(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-05
(45)【発行日】2022-10-14
(54)【発明の名称】バイオジェット燃料用基材、それを含むバイオジェット燃料、及びバイオジェット燃料の製造方法
(51)【国際特許分類】
C10L 1/04 20060101AFI20221006BHJP
C10G 50/00 20060101ALI20221006BHJP
【FI】
C10L1/04
C10G50/00
(21)【出願番号】P 2019549219
(86)(22)【出願日】2018-10-10
(86)【国際出願番号】 JP2018037663
(87)【国際公開番号】W WO2019078057
(87)【国際公開日】2019-04-25
【審査請求日】2021-04-26
(31)【優先権主張番号】P 2017200095
(32)【優先日】2017-10-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000183646
【氏名又は名称】出光興産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100134647
【氏名又は名称】宮部 岳志
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 泰世
(72)【発明者】
【氏名】今井 章雄
(72)【発明者】
【氏名】小池 充
(72)【発明者】
【氏名】遠井 宏幸
【審査官】齊藤 光子
(56)【参考文献】
【文献】特表2011-505490(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0288352(US,A1)
【文献】特開2016-033129(JP,A)
【文献】米国特許第11225619(US,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10L 1/00
C10G 1/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
C10~C12のイソパラフィンを90.0容量%以上、及びC10又はC12の少なくともいずれか一方のイソパラフィンを30.0容量%以上含
み、更にC15又はC18のイソパラフィンを含むことを特徴とするバイオジェット燃料用基材。
【請求項2】
C12のイソパラフィンを40.0容量%以上含む請求項1に記載のバイオジェット燃料用基材。
【請求項3】
C10のイソパラフィンを40.0容量%以上含む請求項1に記載のバイオジェット燃料用基材。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載のバイオジェット燃料用基材を1.0~40.0容量%含むことを特徴とするバイオジェット燃料。
【請求項5】
密度(15℃)が0.775~0.840g/cm
3、動粘度(-20℃)が8.0mm
2/s以下、析出点が-40℃以下、煙点が18mm以上、引火点が38℃以上の請求項4に記載のバイオジェット燃料。
【請求項6】
ヘミセルロースを含むバイオマス由来のペンテン及びセルロースを含むバイオマス由来のヘキセンからなる群から選ばれる1種以上のオレフィンを二量化して得られた、C10~C12のイソパラフィンを90.0容量%以上、及びC10又はC12の少なくともいずれか一方のイソパラフィンを30.0容量%以上含
み、更にC15又はC18のイソパラフィンを含むバイオジェット燃料用基材と他の基材とを混合することを特徴とするバイオジェット燃料の製造方法。
【請求項7】
前記バイオジェット燃料用基材が、C12のイソパラフィンを40.0容量%以上含む請求項6に記載のバイオジェット燃料の製造方法。
【請求項8】
前記バイオジェット燃料用基材が、C10のイソパラフィンを40.0容量%以上含む請求項6に記載のバイオジェット燃料の製造方法。
【請求項9】
前記バイオジェット燃料が、前記バイオジェット燃料用基材を1.0~40.0容量%含む請求項6乃至8のいずれかに記載のバイオジェット燃料の製造方法。
【請求項10】
前記バイオジェット燃料が、密度(15℃)が0.775~0.840g/cm
3、動粘度(-20℃)が8.0mm
