(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-11
(45)【発行日】2022-10-19
(54)【発明の名称】活性エネルギー線硬化性組成物
(51)【国際特許分類】
C08F 299/08 20060101AFI20221012BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20221012BHJP
C09D 105/16 20060101ALI20221012BHJP
C09D 183/07 20060101ALI20221012BHJP
C09D 171/02 20060101ALI20221012BHJP
C08F 299/00 20060101ALI20221012BHJP
【FI】
C08F299/08
B32B27/00 101
C09D105/16
C09D183/07
C09D171/02
C08F299/00
(21)【出願番号】P 2019077958
(22)【出願日】2019-04-16
【審査請求日】2021-04-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】特許業務法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤本 卓也
【審査官】飛彈 浩一
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-038872(JP,A)
【文献】特開2013-234301(JP,A)
【文献】国際公開第2015/068798(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0222285(US,A1)
【文献】国際公開第2017/039019(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0251657(US,A1)
【文献】特表2015-534510(JP,A)
【文献】特開2014-224270(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 33/14
C08L 5/16
C08L 71/02
C08K 5/103
B32B 1/00-43/00
C09D 183/07
C09D 105/16
C09D 201/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)下記式(I)
【化1】
(式中、R
1およびR
2は、それぞれ独立して、炭素原子数1~10の2価の炭化水素基を表し、R
3は、水素原子またはメチル基を表し、R
4は、それぞれ独立して、水素原子または炭化水素基の水素原子の一部もしくは全部がハロゲン原子で置換されていてもよい炭素原子数1~8のアルキル基、フェニル基、(メタ)アクリロイルオキシプロピル基もしくはグリシドキシプロピル基を表し、R
5は、水素原子、メチル基、エチル基、n-プロピル基またはイソプロピル基を表す。a、b、c、dおよびeは、0.1≦a≦0.5、0≦b≦0.2、0≦c≦0.4、0≦d≦0.4、0.2≦e≦0.7、かつa+b+c+d+e=1を満たす数を表し、fは、0≦f≦0.3を満たす数を表す。)
で表されるオルガノポリシロキサン化合物と、
(B)複数個の
シクロデキストリンによって
ポリエチレングリコールが包接され、この
ポリエチレングリコールの両末端が封鎖基で封鎖されており、かつ
前記シクロデキストリンに結合している(メタ)アクリロイルオキシ基を有するポリロタキサンと
を含む活性エネルギー線硬化性組成物。
【請求項2】
(B)成分
中の(メタ)アクリロイルオキシ基が
シクロデキストリンに
連結基を介して結合して
おり、前記連結基を有する(メタ)アクリロイルオキシ基が、下記式で表されるものである請求項1記載の活性エネルギー線硬化性組成物。
【化2】
(上記式中、Xは下記式
【化3】
から選ばれる二価の基であり、Rは(メタ)アクリロイルオキシ基であり、nは1~20の数を示す。破線は結合手を示す。)
【請求項3】
(A)および(B)成分の総量が100質量部であり、これらの配合割合が、質量比[(A)/(B)]で、95/5~5/95である請求項1または2記載の活性エネルギー線硬化性組成物。
【請求項4】
さらに、活性エネルギー線によりラジカルを発生する光重合開始剤を含有する請求項1~3のいずれか1項記載の活性エネルギー線硬化性組成物。
【請求項5】
さらに、(A)および(B)成分以外の重合性不飽和化合物を含有する請求項1~4のいずれか1項記載の活性エネルギー線硬化性組成物。
【請求項6】
さらに、溶剤を含有する請求項1~5のいずれか1項記載の活性エネルギー線硬化性組成物。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項記載の活性エネルギー線硬化性組成物からなるコーティング剤。
【請求項8】
基材と、この基材の少なくとも一方の面に直接または少なくとも1種のその他の層を介して積層された硬化膜とを有し、
前記硬化膜が、請求項7記載のコーティング剤から作製された硬化膜である被覆物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重合性官能基を有するオルガノポリシロキサン化合物を含む活性エネルギー線硬化性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
