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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-06
(45)【発行日】2022-10-17
(54)【発明の名称】昆虫捕獲用粘着トラップ
(51)【国際特許分類】
   A01M 1/14 20060101AFI20221007BHJP
【FI】
A01M1/14 J
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018129894
(22)【出願日】2018-07-09
(65)【公開番号】P2020005569
(43)【公開日】2020-01-16
【審査請求日】2021-06-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000224101
【氏名又は名称】藤森工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】594120157
【氏名又は名称】アース環境サービス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100081558
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 晴男
(74)【代理人】
【識別番号】100154287
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 貴広
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 一郎
(72)【発明者】
【氏名】藤原 保
(72)【発明者】
【氏名】松本 吉雄
(72)【発明者】
【氏名】三木 剛嗣
【審査官】竹中 靖典
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第04031654(US,A)
【文献】実開昭50-052165(JP,U)
【文献】実開平04-024467(JP,U)
【文献】特開平09-143443(JP,A)
【文献】特開2001-120147(JP,A)
【文献】実開平01-059075(JP,U)
【文献】特開2014-064499(JP,A)
【文献】米国特許第04800671(US,A)
【文献】実開昭49-112768(JP,U)
【文献】特開2006-136296(JP,A)
【文献】特開平10-052205(JP,A)
【文献】特開2011-036153(JP,A)
【文献】実開昭53-100482(JP,U)
【文献】実開平03-048476(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01M 1/00 - 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の片面が粘着性を有するトラップ面であって、前記トラップ面をトラップ配置面と対面させて配置して使用する昆虫捕獲用粘着トラップであり、
前記トラップ面には、トラップ配置面との間に昆虫の進入・捕獲領域となる間隙を設けると共に、前記トラップ配置面に粘着するための定着用凸部を有しており、
前記トラップ面は、前記トラップ配置面に対して、前記定着用凸部による、粘着トラップの貼合、剥離、再貼合が可能な粘着性を有していることを特徴とする昆虫捕獲用粘着トラップ。
【請求項2】
基材の片面が粘着性を有するトラップ面であって、前記トラップ面をトラップ配置面と対面させて配置して使用する昆虫捕獲用粘着トラップであり、
前記トラップ面には、トラップ配置面との間に昆虫の進入・捕獲領域となる間隙を設けると共に、前記トラップ配置面に粘着するための定着用凸部を有しており、
前記トラップ面を平面視した際の前記定着用凸部の形状として、面方向端部が前記基材の縁部にまで伸びる交差形状のものが含まれることを特徴とする昆虫捕獲用粘着トラップ。
【請求項3】
