(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-05
(45)【発行日】2022-10-14
(54)【発明の名称】搬送システム及び搬送方法
(51)【国際特許分類】
B66C 1/02 20060101AFI20221006BHJP
B65G 47/91 20060101ALI20221006BHJP
B25J 15/06 20060101ALI20221006BHJP
【FI】
B66C1/02 B
B65G47/91 A
B25J15/06 A
(21)【出願番号】P 2021134789
(22)【出願日】2021-08-20
【審査請求日】2021-08-24
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】320011650
【氏名又は名称】大陽日酸株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】八島 知也
(72)【発明者】
【氏名】石水 友梨
(72)【発明者】
【氏名】桑原 一
(72)【発明者】
【氏名】中釜 悦郎
(72)【発明者】
【氏名】小林 篤
【審査官】須山 直紀
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-101287(JP,A)
【文献】特開2014-073882(JP,A)
【文献】特開平10-001287(JP,A)
【文献】特開平11-124299(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25J 15/06
B65G 47/91
B66C 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被搬送物の表面を吸着し、宙吊り姿勢で前記被搬送物を搬送する搬送システムであって、
負圧発生手段と、
前記被搬送物の表面を吸着する吸着手段と、
前記吸着手段を昇降させる保持手段と、を備え、
前記吸着手段が前記被搬送物を上方から被覆した状態で、前記負圧発生手段で発生させた負圧により、前記吸着手段と前記被搬送物との間に形成される内部空間を真空吸引することで、前記吸着手段の周端縁が前記被搬送物の表面に吸着する
ものであり、
前記被搬送物がボンベであることを特徴とする搬送システム。
【請求項2】
被搬送物の表面を吸着し、宙吊り姿勢で前記被搬送物を搬送する搬送システムであって、
負圧発生手段と、
前記被搬送物の表面を吸着する吸着手段と、
前記吸着手段を昇降させる保持手段と、を備え、
前記吸着手段が前記被搬送物を上方から被覆した状態で、前記負圧発生手段で発生させた負圧により、前記吸着手段と前記被搬送物との間に形成される内部空間を真空吸引することで、前記吸着手段の周端縁が前記被搬送物の表面に吸着するものであり、
前記保持手段は、圧縮空気の供給に伴って昇降するシリンダを備え、該シリンダの下端側に前記吸着手段が取り付けられているものであり、
前記負圧発生手段は、前記保持手段に対する前記圧縮空気の供給が停止したときに、前記シリンダの下降速度を減速させるスローダウン機構を有することを特徴とする搬送システム。
【請求項3】
被搬送物の表面を吸着し、宙吊り姿勢で前記被搬送物を搬送する搬送システムであって、
負圧発生手段と、
前記被搬送物の表面を吸着する吸着手段と、
前記吸着手段を昇降させる保持手段と、を備え、
前記吸着手段が前記被搬送物を上方から被覆した状態で、前記負圧発生手段で発生させた負圧により、前記吸着手段と前記被搬送物との間に形成される内部空間を真空吸引することで、前記吸着手段の周端縁が前記被搬送物の表面に吸着するものであり、
前記吸着手段は、前記吸着手段と前記被搬送物との間に形成される前記内部空間の圧力を検出する圧力検知器を有し、
前記負圧発生手段は、前記吸着手段に備えられる前記圧力検知器の検出結果に基づき、前記内部空間の圧力が一定以下である場合にのみ、前記保持手段によって前記被搬送物を上昇させる昇降制御機構を有することを特徴とする搬送システム。
【請求項4】
被搬送物の表面を吸着し、宙吊り姿勢で前記被搬送物を搬送する搬送システムであって、
負圧発生手段と、
前記被搬送物の表面を吸着する吸着手段と、
前記吸着手段を昇降させる保持手段と、を備え、
前記吸着手段が前記被搬送物を上方から被覆した状態で、前記負圧発生手段で発生させた負圧により、前記吸着手段と前記被搬送物との間に形成される内部空間を真空吸引することで、前記吸着手段の周端縁が前記被搬送物の表面に吸着するものであり、
前記保持手段は、前記被搬送物による負荷を検出する重量検知器を有し、
前記負圧発生手段は、前記保持手段に備えられる前記重量検知器の検出結果に基づき、前記被搬送物による負荷が無くなったことを検出した場合に、前記吸着手段と前記被搬送物との間に形成される前記内部空間の圧力を大気圧に戻し、前記吸着手段から前記被搬送物を取り外し可能とすることを特徴とする搬送システム。
【請求項5】
被搬送物の表面を吸着し、宙吊り姿勢で前記被搬送物を搬送する搬送システムであって、
負圧発生手段と、
前記被搬送物の表面を吸着する吸着手段と、
前記吸着手段を昇降させる保持手段と、を備え、
前記吸着手段が前記被搬送物を上方から被覆した状態で、前記負圧発生手段で発生させた負圧により、前記吸着手段と前記被搬送物との間に形成される内部空間を真空吸引することで、前記吸着手段の周端縁が前記被搬送物の表面に吸着するものであり、
前記保持手段は、圧縮空気の供給に伴って昇降するシリンダを備え、該シリンダの下端側に前記吸着手段が取り付けられており、
前記負圧発生手段は、前記吸着手段が前記被搬送物を吸着して宙吊りとした状態において、前記吸着手段と前記被搬送物との間に形成される前記内部空間の圧力が大気圧となったときに、前記保持手段に備えられる前記シリンダの鉛直方向における位置を維持する負荷維持手段を備えることを特徴とする搬送システム。
【請求項6】
