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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-07
(45)【発行日】2022-10-18
(54)【発明の名称】可塑性油脂組成物
(51)【国際特許分類】
   A23D 9/00 20060101AFI20221011BHJP
【FI】
A23D9/00 502
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018133688
(22)【出願日】2018-07-13
(65)【公開番号】P2020010614
(43)【公開日】2020-01-23
【審査請求日】2021-06-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000227009
【氏名又は名称】日清オイリオグループ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】▲羽▼染 芳宗
(72)【発明者】
【氏名】將野 喜之
(72)【発明者】
【氏名】日▲高▼ 一郎
【審査官】飯室 里美
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/051910(WO,A1)
【文献】特開昭52-071390(JP,A)
【文献】特開2004-285193(JP,A)
【文献】特開2002-121584(JP,A)
【文献】油化学,1995年10月01日,第44巻,第10号,p.702-712
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23D
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
50℃以上の融点と2鎖長β型結晶を有する油脂粉末を含む粉末油脂組成物を含有する可塑性油脂組成物であって、
前記可塑性油脂組成物に含まれる油脂に占める前記油脂粉末の割合が、1~10質量%であり、
前記可塑性油脂組成物に含まれる油脂に占めるHHO、OHOおよびHOHの合計含有量が25~38.9質量%、かつ、HHO含有量とOHO含有量の合計量(HHO+OHO)に対する、HOH含有量の質量比(HOH/(HHO+OHO))が0.3~2.0であり、
前記可塑性油脂組成物に含まれる油脂の油脂結晶が2鎖長β型を含む
前記可塑性油脂組成物。
ただし、H、O、HHO、OHOおよびHOHは、以下を意味する。
H:炭素数16~24の飽和脂肪酸
O:オレイン酸
HHO:グリセロールの1位または3位にオレイン酸(O)、2位および3位、または、
1位および2位に炭素数16~24の飽和脂肪酸(H)がエステル結合したトリアシルグ
リセロール
OHO:グリセロールの1位および3位にオレイン酸(O)、2位に炭素数16~24の
飽和脂肪酸(H)がエステル結合したトリアシルグリセロール
HOH:グリセロールの2位にオレイン酸(O)、1位および3位に炭素数16~24の
飽和脂肪酸(H)がエステル結合したトリアシルグリセロール
【請求項2】
前記油脂粉末が50μm以下の平均粒径を有する、請求項に記載の可塑性油脂組成物。
【請求項3】
前記油脂粉末が、グリセリンの1位~3位に炭素数xの脂肪酸残基Xを有する1種以上のXXX型トリグリセリドを含み、前記炭素数xは14~22から選択される整数である、請求項1または2に記載の可塑性油脂組成物。
【請求項4】
前記粉末油脂組成物のゆるめ嵩密度が0.05~0.6g/cmである、請求項1~の何れか1項に記載の可塑性油脂組成物。
【請求項5】
前記可塑性油脂組成物に含まれる油脂のX線回折測定における4.6Å/(4.6Å+4.2Å)が0.4以上1以下である、請求項1~4の何れか1項に記載の可塑性油脂組成物。
ただし、4.6Å、4.2Åおよび4.6Å/(4.6Å+4.2Å)は、以下を意味する。
4.6Å:2θ=4.5~4.7Åに検出されるX線回折ピークの強度
4.2Å:2θ=4.1~4.3Åに検出されるX線回折ピークの強度
4.6Å/(4.6Å+4.2Å):4.6Åと4.2Åの和に対する、4.6Åの比
【請求項6】
請求項1~の何れか1項に記載の可塑性油脂組成物を含む食品。
【請求項7】
請求項1~5の何れか1項に記載の可塑性油脂組成物の製造方法であって、
50℃未満の融液状態にある可塑化前のベースとなる油脂組成物、50℃以上の融点と2鎖長β型結晶を有する油脂粉末を含む粉末油脂組成物を分散した後、冷却可塑化する、前記可塑性油脂組成物の製造方法。
【請求項8】
前記冷却可塑化後に、15~35℃で3時間以上、調温する、請求項7に記載の可塑性油脂組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可塑性油脂組成物に含まれる油脂が2鎖長β型の結晶多形を有する可塑性油脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
可塑性油脂組成物は、ベーカリー生地への練り込みや折り込みに使用される。また、スプレッド、コーティングクリームおよびサンドクリームなどの用途に適している。可塑性油脂組成物は、典型的にはバターである。バターが使用されたベーカリー食品は、良好な風味と口どけを有する。しかしながら、バターは、高価であり、また、経時的に物性が変化するので、使い難い。そこで、安価で作業性がよい、バター(乳脂)以外の動植物性油脂を使用した、マーガリン、ファットスプレッド、ショートニングなどが開発されてきた。
【0003】
特にトランス脂肪酸の問題以降、可塑性油脂組成物には、動植物性油脂、および、エステル交換および/または分別された油脂が使用されている。しかしながら、エステル交換および/または分別により生成するトリアシルグリセロールは、SSS、SSU、SUS、SUU、USU、UUU(S は飽和脂肪酸、Uはシス不飽和脂肪酸)に限られるため、可塑性油脂組成物を改質する選択肢は限られる。
【0004】
そのような状況下、例えば、特開2002-069484号公報は、SUSとUSUとからなるコンパウンド結晶を含有する油脂組成物を開示する。コンパウンド結晶は、安定な2鎖長のβ型結晶である。そのため、油脂組成物の経時的な物性の変化は、非常に少ないと考えられている。しかしながら、SUSとUSUとがコンパウンド結晶を形成するためには、SUSとUSUの存在比が1:1に近く、かつ、油脂組成物に含まれる油脂に占めるSUSおよびUSUの含有量が高い、必要がある。SUSおよびUSUの含有量が高い油脂を得るためには、高度な油脂加工技術が必要とされる。したがって、コンパウンド結晶の利用は、コストを非常に高くする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2002-069484号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、低いトランス脂肪酸含有量、少ない物性の変化および良好な作業性、を有する可塑性油脂組成物の開発が求められていた。
