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特許7156279メタルマスク用薄板の製造方法及びメタルマスク用薄板
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  • 特許-メタルマスク用薄板の製造方法及びメタルマスク用薄板 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-11
(45)【発行日】2022-10-19
(54)【発明の名称】メタルマスク用薄板の製造方法及びメタルマスク用薄板
(51)【国際特許分類】
   C21D 9/46 20060101AFI20221012BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20221012BHJP
   C22C 38/08 20060101ALI20221012BHJP
   C22C 38/10 20060101ALI20221012BHJP
【FI】
C21D9/46 P
C22C38/00 302Z
C22C38/08
C22C38/10
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019525659
(86)(22)【出願日】2018-06-20
(86)【国際出願番号】 JP2018023443
(87)【国際公開番号】W WO2018235862
(87)【国際公開日】2018-12-27
【審査請求日】2021-05-14
(31)【優先権主張番号】P 2017120193
(32)【優先日】2017-06-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(72)【発明者】
【氏名】大森 章博
(72)【発明者】
【氏名】森 英樹
【審査官】河野 一夫
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-060525(JP,A)
【文献】特開2017-064764(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21D 9/46
C22C 38/00
C22C 38/08
C22C 38/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、C:≦0.01%、Si:≦0.5%、Mn:≦1.0%、Ni+Co:28~52%(但し、Coは0~20%)を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなる冷間圧延用素材に対して、
圧下率5%~50%の仕上冷間圧延を施して薄板とする仕上冷間圧延工程と、
前記仕上冷間圧延後の薄板に、伸び率0.25%~0.6%の形状矯正を行う形状矯正工程と、
前記形状矯正後の薄板に、薄板のビッカース硬度が0.85n~0.97n(n=形状矯正後の薄板のビッカース硬度)となるように熱処理する、最終熱処理工程と、
を備え、厚さ1.0mm以下のメタルマスク用薄板を得ることを特徴とする、メタルマスク用薄板の製造方法。
【請求項2】
前記形状矯正工程と前記最終熱処理工程との間に、薄板のビッカース硬度が0.98n以上となるように薄板を熱処理する歪取り焼鈍工程を備えることを特徴とする、請求項1に記載のメタルマスク用薄板の製造方法。
【請求項3】
質量%で、C:≦0.01%、Si:≦0.5%、Mn:≦1.0%、Ni+Co:28~52%(但し、Coは0~20%)を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなり、厚さが1.0mm以下のメタルマスク用薄板において、
前記薄板のビッカース硬度が160HV以上であり、
前記薄板の800mm長さにおける最大浮上がり高さは2mm以下であり、
前記メタルマスク用素材から長さ150mm、幅30mmの試料を切り出し、前記試料を片側からエッチングし、前記試料の板厚の1/3を除去したときの反り量が20mm以下であり、
前記メタルマスク用薄板の結晶粒度番号は、8.0超であることを特徴とする、メタルマスク用薄板
