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特許7155372接合体の製造方法および回路基板の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-07
(45)【発行日】2022-10-18
(54)【発明の名称】接合体の製造方法および回路基板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 37/02 20060101AFI20221011BHJP
   H05K 1/03 20060101ALI20221011BHJP
【FI】
C04B37/02 B
H05K1/03 610D
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021153047
(22)【出願日】2021-09-21
(62)【分割の表示】P 2018530386の分割
【原出願日】2017-07-27
(65)【公開番号】P2022003010
(43)【公開日】2022-01-11
【審査請求日】2021-09-21
(31)【優先権主張番号】P 2016148105
(32)【優先日】2016-07-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】303058328
【氏名又は名称】東芝マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001092
【氏名又は名称】弁理士法人サクラ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】梅原 政司
(72)【発明者】
【氏名】加藤 寛正
(72)【発明者】
【氏名】那波 隆之
【審査官】田中 永一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2010/137651(WO,A1)
【文献】国際公開第2011/034075(WO,A1)
【文献】特開2003-188310(JP,A)
【文献】国際公開第2017/056360(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/094213(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/054609(WO,A1)
【文献】特開2003-055058(JP,A)
【文献】特開2002-274964(JP,A)
【文献】特開2000-226272(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 37/00 - 37/04
H01L 23/13
H01L 23/36
H05K 1/03
H05K 3/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックス部材と銅板とを接合する接合層を形成する工程を具備し、
前記接合層を形成する工程は、
前記セラミックス部材上に接合ろう材ペーストを塗布し、前記接合ろう材ペースト上に前記銅板を配置する工程と、
非酸化性雰囲気中、700℃以上900℃以下の温度および1×10-3Pa以下の圧力下で、前記接合ろう材ペーストを介して前記セラミックス部材と前記銅板とを加熱接合する工程と、
を含み、
前記接合ろう材ペーストは、Agと、Cuと、Tiと、を含有するとともに、Sn、In、およびCからなる群から選ばれる少なくとも一つの元素をさらに含有し、
前記接合ろう材ペーストの前記Cuに対する前記Agの質量比Ag/Cuは、2.1以下であり、
前記接合ろう材ペーストのSnおよびInからなる群より選ばれる少なくとも一つの元素の含有量は、5質量%以上20質量%以下であり、
前記接合ろう材ペーストのTiの含有量は、5質量%以上である、接合体の製造方法。
【請求項2】
前記接合層のナノインデンテーション硬さHITは、1.0GPa以上2.5GPa以下である、請求項1に記載の接合体の製造方法。
【請求項3】
