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特許7155677はんだ接合電極およびはんだ接合電極の被膜形成用錫合金ターゲット
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-11
(45)【発行日】2022-10-19
(54)【発明の名称】はんだ接合電極およびはんだ接合電極の被膜形成用錫合金ターゲット
(51)【国際特許分類】
   C22C 13/00 20060101AFI20221012BHJP
   C23C 14/34 20060101ALI20221012BHJP
【FI】
C22C13/00
C23C14/34 A
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018128624
(22)【出願日】2018-07-05
(65)【公開番号】P2020007600
(43)【公開日】2020-01-16
【審査請求日】2021-05-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001405
【氏名又は名称】特許業務法人篠原国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100065824
【弁理士】
【氏名又は名称】篠原 泰司
(74)【代理人】
【識別番号】100104983
【弁理士】
【氏名又は名称】藤中 雅之
(74)【代理人】
【識別番号】100166394
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 和弘
(72)【発明者】
【氏名】山岸 浩一
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 宏幸
【審査官】岡田 眞理
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-224479(JP,A)
【文献】特開平11-216591(JP,A)
【文献】特開2001-121284(JP,A)
【文献】特開2016-079499(JP,A)
【文献】特開2014-192495(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 13/00-13/02
C23C 14/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
錫と銀とパラジウムとの合金からなり、錫を主成分とし、銀が4.0質量%以上20質量%以下、パラジウムが0.03質量%以上0.5質量%以下の割合で含有されている錫合金被膜を有することを特徴とするはんだ接合電極。
【請求項2】
錫と銀とパラジウムとの合金からなり、錫を主成分とし、銀が4.0質量%以上20質量%以下、パラジウムが0.03質量%以上0.5質量%以下の割合で含有されていることを特徴とするはんだ接合電極の被膜形成用錫合金ターゲット。
【請求項3】
前記錫合金被膜は、浴温245℃の錫-3質量%銀-0.5質量%銅はんだ浴を用いて、JIS C 60068-2-54:2009に準拠した試験方法により測定したときの、該はんだ浴に浸漬後、該はんだ浴との接触角が90度以下となるまでのゼロクロスタイムが5.2秒以内となる、はんだ濡れ性を有することを特徴とする請求項1に記載のはんだ接合電極。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば電子部品や半導体素子の外部電極等をはんだ接合する場合の接合対象となる基板の電極(以下、「はんだ接合電極」と表記する)およびはんだ接合電極の被膜形成に用いる錫合金ターゲットに関し、より詳しくは、電子部品や半導体素子の外部電極等の最外層に、はんだ接合するために好適な錫合金被膜が形成されたはんだ接合電極およびその錫合金被膜を形成するために用いるはんだ接合電極の被膜形成用錫合金ターゲットに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、電子部品や半導体素子の外部電極等をはんだ接合する場合の接合対象となる接合部品の表面には、接合に用いるはんだとの濡れ性が高くなる状態にするための被膜が形成される。
【0003】
