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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-07
(45)【発行日】2022-10-18
(54)【発明の名称】湿式塗装ブース循環水の処理方法
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/54 20060101AFI20221011BHJP
   B01D 21/01 20060101ALI20221011BHJP
   C02F 1/40 20060101ALI20221011BHJP
   C02F 1/24 20060101ALI20221011BHJP
   C02F 1/38 20060101ALI20221011BHJP
   B01D 36/00 20060101ALI20221011BHJP
   B03D 1/016 20060101ALI20221011BHJP
   B03D 1/20 20060101ALI20221011BHJP
【FI】
C02F1/54 G
B01D21/01 111
C02F1/40 B
C02F1/24
C02F1/38
B01D36/00
B03D1/016
B03D1/20
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018233772
(22)【出願日】2018-12-13
(65)【公開番号】P2020093228
(43)【公開日】2020-06-18
【審査請求日】2021-08-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】518444473
【氏名又は名称】トヨタ紡織滋賀株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000241500
【氏名又は名称】トヨタ紡織株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109508
【弁理士】
【氏名又は名称】菊間 忠之
(74)【代理人】
【識別番号】100067839
【弁理士】
【氏名又は名称】柳原 成
(72)【発明者】
【氏名】吉田 恒行
(72)【発明者】
【氏名】吉川 努
(72)【発明者】
【氏名】有元 雄太
(72)【発明者】
【氏名】杉本 靖
【審査官】富永 正史
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-119612(JP,A)
【文献】特開2000-084568(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2001/0052499(US,A1)
【文献】特開2011-000583(JP,A)
【文献】国際公開第2016/158510(WO,A1)
【文献】特開2015-174064(JP,A)
【文献】特開2019-188296(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/52- 1/56
B01D 21/00-21/34
C02F 1/40
C02F 1/24
B01D 36/00
B03D 1/016
B03D 1/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
湿式塗装ブースから排出される、余剰塗料と水とを含んでなる循環水をピットに所定時間滞留させ、
該ピットの上流域において、前記循環水に、フェノール樹脂溶液又は分散液、重量平均分子量が1千以上100万以下である低分子カチオン性ポリマー溶液又は分散液、タンニンアルカリ溶液、ベンジル基を含む重量平均分子量が600万~1100万である高分子カチオン性ポリマー溶液又は分散液、および重量平均分子量が800万~1500万である高分子アニオン性ポリマー溶液又は分散液を添加し、
これにマイクロナノバブルを添加して、塗料浮上スラッジを形成させ、次いで
循環水から塗料浮上スラッジの全部若しくは一部を除去する、
ことを含む、湿式塗装ブース循環水の処理方法。
【請求項2】
マイクロナノバブルの平均直径が100μm以下である、請求項1に記載の処理方法。
【請求項3】
塗料浮上スラッジの全部若しくは一部の除去は、塗料浮上スラッジと水とを含んでなる表層水を取水装置にて取水することによって行われる、請求項1または2に記載処理方法。
【請求項4】
取水装置にて取水された取水液に、浮上処理を施すことをさらに含む、請求項3に記載の処理方法。
【請求項5】
浮上処理が加圧浮上処理である、請求項4に記載の処理方法。
【請求項6】
加圧浮上処理において発生する気泡の平均直径が120μm以下である、請求項5に記載の処理方法。
【請求項7】
浮上処理の施された取水液に、濾過処理および/または脱水処理を施すことをさらに含む、請求項4~6のいずれかひとつに記載の処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、湿式塗装ブース循環水の処理方法に関する。より詳細に、本発明は、湿式塗装ブースで回収した余剰塗料を、不粘着性で且つ除去しやすい塗料浮上スラッジに高効率で変換して、ピットなどに堆積する塗料汚泥(スラッジ)の量を減らすことができる、湿式塗装ブース循環水の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
湿式塗装ブースにおいて塗着しなかった余剰塗料は循環水で捕集される。次いで循環水に捕集された余剰塗料を除去し、余剰塗料の除去された循環水を湿式塗装ブースで再使用する。そのために、湿式塗装ブース循環水に捕集された余剰塗料を除去する方法が種々提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1は、塗料を塗着しようとする被塗装物を上方に位置させ、その下方に捕集液を張った捕集槽を備えた塗装ブースにおいて、捕集槽内にエアレータを備え、該エアレータの噴出口を略水平方向に向けて設置したことを特徴とする塗装ブースの汚水浄化システムを開示している。
【0004】
