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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-07
(45)【発行日】2022-10-18
(54)【発明の名称】無人航空機
(51)【国際特許分類】
   G01N 23/223 20060101AFI20221011BHJP
   B64C 39/02 20060101ALI20221011BHJP
   B64C 25/10 20060101ALI20221011BHJP
【FI】
G01N23/223
B64C39/02
B64C25/10
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2019517580
(86)(22)【出願日】2018-05-01
(86)【国際出願番号】 JP2018017387
(87)【国際公開番号】W WO2018207678
(87)【国際公開日】2018-11-15
【審査請求日】2020-12-15
(31)【優先権主張番号】P 2017094933
(32)【優先日】2017-05-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000155023
【氏名又は名称】株式会社堀場製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100121441
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 竜平
(74)【代理人】
【識別番号】100154704
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 真大
(72)【発明者】
【氏名】青山 朋樹
(72)【発明者】
【氏名】中村 龍人
【審査官】越柴 洋哉
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-019584(JP,A)
【文献】特開2016-211878(JP,A)
【文献】特開2013-205122(JP,A)
【文献】特表2016-522113(JP,A)
【文献】特表2015-519571(JP,A)
【文献】韓国登録特許第10-1867737(KR,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 23/00 - G01N 23/2276
B64C 1/00 - B64C 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
空中を移動して、所定の測定対象に対して蛍光X線分析を行うことができる無人航空機であって、
航空機本体と、
前記航空機本体に接続され、前記測定対象にX線を照射するX線照射手段と、前記X線の照射によって前記測定対象から発生する蛍光X線を検出する蛍光X線検出手段とを有する蛍光X線分析装置と、
前記測定対象と前記蛍光X線検出手段との間の距離を測定する測距手段とを備え、
当該測定した距離に基づき、前記測定対象から発生した蛍光X線の強度が前記蛍光X線検出手段により検出されるまでの間に減衰する減衰量を算出し、
当該算出した減衰量を用いて、前記蛍光X線検出手段により検出された前記蛍光X線のスペクトルを補正することを特徴とする無人航空機。
【請求項2】
前記測距手段は、レーザー距離計又は超音波距離計である請求項1記載の無人航空機。
【請求項3】
前記測距手段は、前記測定対象に接触可能な接触部を具備するものであり、前記接触部を前記測定対象に接触させることで前記測定対象と前記蛍光X線検出手段との間の距離を測定するものである請求項1記載の無人航空機。
【請求項4】
前記蛍光X線分析装置が測定した蛍光X線のスペクトルを示す測定データと、前記測距手段が測定した距離を示す距離データとを対応付けて記憶する、請求項1記載の無人航空機。
【請求項5】
GPS受信手段をさらに有し、前記測定データと前記距離データと前記GPS受信手段によって取得された位置データとを対応付けて記憶する、請求項4記載の無人航空機。
【請求項6】
前記測距手段が測定した距離に基づいて、前記蛍光X線検出手段と前記測定対象との間の距離を所定の範囲内に調整する距離調整手段をさらに有する請求項1記載の無人航空機。
【請求項7】
前記距離調整手段は、前記航空機本体と前記蛍光X線分析装置とを距離可変に連結する連結部材を具備するものである請求項記載の無人航空機。
【請求項8】
