(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-07
(45)【発行日】2022-10-18
(54)【発明の名称】複合荷電粒子ビーム装置、及び制御方法
(51)【国際特許分類】
H01J 37/21 20060101AFI20221011BHJP
H01J 37/28 20060101ALI20221011BHJP
H01J 37/30 20060101ALI20221011BHJP
H01J 37/305 20060101ALI20221011BHJP
H01J 37/317 20060101ALI20221011BHJP
【FI】
H01J37/21 Z
H01J37/28 B
H01J37/30 A
H01J37/305 A
H01J37/317 D
(21)【出願番号】P 2019025928
(22)【出願日】2019-02-15
【審査請求日】2021-11-12
(73)【特許権者】
【識別番号】503460323
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテクサイエンス
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【氏名又は名称】小林 淳一
(72)【発明者】
【氏名】杉山 安彦
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 菜緒子
(72)【発明者】
【氏名】大庭 弘
【審査官】鳥居 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/125844(WO,A1)
【文献】特開2014-165174(JP,A)
【文献】特開2013-125583(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 37/09-37/10
H01J 37/317
H01J 37/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオンビームを供給するイオン供給部と、
前記イオン供給部が供給する前記イオンビームに加速電圧を印加することによって加速させる加速電圧印加部と、
前記加速電圧印加部が加速させた前記イオンビームを集束させる第1集束部と、
前記第1集束部が集束させた前記イオンビームにビームブースター電圧を印加するビームブースター電圧印加部と、
前記ビームブースター電圧印加部が前記ビームブースター電圧を印加した前記イオンビームを集束させて試料に照射させる第2集束部と、
電子ビームを前記試料に照射する電子ビーム照射部と、
前記ビームブースター電圧印加部が前記イオンビームに印加する前記ビームブースター電圧の値を、前記加速電圧印加部が前記イオンビームに印加する前記加速電圧の値と、集束させた前記イオンビームの焦点距離とに応じて予め決められた設定値に基づいて設定する制御部と
を備える複合荷電粒子ビーム装置。
【請求項2】
集束した前記イオンビームの照射点および焦点と、前記電子ビームの照射点とは前記試料上の同一の点である
請求項1に記載の複合荷電粒子ビーム装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記加速電圧の値と前記設定値との組を記憶する記憶部から読み出した前記組に基づいて、前記ビームブースター電圧の値を前記設定値に設定する
請求項1または請求項2に記載の複合荷電粒子ビーム装置。
【請求項4】
イオンビームを供給するイオン供給部と、
前記イオン供給部が供給する前記イオンビームに加速電圧を印加することによって加速させる加速電圧印加部と、
前記加速電圧印加部が加速させた前記イオンビームを集束させる第1集束部と、
前記第1集束部が集束させた前記イオンビームにビームブースター電圧を印加するビームブースター電圧印加部と、
前記ビームブースター電圧印加部が前記ビームブースター電圧を印加した前記イオンビームを集束させて試料に照射させる第2集束部と、
電子ビームを前記試料に照射する電子ビーム照射部と、
を備える複合荷電粒子ビーム装置における制御方法おいて、
前記ビームブースター電圧印加部が前記イオンビームに印加する前記ビームブースター電圧の値を、前記加速電圧印加部が前記イオンビームに印加する前記加速電圧の値と、集束させた前記イオンビームの焦点距離とに応じて予め決められた設定値に基づいて設定する制御過程
を有する制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合荷電粒子ビーム装置、及び制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子ビーム(EB:Electron Beam)と集束イオンビーム(FIB:Focused Ion Beam)を備える複合荷電粒子ビーム装置を使用した透過電子顕微鏡(TEM:Transmission Electron Microscope)試料作製に代表される試料形状の加工においては、イオンビーム照射による試料へのダメージを最小限に抑えたいという要求がある。そのため、複合荷電粒子ビーム装置を使用した加工においては、イオンビームの加速エネルギーを数keV以下に下げて試料を加工している。
【0003】
