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特許7156035樹脂組成物、溶融成形用材料、多層構造体および液体包装用材料
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-11
(45)【発行日】2022-10-19
(54)【発明の名称】樹脂組成物、溶融成形用材料、多層構造体および液体包装用材料
(51)【国際特許分類】
   C08L 29/04 20060101AFI20221012BHJP
   C08K 5/101 20060101ALI20221012BHJP
   C08L 23/00 20060101ALI20221012BHJP
   B32B 27/28 20060101ALI20221012BHJP
   B32B 27/32 20060101ALI20221012BHJP
   B32B 25/16 20060101ALI20221012BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20221012BHJP
   B65D 65/40 20060101ALI20221012BHJP
【FI】
C08L29/04 S
C08K5/101
C08L23/00
B32B27/28 102
B32B27/32 Z
B32B25/16
B32B27/30 A
B65D65/40 D
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018562131
(86)(22)【出願日】2018-11-22
(86)【国際出願番号】 JP2018043118
(87)【国際公開番号】W WO2019103080
(87)【国際公開日】2019-05-31
【審査請求日】2021-10-05
(31)【優先権主張番号】P 2017224272
(32)【優先日】2017-11-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079382
【弁理士】
【氏名又は名称】西藤 征彦
(74)【代理人】
【識別番号】100123928
【弁理士】
【氏名又は名称】井▲崎▼ 愛佳
(74)【代理人】
【識別番号】100136308
【弁理士】
【氏名又は名称】西藤 優子
(74)【代理人】
【識別番号】100207295
【弁理士】
【氏名又は名称】寺尾 茂泰
(72)【発明者】
【氏名】碓氷 眞太郎
(72)【発明者】
【氏名】池下 美奈子
【審査官】常見 優
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/118762(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/041258(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/050211(WO,A1)
【文献】特開平09-071620(JP,A)
【文献】特開2011-202147(JP,A)
【文献】国際公開第2017/082063(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/089563(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/204272(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/16
C08K 3/00- 13/08
B32B 1/00- 43/00
B65D 65/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン-ビニルアルコール系共重合体(A)、オレフィン系ポリマー(B)およびソルビン酸エステル(C)を含有する樹脂組成物であって、上記オレフィン系ポリマー(B)に対するエチレン-ビニルアルコール系共重合体(A)の重量含有比率が、エチレン-ビニルアルコール系共重合体(A)/オレフィン系ポリマー(B)=50/50~99/1であり、上記ソルビン酸エステル(C)の含有量が、樹脂組成物の重量当たり0.00001~10ppmであることを特徴とする樹脂組成物。
【請求項2】
上記ソルビン酸エステル(C)が、アルコキシ基の炭素数が1~5のソルビン酸アルキルエステルであることを特徴とする請求項1記載の樹脂組成物。
【請求項3】
上記オレフィン系ポリマー(B)が、ポリオレフィン、オレフィン系熱可塑性エラスト マー、脂肪族系ゴム、オレフィン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体、およびアイオノマーからなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1または2記載の樹脂組成物。
【請求項4】
上記オレフィン系ポリマー(B)の密度が、0.85~0.96g/cm3であることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
上記オレフィン系ポリマー(B)の、23℃、50%RHにおける曲げ弾性率が150MPa未満であることを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の樹脂組成物からなることを特徴とする溶融成形用材料。
【請求項7】
請求項1~5のいずれか一項に記載の樹脂組成物からなる層を備えることを特徴とする多層構造体。
【請求項8】
請求項7記載の多層構造体からなることを特徴とする液体包装用材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エチレン-ビニルアルコール系共重合体(以下、「EVOH」と称する。)を含有する樹脂組成物およびそれを用いた溶融成形用材料、多層構造体および液体包装用材料に関するものであり、さらに詳しくは、着色が抑制された樹脂組成物、かかる樹脂組成物からなる溶融成形用材料、樹脂組成物からなる層を備える多層構造体および液体包装用材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
EVOHは、透明性、酸素等のガスバリア性、保香性、耐溶剤性、耐油性、機械強度等に優れており、フィルム、シート、ボトル等に成形され、食品包装材料、医薬品包装材料、工業薬品包装材料、農薬包装材料等の各種包装材料として広く用いられている。しかし、EVOHは、ガスバリア性に優れる反面、分子鎖に水酸基を豊富に有し結晶化度が高いため、脆い傾向にあり、柔軟性に欠けるという短所がある。
【0003】
そこで、液体を包装する用途等、柔軟性が必要な用途では、EVOH成形品に柔軟性を付与するために、軟質樹脂とブレンドして用いることが一般に行われている。
【0004】
例えば、特許文献1では、バッグインボックス等のように、長期間かけて繰り返し折れ曲がり、変形に曝されるような仕様に対しても、ピンホール等が生じないような柔軟性を有し、しかも成形安定性に優れた樹脂組成物として、エチレン含有率20~60モル%のエチレン-ビニルエステル共重合体ケン化物(A)に、オレフィン系ポリマー(B)、カルボン酸変性オレフィン系ポリマー(C)、および数平均分子量100~3000であり、かつ60℃以上170℃未満の軟化点を有している炭化水素系樹脂(D)を配合してなる樹脂組成物が提案されている。
【0005】
また、特許文献2では、押出し加工安定性に優れる樹脂組成物を提供することを目的とし、エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)、未変性エチレン-α-オレフィン共重合体(B)、酸変性エチレン-α-オレフィン共重合体(C)及びアルカリ金属塩(D)を特定配合比にて含有する樹脂組成物を用いることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2011-202147号公報
【文献】国際公開第2015/141610号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献1および2で開示されているEVOHとオレフィン系ポリマーを含む樹脂組成物は、柔軟性に優れるものであるが、溶融混練や溶融成形等の加熱によって着色する傾向があり、改善が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記実情に鑑み鋭意検討した結果、EVOHおよびオレフィン系ポリマーを含む樹脂組成物において特定微量のソルビン酸エステルを併用する場合に上記課題が解決することを見出した。
【0009】
すなわち、本発明は、EVOH(A)、オレフィン系ポリマー(B)およびソルビン酸エステル(C)を含有する樹脂組成物であって、上記ソルビン酸エステル(C)の含有量が、樹脂組成物の重量当たり0.00001~10ppmである樹脂組成物を第1の要旨とする。また、本発明は、上記樹脂組成物からなる溶融成形用材料を第2の要旨とし、そして上記樹脂組成物からなる層を備える多層構造体を第3の要旨とし、さらに上記多層構造体からなる液体包装用材料を第4の要旨とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の樹脂組成物は、EVOH(A)、オレフィン系ポリマー(B)およびソルビン酸エステル(C)を含有するものであり、上記ソルビン酸エステル(C)の含有量が、樹脂組成物の重量当たり0.00001~10ppmに設定されている。これにより、EVOH(A)とオレフィン系ポリマー(B)とを含有する樹脂組成物において、溶融混練や溶融成形等の加熱による着色を抑制する効果に優れる。