【0007】
本発明の目的は、低いトランス脂肪酸含有量、少ない物性の変化および良好な作業性、を有する可塑性油脂組成物、および、その製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題について鋭意研究を行った。その結果、可塑性油脂組成物が、50℃以上の融点と2鎖長β型結晶を有する油脂粉末を含むことにより、可塑性油脂組成物に含まれる油脂が、2鎖長β型の安定な結晶多形をとり得ることを見出した。これにより、本発明は完成された。すなわち、本発明は、以下の態様を含み得る。
【0009】
[1]粉末油脂組成物を含有する可塑性油脂組成物であって、
前記粉末油脂組成物が、50℃以上の融点と2鎖長β型結晶を有する油脂粉末を含み、
前記可塑性油脂組成物に含まれる油脂の油脂結晶が2鎖長β型を含む、
前記可塑性油脂組成物。
[2]前記可塑性油脂組成物に含まれる油脂に占める前記油脂粉末の割合が、0.5~30質量%である、[1]の可塑性油脂組成物。
[3]前記可塑性油脂組成物に含まれる油脂の、HHO含有量とOHO含有量の合計量(HHO+OHO)に対する、HOH含有量の質量比(HOH/(HHO+OHO))が0.3~2.0である、[1]または[2]の可塑性油脂組成物。
ただし、H、O、HHO、OHOおよびHOHは、以下を意味する。
H:炭素数16~24の飽和脂肪酸
O:オレイン酸
HHO:グリセロールの1位または3位にオレイン酸(O)、2位および3位、または、1位および2位に炭素数16~24の飽和脂肪酸(H)がエステル結合したトリアシルグリセロール
OHO:グリセロールの1位および3位にオレイン酸(O)、2位に炭素数16~24の飽和脂肪酸(H)がエステル結合したトリアシルグリセロール
HOH:グリセロールの2位にオレイン酸(O)、1位および3位に炭素数16~24の飽和脂肪酸(H)がエステル結合したトリアシルグリセロール
[4]前記可塑性油脂組成物に含まれる油脂に占めるHHO、OHOおよびHOHの合計含有量が、10~60質量%である、[1]~[3]の何れか1つの可塑性油脂組成物。
[5]前記油脂粉末が50μm以下の平均粒径を有する、[1]~[4]の何れか1つの可塑性油脂組成物。
[6]前記油脂粉末の粒子が2.5以上のアスペクト比(2)を有する板状形状である、[1][5]の何れか1つの可塑性油脂組成物。
[7]前記油脂粉末が、グリセリンの1位~3位に炭素数xの脂肪酸残基Xを有する1種以上のXXX型トリグリセリドを含み、前記炭素数xは14~22から選択される整数である、[1]~[6]の何れか1つの可塑性油脂組成物。
[8]前記粉末油脂組成物のゆるめ嵩密度が0.05~0.6g/cmである、[1]~[7]の何れか1つの可塑性油脂組成物。
[9][1]~[8]の何れか1つの可塑性油脂組成物を含む食品。
[10]50℃未満の融液状態にある可塑性油脂組成物生地に、50℃以上の融点と2鎖長β型結晶を有する油脂粉末を含む粉末油脂組成物を分散した後、冷却する、可塑性油脂組成物の製造方法。
[11]50℃以上の融点と2鎖長β型結晶を有する油脂粉末を有効成分とする、可塑性油脂組成物の結晶化促進剤。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、可塑性油脂組成物に含まれる油脂が2鎖長β型の安定な結晶多形を有する可塑性油脂組成物を提供する。本発明は、また、粉末油脂組成物を使用した可塑性油脂組成物の製造方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】芯物質表面に油脂粉末を付着させたときの顕微鏡写真を模式的に示した図である。図中の、Aは芯物質であり、Bは油脂粉末である。線分abの長さ(芯物質表面に付着した粒子の付着面からの垂直方向の長さ)が、この油脂粉末の厚さの値である。
図2】粉末油脂組成物Aをガラスビーズ表面上に付着させたときの顕微鏡写真(1500倍)であり、粒子の厚さとして測定した部分を、直線で示している(2か所)。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の可塑性油脂組成物について順を追って記述する。
【0013】
<粉末油脂組成物>
本発明の可塑性油脂組成物は、50℃以上の融点と2鎖長β型結晶を有する油脂粉末を含む粉末油脂組成物を含む。当該粉末油脂組成物は、常温(20℃)で粉末状の固体である。また、当該50℃以上の融点と2鎖長β型結晶を有する油脂粉末の原料となる油脂は、食用油脂である限り特に制限はない。例えば、50℃以上の融点を有する、パームステアリン、極度硬化菜種油、極度硬化高エルシン酸菜種油、極度硬化ひまわり油、極度硬化紅花油、極度硬化パーム油などが挙げられる。これらの50℃以上の融点を有する油脂は、1種または2種以上を組み合わせて使用してもよい。上記油脂粉末の原料となる油脂の融点は、好ましくは55℃以上であり、より好ましくは58℃以上であり、さらに好ましくは61℃以上である。油脂粉末の原料となる油脂の融点が上記範囲内にあると、2鎖長β型の結晶シードとして効果的に機能する。なお、油脂粉末(の原料となる油脂)の融点は、基準油脂分析試験法(日本油化学会編-1996)2.2.4.2融点(上昇融点)に準じて測定できる。
【0014】
上記粉末油脂組成物に含まれる油脂粉末は、2鎖長β型結晶を含有する。ここで、油脂結晶が2鎖長とは、油脂結晶の長面間隔をX線回折測定することにより判定される。すなわち、油脂結晶の長面間隔を、2θが0~8度の範囲で測定する。このとき、40~50Åに相当する回折ピークを検出し、60~65Åに相当する回折ピークを検出しないか、検出してとしても40~50Åに相当する回折ピークの回折強度の1/5未満(好ましくは1/10未満)の場合に、その油脂結晶は2鎖長構造であると判定される。また、ここで、β型とは、油脂の結晶多形の一つである。油脂の結晶には、同一組成でありながら、異なる副格子構造(結晶構造)を持つものがあり、結晶多形と呼ばれている。代表的には、六方晶型、斜方晶垂直型および三斜晶平行型があり、それぞれα型、β’型およびβ型と呼ばれている。ここで、油脂結晶の結晶形がβ型であるとは、上記油脂結晶が、2θが17~26度のX線回折測定において、4.5~4.7Å、好ましくは4.6Å付近に回析ピークを有し、特に、4.1~4.3Å、好ましくは4.2Å付近に回折ピークを有さない場合である。より具体的には、X線回折測定において、β型の特徴的ピークである2θ=19°(4.6Å)付近のピーク強度とα型(およびβ’型)の特徴的ピークである2θ=21°(4.2Å)付近のピーク強度の比率:19°/(19°+21°)[4.6Å/(4.6Å+4.2Å)]を算出することでβ型結晶の存在量を表す指標とできる。本発明では、上記ピーク強度比が1であることが好ましい。しかし、ピーク強度比の下限値が、例えば0.4以上、好ましくは0.5以上、より好ましくは0.6以上、さらに好ましくは0.7以上、ことさらに好ましくは0.75以上、最も好ましくは0.8以上であればよい。ピーク強度比が0.4以上であれば、油脂結晶の50質量%超がβ型であるとみなすことができる。ピーク強度比の上限値は1であることが好ましいが、0.99以下、0.98以下、0.95以下、0.93以下、0.90以下、0.85以下、0.80以下などであってもかまわない。ピーク強度比は、上記下限値および上限値のいずれか、もしくは、任意の組み合わせであり得る。油脂粉末の油脂結晶が2鎖長β型(ピーク強度比が上記範囲内)であると、2鎖長β型結晶シードとして効果的に機能する。