例えば、粗加工を30keVで行い、仕上げ加工を10keVで行う集束イオンビームを用いたTEM試料の作成方法が知られている(特許文献1)。また、仕上げ加工に使用するイオンビームのエネルギーを低くすると共に、試料への入射角度を当該試料の形状に合わせて最適化することによって効果的にダメージ層を除去する加工方法が知られている(特許文献2)。また、ダメージ層を減らすためには、集束イオンビーム装置の加速電圧を低くする必要があることが知られている(特許文献3)。このように、集束イオンビーム装置を用いた加工において加速電圧を低くすることは周知の事実となっている。
【0004】
しかし、集束イオンビームの加速電圧を低くすると、色収差によるビームボケ量の増大やクーロン相互作用によるビームプロファイルの広がりが顕著となる。ビームボケ量の増大やビームプロファイルの広がりへの対策としてビームブースター技術が用いられている(特許文献4、非特許文献1)。ビームブースター技術では、光学系の中間部のポテンシャルエネルギーを上げた後、対物レンズによって当該ポテンシャルエネルギーを低下させる。
また、電子ビームにおいてもビームブースターを使用することは周知されている(特許文献5)。
【0005】
電子ビームと集束イオンビームとが試料上の同一点に照射される複合荷電粒子ビーム装置が知られている(特許文献6)。複合荷電粒子ビーム装置では、電子ビームと集束イオンビームとを試料上の同一点に照射し、かつ電子ビームの焦点と集束イオンビームの焦点とが前記試料上の同一点に合わせられることが要求される。この電子ビームと集束イオンビームが照射される試料上の同一点をコインシデンスポイント(Coincidence Point:CP)と定義する。
集束イオンビームの制御方法として、イオンビームの電流量に対応してレンズの設定、非点補正値、アパーチャ径、ビームアライメントへの印加電圧、および対物レンズへの印加電圧等のイオンビーム光学条件と、複数個の加工内容とをコンピュータに記憶させておき、加工内容に従って光学条件を選択、設定し複数個の加工を行うことが開示されている(特許文献7)。
集束イオンビームのレンズの制御として、集束電圧テーブルを作成し、この集束電圧テーブルに基づいて集束電圧を設定することによってビーム電流値を基準値または任意値に合わせることが開示されている(特許文献8)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平11-223588号公報
【文献】特開2007-193977号公報
【文献】特開2009-272293号公報
【文献】特開2007-103108号公報
【文献】特開2000-173520号公報
【文献】特開2006-236836号公報
【文献】特開平10-106474号公報
【文献】特開2013-196826号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】Michael Rauscher and Erich Plies、「Low Energy focused ion beam system design」、Journal of Vacuum Science & Technology A、American Vacuum Society、2006、24(4)、p.1055-1066
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、集束イオンビーム装置にビームブースターを使用した場合、ビームブースター電圧によって集束イオンビームの焦点距離が制限される。この制限によって、集束イオンビームの焦点が試料の上方のみにしか合わせられず、従ってCPに焦点を合わせることができない状況が発生する。
【0009】
ここで
図10を参照し、集束イオンビームの焦点をCPに合わせることができない状況について説明する。
図10は、従来の複合荷電粒子ビーム装置におけるビーム軌道の一例を示す図である。
図10では、集束イオンビーム鏡筒A0から集束イオンビームが試料SP0に照射されるとともに、電子ビーム鏡筒B0から電子ビームが試料SP0に照射されている。
【0010】
ビーム軌道T1は、ビームブースター電圧が印加されない場合の集束イオンビームの軌道である。ビーム軌道T2は、ビームブースター電圧が印加された場合の集束イオンビームの軌道である。ビーム軌道T3は、電子ビームの軌道である。
【0011】
ビームブースター電圧が印加されない場合には、ビーム軌道T1は試料SP0の表面上の点FP1に焦点を結ぶ。ここで点FP1はCPであり、電子ビームの焦点でもある。一方、ビームブースター電圧が印加された場合、集束イオンビームの焦点は点FP1には合わせられず、ビーム軌道T1は試料SP0の上方の点FP0に焦点を結ぶ場合がある。つまり、集束イオンビームにビームブースター電圧が印加された場合には、集束イオンビームの焦点をCPに合わせることができない状況が発生する。
【0012】
上述の集束イオンビームにビームブースターを使用した場合に発生する合焦可能な範囲の制限は、加速電圧によって変化する。またビームブースターを使用した場合に発生する合焦可能な範囲の制限は、ビームブースターの電圧によっても変化する。そのため、ビームブースターの電圧の範囲によっては、集束イオンビームの焦点距離を、CPに設定できない場合がある。集束イオンビームの焦点距離を、CPに設定できないビームブースターの電圧を使用した条件では、集束イオンビーム装置の対物レンズの印加電圧を調整して、レンズ強度を調整してもCPに焦点を合わせることは困難である。
【0013】
上述のように本課題は、電子ビームと集束イオンビームとから構成される複合荷電粒子ビーム装置において、集束イオンビーム鏡筒にビームブースターが搭載されている場合かつ集束イオンビームの作動距離が電子ビームの作動距離より長い場合に発生し、電子ビームと集束イオンビームとを試料上の同一点に照射し、かつ電子ビームの焦点と集束イオンビームの焦点とが前記試料上の同一点に合わせることができない状況が発生することである。