2/s以下、析出点が-40℃以下、煙点が18mm以上、引火点が38℃以上の請求項6乃至9のいずれかに記載のバイオジェット燃料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヘミセルロース又はセルロースを含むバイオマス由来のイソパラフィンを含むバイオジェット燃料用基材、その基材を含むバイオジェット燃料、及びバイオジェット燃料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、環境に対する意識が高まるに伴い、植物を原料として製造される燃料、いわゆるバイオ燃料の導入が求められている。このバイオ燃料は、GHG(温室効果ガス)排出基準を満たすものとなるが、原料が、トウモロコシやサトウキビなどの作物の可食部の場合、食糧生産との競合を引き起こす懸念がある。
【0003】
そこで、食糧生産との競合を起こすことのないバイオ燃料を製造する研究が進められている。例えば、特許文献1には、通常廃棄される茎や葉などの非食部分を構成するセルロース由来の物質を含み、ガソリンエンジンへの使用に必要とされる性状を満たすガソリン組成物が記載されている。このガソリン組成物は、主に車両に用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
バイオ燃料の導入は、車両用の燃料に限られたものではなく、航空機用の燃料、いわゆるジェット燃料にも求められている。しかしながら、ジェット燃料が使用される高度数千メートルの環境では、温度、気圧、空気密度が地表よりも低く、車両用の燃料が使用される地表とは求められる燃料性能も異なる。具体的には、析出点が低いこと、燃焼性に優れること、及び安全性などの面から所定の引火点であることなどの性能を満たす必要がある。
【0006】
そこで、本発明は、析出点が低く、燃焼性に優れ、所定の引火点を有するバイオジェット燃料を製造するためのバイオジェット燃料用基材、それを含むバイオジェット燃料、及び析出点が低く、燃焼性に優れ、所定の引火点を有するバイオジェット燃料を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以上の目的を達成するために、本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、ヘミセルロースを含むバイオマス由来のペンテン及びセルロースを含むバイオマス由来のヘキセンからなる群から選ばれる1種以上のオレフィンを二量化してC10~C12のイソパラフィンとすることにより、それらをバイオジェット燃料用基材として活用できることを見出した。すなわち、本発明は、C10~C12のイソパラフィンを90.0容量%以上、及びC10又はC12の少なくともいずれか一方のイソパラフィンを30.0容量%以上含むバイオジェット燃料用基材である。
【0008】
また、本発明は前記バイオジェット燃料用基材を1.0~40.0容量%含むバイオジェット燃料である。
【0009】
さらに、本発明はヘミセルロースを含むバイオマス由来のペンテン及びセルロースを含むバイオマス由来のヘキセンからなる群から選ばれる1種以上のオレフィンを二量化して得られた、C10~C12のイソパラフィンを90.0容量%以上、及びC10又はC12の少なくともいずれか一方のイソパラフィンを30.0容量%以上含むバイオジェット燃料用基材と他の基材とを混合するバイオジェット燃料の製造方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、析出点が低く、燃焼性に優れ、所定の引火点を有するバイオジェット燃料を製造するためのバイオジェット燃料用基材、それを含むバイオジェット燃料、及び析出点が低く、燃焼性に優れ、所定の引火点を有するバイオジェット燃料を製造する方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
《バイオジェット燃料用基材》
本発明に係るバイオジェット燃料用基材は、ヘミセルロース又はセルロースを含むバイオマス由来のC10~C12のイソパラフィンを含むのが好ましい。ヘミセルロース又はセルロース由来のC10~12のイソパラフィンは、リグノセルロース系バイオマスに含まれるヘミセルロース又はセルロースから製造される。リグノセルロース系バイオマスは、主としてセルロース、ヘミセルロース、及びリグニンから構成されているバイオマスである。このようなリグノセルロース系バイオマスとしては、広葉樹、針葉樹、稲わら、麦わら、もみ殻、コーンストーバー、バガスのような農林資源及びそれらの廃棄物や、スイッチグラス、エリアンサス、ネピアグラス、ススキのようなエネルギー作物、それらに由来する木材チップ、木くず、パルプ類、及び古紙類なども挙げられる。リグノセルロース系バイオマスは、食糧生産と競合を起こさない植物由来の資源であり、食糧問題を生じない。
