(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-05
(45)【発行日】2022-10-14
(54)【発明の名称】第三級アルコールの製造方法
(51)【国際特許分類】
C07C 29/40 20060101AFI20221006BHJP
C07C 35/52 20060101ALI20221006BHJP
C07C 33/46 20060101ALI20221006BHJP
C07C 29/36 20060101ALI20221006BHJP
【FI】
C07C29/40
C07C35/52
C07C33/46
C07C29/36
(21)【出願番号】P 2019081788
(22)【出願日】2019-04-23
【審査請求日】2021-12-06
(31)【優先権主張番号】P 2018110440
(32)【優先日】2018-06-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】河田 義弘
(72)【発明者】
【氏名】中山 拓人
【審査官】奥谷 暢子
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-144721(JP,A)
【文献】特開2014-003247(JP,A)
【文献】特開2011-174062(JP,A)
【文献】国際公開第03/101916(WO,A1)
【文献】井上 淳 他,有機合成化学協会,2003年,61巻 4号,p.331-342
【文献】INOUE A. et al,J.Org.Chem,2001年,66(12),p.4333-4339
【文献】KITAGAEA K. et al.,Angew. Chem. Int. Ed.,2000年,39, No.14,p.2481-2483
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第三級アルコールの製造方法であって、
(A)式(1)で表される化合物と、式(2)で表される化合物とを混合し、次いで式(3)で表される化合物を反応させて試薬を調製する工程、及び
(B)上記工程(A)で調製した試薬と式(4a)で表される部分構造を有するケトンとを反応させて、式(5a)で表される部分構造を有する第三級アルコールを製造する工程を含む、製造方法。
[式中、Ar
1は、アルキル基、シクロアルキル基及びアルキレン基からなる群より選ばれる少なくとも1個が置換していてもよい、フェニル基、ビフェニル基、ナフチル基又はアントラセニル基を示す。X
1は、ハロゲン原子を示す。R
1は、アルキル基を示す。X
2は、ハロゲン原子を示す。R
2は、アルキル基を示す。(C1)及び(C2)は、同一又は異なって、芳香環内の炭素原子を示す。]
【請求項2】
式(4a)で表される部分構造を有するケトンが式(4)で表されるケトンであり、式(5a)で表される部分構造を有する第三級アルコールが、式(5)で表される第三級アルコールである、請求項1に記載の製造方法。
[式中、Ar
2及びAr
3は、同一又は異なって、アルキル基、シクロアルキル基、アルキレン基、ハロアルキル基及びハロゲン原子からなる群より選ばれる少なくとも1個が置換していてもよい、フェニル基、ビフェニル基、ナフチル基又はアントラセニル基であるか、或いは、Ar
2及びAr
3は、互いに結合して隣接する炭素原子とともに環を形成していてもよく、当該環はアルキル基、シクロアルキル基、アルキレン基、ハロアルキル基及びハロゲン原子からなる群より選ばれる少なくとも1個が置換していてもよい。Ar
1は前記に同じ。]
【請求項3】
第三級アルコールの製造方法であって、
(A)式(1)で表される化合物と、式(2)で表される化合物とを混合し、次いで式(3)で表される化合物を反応させて試薬を調製する工程、及び
(C)上記工程(A)で調製した試薬と式(6a)で表される部分構造を有する化合物とを反応させて、式(7a)で表される部分構造を有する第三級アルコールを製造する工程を含む、製造方法。
[式中、Ar
1は、アルキル基、シクロアルキル基及びアルキレン基からなる群より選ばれる少なくとも1個が置換していてもよい、フェニル基、ビフェニル基、ナフチル基又はアントラセニル基を示す。X
1は、ハロゲン原子を示す。R
1は、アルキル基を示す。X
2は、ハロゲン原子を示す。R
2は、アルキル基を示す。(C3)は、芳香環内の炭素原子を示す。Lは脱離基を示す。式(7a)における2つのAr
1は、同一又は異なっていてもよい。]
【請求項4】
式(6a)で表される部分構造を有する化合物が、式(6)で表される化合物であり、式(7a)で表される部分構造を有する第三級アルコールが、式(7)で表される第三級アルコールである、請求項3に記載の製造方法。
[式中、Ar
4は、アルキル基、シクロアルキル基、アルキレン基、ハロアルキル基及びハロゲン原子からなる群より選ばれる少なくとも1個が置換していてもよい、フェニル基、ビフェニル基、ナフチル基又はアントラセニル基を示す。Ar
1及びLは前記に同じ。式(7)における2つのAr
1は、同一又は異なっていてもよい。]
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、第三級アルコールの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機エレクトロルミネッセンス素子(有機EL素子)用の材料等の用途で、フルオレン骨格を有する高分子化合物の使用が検討されており、第三級アルコールはフルオレン骨格モノマーの前駆体として有用である。
【0003】
フルオレン骨格を有するモノマーの製造方法は、例えば、特許文献1及び特許文献2に開示されている。
【0004】
アリール置換した第三級アルコールの製造方法として、特許文献1には、ハロゲン化アリールにマグネシウムを反応させてグリニャール試薬を調製し、これをケトン又はエステルに反応させる製造方法が記載されている。特許文献1及び2には、ハロゲン化アリールに有機リチウムを反応させてリチオ化アリールを調製し、これをケトン又はエステルに反応させる製造方法が記載されている。
【0005】
ハロゲン化アリールにマグネシウムを反応させてグリニャール試薬を調製する場合は、グリニャール試薬の生成度合いにばらつきが生じたり、ウルツ型カップリングした副生物が多く生じたりするなど反応選択率が低下し易く、安定的な収率で製造を実施できない場合があった。
【0006】
ハロゲン化アリールに有機リチウムを反応させてリチオ化アリールを調製する場合は、生じたリチオ化アリールが熱に不安定なため、反応温度を-78℃~-60℃付近の極低温に保つ必要があり、工業化製造においては特別な冷却設備を用いる必要があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2012-211089号公報
