトン、クロロホルム、トリクロロエタン及び酢酸エチルが好ましい。
尚、ポリアニリン複合体は、溶剤がイソプロピルアルコール、1-ブタノール、2-ブタノール、2-ペンタノール、ベンジルアルコール、アルコキシアルコール等のアルコール類であっても溶解することができる。アルコールは、トルエン等の芳香族に比べて環境負荷低減の観点から好ましい。
【0059】
溶剤として有機溶剤を用いる場合、水不混和性有機溶剤と水溶性有機溶剤を99~1:1~99(質量比)で混合した混合有機溶剤を用いることにより、保存時のゲル等の発生を防止でき、長期保存できることから好ましい。
上記混合有機溶剤の水不混和性有機溶剤として低極性有機溶剤が使用でき、低極性有機溶剤は、ヘキサン、トルエン等の炭化水素系溶剤;クロロホルム等の含ハロゲン系溶剤;イソパラフィン系溶剤が好ましい。
混合有機溶剤の水溶性有機溶剤としては、高極性有機溶剤が使用でき、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、2-メトキシエタノール、2-エトキシエタノール、1-メトキシ-2-プロパノール、3-メトキシ-1-ブタノール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類;テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、エチレングリコールモノ-tert-ブチルエーテル等のエーテル類が好ましい。
混合有機溶剤は水不混和性有機溶剤を1種又は2種以上含んでもよく、水溶性有機溶剤を1種又は2種以上含んでもよい。
【0060】
導電性高分子溶液の含浸方法は、多孔質体の細孔内部へ導電性高分子を十分に含浸できる方法であれば特に制限はないが、多孔質体を導電性高分子溶液に浸漬する方法が好ましい。含浸(浸漬)時間は、通常1~30分間であり、好ましくは1~10分間である。
【0061】
導電性高分子溶液の乾燥温度は、通常30~200℃であり、好ましくは100~180℃である。乾燥時間は、通常10~120分であり、好ましくは30~90分である。
導電性高分子溶液の含浸工程と乾燥工程を繰り返し行ってもよく、例えば、2~10回繰り返し行ってもよい。
【0062】
[導電性高分子含有多孔質体]
本発明の導電性高分子含有多孔質体は、弁金属の酸化物を有する多孔質体であって、導電性高分子、及び酸又は塩を含む。本発明の導電性高分子含有多孔質体は上記の方法で得ることができる。多孔質体、導電性高分子、及び酸又は塩については上記の通りである。
【0063】
[導電性高分子組成物]
本発明の導電性高分子組成物は、下記(a)、(b)及び(c)成分を含む。
(a)導電性高分子
(b)溶剤
(c)酸又は塩
上述したように、導電性高分子含有多孔質体は、多孔質体に酸又は塩を接触させ、導電性高分子溶液を含浸させて製造する。上記の導電性高分子組成物を、多孔質体に含浸させると、酸又は塩との接触と、導電性高分子溶液の含浸を同時に行うことができる。尚、予め酸又は塩の溶液と接触させて、その後再度酸又は塩を含む導電性高分子組成物を含浸させてもよい。
このような導電性高分子組成物を用いれば、対象物に組成物を含浸させるという簡便な工程のみによって導電性高分子を浸透させることができ、追加の工程を要しないため経済性に優れる。
以下、各成分について説明する。
【0064】
((a)導電性高分子)
導電性高分子は上記の通りである。
【0065】
成分(a)の濃度は、導電性高分子組成物に対して、通常0.3~20質量%であり、好ましくは0.5~20質量%であり、より好ましくは1~15質量%であり、さらに好ましくは1~10質量%である。
【0066】
((b)溶剤)
溶剤(b)は、(a)導電性高分子を溶解する溶剤として上記のものを使用できる。ただし、後述する(c)~(e)成分は含まない。
成分(b)の含有量は、他の成分の量により適宜調整でき限定されないが、例えば、成分(a)100質量部に対して200~20000質量部、300~17000質量部又は500~12000質量部とできる。
【0067】
((c)酸又は塩)
成分(c)として、上記の酸又は塩を用いることができる。ただし、成分(c)は、後述する成分(d)と(e)は含まない。
成分(c)として、溶剤(b)に可溶な酸を用いれば、より容易に成分(c)を多孔質体に接触させることができる。
【0068】
成分(c)は、好ましくは溶解度パラメーター(SP値)が13.0(cal/cm3)1/2以下であり、より好ましくは11.0(cal/cm3)1/2以下である。また、10.0(cal/cm3)1/2以下としてもよい。SP値は通常0(cal/cm3)1/2以上である。
SP値は、「Polymer Engineering & Science」、1974年、第14巻、147~154頁に記載のFedors法により算出する。具体的には実施例に記載の通りである。
【0069】
成分(c)は、疎水性基を有する酸であると好ましい。
疎水性基としては、直鎖アルキル基、分岐鎖アルキル基、アルキルフェニル基、アルキルナフチル基等が挙げられる。直鎖アルキル基、分岐鎖アルキル基のアルキル基、及びアルキルフェニル基、アルキルナフチル基に含まれるアルキル基の炭素数は、好ましくは2~20である。
【0070】