【0015】
上記の油脂の結晶多形を同定するX線回折法を補足説明する。回折の条件は下記のブラッグの式によって与えられる。
2dsinθ=nλ(n=1,2,3・・・)
この式を満たす位置に回折ピークが現れる。ここでdは格子定数、θは回折(入射)角、λはX線の波長、nは自然数である。短面間隔に対応する回折ピークの2θ=16~27°からは、結晶中の側面のパッキング(副格子)に関する情報が得られ、多形の同定を行なうことができる。特にトリアシルグリセロールの場合、2θ=19、23、24°(4.6Å付近、3.9Å付近、3.8Å付近)にβ型の特徴的ピークが、21°(4.2Å)付近にα型の特徴的なピークが出現する。なお、X線回折測定は、例えば、20℃に維持したX線回折装置(例えば、(株)リガク、試料水平型X線回折装置UItimaIV)を用いて測定される。X線の光源としてはCuKα線(1.54Å)が最もよく利用される。X線回折の測定により得られる回折ピークの強度解析においては、油脂の非晶質部分がベースラインに及ぼす影響を除くための補正を行うのが適切である。例えば、Sonneveld-Visser法などによる、バックグラウンド除去処理を行ってもよい。
【0016】
上記粉末油脂組成物に含まれる油脂粉末は、好ましくは、30μm以下の平均粒径を有する。当該油脂粉末の平均粒径は、好ましくは20μm未満であり、より好ましくは2~16μmであり、さらに好ましく4~13μmである。なお、平均粒径(有効径)は、粒度分布測定装置(例えば、日機装株式会社製 Microtrac MT3300ExII)でレーザー回折散乱法(ISO133201、ISO9276-1)によって測定した値(d50)である。有効径とは、測定対象となる油脂粉末の実測回折パターンが、球形と仮定して得られる理論的回折パターンに適合する場合の、当該球形の粒径を意味する。このように、レーザー回折散乱法の場合、球形と仮定して得られる理論的回折パターンと、実測回折パターンを適合させて有効径を算出しているので、測定対象が板状形状であっても球状形状であっても同じ原理で測定できる。50℃以上の融点と2鎖長β型結晶を有する油脂粉末の平均粒径(平均粒子径)が上記範囲内にあると、可塑性油脂組成物は良好な口どけを有する。
【0017】
上記粉末油脂組成物は、50℃以上の融点と2鎖長β型結晶を有する油脂粉末の他に、乳化剤、香料、脱脂粉乳、全脂粉乳、ココアパウダー、砂糖、デキストリン、カゼインナトリウムなどのその他の成分を含んでいてもよい。これらその他の成分の量は、本発明の効果を損なわない限り任意の量とすることができる。例えば、粉末油脂組成物の全質量を100質量%とした場合、その他の成分は、好ましくは0~70質量%であり、より好ましくは0~50質量%であり、さらに好ましくは0~30質量%である。その他の成分は、その90質量%以上が、好ましくは平均粒径1000μm以下の紛体であり、より好ましくは平均粒径500μm以下の紛体である。
【0018】
上記粉末油脂組成物の好ましい態様の1つとしては、実質的に上記50℃以上の融点と2鎖長β型結晶を有する油脂粉末からなる粉末油脂組成物が挙げられる。また、「実質的に」とは、粉末油脂組成物に含まれる油脂粉末以外の成分の含有量が、粉末油脂組成物を100質量%とした場合、例えば、0~15質量%であり、好ましくは0~10質量%であり、より好ましくは0~5質量%であることを意味する。
【0019】
上記粉末油脂組成物の好ましい態様の1つとしては、また、上記50℃以上の融点と2鎖長β型結晶を有する油脂粉末の粒子が、板状の形状を呈する(板状形状である)。ここで、板状形状は、アスペクト比が、好ましくは1.2以上である。アスペクト比は、より好ましくは1.2~3.0であり、さらに好ましくは、1.3~2.5であり、ことさらに好ましくは1.4~2.0である。なお、ここでいうアスペクト比とは、粒子図形に対して、面積が最小となるように外接する長方形で囲み、その長方形の長辺の長さと短辺の長さの比と定義される。よって、粒子が球状形状の場合は、アスペクト比は1.1より小さくなる。従来技術である、極度硬化油等の常温で固体脂含量の高い油脂を溶解して直接噴霧する方法では、油脂粉末の粒子が表面張力によって、球状形状となり、アスペクト比はおおよそ1.1未満となる。そして、前記アスペクト比は、例えば、光学顕微鏡や走査型電子顕微鏡などによる直接観察により、任意に選択した粒子について、その長軸方向の長さおよび短軸方向の長さを計測することによって、計測した個数の平均値として求めることができる。
【0020】
また、上記50℃以上の融点と2鎖長β型結晶を有する油脂粉末の粒子形状は、その粒子のアスペクト比(2)を用いて表現することも可能である。本発明におけるアスペクト比(2)とは、粒子の長径を厚さで除した値〔=長径/厚さ〕のことである。粒子が、完全な球形の場合には、アスペクト比(2)の値は1〔=1/1〕であり、粒子の扁平度合いが増す(厚さが薄くなる)ほどアスペクト比(2)の値は大きくなる。
粒子のアスペクト比(2)は、例えば、以下の(a)及び(b)の方法で測定することができる。
(a)粒子の電子顕微鏡写真から、1個1個の粒子について長径、及び厚さを測定できる場合
電子顕微鏡写真に写った1個1個の粒子について、長径及び厚さ(縦及び横)を測定し、それぞれの粒子について、アスペクト比(2)を求め、その平均値を粒子のアスペクト比(2)とする。例えば、粒子が球形のような場合に、この測定方法を用いることができる。
(b)粒子の電子顕微鏡写真から、1つ1つの粒子について長径、又は厚さを測定できない場合
例えば、粒子が扁平な形や板状形状の場合、電子顕微鏡写真に写った1個1個の粒子について、長径を測定することはできるが、厚さは写真では見えないことが多く、写真から直接測定することが難しい。このような場合、粒子をガラスビーズのような芯物質の表面に付着させて電子顕微鏡写真を撮り、芯物質表面に付着した粒子の付着面からの垂直方向の長さを、粒子の厚さとして測定し、この値を厚さとして用いる。
これを図1の模式図で説明すると、図1のAは芯物質、Bはアスペクト比(2)を測定する粒子で、線分abの長さ(芯物質表面に付着した粒子の付着面からの垂直方向の長さ)が、この粒子の厚さの値である。また、長径の値は、上述のレーザー回折散乱法に基づいて測定した平均粒径(d50)を用いる。このようにして測定した粒子の長径と厚さの値から、アスペクト比(2)〔=長径/厚さ〕を求めることができる。
【0021】