【文献】国際公開第2012/104579号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、温和な条件で第三級アルコールを高収率で製造する方法を提供することを目的とする。具体的には、工業的生産において不向きな特別な冷却設備を使用することなく温和な条件で、第三級アルコールを高収率で製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記の課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、所定のグリニャール試薬とアルキルリチウムを混合して試薬を調製し、この試薬と所定のカルボニル化合物とを反応させることにより、温和な条件下、高収率で第三級アルコールを製造できることを見出した。かかる知見に基づいてさらに検討した結果、本発明を完成するに至った。
【0010】
本発明は、以下の第三級アルコールの製造方法を提供する。
【0011】
[1] 第三級アルコールの製造方法であって、
(A)式(1)で表される化合物(ハロゲン化アリール)と、式(2)で表される化合物(グリニャール試薬)とを混合し、次いで式(3)で表される化合物(アルキルリチウム)を反応させて試薬を調製する工程、及び
(B)上記工程(A)で調製した試薬と式(4a)で表される部分構造を有するケトンとを反応させて、式(5a)で表される部分構造を有する第三級アルコールを製造する工程を含む、製造方法。
[式中、Ar
1は、アルキル基、シクロアルキル基及びアルキレン基からなる群より選ばれる少なくとも1個が置換していてもよい、フェニル基、ビフェニル基、ナフチル基又はアントラセニル基を示す。X
1は、ハロゲン原子を示す。R
1は、アルキル基を示す。X
2は、ハロゲン原子を示す。R
2は、アルキル基を示す。(C1)及び(C2)は、同一又は異なって、芳香環内の炭素原子を示す。]
【0012】
[2] 式(4a)で表される部分構造を有するケトンが式(4)で表されるケトンであり、式(5a)で表される部分構造を有する第三級アルコールが、式(5)で表される第三級アルコールである、前記[1]に記載の製造方法。
[式中、Ar
2及びAr
3は、同一又は異なって、アルキル基、シクロアルキル基、アルキレン基、ハロアルキル基及びハロゲン原子からなる群より選ばれる少なくとも1個が置換していてもよい、フェニル基、ビフェニル基、ナフチル基又はアントラセニル基であるか、或いは、Ar
2及びAr
3は、互いに結合して隣接する炭素原子とともに環を形成していてもよく、当該環はアルキル基、シクロアルキル基、アルキレン基、ハロアルキル基及びハロゲン原子からなる群より選ばれる少なくとも1個が置換していてもよい。Ar
1は前記に同じ。]
【0013】
[3] 第三級アルコールの製造方法であって、
(A)式(1)で表される化合物(ハロゲン化アリール)と、式(2)で表される化合物(グリニャール試薬)とを混合し、次いで式(3)で表される化合物(アルキルリチウム)を反応させて試薬を調製する工程、及び
(C)上記工程(A)で調製した試薬と式(6a)で表される部分構造を有する化合物とを反応させて、式(7a)で表される部分構造を有する第三級アルコールを製造する工程を含む、製造方法。
[式中、(C3)は、芳香環内の炭素原子を示す。Lは脱離基を示す。Ar
1、R
1、R
2、X
1、及びX
2は前記に同じ。式(7a)における2つのAr
1は、同一又は異なっていてもよい。]
【0014】
[4] 式(6a)で表される部分構造を有する化合物が、式(6)で表される化合物であり、式(7a)で表される部分構造を有する第三級アルコールが、式(7)で表される第三級アルコールである、前記[3]に記載の製造方法。
[式中、Ar
4は、アルキル基、シクロアルキル基、アルキレン基、ハロアルキル基及びハロゲン原子からなる群より選ばれる少なくとも1個が置換していてもよい、フェニル基、ビフェニル基、ナフチル基又はアントラセニル基を示す。Ar
1及びLは前記に同じ。式(7)における2つのAr
1は、同一又は異なっていてもよい。]
【発明の効果】
【0015】
本発明の第三級アルコールの製造方法によれば、温和な条件で第三級アルコールを高収率で製造することができる。具体的には、工業的生産において不向きな特別な冷却設備を使用することなく温和な条件で、第三級アルコールを高収率で製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明に係る第三級アルコールの製造方法の実施形態について、以下に説明する。
【0017】
本実施形態に係る第三級アルコールの製造方法は、
(A)前記式(1)で表される化合物と、前記式(2)で表される化合物とを混合し(好ましくは、反応させ)、次いで前記式(3)で表される化合物を反応させて試薬を調製する工程、及び
(B)上記工程(A)で調製した試薬と前記式(4a)で表される部分構造を有するケトンとを反応させて、前記式(5a)で表される部分構造を有する第三級アルコールを得る工程を包含する(以下、「製造方法1」と表記することがある。)。
【0018】
Ar
1で示される「ビフェニル基」は、下記式で示される基を意味する。つまり、ビフェニルの1つの水素原子を除いて得られる1価の基を意味する。
【0019】
Ar1で置換基として示される「アルキル基」は、直鎖状又は分岐状(特に直鎖状)のいずれであってもよく、炭素原子数が1~20であることが好ましく、1~15であることがより好ましく、1~10であることが更に好ましい。当該「アルキル基」としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、2-エチルヘキシル基、ノニル基、デシル基、3,7-ジメチルオクチル基、ラウリル基等が挙げられる。
【0020】
Ar1で置換基として示される「シクロアルキル基」は、炭素原子数が3~20であることが好ましく、3~15であることがより好ましく、4~10であることが更に好ましい。当該「シクロアルキル基」としては、置換基を有していてもよく、例えば、シクロヘキシル基、シクロヘキシルメチル基、シクロヘキシルエチル基等が挙げられる。
【0021】
Ar1で置換基として示される「アルキレン基」は、炭素原子数が2~7であることが好ましく、2~5であることがより好ましい。例えば、式:-(CpH2p)-(式中、pは2~5の整数)で表される2価の基が挙げられ、具体的には、ジメチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基等が挙げられる。当該「アルキレン基」は、通常、フェニル基、ビフェニル基、ナフチル基又はアントラセニル基における隣接する2個の炭素原子に結合することができる。
【0022】