特許文献2は、湿式塗装ブースにおける塗装工程で、湿式塗装ブースに直接配設又は接続配設された受槽内の溶液に、比重が1より小さな微粒子、例えばマイクロバルーン、を多数注入し、その後、被塗装物に塗着しなかった余分な塗料ミストが前記溶液に取り込まれてなる塗料滓に、前記微粒子を付着させることにより、受槽内の液面に塗料滓一体微粒子として浮上させ、しかる後、該塗料滓一体微粒子を溶液から分離することを特徴とする塗料滓の浮上分離方法を開示している。
【0005】
特許文献3は、湿式塗装ブース循環水に塗料ミストが取り込まれてなる塗料滓を、アルカリイオン水性洗浄剤固有のきめ細かな気泡を湿式塗装ブースのベンチュリーの機能によって超微粒子化した気泡で溶剤と不粘着化した塗料クズとに個別に気泡分離させて液面へと浮上分離浄化する方法を開示している。
【0006】
特許文献4は、マイクロバブル発生手段で発生させたマイクロバブルを、塗装ブースの塗料スラッジ処理槽内の塗装ブース循環水中に吐出し、塗料スラッジ処理槽から導いたマイクロバブルが混入した塗装ブース循環水を、塗装ブースの排気ダクト内で噴霧して、塗装ブース排気中の塗料ミストに接触させることを特徴とするマイクロバブルを使用した塗装ブースの塗料ミスト除去方法を開示している。。
【0007】
特許文献5は、鏡筒内の上部に旋回用ファンを配置し、鏡筒内へと塗装ミスト流を下方から吸い込み、マイクロバブルを発生するノズルを下方に向けて配置し、ノズルからフィルム状に拡散する水微粒子群と塗装ミスト上昇流の混流により、旋回領域を形成し、この領域内を浮遊するマイクロバブルを含んだ水微粒子群に揮発性有機化合物や塗装ミストを吸着・酸化処理する、揮発性有機化合物・塗装ミスト除去装置を開示している。
【0008】
特許文献6は、湿式塗装ブース循環水にフェノール系樹脂、凝結剤、及びカチオン性の疎水性ポリマーを添加した後に加圧浮上分離により余剰塗料を分離し、分離された余剰塗料を更に固液分離処理する湿式塗装ブース循環水の処理方法において、該カチオン性の疎水性ポリマーを添加した後に更にアニオン性ポリマーを添加する工程を有することを特徴とする湿式塗装ブース循環水の処理方法を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2004-074084号公報
【文献】特開2004-223492号公報
【文献】特開2009-269024号公報
【文献】特開2017-100049号公報
【文献】実用新案登録第3158129号公報
【文献】特開2011-072866号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
浮上処理において余剰塗料の浮上率が高くなると、得られる浮上スラッジが増え、沈降堆積スラッジの量が減り、循環水の清澄性が向上する。ところが、浮上スラッジの量が増えすぎると、表層水の取り出し口に浮上スラッジが集中して、ブリッジが形成され、取水口の周辺に滞留しやすくなるので、浮上スラッジが取水口から排出され難くなることがある(図3参照)。そのため、浮上スラッジがブリッジを形成するたびに、該ブリッジを崩して、浮上スラッジが表層水とともに取水口から排出されるようにしなければならない。
【0011】
本発明の目的は、湿式塗装ブースで回収した余剰塗料を不粘着性で且つ除去しやすい塗料浮上スラッジに高効率で変換して、ピットなどに堆積する塗料汚泥(スラッジ)の量を減らすことができる、湿式塗装ブース循環水の処理方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために検討した結果、以下の形態を包含する本発明を完成するに至った。
【0013】
〔1〕 湿式塗装ブースから排出される、余剰塗料と水とを含んでなる循環水をピットに所定時間滞留させ、該ピットの上流域において、前記循環水に、フェノール樹脂溶液又は分散液、低分子カチオン性ポリマー溶液又は分散液、タンニンアルカリ溶液、ベンジル基を含む高分子カチオン性ポリマー溶液又は分散液、および高分子アニオン性ポリマー溶液又は分散液を添加し、
これにマイクロナノバブルを添加して、塗料浮上スラッジを形成させ、次いで
循環水から塗料浮上スラッジの全部若しくは一部を除去する、
ことを含む、湿式塗装ブース循環水の処理方法。
【0014】
〔2〕 マイクロナノバブルの平均直径が100μm以下である、〔1〕に記載の処理方法。
〔3〕 塗料浮上スラッジの全部若しくは一部の除去は、塗料浮上スラッジと水とを含んでなる表層水を取水装置にて取水することによって行われる、〔1〕または〔2〕に記載の処理方法。
〔4〕 取水装置にて取水された取水液に、浮上処理を施すことをさらに含む、〔3〕に記載の処理方法。
〔5〕 浮上処理が加圧浮上処理である、〔4〕に記載の処理方法。
〔6〕 加圧浮上処理において発生する気泡の平均直径が120μm以下である、〔5〕に記載の処理方法。
〔7〕 浮上処理の施された取水液に、濾過処理および/または脱水処理を施すことをさらに含む、〔4〕~〔6〕のいずれかひとつに記載の処理方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明の湿式塗装ブース循環水の処理方法によれば、湿式塗装ブースで回収した余剰塗料を不粘着性で且つ除去しやすい塗料浮上スラッジ(フロック、スラグ)に高効率で変換して、ピットなどに堆積する塗料汚泥(スラッジ)の量を減らすことができる。そして、湿式塗装ブースに返送する循環水の清澄性を安定させることができる。
本発明の方法で形成される塗料浮上スラッジは、取水口に集中しても、ブリッジが形成され難く、取水口から表層水とともにスムーズに排出させ続けることができる。
【0016】
浮上スラッジの喫水が短すぎると、浮上スラッジの受ける水流の力が減り、浮上スラッジの表層水とともに押し流される勢いが減る。また、浮上スラッジの柔軟性が低すぎ(硬すぎ)たり、サイズが大きすぎたりすると、取水口に集中したときに相互にブロックしてブリッジが形成され取水口に吸い込まれ難くなる。本発明の処理方法においては、適度な喫水、適度な柔軟性および適度なサイズを有する不粘着化された塗料浮上スラッジが形成され、それによって、上記のような効果を奏するものと推測する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の方法を実施するためのピットを示す概念図である。
図2】ピットを横から見たときの概念図である。