本発明の油脂粉末の粒子のアスペクト比(2)は、好ましくは2.5以上であり、より好ましくは2.5~100であり、さらに好ましくは3~50であり、ことさらに好ましくは3~20であり、最も好ましくは3~15である。上記50℃以上の融点と2鎖長β型結晶を有する油脂粉末のアスペクト比および/またはアスペクト比(2)が上記範囲内にあると、油脂粉末が2鎖長β型結晶シードとしてより効果的に機能する。
【0022】
上記粉末油脂組成物の好ましい態様の1つとしては、また、ゆるめ嵩密度が0.05~0.6g/cmである、粉末油脂組成物が挙げられる。粉末油脂組成物のゆるめ嵩密度は、例えば実質的に油脂粉末のみからなる場合、好ましくは0.1~0.5g/cm3であり、より好ましくは0.1~0.4g/cm3または0.15~0.4g/cm3であり、さらに好ましくは0.2~0.3g/cm3である。ここで「ゆるめ嵩密度」とは、粉体を自然落下させた状態の充填密度である。ゆるめ嵩密度(g/cm3)の測定は、例えば、内径15mm×25mLのメスシリンダーに、当該メスシリンダーの上部開口端から2cm程度上方から粉末油脂組成物の適量を落下させて疎充填し、充填された質量(g)の測定と容量(mL)の読み取りを行い、mL当たりの当該粉末油脂組成物の質量(g)を算出することで求められる。また、ゆるめ嵩密度は、(株)蔵持科学器械製作所のカサ比重測定器を使用し、JIS K-6720(又はISO 1060-1及び2)に基づいて測定したカサ比重から算出することもできる。具体的には、試料120mLを、受器(内径40mm×高さ85mmの100mL円柱形容器)の上部開口部から38mmの高さの位置から、該受器に落とす。受器から盛り上がった試料はすり落とし、受器の内容積(100mL)分の試料の質量(Ag)を秤量し、以下の式からゆるめ嵩密度を求めることができる。
ゆるめ嵩密度(g/mL)=A(g)/100(mL)
測定は3回行ってその平均値を取ることが好ましい。
【0023】
また、ゆるめ嵩密度は、次の方法でも測定することができる。
ゆるめ嵩密度(g/cm)は、ホソカワミクロン(株)のパウダテスタ(model PT-X)で測定することができる。
具体的には、パウダテスタに試料を仕込み、試料を仕込んだ上部シュートを振動させ、試料を自然落下により下部の測定用カップに落とす。測定用カップから盛り上がった試料はすり落とし、受器の内容積(100cm)分の試料の質量(Ag)を秤量し、以下の式からゆるめ嵩密度を求める。
ゆるめ嵩密度(g/cm)=A(g)/100(cm
また、内径15mm×25mLのメスシリンダーに、当該メスシリンダーの上部開口端から2cm程度上方から粉末油脂組成物の適量を落下させて疎充填し、充填された質量(g)の測定と容量(mL)の読み取りを行い、1mL当たりの当該粉末油脂組成物の質量(g)を算出することでも求めることができる。
【0024】
<粉末油脂組成物の製造方法>
本発明の可塑性油脂組成物に含まれる粉末油脂組成物の製造方法において、50℃以上の融点を有する油脂を、2鎖長β型結晶を有する粉末状の油脂結晶(油脂粉末あるいは油脂結晶粉末ともいう)とする方法は特に限定されず、凍結粉砕、押出造粒、噴霧冷却造粒など、従来公知の方法を適用してもよい。しかし、50℃以上の融点を有する油脂を、粉末状の油脂結晶とする好ましい態様の1つとしては、50℃以上の融点を有する油脂として、グリセリンの1位~3位に炭素数xの脂肪酸残基Xを有する1種以上のXXX型トリグリセリドを含み、前記炭素数xは14~22から選択される整数である、油脂を使用する態様が挙げられる。
【0025】
上記50℃以上の融点を有する油脂に含まれるXXX型トリグリセリドは、グリセリンの1位~3位に炭素数xの脂肪酸残基Xを有するトリグリセリドであり、各脂肪酸残基Xは互いに同一である。ここで、当該炭素数xは14~22から選択される整数であり、好ましくは16~22から選択される整数、より好ましくは16~20から選択される整数、さらに好ましくは16~18から選択される整数である。脂肪酸残基Xは、飽和あるいは不飽和の脂肪酸残基であってもよい。具体的な脂肪酸残基Xとしては、例えば、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、およびベヘン酸などの残基が挙げられる。しかし、これに限定するものではない。脂肪酸残基Xは、より好ましくは、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸およびベヘン酸であり、さらに好ましくは、パルミチン酸、ステアリン酸、およびアラキジン酸であり、ことさら好ましくは、パルミチン酸およびステアリン酸である。50℃以上の融点を有する油脂に含まれる当該XXX型トリグリセリドの含有量は、油脂の全質量を100質量%とした場合、例えば、50質量%以上、好ましくは60質量%以上、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上を下限とし、例えば、100質量%以下、好ましくは99質量%以下、より好ましくは95質量%以下を上限とする範囲である。XXX型トリグリセリドは1種類または2種類以上を用いることができ、好ましくは1種類または2種類であり、より好ましくは1種類が用いられる。XXX型トリグリセリドが2種類以上の場合は、その合計値がXXX型トリグリセリドの含有量となる。
【0026】
上記50℃以上の融点を有する油脂は、上記XXX型トリグリセリド以外の、その他のトリグリセリドを含んでいてもよい。その他のトリグリセリドは、複数の種類のトリグリセリドであってもよく、合成油脂であっても天然油脂であってもよい。天然油脂としては、例えば、パーム油、ココアバター、ヒマワリ油、菜種油、大豆油、綿実油などが挙げられる。上記50℃以上の融点を有する油脂を100質量%とした場合、上記XXX型トリグリセリド以外のその他のトリグリセリドは、1質量%以上、例えば、5~50質量%程度含まれていても問題はない。その他のトリグリセリドの含有量は、例えば、好ましくは0~30質量%、より好ましくは0~18質量%、さらに好ましくは0~15質量%、ことさらに好ましくは0~8質量%である。
【0027】
上記50℃以上の融点を有し、かつ、XXX型トリグリセリドを有する油脂は、溶融状態とし、特定の冷却温度に保ち、冷却固化することにより、噴霧やミル等の粉砕機による機械粉砕などの特別の加工手段を採らなくても、粉末状の油脂結晶(油脂粉末)を得ることができる。より具体的には、(a)上記50℃以上の融点を有し、かつ、XXX型トリグリセリドを有する油脂を準備し、任意に工程(b)として、工程(a)で得られた油脂を加熱し、前記油脂に含まれるトリグリセリドを融解して溶融状態の前記油脂を得、さらに(d)前記溶融状態の油脂を冷却固化して、2鎖長β型結晶を含有し、その粒子形状が板状である粉末状の油脂結晶(油脂粉末)を得る。
【0028】
上記工程(d)の冷却は、例えば、溶融状態の油脂を、当該油脂の融点より低い温度であって、かつ、次式:
冷却温度(℃) = 炭素数x × 6.6 - 68
から求められる冷却温度以上の温度で行われる。このような温度範囲で冷却すれば、β型の細かい油脂結晶ができるので、油脂結晶粉末を容易に得ることができる。
【0029】