成分(c)としては、アルキルカルボン酸,リン酸モノエステル、リン酸ジエステル、アルキルベンゼンカルボン酸、アルキルベンゼンホスホン酸等が挙げられる。尚、アルキルベンゼンカルボン酸はR-Ph-COOHで表される化合物であり、アルキルベンゼンホスホン酸はR-Ph-PO(OH)2で表される化合物である(式中、Rはアルキル基を示し、Phはフェニル基を示す)。
アルキルカルボン酸、アルキルベンゼンカルボン酸及びアルキルベンゼンホスホン酸のアルキル基の炭素数は、好ましくは2~20である。リン酸モノエステル及びリン酸ジエステルは、好ましくはリン酸と炭素数2~20のアルコールから得られるエステルである。
【0071】
成分(c)としては、具体的に、プロピオン酸、DL-2-メチル酪酸、2-メチル吉草酸、2-エチルヘキサン酸、3,5,5-トリメチルヘキサン酸、ミリスチン酸、リン酸モノメチル、リン酸ジメチル、リン酸モノメチルとリン酸ジメチルの混合物、リン酸モノエチル、リン酸ジエチル、リン酸モノエチルとリン酸ジエチルの混合物、リン酸モノイソプロピル、リン酸ジイソプロピル、リン酸モノイソプロピルとリン酸ジイソプロピルの混合物、リン酸モノブチル、リン酸ジブチル、リン酸モノブチルとリン酸ジブチルの混合物、リン酸モノ(2-エチルヘキシル)、リン酸ジ(2-エチルヘキシル)、リン酸モノ(2-エチルヘキシル)とリン酸ジ(2-エチルヘキシル)の混合物等が挙げられる。
【0072】
成分(c)の含有量は、本発明の導電性高分子組成物に対して、好ましくは0.1~70質量%であり、より好ましくは0.5~70質量%であり、さらに好ましくは1~30質量%であり、よりさらに好ましくは2~20質量%である。
成分(c)の含有量は、成分(a)100質量部に対して、例えば20~200質量部、25~150質量部としてもよい。成分(a)100質量部に対して、200~900質量部、400~800質量部としてもよい。また、成分(a)100質量部に対して、1000質量部超としてもよく、例えば1100~7000質量部、1200~3000質量部としてもよい。
【0073】
本発明の導電性高分子組成物は、上記の(a)~(c)成分に加えてさらに(d)耐熱安定化剤、及び/又は(e)フェノール性化合物を含んでもよい。
【0074】
((d)耐熱安定化剤)
成分(d)の耐熱安定化剤として上記の耐熱安定化剤を用いることができる。ただし、成分(d)は成分(e)を含まない。好ましくは置換又は無置換のナフタレンスルホン酸である。
【0075】
成分(d)の含有量は、好ましくは成分(a)100質量部に対して0.1~70質量部であり、より好ましくは1~55質量部であり、さらに好ましくは3~30質量部であり、特に好ましくは5~10質量部である。
【0076】
((e)フェノール性化合物)
成分(e)のフェノール性化合物として上記のフェノール性化合物を用いることができる。成分(e)は成分(b)~(d)とは異なる成分である。
【0077】
フェノール性化合物の含有量は、好ましくは成分(a)100質量部に対して10~5000質量部であり、より好ましくは100~4000質量部である。成分(e)を用いることにより、導電性が向上したり、アルコールへの溶解性が向上するため好ましい。
また、(e)フェノール性化合物を成分(b)と混合し、混合溶剤として用いてもよい。
【0078】
本発明の導電性高分子組成物は、本質的に、成分(a)、(b)及び(c)、並びに、任意に(d)及び(e)からなる群から選択される1以上の成分からなってもよい。この場合、不可避不純物を含んでもよい。本発明の導電性高分子組成物の、例えば、70質量%以上、80質量%以上、90質量%以上、98質量%以上、99質量%以上、99.5質量%以上が、成分(a)、(b)及び(c)、並びに、任意に(d)及び(e)からなる群から選択される1以上の成分であってもよい。また、本発明の導電性高分子組成物は、成分(a)、(b)及び(c)、並びに、任意に(d)及び(e)からなる群から選択される1以上の成分のみからなってもよい。
【0079】
[固体電解コンデンサの製造方法]
本発明の固体電解コンデンサの製造方法は、弁金属の酸化物からなる表面を有する、弁金属からなる多孔質体である陽極体に、酸又は塩の溶液を接触させる工程、及び上記接触と同時に又は接触後に、陽極体に導電性高分子溶液を含浸させ乾燥することによって、陽極体上に導電性高分子からなる固体電解質層を形成する工程を含む。
陽極体とは、弁金属(陽極)とその表面に形成された弁金属の酸化物(誘電体)からなる膜(箔)を意味する。
【0080】
一般的な固体電解コンデンサの製造方法は、陽極金属(弁金属)の表面を粗面化する工程、粗面化した陽極金属の表面に誘電体皮膜(弁金属の酸化物の膜)を形成する工程、及び固体電解質層を形成する工程を含む。さらに、固体電解質層を挟んで陽極と対向するように陰極を形成する工程も含む。
【0081】
上記の工程を全て通して行ってもよいし、対応する陽極と陰極が形成された既製品(陽極体は既に粗面化されて乾燥している)について、導電性高分子組成物を含浸させる工程を行ってもよい。
【0082】
本発明の製造方法において、陽極体に上記の導電性高分子組成物を含浸させることによって、酸又は塩との接触と、導電性高分子溶液の含浸を同時に行うことができる。また、予め酸又は塩の溶液と接触させて、その後再度酸又は塩を含む導電性高分子組成物を含浸させてもよい。
【0083】