【0014】
本課題に特許文献7に記載の方法を適用しても解決策にならない。特許文献7には集束イオンビームのビームブースターの記載がなく、また複合荷電粒子ビームについての記載もなく、CPが存在しない。そのためどのように課題が発生し、どのようにビームブースター電圧を設定すれは良いかを類推することはできない。
【0015】
また、本課題の特許文献8に記載の方法を適用しても解決策にならない。特許文献8における制御対象は集束レンズの集束電圧であり、特許文献8では集束電圧を設定することよってビーム電流を調整することを目的としている。特許文献8には集束イオンビームのビームブースターの記載がなく、また複合荷電粒子ビームについての記載もなく、CPが存在しない。そのためどのように課題が発生し、どのようにビームブースター電圧を設定すれは良いかを類推することはできない。
【0016】
そこで複合荷電粒子ビーム装置において、集束イオンビーム鏡筒にビームブースターが搭載されている場合、集束イオンビームの所望の加速電圧に応じてビームブースターの電圧を設定できることが求められている。
【0017】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、集束イオンビームの所望の加速電圧に応じてビームブースターの電圧の値を設定できる複合荷電粒子ビーム装置、及び制御方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記課題を解決して係る目的を達成するために、本発明は以下の態様を採用した。
(1)本発明の一態様に係る複合荷電粒子ビーム装置は、イオンビームを供給するイオン供給部と、前記イオン供給部が供給する前記イオンビームに加速電圧を印加することによって加速させる加速電圧印加部と、前記加速電圧印加部が加速させた前記イオンビームを集束させる第1集束部と、前記第1集束部が集束させた前記イオンビームにビームブースター電圧を印加するビームブースター電圧印加部と、前記ビームブースター電圧印加部が前記ビームブースター電圧を印加した前記イオンビームを集束させて試料に照射させる第2集束部と、電子ビームを前記試料に照射する電子ビーム照射部と、前記ビームブースター電圧印加部が前記イオンビームに印加する前記ビームブースター電圧の値を、前記加速電圧印加部が前記イオンビームに印加する前記加速電圧の値と、集束させた前記イオンビームの焦点距離とに応じて予め決められた設定値に基づいて設定する制御部とを備える。
【0019】
上記(1)に記載の態様に係る複合荷電粒子ビーム装置では、集束した前記イオンビームの照射点および焦点と、前記電子ビームの照射点とは前記試料上の同一の点である。
【0020】
(2)上記(1)に記載の複合荷電粒子ビーム装置では、前記集束イオンビームの焦点がCPに合わせられる。
【0021】
上記(2)に記載の態様に係る複合荷電粒子ビーム装置では、電子ビームによる観察が可能な試料の範囲で、集束イオンビームを所定の電圧より低い加速電圧において加速した場合のイオンビームの広がりをビームブースターによって抑えることができ、微細なイオンプローブを形成して加工及び観察が可能となる。上記(2)に記載の態様に係る複合荷電粒子ビーム装置では、試料の同一箇所を試料ステージの位置調整をすることなく、電子ビームによる観察と、ビームブースター機能を備えた集束イオンビームによる加工及び観察が可能となる。
【0022】
(3)上記(1)または(2)に記載の複合荷電粒子ビーム装置では、前記制御部は、前記加速電圧の値と前記設定値との組を記憶する記憶部から読み出した前記組に基づいて、前記ビームブースター電圧の値を前記設定値に設定する。
【0023】
上記(3)に記載の態様に係る複合荷電粒子ビーム装置では、加速電圧の値と、ビームブースター電圧の値との組を記憶部から読み出して、集束イオンビームの所望の加速電圧に応じてビームブースターの電圧の値を制限し、前記制限の範囲内で設定できる。
【0024】
(4)本発明の一態様に係る制御方法は、イオンビームを供給するイオン供給部と、前記イオン供給部が供給する前記イオンビームに加速電圧を印加することによって加速させる加速電圧印加部と、前記加速電圧印加部が加速させた前記イオンビームを集束させる第1束部と、前記第1集束部が集束させた前記イオンビームにビームブースター電圧を印加するビームブースター電圧印加部と、前記ビームブースター電圧印加部が前記ビームブースター電圧を印加した前記イオンビームを集束させて試料に照射させる第2集束部と、電子ビームを前記試料に照射する電子ビーム照射部と、を備える複合荷電粒子ビーム装置における制御方法おいて、前記ビームブースター電圧印加部が前記イオンビームに印加する前記ビームブースター電圧の値を、前記加速電圧印加部が前記イオンビームに印加する前記加速電圧の値と、集束させた前記イオンビームの焦点距離とに応じて予め決められた設定値に基づいて設定する制御過程を有する。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、集束イオンビームの所望の加速電圧に応じて集束イオンビームのビームブースターの電圧の値を設定できる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本発明の実施形態に係る複合荷電粒子ビーム装置の構成の一例を示す図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る走査系の絶縁の一例を示す図である。
