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特許7156028溶融成形用エチレン-ビニルアルコール系共重合体組成物、ペレットおよび多層構造体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-11
(45)【発行日】2022-10-19
(54)【発明の名称】溶融成形用エチレン-ビニルアルコール系共重合体組成物、ペレットおよび多層構造体
(51)【国際特許分類】
   C08L 29/04 20060101AFI20221012BHJP
   C08K 3/105 20180101ALI20221012BHJP
   C08K 3/11 20180101ALI20221012BHJP
   B32B 27/28 20060101ALI20221012BHJP
【FI】
C08L29/04 S
C08K3/105
C08K3/11
B32B27/28 102
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018534192
(86)(22)【出願日】2018-06-27
(86)【国際出願番号】 JP2018024311
(87)【国際公開番号】W WO2019004263
(87)【国際公開日】2019-01-03
【審査請求日】2020-12-18
(31)【優先権主張番号】P 2017124870
(32)【優先日】2017-06-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079382
【弁理士】
【氏名又は名称】西藤 征彦
(74)【代理人】
【識別番号】100123928
【弁理士】
【氏名又は名称】井▲崎▼ 愛佳
(74)【代理人】
【識別番号】100136308
【弁理士】
【氏名又は名称】西藤 優子
(74)【代理人】
【識別番号】100207295
【弁理士】
【氏名又は名称】寺尾 茂泰
(72)【発明者】
【氏名】竹下 敬祐
(72)【発明者】
【氏名】中島 拓也
(72)【発明者】
【氏名】西村 大知
【審査官】中川 裕文
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-072873(JP,A)
【文献】特開平07-330994(JP,A)
【文献】特開2012-179723(JP,A)
【文献】特開2001-347612(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K 3/00- 13/08
C08L 1/00-101/14
B32B 1/00- 43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン-ビニルアルコール系共重合体(A)、アルカリ金属化合物(B)および鉄化合物(C)を含有するエチレン-ビニルアルコール系共重合体組成物であって、上記鉄化合物(C)の含有量がエチレン-ビニルアルコール系共重合体組成物の重量あたり、金属換算にて0.01~0.5ppmであり、上記鉄化合物(C)の金属換算含有量に対する、上記アルカリ金属化合物(B)の金属換算含有量の重量比が、10~100000であることを特徴とする溶融成形用エチレン-ビニルアルコール系共重合体組成物。
【請求項2】
上記アルカリ金属化合物(B)の含有量がエチレン-ビニルアルコール系共重合体組成物の重量あたり、金属換算にて1~1000ppmであることを特徴とする請求項1記載の溶融成形用エチレン-ビニルアルコール系共重合体組成物。
【請求項3】
上記請求項1または2記載の溶融成形用エチレン-ビニルアルコール系共重合体組成物からなるペレット。
【請求項4】
請求項1または2記載の溶融成形用エチレン-ビニルアルコール系共重合体組成物からなる層を備えることを特徴とする多層構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エチレン-ビニルアルコール系共重合体(以下、「EVOH樹脂」と略記することがある。)を主成分とする溶融成形用EVOH樹脂組成物、ペレットおよび多層構造体に関するものであり、さらに詳しくは、溶融成形時のロングラン性に優れる溶融成形用EVOH樹脂組成物、ペレットおよび多層構造体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
EVOH樹脂は、透明性、酸素等のガスバリア性、保香性、耐溶剤性、耐油性、機械強度等に優れており、フィルム、シート、ボトル等に成形され、食品包装材料、医薬品包装材料、工業薬品包装材料、農薬包装材料等の各種包装材料として広く用いられている。
【0003】
しかし、EVOH樹脂は分子内に比較的活性な水酸基を有するため、酸素がほとんど無い状態の押出成形機内部でも、高温溶融状態で酸化・架橋反応が起こり、経時的に増粘しやすく安定した加工が難しい傾向がある。かかる課題を解決するために、例えば特許文献1では、エチレン含有量が20~60モル%、ケン化度が90モル%以上のエチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物(A)、酢酸(B)、酢酸マグネシウムおよび/または酢酸カルシウム(C)を含有してなり、かつ(B)の含有量が(A)100重量部に対して0.05重量部以下、(C)の含有量が金属換算で(A)100重量部に対して0.001~0.02重量部であることを特徴とする樹脂組成物を用いることで、溶融成形時のロングラン性に優れ、フィッシュアイ、スジ、着色が少なく、外観性にも優れた成形物が得られ、更には該成形物を積層体とした場合にも臭気が低減されており、延伸や深絞り等の二次加工後も該積層体の層間接着性にも優れる樹脂組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平11-106592号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、成形装置におけるフィードブロック・ダイ形状の多様化、最終製品における多層構造体の薄膜化や層数増加等の各種高機能化要求に伴って、成形装置が高機能化する傾向がある。他方、高機能化により複雑化した成形装置内で劣化した樹脂が最終製品に混入し、合格基準に満たない製品が発生して生産性が低下する傾向があり、改善が求められていた。
【0006】
