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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-07
(45)【発行日】2022-10-18
(54)【発明の名称】研磨装置および研磨方法
(51)【国際特許分類】
   B24B 37/013 20120101AFI20221011BHJP
   H01L 21/304 20060101ALI20221011BHJP
   G01N 19/00 20060101ALN20221011BHJP
【FI】
B24B37/013
H01L21/304 622S
G01N19/00 Z
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2019026255
(22)【出願日】2019-02-18
(65)【公開番号】P2020131329
(43)【公開日】2020-08-31
【審査請求日】2021-09-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000000239
【氏名又は名称】株式会社荏原製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100118500
【弁理士】
【氏名又は名称】廣澤 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100091498
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 勇
(72)【発明者】
【氏名】中村 顕
【審査官】奥隅 隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-058197(JP,A)
【文献】実開昭59-020106(JP,U)
【文献】特開2004-245822(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B 37/013
H01L 21/304
G01N 19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板を研磨するための研磨装置であって、
研磨パッドを支持するための回転可能な研磨テーブルと、
基板を前記研磨パッドに押し付ける研磨ヘッドと、
前記研磨ヘッドに連結された回転軸と、
前記回転軸を回転可能に支持する支持構造体と、
前記支持構造体のひずみを測定するひずみ測定器と、
前記ひずみの変化に基づいて前記基板の研磨終点を決定する終点検出器を備え、
前記ひずみ測定器は、前記支持構造体の側面に固定された少なくとも1つのひずみセンサを備えている、研磨装置。
【請求項2】
前記ひずみ測定器は、前記ひずみを第1の分解能で測定する低分解能測定モードと、前記第1の分解能よりも高い第2の分解能で前記ひずみを測定する高分解能測定モードの2つの測定モードを備えている、請求項1に記載の研磨装置。
【請求項3】
前記低分解能測定モードは、前記ひずみの第1範囲を、予め定められた測定出力範囲に変換する低ゲインモードであり、
前記高分解能測定モードは、前記第1範囲よりも狭い前記ひずみの第2範囲を前記測定出力範囲に変換する高ゲインモードである、請求項2に記載の研磨装置。
【請求項4】
前記ひずみ測定器は、前記第1範囲を前記測定出力範囲に変換し、前記第2範囲を前記測定出力範囲に変換する信号コンバータを備えており、前記ひずみセンサは前記信号コンバータに接続されている、請求項3に記載の研磨装置。
【請求項5】
前記ひずみ測定器は、前記低分解能測定モードで動作する第1ひずみ測定器と、前記高分解能測定モードで動作する第2ひずみ測定器を備えており、
前記第1ひずみ測定器は、前記支持構造体に固定された第1ひずみセンサを備え、
前記第2ひずみ測定器は、前記支持構造体に固定された第2ひずみセンサを備えている、請求項2乃至4のいずれか一項に記載の研磨装置。
【請求項6】
前記終点検出器は、前記基板の研磨中に前記支持構造体のひずみがピーク値に達した後、前記ひずみ測定器に指令を発して、前記ひずみ測定器の測定モードを前記低分解能測定モードから前記高分解能測定モードに切り替えるように構成されている、請求項2乃至5のいずれか一項に記載の研磨装置。