【0011】
また、上記オレフィン系ポリマー(B)に対するEVOH(A)の重量含有比率が、EVOH(A)/オレフィン系ポリマー(B)=1/99~99/1であると、より着色抑制効果に優れるようになる。
【0012】
さらに、上記オレフィン系ポリマー(B)の密度が、0.85~0.96g/cm3であると、より着色抑制効果に優れるようになる。
【0013】
そして、上記オレフィン系ポリマー(B)が、ポリオレフィン、オレフィン系熱可塑性エラストマー、脂肪族系ゴム、オレフィン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体、およびアイオノマーからなる群から選ばれる少なくとも1種であると、より着色抑制効果に優れるようになる。
【0014】
また、上記オレフィン系ポリマー(B)の、23℃、50%RHにおける曲げ弾性率が150MPa未満であると、より着色抑制効果に優れるようになる。
【0015】
本発明の樹脂組成物からなる溶融成形用材料は、着色が抑制されることから、各種成形物として、例えば、食品、薬品、農薬等の包装材料、特に液体包装用材料として好適に用いることができる。
【0016】
本発明の樹脂組成物からなる層を備える多層構造体は、着色が抑制されることから、各種成形物として、例えば、食品、薬品、農薬等の包装材料、特に液体包装用材料として好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の構成について詳細に説明するが、これらは望ましい実施態様の一例を示すものであり、これらの内容に特定されるものではない。
また、本発明において、「(メタ)アクリル」とはアクリルあるいはメタクリルを意味するものである。
【0018】
<樹脂組成物>
本発明の樹脂組成物は、EVOH(A)、オレフィン系ポリマー(B)およびソルビン酸エステル(C)を含有する。以下、本発明の樹脂組成物の各成分について順に説明する。
【0019】
[EVOH(A)]
本発明で用いるEVOH(A)は、通常、エチレンとビニルエステル系モノマーとを共重合させた後にケン化させることにより得られる樹脂であり、一般的にエチレン-ビニルアルコール系共重合体やエチレン-ビニルエステル系共重合体ケン化物と称される非水溶性の熱可塑性樹脂である。重合法も公知の任意の重合法、例えば、溶液重合、懸濁重合、エマルジョン重合を用いることができるが、一般的にはメタノールを溶媒とする溶液重合が用いられる。得られたエチレン-ビニルエステル系共重合体のケン化も公知の方法で行い得る。
すなわち、本発明で用いるEVOH(A)は、エチレン構造単位とビニルアルコール構造単位を主とし、通常、ケン化されずに残存した若干量のビニルエステル構造単位を含むものである。
【0020】
上記ビニルエステル系モノマーとしては、市場からの入手のしやすさや製造時の不純物の処理効率がよい点から、代表的には酢酸ビニルが用いられる。この他、ビニルエステル系モノマーとしては、例えば、ギ酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、バーサチック酸ビニル等の脂肪族ビニルエステル、安息香酸ビニル等の芳香族ビニルエステル等があげられる。なかでも、好ましくは炭素数3~20、より好ましくは炭素数4~10、特に好ましくは炭素数4~7の脂肪族ビニルエステルである。これらは通常単独で用いるが、必要に応じて複数種を同時に用いてもよい。
【0021】
EVOH(A)におけるエチレン構造単位の含有量は、ISO14663に基づいて測定することができ、通常20~60モル%、好ましくは25~50モル%、特に好ましくは25~45モル%である。かかる含有量が少なすぎると、高湿時のガスバリア性、溶融成形性が低下する傾向があり、逆に多すぎると、ガスバリア性が低下する傾向がある。
【0022】
EVOH(A)におけるビニルエステル成分のケン化度は、JIS K 6726(ただし、EVOHは水/メタノール溶媒に均一に溶解した溶液として用いる)に基づいて測定することができ、通常90~100モル%、好ましくは95~100モル%、特に好ましくは99~100モル%である。かかるケン化度が低すぎる場合にはガスバリア性、熱安定性、耐湿性等が低下する傾向がある。
【0023】
また、上記EVOH(A)のメルトフローレート(MFR)(210℃、荷重2160g)は、通常0.5~100g/10分であり、好ましくは1~50g/10分、特に好ましくは3~35g/10分である。かかるMFRが高すぎると、製膜性が低下する傾向がある。また、MFRが低すぎると溶融押出が困難となる傾向がある。
【0024】
また、本発明に用いられるEVOH(A)は、本発明の効果を阻害しない範囲で、以下に示すコモノマーに由来する構造単位が、さらに含まれていてもよい(例えば、通常EVOH(A)の20モル%以下、好ましくは10モル%以下)。
上記コモノマーとしては、例えば、2-プロペン-1-オール、3-ブテン-1-オール、4-ペンテン-1-オール、5-ヘキセン-1-オール、3,4-ジヒドロキシ-1-ブテン、5-ヘキセン-1,2-ジオール等の水酸基含有α-オレフィン類や、そのエステル化物である、3,4-ジアシロキシ-1-ブテン、3,4-ジアセトキシ-1-ブテン、2,3-ジアセトキシ-1-アリルオキシプロパン、2-アセトキシ-1-アリルオキシ-3-ヒドロキシプロパン、3-アセトキシ-1-アリルオキシ-2-ヒドロキシプロパン、グリセリンモノビニルエーテル、グリセリンモノイソプロペニルエーテル等、水酸基含有α-オレフィン類のアシル化物等の誘導体、1,3-ヒドロキシ-2-メチレンプロパン、1,5-ヒドロキシ-3-メチレンペンタン等のヒドロキシメチルビニリデン類;これらのエステル化物である1,3-ジアセトキシ-2-メチレンプロパン、1,3-ジプロピオニルオキシ-2-メチレンプロパン、1,3-ジブチロニルオキシ-2-メチレンプロパン等のビニリデンジアセテート類;アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、(無水)フタル酸、(無水)マレイン酸、(無水)イタコン酸等の不飽和酸類あるいはその塩あるいは炭素数1~18のモノまたはジアルキルエステル類、アクリルアミド、炭素数1~18のN-アルキルアクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、2-アクリルアミドプロパンスルホン酸あるいはその塩、アクリルアミドプロピルジメチルアミンあるいはその酸塩あるいはその4級塩等のアクリルアミド類、メタアクリルアミド、炭素数1~18のN-アルキルメタクリルアミド、N,N-ジメチルメタクリルアミド、2-メタクリルアミドプロパンスルホン酸あるいはその塩、メタクリルアミドプロピルジメチルアミンあるいはその酸塩あるいはその4級塩等のメタクリルアミド類、N-ビニルピロリドン、N-ビニルホルムアミド、N-ビニルアセトアミド等のN-ビニルアミド類、アクリルニトリル、メタクリルニトリル等のシアン化ビニル類、炭素数1~18のアルキルビニルエーテル、ヒドロキシアルキルビニルエーテル、アルコキシアルキルビニルエーテル等のビニルエーテル類、塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン、臭化ビニル等のハロゲン化ビニル化合物類、トリメトキシビニルシラン等のビニルシラン類、酢酸アリル、塩化アリル等のハロゲン化アリル化合物類、アリルアルコール、ジメトキシアリルアルコール等のアリルアルコール類、トリメチル-(3-アクリルアミド-3-ジメチルプロピル)-アンモニウムクロリド、アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸等のコモノマーがあげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。
【0025】
そして、上記のなかでも、側鎖に一級水酸基を有する構造単位を有するEVOHは、延伸処理や真空・圧空成形等の二次成形性が良好になる点で好ましく、とりわけ、側鎖に1,2-ジオールを有する構造単位を有するEVOHが好ましい。
【0026】
EVOH(A)が側鎖に一級水酸基を有する構造単位を含有する場合、その含有量は通常0.1~20モル%、さらには0.1~15モル%、特には0.1~10モル%が好ましい。
【0027】
また、上記EVOH(A)は、異なる他のEVOHとの混合物であってもよく、上記他のEVOHとしては、エチレン構造単位の含有量が異なるもの、上記側鎖に一級水酸基を有する構造単位の含有量が異なるもの、ケン化度が異なるもの、メルトフローレート(MFR)が異なるもの、他の共重合成分が異なるもの等をあげることができる。
【0028】