Ar1で示されるフェニル基、ビフェニル基、ナフチル基又はアントラセニル基(更にフェニル基、ビフェニル基、特にフェニル基)は、それぞれ、アルキル基、シクロアルキル基及びアルキレン基からなる群より選ばれる1個~5個(更に1個~3個、特に1個又は2個)が置換していてもよく、複数の置換基を有する場合、それらは同一又は異なっていてもよい。
【0023】
X1及びX2で示される「ハロゲン原子」は、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられ、好ましくは塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子であり、より好ましくは塩素原子又は臭素原子である。
【0024】
R1及びR2で示される「アルキル基」は、直鎖状又は分岐状(特に分岐状)のいずれであってもよく、炭素原子数が1~20であることが好ましく、1~10であることがより好ましく、1~5であることが特に好ましい。当該「アルキル基」としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等が挙げられる。当該「アルキル基」は、反応に悪影響を及ぼさない範囲で置換基を有していてもよい。
【0025】
(C1)及び(C2)で示される「芳香環内の炭素原子」は、芳香族炭化水素環を構成する原子のうちの1つの炭素原子を意味する。即ち、製造方法1は、(C1)及び(C2)が「芳香環内の炭素原子」である式(4a)で表される部分構造を有するケトンに対して広く適用できる方法である。
【0026】
式(2)で示される化合物、即ち「グリニャール試薬」は、例えば、エチルマグネシウムクロリド、エチルマグネシウムブロミド、プロピルマグネシウムクロリド、プロピルマグネシウムブロミド、イソプロピルマグネシウムクロリド、イソプロピルマグネシウムブロミド等が挙げられ、中でもイソプロピルマグネシウムクロリドが好ましい。これらのグリニャール試薬は市販されているか、或いは、アルキルハライド(クロリド、ブロミド、ヨージド)とマグネシウムとを反応させて容易に調製することができる。
【0027】
式(3)で示される化合物、即ち「アルキルリチウム」は、例えば、メチルリチウム、エチルリチウム、n-ブチルリチウム、sec-ブチルリチウム、tert-ブチルリチウム等が挙げられ、中でもn-ブチルリチウムが好ましい。これらのアルキルリチウムは市販されているか、或いは、アルキルハライド(クロリド、ブロミド、ヨージド)とリチウムとを反応させて容易に調製することができる。
【0028】
式(4a)で表される部分構造を有するケトンとして、例えば、前記式(4)で示されるケトンを挙げることができる。また、式(5a)で示される部分構造を有する第三級アルコールとして、例えば、前記式(5)で示される第三級アルコールを挙げることができる。
【0029】
Ar2及びAr3で置換基として示される「アルキル基」は、同一又は異なって、直鎖状又は分岐状のいずれであってもよく、炭素原子数が1~20であることが好ましく、1~15であることがより好ましい。当該「アルキル基」としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、2-エチルヘキシル基、ノニル基、デシル基、3,7-ジメチルオクチル基、ラウリル基等が挙げられる。
【0030】
Ar2及びAr3で置換基として示される「シクロアルキル基」は、同一又は異なって、炭素原子数が3~20であることが好ましく、3~15であることがより好ましく、4~10であることが更に好ましい。当該「シクロアルキル基」としては、置換基を有していてもよく、例えば、シクロヘキシル基、シクロヘキシルメチル基、シクロヘキシルエチル基等が挙げられる。
【0031】
Ar2及びAr3で置換基として示される「アルキレン基」は、同一又は異なって、炭素原子数が2~7であることが好ましく、2~5であることがより好ましい。例えば、式:-(CqH2q)-(式中、qは2~5の整数)で表される2価の基が挙げられ、具体的には、ジメチレン基、トリメチレン基等が挙げられる。当該「アルキレン基」は、通常、フェニル基、ビフェニル基、ナフチル基又はアントラセニル基における隣接する2個の炭素原子に結合することができる。
【0032】
Ar2及びAr3で置換基として示される「ハロアルキル基」は、同一又は異なって、上記「アルキル基」の1個以上(特に、1個~3個)の水素原子がハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子)で置換された基を意味する。当該「ハロアルキル基」がハロゲン原子を2個以上有する場合、それらは同一又は異なっていてもよい。当該「ハロアルキル基」としては、例えば、ブロモメチル基、クロロメチル基、ブロモエチル基、ブロモヘキシル基等が挙げられる。
【0033】
Ar2及びAr3で示される「ハロゲン原子」は、同一又は異なって、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられ、好ましくは臭素原子である。
【0034】
Ar2及びAr3で示されるフェニル基、ビフェニル基、ナフチル基又はアントラセニル基(特にフェニル基)は、それぞれ、アルキル基、シクロアルキル基、アルキレン基、ハロアルキル基及びハロゲン原子からなる群より選ばれる少なくとも1個(更に1個~5個、より更に1個~3個、特に1個又は2個)が置換していてもよく、複数の置換基を有する場合、それらは同一又は異なっていてもよい。
【0035】
Ar2及びAr3が「互いに結合して隣接する炭素原子とともに環を形成」しているとは、上記のAr2で定義されたフェニル基、ビフェニル基、ナフチル基及びアントラセニル基から選択される1つの基(特にフェニル基)と、Ar3で定義されたフェニル基、ビフェニル基、ナフチル基及びアントラセニル基から選択される1つの基(特にフェニル基)とが、単結合又はアルキレン基(例えば、メチレン基、ジメチレン基、トリメチレン基等の炭素原子数1個~4個のアルキレン基)を介して互いに結合して、隣接する炭素原子とともに環を形成していることを意味する。当該環は、前記のアルキル基、シクロアルキル基、アルキレン基、ハロアルキル基及びハロゲン原子からなる群より選ばれる少なくとも1個が置換していてもよい。
【0036】
Ar2及びAr3が「互いに結合して隣接する炭素原子とともに環を形成」している場合の環の具体例としては、以下のもの(好ましくは式(5C-01)で表されるもの)が挙げられる。
【0037】
[式中、Wは、単結合又はアルキレン基を示す。(C
*)は、Ar
2及びAr
3が隣接する炭素原子を示す。]
【0038】
当該環は、前記のアルキル基、シクロアルキル基、アルキレン基、ハロアルキル基及びハロゲン原子からなる群より選ばれる少なくとも1個(更に1個~10個、より更に1個~3個、特に1個又は2個)が置換していてもよい。当該置換基である、アルキル基、シクロアルキル基、アルキレン基、ハロアルキル基及びハロゲン原子は、前記のAr2及びAr3で置換基として列挙したものの中から任意に選択することができる。