有機官能基を含有するオルガノポリシロキサン化合物を含む組成物は、高硬度、可撓性、耐熱性、耐候性、耐衝撃性、耐クラック性、耐摩耗性、防食性、耐水性、撥水性、離型性、電気絶縁性、加工性等の特性を有する硬化物を与えることから、ハードコート、建材用塗料、成形材料、医療用材料、自動車用材料、各種コーティング材料等の分野で樹脂やコーティング剤として広く利用されている。
【0003】
しかし、従来の有機官能基を含有するオルガノポリシロキサン化合物に、機能性付与のために、種々の樹脂を配合した場合、相溶性の不一致などに起因して硬化物に収縮が起きたり、クラックが生じたりするなどの問題を有している。
【0004】
例えば、ラジカル重合性を有する不飽和化合物として、多官能(メタ)アクリレートや不飽和ポリエステル等が広く利用されている。しかし、これら従来のラジカル重合性を有する不飽和化合物にメチル基やフェニル基等の有機置換基を有するオルガノポリシロキサン化合物を混合した場合、両者の相溶性が悪いため、オルガノポリシロキサン成分が遊離する等の問題点を有している。
【0005】
この点、オルガノポリシロキサン化合物の構成要素にウレタン結合を含有させることで、分子同士をウレタン結合由来の水素結合により凝集させ、相溶性の向上を図るとともに、硬化物の靱性を向上させる検討が行われている。例えば、特許文献1には、ウレタンアクリレート構造を有する3官能のアルコキシシランを加水分解してシルセスキオキサンを合成した例が報告されている。しかし、得られたシルセスキオキサンの末端には縮合性官能基が存在しているため、経時変化が起こりうるという課題を有している。
【0006】
一方、複数個の環状分子の環の内部を直鎖状分子が貫通して串刺し状に存在し、この直鎖状分子の両端に環状分子の脱離を防止する封鎖基を配置した構造を有するポリロタキサンは、その環状分子の自由度により高い柔軟性や自己修復性、耐久性を発現することが知られており、種々の応用が期待されている。
例えば、特許文献2には、ラジカル重合開始部位を有する環状分子を含むポリロタキサン、このポリロタキサンと所定のポリマーとの架橋体を有する材料、および架橋体の製造方法が提案されており、上記材料を熱乾燥して得られたフィルムは高粘弾性を示すことが報告されている。しかし、耐久性については示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第5579072号公報
【文献】特許第5470246号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、硬度、耐クラック性、耐屈曲性、および密着性に優れる硬化膜を与える活性エネルギー線硬化性組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、ウレタン結合および(メタ)アクリロイルオキシ基を有するオルガノポリシロキサン化合物と、(メタ)アクリロイルオキシ基を有するポリロタキサンを含む活性エネルギー線硬化性組成物が、上記課題を解決することができることを見出し、本発明を完成させた。
なお、本発明において(メタ)アクリロイルオキシ基とは、アクリロイルオキシ基またはメタクリロイルオキシ基を意味する。
【0010】
すなわち、本発明は、
1. (A)下記式(I)
【化1】
(式中、R
1およびR
2は、それぞれ独立して、炭素原子数1~10の2価の炭化水素基を表し、R
3は、水素原子またはメチル基を表し、R
4は、それぞれ独立して、水素原子または炭化水素基の水素原子の一部もしくは全部がハロゲン原子で置換されていてもよい炭素原子数1~8のアルキル基、フェニル基、(メタ)アクリロイルオキシプロピル基もしくはグリシドキシプロピル基を表し、R
5は、水素原子、メチル基、エチル基、n-プロピル基またはイソプロピル基を表す。a、b、c、dおよびeは、0.1≦a≦0.5、0≦b≦0.2、0≦c≦0.4、0≦d≦0.4、0.2≦e≦0.7、かつa+b+c+d+e=1を満たす数を表し、fは、0≦f≦0.3を満たす数を表す。)
で表されるオルガノポリシロキサン化合物と、
(B)複数個の環状分子によって直鎖状分子が包接され、この直鎖状分子の両末端が封鎖基で封鎖されており、かつ(メタ)アクリロイルオキシ基を有するポリロタキサンと
を含む活性エネルギー線硬化性組成物、
2. (B)成分の(メタ)アクリロイルオキシ基が環状分子に結合している1記載の活性エネルギー線硬化性組成物、
3. (B)成分の環状分子がシクロデキストリンであり、直鎖状分子がポリエチレングリコールである1または2記載の活性エネルギー線硬化性組成物、
4. さらに、活性エネルギー線によりラジカルを発生する光重合開始剤を含有する1~3のいずれかに記載の活性エネルギー線硬化性組成物、
5. さらに、(A)および(B)成分以外の重合性不飽和化合物を含有する1~4のいずれかに記載の活性エネルギー線硬化性組成物、
6. さらに、溶剤を含有する1~5のいずれかに記載の活性エネルギー線硬化性組成物、
7. 1~6のいずれかに記載の活性エネルギー線硬化性組成物からなるコーティング剤、
8. 基材と、この基材の少なくとも一方の面に直接または少なくとも1種のその他の層を介して積層された硬化膜とを有し、前記硬化膜が、7記載のコーティング剤から作製された硬化膜である被覆物品