さらに、本発明で用いるEVOH(A)は、ウレタン化、アセタール化、シアノエチル化、オキシアルキレン化等の「後変性」されたEVOHを用いることもできる。
【0029】
本発明の樹脂組成物における上記EVOH(A)の含有量は、通常1重量%以上であり、好ましくは50重量%以上であり、好ましくは60重量%以上であり、より好ましくは70重量%以上である。なお、EVOH(A)の含有量の上限は、通常99重量%である。かかる値が上記範囲である場合、本発明の効果がより効果的に得られる傾向がある。
【0030】
[オレフィン系ポリマー(B)]
本発明で用いられる、オレフィン系ポリマー(B)は、炭素-炭素二重結合を含有する脂肪族炭化水素モノマーであるオレフィンを主モノマーとし、通常、数平均分子量1万以上の高分子で、主鎖が炭素結合のみで構成される親油性ポリマーをいう。具体的には、ポリオレフィン、オレフィン系熱可塑性エラストマー、脂肪族系ゴム、オレフィン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体、アイオノマーがあげられる。これらのオレフィン系ポリマー(B)は、単独でもしくは2種以上を併せて用いることができる。なかでも、ポリオレフィンが好ましい。
【0031】
以下、本発明で用いるオレフィン系ポリマー(B)について詳述する。
上記ポリオレフィンとは、例えば、エチレン、プロピレン、ブテン等のオレフィンモノマーのホモポリマー、2種以上のオレフィンモノマーのランダムコポリマー、ブロックコポリマーをいう。なかでも、オレフィンホモポリマーとしては、例えば、超低密度ポリエチレン、(直鎖状)低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン等のポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリメチルペンテン等があげられる。オレフィンブロックコポリマーとしては、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-ブテン共重合体、エチレン-ヘキセン共重合体、エチレン-オクテン共重合体等のエチレン-α-オレフィン共重合体;プロピレン-エチレン共重合体、プロピレン-ブテン共重合体等のプロピレン-α-オレフィン共重合体;ブテン-エチレン共重合体、ブテン-プロピレン共重合体等のブテン-α-オレフィン共重合体等があげられる。オレフィンランダムコポリマーとしては、上記オレフィンモノマーを2種以上ランダムに共重合したもので、低結晶性を示し、例えば、三井化学社製のエチレン系タフマー、プロピレン系タフマー、ブテン系タフマー等のタフマーシリーズ(商品名)等があげられる。
【0032】
上記オレフィン系熱可塑性エラストマーとは、ハードセグメントとしてポリオレフィン(ポリエチレンまたはポリプロピレン等)、ソフトセグメントとして上記脂肪族系ゴム(EPDMまたはEPM等)を使用した熱可塑性を示すエラストマー樹脂であり、ポリオレフィンと脂肪族系ゴムをコンパウンドする方法(コンパウンド型)、あるいはオレフィン重合時に脂肪族ゴムを導入する方法(リアクター型)によって合成されたものがあげられる。コンパウンド型としては、単純ブレンド品(非架橋タイプ)と動的架橋品(全面架橋タイプ、または部分架橋タイプの2種類)がある。
【0033】
上記脂肪族系ゴムとは、オレフィンモノマーとジエンモノマーのコポリマー、またはこれらの水素添加物で、ゴム状弾性を有するポリマーである。具体的には、エチレン-プロピレンゴム(EPM)、エチレン-プロピレン-ジエン系ゴム(EPDM)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、ブチルゴム(IIR)等の合成ゴムがあげられる。
【0034】
上記オレフィン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体とは、例えば、エチレン-アクリル酸メチル共重合体、エチレン-アクリル酸エチル共重合体、エチレン-メタクリル酸メチル共重合体があげられる。
【0035】
上記アイオノマーとは、エチレン-不飽和カルボン酸共重合体の金属塩であり、アイオノマー中のカルボキシ基は、金属により中和されている。
【0036】
本発明で用いるオレフィン系ポリマー(B)は、密度が、通常0.85~0.96g/cm3であり、好ましくは0.85~0.92g/cm3、より好ましくは0.85~0.90g/cm3である。特に、0.85~0.92g/cm3の条件を充足するオレフィン系ポリマー(B)としては、ポリプロピレン、超低密度ポリエチレン、エチレン-α-オレフィンランダムコポリマー等の低結晶性ポリオレフィン;EPM、EPDM等の脂肪族ゴム、オレフィン系熱可塑性エラストマー等があげられる。
【0037】
さらに、本発明で用いるオレフィン系ポリマー(B)は、23℃、50%RHにおける曲げ弾性率が通常150MPa未満、好ましくは100MPa未満、特に好ましくは50MPa未満であることが、曲げに対する柔軟性が良好であるという点から望ましい。曲げ弾性率が150MPa未満を充足するオレフィン系ポリマーとしては、超低密度ポリエチレン、エチレン-α-オレフィンランダムコポリマー等の低結晶性ポリオレフィン;EPM、EPDM、IR、BR、IIR等の脂肪族ゴム;ハードセグメントがポリエチレンで構成されるオレフィン系熱可塑性エラストマー等があげられる。
【0038】
より優れた蓄積疲労吸収効果を得るためには、上記オレフィン系ポリマー(B)の密度が0.85~0.90g/cm3で、かつ23℃、50%RHにおける曲げ弾性率が50MPa未満であることが好ましい。このような条件を充足するオレフィン系ポリマーとしては、低結晶性のエチレン-α-オレフィンランダムコポリマー、EPM、EPDMがあげられる。
【0039】
さらに、上記オレフィン系ポリマー(B)のガラス転移温度は通常-110~0℃、好ましくは-80-20℃であり、より好ましくは-70-40℃である。オレフィン系ポリマー(B)のガラス転移温度が室温に比べてはるかに低い温度範囲にあり、かつ低結晶性であることにより、得られる樹脂組成物が、低温から室温に至る広い温度範囲での柔軟性に非常に優れるものとなる。また、EVOH(A)に対してオレフィン系ポリマー(B)を配合することで高い蓄積疲労吸収効果を付与することが可能となる。ここで、ガラス転移温度とは、オレフィン系ポリマー(B)の無定形部分がガラス状態からゴム状態に転移する温度を意味しており、通常は、示差走査熱量計を用いてJIS K 7121準拠の方法で測定することができる。
【0040】
また、オレフィン系ポリマー(B)のメルトフローレート(MFR)は、210℃、荷重2160g条件下で、通常0.01~150g/10分であり、好ましくは0.1~50g/10分であり、より好ましくは1~25g/10分であり、さらに好ましくは2~10g/10分である。
【0041】
EVOH(A)の溶融粘度とオレフィン系ポリマー(B)の溶融粘度とが近いほど、溶融混練が容易になり、オレフィン系ポリマー(B)がEVOH(A)中に均一に分散した樹脂組成物が得られやすく、ひいては耐屈曲性、透明性に優れた樹脂組成物が得られやすい。具体的には、210℃、荷重2160g条件下で測定したMFR値の比(EVOH(A)/オレフィン系ポリマー(B))が、通常、0.1~10、好ましくは0.3~4、より好ましくは0.5~3である。
【0042】
以上のようなオレフィン系ポリマー(B)成分は、低結晶性、あるいはゴム性といった特性に基づいて、高結晶性のEVOH(A)とブレンドすることにより、柔軟性が付与された樹脂組成物を得ることができ、ひいては、耐屈曲性に優れた組成物を提供できる。
【0043】
本発明の樹脂組成物において、オレフィン系ポリマー(B)に対するEVOH(A)の重量含有比率〔EVOH(A)/オレフィン系ポリマー(B)〕は、通常1/99~99/1であり、好ましくは50/50~99/1であり、より好ましくは51/49から99/1、さらに好ましくは60/40~90/10、特に好ましくは70/30~85/15である。EVOH(A)とオレフィン系ポリマー(B)との重合含有比率が上記の範囲内であると、より着色抑制効果に優れるものとなる。
【0044】
また、本発明の樹脂組成物におけるEVOH(A)とオレフィン系ポリマー(B)の含有量の総和は、通常70重量%以上であり、好ましくは80重量%以上であり、より好ましくは90重量%以上である。なお、EVOH(A)とオレフィン系ポリマー(B)の含有量の総和の上限は、樹脂組成物からソルビン酸エステル(C)を除いた全重量である。
【0045】
本発明で用いるオレフィン系ポリマー(B)は、その構造中に極性基を含有しない未変性オレフィン系ポリマー(B1)であってもよいし、その構造中にカルボニル基を含有するカルボン酸変性オレフィン系ポリマー(B2)であってもよい。また、未変性オレフィン系ポリマー(B1)とカルボン酸変性オレフィン系ポリマー(B2)とを併用してもよい。未変性オレフィン系ポリマー(B1)とカルボン酸変性オレフィン系ポリマー(B2)とを併用する場合は、その総和をオレフィン系ポリマー(B)とみなす。
【0046】