前記接合ろう材ペーストの塗布厚さは、10μm以上40μm以下である、請求項1または請求項2に記載の接合体の製造方法。
【請求項4】
前記接合層を形成する工程は、前記加熱接合する工程の後に、5℃/分以上の冷却速度で前記接合層を急冷する工程をさらに具備する、請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の接合体の製造方法。
【請求項5】
前記接合層は、Ag-Ti結晶を有し、
前記接合層のX線回折パターンの37.5度以上38.5度以下の範囲において、Ag結晶に起因する最大ピークに対する前記Ag-Ti結晶に起因する最大ピークの比は、0.5以上1.2以下である、請求項1ないし請求項のいずれか1項に記載の接合体の製造方法。
【請求項6】
前記セラミックス部材は、厚さ0.4mm以下の窒化珪素基板である、請求項1ないし請求項のいずれか1項に記載の接合体の製造方法。
【請求項7】
前記銅板の厚さは、0.7mm以上である、請求項1ないし請求項のいずれか1項に記載の接合体の製造方法。
【請求項8】
請求項1ないし請求項のいずれか1項に記載の製造方法により前記接合体を製造する工程と、
前記接合体にエッチング工程を行うことにより、前記銅板をパターニングする工程と、
を具備する、回路基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
実施形態は、接合体の製造方法および回路基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、産業機器の高性能化に伴い、それに搭載されるパワーモジュールの高出力化が進んでいる。これに伴い半導体素子の高出力化が進んでいる。半導体素子の動作保証温度は、125℃~150℃であるが、今後は175℃以上に上昇することが見込まれている。
【0003】
半導体素子の動作保証温度の上昇に伴いセラミックス金属回路基板に対して高いサーマルサイクルテスト(TCT)特性が要求される。TCTは、低温→室温→高温→室温を1サイクルとし、セラミックス金属回路基板の耐久性を測定する試験である。
【0004】
従来のセラミックス金属回路基板の一例は、空隙が無いろう材はみ出し部を有する。窒化珪素基板を使用した例は5000サイクルの耐久性を有する。ろう材はみ出し部の空隙を無くすことにより、TCT特性を改善することができる。しかしながら、半導体素子の高性能化に伴い動作保証温度が175℃に上昇することが見込まれている。
【0005】
動作保証温度が175℃以上の場合、はみ出し部の空隙を無くすだけでは十分にTCT特性を向上させることは困難である。このことは、接合層の硬さに起因すると考えられる。
【0006】
従来のろう材の例は、接合層に67質量%Ag-20質量%Cu-10質量%Sn-3質量%Tiからなるろう材を含む。Ag-Cu系ろう材はAgCu共晶を利用した例であるため、質量比でAg:Cu=7:3になるように混合されている。AgCu共晶は比較的硬い結晶であるため、接合層の硬度が高い。接合層が硬いと、セラミックス基板と銅板との間に生じる応力を十分に緩和できない。このことは、高温環境下でTCTを行うと顕著である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】国際公開第2011/034075号公報
【発明の概要】
【0008】
実施形態に係る接合体の製造方法は、セラミックス部材と銅板とを接合する接合層を形成する工程を具備する。接合層を形成する工程は、セラミックス部材上に接合ろう材ペーストを塗布し、接合ろう材ペースト上に銅板を配置する工程と、非酸化性雰囲気中、700℃以上900℃以下の温度および1×10-3Pa以下の圧力下で、接合ろう材ペーストを介してセラミックス部材と銅板とを加熱接合する工程と、を含む。接合ろう材ペーストは、Agと、Cuと、Tiと、を含有するとともに、Sn、In、およびCからなる群から選ばれる少なくとも一つの元素をさらに含有する。接合ろう材ペーストのCuに対するAgの質量比Ag/Cuは、2.1以下である。接合ろう材ペーストのSnおよびInからなる群より選ばれる少なくとも一つの元素の含有量は、5質量%以上20質量%以下である。接合ろう材ペーストのTiの含有量は、5質量%以上である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】セラミックス-銅接合体の一例を示す図。