図1に、本発明の陽極体と固体電解質層の模式図を示す。陽極体10は、表面に細孔(多孔)を有する多孔質体である。陽極体10は、弁金属11からなり、その表面は弁金属の酸化物12からなる。このように表面に凹凸のある陽極体10の上に、固体電解質層20が形成される。本発明では、固体電解質層20が、陽極体10の細孔に深く入り込むため、固体電解質層20を含むコンデンサの容量が高くなる。
以下、当該製造方法について説明する。
【0084】
(陽極金属の表面を粗面化する工程)
本工程では、固体電解コンデンサの陽極金属(弁金属)の表面を粗面化(エッチング)して実効表面積を拡大する。または、陽極金属(弁金属)の微粉末を焼結することにより実効表面積を拡大した多孔質体を得る。
陽極金属としては、アルミニウム、タンタル、ニオブ、チタン、ハフニウム、ジルコニウム、亜鉛、タングステン、ビスマス、アンチモン等の弁金属が挙げられ、アルミニウム又はタンタルが好ましい。
【0085】
粗面化(エッチング)は公知の方法により行うことができ、例えば、塩酸液に浸漬する方法(化学エッチング)、塩酸水溶液中でアルミニウムを陽極として電解する方法(電気化学的エッチング)等を用いることができる。
【0086】
(陽極金属の表面に誘電体皮膜を形成する工程)
本工程では、粗面化した陽極表面に誘電体の酸化皮膜を形成する。本工程は、通常、電解液中で電圧を印加して陽極酸化することによって行う(化成)。これにより、陽極金属の酸化物(誘電体)からなる皮膜が形成され、弁金属とその酸化物からなる陽極体が得られる。
用いる電解液としては、アジピン酸、クエン酸、リン酸及びこれらの塩等を含む水溶液が挙げられる。陽極酸化は公知の方法により行うことができる。
【0087】
(コンデンサ素子の形成工程)
通常、上記の陽極酸化を行った後に、陽極電極(弁金属とその酸化物からなる陽極体)と陰極電極を用いてコンデンサ素子を形成する。素子形状は特に限定されず、例えば、捲回型素子又は積層型素子である。
捲回型の場合、陽極電極と陰極電極とをセパレーターを介して捲回することによりコンデンサ素子を形成する。積層型の場合、複数の陽極電極と複数の陰極電極とを互いに積層してコンデンサ素子を形成する。
本工程のコンデンサ素子の形成は、公知の方法により行うことができる。
【0088】
(陽極体に酸又は塩の溶液を接触させる工程)
本工程では、弁金属とその酸化物からなる陽極体に酸又は塩の溶液を接触させる。
接触の方法は、陽極体と酸又は塩の溶液が十分に接触する方法であれば特に制限されないが、コンデンサ素子自体を酸又は塩の溶液に浸漬する方法が好ましい。
酸又は塩の溶液は、上記で説明したものと同じである。接触(浸漬)時間は、通常30秒~30分であり、好ましくは1分~10分である。
接触後の乾燥条件も上記で説明したものと同じである。
より高温で乾燥することで溶媒等の残留量が少なくなり、導電性高分子溶液の浸透性を向上し、得られる固体電解コンデンサの性能を向上することができる。また、少ない浸漬回数でも十分なコンデンサ特性が獲得できるため、導電性高分子溶液への浸漬回数を減らすことができる。さらに、導電性高分子溶液の濃度を低くすることも可能となり、低コスト化が可能となる。
【0089】
(陽極体を導電性高分子溶液に浸漬し、乾燥する工程)
本工程では、酸又は塩の溶液によって処理した陽極体を導電性高分子溶液に浸漬し、乾燥することにより、陽極体の細孔内部及び表面に導電性高分子からなる固体電解質層を形成する。
【0090】
導電性高分子溶液への浸漬方法は、陽極体の細孔内部へ導電性高分子を充分に含浸できる方法であれば特に制限はないが、コンデンサ素子自体を導電性高分子溶液に浸漬する方法が好ましい。浸漬時間は、通常1~30分間であり、好ましくは1~10分間である。
導電性高分子溶液は、上記で説明したものと同じである。
【0091】
乾燥温度は、通常30~200℃であり、好ましくは100~180℃である。乾燥時間は、通常10~120分であり、好ましくは30~90分である。
導電性高分子溶液の含浸工程と乾燥工程を繰り返し行ってもよく、例えば、2~10回繰り返し行ってもよい。
【0092】
本工程は、通常、酸又は塩の溶液を接触させる工程の直後に行う。即ち、当該処理後、電圧印加等の操作を行わずに陽極体を導電性高分子溶液に浸漬する。
【0093】
[固体電解コンデンサ]
本発明の固体電解コンデンサは、上述した本発明の導電性高分子含有多孔質体を含む。具体的には、導電性高分子からなる固体電解質(固体電解質層)を含む陽極材料(弁金属とその酸化物からなる陽極体)を含む。
【0094】
また、本発明の固体電解コンデンサは、上述した固体電解コンデンサの製造方法により得ることができる。
【0095】
本発明の固体電解コンデンサは、電気・電子回路基板に実装される回路素子、特に、自動車等に搭載される回路素子として用いることができる。
【実施例】
【0096】
[ポリアニリン複合体の製造]
製造例1
エーロゾルOT(ジイソオクチルスルホコハク酸ナトリウム)37.8g及びポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル構造を有する非イオン乳化剤であるソルボンT-20(東邦化学工業株式会社製)1.47gをトルエン600mLに溶解した溶液を、窒素気流下においた6Lのセパラブルフラスコに入れ、さらにこの溶液に、22.2gのアニリンを加えた。その後、1Mリン酸1800mLを溶液に添加し、トルエンと水の2つの液相を有する溶液の温度を5℃に冷却した。