未変性オレフィン系ポリマー(B1)とは、前記のような構成を有し、かつ変性基を有さないオレフィン系ポリマーである。未変性オレフィン系ポリマー(B1)は、単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。なかでも、エチレン-ブテンランダム共重合体が好ましく用いられる。なお、未変性オレフィン系ポリマー(B1)の密度、MFRは、前記オレフィン系ポリマー(B)と同じである。
【0047】
このような未変性オレフィン系ポリマー(B1)としては、市販品を使用してもよい。
市販品としては、例えば、エチレン系ポリマー(三井化学社製のタフマーDF&H)、プロピレン系ポリマー(三井化学社製のタフマーH、タフマーXM)、ブテン系ポリマー(三井化学社製のタフマーBL)等があげられる。
【0048】
つぎに、カルボン酸変性オレフィン系ポリマー(B2)について詳述する。
上記カルボン酸変性オレフィン系ポリマー(B2)は、上記オレフィン系ポリマー、すなわち、ポリオレフィン、オレフィン系熱可塑性エラストマー、脂肪族系ゴム、オレフィン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体、アイオノマー等の通常、数平均分子量1万以上の高分子で、主鎖が炭素結合のみで構成される親油性ポリマーが、カルボン酸によって変性されているものである。
【0049】
カルボン酸変性オレフィン系ポリマー(B2)は、カルボキシ基を有しているため、極性基である水酸基を有するEVOH(A)との親和性を有し、さらに、カルボン酸変性オレフィン系ポリマー(B2)のオレフィン系ポリマー部分は、上記未変性オレフィン系ポリマー(B1)と親和性を有する。そのため、オレフィン系ポリマー(B)としてカルボン酸変性オレフィン系ポリマー(B2)を用いる場合はEVOH(A)との混合効率や反応効率が高まる傾向がある。また、上記未変性オレフィン系ポリマー(B1)と、カルボン酸変性オレフィン系ポリマー(B2)とを併用した場合、カルボン酸変性オレフィン系ポリマー(B2)は、EVOH(A)と、未変性オレフィン系ポリマー(B1)との相溶化剤としての役割を果たすことができる。
【0050】
ここで、上記カルボン酸変性は、オレフィン系ポリマーを構成するモノマーの一部を、α,β-不飽和カルボン酸またはその無水物モノマーに代えて共重合することにより、あるいはグラフト反応等により側鎖の一部にα,β-不飽和カルボン酸またはその無水物モノマーを導入することにより行われる。
【0051】
上記カルボン酸変性に用いられるα,β-不飽和カルボン酸またはその無水物としては、マレイン酸、アクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸等があげられる。なかでも無水マレイン酸が好適に用いられる。
【0052】
カルボン酸変性オレフィン系ポリマー(B2)における変性量(変性用のカルボン酸量)は、ベースとなるオレフィン系ポリマーの、通常0.01~10重量%、好ましくは0.01~5重量%、特に好ましくは0.1~2重量%、殊に好ましくは0.2~1重量%である。変性量が少なすぎると、得られる樹脂組成物の相溶性が低下して本発明の効果が得られにくくなり、逆に多すぎると、EVOH(A)中の水酸基との反応点が増し、溶融混練過程において高重合度化物が生成して、フィルム成形時の成形性、熱安定性等が低下する傾向にある。
【0053】
カルボン酸変性オレフィン系ポリマー(B2)の密度は、通常0.85~0.96g/cm3であり、好ましくは0.85~0.92g/cm3、より好ましくは0.85~0.90g/cm3である。
【0054】
また、かかるカルボン酸変性オレフィン系ポリマー(B2)のメルトフローレート(MFR)は、210℃、荷重2160g条件下で、通常0.01~150g/10分であり、好ましくは0.1~50g/10分であり、より好ましくは1~25g/10分であり、さらに好ましくは1.5~10g/10分である。
EVOH(A)の溶融粘度とカルボン酸変性オレフィン系ポリマー(B2)との溶融粘度が近いほど、溶融混練が容易になり、耐屈曲性、透明性に優れた樹脂組成物が得られやすい。具体的には、210℃、荷重2160g条件下で測定したMFR値の比(EVOH(A)/カルボン酸変性オレフィン系ポリマー(B2))が、通常0.1~10、好ましくは0.5~7.5である。
【0055】
このようなカルボン酸変性オレフィン系ポリマー(B2)としては、市販品を用いてもよい。カルボン酸変性オレフィン系ポリマー(B2)の市販品としては、例えば、「アドマー」、「タフマー」Mシリーズ(三井化学社製)、「バイネル」、「フサボンド」(デュポン社製)、「オレヴァック」(アルケマ社製)、「プレクサー」(LyondellBasell社製)、「モディックAP」(三菱化学社製)等があげられる。
また、本発明で用いられるカルボン酸変性オレフィン系ポリマー(B2)成分としては、本発明の効果を阻害しない範囲において、カルボン酸変性オレフィン系ポリマー(B2)成分に含有されるカルボン酸成分を部分的に他の化合物(例えば、ポリアミド6、ポリアミド6/12等のポリアミド樹脂)によって後変性した変性重合体であってもよい。
【0056】
オレフィン系ポリマー(B)として、未変性オレフィン系ポリマー(B1)とカルボン酸変性オレフィン系ポリマー(B2)とを併用する場合の重量含有比率〔カルボン酸変性オレフィン系ポリマー(B2)/未変性オレフィン系ポリマー(B1)〕は、カルボン酸変性オレフィン系ポリマー(B2)の変性率にもよるが、通常0.01~10であり、好ましくは0.01~1であり、より好ましくは0.02~0.8、特に好ましくは0.03~0.5である。
【0057】
[ソルビン酸エステル(C)]
本発明は、EVOH(A)およびオレフィン系ポリマー(B)を含有する樹脂組成物において、ソルビン酸エステル(C)を特定微量にて配合することにより、着色を抑制するという顕著な効果を奏するものである。
【0058】
前述のように、一般的にEVOH(A)とオレフィン系ポリマー(B)とを含有する樹脂組成物は、溶融混練や溶融成形時に着色しやすいものである。その理由としては、EVOH(A)とオレフィン系ポリマー(B)との溶融混合物は、樹脂組成物にせん断応力がかかるために混合時の熱が発生しやすく、EVOH(A)の脱水が起こり、樹脂組成物が着色するものと推測される。
【0059】
本発明において、ソルビン酸エステル(C)を特定微量配合することにより、樹脂組成物の着色が抑制される理由としては、ソルビン酸エステル(C)は極性が低く、微量でもEVOH(A)中に均一分散しやすい。さらにかかるソルビン酸エステル(C)が加水分解することで、ソルビン酸が発生するものと考えられる。そして、このソルビン酸が、ラジカルを捕捉するため、優れた着色抑制効果が得られるものと推測される。また、加水分解後のソルビン酸エステル(C)のアルコール部位が、ラジカル捕捉後のソルビン酸をさらに捕捉してソルビン酸エステル(C)を生成し、このソルビン酸エステル(C)が再度熱により加水分解するという、触媒サイクルのような状態が発生しているものと推測される。
このようにして、常にラジカルを捕捉可能なソルビン酸が生成することから、樹脂組成物において、ラジカルの発生した早い段階でラジカルを捕捉することが可能となり、優れた着色抑制効果が得られると推測される。本発明においては、ソルビン酸エステル(C)の配合量が特定微量である場合、上記のサイクルが効率よく働き、顕著な着色抑制効果が得られるものと推測される。
【0060】
上記ソルビン酸エステル(C)としては、例えば、ソルビン酸とアルコールやフェノール誘導体との縮合によって得られるソルビン酸エステルがあげられる。具体的にはソルビン酸メチル、ソルビン酸エチル、ソルビン酸プロピル、ソルビン酸ブチル、ソルビン酸ペンチル等のソルビン酸アルキルエステルや、ソルビン酸フェニル、ソルビン酸ナフチル等のソルビン酸アリールエステル等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。
【0061】
なかでも、ソルビン酸エステル(C)として、加水分解した場合に発生するアルコール類の酸性度が比較的低い場合、樹脂組成物の着色が起こりにくいことから、好ましくはソルビン酸アルキルエステルであり、より好ましくはアルコキシ基の炭素数が1~5のソルビン酸アルキルエステルであり、特に好ましくはアルコキシ基の炭素数が1~3のソルビン酸アルキルエステルであり、最も好ましくはソルビン酸メチル、ソルビン酸エチルであり、殊に好ましくはソルビン酸エチルである。
【0062】
ソルビン酸エステル(C)の分子量は、通常120~220であり、好ましくは120~200であり、特に好ましくは120~160である。分子量が上記範囲である場合、着色抑制効果が効果的に得られる傾向がある。
【0063】
上記ソルビン酸エステル(C)の含有量は、樹脂組成物の重量当たり、0.00001~10ppmである。好ましくは0.00005~5ppm、さらに好ましくは0.0001~3ppm、特に好ましくは0.0005~0.5ppm、殊に好ましくは0.001~0.1ppmである。ソルビン酸エステル(C)の含有量を上記範囲とすることにより、着色抑制効果が効果的に得られる。ソルビン酸エステル(C)の含有量が多すぎると、共役二重結合量が増えすぎて着色しやすくなる。
【0064】