例えば、接合部品の骨格を構成する下地合金が鉄-42質量%ニッケル合金(42アロイ)の場合には、接合部の表面に金めっきを施したり、銅-2.4質量%鉄-0.03質量%リン-0.12質量%亜鉛(アロイ194)の場合には、銀めっき上にさらに錫めっきを施したり、あるいはニッケルめっき上にさらにパラジウムめっきを施したりすることにより、いずれもはんだ接合時における溶融はんだとの濡れ性が高くなる表面状態になるように被膜が形成される。
【0004】
接合部の表面に、はんだとの濡れ性を高める被膜の形成方法としては、上述のように、めっきによる成膜が多く用いられてきたが、近年、電子部品は小型化が進み、はんだ接合電極に形成する被膜の厚みも可能な限り薄くすることが求められており、めっき成膜よりも薄く被膜を形成することのできるスパッタリング成膜へと被膜の形成方法が変化している。
接合部の表面にスパッタリング成膜により被膜を形成する技術に関しては、例えば、特許文献1には、銀を主体とし、希土類元素を0.02~2原子%含有する銀合金系スパッタリングターゲットが開示されている。
【0005】
しかしながら、銀等の貴金属は金属価格が高いため、市場では銀よりも安価な金属であって、従来から使用している錫を主成分とするターゲットを用いてスパッタリング成膜による被膜を形成したいという要求が強い。
ところが、錫の再結晶温度は、不純物濃度によって異なるが、-7℃~25℃と低いため、スパッタリング時の熱によって容易に再結晶化し、さらに粒の成長により粒が粗大化して孤立し、連続した被膜を形成することが難しいという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2004-043868号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年、電子部品の小型化がますます進むことにより、その電子部品をはんだ接合する場合の接合対象となる接合部品における接合部のサイズや形状も微細化が進み、従来よりもはんだ濡れ性が低下してしまうという問題が生じている。
【0008】
また、従来から使用している錫を主成分とするターゲットを用いたスパッタリング成膜により形成された錫合金被膜は、環境保全を考慮した、ロジンが主成分の弱活性フラックスでは表面の酸化物を除去することが難しい。
このため、スパッタリング成膜により、酸化し難く、はんだ濡れ性に優れた被膜を形成する錫合金ターゲットの開発が求められていた。
【0009】
本発明は、上述したような問題点に鑑みてなされたものであり、銀を主成分とするターゲットを用いたスパッタリング成膜に比べて被膜形成コストを低減でき、かつ、スパッタリング成膜により形成された被膜の下地が露出せず、酸化を抑制し、確実なはんだ接合が得られ、優れたはんだ濡れ性を有する錫合金被膜を有するはんだ接合電極、および、その錫合金被膜を形成することができる、はんだ接合電極の被膜形成用錫合金ターゲットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上述した課題を解決するために鋭意検討を重ねた。その結果、錫を主成分とする錫合金において、所定の割合で銀を含有させるとともに、所定の割合でパラジウムを含有させることによって、錫の粒状化による被膜の不連続化を抑制して下地の露出を防ぎ、被膜の酸化を抑制し、優れたはんだ濡れ性を有することにより、信頼性の高いはんだ接合が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち本発明は、以下のものを提供する。
【0011】
(1)本発明の第1の発明は、錫と銀とパラジウムとの合金からなり、錫を主成分とし、銀が4.0質量%以上20質量%以下、パラジウムが0.03質量%以上0.5質量%以下の割合で含有されている錫合金被膜を有することを特徴とするはんだ接合電極である。
【0012】
(2)本発明の第2の発明は、錫と銀とパラジウムとの合金からなり、錫を主成分とし、銀が4.0質量%以上20質量%以下、パラジウムが0.03質量%以上0.5質量%以下の割合で含有されていることを特徴とするはんだ接合電極の被膜形成用錫合金ターゲットである。
【0013】