【0012】
ヘミセルロース又はセルロースを含むバイオマス由来のC10~C12のイソパラフィンは、バイオジェット燃料用基材中に、90.0容量%以上、好ましくは92.0容量%以上、より好ましくは94.0容量%以上である。バイオマスの有効利用の面からは、ヘミセルロース又はセルロースを含むバイオマス由来のC10~C12のイソパラフィンの含有量は多いほど良い。
【0013】
本発明に係るバイオジェット燃料用基材は、ヘミセルロースを含むバイオマス由来のC10のイソパラフィン(以下、C10のイソパラフィンとする。)又はセルロースを含むバイオマス由来のC12のイソパラフィン(以下、C12のイソパラフィンとする。)を30.0容量%以上含む。すなわち、C10のイソパラフィンを30.0容量%以上含むか、又はC12のイソパラフィンを30.0容量%以上含んでいればよい。C10のイソパラフィンを30.0容量%以上含み、且つC12のイソパラフィンを30.0容量%以上含んでいてもよい。
【0014】
ヘミセルロースを含むバイオマス由来のペンテンを二量化するとC10のイソパラフィンが得られ、C10のイソパラフィンの割合が高くなる。そして、原料としてヘミセルロースが多い場合、バイオジェット燃料用基材は、C10のイソパラフィンを40.0容量%以上含むのが好ましく、60.0容量%以上含むのがより好ましく、80.0容量%以上含むのが更に好ましい。この場合、例えば、C10のイソパラフィンを40.0~70.0容量%、ヘミセルロース及びセルロースを含むバイオマス由来のC11のイソパラフィン(以下、C11のイソパラフィンとする。)を20.0~40.0容量%、C12のイソパラフィンを5.0~25.0容量%とすることができる。
【0015】
セルロースを含むバイオマス由来のヘキセンを二量化するとC12のイソパラフィンが得られ、C12のイソパラフィンの割合が高くなる。そして、原料としてセルロースが多い場合、バイオジェット燃料用基材は、C12のイソパラフィンを40.0容量%以上含むのが好ましく、60.0容量%以上含むのがより好ましく、80.0容量%以上含むのが更に好ましく、90.0容量%以上含むのが特に好ましい。この場合、例えば、C10のイソパラフィンを5.0~25.0容量%、C11のイソパラフィンを20.0~40.0容量%、C12のイソパラフィンを40.0~70.0容量%とすることができる。
【0016】
本発明に係るバイオジェット燃料用基材は、ヘミセルロース又はセルロースを含むバイオマス由来のC10~C12のイソパラフィン以外に、ペンテンやヘキセンが三量化したC15~C18のイソパラフィンを含んでいてもよい。C15~C18のイソパラフィンは、バイオジェット燃料用基材中、例えば1.0~10.0容量%、好ましくは2.0~8.0容量%とすることができる。
【0017】
本発明に係るバイオジェット燃料用基材は、密度(15℃)が0.730~0.778g/cm3であることが好ましい。動粘度(-20℃)は、8.0mm2/s以下であることが好ましい。析出点は、好ましくは-40℃以下、より好ましくは-47℃以下である。煙点は、好ましくは18mm以上、より好ましくは20mm以上、さらに好ましくは25mm以上、最も好ましくは30mm以上である。また、芳香族分は5.0容量%以下、硫黄分は10massppm以下であることが好ましい。
【0018】
《バイオジェット燃料》
本発明に係るバイオジェット燃料は、本発明に係るバイオジェット燃料用基材を1.0~40.0容量%、好ましくは5.0~40.0容量%、より好ましくは10.0~40.0容量%、更に好ましくは15.0~40.0容量%、特に好ましくは20.0~35.0容量%、最も好ましくは25.0~30.0容量%含むのが望ましい。バイオ燃料用基材の含有量が少ないと、植物由来のヘミセルロースやセルロースなどの含有量が少なくなり、二酸化炭素排出量の削減効果が小さくなる。バイオ燃料用基材の含有量が多すぎると、ジェット燃料としての性状を満たさなくなることがある。