図2】セラミックス-銅接合体の一例を示す図。
図3】セラミックス基板と銅板との接合端部の一例を示す図。
図4】ナノインデンタを用いた荷重条件を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1図2は、セラミックス-銅接合体の一例を示す図である。図1図2は、接合体1と、セラミックス基板2と、銅板3(表銅板31、裏銅板32)と、接合層4(表面側接合層41、裏面側接合層42)と、接合層4の中心部5と、銅板3と接合層4との界面から銅板3の厚さ方向に100μmの位置の領域6と、を図示している。
【0011】
図1に示す接合体1はセラミックス基板2の片面に接合された銅板3を有する。図2に示す接合体1はセラミックス基板2の両面に接合された表銅板31、裏銅板32を有する。表銅板31は、表面側接合層41を介してセラミックス基板2の一面に接合され、裏銅板32は、裏面側接合層42を介してセラミックス基板2の他の一面に接合されている。図1図2は、接合体1が片面に接合された一つの銅板を有する例を示しているが、片面に接合された複数の銅板を有していてもよい。
【0012】
セラミックス基板2の3点曲げ強度は500MPa以上であることが好ましい。上記強度が500MPa以上であるセラミックス基板を使うことにより、基板厚さを0.4mm以下に薄くすることができる。3点曲げ強度が500MPa以上のセラミックス基板としては、窒化珪素基板、高強度化した窒化アルミニウム基板、アルミナ基板、ジルコニア含有アルミナ基板等が挙げられる。
【0013】
これらのセラミックス基板の中では窒化珪素基板が好ましい。通常の窒化アルミニウム基板、アルミナ基板は3点曲げ強度が300~450MPa程度である。500MPa未満の強度では基板厚さを0.4mm以下に薄くするとTCT特性が低下する。特に、TCTの高温側が175℃以上と高いときに耐久性が低下する。
【0014】
窒化珪素基板は、3点曲げ強度500MPa以上、さらには600MPa以上と高強度を実現することができる。熱伝導率は50W/m・K以上、さらには80W/m・K以上を実現することができる。近年は高強度と高熱伝導の両方を実現することができる窒化珪素基板もある。3点曲げ強度500MPa以上、熱伝導率80W/m・K以上の窒化珪素基板であれば、基板厚さを0.30mm以下と薄くすることもできる。3点曲げ強度はJIS-R-1601、熱伝導率はJIS-R-1611に準じて測定される。
【0015】
銅板3の厚さは0.3mm以上、さらには0.7mm以上であることが好ましい。銅板3を厚くすることにより、放熱性を向上させることができる。回路基板に用いる場合に通電容量を増やすことができる。
【0016】
熱抵抗(Rth)は、式:Rth=H/(k×A)により求められる。Hは熱伝達経路を表し、kは熱伝導率を表し、Aは放熱面積を表す。熱抵抗(Rth)を小さくするためには、熱伝達経路(H)を短くすること、熱伝導率(k)を大きくすること、放熱面積(A)を大きくすることが挙げられる。実施形態にかかる接合体はセラミックス基板2を薄型化することにより、熱伝導率が低い部分の熱伝達経路を短くすることができる。また、銅板3を厚くすることにより、接合体の熱伝導率(k)および放熱面積(A)を大きくすることができる。この結果、熱抵抗(Rth)を小さくすることができる。
【0017】
接合層4のナノインデンテーション硬さHITは、1.0~2.5GPaの範囲内であることが好ましい。ナノインデンテーション硬さHITが1.0GPa未満では接合層4が柔らかすぎるため接合強度が不足する。一方、2.5GPaを超えて大きいと接合層4が硬いため、高温環境下でのTCT特性が不足する。このため、接合層のナノインデンテーション硬さHITが1.0~2.5GPa、さらには1.1~2.1GPaの範囲内が好ましい。
【0018】
