(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-11
(45)【発行日】2022-10-19
(54)【発明の名称】熱伝導性グリース
(51)【国際特許分類】
C09K 5/14 20060101AFI20221012BHJP
C08L 91/00 20060101ALI20221012BHJP
H01L 23/373 20060101ALI20221012BHJP
H01L 23/36 20060101ALI20221012BHJP
C08K 3/013 20180101ALI20221012BHJP
【FI】
C09K5/14 101E
C08L91/00
H01L23/36 M
H01L23/36 D
C08K3/013
(21)【出願番号】P 2018120993
(22)【出願日】2018-06-26
【審査請求日】2021-02-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】菅本 憲明
(72)【発明者】
【氏名】木部 龍夫
(72)【発明者】
【氏名】柏谷 智
【審査官】川嶋 宏毅
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-194006(JP,A)
【文献】特開2002-201483(JP,A)
【文献】特開2008-013620(JP,A)
【文献】特開平11-335689(JP,A)
【文献】特開昭63-057693(JP,A)
【文献】特開2005-247998(JP,A)
【文献】特開平04-239597(JP,A)
【文献】特開平03-106996(JP,A)
【文献】特開2008-280516(JP,A)
【文献】特開2016-069590(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M 101/00-177/00
C10N 50/10
C09K 5/00-5/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機粉末充填剤と、基油と、基油拡散防止剤と、を含有する熱伝導性グリースであって、
前記基油拡散防止剤は、一方の末端にパーフルオロアルキル基を有し、他方の末端に水素基又はリン酸基を有し、
前記基油拡散防止剤の含有量が、熱伝導性グリース100質量%に対して0.1質量%以上1質量%以下の割合であ
り、
前記基油拡散防止剤が、下記式(1)で示される構造の化合物である
熱伝導性グリース。
R-(C
n
H
2n
O)
m
-X ・・・(1)
(上記式(1)中、Rは、炭素数1以上6以下の直鎖状又は分岐状のパーフルオロアルキル基であり、nは1以上10以下の整数であり、mは2以上100以下の整数である。Xは、水素基又はリン酸基である。)
【請求項2】
酸化防止剤をさらに含有する
請求項
1に記載の熱伝導性グリース。
【請求項3】
前記無機粉末充填剤の含有量が、熱伝導性グリース100質量%に対して70質量%以上97質量%の割合であり、
前記基油の含有量は、熱伝導性グリース100質量%に対して2質量%以上29質量%以下の割合である
請求項1
又は2に記載の熱伝導性グリース。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基油の拡散を防止し、かつ熱伝導性に優れた熱伝導性グリースに関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器に使用されている半導体部品の中には、コンピューターのCPU、ペルチェ素子、LED、インバーター等の電源制御用パワー半導体など使用中に発熱をともなう発熱部品がある。
【0003】
これらの発熱部品を熱から保護し、正常に機能させるために、発生した熱をヒートスプレッダーやヒートシンク等の放熱部品(冷却装置)へ伝導させ放熱させる方法がある。熱伝導性グリースは、これら発熱部品と放熱部品を密着させるように両者の間に塗布され発熱部品の熱を放熱部品に効率よく伝導させるために用いられる。熱伝導性グリースとは、液状炭化水素やシリコーン油、フッ素油等の基油に、熱伝導率の高い無機粉末充填剤(酸化亜鉛、酸化アルミニウム等の金属酸化物や、窒化ホウ素、窒化ケイ素、窒化アルミニウム等の無機窒化物や、アルミニウムや銅等の金属粉末等)を多量に分散させたグリース状の組成物である。