【0039】
Wで示される「アルキレン基」としては、例えば、式:-(CnH2n)-(式中、nは1~5の整数)で表される基が挙げられ、具体的には、メチレン基、ジメチレン基、トリメチレン基等が挙げられる。アルキレン基は、アルキル基、アリール基(特にアルキルアリール基)、水酸基等の置換基を有していてもよい。Wが単結合であることが好ましい。
(C*)で示される「Ar2及びAr3が隣接する炭素原子」とは、式(4)で表される化合物では-C(=O)-を示し、式(5)で表される化合物では-C(OH)Ar1-を示す。
【0040】
他の態様として、式(4a)で表される部分構造を有するケトンとして、例えば、式(4’)で示されるケトンを挙げることができる。また、式(5a)で表される部分構造を有する第三級アルコールとして、例えば、式(5’)で表される第三級アルコールを挙げることができる。
【0041】
[式中、環A及び環Bは、同一又は異なって、ベンゼン環、ナフタレン環又はアントラセン環を示し、当該環A及び環Bは、それぞれ、アルキル基、シクロアルキル基、アルキレン基、ハロアルキル基及びハロゲン原子からなる群より選ばれる少なくとも1個(更に1個~3個、特に1個又は2個)が置換していてもよい。Ar
1は前記に同じであり、式(5’)における2つのAr
1は、同一又は異なっていてもよい。]
当該置換基である、アルキル基、シクロアルキル基、アルキレン基、ハロアルキル基及びハロゲン原子は、前記のAr
2及びAr
3で置換基として列挙したものの中から任意に選択することができる。
【0042】
式(5a)で表される部分構造を有する第三級アルコール(式(5)及び式(5’)で表される第三級アルコールを含む)としては、例えば、下記式(5-01)~(5-51)で表される化合物が挙げられる。なお、下記式(5-01)~(5-19)で表される化合物において、水酸基が結合する炭素原子上の3つの基のいずれか1つがAr1になり得る。
【0043】
【0044】
【0045】
【0046】
【0047】
【0048】
本実施形態に係る他の第三級アルコールの製造方法は、
(A)前記式(1)で表される化合物と、前記式(2)で表される化合物とを混合し(特には、反応させ)、次いで前記式(3)で表される化合物を反応させて試薬を調製する工程、及び
(C)上記工程(A)で調製した試薬と前記式(6a)で表される部分構造を有する化合物とを反応させて、前記式(7a)で表される部分構造を有する第三級アルコールを製造する工程を包含する(以下、「製造方法2」と表記することがある。)。
【0049】
(C3)で示される「芳香環内の炭素原子」は、芳香族炭化水素環を構成する原子のうちの1つの炭素原子を意味する。即ち、製造方法2は、(C3)が「芳香環内の炭素原子」である式(6a)で表される部分構造を有する化合物に対して広く適用できる方法である。
【0050】
Lで示される「脱離基」は、工程(A)で調製した試薬(Ar1の求核試薬)がカルボニル基と反応した後に脱離し得る基を意味し、例えば、アルコキシ基、シクロアルコキシ基、アリールオキシ基等が挙げられる。
【0051】
当該「アルコキシ基」は、直鎖状又は分岐状のいずれであってもよく、そのうち、立体障害を小さくして反応性を向上させることができるので、直鎖状のアルコキシ基が好ましい。炭素原子数が1~12であるアルコキシ基が好ましく、1~8であるアルコキシ基がより好ましい。具体的には、メトキシ基、エトキシ基、プロピルオキシ基、ブチルオキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、ヘプチルオキシ基、オクチルオキシ基が好ましく、メトキシ基、エトキシ基、プロピルオキシ基、ブチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、オクチルオキシ基が好ましく、メトキシ基、エトキシ基がさらに好ましく、メトキシ基が特に好ましい。
当該「シクロアルコキシ基」は、炭素原子数が3~20であることが好ましく、3~15であることがより好ましく、4~10であることが更に好ましい。当該「シクロアルコキシ基」としては、置換基を有していてもよく、例えば、シクロヘキシルオキシ基が挙げられる。
【0052】
当該「アリールオキシ基」は、単環又は多環のアリールオキシ基を意味し、例えば、フェノキシ基、ナフチルオキシ基等が挙げられる。立体障害を小さくして反応性を向上させることができるので、フェノキシ基が好ましい。「アリールオキシ基」は、反応溶媒への溶解性が良好になるので、アルコキシ基及びアルキル基からなる群より選ばれる少なくとも1個(特に1個~3個)で置換していることが好ましい。具体的には、炭素原子数1~12のアルキル基で置換したフェニル基、炭素原子数1~8のアルコキシ基で置換したフェニル基が挙げられる。
【0053】
式(2)で示される化合物(グリニャール試薬)及び式(3)で示される化合物(アルキルリチウム)は、前記に同じである。
【0054】
式(6a)で表される部分構造を有する化合物として、例えば、前記式(6)で示される化合物を挙げることができる。また、式(7a)で示される部分構造を有する第三級アルコールとして、例えば、前記式(7)で示される第三級アルコールを挙げることができる。
【0055】
Ar
4で示される「ビフェニル基」は、下記式で示される基を意味する。つまり、ビフェニルの1つの水素原子を除いて得られる1価の基を意味する。
【0056】
Ar4で置換基として示される「アルキル基」は、直鎖状又は分岐状のいずれであってもよく、炭素原子数が1~20であることが好ましく、1~15であることがより好ましい。当該「アルキル基」としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、2-エチルヘキシル基、ノニル基、デシル基、3,7-ジメチルオクチル基、ラウリル基等が挙げられる。
【0057】
Ar4で置換基として示される「シクロアルキル基」は、炭素原子数が3~20であることが好ましく、3~15であることがより好ましく、4~10であることが更に好ましい。当該「シクロアルキル基」としては、置換基を有していてもよく、例えば、シクロヘキシル基、シクロヘキシルメチル基、シクロヘキシルエチル基等が挙げられる。
【0058】
Ar4で置換基として示される「アルキレン基」は、炭素原子数が2~7であることが好ましく、2~5であることがより好ましい。例えば、式:-(CrH2r)-(式中、rは2~5の整数)で表される2価の基が挙げられ、具体的には、ジメチレン基、トリメチレン基等が挙げられる。当該「アルキレン基」は、通常、フェニル基、ビフェニル基、ナフチル基又はアントラセニル基における隣接する2個の炭素原子に結合することができる。
【0059】