を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の活性エネルギー線硬化性組成物は、ウレタン結合および(メタ)アクリロイルオキシ基を有するオルガノポリシロキサン化合物と、(メタ)アクリロイルオキシ基を有するポリロタキサンを含んでおり、硬度、耐クラック性、耐屈曲性および密着性に優れた硬化物を与えるため、樹脂等のコーティングに好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について具体的に説明する。
(1)活性エネルギー線硬化性組成物
本発明の活性エネルギー線硬化性組成物は、(A)下記式(I)で表されるオルガノポリシロキサン化合物と、(B)(メタ)アクリロイルオキシ基を有するポリロタキサンを含有する。
【0013】
〔(A)成分〕
本発明の活性エネルギー線硬化性組成物における(A)成分は、下記式(I)で表されるオルガノポリシロキサン化合物である。
【0014】
【0015】
式(I)において、R1およびR2は、それぞれ独立して、炭素原子数1~10の2価の炭化水素基を表し、R3は、水素原子またはメチル基を表し、R4は、それぞれ独立して、水素原子または炭化水素基の水素原子の一部もしくは全部がハロゲン原子で置換されていてもよい炭素原子数1~8のアルキル基、フェニル基、(メタ)アクリロイルオキシプロピル基もしくはグリシドキシプロピル基を表し、R5は、水素原子、メチル基、エチル基、n-プロピル基またはイソプロピル基を表す。
【0016】
R1およびR2の炭素原子数1~10の2価炭化水素基としては、直鎖状、分岐状、環状のいずれでもよく、その具体例としては、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、プロピレン基、テトラメチレン基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基、ヘプタメチレン基、オクタメチレン基、ノナメチレン基、デカメチレン基、シクロヘキシレン基等の直鎖状、分岐状または環状のアルキレン基;フェニレン基、キシリレン基等のアリーレン基などが挙げられる。
これらの中でも、炭素原子数1~5のアルキレン基が好ましく、エチレン基、トリメチレン基がより好ましい。
【0017】
R4の炭素原子数1~8のアルキル基としては、直鎖状、分岐状、環状のいずれでもよく、その具体例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、シクロヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基等が挙げられ、これらのアルキル基は、その水素原子の一部または全部が、ハロゲン原子で置換されていてもよい。
ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。
これらの中でも、R4としては、炭素原子数1~4のアルキル基またはフェニル基が好ましく、メチル基またはフェニル基がより好ましい。
【0018】
R5は、水素原子、メチル基、エチル基、n-プロピル基またはi-プロピル基を表す。
a、b、c、dおよびeは、0.1≦a≦0.5、0≦b≦0.2、0≦c≦0.4、0≦d≦0.4、0.2≦e≦0.7、かつa+b+c+d+e=1を満たす数を表し、fは、0≦f≦0.3を満たす数を表す。
【0019】
aは0.1≦a≦0.5を満たす数であるが、0.2≦a≦0.5が好ましい。aが0.1未満の場合は、オルガノポリシロキサン化合物の他成分との相溶性が不十分なものとなり、また、当該オルガノポリシロキサン化合物を含む組成物の硬化性、ならびに硬化物の硬度、耐擦傷性、耐クラック性および耐屈曲性に劣るものとなる。
bは0≦b≦0.2を満たす数であるが、0≦b≦0.1が好ましい。bが0.2を超えると、得られる硬化物が耐クラック性、耐屈曲性に劣るものとなる。
cは0≦c≦0.4を満たす数であるが、0≦c≦0.2が好ましい。cが0.4を超えると、得られる硬化物が耐クラック性、耐屈曲性に劣るものとなる。
dは0≦d≦0.4を満たす数であるが、0≦d≦0.3が好ましい。dが0.4を超えると、得られる硬化物が硬度に劣るものとなる。
eは0.2≦e≦0.7を満たす数であるが、0.3≦e≦0.6が好ましい。eが0.2未満の場合は、オルガノポリシロキサン化合物が高粘度となり、作業性および加工性の観点から好ましくない。eが0.7を超えると、得られる硬化物が硬度に劣るものとなる。
fは0≦f≦0.3を満たす数であるが、縮合性官能基による縮合反応の抑制に効果的であることや、得られる硬化物の耐クラック性、耐水性および耐候性の観点を考慮すると、fは0≦f≦0.1を満たす数が好ましい。
【0020】
特に、(B)成分およびその他の重合性不飽和化合物との相溶性や、当該オルガノポリシロキサン化合物を含む硬化性組成物の硬化性、ならびに当該組成物から得られる硬化物の硬度、耐クラック性、耐屈曲性および耐水性の観点から、式(I)において、R1がトリメチレン基であり、R2がエチレン基であり、R3が水素原子であり、R4がメチル基であることが好ましい。
【0021】
本発明で用いるオルガノポリシロキサン化合物の平均分子量は、特に限定されるものではないが、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によるポリスチレン換算重量平均分子量で500~100,000が好ましく、700~10,000がより好ましく、800~5,000がさらに好ましい。500未満では縮合が十分に進んでおらず、オルガノポリシロキサン化合物の保存性が低くなる場合があり、また経時で縮合反応が生じ、耐熱耐湿試験で良好な結果が得られない場合がある。一方、100,000超の高分子量体では、当該オルガノポリシロキサン化合物を含有する活性エネルギー線硬化性組成物を硬化させたフィルム、または被覆物品において良好な硬度や耐屈曲性が得られない場合がある。