(3)本発明の第3の発明は、第1の発明において、前記錫合金被膜は、浴温245℃の錫-3質量%銀-0.5質量%銅はんだ浴を用いて、JIS C 60068-2-54:2009に準拠した試験方法により測定したときの、該はんだ浴に浸漬後、該はんだ浴との接触角が90度以下となるまでのゼロクロスタイムが5.2秒以内となる、はんだ濡れ性を有するはんだ接合電極である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、銀を主成分とするターゲットを用いたスパッタリング成膜に比べて被膜形成コストを低減でき、かつ、スパッタリング成膜により形成された被膜の下地が露出せず、被膜の酸化を抑制し、確実なはんだ接合が得られ、優れたはんだ濡れ性を有する錫合金被膜を有するはんだ接合電極、および、その錫合金被膜を形成することができる、はんだ接合電極の被膜形成用錫合金ターゲットが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】溶融はんだ浴中に錫合金試料を垂直に浸漬したときの接触角(θ)に基づく、その錫合金のはんだ濡れ性の様子を模式的に示す図である。
図2】本発明の錫合金ターゲットを用いたスパッタリング成膜により形成された、はんだ濡れ性に優れる被膜の外観の一例を模式的に示す図である。
図3】金属錫ターゲット等を用いたスパッタリング成膜により形成された、はんだ濡れ性に劣る従来の被膜の外観の一例を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明のはんだ接合電極および接合電極の被膜形成用錫合金ターゲットの具体的な実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において種々の変更が可能である。
【0018】
<1.錫合金被膜及び被膜形成用錫合金ターゲット>
本実施形態のはんだ接合電極に備わる錫合金被膜及び被膜形成用錫合金ターゲット(以下、「錫合金ターゲット」と表記する)は、錫と銀とパラジウムとの三元素で構成された合金であって、錫を主成分として、銀が4.0質量%以上20質量%以下の割合で含有され、パラジウムが0.03質量%以上0.5質量%以下の割合で含有されている。
【0019】
スパッタリング方式により成膜処理を行う場合、アルゴンガスの衝突によってターゲットが、また、その衝撃により叩き出されたターゲット材成分の衝突によって被膜形成対象部材である基板が加熱される。しかるに、純錫の再結晶温度は-7℃~25℃と低いため、ターゲットの材質が純錫の場合には、基板へ吸着した錫はスパッタリング成膜時の加熱により再結晶化し、再結晶化した核が周囲の錫を吸収して粗大化することで錫は粒状化して孤立化し、その孤立化した粒間において下地電極金属が露出してしまう。下地金属が露出すると、その露出量によっては、はんだ濡れ性が著しく低下してしまう。
【0020】
しかるに、本実施形態のはんだ接合電極に備わる錫合金被膜及び錫合金ターゲットのように、錫と銀とパラジウムの三元素の合金で構成され、所定の割合で銀を含有するとともに、所定の割合でパラジウムを含有してなる組成にすれば、再結晶温度を高めることができるためスパッタリング成膜時の加熱によって被膜を構成する金属が再結晶化し、錫が粒状化して孤立化することを防ぐことができる。すなわち、本実施形態のはんだ接合電極における錫合金被膜は、銀とパラジウムを固溶させることにより、粒状化することなく連続した相を形成することのできる錫合金からなる第1の相と、その第1の相の間に存在する錫と銀とパラジウムの合金からなる第2の相から形成される。このような被膜構造により、金属錫の粒成長による下地金属の露出を抑制し、はんだ接合電極のはんだ濡れ性を劇的に向上させ、良好なはんだ接合を行うことができる。また、再結晶温度の向上には銀の含有が効果的であり、パラジウムの含有によりその効果をさらに向上させるだけでなく、錫合金の酸化を抑制して、更にははんだ濡れ性を向上させることができる。
また、本実施形態のはんだ接合電極のように、錫に銀およびパラジウムを所定の割合で含有させた合金組成は、酸化を抑制する効果が高いことにより、はんだ付け作業において弱活性フラックスによってもはんだ濡れ性の改善効果を一層高める効果も有する。
【0021】
銀の含有量に関して、錫合金中の銀の含有量が4.0質量%未満であると、再結晶温度が十分に高くならずに、スパッタリング成膜時の加熱によって被膜を構成する金属が再結晶化し、錫が粒状化して孤立化してしまう場合があるので好ましくない。また、錫と銀とパラジウムからなる合金の形成量も少なくなってしまうため、錫が粒状化して孤立化した場合に、その粒間に錫と銀とパラジウムからなる第2の相を十分に形成させることができず、下地金属を露出させてしまい、はんだ濡れ性を低下させてしまう場合がある。また、はんだ付け作業におけるフラックスによるはんだ濡れ性の改善効果も十分に得られない場合がある。