【0019】
本発明に係るバイオジェット燃料は、本発明に係るバイオジェット燃料用基材、すなわちC10~C12のイソパラフィンを90.0容量%以上、及びC10又はC12の少なくともいずれか一方のイソパラフィンを30.0容量%以上、を含んでいても、以下に記載の性状も含めたジェット燃料として必要な性状を満たす。
【0020】
本発明に係るバイオジェット燃料は、密度が好ましくは0.775~0.840g/cm3、より好ましくは0.775~0.800g/cm3である。密度が低すぎると燃費が悪くなることがあり、高すぎると燃焼性が悪化することがある。
【0021】
動粘度(-20℃)は、好ましくは8.0mm2/s以下、より好ましくは7.0mm2/s以下である。動粘度が高いと、タービン内での燃料噴霧状態が悪くなり良好な燃焼性が保てなくなることがある。
【0022】
析出点は、好ましくは-40℃以下、より好ましくは-47℃以下である。航空機が飛行する環境下でも、燃料からワックス分が析出しないよう析出点は低い方が好ましい。
【0023】
煙点は、好ましくは18mm以上、より好ましくは20mm以上、さらに好ましくは25mm以上である。煙点が低いと燃焼性が悪くなる。
【0024】
引火点は、好ましくは38℃以上、より好ましくは40℃以上である。引火点が低いと貯蔵時及び使用時で火災の危険が増すことになる。
【0025】
本発明に係るバイオジェット燃料は、ASTMのJet Aの規格を満たしているのが好ましく、Jet A-1の規格を満たしているのがより好ましい。
【0026】
《バイオジェット燃料の製造方法》
本発明に係るバイオジェット燃料の製造方法は、バイオジェット燃料用基材を製造する工程と、製造されたバイオジェット燃料用基材と他の基材を混合する工程とを含む。
【0027】
バイオジェット燃料用基材は、ヘミセルロースを含むバイオマス由来のペンテン及びセルロースを含むバイオマス由来のヘキセンからなる群から選ばれる1種以上のオレフィンを二量化し、水素化して得ることができる。
【0028】
ヘミセルロース由来のペンテンは、例えば、リグノセルロース系バイオマスに含まれるヘミセルロースからペンタノールを製造し、製造したヘミセルロース由来のペンタノールを脱水することで得ることができる。ヘミセルロースからペンタノールは、Ir-Re(イリジウム-レニウム)系触媒の存在下且つヘミセルロースを分解する温度において、水相中のヘミセルロースを加水分解し糖化させるとともに水素化分解させ、これに液体の炭化水素からなる油相を加え溶解させることで、単一の反応容器内で効率良くペンタノールを得ることができる(特開2016-33129号)。
【0029】
Ir-Re系触媒としては、IrとReを含むことを基本とし特に限定はされないが、Ir-ReOx/SiO2であると、ヘミセルロースの転化率及びペンタノールの収率を高め得る。ここで、ReOxにおけるxは酸化数を示し、任意の実数である。特に、Ir-ReOx/SiO2である場合に、Irに対するReのモル比を1以上とすることで、ペンタノールをより高い収率で得ることができて好ましい。
【0030】
油相としては、例えば、ノルマルパラフィン、イソパラフィン、シクロパラフィン等の飽和炭化水素、若しくは、芳香族炭化水素が好ましい。
【0031】
油相は、上記した加水分解工程及び水素化分解工程における反応を阻害しないものである。例えば、エーテルを溶媒として用いると、エーテル自体が分解されるため、アルコールを溶解させる油相としての機能を損ない得る。また、OH基を有するアルコールなどは触媒に吸着して活性点を覆うため触媒能を損なわせ得る。さらに、不飽和炭化水素、例えば、オレフィン系炭化水素は、それ自体が水素化され、キシロースの水素化及びキシリトールの水素化分解に用いられる水素を消費してペンタノールの収率を低下させてしまう。なお、芳香族炭化水素も水素化され得るが、かかる水素化の反応速度は遅いことから、溶媒としても用い得る。
【0032】
油相は、Ir-Re系触媒の反応条件としての温度及び圧力において液相(液体)であることが必要である。典型的には、同触媒の反応条件は140℃~200℃、1MPa~10MPaであるから、溶媒の沸点は1MPaにおいて140℃以上、好ましくは1MPaにおいて200℃以上であり、より好ましくは290℃以上である。また、油相を取り出す際に固相となってしまうとアルコールの回収が困難になるため、常温常圧でも液相を維持することが好ましい。このような飽和炭化水素として、例えば、n-ドデカンやn-デカンなどを用い得る。なお、油相は2種以上を混合して用いてもよい。