図3】塗料浮上スラッジの取水口での滞留状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の湿式塗装ブース循環水の処理方法を適用可能な湿式塗装ブースとしては、例えば、水膜状の循環水により余剰塗料を捕集する水流板式(水膜式)塗装ブース、シャワー状の循環水により余剰塗料を捕集するシャワー式塗装ブース、水膜式とシャワー式とを組み合わせた水膜・シャワー式塗装ブース、渦巻室における遠心力により分離された余剰塗料を水膜状の循環水に捕集するベンチュリー式塗装ブース等を挙げることができる。
【0019】
湿式塗装ブースにおける余剰塗料の捕集によって得られる、余剰塗料と水とを含んでなる循環水(未処理循環水)は、湿式塗装ブースからピットに向かって流され、ピットに一時的に滞留させられる。一般に、循環水がピットに滞留している間に循環水から余剰塗料を取り除き、循環水を清澄化処理する。次いで処理済循環水をピットから湿式塗装ブースに向かって流し、湿式塗装ブースにおける余剰塗料の捕集に再使用する。ピットにおける循環水の滞留時間は、特に制限されないが、例えば、2~5分間である。
【0020】
ピットは、その形状によって特に限定されないが、通常、直方体形状の貯留スペースを有するものが用いられる。そして、未処理循環水が処理済循環水と混ざり難くするために、ピットへの未処理循環水の供給口は、ピットからの処理済循環水の抜出口とできるだけ離れた位置になるように、設置することが好ましい。例えば、図1に示すように、ピットへの未処理循環水の供給口とピットからの処理済循環水の抜出口とを貯留スペースの対角線のほぼ両端に設けることができる。
【0021】
本発明の処理方法においては、先ず、ピットの上流域において、循環水に、フェノール樹脂溶液または分散液(以下 これらを併せて「フェノール樹脂含有液」と記すことがある。)、低分子カチオン性ポリマー溶液または分散液(以下 これらを併せて「低分子カチオン性ポリマー含有液」と記すことがある。)、タンニンアルカリ溶液、ベンジル基を含む高分子カチオン性ポリマー溶液又は分散液(以下 これらを併せて「ベンジル基含有高分子カチオン性ポリマー含有液」と記すことがある。)、および高分子アニオン性ポリマー溶液又は分散液(以下 これらを併せて「高分子アニオン性ポリマー含有液」と記すことがある。)を添加する。
ここで、「ピットの上流域」とは、ピットの循環水の供給口からピットの循環水の抜出口までの水域において、前記供給口に近い側50%の水域を言う。
【0022】
本発明に用いられるフェノール樹脂溶液又は分散液は、水との親和性の高い溶媒若しくは分散媒にフェノール樹脂を溶解若しくは分散(例えば、懸濁、乳化)させてなるものである。
フェノール樹脂は、フェノール類とアルデヒド類との縮合物またはこれの変性物であって、架橋硬化させる前の物である。フェノール樹脂の具体例としては、フェノールとホルムアルデヒドとの縮合物、クレゾールとホルムアルデヒドとの縮合物、キシレノールとホルムアルデヒドとの縮合物などを挙げることができる。変性物としては、アルキル変性フェノール樹脂、ポリビニルフェノールなどを挙げることができる。これらのフェノール樹脂はノボラック型であっても、レゾール型であってもよい。また、該フェノール樹脂は、分子量その他物性によって特に制限はなく、湿式塗装ブース循環水処理用として一般に使用されているものの中から適宜選択して使用することもできる。フェノール樹脂は1種単独で若しくは2種以上を組み合わせて用いてもよい。本発明に用いられるフェノール樹脂は、重量平均分子量が、好ましくは10000以下、より好ましくは7000以下、さらに好ましくは3000以下である。
【0023】
フェノール樹脂含有液に使用され得る溶媒若しくは分散媒としては、アセトン等のケトン、酢酸メチル等のエステル、メタノール等のアルコール、アルカリ水溶液、アミン等を挙げることができる。これら溶媒のうち、アルカリ水溶液が好ましい。アルカリ水溶液としては、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液などを挙げることができる。フェノール樹脂をアルカリ水溶液に溶解ないし分散させてなる物は、アルカリ成分の濃度が好ましくは1~25質量%であり、フェノール樹脂の濃度が好ましくは1~50質量%である。
【0024】
フェノール樹脂(固形分)の添加量は、余剰塗料の不粘着化の観点から、循環水1Lに対して、好ましくは1mg以上、より好ましくは5mg以上である。過度の発泡および運転コストの上昇を抑えるという観点から、フェノール樹脂(固形分)の添加量の上限は、循環水1Lに対して、好ましくは1000mg、より好ましくは200mgである。また、フェノール樹脂(固形分)の添加量は、余剰塗料(固形分)に対して、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上である。また、フェノール樹脂(固形分)の添加量の上限は、余剰塗料(固形分)に対して、好ましくは100質量%、より好ましくは10質量%である。フェノール樹脂は、水性塗料を捕捉した表面泡末の多い循環水、または表面電位がほとんどゼロの有機溶剤塗料を捕捉した循環水における、水処理に好適である。フェノール樹脂含有液の添加によって、循環水中の余剰塗料の粘着性を下げる(不粘着化する)こと、および余剰塗料にマイクロナノバルブを付着させやすくすることができる。
【0025】
本発明に用いられるタンニンアルカリ溶液は、アルカリ成分とタンニンとを水に溶解させてなるものである。タンニンは、タンパク質、アルカロイドまたは金属イオンと反応し結合して難溶性の塩を形成する、植物由来の水溶性化合物である。タンニンは、縮合型(カテコール系)タンニンと、加水分解型(ピロガロール型)タンニンとに大別される。
縮合型タンニンは、主成分がフェノール骨格を持つ化合物の重合体である。ミモザ、アカシア、カラマツ、ケブラチョ、ガンビア、カキなどの針葉樹/広葉樹から抽出される。pHは4.2~4.5を示す。
一方、加水分解型タンニンは、主成分が芳香族カルボン酸のエステルである。チェストナット、オーク、タラ、茶、ミラボラム、五倍子、没食子などの双子葉植物から抽出される。pHは2.3~4.5を示す。本発明に用いられるタンニンとしては、縮合型タンニンが好ましく、ミモザタンニンおよび/またはケブラチョタンニンがより好ましい。
本発明に用いられるタンニンは、薬剤等によって変性若しくは修飾されていないものであることが好ましい。
【0026】
タンニンアルカリ溶液におけるタンニン濃度は、好ましくは10~30質量%、より好ましくは20~30質量%である。タンニン濃度が低すぎると物流コストが高くなる傾向がある。
