(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-11
(45)【発行日】2022-10-19
(54)【発明の名称】電気化学素子電極用バインダー組成物、電気化学素子電極用スラリー組成物、電気化学素子用電極、および電気化学素子、並びに電気化学素子用電極の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/62 20060101AFI20221012BHJP
H01M 4/131 20100101ALI20221012BHJP
H01M 4/139 20100101ALI20221012BHJP
H01M 4/1391 20100101ALI20221012BHJP
【FI】
H01M4/62 Z
H01M4/131
H01M4/139
H01M4/1391
(21)【出願番号】P 2019526939
(86)(22)【出願日】2018-06-26
(86)【国際出願番号】 JP2018024204
(87)【国際公開番号】W WO2019004216
(87)【国際公開日】2019-01-03
【審査請求日】2021-05-13
(31)【優先権主張番号】P 2017128070
(32)【優先日】2017-06-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100150360
【氏名又は名称】寺嶋 勇太
(74)【代理人】
【識別番号】100175477
【氏名又は名称】高橋 林太郎
(72)【発明者】
【氏名】召田 麻貴
(72)【発明者】
【氏名】園部 健矢
(72)【発明者】
【氏名】高橋 直樹
【審査官】村守 宏文
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/157842(WO,A1)
【文献】英国特許出願公告第01368780(GB,A)
【文献】国際公開第2008/032699(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/62
H01M 4/131
H01M 4/139
H01M 4/1391
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合体を含有する電気化学素子電極用バインダー組成物であって、
前記重合体が、ニトリル基含有単量体単位と、少なくとも2種の脂肪族共役ジエン単量体単位とを含
み、
前記脂肪族共役ジエン単量体単位が、炭素原子数5以上12以下の脂肪族共役ジエン単量体単位および1,3-ブタジエン単位を含み、前記重合体中の前記1,3-ブタジエン単位の割合に対する前記炭素原子数5以上12以下の脂肪族共役ジエン単量体単位の割合の比が1超である、電気化学素子電極用バインダー組成物。
【請求項2】
前記重合体中の前記炭素原子数5以上12以下の脂肪族共役ジエン単量体単位の割合が、1質量%以上50質量%以下である、請求項
1に記載の電気化学素子電極用バインダー組成物。
【請求項3】
前記重合体中の前記1,3-ブタジエン単位の割合が、1質量%以上50質量%以下である、請求項
1または2に記載の電気化学素子電極用バインダー組成物。
【請求項4】
前記重合体中の前記ニトリル基含有単量体単位の割合が、20質量%以上85質量%以下である、請求項1~
3の何れかに記載の電気化学素子電極用バインダー組成物。
【請求項5】
前記重合体中の前記1,3-ブタジエン単位の割合に対する前記炭素原子数5以上12以下の脂肪族共役ジエン単量体単位の割合の比が、
1超50以下である、請求項1~
4の何れかに記載の電気化学素子電極用バインダー組成物。
【請求項6】
電極活物質と、請求項1~
5の何れかに記載の電気化学素子電極用バインダー組成物とを含む、電気化学素子電極用スラリー組成物。
【請求項7】
前記電極活物質が、ニッケルを含有する電極活物質である、請求項
6に記載の電気化学素子電極用スラリー組成物。
【請求項8】
請求項
6または
7に記載の電気化学素子電極用スラリー組成物を用いて形成した電極合材層を備える、電気化学素子用電極。
【請求項9】
請求項
8に記載の電気化学素子用電極を備える、電気化学素子。
【請求項10】
請求項
6または
7に記載の電気化学素子電極用スラリー組成物を集電体上に塗布する工程と、
前記集電体上に塗布された前記電気化学素子電極用スラリー組成物を乾燥して、前記集電体上にプレス前電極合材層を形成する工程と、
前記プレス前電極合材層を、500kN/cm以上3000kN/cm以下の線圧でロールプレスして、プレス後電極合材層を得る工程と、を含む、
電気化学素子用電極の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気化学素子電極用バインダー組成物、電気化学素子電極用スラリー組成物、電気化学素子用電極、および電気化学素子、並びに電気化学素子用電極の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池や電気二重層キャパシタなどの電気化学素子は、小型で軽量、且つ、エネルギー密度が高く、更に繰り返し充放電が可能という特性があり、幅広い用途に使用されている。
【0003】
ここで、例えばリチウムイオン二次電池用の電極は、通常、集電体と、集電体上に形成された電極合材層(正極合材層または負極合材層)とを備えている。そして、この電極合材層は、例えば、電極活物質と、結着材を含むバインダー組成物などとを含むスラリー組成物を集電体上に塗布し、塗布したスラリー組成物を乾燥させることにより形成される。
【0004】
そこで、近年では、電気化学素子の更なる性能の向上を達成すべく、電極合材層の形成に用いられるバインダー組成物の改良が試みられている(例えば、特許文献1および2参照)。
特許文献1では、結着材として、水素添加されたカルボキシ変性ゴムを用いてリチウムイオン二次電池用負極を作製することで、負極剥離強度を高めて、リチウムイオン二次電池のハイレート放電特性およびサイクル特性を向上させている。
特許文献2では、結着材としてカルボキシ変性ゴムを用い、且つ分散剤として塩基を用いて電池用電極板を作製することで、当該電池用電極板の剥離強度を高めて、電池のサイクル特性を向上させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平11-111268号公報
【文献】特開2013-89528号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで近年、電気化学素子には、一層の高容量化が求められている。電気化学素子の容量を高めるためには、集電体上の電極合材層が高密度化および高膜厚化された電極を用いる手法が有効である。しかしながら、上記従来のバインダー組成物を用いて電極合材層を形成するに際し、電極合材層の高密度化を達成すべくプレス処理を行っても、十分な高密度化を達成することは困難であった。
また、上記従来のバインダー組成物を用いて電極合材層を形成するに際し、電極合材層を高膜厚化すると、電極合材層に含まれる電極活物質等の成分が電極合材層から脱離し易くなるという問題もあった。このような電極合材層を備える電極を用いると、電気化学素子のサイクル特性が損なわれる虞がある。
