(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-06
(45)【発行日】2022-10-17
(54)【発明の名称】塗布剤の塗布方法、繊維シート、及び繊維シートの施工方法
(51)【国際特許分類】
E04G 23/02 20060101AFI20221007BHJP
B05D 3/12 20060101ALI20221007BHJP
B05D 7/00 20060101ALI20221007BHJP
B32B 7/06 20190101ALI20221007BHJP
B32B 5/02 20060101ALI20221007BHJP
C09D 201/00 20060101ALI20221007BHJP
C09D 5/00 20060101ALI20221007BHJP
C09J 201/00 20060101ALI20221007BHJP
C09J 163/00 20060101ALI20221007BHJP
【FI】
E04G23/02 A
B05D3/12 E
B05D7/00 L
B32B7/06
B32B5/02 Z
C09D201/00
C09D5/00 D
C09J201/00
C09J163/00
(21)【出願番号】P 2022524707
(86)(22)【出願日】2021-12-24
(86)【国際出願番号】 JP2021048414
【審査請求日】2022-04-26
(31)【優先権主張番号】P 2020219482
(32)【優先日】2020-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020219483
(32)【優先日】2020-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006644
【氏名又は名称】日鉄ケミカル&マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】特許業務法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 宣暁
(72)【発明者】
【氏名】小森 篤也
(72)【発明者】
【氏名】吉澤 弘之
(72)【発明者】
【氏名】渡部 修
【審査官】河内 悠
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-208968(JP,A)
【文献】特開2012-197595(JP,A)
【文献】特開2003-105975(JP,A)
【文献】特開2005-213899(JP,A)
【文献】特開平11-006305(JP,A)
【文献】特開2002-235444(JP,A)
【文献】特開2010-285773(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0272353(US,A1)
【文献】特開昭61-170575(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04G 23/02
B05D 3/12
B05D 7/00
B05D 7/24
B32B 7/06
B32B 5/02
B32B 5/10
B32B 5/26
B32B 43/00
C09D 201/00
C09D 5/00
C09J 201/00
C09J 163/00
E01D 22/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物に塗布する塗布剤にて該構造物に剥離シートを含浸接着する第一工程と、
前記剥離シートを前記構造物に含浸接着した塗布剤が硬化した後に、該塗布剤における前記剥離シートに対する前記構造物とは反対側に存在する表面層と共に該剥離シートを前記構造物から剥離する第二工程と、
を有する塗布剤の塗布方法であって、
前記第一工程において、前記塗布剤の塗布面に対して前記剥離シートを押し付けながら含浸接着することにより、該塗布剤における前記剥離シートに対する前記構造物とは反対側に存在する表面層を形成する、
塗布剤の塗布方法。
【請求項2】
前記第二工程によって前記表面層と共に前記剥離シートが剥離された構造物に繊維シートを含浸接着する第三工程、
を有する請求項1に記載の塗布剤の塗布方法。
【請求項3】
前記第二工程によって前記表面層と共に前記剥離シートが剥離された構造物に仕上げ層を設ける仕上げ工程、
を有する請求項1に記載の塗布剤の塗布方法。
【請求項4】
前記第一工程では、前記剥離シートは、繊維シート上に重ねられた状態で、該繊維シートと共に前記構造物に前記塗布剤にて含浸接着し、
前記第二工程では、前記剥離シートを含む前記繊維シートを前記構造物に含浸接着した前記塗布剤が硬化した後に、前記剥離シートを前記表面層と共に前記構造物から剥離する、
請求項1に記載の塗布剤の塗布方法。
【請求項5】
構造物の補強又は補修のために接着剤を用いて含浸接着される繊維シートであって、
前記接着剤が含浸可能な剥離シートが、前記繊維シートの片面に対して予め固定されており、
前記片面に対する反対面を前記構造物に向けた状態で前記剥離シートごと前記構造物に前記繊維シートを含浸接着した前記接着剤が硬化した後に、前記剥離シートが、前記接着剤の表面層と共に前記片面から剥離可能な繊維シート。
【請求項6】
前記剥離シートは、単位幅あたりの剥離強度が、該剥離シートの引き裂き強度以下の強度で、前記片面から剥離可能である、
請求項5に記載の繊維シート。
【請求項7】
前記剥離シートは、前記片面から剥離したときの剥離強度が、10N/cm以下である、
請求項5又は6に記載の繊維シート。
【請求項8】
前記剥離シートは、合成繊維を平織りした織布、編地、及び不織布のいずれかである、
請求項5~7のいずれか1項に記載の繊維シート。
【請求項9】
前記剥離シートは、合成ゴム系、高分子量エポキシ系、アクリル系のいずれかから選択される固定材で、前記繊維シートに剥離可能に固定されている、
請求項5~8のいずれか1項に記載の繊維シート。
【請求項10】
前記接着剤が、アミン類を硬化剤とする常温硬化型の液状エポキシ樹脂であり、
前記接着剤が硬化する際に、前記接着剤の表面にアミンブラッシング層が発生した場合において、前記剥離シートが、該アミンブラッシング層と共に前記片面から剥離可能である、
請求項5~9のいずれか1項に記載の繊維シート。
【請求項11】
接着剤を含浸可能な剥離シートが、片面に剥離可能に固定された繊維シートを、該片面に対する反対面を構造物に向けた状態で、該構造物に該接着剤にて含浸接着する工程と、
前記剥離シートを含む前記繊維シートを前記構造物に含浸接着した接着剤が硬化した後に、該剥離シートを該接着剤の表面層と共に前記片面から剥離する工程と、
を有する繊維シートの施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示の技術は、剥離シート、塗布剤の塗布方法、繊維シート、及び繊維シートの施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2002-235444号公報には、コンクリート構造物表面に予め全面パテ処理を行うことによって硬化塗膜を形成させてから、補強繊維シートを貼り付け当該繊維シートに含浸させた熱硬化性樹脂を硬化せしめてコンクリート構造物を補修する工法において、前記プライマー塗布処理後、及び/又は、パテ処理塗布後の硬化前の塗布面に離型性フィルムを被覆し密着させた状態で乾燥・硬化養生を行った後、離型性フィルムを剥離することを特徴とするコンクリート構造物の補修工法が開示されている。
【0003】
特開2014-129442号公報には、アミン硬化エポキシ樹脂塗料に少量添加することにより、アミンブラッシングによる密着性阻害を防止し、良好な層間密着性を付与する新規なアミン硬化エポキシ樹脂塗料用密着性向上剤が開示されている。
【0004】
特開2014-208968号公報には、構造物の補修補強で用いる現場含浸型の連続繊維シートの継ぎ手方法であって、含浸樹脂硬化前の第1の連続繊維シートの継ぎ手位置の表面に帯状シートを設置し、該帯状シートを除去して該表面に凸凹を形成した後、該表面に第2の連続繊維シートを貼り付けることを特徴とする連続繊維シートの継ぎ手方法が開示されている。
【0005】
特開平03-222734号公報には、接着剤層を設けた支持体シートと、前記接着剤層を介して前記支持体シート上に一方向に配列して接着した強化繊維とからなることを特徴とする一方向配列強化繊維シートが開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、繊維シートを構造物に貼り付けて補強するにあたって、プライマー等の塗布剤として構造物に塗布される樹脂類は、外気環境や水などの影響を受け、表層が変質することがある。例えば、アミン類を硬化剤とする常温硬化型エポキシ樹脂をプライマー等の塗布剤として、構造物に塗布すると、硬化剤であるアミン類が湿気(水)及び炭酸ガスと反応し、塗布剤表面に脆弱層(アミンブラッシング層)が形成されるアミンブラッシング現象が発生する場合がある。また、塗布剤としてアクリル樹脂を用いた場合では、吸水により接着剤の表面が白く変質する場合がある。
【0007】
特開2002-235444号公報に開示された技術は、離型性フィルムを用いてアミンブラッシング現象の発生自体を抑制するものであるが、離型性フィルムは通気性がないため、貼付面に空気溜まりが生じ、施工面の品質が落ちてしまう。また、離型性フィルムは含浸貼付ができないため、施工面の凹凸に追従することが困難となる。
【0008】
特開2014-129442号公報に開示された技術では、密着性向上剤をアミン硬化エポキシ樹脂塗料に添加することにより、アミンブラッシング現象の発生を抑制するものであるが、アミンブラッシング現象を完全に防止することは難しく、アミンブラッシング現象が発生すると、塗布剤表面に他の層(以下、次層という)を積層する場合に、脆弱層の破壊により、塗布剤表面と次層との接着性の確保が困難となる。
【0009】
また、塗布剤表面に塵埃や虫等の異物が付着した場合や、アミンブラッシング現象に限らず塗布剤表面が変質した場合などでも、塗布剤表面と次層との接着性が低下するおそれがある。
【0010】
本開示の技術は、構造物に塗布された塗布剤表面の接着性を確保することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本開示の剥離シートは、構造物に塗布剤が塗布された後に該構造物に含浸貼付される剥離シートであって、該剥離シートを該構造物に含浸接着した塗布剤が硬化した後に、該塗布剤の表面層と共に該構造物から剥離可能である。
【0012】
本開示の塗布方法は、構造物に塗布する塗布剤にて該構造物に剥離シートを含浸接着する第一工程と、前記剥離シートを前記構造物に含浸接着した塗布剤が硬化した後に、該剥離シートを該塗布剤の表面層と共に該構造物から剥離する第二工程と、を有する。
【0013】
本開示の繊維シートは、構造物の補強又は補修のために接着剤を用いて含浸接着される繊維シートであって、前記繊維シートの前記構造物との接着面とは反対側の面に前記接着剤が含浸可能な剥離シートが固定されており、前記剥離シートごと前記構造物に前記接着剤で含浸接着され、該接着剤が硬化した後に前記剥離シートを剥離可能である。
【0014】
本開示の繊維シートの施工方法は、接着剤を含浸可能な剥離シートが、片面に剥離可能に固定された繊維シートを、該片面に対する反対面を構造物に向けた状態で、該構造物に該接着剤にて含浸接着する工程と、前記剥離シートを含む前記繊維シートを前記構造物に含浸接着した接着剤が硬化した後に、該剥離シートを該接着剤の表面層と共に該繊維シートから剥離する工程と、を有する。
【発明の効果】
【0015】