【0004】
より具体的には、熱伝導性グリースは、コンピューターのCPU等の発熱部品と、ヒートシンク等の放熱部品との熱接触界面、ハイブリッド自動車や電気自動車等に搭載される高出力のインバーター等の発熱部品と、ヒートスプレッダー等の放熱部品との熱接触界面に塗布され使用される。近年、これらのエレクトロニクス機器における半導体素子は、小型化・高性能化に伴い、発熱密度及び発熱量が増大し、さらに、他の半導体部品である発熱部品に近接され組み込まれることが多くなっている。そのため、熱接触界面に塗布された熱伝導性グリースは以前にも増してより高温に曝される環境にある。
【0005】
このような高温かつ密封された環境で長期に亘り熱伝導性グリースを使用する場合、熱伝導性グリースの種類によっては大きくちょう度が低下することがある。熱伝導性グリースの使用時に、ちょう度が大きく低下したり、硬化したりすると、熱接触界面に塗布された熱伝導性グリースにクラックやボイドの発生等が起こり、熱伝導性グリースの熱伝導性が低下することがある。
【0006】
このようなちょう度の低下は、熱接触界面に塗布された熱伝導性グリースの変質のほか、熱伝導性グリースに含有される基油が拡散して熱伝導性グリース内の基油比率が下がる場合に生じることもある。また、このような基油成分の拡散は、拡散した基油成分が近接する他の半導体部品に悪影響を与える場合もある。そのため、熱伝導性グリースには、高熱伝導性以外に、熱伝導性グリースに含有される基油の拡散を低減する性能が求められる。
【0007】
このような課題への対応として、特許文献1には実施例として両端にパーフルオロアルキル基を有する基油拡散防止剤もしくは両端にメチル基を有しパーフルオロアルキル基を内包する気油拡散防止剤を含有する熱伝導性グリースが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、従来の熱伝導性グリースに対し、基油の拡散防止性能を向上させることができる熱伝導性グリースを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題を達成するために鋭意検討した結果、一方の末端がパーフルオロアルキル基であり、他方の末端は水素基又はリン酸基である基油拡散防止剤を含有する熱伝導性グリースであれば上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
本発明の第1の発明は、無機粉末充填剤と、基油と、基油拡散防止剤と、を含有する熱伝導性グリースであって、前記基油拡散防止剤は、一方の末端にパーフルオロアルキル基を有し、他方の末端に水素基又はリン酸基を有する、熱伝導性グリースである。
【0012】
本発明の第2の発明は、第1の発明において、前記基油拡散防止剤が、下記式(1)で示される構造の化合物である、熱伝導性グリースである。
R-(CnH2nO)m-X ・・・(1)
(上記式(1)中、Rは、炭素数1以上6以下の直鎖状又は分岐状のパーフルオロアルキル基であり、nは1以上10以下の整数であり、mは2以上100以下の整数である。Xは、水素基又はリン酸基である。)
【0013】
本発明の第3の発明は、第1又は第2の発明において、前記基油拡散防止剤の含有量が、熱伝導性グリース100質量%に対して0.001質量%以上1質量%以下の割合である、熱伝導性グリースである。
【0014】
本発明の第4の発明は、第1から第3のいずれかの発明において、酸化防止剤をさらに含有する、熱伝導性グリースである。
【0015】
本発明の第5の発明は、第1から第4のいずれかの発明において、前記無機粉末充填剤の含有量が、熱伝導性グリース100質量%に対して70質量%以上97質量%以下の割合であり、前記基油の含有量は、熱伝導性グリース100質量%に対して2質量%以上29質量%以下の割合である、熱伝導性グリースである。
【発明の効果】
【0016】