すなわち、上記従来のバインダー組成物には、電極合材層を容易に高密度化すると共に、電極合材層を集電体に強固に密着させるという点において、改善の余地があった。
【0007】
そこで、本発明は、電極合材層を容易に高密度化しつつ、当該電極合材層を集電体に強固に密着させうる電気化学素子電極用バインダー組成物および電気化学素子電極用スラリー組成物を提供することを目的とする。
また、本発明は、電気化学素子を高容量化しうり、且つ当該電気化学素子に優れたサイクル特性を発揮させうる電気化学素子用電極および当該電気化学素子用電極の製造方法を提供することを目的とする。
更に、本発明は、高容量であると共に、サイクル特性に優れる電気化学素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決することを目的として鋭意検討を行った。そして、本発明者は、結着材として、ニトリル基含有単量体と、少なくとも2種の脂肪族共役ジエン単量体を重合して得られる重合体を含有するバインダー組成物を用いれば、高密度であると共に集電体に強固に密着し得る電極合材層を形成可能であることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
即ち、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の電気化学素子電極用バインダー組成物は、重合体を含有する電気化学素子電極用バインダー組成物であって、前記重合体が、ニトリル基含有単量体単位と、少なくとも2種の脂肪族共役ジエン単量体単位とを含むことを特徴とする。上述の組成を有する重合体を含有するバインダー組成物を用いれば、電極合材層を容易に高密度化しつつ、当該電極合材層を集電体に強固に密着させることができる。そして、上述の組成を有する重合体を含有するバインダー組成物を用いて得られる電極合材層を備える電極を使用すれば、電気化学素子を高容量化しうり、且つ電気化学素子に優れたサイクル特性を発揮させることができる。
なお、本発明において、「単量体単位を含む」とは、「その単量体を用いて得た重合体中に単量体由来の繰り返し単位が含まれている」ことを意味する。
【0010】
ここで、本発明の電気化学素子電極用バインダー組成物は、前記脂肪族共役ジエン単量体単位が、炭素原子数5以上12以下の脂肪族共役ジエン単量体単位を含むことが好ましい。重合体が、脂肪族共役ジエン単量体単位として、炭素原子数5以上12以下の脂肪族共役ジエン単量体由来の繰り返し単位を含めば、電極合材層の容易な高密度化および集電体への強固な密着を、更に高いレベルで達成することができる。
【0011】
また、本発明の電気化学素子電極用バインダー組成物は、前記重合体中の前記炭素原子数5以上12以下の脂肪族共役ジエン単量体単位の割合が、1質量%以上50質量%以下であることが好ましい。重合体が上述の割合で炭素原子数5以上12以下の脂肪族共役ジエン単量体単位を含めば、電極合材層の容易な高密度化および集電体への強固な密着を、より一層高いレベルで達成することができる。
なお、本発明において、複数種類の単量体を共重合して製造される重合体において、ある単量体を重合して形成される「単量体単位の割合」は、通常は、その重合体の重合に用いる全単量体に占める当該ある単量体の比率(仕込み比)と一致する。また、本発明において、重合体中における「単量体単位の割合」は、1H-NMRおよび13C-NMRなどの核磁気共鳴(NMR)法を用いて測定することができる。
【0012】
そして、本発明の電気化学素子電極用バインダー組成物は、前記脂肪族共役ジエン単量体単位が、1,3-ブタジエン単位を含むことが好ましい。重合体が、脂肪族共役ジエン単量体単位として、1,3-ブタジエン由来の繰り返し単位を含めば、電極合材層を一層容易に高密度化することができる。
【0013】
更に、本発明の電気化学素子電極用バインダー組成物は、前記重合体中の前記1,3-ブタジエン単位の割合が、1質量%以上50質量%以下であることが好ましい。重合体が上述の割合で1,3-ブタジエン単位を含めば、電極合材層の容易な高密度化および集電体への強固な密着を、更に高いレベルで達成することができる。
【0014】
ここで、本発明の電気化学素子電極用バインダー組成物は、前記重合体中の前記ニトリル基含有単量体単位の割合が、20質量%以上85質量%以下であることが好ましい。重合体が上述の割合でニトリル基含有単量体単位を含めば、電極合材層の容易な高密度化および集電体への強固な密着を、更に高いレベルで達成することができる。また、重合体の有機溶媒(特には、N-メチルピロリドンなどの極性有機溶媒)に対する親和性が確保され、重合体が有機溶媒に良好に溶解したバインダー組成物を得ることができる。
【0015】
また、本発明の電気化学素子電極用バインダー組成物は、前記脂肪族共役ジエン単量体単位が、炭素原子数5以上12以下の脂肪族共役ジエン単量体単位および1,3-ブタジエン単位を含み、前記重合体中の前記1,3-ブタジエン単位の割合に対する前記炭素原子数5以上12以下の脂肪族共役ジエン単量体単位の割合の比が、0.02以上50以下であることが好ましい。重合体が炭素原子数5以上12以下の脂肪族共役ジエン単量体単位と1,3-ブタジエン単位の双方を含み、且つ重合体中の1,3-ブタジエン単位の割合に対する炭素原子数5以上12以下の脂肪族共役ジエン単量体単位の割合の比が上述の範囲内であれば、電極合材層の容易な高密度化および集電体への強固な密着を、更に高いレベルで達成することができる。
【0016】
また、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の電気化学素子電極用スラリー組成物は、電極活物質と、上述した電気化学素子電極用バインダー組成物の何れかとを含むことを特徴とする。このように、上述したバインダー組成物の何れかを含むスラリー組成物を用いて電極合材層を形成すれば、当該電極合材層を容易に高密度化しつつ、集電体に強固に密着させることができる。そして、上述のスラリー組成物を用いて得られる電極合材層を備える電極を使用すれば、電気化学素子を高容量化しうり、且つ電気化学素子に優れたサイクル特性を発揮させることができる。
【0017】
ここで、本発明の電気化学素子電極用スラリー組成物は、前記電極活物質が、ニッケルを含有する電極活物質であることが好ましい。ニッケルを含有する電極活物質を用いれば、電気化学素子を更に高容量化することができる。
【0018】
また、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の電気化学素子用電極は、上述した電気化学素子電極用スラリー組成物の何れかを用いて形成した電極合材層を備えることを特徴とする。このように、上述したスラリー組成物の何れかを使用すれば、電気化学素子を高容量化しうり、且つ当該電気化学素子に優れたサイクル特性を発揮させうる電極を作製することができる。
【0019】