【0027】
タンニンアルカリ溶液に用いられるアルカリ成分としては、アルカリ金属水酸化物および/またはアルカリ金属炭酸塩を挙げることができる。アルカリ金属水酸化物および/またはアルカリ金属炭酸塩としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなどを挙げることができる。タンニンアルカリ溶液におけるアルカリ金属水酸化物および/またはアルカリ金属炭酸塩の含有量は、該溶液のpHが、好ましくは10~13、より好ましくは10.5~11.5になる量である。アルカリ金属水酸化物および/またはアルカリ金属炭酸塩の含有量が少なすぎると処理効果が低下する傾向がある。
【0028】
タンニン(固形分)の添加量は、循環水1Lに対して、好ましくは0.1~100mg、好ましくは1.0~10mgである。また、タンニン(固形分)の添加量は、余剰塗料(固形分)に対して、好ましくは10質量%以下、より好ましくは2質量%以下、さらに好ましくは1質量%以下である。タンニン(固形分)の添加量の下限は、余剰塗料(固形分)に対して、好ましくは0.1質量%、より好ましくは0.2質量%である。
タンニンアルカリ溶液の添加によって、循環水中の余剰塗料の粘着性を下げる(不粘着化する)こと、およびマイクロナノバブルとの相互作用で塗料浮上スラッジの喫水を調整することができる。
【0029】
本発明に用いられる低分子カチオン性ポリマー溶液又は分散液は、水との親和性の高い溶媒若しくは分散媒に低分子カチオン性ポリマーを溶解ないし分散(例えば、懸濁、乳化)させてなるものである。本発明に用いられる低分子カチオン性ポリマーは、例えば、重量平均分子量が、好ましくは1千以上100万以下、より好ましくは5千以上30万以下である。
【0030】
低分子カチオン性ポリマーとしては、ポリエチレンイミン、カチオン変性ポリアクリルアミド、ポリアミン、ポリアミンスルホン、ポリアミド、ポリアルキレン・ポリアミン、アミン架橋重縮合体、ポリアクリル酸ジメチルアミノエチル、ジメチルジアリルアンモニウムクロライド(DADMAC)重合物、アルキルアミンとエピクロルヒドリンとの重縮合物、アルキレンジクロライドとポリアルキレンポリアミンとの重縮合物、ジシアンジアミドとホルマリンとの重縮合物、DAM(ジメチルアミノエチルメタアクリレート)の酸塩又は四級アンモニウム塩のホモポリマー又はコポリマー、DAA(ジメチルアミノエチルアクリレート)の酸塩又は四級アンモニウム塩のホモポリマー又はコポリマー、ポリビニルアミジン、ジアリルジメチルアンモニウムクロライドとアクリルアミドとの共重合物、メラミンとアルデヒドとの重縮合物、ジシアンジアミドとアルデヒドとの重縮合物、ジシアンジアミドとジエチレントリアミンとの重縮合物などを挙げることができる。なお、アルキルアミンとエピクロロヒドリンの重縮合物におけるアルキルアミンとしては、モノメチルアミン、モノエチルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミンなどを挙げることができる。メラミン・アルデヒド縮合物およびジシアンジアミド・アルデヒド重縮合物におけるアルデヒドとしては、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ホルムアルデヒドの3量体であるパラホルムアルデヒドなどを挙げることができる。低分子カチオン性ポリマーは1種単独で若しくは2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0031】
低分子カチオン性ポリマー含有液に使用され得る溶媒若しくは分散媒としては、水、アセトン、メタノールなどを挙げることができる。低分子カチオン性ポリマー含有液における、低分子カチオン性ポリマー濃度は、特に限定されないが、好ましくは10~70質量%、より好ましくは30~50質量%である。
【0032】
低分子カチオン性ポリマー(固形分)の添加量は、循環水1Lに対して、好ましくは0.1~100mg、好ましくは0.3~30mgである。また、低分子カチオン性ポリマー(固形分)の添加量は、余剰塗料(固形分)に対して、好ましくは10質量%以下、より好ましくは2質量%以下である。低分子カチオン性ポリマー(固形分)の添加量の下限は、余剰塗料(固形分)に対して、好ましくは0.1質量%、より好ましくは0.2質量%である。
低分子カチオン性ポリマー含有液の添加によって、循環水中の余剰塗料の荷電を中和して微細なフロックを形成しやすくすることができる。この作用は、低分子カチオンポリマーの周りにフェノール樹脂とタンニンが結合し、親水性のコロイドが生成することによって生じるようである。
【0033】
本発明に用いられるベンジル基含有高分子カチオン性ポリマー含有液は、水との親和性の高い溶媒にベンジル基含有高分子カチオン性ポリマーを溶解ないしは当該高濃度の溶解液を疎水性液体に分散(例えば、懸濁、乳化)させてなるもの(例えば、W/O型エマルション)等である。
ベンジル基含有高分子カチオン性ポリマーは、例えば、重量平均分子量が、好ましくは100万超、より好ましくは500万以上、さらに好ましくは600万~1100万、よりさらに好ましくは900万~1100万である。なお、ベンジル基含有高分子カチオン性ポリマーの重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法(GPC法)により、溶離液として0.1モル/L塩化ナトリウム水溶液を用いて測定したポリエチレングリコール換算の値である。
【0034】
ベンジル基含有高分子カチオン性ポリマーとしては、少なくとも1種のベンジル基含有カチオン性構造単位を有するものを挙げることができる。
ベンジル基含有カチオン性構造単位としては、例えば、式(I)で表される構造単位(以下、構造単位(I)と記すことがある。)を挙げることができる。
【0035】

式(I)中、R1は水素原子又はメチル基を示し、R2及びR3はそれぞれ独立して炭素数1~4のアルキル基を示す。炭素数1~4のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基を挙げることができる。
【0036】
式(I)中、A1は炭素数2~4の直鎖状もしくは分岐鎖状のアルキレン基を示し、具体的にはエチレン基、プロピレン基、トリメチレン基、n-ブチル-1,4-ジイル基、n-ブチル-1,3-ジイル基、n-ブチル-1,2-ジイル基、2-メチルプロピル-1,3-ジイル基、1,1-ジメチルエチル-1,2-ジイル基などを挙げることができる。