本発明の熱伝導性グリースによれば、基油の拡散を有効に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】摺りガラス上でのブリードアウト状態の一例を示した平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の具体的な実施形態(以下、「本実施の形態」という)について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。また、本明細書において、「~」との表記は、「以上」「以下」を意味し、「X:Y~A:B」との表記は「X:Y」及び「A:B」そのものを含み、「X:Y」と「A:B」との間の範囲を意味する。
【0019】
≪1.熱伝導性グリース≫
本実施の形態に係る熱伝導性グリース(以下、単にグリースと表記することがある。)は、無機粉末充填剤と、基油と、基油拡散防止剤と、を含有する。以下、熱伝導性グリースに含有される各成分について説明する。
【0020】
[各成分について]
(無機粉末充填剤)
無機粉末充填剤は、グリースに高い熱伝導性を付与する。本実施の形態に係る熱伝導性グリースに用いられる無機粉末充填剤は、基油より高い熱伝導性を有するものであれば特に限定されないが、金属酸化物、無機窒化物、金属(合金も含む。)、ケイ素化合物、カーボン材料などの粉末が好適に用いられる。無機粉末充填剤の種類は1種類であってもよいし、また2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0021】
より具体的に、金属酸化物としては、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム等を挙げることができる。無機窒化物としては、窒化アルミニウム、窒化ホウ素等を挙げることができる。金属としては、銅、アルミニウム、銀等を挙げることができる。ケイ素化合物としては炭化ケイ素、シリカ等を挙げることができる。カーボン材料としては、ダイヤモンド、グラファイト、フラーレン、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン等を挙げることができる。
【0022】
無機粉末充填剤としては、電気絶縁性を求める場合には、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、炭化ケイ素、シリカ、ダイヤモンドなどの、半導体やセラミックなどの非導電性物質の粉末が好ましく、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、炭化ケイ素、シリカの粉末がより好ましく、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、窒化アルミニウムの粉末が特に好ましい。
【0023】
また、上記の無機粉末充填剤のなかでも高い熱伝導性を有するという観点からは、銅、アルミニウム、銀、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム窒化ホウ素及び炭化ケイ素からなる群から選ばれる少なくとも1種以上であることが好ましい。電気的な特性に対する要求が無い場合は、金属粉末や炭素材料粉末と非導電性物質の粉末とを組み合わせて用いることもできる。
【0024】
また、上記の無機粉末充填剤は、細粒のみを用いる場合は平均粒径0.15μm以上、3μm未満の無機粉末を用いることが好ましい。平均粒径を0.15μm以上とすることで、無機粉末充填剤の表面を親油化する分散剤の量と液体成分(基油等)の量との割合のバランスがよく、高充填したときにより高いちょう度を得ることができる。一方、平均粒径を3μm未満とすることで、無機粉末充填剤の充填を最密充填に近い状態にしやすくなり、より高い熱伝導率とすることができ、また基油の離油をより効果的に抑制することができる。尚、本明細書において細粒とは、平均粒径が3μm未満の粉末を意味し、後述する粗粒とは、平均粒径が3μm以上の粉末を意味する。
【0025】
また、上記の無機粉末充填剤は、平均粒径の異なる2種以上の細粒を組み合わせることが好ましい。これにより、熱伝導性グリース中で、無機粉末充填剤の充填を最密充填に近い状態にしやすくなり、基油の離油をより効果的に抑制することができる。
【0026】