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタルマスク用薄板の製造方法及びメタルマスク用薄板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば有機ELディスプレイの作製において、基板へ蒸着しカラーパターニングを形成する為にメタルマスクが用いられている。このようなメタルマスクは、開孔部を作製する方法の一つとして、Fe-Ni系合金の薄板にエッチング加工を行う方法が知られている。このエッチング精度を向上させるために、従来より様々な検討がなされている。例えば特許文献1には、Niを32~38wt%含むFe-Ni系合金を、冷間圧延後、伸長率0.4~3%の歪みを付与して形状矯正を行い、引き続いて薄板温度550~690℃、張力2kgf/mm以下の条件で歪取り焼鈍を行うことを特徴とする板形状および耐熱収縮性に優れたFe-Ni系低熱膨張合金薄板の製造方法について開示されている。また特許文献2には、Fe-Ni-Co系低熱膨張合金薄板のエッチング速度とエッチング精度を向上させるために、熱延材に冷間圧延および焼鈍をそれぞれ1回以上行い、最終再結晶焼鈍の前の冷間圧延の冷圧率を90%以上、最終再結晶焼鈍の焼鈍温度を850℃以上、最終冷圧率を30%以下とする低熱膨張合金薄板の製造方法について開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平10-204541公報
【文献】特開2003-253398号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年の製品の複雑化や高精度化により、これらの素材となるFe-Ni系の薄板にも広幅・エッチング面の高い平坦度・エッチング後の反り抑制が要求されている。平坦度を向上させるためには、従来より形状矯正が有効であるが、形状矯正時に薄板に付与される残留応力がエッチング時に解放されることで反りが発生し、問題となる。このような残留応力を低減および除去する方法として、薄板の再結晶温度に達しない温度で焼鈍し、歪みを除去する歪取り焼鈍が知られている。しかし製品形状の多様化や複雑化に伴って、広幅な薄板が用いられるようになってきたが、広幅の薄板にハーフエッチングを施す場合、薄板内に残存している加工歪の影響により反りが発生する傾向にあった。一方残留応力を完全に除去するために歪取り焼鈍の温度を高くした場合、材料の軟化により薄板の硬さが低下する。薄板の硬さが低下すると、板材の搬送時に折れや曲りが発生しやすくなり、ハンドリング性の低下が懸念される。特許文献1に記載の発明は耐熱収縮性や平坦度を改善することができる発明であるが、広幅な薄板にハーフエッチングを施した際に発生する反り抑制については考慮されておらず、検討の余地が残されている。また特許文献2に記載の発明は、圧延面の(200)面集積度を高めてエッチング精度を高めることができる発明であるが、仕上げ圧延後の形状矯正や最終熱処理についての記載は確認できず、さらなる反り抑制や平坦度向上について検討の余地が残されている。
そこで本発明の目的は、厚さが1.0mm以下のメタルマスク用薄板において、良好な平坦度、耐エッチング反り性、および硬度を備えることが可能な、メタルマスク用薄板とその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様は、質量%で、C:≦0.01%、Si:≦0.5%、Mn:≦1.0%、Ni+Co:28~52%(但し、Coは0~20%)を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなる冷間圧延用素材に対して、
圧下率5~50%の仕上冷間圧延を施して薄板とする仕上冷間圧延工程と、
前記仕上冷間圧延後の薄板に、伸び率0.25%~0.6%の形状矯正を行う形状矯正工程と、
前記形状矯正後の薄板に、薄板のビッカース硬度が0.85n~0.97n(n=形状矯正後の薄板のビッカース硬度)となるように熱処理する、最終熱処理工程と、
を備え、厚さ1.0mm以下のメタルマスク用薄板を得ることを特徴とする、メタルマスク用薄板の製造方法である。好ましくは、前記形状矯正工程と前記最終熱処理工程との間に、薄板のビッカース硬度が0.98n以上となるように薄板を熱処理する歪取り焼鈍工程を備える。
【0006】
本発明の他の一態様は、質量%で、C:≦0.01%、Si:≦0.5%、Mn:≦1.0%、Ni+Co:28~52%(但し、Coは0~20%)を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなり、厚さが1.0mm以下のメタルマスク用薄板において、
前記薄板のビッカース硬度が160HV以上であり、
前記薄板の800mm長さにおける最大浮上がり高さは2mm以下であり、