【請求項7】
基板を研磨するための研磨方法であって、
研磨パッドを支持する研磨テーブルを回転させ、
回転軸に連結されている研磨ヘッドで基板を前記研磨パッドに押し付けて該基板を研磨し、
前記基板の研磨中に、前記回転軸を回転可能に支持している支持構造体のひずみをひずみ測定器により測定し、
前記ひずみの変化に基づいて前記基板の研磨終点を決定する工程を含み、
前記ひずみ測定器は、前記支持構造体の側面に固定された少なくとも1つのひずみセンサを備えている、研磨方法。
【請求項8】
前記基板の研磨中に、前記ひずみ測定器の測定モードを低分解能測定モードから高分解能測定モードに切り替える工程をさらに含み、
前記低分解能測定モードは、前記ひずみを第1の分解能で測定する測定モードであり、
前記高分解能測定モードは、前記第1の分解能よりも高い第2の分解能で前記ひずみを測定する測定モードであり、
前記ひずみの変化に基づいて前記基板の研磨終点を決定する工程は、前記高分解能測定モードで測定された前記ひずみの変化に基づいて前記基板の研磨終点を決定する工程である、請求項7に記載の研磨方法。
【請求項9】
前記基板の研磨中に前記ひずみがピーク値に達した後に、前記ひずみ測定器の測定モードを前記低分解能測定モードから前記高分解能測定モードに切り替える、請求項8に記載の研磨方法。
【請求項10】
前記ひずみ測定器の測定モードを前記低分解能測定モードから前記高分解能測定モードに切り替えた後に、前記ひずみ測定器の出力値を予め設定された値に調整する工程をさらに含む、請求項8または9に記載の研磨方法。
【請求項11】
前記低分解能測定モードは、前記ひずみの第1範囲を、予め定められた測定出力範囲に変換する低ゲインモードであり、
前記高分解能測定モードは、前記第1範囲よりも狭い前記ひずみの第2範囲を前記測定出力範囲に変換する高ゲインモードである、請求項8乃至10のいずれか一項に記載の研磨方法。
【請求項12】
前記基板を研磨する前に、前記ひずみ測定器を較正する工程をさらに含む、請求項7乃至11のいずれか一項に記載の研磨方法。
【請求項13】
前記ひずみ測定器を較正する工程は、
第1の力を前記支持構造体に加えたときの前記ひずみ測定器の第1の出力値を決定し、
前記第1の力とは異なる第2の力を前記支持構造体に加えたときの前記ひずみ測定器の第2の出力値を決定し、
前記第1の出力値および前記第2の出力値を、第1の基準値および第2の基準値にそれぞれ合わせる工程を含む、請求項12に記載の研磨方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウェーハなどの基板を研磨するための研磨装置および研磨方法に関し、特に基板の研磨終点を検出するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
化学機械研磨(CMP)は、ウェーハなどの基板をスラリーの存在下で研磨する技術である。より具体的には、回転する研磨テーブル上の研磨パッドにスラリーを供給しながら、ウェーハを研磨パッドに押し付けることで、ウェーハの表面をスラリーの存在下で研磨パッドに摺接させる。ウェーハの表面は、スラリーの化学的作用と、スラリーに含まれる砥粒の機械的作用により、研磨される。
【0003】
ウェーハの研磨終点は、ウェーハの表面状態の変化に基づいて決定される。一例では、研磨終点は、ウェーハの表面を形成する膜が除去され、下地層が露出した時点である。このような研磨終点を決定するために、研磨テーブルを回転させるテーブルモータに供給されるモータ電流の変化を監視する技術がある。ウェーハの表面状態が変化すると、ウェーハと研磨パッドとの摩擦が変化し、結果としてモータ電流が変化する。したがって、モータ電流の変化点を、研磨終点とすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表2007-510164号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
最近では、上述したモータ電流を監視する方法に代えて、研磨テーブルのひずみに基づいて研磨終点を決定する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