さらに、前記保持手段をスライド移動可能に懸吊するレールを備えることを特徴とする請求項1~請求項5の何れか一項に記載の搬送システム。
【請求項7】
被搬送物の表面を吸着し、宙吊り姿勢で前記被搬送物を搬送する搬送システムであって、
負圧発生手段と、
前記被搬送物の表面を吸着する吸着手段と、
前記吸着手段を昇降させる保持手段と、を備え、
前記吸着手段が前記被搬送物を上方から被覆した状態で、前記負圧発生手段で発生させた負圧により、前記吸着手段と前記被搬送物との間に形成される内部空間を真空吸引することで、前記吸着手段の周端縁が前記被搬送物の表面に吸着するものであり、
さらに、前記保持手段をスライド移動可能に懸吊するレールと、前記吸着手段の近傍を撮像する撮像手段と、前記吸着手段の水平方向における位置を検出する位置検出手段と、前記保持手段、前記負圧発生手段及び前記吸着手段を、前記レールに沿って移動させる走行手段と、前記撮像手段及び前記位置検出手段における検出信号に基づいて前記走行手段を動作させることにより、前記保持手段、前記負圧発生手段及び前記吸着手段を移動予定位置まで移動させる移動制御部と、を備えることを特徴とする搬送システム。
【請求項8】
前記保持手段は、圧縮空気の供給に伴って昇降するシリンダを備え、該シリンダの下端側に前記吸着手段が取り付けられていることを特徴とする請求項1,3,4,6又は請求項7の何れか一項に記載の搬送システム。
【請求項9】
前記吸着手段は、天井部を有するとともに、下部側が、前記被搬送物の少なくとも一部を収容可能に開口した筒状に構成されていることを特徴とする請求項1
~請求項8の何れか一項に記載の搬送システム。
【請求項10】
前記吸着手段が円筒状に構成されていることを特徴とする請求項
9に記載の搬送システム。
【請求項11】
前記吸着手段の前記周端縁における、前記被搬送物の表面と接する内面側にシール部材が配置されていることを特徴とする請求項1~請求項
10の何れか一項に記載の搬送システム。
【請求項12】
前記吸着手段は、さらに、使用者が把持して前記吸着手段を移動させるためのアームを備えることを特徴とする請求項1~請求項
11の何れか一項に記載の搬送システム。
【請求項13】
前記吸着手段が、前記被搬送物の上部に位置する肩部に吸着することを特徴とする請求項1~請求項
12の何れか一項に記載の搬送システム。
【請求項14】
前記負圧発生手段は、エジェクター方式によって負圧を発生させることを特徴とする請求項1~請求項
13の何れか一項に記載の搬送システム。
【請求項15】
前記負圧発生手段、前記吸着手段、及び前記保持手段は、圧縮空気を用いた制御により、動作が切り替えられることを特徴とする請求項1~請求項
14の何れか一項に記載の搬送システム。
【請求項16】
前記負圧発生手段は、さらに、前記吸着手段による前記被搬送物の吸着状態を維持するための吸着保持機構を備えることを特徴とする請求項1~請求項
15の何れか一項に記載の搬送システム。
【請求項17】
請求項1~請求項16の何れか一項に記載の搬送システムを用い、被搬送物の表面を吸着し、宙吊り姿勢で前記被搬送物を搬送する搬送方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、搬送システム及び搬送方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、各種ガスを供給することを目的として、各種ガスが充填された高圧ガス容器であるボンベが用いられている。このようなボンベは、各種ガスが原料として用いられる工場内や、医療用酸素が用いられる医療機関等において、例えば、容器置場に格納して用いられている。
【0003】
上記のようなボンベは、ガス充填工場内において各種ガスが充填され、各種ガスを原料として用いる工場に配送される。また、ガス充填工場内におけるボンベの運搬並びに充填は、主として作業者による手作業で行われている。
上記のような高圧ガスが充填されたボンベは、例えば40~100kgと、非常に大きな重量を有している。このため、作業者がガス充填工場内でボンベを運搬する際や、トラックと工場のプラットフォーム間でボンベを運搬する際は、主として、ボンベを若干斜めに傾斜させ、この状態でボンベを転がしながら搬送する、所謂瓶コロと呼ばれる方法が用いられている。
【0004】
上記方法でボンベに各種ガスを充填する場合、作業者は、空のボンベを上記方法で転がしながらガス充填エリアまで搬送し、ガス充填を行う。
そして、ガスが充填されたボンベは、上記方法で転がすことで、ボンベの保管エリア又は出荷準備エリアまで搬送される。その後、ガス充填済のボンベは、各種の工場等に配送されて使用された後、空となったボンベが再びガス充填工場に回送される。
上記方法で空のボンベを搬送する場合、重量物であるボンベを転倒させることなく転がすという、作業効率並びに危険回避の両方の観点から、熟練作業に非常に長けた作業者が必要になる。
【0005】
一方、上記のような重量の大きいボンベを運搬することを目的として、ボンベを側面から支持して移送する、移送用ハンドが提案されている(例えば、特許文献1を参照)。特許文献1に記載の移送用ハンドによれば、液化ガスを充填したボンベの表面に、例えば、結露又は霜付が生じた場合であっても、吸着パット及び底支持部による支持で、安全にボンベを移送でき、省人化及び省スペース化が可能になるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載されたような、ボンベの側面を吸着して運び出す方法では、例えば、保管場所において縦横に並べられている大量のボンベの中から1本のボンベを運び出す際の作業性に劣るという問題がある。また、特許文献1に開示されたような、ボンベの側面を吸着する構成では、例えば、外径が異なるボンベ間で共用することができず、フレキシブルに対応することが難しいという問題がある。
【0008】
また、上述したような、ボンベを若干斜めに傾斜させた状態で転がしながら搬送する、所謂瓶コロと呼ばれる方法では、誤ってボンベを転倒させてしまうケースもある。また、雨天等によってボンベ表面が濡れている場合、滑り易く危険な状態になるケースもある。