また、上記工程(b)と(d)の間に、工程(c)として粉末生成を促進するための任意工程、例えば(c1)シーディング工程、(c2)テンパリング工程、および/または(c3)予備冷却工程を含んでいてもよい。さらに上記工程(d)で得られる油脂結晶粉末は、工程(d)の冷却後に得られる固形物を粉砕して粉末状の油脂結晶を得る工程(e)によって得られるものであってもよい。
【0030】
上記工程(e)において、冷却後に得られる固形物は、ハンマーミル、カッターミルなど、公知の粉砕加工手段を適用して、30μm以下の平均粒径を有する粉末状の油脂結晶(油脂結晶粉末あるいは油脂粉末)を生産することもできる。なお、上記工程において、50℃以上の融点を有し、かつ、XXX型トリグリセリドを有する油脂は、すでに述べた油脂以外の成分を0~15質量%含む油脂組成物の状態で工程(a)~(e)に供されてもよいし、β型油脂結晶粉末とした後、すでに述べた油脂以外のその他の成分と混合され、粉末油脂組成物としてもよい。
【0031】
上記のようにして得られた、本発明の可塑性油脂組成物に好適に使用できる、50℃以上の融点と2鎖長β型結晶を有する油脂粉末であって、かつ、XXX型トリグリセリドを有する油脂粉末は、好ましくは、アスペクト比が1.2以上あるいはアスペクト比(2)が2.5以上の板状形状であり、ゆるめ嵩密度が0.05~0.6g/cmである。なお、当該油脂粉末を含有する粉末油脂組成物については、本出願人が先に出願したPCT/JP2016/078122(特願2015-187271)の明細書に詳述されるので、詳細は割愛する。前記出願の内容は、本明細書の中に取り込まれる。
【0032】
<可塑性油脂組成物>
本発明の可塑性油脂組成物は、上記の、50℃以上の融点と2鎖長β型結晶を有する油脂粉末を含む粉末油脂組成物を含有する。本発明の可塑性油脂組成物に含まれる油脂に占める、50℃以上の融点と2鎖長β型結晶を有する油脂粉末の含有量は、好ましくは0.5~30質量%であり、より好ましくは1~20質量%であり、さらに好ましくは2~13質量%であり、ことさらに好ましくは3~8質量%である。本発明の可塑性油脂組成物に含まれる、50℃以上の融点と2鎖長β型結晶を有する油脂粉末の含有量が上記範囲内にあると、可塑性油脂組成物に含まれる油脂が2鎖長β型の安定な結晶多形をとり易い。
【0033】
本発明の可塑性油脂組成物は、水の含有量が3質量%以下である実質的に無水物であってもよいし、乳化物であってもよい。乳化物は、油中水型乳化物、水中油型乳化物、あるいは複合乳化物であってもよい。しかし、本発明の可塑性油脂組成物は、好ましくは無水物である。本発明の可塑性油脂組成物の具体例としては、例えば、マーガリン、ショートニングなどが挙げられる。
【0034】
本発明の可塑性油脂組成物に含まれる油脂の含有量は、粉末油脂組成物に含まれる油脂を含め、具体的な可塑性油脂組成物の特質に応じて適宜設定されればよい。例えば、ショートニングの場合、油脂の含有量は、好ましくは80~100質量%であり、より好ましくは90~100質量%であり、さらに好ましくは95~100質量%である。マーガリン(油中水型乳化物)の場合、油脂の含有量は、好ましくは40~96質量%であり、より好ましくは60~92質量%であり、さらに好ましくは70~88質量%である。
【0035】
本発明の可塑性油脂組成物に含まれる油脂の供給源としては、粉末油脂組成物に含まれる50℃以上の融点と2鎖長β型結晶を有する油脂粉末を除き、通常の食用油脂および/または含油食品素材に含まれる油脂が使用できる。食用油脂の具体例としては、大豆油、菜種油、綿実油、サフラワー油、ひまわり油、米油、コーン油、ゴマ油、オリーブ油、パーム油、パーム分別油(パームオレイン、パームスーパーオレイン、パーム中融点部、パームステアリンなど)、シア脂、シア分別油、サル脂、サル分別油、イリッペ脂、ココアバター、ヤシ油、パーム核油、豚脂、牛脂、乳脂などや、これらの混合油、加工油脂(水素添加油、エステル交換油、分別油など)などが挙げられる。これらの食用油脂は、1種または2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0036】
本発明の可塑性油脂組成物に含まれる油脂の油脂結晶は、2鎖長β型の結晶構造を含む。ここで、2鎖長β型結晶は上述のとおりである。本発明の可塑性油脂組成物に含まれる油脂の結晶が、2鎖長β型の結晶構造を有する程度は、上述のとおり、X線回折測定において、β型の特徴的ピークである2θ=19°(4.6Å)付近のピーク強度とα型(およびβ’型)の特徴的ピークである2θ=21°(4.2Å)付近のピーク強度の比率:19°/(19°+21°)[4.6Å/(4.6Å+4.2Å)]を算出することでβ型結晶の存在量を表す指標とできる。本発明では、上記ピーク強度比が1であることが好ましい。しかし、ピーク強度比の下限値が、例えば0.4以上、好ましくは0.5以上、より好ましくは0.6以上、さらに好ましくは0.7以上、ことさらに好ましくは0.75以上、最も好ましくは0.8以上であればよい。ピーク強度比が0.4以上であれば、油脂結晶の50質量%超がβ型であるとみなすことができる。ピーク強度比の上限値は1であることが好ましいが、0.99以下、0.98以下、0.95以下、0.93以下、0.90以下、0.85以下、0.80以下などであってもかまわない。ピーク強度比は、上記下限値および上限値のいずれか、もしくは、任意の組み合わせであり得る。
【0037】
本発明の可塑性油脂組成物に含まれる油脂は、好ましくは、HHO、OHOおよびHOHを含有する。以下、H、O、HHO、OHOおよびHOHは、次を意味する。Hは、炭素数16~24の飽和脂肪酸であり、好ましくは炭素数16~18の飽和脂肪酸である。Hは、好ましくは直鎖である。Oは、オレイン酸である。HHOは、OHHを含む非対称型トリアシルグリセロールを意味する。すなわち、HHOは、グリセロールの1位または3位にオレイン酸(O)、2位および3位、または、1位および2位に炭素数16~24の飽和脂肪酸(H)がエステル結合したトリアシルグリセロールである。OHOは、グリセロールの1位および3位にオレイン酸(O)、2位に炭素数16~24の飽和脂肪酸(H)がエステル結合したトリアシルグリセロールである。HOHは、グリセロールの2位にオレイン酸(O)、1位および3位に炭素数16~24の飽和脂肪酸(H)がエステル結合したトリアシルグリセロールである。
【0038】
本発明の可塑性油脂組成物に含まれる油脂は、好ましくは、上記の、HHO、OHOおよびHOHを、合計で、10~60質量%含有する。HHO、OHOおよびHOHの合計含有量(HHO+OHO+HOH)は、より好ましくは20~50質量%であり、さらに好ましくは25~45質量%である。また、本発明の可塑性油脂組成物に含まれる油脂は、好ましくは、HHO含有量とOHO含有量の合計量(HHO+OHO)に対する、HOH含有量の質量比(HOH/(HHO+OHO))が0.3~2.0である。HOH/(HHO+OHO)は、より好ましくは0.5~1.8であり、さらに好ましくは0.7~1.5であり、ことさらに好ましくは0.8~1.2である。本発明の可塑性油脂組成物に含まれる油脂の、HHO+OHO+HOHおよび/またはHOH/(HHO+OHO)が上記範囲内にあると、可塑性油脂組成物に含まれる油脂の油脂結晶が2鎖長β型をとり易い。