本発明者らは、成形装置の構造上避けることのできない樹脂の滞留個所に着目し、かかる滞留が原因で樹脂劣化物が発生するものと推測した。そこで、かかる樹脂劣化物の発生を防止する目的で、加熱時に経時的に粘度低下するEVOH樹脂組成物を提供することを想起した。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記実情に鑑み鋭意検討した結果、鉄化合物とアルカリ金属化合物を特定比率にて併用する場合に上記課題が解決することを見出した。従来、アルカリ金属化合物はEVOH樹脂の熱安定剤として公知であるが、微量の鉄化合物と併用することでEVOH樹脂の粘度が加熱時に経時的に低下することは知られていない。本発明では、予想外にも、鉄化合物とアルカリ金属化合物とを特定比率にて併用する場合に、EVOH樹脂組成物の粘度が加熱時に経時的に低下することを見出し、ロングラン成形性が良好であることを見出した。
【0008】
すなわち、本発明は、EVOH樹脂(A)、アルカリ金属化合物(B)および鉄化合物(C)を含有するEVOH樹脂組成物であって、上記鉄化合物(C)の金属換算含有量に対する、上記アルカリ金属化合物(B)の金属換算含有量の重量比が、10~100000であることを特徴とする溶融成形用EVOH樹脂組成物を第1の要旨とする。また、本発明は、上記溶融成形用EVOH樹脂組成物からなるペレットを第2の要旨とする。さらに、本発明は、上記溶融成形用EVOH樹脂組成物からなる層を備える多層構造体を第3の要旨とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の溶融成形用EVOH樹脂組成物は、EVOH樹脂(A)、アルカリ金属化合物(B)および鉄化合物(C)を含有するEVOH樹脂組成物であって、上記鉄化合物(C)の金属換算含有量に対する、上記アルカリ金属化合物(B)の金属換算含有量の重量比が、10~100000であるため、溶融成形時に経時的に粘度低下し、ロングラン成形性に優れる。
【0010】
また、本発明のなかでも、特に、上記鉄化合物(C)の含有量がEVOH樹脂組成物の重量あたり、金属換算にて0.01~20ppmであると、よりロングラン成形性に優れたものとすることができる。
【0011】
そして、本発明のなかでも、特に、上記アルカリ金属化合物(B)の含有量がEVOH樹脂組成物の重量あたり、金属換算にて1~1000ppmであると、よりロングラン成形性に優れたものとすることができる。
【0012】
また、本発明の溶融成形用EVOH樹脂組成物からなるペレットは、溶融成形時に経時的に粘度低下し、ロングラン成形性が良好なことから、溶融成形により各種成形物として例えば食品、薬品、農薬等の包装材料に好適に用いることができる。
【0013】
そして、本発明のEVOH樹脂組成物からなる層を備える多層構造体は、例えば、食品、薬品、農薬等の包装材料として特に有用である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の構成につき詳細に説明するが、これらは望ましい実施態様の一例を示すものであり、これらの内容に限定されるものではない。
【0015】
本発明に用いるEVOH樹脂組成物は、EVOH樹脂(A)を主成分とし、アルカリ金属化合物(B)および鉄化合物(C)を含有するものである。本発明に用いるEVOH樹脂組成物は、ベース樹脂がEVOH樹脂(A)である。すなわち、EVOH樹脂組成物におけるEVOH樹脂(A)の含有量は、通常70重量%以上であり、好ましくは80重量%以上であり、より好ましくは90重量%以上であり、特に好ましくは95重量%以上である。以下、本発明の溶融成形用EVOH樹脂組成物を、「EVOH樹脂組成物」と称することがある。
以下に各成分について説明する。
【0016】
[EVOH樹脂(A)]
本発明で用いるEVOH樹脂(A)は、通常、エチレンとビニルエステル系モノマーとの共重合体であるエチレン-ビニルエステル系共重合体をケン化させることにより得られる樹脂であり、非水溶性の熱可塑性樹脂である。上記ビニルエステル系モノマーとしては、経済的な面から、一般的には酢酸ビニルが用いられる。
【0017】
エチレンとビニルエステル系モノマーとの重合法としては、公知の任意の重合法、例えば、溶液重合、懸濁重合、エマルジョン重合等を用いて行うことができるが、一般的にはメタノールを溶媒とする溶液重合が用いられる。得られたエチレン-ビニルエステル系共重合体のケン化も公知の方法で行い得る。
【0018】
このようにして製造されるEVOH樹脂(A)は、エチレン由来の構造単位とビニルアルコール構造単位を主とし、ケン化されずに残存する若干量のビニルエステル構造単位を含むものである。
【0019】
上記ビニルエステル系モノマーとしては、市場入手性や製造時の不純物処理効率がよい点から、代表的には酢酸ビニルが用いられる。他のビニルエステル系モノマーとしては、例えば、ギ酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、バーサチック酸ビニル等の脂肪族ビニルエステル、安息香酸ビニル等の芳香族ビニルエステル等があげられ、通常炭素数3~20、好ましくは炭素数4~10、特に好ましくは炭素数4~7の脂肪族ビニルエステルを用いることができる。これらは通常単独で用いるが、必要に応じて複数種を同時に用いてもよい。
【0020】
EVOH樹脂(A)におけるエチレン構造単位の含有量は、ビニルエステル系モノマーとエチレンとを共重合させる際のエチレンの圧力によって制御することができ、通常20~60モル%、好ましくは25~50モル%、特に好ましくは25~48モル%である。かかる含有量が低すぎる場合は、高湿下のガスバリア性、延伸性が低下する傾向があり、逆に高すぎる場合は、ガスバリア性が低下する傾向がある。
なお、かかるエチレン構造単位の含有量は、ISO14663に基づいて測定することができる。
【0021】
EVOH樹脂(A)におけるビニルエステル成分のケン化度は、エチレン-ビニルエステル系共重合体をケン化する際のケン化触媒(通常、水酸化ナトリウム等のアルカリ性触媒が用いられる)の量、温度、時間等によって制御でき、通常90~100モル%、好ましくは95~100モル%、特に好ましくは99~100モル%である。かかるケン化度が低すぎる場合にはガスバリア性、熱安定性、耐湿性等が低下する傾向がある。
かかるEVOH樹脂(A)のケン化度は、JIS K6726(ただし、EVOH樹脂は水/メタノール溶媒に均一に溶解した溶液として用いる)に基づいて測定することができる。
【0022】