【0037】
なお、構造単位(I)においては、アンモニウムカチオンに対するアニオンが存在するが、式(I)中には示していない。対となるアニオンとしては、塩化物イオン、フッ化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオンなどのハロゲン化物イオン、硫酸イオン、硝酸イオン、リン酸イオン、メチル硫酸イオン、過塩素酸イオンなどを挙げることができる。これらの中でハロゲン化物イオンが好適である。
【0038】
構造単位(I)を形成する単量体としては、例えば、[2-(アクリロイルオキシ)エチル]ベンジルジメチルアンモニウム塩、[2-(アクリロイルオキシ)エチル]ベンジルジエチルアンモニウム塩、[2-(アクリロイルオキシ)エチル]ベンジルエチルメチルアンモニウム塩、[2-(メタクリロイルオキシ)エチル]ベンジルジメチルアンモニウム塩、[2-(メタクリロイルオキシ)エチル]ベンジルジエチルアンモニウム塩、[2-(メタクリロイルオキシ)エチル]ベンジルエチルメチルアンモニウム塩、[3-(アクリロイルオキシ)プロピル]ベンジルジメチルアンモニウム塩、[3-(アクリロイルオキシ)プロピル]ベンジルジエチルアンモニウム塩、[3-(アクリロイルオキシ)プロピル]ベンジルエチルメチルアンモニウム塩、[3-(メタクリロイルオキシ)プロピル]ベンジルジメチルアンモニウム塩、[3-(メタクリロイルオキシ)プロピル]ベンジルジエチルアンモニウム塩、[3-(メタクリロイルオキシ)プロピル]ベンジルエチルメチルアンモニウム塩などの(メタ)アクリロイルオキシアルキルベンジルジアルキルアンモニウム塩を挙げることができる。これらの単量体は1種を単独で若しくは2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0039】
ベンジル基含有高分子カチオン性ポリマーは、構造単位(I)以外に、式(II)で表されるノニオン性の構造単位(以下、構造単位(II)と記すことがある。)および/または式(III)で表されるカチオン性の構造単位(以下、構造単位(III)と記すことがある。)を有することが好ましい。
【0040】

式(II)中、R4は水素原子又はメチル基を示し、R5及びR6はそれぞれ独立して水素原子、炭素数1~3のアルキル基又はジメチルアミノアルキル基を示す。炭素数1~3のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基及びイソプロピル基を挙げることができる。ジメチルアミノアルキル基としては、2-ジメチルアミノエチル基、3-ジメチルアミノプロピル基などを挙げることができる。
構造単位(II)を形成する単量体としては、例えば、アクリルアミド、N-メチルアクリルアミド、N-エチルアクリルアミド、N-イソプロピルアクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、N,N-ジエチルアクリルアミド、N,N-ジイソプロピルアクリルアミド、N-エチル-N-メチルアクリルアミド、メタクリルアミド、N-メチルメタクリルアミド、N-エチルメタクリルアミド、N-イソプロピルメタクリルアミド、N,N-ジメチルメタクリルアミド、N,N-ジエチルメタクリルアミド、N,N-ジイソプロピルメタクリルアミド、N-エチル-N-メチルメタクリルアミド、N-(2-ジメチルアミノエチル)アクリルアミド、N-(2-ジメチルアミノエチル)メタクリルアミド、N-(3-ジメチルアミノプロピル)アクリルアミド、N-(3-ジメチルアミノプロピル)メタクリルアミドなどの(メタ)アクリルアミド類を挙げることができる。これらの単量体は1種を単独で若しくは2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0041】
構造単位(I)と構造単位(II)を有するベンジル基含有高分子カチオン性ポリマーにおいて、構造単位(I)と構造単位(II)の含有割合は、余剰塗料に対する凝集性能などの観点から、モル比で2:8~9:1が好ましく、3:7~6:4がより好ましい。
【0042】

式(III)中、R7は水素原子又はメチル基を示し、R8、R9及びR10はそれぞれ独立して炭素数1~4のアルキル基を示す。炭素数1~4のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基を挙げることができる。
【0043】
式(III)中、A2は炭素数2~4の直鎖状もしくは分岐鎖状のアルキレン基を示し、具体的にはエチレン基、プロピレン基、トリメチレン基、n-ブチル-1,4-ジイル基、n-ブチル-1,3-ジイル基、n-ブチル-1,2-ジイル基、2-メチルプロピル-1,3-ジイル基、1,1-ジメチルエチル-1,2-ジイル基などを挙げることができる。
なお、構造単位(III)においては、アンモニウムカチオンに対するアニオンが存在するが、式(III)中には示していない。対となるアニオンとしては、塩化物イオン、フッ化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオンなどのハロゲン化物イオン、硫酸イオン、硝酸イオン、リン酸イオン、メチル硫酸イオン、過塩素酸イオンなどを挙げることができる。これらの中でハロゲン化物イオンが好適である。
【0044】
構造単位(III)を形成する単量体としては、例えば、[2-(アクリロイルオキシ)エチル]トリメチルアンモニウム塩、[2-(アクリロイルオキシ)エチル]トリエチルアンモニウム塩、[2-(アクリロイルオキシ)エチル]エチルジメチルアンモニウム塩、[2-(メタクリロイルオキシ)エチル]トリメチルアンモニウム塩、[2-(メタクリロイルオキシ)エチル]トリエチルアンモニウム塩、[2-(メタクリロイルオキシ)エチル]エチルジメチルアンモニウム塩、[3-(アクリロイルオキシ)プロピル]トリメチルアンモニウム塩、[3-(アクリロイルオキシ)プロピル]トリエチルアンモニウム塩、[3-(アクリロイルオキシ)プロピル]エチルジメチルアンモニウム塩、[3-(メタクリロイルオキシ)プロピル]トリメチルアンモニウム塩、[3-(メタクリロイルオキシ)プロピル]トリエチルアンモニウム塩、[3-(メタクリロイルオキシ)プロピル]エチルジメチルアンモニウム塩などの(メタ)アクリロイルオキシアルキル(トリアルキル)アンモニウム塩を挙げることができる。これらの単量体は1種を単独で若しくは2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0045】