基材の片面が粘着性を有するトラップ面であって、前記トラップ面をトラップ配置面と対面させて配置して使用する昆虫捕獲用粘着トラップであり、
前記トラップ面には、トラップ配置面との間に昆虫の進入・捕獲領域となる間隙を設けると共に、前記トラップ配置面に粘着するための定着用凸部を有しており、
前記定着用凸部は、前記基材をエンボス加工して形成されることを特徴とする昆虫捕獲用粘着トラップ。
【請求項4】
基材の片面が粘着性を有するトラップ面であって、前記トラップ面をトラップ配置面と対面させて配置して使用する昆虫捕獲用粘着トラップであり、
前記トラップ面には、トラップ配置面との間に昆虫の進入・捕獲領域となる間隙を設けると共に、前記トラップ配置面に粘着するための定着用凸部を有しており、
前記基材のトラップ面とは反対側の面の全体又は一部に第2の粘着層を有することを特徴とする昆虫捕獲用粘着トラップ。
【請求項5】
前記トラップ面は、それと前記トラップ配置面との間隔が、前記基材の周縁部から中心部又は奥になるに従い、狭くなるような傾斜面にされている、請求項1乃至4のいずれかに記載の昆虫捕獲用粘着トラップ。
【請求項6】
前記トラップ面に、前記定着用凸部及び捕獲用の凸部が形成される、請求項1乃至5のいずれかに記載の昆虫捕獲用粘着トラップ。
【請求項7】
一部又は全部の前記定着用凸部の周囲には、前記定着用凸部から前記トラップ面に向かって傾斜している部位を有する、請求項1乃至6のいずれかに記載の昆虫捕獲用粘着トラップ。
【請求項8】
前記基材の表面の全体又は一部が、昆虫の誘引、遮光性の付与、あるいは、捕獲した昆虫の確認のために有効な色に着色されている、請求項1乃至7のいずれかに記載の昆虫捕獲用粘着トラップ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、昆虫捕獲用粘着トラップに関するものであり、より詳細には、特に、チャタテムシやダニ類等の微小歩行昆虫の捕獲に適した粘着トラップに関するものである。
【背景技術】
【0002】
細胞培養工程や医薬品製造工程等は、異物混入を嫌う、高度な清浄度が必要とされるエリアであり、節足動物の栄養源も限られることから、当該エリアに存在する昆虫としては、ヒトの体表の落ち屑や、糸状菌を食べるチャタテムシやダニ類等の微小歩行昆虫にほぼ限られている。
【0003】
現在、ほとんど全ての高度清浄度エリアでは、節足動物が存在しないことを確認し、証明するモニタリング用として、ガンマ線殺菌を施したゴキブリ用の粘着トラップを使用している。微小歩行昆虫のモニタリング用としては、基材に粘着層を設けた捕虫シート(特許文献1)、あるいは、非粘着性シート上に所定の形状で粘着層を設けた捕虫シートが使用されている(特許文献2)。また、害虫粘着捕獲シートとして、ベースシート上に多数設けた空洞内に粘着剤層を存在させ、害虫をその潜入習性で空洞内に侵入させて粘着剤層で捕獲するものが提案されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2008-99598号公報
【文献】特開2002-84957号公報
【文献】特開2000-135044号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかるに、特許文献1に開示されているような微小歩行昆虫捕獲用の捕虫シートは長尺状であり、室内の天部や側面、製造機器の内部や側面等におけるモニタリングが困難であるという問題がある。また、特許文献2、3に開示されているような捕虫シートや害虫粘着捕獲シートの場合は、チャタテムシやダニ類等の微小歩行昆虫が非粘着性シートやベースシート上に這い上がることが必要となるので、その分微小歩行昆虫の捕獲効果が低いという問題がある。
【0006】
また、粘着層に捕獲対象の微小歩行昆虫が嗜好する菌体粉末を含有させたり、保水成分を含有させたりすることにより、微小歩行昆虫を誘引して捕獲効果を向上させることが行われている。しかし、モニタリング用の捕虫シートにガンマ線殺菌を施す必要がある医薬品製造のバイオクリーンルーム等の高度清浄度エリアでは、水や天然物質を含む化学物質等の誘引剤を用いることができず、有効な手段とはならない。