【0033】
その他、ヘミセルロースからペンタノールを製造する方法は、例えば、Sibao Liu et al., Green Chem., 2016, 18, 165-175に記載されている。
【0034】
ペンタノールは、公知の酸触媒による脱水反応によってペンテンとすることができる。得られたペンテンは1-ペンテン、2-ペンテンを含む。ヘミセルロース由来のペンテン中、1-ペンテンは5.0~15.0vol%であることが好ましく、7.0~13.0vol%であることがより好ましい。2-ペンテンは85.0~95.0vol%であることが好ましく、87.0~93.0vol%であることがより好ましい。さらに精密蒸留操作により1-ペンテン、2-ペンテンに分留してもよい。
【0035】
セルロース由来のヘキセンは、例えば、リグノセルロース系バイオマスに含まれるセルロースからヘキサノールを製造し、製造したセルロース由来のヘキサノールを脱水することで得ることができる。セルロースからヘキサノールは、Ir-Re(イリジウム-レニウム)系触媒の存在下且つセルロースを分解する温度において、水相中のセルロースを加水分解し糖化させるとともに水素化分解させ、これに液体の炭化水素からなる油相を加え溶解させることで、単一の反応容器内で効率良くヘキサノールを得ることができる(特開2016-33129号)。触媒や油相としては、上述のヘミセルロース由来ペンテンの製造方法で説明したものと同様のものを用いることができる。その他、セルロースからヘキサノールを製造する方法は、例えば、Sibao Liu et al., ChemSusChem, 2015, 8, 628-635に記載されている。ヘキサノールは、公知の酸触媒による脱水反応によってヘキセンとすることができる。得られたヘキセンは、1-ヘキセン、2-ヘキセン、及び3-ヘキセンを含む。セルロース由来のヘキセン中、1-ヘキセンは1.0~15.0vol%であることが好ましく、3.0~9.0vol%であることがより好ましく、3.0~7.0vol%であることが更に好ましい。2-ヘキセンは55.0~80.0vol%であることが好ましく、60.0~75.0vol%であることがより好ましく、60.0~70.0vol%であることが更に好ましい。3-ヘキセンは10.0~40.0vol%であることが好ましく、19.0~28.0vol%であることがより好ましく、20.0~28.0vol%であることが更に好ましい。さらに精密蒸留操作により1-ヘキセン、2-ヘキセン、3-ヘキセンに分留してもよい。
【0036】
ヘミセルロース由来のペンテンとセルロース由来のヘキセンは、別々の反応容器内のリグノセルロース系バイオマスからそれぞれ別々に製造してもよく、同一の反応容器内のリグノセルロース系バイオマスからヘミセルロース由来のペンテンとセルロース由来のヘキセンの両方を製造してもよい。
【0037】
ヘミセルロースを含むバイオマス由来のペンテンの二量化は、公知の酸触媒による重合反応で行うことができる。ペンテンを二量化すると、C10のオレフィンが得られる。セルロースを含むバイオマス由来のヘキセンの二量化は、公知の酸触媒による重合反応で行うことができる。ヘキセンを二量化すると、C12のオレフィンが得られる。ペンテンとヘキセンを同時に二量化させることもできる。同時に二量化すると、C11のオレフィンも得られる。二量化する際に、三量体が生成してもよい。
【0038】
得られた二量体分子中には、二重結合が1つ存在する。水素加圧下、これらを公知の水素化触媒で水素化することでC10~C12のイソパラフィンが生成される。また、三量体を水素化するとC15~C18のイソパラフィンが生成される。このようにして得られた合成物は、C10~C12のイソパラフィンを90.0容量%以上、好ましくは92.0容量%以上、より好ましくは94.0容量%以上含む。
【0039】
得られたヘミセルロース又はセルロースを含むバイオマス由来のC10~C12のイソパラフィンを、上述した本発明に係るバイオジェット燃料用基材としてそのまま用いることができる。
【0040】