また、該EVOH樹脂(A)のメルトフローレート(MFR)(210℃、荷重2160g)は、通常0.5~100g/10分であり、好ましくは1~50g/10分、特に好ましくは3~35g/10分である。かかるMFRが大きすぎる場合には、製膜時の安定性が損なわれる傾向があり、小さすぎる場合には粘度が高くなり過ぎ溶融押出しが困難となる傾向がある。
かかるMFRは、EVOH樹脂の重合度の指標となるものであり、エチレンとビニルエステル系モノマーを共重合する際の重合開始剤の量や、溶媒の量によって調整することができる。
【0023】
本発明で用いられるEVOH樹脂(A)には、本発明の効果を阻害しない範囲(例えば、EVOH樹脂(A)の10モル%以下)で、以下に示すコモノマーに由来する構造単位が、さらに含まれていてもよい。
上記コモノマーとしては、プロピレン、1-ブテン、イソブテン等のオレフィン類、3-ブテン-1-オール、3-ブテン-1,2-ジオール、4-ペンテン-1-オール、5-ヘキセン-1,2-ジオール等のヒドロキシ基含有α-オレフィン類やそのエステル化物、アシル化物等の誘導体;2-メチレンプロパン-1,3-ジオール、3-メチレンペンタン-1,5-ジオール等のヒドロキシアルキルビニリデン類;1,3-ジアセトキシ-2-メチレンプロパン、1,3-ジプロピオニルオキシ-2-メチレンプロパン、1,3-ジブチリルオキシ-2-メチレンプロパン等のヒドロキシアルキルビニリデンジアセテート類;アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、(無水)フタル酸、(無水)マレイン酸、(無水)イタコン酸等の不飽和酸類あるいはその塩あるいは炭素数1~18のモノまたはジアルキルエステル類;アクリルアミド、炭素数1~18のN-アルキルアクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、2-アクリルアミドプロパンスルホン酸あるいはその塩、アクリルアミドプロピルジメチルアミンあるいはその酸塩あるいはその4級塩等のアクリルアミド類;メタアクリルアミド、炭素数1~18のN-アルキルメタクリルアミド、N,N-ジメチルメタクリルアミド、2-メタクリルアミドプロパンスルホン酸あるいはその塩、メタクリルアミドプロピルジメチルアミンあるいはその酸塩あるいはその4級塩等のメタクリルアミド類;N-ビニルピロリドン、N-ビニルホルムアミド、N-ビニルアセトアミド等のN-ビニルアミド類;アクリルニトリル、メタクリルニトリル等のシアン化ビニル類;炭素数1~18のアルキルビニルエーテル、ヒドロキシアルキルビニルエーテル、アルコキシアルキルビニルエーテル等のビニルエーテル類;塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン、臭化ビニル等のハロゲン化ビニル化合物類;トリメトキシビニルシラン等のビニルシラン類;酢酸アリル、塩化アリル等のハロゲン化アリル化合物類;アリルアルコール、ジメトキシアリルアルコール等のアリルアルコール類;トリメチル-(3-アクリルアミド-3-ジメチルプロピル)-アンモニウムクロリド、アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸等のコモノマーがあげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。
【0024】
特に、側鎖に1級水酸基を有するEVOH樹脂は、ガスバリア性を保持しつつ二次成形性が良好になる点で好ましく、なかでも、ヒドロキシ基含有α-オレフィン類を共重合したEVOH樹脂が好ましく、特には、1,2-ジオール構造を側鎖に有するEVOH樹脂が好ましい。
特に、側鎖に1級水酸基を有するEVOH樹脂である場合、当該1級水酸基を有するモノマー由来の構造単位の含有量は、EVOH樹脂の通常0.1~20モル%、さらには0.5~15モル%、特には1~10モル%が好ましい。
【0025】
また、本発明で用いるEVOH樹脂(A)としては、ウレタン化、アセタール化、シアノエチル化、オキシアルキレン化等の「後変性」されたものであってもよい。
【0026】
さらに、本発明で使用されるEVOH樹脂(A)は、異なる他のEVOH樹脂との混合物であってもよく、かかる他のEVOH樹脂としては、ケン化度が異なるもの、重合度が異なるもの、共重合成分が異なるもの等をあげることができる。
【0027】
[アルカリ金属化合物(B)]
本発明のEVOH樹脂組成物は、アルカリ金属化合物(B)を含有する樹脂組成物である。EVOH樹脂組成物全体に対し、アルカリ金属化合物(B)の含有量は、金属換算した重量基準で通常1~1000ppm、好ましくは5~800ppm、さらに好ましくは10~700ppm、特に好ましくは100~600ppmである。多すぎる場合は生産性が損なわれる傾向があり、少なすぎる場合は熱安定性が低下する傾向がある。
【0028】
なお、上記アルカリ金属化合物(B)の含有割合の基準となるEVOH樹脂組成物は、EVOH樹脂(A)、アルカリ金属化合物(B)、鉄化合物(C)、必要に応じて配合される各種の添加剤等を含有する、最終製品としてのEVOH樹脂組成物である。
【0029】
本発明に用いられるアルカリ金属化合物(B)のアルカリ金属としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウムがあげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。これらのうち、好ましくはナトリウムおよびカリウムであり、特に好ましくはナトリウムである。また、その含有量は金属換算量で考慮し、アルカリ金属化合物(B)を2種以上併せて用いた時の含有量は、全アルカリ金属の金属換算量を合計した値である。
【0030】
上記のアルカリ金属化合物(B)としては、例えば、アルカリ金属塩、アルカリ金属水酸化物等があげられる。これらは水溶性であることが好ましい。なかでも、分散性の点からアルカリ金属塩が好ましい。
また、本発明に用いるアルカリ金属化合物(B)は、経済性と分散性の点から、無機層状化合物や複塩を除くことが好ましい。
【0031】
上記アルカリ金属化合物(B)は、例えばアルカリ金属塩として存在する場合の他、イオン化した状態、あるいは樹脂や他の配位子とした錯体の状態で存在していてもよい。