本発明は、ウェーハなどの基板と研磨パッドの間の摩擦に起因して起こる研磨装置の構成要素のひずみに基づいて基板の研磨終点を決定する新規な研磨装置および研磨方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
一態様では、基板を研磨するための研磨装置であって、研磨パッドを支持するための回転可能な研磨テーブルと、基板を前記研磨パッドに押し付ける研磨ヘッドと、前記研磨ヘッドに連結された回転軸と、前記回転軸を回転可能に支持する支持構造体と、前記支持構造体のひずみを測定するひずみ測定器と、前記ひずみの変化に基づいて前記基板の研磨終点を決定する終点検出器を備え、前記ひずみ測定器は、前記支持構造体の側面に固定された少なくとも1つのひずみセンサを備えている、研磨装置が提供される。
【0008】
一態様では、前記ひずみ測定器は、前記ひずみを第1の分解能で測定する低分解能測定モードと、前記第1の分解能よりも高い第2の分解能で前記ひずみを測定する高分解能測定モードの2つの測定モードを備えている。
一態様では、前記低分解能測定モードは、前記ひずみの第1範囲を、予め定められた測定出力範囲に変換する低ゲインモードであり、前記高分解能測定モードは、前記第1範囲よりも狭い前記ひずみの第2範囲を前記測定出力範囲に変換する高ゲインモードである。
一態様では、前記ひずみ測定器は、前記第1範囲を前記測定出力範囲に変換し、前記第2範囲を前記測定出力範囲に変換する信号コンバータを備えており、前記ひずみセンサは前記信号コンバータに接続されている。
【0009】
一態様では、前記ひずみ測定器は、前記低分解能測定モードで動作する第1ひずみ測定器と、前記高分解能測定モードで動作する第2ひずみ測定器を備えており、前記第1ひずみ測定器は、前記支持構造体に固定された第1ひずみセンサを備え、前記第2ひずみ測定器は、前記支持構造体に固定された第2ひずみセンサを備えている。
一態様では、前記終点検出器は、前記基板の研磨中に前記支持構造体のひずみがピーク値に達した後、前記ひずみ測定器に指令を発して、前記ひずみ測定器の測定モードを前記低分解能測定モードから前記高分解能測定モードに切り替えるように構成されている。
【0010】
一態様では、基板を研磨するための研磨方法であって、研磨パッドを支持する研磨テーブルを回転させ、回転軸に連結されている研磨ヘッドで基板を前記研磨パッドに押し付けて該基板を研磨し、前記基板の研磨中に、前記回転軸を回転可能に支持している支持構造体のひずみをひずみ測定器により測定し、前記ひずみの変化に基づいて前記基板の研磨終点を決定する工程を含み、前記ひずみ測定器は、前記支持構造体の側面に固定された少なくとも1つのひずみセンサを備えている、研磨方法が提供される。
【0011】
一態様では、前記基板の研磨中に、前記ひずみ測定器の測定モードを低分解能測定モードから高分解能測定モードに切り替える工程をさらに含み、前記低分解能測定モードは、前記ひずみを第1の分解能で測定する測定モードであり、前記高分解能測定モードは、前記第1の分解能よりも高い第2の分解能で前記ひずみを測定する測定モードであり、前記ひずみの変化に基づいて前記基板の研磨終点を決定する工程は、前記高分解能測定モードで測定された前記ひずみの変化に基づいて前記基板の研磨終点を決定する工程である。
一態様では、前記基板の研磨中に前記ひずみがピーク値に達した後に、前記ひずみ測定器の測定モードを前記低分解能測定モードから前記高分解能測定モードに切り替える。
【0012】
前記研磨方法は、前記ひずみ測定器の測定モードを前記低分解能測定モードから前記高分解能測定モードに切り替えた後に、前記ひずみ測定器の出力値を予め設定された値に調整する工程をさらに含む。
一態様では、前記低分解能測定モードは、前記ひずみの第1範囲を、予め定められた測定出力範囲に変換する低ゲインモードであり、前記高分解能測定モードは、前記第1範囲よりも狭い前記ひずみの第2範囲を前記測定出力範囲に変換する高ゲインモードである。
一態様では、前記研磨方法は、前記基板を研磨する前に、前記ひずみ測定器を較正する工程をさらに含む。
一態様では、前記ひずみ測定器を較正する工程は、第1の力を前記支持構造体に加えたときの前記ひずみ測定器の第1の出力値を決定し、前記第1の力とは異なる第2の力を前記支持構造体に加えたときの前記ひずみ測定器の第2の出力値を決定し、前記第1の出力値および前記第2の出力値を、第1の基準値および第2の基準値にそれぞれ合わせる工程を含む。