前記距離調整手段は、前記航空機本体に設けられ、かつ前記航空機本体と前記測定対象との間の距離を調節可能な着地用脚部を具備するものである、請求項記載の無人航空機。
【請求項9】
前記距離調整手段は、前記蛍光X線検出手段と前記測定対象との間の距離を1cm以上10cm以下に調整する請求項記載の無人航空機。
【請求項10】
空中を移動して、所定の測定対象に対して蛍光X線分析を行うことができる無人航空機を用いた蛍光X線分析システムであって、
前記無人航空機が、
航空機本体と、
前記航空機本体に接続され、前記測定対象にX線を照射するX線照射手段と、前記X線の照射によって前記測定対象から発生する蛍光X線を検出する蛍光X線検出手段とを有する蛍光X線分析装置と、
前記測定対象と前記蛍光X線検出手段との間の距離を測定する測距手段とを備えるものであり、
前記測距手段により測定された距離に基づき、前記測定対象から発生した蛍光X線の強度が前記蛍光X線検出手段により検出されるまでの間に減衰する減衰量を算出し、
当該算出した減衰量を用いて、前記蛍光X線検出手段により検出された前記蛍光X線のスペクトルを補正することを特徴とする蛍光X線分析システム。
【請求項11】
空中を移動して、所定の測定対象に対して蛍光X線分析を行うことができる無人航空機を用いた蛍光X線分析方法であって、
前記無人航空機が、
航空機本体と、
前記航空機本体に接続され、前記測定対象にX線を照射するX線照射手段と、前記X線の照射によって前記測定対象から発生する蛍光X線を検出する蛍光X線検出手段とを有する蛍光X線分析装置と、
前記測定対象と前記蛍光X線検出手段との間の距離を測定する測距手段とを備えるものであり、
前記測距手段により測定された距離に基づき、前記測定対象から発生した蛍光X線の強度が前記蛍光X線検出手段により検出されるまでの間に減衰する減衰量を算出し、
当該算出した減衰量を用いて、前記蛍光X線検出手段により検出された前記蛍光X線のスペクトルを補正することを特徴とする蛍光X線分析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空中を移動して、所定の測定対象に対して蛍光X線分析を行うことができる無人航空機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、試料の分析を行うための装置として、試料に一次X線を照射して組成を分析する蛍光X線分析装置が利用されている。蛍光X線分析装置は、一次X線を試料に照射した際に生じる蛍光X線(二次X線)を検出器にて検出し、検出した蛍光X線のスペクトル分布などから、試料に含まれる元素の特定及びこの元素の濃度の算出等を行うことができる。
【0003】
蛍光X線分析装置として、試料室に入れることができない大型の試料や、サンプリングを行うことができない試料を蛍光X線分析装置で分析したいというニーズ、さらには工業製品や考古学試料等の多くの試料に対して、製造現場や発掘現場等の現場にて手軽に蛍光X線分析を行いたいというニーズに応えるため、例えば特許文献1に開示されるような可搬型の蛍光X線分析装置が開発され普及している。
【0004】
しかしながら、このような可搬型の蛍光X線分析装置が開発され普及したとはいえ、例えば標高が高い山の地表面や、放射線量が高い地域においては、作業員が直接現場に出向いて蛍光X線分析を行うことは困難である。引用文献2には、気球や飛行機等の航空機に蛍光X線分析装置等の測定装置を搭載したものが開示されているが、これは空中に浮遊する粒子状物質を捕獲して元素分析をするものであり、地表面などの元素分析を精度よく行うことができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2010-197229号公報
【文献】特開2003-315244号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上述した問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、人間が立ち入ることが困難な場所においても、精度よく蛍光X線分析を行うことが可能な無人航空機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る無人航空機は、空中を移動して、所定の測定対象に対して蛍光X線分析を行うことができるものであって、航空機本体と、前記航空機本体に接続され、前記測定対象にX線を照射するX線照射手段と、前記X線の照射によって前記測定対象から発生する蛍光X線を検出する蛍光X線検出手段とを有する蛍光X線分析装置と、前記測定対象と前記蛍光X線検出手段との間の距離を測定する測距手段とを備えることを特徴とするものである。