【0007】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、高度清浄度エリアに設置された種々の施設設備の側面、天部、内部等での微小歩行昆虫の捕獲用並びにモニタリング用としての使用が可能であり、しかも、捕獲効果が高い昆虫捕獲用粘着トラップを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、本発明において捕獲対象とするチャタテムシやダニ類等の微小歩行昆虫の場合、粘着トラップにおけるトラップ面と、床、壁面等のトラップ配置面との間に、トラップ面に形成された定着用凸部により微小高さの進入・捕獲領域が形成されることで、昆虫が粘着面に這い上がることなく、粘着トラップのトラップ面に捕獲されやすくなるため、捕獲効率が向上することを見出し、本発明を完成させるに至ったものである。
【0009】
即ち、上記課題を解決するための請求項1に記載の発明は、基材の片面が粘着性を有するトラップ面であって、前記トラップ面をトラップ配置面と対面させて配置して使用する昆虫捕獲用粘着トラップであり、
前記トラップ面には、トラップ配置面との間に昆虫の進入・捕獲領域となる間隙を設けると共に、前記トラップ配置面に粘着するための定着用凸部を有しており、
前記トラップ面は、前記トラップ配置面に対して、前記定着用凸部による、粘着トラップの貼合、剥離、再貼合が可能な粘着性を有していることを特徴とする昆虫捕獲用粘着トラップである。
【0010】
上記課題を解決するための請求項2に記載の発明は、基材の片面が粘着性を有するトラップ面であって、前記トラップ面をトラップ配置面と対面させて配置して使用する昆虫捕獲用粘着トラップであり、
前記トラップ面には、トラップ配置面との間に昆虫の進入・捕獲領域となる間隙を設けると共に、前記トラップ配置面に粘着するための定着用凸部を有しており、
前記トラップ面を平面視した際の前記定着用凸部の形状として、面方向端部が前記基材の縁部にまで伸びる交差形状のものが含まれることを特徴とする昆虫捕獲用粘着トラップである
【0011】
上記課題を解決するための請求項3に記載の発明は、基材の片面が粘着性を有するトラップ面であって、前記トラップ面をトラップ配置面と対面させて配置して使用する昆虫捕獲用粘着トラップであり、
前記トラップ面には、トラップ配置面との間に昆虫の進入・捕獲領域となる間隙を設けると共に、前記トラップ配置面に粘着するための定着用凸部を有しており、
前記定着用凸部は、前記基材をエンボス加工して形成されることを特徴とする昆虫捕獲用粘着トラップである
【0012】
上記課題を解決するための請求項4に記載の発明は、基材の片面が粘着性を有するトラップ面であって、前記トラップ面をトラップ配置面と対面させて配置して使用する昆虫捕獲用粘着トラップであり、
前記トラップ面には、トラップ配置面との間に昆虫の進入・捕獲領域となる間隙を設けると共に、前記トラップ配置面に粘着するための定着用凸部を有しており、
前記基材のトラップ面とは反対側の面の全体又は一部に第2の粘着層を有することを特徴とする昆虫捕獲用粘着トラップである
【0013】
一実施形態においては、前記トラップ面は、それと前記トラップ配置面との間隔が、前記基材の周縁部から中心部又は奥になるに従い、狭くなるような傾斜面にされている。また、一実施形態においては、前記トラップ面に、前記定着用凸部及び捕獲用の凸部が形成され、また、一実施形態においては、一部又は全部の前記定着用凸部の周囲には、前記定着用凸部から前記トラップ面に向かって傾斜している部位を有し、更に一実施形態においては、前記基材の表面の全体又は一部が、昆虫の誘引、遮光性の付与、あるいは、捕獲した昆虫の確認のために有効な色に着色される。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る昆虫捕獲用粘着トラップは、基材の片面が粘着によるトラップ面であって、そのトラップ面をトラップ配置面と対面させて配置して使用するものであって、使用時に段差が生じないため、チャタテムシやダニ類等の微小歩行昆虫はその粘着面に這い上がる必要がなく、トラップ面とトラップ配置面との間隙に入り込みさえすれば捕獲可能となるので、捕獲効率が格段に向上し、また、種々の施設・設備の側面、天部、内部等に容易に貼合して配置でき、微小歩行昆虫のモニタリング及び捕獲に有効活用し得る効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明に係る昆虫捕獲用粘着トラップの一実施形態を示す裏面図である。