前記薄板から長さ150mm、幅30mmの試料を切り出し、前記試料を片側からエッチングし、前記試料の板厚の1/3を除去したときの反り量が20mm以下であることを特徴とする、メタルマスク用薄板である。
好ましくは、前記メタルマスク用薄板の結晶粒度番号は、8.0超である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、厚さが1.0mm以下のメタルマスク用薄板において、平坦度、耐エッチング反り性、および硬度が全て良好な特性を示し、深いハーフエッチングでも材料が変形しにくく、高精度なエッチングを可能とするメタルマスク用薄板とその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明のFe-Ni系合金薄板の表面拡大写真である。
図2】比較例のFe-Ni系合金薄板の表面拡大写真である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に本発明の実施形態について説明する。まず、本発明のメタルマスク用薄板の製造方法について説明する。
<熱間圧延材組成>
本発明では、質量%でC:≦0.01%、Si:≦0.5%、Mn:≦1.0%、Ni+Co:28~52%を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなる組成を有する熱間圧延材を準備する。本発明で規定する組成を有するメタルマスク用鋼板の熱間圧延材は、所望の熱膨張係数を得るために必要な組成を有するものである。上述した組成範囲の規定理由は以下のとおりである。
[C:≦0.01質量%]
Cは、エッチング性に影響を及ぼす元素である。Cが過度に多く含まれるとエッチング性を阻害するため、Cの上限を0.01%とした。下限は0%でも良いが、製造工程上少なからず含まれるものであるため、特に限定しない。
[Si:≦0.5質量%、Mn:≦1.0質量%]
Si、Mnは、通常、脱酸の目的で使用され、Fe-Ni系合金に微量含有されている。過剰に含有すれば偏析を起こし易くなるため、Si:0.5%以下、Mn:1.0%以下とした。好ましいSi量とMn量は、Si:0.1%以下、Mn:0.5%以下である。SiとMnの下限は特に限定しないが、例えばSiは0.05%、Mnは0.05%と設定することができる。
[Ni+Co:28~52質量%]
Niは、熱膨張係数を調整する作用を有し、低熱膨張特性に大きな影響を及ぼす元素である。含有量が28%より少なく、または52%を超えるものでは熱膨張係数を低減させる効果がなくなるため、Niの範囲は28~52%とする。好ましいNi量の下限は30%であり、より好ましいNi量の下限は32%であり、さらに好ましいNi量の下限は34%である。また、好ましいNi量の上限は50%であり、より好ましいNi量の上限は45%であり、さらに好ましいNi量の上限は38%である。上記以外を構成するのはFe及び不可避的不純物である。この熱間圧延材の板厚は特に規定しないが、厚すぎると後工程の冷間圧延工程のパス数が増えたり、圧延時の形状調整が困難となる場合があるので、厚み上限を5mmに設定することが現実的である。また本実施形態では、熱膨張特性の調整や高強度を持たせるために、Niの一部をCoで置換することができる。上述した効果を材料に付与させやすくするために、Coの上限は20%と設定することが好ましい。より好ましいCoの上限は18%であり、さらに好ましいCoの上限は6%であり、最も好ましいCoの上限は1%である。
【0010】
<冷間圧延用素材>
本実施形態では、前述の熱間圧延材を用いて冷間圧延用素材とする。上述した熱間圧延材には酸化層が形成されていることから、その酸化層を、例えば、機械的或いは化学的に除去してもよい。また、冷間圧延中の冷間圧延材のエッジから割れ等の不良が発生しないように、エッジをトリミング等により整えておいてもよい。また必要に応じて、冷間圧延前の段階で1200℃程度で均質化熱処理を行っても良い。このような加工を行って冷間圧延用素材とすることができる。
【0011】
<中間冷間圧延、中間焼鈍>