溶液内温が5℃に到達した時点で、毎分390回転で撹拌を行った。65.7gの過硫酸アンモニウムを1Mリン酸600mLに溶解した溶液を、滴下ロートを用いて2時間かけて滴下した。滴下開始から18時間、溶液内温を5℃に保ったまま反応を実施した。その後、反応温度を40℃まで上昇させ、1時間反応を継続した。その後、静置することで二相に分離した水相側を分液した。有機相側にトルエン1500mLを追加し、1Mリン酸600mLで1回、イオン交換水600mLで3回洗浄を行うことでポリアニリン複合体(プロトネーションされたポリアニリン)トルエン溶液を得た。
【0097】
得られたポリアニリン複合体トルエン溶液に含まれる若干の不溶物を#5Cの濾紙により除去し、ポリアニリン複合体のトルエン溶液を回収した。この溶液をエバポレーターに移し、60℃の湯浴で加温し、減圧することにより、揮発分を蒸発留去し、43.0gのポリアニリン複合体を得た(以下、ポリアニリン複合体1とする)。
調製したポリアニリン複合体1を有機物塩素分-電量滴定法により塩素含有量を測定した結果、塩素含有量が5重量ppm未満であることを確認した。
【0098】
得られたポリアニリン複合体1(0.25g)をトルエン4.75g、イソプロピルアルコール0.25gに溶解し、その溶液に1M水酸化ナトリウム水溶液を10mL加えて15分間撹拌を行った。その後、全量をNo.4のろ紙にて吸引ろ過し、残渣をトルエン10mLで3回、イオン交換水10mLで3回、メタノール10mLで3回洗浄を行った。得られた固形分を減圧乾燥することで、分子量測定用ポリアニリンを作製した。
【0099】
分子量測定用ポリアニリン2mgに0.01M LiBr含有NMPを10mL加え、シェイカーを用いて溶解させた。その後、ジ-エルサイエンス社製クロマトディスク(水系/非水系、0.45μ)を用いてろ過した後、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)を用いて分子量分布の測定を行った。
GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)の測定は昭和電工株式会社製GPCカラム(Shodex KF-806Mを2本、Shodex KF-803を1本)を用いて行い、測定条件は溶媒を0.01M LiBr含有NMP、流量を0.40ml/min、カラム温度を60℃、注入量を100μL、UV検出波長を270nmとした。また、分子量分布はポリスチレン換算で行った。
重量平均分子量は68700、分子量分布は2.9であった。
また、ポリアニリン複合体1のドープ率は0.36であった。
【0100】
[ポリアニリン複合体溶液の調製]
製造例2
イソプロピルアルコール38g、p-tert-アミルフェノール38g、ヘキサン24gを均一になるまで撹拌混合した。その後、この混合溶剤99gに製造例1で得られたポリアニリン複合体1を1g添加し、均一に溶解させた。また、この溶液に2-ナフタレンスルホン酸水和物を0.084g添加し、均一に溶解させ、1質量%のポリアニリン複合体溶液(導電性高分子溶液)を調製した。
【0101】
製造例3
イソプロピルアルコール38g、p-tert-アミルフェノール38g、ヘキサン24gを均一になるまで撹拌混合した。その後、この混合溶剤90gに製造例1で得られたポリアニリン複合体1を10g添加し、均一に溶解させた。また、この溶液に2-ナフタレンスルホン酸水和物を0.84g添加し、均一に溶解させ、10質量%のポリアニリン複合体溶液(導電性高分子溶液)を調製した。
【0102】
製造例4
イソプロピルアルコール38g、p-tert-アミルフェノール38g、ヘキサン24gを均一になるまで撹拌混合した。その後、この混合溶剤93gに製造例1で得られたポリアニリン複合体1を7g添加し、均一に溶解させた。また、この溶液に2-ナフタレンスルホン酸水和物を0.59g添加し、均一に溶解させ、7質量%のポリアニリン複合体溶液(導電性高分子溶液)を調製した。
【0103】
[導電性高分子含有多孔質体の製造及び評価]
実施例1-1
イオン交換水96gにホウ酸4gを溶解し、4質量%ホウ酸水溶液を調製した。このホウ酸水溶液3gにアルミナボール(住友化学株式会社製「NKHO-24」:直径3mm、アルミニウムの酸化物からなる多孔質体)1個を5分間浸漬した。その後、150℃で30分乾燥した。ホウ酸水溶液による処理を行ったアルミナボールを、1質量%のポリアニリン複合体溶液(製造例2で得たポリアニリン複合体溶液)に5分間浸漬し、その後、150℃で30分乾燥を行った。得られたアルミナボールをニッパーで切断し、断面観察を行った。その結果、アルミナボールの内側までポリアニリン複合体溶液による着色があることが目視で確認できた。アルミナボール断面の顕微鏡写真を
図2に示す。
【0104】
実施例1-2~1-61
酸又は塩基の溶液として表1-1、1-2に記載のものを用いた以外は、実施例1-1と同様にしてアルミナボールの処理を行い、ポリアニリン複合体溶液に浸漬し、評価を行った。その結果、アルミナボールの内側までポリアニリン複合体溶液による着色があることが目視で確認できた。