【0008】
このような構成であれば、例えば標高が高い山の地表面であっても、当該無人航空機を接近させて、容易に蛍光X線分析を行うことができる。また、当該無人航空機の使用者自身が調査現場へ接近する必要がないので、放射線量が高い地域における調査であっても、被曝による健康被害の恐れがない無人航空機を接近させて、使用者が調査現場へ接近した場合に生じる時間制限がなく、より精度の高い蛍光X線分析を行うことができる。
また、蛍光X線分析では、蛍光X線を発生する測定対象と蛍光X線検出器との間の距離が変動することによって、検出される蛍光X線のスペクトルの強度が変動するが、本発明では、測距手段を用いて測定対象と蛍光X線検出手段との間の距離を取得するので、蛍光X線分析により得られた蛍光X線のスペクトルの強度の変動を、取得した距離情報に基づいて補正することができる。さらには、取得した距離情報に基づいて、蛍光X線検出手段と測定対象との間の距離を一定に保つことができる。これにより正確な定量分析を行うことが可能になる。
【0009】
なお、本明細書において、“測定対象と蛍光X線検出手段との間の距離”とは、測定対象から生じた蛍光X線が大気中を移動して蛍光X線検出手段に検出されるまでの間における、蛍光X線の強度の減衰量を計算により算出するために必要な距離を意味する。測定対象と蛍光X線検出手段との間の距離は、測距手段によって直接的に測定されるものでもよく、あるいは測定対象と蛍光X線検出手段との間の距離以外の距離を換算することによって間接的に測定されるものであってもよい。
【0010】
測距手段の態様としては、レーザー距離計又は超音波距離計等の非接触型のものであってよい。測距手段はまた接触型のものであってもよい。その場合は、測定対象に接触可能な接触部を具備し、当該接触部を測定対象に接触させることで測定対象と蛍光X線検出手段との間の距離を測定するものを挙げることができる。
【0011】
本発明に係る無人航空機は、蛍光X線分析装置が測定した蛍光X線のスペクトルを示す測定データと、測距手段が測定した距離を示す距離データとを対応付けて記憶するものであることが好ましい。
【0012】
このような構成であれば、複数の地点で蛍光X線分析を行って測定データを得た場合であっても、当該測定データの各々に対応する距離データを記憶しているので、後から当該距離データに基づいて対応する測定データを補正することができる。
【0013】
本発明に係る無人航空機は、測距手段が測定した距離データを用いて、当該距離データと対応付けて記憶している測定データを補正することが好ましい。
【0014】
このような構成であれば、取得した距離データを用いて、測定した蛍光X線のスペクトルの大気中での減衰量を考慮して補正することができるので、より精度の高い定量分析を行うことができる。
【0015】
本発明に係る無人航空機は、GPS受信手段をさらに有し、蛍光X線分析装置が測定した測定データと測距手段が測定した距離を示す距離データとGPS受信手段によって取得された位置データとを対応付けて記憶するものであることが好ましい。
【0016】
このような構成であれば、蛍光X線分析により得られるスペクトルデータと、GPS手段による測定位置との関係を記録したマッピングを作成することができる。
【0017】
本発明に係る無人航空機は、測距手段が測定した距離に基づいて、蛍光X線検出手段と測定対象との間の距離を所定の範囲内に調整する距離調整手段をさらに有するものであることが好ましい。具体的には、蛍光X線検出手段と測定対象との間の距離を1cm以上10cm以下に調整するものであることが好ましい。
【0018】
このような構成であれば、蛍光X線検出手段と測定対象との間の距離を所定の範囲内に調整することで、エネルギーの小さい蛍光X線の検出漏れを低減することができ、より精度の高い定性分析を行うことが可能になる。
【0019】
距離調整手段の態様としては、航空機本体と蛍光X線分析装置とを距離可変に連結する連結部材を具備するものであってよい。
【0020】
このような構成であれば、応答性に優れた連結部材を有することにより、プロペラ等の飛翔手段によって航空機本体の高度を調整して蛍光X線検出手段と測定対象との間の距離を調整するよりも、迅速かつ正確に距離を調整することができる。そのため、無人航空機が飛行しながら蛍光X線分析を行っている間に、突風等の影響により無人航空機(航空機本体)の高度に微小な変動が生じたとしても、蛍光X線検出手段と測定対象との間の距離を略一定に保持することが可能になり、精度の高い定量分析を行うことが可能になる。