本発明では、後述する仕上冷間圧延の前に、板厚を調整するために1回以上の中間冷間圧延を施しても良い。本実施形態では中間冷間圧延を導入した場合について説明するが、熱間圧延後の時点で所望の板厚に調整できている場合は、中間冷間圧延を省略してもよい。また、中間冷間圧延後の薄板には、加工硬化した材料を軟化させ、加工歪みを除去するために、中間焼鈍を施しても良い。この中間焼鈍の温度は800℃以上の温度に設定すればよい。焼鈍時の温度が800℃未満の場合、材料が十分に軟化せず、所望の特性が得られない可能性がある。焼鈍温度の上限は特に限定しないが、過剰に温度を上げ過ぎた場合も所望の特性が得られない可能性が高いため、1100℃程度と設定することができる。このときの加熱保持時間は、材料の組成や板厚に合わせて適宜調整すればよい。尚、この再結晶焼鈍は、所望の温度に設定された加熱炉に中間冷間圧延後の薄板を連続的に通して行うことができる。例えば、中間冷間圧延後の薄板がロール状に巻かれた状態から引き出し、加熱炉を通り、ロール状に巻き取る方法で行うことができる。
【0012】
<仕上冷間圧延>
本実施形態の製造方法では、前述した中間冷間圧延後または中間焼鈍後の材料に、もしくは中間冷間圧延を施さない冷間圧延用素材に、圧下率5%以上50%以下の仕上冷間圧延を施すことを特徴とする。上述した圧下率の範囲に収めることで、仕上冷間圧延材の中央部と端部との伸び差を縮めることで過大な波形状の発生を抑制し、後述する形状矯正工程後で平坦な形状に調整し易くすることが出来る。圧下率が5%を下回る場合、中伸びが発生し、形状矯正後の薄板中央部の平坦度が低下する傾向にある。また圧下率が5%を下回る場合、後述する最終熱処理において、薄板の再結晶化が過大に促進されやすくなるため、薄板の硬度が低下する傾向にある。圧下率が50%超の場合、端波が強くなり、形状矯正後で平坦度が低下する傾向にある。好ましい圧下率の下限は15%であり、より好ましい圧下率の下限は20%である。また、好ましい圧下率の上限は40%であり、さらに好ましい圧下率の上限は30%である。ここで仕上冷間圧延のパス数は、1パスであることが好ましい。なお本実施形態の製造方法は、幅が300~1100mmの鋼帯に適用することが好ましい。好ましい鋼帯の幅の下限は500mmであり、さらに好ましい鋼帯の幅の下限は700mmである。また、本実施形態のメタルマスク用薄板に適した板厚は1mm以下であり、好ましくは0.8mm以下、より好ましくは0.5mm以下である。なお板厚の下限は特に限定しないが、あまりに薄すぎるとハーフエッチングに不適であるため、例えば0.01mmと設定することができる。好ましくは、0.05mmであり、より好ましくは0.08mmであり、さらに好ましくは0.1mmである。
【0013】
<形状矯正工程>
本実施形態の製造方法では、仕上冷間圧延を終えた薄板に形状矯正を行う。これにより薄板に残存している過大な耳波や中伸びを矯正し、平坦度を大幅に向上させることが可能となる。この形状矯正に用いる装置は、ローラレベラーやテンションレベラー等、従来から用いられている形状矯正装置を使用することができる(本実施形態ではテンションレベラーを使用する)。ここで形状矯正は、伸び率を0.25%~0.6%に設定する。伸び率が0.6%を超える場合、薄板に過大な張力が付与されるため、薄板が破断するリスクが高まる。また伸び率が0.25%未満となる場合、形状矯正効果が不十分となり、目標の平坦度に到達できない可能性がある。より好ましい伸び率の下限は0.3%であり、より好ましい伸び率の上限は0.5%である。なお本実施形態における形状矯正の回数上限は、回数が多すぎると所望の形状が得られない可能性があるため、2回と設定することができる。2回程度であれば十分な形状矯正効果が得られる傾向にある。
【0014】
<最終熱処理工程>
本実施形態では、形状矯正を終えた薄板に対して、薄板のビッカース硬度が0.85n~0.97n(n=形状矯正後の薄板のビッカース硬度)となるように熱処理を行う、最終熱処理工程を有する。前述した形状矯正工程によって、本実施形態の薄板は見た目上平坦となっているが、内部応力のバランスを整えているだけであり、歪み自体は残存している。この熱処理を行うことで、薄板内の残留歪みをより解放する事ができ、エッチング後の薄板の反りおよび平坦度を大幅に向上させることが可能となる。ここでビッカース硬度を上記の範囲内に収めるためには、薄板の材質やサイズに合わせて熱処理温度や熱処理時間を適宜調整すればよい。例えばNi:34~38%を含み、厚みが1.0mm以下で、仕上冷間圧延後の薄板の硬さが180~220HVであるFe-Ni系合金薄板の場合、熱処理温度は750℃以上800℃未満、熱処理時間は30~70秒と設定することで、薄板のビッカース硬度を0.85n~0.97nに調整することが可能となる。より好ましい熱処理温度は、770℃以上790℃未満である。ビッカース硬度が0.85n未満となるような熱処理を行った場合、硬度が低すぎるため、特に広幅な薄板において搬送時に折れや曲りが発生する傾向にある。ビッカース硬度が0.97n超の場合、薄板内の歪みが十分に除去できず、エッチング時に反りが発生する可能性がある。より好ましい硬度の下限は0.88nであり、さらに好ましい硬度の下限は0.90nである。また、より好ましい硬度の上限は0.95nであり、さらに好ましい硬度の上限は0.92nである。