一方、銀の含有量が20質量%を超えると、はんだ濡れ性の改善効果が飽和してしまい、20質量%以上銀を含有させても、銀の含有量が増える分、原料コストが高くなってしまうだけであるため好ましくない。
【0022】
なお、銀の含有量としては、6.0質量%以上20.0質量%以下であることがより好ましい。銀の含有量をこのような範囲内にすると、ゼロクロスタイムが5.2秒よりも短くなり、高いはんだ濡れ性を得ることができ、より信頼性の高いはんだ接合が可能となる。
【0023】
パラジウムの含有量に関して、錫合金中のパラジウムの含有量が0.03質量%未満であると、錫合金被膜の酸化を抑制する効果が小さく、はんだ濡れ性が十分に向上しないので好ましくない。一方、パラジウムの含有量が0.5質量%を超えると、過剰なパラジウムの含有により錫合金被膜の酸化を抑制する効果が減少し、はんだ濡れ性が悪化する、あるいは、はんだ濡れ性の改善効果が飽和してしまい、パラジウムの含有量が増える分だけ原料コストが高くなってしまうため好ましくない。
【0024】
なお、パラジウムの含有量としては、0.1質量%以上0.3質量%以下であることがより好ましい。パラジウムの含有量をこのような範囲内にすると、形成された錫合金被膜の酸化がより抑制され、はんだ濡れ性が向上する。
【0025】
<2.はんだ濡れ性の評価>
図1に、溶融はんだ浴11中に、スパッタリング成膜により表面に形成した被膜10Aを有するはんだ接合電極である試料10を垂直に浸漬したときのはんだ濡れの様子を模式的に示す。
図1(A)に示すように、溶融はんだ浴11の表面が、試料10の表面に形成した錫合金被膜10Aに接する角度θを接触角(θ)とした場合、はんだが試料10の錫合金被膜10Aと接合するためには、図1(A)及び(B)に示すように、試料10の表面に形成した錫合金被膜10Aと溶融はんだ浴11の表面との接触角が90度以下(θ≦90度)の状態になることが必要となる。試料10の表面に形成した錫合金被膜10Aと溶融はんだ浴11の表面との接触角が90度以下となるような、錫合金被膜10Aを形成することにより、はんだ付け作業の品質管理が容易になり、はんだ接合の信頼性が向上する。
【0026】
すなわち、試料10の表面に形成した錫合金被膜10Aと溶融はんだ浴11の表面との接触角が小さくなるほど良好なはんだ濡れ性を示すことになる。なお、錫合金被膜10Aと溶融はんだ浴11の表面との接触角(θ)が90度(θ=90度)となる図1(B)の状態は、θ<90度の図1(A)の状態に比べて若干劣るものの、表面被膜10Aとはんだがしっかり接合した状態であり、はんだ濡れ性が良好と判断される。一方、図1(C)の状態は、錫合金被膜10Aと溶融はんだ浴11の表面との接触角(θ)が90度を超え(θ>90度)、溶融はんだが試料10の表面の錫合金被膜10Aに接合せず避けてしまう状態であり、はんだ濡れ性が不良であると判断される。
【0027】
本実施形態における濡れ性の評価は、図1に示す試料10を溶融はんだ浴11に垂直に一定長さ浸漬させて、試料10の表面の錫合金被膜10Aと溶融はんだ浴11の表面とが、はんだ濡れ性が良好と判断される図1(B)の状態となるまでに要する時間を測定することにより行う。濡れ性を有する試料を、溶融はんだ浴11に浸漬した直後は図1(C)に近い状態で溶融はんだ浴11の表面が試料10によって押し込まれた状態となる。その後、溶融はんだが試料10の表面の錫合金被膜10Aに沿って濡れ広がり、図1(B)の状態を経て図1(A)の状態となり安定する。試料10が溶融はんだ浴11に接触した瞬間から、溶融はんだ浴11の表面が押し込まれた図1(C)の状態を経て、接触角(θ)が90度となる図1(B)の状態になるまでの時間をゼロクロスタイムという。ゼロクロスタイムが短いほど、はんだが濡れ広がる時間が短くはんだ濡れ性が良好となり、良好なはんだ接合が得られる。
【0028】
具体的には、本実施形態の錫合金ターゲットを用いたスパッタリング成膜により形成された錫合金被膜のはんだ濡れ性評価では、浴温245℃の錫-3.5質量%銀-0.5質量%銅はんだ浴を用いて、JIS C 60068-2-54:2009(IEC 60068-2-54)に準拠したはんだ付け性試験方法(はんだ槽平衡法)より、錫合金被膜が形成された試料をはんだ浴に浸漬後、はんだ浴の表面の錫合金被膜に対する接触角(θ)が90度以下となるまでの時間を測定し、評価する。