【発明の効果】
【0013】
基板と研磨パッドとの間に生じる摩擦力は、研磨ヘッドおよび回転軸を介して支持構造体に伝わる。基板の研磨中の支持構造体のひずみは、基板と研磨パッドとの間に生じる摩擦力に従って変化する。基板の表面を形成する膜が除去され、下地層が露出すると、上記摩擦力が変化する。したがって、終点検出器は、基板の終点を、支持構造体のひずみの変化に基づいて決定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】研磨装置の一実施形態を示す模式図である。
図2】ウェーハを研磨パッドに接触させた時点からの支持構造体のひずみの変化を示すグラフである。
図3】ひずみがピーク値に達した後に、ひずみ測定器の測定モードが低分解能測定モードから高分解能測定モードに切り替えられたときの、ひずみの変化を示すグラフである。
図4】低分解能測定モードで動作する第1ひずみ測定器と、高分解能測定モードで動作する第2ひずみ測定器を備えた研磨装置の一実施形態を示す模式図である。
図5】ひずみ測定器の較正をしているときの支持構造体の上面図である。
図6】支持構造体に第1の力を加えたときのひずみ測定器の第1の出力値と、支持構造体に第2の力を加えたときのひずみ測定器の第2の出力値と、第1の基準値および第2の基準値の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
図1は、研磨装置の一実施形態を示す模式図である。図1に示すように、研磨装置は、研磨パッド2を支持する研磨テーブル3と、基板の一例であるウェーハWを研磨パッド2に押し付ける研磨ヘッド1と、研磨テーブル3を回転させるテーブルモータ6と、研磨ヘッド1に連結された回転軸11と、回転軸11を回転可能に支持する支持構造体15と、研磨パッド2上にスラリーを供給するためのスラリー供給ノズル5とを備えている。研磨パッド2の表面は、ウェーハWを研磨する研磨面2aを構成する。
【0016】
研磨テーブル3はテーブルモータ6に連結されており、研磨テーブル3および研磨パッド2を一体に回転させるように構成されている。研磨ヘッド1は、回転軸11の端部に固定されており、回転軸11は、支持構造体15に回転可能に支持されている。回転軸11は、支持構造体15の内部に配置されている回転装置(図示せず)に連結されており、回転軸11および研磨ヘッド1は回転装置によって回転される。支持構造体15は、支軸16に固定された旋回モータ18に支持されている。旋回モータ18が動作すると、支持構造体15および研磨ヘッド1は、支軸16を中心に旋回する。
【0017】
研磨ヘッド1は、ウェーハWを囲むリテーナリング7を備えている。リテーナリング7は、ウェーハWの研磨中にウェーハWが研磨ヘッド1から外れてしまうことを防止するために設けられている。リテーナリング7は、ウェーハWの研磨中は、ウェーハWの外側で研磨パッド2に押し付けられる。
【0018】
ウェーハWは次のようにして研磨される。研磨テーブル3および研磨ヘッド1を図1の矢印で示す方向に回転させながら、スラリー供給ノズル5からスラリーが研磨テーブル3上の研磨パッド2の研磨面2aに供給される。ウェーハWは研磨ヘッド1によって回転されながら、研磨パッド2とウェーハWとの間にスラリーが存在した状態で研磨パッド2の研磨面2aに押し付けられる。ウェーハWの表面は、スラリーの化学的作用と、スラリーに含まれる砥粒の機械的作用により研磨される。
【0019】
研磨装置は、研磨ヘッド1、研磨テーブル3、およびスラリー供給ノズル5の動作を制御する動作制御部9をさらに備えている。動作制御部9は、少なくとも1台のコンピュータから構成されている。
【0020】
研磨装置は、支持構造体15のひずみを測定するひずみ測定器20と、支持構造体15のひずみの変化に基づいてウェーハWの研磨終点を決定する終点検出器22をさらに備えている。ひずみ測定器20は、支持構造体15に固定されたひずみセンサ25と、ひずみセンサ25に電気的に接続された信号コンバータ28を備えている。本実施形態では、ひずみセンサ25は、支持構造体15の側面に固定されている。2つのひずみセンサ25を支持構造体15の両側面に固定してもよい。
【0021】