また、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の電気化学素子は、上述した電気化学素子用電極を備えることを特徴とする。このように、上述した電気化学素子用電極を使用すれば、高容量であると共にサイクル特性に優れる電気化学素子が得られる。
【0020】
そして、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の電気化学素子用電極の製造方法は、上述した電気化学素子電極用スラリー組成物の何れかを集電体上に塗布する工程と、前記集電体上に塗布された前記電気化学素子電極用スラリー組成物を乾燥して、前記集電体上にプレス前電極合材層を形成する工程と、前記プレス前電極合材層を、500kN/cm以上3000kN/cm以下の線圧でロールプレスして、プレス後電極合材層を得る工程と、を含む。上述したスラリー組成物の何れかを用いる上述した手順を採用すれば、電極合材層を十分に高密度化しつつ、集電体に強固に密着させることができる。
なお、本発明において、「線圧」とは、ロールプレスの際にプレス前電極合材層にかかる荷重(kN)を、プレス前電極合材層の幅(cm)で除して得られる値である。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、電極合材層を容易に高密度化しつつ、当該電極合材層を集電体に強固に密着させうる電気化学素子電極用バインダー組成物および電気化学素子電極用スラリー組成物を提供することができる。
また、本発明によれば、電気化学素子を高容量化しうり、且つ当該電気化学素子に優れたサイクル特性を発揮させうる電気化学素子用電極および当該電気化学素子用電極の製造方法を提供することができる。
更に、本発明によれば、高容量であると共に、サイクル特性に優れる電気化学素子を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
ここで、本発明の電気化学素子電極用バインダー組成物は、本発明の電気化学素子電極用スラリー組成物を調製する際に用いることができる。そして、本発明の電気化学素子電極用バインダー組成物を用いて調製した本発明の電気化学素子電極用スラリー組成物は、例えば、本発明の電気化学素子用電極の製造方法を使用して、本発明の電気化学素子用電極を作製する際に用いることができる。更に、本発明の電気化学素子は、本発明の電気化学素子電極用スラリー組成物を用いて作製した、本発明の電気化学素子用電極を用いたことを特徴とする。
【0023】
(電気化学素子電極用バインダー組成物)
本発明のバインダー組成物は、重合体を含み、任意に、電気化学素子の電極に配合され得るその他の成分を更に含有する。また、本発明のバインダー組成物は、溶媒を更に含有することができる。ここで、本発明のバインダー組成物に含まれる上記重合体は、ニトリル基含有単量体単位と、少なくとも2種の脂肪族共役ジエン単量体単位とを含む。
そして、本発明のバインダー組成物は、結着材として上述した重合体を含有しているので、当該バインダー組成物を用いて電気化学素子用電極の電極合材層を形成すれば、電極合材層を容易に高密度化しつつ、集電体に強固に密着させることができる。
なお、本発明のバインダー組成物を用いることで、電極合材層の容易な高密度化および集電体への強固な密着を達成可能である理由は定かではないが、以下の通りであると推察される。
即ち、本発明のバインダー組成物に含有される重合体は、ガラス転移温度を低下させて重合体の柔軟性の向上に寄与しうる脂肪族共役ジエン単量体単位を含む。そして、脂肪族共役ジエン単量体単位を、1種単独でなく2種以上の脂肪族共役ジエン単量体を用いて形成することで、重合体は、電極活物質や導電材などの配合成分(特には、炭素系材料)との親和性が高まり、バインダー組成物を用いて調製されるスラリー組成物中において、それらの配合成分を良好に分散させることができる。このように、配合成分が良好に分散したスラリー組成物を集電体上に塗布すれば、高い塗布密度を実現することができる。更に、柔軟性に優れると共に配合成分を良好に分散させうる重合体を含むスラリー組成物によれば、電極合材層の形成に際し、各成分が偏在することがなく、また、例えば比較的低い線圧でロールプレスした場合であっても、得られる電極合材層の密度を十分に高めつつ、当該電極合材層を集電体に良好に密着させることができる。加えて、本発明のバインダー組成物に含有される重合体は、上述した脂肪族共役ジエン単量体単位のみならず、ニトリル基含有単量体単位を含むため、強度に優れる。このように優れた強度を有する重合体は、高い結着性を発揮するため、当該重合体を含むバインダー組成物を用いれば、電極合材層を集電体に強固に密着させることができる。
【0024】
<重合体>
重合体は、バインダー組成物を用いて調製したスラリー組成物を使用して電極合材層を形成することにより製造した電極において、電極合材層に含まれる成分が電極合材層から脱離しないように保持する(即ち、結着材として機能する)。
【0025】
<<重合体の組成>>
重合体は、ニトリル基含有単量体単位を含み、且つ、少なくとも2種の脂肪族共役ジエン単量体単位を含む。すなわち、重合体は、少なくとも1種のニトリル基含有単量体に由来する繰り返し単位と、少なくとも2種の脂肪族共役ジエン単量体に由来する繰り返し単位を含む。
なお、重合体Aは、任意に、ニトリル基含有単量体単位および脂肪族共役ジエン単量体単位以外の繰り返し単位(その他の繰り返し単位)を含むことができる。
【0026】
[ニトリル基含有単量体単位]
ニトリル基含有単量体単位を形成し得るニトリル基含有単量体としては、α,β-エチレン性不飽和ニトリル単量体が挙げられる。具体的には、α,β-エチレン性不飽和ニトリル単量体としては、ニトリル基を有するα,β-エチレン性不飽和化合物であれば特に限定されないが、例えば、アクリロニトリル;α-クロロアクリロニトリル、α-ブロモアクリロニトリルなどのα-ハロゲノアクリロニトリル;メタクリロニトリル、α-エチルアクリロニトリルなどのα-アルキルアクリロニトリル;などが挙げられる。これらの中でも、電極合材層を集電体に一層強固に密着させつつ、電気化学素子の出力特性を向上させる観点から、ニトリル基含有単量体としては、アクリロニトリルおよびメタクリロニトリルが好ましい。
なお、ニトリル基含有単量体は、単独で、または、2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0027】
そして、重合体が含有するニトリル基含有単量体単位の割合は、重合体の全繰り返し単位を100質量%とした場合、20質量%以上であることが好ましく、40質量%以上であることがより好ましく、50質量%以上であることが更に好ましく、60質量%以上であることが特に好ましく、85質量%以下であることが好ましく、80質量%以下であることがより好ましく、75質量%以下であることが更に好ましい。重合体中のニトリル基含有単量体単位の割合が20質量%以上であれば、電極合材層を集電体に一層強固に密着させて、電気化学素子のサイクル特性を更に向上させることができる。加えて、有機溶媒(特には、N-メチルピロリドンなどの極性有機溶媒)に対する重合体の親和性が確保され、重合体が有機溶媒に良好に溶解したバインダー組成物を得ることができる。一方、重合体中のニトリル基含有単量体単位の割合が85質量%以下であれば、ガラス転移温度が過度に高まることもなく、重合体の柔軟性を確保することができる。そのため、十分に高密度化した電極合材層を容易に形成することができる。