本開示の技術によれば、構造物に塗布された塗布剤表面の接着性を確保できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】第1実施形態に係る連続繊維シート及び剥離シートを示す斜視図である。
【
図2】第1実施形態に係る連続繊維シート及び剥離シートを示す断面図(
図1におけるA-A線断面図)である。
【
図3A】第1実施形態に係る連続繊維シート及び剥離シートを構造物に対して施工する施工方法を示す図である。
【
図3B】
図3Aに示す施工方法における剥離シート接着工程を示す図である。
【
図3C】
図3Aに示す施工方法の実行過程でアミンブラッシング現象が発生した場合を示す図である。
【
図3D】
図3Aに示す施工方法における剥離工程を示す図である。
【
図4】
図3Aに示す施工方法の変形例を示す図である。
【
図5A】第1実施形態に係るプライマー塗布工程において剥離シートを用いた、施工方法の変形例を示す図である。
【
図5B】
図5Aに示す変形例の実行過程でアミンブラッシング現象が発生した場合を示す図である。
【
図5C】
図5Aに示す施工方法における剥離工程を示す図である。
【
図6A】第1実施形態に係る不陸修正材塗布工程において剥離シートを用いた、施工方法の変形例を示す図である。
【
図6B】
図6Aに示す変形例の実行過程でアミンブラッシング現象が発生した場合を示す図である。
【
図6C】
図6Aに示す施工方法における剥離工程を示す図である。
【
図7】第1実施形態に係る実施例及び比較例の評価結果を示す表である。
【
図8】第2実施形態に係る連続繊維シートを示す斜視図である。
【
図9】第2実施形態に係る連続繊維シートを示す断面図(
図8におけるA-A線断面図)である。
【
図10A】第2実施形態に係る連続繊維シートを構造物に対して施工する連続繊維シートの施工方法を示す図である。
【
図10B】
図10Aに示す施工方法の実行過程でアミンブラッシング現象が発生した場合を示す図である。
【
図11】第2実施形態に係る実施例及び比較例の評価結果を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本開示の技術に係る実施形態の一例を図面に基づき説明する。
【0018】
<第一実施形態>
(連続繊維シート10の構成)
まず、本実施形態に係る連続繊維シート10について説明する。
図1は、連続繊維シート10及び剥離シート40を示す斜視図である。
図2は、連続繊維シート10及び剥離シート40を示す断面図(
図1におけるA-A線断面図)である。
図3は、連続繊維シート10及び剥離シート40を構造物90に対して施工する施工方法を示す図である。
【0019】
連続繊維シート10は、繊維シートの一例であり、
図3に示されるように、構造物90の補強や補修をするために構造物90に対して接着剤80により接着される連続繊維シートである。
【0020】
連続繊維シート10は、構造物90に接着されることで、構造物90の補修・補強を可能とする。構造物90としては、例えば、コンクリート構造物などが挙げられる。コンクリート構造物としては、例えば、橋梁、橋脚、及びトンネルの覆工壁などが挙げられる。
【0021】
なお、コンクリート構造物としては、橋梁、橋脚、及びトンネルの覆工壁に限られず、例えば、建築物、電柱、煙突などであってもよく、補強や補修の対象となる構造物であればよい。また、構造物としては、コンクリート構造物に限られず、例えば、モルタル、セラミックス、鋼などの金属、及びガラス等の構造物であってもよく、補強や補修の対象となる構造物であればよい。
【0022】
連続繊維シート10は、第一面11が構造物90に向けられた状態で、構造物90に接着剤80にて含浸接着される。接着剤80は、連続繊維シート10に含浸して連続繊維シート10を構造物90に接着する含浸接着剤である。接着剤80としては、例えば、アミン類を硬化剤とする常温硬化型で無溶剤の液状エポキシ樹脂が用いられる。接着剤80は、構造物90に塗布する塗布剤の一例である。
【0023】
硬化剤としてのアミン類は、接着剤80を常温硬化させることができるものであれば特に限定されるわけではなく、脂肪族ポリアミン、脂環族ポリアミン、変性ポリアミン、ポリメルカプタン、及びポリアミド等から任意に選択されるが、脂肪族ポリアミン(例えばエチレンジアミン、トリエチレンテトラミン、2,4,6-トリス(3-アミノメチルフェニルメチルアミノメチル)フェノール、メタキシリレンジアミン等)、脂環族ポリアミン(例えばメンセンジアミン、イソホロンジアミン、1,3-ビスアミノメチルシクロヘキサン等)が好ましい。また、硬化剤の他に効果促進剤を併用することもできる。
【0024】
なお、接着剤80は、連続繊維シート10の繊維間を隙間なく含浸しつつ、繊維シートと構造体とを一体化するものであるため、接着剤の粘度が高いと含浸不良を起こして補強が不十分となる恐れがあることから、200000mPa・s以下の粘度であり、好ましくは20000mPa・s以下の粘度である。
【0025】
連続繊維シート10は、具体的には、
図1及び
図2に示されるように、連続繊維25が一方向(
図1におけるX方向)に配列された繊維層20と、繊維層20を支持する支持層30と、を備えている。
【0026】
連続繊維25としては、アラミド、PBO(ポリパラフェニレンベンズビスオキサゾール)、ポリアミド、ポリアリレート、ポリエステル等の有機繊維、バサルト繊維、炭素繊維、ガラス繊維、鋼繊維等の金属繊維などを一種、又は、複数種混入して使用することができる。また、繊維層20の繊維目付は、任意に設定できるが、例えば、100~600g/m2とすることができる。
【0027】
支持層30は、繊維層20の両面に配置され、繊維層20の両面を支持する支持シート32、33を有している。繊維層20は、両面が支持シート32、33によって支持されることで、連続繊維25のばらけが抑制される。なお、支持層30は繊維層20の両面にあることが最も好ましいが、少なくとも繊維層20の片方の面に配置されていればよく、連続繊維25のばらけが何らかの方法で抑制されていれば支持層30を有さない構成であっても構わない。
【0028】
支持シート32、33は、2軸又は3軸などのメッシュ状のシートで構成されている。本実施形態では、支持シート32、33として、
図1及び
図2に示すように、例えば直径2~50μmのガラス繊維又は有機繊維(例えば、熱可塑性繊維)にて作製した2軸のメッシュ状シートを用いている。支持シート32、33の目開きは、例えば、1mm以上50mm以下とされている。支持シート32、33は、同じ構成とされているが、異なるものとすることも可能である。
【0029】
支持シート33は、繊維層20の第一面21に配置され、幅方向(
図1及び
図2におけるY方向)の両端部が、第二面22側へ折り返されて、第二面22に固定されている。支持シート32は、支持シート33の幅方向両端部が固定された第二面22に固定されている。なお、幅方向とは、連続繊維25が配列された方向(
図1におけるX方向)に直交する方向である。
【0030】
支持シート32、33の繊維層20への固定方法としては、例えば、メッシュ状の支持シート32、33を構成する縦糸32A、33A及び横糸32B、33Bの表面に、熱可塑性樹脂を予め含浸させておき、支持シート32、33を加熱加圧して、支持シート32、33を繊維層20に溶着する方法などが採用される。
【0031】
(剥離シート40の構成)
剥離シート40は、接着剤80にて構造物90に含浸接着される剥離シートである。具体的には、剥離シート40は、連続繊維シート10上に重ねられた状態で、連続繊維シート10と共に構造物90に接着剤80にて押し付けながら含浸接着されるか、もしくは、連続繊維シート10が接着剤80にて構造物90に含浸接着された後に、連続繊維シート10に上塗り塗布された接着剤80に押し付けながら含浸接着される。すなわち、剥離シート40は、硬化前の液状である接着剤80を含浸可能とされている。さらに剥離シート40は、通気可能となっている。本実施形態では、剥離シート40は、硬化前の液状である接着剤80が進入可能で、且つ気体が通過可能な複数の孔又は隙間を有している。
【0032】
剥離シート40が接着剤80を含浸可能か否かについては、例えばガラス製の平板に接着剤80をおよそ200μmの厚みとなるように塗工した後、剥離シート40を塗布面に重ね、ヘラを用いてしごいた場合において剥離シート40から接着剤80が染み出すか否かによって確認することができる。
【0033】
また、剥離シート40を構造物90に含浸接着した接着剤80が硬化した後に、接着剤80の表面層と共に構造物90から剥離可能とされている。具体的には、剥離シート40を含む連続繊維シート10を構造物90に含浸接着した接着剤80が硬化した後に(
図3B参照)、剥離シート40が、接着剤80の表面層82と共に構造物90から剥離可能とされている(
図3C参照)。剥離シート40は、硬化後の接着剤80の表面層82(具体的には、接着剤80のうち、剥離シート40に対する連続繊維シート10とは反対側に存在する部分)を支持する機能を有しており、表面層82を支持する剥離シート40を構造物90から剥離することで、表面層82が構造物90から剥離される。
【0034】
また、剥離シート40は、構造物90から剥離したときの剥離強度が、10N/cm以下とされている。剥離強度は、実際の施工と同様な方法にて剥離シート40をコンクリート製供試体に接着し、20mm毎に切れ目を入れたのち、きっかけ部に張力計を取り付けて45度の角度で人力にて引きはがし試験を行った際の最大張力を測定することにより測定される。なお、剥離強度は、剥離シート40に用いる材料等により調整される。
【0035】
さらに、剥離シート40は、剥離シート40の単位幅(cm)あたりの剥離強度が剥離シート40の引き裂き強度以下の強度で、連続繊維シート10から剥離可能であることが好ましい。引き裂き強度は、JIS L 1096 A-1法として規定される引張試験により測定される。
【0036】
剥離シート40は、合成繊維を平織りした織布で構成されている。織布の織り方としては、平織り、綾織り及び朱子織などが考えられるが、これらの織り方のうち、織布が伸縮しにくく、耐久性に優れる平織りが望ましい。なお、剥離シート40としては、綾織り及び朱子織などの織り方で織られた織布を用いてもよい。さらに、剥離シート40としては、メッシュ状のシートや編地、不織布を用いてもよい。メッシュ状のシートである場合は、表面層82を支持可能な程度に(すなわち、剥離シート40を剥離した際に、表面層82が連続繊維シート10に残留しない程度に)目開きが小さいことが望ましい。なお、目開きの小さい織布としては、タフタ、オックスが例示される。
【0037】
剥離シート40は、接着剤80との弱接着性(10N/cm以下の剥離強度)を示すものであればよいが、好ましくは紫外線遮蔽率が高く、繊維の初期引張抵抗度が大きいものが好ましい。剥離シート40の紫外線遮蔽率が高いと、接着剤80の塗布面における紫外線による黄変等の変質を抑制できる。また、剥離シート40における繊維の初期引張抵抗度が大きいと、塗布面の収縮に抗することができ、連続繊維シート10の接着面にしわがでにくくなる。また、剥離シート40の吸水率が小さいと、接着剤80の硬化中に吸水による寸法変化が生じにくく、接着面にシワが生じにくくなる。このため、剥離シート40として、剥離シート40に接着剤80との難接着性を有す素材を紫外線吸収剤とともにコーティングした各種織物(綿や麻など)を使用することができるが、ポリエステル、ナイロン、アラミド、ビニロン、ポリエチレン、ポリプロピレンなどの合成繊維が好ましく、接着剤80としての常温硬化型エポキシ樹脂に対して難接着性を示すナイロンやポリエステルがより好ましい。特にポリエステルは見かけ弾性率が大きく、吸水率が小さいため、接着面にシワを発生させることが無く、紫外線吸収率も高いので、接着剤80の塗布面の黄変を抑制することもできるので最も好ましく使用される。なお、紫外線遮蔽率は、JIS L 1925による方法で60%以上であることが好ましく、初期引張抵抗度については、JIS L 1023による方法で40g/D以上であることが好ましく、吸水率については、公定水分率5%以下が好ましい。