【0022】
本発明で用いるオルガノポリシロキサン化合物の粘度は、特に限定されるものではないが、作業性および加工性の観点から、回転粘度計により測定される25℃における粘度が200~50,000mPa・sが好ましく、300~5,000mPa・sがより好ましい。
また、本発明で用いるオルガノポリシロキサン化合物は、有機溶剤等を除く不揮発分が96質量%以上(揮発分が4質量%未満、特に3質量%以下)であることが好ましい。揮発分が多くなると、組成物を硬化した際のボイド発生による外観の悪化や、機械的性質の低下の原因となる場合がある。
(A)成分は、1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0023】
本発明で用いる(A)成分のオルガノポリシロキサン化合物は、一般的なオルガノポリシロキサンの製造方法に従って製造することができる。
例えば、ウレタン結合および(メタ)アクリロイルオキシ基を有する有機基を含む加水分解性シランを縮合して得ることができる。
【0024】
具体的には、下記一般式(II)
【化3】
(式中、R
1~R
3は、上記と同じ意味を表す。Xは、それぞれ独立して、塩素原子または炭素原子数1~6のアルコキシ基を表す。)
で表される加水分解性シランを用いて、R
4
3SiX(R
4およびXは上記と同じである。)で示されるシラン化合物および/またはその加水分解縮合物とともに、触媒の存在下で加水分解縮合を行ってオルガノポリシロキサン化合物を製造する方法が挙げられる。
【0025】
Xの炭素原子数1~6のアルコキシ基としては、その中のアルキル基が直鎖状、分岐状、環状のいずれでもよく、その具体例としては、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、イソプロポキシ基、n-ブトキシ基、t-ブトキシ基、ペンチルオキシ基等が挙げられる。
【0026】
R4
3SiXで示されるシラン化合物としては、トリメチルメトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、トリエチルメトキシシラン、トリエチルエトキシシラン、トリフェニルメトキシシラン、トリフェニルエトキシシラン等が挙げられる。また、これらの加水分解縮合物としては、ヘキサメチルジシロキサン等が挙げられる。
これらのシラン化合物および/またはその加水分解縮合物の添加量は、式(II)のシラン1モルに対して、0.5~3モルが好ましく、より好ましくは0.5~2モルである。
【0027】
また、必要に応じてその他の加水分解性シランを用いることができる。その他の加水分解性シランとしては、上記一般式(II)で表される加水分解性シランとともに加水分解縮合することでオルガノポリシロキサン化合物を製造できるものであれば特に限定されるものではない。
【0028】
その具体例としては、ジメチルジメトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、p-スチリルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3-アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-アクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリエトキシシラン等のアルコキシシラン等が挙げられる。
【0029】
必要に応じて使用するその他の加水分解性シランおよび/またはその加水分解縮合物の添加量は、式(II)のシラン1モルに対して、0.1~3モルが好ましく、より好ましくは0.5~2モルである。
【0030】
縮合に用いられる触媒としては、特に限定されるものではないが、酸性触媒が好ましく、その具体例としては、塩酸、ギ酸、酢酸、硫酸、燐酸、p-トルエンスルホン酸、安息香酸、酢酸、乳酸、炭酸、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸等が挙げられる。
触媒の使用量は特に限定されるものではないが、反応を速やかに進行させるとともに、反応後の触媒の除去の容易性を考慮すると、加水分解性シラン1モルに対して0.0002~0.5モルの範囲が好ましい。
【0031】
加水分解縮合の際は、通常、水を添加する。加水分解性シランと、加水分解縮合反応に要する水との量比は、特に限定されるものではないが、触媒の失活を防いで反応を十分に進行させるとともに、反応後の水の除去の容易性を考慮すると、全加水分解性シラン1モルに対し、水0.1~10モルの割合が好ましい。
加水分解縮合時の反応温度は、特に限定されるものではないが、反応率を向上させるとともに、加水分解性シランが有する有機官能基の分解を防止することを考慮すると、-10~150℃が好ましく、反応時間は1~6時間が好ましい。
【0032】
なお、加水分解縮合の際には、有機溶媒を使用してもよい。有機溶媒の具体例としては、メタノール、エタノール、プロパノール、アセトン、メチルイソブチルケトン、テトラヒドロフラン、トルエン、キシレン等が挙げられる。
【0033】
〔(B)成分〕
