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特許7156232酸素硬化性シリコーン組成物およびその硬化物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-11
(45)【発行日】2022-10-19
(54)【発明の名称】酸素硬化性シリコーン組成物およびその硬化物
(51)【国際特許分類】
   C08F 299/08 20060101AFI20221012BHJP
   C08F 4/52 20060101ALI20221012BHJP
   C08F 290/06 20060101ALI20221012BHJP
   C08F 290/14 20060101ALI20221012BHJP
【FI】
C08F299/08
C08F4/52
C08F290/06
C08F290/14
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019184270
(22)【出願日】2019-10-07
(65)【公開番号】P2021059658
(43)【公開日】2021-04-15
【審査請求日】2021-10-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】特許業務法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】北川 太一
(72)【発明者】
【氏名】松本 展明
(72)【発明者】
【氏名】小材 利之
(72)【発明者】
【氏名】池野 正行
【審査官】牟田 博一
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-214543(JP,A)
【文献】特開2016-190977(JP,A)
【文献】特表2008-527077(JP,A)
【文献】特開2014-136706(JP,A)
【文献】特開2020-12025(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F290/、299/
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)下記一般式(1)で示されるオルガノポリシロキサン:100質量部、
【化1】
(式中、R1は、それぞれ独立して、炭素原子数1~10のアルキル基、炭素原子数2~10のアルケニル基、炭素原子数6~10のアリール基、アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基、アクリロイルオキシアルキル基、メタクリロイルオキシアルキル基、アクリロイルオキシアルキルオキシ基、またはメタクリロイルオキシアルキルオキシ基を表すが、1分子中にアクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基、アクリロイルオキシアルキル基、メタクリロイルオキシアルキル基、アクリロイルオキシアルキルオキシ基、およびメタクリロイルオキシアルキルオキシ基より選ばれる基を少なくとも1個有し、R2は、それぞれ独立して、酸素原子、炭素原子数1~10のアルキレン基または炭素原子数6~10のアリーレン基を表し、mおよびnは、いずれも0以上、かつ、1≦m+n≦1,000を満たす数を表す。)
(B)(a)下記式(2)で表される単位、(b)R1 3SiO1/2単位、および(c)SiO4/2単位を構成単位として含み、[(a)単位および(b)単位の合計]/[(c)単位]のモル比が0.4~1.2の範囲であり、かつ100gあたり0.005mol以上のSi-OH基を有するシリコーンレジン:1~1,000質量部、および
【化2】
(式中、R1、それぞれ独立して、炭素原子数1~10のアルキル基、炭素原子数2~10のアルケニル基、炭素原子数6~10のアリール基、アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基、アクリロイルオキシアルキル基、メタクリロイルオキシアルキル基、アクリロイルオキシアルキルオキシ基、またはメタクリロイルオキシアルキルオキシ基を表し、2は、酸素原子、炭素原子数1~10のアルキレン基または炭素原子数6~10のアリーレン基を表し、3は、それぞれ独立して、アクリロイルオキシアルキル基、メタクリロイルオキシアルキル基、アクリロイルオキシアルキルオキシ基、またはメタクリロイルオキシアルキルオキシ基を表し、pは0≦p≦10を満たす数を表し、aは、1≦a≦3を満たす数を表す。)
(C)下記式(3)で示されるオルガノボラン錯体:0.01~20質量部
【化3】