アルカリ金属塩としては、例えば、炭酸塩、炭酸水素塩、リン酸塩、ホウ酸塩、硫酸塩、塩化物塩等の無機塩;酢酸塩、酪酸塩、プロピオン酸塩、エナント酸塩、カプリン酸塩等の炭素数2~11のモノカルボン酸塩;シュウ酸塩、マロン酸塩、コハク酸塩、アジピン酸塩、スベリン酸塩、セバチン酸塩等の炭素数2~11のジカルボン酸塩;ラウリン酸塩、パルミチン酸塩、ステアリン酸塩、12-ヒドロキシステアリン酸塩、ベヘン酸塩、モンタン酸塩等の炭素数12以上のモノカルボン酸塩、EVOH樹脂の重合末端カルボキシル基とのカルボン酸塩等のカルボン酸塩等があげられる。これらは単独でもしくは2種類以上併せて用いることができる。アルカリ金属化合物(B)の分子量としては、通常20~10000、好ましくは20~1000、特に好ましくは20~500である。
これらのなかでも、好ましくはカルボン酸塩であり、特に好ましくは炭素数2~11のモノカルボン酸塩であり、さらに好ましくは酢酸塩である。
【0032】
本発明のEVOH樹脂組成物におけるアルカリ金属化合物(B)の含有量は、例えば、該EVOH樹脂組成物を、加熱灰化したものを塩酸等にて酸処理して得られる溶液に、純水を加えて定容したものを検液とし、原子吸光光度計にて測定することができる。
【0033】
[鉄化合物(C)]
本発明の溶融成形用EVOH樹脂組成物は、EVOH樹脂(A)、アルカリ金属化合物(B)および鉄化合物(C)を特定比率にて含有することを特徴とする。かかる構成を採用することにより、EVOH樹脂組成物が溶融成形時に経時的に粘度低下し、ロングラン成形性が良好であることを見出した。
【0034】
本発明に用いるEVOH樹脂組成物は、鉄化合物(C)の含有量が、EVOH樹脂組成物の重量あたり金属換算にて0.01~20ppmであることを特徴とするものである。かかる鉄化合物(C)の含有量は、好ましくは0.01~5ppm、さらに好ましくは0.05~1ppm、特に好ましくは0.08~0.5ppmである。
鉄化合物(C)の含有量が少なすぎると溶融成形時の粘度低下が不充分となる傾向があり、逆に多すぎると成形物が着色する傾向がある。
【0035】
ここで、鉄化合物(C)の含有量は、例えば、EVOH樹脂組成物の粉砕物0.5gを赤外線加熱炉で酸素気流中、650℃にて1時間灰化処理し、灰分を酸溶解して純水で定容したものを試料溶液とし、この試料溶液をICP-MS(Agilent Technologies社製、ICP質量分析装置 7500ce型)を用いて標準添加法で測定することにより求めることができる。
【0036】
なお、かかる鉄化合物(C)は、EVOH樹脂組成物中で、例えば、酸化物、水酸化物、塩化物、鉄塩として存在する場合の他、イオン化した状態、あるいは樹脂や他の配位子と相互作用した錯体の状態で存在していてもよい。上記酸化物としては、例えば、酸化第二鉄、四三酸化鉄、亜酸化鉄等があげられる。上記塩化物としては、例えば、塩化第一鉄、塩化第二鉄等があげられる。上記水酸化物としては、例えば、水酸化第一鉄、水酸化第二鉄等があげられる。上記鉄塩としては、例えば、リン酸鉄、硫酸鉄等の無機塩やカルボン酸(酢酸、酪酸、ステアリン酸など)鉄等の有機塩があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。
【0037】
EVOH樹脂組成物における分散性の点で、鉄化合物(C)は水溶性であることが好ましい。また、分散性と生産性の観点から、その分子量は通常100~10000、好ましくは100~1000、特に好ましくは100~500である。
【0038】
本発明に用いるEVOH樹脂組成物において、上記鉄化合物(C)の金属換算含有量に対する、前記アルカリ金属化合物(B)の金属換算含有量の重量比は、通常10~100000であり、好ましくは30~50000であり、特に好ましくは100~20000、殊に好ましくは1000~10000である。かかる値が大きすぎる場合、経時的な粘度低下が大きくなり過ぎるという傾向があり、小さすぎる場合、成形物が着色するという傾向がある。
【0039】
[その他の熱可塑性樹脂]
本発明に用いるEVOH樹脂組成物には、EVOH樹脂(A)以外の熱可塑性樹脂を、本発明の効果を阻害しない範囲(例えば、EVOH樹脂組成物の通常30重量%以下、好ましくは20重量%以下、特に好ましくは10重量%以下)にて含有することができる。
他の熱可塑性樹脂としては、公知の熱可塑性樹脂を用いることができる。例えば、具体的には、ポリアミド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアクリル系樹脂、アイオノマー、エチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-アクリル酸エステル共重合体、エチレン-メタクリル酸共重合体、エチレン-メタクリル酸エステル共重合体、ポリ塩化ビニリデン、ビニルエステル系樹脂、ポリエステルエラストマー、ポリウレタンエラストマー、塩素化ポリエチレン、塩素化ポリプロピレン等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。
【0040】
[その他の配合剤]
また、本発明に用いるEVOH樹脂組成物には、本発明の効果を阻害しない範囲において、一般にEVOH樹脂に配合する配合剤が含有されていてもよい。例えば、アルカリ金属以外の無機複塩(例えば、ハイドロタルサイト等)、可塑剤(例えば、エチレングリコール、グリセリン、ヘキサンジオール等の脂肪族多価アルコール等)、酸素吸収剤[例えば、アルミニウム粉、光触媒酸化チタン等の無機系酸素吸収剤;アスコルビン酸、さらにその脂肪酸エステルやアルカリ金属以外の金属塩等、ハイドロキノン、没食子酸、水酸基含有フェノールアルデヒド樹脂等の多価フェノール類、ビス-サリチルアルデヒド-イミンコバルト、テトラエチレンペンタミンコバルト、コバルト-シッフ塩基錯体、ポルフィリン類、大環状ポリアミン錯体、ポリエチレンイミン-コバルト錯体等の含窒素化合物と鉄以外の遷移金属との配位結合体、テルペン化合物、アミノ酸類とヒドロキシル基含有還元性物質の反応物、トリフェニルメチル化合物等の有機化合物系酸素吸収剤;窒素含有樹脂と鉄以外の遷移金属との配位結合体(例えば、メチルキシリレンジアミン(MXD)ナイロンとコバルトの組合せ)、三級水素含有樹脂と鉄以外の遷移金属とのブレンド物(例えば、ポリプロピレンとコバルトの組合せ)、炭素-炭素不飽和結合含有樹脂と鉄以外の遷移金属とのブレンド物(例えば、ポリブタジエンとコバルトの組合せ)、光酸化崩壊性樹脂(例えば、ポリケトン)、アントラキノン重合体(例えば、ポリビニルアントラキノン)等や、さらにこれらの配合物に光開始剤(ベンゾフェノン等)や過酸化物捕捉剤(市販の酸化防止剤等)や消臭剤(活性炭等)を添加したもの等の高分子系酸素吸収剤]、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、着色剤、帯電防止剤、界面活性剤(ただし、滑剤として用いるものを除く)、抗菌剤、アンチブロッキング剤、充填材(例えば無機フィラー等)等を配合してもよい。これらの化合物は、単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。