【0039】
なお、油脂に含まれる各トリアシルグリセロール含有量は、ガスクロマトグラフィー法(例えば、AOCS Ce5-86準拠)により測定できる。トリアシルグリセロールの対称性は、例えば、J.High Resol.Chromatogr.,18,105-107(1995)に準じて測定できる。油脂を構成する各脂肪酸の含有量は、ガスクロマトグラフィー法(例えば、AOCS Ce1f-96準拠)により測定できる。また、油脂のヨウ素価は、社団法人日本油化学会編、「基準油脂分析試験法」の「2.3.4.1-1996 ヨウ素価(ウィイス-シクロヘキサン法)」に準じて測定できる。
【0040】
本発明の可塑性油脂組成物に含まれる油脂は、好ましくは、非ラウリン系エステル交換油脂を含む。ここで、非ラウリン系エステル交換油脂は、エステル交換油脂の構成脂肪酸の全量に占めるラウリン酸の含有量が10質量%未満(好ましくは0~5質量%、より好ましくは0~2質量%)であるエステル交換油脂である。非ラウリン系エステル交換油脂は、エステル交換の原料油脂として、非ラウリン系油脂を含有することが好ましい。非ラウリン系油脂は、油脂を構成する脂肪酸全量に占める炭素数16以上の脂肪酸含有量が90質量%を超える油脂である。例として、菜種油、高エルシン酸菜種油、大豆油、コーン油、紅花油、綿実油、ヒマワリ油、カカオ脂、シア脂、サル脂、パーム油など、並びにこれらを分別や水素添加などの加工をした油脂が挙げられる。エステル交換の原料油脂に含まれる非ラウリン系油脂は、これらから選ばれる1種または2種以上が用いられてもよい。
【0041】
上記非ラウリン系エステル交換油脂は、その原料油脂として、パーム系油脂を含有することが好ましい。ここでパーム系油脂は、パーム油由来の油脂である。パーム系油脂としては、例えば、パーム油、パーム油の分別油およびそれらの加工油(硬化、エステル交換および分別のうち1種以上の処理がなされたもの)が挙げられる。より具体的には、1段分別油であるパームオレイン、パームステアリン、パームオレインの2段分別油であるパームオレイン(パームスーパーオレイン)およびパームミッドフラクション、パームステアリンの2段分別油であるパームオレイン(ソフトパーム)およびパームステアリン(ハードステアリン)、などが例示できる。非ラウリン系エステル交換油脂が、エステル交換の原料油脂として、パーム系油脂を使用する場合、原料油脂に占めるパーム系油脂の含有量は、好ましくは20~100質量%であり、より好ましくは40~100質量%であり、さらに好ましくは60~100質量%である。
【0042】
上記非ラウリン系エステル交換油脂は、エステル交換油脂の構成脂肪酸の全量に占めるラウリン酸の含有量が10質量%未満(好ましくは0~5質量%、より好ましくは0~2質量%)であり、エステル交換処理されたものであれば、エステル交換処理の前後で、分別、水素添加などの、その他の加工処理が単回、もしくは複数回繰り返されたものであってもよい。非ラウリン系エステル交換油脂は、ヨウ素価が、好ましくは20~80であり、より好ましくは30~75であり、さらに好ましくは40~70であり、ことさらに好ましくは45~65である。
【0043】
本発明の可塑性油脂組成物に含まれる油脂は、HOHの含有量が25質量%以上であるHOHに富む油脂(以下、HOH油脂ともいう)を含んでもよい。HOH油脂のHOH含有量は、好ましくは35質量%以上であり、より好ましくは45質量%以上である。HOH油脂に含まれるHOH含有量の上限は特に限定されない。しかし、HOH油脂に含まれるHOH含有量の上限は、好ましくは90質量%以下であり、より好ましくは80質量%以下であり、さらに好ましくは70質量%以下である。HOH油脂のHOH含有量の下限と上限は、上記の数値を任意に組合せてもよい。
【0044】
上記HOH油脂として、より具体的には、ココアバター、パーム油、シア脂、サル脂、イリッペ脂、コクム脂、アランブラッキア脂、モーラー脂、マンゴー核油、牛脂などの動植物油脂、あるいはこれらに混合、分別、エステル交換、水素添加などの1種以上の処理が適用されることにより得られる加工油脂が挙げられる。HOH油脂は、また、すでに知られているように、パルミチン酸、ステアリン酸、あるいは、それらの低級アルコールエステルと、ハイオレイックヒマワリ油などの高オレイン酸油脂との間で、1,3位選択性リパーゼ製剤を用いて、エステル交換反応をさせた後、必要に応じて分別することにより得られる油脂を使用してもよい。HOH油脂は、1種または2種以上を使用してもよい。HOH油脂は、好ましくは、パーム油および/またはパーム系油脂のHOHを豊富に含む画分である。パーム系油脂のHOHを豊富に含む画分としては、パーム中融点画分が挙げられる。HOH油脂のヨウ素価は、好ましくは30~65であり、より好ましくは35~60であり、さらに好ましくは40~55である。
【0045】
本発明の可塑性油脂組成物に含まれる油脂に占める、非ラウリン系エステル交換油脂の含有量は、好ましくは40~87質量%であり、より好ましくは50~82質量%であり、さらに好ましくは55~80質量%である。また、本発明の可塑性油脂組成物に含まれる油脂に占める、HOH油脂の含有量は、好ましくは10~57質量%であり、より好ましくは15~47質量%であり、さらに好ましくは20~42質量%である。また、本発明の可塑性油脂組成物に含まれる油脂における、上記の、非ラウリン系エステル交換油脂とHOH油脂の含有比は、好ましくは90:10~40:60であり、より好ましくは85:15~50:50であり、さらに好ましくは80:20~55:45である。本発明の可塑性油脂組成物に含まれる油脂に占める、上記の、非ラウリン系エステル交換油脂およびHOH油脂の、含有量または含有比が上記範囲内にあると、HOH/(HHO+OHO)の調整が容易である。
【0046】
本発明の可塑性油脂組成物に含まれる油脂は、10℃で液状または流動状である液体油を含有してもよい。液体油は、より好ましくは5℃で液状または流動状である。液体油の例としては、大豆油、菜種油、高オレイン酸菜種油、綿実油、ヒマワリ油、高オレイン酸ヒマワリ油、紅花油、高オレイン酸紅花油、コーン油、米油などが挙げられる。液体油は、油脂を構成する脂肪酸全量に占める不飽和脂肪酸の含有量が、好ましくは70質量%以上であり、より好ましくは80質量%以上である。本発明の可塑性油脂組成物に含まれる油脂に占める液体油の含有量は、好ましくは0~40質量%であり、より好ましくは0~30質量%であり、さらに好ましくは0~20質量%である。本発明の可塑性油脂組成物は、また、乳由来の油脂(バター、乳脂肪ならびにその分別油など)を含有してもよい。本発明の可塑性油脂組成物に含まれる油脂に占める乳由来の油脂の含有量は、好ましくは0~30質量%であり、より好ましくは0~20質量%であり、さらに好ましくは0~15質量%である。
【0047】