図2図1におけるI-I線端面図である。
図3図1におけるII-II線端面図である。
図4図1におけるIII-III線端面図である。
図5】本発明に係る昆虫捕獲用粘着トラップの一実施形態の使用状態を示す縦断面図である。
図6】本発明に係る昆虫捕獲用粘着トラップの他の実施形態を示す縦断面図である。
図7】本発明に係る昆虫捕獲用粘着トラップの更に他の実施形態を示す縦断面図である。
図8】本発明に係る昆虫捕獲用粘着トラップの更に他の実施形態を示す縦断面図である。
図9】本発明に係る昆虫捕獲用粘着トラップにおける定着用凸部の形状及び配置例を示す裏面図である。
図10】本発明に係る昆虫捕獲用粘着トラップにおける定着用凸部の他の形状及び配置例を示す裏面図である。
図11】本発明に係る昆虫捕獲用粘着トラップにおける定着用凸部の更に他の形状及び配置例を示す裏面図である。
図12】本発明に係る昆虫捕獲用粘着トラップにおける定着用凸部の更に他の形状及び配置例を示す裏面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明を実施するための形態について、添付図面を参照しつつ説明する。なお、図面は模式的又は概念的なものであり、各部材の寸法、部材間の大きさの比等は、必ずしも実施品をそのまま反映している訳ではない。また、以下の説明において、表裏、上下等の表現は、使用時における状態を基準にしてのものである。
【0017】
図1は、本発明の昆虫捕獲用粘着トラップの一実施形態を示す裏面図であり、図2図4はそれぞれ、図1におけるI-I線、II-II線、III-III線に沿った端面図である。それらに示されるように、本発明に係る昆虫捕獲用粘着トラップは、基材1の裏面が粘着性を有するトラップ面2であって、そのトラップ面2をトラップ配置面10と対面させて配置して使用するものである。
【0018】
トラップ面2は、床、壁面等のトラップ配置面10に対する粘着によって定着部となる定着用凸部3を有している。基材1の素材は、この定着用凸部3の形状が維持できるものであれば特に問わず、樹脂、不織布、紙、金属等の素材、あるいは、それらを適宜組み合わせた素材を用いることができる。中でも、定着用凸部3の形成が容易であることから、合成樹脂を用いることが好ましい。合成樹脂からなる基材としては、延伸したもの、あるいは未延伸のもの、いずれも用いることができる。合成樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリスチレン、ポリウレタンが好ましく、延伸又は未延伸のポリエチレンテレフタレート等のポリエステル、ポリスチレン、ポリプロピレンが、特に好ましい。基材は、シート状、フィルム状、箔等、いずれの形状でも構わない。定着用凸部3は、基材1をエンボス加工等によって押圧加工することにより形成することができる(図1図7参照)。
【0019】
また、昆虫捕獲用粘着トラップにガンマ線殺菌を施す必要がある場合は、ガンマ線殺菌に対する耐性のある素材からなる基材を選択することが望ましく、合成樹脂としては、ポリエステル、ポリスチレンが好適に用いられる。
【0020】
トラップ面2は、基材1の裏面全面に亘り、あるいは、ほぼ全面に亘り、捕獲用の粘着層4を設けて形成することができる。定着用凸部3も、その表面全体が粘着層4に覆われて捕獲面となり、その先端面が、床、壁面等のトラップ配置面10に対する粘着による定着面となる。粘着層4は、捕獲対象の微小歩行昆虫が確実に捕獲される粘着力を有していることは言うまでもないが、その粘着力は、定着用凸部3がトラップ配置面10に対して貼合、剥離、再貼合可能となる程度のものであることが好ましい。
【0021】