平均粒径の異なる2種以上の細粒を組み合わせる場合にも、熱伝導性グリースの実装時における熱伝導率の観点から、それぞれの細粒の平均粒径は0.15μm以上、3μm未満であることが好ましい。平均粒径の異なる細粒を組み合わせて用いる場合、平均粒径の小さい細粒の平均粒径は、平均粒径の大きい細粒の平均粒径に対して10%以上60%以下のサイズの平均粒径であることが好ましく、20%以上55%以下のサイズの平均粒径であることがより好ましい。また、平均粒径の小さい細粒と平均粒径の大きい細粒の混合割合は、質量比で5:95~85:15の範囲が好ましい。
【0027】
更に、無機粉末充填剤は、細粒と粗粒を組み合わせる場合には、上記の細粒と、平均粒径3μm以上50μm以下の粗粒の無機粉末を組み合わせることができる。無機粉末充填剤における粗粒の平均粒径を3μm以上とすることでより熱伝導性グリースが高い熱伝導率を得やすくすることができる。無機粉末充填剤における粗粒の平均粒径を50μm以下とすることで熱伝導性グリースの塗膜が必要以上に厚くなることを防止し、実装時における塗膜の放熱性能を高めることができる。
【0028】
無機粉末充填剤を細粒と粗粒の組み合わせとする場合、粗粒としては、平均粒径の異なる2種類以上の粉末の組み合わせとすることもできる。この場合にも、熱伝導性グリースの熱伝導率と実装時における塗膜の放熱性能の観点から、それぞれの粗粒の平均粒径は3μm以上50μm以下であることが好ましい。
【0029】
なお、本実施の形態に係る熱伝導性グリースにおいて、無機粉末充填剤の平均粒径はレーザー回折散乱法(JIS R 1629:1997に準拠)により測定した粒度分布の体積平均径として算出できる。
【0030】
また、細粒と粗粒の無機粉末充填剤を組み合わせる場合の質量比(細粒:粗粒)は、20:80~85:15の範囲で混合するのが好ましい。細粒と粗粒の配合比を上記範囲とすることで、無機粉末充填剤の表面を親油化する分散剤の量と液体成分(基油等)の量とのバランスから、高いちょう度を得ることができる。また、粗粒と細粒のバランスがより稠密な状態にするのに適しており、基油の離油をより効果的に抑制することができる。なお、粗粒を2種類以上組み合わせる場合には粗粒同士の質量比は特に限定されないが、この場合にも粒径の小さい方の粗粒の質量比を無機粉末充填剤のうち20%以上85%以下の範囲で混合することが好ましい。
【0031】
無機粉末充填剤の含有率は70質量%以上97質量%以下が好ましい。無機粉末充填剤の含有率が高いほど熱伝導性に優れ、好ましくは75質量%以上97質量%以下である。70質量%以上であることにより熱伝導性グリース自体の熱伝導性を十分高くすることができ、また基油の離油を抑制し基油の滲み出しを抑制することができるため好ましい。一方、97質量%以下であることによりちょう度の低下を抑制し、十分な展性を有することができるため好ましい。
【0032】
(基油)
基油は、グリースに含有されることにより、熱伝導性グリースに潤滑性を付与する。
【0033】
基油としては、種々の基油が使用でき、例えば、鉱油、合成炭化水素油などの炭化水素系基油、エステル系基油、エーテル系基油、リン酸エステル、シリコーン油及びフッ素油などが挙げられ、炭化水素系基油、エステル系基油、エーテル基油が好ましい。基油の離油をより効果的に抑制する点においては、表面張力の低いシリコーン油及びフッ素油は、あまり好ましくない。基油は1種単独で使用しても、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0034】
鉱油としては、例えば、鉱油系潤滑油留分を溶剤抽出、溶剤脱ロウ、水素化精製、水素化分解、ワックス異性化などの精製手法を適宜組み合わせて精製したもので、150ニュートラル油、500ニュートラル油、ブライトストック、高粘度指数基油などを用いることができる。基油に用いられる鉱油は、高度に水素化精製された高粘度指数基油が好ましい。
【0035】
合成炭化水素油としては、例えば、エチレンやプロピレン、ブテン、及びこれらの誘導体などを原料として製造されたアルファオレフィンを、単独又は2種以上混合して重合したものが挙げられる。アルファオレフィンとしては、炭素数6以上14以下のものが好ましく挙げられる。
【0036】
合成炭化水素油の具体例としては、1-デセンや1-ドデセンのオリゴマーであるポリアルファオレフィン(PAO)や、1-ブテンやイソブチレンのオリゴマーであるポリブテン、エチレンやプロピレンとアルファオレフィンのコオリゴマー等が挙げられる。また、アルキルベンゼンやアルキルナフタレン等を用いることもできる。