【0021】
距離調整手段の態様としてはまた、航空機本体に設けられ、かつ航空機本体と測定対象との間の距離を調節可能な着地用脚部を具備するものであってもよい。
【0022】
このような構成であれば、航空機本体が地面に着地した後、航空機本体と測定対象との距離を調整することで、蛍光X線検出手段と測定対象との間の距離を略一定にすることができるので、精度の高い定量分析を行うことが可能になる。
【発明の効果】
【0023】
このように構成した本発明によれば、人が立ち入ることが困難な地域において蛍光X線分析を行うことが可能な無人航空機を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1図1は、本発明の一実施形態の無人航空機の全体構成を示す概略図である。
図2図2は、本発明の一実施形態の無人航空機の構成を示すブロック図である。
図3図3は、本発明の一実施形態の蛍光X線分析装置の構成を示す概略図である。
図4図4は、本発明の他の実施形態の無人航空機の全体構成を示す概略図である。
図5図5は、本発明の他の実施形態の蛍光X線分析装置の構成を示す概略図である。
図6図6は、本発明の他の実施形態の蛍光X線分析装置の構成を示す概略図である。
図7図7は、本発明の他の実施形態の無人航空機の全体構成を示す概略図である。
【符号の説明】
【0025】
100・・・・無人航空機
10・・・・ドローン本体
12・・・・プロペラ
14・・・・制御装置
14a・・・距離取得部
14b・・・距離制御部
14c・・・位置情報取得部
14d・・・記憶部
20・・・・蛍光X線分析装置
22・・・・筐体
24・・・・X線管
26・・・・X線検出器
28・・・・分析部
30・・・・レーザー距離計
40・・・・連結部材
50・・・・着地用脚部
S・・・・GPS衛星
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下に、本発明に係る無人航空機の一実施形態について、図面を参照して説明する。
【0027】
<無人航空機100の構成>
本実施形態に係る無人航空機100は、例えば、遠隔操作又は自律飛行によって、空中を移動して地質調査を行う現場に向かい、調査対象(または測定対象)である地表面に接近して蛍光X線分析を行うためのものである。
【0028】
無人航空機100は、図1に示すように、プロペラ12等の飛翔手段や各種制御信号を送信する制御装置14を有するドローン本体(航空機本体)10と、地表面に含まれる元素の定性分析及び定量分析を行うための蛍光X線分析装置20と、ドローン本体10と蛍光X線分析装置20とを距離可変に連結する連結部材40と、蛍光X線分析装置20と測定対象との間の距離を測定するレーザー距離(測距手段)30とを具備している。
以下、各構成について説明する。
【0029】
ドローン本体10は、空中を移動して調査対象に接近するためのものであり、プロペラ12と制御装置14とを備えている。
本実施形態のドローン本体10は、操縦者が手元のコントローラを操作して、無線を介して制御信号をドローン本体10に送信し、ドローン本体10の動きを遠隔操作して測定を行う遠隔操作モードと、制御装置14に予め組み込まれたプログラムに基づいて自律的に飛行して測定を行う自律飛行モードとを有しており、任意にモードを切り替えることが可能である。
【0030】
プロペラ12は、無人航空機100に推進力を与えるものである。本実施形態のドローン本体10は、4つのプロペラ12を有しており、制御装置14から送信される制御信号に基づいて、図示しないモーターによって各々のプロペラ12の回転数を調整することにより、無人航空機100が空中において前後左右上下へ自由に移動することを可能にしている。
【0031】
制御装置14は、ドローン本体10内に設けられており、レーザー距離計30から距離情報を取得して、プロペラ12や蛍光X線分析装置20や連結部材40等に制御信号を送信するものである。物理的にはCPU、メモリ、A/Dコンバータ等を備えたコンピュータであり、前記メモリの所定領域に格納されたプログラムに従ってCPUや周辺機器が協働することにより、図2に示すように、距離取得部14a、距離制御部14b、位置情報取得部14c、記憶部14dとしての機能を発揮するように構成されたものである。
【0032】
距離取得部14aは、有線又は無線を介してレーザー距離計30から、蛍光X線分析装置20と測定対象との間の距離に関する距離情報を取得するものである。
【0033】