【0028】
[脂肪族共役ジエン単量体単位]
脂肪族共役ジエン単量体単位は、2種以上の脂肪族共役ジエン単量体により形成される。そして、脂肪族共役ジエン単量体単位を形成し得る脂肪族共役ジエン単量体としては、特に限定されないが、例えば、炭素原子数5以上12以下の脂肪族共役ジエン単量体(C5~12脂肪族共役ジエン単量体)、1,3-ブタジエンが挙げられる。
【0029】
炭素原子数5以上12以下の脂肪族共役ジエン単量体としては、2-メチル-1,3-ブタジエン(イソプレン、炭素原子数:5)、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン(炭素原子数:6)などが挙げられ、これらの中でもイソプレンが好ましい。重合体が、炭素原子数5以上12以下の脂肪族共役ジエン単量体に由来する炭素原子数5以上12以下の脂肪族共役ジエン単量体単位を含めば、重合体の柔軟性が確保される。その上、二重結合を有する炭素原子上に存在する疎水性基(メチル基など)の存在によって、重合体の配合成分(特には、炭素材料)に対する親和性が向上するためと推察されるが、配合成分を一層良好に分散させることができる。配合成分が一層良好に分散したスラリー組成物を集電体上に塗布すれば、更に高い塗布密度を実現することができる。加えて、バインダー組成物を含むスラリー組成物を用いた電極合材層の形成に際し、各成分が偏在することがなく、また、例えば比較的低い線圧でロールプレスした場合であっても、得られる電極合材層の密度を更に高めつつ、当該電極合材層を集電体に一層良好に密着させることができる。従って、電極合材層の容易な高密度化および集電体への強固な密着を、更に高いレベルで達成することができる。
なお、炭素原子数5以上12以下の脂肪族共役ジエン単量体は、単独で、または、2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0030】
そして、重合体が含有する炭素原子数5以上12以下の脂肪族共役ジエン単量体単位の割合は、1質量%以上であることが好ましく、5質量%以上であることがより好ましく、15質量%以上であることが更に好ましく、50質量%以下であることが好ましく、25質量%以下であることがより好ましい。重合体中の炭素原子数5以上12以下の脂肪族共役ジエン単量体単位の割合が1質量%以上であれば、重合体の柔軟性が向上する共に、配合成分(特には、炭素材料)との親和性が向上して塗布密度が更に高まる。そのため、電極合材層の容易な高密度化および集電体への強固な密着を更に高いレベルで達成することができる。一方、重合体中の炭素原子数5以上12以下の脂肪族共役ジエン単量体単位の割合が50質量%以下であれば、ガラス転移温度が大幅に低下することによる重合体の過度な柔軟化が抑制されるので、電極合材層を集電体へ良好に密着させることができる。
【0031】
また、重合体が、1,3-ブタジエンに由来する1,3-ブタジエン単位を含めば、ガラス転移温度が低下することにより重合体の柔軟性が十分に確保されて、高密度化した電極合材層を一層容易に形成することができる。
【0032】
そして、重合体が含有する1,3-ブタジエン単位の割合は、1質量%以上であることが好ましく、5質量%以上であることがより好ましく、7質量%以上であることが更に好ましく、50質量%以下であることが好ましく、25質量%以下であることがより好ましく、15質量%以下であることが更に好ましい。重合体中の1,3-ブタジエン単位の割合が1質量%以上であれば、十分に高密度化した電極合材層を容易に形成することができる。一方、重合体中の1,3-ブタジエン単位の割合が50質量%以下であれば、ガラス転移温度が大幅に低下することによる重合体の過度な柔軟化が抑制されるので、電極合材層を集電体へ良好に密着させることができる。
【0033】
ここで、電極合材層の容易な高密度化および集電体への強固な密着をより一層高いレベルで達成する観点からは、脂肪族共役ジエン単量体として、炭素原子数5以上12以下の脂肪族共役ジエン単量体および1,3-ブタジエンを併用することが好ましく、イソプレンおよび1,3-ブタジエンを併用することがより好ましい。すなわち、重合体は、炭素原子数5以上12以下の脂肪族共役ジエン単量体単位と1,3-ブタジエン単位の双方を含むことが好ましく、イソプレン単位と1,3-ブタジエン単位の双方を含むことがより好ましい。
【0034】
また、重合体が含有する脂肪族共役ジエン単量体単位の割合(少なくとも2種の脂肪族共役ジエン単量体単位の割合の合計)は、重合体の全繰り返し単位を100質量%とした場合、15質量%以上であることが好ましく、20質量%以上であることがより好ましく、25質量%以上であることが更に好ましく、80質量%以下であることが好ましく、60質量%以下であることがより好ましく、50質量%以下であることが更に好ましい。重合体中の脂肪族共役ジエン単量体単位の割合が15質量%以上であれば、ガラス転移温度が過度に高まることもなく、重合体の柔軟性を確保することができる。そのため、十分に高密度化した電極合材層を容易に形成することができる。一方、重合体中の脂肪族共役ジエン単量体単位の割合が80質量%以下であれば、電極合材層を集電体に一層強固に密着させて、電気化学素子のサイクル特性を更に向上させることができる。
【0035】
そして、重合体が含有するニトリル基含有単量体単位と脂肪族共役ジエン単量体単位の合計量に占める、脂肪族共役ジエン単量体単位の量の割合が、15質量%以上であることが好ましく、20質量%以上であることがより好ましく、80質量%以下であることが好ましく、60質量%以下であることがより好ましく、40質量%以下であることが更に好ましい。ニトリル基含有単量体単位と脂肪族共役ジエン単量体単位の合計中の脂肪族共役ジエン単量体単位の割合が15質量%以上であれば、十分に高密度化した電極合材層を容易に形成することができ、80質量%以下であれば、ガラス転移温度が大幅に低下することによる重合体の過度な柔軟化が抑制されるので、電極合材層を集電体へ良好に密着させることができる。また、ニトリル基含有単量体単位と脂肪族共役ジエン単量体単位の合計中の脂肪族共役ジエン単量体単位の割合が15質量%以上80質量%以下であれば、重合体の電解液中における膨潤度(電解液膨潤度)が良好に制御されて、重合体が電解液中で良好な結着性を発揮する。そのため、電気化学素子のサイクル特性を更に高めることができる。
【0036】
加えて、重合体中の1,3-ブタジエン単位の割合に対する炭素原子数5以上12以下の脂肪族共役ジエン単量体単位の割合の比が、0.02以上であることが好ましく、0.5以上であることがより好ましく、1以上であることが更に好ましく、1超であることが特に好ましく、50以下であることが好ましく、10以下であることがより好ましく、5以下であることが更に好ましく、4以下であることが特に好ましい。1,3-ブタジエン単位の割合に対する炭素原子数5以上12以下の脂肪族共役ジエン単量体単位の割合の比が0.02以上であれば、重合体の柔軟性が向上する共に、配合成分(特には、炭素材料)との親和性が向上して塗布密度が高まる。そのため、電極合材層の容易な高密度化および集電体への強固な密着を更に高いレベルで達成することができる。一方、1,3-ブタジエン単位の割合に対する炭素原子数5以上12以下の脂肪族共役ジエン単量体単位の量の割合の比が50以下であれば、ガラス転移温度が大幅に低下することによる重合体の過度な柔軟化が抑制されるので、電極合材層を集電体へ良好に密着させることができる。