次に、得られたバイオジェット燃料用基材と他の基材を混合する。他の基材は、ASTMのJet Aの規格を満たしていることが好ましく、Jet A-1の規格を満たしていることがより好ましい。バイオジェット燃料用基材は、バイオジェット燃料中に、1.0~40.0容量%、好ましくは5.0~40.0容量%、より好ましくは10.0~40.0容量%、更に好ましくは15.0~40.0容量%、特に好ましくは20.0~35.0容量%、最も好ましくは25.0~30.0容量%となるようにするのが望ましい。
【0041】
以上のように製造されたバイオジェット燃料は、上述した本発明に係るバイオジェット燃料として用いることができる。
【実施例】
【0042】
≪合成例1:ヘミセルロース由来ペンテンの製造≫
[触媒等の調製]
二酸化ケイ素(SiO2)(富士シリシア化学株式会社製「CARiACT G-6」)に塩化イリジウム酸(H2IrCl6)水溶液、または硝酸イリジウム水溶液を滴下して、全体を湿潤させ、90℃程度で乾燥させた。かかる湿潤及び乾燥工程を繰り返して、触媒全体に対してIrが4質量%となるようにした。さらに、110℃で半日程度の乾燥を行った。次に、過レニウム酸アンモニウム(NH4ReO4)水溶液で同様の湿潤及び乾燥工程を繰り返して、ReのIrに対するモル比、すなわち[Re]/[Ir]を0.25~3とするように二酸化ケイ素に担持させた。その後、空気雰囲気下で、500℃、3時間焼成して、Ir-ReOx/SiO2触媒を得た。
【0043】
反応容器として、ガラス製内管を有するオートクレーブを用いた。反応容器の内部を加熱できるよう、その周囲に電気炉を配置した。また、内部を攪拌できるように、反応容器をマグネチックスターラーの上に配置するとともに、テフロン(登録商標)コーティングが施されたマグネチックスターラーチップ(攪拌子)を反応容器の内管の内側に収容した。上記Ir-ReOx/SiO2触媒を1.0重量部、水63.3重量部を反応容器に入れ、水素置換を三回以上繰り返した。反応容器内が200℃になった時に、全圧を8MPaとするように水素を導入し、200℃で1時間保持して触媒を還元させた。
【0044】
[ペンタノールの製造]
ヘミセルロースの主成分であるキシランには予めミル処理を施しておいた。かかるミル処理では、ボールミルのドラムにキシランとともにZrO2球を100個投入し、回転数を300rpmとし、2時間の粉砕を行った。なお、2時間以上粉砕すれば、得られるキシランは十分に粉砕される。
【0045】
上記したように触媒の還元処理を行った反応容器内に、上記のミル処理を施したキシラン3.3重量部を加えた。反応容器内に油相として20.0~100.0重量部のn-ドデカンを加え、室温で6MPaとなるよう水素を導入し、140℃で144時間保持し、ヘミセルロース由来ペンタノールを得た。
【0046】
[ペンテンの製造]
上記の方法で得た1-ペンタノール、2-ペンタノール、3-ペンタノールの少なくとも一つを含むヘミセルロース由来ペンタノール1.0重量部を、別の反応容器(前述のオートクレーブと同型)に導入し、溶媒としてトリデカンを10.0重量部、酸触媒としてゼオライト(HZSM-5)を0.2重量部添加し、室温で0.6MPaとなるように窒素を導入し、約20分で所定の反応温度180℃に昇温した。反応温度に達した直後の脱水反応生成物を分析した。その結果、1-ペンテン及び2-ペンテンを含むヘミセルロース由来ペンテンが得られた。
【0047】
≪合成例2:セルロース由来ヘキセンの製造≫
[触媒等の調製]
合成例1と同様にして、触媒等を調製した。
【0048】
[ヘキサノールの製造]
リグノセルロース系バイオマス由来のセルロースには予めミル処理を施しておいた。かかるミル処理では、ボールミルのドラムにセルロースとともにZrO2球を100個投入し、回転数を300rpmとし、2時間の粉砕を行った。なお、2時間以上粉砕すれば、得られるセルロースは十分に粉砕される。
【0049】
上記したように触媒の還元処理を行った反応容器内に、ミル処理を施したセルロース3.3重量部を加えた。反応容器内に油相として20.0~100.0重量部のn-ドデカンを加え、室温で6MPaとなるよう水素を導入し、190℃で24時間保持し、セルロース由来ヘキサノールを得た。
【0050】
[ヘキセンの製造]