Ar4で置換基として示される「ハロアルキル基」は、同一又は異なって、上記「アルキル基」の1以上(特に、1~3)の水素原子がハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子)で置換された基を意味する。当該「ハロアルキル基」がハロゲン原子を2以上有する場合、それらは同一又は異なっていてもよい。当該「ハロアルキル基」としては、例えば、ブロモメチル基、ブロモエチル基、クロロメチル基、ブロモヘキシル基等が挙げられる。
【0060】
Ar4で示される「ハロゲン原子」は、同一又は異なって、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられ、好ましくは臭素原子である。
【0061】
Ar4で示されるフェニル基、ビフェニル基、ナフチル基又はアントラセニル基(特にビフェニル基)は、それぞれ、アルキル基、シクロアルキル基、アルキレン基、ハロアルキル基及びハロゲン原子からなる群より選ばれる少なくとも1個(更に1個~5個、より更に1個~3個、特に1個又は2個)が置換していてもよく、複数の置換基を有する場合、それらは同一又は異なっていてもよい。
【0062】
式(7)で表される化合物としては、例えば、下記式(7-01)~(7-23)で表される化合物が挙げられる。なお、下記式(7-01)~(7-23)で表される化合物において、水酸基が結合する炭素原子上に同じ置換基が2個結合しており、当該置換基がAr1に相当する。
【0063】
【0064】
【0065】
【0066】
本実施形態に係る製造方法(製造方法1及び2を含む)を以下に説明する。
【0067】
製造方法1及び2における工程(A)は共通しており、例えば、次のようにして実施することができる。
【0068】
本実施形態に係る製造方法において、反応は不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましく、窒素気流下又はアルゴン気流下で行うことがより好ましい。
【0069】
反応溶媒としては、例えば、非プロトン性溶媒が挙げられる。具体的には、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素溶媒;n-ヘキサン、n-ヘプタン等の脂肪族炭化水素溶媒;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン(THF)、ジメトキシエタン、シクロペンチルメチルエーテル等のエーテル溶媒などが挙げられる。これらのうち、エーテル溶媒が好ましく、テトラヒドロフラン、ジメトキシエタン、シクロペンチルメチルエーテルがより好ましく、テトラヒドロフランが更に好ましい。溶媒は一種を単独で、又は二種以上を混合して用いてもよい。反応溶媒は脱水処理されていることが望ましい。
【0070】
式(1)で表されるハロゲン化アリールと、式(2)で表されるグリニャール試薬とを混合する(好ましくは、反応させる)。通常、ハロゲン化アリールにグリニャール試薬を添加(好適には滴下)することができる。グリニャール試薬の添加時の混合液(好ましくは、反応液)の温度は、通常-40℃~70℃であり、-30℃~50℃が好ましく、-20℃~30℃が特に好ましい。グリニャール試薬の添加時間は、通常5分~10時間であり、15分~2時間が好ましい。
【0071】
ハロゲン化アリールにグリニャール試薬を添加した後、さらに攪拌して混合する(好ましくは、反応させる)ことが好ましい。添加後の反応温度は、通常-40℃~70℃であり、-30℃~50℃が好ましく、-20℃~30℃がより好ましく、-10℃~10℃が特に好ましい。攪拌時間(特には、反応時間)は、通常5分~24時間であり、5分~30分が好ましい。
【0072】
次いで、上記で得られた混合液に、式(3)で表されるアルキルリチウムを反応させる。通常、当該反応液に、式(3)で表されるアルキルリチウムを添加(好適には滴下)することができる。アルキルリチウムの添加時の反応液の温度は、通常-30℃~30℃であり、-20℃~20℃が好ましく、-10℃~10℃が特に好ましい。アルキルリチウムの添加時間は、通常5分~10時間であり、15分~2時間が好ましい。
【0073】
アルキルリチウムを添加した後、さらに攪拌して反応を進行させることが好ましい。添加後の反応温度は、通常-30℃~30℃であり、-20℃~20℃が好ましく、-10℃~10℃が特に好ましい。反応時間は、通常1時間~48時間であり、1時間~6時間が好ましい。
【0074】
工程(A)では、通常-40℃~70℃(更に-30℃~50℃、より更に-20℃~30℃、特に0℃付近)という温和な反応条件で試薬を調製することができる。また、調製された試薬は、通常-30℃~30℃(更に-20℃~20℃、より更に-10℃~10℃、特に0℃付近)という温度条件下でも極めて安定である。この試薬は、おそらく安定なアリールアート錯体(例えば、リチウムトリアリールマグネシエート等)を形成していると考えられる。
【0075】
ハロゲン化アリール、グリニャール試薬及びアルキルリチウムは、任意の比率(モル比)で反応させることができる。効率よく試薬(アリールアート錯体)を調製するため、ハロゲン化アリール、グリニャール試薬及びアルキルリチウムの仕込み比率(モル比)は、通常、3:0.5~1.5:1~3であり、3:0.8~1.2:1.6~2.4が好ましく、3:0.9~1.1:1.8~2.2が特に好ましい。
【0076】
工程(A)では、式(1)で表されるハロゲン化アリールに、式(2)で表されるグリニャール試薬を混合し(好ましくは、反応させ)、次いで式(3)で表されるアルキルリチウムを反応させることで、所望の求核試薬を調製することができる。この試薬は、後述する工程(B)又は工程(C)に供される。
【0077】
工程(B)では、工程(A)で調製した試薬と、式(4a)で表される部分構造を有するケトン(式(4)で表されるケトンを含む;以下同じ)とを反応させて、式(5a)で表される部分構造を有する第三級アルコール(式(5)で表される第三級アルコールを含む;以下同じ)を得る。
【0078】
式(1)で表されるハロゲン化アリールの仕込み量は、式(4a)で表される部分構造を有するケトン1モルに対して、通常1モル~3モルであり、1.1モル~2モルが好ましく、1.2モル~1.4モルが特に好ましい。
【0079】
反応は、工程(A)で調製した試薬に、式(4a)で表される部分構造を有するケトンを添加(好適には滴下)してもよいし、又は、式(4a)で表される部分構造を有するケトンに、工程(A)で調製した試薬を添加(好適には滴下)してもよい。いずれの場合も、添加時の反応液の温度は、通常-30℃~30℃であり、-20℃~20℃が好ましく、-10℃~10℃が特に好ましい。添加時間は、通常5分~10時間であり、15分~2時間が好ましい。
【0080】
添加後、さらに攪拌して反応を進行させることが好ましい。添加後の反応温度は、通常-30℃~30℃であり、-20℃~20℃が好ましく、-10℃~10℃が特に好ましい。反応時間は、通常1時間~48時間であり、1時間~6時間が好ましい。