(B)成分は、(メタ)アクリロイルオキシ基を有するポリロタキサンである。ポリロタキサンは、複数個の環状分子によって直鎖状分子が包接され、この直鎖状分子の両末端が封鎖基で封鎖された構造を有する。本発明においては、(メタ)アクリロイルオキシ基は環状分子に結合していることが好ましい。
【0034】
直鎖状分子としては、直鎖状高分子化合物が好ましく、具体的には、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリ(メタ)アクリル酸、セルロース系高分子(カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等)、ポリアクリルアミド、ポリエチレンオキサイド、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリビニルアセタール、ポリビニルメチルエーテル、ポリアミン、ポリエチレンイミン、カゼイン、ゼラチン、でんぷん、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、アクリロニトリル-スチレン共重合体;ポリメチルメタクリレート、(メタ)アクリル酸エステル共重合体、アクリロニトリル-メチルアクリレート共重合体;ポリカーボネート、ポリウレタン、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、ポリビニルブチラール等およびこれらの誘導体または変性体、ポリイソブチレン、ポリテトラヒドロフラン、ポリアニリン、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体、ナイロン等のポリアミド類、ポリイミド類、ポリイソプレン、ポリブタジエン等のポリジエン類、ポリジメチルシロキサン等のポリシロキサン類、ポリスルホン類、ポリイミン類、ポリ無水酢酸類、ポリ尿素類、ポリスルフィド類、ポリフォスファゼン類、ポリケトン類、ポリフェニレン類、ポリハロオレフィン類、これらの誘導体などが挙げられる。これらの中でも、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラヒドロフラン、ポリジメチルシロキサン、ポリエチレン、ポリプロピレンが好ましく、ポリロタキサンの合成収率の高さや化学的・物理的安定性の点からポリエチレングリコールが特に好ましい。
【0035】
直鎖状分子の分子量は、自己修復性や柔軟性等のロタキサンに特徴的な機能発現の点から3,000以上が好ましく、より好ましくは5,000~100,000である。
【0036】
直鎖状分子は、環状分子に包接されたときに環状分子から脱離しないように(環状分子が直鎖状分子から脱離しないように)、両末端に封鎖基を有する。封鎖基としては、環状分子の種類にもよるが、アダマンチル基、ジニトロフェニル基、トリチル基や、シクロデキストリン類、フルオレセイン類、ピレン類、ベンゼン類(アルキル基、アルキルオキシ基、ヒドロキシ基、ハロゲン基、シアノ基、スルホニル基、カルボキシル基、アミノ基、フェニル基等から選ばれる1種又は2種以上の置換基を有していてもよい。)、ステロイド類等を含む基などが挙げられる。これらの中でも、後述する環状分子との組み合わせを考慮すると、アダマンチル基、トリチル基、ジニトロフェニル基、シクロデキストリン類、フルオレセイン類またはピレン類を含む基が好ましく、より好ましくはアダマンチル基またはトリチル基である。
【0037】
一方、環状分子としては、例えば、α-、β-またはγ-シクロデキストリン、クラウンエーテル、シクロファン、カリックスアレーン等が挙げられるが、α-、β-またはγ-シクロデキストリンが好ましく、より好ましくはα-シクロデキストリンである。
【0038】
本発明では、このような環状分子に(メタ)アクリロイルオキシ基が結合したものが用いられる。(メタ)アクリロイルオキシ基は環状分子に直接結合していてもよいし、連結基を介して結合していてもよい。連結基としては、例えば、エーテル結合、エステル結合、アミド結合、カルボニル基等を含んでいてもよい直鎖状または分岐状の炭素原子数2~100の2価炭化水素基が挙げられる。2価炭化水素基としては、例えば、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、プロピレン基、テトラメチレン基、ペンタメチレン基等を包含するアルキレン基が挙げられる。このような連結基を有する(メタ)アクリロイルオキシ基としては、具体的には、下記式で示されるものが例示される。
【化4】
(Xは下記式
【化5】
から選ばれる二価の基であり、Rは(メタ)アクリロイルオキシ基であり、nは1~20の数を示す。破線は結合手を示す。)
【0039】
環状分子に対する(メタ)アクリロイルオキシ基の導入量は、500~3,000グラム当量程度が好ましい。
本発明で用いるポリロタキサンは、これらの環状分子を2個以上有することが好ましく、3~1,000個有することがより好ましい。
【0040】
(B)成分全体の重量平均分子量は、5,000~3,000,000が好ましく、より好ましくは10,000~1,000,000である。
【0041】
本発明の(B)成分としては、両末端にアダマンチル基を有するポリエチレングリコール分子が、上記式(i)および/または(ii)で示される基を有するα-シクロデキストリンによって包接されたポリロタキサンがオルガノポリシロキサン化合物との相溶性、活性エネルギー線硬化性組成物の硬度、耐クラック性、耐屈曲性、および密着性の点から好ましい。
【0042】