【
図3】本発明の実施形態に係る制御部の構成の一例を示す図である。
【
図4】本発明の実施形態に係る加速電圧値に対するビームブースター電圧値の範囲の一例を示す図である。
【
図5】本発明の実施形態に係るFIB作動距離とSEM作動距離との一例を示す図である。
【
図6】本発明の実施形態に係るFIB作動距離とビームブースター電圧との関係の一例を示す図である。
【
図7】本発明の実施形態に係るビームブースター電圧値の設定処理の一例を示す図である。
【
図8】本発明の実施形態の変形例に係る集束イオンビーム鏡筒、及び電子ビーム鏡筒の配置の第1の例を示す図である。
【
図9】本発明の実施形態の変形例に係る集束イオンビーム鏡筒、及び電子ビーム鏡筒の配置の第2の例を示す図である。
【
図10】従来の複合荷電粒子ビーム装置におけるビーム軌道の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
(実施形態)
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について詳しく説明する。
図1は、本実施形態に係る複合荷電粒子ビーム装置Dの構成の一例を示す図である。
複合荷電粒子ビーム装置Dは、集束イオンビーム装置D1と、ビームブースター制御部6と、ビームブースター電源部7と、レンズ電源部8と、制御部9と、タンク制御モジュール12と、ホストPB部13と、真空制御部14と、ステージ制御部15と、スキャンボード16と、パーソナルコンピュータ(PC:Personal Computer)17と、走査型電子顕微鏡D2(不図示)とを備える。
【0028】
集束イオンビーム装置D1は、イオン源制御部1と、イオンエミッタEと、引出電極2と、コンデンサレンズ3と、ビームブースター4と、対物レンズ5とを備える。集束イオンビーム装置D1は、イオンビームBに、加速電圧Vaccを印加した後、コンデンサレンズ3、ビームブースター4、及び対物レンズ5によって集束させて、試料SP1に照射する。試料SP1は、接地された状態において配置される。
【0029】
イオン源制御部1(イオン供給部の一例)は、荷電粒子ビームとしてイオンビームBの放出を制御する。イオン源制御部1は、引き出し電源11と、加速電源10とを備える。イオンエミッタEは、鋭利な先端をもつ金属を有し、この金属の先端を、例えば液体金属ガリウムで濡らした液体金属イオン源とする。あるいは液体金属の代わりにヘリウム、ネオン、酸素、窒素、水素等のガスを供給してガス電界電離型イオン源としてもよい。または、荷電粒子供給部として誘導結合プラズマイオン源や電子サイクロトロン共鳴プラズマイオン源を利用することもできる。
引き出し電源11は、イオンエミッタEの先端と、引出電極2との間に引き出し電圧Vextを印加することによって、当該先端から荷電粒子としてガリウムイオンを引き出す。
【0030】
加速電源10(加速電圧印加部の一例)は、イオン源制御部1が供給するイオンビームBに加速電圧Vaccを印加することによって加速させる。加速電圧は一例として、最大30kVであるが、イオンビーム照射による試料へのダメージを最小限に抑えるためには、集束イオンビームの加工ステップ毎に加速電圧を設定して使用する。例えば粗加工では加速電圧を30kVに設定し、仕上げ加工では加速電圧を1kV、0.5kVと低い値に設定して加工を行う。
【0031】
コンデンサレンズ3(第1集束部の一例)は、加速電源10が加速させたイオンビームBを集束させる。ここでコンデンサレンズ3は、レンズ電源部8のコンデンサレンズ電源80によってコンデンサレンズ電圧Vclを印加されて形成される電場によって、通過するイオンビームBを集束させる。
【0032】
ビームブースター4(ビームブースター電圧印加部の一例)は、コンデンサレンズ3が集束させたイオンビームBにビームブースター電圧Vbを印加する。ビームブースター4は、コンデンサレンズ3と、対物レンズ5との間に備えられる。ビームブースター4は、コンデンサレンズ3を通過したイオンビームBのポテンシャルエネルギーを上げることによって、色収差によるビームのボケ量の増大や、クーロン相互作用によるビームプロファイルの広がりを抑制する。ビームブースター4は、アライメント電極41と、スティグマ電極42と、ブランキング電極43と、デフレクション電極44とを備える。
【0033】
アライメント電極41は、ビームブースター制御部6のアライメント電源61と接続され、イオンビームBに電圧を印加することによって、通過するイオンビームBの光軸のずれを修正する。
スティグマ電極42は、ビームブースター制御部6のスティグマ電源62と接続され、イオンビームBに電圧を印加することによって、通過するイオンビームBを断面形状の歪みを補正し、真円に形成する。
ブランキング電極43は、ビームブースター制御部6のブランキング電源63と接続され、イオンビームBに電圧を印加することによって、通過するイオンビームBを試料SP1に照射されないように偏向させる。
デフレクション電極44は、ビームブースター制御部6のデフレクション電源64と接続され、イオンビームBに電圧を印加することによって、通過するイオンビームBを試料SP1上に走査する。
【0034】
対物レンズ5(第2集束部の一例)は、ビームブースター4がビームブースター電圧Vbを印加したイオンビームBを集束させて試料SP1に照射させる。ここで対物レンズ5は、レンズ電源部8の対物レンズ電源81によって対物レンズ電圧Volを印加されて形成される電場によって、通過するイオンビームBを集束させる。また、対物レンズ5は、加速電圧Vaccと、対物レンズ電圧Volとの電位差によってイオンビームBを減速させる。