【0038】
なお、剥離シート40は、繰り返しの利用も想定されるため、くせツキを防止する形状記憶や形状安定加工された織物も好適に用いられる。
【0039】
なお、剥離シート40に用いられる材料としては、上記のものに限られず、他の樹脂を用いてもよい。さらに、剥離シート40の材料としては、炭素繊維やガラス繊維との複合繊維を用いてもよい。
【0040】
なお、剥離シート40としては、塗布剤の膜厚に対して薄いことが望ましく、前記塗布剤がプライマーとすると、標準施工量が200g/m2であり、膜厚は約200μmとなるため、剥離シート40の膜厚としては、200μm以下、好ましくは150μm以下、より好ましくは100μm以下であることが望ましい。また、剥離シート40の目付は100g/m2程度であることが好ましい。
【0041】
剥離シート40の膜厚が200μmを超えると、接着剤80を塗布含浸する際に剥離シートに含浸され、剥離時にそのまま剥がされてしまう樹脂量が多くなり、塗布量に対する廃棄量が多くなってしまったり、通気性が低下して貼り付け時に空気を巻き込んで塗布面の凹凸をかえって大きくしてしまう。また、接着剤80に剥離シート40を押し付けて含浸させることが難しくなり、剥離の際に表層の樹脂をはぎ取りにくくなる。さらに、結露が発生しやすい環境では、剥離シート40の表面まで樹脂が染み出てこないと、結露水が剥離シート40と接着剤80の界面付近にたまってしまい、十分なアミンブラッシング層の除去ができない。
【0042】
(施工方法)
次に、連続繊維シート10を構造物90に対して施工する連続繊維シートの施工方法について説明する(
図3参照)。本施工方法は、連続繊維シート10により構造物90の補強又は補修を行う施工方法ともいえる。また、本施工方法は、接着剤80を塗布する接着剤80の塗布方法を含んでいる。本施工方法は、プライマー塗布工程と、不陸修正材塗布工程と、接着工程と、剥離シート接着工程(第一工程の一例)と、剥離工程(第二工程の一例)と、仕上げ工程と、を有している。
【0043】
本施工方法では、まず、構造物90の表面の突起物や該表面に付着した付着物(例えば、劣化層など)を除去する下地処理を行った後、プライマー60を塗布する(プライマー塗布工程、
図3A参照)。プライマー60は、構造物90と、構造物90上に形成される層との接合性(接着性)を高める機能を有している。プライマー60には、一例として、エポキシ樹脂等の樹脂が用いられる。なお、プライマー60としては、エポキシ樹脂に限られず、例えば、エポキシ樹脂以外の常温硬化性樹脂等の樹脂であってもよく、種々の材料を用いることができる。
【0044】
次に、プライマー60が塗布された表面に対して、不陸修正材70を塗布し、当該表面の凹凸を平滑化する(不陸修正材塗布工程、
図3A参照)。不陸修正材70は、構造物90の表面の凹凸を平滑化する機能を有している。不陸修正材70には、一例として、エポキシ樹脂等の樹脂が用いられる。なお、不陸修正材70としては、エポキシ樹脂以外の常温硬化性樹脂等の樹脂であってもよく、種々の材料を用いることができる。
【0045】
次に、不陸修正材70が塗布された表面に対して、連続繊維シート10を構造物90に接着剤80にて含浸接着する(接着工程、
図3A参照)。具体的には、接着剤80を下塗りし、下塗りした接着剤80に対し、連続繊維シート10の第一面11が構造物90に向けられた状態で、連続繊維シート10を貼り付け、脱泡する。その後、接着剤80を上塗り、再び脱泡する。そして、剥離シート40を接着材80が上塗りされた連続繊維シート10に貼り付けて、押さえながら含浸接着させる(剥離シート接着工程、
図3B参照)。このとき、剥離シート40は、連続繊維シート10に対する構造物90側とは反対側(
図3における上側)に配置される。このように塗布された接着剤80は、連続繊維シート10及び剥離シート40に含浸すると共に、接着剤80の表面81は、剥離シート40に対する連続繊維シート10とは反対側(
図3における上側)に配置される。接着剤80は、下塗り及び上塗りの際にその直前に主剤と硬化剤とを混ぜてから用いられる。また、接着剤80は、放置されることで、外気温により硬化される。なお、本施工方法では、前述のように、連続繊維シート10を構造物90に対して貼り付けた後に、剥離シート40を貼り付けてもよいし、予め連続繊維シート10と剥離シート40とを重ねた状態で、連続繊維シート10及び剥離シート40を構造物90に対して貼り付けてもよい。剥離シート40は、連続繊維シート10に対して非固定とされる。すなわち、剥離シート40は連続繊維シート10に対して非拘束とされ、移動可能とされている。
【0046】
接着剤80が硬化する際に、
図3Cに示されるように、接着剤80の表面81にアミンブラッシング層89が形成されるアミンブラッシング現象が発生する場合がある。このアミンブラッシング現象は、具体的には、以下のように発生する。硬化剤であるアミン類と、湿気(水)及び炭酸ガスとの反応速度が、エポキシ主剤との反応速度よりも速くなると、接着剤80の表面81が白化しつつ脆くなる脆弱層(アミンブラッシング層89)が形成される。このアミンブラッシング現象は、特に、低温環境において、発生しやすい。また、アミンブラッシング現象は、湿気(水)及び炭酸ガスの両方が存在する環境において発生する。
【0047】
次に、剥離シート40は、接着剤80の表面層82(アミンブラッシング層89が発生した場合にはアミンブラッシング層89を含む)と共に構造物90から剥離する(剥離工程、
図3D参照)。これにより、表面層82が除去される。なお、表面層82が除去された連続繊維シート10上には、剥離シート40に含浸された接着剤80の少なくとも一部が残留する。したがって、
図3Dにおいて図示はしないが、表面層82が除去された連続繊維シート10上には、接着剤80が存在する。そして、表面層82が除去された連続繊維シート10上には、例えば、仕上げ材(クリア塗装などの仕上げ塗装やモルタル)等が塗布される。これにより、連続繊維シート10上に仕上げ層が設けられる(仕上げ工程)。なお、表面層82が除去された連続繊維シート10上には、さらに、連続繊維シート10を接着してもよい。
【0048】
なお、本施工方法では、プライマー塗布工程及び不陸修正材塗布工程を有していたが、これに限られない。施工方法としては、プライマー塗布工程及び不陸修正材塗布工程の少なくとも一方を有さない方法であってもよい。したがって、プライマー60が塗布されていない構造物90に対して、不陸修正材70を塗布してもよい。また、プライマー60が塗布された構造物90に対して、不陸修正材70を塗布せずに、接着剤80を塗布してもよい。さらに、プライマー60及び不陸修正材70が塗布されていない構造物90に対して、接着剤80を塗布してもよい。
【0049】
(本実施形態の作用効果)
次に、本実施形態の作用効果を説明する。
【0050】
本実施形態では、
図3Dに示されるように、剥離シート40を含む連続繊維シート10を構造物90に対して含浸接着した接着剤80が硬化した後に、剥離シート40が、接着剤80の表面層82と共に構造物90から剥離可能とされている。このため、前述の剥離工程に示されるように、剥離シート40を接着剤80の表面層82と共に構造物90から剥離することで、硬化後の接着剤80の表面層82を除去できる。
【0051】
このため、接着剤80が硬化する際に、例えば、接着剤80の表面81にアミンブラッシング層89が発生した場合でも、接着剤80の表面層82を除去することで、接着剤80表面の接着性を確保することができる。
【0052】
この結果、表面層82が除去された連続繊維シート10上に次層を積層する場合でも、次層と接着剤80表面との接着性が向上する。次層としては、連続繊維シート10上にさらに連続繊維シート10を接着するための接着剤や、連続繊維シート10に隣接してさらに連続繊維シート10を接着する場合においてその一部を重ねて接着するための接着剤や、連続繊維シート10上に塗布される仕上げ材(クリア塗装などの仕上げ塗装やモルタル)などが挙げられる。なお、接着性とは、次層と接着剤80表面との接着性能とも言い換えられる。
【0053】
本実施形態の作用効果は、特に季節を問わないが、冬季のような環境温度が低い状況下においても有効である。接着剤80として使用されるエポキシ樹脂は5℃以下では硬化が著しく遅いため、ヒーター等で作業環境を暖めることがあるが、施工される躯体の温度が冷えている中で環境温度を暖めると塗工した樹脂表面に結露が生じてしまい、これがアミンブラッシング層の形成要因となる。しかし、本実施形態では剥離シート40の剥離によって、硬化後の接着剤80の表面層82を除去できるため、接着剤80表面の接着性を確保することができる。
【0054】
また、本実施形態では、剥離シート40の剥離により、硬化後の接着剤80の表面層82を除去できるので、接着剤80の表面81に付着した異物(例えば、虫や塵埃等)を除去できる。これにより、接着剤80表面の汚れを解消し、接着剤80表面の接着性を確保することができる。
【0055】
また、本実施形態では、剥離シート40を接着剤80の表面層82と共に構造物90から剥離することで、接着剤80表面が粗化される。この点からも、接着剤80表面の接着性を向上させることができる。なお、接着剤80表面の粗化とは、接着剤80の表面層から剥離シート40と共に表面層82が剥ぎ取られることによるものであって、当該表面に接着された後の連続繊維シート10に浮きが生じない範囲(1mm未満)の微細表面粗化である。
【0056】
また、本実施形態では、剥離シート40は、通気可能とされているため、連続繊維シート10表面の凹凸に存在する空気が、剥離シート40を通過し、該凹凸に閉じ込められにくい。このため、空気だまりの発生が抑制される。また、空気だまりの発生が抑制されることで、連続繊維シート10を接着する際における脱泡作業の作業性も良好となる。
【0057】
また、本実施形態では、剥離シート40は、構造物90から剥離したときの剥離強度が、10N/cm以下とされている。ここで、該剥離強度が、10N/cmを超える場合では、剥離シート40を構造物90から剥離しにくく、作業性が悪い。これに対して、本実施形態では、剥離シート40は、構造物90から剥離したときの剥離強度が、10N/cm以下であるので、剥離シート40を構造物90から剥離する作業性がよい。
なお、剥離強度は好ましくは8N/cmであり、より好ましくは5N/cmである。
【0058】
また、本実施形態では、剥離シート40が合成繊維を平織りした織布であるので、剥離シート40が、綾織り及び朱子織等で織られた織布や、編地で構成される場合に比べ、剥離シート40が伸縮しにくく、耐久性に優れる。このため、剥離シート40を構造物90から剥離した際に、剥離シート40が破断することが抑制される。
【0059】
また、構造物90に貼り付けられた連続繊維シート10上に剥離シート40を貼り付け、押し付けながら含浸する際に、連続繊維シート10に接着樹脂が十分に含浸されていない場合、内在されていた空気が連続繊維シート10と剥離シート40の間に貯まり、剥離シートが膨らむことで連続繊維シート10の含浸不足が可視化される。これにより、連続繊維シート10に接着剤80が十分に含浸されているか確認される。なお、連続繊維シート10と剥離シート40との間に貯まった空気は、追加の含浸作業にて除去される。
【0060】
(施工方法の変形例)