上記ソルビン酸エステル(C)の含有量は、EVOH(A)とソルビン酸エステル(C)の総和重量当たり、通常0.0001~10ppmである。好ましくは0.0003~5ppm、さらに好ましくは0.0005~3ppm、特に好ましくは0.0008~1ppm、殊に好ましくは0.001~0.5ppmである。ソルビン酸エステル(C)の含有量を上記範囲とすることにより、着色抑制効果が効果的に得られる傾向がある。ソルビン酸エステル(C)の含有量が多すぎると、共役二重結合量が増えすぎて着色しやすくなる傾向がある。
【0065】
本発明の樹脂組成物中のソルビン酸エステル含有量は、樹脂組成物がペレット等の成形物である場合、つぎの方法により定量することができる。すなわち、まず上記ペレット等の成形物を任意の方法で粉砕(例えば凍結粉砕)し、炭素数1~5の低級アルコール系溶媒に溶解させて試料とする。そして、上記試料を液体クロマトグラフィー質量分析法(LC/MS/MS)を用いて測定することで、ソルビン酸エステル(C)の含有量を定量することができる。
【0066】
また、樹脂組成物が多層構造体等の他の熱可塑性樹脂等と組み合わされた成形物である場合、例えば、多層構造体であれば、測定する樹脂組成物からなる層を任意の方法で多層構造体より取り出した後、上記と同様の方法で定量することができる。
【0067】
[炭化水素系樹脂(D)]
本発明の樹脂組成物においては、分散助剤として炭化水素系樹脂(D)をさらに配合することが好ましい。本発明において、上記炭化水素系樹脂(D)は、数平均分子量が通常100から3000で、かつ軟化点が通常60℃以上170℃未満の樹脂である。このような炭化水素系樹脂(D)は、通常、常温で液体または固体の熱可塑性樹脂に属する。
【0068】
上記炭化水素系樹脂(D)としては、具体的には、ロジン系樹脂(ロジン、水素添加ロジン、不均化ロジン、重合ロジン等の変性ロジン、変性ロジンのグリセリンエステルやペンタエリスリトールエステル等のロジンエステル等)やテルペン系樹脂(テルペン樹脂、芳香族変性テルペン樹脂、水添テルペン樹脂、テルペンフェノール樹脂)等の天然炭化水素樹脂;石油樹脂、クマロンインデン樹脂、フェノール系樹脂(アルキルフェノール樹脂、ロジン変性フェノール樹脂等)、スチレン系樹脂、キシレン系樹脂等の合成炭化水素樹脂等があげられる。
【0069】
上記石油樹脂とは、石油ナフサ等の熱分解により副生する不飽和炭化水素モノマーを含有する留分を重合したものを意味し、具体的には、脂肪族系石油樹脂(C5系石油樹脂)、芳香族系石油樹脂(C9系石油樹脂)、脂肪族/芳香族系石油樹脂(C5/C9系石油樹脂)、脂環族系石油樹脂に分類される。
【0070】
上記脂肪族系石油樹脂(C5系石油樹脂)とは、石油ナフサ分解油のC5留分の精製成分を重合して得られた合成樹脂であり、具体例としては、クイントン100シリーズ(日本ゼオン社製)、エスコレッツ1000シリーズ(エクソンモービル社製)等があげられる。
【0071】
上記芳香族系石油樹脂(C9系石油樹脂)とは、石油ナフサ分解油のC9留分の精製成分を重合して得られた合成樹脂であり、具体例としては、ペトコール(東ソー社製)、日石ネオポリマー(新日本石油社製)等があげられる。
【0072】
上記脂肪族/芳香族系石油樹脂(C5/C9系石油樹脂)とは、上記C5留分とC9留分をブレンドした原料を共重合して得られた合成樹脂であり、具体例としては、ペトロタック(東ソー社製)、トーホーハイレジン(東邦化学工業社製)、クイントン100シリーズ(日本ゼオン社製)、エスコレッツ2000シリーズ(エクソンモービル社製)等があげられる。
【0073】
上記脂環族系石油樹脂には、上記の芳香族系石油樹脂、または脂肪族/芳香族系石油樹脂を水素添加して得られた水添系石油樹脂およびC5留分から抽出されたジシクロペンタジエンを主原料に合成して得られた合成樹脂がある。
なかでも上記の芳香族系石油樹脂、または脂肪族/芳香族系石油樹脂を水素添加して得られた水添系石油樹脂が代表的であり、具体例としては、アルコン(荒川化学工業社製)、アイマーブ(出光興産社製)、エスコレッツ5000シリーズ(エクソンモービル社製)等があげられる。
かかる水添系石油樹脂の場合には、水添率によって樹脂の極性が異なり、主に水添率90%以上の完全水添型と水添率90%未満の部分水添型の2種類に分類される。前者の具体例としては、アルコンPグレード(荒川化学工業社製)、アイマーブPタイプ(出光興産社製)等があげられ、後者の具体例としては、アルコンMグレード(荒川化学工業社製)、アイマーブSタイプ(出光興産社製)等があげられる。
【0074】
また、水素添加以外の方法で得られる脂環族系石油樹脂としてはC5留分から抽出されたジシクロペンタジエンを主原料に合成して得られる合成樹脂、具体例としては、クイントン1000シリーズ(日本ゼオン社製)、マルカレッツMシリーズ(丸善石油化学製)等があげられる。
【0075】
本発明においては、樹脂組成物の透明性や色調等の外観や無臭性を向上させる点で、石油樹脂を用いることが好ましく、さらには脂環族系石油樹脂を用いることが好ましく、特には水添系石油樹脂を用いることが好ましい。
また、水添系石油樹脂の水添率については、特に限定されないが、未変性オレフィン系ポリマー(B1)を用いた場合の親和性を考慮すると、完全水添型の水添系石油樹脂を用いることが好ましい。
【0076】
炭化水素系樹脂(D)の数平均分子量としては、通常100~3000、好ましくは300以上1500未満、特に好ましくは400以上1000未満である。数平均分子量が小さすぎる場合、溶融混合の際に原料投入部で液体になりやすく、特に粘度が低い液体になると、混合不良を起こしやすくなり、分散不良によってフィルム透明性が低下するおそれや、炭化水素系樹脂(D)が成形品から溶出しやすくなる傾向がある。また、数平均分子量が大きすぎる場合、溶融混練時に流体としてオレフィン系ポリマー(B)の凝集体内に浸入しにくくなる傾向があり、親油性という炭化水素系樹脂(D)の特性から、EVOH(A)と分離しやすくなり、ひいては成形品において、目ヤニやスジ等外観不良の原因となる傾向がある。
【0077】
上記数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定で得られるポリスチレン換算値により算出することができる。
【0078】
炭化水素系樹脂(D)の軟化点は、通常60℃以上170℃未満、好ましくは95℃以上160℃未満、特に好ましくは120℃以上150℃未満である。軟化点が低すぎる場合、溶融混合の際に原料投入部で粘度の低い液状になりやすく、炭化水素系樹脂(D)の分散助剤としての効果が充分に発揮されない傾向がある。ひいては、オレフィン系ポリマー(B)の分散不良によって、耐屈曲性、透明性の改善効果が充分に得られにくい傾向がある。また、炭化水素系樹脂(D)が成形品から溶出しやすくなる傾向がある。軟化点が高すぎる場合は、溶融混合の際に炭化水素系樹脂(D)成分の未溶融部分が残存して、分散助剤としての機能が低下し、充分な耐屈曲性や透明性が得られない傾向があり、さらには残存した未溶融部分によってフィルム成形物にフィッシュアイ等の異物が発生する傾向がある。
【0079】
なお、軟化点の測定方法としては、JIS K 2207(環球法)に準拠した方法を用いることができる。
【0080】
炭化水素系樹脂(D)の色相としては、JIS K 0071-2(ガードナーナンバー)に準拠した方法で測定するガードナーナンバーが通常3以下、好ましくは2以下、特に好ましくは1以下である。ガードナーナンバーが3を超えると、樹脂組成物の黄色度が強くなり外観特性が低下する傾向がある。
【0081】
また、炭化水素系樹脂(D)が水添系石油樹脂の場合には、JIS K 0071-1(ハーゼンナンバー)に準拠した方法で測定するハーゼンナンバーが通常200以下、好ましくは150以下、特に好ましくは100以下である。ハーゼンナンバーが200以下のものを用いると、外観特性に優れた無色透明な樹脂組成物を得ることができる。
【0082】
炭化水素系樹脂(D)の常温での形態としては、例えば粉末状、塊状、フレーク状、ペレット状(粒状)、液状等があげられるが、特に限定しない。混合時の作業性や計量性の観点からは、フレーク状、ペレット状が好ましく、特にペレット状が好ましい。
【0083】
以上のような炭化水素系樹脂(D)は、オレフィン系ポリマー(B)がEVOH(A)中に微分散化できるように作用するという効果だけでなく、溶融成形時には液体化しているので、溶融時における組成物の粘度を減少(MFR値を増加)させることも可能となる。このことは、以下のような効果をもたらすと考えられる。すなわち、オレフィン系ポリマー(B)として、カルボン酸変性オレフィン系ポリマー(B2)を用いた場合に、カルボン酸変性オレフィン系ポリマー(B2)に含まれるカルボキシ基は、EVOH(A)中の水酸基とは反応可能であるため、溶融混練過程において、両官能基が反応し、高重合度化物が生成される場合がある。この高重合度化物の生成によって溶融粘度が増加して、押出機内でのせん断発熱が生じやすくなり、高重合度化物がさらに増加して、フィルム成形物においてスジやフィッシュアイ等の外観不良等を招くおそれがある。しかしながら、炭化水素系樹脂(D)の配合により溶融時の樹脂組成物の粘度を減少させることが可能になると、せん断発熱の抑制、高重合度化物の生成が抑制され、ひいては品質改善の観点でも有効に寄与できると考えられる。