終点検出器22は、少なくとも1台のコンピュータから構成されている。終点検出器22は、プログラムが内部に格納された記憶装置22aと、プログラムに従って演算を実行する演算装置22bを備えている。演算装置22bは、CPU(中央処理装置)またはGPU(グラフィックプロセッシングユニット)などを含む。記憶装置22aは、演算装置22bがアクセス可能な主記憶装置(例えばランダムアクセスメモリ)と、データおよびプログラムを格納する補助記憶装置(例えば、ハードディスクドライブまたはソリッドステートドライブ)を備えている。
【0022】
支持構造体15上のひずみセンサ25の位置は、ひずみ測定器20が支持構造体15のひずみを正しく測定できる限りにおいて、特に限定されない。一実施形態では、1つまたはそれよりも多いひずみセンサ25を、支持構造体15の上面および/または下面に固定してもよい。
【0023】
本実施形態で使用されているひずみセンサ25は、水晶を備えた圧電式センサである。支持構造体15のひずみに起因して水晶が変形すると、水晶は圧電効果により電荷を放出する。電荷は信号コンバータ28に送られ、電圧に変換される。一例では、信号コンバータ28は、チャージアンプから構成されている。変換された電圧の値はひずみの大きさに比例する。信号コンバータ28は、電圧の値をひずみの大きさを示す出力値として出力する。信号コンバータ28の出力値(電圧値)は、支持構造体15のひずみの大きさを表し、支持構造体15のひずみの大きさに従って変化する。
【0024】
ただし、ひずみ測定器20は、支持構造体15のひずみを直接または間接に測定できる装置であれば特に限定されない。例えば、ひずみ測定器20は、ひずみゲージとアンプとの組み合わせ、または水晶以外の材料を用いた圧電素子を備えてもよい。
【0025】
本明細書において、ひずみを測定することは、ひずみの大きさ自体を測定することのみならず、ひずみの大きさに従って変化する物理量または指標値を決定することも意味する。ひずみの大きさに従って変化する信号コンバータ28の出力値(電圧値)は、ひずみの測定値の一例である。
【0026】
図2は、ウェーハWを研磨パッド2に接触させた時点からの支持構造体15のひずみの変化を示すグラフである。図2において、縦軸は支持構造体15のひずみを表し、横軸は時間を表している。時点t1でウェーハWを研磨パッド2に接触させると、支持構造体15のひずみは急激に増加する。ウェーハWを研磨パッド2に接触させるとき、リテーナリング7も研磨パッド2に接触する。したがって、支持構造体15のひずみは、ウェーハWと研磨パッド2との間に生じる摩擦力と、リテーナリング7と研磨パッド2との間に生じる摩擦力の合力によって引き起こされる。
【0027】
ウェーハWの研磨開始後、ウェーハWの研磨が安定するまで、支持構造体15のひずみは増加し続ける。ウェーハWの研磨が安定すると、ひずみはピーク値P1に到達し(時点t2)、その後ひずみはウェーハWの研磨の進行とともに徐々に減少する。ウェーハWの表面を構成する膜が除去されて下地層が露出すると、ウェーハWと研磨パッド2との間の摩擦力が増加する。この摩擦力の増加に起因して、支持構造体15のひずみが増加し始める(時点t3)。
【0028】
終点検出器22は、ひずみ測定器20に電気的に接続されており、ひずみ測定器20の出力値は終点検出器22に送られるようになっている。終点検出器22は、支持構造体15のひずみの変化に基づいて、ウェーハWの研磨終点を決定する。より具体的には、終点検出器22は、ひずみの変化率(すなわち、単位時間当たりのひずみの変化量)がしきい値を上回った時点であるウェーハWの研磨終点を決定する。
【0029】
ウェーハWの表面を構成する膜の材料と、膜の下に存在する下地層の材料の組み合わせによっては、ウェーハWの研磨によって下地層が露出すると、支持構造体15のひずみが大きく減少することもある。このような場合は、終点検出器22は、ひずみの変化率がしきい値を下回った時点であるウェーハWの研磨終点を決定する。
【0030】
ウェーハWと研磨パッド2との間に生じる摩擦力は、研磨ヘッド1および回転軸11を介して支持構造体15に伝わる。リテーナリング7と研磨パッド2との間に生じる摩擦力も支持構造体15に加わるが、ウェーハWの研磨中は、リテーナリング7と研磨パッド2との間に生じる摩擦力は実質的に一定である。したがって、ウェーハWの研磨中の支持構造体15のひずみは、ウェーハWと研磨パッド2との間に生じる摩擦力に従って変化する。ウェーハWの表面を形成する膜が除去され、下地層が露出すると、上記摩擦力が変化する。したがって、終点検出器22は、ウェーハWの終点を、支持構造体15のひずみの変化に基づいて決定することができる。