距離制御部14bは、距離取得部14aから距離情報を受け取るとともに、当該距離情報に基づいて、ドローン本体10と蛍光X線分析装置20との間の距離の目標値を決定し、当該目標値を含む制御信号を連結部材40に送信するものである。
【0034】
より具体的には、距離制御部14bは、距離取得部14aから取得した距離情報に基づいて、蛍光X線分析装置20と地表面との間の距離を1cm以上10cm以下にするために必要な、ドローン本体10と蛍光X線分析装置20との間の距離の目標値を決定する。そして、当該決定した目標値を含む制御信号を、距離制御手段たる連結部材40に送信し、蛍光X線分析装置20と地表面との間の距離を1cm以上10cm以下に制御するように構成されている。
【0035】
距離制御部14bは、制御信号を連結部材40に送信するとともにプロペラ12に制御信号を送信し、無人航空機100の高度を一定に保持あるいは微調整することができる。これにより、プロペラ12と連結部材40とを協働させて、蛍光X線分析装置10と地表面との間の距離を1cm以上10cm以下に制御することができる。
【0036】
位置情報取得部14cは、GPS衛星Sから、無人航空機100が飛行している位置を示す位置データを取得するものである。位置データは、経度データ、緯度データ及び標高データで構成される。無人航空機100は、取得した位置データに基づいて、測定を行う場所まで自律飛行して向かうことが可能である。
【0037】
記憶部14dは、メモリの所定の領域に形成されており、通信プログラム、自律的に飛行して測定を行う自律飛行プログラム、遠隔操作により飛行して測定するための遠隔操作プログラム等が格納されている。また、分析部28が取得した蛍光X線のスペクトルを示す測定データと、レーザー距離計30が測定した距離を示す距離データと、位置情報取得部14cが取得した位置データとを受信して、これらを対応付けて記憶することができる。
【0038】
蛍光X線分析装置20は、測定対象である地表面に一次X線を照射し、地表面に含まれる元素の定性分析及び定量分析を行うものである。図3に示すように、蛍光X線分析装置20は、筐体22の内側に、X線管(X線照射手段)24と、X線検出器(蛍光X線検出手段)26と、分析部28とを具備しており、さらにレーザー距離計30を具備している。
【0039】
X線管24は、測定対象である地表面にX線を照射するものである。これにより、地表面から蛍光X線を発生させることができる。図3に示すように、X線管24は、筐体22の下面(開口を有する面)と測定対象たる地面とが略平行である場合に、X線管24から放射状に照射されるX線(矢印で示す)の略中心軸が、地面の法線に対して所定の角度で傾くように配置されている。なお、X線管24は、ドローン本体10の制御装置14から送信される制御信号を受け付けて、所定の間隔および時間で地表面にX線を照射することができる。しようとするX線源としては特に限定されず、反射型および透過型のX線源、もしくは放射線源を用いてもよい。なお、本実施形態のX線管24から照射されるX線は、エネルギーが10keV未満のものである。
【0040】
X線検出器26は、地表面から発生する蛍光X線を検出するものである。これにより、X線管24が地表面にX線を照射することにより発生したX線を検出することができる。具体的には、検出素子としてSi素子等の半導体検出素子を用いた構成となっており、検出した蛍光X線のエネルギーに比例した電流を出力することができる。図3に示すように、X線検出器26は、矢印で示される検出範囲の中心軸が、X線管24から照射されるX線の中心軸に対して約90°の角度を形成するように配置されている。
【0041】
分析部28は、X線検出器26が出力した電流を受け付け、各電流値の電流をカウントし、X線検出器26が検出した蛍光X線のエネルギーとカウント数との関係、すなわち、蛍光X線のスペクトルを取得するものである。そして取得した蛍光X線のスペクトルに基づいて、蛍光X線を発生した元素の定性分析、定量分析を行うものである。
【0042】
レーザー距離計30は、X線検出器26と地面との間の距離を示す距離情報を取得するものである。レーザー距離計30は、有線又は無線を介して、ドローン本体10の制御装置14に当該距離情報を送信できるように構成されている。
図3に示すように、本実施形態では、レーザー距離計30は、蛍光X線分析装置20の筐体22の内部に設けられている。そして、筐体22の下面と測定対象たる地面とが略平行である場合に、レーザー距離計30から発射されるレーザーが地面の法線に対して略平行となり、かつX線管24による地面にX線が照射される範囲内の所定位置における、X線検出器26と地面との間の距離を測定できるように配置されている。