なお、本発明の錫合金被膜のはんだ濡れ性は、上記はんだ濡れ性評価に用いるはんだ組成に限られるものではなく、例えば、200℃~300℃に融点を有するはんだに対しても、本実施形態の錫合金ターゲットを用いたスパッタリング成膜により形成された錫合金被膜は、高い濡れ性を示す。
【0029】
<3.錫合金ターゲットの製造方法>
本実施形態の錫合金ターゲット用の錫合金鋳塊は、例えば高周波真空溶解炉等の密閉可能なチャンバー内を真空引きした後に、アルゴンガスや窒素ガス等の不活性ガスを導入して、上述した所定の成分となるように金属材料を溶解して錫合金溶湯を作製し、作製した錫合金溶湯を用いて鋳造を行うことによって製造することができる。次に、鋳造処理により得られた錫合金鋳塊を、所望とする直径、厚さの円盤状に切り出すことによって、円盤状の錫合金ターゲットを作製することができる。なお、ターゲットの形状は円盤状に限定されず、板状の直方体形状のものも広く使用されている。
【0030】
なお、金属材料の溶解及び錫合金溶湯を用いた鋳造を行うに際して、密閉可能なチャンバー内を0.01Pa以下まで真空引きした後に不活性ガスを導入してチャンバー内の圧力を1Pa以上90,000Pa以下にすることが望ましい。
【0031】
チャンバー内を0.01Pa以下まで真空引きすることによって、そのチャンバー内の酸素を可能な限り除去することができ、得られる錫合金ターゲット内の含有酸素量(含有酸素濃度)や含有水素量(含有水素濃度)を低減することができる。
【0032】
また、チャンバー内を真空引きした後に、アルゴンガスや窒素ガス等の不活性ガスを導入してチャンバー内の圧力を1Pa以上90,000Pa以下に調整し、その圧力下で溶解及び鋳造を行うことによって、チャンバー内で錫が蒸発することを抑制し、かつ錫合金の内部に残留する水素や酸素等のガス成分を除去することができ、錫合金鋳塊の内部や、錫合金を切り出すことにより作製する錫合金ターゲットの内部に、水素や酸素、及び蒸発した錫などに起因する巣(鋳造内部欠陥である空洞)が形成されるのを抑制することができる。その結果、錫合金ターゲットを用いたスパッタリングの際に、錫合金ターゲットの内部に形成された巣による異常放電の発生を防止することができる。
【0033】
不活性ガス導入後のチャンバー内の圧力が1Pa未満であると、金属材料を溶解している間に、錫がチャンバー内で蒸発してしまい、製造する錫合金鋳塊の内部の組成にバラツキを生じ、錫合金ターゲットの歩留まりが低下してしまうほか、蒸発した錫が覗窓を曇らせてしまい作業性が悪くなったり、チャンバー内の各所に再付着して鋳造後のチャンバー内の清掃に手間がかかってしまったりして生産性が悪化する場合があるので好ましくない。一方、チャンバー内の圧力が90,000Paを超えると、金属材料の溶解及び錫合金溶湯を用いた鋳造時に錫合金の内部に残留しているガス成分を十分に除去することができず、錫合金鋳塊の内部に巣が多数形成されてしまい、この錫合金鋳塊を切り出すことにより作製する錫合金ターゲットの内部にも巣が多数存在してしまい、スパッタリングの際に異常放電が頻発する原因となるので好ましくない。
【実施例
【0034】
以下、実施例及び比較例を用いて、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0035】
≪実施例及び比較例≫
<錫合金ターゲット、純錫ターゲットの試料の製造>
実施例及び比較例の夫々において、錫以外の金属材料である銀とパラジウムの含有量を様々に異ならせて被膜試料を作製するための錫合金ターゲット、純錫ターゲットの試料を製造した。各試料の銀およびパラジウムの含有量を表1に示す。
【0036】
具体的には、銀とパラジウムが表1に示す含有量となり、残部が錫となるように配合した金属材料を準備し、チャンバー内を0.009Pa以下まで真空引きした後、アルゴンガスを500Paまで導入した高周波溶解炉を用いて、金属材料を溶解して錫合金溶湯、純錫溶湯を作製した。作製した錫合金溶湯、純錫溶湯を、その圧力下において600℃で10分間保持した後に黒鉛鋳型に鋳込んで錫合金鋳塊、純錫鋳塊を作製した。錫合金鋳塊、純錫鋳塊を作製するときの冷却速度は1.3℃/秒以上とした。そして、作製した錫合金鋳塊、純錫鋳塊を、厚さ5mm、直径75mmの円盤状のターゲット状に切り出して研磨加工したものを、被膜試料を作製するための錫合金ターゲット、純錫ターゲットの試料とし、夫々の試料を以下に示すスパッタリング成膜により作成した錫合金被膜、純錫被膜の評価に用いた。