前述の施工方法では、接着工程にて構造物90に貼り付けられた連続繊維シート10上に剥離シート40を貼り付け、押し付けながら含浸接着しているが、剥離シート接着工程の変形例として構造物90に貼り付けられた連続繊維シート90に重ねて剥離シート40を貼り付け、脱泡したのちに接着剤80を上塗りしてもよい。
【0061】
本変形例は、不陸修正材70が塗布された表面に対して、剥離シート40を連続繊維シート10上に重ねられた状態で、剥離シート40を連続繊維シート10と共に構造物90に接着剤80にて含浸接着する(剥離シート接着工程、
図4A参照)。具体的には、接着剤80を下塗りし、下塗りした接着剤80に対し、連続繊維シート10の第一面11が構造物90に向けられた状態で、連続繊維シート10を貼り付け、次いで、連続繊維シート10の第二面12上に剥離シート40を重ねた上から接着剤80を塗布含浸して剥離シート40を貼り付け、脱泡する。このとき、剥離シート40は、連続繊維シート10に対する構造物90側とは反対側(
図4における上側)に配置される。このように塗布された接着剤80は、連続繊維シート10及び剥離シート40に含浸すると共に、接着剤80の表面81は、剥離シート40に対する連続繊維シート10とは反対側(
図4における上側)に配置される。接着剤80は、下塗り及び上塗りの際にその直前に主剤と硬化剤とを混ぜてから用いられる。また、接着剤80は、放置されることで、外気温により硬化される。加えて、本接着工程の更なる変形例として、予め連続繊維シート10と剥離シート40とを重ねた状態で、連続繊維シート10及び剥離シート40を構造物90に対して貼り付けてもよい。
【0062】
なお、本変形例においては、剥離シート40を連続繊維シート10と共に構造物90に接着剤80にて含浸接着する際に剥離シート40に接着剤80を過剰に含浸させると、剥離シート40に接着剤80を厚膜塗工した状態となる。接着剤80の厚膜は、剥離時に剥離シート40にかかる力を増大させるため、剥離シート40が引き裂かれて残留する恐れがある。このため、接着剤80は剥離シート40の織目が目視できなくなるまで接着剤80の含浸を行わないようにするとよい。本変形例においても、前述の剥離工程を行うことで、硬化後の接着剤80の表面層82を除去できる。
【0063】
また、連続繊維シート10を構造物90に含浸接着する接着工程において、剥離シート40を用いたが、これに替えて又は加えて、プライマー塗布工程及び不陸修正材塗布工程の少なくとも一方に、剥離シート40を用いてもよい。
【0064】
プライマー塗布工程において剥離シート40を用いる場合では、以下に示される施工方法が行われる(
図5A、
図5B及び
図5C参照)。すなわち、プライマー塗布工程において、
図5Aに示されるように、構造物90に塗布したプライマー60に対して、剥離シート40を貼り付け、脱泡する。これにより、構造物90に塗布するプライマー60にて構造物90に剥離シート40を含浸接着する。剥離シート40に含浸したプライマー60の表面61は、剥離シート40に対する構造物90とは反対側(
図5Aにおける上側)に配置される。プライマー60は、放置されることで、外気温により硬化される。なお、プライマー60として、アミン類を硬化剤とする常温硬化型の液状エポキシ樹脂が用いられる。プライマー60が硬化する際に、
図5Bに示されるように、プライマー60の表面61にアミンブラッシング層89が形成されるアミンブラッシング現象が発生する場合がある。
【0065】
また、連続繊維シート10を構造物90における下方側を向く天井面に対して施工する場合では、プライマー60が自重によって部分的に垂れ、凸部が塗布面に生じる場合がある。特に、粘度が低いプライマー60を用いた場合では、高さが高い凸部が塗布面に生じる場合がある。凸部の高さが高い場合、具体的には凸部の高さが、例えば1mmを超える場合には、次の不陸修正材塗布工程でも塗布面を平滑にすることが難しく、凸部を機械的に削ることが必要となる場合がある。
【0066】
次に、剥離シート40を構造物90に含浸接着したプライマー60が硬化した後に、剥離シート40をプライマー60の表面層62と共に構造物90から剥離する(剥離工程、
図5C参照)。これにより、表面層62が除去される。このため、プライマー60が硬化する際に、例えば、プライマー60の表面61にアミンブラッシング層89が発生した場合でも、表面層62を除去することで、プライマー60表面の接着性を確保することができる。また、前述のようにプライマー60の自重により凸部が塗布面に生じた場合でも、表面層62を除去することで、プライマー60表面を平滑にすることができる。
【0067】
その後、不陸修正材塗布工程、接着工程が実行される。この接着工程では、剥離シート40を用いずに連続繊維シート10を含浸接着してもよい。この場合では、接着工程の後に剥離工程は実行されない。本変形例では、プライマー60が、塗布剤の一例であり、プライマー塗布工程が第一工程の一例であり、剥離工程が第二工程の一例であり、接着工程が第三工程の一例である。
【0068】
不陸修正材塗布工程において剥離シート40を用いる場合では、以下に示される施工方法が行われる(
図6A、
図6B及び
図6C参照)。すなわち、不陸修正材塗布工程において、
図6Aに示されるように、プライマー60が塗布された構造物90上に塗布した不陸修正材70に対して、剥離シート40を貼り付け、脱泡する。これにより、構造物90に塗布する不陸修正材70にて構造物90に剥離シート40を含浸接着する。剥離シート40に含浸した不陸修正材70の表面71は、剥離シート40に対する構造物90とは反対側(
図6Aにおける上側)に配置される。不陸修正材70は、放置されることで、外気温により硬化される。なお、不陸修正材70として、アミン類を硬化剤とする常温硬化型の液状エポキシ樹脂が用いられる。不陸修正材70が硬化する際に、
図6Bに示されるように、不陸修正材70の表面71にアミンブラッシング層89が形成されるアミンブラッシング現象が発生する場合がある。
【0069】
また、不陸修正材70として高粘度のパテ材料を用いると共に、ヘラ等による手作業により当該不陸修正材70を構造物90に塗布した場合では、塗布面を平滑に仕上げることが難しく、塗布面に凹凸が生じる場合がある。また、手作業で行う場合では、作業者のスキルによって仕上がりがばらつく場合がある。特に、塗布面が、曲率を有する曲面である場合には、手作業により、塗布面を平滑に仕上げることが難しく、塗布面に凹凸が生じやすい。凹凸が生じる塗布面に対して、連続繊維シート10を接着した場合には、連続繊維シート10の浮きの原因となりうる。
【0070】
次に、剥離シート40を構造物90に含浸接着した不陸修正材70が硬化した後に、剥離シート40を不陸修正材70の表面層72と共に構造物90から剥離する(剥離工程、
図6C参照)。これにより、表面層72が除去される。このため、不陸修正材70が硬化する際に、例えば、不陸修正材70の表面71にアミンブラッシング層89が発生した場合でも、表面層72を除去することで、不陸修正材70表面の接着性を確保することができる。また、前述のように不陸修正材70の塗布面に凹凸が生じた場合でも、表面層72を除去することで、不陸修正材70表面を平滑にすることができる。
【0071】
その後、接着工程が実行される。この接着工程では、剥離シート40を用いずに連続繊維シート10を含浸接着してもよい。この場合では、接着工程の後に剥離工程は実行されない。本変形例では、不陸修正材70が、塗布剤の一例であり、不陸修正材塗布工程が第一工程の一例であり、剥離工程が第二工程の一例であり、接着工程が第三工程の一例である。
【0072】
(変形例)
本実施形態では、プライマー60、不陸修正材70及び接着剤80として、アミン類を硬化剤とする常温硬化型の液状エポキシ樹脂を用いた例を示したが、これに限られず、塗布剤の一例としては、例えば、アクリル樹脂といったエポキシ樹脂以外の常温硬化性樹脂等の樹脂であってもよく、種々の材料を用いることができる。なお、アミン類を硬化剤としない塗布剤を用いた場合では、アミンブラッシング現象は生じないが、この場合でも、例えば、塗布剤の表面に異物が付着する場合や、塗布剤の表面が変質する場合が考えられ、塗布剤の表面層を除去することで、塗布剤表面の接着性を確保するという効果を発揮しうる。
【0073】
また、本実施形態では、繊維シートの一例として、連続繊維25が一方向(
図1におけるX方向)に配列された連続繊維シート10を用いたが、これに限られない。例えば、繊維シートの一例としては、連続繊維から形成される織物、及び
編地や不織布などであってもよい。織物としては、例えば、平織り、綾織り、朱子織などの方法で織られたものが挙げられる。
編地としては、例えば、平編、ゴム編、パール編等の緯編により編成された編地や、デンビ編、コード編、アトラス編等の経編により編成された編地(トリコット等)が挙げられる。また、繊維シートの一例としては、短繊維を用いた不織布も使用することができるが、強度や検出性能などの観点から連続繊維を用いた連続繊維シートであることが好ましい。さらに、繊維シートの一例としては、複数枚の繊維シートが重ねられたものであってもよい。
【0074】
また、連続繊維シート10に代わって、事前に熱硬化樹脂を強化繊維に含浸させて熱硬化した繊維強化プラスチック製の2次元形状の補強部材を使用しても良い。前記補強部材としては、繊維強化プラスチック線材をすだれ状に加工したストランドシートと呼称されるシート材や、繊維強化プラスチック線材や帯状の繊維強化プラスチック成型用のプリプレグを用いて作成したグリッド材などが例示される。
【0075】
剥離シート40は、剥離するためのきっかけ部を設けてあることが好ましい。きっかけ部は樹脂が含浸しないように予めフィルムを貼っておいたり、接着剤80の施工面積よりも剥離シート40を大きくしたりしておくなどすればよい。このように、剥離シート40に剥離のためのきっかけ部をもうけておくことによって、剥離シート40を剥離するときの作業性を向上させることができる。もし、剥離シート40を継ぎ足して使用する場合は、継手部分の剥離シート40を各シート端部から剥がし、継手部を設けたのちに掴み部を設けるようにする。
【0076】
(評価試験)
本試験では、前述の実施形態の剥離シート40に対し、「アミンブラッシング層89(プライマー60の表面層62)の除去が可能であるか」、「プライマー60、不陸修正材70表面の接着性能」、「剥離シート40の剥離状態」、「剥離シート40の剥離強度」、「剥離シート40を接着する際の作業性」及び「塗布面の仕上がり性」の評価を行った。具体的には、本試験では、実施例1~7及び比較例1~5について、以下に示す条件にて、
図5A、
図5B及び
図5Cに示す施工方法で施工した場合の評価を行った(
図7参照)。
【0077】
[実施例1]
剥離シート40の材質:ポリエステル
剥離シート40の形態:織布
剥離シート40の厚み:小(0.077mm)
剥離シート40の目付:90g/m2
プライマー60の種類:常温硬化型の液状エポキシ樹脂
(日鉄ケミカル&マテリアル製FP-NS)
プライマー60の硬化剤:アミン類
プライマー60の塗布量:200g/m2
【0078】
[実施例2]
剥離シート40の材質:ポリエステル
剥離シート40の形態:織布
剥離シート40の厚み:小(0.077mm)
剥離シート40の目付:90g/m2
パテの種類:常温硬化型の液状エポキシ樹脂
(日鉄ケミカル&マテリアル製FE-Z)
パテの硬化剤:アミン類
パテの塗布量:1000g/m2
【0079】
[実施例3]
剥離シート40の材質:ポリエステル
剥離シート40の形態:織布
剥離シート40の厚み:小(0.050mm)
剥離シート40の目付:57g/m2
パテの種類:常温硬化型の液状エポキシ樹脂
(日鉄ケミカル&マテリアル製 FB-C1S)
パテの硬化剤:アミン類
パテの塗布量:1000g/m2
【0080】
[実施例4]
剥離シート40の材質:ポリエステル