構造単位(I)と構造単位(III)を有するベンジル基含有高分子カチオン性ポリマーにおいて、構造単位(I)と構造単位(III)の含有割合は、余剰塗料に対する凝集性能などの観点から、モル比で8:2~2:8が好ましく、6:4~4:6がより好ましい。
【0046】
構造単位(I)と構造単位(II)と構造単位(III)を有するベンジル基含有高分子カチオン性ポリマーにおいて、構造単位(I)、構造単位(II)及び構造単位(III)の含有割合は、余剰塗料に対する凝集性能などの観点から、モル基準で、それぞれ5~90%、30~90%及び1~90%であることが好ましく、それぞれ10~40%、50~70%及び10~40%であることがより好ましい。
構造単位(I)と構造単位(II)と構造単位(III)を有するベンジル基含有高分子カチオン性ポリマーの具体例としては、アクリルアミド/[2-(アクリロイルオキシ)エチル]ベンジルジメチルアンモニウムクロリド/[2-(アクリロイルオキシ)エチル]トリメチルアンモニウムクロリドの共重合体、アクリルアミド/[3-(アクリロイルオキシ)プロピル]ベンジルジメチルアンモニウムクロリド/[2-(アクリロイルオキシ)エチル]トリメチルアンモニウムクロリドの共重合体、アクリルアミド/[2-(アクリロイルオキシ)エチル]ベンジルジメチルアンモニウムクロリド/[3-(アクリロイルオキシ)プロピル]トリメチルアンモニウムクロリドの共重合体、アクリルアミド/[3-(アクリロイルオキシ)プロピル]ベンジルジメチルアンモニウムクロリド/[3-(アクリロイルオキシ)プロピル]トリメチルアンモニウムクロリドの共重合体などを挙げることができる。
【0047】
ベンジル基含有高分子カチオン性ポリマー含有液における、ベンジル基含有高分子カチオン性ポリマー濃度は、特に限定されないが、好ましくは5~50質量%、より好ましくは10~20質量%である。ベンジル基含有高分子カチオン性ポリマー濃度は、ベンジル基含有高分子カチオン性ポリマー含有液を溶媒または分散媒にて希釈などすることによって調整することができる。
【0048】
ベンジル基含有高分子カチオン性ポリマー(固形分)の添加量は、余剰塗料(固形分)に対して、好ましくは0.1~10質量%、より好ましくは0.2~3質量%である。ベンジル基含有高分子カチオン性ポリマーの添加量は、例えば、循環水に対するコロイド当量値として、好ましくは0.001~1meq/L、より好ましくは0.002~0.5meq/Lである。ベンジル基含有高分子カチオン性ポリマーの添加によって、フロック(塗料浮上スラッジ)を強固にしフロックの再分散を防止することができ、また、加圧浮上処理後に行うことがある濾過処理および/または脱水処理(沈降分離や遠心分離など)の効率を高めることができる。
【0049】
本発明に用いられる高分子アニオン性ポリマー含有液は、水との親和性の高い溶媒に高分子アニオン性ポリマーを溶解ないしは当該高濃度の溶解液を疎水性溶媒に分散(例えば、懸濁、乳化)させてなるもの(例えば、W/O型エマルション)等である。
高分子アニオン性ポリマーとしては、例えば、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリアクリル酸ソーダ・アミド誘導体、ポリアクリルアミド部分加水分解物、部分スルホメチル化ポリアクリルアミド、ポリ(2-アクリルアミド)-2-メチルプロパン硫酸塩などを挙げることができる。高分子アニオン性ポリマーは、1種を単独で若しくは2種以上を組み合わせて用いることができる。高分子アニオン性ポリマーは、スルホン基、ホスホン基などの強酸基を含まないものが好ましい。高分子アニオン性ポリマーはアニオン化度が10~30モル%であるものが好適である。高分子アニオン性ポリマーの重量平均分子量は、好ましくは100万超、より好ましくは500万以上、さらに好ましくは800万~1500万である。高分子アニオン性ポリマーとしては、コロイド当量値が-2.0~-3.6meq/Lであるエマルジョンの状態のものが好ましく用いられる。
【0050】
高分子アニオン性ポリマー含有液における、高分子アニオン性ポリマー濃度は、特に限定されないが、好ましくは5~50質量%、より好ましくは30~40質量%である。高分子アニオン性ポリマー濃度は、高分子アニオン性ポリマー含有液を溶媒または分散媒にて希釈などすることによって調整することができる。
【0051】
高分子アニオン性ポリマー(固形分)の添加量は、余剰塗料(固形分)に対して、好ましくは0.1~10質量%、より好ましくは0.2~3質量%である。
【0052】
フェノール樹脂含有液、タンニンアルカリ溶液、低分子カチオン性ポリマー含有液、ベンジル基含有高分子カチオン性ポリマー含有液、および高分子アニオン性ポリマー含有液の供給口は、循環水が滞留しているピットの上流域にそれぞれ設けることができ、フェノール樹脂含有液、タンニンアルカリ溶液、低分子カチオン性ポリマー含有液、ベンジル基含有高分子カチオン性ポリマー含有液、および高分子アニオン性ポリマー含有液が循環水に均一に混ざり合うという観点から、ピットの循環水がピットに供給される口の近くに、それぞれ設けることが好ましい。図1中、フェノール樹脂含有液、タンニンアルカリ溶液、ベンジル基含有高分子カチオン性ポリマー含有液、低分子カチオン性ポリマー含有液および高分子アニオン性ポリマー含有液の供給口は、管の末端の開口として描かれているが、末端にシャワーノズル、シャワーパイプなどを設置して、上記液剤が広く散布されるようにしてもよい。
【0053】
次に、本発明の処理方法においては、フェノール樹脂溶液又は分散液、低分子カチオン性ポリマー溶液又は分散液、タンニンアルカリ溶液、ベンジル基を含む高分子カチオン性ポリマー溶液又は分散液、および高分子アニオン性ポリマー溶液又は分散液の添加された循環水に、マイクロナノバブルを添加して、塗料浮上スラッジを形成させる。
【0054】