(式中、R4は、それぞれ独立して炭素原子数1~10の一価炭化水素基を表し、R5およびR6は、それぞれ独立して炭素原子数1~10の一価炭化水素基を表すが、R5とR6とが結合して2価の連結基を形成していてもよい。)
を含む酸素硬化性シリコーン組成物。
【請求項2】
前記(B)成分のシリコーンレジンが、100gあたり0.007~0.03molのSi-OH基を有する請求項1記載の酸素硬化性シリコーン組成物。
【請求項3】
請求項1または2記載の酸素硬化性シリコーン組成物の硬化物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸素硬化性シリコーン組成物およびその硬化物に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコーンゴムは、耐熱性・耐寒性・電気絶縁性に優れ、電気・電子、自動車、建築など各産業に幅広く利用されている。
このシリコーンゴムを与える硬化性組成物としては、1液型・2液型の2種類の組成物が知られている(特許文献1,2参照)が、付加硬化型の組成物では使用時の加熱が必要であるし、UV硬化性組成物(特許文献3参照)は常温での使用が可能であるものの、UV照射の設備導入が必要である。
近年、製造プロセスの省エネルギー化が求められるとともに、室温硬化性と機械的特性を併せ持つ材料の開発が強く望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第2849027号公報
【文献】特開2010-163478号公報
【文献】特開平7-216232号公報
【文献】特開2010-280891号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、使用時に加熱やUV照射を必要とせず、大気中の酸素を反応の引き金として室温で硬化し、硬化後には良好な機械強度が発現するシリコーン組成物およびその硬化物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、アクリロイルオキシアルキル基等の反応性二重結合を有する所定のオルガノポリシロキサンと、所定のオルガノボラン錯体と、反応性二重結合およびSi-OH基を有する所定のシリコーンレジンを含む組成物が、大気中の酸素を反応の引き金として重合反応が進行するため、使用時に加熱やUV照射を必要としなくとも室温で硬化し、その硬化物は良好な機械強度が発現することを見出し、本発明を完成した。
なお、室温で重合が可能な組成物として、アルキルボラン-アミン錯体を触媒として用いたものが提案されているが(特許文献4参照)、本発明で用いるオルガノボラン錯体については開示されていない。
【0006】
すなわち、本発明は、
1. (A)下記一般式(1)で示されるオルガノポリシロキサン:100質量部、
【化1】
(式中、R1は、それぞれ独立して、炭素原子数1~10のアルキル基、炭素原子数2~10のアルケニル基、炭素原子数6~10のアリール基、アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基、アクリロイルオキシアルキル基、メタクリロイルオキシアルキル基、アクリロイルオキシアルキルオキシ基、またはメタクリロイルオキシアルキルオキシ基を表すが、1分子中にアクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基、アクリロイルオキシアルキル基、メタクリロイルオキシアルキル基、アクリロイルオキシアルキルオキシ基、およびメタクリロイルオキシアルキルオキシ基より選ばれる基を少なくとも1個有し、R2は、それぞれ独立して、酸素原子、炭素原子数1~10のアルキレン基または炭素原子数6~10のアリーレン基を表し、mおよびnは、いずれも0以上、かつ、1≦m+n≦1,000を満たす数を表す。)
(B)(a)下記式(2)で表される単位、(b)R1 3SiO1/2単位、および(c)SiO4/2単位を構成単位として含み、[(a)単位および(b)単位の合計]/[(c)単位]のモル比が0.4~1.2の範囲であり、かつ100gあたり0.005mol以上のSi-OH基を有するシリコーンレジン:1~1,000質量部、および
【化2】
(式中、R1およびR2は、前記と同じ意味を表す。R3は、それぞれ独立して、アクリロイルオキシアルキル基、メタクリロイルオキシアルキル基、アクリロイルオキシアルキルオキシ基、またはメタクリロイルオキシアルキルオキシ基を表し、pは0≦p≦10を満たす数を表し、aは、1≦a≦3を満たす数を表す。)
(C)下記式(3)で示されるオルガノボラン錯体:0.01~20質量部