このような、ボンベの転倒が発生するのを防止するためには、作業者に一定以上の体力が求められることから、例えば、女性や高齢の作業者が搬送作業を行うことが難しいという問題がある。
また、ボンベが転倒する危険性が予見された場合、作業者は反射的にボンベを転倒させないための動作を行うことから、例えば、腰や四肢等を傷めてしまうおそれもある。
さらに、ボンベが転倒した場合には、重量物であるボンベによって作業者の身体が傷つくおそれもあった。
【0009】
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、熟練技術や強靱な体力を持たない作業者であっても、ボンベ等の重量物を転倒させることなく安全且つ容易に搬送でき、作業性に優れるとともに、被搬送物のサイズや形状に関わらず、この被搬送物を搬送することが可能な搬送システム及び搬送方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、請求項1に係る発明は、被搬送物の表面を吸着し、宙吊り姿勢で前記被搬送物を搬送する搬送システムであって、負圧発生手段と、前記被搬送物の表面を吸着する吸着手段と、前記吸着手段を昇降させる保持手段と、を備え、前記吸着手段が前記被搬送物を上方から被覆した状態で、前記負圧発生手段で発生させた負圧により、前記吸着手段と前記被搬送物との間に形成される内部空間を真空吸引することで、前記吸着手段の周端縁が前記被搬送物の表面に吸着するものであり、前記被搬送物がボンベであることを特徴とする搬送システムである。
また、請求項2に係る発明は、被搬送物の表面を吸着し、宙吊り姿勢で前記被搬送物を搬送する搬送システムであって、負圧発生手段と、前記被搬送物の表面を吸着する吸着手段と、前記吸着手段を昇降させる保持手段と、を備え、前記吸着手段が前記被搬送物を上方から被覆した状態で、前記負圧発生手段で発生させた負圧により、前記吸着手段と前記被搬送物との間に形成される内部空間を真空吸引することで、前記吸着手段の周端縁が前記被搬送物の表面に吸着するものであり、前記保持手段は、圧縮空気の供給に伴って昇降するシリンダを備え、該シリンダの下端側に前記吸着手段が取り付けられているものであり、前記負圧発生手段は、前記保持手段に対する前記圧縮空気の供給が停止したときに、前記シリンダの下降速度を減速させるスローダウン機構を有することを特徴とする搬送システムである。
また、請求項3に係る発明は、被搬送物の表面を吸着し、宙吊り姿勢で前記被搬送物を搬送する搬送システムであって、負圧発生手段と、前記被搬送物の表面を吸着する吸着手段と、前記吸着手段を昇降させる保持手段と、を備え、前記吸着手段が前記被搬送物を上方から被覆した状態で、前記負圧発生手段で発生させた負圧により、前記吸着手段と前記被搬送物との間に形成される内部空間を真空吸引することで、前記吸着手段の周端縁が前記被搬送物の表面に吸着するものであり、前記吸着手段は、前記吸着手段と前記被搬送物との間に形成される前記内部空間の圧力を検出する圧力検知器を有し、前記負圧発生手段は、前記吸着手段に備えられる前記圧力検知器の検出結果に基づき、前記内部空間の圧力が一定以下である場合にのみ、前記保持手段によって前記被搬送物を上昇させる昇降制御機構を有することを特徴とする搬送システムである。
また、請求項4に係る発明は、被搬送物の表面を吸着し、宙吊り姿勢で前記被搬送物を搬送する搬送システムであって、負圧発生手段と、前記被搬送物の表面を吸着する吸着手段と、前記吸着手段を昇降させる保持手段と、を備え、前記吸着手段が前記被搬送物を上方から被覆した状態で、前記負圧発生手段で発生させた負圧により、前記吸着手段と前記被搬送物との間に形成される内部空間を真空吸引することで、前記吸着手段の周端縁が前記被搬送物の表面に吸着するものであり、前記保持手段は、前記被搬送物による負荷を検出する重量検知器を有し、前記負圧発生手段は、前記保持手段に備えられる前記重量検知器の検出結果に基づき、前記被搬送物による負荷が無くなったことを検出した場合に、前記吸着手段と前記被搬送物との間に形成される前記内部空間の圧力を大気圧に戻し、前記吸着手段から前記被搬送物を取り外し可能とすることを特徴とする搬送システムである。
また、請求項5に係る発明は、被搬送物の表面を吸着し、宙吊り姿勢で前記被搬送物を搬送する搬送システムであって、負圧発生手段と、前記被搬送物の表面を吸着する吸着手段と、前記吸着手段を昇降させる保持手段と、を備え、前記吸着手段が前記被搬送物を上方から被覆した状態で、前記負圧発生手段で発生させた負圧により、前記吸着手段と前記被搬送物との間に形成される内部空間を真空吸引することで、前記吸着手段の周端縁が前記被搬送物の表面に吸着するものであり、前記保持手段は、圧縮空気の供給に伴って昇降するシリンダを備え、該シリンダの下端側に前記吸着手段が取り付けられており、前記負圧発生手段は、前記吸着手段が前記被搬送物を吸着して宙吊りとした状態において、前記吸着手段と前記被搬送物との間に形成される前記内部空間の圧力が大気圧となったときに、前記保持手段に備えられる前記シリンダの鉛直方向における位置を維持する負荷維持手段を備えることを特徴とする搬送システムである。
また、請求項6に係る発明は、請求項1~請求項5の何れかに記載の搬送システムであって、さらに、前記保持手段をスライド移動可能に懸吊するレールを備えることを特徴とする搬送システムである。
また、請求項7に係る発明は、被搬送物の表面を吸着し、宙吊り姿勢で前記被搬送物を搬送する搬送システムであって、負圧発生手段と、前記被搬送物の表面を吸着する吸着手段と、前記吸着手段を昇降させる保持手段と、を備え、前記吸着手段が前記被搬送物を上方から被覆した状態で、前記負圧発生手段で発生させた負圧により、前記吸着手段と前記被搬送物との間に形成される内部空間を真空吸引することで、前記吸着手段の周端縁が前記被搬送物の表面に吸着するものであり、さらに、前記保持手段をスライド移動可能に懸吊するレールと、前記吸着手段の近傍を撮像する撮像手段と、前記吸着手段の水平方向における位置を検出する位置検出手段と、前記保持手段、前記負圧発生手段及び前記吸着手段を、前記レールに沿って移動させる走行手段と、前記撮像手段及び前記位置検出手段における検出信号に基づいて前記走行手段を動作させることにより、前記保持手段、前記負圧発生手段及び前記吸着手段を移動予定位置まで移動させる移動制御部と、を備えることを特徴とする搬送システムである。