マイクロナノバブルは、平均直径が、好ましくは100μm以下、より好ましくは70μm以下、さらに好ましくは50μm以下の気泡である。マイクロナノバブルの平均直径の下限は、好ましくは0.1μm、より好ましくは0.5μm、さらに好ましくは1μmである。マイクロナノバブルは、超音波、衝撃波等により発生する急激な圧力変化を利用する方式(圧壊方式)、気体と液体が混合した状態でベンチュリー管、高速旋回ロータなどにより発生する乱流によって気体を千切る様にして気泡化する方式(せん断方式)、圧壊方式とせん断方式とを組み合わせた方式、筒に供給される気体と液体とを混合圧縮して気泡を含む液を得、これを気泡拡散孔に通して外に放出する方式(特開2001-104764号公報など参照)、コンプレッサー等による加圧によって液中へ強制的に気体を過飽和溶解させ、その液体を急激に減圧して気体を放出させる方式などによって、生成させることができる。これらのうち、圧壊方式、せん断方式、圧壊方式とせん断方式とを組み合わせた方式で生成させることが好ましい。
【0055】
マイクロナノバブルを発生させる装置として、市販品を用いることができる。例えば、タフバブラー(ビーエルダイナミクス社製)、マイクロバブラー(野村電子工業社製)、マイクロバブルジェネレータMBG(ニクニ社製)、マイクロバブル発生装置「MBelif」(関西オートメ社機器社製)などを挙げることができる。
マイクロナノバブルの添加量(空気供給量)は、余剰塗料(固形分)1gに対して、好ましくは0.005~0.30g、より好ましくは0.05~0.15gである。マイクロナノバブルの添加によって、余剰塗料のフロックなどを浮上させることができる。
【0056】
マイクロナノバブルの供給口は、循環水が滞留しているピットに設けることができ、マイクロナノバブルの浮上行程を長く確保できるという観点から、ピットの底にできるだけ近い位置に設けることが好ましい。
また、塗料浮上スラッジの形成の観点から、マイクロナノバブルの添加は、フェノール樹脂含有液、低分子カチオン性ポリマー含有液、タンニンアルカリ溶液、ベンジル基含有高分子カチオン性ポリマー含有液、および高分子アニオン性ポリマー含有液の添加位置よりも、ピットの循環水の抜出口に近い位置において行うことが好ましい。例えば、マイクロナノバブルの供給口は、フェノール樹脂含有液、タンニンアルカリ溶液、ベンジル基含有高分子カチオン性ポリマー含有液、低分子カチオン性ポリマー含有液および高分子アニオン性ポリマー含有液の供給口よりも下流側に、フェノール樹脂、タンニン、低分子カチオン性ポリマー、ベンジル基含有高分子カチオン性ポリマーおよび高分子アニオン性ポリマーが循環水に均一に混ざりあうのに十分な距離をあけて設置することが好ましく、フェノール樹脂含有液、タンニンアルカリ溶液、ベンジル基含有高分子カチオン性ポリマー含有液、低分子カチオン性ポリマー含有液および高分子アニオン性ポリマー含有液の供給口からピット全長の5%~60%程度離れた位置に設置することが好ましい。ピットの全長若しくは全幅が長い場合には、一つのピットに、マイクロナノバブルの供給口を複数設けてもよい。
【0057】
本発明においては、マイクロナノバブル、フェノール樹脂含有液、タンニンアルカリ溶液、ベンジル基含有高分子カチオン性ポリマー含有液、低分子カチオン性ポリマー含有液および高分子アニオン性ポリマー含有液以外に、不粘着化剤、有機凝結剤、無機凝結剤、pH調整剤、両性ポリマー溶液又は分散液、ベンジル基不含有高分子カチオン性ポリマー溶液又は分散液などを、本発明の効果を阻害しない限り、循環水または取水液に添加することができる。
不粘着化剤としては、カルボン酸系重合体、タンニン基重合体、メラミンホルムアルデヒド縮合物、メラミンジシアンジアミド縮合物、直鎖型カチオン性ポリアミン、亜鉛酸ナトリウム、アルミナゾルなどを挙げることができる。
有機凝結剤としては、アルギン酸ソーダ;キチン・キトサン系凝結剤;TKF04株、BF04などのバイオ凝結剤などを挙げることができる。
無機凝結剤としては、硫酸アルミニウム(硫酸バンド)、ポリ塩化アルミニウム(PAC)、塩化アルミニウム、塩基性塩化アルミニウム、擬ベーマイトアルミナゾル(AlO(OH))などのアルミニウム系凝結剤;水酸化第一鉄、硫酸第一鉄、塩化第二鉄、ポリ硫酸第二鉄、鉄-シリカ無機高分子凝結剤などの鉄塩系凝結剤;塩化亜鉛などの亜鉛系凝結剤;活性ケイ酸、ポリシリカ鉄凝結剤などを挙げることができる。
pH調整剤としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウムなどの水溶性アルカリ金属化合物;塩酸、硫酸、硝酸、リン酸などの鉱酸;などを挙げることができる。
【0058】
ベンジル基不含有高分子カチオン性ポリマー溶液又は分散液は、水との親和性の高い溶媒にベンジル基不含有高分子カチオン性ポリマーを溶解ないし高濃度の溶解液を疎水性溶媒に分散(例えば、懸濁、乳化)させてなるもの(例えば、W/O型エマルション)等である。
ベンジル基不含有高分子カチオン性ポリマーとしては、ポリアミノアルキルアクリレート、ポリアミノアルキルメタクリレート、ポリエチレンイミン、ハロゲン化ポリジアリルアンモニウム、キトサン、尿素-ホルマリン樹脂などを挙げることができる。
【0059】
両性ポリマー溶液又は分散液は、水との親和性の高い溶媒に両性ポリマーを溶解ないし高濃度の溶解液を疎水性溶媒に分散(例えば、懸濁、乳化)させてなるもの(例えば、W/O型エマルション)等である。
両性ポリマーとしては、(メタ)アクリルアミドと4級アンモニウムアルキル(メタ)アクリレートと(メタ)アクリル酸ナトリウムとの共重合体などを挙げることができる。両性ポリマーのアニオン/カチオンのモル比は0.2~2.0が好適である。両性ポリマーの重量平均分子量は、好ましくは100万超、より好ましくは500万以上、さらに好ましくは800万~1000万である。両性ポリマー(固形分)の添加量は、余剰塗料(固形分)に対して、好ましくは0.1~10質量%、より好ましくは0.2~3質量%である。
【0060】
上記のようにして形成された塗料浮上スラッジの全部若しくは一部を循環水から除去する。
塗料浮上スラッジの全部若しくは一部の除去は、好ましくは、塗料浮上スラッジと水とを含んでなる表層水を取水装置にて取水することによって、行われる。取水装置としては、フロート堰、フロートポンプなどの表層液排出装置を挙げることができる。
【0061】