ナノインデンテーション硬さHITは、ナノインデンタ(Nanoindenter)を用いて測定される。ナノインデンタを用いた測定では、微細な力で試料表面に圧子を押し込み、その際の押し込み深さと押し込み力を測定することで硬さを求めることができる。ナノインデンタの圧痕は1μm程度と小さい。このため微小領域の硬さを測定することができる。ナノインデンタを用いれば、銅板を除去しなくても測定できる。ナノインデンテーション硬さHITは、例えばHysitron社製のナノインデンタを用い、バーコビッチ型ダイヤモンドの三角錐圧子を用いて測定される。最大荷重は1500μN(マイクロニュートン)であり、50秒かけて徐々に荷重を上げていく。荷重のかけ方は図4に示す通りである。このときの押込み深さを測定し、ナノインデンテーション硬さHITが求められる。
【0019】
ナノインデンタによる測定は、接合体の任意の断面にて行われる。断面を表面粗さRaが5μm以下になるように研磨する。接合層4の中心部5に沿って測定する。接合層4の中心部5に沿った箇所を任意に3ヶ所測定し、その平均値をナノインデンテーション硬さHITとする。
【0020】
実施形態に係る接合体は、柔らかい接合層を有する。そのため、TCTの高温側が175℃以上であっても、優れた耐久性を示す。よって、半導体回路基板に上記接合体を用いたとき、優れた信頼性を得ることができる。
【0021】
銅板3のビッカース硬さHは100以下であることが好ましい。銅板3のビッカース硬さHは40~80の範囲内であることがより好ましい。ビッカース硬さHは、JIS-R-1610に準じて測定される。柔らかい銅板3を用いることにより、熱応力を低減することができる。銅板3は、再結晶構造を有するため、硬さを下げることができる。銅板3は、2次再結晶させて粒径を大きくして形成されることが好ましい。銅版3の硬さは、銅板表面に荷重50gf、荷重保持時間10秒、にて圧子により荷重を加え、圧痕の2方向の対角線長さから求められる。
【0022】
銅板3における、銅板3と接合層4の接合界面から銅板3の厚さ方向に100μm離れた箇所6のナノインデンテーション硬さHITと接合層のナノインデンテーション硬さHITの差が0.5GPa以下であることが好ましい。図1は、銅板3における、銅板3と接合層4の接合界面から100μm離れた箇所6を例示している。箇所6に沿ってナノインデンテーション硬さHITを測定する。ナノインデンタを用いて前述と同様の方法にて任意の3箇所を測定する。その平均値を箇所6のナノインデンテーション硬さHITとする。箇所6のナノインデンテーション硬さHITと接合層4のナノインデンテーション硬さHITの差が0.5GPa以下であるということは、銅板3中に接合層4成分が拡散していることを示す。これにより、接合強度を向上させると共に、熱応力に強い接合体とすることができる。
【0023】
銅板3と接合層4の境界は、銅リッチ状態になっているので区別可能である。必要に応じ、電子線マイクロアナライザ(EPMA)により元素マッピングすることも有効である。銅板3に接合層4中のAgが拡散したとしても、銅板3中のAg量は、接合層4中のAg量よりも少ないため、銅板3と接合層4の境界は区別できる。
【0024】
接合層4は、Ag-Ti化合物を有することが好ましい。接合層4は、TiCを有することが好ましい。Ag-Ti化合物またはTiCを存在させることにより、接合層4のナノインデンテーション硬さHITを制御することができる。Ag-Ti結晶、TiCの有無はX線回折(XRD)分析によるピークの有無で測定することができる。
【0025】
接合層4のナノインデンテーション硬さHITを制御するためには、接合ろう材を調整することが好ましい。接合ろう材としては、Ag(銀)、Cu(銅)、およびTi(チタン)を含むろう材が好ましい。接合層4は、In(インジウム)、Sn(錫)、およびC(炭素)から選ばれる少なくとも一つの元素を含むことが好ましい。
【0026】