このような環状分子に(メタ)アクリロイルオキシ基が結合したポリロタキサンは、特許文献2等に記載の方法を参照して公知の方法に従って製造することができる。
【0043】
本発明で用いる(メタ)アクリロイルオキシ基が結合した環状分子を有するポリロタキサンは、市販品として入手することができ、例えば、SM3403P、SM2403P、SM1303P、SA3403P、SA2403P、SA1303P、SM3400C、SA3400C、SA2400C(いずれもアドバンスト・ソフトマテリアルズ(株)製)等が挙げられる。
【0044】
本発明の活性エネルギー線硬化性組成物は、(B)成分を1種単独で、または構造の異なる2種以上の複数の化合物の混合物として含んでいてもよい。
【0045】
(A),(B)成分は、総量が100質量部となるように配合し、これらの配合割合は、質量比[(A)/(B)]で、95/5~5/95が好ましく、より好ましくは85/15~15/85である。
【0046】
〔その他の成分〕
本発明の活性エネルギー線硬化性組成物は、(A),(B)成分以外の重合性不飽和化合物を含有してもよい。
(A),(B)成分以外の重合性不飽和化合物の具体例としては、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性ビスフェノールA、ジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、3-(メタ)アクリロイルオキシグリセリンモノ(メタ)アクリレート、ウレタンアクリレート、エポキシアクリレート、エステルアクリレート等が挙げられる。
上記重合性不飽和化合物を用いる場合、その配合量は、(A)成分のオルガノポリシロキサン化合物100質量部に対して、1~1,000質量部が好ましい。
【0047】
本発明の活性エネルギー線硬化性組成物は、上述したオルガノポリシロキサン化合物(I)、(メタ)アクリロイルオキシ基を有するポリロタキサン、必要によりその他の重合性不飽和化合物に加え、ラジカルを発生する光重合開始剤を含有してもよい。
光重合開始剤としては、活性エネルギー線によりラジカル種を発生する開始剤であれば特に限定されるものではなく、アセトフェノン系、ベンゾイン系、アシルフォスフィンオキサイド系、ベンゾフェノン系、チオキサントン系等の公知の光重合開始剤から適宜選択して用いることができる。
光重合開始剤の具体例としては、ベンゾフェノン、ベンジル、ミヒラーズケトン、チオキサントン誘導体、ベンゾインエチルエーテル、ジエトキシアセトフェノン、ベンジルジメチルケタール、2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオフェノン、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、アシルフォスフィンオキサイド誘導体、2-メチル-1-{4-(メチルチオ)フェニル}-2-モルフォリノプロパン-1-オン、4-ベンゾイル-4’-メチルジフェニルスルファイド、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィン等が挙げられ、これらは1種単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0048】
光重合開始剤は、市販品として入手することができ、その具体例としては、ダロキュア1173、ダロキュアMBF、イルガキュア127、イルガキュア184、イルガキュア369、イルガキュア379、イルガキュア379EG、イルガキュア651、イルガキュア754、イルガキュア784、イルガキュア819、イルガキュア819DW、イルガキュア907、イルガキュア1800、イルガキュア2959、ルシリンTPO(いずれもBASFジャパン社製)等が挙げられる。
【0049】
光重合開始剤を配合する場合、その使用量は、硬化性を良好にするとともに、硬化後の表面硬度の低下を防止することを考慮すると、(A),(B)成分、および必要に応じて用いられる重合性不飽和化合物の総量100質量部に対して、0.1~20質量部が好ましい。
【0050】
本発明の活性エネルギー線硬化性組成物は、必要に応じて溶剤を含有してもよい。好ましい溶剤としては、イソプロパノール、ブタノール等のアルコール類、テトラヒドロフラン、ジエチレングリコールジメチルエーテルなどのエーテル類、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類、酢酸エチル、乳酸エチル等のエステル類、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のグリコールエーテルのエステル化物などが挙げられる。
溶剤を配合する場合、その配合量は特に制限されないが、(A),(B)成分の総量100質量部((A),(B)成分以外のその他の重合性不飽和化合物を含む場合、(A),(B)成分およびその他の重合性不飽和化合物の総量100質量部)に対して5~100質量部が好ましく、より好ましくは10~80質量部である。
【0051】
なお、本発明の活性エネルギー線硬化性組成物は、金属酸化物微粒子、シリコーンレジン、シランカップリング剤、希釈溶剤、可塑剤、充填剤、増感剤、光吸収剤、光安定剤、重合禁止剤、熱線反射剤、帯電防止剤、酸化防止剤、防汚性付与剤、撥水性付与剤、消泡剤、着色剤、増粘剤、レベリング剤等の各種添加剤を本発明の目的を損なわない範囲で含んでいてもよい。
【0052】
本発明の活性エネルギー線硬化性組成物は、上記各成分を常法に準じて均一に混合することにより得られる。