(式中、R4は、それぞれ独立して炭素原子数1~10の一価炭化水素基を表し、R5およびR6は、それぞれ独立して炭素原子数1~10の炭化水素基を表すが、R5とR6とが結合して2価の連結基を形成していてもよい。)
を含む酸素硬化性シリコーン組成物。
2. 前記(B)成分のシリコーンレジンが、100gあたり0.007~0.03molのSi-OH基を有する1の酸素硬化性シリコーン組成物、
3. 1または2の酸素硬化性シリコーン組成物の硬化物
を提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の酸素硬化性シリコーン組成物は、室温において硬化性を有する上、硬化の際に加熱工程やUV照射工程を必要としないため、硬化プロセスの短時間化や省エネルギー化が可能であり、加熱設備およびUV照射設備の導入を必要としない。また、その硬化物は良好な機械強度を有する。
このような特性を有する本発明の酸素硬化性シリコーン組成物は、特に、接着剤等の用途に好適である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明について具体的に説明する。
本発明に係る酸素硬化性シリコーン組成物は、下記(A)~(C)成分を必須成分として含むものである
[1](A)成分
本発明の酸素硬化性シリコーン組成物における(A)成分は、下記式(1)で示されるオルガノポリシロキサンである。
【0009】
【化3】
【0010】
式(1)において、R1は、それぞれ独立して、炭素原子数1~10のアルキル基、炭素原子数2~10のアルケニル基、炭素原子数6~10のアリール基、アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基、アクリロイルオキシアルキル基、メタクリロイルオキシアルキル基、アクリロイルオキシアルキルオキシ基、またはメタクリロイルオキシアルキルオキシ基を表すが、1分子中にアクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基、アクリロイルオキシアルキル基、メタクリロイルオキシアルキル基、アクリロイルオキシアルキルオキシ基、およびメタクリロイルオキシアルキルオキシ基より選ばれる基を少なくとも1個有し、R2は、それぞれ独立して、酸素原子、炭素原子数1~10のアルキレン基または炭素原子数6~10のアリーレン基を表し、mおよびnは、いずれも0以上、かつ、1≦m+n≦1,000を満たす数を表す。
【0011】
上記R1の炭素原子数1~10のアルキル基は、直鎖、分岐、環状のいずれでもよく、その具体例としては、メチル、エチル、n-プロピル、n-ブチル、n-ペンチル、n-ヘキシル、n-オクチル基等が挙げられる。
炭素原子数2~10のアルケニル基は、直鎖、分岐、環状のいずれでもよく、その具体例としては、ビニル、アリル(2-プロペニル)、1-ブテニル、1-オクテニル基等が挙げられる。
炭素原子数6~10のアリール基の具体例としては、フェニル、ナフチル基等が挙げられる。
なお、これらの基の水素原子の一部または全部はハロゲン原子(例えば、塩素原子、臭素原子、フッ素原子)で置換されていてもよい。
中でも、合成のし易さとコストの面から、R1の全数の90モル%以上がメチル基またはフェニル基であることが好ましい。
【0012】
また、R1のうち少なくとも1個は、アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基、アクリロイルオキシアルキル基、メタクリロイルオキシアルキル基、アクリロイルオキシアルキルオキシ基、およびメタクリロイルオキシアルキルオキシ基より選ばれる重合性基である。
このアクリロイルオキシアルキル基、メタクリロイルオキシアルキル基、アクリロイルオキシアルキルオキシ基、メタクリロイルオキシアルキルオキシ基におけるアルキル(アルキレン)基としては、特に限定されるものではないが、メチレン、エチレン、トリメチレン、プロピレン、テトラメチレン、ペンタメチレン、ヘキサメチレン等の炭素原子数1~10のアルキレンが好ましく、炭素原子数1~5のアルキレンがより好ましく、エチレンまたはトリメチレンがより一層好ましい。
これらの重合性基は、オルガノポリシロキサンの分子鎖の末端、途中のいずれに存在してもよいが、得られる硬化物の柔軟性の面では末端にのみ存在することが好ましく、両末端に存在することがより好ましい。
【0013】
上記R2の炭素原子数1~10のアルキレン基は、直鎖、分岐、環状のいずれでもよく、その具体例としては、メチレン、エチレン、トリメチレン、ヘキサメチレン、シクロヘキシレン、オクタメチレン基等が挙げられる。
炭素原子数6~10のアリーレン基の具体例としては、1,2-フェニレン、1,3-フェニレン、1,4-フェニレン、ナフチレン基等が挙げられる。