【0037】
<評価>
スパッタリング成膜により作成した錫合金被膜、純錫被膜の評価は、作製した錫合金ターゲット、純錫ターゲットの試料を用いてスパッタリング法により銅板の表面に錫合金被膜、純錫被膜を形成した、被膜試料を用いて、それぞれの被膜の成膜状態とはんだ濡れ性の評価で行った。
【0038】
1.被膜試料の作製
スパッタリング装置を用いて銅板の表面に錫合金被膜、純錫被膜を形成した。具体的には、チャンバー内の真空度が1×10-3Paに到達した後、アルゴンガスを15SCCMになるように供給しながら、錫合金ターゲット、純錫ターゲットの試料を用いてスパッタリングを行い、0.3mm×5mm×15mmの短冊状銅板の全面に0.5μm厚で成膜し、錫合金被膜、純錫被膜が形成された銅版を被膜試料とした。
【0039】
2.被膜試料における被膜の成膜状態の評価
被膜の成膜状態の評価は、走査型電子顕微鏡を用いて被膜試料に形成された錫合金被膜、純錫被膜の外観を観察することにより行った。
錫合金被膜の外観については、錫合金からなる第1相21と、錫-銀-パラジウム合金からなる第2相22をそれぞれ個別に評価した。
第1相21の評価では、図2の模式図に示すように、多くの錫合金粒が連続している状態が観察された場合を『良』とし、図3の模式図に示すように、多くの錫合金粒がそれぞれ個別に独立して存在し、十分には連続していない状態が観察された場合を『不良』として評価した。
なお、銀やパラジウムのいずれも含有しない比較例1の場合は、第1相は錫合金相ではなく、錫相となる。そこで、第1相の評価では、多くの錫粒が連続している状態が観察された場合を『良』とし、図3の模式図に示すように、多くの錫粒がそれぞれ個別に独立して存在し、十分連続していない状態が観察された場合を『不良』として評価した。
また第2相22の評価では、図2の模式図に示すように、錫合金相である第1相21の間に、下地の銅板31を隙間なく覆うように広く存在する状態が観察された場合を『良』とし、図3の模式図に示すように、第2相が存在しないか、もしくは存在するとしても錫合金相の第1相21の周囲に限定的に存在するなどして、下地の銅板が露出している箇所を有する状態が観察された場合を『不良』として評価した。
【0040】
3.被膜試料における被膜のはんだ濡れ性の評価
はんだ濡れ性の評価は、ソルダーチェッカを使用して評価した。はんだ濡れ性の試験には、フラックスとして、ロジン25%とイソプロパノール75%とからなる溶液に塩化ジメチルアンモニウムを添加した活性化ロジンフラックスを用いた。また、はんだ浴としては、Sn-3質量%Ag-0.5質量%Cuのはんだ合金を溶解して245℃に保持した溶融はんだ浴を用いた。なお、銅板の全面に錫合金被膜が形成された被膜試料のはんだ浴への浸漬速度は5mm/s、浸漬深さは2mm、浸漬時間は10秒とした。
【0041】
ソルダーチェッカは、錫合金被膜、純錫被膜が形成された被膜試料に働く浮力Bと表面張力Sとの差を濡れ力F(F=S-B)とし、その濡れ力Fを経時観測するものである。そこで、スパッタリング成膜により錫合金被膜または錫被膜が形成された被膜試料における被膜のはんだ濡れ性については、JIS C 60068-2-54:2009に準拠した試験方法にて、錫合金被膜または錫被膜が形成された被膜試料をはんだ浴に垂直に浸漬させる試験において、被膜試料がはんだ浴に接触した瞬間から、はんだ浴の表面の錫合金被膜に対する接触角が90度以下となるまでの時間、いわゆるゼロクロスタイムを測定し、測定したゼロクロスタイムの数値で評価した。なお、10秒を超えても接触角が90度とならない場合は下記表1中のゼロクロスタイムの欄に『×』と記して評価を中止した。
各評価結果を表1に示す。
【0042】
【表1】
【0043】
表1に示すように、銀、パラジウムのいずれの含有量も本発明の範囲内となっている実施例1~7の試料は、錫合金相である第1相が孤立せずに連続的に析出し、かつ第1相の間には第2相である錫-銀-パラジウム合金相が析出して下地の銅板が露出していないことが確認された。また、ゼロクロスタイムは5.2秒以下となり、良好なはんだ濡れ性を示すことが認められる結果となった。
【0044】