本発明の活性エネルギー線硬化性組成物の粘度は特に限定されるものではないが、成形または塗布作業性を良好にし、すじむら等の発生を抑制することを考慮すると、回転粘度計により測定される25℃での粘度が、500mPa・s以下が好ましく、300mPa・s以下がより好ましい。なお、25℃における粘度の下限は10mPa・s以上が好ましい。
【0053】
(2)コーティング剤および被覆物品
上述した本発明の活性エネルギー線硬化性組成物は、コーティング剤として好適に使用可能であり、基材の少なくとも一方の面に、直接または少なくとも1種のその他の層を介して塗布し、それを硬化させることにより被膜を形成した被覆物品を得ることができる。
また、本発明の活性エネルギー線硬化性組成物の硬化物は、フィルムとしても好適に使用可能である。
【0054】
上記基材としては、特に限定されるものではないが、プラスチック成形体、木材系製品、セラミックス、ガラス、金属、およびそれらの複合物等が挙げられる。
また、これらの基材の表面が、化成処理、コロナ放電処理、プラズマ処理、酸やアルカリ液で処理されている基材や、基材本体と表層が異なる種類の塗料で被覆された化粧合板等も用いることもできる。
【0055】
さらに、予めその他の機能層が形成された基材表面に、本発明のコーティング剤による被覆を施してもよく、その他の機能層としては、プライマー層、防錆層、ガスバリア層、防水層、熱線遮蔽層等が挙げられ、これらのいずれか一層または二層以上の複数層が基材上に予め形成されていてもよい。
【0056】
被覆物品は、本発明のコーティング剤からなる塗膜が形成された面が、さらに、CVD(化学気相成長)法による蒸着層、ハードコート層、防錆層、ガスバリア層、防水層、熱線遮蔽層、防汚層、光触媒層、帯電防止層等の一層または二層以上の複数層によって被覆されていてもよい。
さらに、被覆物品は、本発明のコーティング剤からなる塗膜が形成された面とは反対側の面が、ハードコート層、防錆層、ガスバリア層、防水層、熱線遮蔽層、防汚層、光触媒層、帯電防止層等の一層または二層以上の複数層によって被覆されていてもよい。
【0057】
本発明のコーティング剤は、表面に耐擦傷性および耐磨耗性の付与が必要とされる物品、特に液晶ディスプレー、CRTディスプレー、プラズマディスプレー、ELディスプレー等の各種表示素子等の表面に塗布し、硬化被膜とすることにより、これらの表面に耐擦傷性、耐磨耗性、耐屈曲性、および耐クラック性を付与することが可能である。
【0058】
コーティング剤の塗布方法としては、公知の手法から適宜選択すればよく、例えば、バーコーター、刷毛塗り、スプレー、浸漬、フローコート、ロールコート、カーテンコート、スピンコート、ナイフコート等の各種塗布方法を用いることができる。
【0059】
活性エネルギー線硬化性組成物を硬化させるための光源としては、通常、200~450nmの範囲の波長の光を含む光源、例えば高圧水銀灯、超高圧水銀灯、メタルハライドランプ、キセノン灯、カーボンアーク灯等が挙げられる。
照射量は特に制限されないが、10~5,000mJ/cm2が好ましく、20~1,000mJ/cm2がより好ましい。
硬化時間は、通常0.5秒~2分であり、好ましくは1秒~1分である。
【実施例】
【0060】
以下、実施例および比較例を示し、本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
なお、下記において、揮発分はJIS C2133に準じて測定した値であり、重量平均分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)(HLC-8220、東ソー(株)製)を用いてテトラヒドロフラン(THF)を展開溶媒として測定した値である。
また、式(I)におけるa~fの値は、1H-NMRおよび29Si-NMRスペクトル測定の結果から算出した。
【0061】
[1]式(I)で表されるオルガノポリシロキサン化合物の合成
[合成例1-1]オルガノポリシロキサン1-1の合成
特開2010-189294号公報の実施例1に記載の方法と同様にして合成した下記式(III)で表される化合物964.2g(3.0モル)、ジメチルジメトキシシラン360.7g(3.0モル)、ヘキサメチルジシロキサン487.1g(3.0モル)、メタンスルホン酸7.3gを反応器中で混合し、均一になったところでイオン交換水162.0gを添加し、25℃で4時間撹拌した。次いで、キョーワード500SH(協和化学工業(株)製)36.7gを投入し、2時間撹拌して中和した。続いて、減圧下にてメタノール等の揮発成分を留去し、トルエンと芒硝水を加え、水洗後トルエン層を回収し、トルエンを留去した後、加圧濾過を行った。
【化6】
得られた反応物は、粘度1,210mPa・s、揮発分1.6質量%、重量平均分子量1,210の25℃で粘稠な液体であった。NMRスペクトル測定の結果から算出した式(I)におけるa~fの値は、それぞれa=0.27、b=0、c=0、d=0.25、e=0.48、f=0.15であった。
【0062】
[合成例1-2]オルガノポリシロキサン1-2の合成
上記式(III)で表される化合物1,285.6g(4.0モル)、メチルトリメトキシシラン136.22g(1.0モル)、ジメチルジメトキシシラン360.7g(3.0モル)、ヘキサメチルジシロキサン487.1g(3.0モル)、メタンスルホン酸8.9gを反応器中で混合し、均一になったところでイオン交換水226.8gを添加し、25℃で4時間撹拌した。次いで、キョーワード500SH(協和化学工業(株)製)44.7gを投入し、2時間撹拌して中和した。続いて、減圧下にてメタノール等の揮発成分を留去し、トルエンと芒硝水を加え水洗後トルエン層を回収し、トルエンを留去した後、加圧濾過を行った。