中でも、R2としては、酸素原子、エチレン基、トリメチレン基、1,4-フェニレン基が好ましく、酸素原子がより好ましい。
【0014】
上記mおよびnは、いずれも0以上で、1≦m+n≦1,000を満たす数であるが、好ましくは10≦m+n≦800、より好ましくは20≦m+n≦500を満たす数である。
m+nが1より小さいとオルガノポリシロキサンが揮発し易く、m+nが1,000より大きいと組成物の粘度が高くなり、取り扱い性に劣る。
【0015】
なお、(A)成分のオルガノポリシロキサンは、1種単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
また、(A)成分のオルガノポリシロキサンは、公知の方法で製造することができ、例えば、末端にビニル基を有するオルガノポリシロキサンに、重合性基とヒドロシリル基を1分子中に併せ持つ化合物を白金触媒により結合させることで得られる。(A)成分は、これらの化合物の混合物であってもよい。
(A)成分のオルガノポリシロキサンの具体例としては、下記の化合物が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0016】
【化4】
(式(5)中、括弧が付されたシロキサン単位の配列は任意である。Meはメチル基を、Phはフェニル基を意味する。)
【0017】
(A)成分のオルガノポリシロキサンは、公知の方法で製造することができる。例えば、上記(4)のオルガノポリシロキサンは、両末端ジメチルメタクリルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサンと環状ジメチルシロキサンとを、トリフルオロメタンスルホン酸を用いた酸平衡により反応させて得ることができる。
また、上記式(5)のオルガノポリシロキサンは、両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・ジフェニルシロキサン共重合体とクロロジメチルシランとのヒドロシリル化反応物に、2-ヒドロキシエチルアクリレートを反応させて得ることができる。
【0018】
[2](B)成分
本発明の酸素硬化性シリコーン組成物における(B)成分は、(a)下記式(2)で表される単位(MA単位)、(b)R1 3SiO1/2単位(M単位)、および(c)SiO4/2単位(Q単位)を構成単位として含み、かつ、分子中に少なくとも1つ以上のSi-OH基を有するシリコーンレジンである。
【0019】
【化5】
(式中、R1、R2は上記と同じ意味を表す。R3は互いに独立して、アクリロイルオキシアルキル基、メタクリロイルオキシアルキル基、アクリロイルオキシアルキルオキシ基、またはメタクリロイルオキシアルキルオキシ基を表し(R3のアルキル基は、R1と同じ。)、pは0≦p≦10を満たす数を表し、aは、1≦a≦3を満たす数を表す。)
【0020】
(B)成分のシリコーンレジンにおいて、[(a)MA単位および(b)M単位の合計]/[(c)Q単位]のモル比は0.4~1.2である。このモル比が0.4未満になると、組成物の粘度が非常に高くなり、1.2を超えると硬化物の力学的特性が低下することがある。
組成物の粘度、および硬化物の力学的特性をより適切な範囲とすることを考慮すると、上記モル比は、0.6~1.2が好ましい。
また、MA単位とM単位のモル比により、硬化物のゴム物性を調整できる。MA単位の比が大きくなるにつれ硬化物の硬度が上がる傾向にあるが、脆くならない強度を考慮すると、MA単位:M単位=0.01~1:1が好ましく、0.05~0.5:1がより好ましい。
(c)Q単位の含有量は、好ましくは(B)成分のシリコーンレジン中の全シロキサン単位の5モル%以上、より好ましくは10モル~95モル%、特に好ましくは20~60モル%である。
【0021】
(B)成分のシリコーンレジンは、単離精製の面から重量平均分子量500~100,000の範囲のものが好ましい。なお、重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(溶媒THF)によるポリスチレン換算値である。
(B)成分100gあたり0.005mol以上のSi-OH基を有することが必要であり、特に、100gあたり0.007~0.03molのSi-OH基を有することが好ましい。
シリコーンレジン中の縮合に関与していないSi-OH基により(C)成分の活性化を促し、室温硬化性を格段に向上させることができるが、Si-OH基が(B)成分100gあたり0.005molより少ないと、十分に(C)成分を活性化することができない。