また、請求項8に係る発明は、請求項1,3,4、6、又は請求項7の何れかに記載の搬送システムであって、前記保持手段が、圧縮空気の供給に伴って昇降するシリンダを備え、該シリンダの下端側に前記吸着手段が取り付けられていることを特徴とする搬送システムである。
【0011】
また、請求項9に係る発明は、請求項1~請求項8の何れかに記載の搬送システムであって、前記吸着手段が、天井部を有するとともに、下部側が、前記被搬送物の少なくとも一部を収容可能に開口した筒状に構成されていることを特徴とする搬送システムである。
【0012】
また、請求項10に係る発明は、請求項9に記載の搬送システムであって、前記吸着手段が円筒状に構成されていることを特徴とする搬送システムである。
【0013】
また、請求項11に係る発明は、請求項1~請求項10の何れかに記載の搬送システムであって、前記吸着手段の前記周端縁における、前記被搬送物の表面と接する内面側にシール部材が配置されていることを特徴とする搬送システムである。
【0015】
また、請求項12に係る発明は、請求項1~請求項11の何れかに記載の搬送システムであって、前記吸着手段が、さらに、使用者が把持して前記吸着手段を移動させるためのアームを備えることを特徴とする搬送システムである。
【0016】
また、請求項13に係る発明は、請求項1~請求項12の何れかに記載の搬送システムであって、前記吸着手段が、前記被搬送物の上部に位置する肩部に吸着することを特徴とする搬送システムである。
【0017】
また、請求項14に係る発明は、請求項1~請求項13の何れかに記載の搬送システムであって、前記負圧発生手段が、エジェクター方式によって負圧を発生させることを特徴とする搬送システムである。
【0022】
また、請求項15に係る発明は、請求項1~請求項14の何れかに記載の搬送システムであって、前記負圧発生手段、前記吸着手段、及び前記保持手段が、圧縮空気を用いた制御により、動作が切り替えられることを特徴とする搬送システムである。
【0023】
また、請求項16に係る発明は、請求項1~請求項15の何れかに記載の搬送システムであって、前記負圧発生手段が、さらに、前記吸着手段による前記被搬送物の吸着状態を維持するための吸着保持機構を備えることを特徴とする搬送システムである。
【0026】
請求項17に係る発明は、請求項1~請求項16の何れかに記載の搬送システムを用い、被搬送物の表面を吸着し、宙吊り姿勢で前記被搬送物を搬送する搬送方法である。
【発明の効果】
【0027】
本発明に係る搬送システムによれば、熟練技術や強靱な体力を持たない作業者であっても、ボンベ等の重量物を転倒させることなく、安全且つ容易に搬送でき、作業性に優れるとともに、被搬送物のサイズや形状に関わらず、この被搬送物を搬送することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】本発明を適用した実施形態である搬送システム及び搬送方法について模式的に説明する図であり、搬送システムの全体構成を示す概略図である。
【
図2】本発明を適用した実施形態である搬送システム及び搬送方法について模式的に説明する図であり、
図1中に示した、吸着手段に被搬送物が吸着された状態を詳細に示す拡大破断図である。
【
図3】本発明を適用した実施形態である搬送システム及び搬送方法について模式的に説明する図であり、システム全体における圧縮空気の流れを概略で示す空気回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明を適用した一実施形態である搬送システム及び搬送方法について、図面を適宜参照しながら説明する。なお、以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために、便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率等が実際と同じであるとは限らない。また、以下の説明において例示される材料等は一例であって、本発明はそれらに限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0030】
<搬送システム>
本実施形態の搬送システムの構成について、
図1~
図3を参照しながら詳述する。
図1は、本実施形態の搬送システム1の全体構成を示す斜視図であり、
図2は、
図1中に示した吸着装置(吸着手段)4に被搬送物であるボンベ80が吸着された状態を詳細に示す拡大破断図である。また、
図3は、
図1に示した搬送システム1全体におけるエア(圧縮空気)の流れを概略で示す空気回路図である。
【0031】
本実施形態で説明する搬送システム1は、被搬送物であるボンベ80の表面80aを吸着し、宙吊り姿勢でボンベ80を搬送することが可能なものであり、例えば、ガス充填工場内において各種ガスを、被搬送物であるボンベ80に充填する工程等で用いられる。即ち、詳細な図示は省略するが、例えば、ガス充填工場内における空ボンベ保管エリアからガス充填エリアまでボンベ80を搬送するとき、ガス充填エリアから充填済ボンベ保管エリア又は出荷準備エリアまで搬送するとき、あるいは、ボンベ80を使用する工場等から返送された空のボンベ80を空ボンベ保管エリアへ搬送するとき等に用いられるものである。
【0032】
また、本実施形態の搬送システム1における被搬送物であるボンベ80は、例えば、医療用酸素を供給する用途等で用いられるものである。
図1及び