【0043】
本実施形態の無人航空機100が有するレーザー距離計30の数は1つでもよく、あるいは複数であってもよい。複数個のレーザー距離計30が配置されている場合には、X線検出器26と地面との間の距離をより正確に測定することができる。
【0044】
連結部材40は、ドローン本体10と蛍光X線分析装置20とを距離可変に連結するものである。連結部材40は、図示しないモーター等の駆動機構を有し、制御装置14から送信される制御信号を受け付けて、当該モーター等を駆動することにより伸縮し、蛍光X線分析装置20とドローン本体10との間の距離を調整できるように構成されたテレスコピック構造のものである。
【0045】
<本実施形態の効果>
このように構成された本実施形態に係る無人航空機100によれば、空中を自在に移動することが可能なドローンに蛍光X線分析装置を取り付けているので、例えば標高が高い山の地表面であっても、当該無人航空機を接近させて容易に蛍光X線分析を行うことができる。また、当該無人航空機の使用者自身が調査現場へ接近する必要がないので、放射線量が高い地域における調査であっても、被曝による健康被害の恐れがない無人航空機を接近させることで、使用者が調査現場へ接近した場合に生じる時間制限がなく、より精度の高い蛍光X線分析を行うことができる。
また、蛍光X線分析では、蛍光X線を発生する測定対象と蛍光X線検出手段との間の距離の変動に応じて、検出される蛍光X線のスペクトルの強度が変動するが、本発明では、測距手段を用いて測定対象と蛍光X線検出手段との間の距離を取得するので、蛍光X線分析により得られた蛍光X線のスペクトルの強度の変動を、取得した距離の情報に基づいて補正することができ、より正確な蛍光X線のスペクトルを得ることができる。さらには、取得した距離情報に基づいて、蛍光X線検出手段と測定対象との間の距離を一定に保つことができる。これにより正確な定量分析を行うことが可能になる。
【0046】
<その他の実施形態>
なお本発明は、上述した実施形態に限られるものではない。
【0047】
例えば前記実施形態では、連結部材40を伸縮することにより、ドローン本体10と蛍光X線分析装置20との間の距離を調整して、それにより蛍光X線分析装置20と地面との距離を調整するものであったが、これに限定されない。他の実施形態では、図4に示すようにドローン本体10の底面には、関節を有する屈伸可能な着地用脚部50が設けられており、距離制御部14bからの制御信号を受けて、当該着地用脚部50を曲げ伸ばしすることにより、ドローン本体10と地面との距離を調整し、これにより連結部材40を介してドローン本体10に固定されている蛍光X線分析装置20と地面との間の距離を調整するものであってもよい。
【0048】
このような実施形態であれば、無人航空機100は、蛍光X線分析を行う際に、一度測定対象たる地面に着陸し、それから着地用脚部50を曲げ伸ばしして、蛍光X線分析装置20と地面との間の距離を所定の範囲内になるように調整する。そして測定中には、突風等の影響を受けることなく、蛍光X線分析装置20と地面との間の距離を一定に保つことができるので、より精度の高い定性および定量分析を行うことができる。
【0049】
上述した実施形態では、レーザー距離計30は蛍光X線分析装置20の筐体22の内側であって、X線管24およびX線検出器26に隣接するように設けられているが、この形態に限定されない。
例えば、レーザー距離計30はドローン本体10に取り付けられてもよく、レーザー距離計30と地表面との間の距離を取得して換算することによって、蛍光X線分析装置20と地表面との間の距離を間接的に測定するものであってもよい。そして間接的に測定した距離情報に基づいて、連結部材40を伸縮して、蛍光X線分析装置20と地表面との間の距離が所定の範囲内になるように調整するように構成されていてもよい。
【0050】
また上述した実施形態は、蛍光X線分析装置20と測定対象との間の距離をレーザー距離計により測定するものであるが、他の実施形態では、超音波距離計により当該距離を測定してもよい。特に測定対象の表面の起伏が大きい場合には、超音波距離計を用いることが好ましい。
【0051】