表1中、「混合溶媒」は、イオン交換水とイソプロピルアルコールを質量比1:1で混合して得られた溶媒である。「HEPES」は、2-[4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ビペラジニル]エタンスルホン酸を示す。
【0105】
比較例1-1
酸又は塩の溶液による処理を行わなかった他は実施例1-1と同様の操作を行い、評価した。
その結果、アルミナボール内部にはポリアニリン複合体溶液による着色が無く、表面のみにしかポリアニリンが付着しなかった。
【0106】
【0107】
[捲回型アルミニウム固体電解コンデンサの製造及び評価]
実施例2-1
イオン交換水99gにホウ酸1gを溶解し、1質量%のホウ酸水溶液を調製した。また、捲回型アルミニウム固体電解コンデンサを用意した。当該コンデンサは、粗面化し、誘電体皮膜を形成した陽極金属(弁金属とその酸化物からなる陽極体)と、陰極電極とをセパレーターを介して捲回して得られたコンデンサ素子である。1質量%ホウ酸水溶液5gに、当該アルミニウム固体電解コンデンサ(陽極化成電圧:133V、セパレーター:セルロース、理論容量:24.1μF、直径5mm×長さ8mm、日本先端科学株式会社製)1個を1分間浸漬し、150℃で30分乾燥した。次に、この素子を、製造例3で調製した10質量%のポリアニリン複合体溶液に2分間浸漬し、100℃で10分の乾燥を行い、続けて150℃で60分の乾燥を行った。
得られたコンデンサについて、LCRメーター(Agilent製 Precision LCR Meter E4980A)を用いて、周波数120Hz時のCap(静電容量)及びtanδ(誘電損失)、周波数100kHz時のESR(等価直列抵抗)の測定を行った。結果を表2に示す。
【0108】
実施例2-2~2-13
1質量%のホウ酸水溶液に代えて、表2に記載の酸又は塩の溶液を用いた以外は実施例2-1と同様にコンデンサを作製し、評価を行った。結果を表2に示す。
水溶液の溶媒はイオン交換水である。「IPA」はイソプロパノールを示す。「%」表記は質量%を示す。
【0109】
比較例2-1
酸又は塩の溶液による処理を行わなかった以外は実施例2-1と同様にコンデンサを作製し、評価を行った。結果を表2に示す。
【0110】
【0111】
実施例2-14
イオン交換水98gにグリシン2gを溶解し、2質量%のグリシン水溶液を調製した。2質量%のグリシン水溶液5gに、実施例2-1で用意したものと同じアルミニウム固体電解コンデンサ1個を5分間浸漬し、150℃で30分乾燥した。次に、この素子を、製造例4により調製した7質量%のポリアニリン複合体溶液に5分間浸漬し、60℃で30分の乾燥を行い、続けて150℃で60分の乾燥を行った。このポリアニリン複合体溶液への浸漬及び乾燥をさらに2回繰り返し行った。
得られたコンデンサについて、実施例2-1と同様に評価を行った。結果を表3に示す。
【0112】
実施例2-15
イオン交換水98gにHEPES(2-[4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ビペラジニル]エタンスルホン酸)2gを溶解し、2質量%のHEPES水溶液を調製した。2質量%のグリシン水溶液に代えて2質量%のHEPES水溶液を用いた以外は実施例2-14と同様にコンデンサを作製し、評価を行った。結果を表3に示す。
【0113】
比較例2-2
酸又は塩の溶液による処理を行わなかった以外は実施例2-14と同様にコンデンサを作製し、評価を行った。結果を表3に示す。
【0114】
【0115】
実施例2-16
イオン交換水86.4g、イソプロピルアルコール9.6gの混合溶液にホウ酸4gを溶解し、4質量%のホウ酸溶液を調製した。また、捲回型アルミニウム固体電解コンデンサを用意した。当該コンデンサは、粗面化し、誘電体皮膜を形成した陽極金属(弁金属とその酸化物からなる陽極体)と、陰極電極とをセパレーターを介して捲回して得られたコンデンサ素子である。4質量%のホウ酸水溶液5gに、当該アルミニウム固体電解コンデンサ(陽極化成電圧:133V、セパレーター:PET、理論容量:24.1μF、直径φ5mm×長さ8mm、日本先端科学株式会社製)1個を5分間浸漬し、150℃で30分乾燥した。次に、この素子を、製造例4により調製した7質量%のポリアニリン複合体溶液に5分間浸漬し、60℃で30分の乾燥を行い、続けて150℃で60分の乾燥を行った。このポリアニリン複合体溶液への浸漬及び乾燥をさらに1回繰り返し行った。
得られたコンデンサについて、実施例2-1と同様に評価を行った。結果を表4に示す。
【0116】
実施例2-17
イオン交換水88.2g、イソプロピルアルコール9.8gの混合溶液にホウ酸2gを溶解し、2質量%のホウ酸溶液を調製した。4質量%のホウ酸溶液に代えて2質量%のホウ酸溶液を用いた以外は実施例2-16と同様にコンデンサを作製し、評価を行った。結果を表4に示す。
【0117】
実施例2-18
イオン交換水49g、イソプロパノール49gの混合溶液に2-エチルヘキサン酸2gを溶解し、2質量%の2-エチルヘキサン酸溶液を調製した。4質量%のホウ酸水溶液に代えて2質量%の2-エチルヘキサン酸溶液を用いた以外は実施例2-16と同様にコンデンサを作製し、評価を行った。結果を表4に示す。
【0118】
実施例2-19