【0037】
エステル系基油としては、ジエステルやポリオールエステルが挙げられる。ジエステルとしては、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸等の二塩基酸のエステルが挙げられる。二塩基酸としては、炭素数4以上36以下の脂肪族二塩基酸が好ましい。エステル部を構成するアルコール残基は、炭素数4以上26以下の一価アルコール残基が好ましい。ポリオールエステルとしては、β位の炭素上に水素原子が存在していないネオペンチルポリオールのエステルで、具体的にはネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等のカルボン酸エステルが挙げられる。エステル部を構成するカルボン酸残基は、炭素数4以上26以下のモノカルボン酸残基が好ましい。
【0038】
また、エステル系基油としては、上記以外にも、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、2-ブチル-2-エチルプロパンジオール、2,4-ジエチル-ペンタンジオール等の脂肪族二価アルコールと、直鎖又は分岐鎖の飽和脂肪酸とのエステルも用いることができる。直鎖又は分岐鎖の飽和脂肪酸としては、炭素数4以上30以下の一価の直鎖又は分岐鎖の飽和脂肪酸が好ましい。
【0039】
エーテル系基油としては、ポリグリコールや(ポリ)フェニルエーテルなどが挙げられる。ポリグリコールとしては、ポリエチレングリコールやポリプロピレングリコール、及びこれらの誘導体などが挙げられる。(ポリ)フェニルエーテルとしては、モノアルキル化ジフェニルエーテル、ジアルキル化ジフェニルエーテルなどのアルキル化ジフェニルエーテルや、モノアルキル化テトラフェニルエーテル、ジアルキル化テトラフェニルエーテルなどのアルキル化テトラフェニルエーテル、ペンタフェニルエーテル、モノアルキル化ペンタフェニルエーテル、ジアルキル化ペンタフェニルエーテルなどのアルキル化ペンタフェニルエーテルなどが挙げられる。
【0040】
リン酸エステルとしては、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート等が挙げられる。
【0041】
ここで、熱伝導性グリースは、発熱部品の熱接触界面に塗布されて実装時されるため、熱伝導性グリースの塗膜は長時間高温に曝されることとなる。このため、熱伝導性グリースに含有される基油としては、熱酸化安定性に優れることが望ましい。上記基油の中では、合成系基油が好ましく、合成炭化水素油、エステル系基油及びエーテル系基油が好ましい。これらの基油のうち、特に熱酸化安定性に優れるものとして、合成炭化水素油では、ポリアルファオレフィン、エステル系基油では、ポリオールエステル、エーテル系基油では(ポリ)フェニルエーテルが好ましい基油として用いられる。
【0042】
これらのポリアルファオレフィン、(ポリ)フェニルエーテル、ポリオールエステルについて、単独で使用してもよいが、2種以上を組み合わせて使用することが好ましい。
【0043】
組み合わせて使用する場合には、特にポリアルファオレフィンあるいは(ポリ)フェニルエーテルからなる基油群と、ポリオールエステルとを併用することにより、比較的粘度指数が高く、グリースを調製したときにちょう度が高く、塗布性に優れるグリースを調製することができ、好ましい。この場合、ポリアルファオレフィンあるいは(ポリ)フェニルエーテルからなる基油群と、ポリオールエステルとの含有比率は、質量比で、好ましくは95:5~30:70であり、より好ましくは90:10~50:50であり、さらに好ましくは85:15~65:35である。
【0044】
基油の動粘度は、40℃で10mm2/s以上1200mm2/s以下であることが好ましい。40℃における動粘度を10mm2/s以上とすることで、高温下での基油の蒸発や離油などが抑制される傾向にあるため好ましい。また、40℃における動粘度を1200mm2/s以下とすることで高いちょう度を得やすくなるため好ましい。
【0045】