【0015】
なお本実施形態では上述した形状矯正工程と最終熱処理工程との間に、再結晶温度以下で焼鈍し、薄板内の歪みを除去する歪取り焼鈍工程を加えても良い。この歪取り焼鈍を導入することによって、最終熱処理後の薄板の反りをさらに抑制することが可能である。歪取り焼鈍温度は、薄板のビッカース硬度が0.98n以上となるように熱処理を行うことが好ましい。本実施形態では例えば400℃以上750℃未満に設定することが好ましい。より好ましい歪取り焼鈍温度の下限は550℃であり、より好ましい歪取り焼鈍温度の上限は710℃である。
【0016】
続いて本発明の製法によって得られたメタルマスク用薄板について説明する。本発明のメタルマスク用薄板は、板厚1.0mm以下であり、ビッカース硬度が160HV以上であり、薄板の800mm長さにおける最大浮上がり高さは2mm以下であり、メタルマスク用薄板から長さ150mm、幅30mmの試料を切り出し、前記試料を片側からエッチングし、前記試料の板厚の1/3を除去したときの反り量が20mm以下である。なお板厚は、好ましくは0.8mm以下、より好ましくは0.5mm以下である。なお板厚の下限は特に限定しないが、あまりに薄すぎるとハーフエッチングに不適であるため、例えば0.01mmと設定することができる。好ましくは、0.05mmであり、より好ましくは0.08mmであり、さらに好ましくは0.1mmである。
【0017】
<反り量>
本実施形態のメタルマスク用薄板は、長さ方向(圧延方向)に150mm、幅方向(圧延直角方向)に30mmの試料サイズに切断し、その試料を片側からエッチングし、試料の板厚の1/3を除去した際における反り量が20mm以下であることを特徴とする。これにより、本実施形態の薄板は板厚中央の位置における圧縮残留応力が低減されていることが分かり、応力のバランスがより崩れる板厚中央の深さまでエッチングを行っても、変形を抑制し、良好にエッチング加工を進行させることができる。板厚の1/3を除去した際の反り量が20mm以下であれば、深い断面位置の残留ひずみも解放されているとみなすことができる。そのため多様な深さのハーフエッチングに対応でき、エッチングパターンの自由度を向上させることができる。より好ましい反り量の上限は15mmであり、さらに好ましい反り量の上限は13mmである。なお本実施形態では、長手方向が圧延方向となるように試料を切断して長さ150mm、幅30mmのカットサンプルを作製し、板厚の1/3を片側からエッチングで除去した後、カットサンプルの上端を垂直定盤に接する状態で吊り下げ、反りにより垂直定盤から離れたカットサンプルの下端と、垂直定盤との水平距離を反り量として測定している。本実施形態では、エッチング面が凹側に反った場合を「+」の反り、エッチング面が凸側に反った場合を「-」の反りとしている。この反り量の絶対値は小さければ小さい方が好ましい。このカットサンプルは、メタルマスク用薄板の任意の箇所から切り出せばよいが、薄板の幅方向の中央部付近から切り出すことが好ましい。
【0018】
<浮上がり高さ>
本実施形態のメタルマスク用薄板は、800mm長さにおける最大浮上がり高さが2.0mm以下であることも特徴である。上述した数値範囲内に浮上がり高さを収めることで、エッチングの進行ムラを抑制し、エッチングの形状精度をより向上させる効果が期待できる。より好ましい最大浮上がり高さの値は1.8mm以下であり、さらに好ましい最大浮上がり高さの値は1.6mm以下である。なお本実施形態では、三次元形状測定器を用いて、試験片を水平定盤に置いた状態から、三次元形状測定器を用いて浮上り高さを測定した。この浮上がり高さも小さければ小さい方が好ましい。
【0019】
<硬さ>
本実施形態のメタルマスク用薄板は、ビッカース硬度で160HV以上である。これにより本実施形態のメタルマスク用薄板は、例えば300mm以上といった広幅な薄板においても、ハンドリング性の低下を抑制することが可能である。より好ましく170HV以上、さらに好ましくは180HV以上である。硬さの上限は特に限定しないが、特別な強化元素を含有していないため、350HV程度に設定することができる。