取水装置で取水された取水液に、浮上処理、好ましくは加圧浮上処理を施すことが好ましい。浮上処理を施すことによって、塗料浮上スラッジを液面に浮上させることができる。なお、加圧浮上処理は、浮遊物を含む液(常圧)に、空気の過飽和溶液(加圧)を注入することによって、空気の気泡を発生させ、浮遊物を浮上させるための処理方法である。加圧浮上処理において発生する気泡の平均直径は、好ましくは120μm以下、より好ましくは30μm以上120μm以下である。加圧浮上処理において発生する気泡の平均直径は、前述のマイクロナノバブルの平均直径よりも大きいことが好ましい。
【0062】
一方、塗料浮上スラッジの全部若しくは一部の除去された循環水(処理済循環水)を湿式塗装ブースに供給して、余剰塗料の捕集に再使用する。ピットからの処理済循環水の抜出口またはその近傍には、スラグ、スラッジ、フロックなどが循環水に同伴して抜き出され難くするために、堰、フィルタ、網(ストレーナ)などを設けることが好ましい。
【0063】
加圧浮上処理の施された取水液に、濾過処理および/または脱水処理を施すことができる。濾過処理においては、ウェッジワイヤスクリーン、ロータリースクリーン、バースクリーン、フレキシブルコンテナバッグなどを用いることができる。
脱水処理においては、サイクロン、遠心分離機、加圧ろ過装置などを用いることができる。濾過処理および/または脱水処理によって取り出されたスラッジは、焼却したり、埋め立て処分したり、コンポスト化したりすることができる。
【0064】
次に、実施例を示して、本発明をより具体的に説明する。但し、以下の実施例は本発明の一実施形態を示すに過ぎず、本発明を以下の実施例に限定するものでない。
【0065】
実施例1
湿式塗装ブースにおいて、自動車部品を有機溶剤塗料でスプレー塗装を行った。その間、余剰塗料455kg/日を循環水(約100m3)で捕集した。余剰塗料を捕集した循環水をピットに移送した。図1に示すようなピットに滞留している循環水に、余剰塗料(固形分)に対して、フェノール樹脂含有液2.4重量%(固形分)、タンニンアルカリ溶液0.6重量%(固形分)、低分子量カチオン性ポリマー(アルキルアミンエピクロルヒドリン縮合物)含有液0.35重量%(固形分)、ベンジル基含有高分子カチオン性ポリマー(アクリルアミド/[2-(アクリロイルオキシ)エチル]ベンジルジメチルアンモニウムクロリド/[2-(アクリロイルオキシ)エチル]トリメチルアンモニウムクロリド共重合物)含有液0.5重量%(固形分)、および高分子アニオン性ポリマー(アクリル酸ナトリウム/アクリルアミド共重合物)含有液0.25重量%(固形分)の割合で添加した。
ピットの底にマイクロナノバブル発生装置を設置し、フェノール樹脂含有液、タンニンアルカリ溶液、低分子量カチオン性ポリマー含有液、ベンジル基含有高分子カチオン性ポリマー含有液、および高分子アニオン性ポリマー含有液の添加された循環水にマイクロナノバブルを供給した。同時にフロートポンプを稼働させた。
塗料浮上スラッジを含む表層水がフロートポンプの取水口から抜き出された。塗料浮上スラッジはフローポンプの取水口に集中するが、ブリッジが形成されることなく、連続して抜出ができた。取水液を浮上分離装置に移送した。浮上分離装置で分離した塗料浮上スラッジ(スラグ)を含む液をフレキシブルコンテナバックに移し重力濾過を行った。
【0066】
比較例1
タンニンアルカリ溶液、ベンジル基含有高分子カチオン性ポリマー含有液、および高分子アニオン性ポリマー含有液を添加しなかった以外は、実施例1と同じ方法で、湿式塗装ブース循環水の処理を行った。塗料浮上スラッジは取水口に集中してブリッジが形成されて抜出が停止したので棒でブリッジを崩した。ブリッジを崩す操作は全余剰塗料を処理するまでに5回行う必要であった。
【0067】
比較例2
ベンジル基含有高分子カチオン性ポリマー含有液、および高分子アニオン性ポリマー含有液を添加しなかった以外は、実施例1と同じ方法で、湿式塗装ブース循環水の処理を行った。塗料浮上スラッジは取水口に集中してブリッジが形成されて抜出が停止したので棒でブリッジを崩した。ブリッジを崩す操作は全余剰塗料を処理するまでに2回行う必要であった。
【0068】
比較例3
高分子アニオン性ポリマー含有液を添加しなかった以外は、実施例1と同じ方法で、湿式塗装ブース循環水の処理を行った。塗料浮上スラッジは取水口に集中してブリッジが形成されて抜出が停止したので棒でブリッジを崩した。ブリッジを崩す操作は全余剰塗料を処理するまでに2回行う必要であった。
【0069】
比較例4
ベンジル基含有高分子カチオン性ポリマー含有液0.5重量%(固形分)を、ベンジル基不含有高分子カチオン性ポリマー(アクリルアミド/[2-(アクリロイルオキシ)エチル]トリメチルアンモニウムクロリド共重合物)含有液0.25%に変えた以外は、実施例1と同じ方法で、湿式塗装ブース循環水の処理を行った。塗料スラッジの一部が水中に分散していて、表層に浮上しなかった。そのため、フロートポンプによって塗料スラッジを十分に抜き出すことができなかった。
【0070】
比較例5
高分子アニオン性ポリマー含有液を添加しなかった以外は、比較例4と同じ方法で、湿式塗装ブース循環水の処理を行った。塗料浮上スラッジは取水口に集中してブリッジが形成されて抜出が停止したので棒でブリッジを崩した。ブリッジを崩す操作は全余剰塗料を処理するまでに2回行う必要であった。
【0071】
比較例6
ベンジル基含有高分子カチオン性ポリマー含有液を添加しなかった以外は、実施例1と同じ方法で、湿式塗装ブース循環水の処理を行った。塗料スラッジの一部が水中に分散していて、表層に浮上しなかった。そのため、フロートポンプによって塗料スラッジを十分に抜き出すことができなかった。
【0072】
以上の結果が示すとおり、本発明の処理方法(実施例)によれば、湿式塗装ブースで回収した余剰塗料を、不粘着性で且つ除去しやすい塗料浮上スラッジ(フロック、スラグ)に高効率で変換して、ピットなどに堆積する塗料汚泥(スラッジ)の量を減らすことができる。本発明の処理方法で形成される塗料浮上スラッジは、取水口に集中しても、ブリッジが形成され難く、取水口から、表層水とともに排出させ続けることができる。
【符号の説明】
【0073】
2:塗装ブースからの未処理循環水
3:フェノール樹脂含有液
4:低分子カチオン性ポリマー含有液
5:タンニンアルカリ溶液
6:ベンジル基含有高分子カチオン性ポリマー含有液
7:高分子アニオン性ポリマー含有液
8:塗装ブースへの処理済循環水
9:取水口
10:マイクロナノバブル
11:マイクロナノバブル発生装置
12:取水装置(フローポンプ)
13:取水液
15:ストレーナ
14:塗料浮上スラッジ
16:空気(自吸)
図1
図2
図3