図示した例における基材1の平面視形状は長方形であるが、これに限られる訳ではなく、多角形状、円形状、長円形状、楕円形状、その他任意の形状とすることができ、その厚みも、定着用凸部3が形成、維持できれば、任意に設定できる。基材の好ましい厚さとしては、素材によっても異なるが、例えば、合成樹脂シート・フィルムを用いた場合には、定着用凸部3の形成性や、粘着トラップの取扱性の点から、0.02~0.8mmが好ましく、0.03~0.5mmがより好ましく、更には、0.05~0.3mmが好ましい。
【0022】
また、定着用凸部3の平面視形状(断面形状)も任意のものとなし得る。図1に示される例では、長方形の基材1を4分割するような、十字形状の大きな定着用凸部3が形成され、また、その十字形状の定着用凸部3によって区画された4つの部分に、それぞれ、両端を丸めた長尺及び短尺の棒形状の定着用凸部3が多数形成されている。後述するように、この十字形状のような交差形状の定着用凸部3は、微小歩行昆虫がトラップにおいて捕獲されず、通り抜けることを防止するのに有効である。
【0023】
トラップ面2とトラップ配置面10との間隔を規定する前記定着用凸部3は、1枚の粘着トラップにおいて、全ての定着用凸部3を略同一の高さに形成したり、あるいは、異なる高さのものを含むように形成したり、適宜に設定することができるが、好ましい実施形態においては、トラップ面2は、それとトラップ配置面10との間隔が、基材1の周縁部よりも中心部の方が狭くなるように形成される(図2,4等参照)。それに伴い、基材1の周縁部に位置する定着用凸部3(3a)は、中心部ないし奥側に位置する定着用凸部3(3b)よりも突出高さが高くなるように形成される(図2参照)。
【0024】
基材1の周縁部に位置する定着用凸部3(3a)は、基材1の周縁部とトラップ配置面10との間に、微小歩行昆虫類が入り込める間隙を保持する機能を果たすものである。そのため、定着用凸部3(3a)の高さは、捕獲対象の微小歩行昆虫類の体高よりも大となるように設定される。例えば、主な捕獲対象がチャタテムシである場合の高さHは、1~5mmの範囲で設定される。高さHの範囲としては、1~3mmの範囲が好ましい。
【0025】
一方、基材1の中心部ないし奥側に位置する定着用凸部3(3b)は、トラップ面2とトラップ配置面10との間隔を狭めて、進入してきた微小歩行昆虫類の背中がトラップ面2に当接するトラップ可能空間(捕獲空間)を生成する機能を果たすものである。従って、定着用凸部3(3b)の高さは、捕獲対象の微小歩行昆虫類の体高よりも小となるように設定される。例えば、主な捕獲対象がチャタテムシである場合の高さhは、0~2mmの範囲で設定される。高さhの範囲としては、0.5~1.5mmの範囲が好ましい。基材1の中心部ないし奥側で、トラップ面2とトラップ配置面10との間隔が狭まることから、高さHと高さhとの関係は、h≦Hとすることが望ましい。
【0026】
図2に示されるように、通例、トラップ配置面10に配置する前における各定着用凸部3の底面は、同一面上にあるように形成される。しかるに、トラップ配置面10は平坦とは限らず、凹凸があったり曲面であったりすることもあるので、基材1に柔軟性ないし可撓性を持たせることが好ましい。基材1が柔軟性ないし可撓性を有していれば、基材1をトラップ配置面10の表面形状に沿って変形させつつ、各定着用凸部3をトラップ配置面10の凹凸や曲面に合わせて押し付けることにより、本昆虫捕獲用粘着トラップをトラップ配置面10に安定状態に配置することができる(図5参照)。
【0027】
本発明に係る昆虫捕獲用粘着トラップは、例えば、種々の施設設備の側面、天部、内部等のトラップ配置面10に定着用凸部3の底面の粘着層4を介して粘着設置し、所望の時間が経過した後トラップ配置面10から引き剥がし、捕獲した微小歩行昆虫の検証を行う。そのため、上述したように粘着層4は、定着用凸部3がトラップ配置面10に対して貼合、剥離可能な粘着性を具備するものとされるのである。また更に、捕獲確認後に継続して調査が必要な場合は、再度配置することになるので、再貼合可能な粘着性を具備するものであることが好ましい。
【0028】