【0084】
樹脂組成物における炭化水素系樹脂(D)の重量配合比率は、EVOH(A)、オレフィン系ポリマー(B)、ソルビン酸エステル(C)および炭化水素系樹脂(D)の総重量に対して、通常0.5~7.5重量%であり、好ましくは1~6重量%である。炭化水素系樹脂(D)の配合量が少なすぎる場合、炭化水素系樹脂(D)の分散助剤としての配合効果が得られにくくなる傾向がある。一方、多すぎる場合、過剰な炭化水素系樹脂(D)が排斥されることで、フィルムスジ、目ヤニ等の外観不良が発生する傾向がある。
【0085】
[他の熱可塑性樹脂]
本発明の樹脂組成物には、EVOH(A)、オレフィン系ポリマー(B)および炭化水素系樹脂(D)以外に、さらに樹脂成分として、他の熱可塑性樹脂を、樹脂組成物に対して、通常10重量%以下、好ましくは5重量%以下、特に好ましくは3重量%以下となるような範囲内で含有してもよい。
【0086】
上記他の熱可塑性樹脂としては、具体的には例えば、ポリエステル系樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン等の塩化ビニル系樹脂、ポリアミド系樹脂、アクリル系樹脂、ビニルエステル系樹脂、ポリスチレン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリウレタン系エラストマー、塩素化ポリエチレン、塩素化ポリプロピレン等の熱可塑性樹脂があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。
【0087】
[その他の添加剤]
本発明の樹脂組成物には、上記各成分の他、必要に応じて、本発明の効果を損なわない範囲内(例えば、通常樹脂組成物全体の10重量%以下、好ましくは5重量%以下、特に好ましくは3重量%以下の含有割合)において、エチレングリコール、グリセリン、ヘキサンジオール等の脂肪族多価アルコール等の可塑剤;高級脂肪酸(例えばラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘニン酸、オレイン酸等)、高級脂肪酸の金属塩(例えばステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム等)、高級脂肪酸エステル(高級脂肪酸のメチルエステル、イソプロピルエステル、ブチルエステル、オクチルエステル等)、高級脂肪族アミド(例えばステアリン酸アミド等、オレイン酸アミド等)、ビス高級脂肪酸アミド(例えばエチレンビスステアリン酸アミド等)、低分子量ポリオレフィン(例えば、数平均分子量10000未満の低分子量ポリエチレン、または低分子量ポリプロピレン)等の滑剤;乾燥剤;酸素吸収剤;熱安定剤;光安定剤;難燃剤;架橋剤;硬化剤;発泡剤;結晶核剤;防曇剤;生分解用添加剤;シランカップリング剤;アンチブロッキング剤;酸化防止剤;着色剤;帯電防止剤;紫外線吸収剤;抗菌剤;不溶性無機複塩(例えば、ハイドロタルサイト等);界面活性剤;ワックス等の公知の添加剤を適宜配合することができる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。
【0088】
上記熱安定剤としては、溶融成形時の熱安定性等の各種物性を向上させる目的で、酢酸、プロピオン酸、酪酸等の有機酸類またはこれらのアルカリ金属塩(ナトリウム塩、カリウム塩等)、アルカリ土類金属塩(カルシウム塩、マグネシウム塩等)、亜鉛塩等の塩;または、硫酸、亜硫酸、炭酸、リン酸、ホウ酸等の無機酸類、またはこれらのアルカリ金属塩(ナトリウム塩、カリウム塩等)、アルカリ土類金属塩(カルシウム塩、マグネシウム塩等)、亜鉛塩等を用いることができる。
これらのうち、特に、酢酸、ホウ酸およびその塩を含むホウ素化合物、酢酸塩、リン酸塩を配合することが好ましい。
【0089】
上記熱安定剤として、酢酸を配合する場合、その配合量は、EVOH(A)100重量部に対して通常0.001~1重量部、好ましくは0.005~0.2重量部、特に好ましくは0.01~0.1重量部である。酢酸の配合量が少なすぎると、酢酸の含有効果が低下する傾向があり、逆に多すぎると均一なフィルムを得ることが難しくなる傾向がある。
【0090】
また、上記熱安定剤として、ホウ素化合物を配合する場合、その配合量は、EVOH(A)100重量部に対してホウ素換算(灰化後、ICP発光分析法にて分析)で通常0.001~1重量部である。ホウ素化合物の配合量が少なすぎると、ホウ素化合物の含有効果が低下する傾向があり、逆に多すぎると均一なフィルムを得ることが困難となる傾向がある。
【0091】
また、上記熱安定剤として、酢酸塩、リン酸塩(リン酸水素塩を含む)を配合する場合、その配合量は、各々EVOH(A)100重量部に対して金属換算(灰化後、ICP発光分析法にて分析)で通常0.0005~0.1重量部である。上記配合量が少なすぎるとその含有効果が低下する傾向があり、逆に多すぎると均一なフィルムを得るのが困難となる傾向がある。なお、樹脂組成物に2種以上の塩を配合する場合は、その総量が上記の配合量の範囲にあることが好ましい。
【0092】
[樹脂組成物の製造方法]
本発明の樹脂組成物は、前記必須成分であるEVOH(A)、オレフィン系ポリマー(B)およびソルビン酸エステル(C)と、必要に応じて、炭化水素系樹脂(D)および、上記の各任意成分を用いて製造されるが、製造方法としては、例えば、ドライブレンド法、溶融混合法、溶液混合法、含浸法等の公知の方法があげられ、これらを任意に組み合わせることも可能である。
【0093】
上記ドライブレンド法としては、例えば、(I)EVOH(A)およびオレフィン系ポリマー(B)の少なくとも一方を含有するペレットとソルビン酸エステル(C)とをタンブラー等を用いてドライブレンドする方法等があげられる。
【0094】
上記溶融混合法としては、例えば、(II)EVOH(A)およびオレフィン系ポリマー(B)の少なくとも一方を含有するペレットとソルビン酸エステル(C)のドライブレンド物を溶融混練して、ペレットや他の成形物を得る方法や、(III)溶融状態のEVOH(A)およびオレフィン系ポリマー(B)の少なくとも一方の溶融物にソルビン酸エステル(C)を添加して溶融混練し、ペレットや他の成形物を得る方法等があげられる。
【0095】
上記溶液混合法としては、例えば、(IV)市販のEVOH(A)およびオレフィン系ポリマー(B)の少なくとも一方を含有するペレットを用いて溶液を調製し、ここにソルビン酸エステル(C)を配合し、凝固成形してペレット化し、固液分離して乾燥する方法や、(V)EVOH(A)の製造過程で、ケン化後のEVOHの均一溶液(水/アルコール溶液等)にオレフィン系ポリマー(B)の溶液およびソルビン酸エステル(C)の少なくとも一方を含有させた後、凝固成形してペレット化し、固液分離して乾燥する方法等があげられる。
【0096】
上記含浸法としては、例えば、(VI)EVOH(A)およびオレフィン系ポリマー(B)の少なくとも一方を含有するペレットを、ソルビン酸エステル(C)を含有する水溶液と接触させ、上記ぺレット中にソルビン酸エステル(C)を含浸させた後、乾燥する方法等をあげることができる。
【0097】
また、上記の各方法においては、あらかじめEVOH(A)およびオレフィン系ポリマー(B)の少なくとも一方とソルビン酸エステル(C)を所定割合で配合し、ソルビン酸エステル(C)の濃度の高い組成物(マスターバッチ)を作製し、かかる組成物(マスターバッチ)をEVOH(A)もしくはオレフィン系ポリマー(B)と配合することにより、所望の濃度の樹脂組成物を得ることも可能である。
【0098】
さらに本発明においては、上記の異なる手法を組み合わせることが可能である。なかでも、生産性や本発明の効果がより顕著な樹脂組成物が得られる点で、溶融混合法が好ましく、特には(II)の方法が好ましい。
【0099】
また、上記炭化水素系樹脂(D)および各任意成分を樹脂組成物に配合する場合も、上記の各製造方法に準じた方法により、樹脂組成物に配合することができる。
【0100】
なお、上記各方法によって得られる樹脂組成物のペレットや、上記各方法で用いられるEVOH(A)およびオレフィン系ポリマー(B)の少なくとも一方を含有するペレットの形状は任意であり、例えば、球形、オーバル形、円柱形、立方体形、直方体形等任意の形状が採用可能である。ペレットの形状は、通常、オーバル形または円柱形であり、その大きさは、後に成形材料として用いる場合の利便性の観点から、円柱形の場合は底面の直径が通常1~6mm、好ましくは2~5mmであり、長さは通常1~6mm、好ましくは2~5mmである。オーバル形の場合は長径が通常1.5~30mm、好ましく3~20mm、さらに好ましくは3.5~10mmである。短径は通常1~10mm、好ましくは2~6mmであり、特に好ましくは2.5~5.5mmである。かかる長径及び短径を測定する方法は、例えばペレットを手に取り観察し、ノギス等の計測器を用いて長径を測定した後に、かかる長径に垂直な断面のうち最大面積となる断面位置を目視および触覚で認定し、かかる断面を想定した場合の短径を同様に測定する方法があげられる。
【0101】
また、本発明の樹脂組成物の含水率は、通常、0.01~0.5重量%であり、好ましくは0.05~0.35重量%、特に好ましくは0.1~0.3重量%である。