図2に示す例のボンベ80は、円筒状とされた胴部82の下方に、設置面である底部81を有し、胴部82の上方に肩部83を有している。また、図示例のボンベ80は、肩部83の上方に設けられ、内部に充填したガスを噴出するか、あるいは、内部にガスを充填する際の開閉動作に用いられるバルブ84を有している。
【0033】
図1に示すように(
図2及び
図3も適宜参照)、本実施形態の搬送システム1は、負圧発生装置(負圧発生手段)2と、被搬送物であるボンベ80の表面80aを吸着する吸着装置4と、吸着装置4を昇降させるためのシリンダ昇降装置(保持手段)3と、を備え、概略構成される。
そして、本実施形態の搬送システム1は、吸着装置4がボンベ80を上方から被覆した状態で、負圧発生装置2で発生させた負圧により、吸着装置4とボンベ80との間に形成される内部空間Aを真空吸引することで、吸着装置4の周端縁45がボンベ80の表面80aに吸着する。
【0034】
また、
図1中に示すように、本実施形態で例示する搬送システム1は、シリンダ昇降装置3をスライド移動可能に懸吊するレール5を備えている。本実施形態で説明するレール5は、例えば、ガス充填工場内における天井付近に設置され、シリンダ昇降装置3、並びに、このシリンダ昇降装置3と一体に接続された負圧発生装置2及び吸着装置4を、例えば、ガス充填工場内における広範囲でスライド移動させることが可能な構成とされている。
【0035】
負圧発生装置2は、コンプレッサ等によって負圧を発生させ、詳細を後述する吸着装置4に負圧を供給するもの、即ち、吸着装置4に真空吸引力を付与するものである。
図1に示す例の負圧発生装置2は、上方に配置されるレール5の近傍、即ち、レール5にスライド可能に取り付けられるフック部6の直下近傍に取り付けられている。
【0036】
負圧発生装置2は、
図1に示す例では箱状の筐体のみが示されているが、この筐体の内部には、
図3の空気回路図中に示すコンプレッサ21、エアタンク22、下降排気部23、エジェクター機構24等の空気回路を構成する各機構が収容されている。
また、
図1中においては図示を省略しているが、
図3中に示したような、負圧発生装置2に備えられる空気回路を作動させ、搬送システム1を運転するための吸着オン・上昇ボタン25、下降・吸着オフボタン26、吸着オンランプ27、無負荷ランプ28、及び真空計29は、作業者による作業性の観点から、例えば、吸着装置4の筐体に設けられる。
また、負圧発生装置2の内部には、搬送システム1全体の動作を制御する図示略の制御手段が備えられている。
【0037】
なお、
図3中に示した空気回路図においては、説明の都合上、負圧発生装置2に備えられる構成のみならず、シリンダ昇降装置3、並びに、吸着装置4についても、同じ図面上で示している。
【0038】
コンプレッサ21は、圧縮空気(エア)を発生させるものである。
コンプレッサ21としては、モータによって圧縮機を回転させて圧縮空気を発生させる、従来公知のものを何ら制限無く採用できる。
【0039】
エアタンク22は、コンプレッサ21で発生させたエアを貯め込む機能を有するものであり、コンプレッサ21と、詳細を後述する下降排気部23との間の経路に設けられる。
エアタンク22は、例えば、下降排気部23に高圧のエアを送り込むことにより、詳細を後述するシリンダ昇降装置3のシリンダ32の下降速度を抑制するスローダウン機構や、シリンダ32が急激に跳ね上がるのを防止する負荷維持手段としての機能を果たすことが可能なものである。
【0040】
下降排気部23は、シリンダ昇降装置3のシリンダ32を下降させる際に、エアを排気するものであり、例えば、一般的な電磁バルブ等から構成される。
図3の空気回路図に示すように、下降排気部23は、上述したエアタンク22からエアが送り込まれるとともに、吸着オン・上昇ボタン25とシリンダ昇降装置3とを接続する経路中において、エアを排気してシリンダ32を下降させることが可能な位置に接続されている。
さらに、下降排気部23には、コンプレッサ21に接続された下降・吸着オフボタン26におけるエアの流れ方向で下流側が接続され、この下降・吸着オフボタン26により、下降排気部23からエアを排気してシリンダ32を下降させる操作を行うことが可能な構成とされている。
また、下降排気部23と下降・吸着オフボタン26との間の経路には無負荷ランプ28が接続され、シリンダ32が下降した際に無負荷ランプ28が点灯するように構成されている。
【0041】
エジェクター機構24は、コンプレッサ21で発生させたエアによってエジェクター作用を生じさせ、負圧を発生させるものである。
図3の空気回路図中においては、エジェクター機構24は、吸着オン・上昇ボタン25のエアの流れ方向で下流側に接続されている。また、エジェクター作用による負圧の発生に供されたエアは、このエジェクター機構24から外部に排出される。
【0042】
そして、
図3の空気回路図中に示すように、エジェクター機構24と吸着装置4とが接続されることで、エジェクター機構24で発生した負圧が、吸着装置4とボンベ80との間に形成される内部空間Aを真空吸引するように構成されている。
また、エジェクター機構24と吸着装置4との間の経路には、吸着装置4による吸着動作を示す吸着オンランプ27と、内部空間Aの圧力を示す真空計29が接続されている。
【0043】
本実施形態の負圧発生装置2は、エジェクター方式によって負圧を発生させる構成を採用することが、負圧を効率的に発生させられるとともに、負圧保持の安定度等の観点から好ましい。
図3の空気回路図に示すように、負圧発生装置2には、コンプレッサ21によって発生したエアが取り込まれることで負圧を発生させるエジェクター機構24が備えられている。
【0044】
シリンダ昇降装置3は、吸着装置4を昇降させるために備えられる、吸着装置4の保持・昇降機構であり、負圧発生装置2で発生させたエアにより、シリンダ32が鉛直方向における所定範囲で昇降する構成とされている。具体的には、シリンダ昇降装置3は、例えば、吸着装置4で吸着されるボンベ80が100mm程度、地面から浮き上がるように吸着装置4を上昇させる。
【0045】