【0031】
支持構造体15のひずみは、ウェーハWと研磨パッド2との間に生じる摩擦力と、リテーナリング7と研磨パッド2との間に生じる摩擦力の合力によって引き起こされる。図2のグラフに示すピーク値P1は、これら2つの摩擦力によって生じる支持構造体15のひずみの大きさの最大値である。ピーク値P1に比べて、ウェーハWの研磨に伴うひずみの変化は小さい。
【0032】
ウェーハWの研磨終点を精度よく決定するためには、ウェーハWの研磨に伴うひずみの変化を高感度で検出する必要がある。1つの考えられる解決策は、ひずみ測定器20の測定分解能を上げることである。しかしながら、測定分解能を上げると、ピーク値P1がひずみ測定器20の有効測定範囲内に収まらなくなってしまうことがある。
【0033】
そこで、一実施形態では、ひずみ測定器20は、ウェーハWの研磨中に測定モードを低分解能測定モードから高分解能測定モードに切り替えるように構成されている。ひずみ測定器20は、支持構造体15のひずみを第1の分解能で測定する低分解能測定モードと、第1の分解能よりも高い第2の分解能で支持構造体15のひずみを測定する高分解能測定モードの2つの測定モードを備えている。
【0034】
本実施形態では、低分解能測定モードは、ひずみの第1範囲を、予め定められた測定出力範囲に変換する低ゲインモードであり、高分解能測定モードは、第1範囲よりも狭いひずみの第2範囲を上記測定出力範囲に変換する高ゲインモードである。信号コンバータ28は、低分解能測定モードの間は、ひずみの第1範囲を、予め定められた測定出力範囲に変換し、高分解能測定モードの間は、ひずみの第2範囲を前記測定出力範囲に変換するように構成されている。例えば、ひずみの第1範囲を0~1000、ひずみの第2範囲を0~10、測定出力範囲を0V~10Vとすると、低分解能測定モードでは、ひずみの第1範囲0~1000は測定出力範囲0V~10Vに対応する。一方、高分解能測定モードでは、ひずみの第2範囲0~10は測定出力範囲0V~10Vに対応する。高分解能測定モードでは1V当たりのひずみの変化が、低分解能測定モードに比べて小さいので、高分解能測定モードのひずみ測定器20は、支持構造体15のひずみをより細かく測定することができる。
【0035】
ひずみ測定器20は、ウェーハWの研磨中に、測定モードを低分解能測定モードから高分解能測定モードに切り替える。測定モードを低分解能測定モードから高分解能測定モードに切り替えるタイミングは、ウェーハWの研磨が安定しているときであって、かつウェーハWの研磨の初期段階であることが好ましい。よって、本実施形態では、ひずみ測定器20は、ひずみがピーク値P1に達した後に、測定モードを低分解能測定モードから高分解能測定モードに切り替える。
【0036】
図3は、ひずみがピーク値P1に達した後に、ひずみ測定器20の測定モードが低分解能測定モードから高分解能測定モードに切り替えられたときの、ひずみの変化を示すグラフである。終点検出器22は、ひずみ測定器20に指令を発して、ウェーハW研磨の初期段階ではひずみ測定器20に低分解能測定モードで支持構造体15のひずみを測定させる(時点t1からt2)。終点検出器22は、ひずみがピーク値P1に達したことをひずみ測定器20の出力値に基づいて決定し、その後、ひずみ測定器20に指令を発して、ひずみ測定器20の測定モードを低分解能測定モードから高分解能測定モードに切り替えさせる(時点t2)。ひずみ測定器20は、支持構造体15のひずみを高分解能測定モードで測定する。そして、終点検出器22は、高分解能測定モードで測定されたひずみの変化に基づいてウェーハWの研磨終点を決定する(時点t3)。
【0037】
図3に示すように、本実施形態においては、ひずみ測定器20の測定モードが低分解能測定モードから高分解能測定モードに切り替えられたとき、ひずみ測定器20は、その出力値を予め設定された値に調整する出力値リセットを実行するように構成されている。本実施形態では、予め設定された値は0である。したがって、高分解能測定モードでは、ひずみ測定器20の出力値は0から開始される。一実施形態では、出力値リセットに使用される予め設定された値は、0以外の数値であってもよい。
【0038】