剥離シート40の形態:織布
剥離シート40の厚み:小(0.050mm)
剥離シート40の目付:57g/m2
パテの種類:常温硬化型の液状エポキシ樹脂
(日鉄ケミカル&マテリアル製 FE-Z)
パテの硬化剤:アミン類
パテの塗布量:1000g/m2
【0081】
[実施例5]
剥離シート40の材質:ナイロン
剥離シート40の形態:織布
剥離シート40の厚み:小(0.090mm)
剥離シート40の目付:65g/m2
プライマー60の種類:常温硬化型の液状エポキシ樹脂
(日鉄ケミカル&マテリアル製FP-NS)
プライマー60の硬化剤:アミン類
プライマー60の塗布量:200g/m2
【0082】
[実施例6]
剥離シート40の材質:ナイロン
剥離シート40の形態:織布
剥離シート40の厚み:小(0.090mm)
剥離シート40の目付:65g/m2
パテの種類:常温硬化型の液状エポキシ樹脂
(日鉄ケミカル&マテリアル製FE-Z)
パテの硬化剤:アミン類
パテの塗布量:1000g/m2
【0083】
[実施例7]
剥離シート40の材質:ナイロン
剥離シート40の形態:織布
剥離シート40の厚み:大(0.195mm)
剥離シート40の目付:110g/m2
プライマー60の種類:常温硬化型の液状エポキシ樹脂
(日鉄ケミカル&マテリアル製FP-NS)
プライマー60の硬化剤:アミン類
プライマー60の塗布量:200g/m2
【0084】
[比較例1]
剥離シート40:有さない
プライマー60の種類:常温硬化型の液状エポキシ樹脂
(日鉄ケミカル&マテリアル製FP-NS)
プライマー60の硬化剤:アミン類
以上のように、比較例1では、剥離シート40が設けられていない連続繊維シート10を用いた。
【0085】
[比較例2]
剥離シート40:有さない
パテの種類:常温硬化型の液状エポキシ樹脂
(日鉄ケミカル&マテリアル製 FE-Z)
パテの硬化剤:アミン類
パテの塗布量:1000g/m2
以上のように、比較例2では、剥離シート40が設けられていない連続繊維シート10を用いた。
【0086】
[比較例3]
剥離シート40:有さない
パテの種類:常温硬化型の液状エポキシ樹脂
(日鉄ケミカル&マテリアル製 FE-Z)
パテの硬化剤:アミン類
パテの塗布量:1000g/m2
以上のように、比較例3では、剥離シート40が設けられていない連続繊維シート10を用いた。
【0087】
[比較例4]
剥離シート40の材質:ナイロン
剥離シート40の形態:織布
剥離シート40の厚み:過大(0.290mm)
剥離シート40の目付:195g/m2
プライマー60の種類:常温硬化型の液状エポキシ樹脂
(日鉄ケミカル&マテリアル製FP-NS)
プライマー60の硬化剤:アミン類
プライマー60の塗布量:200g/m2
【0088】
[比較例5]
剥離シート40の材質:ナイロン
剥離シート40の形態:織布
剥離シート40の厚み:過大(0.290mm)
剥離シート40の目付:195g/m2
パテの種類:常温硬化型の液状エポキシ樹脂
(日鉄ケミカル&マテリアル製FE-Z)
パテの硬化剤:アミン類
パテの塗布量:1000g/m2
【0089】
[アミンブラッシング層の除去性の評価]
低温高湿環境下で養生された構造物90から剥離シート40を剥離することで、(剥離シート40を構造物90から剥離することで、)プライマー60の表面に発生したアミンブラッシング層が除去できるか否かを確認した。アミンブラッシング層を除去できない場合を、
図7の表において「C」とした。アミンブラッシング層を除去できる場合を、
図7の表において「A」とした。
【0090】
[プライマー60、不陸修正材70の表面の接着性能の評価]
剥離シート40の剥離後(比較例1においてはプライマー60が硬化した後、比較例2、3においては不陸修正材70が硬化した後)に連続繊維シート10を接着し、該連続繊維シートを引きはがす方法により、プライマー60や不陸修正材70の表面の接着性能を評価した。なお、評価に際しては、プライマー60の表面接着強度の場合は、不陸修正材70を設けたうえで、不陸修正材70の表面接着強度の場合は、連続繊維シート10を接着剤80にて含浸接着している。連続繊維シート10がプライマー60や不陸修正材70との界面にて剥離した場合を、
図7の表において「C」とした。連続繊維シート10が剥離せずに破断した場合を、
図7の表において「A」とした。
【0091】
[剥離シート40の剥離状態の評価]
剥離シート40が連続繊維シート10に残らずに、剥離できるか否かを評価した。剥離シート40を構造物90から剥離した際に、剥離シート40が残らず、構造物90から剥離できたものを、
図7の表において「A」とした。なお、実施例1~7及び比較例4、5において、剥離シート40を連続繊維シート10から剥離した際に、剥離シート40が連続繊維シート10に残ったものはなかった。
【0092】
[剥離シート40の剥離強度の評価]
剥離シート40を剥離した際の剥離強度について測定した。剥離強度は、前述の方法により、測定した。
【0093】
[剥離シート40を接着する際の作業性の評価]
剥離シート40を接着する際に、剥離シート40の貼り付け作業が行いやすいか否かについて評価した。含浸接着剤80が剥離シート40の表面に樹脂が容易に染み出てこないものを
図7の表において「C」とした。剥離シート40を貼り付け後、容易に樹脂が剥離シート40表面まで染み出てくる場合を、
図7の表において「A」とした。
【0094】
[塗布面の仕上がり性の評価]
側壁面、曲面及び天井面の各々に対して施工した場合の仕上がり性について評価した。曲面は、半径20mmの曲面である。天井面に施工した場合では、塗布面に生じた凹凸の高さが1mmを超える場合を、
図7の表において「C」とした。天井面に施工した場合では、塗布面に生じた凹凸の高さが1mm以下である場合を、
図7の表において「A」とした。側壁面及び曲面の各々に施工した場合では、塗布面に凹凸が目視にて確認できた場合を、
図7の表において「C」とした。側壁面及び曲面の各々に施工した場合では、塗布面に凹凸が目視にて確認できなかった場合を、
図7の表において「A」とした。
【0095】
[評価結果]
図7の表に示されるように、比較例1、2、3では、アミンブラッシング層を除去する手段を有さないため、アミンブラッシング層が除去できない。また、比較例4、5では剥離シート40の厚みが過大であり、かつ目付も大きいために通気性が低く、樹脂が含浸されないために剥離シート40を引きはがしても表面層は、ほぼそのまま残留して(維持されて)しまうため、アミンブラッシング層が除去できない。これに対して、実施例1~7では、剥離シートの引きはがし後の重量変化にみられるように表面層が剥離シートとともに剥離されており、接着性能も良好であるため、アミンブラッシング層が確実に除去できることが確認された。また、実施例1~7では、比較例1に比べ、プライマー60や不陸修正材70表面の接着強度が向上することが確認された。一方、比較例4、5では、上述したように目付量が多く、厚みが過大であることによる通気性の低下によって今回の試験ではアミンブラッシング層の形成が抑制されたものと考えるが、よりアミンブラッシング現象が発生しやすい条件下では、剥離シート40の引き剥がし後の重量変化が殆どないことから、接着性能は大きく低下するものと思われる。なお、
図7の表の総合評価において「A」は最適、「B」は適、「C」は不適である。
【0096】
<第二実施形態>
(連続繊維シート200の構成)
本実施形態に係る連続繊維シート200について説明する。
図8は、連続繊維シート200を示す斜視図である。
図9は、連続繊維シート200を示す断面図(
図8におけるA-A線断面図)である。
図10A、
図10B及び
図10Cは、連続繊維シート200を構造物90に対して施工する連続繊維シート200の施工方法を示す図である。なお、第1実施形態と同一の機能を有する部分については、同一符号を付して、適宜、説明を省略する。
【0097】
連続繊維シート200は、繊維シートの一例であり、
図10Aに示されるように、構造物90の補強や補修をするために構造物90に対して接着剤80により接着される連続繊維シートである。また、連続繊維シート200は、後述するように、剥離シート40が設けられた剥離シート40付き連続繊維シートであって、接着剤80の表面層82(アミンブラッシング層及び変質層)を除去する除去機能付き連続繊維シートである。したがって、第1実施形態では、連続繊維シート10と剥離シート40とは別の要素であったが、第2実施形態では、連続繊維シート200は、剥離シート40を備えるシートとして構成されている。
【0098】
連続繊維シート200は、構造物90に接着されることで、構造物90の補修・補強を可能とする。構造物90としては、第1実施形態にて説明した構造物が挙げられる。
【0099】
連続繊維シート200は、第一面11(接着面の一例、反対面の一例)が構造物90に向けられた状態で、構造物90に接着剤80にて含浸接着される。すなわち、連続繊維シート200の第一面11は、構造物90に接着される接着面とされている。接着剤80は、連続繊維シート200に含浸して連続繊維シート200を構造物90に接着する含浸接着剤である。接着剤80としては、第1実施形態の場合と同様に、例えば、アミン類を硬化剤とする常温硬化型で無溶剤の液状エポキシ樹脂が用いられる。
【0100】
連続繊維シート200は、具体的には、
図8及び
図9に示されるように、連続繊維25が一方向(
図8におけるX方向)に配列された繊維層20と、繊維層20を支持する支持層30と、を備えている。繊維層20及び支持層30は、第1実施形態の場合と同様に構成することができる。
【0101】
そして、本実施形態では、接着剤80を含浸可能な剥離シート40が、連続繊維シート200の第二面12(反対側の面の一例、片面の一例)に剥離可能に固定されている。具体的には、剥離シート40は、硬化前の液状である接着剤80を含浸可能であると共に、通気可能となっている。本実施形態では、剥離シート40は、硬化前の液状である接着剤80が進入可能で、且つ気体が通過可能な複数の孔又は隙間を有している。
【0102】
剥離シート40が接着剤80を含浸可能か否かについては、例えば金属枠に固定した剥離シート40を、金属枠よりも大きいサイズのガラス板にのせ、剥離シート40の表側から接着剤80をヘラを用いて人力にて全面塗布したときに、金属枠に固定された剥離シート40の下にあるガラス板にまで接着剤80が塗布されていることによって確認することができる。
【0103】
また、剥離シート40を含む連続繊維シート200を構造物90に含浸接着した接着剤80が硬化した後に(
図10B参照)、剥離シート40が、接着剤80の表面層82と共に連続繊維シート200から剥離可能とされている(
図10C参照)。剥離シート40は、硬化後の接着剤80の表面層82(具体的には、接着剤80のうち、剥離シート40に対する連続繊維シート200とは反対側に存在する部分)を支持する機能を有しており、表面層82を支持する剥離シート40を連続繊維シート200から剥離することで、表面層82が連続繊維シート200から剥離される。
【0104】
また、剥離シート40は、剥離シート40の単位幅(cm)あたりの剥離強度が剥離シート40の引き裂き強度以下の強度で、連続繊維シート200から剥離可能とされている。引き裂き強度は、JIS L 1096 A-1法により測定される。さらに、本実施形態では、剥離シート40は、連続繊維シート200から剥離したときの剥離強度が、10N/cm以下とされている。剥離強度は、実際の施工と同様な方法にて剥離シート40付き連続繊維シート200をコンクリート製供試体に接着し、連続繊維シート200の繊維方向に直角な方向に20mm毎に切れ目を入れたのち、剥離シート40のきっかけ部に張力計を取り付けて45度の角度で人力にて引きはがし試験を行った際の最大張力を測定することにより測定される。なお、剥離強度は、剥離シート40に用いる材料や、後述の固定材50の種類等により調整される。