一方、本発明に必須の元素のうち錫以外の元素である、銀、パラジウムのいずれも含まない試料(比較例1)は、金属錫からなる第1相の多くが孤立して、かつ第1相の間には第2相の形成が無く下地の銅板が露出していたことが確認された。また、はんだ浴に垂直に浸漬後、10秒を過ぎても接触角が90度以下にならず、はんだ濡れ性に劣ることが認められる結果となった。
【0045】
また、パラジウムの含有量は本発明の範囲内となっているものの、銀の含有量が本発明の下限値よりも低い試料(比較例4)または銀を含まない試料(比較例6)は、錫合金相である第1相の多くが孤立し、また、第1相が凝集し孤立化することにより、第1相間の隙間が広くなってしまったことが確認された、そして、銀の含有量が少ないため、第2相の形成量も少なく、かつ第1相間の隙間が広いため、第2相で第1相間の隙間を十分埋めることができずに下地の銅板が露出する箇所が多く存在し、はんだ濡れ性に劣ることが認められる結果となった。
【0046】
また、パラジウムの含有量は本発明の範囲内となっているものの、銀の含有量が本発明の上限値よりも高い試料(比較例5)は、錫合金相である第1相の多くが孤立せずに連続的に析出し、かつ第1相の間には第2相である錫-銀-パラジウム合金相が析出して下地の銅板が露出せず、ゼロクロスタイムも3.6秒と良好な値であった。しかし、銀の含有量が本発明の上限値となっており、かつ、パラジウムの含有量が比較例5と同様、本発明の範囲内となっている実施例4の試料と比べた場合、比較例5の試料は、実施例4の試料よりもゼロクロスタイムが遅くなっており、銀の含有量を増加させたことによる、はんだ濡れ性の改善効果が飽和したか若干悪化したことが認められる結果となった。このことから、比較例5の試料は、実施例4の試料と比べて、銀の含有量が本発明の上限値を超えて多いことにより、その分の原料コストの増大というデメリットが生じるだけでメリットがなく、非効率であり好ましくないことが分かる。
【0047】
また、銀の含有量は本発明の範囲内となっているものの、パラジウムの含有量が本発明の下限値よりも低い試料(比較例3)は、銀の含有量が適切であるため、第1相である錫合金相の多くが孤立せずに連続的に析出し、かつ第1相の間には第2相である錫-銀-パラジウム合金相が析出して下地の銅板が露出していないことが確認された。しかし、パラジウムの含有量が本発明の下限値よりも低いことにより酸化抑制効果が小さく、はんだ濡れ性は実施例1~7の試料に比べて劣ることが認められる結果となった。
【0048】
また、銀の含有量は本発明の範囲内となっているものの、パラジウムの含有量が本発明の上限値よりも高い試料(比較例2)は、成膜状態は良好であることが確認された。しかし、パラジウムの含有量が本発明の上限値となっており、かつ、銀の含有量が比較例2と同様、本発明の範囲内となっている実施例5の試料と比べた場合、比較例2の試料は、実施例5の試料よりもゼロクロスタイムが1秒以上も遅くなっており、パラジウムの添加による、はんだ濡れ性の改善効果が飽和したか、逆に悪化したことが認められる結果となった。このことから、比較例2の試料は、実施例5の試料と比べて、パラジウムの含有量が本発明の上限値を超えて多いことにより、その分の原料コストの増大というデメリットが生じるだけでメリットがなく、非効率であり好ましくないことが分かる。
【0049】
また、銀の含有量が本発明の上限値となっており、かつ、パラジウムを含まない試料(比較例7)は、銀の含有量が適切であるため、第1相である錫合金相の多くが孤立せずに連続的に析出し、かつ第1相の間には第2相である錫-銀-パラジウム合金相が析出して下地の銅板が露出していないことが確認された。しかし、パラジウムの含有量が本発明の範囲内となっており、かつ、銀の含有量が比較例7と同様、本発明の上限値となっている実施例4の試料と比べた場合、比較例7の試料は、パラジウムを含有していないため、酸化抑制効果が減少し、実施例4の試料よりもゼロクロスタイムが1秒程度遅くなっており、はんだ濡れ性が劣ることが認められる結果となった。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明のはんだ接合電極およびはんだ接合電極の被膜形成用錫合金ターゲットは、小型化された部品を、サイズや形状が微細化した接合部にはんだ接合することが求められる分野に有用である。
【符号の説明】
【0051】
10 試料
10A 被膜
11 溶融はんだ浴
21 第1相(錫合金相)
22 第2相(錫-銀-パラジウム合金相)
31 銅板(下地)
図1
図2
図3