イオン交換水49g、イソプロパノール49gの混合溶液にリン酸2-エチルヘキシル(モノ、ジ混合体)2gを溶解し、2質量%のリン酸2-エチルヘキシル(モノ、ジ混合体)溶液を調製した。4質量%のホウ酸水溶液に代えて2質量%のリン酸2-エチルヘキシル(モノ、ジ混合体)溶液を用いた以外は実施例2-16と同様にコンデンサを作製し、評価を行った。結果を表4に示す。
【0119】
実施例2-20
イオン交換水48g、イソプロパノール48gの混合溶液にリン酸2-エチルヘキシル(モノ、ジ混合体)4gを溶解し、4質量%のリン酸2-エチルヘキシル(モノ、ジ混合体)溶液を調製した。4質量%のホウ酸水溶液に代えて4質量%のリン酸2-エチルヘキシル(モノ、ジ混合体)溶液を用いた以外は実施例2-16と同様にコンデンサを作製し、評価を行った。結果を表4に示す。
【0120】
比較例2-3
酸又は塩の溶液による処理を行わなかった以外は実施例2-16と同様にコンデンサを作製し、評価を行った。結果を表4に示す。
【0121】
【0122】
実施例2-21
イオン交換水98gにグリシン2gを溶解し、2質量%のグリシン水溶液を調製した。2質量%のグリシン水溶液5gに、実施例2-1で用意したものと同じアルミニウム固体電解コンデンサ1個を5分間浸漬し、常圧、110℃で30分乾燥した。次に、この素子を、製造例4により調製した7質量%のポリアニリン溶液に5分間浸漬し、60℃で30分の乾燥を行い、続けて150℃で60分の乾燥を行った。このポリアニリン溶液への浸漬及び乾燥をさらに1回繰り返し行った。
得られたコンデンサについて、実施例2-1と同様に評価を行った。結果を表5に示す。
【0123】
実施例2-22~2-25
2質量%のグリシン水溶液に浸漬後の乾燥温度を表5に示す温度とした以外は、実施例2-21と同様にしてコンデンサを作製し、評価を行った。結果を表5に示す。
【0124】
実施例2-26
イオン交換水96gにホウ酸4gを溶解し、4質量%のホウ酸水溶液を調製した。2質量%のグリシン水溶液に代えて4質量%のホウ酸水溶液を用い、4質量%ホウ酸水溶液含浸後の乾燥温度を150℃とした以外は、実施例2-21と同様にしてコンデンサを作製し、評価を行った。結果を表5に示す。
【0125】
実施例2-27、2-28
4質量%のホウ酸水溶液含浸後の乾燥温度を表5に示す温度とした以外は実施例2-26と同様にしてコンデンサを作製し、評価を行った。結果を表5に示す。
【0126】
比較例2-4
2質量%のグリシン水溶液への含浸及び乾燥を行わなかった以外は実施例2-21と同様にしてコンデンサを作製し、評価を行った。結果を表5に示す。
【0127】
【0128】
実施例2-29
イオン交換水98gにグリシン2gを溶解し、2質量%のグリシン水溶液を調製した。2質量%のグリシン水溶液5gに、実施例2-1で用意したものと同じアルミニウム固体電解コンデンサ1個を5分間浸漬し、110℃で30分乾燥した。次に、この素子を、製造例4により調製した7質量%のポリアニリン複合体溶液に5分間浸漬し、60℃で30分の乾燥を行い、続けて150℃で60分の乾燥を行った。
得られたコンデンサについて、実施例2-1と同様に評価を行った。結果を表6に示す。
【0129】
実施例2-30~2-33
2質量%のグリシン水溶液に浸漬後の乾燥温度を表6に示す温度とした以外は、実施例2-29と同様にしてコンデンサを作製し、評価を行った。結果を表6に示す。
【0130】
【0131】
表2~6より、本発明の製造方法によって得られた固体電解コンデンサは、静電容量及びESRに優れることが分かる。表5、6より、酸又は塩の溶液に浸漬後の乾燥の温度を高くすると、コンデンサ特性、特に静電容量に優れることが分かる。また、表6より、酸又は塩の溶液による処理の後に、より高温で乾燥することによって、その後の導電性高分子溶液への浸漬回数が1回であっても十分に優れたコンデンサ特性が得られることが分かる。
【0132】
[導電性高分子組成物を用いた導電性高分子含有多孔質体の製造及び評価]
実施例3
(1)導電性高分子組成物の製造
イソプロピルアルコール38g及びヘキサン24gを混合し(成分(b))、ここにp-tert-アミルフェノール38g(成分(e))を添加し、均一になるまで撹拌混合し、混合溶剤Aを調製した。
混合溶剤A98gに、ポリアニリン複合体1(成分(a))を1g及び2-エチルヘキサン酸(成分(c))1gを添加して均一に溶解させた。また、この溶液に2-ナフタレンスルホン酸水和物(成分(d))を0.084g添加し、均一に溶解させて、成分(a)~(c),(e)の合計に対してポリアニリン複合体が1質量%であるポリアニリン複合体溶液(導電性高分子組成物)を調製した。
【0133】
2-エチルヘキサン酸の溶解度パラメーター(SP値)δは、「Polymer Engineering & Science」、1974年、第14巻、147~154頁に記載のFedors法により算出した。具体的に、下記式(A)を用いて算出した。
【数1】
(式(A)中、Δe
iは分子構造中の官能基の凝集エネルギー密度を示し、Δv
iはモル分子容を示す。)
【0134】
式(A)より、2-エチルヘキサン酸のSP値は9.5(cal/cm3)1/2であった。また、2-ナフタレンスルホン酸水和物のSP値は、2-ナフタレンスルホン酸の構造から算出し、12.4(cal/cm3)1/2であった。尚、SP値算出時のスルホン酸基部分のΔeiとΔviはSO3基の値を用いた。
【0135】
(2)導電性高分子含有多孔質体の製造及び評価