【0105】
剥離シート40は、合成ゴム系、高分子量エポキシ系、アクリル系のいずれかから選択される固定材50で、連続繊維シート200に剥離可能に固定されている。剥離シート40は、繊維層20との固定部分が点在することが望ましい。すなわち、剥離シート40は、繊維層20に対向する対向面42の全面が、繊維層20に固定されるのではなく、対向面42の一部が、繊維層20に固定されることが望ましい。これにより、上記の剥離強度が実現され、かつ剥離シート40の外面から接着剤80を連続繊維シート200に充分に含浸することができる。剥離シート40は、例えば、固定材50としての塗布液を、スプレー等により、繊維層20に疎らに塗布した後、連続繊維シート200に固定される。
【0106】
剥離シート40は、ポリエステル、ナイロンなどの合成繊維を平織りした織布で構成されている。織布の織り方としては、平織り、綾織り及び朱子織などが考えられるが、これらの織り方のうち、織布が伸縮しにくく、耐久性に優れる平織りが望ましい。なお、剥離シート40としては、綾織り及び朱子織などの織り方で織られた織布を用いてもよい。さらに、剥離シート40としては、メッシュ状のシートや編地を用いてもよい。メッシュ状のシートである場合は、表面層82を支持可能な程度に(すなわち、剥離シート40を剥離した際に、表面層82が連続繊維シート200に残留しない程度に)目開きが小さいことが望ましい。
【0107】
なお、剥離シート40としては、可剥性を考慮し、ポリプロピレン、ポリエチレン、フッ素など、常温硬化型エポキシ樹脂との難接着性を有す素材やこれらをコーティングした各種織物(綿や麻など)を用いてもよい。また、剥離シート40は、繰り返しの利用も想定されるため、くせツキを防止する形状記憶や形状安定加工された織物も好適に用いられる。
【0108】
なお、剥離シート40に用いられる材料としては、上記のものに限られず、他の樹脂を用いてもよい。さらに、剥離シート40の材料としては、炭素繊維やガラス繊維との複合繊維を用いてもよい。
【0109】
剥離シート40の膜厚は接着剤80の硬化後に連続繊維シートから剥離が可能であれば特に制限はないものの、剥離シート40が厚物であると樹脂の含浸量が多くなるので施工の際の接着剤の塗布量が多くなったり、接着剤80が硬化した際に剥離シートが板状となり剥離作業に支障をきたすなどの問題が生じる可能性があることから200μm以下とすることが好ましく、より好ましくは100μm以下、最も好ましくは80μm以下であることが望ましい。
【0110】
また、剥離シート40は、連続繊維シート200の短手方向にはみ出す大きさであることが好ましい。剥離シート40にはみだし部を設けておくことによって、剥離シート40を連続繊維シート200から剥離するときに剥離シート40のはみだし部を起点とすることができ、作業性を向上させることができる。もし、連続繊維シート200を長手方向に継ぎ足して使用する場合は、継手部分の剥離シート40を各シート端部から剥がし、継手部を設けた後に掴み部を設けるようにする。
【0111】
(施工方法)
次に、連続繊維シート200を構造物90に対して施工する連続繊維シートの施工方法について説明する(
図10A、
図10B及び
図10C参照)。本施工方法は、連続繊維シート200により構造物90の補強又は補修を行う施工方法ともいえる。本施工方法は、具体的には、プライマー塗布工程と、不陸修正材塗布工程と、繊維シート接着工程と、剥離シート除去工程(剥離工程)と、を有している。
【0112】
本施工方法では、まず、構造物90の表面の突起物や該表面に付着した付着物(例えば、劣化層など)を除去する下地処理を行った後、プライマー60を塗布する(プライマー塗布工程、
図10A参照)。プライマー60は、構造物90と、構造物90上に形成される層との接合性(接着性)を高める機能を有している。プライマー60には、一例として、エポキシ樹脂等の樹脂が用いられる。なお、プライマー60としては、エポキシ樹脂に限られず、例えば、エポキシ樹脂以外の常温硬化性樹脂等の樹脂であってもよく、種々の材料を用いることができる。
【0113】
次に、プライマー60が塗布された表面に対して、不陸修正材70を塗布し、当該表面の凹凸を平滑化する(不陸修正材塗布工程、
図10A参照)。不陸修正材70は、構造物90の表面の凹凸を平滑化する機能を有している。不陸修正材70には、一例として、エポキシ樹脂等の樹脂が用いられる。なお、不陸修正材70としては、エポキシ樹脂以外の常温硬化性樹脂等の樹脂であってもよく、種々の材料を用いることができる。
【0114】
次に、不陸修正材70が塗布された表面に対して、剥離シート40が設けられた連続繊維シート200を接着剤80により含浸接着する(繊維シート接着工程、
図10A参照)。具体的には、接着剤80を下塗りし、下塗りした接着剤80に対し、連続繊維シート200の第一面11が構造物90に向けられた状態で、連続繊維シート200を貼り付け、脱泡する。このとき、剥離シート40は、連続繊維シート200に対する構造物90側とは反対側(
図10Aにおける上側)に配置される。その後、接着剤80を剥離シート40上に上塗りし、脱泡する。このように塗布された接着剤80は、連続繊維シート200及び剥離シート40に含浸すると共に、接着剤80の表面81は、剥離シート40に対する連続繊維シート200とは反対側(
図10Aにおける上側)に配置される。なお、接着剤80は、下塗り及び上塗りの際にその直前に主剤と硬化剤とを混ぜてから用いられる。また、接着剤80は、放置されることで、外気温により硬化される。
【0115】
接着剤80が硬化する際に、
図10Bに示されるように、接着剤80の表面81にアミンブラッシング層89が形成されるアミンブラッシング現象が発生する場合がある。このアミンブラッシング現象は、具体的には、以下のように発生する。硬化剤であるアミン類と、湿気(水)及び炭酸ガスとの反応速度が、エポキシ主剤との反応速度よりも速くなると、接着剤80の表面81が白化しつつ脆くなる脆弱層(アミンブラッシング層89)が形成される。このアミンブラッシング現象は、特に、低温環境において、発生しやすい。また、アミンブラッシング現象は、湿気(水)及び炭酸ガスの両方が存在する環境において発生する。
【0116】
次に、剥離シート40は、接着剤80の表面層82(アミンブラッシング層89が発生した場合にはアミンブラッシング層89を含む)と共に連続繊維シート200から剥離する(剥離シート除去工程、
図10C参照)。これにより、表面層82が除去される。なお、表面層82が除去された連続繊維シート200上には、剥離シート40に含浸された接着剤80の少なくとも一部が残留する。したがって、
図10Cにおいて図示はしないが、表面層82が除去された連続繊維シート200上には、接着剤80が存在する。そして、表面層82が除去された連続繊維シート200上には、例えば、仕上げ材等が塗布される。なお、表面層82が除去された連続繊維シート200上には、さらに、連続繊維シート200を接着してもよい。
【0117】
(本実施形態の作用効果)
次に、本実施形態の作用効果を説明する。
【0118】
本実施形態では、
図10Cに示されるように、剥離シート40を含む連続繊維シート200を構造物90に対して含浸接着した接着剤80が硬化した後に、剥離シート40が、連続繊維シート200から剥離可能とされている。このため、前述の剥離シート除去工程に示されるように、剥離シート40を接着剤80の表面層82と共に連続繊維シート200から剥離することで、硬化後の接着剤80の表面層82を除去できる。
【0119】
このため、接着剤80が硬化する際に、例えば、接着剤80の表面81にアミンブラッシング層89が発生した場合でも、接着剤80の表面層82を除去することで、接着剤80表面の接着性を確保することができる。
【0120】
この結果、表面層82が除去された連続繊維シート200上に次層を積層する場合でも、次層と接着剤80表面との接着性が向上する。次層としては、連続繊維シート200上にさらに連続繊維シート200を接着するための接着剤や、連続繊維シート200に隣接してさらに連続繊維シート200を接着する場合においてその一部を重ねて接着するための接着剤や、連続繊維シート200上に塗布される仕上げ材(クリア塗装などの仕上げ塗装材やモルタル)、などが挙げられる。なお、接着性とは、次層と接着剤80表面との接着性能とも言い換えられる。
【0121】
また、本実施形態では、剥離シート40の剥離により、硬化後の接着剤80の表面層82を除去できるので、接着剤80の表面81に付着した異物(例えば、虫や塵埃等)を除去できる。これにより、接着剤80表面の汚れを解消し、接着剤80表面の接着性を確保することができる。
【0122】
また、本実施形態では、剥離シート40を接着剤80の表面層82と共に連続繊維シート200から剥離することで、接着剤80表面が粗化される。この点からも、接着剤80表面の接着性を向上させることができる。
【0123】
また、本実施形態では、剥離シート40は、通気可能とされているため、連続繊維シート200表面の凹凸に存在する空気が、剥離シート40を通過し、該凹凸に閉じ込められにくい。このため、空気だまりの発生が抑制される。また、空気だまりの発生が抑制されることで、連続繊維シート200を接着する際における脱泡作業の作業性も良好となる。
【0124】
また、本実施形態では、剥離シート40は、剥離シートの単位幅(cm)あたりの剥離強度が剥離シート40の引き裂き強度以下の強度で、連続繊維シート200から剥離可能であるので、剥離シート40を連続繊維シート200から剥離した際に、剥離シートの一部が繊維シート上に細かな島状や筋状に残ってしまい、後から除去することが困難な状態が抑制される。
【0125】
また、本実施形態では、剥離シート40は、連続繊維シート200から剥離したときの剥離強度が、10N/cm以下とされている。ここで、該剥離強度が、10N/cmを超える場合では、剥離シート40を連続繊維シート200から剥離しにくく、作業性が悪い。これに対して、本実施形態では、剥離シート40は、連続繊維シート200から剥離したときの剥離強度が、10N/cm以下であるので、剥離シート40を連続繊維シート200から剥離する作業性がよい。なお、剥離強度は好ましくは8N/cmであり、より好ましくは5N/cmである。
【0126】
また、本実施形態では、剥離シート40が合成繊維を平織りした織布であるので、剥離シート40が、綾織り及び朱子織等で織られた織布や、編地で構成される場合に比べ、剥離シート40が伸縮しにくく、耐久性に優れる。このため、剥離シート40を連続繊維シート200から剥離した際に、剥離シート40が破断することが抑制される。
【0127】
(変形例)
本実施形態では、接着剤80として、アミン類を硬化剤とする常温硬化型の液状エポキシ樹脂を用いたが、これに限られず、接着剤の一例としては、例えば、アクリル樹脂といったエポキシ樹脂以外の常温硬化性樹脂等の樹脂であってもよく、種々の材料を用いることができる。なお、アミン類を硬化剤としない接着剤を用いた場合では、アミンブラッシング現象は生じないが、この場合でも、例えば、接着剤80の表面81に異物が付着する場合や、接着剤80の表面81が変質する場合が考えられ、接着剤80の表面層82を除去することで、接着剤80表面の接着性を確保するという効果を発揮しうる。
【0128】
また、本実施形態では、繊維シートの一例として、連続繊維25が一方向(
図8におけるX方向)に配列された連続繊維シート200を用いたが、これに限られない。例えば、繊維シートの一例としては、連続繊維から形成される織物、及び
編地などであってもよい。織物としては、例えば、平織り、綾織り、朱子織などの方法で織られたものが挙げられる。