このようなシリコーンレジンは、公知の方法で製造することができ、例えば、それぞれの単位源となるアルコキシシラン化合物を、生成単位が所要の割合となるように組み合わせ、酸の存在下で(共)加水分解縮合して製造することができる。
【0022】
(B)成分の配合量は、(A)成分100質量部に対して1~1,000質量部であり、好ましくは5~500質量部、より好ましくは10~200質量部である。(B)成分の配合量が1質量部未満の場合には、目標とする硬化性が得られないことがあり、1,000質量部を超える場合には、組成物の粘度が著しく高くなり、取扱いが困難になる。
なお、(B)成分は、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0023】
[3](C)成分
本発明の酸素硬化性シリコーン組成物における(C)成分は、下式(3)で表されるオルガノボラン錯体であり、酸素の存在下で重合開始剤となる活性ラジカル種を発生させる。
【0024】
【化6】
【0025】
式(3)において、R4は、それぞれ独立して炭素原子数1~10の一価炭化水素基を表し、R5およびR6は、それぞれ独立して炭素原子数1~10の一価炭化水素基であるが、R5とR6とが結合して2価の連結基を形成していてもよい。
上記R4の炭素原子数1~10の一価炭化水素基の具体例としては、メチル、エチル、n-プロピル、n-ブチル、n-ペンチル、n-ヘキシル、n-オクチル基等の炭素原子数1~10のアルキル基;ビニル、アリル(2-プロペニル)、1-ブテニル、1-オクテニル基等の炭素原子数2~10のアルケニル基;フェニル、ナフチル基等の炭素原子数6~10のアリール基などが挙げられる。
なお、これらの基の水素原子の一部または全部は、ハロゲン原子(例えば、塩素原子、臭素原子、フッ素原子)で置換されていてもよい。
中でも、R4はアルキル基が好ましく、メチル基、エチル基がより好ましく、酸素原子に結合するR4がメチル基で、ホウ素に結合するR4がエチル基の組み合わせがより一層好ましい。
【0026】
5およびR6の炭素原子数1~10の一価炭化水素基としては、上記R3で例示した一価炭化水素基と同様の基が挙げられる。また、R5とR6とが結合した2価の連結基(すなわち環状構造)の具体例としては、メチレン、エチレン、プロピレン、トリメチレン、ペンタメチレン、ヘキサメチレン、ヘプタメチレン、オクタメチレン、ノナメチレン、デカメチレン基等の炭素原子数1~10の直鎖、分岐または環状のアルキレン基;フェニレン、ナフチレン基等の炭素原子数6~10のアリーレン基などが挙げられる。
特に、R5とR6とが結合して形成される2価の連結基はアルキレン基が好ましく、R5、R6および酸素原子から形成される環状構造がテトラヒドロフラン(THF)環であることがより好ましい。
【0027】
(C)成分の具体例としては、メトキシジエチルボランTHF錯体(MDEB)等が挙げられる。
(C)成分の添加量は、(A)成分100質量部に対して、0.01~20質量部であるが、好ましくは0.05~10質量部、より好ましくは、0.05~5質量部である。0.01質量部未満であると硬化性が不足し、20質量部を超える添加量では、硬化速度の上昇により取り扱いが困難となったり、得られる硬化物の物性が低下したりするおそれがある。
【0028】
[4]その他の成分
本発明の酸素硬化性シリコーン組成物は、上述した必須の(A)~(C)成分に加え、必要に応じて補強、粘度調整、耐熱性向上、難燃性向上などを目的とする酸化チタン、酸化鉄、酸化アルミニウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウムなどの充填剤;シランカップリング剤、重合禁止剤、酸化防止剤、光安定化剤等の添加剤を配合することができる。
なお、本発明の組成物は他の樹脂組成物と適宜混合して使用することもできる。
【0029】
また、本発明の酸素硬化性シリコーン組成物には、得られる硬化物の硬度を向上させる目的で、シロキサン構造を有しない(メタ)アクリレート化合物を添加してもよい。
シロキサン構造を有しない単官能(メタ)アクリレート化合物の具体例としては、イソアミルアクリレート、ラウリルアクリレート、ステアリルアクリレート、エトキシ-ジエチレングリコールアクリレート、メトキシ-トリエチレングルコールアクリレート、2-エチルヘキシル-ジグルコールアクリレート、フェノキシエチルアクリレート、フェノキシジエチレングリコールアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、イソボルニルアクリレート等が挙げられ、これらは1種単独で用いても、2種以上組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、イソボルニルアクリレートが好ましい。