【0037】
[その他の繰り返し単位]
重合体が任意に含有し得るその他の繰り返し単位は、特に限定されない。例えば、重合体は、繰り返し単位として、上記脂肪族共役ジエン単量体単位を水素添加して得られるアルキレン構造単位を含んでいてもよい。なお、重合体が含有するその他の繰り返し単位は、電極合材層の容易な高密度化および集電体への強固な密着を高いレベルで達成する観点から、0質量%以上10質量%以下であることが好ましく、0質量%以上5質量%以下であることがより好ましく、0質量%以上2質量%以下であることが更に好ましい。
【0038】
<<重合体の調製>>
重合体は、例えば上述した単量体を含む単量体組成物を水系溶媒中で重合することにより製造することができる。ここで、本発明において単量体組成物中の各単量体の含有割合は、重合体における単量体単位(繰り返し単位)の含有割合に準じて定めることができる。
水系溶媒は、重合体が分散可能なものであれば格別限定されず、水を単独で使用してもよいし、水と他の溶媒の混合溶媒を使用してもよい。
重合様式は、特に限定されず、例えば溶液重合法、懸濁重合法、塊状重合法、乳化重合法などのいずれの様式も用いることができる。重合方法としては、例えばイオン重合、ラジカル重合、リビングラジカル重合などいずれの方法も用いることができる。
そして、重合に使用される乳化剤、分散剤、重合開始剤、重合助剤などは、一般に用いられるものを使用することができ、その使用量も、一般に使用される量とする。
なお、上述のようにして調製される重合体の電解液膨潤度は、通常100%以上であり、110%以上であることが好ましく、500%以下であることが好ましく、300%以下であることがより好ましい。重合体の電解液膨潤度が110%以上であれば、電解液のみならず有機溶媒に対する重合体の親和性が確保され、重合体が有機溶媒に良好に溶解したバインダー組成物を得ることができる。一方、重合体の電解液膨潤度が500%以下であれば、重合体が電解液中で結着性を保持し易く、電気化学素子に優れた特性(特にはサイクル特性)を発揮させることができる。
ここで、本発明において、「電解液膨潤度」は、本明細書の実施例に記載の方法を用いて測定することができる。
【0039】
<溶媒>
バインダー組成物が含みうる溶媒としては、特に限定されないが、有機溶媒が好ましい。有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、イソブタノール、t-ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、ノナノール、デカノール、アミルアルコールなどのアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン類;酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル類;ジエチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフランなどのエーテル類;N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン(NMP)などのアミド系極性有機溶媒;N,N-ジメチルスルホキシド;トルエン、キシレン、クロロベンゼン、オルトジクロロベンゼン、パラジクロロベンゼンなどの芳香族炭化水素類;などが挙げられる。これらは、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を混合して用いてもよい。中でも、溶媒としては、NMPが好ましい。
【0040】
<その他の成分>
バインダー組成物には、上記成分の他に、上記所定の重合体以外の結着材、導電材、補強材、レベリング剤、粘度調整剤、電解液添加剤等の成分をバインダー組成物に含有させてもよい。これらは、特に限定されず公知のもの、例えば国際公開第2012/115096号に記載のものを使用することができる。また、これらの成分は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0041】
<バインダー組成物の調製>
本発明のバインダー組成物は、上記各成分を既知の方法で混合することにより調製することができる。なお、例えば、重合体を水分散液の状態で調製した場合、既知の方法で水系溶媒を有機溶媒に置換して、必要に応じてその他の成分を添加することで、溶媒として有機溶媒を含むバインダー組成物を調製することができる。
【0042】
(電気化学素子電極用スラリー組成物)
本発明の電気化学素子電極用スラリー組成物は、少なくとも、電極活物質と、上述した本発明の電気化学素子電極用バインダー組成物とを含むスラリー状の組成物である。換言すると、本発明のスラリー組成物は、通常、電極活物質と、上述した重合体と、任意に配合される上述したその他の成分とが、上述した溶媒中に溶解および/または分散してなる組成物である。そして、本発明のスラリー組成物は、上述した本発明のバインダー組成物を含んでいるので、本発明のスラリー組成物を用いて電極合材層を形成すれば、電極合材層を容易に高密度化しつつ、集電体に強固に密着させることができる。
【0043】
<電極活物質>
電極活物質は、電気化学素子の電極において電子の受け渡しをする物質である。そして、本発明のスラリー組成物は、電極活物質として、ニッケルを含有する電極活物質(以下、「Ni含有電極活物質」と略記する場合がある。)を含むことが好ましい。Ni含有電極活物質を含む電極を用いれば、電気化学素子を更に高容量化することができる。なお、Ni含有電極活物質は、リチウムイオン二次電池等の非水系二次電池における正極活物質として、特に好適に用いることができる。
【0044】
<<Ni含有電極活物質>>
Ni含有電極活物質としては、例えば、式(A):Li(NixCoyM(1-x-y))O2[式(A)中、Mは、マンガン(Mn)、マグネシウム(Mg)、ジルコニウム(Zr)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、アルミニウム(Al)、クロム(Cr)、バナジウム(V)、セリウム(Ce)、チタン(Ti)、鉄(Fe)、カリウム(K)、ガリウム(Ga)、およびインジウム(In)からなる群から選ばれる少なくとも1種であり、xおよびyは、0<x≦1、0≦y<1、x+y≦1の関係式を満たす。]で表されるリチウム含有複合酸化物を用いることができる。
【0045】