Ag、Cu、Tiからなるろう材の場合、Agが40~80質量%、Cuが15~45質量%、Tiが1~12質量%、Ag+Cu+Ti=100質量%、の範囲であることが好ましい。In、Snを添加する場合は、InおよびSnから選ばれる少なくとも一つの元素の添加量が5~20質量%であることが好ましい。Cを添加する場合は、0.1~2質量%の範囲内であることが好ましい。Ag、Cu、Ti、Sn(またはIn)、Cの5種類からなる場合、Agを40~80質量%、Cuを15~45質量%、Tiを1~12質量%、Sn(またはIn)を5~20質量%、Cを0.1~2質量%、Ag+Cu+Ti+Sn(またはIn)+C=100質量%、の範囲に調整することが好ましい。
【0027】
接合層4のナノインデンテーション硬さHITを1.0~2.5GPaの範囲に制御するには、Cuに対するAgの質量比Ag/Cuを2.4以下、さらには2.1以下にすることが好ましい。質量比Ag/Cuを1.2以上1.7以下にすることが好ましい。この範囲に制御すると、ナノインデンテーション硬さHITを1.0~2.5GPa、さらには1.1~2.1GPaの範囲に制御し易くなる。
【0028】
Ag-Cu-Tiろう材は、Ag-Cuの共晶を利用して接合する。Ag-Cu共晶はAg72質量%、Cu28質量%である。このため質量比Ag/Cuは2.57となる。通常のAg-Cu-Tiろう材では質量比Ag/Cuは2.57前後となる。一方でAg-Cu共晶は硬い結晶である。Ag-Cu共晶結晶が増えると接合層が硬くなる。そのため、接合層の硬度も高くなる。Ag-Cu共晶結晶が均一に形成されないと、ビッカース硬度のバラツキも大きくなる。
【0029】
Ag-Cu共晶結晶の割合が減ると接合層4が軟らかくなる。軟らかくなりすぎてもTCT特性が低下する。そのため、Ag/Cuを制御することが好ましい。銅板/接合層/セラミックス基板の積層構造を有する場合、弱い部分から熱応力で破壊される。3点曲げ強度500MPa以上のセラミックス基板を使うことにより、セラミックス基板に割れが発生することを防ぐことができる。セラミックス基板の強度が低いと、熱応力でセラミックス基板に割れが発生し易くなる。このため、3点曲げ強度500MPa以上の高強度セラミックス基板を用いる場合に有効な技術である。
【0030】
高強度セラミックス基板を用いても、熱応力により接合層自体に割れが発生する現象が起きる。接合層のナノインデンテーション硬さを低くすることにより、接合層で熱応力を緩和することができる。しかしながら、接合層が軟らかすぎても、熱応力で接合層に割れが発生し易くなる。
【0031】
接合層のナノインデンテーション硬さHITを1.0~2.5GPaの範囲内にするためには、Ag/Cu質量比の制御、Ag-Ti結晶の生成、TiC結晶の生成のいずれか1種または2種以上を組み合わせることが有効である。
【0032】
接合後の接合層の厚さを5μm以上35μm以下の範囲内にすることも有効である。接合層が5μm未満と薄いと、熱応力を緩和機能が不足するおそれがある。接合強度が低下する恐れがある。一方、接合層の厚さが35μmを超えると、コストアップの要因となる。このため、接合層の厚さは15~25μmが好ましい。なお、接合層の厚さには加熱接合工程により形成されたTiN層の厚さも含む。
【0033】
Ag/Cuの質量比を2.4以下にすることにより、共晶組成よりもCu量を増やすことができる。Cu量を増やすことにより、接合層の硬度を下げることができる。ろう材がIn、Sn、およびCから選ばれる少なくとも一つの元素を含むことも有効である。InまたはSnは低温での接合を可能にし(ろう材の溶融点を下げる)、接合体の残留応力を減少させることができる。残留応力の低減は接合体の熱サイクル信頼性向上に有効である。InまたはSnの1種または2種の含有量が5質量%未満では添加による効果を十分に得ることができない。一方、20質量%を超えると接合層が硬すぎるおそれがある。
【0034】
Cは接合層の硬度のバラツキを低減するのに有効である。C(炭素)はろう材の流動性を制御することができる。Cを0.1~2質量%添加することにより、流動性を抑制できる。そのため、接合層の硬さのバラツキを小さくすることができる。Cの添加量が0.1質量%未満では添加の効果が不十分である。一方、Cの添加量が2質量%を超えて多いと接合層が硬くなりすぎるおそれがある。
【0035】