ひずみ測定器20の出力値リセットは、1枚のウェーハを研磨するたびに実施してもよいし、または、複数枚のウェーハを研磨するたびに実施してもよい。あるいは、ダミーウェーハ(ダミー基板)を用いてひずみ測定器20の出力値リセットを実施してもよい。ダミーウェーハの例としては、膜が形成されていないベアシリコンウェーハ、均一な膜が表面に形成されたブラケットウェーハなどが挙げられる。例えば、ひずみ測定器20の出力値が単調減少することが想定される場合には、ひずみ測定器20の出力値を、信号コンバータ28への入力最大値に調整することで、ひずみ測定器20はより大きな範囲で支持構造体15のひずみを測定することができる。
【0039】
上述した実施形態では、1つのひずみ測定器20の測定モードが低分解能測定モードから高分解能測定モードに切り替えられるが、本発明はこの実施形態に限定されない。一実施形態では、図4に示すように、ひずみ測定器20は、低分解能測定モードで動作する第1ひずみ測定器20Aと、高分解能測定モードで動作する第2ひずみ測定器20Bを備えている。
【0040】
第1ひずみ測定器20Aは、支持構造体15に固定された第1ひずみセンサ25Aと、第1ひずみセンサ25Aに接続された第1信号コンバータ28Aを備えている。第2ひずみ測定器20Bは、支持構造体15に固定された第2ひずみセンサ25Bと、第2ひずみセンサ25Bに接続された第2信号コンバータ28Bを備えている。終点検出器22は、第1ひずみ測定器20Aおよび第2ひずみ測定器20Bの両方に接続されており、第1ひずみ測定器20Aの出力値および第2ひずみ測定器20Bの出力値は、終点検出器22に送られる。
【0041】
終点検出器22は、ウェーハWの研磨中に、第1ひずみ測定器20Aおよび第2ひずみ測定器20Bに指令を発し、支持構造体15のひずみの測定を、第1ひずみ測定器20Aによる測定から、第2ひずみ測定器20Bによる測定に切り替える。より具体的には、終点検出器22は、第1ひずみ測定器20Aに指令を発して、ウェーハWの研磨の初期段階では第1ひずみ測定器20Aに低分解能測定モードで支持構造体15のひずみを測定させる。終点検出器22は、ひずみがピーク値P1に達したことを第1ひずみ測定器20Aの出力値に基づいて決定し、その後、第2ひずみ測定器20Bに指令を発して、第2ひずみ測定器20Bに高分解能測定モードで支持構造体15のひずみを測定させる。そして、終点検出器22は、高分解能測定モードで測定されたひずみの変化に基づいてウェーハWの研磨終点を決定する。
【0042】
図4に示す実施形態においても、図3に示すグラフのように、ウェーハWの研磨中にひずみの測定モードは、低分解能測定モードから高分解能測定モードに切り替えられる。したがって、終点検出器22は、ウェーハWの研磨終点を精度よく決定することができる。
【0043】
ひずみ測定器20によって測定される支持構造体15のひずみの大きさは、摩擦力に加えて、支持構造体15の強度、およびひずみセンサ25の取り付け位置によっても変わりうる。言い換えれば、ウェーハWと研磨パッド2との間に生じる摩擦力が同じであっても、支持構造体15の強度、およびひずみセンサ25の取り付け位置によって、ひずみ測定器20の出力値は変わりうる。
【0044】
そこで、一実施形態では、以下に説明するように、支持構造体15に加わる力を、ひずみ測定器20の出力値に関連付けることによって、ひずみ測定器20を較正(キャリブレーション)する。
【0045】
図5は、ひずみ測定器20の較正をしているときの支持構造体15の上面図である。ロードセルなどの荷重測定器32が支持構造体15の横に設置される。荷重測定器32は、図示しない静止部材に固定されている。第1のトルク電流を旋回モータ18に流すと、支持構造体15は旋回モータ18を中心に回転し、荷重測定器32に押し付けられる。このとき、支持構造体15は、荷重測定器32から第1の力(反力)を受けて、ひずむ。荷重測定器32は、支持構造体15に加えられる第1の力を測定し、同時にひずみ測定器20は支持構造体15のひずみを測定する。
【0046】
次に、第1のトルク電流とは異なる第2のトルク電流を旋回モータ18に流すと、支持構造体15は同様に荷重測定器32に押し付けられる。このとき、支持構造体15は、荷重測定器32から第1の力とは異なる第2の力(反力)を受けて、ひずむ。荷重測定器32は、支持構造体15に加えられる第2の力を測定し、同時にひずみ測定器20は支持構造体15のひずみを測定する。