上述した実施形態では、蛍光X線分析装置20と地表面との間の距離を、レーザー距離計や超音波距離計等の非接触式センサーを用いていたが、これに限定されない。例えば、無人航空機100は、ドローン本体10の底面から下方向に延びる予め長さを調整した接触部を備えており、当該接触部を地表面に接触させることで、蛍光X線分析装置20と測定対象との間の距離を間接的に測定するものであってもよい。このような形態の場合、接触部の先端に接触式のセンサーを設け、接触部が地表面に接触した際に当該センサーから無線又は有線により制御装置14に信号を送信することにより、無人航空機100が地表面に対して一定の高さで飛行するように、プロペラ等の飛翔手段が駆動するように構成されることが好ましい。無人航空機100は、接触部の先端が地表面に接触している状態を維持しながら水平方向に移動することにより、地面に対して常に一定の高さを維持して飛行することができるので、蛍光X線分析装置20と測定対象との間の距離を常に一定することができる。そのため、測定対象が広範囲に広がる地面であっても、精度の高い定量分析を簡易かつ迅速に行うことが可能となる。
【0052】
上述した実施形態では、連結部材40は伸縮するものであったが、これに限定されない。図5に示すように、他の実施形態の連結部材40は、複数の部材から構成され、多関節を有するものであってもよい。このような形態であれば、例えば、連結部材40を水平方向に伸ばすことにより、切り立った崖の壁面に対しても容易に蛍光X線分析を行うことができる。さらには、壁の壁面と蛍光X線分析装置20との間の距離一定に保持したまま、無人航空機100が垂直方向に上昇又は下降することで、垂直方向における定性分析および定量分析を高い精度で容易かつ迅速に行うことができる。
【0053】
上述した実施形態では、蛍光X線分析装置20の筐体22の形状は略直方体状のものであったが、これに限定されない。図6に示すように、他の実施形態においては、筐体22の形状は、先端が先細りするような形状であってもよい。筐体22の形状がこのようなものであれば、測定対象の表面の起伏が大きい場合であっても、蛍光X線分析装置20の先端を、地表面により近づけることが可能になり、エネルギーが小さい蛍光X線についても漏れなく検出することが可能となり、より高い精度で定性分析を行うことができる。
【0054】
上述した実施形態では、X線管24は、放射するX線の中心軸が、測定対象の表面の法線に対して所定の角度で傾くように配置されるものであったが、この態様に限定されない。他の実施形態では、図7に示すように、X線管24は、放射状に照射されるX線の中心軸が、測定対象の表面に対して垂直になるように配置されるものであってもよい。このような形態では、X線検出器26の形状は、X線管24から放射されるX線の中心軸を取り囲む環状形状であることが好ましい。X線管24およびX線検出器26がこのような形態であれば、検出立体角を大きくすることができ、X線の検出強度を向上することができ、より高精度な定量分析が可能になる。
【0055】
上述した実施形態では、分析部28はX線検出器26が出力した電流に基づいて、補正をすることなく蛍光X線のスペクトルを算出するものであったが、これに限定されない。他の実施形態では、レーザー距離計30が取得した距離情報に基づいて、地面から生じた蛍光X線の強度がX線検出器26によって検出されるまでに減衰する減衰量を計算し、当該減衰量を考慮して検出した蛍光X線のスペクトルを補正するように構成されていてもよい。このような補正を行うことにより、より高精度な定量分析が可能になる。なお、実際は検出器側とX線側の両方の光路で大気による吸収の影響を受けるが、以下は検出器側のみの光路の減衰の計算補正を示す。
【0056】
具体的には、Lambert-Beerの法則から、以下の式(1)により減衰量を算出して補正を行ってもよい。
I=Iexp(-μair,E×ρair×x)/exp(-μair,E×ρair×x) (1)
(ここで、I:測定対象の表面でのスペクトル強度、I:観測したスペクトル強度、μair,E:エネルギーEのX線に対する空気の質量吸収係数、ρair:空気の密度、x:空気のパス長、x:通常のパス長、である)
また、距離によって立体角が減少することを考慮する場合には、例えば、以下の式(2)を用いて減衰量を算出して補正を行ってもよい。
I=Iexp(-μair,E×ρair×x)/exp(-μair,E×ρair×x)×(x /x) (2)
【0057】
その他、本発明は前記実施形態に限られず、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であるのは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明によれば、人間が立ち入ることが困難な場所においても、精度よく蛍光X線分析を行うことが可能な無人航空機を提供することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7