Tiは1~12質量%、さらには5~11質量%の範囲であることが好ましい。Tiは窒化珪素基板の窒素と反応してTiN(窒化チタン)相を形成する。TiN相の形成は、接合強度を向上させることができる。金属板の接合強度(ピール強度)を17kN/m以上、さらには20kN/m以上と高くすることができる。Ag/Cuの質量比を2.4以下にしたときは、Ti量を5質量%以上にすることが好ましい。Cu量の増加によりAg-Cu共晶結晶の量が減り、ろう材はみ出し部が硬くなりすぎて熱応力の緩和効果が不十分になることを抑制できる。一方、Ti量を増やすことにより、ろう材を加熱した際に、Ag-Ti結晶、TiC結晶が形成され易くなる。Ag-Ti結晶、TiC結晶は、TiN(窒化チタン)にならなかったTiがAg(銀)またはC(炭素)と反応して形成される。反応により形成されるため微小な結晶化合物とすることができる。
【0036】
接合層4中のAg-Ti結晶、TiC結晶の有無はXRDにより確認できる。接合層断面を表面粗さ1μm以下になるように研磨した研磨面を測定する。XRD分析は、Cuターゲット(Cu-Kα)、管電圧40kV、管電流40mA、スキャンスピート2.0度/min、スリット(RS)0.15mm、走査範囲(2θ)10度~60度の測定条件で実施される。
【0037】
37.5度~38.5度の範囲に、Agのピーク(IAg)とAgTiのピーク(IAgTi)が検出されることが好ましい。IAgとIAgTiのピーク比(IAgTi/IAg)は0.5以上1.2以下の範囲であることが好ましい。XRDピーク比は、接合層中のAg結晶とAgTi結晶の存在割合を示す。所定のピーク比の範囲内であることは、AgTi結晶が存在することを示す。
【0038】
接合工程では、上記接合ろう材ペーストを調製し、セラミックス部材上に接合ろう材ペーストを塗布し、その上に銅板3を配置する。接合ろう材ペーストの塗布厚さは10~40μmの範囲であることが好ましい。塗布厚さが10μm未満では接合ろう材が不足するために接合強度が低下する恐れがある。塗布厚さが40μmを超えて厚いと、接合強度の改善が見られないだけでなく、コストアップの要因となる。銅板3を両面に接合する場合は、セラミックス部材の両面に接合ろう材ペーストを塗布する。
【0039】
次に、加熱接合を行う。加熱温度は700~900℃の範囲である。非酸化雰囲気中、1×10-3Pa以下の圧力下で加熱接合を行うことが好ましい。加熱接合工程は加熱温度700~900℃の範囲内で10分以上保持することが好ましい。保持時間は30分以上がより好ましい。保持時間を設けることにより、ろう材中のAgが銅板3に拡散する。これにより、箇所6のナノインデンテーション硬さHITと接合層4のナノインデンテーション硬さHITの差を0.5GPa以下に制御し易くなる。
【0040】
加熱工程後に冷却速度を5℃/分以上で急冷することが好ましい。急冷工程は接合層4の凝固点温度まで行うことが好ましい。急冷工程を行うと、接合層4を早期に固めることができる。加熱工程により溶けたろう材が早期に固まって接合層が形成されることにより、ナノインデンテーション硬さHITのバラツキを低減することができる。
【0041】
次に、必要に応じ、エッチング工程を行う。エッチング工程により銅板3のパターニングを行う。特に、接合体を半導体回路基板として使う場合は、パターン形状に加工する。エッチング加工を用いて、銅板側面に傾斜構造を設けることが好ましい。図3にセラミックス基板と銅板の接合端部の一例を示す。図3は、セラミックス基板2と、銅板3と、接合層はみ出し部7と、接合層はみ出し部7の長さWと、銅板3の側面と接合層はみ出し部7との接触角度θと、を図示している。
【0042】
銅板側面に傾斜構造を設け、接合層はみ出し部を設けることにより、銅板とセラミックス基板の応力を緩和できる。これにより、さらにTCT特性を向上させることができる。
【0043】
接合層はみ出し部7は接合層が銅板側面からはみ出している。接合層はみ出し部7の長さWは10~150μmが好ましい。接合層はみ出し部7の長さW/接合層はみ出し部7の厚さが0.5~3.0の範囲であることが好ましい。接合層はみ出し部7の長さW/接合層はみ出し部7の厚さが1.0~2.0の範囲内であることがより好ましい。