上記式(A)に該当するものの中でも、電気化学素子の容量をより一層高める観点からは、式(A1):Li(NixCoyAl(1-x-y))O2[式(A1)中、xおよびyは、0.30≦x≦1、0≦y<0.7、x+y≦1の関係式を満たす。]で表されるリチウム含有複合酸化物がより好ましい。また、上記(A)に該当するものの中でも、電気化学素子の容量と安全性をバランス良く向上させる観点からは、式(A2):Li(NixCoyMn(1-x-y))O2[式(A2)中、xおよびyは、0.30≦x≦1、0≦y<0.7、x+y≦1の関係式を満たす。]で表されるリチウム含有複合酸化物がより好ましい。
【0046】
<<その他の電極活物質>>
電極活物質としては、上述したNi含有電極活物質以外の電極活物質を用いることもできる。以下では、一例として電気化学素子電極用スラリー組成物がリチウムイオン二次電池電極用スラリー組成物である場合について説明するが、本発明は下記の一例に限定されるものではない。
【0047】
リチウムイオン二次電池用の正極活物質としては、上述したNi含有電極活物質に加え、リチウム含有コバルト酸化物(LiCoO2)、マンガン酸リチウム(LiMn2O4)、オリビン型リン酸鉄リチウム(LiFePO4)、オリビン型リン酸マンガンリチウム(LiMnPO4)、Li1+xMn2-xO4(0<x<2)で表されるリチウム過剰のスピネル化合物等の既知の正極活物質が挙げられる。
なお、正極活物質の配合量や粒子径は、特に限定されることなく、従来使用されている正極活物質と同様とすることができる。
【0048】
また、リチウムイオン二次電池用の負極活物質としては、例えば、炭素系負極活物質、金属系負極活物質、およびこれらを組み合わせた負極活物質などが挙げられる。
【0049】
ここで、炭素系負極活物質とは、リチウムを挿入(「ドープ」ともいう。)可能な、炭素を主骨格とする活物質をいい、炭素系負極活物質としては、例えば炭素質材料と黒鉛質材料とが挙げられる。
【0050】
そして、炭素質材料としては、例えば、易黒鉛性炭素や、ガラス状炭素に代表される非晶質構造に近い構造を持つ難黒鉛性炭素などが挙げられる。
ここで、易黒鉛性炭素としては、例えば、石油または石炭から得られるタールピッチを原料とした炭素材料が挙げられる。具体例を挙げると、コークス、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、メソフェーズピッチ系炭素繊維、熱分解気相成長炭素繊維などが挙げられる。
また、難黒鉛性炭素としては、例えば、フェノール樹脂焼成体、ポリアクリロニトリル系炭素繊維、擬等方性炭素、フルフリルアルコール樹脂焼成体(PFA)、ハードカーボンなどが挙げられる。
【0051】
更に、黒鉛質材料としては、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛などが挙げられる。
ここで、人造黒鉛としては、例えば、易黒鉛性炭素を含んだ炭素を主に2800℃以上で熱処理した人造黒鉛、MCMBを2000℃以上で熱処理した黒鉛化MCMB、メソフェーズピッチ系炭素繊維を2000℃以上で熱処理した黒鉛化メソフェーズピッチ系炭素繊維などが挙げられる。
【0052】
また、金属系負極活物質とは、金属を含む活物質であり、通常は、リチウムの挿入が可能な元素を構造に含み、リチウムが挿入された場合の単位質量当たりの理論電気容量が500mAh/g以上である活物質をいう。金属系活物質としては、例えば、リチウム金属、リチウム合金を形成し得る単体金属(例えば、Ag、Al、Ba、Bi、Cu、Ga、Ge、In、Ni、P、Pb、Sb、Si、Sn、Sr、Zn、Tiなど)およびその合金、並びに、それらの酸化物、硫化物、窒化物、ケイ化物、炭化物、燐化物などが用いられる。これらの中でも、金属系負極活物質としては、ケイ素を含む活物質(シリコン系負極活物質)が好ましい。シリコン系負極活物質を用いることにより、リチウムイオン二次電池を高容量化することができるからである。
【0053】
シリコン系負極活物質としては、例えば、ケイ素(Si)、ケイ素を含む合金、SiO、SiOx、Si含有材料を導電性カーボンで被覆または複合化してなるSi含有材料と導電性カーボンとの複合化物などが挙げられる。なお、これらのシリコン系負極活物質は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類上を組み合わせて用いてもよい。
なお、負極活物質の配合量や粒子径は、特に限定されることなく、従来使用されている負極活物質と同様とすることができる。
【0054】
<バインダー組成物>
バインダー組成物としては、上述した重合体を含有する本発明の電気化学素子電極用バインダー組成物を用いる。
【0055】
ここで、電気化学素子電極用スラリー組成物中のバインダー組成物の含有割合は、電極活物質100質量部当たり、重合体の量が0.5質量部以上となる量であることが好ましく、1.0質量部以上となる量であることがより好ましく、1.5質量部以上となる量であることが更に好ましく、4.0質量部以下となる量であることが好ましく、3.0質量部以下となる量であることがより好ましく、2.5質量部以下となる量であることが更に好ましい。スラリー組成物に、重合体の量が0.5質量部以上となる量でバインダー組成物を含有させれば、電極合材層を集電体に一層強固に密着させることができる。一方、スラリー組成物に、重合体の量が4.0質量部以下となるようでバインダー組成物を含有させれば、電極合材層中に占める電極活物質の割合を確保して、電気化学素子の容量を十分に高めることができる。
【0056】
<その他の成分>
スラリー組成物に配合し得るその他の成分としては、特に限定することなく、上述したバインダー組成物に配合し得るその他の成分と同様のものが挙げられる。また、その他の成分は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0057】
<スラリー組成物の調製>
上述したスラリー組成物は、上記各成分を混合することにより調製することができる。具体的には、ボールミル、サンドミル、ビーズミル、顔料分散機、らい潰機、超音波分散機、ホモジナイザー、プラネタリーミキサー、フィルミックスなどの混合機を用いて、上記各成分と、任意に添加される溶媒とを混合することにより、スラリー組成物を調製することができる。なお、スラリー組成物の調製の際に任意に添加される溶媒としては、バインダー組成物の項で記載した溶媒と同じものを使用することができる。
【0058】
(電気化学素子用電極)
本発明の電気化学素子用電極は、例えば集電体上に、上述した電気化学素子電極用スラリー組成物を用いて形成した電極合材層を備える。具体的に、電極合材層は、通常、上述した電気化学素子電極用スラリー組成物の乾燥物よりなり、電極合材層には、少なくとも、電極活物質と、上述した重合体と、任意に、その他の成分とが含有されている。なお、電極合材層中に含まれている各成分は、上記電気化学素子電極用スラリー組成物中に含まれていたものであり、それら各成分の好適な存在比は、スラリー組成物中の各成分の好適な存在比と同じである。
そして、本発明の電気化学素子用電極では、上述した電気化学素子電極用スラリー組成物を使用して電極合材層を形成しているので、当該電気化学素子用電極を用いて電気化学素子を製造すれば、高容量であると共にサイクル特性に優れる電気化学素子が得られる。