このような粘着層4の粘着剤は、昆虫を確実に捕捉し得ると共に、定着用凸部3において、トラップ面2とトラップ配置面10とを充分に貼合でき、更には、本願発明の粘着トラップを、剥離、再貼合が可能とし得るものであれば、特に制限はないが、従来から捕虫シートに使用されている粘着剤、例えば、アクリル系粘着剤、ウレタン系粘着剤、シリコーン系粘着剤、ゴム系粘着剤等の公知の粘着剤の中から、適宜選択することができる。また、昆虫捕獲用粘着トラップにガンマ線殺菌を施す必要がある場合は、ガンマ線殺菌に対する耐性のある粘着剤を選択する必要がある。粘着層4の厚みは、例えば、1~1000μmの範囲で適宜設定することができる。粘着層4の厚みとしては、5~200μmとすることが好ましく、10~80μmとすることがより好ましい。
【0029】
次いで、上記構成の本発明に係る昆虫捕獲用粘着トラップの製造方法の例について説明する。本昆虫捕獲用粘着トラップは、例えば、平坦状態の基材1のトラップ面2となる裏面に粘着層4を配設し、この粘着層4上に剥離フィルムを貼合して積層フィルムとし、当該積層フィルムにプレス装置によりエンボス加工を施し、複数の定着用凸部3を形成することによって製造される。
【0030】
あるいは、平坦状態の基材1に、プレス装置によりエンボス加工を施して複数の定着用凸部3を形成した後、定着用凸部3を含むトラップ面2全体を被覆するように粘着層4を形成し、その上に剥離フィルムを貼合することによって製造される。なお、粘着層4上の剥離フィルムは、昆虫捕獲用粘着トラップの使用時に剥離される。定着用凸部3は、エンボス加工により製造される場合は中空となるので、必要に応じて、表面にカバーシートを被着して表面を平坦化する。基材1は、中実のものとされることもある(図8参照)。
【0031】
上記構成の昆虫捕獲用粘着トラップは、定着用凸部3裏面の粘着層4を介して種々の施設設備の側面、天部、内部等のトラップ配置面10に定着して用いられる。トラップ配置面10を歩行移動してきた微小歩行昆虫は、トラップ面2の周縁部とトラップ配置面10との間の歩行進入し得る間隙からトラップ内に進入する。そこには這い上がる段差がないので、微小歩行昆虫は何の抵抗もなく入り込む。
【0032】
トラップ内に入り込んだ微小歩行昆虫は自由に動き回り、やがてその触角や背面、脚等が、トラップ面2の天面や定着用凸部3周面の粘着層4に触れ、粘着捕獲される。トラップ面2が、それとトラップ配置面10との間隔が、基材1の周縁部よりも中心部の方が狭くなるように傾斜している場合は、微小歩行昆虫は奥に進むにつれて粘着層4に触れやすくなり、粘着捕獲されやすくなる。定着用凸部3として、十字形状のような交差形状のものがあると、微小歩行昆虫は行く手を阻まれて通り抜けができなくなるので、捕獲効率が向上する。
【0033】
また、基材1及び複数の定着用凸部3によって、周縁部から内側への光の射し込みが制限されるので、負の走光性を持つ微小歩行昆虫を誘導することになり、以て、極めて高い捕獲効果が奏されることになる。
【0034】
本発明に係る昆虫捕獲用粘着トラップは、上述の態様に限定されるものではなく、その他種々の態様が考えられる。例えば、図6に示す例は、トラップ面2に、トラップ配置面10には達しない捕獲用凸部5を複数形成したものである。トラップ面2が中心に向かって下り傾斜している場合は、捕獲用凸部5は同じものであってよいが(図6(A)参照)、トラップ面2が水平である場合の捕獲用凸部5は、中心に近いものほど大きく形成し、トラップ配置面10との間隔が狭まるようにすることが好ましい(図6(B)参照)。
【0035】
また、図7に示す例は、一部又は全部の定着用凸部3につき、その周囲のトラップ面2を、定着用凸部3に向かって下り傾斜させて緩斜面2aを形成したものである。この場合は、定着用凸部3に近付くほどトラップ面2とトラップ配置面10との間隔が狭まるので、微小歩行昆虫は定着用凸部3に近付くほど粘着面に触れ、捕獲されやすくなる。
【0036】
また、定着用凸部3の平面視形状並びに配置は、図1に示されるものに限られる訳ではなく、その他任意の態様とすることができる。図9乃至図12には、いずれも平面視形状が同じ形状の定着用凸部3を多数配置した例が示されている。図9に示される定着用凸部3は断面円形で、比較的密に配置されている。図10に示される定着用凸部3は両端が丸い棒状のものであり、図11に示される定着用凸部3はX字形状のものであり、図12に示される定着用凸部3は三角形状のものである。