基油の含有量としては、熱伝導性グリース100質量%に対して2質量%以上29質量%以下であることが好ましく、3質量%以上28質量%以下であることがより好ましく、3質量%以上25質量%以下が特に好ましい。基油の含有量が2質量%以上であることにより、熱伝導性グリースに含有される油成分が適切な量となり、熱伝導性グリースをグリースの状態に維持することができる程度のちょう度を維持することができるため好ましい。一方で、基油の含有量が29質量%以下であることにより、高温環境に置かれた場合にグリースが流れ出ることやグリースに含有される基油が離油してグリースが塗布された部分における周辺部材が基油によって汚染されることを効果的に抑制することができるため好ましい。
【0046】
(分散剤)
分散剤は、グリースに含有される無機粉末充填剤の表面に吸着し、無機粉末充填剤と基油との親和性を向上させることができる。すなわち、分散剤は、無機粉末充填剤の表面改質剤として機能し、無機粉末充填剤と基油との親和性を向上させることによって、熱伝導性グリースのちょう度を向上させることができる。
【0047】
分散剤は、例えば、ポリグリセリンモノアルキルエーテル化合物、高級脂肪酸エステルのようなカルボン酸構造を有する化合物、ポリカルボン酸系化合物等を挙げることができる。これらは単独で使用してもよいが、2種以上を組み合わせて使用してもよい。特に、ポリグリセリンモノアルキルエーテル化合物、カルボン酸構造を有する化合物、ポリカルボン酸系化合物を併用することが好ましい。
【0048】
分散剤の含有量は、熱伝導性グリース100質量%に対して0.001質量%以上3質量%以下の割合であることが好ましい。より好ましくは0.05質量%以上2質量%以下の割合であり、さらに好ましくは0.15質量%以上1質量%以下の割合であり、最も好ましくは0.2質量%以上0.5質量%以下の割合である。
【0049】
分散剤の含有量が0.001質量%以上であることにより、グリースに含有される無機粉末充填剤と基油との親和性をより向上させる効果が得られ、熱伝導性グリースのちょう度を効果的に高めることができるため好ましい。
【0050】
一方、分散剤の含有量が3質量%を超えても、分散剤の特性は大きく変化しない。分散剤の含有量が3質量%以下にすることによりコストを軽減することができるため好ましい。
【0051】
(基油拡散防止剤)
本実施の形態に係る熱伝導性グリースにおいては、特定の構造を有する基油拡散防止剤を含有することを特徴とする。具体的には、一方の末端にパーフルオロアルキル基を有し、他方の末端に水素基又はリン酸基を有する基油拡散防止剤を含有する。
【0052】
本発明者らの研究により、熱伝導性グリースにおいて、一方の末端にパーフルオロアルキル基を有し、他方の末端に水素基又はリン酸基を有する基油拡散防止剤を含有することで、基油の拡散を効果的に抑制することができることが明らかになった。
【0053】
基油拡散防止剤は、例えば、下記一般式(1)で表わされる構造をもつ化合物が挙げられる。
【0054】
(化1)
R-(CnH2nO)m-X ・・・(1)
【0055】
ここで、上記式(1)中、Rは、炭素数1以上6以下の直鎖状又は分岐状のパーフルオロアルキル基であり、nは1以上10以下の整数であり、mは2以上100以下の整数である。Xは、水素基又はリン酸基である。
【0056】
基油拡散防止剤の含有量は、熱伝導性グリース100質量%に対して0.001質量%以上1質量%以下の割合であることが好ましく、0.1質量%以上0.5質量%以下の割合であることがより好ましく、0.1質量%以上0.2質量%以下の割合であることが特に好ましい。
【0057】
基油拡散防止剤の含有量が0.001質量%以上であることにより、基油の拡散をより効果的に抑制することができるため好ましい。一方で、一方、基油拡散防止剤の含有量が1質量%を超えても、基油拡散防止剤の特性は大きく変化しない。基油拡散防止剤の含有量が1質量%以下にすることによりコストを軽減することができるため好ましい。
【0058】
(酸化防止剤)
本実施の形態に係る熱伝導性グリースにおいては、さらに酸化防止剤を含有させることができる。酸化防止剤は、主に、熱伝導性グリースに含有される基油の酸化を防止し、熱伝導性グリースの安定性を高め、長期に亘り熱伝導性グリースを使用することが可能となる。
【0059】