編地としては、例えば、平編、ゴム編、パール編等の緯編により編成された編地や、デンビ編、コード編、アトラス編等の経編により編成された編地(トリコット等)が挙げられる。また、繊維シートの一例としては、短繊維を用いた不織布も使用することができるが、強度や検出性能などの観点から連続繊維を用いた連続繊維シートであることが好ましい。さらに、繊維シートの一例としては、複数枚の繊維シートが重ねられたものであってもよい。
【0129】
加えて、本開示の技術で使用される繊維シートのさらなる一例として、ストランドシートと呼称される、連続した強化繊維ストランドにマトリックス樹脂が含浸され、硬化された繊維強化プラスチック線材を複数本、長手方向にスダレ状に引き揃え、前記線材を互いに線状固定材にて固定したシートも挙げられる。
【0130】
また、剥離シート40の固定については、微細な液滴や粉末状の固定材50を散布したのちに剥離シート40を固定するだけでなく、支持シート32、33を繊維層20に溶着させる際に、剥離シート40を支持シートに重ねて行うことで一括して溶着固定することもできる。
【0131】
また、前述の施工方法では、プライマー塗布工程及び不陸修正材塗布工程を有していたが、これに限られない。施工方法としては、プライマー塗布工程及び不陸修正材塗布工程の少なくとも一方を有さない方法であってもよい。したがって、プライマー60が塗布されていない構造物90に対して、不陸修正材70を塗布してもよい。また、プライマー60が塗布された構造物90に対して、不陸修正材70を塗布せずに、接着剤80を塗布してもよい。さらに、プライマー60及び不陸修正材70が塗布されていない構造物90に対して、接着剤80を塗布してもよい。
【0132】
(評価試験)
本試験では、前述の実施形態の連続繊維シート200に対し、「アミンブラッシング層89(接着剤80の表面層82)の除去が可能であるか」、「接着剤80表面の接着性能」、「剥離シート40の剥離状態」、「剥離シート40の剥離強度」及び「剥離シート40が設けられた連続繊維シート200を接着する際の作業性」についての評価を行った。具体的には、本試験では、実施例1~4及び比較例1~4について、以下に示す条件にて評価を行った(
図11参照)。
【0133】
[実施例1]
剥離シート40の材質:ナイロン
剥離シート40の形態:織布
剥離シート40の厚み:大(0.195mm)
剥離シート40の目付:110g/m2
剥離シート40の引き裂き強度:30~40N
固定材50の種類:アクリル系接着剤(3M製 スプレーのり55)
固定材50の塗布量:1g/m2
接着剤80の種類:常温硬化型の液状エポキシ樹脂
(日鉄ケミカル&マテリアル製FP-E3P)
接着剤80の硬化剤:アミン類
接着剤80の使用量:下塗り400g/m2、上塗り200g/m2
連続繊維シート200の材質:炭素繊維
連続繊維シート200の目付:200g/m2
【0134】
[実施例2]
剥離シート40の材質:ポリエステル
剥離シート40の形態:織布
剥離シート40の厚み:小(0.077mm)
剥離シート40の目付:60g/m2
剥離シート40の引き裂き強度:14~18N
固定材50の種類:アクリル系接着剤(3M製 スプレーのり55)
固定材50の塗布量:1g/m2
接着剤80の種類:常温硬化型の液状エポキシ樹脂
(日鉄ケミカル&マテリアル製FP-E3P)
接着剤80の硬化剤:アミン類
接着剤80の使用量:下塗り400g/m2、上塗り200g/m2
連続繊維シート200の材質:炭素繊維
連続繊維シート200の目付:200g/m2
【0135】
[実施例3]
剥離シート40の材質:ポリエステル
剥離シート40の形態:織布
剥離シート40の厚み:小(0.077mm)
剥離シート40の目付:60g/m2
剥離シート40の引き裂き強度:14~18N
固定材50の種類:メッシュ材(ガラス繊維に低融点ナイロンをコーティング)
接着剤80の種類:常温硬化型の液状エポキシ樹脂
(日鉄ケミカル&マテリアル製FP-E3P)
接着剤80の硬化剤:アミン類
接着剤80の使用量:下塗り400g/m2、上塗り200g/m2
連続繊維シート200の材質:炭素繊維
連続繊維シート200の目付:200g/m2
【0136】
[実施例4]
剥離シート40の材質:ポリエステル
剥離シート40の形態:織布
剥離シート40の厚み:小(0.077mm)
剥離シート40の目付:60g/m2
剥離シート40の引き裂き強度:14~18N
固定材50の種類:メッシュ材(ガラス繊維に低融点ナイロンをコーティング)
接着剤80の種類:常温硬化型の液状エポキシ樹脂
(日鉄ケミカル&マテリアル製FP-E3P)
接着剤80の硬化剤:アミン類
接着剤80の使用量:下塗り800g/m2、上塗り400g/m2
連続繊維シート200の材質:炭素繊維
連続繊維シート200の目付:600g/m2
【0137】
[比較例1]
剥離シート40:有さない
接着剤80の種類:常温硬化型の液状エポキシ樹脂
(日鉄ケミカル&マテリアル製FP-E3P)
接着剤80の硬化剤:アミン類
以上のように、比較例1では、剥離シート40が設けられていない連続繊維シート200を用いた。
【0138】
[比較例2]
剥離シート40の材質:ポリエステル
剥離シート40の形態:織布
剥離シート40の厚み:小(0.077mm)
剥離シート40の目付:60g/m2
剥離シート40の引き裂き強度:14~18N
固定材50の種類:液状エポキシ系接着剤(ブラシ塗布)
(日鉄ケミカル&マテリアル製FP-NS)
固定材50の塗布量:15g/m2
接着剤80の種類:常温硬化型の液状エポキシ樹脂
(日鉄ケミカル&マテリアル製FP-E3P)
接着剤80の硬化剤:アミン類
【0139】
[比較例3]
剥離シート40の材質:ナイロン
剥離シート40の形態:織布
剥離シート40の厚み:過大(0.290mm)
剥離シート40の目付:195g/m2
剥離シート40の引き裂き強度:140~150N
固定材50の種類:アクリル系接着剤(3M製 スプレーのり55)
固定材50の塗布量:1g/m2
接着剤80の種類:常温硬化型の液状エポキシ樹脂
(日鉄ケミカル&マテリアル製FP-E3P)
接着剤80の硬化剤:アミン類
接着剤80の使用量:下塗り400g/m2、上塗り200g/m2
連続繊維シート200の材質:炭素繊維
連続繊維シート200の目付:200g/m2
【0140】
[比較例4]
剥離シート40の材質:ナイロン
剥離シート40の形態:織布
剥離シート40の厚み:過大(0.290mm)
剥離シート40の目付:195g/m2
剥離シート40の引き裂き強度:140~150N
固定材50の種類:メッシュ材(ガラス繊維に低融点ナイロンをコーティング)
接着剤80の種類:常温硬化型の液状エポキシ樹脂
(日鉄ケミカル&マテリアル製FP-E3P)
接着剤80の硬化剤:アミン類
接着剤80の使用量:下塗り800g/m2、上塗り400g/m2
連続繊維シート200の材質:炭素繊維
連続繊維シート200の目付:600g/m2
【0141】
[アミンブラッシング層の除去性の評価]
剥離シート40を連続繊維シート200から剥離することで、接着剤80の表面81に発生したアミンブラッシング層が除去できるか否かを確認した。アミンブラッシング層を除去できない場合を、
図11の表において「C」とした。アミンブラッシング層を除去できる場合を、
図11の表において「A」とした。
【0142】
[接着剤80表面の接着性能の評価]
剥離シート40の剥離後(比較例1においては接着剤80が硬化した後)に二層目となる連続繊維シート200を接着し、該記連続繊維シート200を引きはがす方法により、接着剤80表面の接着性能を評価した。二層目の連続繊維シート200が一層目との界面にて剥離した場合を、
図11の表において「C」とした。二層目の連続繊維シートが剥離せずに破断または連続繊維シート層間で破壊した場合を、
図11の表において「A」とした。
【0143】
[剥離シート40の剥離状態の評価]
剥離シート40が連続繊維シート200に残らずに、剥離できるか否かを評価した。剥離シート40を連続繊維シート200から剥離した際に、剥離シート40が残らず、連続繊維シート200から剥離できたものを、
図11の表において「A」とした。
【0144】
[剥離シート40の剥離強度の評価]
剥離シート40を剥離した際の剥離強度について測定した。剥離強度は、前述の方法により、測定した。
【0145】
[剥離シート40が設けられた連続繊維シート200を接着する際の作業性の評価]
剥離シート40が設けられた連続繊維シート200を接着する際に、連続繊維シート200の貼り付け作業が行いやすいか否かについて評価した。接着剤80を連続繊維シートに含浸接着できなかったり、過大な空気だまりや樹脂だまりが発生した場合を、
図11の表において「C」とした。作業において小さな空気だまりや樹脂だまり、剥離シートの浮きなどが発生した場合を、
図11の表において「B」とした。前記の現象が発生しなかった場合を、
図11の表において「A」とした。
【0146】
[評価結果]
図11の表に示されるように、比較例2では、連続繊維シート200を構造物90に対して含浸接着できなかった。これは、固定材50の量が多すぎたため、接着剤80が連続繊維シート200に含浸できなかったことが原因と考えられる。このように、比較例2では、構造物90への接着性に問題があるため、作業性の評価を除く評価については行っていない。また、比較例3、4についても同様に、要求される補強効果を発揮できる程度に、連続繊維シート200を構造物90に対して含浸接着できなかった。これは、剥離シート40の厚みが過大であるため、接着剤80が連続繊維シート200に含浸できなかったことが原因と考えられる。このように、比較例3、4では、構造物90への接着性に問題があるため、作業性の評価を除く評価については行っていない。
【0147】
図11の表に示されるように、比較例1では、アミンブラッシング層を除去する手段を有さないため、アミンブラッシング層が除去できない。これに対して、実施例1~4では、アミンブラッシング層が除去できることが確認された。また、実施例1~4では、比較例2~4に比べ、接着剤80が含浸できなかったり、過大な樹脂だまりの発生などがなく作業性が良好であり、接着剤80表面の接着強度が向上することが確認された。なお、
図11の表の総合評価において「A」は最適、「B」は適、「C」は不適である。
【0148】
本開示の技術は、上記の実施形態に限るものではなく、その主旨を逸脱しない範囲内において種々の変形、変更、改良が可能である。例えば、上記に示した変形例は、適宜、複数を組み合わせて構成してもよい。
【0149】
2020年12月28日に出願された日本国特許出願2020-219482号の開示、及び2020年12月28日に出願された日本国特許出願2020-219483号の開示は、その全体が参照により本明細書に取り込まれる。本明細書に記載された全ての文献、特許出願、および技術規格は、個々の文献、特許出願、および技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書中に参照により取り込まれる。
【0150】
第1態様の剥離シートは、構造物に塗布剤が塗布された後に該構造物に含浸貼付される剥離シートであって、該剥離シートを該構造物に含浸接着した塗布剤が硬化した後に、該塗布剤の表面層と共に該構造物から剥離可能である。
【0151】
第1態様の剥離シートによれば、剥離シートを構造物に含浸接着した塗布剤が硬化した後に、塗布剤の表面層と共に構造物から剥離可能とされているので、剥離シートを構造物から剥離することで、硬化後の塗布剤の表面層を除去できる。
【0152】
このため、塗布剤が硬化する際に、例えば、塗布剤の表面にアミンブラッシング層が形成された場合、塗布剤の表面に異物が付着した場合、及び、塗布剤の表面が変質した場合でも、塗布剤の表面層を除去することで、塗布剤表面の接着性を確保することができる。