【0041】
[EVOH樹脂組成物の製造方法]
本発明に用いるEVOH樹脂組成物を製造する方法としては、例えば、ドライブレンド法、溶融混合法、溶液混合法、含浸法等の公知の方法があげられ、これらを任意に組み合わせることも可能である。また、EVOH樹脂の前駆体として一般的なエチレン-酢酸ビニル共重合体を用い、かかる共重合体をアルカリ金属触媒を用いてケン化し、副生物として酢酸塩等のアルカリ金属化合物(B)を含有するEVOH樹脂を得、これを洗浄することでEVOH樹脂に所望量のアルカリ金属化合物(B)を含有させることが可能である。このようにして得られたアルカリ金属化合物含有EVOH樹脂を原料として用いる場合、生産性の点で好ましい。
【0042】
ドライブレンド法としては、例えば(i)EVOH樹脂(A)ペレットと、アルカリ金属化合物(B)および鉄化合物(C)をタンブラー等を用いてドライブレンドする方法等があげられる。
溶融混合法としては、例えば、(ii)EVOH樹脂(A)ペレットと、アルカリ金属化合物(B)および鉄化合物(C)のドライブレンド物を溶融混練し、ペレットや成形物を得る方法や、(iii)溶融状態のEVOH樹脂にアルカリ金属化合物(B)や鉄化合物(C)を添加して溶融混練し、ペレットや成形物を得る方法等があげられる。
【0043】
溶液混合法としては、例えば、(iv)市販のEVOH樹脂(A)ペレットを用いて溶液を調製し、ここにアルカリ金属化合物(B)および鉄化合物(C)の少なくとも一方を配合し、凝固成形してペレット化し、固液分離して乾燥する方法や、(v)EVOH樹脂(A)の製造過程で、EVOH樹脂の均一溶液(水/アルコール溶液等)にアルカリ金属化合物(B)および鉄化合物(C)の少なくとも一方を含有させた後、凝固成形してペレット化し、固液分離して乾燥する方法があげられる。
【0044】
含浸法としては、例えば(vi)EVOH樹脂(A)ペレットを、アルカリ金属化合物(B)および鉄化合物(C)の少なくとも一方を含有する水溶液と接触させ、EVOH樹脂(A)ぺレット中にアルカリ金属化合物(B)および鉄化合物(C)の少なくとも一方を含有させた後、乾燥する方法等をあげることができる。
【0045】
また、(vii)非酸化性の酸(例えば、塩酸や酢酸)を高濃度にて含有するEVOH樹脂のメタノール溶液をギアポンプ等で輸送することで、ギアポンプの駆動部のステンレス鋼から微量の鉄化合物が溶出し、EVOH樹脂(A)に対して微量の鉄化合物(C)が配合される。かかる処理後のEVOH樹脂のメタノール溶液からEVOH樹脂(A)および鉄化合物(C)を有するEVOH樹脂(A)ペレットを得、かかるEVOH樹脂(A)ペレットとアルカリ金属化合物(B)をドライブレンドおよび溶融混合の少なくとも一方により、ペレットにする方法、または上記鉄化合物(C)含有EVOH樹脂(A)ペレットを含浸法にてアルカリ金属化合物(B)を含有させ、乾燥することによりペレットを得る方法等があげられる。
【0046】
本発明においては、上記の異なる方法を組み合わせることが可能である。中でも、生産性や本発明の効果がより顕著な樹脂組成物が得られる点で、溶融混合法が好ましく、特には(ii)、(vii)の方法が好ましい。
【0047】
なお、上記各方法によって得られる本発明のEVOH樹脂組成物ペレット、各方法で用いられるEVOH樹脂(A)ペレットの形状は任意である。例えば、球形、オーバル形、円柱形、立方体形、直方体形等があるが、通常、オーバル形、または円柱形であり、その大きさは、後に成形材料として用いる場合の利便性の観点から、オーバル形の場合は短径が通常1~10mm、好ましくは2~6mmであり、更に好ましくは2.5~5.5mmであり、長径は通常1.5~30mm、好ましくは3~20mmであり、更に好ましくは3.5~10mmである。また、円柱形の場合は底面の直径が通常1~6mm、好ましくは2~5mmであり、長さは通常1~6mm、好ましくは2~5mmである。
【0048】
また、上記の各方法で用いられる鉄化合物(C)としては、前述のとおり、好ましくは、水溶性の鉄化合物が用いられ、例えば、酸化第二鉄、四三酸化鉄、亜酸化鉄等の酸化物、塩化第一鉄、塩化第二鉄等の塩化物、水酸化第一鉄、水酸化第二鉄等の水酸化物、リン酸鉄、硫酸鉄等の無機塩やカルボン酸(酢酸、酪酸、ステアリン酸等)鉄等の有機塩等の鉄塩があげられる。なお、かかる鉄化合物(C)は、前述のとおり、EVOH樹脂組成物中で、上記の塩として存在する場合の他、イオン化した状態、あるいは樹脂や他の化合物を配位子とした錯体の状態で存在していてもよい。
【0049】
また、上記(vi)の方法で用いられる鉄化合物を含有する水溶液としては、上記鉄化合物(C)の水溶液や、鉄鋼材料を各種薬剤を含む水に浸漬することで鉄イオンを溶出させたものを用いることができる。なお、その場合、EVOH樹脂組成物中の鉄化合物(C)の含有量(金属換算)は、EVOH樹脂(A)ペレットを浸漬する水溶液中の鉄化合物(C)の濃度や浸漬温度、浸漬時間等によって制御することが可能である。上記浸漬温度、浸漬時間としては、通常、0.5~48時間、好ましくは1~36時間であり、浸漬温度は通常10~40℃、好ましくは20~35℃である。
かかるEVOH樹脂組成物ペレットは公知の手法にて固液分離し、公知の乾燥方法にて乾燥する。かかる乾燥方法として、種々の乾燥方法を採用することが可能であり、静置乾燥、流動乾燥のいずれでもよい。また、これらを組み合わせて行うこともできる。
【0050】
本発明に用いるEVOH樹脂組成物の含水率は、通常、0.01~0.5重量%であり、好ましくは0.05~0.35重量%、特に好ましくは0.1~0.3重量%である。
【0051】
なお、本発明におけるEVOH樹脂組成物の含水率は以下の方法により測定・算出されるものである。
EVOH樹脂組成物ぺレットの乾燥前重量(W1)を電子天秤にて秤量し、150℃の熱風乾燥機中で5時間乾燥させ、デシケーター中で30分間放冷後の重量(W2)を秤量し、下記式より算出する。
含水率(重量%)=[(W1-W2)/W1]×100
【0052】
このようにしてEVOH樹脂組成物(ぺレット)が得られる。