【0102】
なお、本発明における樹脂組成物の含水率は以下の方法により測定・算出されるものである。
室温(25℃)下において、樹脂組成物の乾燥前重量(W1)を電子天秤にて秤量する。その後、この試料を150℃の熱風乾燥機中で5時間乾燥させる。乾燥後、デシケーター中で30分間放冷して樹脂組成物の温度を室温(25℃)に戻した後の重量(W2)を秤量し、下記式より算出する。
含水率(重量%)=[(W1-W2)/W1]×100
【0103】
本発明の樹脂組成物は、ペレット、あるいは粉末状や液体状といった、さまざまな形態に調製され、各種の成形物の成形材料として提供される。特に本発明においては、溶融成形用材料として提供される場合、本発明の効果がより効率的に得られる傾向があり好ましい。なお、本発明の樹脂組成物には、本発明の樹脂組成物に用いられるEVOH(A)およびオレフィン系ポリマー(B)以外の樹脂を混合して得られる樹脂組成物も含まれる。
【0104】
本発明の樹脂組成物のペレットは、そのまま溶融成形に供することが可能であるが、溶融成形時のフィード性を安定させる点で、ペレットの表面に公知の滑剤を付着させることも好ましい。上記滑剤としては、前述の滑剤を用いればよい。かかる滑剤の含有量は、通常、EVOH樹脂組成物の5重量%以下、好ましくは1重量%以下である。
【0105】
そして、かかる成形物としては、本発明の樹脂組成物を用いて成形された単層フィルムをはじめとして、本発明の樹脂組成物を用いて成形された層を有する多層構造体として実用に供することができる。
【0106】
[多層構造体]
本発明の多層構造体は、上記本発明の樹脂組成物からなる層を備えるものである。本発明の樹脂組成物からなる層(以下、「樹脂組成物層」と称する。)は、本発明の樹脂組成物以外の熱可塑性樹脂を主成分とする他の基材(以下、「基材樹脂」と称する。)と積層することで、さらに強度を付与したり、樹脂組成物層を水分等の影響から保護したり、他の機能を付与することができる。
【0107】
上記基材樹脂としては、例えば、直鎖状低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、エチレン-プロピレン(ブロックおよびランダム)共重合体、エチレン-α-オレフィン(炭素数4~20のα-オレフィン)共重合体等のポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン、プロピレン-α-オレフィン(炭素数4~20のα-オレフィン)共重合体等のポリプロピレン系樹脂、ポリブテン、ポリペンテン、ポリ環状オレフィン系樹脂(環状オレフィン構造を主鎖および側鎖の少なくとも一方に有する重合体)等の(未変性)ポリオレフィン系樹脂や、これらのポリオレフィン類を不飽和カルボン酸またはそのエステルでグラフト変性した不飽和カルボン酸変性ポリオレフィン系樹脂等の変性オレフィン系樹脂を含む広義のポリオレフィン系樹脂、アイオノマー、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-アクリル酸エステル共重合体、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂(共重合ポリアミドも含む)、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、アクリル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ビニルエステル系樹脂、ポリエステル系エラストマー、ポリウレタン系エラストマー、ポリスチレン系エラストマー、塩素化ポリエチレン、塩素化ポリプロピレン等のハロゲン化ポリオレフィン、芳香族または脂肪族ポリケトン類等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。
【0108】
これらのうち、疎水性樹脂である、ポリアミド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリスチレン系樹脂が好ましく、より好ましくは、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリ環状オレフィン系樹脂およびこれらの不飽和カルボン酸変性ポリオレフィン系樹脂等のポリオレフィン系樹脂であり、特にポリ環状オレフィン系樹脂が疎水性樹脂として好ましく用いられる。
【0109】
多層構造体の層構成は、本発明の樹脂組成物層をa(a1、a2、・・・)、基材樹脂層をb(b1、b2、・・・)とするとき、a/b、b/a/b、a/b/a、a1/a2/b、a/b1/b2、b2/b1/a/b1/b2、b2/b1/a/b1/a/b1/b2等任意の組み合わせが可能である。また、該多層構造体を製造する過程で発生する端部や不良品等を再溶融成形して得られる、本発明の樹脂組成物と基材樹脂との混合物を含むリサイクル層をRとするとき、b/R/a、b/R/a/b、b/R/a/R/b、b/a/R/a/b、b/R/a/R/a/R/b等とすることも可能である。多層構造体の層の数はのべ数にて通常2~15、好ましくは3~10である。上記の層構成において、それぞれの層間には、必要に応じて接着性樹脂を含有する接着性樹脂層を介してもよい。
【0110】
上記接着性樹脂としては、公知のものを使用でき、基材樹脂層「b」に用いる熱可塑性樹脂の種類に応じて適宜選択すればよい。代表的には不飽和カルボン酸またはその無水物をポリオレフィン系樹脂に付加反応やグラフト反応等により化学的に結合させて得られるカルボキシ基を含有する変性ポリオレフィン系重合体をあげることができる。例えば、無水マレイン酸グラフト変性ポリエチレン、無水マレイン酸グラフト変性ポリプロピレン、無水マレイン酸グラフト変性エチレン-プロピレン(ブロックおよびランダム)共重合体、無水マレイン酸グラフト変性エチレン-エチルアクリレート共重合体、無水マレイン酸グラフト変性エチレン-酢酸ビニル共重合体、無水マレイン酸変性ポリ環状オレフィン系樹脂、無水マレイン酸グラフト変性ポリオレフィン系樹脂等があげられる。そして、これらから選ばれた1種または2種以上の混合物を用いることができる。
【0111】
多層構造体において、本発明の樹脂組成物層と基材樹脂層との間に、接着性樹脂層を用いる場合、接着性樹脂層が樹脂組成物層と接して位置することから、疎水性に優れた接着性樹脂を用いることが好ましい。
【0112】
上記基材樹脂、接着性樹脂には、本発明の趣旨を阻害しない範囲(例えば、基材樹脂、接着性樹脂に対して通常30重量%以下、好ましくは10重量%以下)において、従来知られているような可塑剤、フィラー、クレー(モンモリロナイト等)、着色剤、酸化防止剤、帯電防止剤、滑剤、核剤、ブロッキング防止剤、ワックス等を含んでいてもよい。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。
【0113】
本発明の樹脂組成物と上記基材樹脂との積層(接着性樹脂層を介在させる場合を含む)は、公知の方法にて行うことができる。例えば、本発明の樹脂組成物のフィルム、シート等に基材樹脂を溶融押出ラミネートする方法、基材樹脂層に本発明の樹脂組成物を溶融押出ラミネートする方法、樹脂組成物と基材樹脂とを共押出する方法、樹脂組成物層と基材樹脂層とを有機チタン化合物、イソシアネート化合物、ポリエステル系化合物、ポリウレタン化合物等の公知の接着剤を用いてドライラミネートする方法、基材樹脂上に樹脂組成物の溶液を塗工してから溶媒を除去する方法等があげられる。これらのなかでも、コストや環境の観点から考慮して、共押出しする方法が好ましい。
【0114】
上記の多層構造体は、必要に応じて(加熱)延伸処理が施される。延伸処理は、一軸延伸、二軸延伸のいずれであってもよく、二軸延伸の場合は同時延伸であっても逐次延伸であってもよい。また、延伸方法としてはロール延伸法、テンター延伸法、チューブラー延伸法、延伸ブロー法、真空圧空成形等のうち延伸倍率の高いものも採用できる。延伸温度は、多層構造体の融点近傍の温度で、通常40~170℃、好ましくは60~160℃程度の範囲から選ばれる。延伸温度が低すぎる場合は延伸性が不良となる傾向があり、高すぎる場合は安定した延伸状態を維持することが困難となる傾向がある。
【0115】
なお、延伸後に寸法安定性を付与することを目的として、熱固定を行ってもよい。熱固定は周知の手段で実施可能であり、例えば上記延伸フィルムを緊張状態を保ちながら通常80~180℃、好ましくは100~165℃で通常2~600秒間程度熱処理を行う。また、本発明の樹脂組成物から得られた多層延伸フィルムをシュリンク用フィルムとして用いる場合には、熱収縮性を付与するために、上記の熱固定を行わず、例えば延伸後のフィルムに冷風を当てて冷却固定する等の処理を行えばよい。
【0116】