【0047】
ひずみ測定器20の較正は、第1の力を支持構造体15に加えたときのひずみ測定器20の第1の出力値を決定するステップと、第1の力とは異なる第2の力を支持構造体15に加えたときのひずみ測定器20の第2の出力値を決定するステップと、第1の出力値および第2の出力値を、第1の基準値および第2の基準値にそれぞれ合わせるステップを含む。第1の基準値および第2の基準値は、予め定められた値である。
【0048】
図6は、支持構造体15に第1の力を加えたときのひずみ測定器20の第1の出力値と、支持構造体15に第2の力を加えたときのひずみ測定器20の第2の出力値と、第1の基準値および第2の基準値の関係を示すグラフである。図6において、縦軸は較正されたひずみ測定器20の出力値を表し、横軸は較正される前のひずみ測定器20の出力値を表している。
【0049】
図6に示すように、第1の力を支持構造体15に加えたときのひずみ測定器20の第1の出力値M1は、第1の基準値N1に合わせられ、第2の力を支持構造体15に加えたときのひずみ測定器20の第2の出力値M2は、第2の基準値N2に合わせられる。このようにして、支持構造体15に加えられる第1の力および第2の力は、ひずみ測定器20の出力値に関連付けられる。本実施形態によれば、支持構造体15の強度、およびひずみセンサ25の取り付け位置に影響されずに、ひずみ測定器20は、摩擦力に対応した出力値を生成することができる。
【0050】
ひずみ測定器20の較正は、ウェーハを研磨する前に実施される。ただし、研磨しようとするすべてのウェーハの研磨前に較正を実施しなくてもよい。
【0051】
ひずみ測定器20の較正方法は、支持構造体15に予め定められた力を加えることができる限り、図5に示す実施形態に限られない。次に説明する方法は、荷重測定器32を用いないでひずみ測定器20を較正する一実施形態である。
【0052】
動作制御部9は、研磨テーブル3を回転させ、さらに研磨ヘッド1に指令を発して、第1の荷重でウェーハWを研磨パッド2に研磨ヘッド1で押し付けさせ、次いで第2の荷重でウェーハWを研磨ヘッド1で研磨パッド2に押し付けさせる。第2の荷重は第1の荷重とは異なる。したがって、第1の荷重を研磨パッド2に加えたときにウェーハWと研磨パッド2との間に生じる摩擦力は、第2の荷重を研磨パッド2に加えたときにウェーハWと研磨パッド2との間に生じる摩擦力とは異なる。
【0053】
第1の荷重を研磨パッド2に加えたとき、第1の荷重に対応する第1の力が研磨ヘッド1を通じて支持構造体15に加えられ、支持構造体15がひずむ。このとき、ひずみ測定器20は、支持構造体15のひずみを測定する。同様に、第2の荷重を研磨パッド2に加えたとき、第2の荷重に対応する第2の力が研磨ヘッド1を通じて支持構造体15に加えられ、支持構造体15がひずむ。このとき、ひずみ測定器20は、支持構造体15のひずみを測定する。
【0054】
次に、図6を参照して説明したように、第1の力を支持構造体15に加えたときのひずみ測定器20の第1の出力値は、第1の基準値に合わせられ、第2の力を支持構造体15に加えたときのひずみ測定器20の第2の出力値は、第2の基準値に合わせられる。
【0055】
上述した実施形態は、本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者が本発明を実施できることを目的として記載されたものである。上記実施形態の種々の変形例は、当業者であれば当然になしうることであり、本発明の技術的思想は他の実施形態にも適用しうる。したがって、本発明は、記載された実施形態に限定されることはなく、特許請求の範囲によって定義される技術的思想に従った最も広い範囲に解釈されるものである。
【符号の説明】
【0056】
1 研磨ヘッド
2 研磨パッド
2a 研磨面
3 研磨テーブル
5 スラリー供給ノズル
6 テーブルモータ
7 リテーナリング
9 動作制御部
11 回転軸
15 支持構造体
16 支軸
18 旋回モータ
20 ひずみ測定器
20A 第1ひずみ測定器
20B 第2ひずみ測定器
22 終点検出器
22a 記憶装置
22b 演算装置
25 ひずみセンサ
25A 第1ひずみセンサ
25B 第2ひずみセンサ
28 信号コンバータ
28A 第1信号コンバータ
28B 第2信号コンバータ
32 荷重測定器
図1
図2
図3
図4
図5
図6