酸化防止剤としては、特に限定されず、公知の酸化防止剤を用いることができる。例えば、ヒンダードアミン系、ヒンダードフェノール系、イオウ系、リン系、ベンゾトリアゾール系、トリアジン系、ベンゾフェノン系、ベンゾエート系、HALS等の化合物が挙げられる。その中でも、ヒンダードアミン系の酸化防止剤は、特に効果が高いため好ましい。これらの酸化防止剤は、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0060】
酸化防止剤の含有量は、熱伝導性グリース100質量%に対して0.001質量%以上3質量%以下の割合であることが好ましい。また、より好ましくは0.005質量%以上2質量%以下であり、さらに好ましくは0.01質量%以上1質量%以下であり、最も好ましくは0.05質量%以上0.5質量%以下である。
【0061】
酸化防止剤の含有量が0.001質量%以上であることにより、良好な酸化防止効果が得られ、熱伝導性グリースの熱耐久性を効果的に向上させることができるため好ましい。一方、酸化防止剤の含有量が3質量%を超えても、酸化防止剤の特性は大きく変化しない。酸化防止剤の含有量が3質量%以下にすることによりコストを軽減することができるため好ましい。
【0062】
(その他の成分)
本実施の形態に係る熱伝導性グリースにおいては、必要に応じて、上記の各成分の他の成分(その他の成分)を含有することができる。その他の成分としては、二次酸化防止剤、防錆剤、腐食防止剤、増粘剤、増ちょう剤等を挙げることができる。
【0063】
二次酸化防止剤としては、サルファイド、ジサルファイド、トリサルファイド、チオビスフェノールなどのイオウ系酸化防止剤や、アルキルフォスファイト、ZnDTPなどのリン系酸化防止剤等を挙げることができる。
【0064】
防錆剤としては、スルホン酸塩、カルボン酸、カルボン酸塩、コハク酸エステル等が挙げられる。腐食防止剤としては、ベンゾトリアゾール及びその誘導体等の化合物、チアジアゾール系化合物等を挙げることができる。増粘剤としては、ポリブテン、ポリメタクリレート、オレフィンコポリマー、高粘度のポリアルファオレフィン等を挙げることができる。
【0065】
増ちょう剤としては、ウレア化合物、ナトリウムテレフタラメート、ポリテトラフルオロエチレン、有機化ベントナイト、シリカゲル、石油ワックス、ポリエチレンワックス等を挙げることができる。
【0066】
これらの添加剤の含有量は、本発明の特性を損なわない範囲で、通常の熱伝導性グリースに用いている含有量と同程度の量を含有させることができる。
[グリースの性状]
本実施の形態に係る熱伝導性グリースのちょう度としては特に限定されない。熱伝導性グリースの塗布性、拡がり性、付着性の観点から適宜選択することができる。これらの特性を有する観点から熱伝導性グリースのちょう度は、200以上400以下であることが好ましく、250以上400以下であることがより好ましく、300以上400以下であることがさらに好ましく、330以上400以下であることが特に好ましい。
【0067】
≪2.熱伝導性グリースの製造方法>
本実施の形態に係る熱伝導性グリースは、各成分を混合することにより製造する。製造方法としては、均一に成分を混合できれば特に限定されず、一般的なグリースの製造方法を採用することができる。
【0068】
具体的に、製造方法としては、プラネタリーミキサー、自転公転ミキサーなどにより混練りを行い、グリース状にした後、さらに三本ロールにて均一に混練りする方法を用いることができる。
【実施例】
【0069】
以下、本発明の実施例及び比較例を示して、本発明についてより具体的に説明する。なお、本発明は以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【0070】
≪実施例1、2及び比較例1、2≫
[試薬]
実施例及び比較例に用いた各成分について以下に示す。
(A)無機粉末充填剤
(A-1)酸化亜鉛1 平均粒径:0.6μm
(A-2)酸化亜鉛2 平均粒径:10μm
なお、各無機粉末充填剤の平均粒径は、粒子径分布測定装置(島津製作所製 SALD-7000)を用いてレーザー回折散乱法にて測定した。
(B)基油
(B-1)ペンタエリスリトールと炭素数8及び10のモノカルボン酸とのエステル 40℃動粘度:32mm2/s(エステル系基油)
(C)分散剤
(C-1)高級脂肪酸エステル
(D)基油拡散防止剤
(D-1)水素基を有するパーフルオロアルキル基含有化合物
(D-2)リン酸基を有するパーフルオロアルキル基含有化合物