本発明の可塑性油脂組成物は、健康上懸念されるトランス脂肪酸の含有量を低減できる。本発明の可塑性油脂組成物のトランス脂肪酸含有量は、好ましくは0~5質量%であり、より好ましくは0~3質量%であり、さらに好ましくは0~1質量%である。
【0048】
本発明の可塑性油脂組成物は、油脂以外のその他の成分として、通常、ショートニング、マーガリンなどの可塑性油脂組成物に配合される成分を配合できる。その他の成分としては、水、レシチン、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステルなどの乳化剤、ゼラチン、グアーガム、キサンタンガムなどの増粘安定剤、食塩および塩化カリウムなどの塩味剤、酢酸、乳酸およびグルコン酸などの酸味料、糖類、糖アルコール類、ステビアおよびアスパルテームなどの甘味料、β-カロテン、カラメルおよび紅麹色素などの着色料、トコフェロール、茶抽出物(カテキンなど)およびルチンなどの酸化防止剤、小麦蛋白および大豆蛋白などの植物蛋白、全脂粉乳、脱脂粉乳および乳清蛋白などの乳製品、卵および卵加工品、香料、調味料、pH調整剤、食品保存料、果実、果汁、コーヒー、ナッツペースト、香辛料、カカオマス、ココアパウダー、穀類、豆類、野菜類、肉類および魚介類など、の食品素材や食品添加物が挙げられる。
【0049】
<可塑性油脂組成物の製造方法>
本発明の可塑性油脂組成物の製造方法は、50℃以上の融点と2鎖長β型結晶を有する油脂粉末を含む粉末油脂組成物を含み、可塑化された状態にできる方法であれば、特に限定されない。しかし、好ましい態様の1つとしては、可塑化(結晶化)前の融解状態にあるベースとなる油脂組成物(以下、ベース油脂組成物ともいう)に、50℃以上の融点と2鎖長β型結晶を有する油脂粉末を含む粉末油脂組成物を、混合ないし添加し、冷却可塑化(結晶化)する方法が挙げられる。融解状態にあるベース油脂組成物の温度は、好ましくは、粉末油脂組成物に含まれる油脂粉末の融点-5℃以下であり、より好ましくは、粉末油脂組成物に含まれる油脂粉末の融点-10℃以下である。例えば、粉末油脂組成物に含まれる油脂粉末の融点が55℃である場合、融解状態にあるベース油脂組成物の温度は、好ましくは、50℃以下である。50℃以上の融点と2鎖長β型結晶を有する油脂粉末を含む粉末油脂組成物とベース油脂組成物とを混合する割合は、50℃以上の融点と2鎖長β型結晶を有する油脂粉末とベース油脂組成物に含まれる油脂とを基準として、質量比で、好ましくは0.5:99.5~30:70であり、より好ましくは1:99~20:80であり、さらに好ましくは2:98~13:87であり、ことさらに好ましくは3:97~8:92である。
【0050】
本発明の可塑性油脂組成物がショートニングの場合、上記ベース油脂組成物は、典型的には。油脂と必要に応じて乳化剤などを含む、融液状の油脂組成物である。また、マーガリンの場合、典型的には、油脂と必要に応じて乳化剤などを含む融液状の油脂組成物に、水と必要に応じて食品添加素材などを含む水溶液を乳化させた、乳化油脂組成物である。ベース油脂組成物は、適時殺菌処理されてもよい。可塑化(結晶化)前の融解状態にあるベースとなる油脂組成物に、50℃以上の融点と2鎖長β型結晶を有する油脂粉末を含む粉末油脂組成物を、混合攪拌した後は、通常の可塑性油脂組成物の製造で行われる冷却可塑化を行ってもよい。冷却可塑化は、密閉型連続式チューブ冷却機、例えば、ボテーター、コンビネーター、パーフェクターなどの冷却可塑化装置を使用できる。冷却条件は、例えば-20℃/分より強く設定されてもよい。しかし、本発明の可塑性油脂組成物は、より緩慢な冷却条件で冷却可塑化されてもよい。より緩慢な冷却条件は、例えば、-5℃/分以下-20℃/分以上に設定されてもよいし、-5℃/分より弱く設定されてもよい。
【0051】
本発明の可塑性油脂組成物は、冷却可塑化後、調温されてもよい。より具体的には、上記冷却可塑化された可塑性油脂組成物は、好ましくは15~35℃で、より好ましくは18~32℃で、さらに好ましくは20~28℃で、調温されてもよい。調温時間は、例えば、3時間以上、6時間以上、12時間以上、24時間以上、36時間以上、48時間以上の、任意の時間に設定されてもよい。調温時間の上限は特に設定されない。しかし、240時間以下、168時間以下、120時間以下、72時間以下の、任意の時間に設定されてもよい。夏期においては、屋内に放置することで調温に代えてもよい。調温により、本発明の可塑性油脂組成物に含まれる油脂の2鎖長β型結晶構造がより強固にできる。
【0052】
<可塑性油脂組成物の特長と用途>
本発明の可塑性油脂組成物は、製菓製パンにおける作業性がよい。また、可塑性油脂組成物に含まれる油脂が2鎖長β型の安定な結晶多形を有するので、保存時の物性の変化が少ない(良好な作業性が維持される)。本発明の可塑性油脂組成物は、例えば、菓子・パンなどのベーカリー生地への練り込み用や折り込み用、ベーカリー食品へのスプレッド用やコーティング用、ならびに、無水クリームやバタークリームなどのクリーム用など、として好適に使用できる。特に、ベーカリー生地への練り込み用として好適に使用できる。
【実施例
【0053】
次に、例を挙げ、本発明をさらに詳しく説明する。しかし、本発明はこれらに何ら限定されない。また。以下において「%」は、特別な記載がない場合、質量%を示す。
【0054】
<分析方法>
・トランス脂肪酸
油脂のトランス脂肪酸含有量は、AOCS Ce1f-96に準じてガスクロマトグラフィー法で測定した。
・トリグリセリド組成
油脂の各トリアシルグリセロール含有量は、ガスクロマトグラフィー法(AOCS Ce5-86準拠)で測定した。トリアシルグリセロールの対称性は、銀イオンカラムクロマトグラフィー法(J.High Resol.Chromatogr.,18,105-107(1995)準拠)で測定した。
・X線回折測定
X線回折装置UltimaIV(株式会社リガク社製)を用いて、CuKα(λ=1.542Å)を線源とし、Cu用フィルタ使用、出力1.6kW、操作角0.96~30.0°、測定速度2°/分の条件で測定した。この測定により、4.6Å付近のピークのみを有し、4.1~4.2Å付近のピークを有しない場合は、油脂成分のすべてがβ型油脂結晶であると判断した。
なお、上記X線回析測定の結果から、ピーク強度比=[β型の特徴的ピークの強度(2θ=19°(4.6Å))/(α型(およびβ’型)の特徴的ピークの強度(2θ=21°(4.2Å))+β型の特徴的ピークの強度(2θ=19°(4.6Å)))]をβ型油脂結晶の存在量を表す指標として測定した。
【0055】
・ゆるめ嵩密度
実施例などで得られた粉末油脂組成物のゆるめ嵩密度(g/cm3)は、内径15mm×25mLのメスシリンダーに、当該メスシリンダーの上部開口端の2cm程度上方から粉末油脂組成物を落下させて疎充填し、充填された質量(g)の測定と容量(mL)の読み取りを行い、mL当たりの当該粉末油脂組成物の質量(g)を算出することで求めた。
・アスペクト比
走査型電子顕微鏡S-3400N(株式会社日立ハイテクノロジーズ製)により直接観察し、画像解析式粒度分布測定ソフトウェア(株式会社マウンテック製 Mac-View)を用いて、任意に選択した粒子について、その長軸方向の長さおよび短軸方向の長さを計測し、計測した個数の平均値として測定した。