【0035】
ビームブースター制御部6は、ビームブースター4を制御する。ビームブースター制御部6は、MCU60と、アライメント電源61と、スティグマ電源62と、ブランキング電源63と、デフレクション電源64と、高圧フローティング部66とを備える。
メモリコントロールユニット(MCU:Memory Control Unit)60は、ビームブースター電源部7によって設定されるビームブースター電圧Vbに基づいて、アライメント電源61と、スティグマ電源62と、ブランキング電源63と、デフレクション電源64とを制御する。
【0036】
アライメント電源61は、アライメント電極41に電圧を印加する。スティグマ電源62は、スティグマ電極42に電圧を印加する。ブランキング電源63は、ブランキング電極43に電圧を印加する。デフレクション電源64は、デフレクション電極44の電圧、及び走査電極45に電圧を印加する。
【0037】
高圧フローティング部66は、スキャンボード16によって制御されて走査信号をデフレクション電源64に供給する。当該走査信号は、イオンビームBの試料SP1に照射される位置を調整するための信号である。高圧フローティング部66は、スキャンボード16とともに走査系SSを構成する。走査系SSの詳細については後述する。
【0038】
ビームブースター電源部7は、制御部9に制御されてビームブースター電圧Vbを設定する。
レンズ電源部8は、コンデンサレンズ電源80と、対物レンズ電源81とを備える。コンデンサレンズ電源80は、コンデンサレンズ3に電圧を印加する。対物レンズ電源81は、対物レンズ5に電圧を印加する。
【0039】
制御部9は、PC17から供給される加速電圧値Eaccに基づいてビームブースター電源部7を制御する。ここで加速電圧値Eaccは、PC17からホストPB13を介して制御部9に供給される。制御部9の詳細については後述する。
【0040】
PC17は、複合荷電粒子ビーム装置Dの使用者からの各種の操作を受け付ける。PC17は、タンク制御モジュール12を介してイオン源制御部1に操作信号を供給する。PC17は、ホストPB13を介してビームブースター制御部6及び制御部9に操作信号を供給する。ここで操作信号には、例えば、加速電圧Vaccの値である加速電圧値Eaccを示す情報が含まれる。また、PC17は、複合荷電粒子ビーム装置Dの真空状態を制御する真空制御部14、及び試料SP1が載置されるステージを制御するステージ制御部15を制御する。
【0041】
走査型電子顕微鏡D2(不図示、電子ビーム照射部の一例)は、電子ビームを試料SP1に照射し、試料SP1から放出される二次電子や反射電子を検出することによって試料SP1の表面や断面を観察する。
【0042】
ここで
図2を参照し、走査系の絶縁について説明する。
図2は、本実施形態に係る走査系SSの絶縁の一例を示す図である。走査系SSは、スキャンボード16と、高圧フローティング部66と、光絶縁Pを備える。
【0043】
スキャンボード16はスキャン制御部160を備える。スキャン制御部160は、デジタル走査信号であるXデジタル走査信号1S、Yデジタル走査信号2S、及びCLK信号3Sを高圧フローティング部66に供給する。ここでCLK信号3Sは、Xデジタル走査信号1SとYデジタル走査信号2Sとの同期、及びD/A変換の同期に用いられる。Xデジタル走査信号1S、Yデジタル走査信号2S、及びCLK信号は、光絶縁Pによって絶縁され高圧フローティング部66に供給される。光絶縁Pは、一例として、フォトカプラであり、スキャンボード16と高圧フローティング部66との間に備えられる。
【0044】
高圧フローティング部66の電位は、ビームブースター電圧Vbに対応する高圧であるビームブースター電位に等しい。高圧フローティング部66は、D/A変換部67を備える。D/A変換部67は、CLK信号3Sに同期させてXデジタル走査信号1SをXアナログ走査信号4Sへ変換し、Yデジタル走査信号2SをYアナログ走査信号5Sへ変換する。
なお、光絶縁Pは、スキャンボード16と高圧フローティング部66との間に備えられる代わりに、高圧フローティング部66内に備えられて、D/A変換部67によって変換されたXアナログ走査信号4S及びYアナログ走査信号5Sを絶縁アンプ等を用いて絶縁してもよい。
【0045】
次に
図3を参照し、制御部9の構成の詳細について説明する。
図3は、本実施形態に係る制御部9の構成の一例を示す図である。制御部9は、処理部90と、記憶部91とを備える。
処理部90は、PC17から供給される加速電圧値Eaccと、記憶部91から読み出す電圧テーブルTとに基づいてビームブースター電圧Vbの値であるビームブースター電圧値Ebを算出する。処理部90は、算出したビームブースター電圧値Ebをビームブースター電源部7に供給する。
【0046】
ここで電圧テーブルTは、加速電圧値Eaccと、所望の焦点距離に応じて予め算出されたビームブースター電圧設定値TEbとの組を示すテーブルである。イオンビームBにビームブースター4を使用した場合に発生するイオンビームBの焦点距離FBの制限範囲は、加速電圧値Eaccにより変化する。またイオンビームBの合焦可能な範囲はビームブースター電圧値Ebによっても変化する。
【0047】