【0081】
このように、工程(B)では、極めて温和な反応条件を用いて、選択性よく高収率で目的とする式(5a)で表される部分構造を有する第三級アルコールを得ることができる。
【0082】
工程(C)では、工程(A)で調製した試薬と、式(6a)で表される部分構造を有する化合物(式(6)で表される化合物を含む)とを反応させて、式(7a)で表される部分構造を有する第三級アルコール(式(7)で表される第三級アルコールを含む)を得る。
【0083】
式(1)で表されるハロゲン化アリールの仕込み量は、式(6a)で表される部分構造を有する化合物1モルに対して、通常2モル~6モルであり、2.2モル~4モルが好ましく、2.4モル~3.2モルが特に好ましい。
【0084】
反応は、工程(A)で調製した試薬に、式(6a)で表される部分構造を有する化合物を添加(好適には滴下)してもよいし、又は、式(6a)で表される部分構造を有する化合物に、工程(A)で調製した試薬を添加(好適には滴下)してもよい。いずれの場合も、添加時の反応液の温度は、通常-30℃~30℃であり、-20℃~20℃が好ましく、-10℃~10℃が特に好ましい。添加時間は、通常5分~10時間であり、15分~2時間が好ましい。
【0085】
添加後、さらに攪拌して反応を進行させることが好ましい。添加後の反応温度は、通常-30℃~30℃であり、-20℃~20℃が好ましく、-10℃~10℃が特に好ましい。反応時間は、通常1時間~48時間であり、1時間~6時間が好ましい。
【0086】
このように、工程(C)では、極めて温和な反応条件を用いて、高収率で目的とする式(7a)で表される部分構造を有する第三級アルコールを得ることができる。
【0087】
工程(A)、(B)及び(C)の試薬滴下時及び反応時の撹拌条件は、特に制限されない。通常、攪拌は、撹拌動力0.1kW/m3~2kW/m3で行うのが好ましい。
【0088】
工程(B)又は(C)における反応の停止方法は、公知の方法を用いることができる。例えば、水、又は、塩化アンモニウム水溶液、クエン酸水、希塩酸水、希硫酸水等の酸性水溶液を反応液と接触させることができる。接触時は発熱を伴うことがあるため、水若しくは酸性水溶液、又は反応液を温度管理しながら滴下することが好ましい。接触の方法は、反応液を水又は酸性水溶液に添加(滴下)してもよいし、水又は酸性水溶液を反応液に添加(滴下)してもよい。
【0089】
反応停止後の生成物の取り出し方法については、特に手段を問わない。例えば、抽出分液、濃縮、蒸留、再結晶、昇華、カラムクロマトグラフィーなど一般的な方法を組み合わせて、所望の第三級アルコールを分離精製することができる。
【0090】
なお、製造方法1及び2において、各化合物は、一種単独で用いても二種以上を併用してもよい。
【0091】
本発明の製造方法(製造方法1及び2)で製造される第三級アルコールは、有機EL素子用の材料等の用途に用いることができる。具体的には、フルオレン骨格を有する高分子化合物を製造するためのフルオレン骨格モノマーの前駆体として用いることができる。
【実施例】
【0092】
以下、実施例によって発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0093】
(1)工程(A)における反応成績の測定方法
本実施例において、ハロゲン化アリールの反応消費の確認はガスクロマトグラフィー(GC)(アジレントテクノロジー製、商品名GC7890A)を用いて、以下の測定条件により求めた。
【0094】
[GC測定条件]
測定する反応液を、イオン交換水又はクエン酸水溶液に入れ、約0.001重量%~約0.01重量%の濃度になるようにクロロホルムを加えて振り混ぜて抽出し、GCに1μL注入した。カラムとして、BPX5(SGE製)を用いた。検出器にはFID(水素炎イオン化型検出器)を用いた。
【0095】
(2)工程(B)又は(C)における反応成績の測定方法
本実施例において、ケトン及びカルボニル化合物とのカップリング反応進行の確認及び含量定量は高速液体クロマトグラフィー(HPLC)(株式会社島津製作所製、商品名:LC-20A)を用いて、以下の測定条件により求めた。
【0096】
[HPLC測定条件]
測定する反応液を、イオン交換水又はクエン酸水溶液に入れ、約0.05重量%の濃度になるようにクロロホルムを加えて振り混ぜて抽出し、HPLCに5μL注入した。含量定量においては、約0.005重量%の濃度になるようにクロロホルムで希釈して、HPLCに5μL注入した。カラムとして、SUMIPAX ODS Z-CLUE(株式会社住化分析センター製)を用い、展開溶媒はアセトニトリルとテトラヒドロフランの混合溶媒を用いて約1.0mL/分の流速で流した。
【0097】
反応に用いるハロゲン化アリールは市販の試薬もしくは先行技術文献、例えば国際公開2011/093428号に記載する方法にて製造したものを用いた。またケトン及びカルボニル化合物は市販の試薬もしくは先行技術文献、例えば特開2012-211089号公報に記載する方法にて製造したものを用いた。
【0098】
<実施例1>
[化合物M-1の合成]
【0099】
【0100】
50mLの4つ口フラスコに、3-ブロモ-5-n-ヘキシルトルエン(5.3g)を入れ、無水THF (20mL)に溶解させた後、フラスコ内を窒素で置換した。四つ口フラスコ内を-5℃まで冷却した後、イソプロピルマグネシウムクロリド溶液(3.5mL、2.0 MTHF溶液)を滴下した。-5℃付近で約10分撹拌したのち、n-ブチルリチウム溶液(8.9mL、1.55M n-ヘキサン溶液)を滴下した。反応液を-6℃~-4℃で3時間攪拌し、GC分析にて3-ブロモ-5-n-ヘキシルトルエンが低減したことを確認した。ここで得られた溶液を「溶液1」と言う。
別の200mLの四つ口フラスコに、2,7-ジブロモ-9-フルオレノン(5.0g)を入れ、無水THF (100mL)に溶解させた後、フラスコ内を窒素で置換した。溶液を冷却し、先に調製した溶液1を-6℃~-3℃の範囲で滴下した。滴下終了後、反応液を-4℃~-3℃で2時間攪拌し、HPLC分析にて反応進行を確認した。
反応液を、予め0℃付近に冷却した15重量%塩化アンモニウム水溶液に滴下して、反応を停止させ、n-ヘプタンで抽出し、有機層を水で3回洗浄したのち、有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥させた。得られた溶液を減圧濃縮し、黄色オイル状物(8.7g)を得た。HPLC定量を行ったところ、化合物M-1の純分収率は100%であった。
1H-NMR(300MHz,CDCl3);δ1.27-1.53(11H,m),2.23(3H,s),2.33(1H,s),2.51(2H,t),2.49(4H,t),6.84(1H,s),6.89(1H,s),7.00(1H,s),7.41(2H,s),7.45(4H,d)ppm.