シリンダ昇降装置3は、円筒状のケース部31と、このケース部31内に収容自在に設けられ、鉛直方向で昇降動作するシリンダ32とを備える。シリンダ昇降装置3は、ケース部31の上端が、上述したフック部6に固定されることで、レール5に対してスライド移動可能に懸吊されている。
シリンダ昇降装置3は、
図3の空気回路図中に示すように、コンプレッサ21で発生したエアの供給のオン・オフにより、シリンダ32を昇降させる。即ち、シリンダ昇降装置3にエアを供給したときは、シリンダ32が上昇するように動作し、エアの供給を停止したときは、シリンダ32が下降するように動作する。
【0046】
吸着装置4は、被搬送物であるボンベ80の表面80aを吸着し、シリンダ昇降装置3に備えられるシリンダ32の昇降動作に伴い、吸着保持したボンベ80を昇降させるものである。図示例の吸着装置4は、シリンダ32の先端32aに取り付けられている。
【0047】
図2の拡大破断図に示すように、吸着装置4は、天井部41を有するとともに、側部42の下部側が、ボンベ80の少なくとも一部、具体的には、肩部83からバルブ84にかけた位置を収容可能に開口した開口部43とされ、概略筒状に構成されている。図示例の吸着装置4は、被搬送物であるボンベ80の外形状に併せ、円筒状に構成されている。また、吸着装置4は、ボンベ80の表面80aのうち、肩部83の位置の表面80aを吸着するように構成される。
【0048】
吸着装置4は、上述したように、ボンベ80を上方から被覆した状態で、負圧発生装置2で発生させた負圧により、吸着装置4とボンベ80との間に形成される内部空間Aを真空吸引することで、周端縁45がボンベ80の表面80aに強固に吸着する。これにより、吸着装置4は、例えば、40~100kgと大きな重量を有するボンベ80を上昇させる場合であっても、ボンベ80の表面80aから外れることなく、表面80aに強固に吸着してボンベ80を保持する。
【0049】
吸着装置4は、周端縁45における、ボンベ80の表面80aと接する内面45a側に、シール部材46が配置されていることがより好ましい。周端縁45にシール部材46が備えられていることにより、例えば、ボンベ80の表面80aが塗装処理等で滑りやすい状態であったり、あるいは、表面80aに水や油等が付着して滑りやすい状態であったりしても、確実且つ強固にボンベ80を付着させることが可能となる。
【0050】
上記のようなシール部材46の材料としては、特に限定されるものではないが、ボンベ80の表面80aに水や油等が付着している可能性も勘案し、例えば、シリコンゴムやNBR(ニトリルゴム)等、弾力性に加えて滑り止め作用も有するゴム材料を用いることができる。
【0051】
吸着装置4は、
図1中に示す例のように、さらに、作業者(使用者)が把持・操作することで、ボンベ80を吸着した状態の吸着装置4を一定範囲内で動かすことが可能なアーム48を備えることが好ましい。このようなアーム48を備えることにより、ボンベ80をスライド移動させて所望の位置まで搬送するのが容易になる。
【0052】
また、吸着装置4は、被搬送物であるボンベ80の上部に位置する肩部83に吸着することが好ましい。これにより、例えば、ガス充填工場における空又は充填済のボンベが大量に保管されているエリアにおいて、搬送対象であるボンベ80以外の他のボンベに干渉することなく、ボンベ80を吸着して昇降させることが可能になる。
【0053】
なお、吸着装置4がボンベ80を吸着するときの内部空間Aの圧力としては、真空に近いほど好ましいが、例えば、-50kPa以下の圧力まで真空吸引することで、40~100kgの重量物であるボンベ80を確実に吸着できる。
【0054】
本実施形態の搬送システム1においては、上記構成の吸着装置4を備えることにより、外径の異なる複数のボンベ80を搬送する場合であっても、特別な治具等を必要とすることなく、そのままボンベ80の肩部83を吸着して搬送することが可能である。
ここで、例えば、外径が200mm程度のボンベ80を吸着する場合には、円筒形とされた吸着装置4の内径を、上記の200mmよりも若干狭い寸法とすることで、ボンベ80の肩部83を確実且つ強固に吸着することが可能となる。
【0055】
シリンダ昇降装置3は、エア(圧縮空気)の供給に伴って昇降するシリンダ32を備え、このシリンダ32の下端32a側に吸着装置4が取り付けられている。本実施形態の搬送システム1においては、シリンダ32の昇降動作により、吸着装置4によって吸着されたボンベ80を昇降させることが可能な構成とされている。即ち、本実施形態の搬送システム1においては、負圧発生装置2で発生させたエアによるアシスト機能により、ボンベ80を容易に持ち上げることができる。
【0056】
上記構成を備える本実施形態の搬送システム1によれば、ボンベ80のような重量物を強固に吸着して吊り上げることができるので、例えば、作業者や女性や高齢者である場合でも、ボンベ80を転倒させたりすることなく、簡単な操作で搬送することが可能となる。
また、吸着装置4の周端縁45がボンベ80の表面80aに吸着する構成を採用することにより、ボンベ80のサイズや形状に影響を受けることなく、様々な外径のボンベ80に対応できるので、フレキシブル且つ強固にボンベ80を吸着して搬送することが可能となる。
さらに、ボンベ80に対し、上方から吸着装置4をアプローチさせる構成なので、保管場所に並び揃えられた複数のボンベ80のうち、搬送対象であるボンベ80のみに容易にアプローチできることから、大量のボンベ80を搬送する際の作業性が高められる。
【0057】
なお、本実施形態の搬送システム1においては、負圧発生装置2が、シリンダ昇降装置3に対するエアの供給が停止した場合に、シリンダ32の下降速度を減速させるスローダウン機構を有することがより好ましい。
このスローダウン機構は、例えば、
図3中に示したエアタンク22、及び、このエアタンク22と配管で接続された下降排気部23とから構成される。このようなスローダウン機構によれば、シリンダ昇降装置3に対するエアの供給が停止したときに、エアタンク22に貯められたエアを下降排気部23に送り込むことにより、シリンダ昇降装置3から下降排気部23に流れ出すエアの量を減少させることで、シリンダ32の下降速度を減速させることが可能となる。