・アスペクト比(2)
(A)本発明の粉末油脂組成物A(0056段落)の粒子のアスペクト比(2)
本発明の粉末油脂組成物Aは、板状形状であるため、顕微鏡写真から粒子の厚さを測定することが難しい。したがって、粒子の厚さは、粉末油脂組成物Aをガラスビーズに付着させたときの顕微鏡写真から測定した。また、長径の値は、レーザー回折散乱法に基づいて測定した平均粒径(d50)を用いた。
具体的には、ガラスビーズ(アズワン株式会社製、型番BZ-01、寸法0.105~0.125mmφ)に粉末油脂組成物Aを添加、混合することで、ガラスビーズ表面に粉末油脂組成物Aを付着させ、その様子を3Dリアルサーフェスビュー顕微鏡VE-8800(株式会社キーエンス製)で撮影した。ガラスビーズ表面に付着した1個の粉末油脂組成物Aの粒子の付着面から垂直方向の長さを、その粒子の厚さとして測定し、計25個の粒子の厚さの平均値を取り、その値を粉末油脂組成物Aの粒子の厚さの値とした。
図2は、粉末油脂組成物Aの粒子の厚さの測定に使用した電子顕微鏡写真(1500倍)の1つで、この写真では、写真中の直線で示した部分(2か所)の長さ(ガラスビーズ表面に付着した粒子の付着面からの垂直方向の長さ)を、粉末油脂組成物Aの粒子の厚さとして測定した。
また、長径の値は、上述のレーザー回折散乱法に基づいて測定した平均粒径(d50)を用いた。
このようにして測定した粉末油脂組成物Aの粒子の長径と厚さの値から、アスペクト比(2)〔=長径/厚さ〕を求めた。
(a)粉末油脂組成物a(0056段落)の粒子のアスペクト比(2)
粉末油脂組成物aは、ほとんどが球形であり、粒子の電子顕微鏡写真から1個1個の粒子について直接、長径及び厚さを測定できる。そこで、3Dリアルサーフェスビュー顕微鏡VE-8800(株式会社キーエンス製)で撮影した写真に写った1個1個の粒子について、長径及び厚さ(縦及び横)を測定した。それぞれの粒子について、アスペクト比(2)を求め、計20個の粒子のアスペクト比(2)の平均値を、粒子のアスペクト比(2)とした。
・平均粒径(d50)
粒度分布測定装置(日機装株式会社製 Microtrac MT3300ExII)でレーザー回折散乱法(ISO133201,ISO9276-1)に基づいて測定した。なお、測定した平均粒径は、粉体をある粒子径から2つに分けたとき、大きい側と小さい側が等量となる径(d50)の値である。
【0056】
<粉末油脂組成物の調製>
以下の粉末油脂組成物Aおよびaを準備した。
(1)粉末油脂組成物A
1位~3位にステアリン酸残基(炭素数18)を有するトリグリセリド(XXX型:79.1質量%、菜種極度硬化油、融点67.3℃、横関油脂工業株式会社製)25gを80℃にて0.5時間維持して完全に融解し、60℃恒温槽にて12時間冷却し、体積が増加した空隙を有する固形物を形成させ、結晶化を完了させた後、室温(25℃)状態まで冷却した。得られた固形物を機械粉砕することで粉末状の油脂結晶(ゆるめ嵩密度:0.2g/cm3、アスペクト比:1.6、アスペクト比(2):4.6、平均粒径8.0μm、X線回折測定回析ピーク:4.6Å、ピーク強度比:0.89)を得た。この油脂粉末を粉末油脂組成物Aとした。
(2)粉末油脂組成物a
パーム極度硬化油(融点58℃)を原料として、スプレークーラーによる噴霧冷却で、粉末状の油脂結晶(ゆるめ嵩密度:0.5g/cm3、アスペクト比:1.1、アスペクト比(2):1.1、平均粒径162μm、X線回折測定回析ピーク:4.2Å、ピーク強度比:0.03)を得た。この油脂粉末を粉末油脂組成物aとした。
【0057】
<食用油脂の準備>
(1)パーム油(日清オイリオ株式会社製、ヨウ素価52、HOH含有量31.7質量%)を使用した。PMOと略号表記する場合がある。
(2)パーム中融点画分(日清オイリオグループ株式会社製、ヨウ素価45、HOH含有量50.4質量%)を使用した。PMFと略号表記する場合がある。
(3)パームオレイン(日清オイリオグループ株式会社製、ヨウ素価56)に、触媒としてナトリウムメトキシドを用いたランダムエステル交換を適用した。得られたエステル交換油脂を、常法に従って精製して使用した。IEPLと略号表記する場合がある。
(4)菜種油(日清オイリオグループ株式会社製、不飽和脂肪酸含有量93質量%)を使用した。RSOと略号表記する場合がある。
(5)菜種極度硬化油(横関油脂工業株式会社製、ヨウ素価値1)を使用した。FHRSOと略語表記する場合がある。
【0058】
<可塑性油脂組成物の調製>
以下の製造手順1~4により、表1~3に示す配合に従って、例1~12の可塑性油脂組成物(ショートニング)を製造した。製造した例1~12の可塑性油脂組成物を25℃で24時間調温した。調温前後の可塑性油脂組成物のX線回折像を測定し、ピーク強度比(β型(4.6Å)のピーク強度/(α型およびβ’型(4.2Å)のピーク強度+β型(4.6Å)のピーク強度))を求めた。結果は、表1~3に示した。
【0059】
(製造手順)
1.表1~3のベース油脂組成物の配合に従って、ベース油脂組成物を混合し、80℃で融解した。
2.1で融解したベース油脂組成物を45℃に調温し、表1~3に従って、粉末油脂組成物を添加した。
3.2で粉末油脂組成物を添加後、ミキサーで撹拌し、粉末油脂組成物が十分に分散した分散体を得た。
4.3の分散体を小型コンビネーターで冷却可塑化(冷却速度-10℃/分)し、ショートニングを得た。
【0060】
【表1】
【0061】
【表2】
【0062】
【表3】
【0063】
(ロールパンの製造および評価)
以下の手順に従って、パン職人歴23年の職人が、ロールパンを製造した。すなわち、強力粉700g、生イースト30g、全卵150g、水270gをミキサーボウルに投入し、低速で2分間、中速で2分間、混捏して。捏上げ温度25℃の中種を得た。得られた中種を28℃で2時間発酵させた。発酵させた中種をミキサーボウルに投入し、さらに強力粉300g、上白糖120g、食塩17g、脱脂粉乳40g、水180gを投入し、低速で2分間、中速で5分間、混捏した。ここで、練り込み用油脂として、例3および例12において得られた可塑性油脂組成物150gを投入し、さらに低速で2分間、中速で5分間、混捏して、捏上げ温度28℃の生地を得た。フロアタイムを30分取った後、45gに分割し、次いでベンチタイムを30分取った後、テーブルロール成型を行った。さらに、38℃で相対湿度85%のホイロに60分間入れて最終発酵を行った。最終発酵後、全卵を上面に塗布し、上火210℃、下火200℃のオーブンに入れた。オーブンで、9分30秒焼成し、例3および例12の可塑性油脂組成物をそれぞれ生地に練り込んだロールパンを得た。
例3の可塑性油脂組成物は、例12と比較して生地に練り込まれ易く、明らかに作業性が良好であった。また、例3の可塑性油脂組成物を使用して製造されたロールパンは、例12の可塑性油脂組成物を使用して製造されたロールパンと比較して、内層のキメが細かく、ソフトな食感であった。
図1
図2