また、本発明の多層構造体を用いてカップやトレイ状の多層容器を得ることも可能である。その場合は、通常絞り成形法が採用され、具体的には真空成形法、圧空成形法、真空圧空成形法、プラグアシスト式真空圧空成形法等があげられる。さらに多層パリソン(ブロー前の中空管状の予備成形物)からチューブやボトル状の多層容器(積層体構造)を得る場合はブロー成形法が採用される。具体的には、押出ブロー成形法(双頭式、金型移動式、パリソンシフト式、ロータリー式、アキュムレーター式、水平パリソン式等)、コールドパリソン式ブロー成形法、射出ブロー成形法、二軸延伸ブロー成形法(押出式コールドパリソン二軸延伸ブロー成形法、射出式コールドパリソン二軸延伸ブロー成形法、射出成形インライン式二軸延伸ブロー成形法等)等があげられる。得られる積層体は必要に応じ、熱処理、冷却処理、圧延処理、印刷処理、ドライラミネート処理、溶液または溶融コート処理、製袋加工、深絞り加工、箱加工、チューブ加工、スプリット加工等を行うことができる。
【0117】
多層構造体(延伸したものを含む)の厚み、さらには多層構造体を構成する樹脂組成物層、基材樹脂層および接着性樹脂層の厚みは、層構成、基材樹脂の種類、接着性樹脂の種類、用途や包装形態、要求される物性等により一概にいえないが、多層構造体(延伸したものを含む)の厚みは、通常10~5000μm、好ましくは30~3000μm、特に好ましくは50~2000μmである。樹脂組成物層は通常1~500μm、好ましくは3~300μm、特に好ましくは5~200μmであり、基材樹脂層は通常5~3000μm、好ましくは10~2000μm、特に好ましくは20~1000μmであり、接着性樹脂層は、通常0.5~250μm、好ましくは1~150μm、特に好ましくは3~100μmである。
【0118】
さらに、多層構造体における樹脂組成物層と基材樹脂層との厚みの比(樹脂組成物層/基材樹脂層)は、各層が複数ある場合は最も厚みの厚い層同士の比にて、通常1/99~50/50、好ましくは5/95~45/55、特に好ましくは10/90~40/60である。また、多層構造体における樹脂組成物層と接着性樹脂層の厚み比(樹脂組成物層/接着性樹脂層)は、各層が複数ある場合は最も厚みの厚い層同士の比にて、通常10/90~99/1、好ましくは20/80~95/5、特に好ましくは50/50~90/10である。
【0119】
このようにして得られたフィルム、シート、延伸フィルムからなる袋およびカップ、トレイ、チューブ、ボトル等からなる容器や蓋材は、一般的な食品、マヨネーズ、ドレッシング等の調味料、味噌等の発酵食品、サラダ油等の油脂食品、飲料、化粧品、医薬品等の各種の包装材料容器として有用である。特に、本発明の樹脂組成物からなる層は、柔軟性を有し着色が抑制されていることから、本発明の樹脂組成物および本発明の樹脂組成物からなる層を備える多層構造体は、水、食品、薬品、農薬等の液体包装用材料(例えばバッグインボックス用バッグやパウチインディスペンサー用インナーバッグ等)として特に有用である。
【実施例
【0120】
以下、実施例をあげて本発明を具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、実施例の記載に限定されるものではない。
なお、例中「部」、「%」とあるのは、断りのない限り重量基準を意味する。
【0121】
実施例に先立って以下のEVOH(A)およびオレフィン系ポリマー(B)のペレットを準備した。
・EVOH(A):エチレン構造単位の含有量29モル%、ケン化度100モル%、MFR3.2g/10分(210℃、荷重2160g)のエチレン-ビニルアルコール共重合体
・未変性オレフィン系ポリマー(B1-1):エチレン-ブテンランダム共重合体(三井化学社製「タフマーA-4085S」;密度0.89g/cm3、23℃、50%RHにおける曲げ弾性率30MPa、MFR(210℃、2160g荷重)5.2g/10分
・カルボン酸変性オレフィン系ポリマー(B2-1):無水マレイン酸変性ポリプロピレン(LyondellBasell社製)「Plexar PX6002」;密度0.89g/cm3、MFR(210℃、2160g荷重)2.3g/10分
【0122】
<実施例1>
上記EVOH(A)のペレット80部、上記未変性オレフィン系ポリマー(B1-1)のペレット20部をドライブレンドした。その後ドライブレンドしたペレット100部、ソルビン酸エステル(C)としてソルビン酸メチル(富士フイルム和光純薬社製、分子量126)0.0000004部(樹脂組成物の重量当たり0.004ppm)をプラストグラフ(ブラベンダー社製)にて、230℃で5分間予熱したのち、230℃、50rpmにおいて5分間溶融混練し、その後冷却固化させ、塊状の樹脂組成物を得た。
得られた樹脂組成物を、粉砕機(ソメタニ産業社製、型式:SKR16-240)を用い、回転刃の回転数650rpmにて粉砕して粉砕物を得た。かかる粉砕物は、1mm角から5mm角の小片であった。かかる樹脂組成物の含水率は、0.15%であった。
【0123】
<実施例2>
実施例1において、ソルビン酸メチルの配合量を0.00008部(樹脂組成物の重量当たり0.8ppm)に変更した以外は、実施例1と同様にして実施例2の樹脂組成物およびその粉砕物を得た。かかる樹脂組成物の含水率は、0.18%であった。
【0124】
<実施例3>
実施例1において、ソルビン酸メチルをソルビン酸エチル(富士フイルム和光純薬社製、分子量140)に変更した以外は、実施例1と同様にして実施例3の樹脂組成物およびその粉砕物を得た。かかる樹脂組成物の含水率は、0.17%であった。
【0125】
<実施例4>
実施例1において、未変性オレフィン系ポリマー(B1-1)をカルボン酸変性オレフィン系ポリマー(B2-1)に変更した以外は、実施例1と同様にして実施例4の樹脂組成物およびその粉砕物を得た。かかる樹脂組成物の含水率は、0.16%であった。
【0126】
<比較例1>
実施例1において、ソルビン酸メチルを配合しなかった以外は実施例1と同様にして比較例1の樹脂組成物およびその粉砕物を得た。かかる樹脂組成物の含水率は、0.18%であった。
【0127】
<比較例2>
実施例1において、ソルビン酸メチルの配合量を0.0012部(樹脂組成物の重量当たり12ppm)に変更した以外は、実施例1と同様にして比較例2の樹脂組成物およびその粉砕物を得た。かかる樹脂組成物の含水率は、0.14%であった。
【0128】
下記に示す方法により実施例1~4、比較例1、2の評価を行った。結果を下記表1に示す。
【0129】
[熱安定性評価]
樹脂組成物を5mg用い、熱重量測定装置(Pyris 1 TGA,Perkin Elmer社製)により、窒素雰囲気下、気流速度:20mL/分、温度:230℃、時間:1時間の条件下での重量減少率を測定した。かかる値が低い場合、樹脂組成物が分解していないことを意味しており、樹脂組成物の熱安定性に優れることを意味する。
【0130】
[着色評価]
上記の各粉砕物をサンプルとし、ビジュアルアナライザー IRIS VA400(Alpha mos社製)にて、色番号「4076」(R:248、G:232、B:200)、「4077」(R:248、G:232、B:216)「4078」(R:248、G:232、B:232)の総和に対する色番号「4093」(R:248、G:248、B:216)、「4094」(R:248、G:248、B:232)、「4095」(R:248、G:248、B:248)が占める割合(「4076+4077+4078」/「4093+4094+4095」)、を評価した。色番号「4076」「4077」「4078」は、濃い黄色味を有する色であり、色番号「4093」「4094」「4095」は、薄い黄色味を有する色であり、濃い黄色味の割合が大きいほど、サンプルが黄色く着色していることを意味する。
【0131】
【表1】
【0132】
上記の表1に示すように、EVOH(A)とオレフィン系ポリマー(B)を用いた比較例1に比べて、ソルビン酸エステル(C)を本願が規定する以上の多量に配合した比較例2では、熱安定性効果は同等であるにも関わらず着色が抑制される傾向がある。
一方で実施例1~4では、比較例2よりもソルビン酸エステル(C)の配合量が少ないにもかかわらず、熱安定性を損なわずに、比較例2よりも高い着色抑制効果が得られた。したがって、本発明の樹脂組成物が顕著な着色抑制効果が得られることがわかる。なお、本発明の着色評価は230℃で5分間予熱したのち、5分間溶融混練した樹脂組成物を評価している。ここで、工業的な溶融成形においては、押出機やダイス等の中で数時間~数日間にわたり滞留した結果、加熱を受け続ける樹脂組成物が存在することがあり、本発明の着色評価における差が増幅されることになる。そのため、本発明の着色評価における0.1の差は、工業的に有意な差といえる。
【0133】
上記で得られた各実施例の樹脂組成物を用いて製造する多層構造体および、この多層構造体からなる液体包装用材料は、いずれも着色が抑制されるものである。
【0134】
上記実施例においては、本発明における具体的な形態について示したが、上記実施例は単なる例示にすぎず、限定的に解釈されるものではない。当業者に明らかな様々な変形は、本発明の範囲内であることが企図されている。
【産業上の利用可能性】
【0135】
本発明の樹脂組成物は、柔軟性を有し着色が抑制されていることから、本発明の樹脂組成物および本発明の樹脂組成物からなる層を備える多層構造体は、各種食品、マヨネーズ、ドレッシング等の調味料、味噌等の発酵食品、サラダ油等の油脂食品、水、飲料、化粧品、医薬品等の各種の包装材料、特には液体包装用材料(例えばバッグインボックス用バッグやパウチインディスペンサー用インナーバッグ等)として特に有用である。