複合荷電粒子ビーム装置Dでは、電圧テーブルTは、加速電圧値Eaccと、加速電圧値Eaccにおいて電子ビームと集束イオンビームとが照射される試料上の同一点すなわちCPに合焦可能なビームブースター電圧設定値TEbとの組見合せが予め求められたテーブルである。複合荷電粒子ビーム装置Dでは、電圧テーブルTに基づいてビームブースター電圧設定値TEbが設定されることによって、イオンビームBの照射点および焦点と、電子ビームの照射点とは試料SP1上の同一の点となる。
【0048】
記憶部91は、電圧テーブルTを記憶する。つまり、記憶部91は、加速電圧値Eaccと、ビームブースター電圧設定値TEbとの組を記憶する。本実施形態では、記憶部91は、加速電圧値Eaccと、ビームブースター電圧設定値TEbとの複数の組を電圧テーブルTとして記憶する。
【0049】
ここで
図4を参照し、合焦可能なビームブースター電圧Vbの範囲について説明する。
図4は、本実施形態に係る加速電圧値Eaccに対するビームブースター電圧値Ebの範囲の一例を示す図である。
処理部90は、加速電圧Vaccの切り替え時には、電圧テーブルTが示すビームブースター電圧設定値TEbより等しいか低い電圧値に、ビームブースター電圧値Ebを変化させる。すなわち電圧テーブルTにはビームブースター電圧Vbの上限を与えるビームブースター電圧設定値TEbが記憶されている。ビームブースター電圧値Ebを設定した後は、電圧テーブルTには加速電圧値Eaccと設定したビームブースター電圧値Ebとの組が記憶されてもよい。次回ビームブースター電圧Vbを設定する際は、処理部90は、加速電圧値Eaccに対応する記憶されたビームブースター電圧値Ebを使用してもよい。
【0050】
ここで
図5及び
図6を参照し、集束イオンビーム装置D1の作動距離であるFIB作動距離WDa1と、ビームブースター電圧Vbとの関係について説明する。
図5は、本実施形態に係るFIB作動距離WDa1と、SEM作動距離WDb1との一例を示す図である。
【0051】
X軸およびY軸は水平面に平行かつ互いに直交し、Z軸はX軸およびY軸に直交する鉛直方向を示す。
図5では、集束イオンビーム装置D1に備えられる集束イオンビーム鏡筒A1は、Z軸と平行、つまり鉛直方向に備えられる。イオンビームBは、集束イオンビーム鏡筒A1からZ軸の負の向きに試料SP1に照射される。
一方、走査型電子顕微鏡D2に備えられる電子ビーム鏡筒B1は、Z軸から所定の角度だけ傾いて備えられる。電子ビームEBは、電子ビーム鏡筒B1から当該所定の角度だけ傾いて試料SP1に照射される。当該所定の角度は、例えば水平面から30~60°の範囲で設定される。
【0052】
ここでFIB作動距離WDa1は、集束イオンビーム鏡筒A1の先端と、試料SP1の表面との間の距離である。SEM作動距離WDb1は、走査型電子顕微鏡D2の作動距離であり、電子ビーム鏡筒B1の先端と、試料SP1の表面との間の距離である。
走査型電子顕微鏡D2の像分解能を確保するため、FIB作動距離WDa1の方がSEM作動距離WDb1よりも長い。FIB作動距離WDa1は、例えば8~16mmの範囲で設定される。SEM作動距離WDb1は、例えば2~7mmの範囲で設定される。
【0053】
図6は、本実施形態に係るFIB作動距離WDa1とビームブースター電圧Vbとの関係の一例を示す図である。グラフGは、加速電圧が1kVの場合に、ビームブースター電圧Vbの値(ビームブースター電圧値Eb)に対するCPに合焦可能なFIB作動距離WDa1を示すグラフである。グラフGの左上の領域は合焦不可能なFIB作動距離WDa1に対応し、グラフGの右下の領域は合焦可能なFIB作動距離WDa1に対応する。つまりグラフGはCPに合焦可能か不可能かの境界を表している。グラフGによれば、ビームブースター電圧Vbの絶対値が大きくなるほど、合焦可能なFIB作動距離WDa1は短くなる傾向がある。
【0054】
例えば、点P1に着目すると、FIB作動距離WDa1が16mmの場合には、合焦可能であるためには、ビームブースター電圧Vbの値の絶対値を6kV以下とする必要があることがわかる。
【0055】
ここで
図7を参照し、制御部9がビームブースター電圧値Ebを設定する処理について説明する。
図7は、本実施形態に係るビームブースター電圧値Ebの設定処理の一例を示す図である。
ステップS10:処理部90は、PC17から加速電圧値Eaccを取得する。
ステップS20:処理部90は、記憶部91から電圧テーブルTを読み出す。
【0056】
ステップS30:処理部90は、読み出した電圧テーブルTに基づいて、加速電圧値Eaccに応じたビームブースター電圧値Ebを設定する。ここで処理部90は、ビームブースター電圧値Ebとして、電圧テーブルTに基づいて加速電圧値Eaccに対応するビームブースター電圧設定値TEbに等しいか所定の値だけ低いビームブースター電圧値Ebを算出する。処理部90は、算出したビームブースター電圧値Ebをビームブースター電源部7に供給することによって、ビームブースター電圧値Ebを設定する。
【0057】
したがって、制御部9は、加速電源10がイオンビームBに印加する加速電圧Vaccの値である加速電圧値Eaccと、ビームブースター4がイオンビームBに印加するビームブースター電圧Vbの値であるビームブースター電圧値Ebを、イオンビームBの焦点距離FBとに応じて予め決められた設定値であるビームブースター電圧設定値TEbに基づいて設定する。
ここで、電圧テーブルTとは、加速電圧値Eaccとビームブースター電圧設定値TEbとの組である。したがって、制御部9は、加速電圧値Eaccとビームブースター電圧設定値TEbとの組を記憶する記憶部91から読み出した組に基づいて、ビームブースター電圧値Ebをビームブースター電圧設定値TEbに設定する。