【0044】
接合層はみ出し部7の長さと厚さを制御することにより、熱応力(収縮および膨張)の方向性を均一化することができる。これにより、セラミックス基板中および接合層中のクラック発生を抑制できる。
【0045】
銅板側面の傾斜角度θは、銅板3の断面を観察したときの、側面の角度である。角度θは40~84度の範囲が好ましい。傾斜構造を設けた方が熱応力の緩和効果が向上する。接合層はみ出し部7と接触する銅板3の側面は傾斜していることが好ましい。銅板3の上端部の角度(銅板3の上面に対する側面の角度)は85~95度と略垂直であることが好ましい。特に、金属板の厚さが0.6mm以上、さらには0.8mm以上であるときにこのような構造が有効である。接合層はみ出し部と接触する銅板側面の傾斜角度θを40~84度、銅板の上端部の角度を85~95度とすると応力緩和効果を得た上で、銅板の平坦面を増やすことができる。銅板の平坦面が増えると、半導体素子の搭載可能面積を広くすることができる。半導体素子の搭載可能面積を広くできると回路設計の自由度を高めることができる。このためには、図3に示すように、銅板を厚さ方向に二分したとき、接合層はみ出し部と接触する角度が40~84度の範囲であることが好ましい。
【0046】
以上のように接合層のナノインデンテーション硬さHITを制御することにより、TCTの高温側が175℃以上と高くなったとしても、優れた耐久性を示す。銅板側面傾斜形状および接合層はみ出し部を設けることにより、さらにTCT特性を向上させることができる。
【0047】
このため、接合体を半導体回路基板に用いたとき、優れた信頼性を得ることができる。言い換えると、実施形態に係る接合体は、半導体回路基板に適している。半導体回路基板の少なくとも一つの銅板3に半導体素子を搭載することにより半導体装置となる。
【0048】
実施形態に係る半導体回路基板は、TCTの高温側が175℃以上であるとしても、優れた耐久性を示す。このため、動作保証温度が170℃以上の半導体素子を搭載したとしても、優れた信頼性を得ることができる。
【実施例
【0049】
(実施例1~6、比較例1)
セラミックス基板として、表1に示す窒化珪素基板を用意した。
【0050】
【表1】
【0051】
接合ろう材として表2に示すろう材を用意した。
【0052】
【表2】
【0053】
窒化珪素基板上に接合ろう材ペーストを塗布して、銅板を配置した。なお、接合ろう材ペーストの塗布厚さは20~30μmの範囲内とした。
【0054】
次に、接合工程として、780~850℃、非酸化性雰囲気、1×10-3Pa以下の条件銅板を窒化珪素板に接合した。接合工程は上記温度の範囲で30分以上保持した。実施例では加熱接合後の冷却速度を5℃/分以上とした。比較例では冷却速度を2℃/分以下とした。
【0055】
次にエッチング工程を行い、表銅板をパターン形状に加工した。表銅板として縦20mm×横30mm×厚さ0.8mmの2つの銅板を用意し、銅板間の距離を1.2mmとした。裏銅板として縦40mm×横32mm×厚さ0.8mmの1つの銅板を用意した。
【0056】
エッチング加工により銅板側面形状、接合層はみ出し部の長さを調整した。その結果を表3に示す。これにより実施例および比較例に係るセラミックス-銅接合体を作製した。銅板のビッカース硬さHは40~80の範囲内であった。
【0057】
【表3】
【0058】
実施例および比較例にかかるセラミックス回路基板は接合層が15~25μmの範囲内であった。接合ろう材中のAgが銅部材に拡散していることが確認された。実施例および比較例にセラミックス回路基板に対し、接合層のナノインデンテーション硬さHITを測定した。接合体を切断し、切断面を表面粗さRaが5μm以下になるように研磨した。接合層の中心線に沿った箇所を任意に3箇所選び測定した。その平均値を算出した。接合層のナノインデンテーション硬さHITをHIT(A)と表記する。
【0059】