上記EVOH樹脂組成物は、粘度が熱により経時的に低下するという粘度特性を有する。
上記粘度特性は、重量減少割合によって評価することができ、本発明のEVOH樹脂組成物における重量減少割合は、通常0.7~1.1%であり、好ましくは0.8~1.0%であり、特に好ましくは0.9%である。重量減少割合の数値が小さすぎる(重量減少が少なすぎる)と、EVOH樹脂組成物がほとんど分解せず、溶融成形時に経時的に増粘し、ロングラン成形性が低下する傾向があり、重量減少割合の数値が大きすぎる(重量減少が多すぎる)と、EVOH樹脂組成物が分解しすぎていることを表し、EVOH樹脂組成物の分解に起因するガス等により発泡し、成形品等の外観に悪影響を生じさせる傾向がある。
【0053】
なお、上記重量減少割合は、1~5mm角に粉砕したEVOH樹脂組成物の粉砕品5mgを、熱重量測定装置(Perkin Elmer社製、Pyris 1 TGA)を用いて、窒素雰囲気下、気流速度:20mL/分、温度:230℃、時間:1時間の条件下で測定して得られる、加熱前後の重量から下記式より算出する。
重量減少割合(%)=[(加熱前重量-加熱後重量)/加熱前重量]×100
【0054】
このようにして得られたEVOH樹脂組成物は、ペレット、あるいは粉末状といった、さまざまな形態のEVOH樹脂組成物として調製され、各種の成形物の溶融成形材料として提供される。なお、該EVOH樹脂組成物には、該EVOH樹脂組成物に用いられるEVOH樹脂(A)以外の樹脂を混合して得られる樹脂組成物も含まれる。
【0055】
そして、かかる成形物としては、該EVOH樹脂組成物を用いて成形された単層フィルムをはじめとして、該EVOH樹脂組成物を用いて成形された層を有する多層構造体として実用に供することができる。
【0056】
[多層構造体]
本発明の溶融成形用EVOH樹脂組成物から得られる多層構造体は、上記EVOH樹脂組成物からなる層を有するものである。該EVOH樹脂組成物を含む層(以下、単に「EVOH樹脂組成物層」という。)は、該EVOH樹脂組成物以外の熱可塑性樹脂を主成分とする他の基材(以下、基材に用いられる樹脂を「基材樹脂」と略記することがある。)と積層することで、さらに強度を付与したり、EVOH樹脂組成物層を水分等の影響から保護したり、他の機能を付与することができる。
【0057】
上記基材樹脂としては、例えば、直鎖状低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、エチレン-プロピレン(ブロックおよびランダム)共重合体、エチレン-α-オレフィン(炭素数4~20のα-オレフィン)共重合体等のポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン、プロピレン-α-オレフィン(炭素数4~20のα-オレフィン)共重合体等のポリプロピレン系樹脂、ポリブテン、ポリペンテン、ポリ環状オレフィン系樹脂(環状オレフィン構造を主鎖および側鎖の少なくとも一方を有する重合体)等の(未変性)ポリオレフィン系樹脂や、これらのポリオレフィン類を不飽和カルボン酸またはそのエステルでグラフト変性した不飽和カルボン酸変性ポリオレフィン系樹脂等の変性オレフィン系樹脂を含む広義のポリオレフィン系樹脂、アイオノマー、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-アクリル酸エステル共重合体、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂(共重合ポリアミドも含む)、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、アクリル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ビニルエステル系樹脂、ポリエステル系エラストマー、ポリウレタン系エラストマー、ポリスチレン系エラストマー、塩素化ポリエチレン、塩素化ポリプロピレン等のハロゲン化ポリオレフィン、芳香族または脂肪族ポリケトン類等があげられる。
【0058】
これらのうち、疎水性樹脂である、ポリアミド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリスチレン系樹脂が好ましく、より好ましくは、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリ環状オレフィン系樹脂およびこれらの不飽和カルボン酸変性ポリオレフィン系樹脂等のポリオレフィン系樹脂である。
【0059】
多層構造体の層構成は、本発明の溶融成形用EVOH樹脂組成物から得られるEVOH樹脂組成物層をa(a1、a2、・・・)、基材樹脂層をb(b1、b2、・・・)とするとき、a/b、b/a/b、a/b/a、a1/a2/b、a/b1/b2、b2/b1/a/b1/b2、b2/b1/a/b1/a/b1/b2等、任意の組み合わせが可能である。また、該多層構造体を製造する過程で発生する端部や不良品等を再溶融成形して得られる、上記EVOH樹脂組成物と、上記EVOH樹脂組成物以外の熱可塑性樹脂との混合物を含むリサイクル層をRとするとき、b/R/a、b/R/a/b、b/R/a/R/b、b/a/R/a/b、b/R/a/R/a/R/b等とすることも可能である。多層構造体の層の数はのべ数にて通常2~15、好ましくは3~10である。上記の層構成において、それぞれの層間には、必要に応じて接着性樹脂を含有する接着性樹脂層を介在させてもよい。
【0060】
上記接着性樹脂としては、公知のものを使用でき、基材樹脂「b」に用いる熱可塑性樹脂の種類に応じて適宜選択すればよい。代表的には不飽和カルボン酸またはその無水物をポリオレフィン系樹脂に付加反応やグラフト反応等により化学的に結合させて得られるカルボキシル基を含有する変性ポリオレフィン系重合体をあげることができる。上記カルボキシル基を含有する変性ポリオレフィン系重合体としては、例えば、無水マレイン酸グラフト変性ポリエチレン、無水マレイン酸グラフト変性ポリプロピレン、無水マレイン酸グラフト変性エチレン-プロピレン(ブロックおよびランダム)共重合体、無水マレイン酸グラフト変性エチレン-エチルアクリレート共重合体、無水マレイン酸グラフト変性エチレン-酢酸ビニル共重合体、無水マレイン酸変性ポリ環状オレフィン系樹脂、無水マレイン酸グラフト変性ポリオレフィン系樹脂等があげられる。そして、これらから選ばれた1種または2種以上の混合物を用いることができる。
【0061】