【0020】
本実施形態のメタルマスク用薄板は、ASTM E112で規定される結晶粒度番号が8.0超であることが好ましい。このように微細な結晶粒径を有することで、上述したような薄板の硬度等の特性を安定して発揮することができる。より好ましい結晶粒度番号は、8.5以上であり、さらに好ましくは、9.0以上である。結晶粒度番号の上限は規定しないが、あまりに微細すぎると製造が困難となるため、13.0以下と定義することができる。なお本実施形態では、薄板を適度な大きさに裁断し、観察する面を酸性溶液等で溶解したのち、光学顕微鏡(倍率:200倍)の視野から結晶粒度番号を測定することができる。
【実施例
【0021】
(実施例1)
表1の組成を有するFe-Ni系合金に熱間プレス及び熱間圧延を行って厚さ3.0mmの熱間圧延材を準備した。前述の熱間圧延材を化学研摩、機械研磨にて熱間圧延材表面の酸化層を除去し、トリム加工で素材幅方向の両端部にある熱間圧延時の亀裂を除去して厚さ1.55mm、幅1040mmの冷間圧延用素材を準備した。次に、前述の冷間圧延用素材を本発明例と比較例に分け、それぞれに中間冷間圧延及び中間焼鈍を施し、厚さ0.2mmの中間冷延素材を作製した。その後、本発明例および比較例ともに、圧下率27%で1パスの仕上冷間圧延を施して薄板形状とした。その後表2に示す工程を施して、本発明例と比較例の試料を作製した。ここで形状矯正における伸び率は、本発明例・比較例ともに0.4%とした。また歪取り焼鈍の温度は、本発明例・比較例ともに630℃であり、最終熱処理時間は55秒であった。
【0022】
作製した本発明例・比較例の試料から各種試験片を採取し、それぞれの試験を行った。試験の結果を表2に示す。ビッカース硬さはJIS-Z2244に規定された方法に従い、3点測定した値の平均値とした。荷重は1kgに設定した。また反りの測定は、長さ150mm、幅30mmのカットサンプルを作製し、板厚の1/3を片側からエッチングにより除去した後、カットサンプルを垂直上盤に吊下げた際の反り量を測定し、評価を行った。なお上記カットサンプルは、長さ方向が圧延方向となるように、作製した試料の幅方向中央部から採取した。エッチング液は塩化第二鉄水溶液を使用し、液温50℃のエッチング液を噴霧させ試験片の腐食を実施した。最大浮上がり高さは三次元形状測定器を用いて、長さ800mmに切断した試験片を水平定盤に置いた状態から浮上り高さを測定した。なおNo.1、No.3において、歪取り焼鈍後の硬さは0.99nであった。
【0023】
【表1】
【0024】
【表2】
【0025】
表2に示すように、適正な条件で仕上冷間圧延-形状矯正-最終熱処理を行った本発明例の試料は、反り量、浮上がり高さ、硬さの全てが良好な値を示し、エッチング後の形状変化を抑制でき、メタルマスク用途に最適な薄板であることが確認できた。対して形状矯正後に最終熱処理を行わず、低温の歪取り焼鈍のみ行った比較例No.11は、エッチング後の反りが非常に大きな値となった。また最終熱処理の温度が高い比較例No.12は、残留応力の解放により反り量は非常に小さいが、硬さが低すぎるため、ハンドリング性の観点から不良である。また、浮上がり高さも実施例の試料の中で最も大きい値であることを確認した。
【0026】
(実施例2)
続いて、本発明例と比較例との試料の組織を観察した。実施例1のNo.1の本発明例の製造方法を適用し、最終熱処理条件を調整して硬度を172HV(0.86n、nは形状矯正後の薄板の硬さ)とした本発明例である試料No.4と、試料No.4の製法よりも最終熱処理の温度を高く設定し、硬度が120HV(0.60n)になるように調整した比較例である試料No.13を作製した。なお本発明例4は事前に反り量、浮上り高さを測定し、実施例1のNo.1と同水準であることを確認した。準備した試料は10×50mmのサイズに裁断した後、結晶粒の観察を容易にするために酸性溶液で試料表面を0.01mmほど溶解し、光学顕微鏡にて0.13mmの視野を200倍で観察した。本発明例の表面写真を図1に、比較例の表面写真を図2に示す。図1および図2から結晶粒度番号を求めた結果、比較例の結晶粒度番号が7.4であり、本発明例の結晶粒度番号は9.5であった。これにより本発明例の試料は比較例よりも細粒であり、上述したような高硬度、低反りといった特性を発揮しやすい組織であることが確認できた。以上より、本発明の製造方法を適用して作製した本発明の薄板は、硬さ・反り・平坦度のバランスに優れており、深いハーフエッチングを行っても高精度なエッチング加工が期待できる。

図1
図2