【0058】
なお、本実施形態では、制御部9が記憶部91を備える場合について説明したが、これに限らない。記憶部91は、複合荷電粒子ビーム装置Dの外部に備えられてもよい。記憶部91が複合荷電粒子ビーム装置Dの外部に備えられる場合、例えば、記憶部91は、外部記憶装置や、クラウドサーバーとして備えられる。
また記憶部91が電圧テーブルTを記憶する代わりに、記憶部91が加速電圧値Eaccからビームブースター電圧値Ebを算出する演算式を記憶し、制御部9はこの演算式に基づいてビームブースター電圧値Ebを算出して設定してもよい。
【0059】
なお、本実施形態では、集束イオンビーム鏡筒A1が鉛直方向に備えられ、電子ビーム鏡筒B1が鉛直方向から所定の角度だけ傾いて備えられる場合について説明したが、これに限らない。
ここで
図8及び
図9を参照し、集束イオンビーム鏡筒A1、及び電子ビーム鏡筒B1の配置の変形例について説明する。
【0060】
図8は、本実施形態の変形例に係る集束イオンビーム鏡筒A2、及び電子ビーム鏡筒B2の配置の第1の例を示す図である。
図8では、集束イオンビーム鏡筒A2は、Z軸から所定の角度だけ傾いて備えられる。イオンビームBは、集束イオンビーム鏡筒A2から当該所定の角度だけ傾いて試料SP2に照射される。
一方、電子ビーム鏡筒B2は、Z軸と平行、つまり鉛直方向に備えられる。電子ビームEBは、電子ビーム鏡筒B2からZ軸の負の向きに試料SP2に照射される。
FIB作動距離WDa2の方がSEM作動距離WDb2よりも長い。
【0061】
図9は、本実施形態の変形例に係る集束イオンビーム鏡筒A3、及び電子ビーム鏡筒B3の配置の第2の例を示す図である。
図9では、集束イオンビーム鏡筒A3は、X軸と平行、つまり水平方向に備えられる。イオンビームBは、集束イオンビーム鏡筒A2からX軸の負の向きに試料SP3に照射される。
一方、電子ビーム鏡筒B3は、Z軸と平行、つまり鉛直方向に備えられる。電子ビームEBは、電子ビーム鏡筒B3からZ軸の負の向きに試料SP3に照射される。
FIB作動距離WDa3の方がSEM作動距離WDb3よりも長い。
【0062】
以上に説明したように、本実施形態に係る複合荷電粒子ビーム装置Dでは、荷電粒子ビーム(イオンビームB)の所望の加速電圧に応じて集束イオンビームをCPに合焦可能なビームブースター4のビームブースター電圧Vbの値(ビームブースター電圧値Eb)を設定できる。
【0063】
本発明の効果を、Ga(ガリウム)集束イオンビームによる透過電子顕微鏡用薄片試料作製を例に説明する。加工は以下の3ステップで実施する。
(1)粗加工
集束イオンビームの加速電圧を30kV、ビーム電流を10nAとして薄片の周辺部の加工を行う。薄片の周辺部を高加速電圧、及び大電流により加工レートの大きな条件で加工を行うことは公知である(特許文献1)。加速電圧30kVでは色収差やクーロン相互作用によるビームボケは顕著ではないため、ビームブースターの設定電圧は0Vとする。本粗加工により薄片の幅を0.7μmまで削り込む。薄片の幅は、薄片加工部と同一点に照射されている電子ビームによる走査電子顕微鏡像により、加工の進行状況をほぼリアルタイムで観察することで確認する。但し加速電圧が30kVのため、Si層においてはGa注入および原子間の衝突カスケードにより25nmの深さのダメージ層が形成される。薄片の両面にそれぞれ表面から25nmの深さのダメージ層が形成される。
【0064】
(2)中間加工
集束イオンビームの加速電圧を1kV、ビーム電流を200pAとして、上述した粗加工で形成されたダメージ層をエッチングする。その際に新たに形成されるダメージ層の厚みを極力薄くするために、加速電圧を下げて加工を行う。加速電圧1kVでは色収差やクーロン相互作用によるビームボケは顕著になるため、ビームブースターの設定電圧は
図4を参照して-7kVを設定する。本中間加工により薄片の幅を0.3μmまで削り込む。薄片の幅は、粗加工と同様に、薄片加工部と同一点に照射されている電子ビームによる走査電子顕微鏡像により、加工の進行状況をほぼリアルタイムで観察することで確認する。但し加速電圧が1kVのため、Si層においてはGa注入および原子間の衝突カスケードにより3nmのダメージ層が形成される。薄片の両面にそれぞれ表面から3nmの深さのダメージ層が形成される。
【0065】
(3)仕上げ加工
集束イオンビームの加速電圧を0.5kV、ビーム電流を50pAとして、上述した中間加工で形成されたダメージ層をエッチングしてダメージ層を薄くしつつ、薄片の厚さも薄く仕上げる。その際に新たに形成されるダメージ層の厚みを極力薄くするために、加速電圧をさらに下げて加工を行う。加速電圧0.5kVでは色収差やクーロン相互作用によるビームボケはさらに顕著になるため、ビームブースターの設定電圧は
図4を参照して-4kVを設定する。このとき、本発明によるビームブースターの設定方法を使用しない場合、例えば上述した中間仕上げの条件であるビームブースターの設定電圧と同じ-7kVを設定すると、集束イオンビームの焦点を薄片試料に合わせることができない。本仕上げ加工により薄片の幅を0.1μm(=100nm)まで削り込む。薄片の幅は、上述した加工と同様に、薄片加工部と同一点に照射されている電子ビームによる走査電子顕微鏡像により、加工の進行状況をほぼリアルタイムで観察することで確認する。但し加速電圧が0.5kVのため、Si層においてはGa注入および原子間の衝突カスケードにより2nmのダメージ層が形成される。薄片の両面にそれぞれ表面から2nmの深さのダメージ層が形成される。
【0066】