多層構造体において、本発明の溶融成形用EVOH樹脂組成物から得られるEVOH樹脂組成物層と基材樹脂層との間に、接着性樹脂層を用いる場合、接着性樹脂層がEVOH樹脂組成物層の両側に位置する層となることから、疎水性に優れた接着性樹脂を用いることが好ましい。
【0062】
上記基材樹脂、接着性樹脂には、本発明の趣旨を阻害しない範囲(例えば、樹脂全体に対して、30重量%以下、好ましくは10重量%以下)において、従来知られているような可塑剤、フィラー、クレー(モンモリロナイト等)、着色剤、酸化防止剤、帯電防止剤、滑剤、核材、ブロッキング防止剤、ワックス等を含んでいてもよい。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。
【0063】
本発明の溶融成形用EVOH樹脂組成物から得られるEVOH樹脂組成物と上記基材樹脂との積層(接着性樹脂層を介在させる場合を含む)は、公知の方法にて行うことができる。例えば、上記EVOH樹脂組成物のフィルム、シート等に基材樹脂を溶融押出ラミネートする方法、基材樹脂層に上記EVOH樹脂組成物を溶融押出ラミネートする方法、EVOH樹脂組成物と基材樹脂とを共押出する方法、EVOH樹脂組成物(層)と基材樹脂(層)とを有機チタン化合物、イソシアネート化合物、ポリエステル系化合物、ポリウレタン化合物等の公知の接着剤を用いてドライラミネートする方法、基材樹脂上にEVOH樹脂組成物の溶液を塗工してから溶媒を除去する方法等があげられる。これらのなかでも、コストや環境の観点から考慮して共押出する方法が好ましい。
【0064】
上記の如き多層構造体は、ついで必要に応じて(加熱)延伸処理が施される。延伸処理は、一軸延伸、二軸延伸のいずれであってもよく、二軸延伸の場合は同時延伸であっても逐次延伸であってもよい。また、延伸方法としてはロール延伸法、テンター延伸法、チューブラー延伸法、延伸ブロー法、真空圧空成形等のうち延伸倍率の高いものも採用できる。延伸温度は、多層構造体の融点近傍の温度で、通常40~170℃、好ましくは60~160℃程度の範囲から選ばれる。延伸温度が低すぎる場合は延伸性が不良となり、高すぎる場合は安定した延伸状態を維持することが困難となる。
【0065】
なお、延伸後に寸法安定性を付与することを目的として、熱固定を行ってもよい。熱固定は周知の手段で実施可能であり、例えば上記延伸フィルムを緊張状態を保ちながら通常80~180℃、好ましくは100~165℃で通常2~600秒間程度熱処理を行う。また、本発明の溶融成形用EVOH樹脂組成物から得られる多層延伸フィルムをシュリンク用フィルムとして用いる場合には、熱収縮性を付与するために、上記の熱固定を行わず、例えば延伸後のフィルムに冷風を当てて冷却固定する等の処理を行えばよい。
【0066】
また、場合によっては、本発明の溶融成形用EVOH樹脂組成物から得られる多層構造体を用いてカップやトレイ状の多層容器を得ることも可能である。その場合は、通常絞り成形法が採用され、具体的には真空成形法、圧空成形法、真空圧空成形法、プラグアシスト式真空圧空成形法等があげられる。更に多層パリソン(ブロー前の中空管状の予備成形物)からチューブやボトル状の多層容器(積層体構造)を得る場合はブロー成形法が採用される。具体的には、押出ブロー成形法(双頭式、金型移動式、パリソンシフト式、ロータリー式、アキュムレーター式、水平パリソン式等)、コールドパリソン式ブロー成形法、射出ブロー成形法、二軸延伸ブロー成形法(押出式コールドパリソン二軸延伸ブロー成形法、射出式コールドパリソン二軸延伸ブロー成形法、射出成形インライン式二軸延伸ブロー成形法等)等があげられる。得られる積層体は必要に応じ、熱処理、冷却処理、圧延処理、印刷処理、ドライラミネート処理、溶液または溶融コート処理、製袋加工、深絞り加工、箱加工、チューブ加工、スプリット加工等を行うことができる。
【0067】
多層構造体(延伸したものを含む)の厚み、さらには多層構造体を構成するEVOH樹脂組成物層、基材樹脂層および接着性樹脂層の厚みは、層構成、基材樹脂の種類、接着性樹脂の種類、用途や包装形態、要求される物性等により一概にいえないが、多層構造体(延伸したものを含む)の厚みは、通常10~5000μm、好ましくは30~3000μm、特に好ましくは50~2000μmである。EVOH樹脂組成物層は通常1~500μm、好ましくは3~300μm、特に好ましくは5~200μmであり、基材樹脂層は通常5~3000μm、好ましくは10~2000μm、特に好ましくは20~1000μmであり、接着性樹脂層は、通常0.5~250μm、好ましくは1~150μm、特に好ましくは3~100μmである。
【0068】
さらに、多層構造体におけるEVOH樹脂組成物層の基材樹脂層に対する厚みの比(EVOH樹脂組成物層/基材樹脂層)は、各層が複数ある場合は最も厚みの厚い層同士の比にて、通常1/99~50/50、好ましくは5/95~45/55、特に好ましくは10/90~40/60である。また、多層構造体におけるEVOH樹脂組成物層の接着性樹脂層に対する厚み比(EVOH樹脂組成物層/接着性樹脂層)は、各層が複数ある場合は最も厚みの厚い層同士の比にて、通常10/90~99/1、好ましくは20/80~95/5、特に好ましくは50/50~90/10である。
【0069】
上記の如く得られたフィルム、シート、延伸フィルムからなる袋およびカップ、トレイ、チューブ、ボトル等からなる容器や蓋材は、一般的な食品の他、マヨネーズ、ドレッシング等の調味料、味噌等の発酵食品、サラダ油等の油脂食品、飲料、化粧品、医薬品等の各種の包装材料容器として有用である。
特に、本発明の溶融成形用EVOH樹脂組成物から得られるEVOH樹脂組成物からなる層は、紫外線吸収能が優れるため、食品、特には紫外線による変色が問題となりやすい精肉、ハム、ウィンナー等の畜肉用の包装材料として特に有用である。
【実施例
【0070】
以下、実施例をあげて本発明を具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、実施例の記載に限定されるものではない。
尚、例中「部」とあるのは、断りのない限り重量基準を意味する。
【0071】
<実施例1>
EVOH樹脂(A)としてエチレン構造単位の含有量44モル%、ケン化度99.6モル%、MFR12g/10分(210℃、荷重2160g)のエチレン-ビニルアルコール共重合体を用いた。かかるEVOH樹脂のメタノール溶液(樹脂分濃度36重量%)に対し酢酸水溶液をEVOH樹脂100部に対して酢酸が1.5部となるよう配合した。かかるメタノール溶液をギアポンプにて輸送し、円形の口金から水中に押出してストランド化し、切断して円柱形のペレットを作製した。