【0058】
また、本実施形態においては、吸着装置4が、この吸着装置4とボンベ80との間に形成される内部空間Aの圧力を検知する圧力検知器を有し、また、負圧発生装置2が、吸着装置4に備えられる圧力検知器の検出結果に基づき、内部空間Aの圧力が一定以下である場合にのみ、シリンダ昇降装置3によってボンベ80を上昇させる図示略の昇降制御機構を有することがより好ましい。
図3に示す例においては、真空計29が、上記の圧力検知器の役割を果たしている。
上述した昇降制御機構は、例えば、
図1中に示した負圧発生装置2の内部に備えられ、吸着装置4に備えられる圧力検知器の検出結果に基づき、シリンダ昇降装置3に供給するエアの開閉や、そのタイミングを制御する。
【0059】
上記のような昇降制御機構を備えることにより、例えば、何らかの事情で内部空間Aの圧力が低下し、吸着装置4によるボンベ80の吸着力が弱まっている場合に、ボンベ80が落下したりするのを防止することが可能となる。
【0060】
また、本実施形態においては、シリンダ昇降装置3が、ボンベ80による負荷を検出する図示略の重量検知器を有し、また、負圧発生装置2が、シリンダ昇降装置3に備えられる重量検知器の検出結果に基づき、ボンベ80による負荷が無くなったことを検出した場合に、吸着装置4とボンベ80との間に形成される内部空間Aの圧力を大気圧に戻し、吸着装置4からボンベ80を取り外し可能とする構成であることがより好ましい。
【0061】
このような構成を採用することにより、例えば、シリンダ32によって吸着装置4に吸着されたボンベ80を下降させ、地面に着地したことを確認してからボンベ80を取り外すことができるので、搬送システム1で重量物であるボンベ80を搬送する際の安全性がより高められる。
【0062】
また、本実施形態においては、詳細な図示は省略するが、負圧発生装置2、シリンダ昇降装置3、及び吸着装置4の動作の切り替え等を、エアを用いた制御によって行うことがより好ましい。
このように、負圧発生装置2、シリンダ昇降装置3及び吸着装置4のそれぞれを、一般的な電気的制御ではなく、エア用いた制御で動作が切り替えられる構成を採用することにより、例えば、搬送システム1全体における電気的配線を可能な限り省略できるとともに、動作がより安定する効果も見込める。
【0063】
また、負圧発生装置2は、さらに、吸着装置4によるボンベ80の吸着状態を維持するための吸着保持機構を備えることがより好ましい。
このような吸着保持機構は、例えば、
図3中に示した空気回路図において、エジェクター機構24等によって構成される。
上記の吸着保持機構によれば、例えば、コンプレッサ21によるエアの供給が、何らかの事情で停止した場合に、エジェクター機構24と吸着装置4との間を封鎖することにより、内部空間Aの圧力が大気圧に戻るのを遅らせ、一定以上の時間で、吸着装置4によってボンベ80を吸着した状態を保持できる。これにより、重量物であるボンベ80が、宙吊り状態で一定以上の時間で保持されるので、作業者がボンベ80を搬送する際の安全性がより高められる。
【0064】
さらに、本実施形態では、負圧発生装置2が、吸着装置4がボンベ80を吸着して宙吊りとした状態において、吸着装置4とボンベ80との間に形成される内部空間Aの圧力が大気圧となったときに、シリンダ昇降装置3に備えられるシリンダ32の鉛直方向における位置を維持する負荷維持手段を備えることがより好ましい。
このような負荷維持手段は、例えば、
図3中に示した空気回路図において、上記のスローダウン機構の場合と同様、エアタンク22及び下降排気部23とから構成される。
【0065】
上記の負荷維持手段によれば、仮に、内部空間Aの圧力が、何らかの事情によって大気圧にまで上昇し、吸着装置4からボンベ80が外れて落下した場合であっても、シリンダ32の負荷状態を維持することで、シリンダ32が急に跳ね上がったりすることなく、一定の高さの位置を保持できる。これにより、作業者がボンベ80を搬送する際の安全性がさらに高められる。
【0066】
なお、本実施形態の搬送システム1は、上述したボンベ80を搬送する用途にのみ限定されるものではなく、人手で搬出及び搬入を行うことが困難な重量物を搬送する用途で幅広く適用することが可能である。
【0067】
<搬送方法>
以下に、本実施形態の搬送方法について説明する。
以下の説明においては、上述した本実施形態の搬送システム1の説明で用いた図面(
図1~
図3)と同じ図面を用いて説明するとともに、既に説明した搬送システム1については、その詳細な説明を省略する場合がある。
【0068】
本実施形態の搬送方法は、上述した本実施形態の搬送システム1を用い、被搬送物であるボンベ80の表面80aを吸着し、宙吊り姿勢でボンベ80を搬送する方法である。
【0069】
本実施形態の搬送方法においては、まず、吸着装置4によってボンベ80を上方から覆い、吸着装置4とボンベ80との間に内部空間Aを形成する。
次いで、吸着オン・上昇ボタン25を操作することにより、負圧発生装置2で発生させた負圧で内部空間Aを真空吸引し、吸着装置4でボンベ80を吸着する。その後、負圧発生装置2内のコンプレッサ21で発生させたエアにより、シリンダ昇降装置3のシリンダ32を上昇させ、ボンベ80を持ち上げる。
【0070】
次いで、吸着装置4に設けられたアーム48を作業者が操作することにより、ボンベ80を、レール5に沿って所望の位置まで移動させる。
次いで、下降・吸着オフボタン26を操作することにより、まず、負圧発生装置2内のコンプレッサ21で発生させたエアで、シリンダ昇降装置3のシリンダ32を下降させ、ボンベ80を着地させる。その後、内部空間Aの圧力を大気圧まで戻すことにより、吸着装置4をボンベ80から取り外す。
以上のような作業を繰り返すことにより、大量のボンベ80の搬送作業を、最低限の人手で容易に行うことができる。
【0071】
<作用効果>