【0101】
<比較例1>
[化合物M-1の合成(n-ブチルリチウムのみ使用、-70℃付近)]
【0102】
50mLの4つ口フラスコに、3-ブロモ-5-n-ヘキシルトルエン(5.3g)を入れ、無水THF (40mL)に溶解させた後、フラスコ内を窒素で置換した。フラスコ内を-70℃付近まで冷却したのち、n-ブチルリチウム溶液(12.4mL、1.55M n-ヘキサン溶液)を滴下した。反応液を-71℃~-62℃で3時間攪拌し、GC分析にて3-ブロモ-5-n-ヘキシルトルエンが低減したことを確認した。ここで得られた溶液を「溶液C1」と言う。
2,7-ジブロモ-9-フルオレノン(5.0g)を、無水THF (110mL)に溶解させたのち、先に調製した溶液C1へ-69℃~-60℃の範囲で滴下した。滴下終了後、反応液を-71℃~-57℃で2時間攪拌し、HPLC分析にて反応進行を確認した。 反応液にメタノール(5mL)を滴下して反応を停止させ、n-ヘプタンを加えて昇温した。0℃付近で10重量%塩酸を滴下して、n-ヘプタンで抽出し、有機層を水で3回洗浄したのち、有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥させた。得られた溶液を減圧濃縮し、黄色オイル状物(8.9g)を得た。HPLC定量を行ったところ、化合物M-1の純分収率は92.1%であった。
【0103】
<比較例2>
[化合物M-1の合成(n-ブチルリチウムのみ使用、0℃付近)]
【0104】
200mLの4つ口フラスコに、3-ブロモ-5-n-ヘキシルトルエン(5.3g)を入れ、無水THF (40mL)に溶解させた後、フラスコ内を窒素で置換した。フラスコ内を0℃付近まで冷却したのち、n-ブチルリチウム溶液(12.4mL、1.55M n-ヘキサン溶液)を滴下した。反応液を0℃~1℃で3時間攪拌し、GC分析にて3-ブロモ-5-n-ヘキシルトルエンが低減したことを確認した。ここで得られた溶液を「溶液C2」と言う。
2,7-ジブロモ-9-フルオレノン(5.0g)を、無水THF (110mL)に溶解させたのち、先に調製した溶液C2へ-4℃~0℃の範囲で滴下した。滴下終了後、反応液を0℃~1℃で1時間攪拌し、HPLC分析にて反応進行を確認した。
反応液にメタノール(5mL)を滴下して反応を停止させ、n-ヘプタンを加えて昇温した。0℃付近で10重量%塩酸を滴下して、n-ヘプタンで抽出し、有機層を水で3回洗浄したのち、有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥させた。得られた溶液を減圧濃縮し、黄色固体(9.9g)を得た。HPLC定量を行ったところ、化合物M-1の純分収率は0%であった。
【0105】
<比較例3>
[化合物M-1の合成(n-ブチルリチウム仕込後にグリニャール試薬仕込み、0℃付近)]
【0106】
50mLの4つ口フラスコに、3-ブロモ-5-n-ヘキシルトルエン(5.3g)を入れ、無水THF (20mL)に溶解させた後、フラスコ内を窒素で置換した。フラスコ内を-5℃まで冷却した後、n-ブチルリチウム溶液(8.9mL、1.55M n-ヘキサン溶液)を滴下した。-5℃付近で約10分撹拌したのち、イソプロピルマグネシウムクロリド溶液(3.5mL、2.0M THF溶液)を滴下した。反応液を-7℃~-5℃で3時間攪拌し、GC分析にて3-ブロモ-5-n-ヘキシルトルエンが低減したことを確認した。ここで得られた溶液を「溶液C3」と言う。
別の200mLの四つ口フラスコに、2,7-ジブロモ-9-フルオレノン(5.0g)を入れ、無水THF (100mL)に溶解させた後、フラスコ内を窒素で置換した。溶液を冷却し、先に調製した溶液C3を-9℃~-6℃の範囲で滴下した。滴下終了後、反応液を-6℃~-3℃で2時間攪拌し、HPLC分析にて反応進行を確認した。
反応液を、予め0℃付近に冷却した15重量%塩化アンモニウム水溶液に滴下して、反応を停止させ、n-ヘプタンで抽出し、有機層を水で3回洗浄したのち、有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥させた。得られた溶液を減圧濃縮し、橙色固形物(9.7g)を得た。HPLC定量を行ったところ、化合物M-1の純分収率は22%であった。
【0107】
<実施例2>
[化合物M-2の合成]
【0108】
【0109】
100mLの4つ口フラスコに、3-ブロモ-5-n-ヘキシルトルエン(8.3g)を入れ、無水THF (20mL)に溶解させた後、フラスコ内を窒素で置換した。フラスコ内を-5℃まで冷却した後、イソプロピルマグネシウムクロリド溶液(5.4mL、2.0 MTHF溶液)を滴下した。0℃付近で約10分撹拌したのち、n-ブチルリチウム溶液(13.9mL、1.55M n-ヘキサン溶液)を滴下した。反応液を-7℃~-4℃で3時間攪拌し、GC分析にて3-ブロモ-5-n-ヘキシルトルエンが低減したことを確認した。ここで得られた溶液を「溶液2」と言う。
4,4’-ジブロモビフェニル-2-カルボン酸メチル(4.0g)を、無水THF (20mL)に溶解させた後、先に調製した溶液2へ-11℃~-8℃の範囲で滴下した。滴下終了後、反応液を-10℃~-2℃で4時間攪拌し、HPLC分析にて反応進行を確認した。
反応液を、予め0℃付近に冷却した15重量%塩化アンモニウム水溶液に滴下して、反応を停止させ、トルエンで抽出し、有機層を水で3回洗浄したのち、有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥させた。得られた溶液を減圧濃縮し、黄色オイル状物(9.2g)を得た。HPLC定量を行ったところ、化合物M-2の純分収率は98.1%であった。
1H-NMR(300MHz,CDCl3);δ1.27-1.50(22H,m),2.24(6H,s),2.48(4H,t),2.63(1H,s),6.57-6.60(2H,m),6.68(2H,s),6.73(2H,s),6.89(2H,s),7.09(1H,s),7.10-7.21(3H,m),7.41(1H,dd)ppm.