銅板における銅板と接合層の接合界面から銅板の厚さ方向に100μm離れた箇所のナノインデンテーション硬さHITについても測定した。銅板における接合層と銅板との界面から銅板の厚さ方向に100μm離れた箇所を任意に3箇所選び測定した。その平均値と、前述の接合層のナノインデンテーション硬さHITとの差を示した。銅板における銅板と接合層の接合界面から銅板の厚さ方向に100μm離れた箇所のナノインデンテーション硬さHITをHIT(B)と表記する。
【0060】
ナノインデンタとしてHysitron社製「TI950トライボンデンタ」を用いた。圧子としてバーコビッチ型ダイヤモンドの三角錐圧子を用いた。荷重条件は、最大荷重1500μN(マイクロニュートン)とし、図4に示すように50秒かけて徐々に荷重を上げていく方法とした。なお、図4は横軸が秒(s)、縦軸が荷重(μN)である。このときの押込み深さを測定し、ナノインデンテーション硬さHITを求めた。
【0061】
接合層中にAg-Ti化合物結晶、TiC結晶の有無を測定した。ピーク比(IAgTi/IAg)についても調べた。これらはXRD分析によるピークの有無にて調べた。XRD分析は、Cuターゲット(Cu-Kα)、管電圧40kV、管電流40mA、スキャンスピート2.0度/min、スリット(RS)0.15mm、走査範囲(2θ)10~60度の測定条件で実施した。ピーク比(IAgTi/IAg)については37.5~38.5度の範囲において、Ag結晶の最大ピークをIAg、AgTi結晶の最大ピークをIAgTiとして求めた。その結果を表4に示す。
【0062】
【表4】
【0063】
表から分かる通り、実施例に係るセラミックス-銅接合体は、ナノインデンテーション硬さHIT(A)が1.0~2.5GPaの範囲内であった。ナノインデンテーション硬さHIT(A)と、銅板における銅板と接合層の接合界面から銅板の厚さ方向に100μm離れた箇所のナノインデンテーション硬さHIT(B)と、の差は0.5GPa以下であった。接合層中に、Ag-Ti化合物結晶が確認された。接合ろう材にCを添加したろう材に、TiC結晶が確認された。これに対し、比較例は、いずれも好ましい範囲を外れていた。
【0064】
次に、実施例および比較例に係るセラミックス-銅接合体に対し、銅板の接合強度を測定し、TCTを行った。銅板の接合強度は、ピール強度で求めた。具体的には、金属回路板に1mm幅の金属端子を接合し、垂直方向に引張ってピール強度を測定した。
【0065】
TCTは、2種類の条件で行った。試験1は-40℃×30分保持→室温×10分保持→175℃×30分保持→室温×10分保持を1サイクルとし、3000サイクル後のセラミックス金属回路基板の不具合の有無を測定した。試験2は-40℃×30分保持→室温×10分保持→250℃×30分保持→室温×10分保持を1サイクルとし、3000サイクル後のセラミックス金属回路基板の不具合の有無を測定した。セラミックス金属回路基板の不具合の有無は超音波探傷装置(Scanning Acoustic Tomograph:SAT)によりセラミックス基板と金属板の間のクラック発生面積を求めた。クラック発生面積は指数ηとして評価した。ηが100%の場合を「クラックなし」、0%の場合を「全面的にクラック発生」として示した。その結果を表5に示す。
【0066】
【表5】
【0067】
表から分かる通り、実施例に係るセラミックス-銅接合体はピール強度、TCT特性も優れていた。これに対し、比較例では低下した。特に、TCTは悪い結果であった。銅板が0.6mm以上と厚いときに、170℃以上の高温条件下で熱応力を十分に緩和できていないことが分かった。この結果から、実施例に係るセラミックス-銅接合体は高温環境下でのTCT特性に優れていることが分かる。このため、動作保証温度が170℃以上の半導体素子を搭載するための半導体回路基板に好適である。
【0068】
以上、本発明のいくつかの実施形態を例示したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更などを行うことができる。これら実施形態やその変形例は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。前述の各実施形態は、相互に組み合わせて実施することができる。
図1
図2
図3
図4