以上の手順により厚さ0.1μm(=100nm)、薄膜表面のダメージ層4nm(2nm×2)の薄片を得る。薄片厚さに対するダメージ層の厚さは4/100(=4%)であり、高品位の薄片加工が可能である。
【0067】
上述したように一般に複合荷電粒子ビーム装置では、集束イオンビームの焦点がCPに合わせられることが要求される。本実施形態に係る複合荷電粒子ビーム装置Dでは、電圧テーブルTは、CPに合焦可能な加速電圧値Eaccとビームブースター電圧設定値TEbとの組合せが予め求められたテーブルであり、集束イオンビームの所望の加速電圧に応じてCPに合焦可能なビームブースター電圧Vbの値(ビームブースター電圧値Eb)を設定できる。
【0068】
なお、ビームブースターを搭載した走査型電子顕微鏡においても、電子ビームの焦点位置がブースター電圧の印加により制限される課題が発生するが、電子ビームでは作動距離が短いためこの課題は顕在化していない。集束イオンビームにおいても、集束イオンビームの作動距離を短くすればこの課題は顕在化しないが、走査型電子顕微鏡との配置の関係上、集束イオンビームの作動距離が電子ビームの作動距離に比べて長くなる。上述したように、これは走査型電子顕微鏡の像分解能を確保するためである。
【0069】
上述した実施形態における複合荷電粒子ビーム装置Dは集束イオンビームと電子ビームとの2本の荷電粒子ビームを備えるものである。複合荷電粒子ビーム装置Dにさらにアルゴンイオンビーム等の第三の荷電粒子ビームを設置した場合、3本の荷電粒子ビームが試料上の同一点に照射可能な構成となっていれば、上述と同様の方法で集束イオンビームのブースター電圧を制御することで、集束イオンビームの所望の加速電圧に応じてCPに合焦可能なビームブースター電圧Vbの値(ビームブースター電圧値Eb)を設定できる。
3本の荷電粒子ビームが試料上の同一点に照射できない場合、例えば集束イオンビームと電子ビームとの試料上の同一照射点CP1と、集束イオンビームとアルゴンイオンビームとの試料上の同一照射点CP2を定義し、それぞれに対応する電圧テーブルT-1およびT-2を用意して集束イオンビームのビームブースター電圧Vbを設定する。試料に集束イオンビームと電子ビームとの照射を行うプロセスでは電圧テーブルT-1を使用して集束イオンビームのビームブースター電圧Vbを設定し、試料に集束イオンビームとアルゴンイオンビームの照射を行うプロセスでは電圧テーブルT-2を使用して集束イオンビームのビームブースター電圧Vbを設定する。
さらに荷電粒子ビームが増えた場合は上記の方法を拡張して、対応する電圧テーブルT-nを用意することで、CPnに合焦可能なビームブースター電圧Vbの値(ビームブースター電圧値Eb)を設定できる。
【0070】
なお、上述した実施形態における複合荷電粒子ビーム装置Dの一部、例えば、制御部9をコンピュータで実現するようにしてもよい。その場合、この制御機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することによって実現してもよい。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、複合荷電粒子ビーム装置Dに内蔵されたコンピュータシステムであって、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものとする。また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD-ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。さらに「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムを送信する場合の通信線のように、短時間、動的にプログラムを保持するもの、その場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリのように、一定時間プログラムを保持しているものも含んでもよい。また上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであってもよく、さらに前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるものであってもよい。
また、上述した実施形態における制御部9の一部、または全部を、LSI(Large Scale Integration)等の集積回路として実現してもよい。制御部9の各機能ブロックは個別にプロセッサ化してもよいし、一部、または全部を集積してプロセッサ化してもよい。また、集積回路化の手法はLSIに限らず専用回路、または汎用プロセッサで実現してもよい。また、半導体技術の進歩によりLSIに代替する集積回路化の技術が出現した場合、当該技術による集積回路を用いてもよい。
【0071】
以上、図面を参照してこの発明の一実施形態について詳しく説明してきたが、具体的な構成は上述のものに限られることはなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲内において様々な設計変更等をすることが可能である。
【符号の説明】
【0072】
D…複合荷電粒子ビーム装置、D1…集束イオンビーム装置、D2…走査型電子顕微鏡、1…イオン源制御部、10…加速電源、3…コンデンサレンズ、4…ビームブースター、5…対物レンズ、9…制御部、91…記憶部、T…電圧テーブル、Eb…ビームブースター電圧値、TEb…ビームブースター電圧設定値、Eacc…加速電圧値