【0037】
以上いずれの場合も、凸部のすべてが定着用凸部3である必要はなく、その一部はトラップ配置面10に達しない捕獲用凸部5であってもよい。そして、定着用凸部3の周囲のトラップ面2に、図7に示す態様における緩斜面2aのような斜面を形成することとしてもよい。但し、その場合は、スペースとの関係で、緩斜面ではなく急斜面となる。
【0038】
図9乃至図12に示される実施形態において捕獲用凸部5を混在させる場合、捕獲用凸部5の突出高さは一定である必要はなく、適宜変更することができる。一般的には、基材1の周縁部のものより中央部のものの方が突出高さが高くなるように、換言すれば、捕獲用凸部5の底面とトラップ配置面10との間隔が狭まるように設定される(図9における矢印C-C´方向及び矢印D-D´方向)。あるいは、手前から最奥部に向かって次第に突出高さが高くなるように設定するようにしてもよい(図9における矢印A方向又はB方向)。
【0039】
以上いずれの実施形態においても、使用時において基材1の周縁部においては、トラップ面2とトラップ配置面10との間隔は、捕獲対象の微小歩行昆虫の体高よりも大となるようにされるため、微小歩行昆虫はトラップ内に歩行進入可能であり、且つ、進入部に段差がないため、微小歩行昆虫は何ら抵抗なくトラップ内に歩行進入する。そして、トラップ内に入り込んだ微小歩行昆虫は自由に動き回るうちに、その触角や背中面、脚等が、トラップ面2の天面や定着用凸部3周面の粘着層4に触れて粘着捕獲される。トラップ面2や捕獲用凸部5の底面の粘着層4とトラップ配置面10との間隔は、中央部(奥側)に行くに従って狭まるため、より粘着捕獲されやすい状態となる。
【0040】
また、本発明に係る昆虫捕獲用粘着トラップは、昆虫の誘引や遮光性の付与、捕獲した昆虫の確認のために、黒色や白色、その他の色に着色することができる。着色により、粘着トラップに遮光性を付与した場合、トラップ面2に直接光が照射されないことにより、負の走光性を持つ微小歩行昆虫の捕獲効果が向上し、好ましい。粘着トラップの着色の方法としては、特に制限されないが、基材及び/又は粘着層について、その構成素材に顔料や染料を混合することにより着色する方法や、粘着トラップの表面、あるいは構成する層の層間に、着色層を設ける方法が適用できる。着色は、粘着トラップの全面のみならず、一部のみを着色し、外部からの光によりトラップ面2に明暗を生じさせることもできる。
【0041】
更に、本発明に係る昆虫捕獲用粘着トラップにおいては、基材1のトラップ面2とは反対側の面に、別の層を設けることができる。例えば、保護層を設け、粘着トラップの表面を保護したり、または、インキ受容層を設け、あるいは、設けずに、印刷層を形成し、粘着トラップとして必要な情報を表示したり、更には、全面ベタあるいはストライプ状等一部分に配される第2の粘着層を設け、粘着トラップのトラップ面2で微小歩行昆虫を捕獲するだけでなく、第2の粘着層面において、歩行昆虫及び/又は飛翔昆虫を捕獲し得る態様とすることもできる。
【産業上の利用可能性】
【0042】
上記のとおり本発明に係る昆虫捕獲用粘着トラップは、基材の片面が粘着性を有するトラップ面であって、そのトラップ面をトラップ配置面と対面させて配置して使用するものであって、使用時に、昆虫の進入経路において段差が生じないため、チャタテムシやダニ類等の微小歩行昆虫は粘着面に這い上がる必要がなく、トラップ面の下に入り込みさえすれば捕獲可能となるので、従来の粘着面に這い上がる必要のあるトラップに比較して捕獲効率が格段に向上し、また、種々の施設・設備の側面、天部、内部等に容易に粘着配置できて、微小歩行昆虫のモニタリング及び捕獲に有効活用し得る効果のあるものであるので、その産業上の利用可能性は極めて大である。
【符号の説明】
【0043】
1 基材
2 トラップ面
2a 緩斜面
3 定着用凸部
4 粘着層
5 捕獲用凸部
10 トラップ配置面
図1
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