得られた反応物は、粘度2,200mPa・s、揮発分1.6質量%、重量平均分子量1,870の25℃で粘稠な液体であった。NMRスペクトル測定の結果から算出した式(I)におけるa~fの値は、それぞれa=0.30、b=0、c=0.08、d=0.22、e=0.40、f=0.05であった。
【0063】
[合成例1-3]オルガノポリシロキサン1-3の合成
上記式(III)で表される化合物1,285.6g(4.0モル)、テトラメトキシシラン30.5g(0.1モル)、ジメチルジメトキシシラン721.3g(6.0モル)、ヘキサメチルジシロキサン487.1g(3.0モル)、メタンスルホン酸9.8gを反応器中で混合し、均一になったところでイオン交換水265.7gを添加し、25℃で4時間撹拌した。次いで、キョーワード500SH(協和化学工業(株)製)49.0gを投入し、2時間撹拌して中和した。続いて、減圧下にてメタノール等の揮発成分を留去し、トルエンと芒硝水を加え水洗後トルエン層を回収し、トルエンを留去した後、加圧濾過を行った。
得られた反応物は、粘度4,400mPa・s、揮発分0.9質量%、重量平均分子量3,250の25℃で粘稠な液体であった。NMRスペクトル測定の結果から算出した式(I)におけるa~fの値は、それぞれa=0.26、b=0.01、c=0、d=0.37、e=0.36、f=0.06であった。
【0064】
[2]活性エネルギー線硬化性組成物の調整およびその硬化物の製造
[実施例1-1~1-12,比較例1-1~1-12]
上記合成例1-1~1-3で得られた各オルガノポリシロキサン化合物、アクリル官能基を有するポリロタキサン(SA3400C(両末端アダマンチル基含有ポリエチレングリコール(分子量35,000)がメタクリロイルオキシ基を有するα-シクロデキストリンによって包接されたポリロタキサン)、アドバンスト・ソフトマテリアルズ(株)製)または比較成分としてトリメチロールプロパントリアクリレート(TMPTA、MIWON(株)製)、ダロキュア1173(ラジカル系光重合開始剤、BASF(株)社製)を表1および表2に示す配合比率で混合して組成物を調製した。
得られた組成物を厚さ0.2mmとなるように離形フィルムを貼り付けた型に流し込み、高圧水銀灯で積算照射量600mJ/cm2となるように光を照射し、硬化させることで硬化物を製造した。
【0065】
【0066】
【0067】
[3]活性エネルギー線硬化性組成物のフィルムの特性評価
実施例1-1~1-12および比較例1-1~1-12で得られたフィルムについて耐クラック性、鉛筆硬度、耐屈曲性および修復性を測定した。結果を表2に示す。
(1)耐クラック性
高圧水銀灯で光を照射し、硬化させた後にフィルムにクラックが見られなった場合はOK、見られた場合はNGとした。
(2)鉛筆硬度
JIS K5600-5-4に準じて750g荷重にて測定した。
(3)耐屈曲性
JIS K5600-5-1に準じて円筒形マンドレル(タイプ1)を用いて測定し、耐屈曲性に関して、2mmφ試験でクラックが生じなかったフィルムに対してはOK、クラックが生じたフィルムに関してはNGとした。
(4)修復性
スチールウールにてフィルムにひっかき傷をつけ、10分静置後に光学顕微鏡による目視観察で部分的に傷の修復が確認できたフィルムに関してはOK、傷の修復が確認できなかったフィルムに関してはNGとした。
【0068】
【0069】
【0070】
[4]コーティング剤の調整および被覆物品の製造
[実施例2-1~2-12,比較例2-1~2-12]
上記合成例1-1~1-3で得られた各オルガノポリシロキサン化合物、アクリル官能基を有するポリロタキサン(SA3400C、アドバンスト・ソフトマテリアルズ(株)製)またはトリメチロールプロパントリアクリレート(TMPTA、MIWON(株)製)、メチルエチルケトン(MEK、東京化成工業(株)製)、ダロキュア1173(ラジカル系光重合開始剤、BASF(株)製)を表5および表6に示す配合比率で混合してコーティング剤を調製した。
得られた各コーティング剤を、バーコーターNo.5を用いてPET基板(A4100、東洋紡(株)製)上に塗布し、100℃で5分間乾燥させ、高圧水銀灯で積算照射量600mJ/cm2となるように光を照射し、硬化させることで被覆物品を製造した。
【0071】
【0072】
【0073】
[5]被覆物品の特性評価
得られた被覆物品の硬化膜について耐クラック性、鉛筆硬度、耐屈曲性を上記と同様の手順で測定し、煮沸密着性を下記方法で評価した。結果を表5および表6に示す。
(5)煮沸密着試験
100℃の沸騰水に2時間試験片を浸した後、JIS K5600-5-6に準じて25マスによるクロスカット試験を行い、(剥離せず残ったマスの数)/25として表した。
【0074】
【0075】
【0076】
表3および表4に示されるように、ウレタン結合を有するオルガノポリシロキサンおよびアクリル官能基を有するポリロタキサンを含む活性エネルギー線硬化性組成物では硬度を維持しつつも、高い耐クラック性および耐屈曲性を達成している。
また、表7、表8に示されるように、ウレタン結合を有するオルガノポリシロキサンおよびアクリル官能基を有するポリロタキサンを含むコーティング剤の被覆物品においては耐屈曲性と煮沸密着性が確認されており、本発明の優位性を示唆している。