【0059】
(電気化学素子用電極の製造方法)
上述した本発明の電気化学素子用電極は、例えば、本発明の電気化学素子用電極の製造方法を用いて製造することができる。
本発明の電極の製造方法は、上述した本発明のスラリー組成物を集電体上に塗布する工程(塗布工程)と、集電体上に塗布されたスラリー組成物を乾燥して、集電体上にプレス前電極合材層を形成する工程(乾燥工程)と、プレス前電極合材層を、500kN/cm以上3000kN/cm以下の線圧でロールプレスして、プレス後電極合材層を得る工程(プレス工程)とを備える。
【0060】
<塗布工程>
上記スラリー組成物を集電体上に塗布する方法としては、特に限定されず公知の方法を用いることができる。具体的には、塗布方法としては、ドクターブレード法、ディップ法、リバースロール法、ダイレクトロール法、グラビア法、エクストルージョン法、ハケ塗り法などを用いることができる。この際、スラリー組成物を集電体の片面だけに塗布してもよいし、両面に塗布してもよい。塗布後乾燥前の集電体上のスラリー膜の厚みは、所望の電極合材層の厚みに応じて適宜に設定しうる。
【0061】
ここで、スラリー組成物を塗布する集電体としては、電気導電性を有し、かつ、電気化学的に耐久性のある材料が用いられる。具体的には、集電体としては、例えば、鉄、銅、アルミニウム、ニッケル、ステンレス鋼、チタン、タンタル、金、白金などからなる集電体を用い得る。なお、前記の材料は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0062】
<乾燥工程>
集電体上のスラリー組成物を乾燥する方法としては、特に限定されず公知の方法を用いることができ、例えば温風、熱風、低湿風による乾燥法、真空乾燥法、赤外線や電子線などの照射による乾燥法が挙げられる。このように集電体上のスラリー組成物を乾燥することで、集電体上にプレス前電極合材層を形成することができる。
【0063】
<プレス工程>
集電体上のプレス前電極合材層をロールプレスする際の線圧は、500kN/cm以上3000kN/cm以下であることが必要であり、1000kN/cm以上であることが好ましく、2500kN/cm以下であることが好ましい。集電体上のプレス前電極合材層は、本発明のスラリー組成物から形成されているため、500kN/cm以上の線圧であれば、容易に圧縮されて高密度のプレス後電極合材層を得ることができる。また、線圧が3000kN/cm以下であれば、プレスにより電極活物質が過度に破壊されることもない。
なお、ロールプレスする際のロール温度は、通常25℃以上150℃以下である。また、ロールプレスする際の、プレス前電極合材層と集電体の積層体の搬送速度は、通常5m/分以上100m/分以下である。そして、ロールプレスの回数は、複数回であってもよいが、通常1回である。
【0064】
(電気化学素子)
本発明の電気化学素子は、特に限定されることなく、リチウムイオン二次電池や電気二重層キャパシタであり、好ましくはリチウムイオン二次電池である。そして、本発明の電気化学素子は、本発明の電気化学素子用電極を備えるため、高容量であると共に、優れたサイクル特性を有する。
【0065】
ここで、以下では、一例として電気化学素子がリチウムイオン二次電池である場合について説明するが、本発明は下記の一例に限定されるものではない。本発明の電気化学素子としてのリチウムイオン二次電池は、通常、電極(正極および負極)、電解液、並びにセパレータを備え、正極および負極の少なくとも一方に本発明の電気化学素子用電極を使用する。
【0066】
<電極>
ここで、本発明の電気化学素子としてのリチウムイオン二次電池に使用し得る、上述した電気化学素子用電極以外の電極としては、特に限定されることなく、既知の電極を用いることができる。具体的には、上述した電気化学素子用電極以外の電極としては、既知の製造方法を用いて集電体上に電極合材層を形成してなる電極を用いることができる。
【0067】
<電解液>
電解液としては、通常、有機溶媒に支持電解質を溶解した有機電解液が用いられる。リチウムイオン二次電池の支持電解質としては、例えば、リチウム塩が用いられる。リチウム塩としては、例えば、LiPF6、LiAsF6、LiBF4、LiSbF6、LiAlCl4、LiClO4、CF3SO3Li、C4F9SO3Li、CF3COOLi、(CF3CO)2NLi、(CF3SO2)2NLi、(C2F5SO2)NLiなどが挙げられる。なかでも、溶媒に溶けやすく高い解離度を示すので、LiPF6、LiClO4、CF3SO3Liが好ましく、LiPF6が特に好ましい。なお、電解質は1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。通常は、解離度の高い支持電解質を用いるほどリチウムイオン伝導度が高くなる傾向があるので、支持電解質の種類によりリチウムイオン伝導度を調節することができる。
【0068】
電解液に使用する有機溶媒としては、支持電解質を溶解できるものであれば特に限定されないが、例えば、ジメチルカーボネート(DMC)、エチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、エチルメチルカーボネート(EMC)等のカーボネート類;γ-ブチロラクトン、ギ酸メチル等のエステル類;1,2-ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン等のエーテル類;スルホラン、ジメチルスルホキシド等の含硫黄化合物類;などが好適に用いられる。またこれらの溶媒の混合液を用いてもよい。中でも、誘電率が高く、安定な電位領域が広いのでカーボネート類を用いることが好ましく、エチレンカーボネートとエチルメチルカーボネートとの混合物を用いることが更に好ましい。
また、電解液には、既知の添加剤、例えば、ビニレンカーボネート(VC)、フルオロエチレンカーボネート(FEC)やエチルメチルスルホンなどを添加してもよい。
【0069】
<セパレータ>
セパレータとしては、特に限定されることなく、例えば特開2012-204303号公報に記載のものを用いることができる。これらの中でも、セパレータ全体の膜厚を薄くすることができ、これにより、リチウムイオン二次電池内の電極活物質の比率を高くして体積あたりの容量を高くすることができるという点より、ポリオレフィン系(ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリ塩化ビニル)の樹脂からなる微多孔膜が好ましい。
【0070】
<リチウムイオン二次電池の製造方法>
本発明の電気化学素子としてのリチウムイオン二次電池は、例えば、正極と、負極とを、セパレータを介して重ね合わせ、これを必要に応じて電池形状に応じて巻く、折るなどして電池容器に入れ、電池容器に電解液を注入して封口することにより製造することができる。リチウムイオン二次電池の内部の圧力上昇、過充放電等の発生を防止するために、必要に応じて、ヒューズ、PTC素子等の過電流防止素子、エキスパンドメタル、リード板などを設けてもよい。リチウムイオン二次電池の形状は、例えば、コイン型、ボタン型、シート型、円筒型、角形、扁平型など、何れであってもよい。