【0153】
第2態様の剥離シートは、第1態様において、前記構造物から剥離したときの剥離強度が、10N/cm以下である。
【0154】
ここで、構造物から剥離したときの剥離シートの剥離強度が、10N/cmを超える場合では、剥離シートを構造物から剥離しにくく、作業性が悪い。これに対して、第2態様の剥離シートによれば、構造物から剥離したときの剥離強度が、10N/cm以下であるので、剥離シートを構造物から剥離する作業性がよい。
【0155】
第3態様の剥離シートは、第1態様又は第2態様において、合成繊維を平織りした織布である。
【0156】
第3態様の剥離シートによれば、合成繊維を平織りした織布であるので、剥離シートが、綾織り及び朱子織等で織られた織布や、編地で構成される場合に比べ、剥離シートが伸縮しにくく、耐久性に優れる。このため、剥離シートを構造物から剥離した際に、剥離シートが破断することが抑制される。
【0157】
第4態様の剥離シートは、第1~第3態様のいずれか1つにおいて、前記塗布剤が、前記構造物に塗布されるプライマー又は不陸修正材であり、該剥離シートを該構造物に含浸接着した該プライマー又は該不陸修正材が硬化した後に、該プライマー又は該不陸修正材の表面層と共に構造物から剥離可能である。
【0158】
第4態様の剥離シートによれば、剥離シートを構造物に含浸接着したプライマー又は不陸修正材が硬化した後に、プライマー又は不陸修正材の表面層と共に構造物から剥離可能とされているので、剥離シートを構造物から剥離することで、硬化後のプライマー又は不陸修正材の表面層を除去できる。
【0159】
このため、プライマー又は不陸修正材が硬化する際に、例えば、プライマー又は不陸修正材の表面にアミンブラッシング層が形成された場合、プライマー又は不陸修正材の表面に異物が付着した場合、及び、プライマー又は不陸修正材の表面が変質した場合でも、プライマー又は不陸修正材の表面層を除去することで、プライマー又は不陸修正材表面の接着性を確保することができる。
【0160】
第5態様の剥離シートは、第1~第3態様のいずれか1つにおいて、繊維シート上に重ねられた状態で、該繊維シートと共に前記構造物に前記塗布剤としての接着剤にて含浸接着される剥離シートであって、前記剥離シートを含む前記繊維シートを前記構造物に含浸接着した接着剤が硬化した後に、該接着剤の表面層と共に該構造物から剥離可能である。
【0161】
第5態様の剥離シートによれば、剥離シートを含む繊維シートを構造物に含浸接着した接着剤が硬化した後に、接着剤の表面層と共に該構造物から剥離可能とされているので、剥離シートを構造物から剥離することで、硬化後の接着剤の表面層を除去できる。
【0162】
このため、接着剤が硬化する際に、例えば、接着剤の表面にアミンブラッシング層が形成された場合、接着剤の表面に異物が付着した場合、及び、接着剤の表面が変質した場合でも、接着剤の表面層を除去することで、接着剤表面の接着性を確保することができる。
【0163】
第6態様の剥離シートは、第1~第3態様のいずれか1つにおいて、事前に熱硬化樹脂を強化繊維に含浸させて熱硬化した2次元形状の繊維強化プラスチック補強部材上に重ねられた状態で、該補強部材と共に前記構造物に前記塗布剤としての接着剤にて含浸接着される剥離シートであって、前記構造物に含浸接着した接着剤が硬化した後に、該接着剤の表面層と共に該構造物から剥離である。
【0164】
第6態様の剥離シートによれば、剥離シートを含む繊維強化プラスチック補強部材を構造物に接着した接着剤が硬化した後に、接着剤の表面層と共に該構造物から剥離可能とされているので、剥離シートを構造物から剥離することで、硬化後の接着剤の表面層を除去できる。
【0165】
このため、接着剤が硬化する際に、例えば、接着剤の表面にアミンブラッシング層が形成された場合、接着剤の表面に異物が付着した場合、及び、接着剤の表面が変質した場合でも、接着剤の表面層を除去することで、接着剤表面の接着性を確保することができる。
【0166】
第7態様の塗布剤の塗布方法は、構造物に塗布する塗布剤にて該構造物に剥離シートを含浸接着する第一工程と、前記剥離シートを前記構造物に含浸接着した塗布剤が硬化した後に、該剥離シートを該塗布剤の表面層と共に該構造物から剥離する第二工程と、を有する。
【0167】
第7態様の塗布剤の塗布方法によれば、第二工程において、剥離シートを構造物に含浸接着した塗布剤が硬化した後に、剥離シートを塗布剤の表面層と共に構造物から剥離するので、硬化後の塗布剤の表面層を除去できる。
【0168】
このため、塗布剤が硬化する際に、例えば、塗布剤の表面にアミンブラッシング層が形成された場合、塗布剤の表面に異物が付着した場合、及び、塗布剤の表面が変質した場合でも、塗布剤の表面層を除去することで、塗布剤表面の接着性を確保することができる。
【0169】
第8態様の塗布剤の塗布方法は、第7態様において、前記第二工程によって前記塗布剤の表面層と共に前記剥離シートが剥離された構造物に繊維シートを含浸接着する第三工程、を有する。
【0170】
第8態様の塗布剤の塗布方法によれば、第三工程において、第二工程によって塗布剤の表面層と共に剥離シートが剥離された構造物に繊維シートを含浸接着する。このため、塗布剤表面と繊維シートの接着性を確保することができる。
【0171】
第9態様の塗布剤の塗布方法は、第7態様において、前記第二工程によって前記塗布剤の表面層と共に前記剥離シートが剥離された構造物に仕上げ層を設ける仕上げ工程、を有する。
【0172】
第9態様の塗布剤の塗布方法によれば、仕上げ工程において、第二工程によって塗布剤の表面層と共に剥離シートが剥離された構造物に仕上げ塗装又はモルタル層を設ける。このため、塗布剤表面と仕上げ塗装又はモルタル層の接着性を確保することができる。
【0173】
第10態様の塗布剤の塗布方法は、前記第一工程において、前記剥離シートが繊維シート上に重ねられた状態で、該繊維シートと共に前記構造物に前記塗布剤としての接着剤にて含浸接着し、前記第二工程において、前記剥離シートを含む前記繊維シートを前記構造物に含浸接着した接着剤が硬化した後に、前記剥離シートを該接着剤の表面層と共に該構造物から剥離する。
【0174】
第10態様の塗布剤の塗布方法によれば、第二工程において、剥離シートを含む繊維シートを構造物に含浸接着した接着剤が硬化した後に、剥離シートを接着剤の表面層と共に該構造物から剥離するので、硬化後の接着剤の表面層を除去できる。
【0175】
このため、接着剤が硬化する際に、例えば、接着剤の表面にアミンブラッシング層が形成された場合、接着剤の表面に異物が付着した場合、及び、接着剤の表面が変質した場合でも、接着剤の表面層を除去することで、接着剤表面の接着性を確保することができる。
【0176】
第11態様の繊維シートは、構造物の補強又は補修のために接着剤を用いて含浸接着される繊維シートであって、前記繊維シートの前記構造物との接着面とは反対側の面に前記接着剤が含浸可能な剥離シートが固定されており、前記剥離シートごと前記構造物に前記接着剤で含浸接着され、該接着剤が硬化した後に前記剥離シートを剥離可能である。
【0177】
第11態様の繊維シートによれば、剥離シートを含む繊維シートを構造物に含浸接着した接着剤が硬化した後に、該剥離シートが、該繊維シートから剥離可能とされているので、剥離シートを繊維シートから剥離することで、硬化後の接着剤の表面層を除去できる。
【0178】
このため、接着剤が硬化する際に、例えば、接着剤の表面にアミンブラッシング層が形成された場合、接着剤の表面に異物が付着した場合、及び、接着剤の表面が変質した場合でも、接着剤の表面層を除去することで、接着剤表面の接着性を確保することができる。
【0179】
第12態様の繊維シートは、第11態様において、前記剥離シートが、剥離シートの単位幅(cm)あたりの剥離強度が、該剥離シートの引き裂き強度以下の強度で、前記繊維シートから剥離可能である。
【0180】
第12態様の繊維シートによれば、剥離シートの単位幅(cm)あたりの剥離強度が、引き裂き強度以下の強度で、剥離シートを繊維シートから剥離可能であるので、剥離シートを繊維シートから剥離した際に、剥離シートの一部が繊維シート上に細かな島状や筋状に残ってしまい、後から除去することが困難な状態が抑制される。
【0181】
第13態様の繊維シートは、第11態様又は第12態様において、前記剥離シートが、前記繊維シートから剥離したときの剥離強度が、10N/cm以下である。
【0182】
ここで、繊維シートから剥離したときの剥離シートの剥離強度が、10N/cmを超える場合では、剥離シートを繊維シートから剥離しにくく、作業性が悪い。これに対して、第13態様の繊維シートによれば、剥離シートは、繊維シートから剥離したときの剥離強度が、10N/cm以下であるので、剥離シートを繊維シートから剥離する作業性がよい。
【0183】
第14態様の繊維シートは、第11~第13態様のいずれか1つにおいて、前記剥離シートが、合成繊維を平織りした織布である。
【0184】
第14態様の繊維シートによれば、剥離シートが合成繊維を平織りした織布であるので、剥離シートが、綾織り及び朱子織等で織られた織布や、編み物で構成される場合に比べ、剥離シートが伸縮しにくく、耐久性に優れる。このため、剥離シートを繊維シートから剥離した際に、剥離シートが破断することが抑制される。
【0185】
第15態様の繊維シートは、第11~第14態様のいずれか1つにおいて、前記剥離シートが、合成ゴム系、高分子量エポキシ系、アクリル系のいずれかから選択される固定材で、前記繊維シートに剥離可能に固定されている。
【0186】
このように、剥離シートを繊維シートに剥離可能に固定する固定材としては、合成ゴム系、高分子量エポキシ系、アクリル系のいずれかから選択される固定材を用いることができる。
【0187】
第16態様の繊維シートは、第11~第15態様のいずれか1つにおいて、前記接着剤が、アミン類を硬化剤とする常温硬化型の液状エポキシ樹脂であり、前記接着剤が硬化する際に、前記接着剤の表面にアミンブラッシング層が発生した場合において、前記剥離シートが、該アミンブラッシング層と共に該繊維シートから剥離可能である。
【0188】
第16態様の繊維シートによれば、接着剤が硬化する際に、接着剤の表面にアミンブラッシング層が発生した場合に、剥離シートが、該アミンブラッシング層と共に該繊維シートから剥離可能であるので、剥離シートを繊維シートから剥離することで、硬化後の接着剤の表面に発生したアミンブラッシング層を除去できる。このため、接着剤表面の接着性を確保することができる。
【0189】
第17態様の繊維シートの施工方法は、接着剤を含浸可能な剥離シートが、片面に剥離可能に固定された繊維シートを、該片面に対する反対面を構造物に向けた状態で、該構造物に該接着剤にて含浸接着する工程と、前記剥離シートを含む前記繊維シートを前記構造物に含浸接着した接着剤が硬化した後に、該剥離シートを該接着剤の表面層と共に該繊維シートから剥離する工程と、を有する。
【0190】
第17態様の繊維シートの施工方法によれば、剥離シートを含む繊維シートを構造物に含浸接着した接着剤が硬化した後に、該剥離シートを該接着剤の表面層と共に該繊維シートから剥離するので、硬化後の接着剤の表面層を除去できる。
【0191】
このため、接着剤が硬化する際に、例えば、接着剤の表面にアミンブラッシング層が形成された場合、接着剤の表面に異物が付着した場合、及び、接着剤の表面が変質した場合でも、接着剤の表面層を除去することで、接着剤表面の接着性を確保することができる。
【要約】
剥離シートは、構造物に塗布剤が塗布された後に該構造物に含浸貼付される剥離シートであって、該剥離シートを該構造物に含浸接着した塗布剤が硬化した後に、該塗布剤の表面層と共に該構造物から剥離可能とされている。