上記の方法で得た1-ヘキサノール、2-ヘキサノール、3-ヘキサノールの少なくとも一つを含むセルロース由来ヘキサノール1.0重量部を、別の反応容器(前述のオートクレーブと同型)に導入し、溶媒としてトリデカンを10.0重量部、酸触媒としてゼオライト(HZSM-5)を0.2重量部添加し、室温で0.6MPaとなるように窒素を導入し、約20分で所定の反応温度180℃に昇温した。反応温度に達した直後の脱水反応生成物を分析した。その結果、1-ヘキセン、2-ヘキセン、及び3-ヘキセンを含むセルロース由来ヘキセンが得られた。
【0051】
≪合成例3:ヘミセルロース由来ペンテンとセルロース由来ヘキセンの同時製造≫
[触媒等の調製]
合成例1と同様にして、触媒等を調製した。
【0052】
[ペンタノール及びヘキサノールの製造]
リグノセルロース系バイオマス由来のヘミセルロースの主成分であるキシランとリグノセルロース系バイオマス由来のセルロースには予めミル処理を施しておいた。かかるミル処理では、ボールミルのドラムにキシラン及びセルロースとともにZrO2球を100個投入し、回転数を300rpmとし、2時間の粉砕を行った。なお、2時間以上粉砕すれば、得られるキシラン及びセルロースは十分に粉砕される。
【0053】
上記したように触媒の還元処理を行った反応容器内に、ミル処理を施したキシランとセルロースを合わせて3.3重量部を加えた。反応容器内に油相として20.0~100.0重量部のn-ドデカンを加え、室温で6MPaとなるよう水素を導入し、190℃で24時間保持し、ヘミセルロース由来ペンタノール及びセルロース由来ヘキサノールを得た。
【0054】
[ペンテン及びヘキセンの製造]
上記の方法で得た、1-ペンタノール、2-ペンタノール、3-ペンタノールの少なくとも一つを含むヘミセルロース由来ペンタノール及び1-ヘキサノール、2-ヘキサノール、3-ヘキサノールの少なくとも一つを含むセルロース由来ヘキサノール1.0重量部を、別の反応容器(前述のオートクレーブと同型)に導入し、溶媒としてトリデカンを10.0重量部、酸触媒としてゼオライト(HZSM-5)を0.2重量部添加し、室温で0.6MPaとなるように窒素を導入し、約20分で所定の反応温度180℃に昇温した。反応温度に達した直後の脱水反応生成物を分析した。その結果、1-ペンテン及び2-ペンテンを含むヘミセルロース由来ペンテン及び1-ヘキセン、2-ヘキセン、及び3-ヘキセンを含むセルロース由来ヘキセンが得られた。
【0055】
上記のような合成により、表1に記載のペンテン中の異性体比、ヘキセン中の異性体比でペンテン及びヘキセンがそれぞれ得られる。
【0056】
【0057】
(実施例1)
1-ヘキセンと酸触媒であるイオン交換樹脂(Amberlyst15)(110℃終夜乾燥済み)を反応容器(300mlオートクレーブ)に導入し、室温で2MPaとなるように窒素を導入し、約20分で所定の反応温度100℃に昇温した。反応温度に達した後18時間保持して二量化を行った。二量化を行った反応液を取り出した後、反応液と水素化触媒であるPd/SiO2(還元処理済;還元条件:圧力(H2)=5MPa,温度=100℃,時間=1h)をエタノール溶媒と共に別の反応容器(300mlオートクレーブ)に入れ、次いで室温で5MPaと成るように水素を導入し、30~75℃に加熱して、2時間保持することで、実施例1に係るバイオジェット燃料用基材を得た。得られた基材の組成分析をガスクロマトグラフで行った結果、C12のイソパラフィンが91.2容量%、C18のイソパラフィンが8.8容量%であった。また、後述の方法により測定した密度(15℃)は0.7759g/cm3、動粘度(-20℃)は6.448mm2/sであった。
【0058】
(実施例2)
実施例1に係るバイオジェット燃料用基材30.0容量部と、表2に記載のASTMのJet A-1の規格を満たす基材A70.0容量部とを混合して、実施例2に係るバイオジェット燃料を得た。得られたバイオジェット燃料の性状を表2に示す。表2に示された性状等は、以下の方法によって測定した。
【0059】
密度:
JIS K 2249「原油及び石油製品-密度試験方法及び密度・質量・容量換算表」に従って測定した。
動粘度:
JIS K 2283「原油及び石油製品-動粘度試験方法及び粘度指数算出方法」に従って測定した。
【0060】
析出点:
JIS K 2276 「析出点試験方法(航空燃料油)」に従って測定した。
煙点:
JIS K 2537に従って測定した。
引火点:
JIS K 2265の1に従って測定した。
【0061】