(D-3)スルホン基を有するパーフルオロアルキル基含有化合物
(D-4)炭酸基を有するパーフルオロアルキル基含有化合物
(E)酸化防止剤
(E-1)ヒンダードアミン系酸化防止剤
(F)添加剤
(F-1)増ちょう剤 有機処理ベントナイト
【0071】
[実施例1]
実施例1に係る熱伝導性グリースの調製は、以下のように行った。
すなわち、表1に示す含有量になるように、基油(B-1)10質量%に、酸化防止剤(E-1)を1.6質量%、分散剤(C-1)を0.2質量%、基油拡散防止剤(D-1)を0.2質量%溶解し、さらに、無機粉末充填剤(A-1)55質量%及び(A-2)30質量%、増ちょう剤(F-1)3質量%を、プラネタリーミキサーに入れた。室温から100℃程度まで加熱しながら混練を行いよく混合し、グリース状とした。その後、三本ロールによる混練を3回実施して熱伝導性グリースを作製した。
【0072】
作製した熱伝導性グリースを用いて、以下の方法により基油拡散性を評価した。
【0073】
(基油拡散性評価)
熱伝導性グリースを、摺りガラス上に直径6mm×厚み1.5mmの形状になるように塗布し、室温で72時間放置した後、拡散した基油の量の評価を行った。拡散基油量の評価は、
図1に示すように摺りガラス上での観察視野の水平(X軸)方向の最大拡散距離Aと垂直(Y軸)方向の最大拡散距離Bを測定し、その平均値(A+B)/2を拡散距離(ブリードアウト量)として行った。下記表1に測定結果を示す(表1中、「拡散距離」と表記。以下同じ。)。尚、最大拡散距離A、Bは、
図1に示すように円状に拡散された拡散後のブリードアウト状態の熱伝導性グリースにおける水平(X軸)又は垂直(Y軸)方向の各最大値の距離と、塗布された拡散前の熱伝導性グリースにおける水平(X軸)又は垂直(Y軸)方向の各最大値の距離と、の差からそれぞれ計算した。
【0074】
[実施例2]
基油拡散防止剤を(D-2)に変えた以外は、実施例1と同様にして熱伝導性グリースを作製し、実施例1同様に基油拡散性評価を実施した。評価結果を表1に示す。
【0075】
[比較例1、2]
基油拡散防止剤を(D-3)(比較例1)、(D-4)(比較例2)に変えた以外は、実施例1と同様にして熱伝導性グリースを作製し、実施例1と同様に基油拡散性を評価した。評価結果を表1に示す。
【0076】
[実施例3~5]
基油拡散防止剤(D-1)の量を0.1質量%(実施例3)、0.5質量%(実施例4)、1.0質量%(実施例5)とし、基油拡散防止剤(D-1)の量に併せて基油(B-1)の量を表1になるように調整した以外は、実施例1と同様にして熱伝導性グリースを作製し、実施例1と同様に基油拡散性を評価した。評価結果を表1に示す。
【0077】
[比較例3]
基油拡散防止剤を添加しない以外は、実施例1と同様にして比較例3の熱伝導性グリースを作製し、実施例1と同様に基油拡散性を評価した。評価結果を表1に示す。
【0078】
【0079】
表1から分かるように、水素基又はリン酸基を有するパーフルオロアルキル基含有化合物を基油拡散防止剤として含有する実施例1~5は、基油拡散性評価において、基油拡散防止剤の含有していない比較例3に対し、基油の拡散距離が短く、基油拡散特性が優れていることが確認された。
【0080】
一方、上記の基油拡散防止剤とは異なるスルホン酸基又は炭酸基を有するパーフルオロアルキル基含有化合物を基油拡散防止剤として含有する比較例1及び2は、基油拡散性評価において、基油拡散防止剤の含有していない比較例3と同程度の拡散距離であり、本発明の構成による熱伝導性グリースにおいては基油拡散防止効果が得られないことが分かる。
【0081】
なお、本評価の実施例の熱伝導性グリースは、基油拡散性以外の粘度、熱伝導率等に関しては、熱伝導性グリースに要求されている特性を有していることを確認している。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明の耐熱型熱伝導性グリースは、基油の拡散防止性能が向上されることができる。そのため、本発明の熱伝導性グリースを電子部品等の発熱部品とヒートシンク等の放熱部品と、の接触界面に塗布することにより、発熱部品の放熱性を向上させることができる。高い放熱特性が求められるCPUやパワー半導体に用いられる熱伝導性グリースとして特に好適である。