ホウ酸水溶液3gにアルミナボールを浸漬した代わりに上記の導電性高分子組成物3gにアルミナボールを浸漬した他は実施例1-1と同様に評価した。その結果、アルミナボールの内側までポリアニリンによる着色があることが目視で確認できた。
【0136】
実施例4~23、比較例3,4
成分(c)の種類と量、及び他の成分の量を表7のように変更した他は、実施例3と同様にして導電性高分子組成物の調製、SP値の算出、及び導電性高分子含有多孔質体の製造、評価を行った。表7中「-」は成分を添加しなかったことを示す。尚、SP値算出時のリン酸基部分のΔeiとΔviはモノ-体、ジ-体にかかわらずPO4基の値を用いた。
実施例4~23において、アルミナボールの内側までポリアニリンによる着色があることが目視で確認できた。比較例3,4において、アルミナボールの内部にはポリアニリン複合体による着色がなく、表面のみにしかポリアニリンが付着していなかった。
【0137】
実施例24
混合溶剤A91gに、ポリアニリン複合体1(成分(a))を7g及びDL-2-メチル酪酸(成分(c))2gを添加して均一に溶解させた。また、この溶液に2-ナフタレンスルホン酸水和物(成分(d))を0.588g添加し、均一に溶解させて、成分(a)~(c),(e)の合計に対してポリアニリン複合体が7質量%であるポリアニリン複合体溶液(導電性高分子組成物)を調製した。
上記組成物を用いて実施例3と同様にして導電性高分子含有多孔質体の製造及び評価を行った。その結果、アルミナボールの内側までポリアニリンによる着色があることが目視で確認できた。
【0138】
実施例25,26
各成分の量を表7のように変更した他は、実施例24と同様にして導電性高分子組成物の調製、及び導電性高分子含有多孔質体の製造、評価を行った。実施例25,26において、アルミナボールの内側までポリアニリンによる着色があることが目視で確認できた。
【表7】
【0139】
実施例27
1-メトキシ-2-プロパノール36g及び炭素数9~12の成分からなるイソパラフィン系炭化水素(出光興産株式会社製「IPソルベント1620」)39gを混合し(成分(b))、ここにp-tert-アミルフェノール25g(成分(e))を添加し、均一になるまで撹拌混合して混合溶剤Bを調製した。
混合溶剤B95gに、ポリアニリン複合体1(成分(a))を1g及びDL-2-メチル酪酸(成分(c))4gを添加して均一に溶解させた。また、この溶液に2-ナフタレンスルホン酸水和物(成分(d))を0.084g添加し、均一に溶解させて、成分(a)~(c),(e)の合計に対してポリアニリン複合体が1質量%であるポリアニリン複合体溶液(導電性高分子組成物)を調製した。
上記組成物を用いて実施例3と同様にして導電性高分子含有多孔質体の製造及び評価を行った。その結果、アルミナボールの内側までポリアニリンによる着色があることが目視で確認できた。
【0140】
実施例28、比較例5
各成分の量を表8のように変更した他は、実施例27と同様にして導電性高分子組成物の調製、及び導電性高分子含有多孔質体の製造、評価を行った。表8中「-」は成分を添加しなかったことを示す。
実施例28において、アルミナボールの内側までポリアニリンによる着色があることが目視で確認できた。比較例5において、アルミナボールの内部にはポリアニリン複合体による着色がなく、表面のみにしかポリアニリンが付着していなかった。
【0141】
【0142】
実施例29
3-メトキシ-1-ブタノール37.1g及びエチレングリコールモノ-tert-ブチルエーテル37.1gを混合し(成分(b))、ここにp-tert-アミルフェノール19.8g(成分(e))を添加し、均一になるまで撹拌混合して混合溶剤Cを調製した。
混合溶剤C94.0gに、ポリアニリン複合体1(成分(a))を0.7g及びDL-2-メチル酪酸(成分(c))5gを添加して均一に溶解させた。また、この溶液に2-ナフタレンスルホン酸水和物(成分(d))を0.3g添加し、均一に溶解させて、成分(a)~(e)の合計に対してポリアニリン複合体が約0.7質量%であるポリアニリン複合体溶液(導電性高分子組成物)を調製した。
上記組成物を用いて実施例3と同様にして導電性高分子含有多孔質体の製造及び評価を行った。その結果、アルミナボールの内側までポリアニリンによる着色があることが目視で確認できた。
【0143】
実施例30
3-メトキシ-1-ブタノール34.65g及びエチレングリコールモノ-tert-ブチルエーテル34.65gを混合し(成分(b))、ここにp-tert-アミルフェノール19.8g(成分(e))を添加し、均一になるまで撹拌混合して混合溶剤Dを調製した。
混合溶剤D89.1gに、ポリアニリン複合体1(成分(a))を0.7g及びDL-2-メチル酪酸(成分(c))9.9gを添加して均一に溶解させた。また、この溶液に2-ナフタレンスルホン酸水和物(成分(d))を0.3g添加し、均一に溶解させて、成分(a)~(e)の合計に対してポリアニリン複合体が約0.7質量%であるポリアニリン複合体溶液(導電性高分子組成物)を調製した。
上記組成物を用いて実施例3と同様にして導電性高分子含有多孔質体の製造及び評価を行った。その結果、アルミナボールの内側までポリアニリンによる着色があることが目視で確認できた。
【0144】
実施例31