以上説明したように、本実施形態の搬送システム1によれば、上記構成により、高圧ガスが充填される重量物であるボンベ80を強固に吸着し、シリンダ昇降装置3によって容易に吊り上げることができる。これにより、作業者の特性にかかわらず、ボンベ80を転倒させたりすることなく、簡単な操作で搬送することが可能となる。また、吸着装置4の周端縁45がボンベ80の表面80aに吸着する構成を採用することにより、ボンベ80のサイズや形状に影響を受けることなく、様々な外径のボンベ80に対応できるので、フレキシブル且つ強固にボンベ80を吸着して搬送することが可能となる。
従って、熟練技術や強靱な体力を持たない作業者であっても、重量物であるボンベ80を転倒させることなく、安全且つ容易に搬送でき、作業性に優れるとともに、ボンベ80のサイズや形状に関わらず、搬送することが可能になる。
【0072】
また、本実施形態の搬送方法によれば、上述した本実施形態の搬送システム1を用いて、被搬送物であるボンベ80の表面80aを吸着し、宙吊り姿勢でボンベ80を搬送する方法なので、上記同様、熟練技術や強靱な体力を持たない作業者であっても、重量物であるボンベ80を転倒させることなく、安全且つ容易に搬送することが可能になる。
【0073】
<本発明の変形例>
本発明の実施の形態について、図面を参照して上記のように説明したが、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の変更を施すことが可能である。
【0074】
例えば、
図1等においては図示を省略しているが、本発明においては、さらに、吸着装置4の近傍を撮像する撮像手段と、吸着装置4の水平方向における位置を検出する位置検出手段と、シリンダ昇降装置3、負圧発生装置2及び吸着装置4を、レール5に沿って移動させる走行手段と、上記の撮像手段及び位置検出手段における検出信号に基づいて走行手段を動作させることにより、シリンダ昇降装置3、負圧発生装置2及び吸着装置4を、移動予定位置まで移動させる移動制御部と、を備えた構成を採用してもよい。このような構成を採用することで、搬送システムを自動搬送方式で運転させることが可能となる。
【実施例】
【0075】
以下、実施例により、本発明に係る搬送システム及び搬送方法についてさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0076】
本実施例においては、
図1~
図3に示す構成の搬送システム1を用い、下記表1に示す実験例1~5の条件で、それぞれ、サイズ、内容量、充填ガス種、重量等が異なるボンベ(被搬送物)を吸着装置4で吸着し、シリンダ昇降装置3で上昇させる試験を行った。この際、吸着装置4とボンベとの間の内部空間Aの圧力が、0.35MPa以下になるまで真空吸引した。なお、本実施例においては、真空吸引方法をエジェクター方式としたが、例えば、真空ポンプ等、他の方法を用いることもできる。
また、実験例1~5においては、全てのボンベに対し、肩部の位置で機械油を塗布し、滑りやすい状態を再現する条件とした。
【0077】
そして、ボンベが吸着装置4に吸着された状態で持ち上げられた場合に合格(表1中に「○」で記載)と評価し、下記表1中の「作動状況」の欄に結果を記した。
【0078】
【0079】
表1中に示したように、実験例1(総重量:64kg)、実験例2(同:76.2kg)、実験例3(同:78.5kg)、及び実験例4(同:90kg)の何れにおいても、ボンベが吸着装置4に強固に吸着され、シリンダ昇降装置3で上昇させることが可能であることが確認できた。
なお、実験例5においては、実験例2のボンベを用いて、さらに錘(バランサ)を取り付けることで、総重量を118kgとしたボンベで実験を行った。この場合においても、ボンベが吸着装置4に強固に吸着され、シリンダ昇降装置3で上昇させることが可能であることを確認した。
ここで、実験例1は、充填ガスとしてアルゴン(Ar)を用いて実験を行った例であるが、アルゴン以外のガスを用いた場合も、搬送システム1によって持ち上げることが可能であると推測できる。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明の搬送システムは、熟練技術や強靱な体力を持たない作業者であっても、ボンベ等の重量物を転倒させることなく安全且つ容易に搬送でき、作業性に優れるとともに、サイズや形状に関わらず、被搬送物を搬送することが可能なものである。従って、本発明の搬送システムは、例えば、ガス充填工場内における各エリア間でボンベを搬送する用途等において非常に好適である。
【符号の説明】
【0081】
1…搬送システム
2…負圧発生装置(負圧発生手段)
21…コンプレッサ
22…エアタンク
23…下降排気部
24…エジェクター機構
25…吸着オン・上昇ボタン
26…下降・吸着オフボタン
27…吸着オンランプ
28…無負荷ランプ28
29…圧力計
3…シリンダ昇降装置(保持手段)
31…ケース部
32…シリンダ
32a…先端
4…吸着装置(吸着手段)
41…天井部
42…側部
43…開口部
45…周端縁
45a…内面
46…シール部材
48…アーム
5…レール
6…フック部
A…内部空間
80…ボンベ(被搬送物)
80a…表面
81…底部
82…胴部
83…肩部
84…バルブ
【要約】
【課題】熟練技術や強靱な体力を持たない作業者であっても、ボンベ等の重量物を転倒させることなく安全且つ容易に搬送でき、作業性に優れるとともに、サイズや形状に関わらず、被搬送物を搬送することが可能な搬送システム及び搬送方法を提供する。
【解決手段】被搬送物であるボンベ80の表面80aを吸着し、宙吊り姿勢でボンベ80を搬送する搬送システム1であり、負圧発生装置2と、ボンベ80の表面80aを吸着する吸着装置4と、吸着装置4を昇降させるシリンダ昇降装置3と、を備え、吸着装置4がボンベ80を上方から被覆した状態で、負圧発生装置2で発生させた負圧により、吸着装置4とボンベ80との間に形成される内部空間を真空吸引することで、吸着装置4の周端縁がボンベ80の表面80aに吸着する。
【選択図】
図1