【0072】
得られたペレットを酢酸水溶液(酢酸濃度2200ppm)へ浴比2.5にて、35℃で3時間接触させた後、窒素気流下中で100℃で36時間乾燥を行ってエチレン構造単位の含有量44モル%、ケン化度99.6モル%、MFR12g/10分(210℃、荷重2160g)のEVOH樹脂ペレットを得た。
【0073】
得られたEVOH樹脂(A)ペレット10gを電気炉にて、700℃で3時間加熱した。得られたサンプルに少量の純水、塩酸2mlを添加し、加熱溶解させた。得られたサンプルをメスフラスコに投入し、純水にて希釈した。このようにして調製したサンプルを用い、原子吸光光度計(HITACHI社製、Z-2300)にてEVOH樹脂組成物の単位重量あたりのアルカリ金属化合物(B)の金属換算量を測定した。かかるEVOH樹脂(A)ペレットにおけるアルカリ金属化合物(B)含有量は、金属換算にて0.4ppmであった。
【0074】
また、得られたEVOH樹脂(A)ペレット0.5gを赤外線加熱炉で酸素気流中、650℃にて1時間灰化処理し、灰分を酸溶解して純水で定容したものを試料溶液とし、この試料溶液をICP-MS(Agilent Technologies社製、ICP質量分析装置 7500ce型)を用いて標準添加法で測定し、EVOH樹脂(A)ペレットの単位重量あたりの鉄化合物(C)含有量(金属換算)を測定した。測定結果を後記表1に示す。
【0075】
上記にて得られたEVOH樹脂(A)ペレット100部、アルカリ金属化合物(B)として酢酸ナトリウム(和光純薬社製)0.18部、をプラストグラフ(ブラベンダー社製)にて、210℃において5分間溶融混練し、得られた混練物を冷却後、粉砕処理を施し、EVOH樹脂組成物を得た。
かかるEVOH樹脂組成物について下記粘度特性評価を行った。結果を後記表1に示す。
【0076】
[粘度特性評価]
EVOH樹脂組成物の粉砕物を5mg用い、熱重量測定装置(Perkin Elmer社製、Pyris 1 TGA)により、窒素雰囲気下、気流速度:20mL/分、温度:230℃、時間:1時間の条件下での加熱前後の重量から下記式より、重量減少割合を算出した。
重量減少割合(%)=[(加熱前重量-加熱後重量)/加熱前重量]×100
得られた重量減少割合の小数点第2位を四捨五入し、下記の評価基準に基づいて、粘度特性を評価した。
A:0.9% 粘度特性に特に優れる
B:0.8%、または、1.0% 粘度特性により非常に優れる
C:0.7%、または、1.1% 粘度特性に優れる
D:0.6% 粘度特性に劣る
E:~0.5%、または、1.2%以上~ 粘度特性に非常に劣る
【0077】
<実施例2>
実施例1にて用いたEVOH樹脂(A)ペレット100部、アルカリ金属化合物(B)として酢酸ナトリウム(和光純薬工業社製)0.18部、鉄化合物(C)としてりん酸鉄(III)n水和物(和光純薬工業社製、230℃乾燥減量 20.9重量%)0.0034部をプラストグラフ(ブラベンダー社製)にて、210℃において5分間溶融混練し、得られた混練物を冷却後、粉砕処理を施し、EVOH樹脂組成物を得た。得られたEVOH樹脂組成物について同様に評価を行った。結果を後記の表1に示す。
【0078】
<比較例1>
実施例1において、酢酸ナトリウムを配合しなかった以外は同様にしてEVOH樹脂組成物を得た。得られたEVOH樹脂組成物について同様に評価を行った。結果を後記の表1に示す。
【0079】
<比較例2>
実施例2において、酢酸ナトリウムを配合しなかった以外は同様にしてEVOH樹脂組成物を得た。得られたEVOH樹脂組成物について同様に評価を行った。結果を後記の表1に示す。
【0080】
<比較例3>
EVOH樹脂(A)として、エチレン構造単位の含有量29モル%、ケン化度99.6モル%、MFR3.9g/10分(210℃、荷重2160g)のエチレン-ビニルアルコール共重合体(鉄化合物(C)の含有量は、金属換算にて0ppm)を用いた以外は、実施例1と同様にしてEVOH樹脂組成物を得た。得られたEVOH樹脂組成物について同様に評価を行った。結果を下記の表1に示す。
【0081】
【表1】
【0082】
アルカリ金属化合物(B)と鉄化合物(C)を特定比率で含有しない比較例1および2は、重量減少割合の数値が小さいことから、EVOH樹脂組成物がほとんど分解しておらず、同樹脂をロングラン成形に供した場合には、経時的に増粘し、ロングラン成形性が低下すると推察される。
また、アルカリ金属化合物(B)を含有し、鉄化合物(C)を含有しない比較例3は、重量減少割合の数値が大きかった。これは、熱によりEVOH樹脂組成物が分解しすぎていることを意味している。
【0083】
これに対しアルカリ金属化合物(B)と鉄化合物(C)を特定比率で併用した実施例1および2では、予想外にも粘度特性が向上した。
さらに、実施例1、2では鉄化合物(C)の配合量が少ないほど粘度特性が向上した。この樹脂組成物をロングラン成形に供した場合には、樹脂組成物の粘度が経時的に減少し、ロングラン成形性に優れる。また、かかる結果は比較例1、2の結果と反するものであり、アルカリ金属化合物(B)と鉄化合物(C)を特定比率にて併用することでのみ得られることがわかる。
【0084】
上記粘度特性の評価条件は、実際に樹脂組成物を使用する条件と比較して、ごく小さいスケールになっており、この評価からすれば、実用上、実施例の方が充分優れていることがわかる。すなわち、実際の押出機で樹脂組成物を使用する場合、アダプターやフィードブロック、ダイ等、機械構造上避けることのできない樹脂の滞留個所が生じるのであり、滞留した樹脂は、上記評価条件と比べて、非常に過酷な条件下に晒されることになる。したがって、上記評価における粘度特性の差は、実用上、非常に大きな差となって現れると考えられる。
【0085】
上記実施例においては、本発明における具体的な形態について示したが、上記実施例は単なる例示にすぎず、限定的に解釈されるものではない。当業者に明らかな様々な変形は、本発明の範囲内であることが企図されている。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明の溶融成形用EVOH樹脂組成物は、溶融成形時に経時的に粘度低下し、ロングラン成形性が良好なことから、各種食品の他、マヨネーズ、ドレッシング等の調味料、味噌等の発酵食品、サラダ油等の油脂食品、飲料、化粧品、医薬品等の各種の包装材料容器として有用である。