3-メトキシ-1-ブタノール32.15g及びエチレングリコールモノ-tert-ブチルエーテル32.15gを混合し(成分(b))、ここにp-tert-アミルフェノール19.8g(成分(e))を添加し、均一になるまで撹拌混合して混合溶剤Eを調製した。
混合溶剤E84.1gに、ポリアニリン複合体1(成分(a))を0.7g及びDL-2-メチル酪酸(成分(c))15gを添加して均一に溶解させた。また、この溶液に2-ナフタレンスルホン酸水和物(成分(d))を0.3g添加し、均一に溶解させて、成分(a)~(e)の合計に対してポリアニリン複合体が約0.7質量%であるポリアニリン複合体溶液(導電性高分子組成物)を調製した。
上記組成物を用いて実施例3と同様にして導電性高分子含有多孔質体の製造及び評価を行った。その結果、アルミナボールの内側までポリアニリンによる着色があることが目視で確認できた。
【0145】
比較例6
3-メトキシ-1-ブタノール40g及びエチレングリコールモノ-tert-ブチルエーテル40gを混合し(成分(b))、ここにp-tert-アミルフェノール20g成分(成分(e))を添加し、均一になるまで撹拌混合して混合溶剤Fを調製した。
混合溶剤F99.3gに、ポリアニリン複合体1(成分(a))0.7gを添加して均一に溶解させた。また、この溶液に2-ナフタレンスルホン酸水和物(成分(d))を0.3g添加し、均一に溶解させて、成分(a),(b),(d),(e)の合計に対してポリアニリン複合体が0.7質量%であるポリアニリン複合体溶液(導電性高分子組成物)を調製した。
上記組成物を用いて実施例3と同様にして導電性高分子含有多孔質体の製造及び評価を行った。その結果、アルミナボールの内部にはポリアニリン複合体による着色がなく、表面のみにしかポリアニリンが付着していなかった。
【0146】
【0147】
[導電性高分子組成物を用いた導電性高分子含有多孔質体と捲回型アルミニウム固体電解コンデンサの製造及び評価]
実施例32
(1)導電性高分子含有多孔質体の製造及び評価
混合溶剤A91gに、ポリアニリン複合体1(成分(a))を7g及びDL-2-メチル酪酸(成分(c))2gを添加して均一に溶解させた。また、この溶液に2-ナフタレンスルホン酸水和物(成分(d))を0.59g添加し、均一に溶解させて、成分(a)~(c),(e)の合計に対してポリアニリン複合体が7質量%であるポリアニリン複合体溶液(導電性高分子組成物)を調製した。
上記組成物を用いて実施例3と同様にして導電性高分子含有多孔質体の製造及び評価を行った。その結果、アルミナボールの内側までポリアニリンによる着色があることが目視で確認できた。
【0148】
(2)捲回型アルミニウム固体電解コンデンサの製造及び評価
イオン交換水96gにホウ酸4gを溶解し、4質量%のホウ酸水溶液を調製した。また、捲回型アルミニウム固体電解コンデンサを用意した。当該コンデンサは、粗面化し、誘電体皮膜を形成した陽極金属(弁金属とその酸化物からなる陽極体)と、陰極電極とをセパレーターを介して捲回して得られたコンデンサ素子である。4質量%ホウ酸水溶液5gに、当該アルミニウム固体電解コンデンサ(陽極化成電圧:133V、セパレーター:セルロース、理論容量:24.1μF、直径5mm×長さ8mm、日本先端科学株式会社製)1個を5分間浸漬し、170℃で30分乾燥した。次に、この素子を、上記導電性高分子組成物に5分間浸漬し、60℃で30分の乾燥を行い、続けて150℃で60分の乾燥を行った。
得られたコンデンサについて、LCRメーター(Agilent製 Precision LCR Meter E4980A)を用いて、周波数120Hz時の静電容量(Cap)の測定を行った。結果を表10に示す。
【0149】
実施例33~38
各成分の量を表10のように変更した他は、実施例32と同様にして導電性高分子組成物の調製、及び導電性高分子含有多孔質体の製造、評価および捲回型アルミニウム固体電解コンデンサの製造・評価を行った。実施例33~38において、アルミナボールの内側までポリアニリンによる着色があることが目視で確認できた。得られたコンデンサの評価結果を表10に示す。
【0150】
比較例7
各成分の量を表10のように変更した他は、実施例32と同様にして導電性高分子組成物の調製、及び導電性高分子含有多孔質体の製造、評価および捲回型アルミニウム固体電解コンデンサの製造・評価を行った。アルミナボールの内部にはポリアニリン複合体による着色がなく、表面のみにしかポリアニリンが付着していなかった。得られたコンデンサの評価結果を表10に示す。
【0151】
【0152】
表10より、本発明の導電性高分子組成物から得られた捲回型アルミニウム固体電解コンデンサは、静電容量が優れることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0153】
本発明の製造方法によって得られた固体電解コンデンサは、電気・電子回路基板に実装される回路素子、特に、自動車等に搭載される回路素子として用いることができる。
【0154】
上記に本発明の実施形態及び/又は実施例を幾つか詳細に説明したが、当業者は、本発明の新規な教示及び効果から実質的に離れることなく、これら例示である実施形態及び/又は実施例に多くの変更を加えることが容易である。従って、これらの多くの変更は本発明の範囲に含まれる。
本願のパリ優先の基礎となる日本出願明細書の内容を全てここに援用する。