【0110】
<比較例4>
[化合物M-2の合成(n-ブチルリチウムのみ使用、-70℃付近)]
【0111】
100mLの4つ口フラスコに、3-ブロモ-5-n-ヘキシルトルエン(6.6g)を入れ、無水THF (20mL)に溶解させた後、フラスコ内を窒素で置換した。フラスコ内を-70℃まで冷却した後、n-ブチルリチウム溶液(15.3mL、1.55M n-ヘキサン溶液)を滴下した。反応液を-73℃~-60℃で3時間攪拌し、GC分析にて3-ブロモ-5-n-ヘキシルトルエンが低減したことを確認した。ここで得られた溶液を「溶液C4」と言う。
4,4’-ジブロモビフェニル-2-カルボン酸メチル(4.0g)を、無水THF (20mL)に溶解させた後、先に調製した溶液C4へ-72℃~-57℃の範囲で滴下した。滴下終了後、反応液を-71℃~-50℃で3時間攪拌し、HPLC分析にて反応進行を確認した。
反応液を0℃付近まで昇温し、イオン交換水を滴下して、反応を停止させ、ヘキサンで抽出し、有機層を水で2回洗浄したのち、有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥させた。得られた溶液を減圧濃縮し、黄色オイル状物(8.1g)を得た。HPLC定量を行ったところ、化合物M-2の純分収率は98.6%であった。
【0112】
<比較例5>
[化合物M-2の合成(n-ブチルリチウムのみ使用、0℃付近)]
【0113】
100mLの4つ口フラスコに、3-ブロモ-5-n-ヘキシルトルエン(6.6g)を入れ、無水THF (20mL)に溶解させた後、フラスコ内を窒素で置換した。フラスコ内を0℃まで冷却した後、n-ブチルリチウム溶液(15.3mL、1.55M n-ヘキサン溶液)を滴下した。反応液を-4℃~-1℃で3時間攪拌し、GC分析にて3-ブロモ-5-n-ヘキシルトルエンが低減したことを確認した。ここで得られた溶液を「溶液C5」と言う。
4,4’-ジブロモビフェニル-2-カルボン酸メチル(4.0g)を、無水THF (20mL)に溶解させた後、先に調製した溶液C5へ-5℃~-2℃の範囲で滴下した。滴下終了後、反応液を-3℃~0℃で3時間攪拌し、HPLC分析にて反応進行を確認した。
反応液にイオン交換水を滴下して、反応を停止させ、ヘキサンで抽出し、有機層を水で2回洗浄したのち、有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥させた。得られた溶液を減圧濃縮し、黄色オイル状物(9.5g)を得た。HPLC定量を行ったところ、化合物M-2の純分収率は3.3%であった。
【0114】
<比較例6>
[化合物M-2の合成(n-ブチルリチウム仕込後にグリニャール試薬仕込み、0℃付近)]
【0115】
100mLの4つ口フラスコに、3-ブロモ-5-n-ヘキシルトルエン(8.3g)を入れ、無水THF (20mL)に溶解させた後、フラスコ内を窒素で置換した。フラスコ内を-5℃まで冷却した後、n-ブチルリチウム溶液(13.9mL、1.55M n-ヘキサン溶液)を滴下した。-5℃付近で約10分撹拌したのち、イソプロピルマグネシウムクロリド溶液(5.4mL、2.0 MTHF溶液)を滴下した。反応液を-10℃~-8℃で3時間攪拌し、GC分析にて3-ブロモ-5-n-ヘキシルトルエンが低減したことを確認した。ここで得られた溶液を「溶液C6」と言う。
4,4’-ジブロモビフェニル-2-カルボン酸メチル(4.0g)を、無水THF (20mL)に溶解させた後、先に調製した溶液C6へ-9℃~-6℃の範囲で滴下した。滴下終了後、反応液を-6℃~-5℃で3時間攪拌し、HPLC分析にて反応進行を確認した。
反応液を、予め0℃付近に冷却した15重量%塩化アンモニウム水溶液に滴下して、反応を停止させ、トルエンで抽出し、有機層を水で3回洗浄したのち、有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥させた。得られた溶液を減圧濃縮し、黄色オイル状物(10.7g)を得た。HPLC定量を行ったところ、化合物M-2の純分収率は2.7%であった。
【0116】
<実施例3>
[化合物M-3の合成]
【0117】
【0118】
200mLの4つ口フラスコに、3-ブロモ-4’ヘキシル-1,1’-ビフェニル(30.7g)を入れ、無水THF (79mL)に溶解させた後、フラスコ内を窒素で置換した。フラスコ内を-10℃まで冷却した後、イソプロピルマグネシウムクロリド溶液(15.4mL、2.0 MTHF溶液)を滴下した。-10℃~-9℃で約10分撹拌したのち、n-ブチルリチウム溶液(40.2mL、1.6M n-ヘキサン溶液)を滴下した。反応液を-9℃~-6℃で1時間攪拌し、GC分析にて3-ブロモ-4’ヘキシル-1,1’-ビフェニルが低減したことを確認した。ここで得られた溶液を「溶液3」と言う。
4,4’-ジブロモビフェニル-2-カルボン酸メチル(14.8g)を、無水THF (74mL)に溶解させた後、先に調製した溶液3を-12℃~-8℃の範囲で滴下した。滴下終了後、反応液を-5℃で4時間攪拌し、HPLC分析にて反応進行を確認した。
反応液を、予め0℃付近に冷却した15重量%塩化アンモニウム水溶液に滴下して、反応を停止させ、トルエンで抽出し、有機層を水で3回洗浄したのち、有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥させた。得られた溶液を減圧濃縮し、黄色オイル状物(30.9g)を得た。HPLC定量を行ったところ、化合物M-3の純分収率は94.8%であった。
1H-NMR(600MHz,CDCl3);δ6.65(2H,d),6.95(1H,d),7.08(2H,d),7.13(1H,d),7.21(4H,d),7.22(2H,d),7.33(2H,t),7.40(4H,d),7.44(1H,dd),7.44(2H,s),7.51(2H,d)ppm.
【産業上の利用可能性】
【0119】
本発明の第三級アルコールの製造方法によれば、温和な条件で第三級アルコールを高収率で製造することができる。得られた第三級アルコールは、有機EL素子用の材料等の用途、特にフルオレン骨格モノマーの前駆体として有用である。