【0030】
シロキサン構造を有しない多官能(メタ)アクリレート化合物の具体例としては、トリエチレングルコールジアクリレート、ポリテトラメチレングルコールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート、ジメチロール-トリシクロデカンジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート等が挙げられ、これらは1種単独で用いても、2種以上組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、ジメチロール-トリシクロデカンジアクリレートが好ましい。
【0031】
これらの(メタ)アクリレート化合物を用いる場合の配合量は、(A)成分100質量部に対し、1~1,000質量部が好ましく、より好ましくは1~100質量部である。このような範囲であれば、より硬度に優れた硬化物が得られる。
【0032】
本発明の酸素硬化性シリコーン組成物は、上記(A)~(C)成分、および必要に応じて用いられるその他の成分を、酸素の非存在下で混合し、撹拌等することで製造することができる。なお、任意の成分を2液に分割し、使用前に混合することもできる。
【0033】
本発明の酸素硬化性シリコーン組成物の粘度は、特に限定されるものではないが、25℃において、0.1~50mPa・sが好ましく、1~20mPa・sがより好ましい。粘度は、回転粘度計による測定値である。
本発明の酸素硬化性シリコーン組成物は、酸素存在環境下にさらすことより速やかに硬化する。硬化は、望ましくは大気下で行う。
硬化時間は、例えば、本発明の組成物を2.0mm程度の厚みに成形したシートに対して、好ましくは30分以上であり、より好ましくは1時間以上である。
また、本発明の酸素硬化性シリコーン組成物からなる硬化物の硬度は1以上90未満(TypeA)が好ましく、10以上85未満(TypeA)であることがより好ましく、引張強さは0.8MPa以上が好ましく、1.0MPa以上がより好ましい。
なお、これらの値は、JIS-K6249:2003に準じて測定したときの値である。硬度は(B)成分の含有量により調整できる。
【実施例
【0034】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
なお、下記の例で、組成物の粘度は、25℃において、回転粘度計を用いて測定した値である。Si-OH量は29Si-NMR測定により算出した。
【0035】
[1]シリコーン組成物およびその硬化物の製造
[実施例1~4、比較例1~3]
下記(A)~(C)成分を、表1に示す配合量(質量部)にて混合し、シリコーン組成物を調製した。
【0036】
(A-1):上述した方法により製造した下記式で表されるオルガノポリシロキサン
【化7】
【0037】
(A-2):上述した方法により製造した下記式で表されるオルガノポリシロキサン
【化8】
(式中、括弧が付されたシロキサン単位の配列順は不定である。)
【0038】
(B)成分
(B-1):構成単位が、下記式で表される単位:Me2ViSiO1/2単位(Viはビニル基を意味する。):Me3SiO1/2単位:SiO2単位=0.14:0.03:0.67:1.00(モル比)であるシリコーンレジン(Si-OH量0.016mol/100g、数平均分子量5,700)
【化9】
【0039】
(B-2):構成単位が、Me2ViSiO1/2単位:Me3SiO1/2単位:SiO2単位=0.17:0.67:1.00(モル比)であるシリコーンレジン(Si-OH量 0.016mol/100g、数平均分子量5,700)
【0040】
(C)成分
(C-1):メトキシジエチルボランTHF錯体(MDEB)(50%THF溶液、BASF社製)
【0041】
【表1】
【0042】
上記各実施例および比較例で作製したシリコーン組成物を、型に流した上にテフロン(登録商標)シートを載せ、23℃の大気下で4時間静置して厚さ2.0mmの硬化シートを得た。得られた硬化シートについて、硬度、引張強さ、伸び、硬化後密度をJIS-K6249:2003に準じて測定した。それらの結果を表2に示す。
【0043】
【表2】
【0044】
表2に示されるように、実施例1~4で調製した本発明の酸素硬化性シリコーン組成物は23℃で硬化し、1.0MPa以上の引張強さを持つ硬化物を与えることがわかる。一方、(B)成分を含まない比較例1では23℃、4時間で硬化が起きていないことがわかる。また、本発明の(B)成分に代えて、(メタ)アクリロイルオキシ含有基を有しない(B-2)を用いた比較例2,3では、十分な引張強さを持つ硬化物が得られていないことがわかる。