【実施例】
【0071】
以下、本発明について実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、以下の説明において、量を表す「%」及び「部」は、特に断らない限り、質量基準である。
実施例および比較例において、重合体の電解液膨潤度、正極のピール強度、プレス前正極合材層の密度(塗布密度)、プレス後正極合材層の密度(プレス密度)、および、リチウムイオン二次電池のサイクル特性は、下記の方法で評価した。評価結果は、何れも表1に示す。
【0072】
<重合体の電解液膨潤度>
正極用バインダー組成物(重合体のNMP溶液)を、ポリテトラフルオロエチレン製シート上に塗布し、温度80~120℃の環境下で0.5~3時間乾燥させて、厚み500μm±50μmのキャストフィルムを得た。このキャストフィルムを1cm×1cmの正方形状に切り出して試験片を得て、当該試験片の質量(浸漬前質量A)を測定した。その後、試験片を温度60℃の電解液に72時間浸漬した。なお、電解液は、EC:EMC=3:7(重量基準)の混合物に、FECを濃度5質量%となるよう添加し、次いで、FEC添加後の混合物にLiPF6を濃度1.0Mとなるよう溶解し、そして、LiPF6溶解後の混合物に、ビニレンカーボネートを濃度2質量%となるように添加することで調製した。浸漬後の試験片を引き上げ、表面の電解液をタオルペーパーで拭き取った後、試験片の質量(浸漬後質量B)を測定した。
そして、以下の計算式を用いて電解液膨潤度(%)を算出した。電解液膨潤度の値が低い重合体ほど、電解液中で結着性を保持し易く、電気化学素子に優れた特性(特にはサイクル特性)を発揮させ得る。
電解液膨潤度(%)=浸漬後質量B/浸漬前質量A×100
<正極のピール強度>
正極を、幅1.0cm×長さ10cmの長方形状に切り出して試験片を得て、この試験片を、正極合材層を上にして水平な台上に固定した。そして、試験片の正極合材層表面にセロハンテープを貼り付けた後、試験片の一端からセロハンテープを50mm/分の速度で180°方向に引き剥がしたときの応力を測定した。この際、セロハンテープとしてはJIS Z1522に規定されるものを用いた。測定を10回行い、得られた値の平均値をピール強度(N/m)とし、以下の基準で評価した。ピール強度が大きいほど、正極合材層が集電体に強固に密着していることを示す。
A:ピール強度が70N/m以上
B:ピール強度が50N/m以上70N/m未満
C:ピール強度が30N/m以上50N/m未満
D:ピール強度が10N/m以上30N/m未満
E:ピール強度が10N/m未満
<プレス前正極合材層の密度(塗布密度)>
正極原反のプレス前正極合材層の厚み(cm)と塗布量(g/cm2)から、以下の計算式を用いて塗布密度(g/cm3)を算出した。なお、プレス前正極合材層の厚みはマイクロメーターにより測定した。塗布密度が大きいほど(即ち、プレス前正極合材層の密度が大きいほど)、ロールプレスによって高密度の正極合材層を容易に形成可能であることを示す。
塗布密度(g/cm3)=塗布量(g/cm2)/厚み(cm)
A:塗布密度が2.5g/cm3以上
B:塗布密度が2.4g/cm3以上2.5g/cm3未満
C:塗布密度が2.3g/cm3以上2.4g/cm3未満
D:塗布密度が2.3g/cm3未満
<プレス後正極の密度(プレス密度)>
正極原反を直径1.2cmの円状に打ち抜いて試験片とした。この試験片を、平板の上に載置し、9MPaの圧力でプレスした(プレス試験)。そして、プレス後正極合材層の厚み(cm)と重量(g)を求め、電極合材層の密度を算出した。なお、プレス後正極合材層の厚みはマイクロメーターにより測定した。また、プレス後正極合材層の重量は、プレス後の試験片の重量から集電体の重量を差し引くことで算出した。このプレス試験を10回行い、得られた値の平均値をプレス密度(g/cm3)とし、以下の基準で評価した。プレス密度が大きいほど、プレス前正極合材層が圧縮性に優れ、ロールプレスによって高密度の正極合材層を容易に形成可能であることを示す。
A:プレス密度が3.8g/cm3以上
B:プレス密度が3.7g/cm3以上3.8g/cm3未満
C:プレス密度が3.6g/cm3以上3.7g/cm3未満
D:プレス密度が3.5g/cm3以上3.6g/cm3未満
E:プレス密度が3.5g/cm3未満
<リチウムイオン二次電池のサイクル特性>
得られたリチウムイオン二次電池を、充電深度(SOC;State of Charge)10%、60℃で10時間エージングした。エージング後、0.2Cで電圧が4.2Vになるまで充電し、0.2Cで電圧が3.0Vになるまで放電する操作を3回繰り返した。その後、このリチウムイオン二次電池について、45℃環境下、1Cで電圧が4.2Vになるまで充電し、1Cで電圧が3.0Vになるまで放電する操作を100回繰り返した。そして、1サイクル終了時の放電容量に対する100サイクル終了時の放電容量の割合を容量維持率(%)(={(100サイクル終了時の放電容量)/(1サイクル終了時の放電容量)}×100)とし、以下の基準で評価した。容量維持率が大きいほど、サイクル特性に優れていることを示す。
A:容量維持率が84%以上
B:容量維持率が82%以上84%未満
C:容量維持率が80%以上82%未満
D:容量維持率が77%以上80%未満
E:容量維持率が77%未満
【0073】
(実施例1)
<重合体および正極用バインダー組成物の調製>
反応器に、脂肪族共役ジエン単量体としての1,3-ブタジエン10.0部およびイソプレン20.0部、ニトリル基含有単量体としてのアクリロニトリル70.0部、t-ドデシルメルカプタン0.4部、イオン交換水132部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム3部、β-ナフタリンスルホン酸ホルマリン縮合物ナトリウム塩0.5部、過硫酸カリウム0.3部、並びに、エチレンジアミン四酢酸ナトリウム塩0.05部を仕込み、重合温度を15℃に保持して重合を行い、重合転化率が94%に達するまで反応させた。その後、内容物を常温に戻し、系内を窒素雰囲気とした後、エバポレータを用いて固形分濃度が40%となるまで濃縮して、重合体の水分散液を得た。
この重合体の水分散液100部にNMP320部を加え、次いで減圧下で水を蒸発させることで溶媒置換を行い、重合体のNMP溶液(正極用バインダー組成物)を得た。
得られた重合体のNMP溶液100gをメタノール1Lで凝固した後、60℃で一晩真空乾燥し、乾燥体を得た。この乾燥体をNMR法により分析し、重合体は、アクリロニトリル単位を70%、1,3-ブタジエン単位を10%、イソプレン単位を20%含んでいることを確認した。
<正極用スラリー組成物の調製>
正極活物質としてのLi(Ni0.5Co0.2Mn0.3)O2(平均粒子径:10μm)96部と、導電材としてのアセチレンブラック(電気化学工業社製、製品名「HS-100」)2.0部と、上述の正極用バインダー組成物(固形分濃度:8.0%)を固形分換算で2.0部と、追加の溶媒として適量のNMPとをプラネタリーミキサーに加え、当該ミキサーで混合することにより、正極用スラリー組成物を調製した。
<正極の作製>
集電体として、厚さ20μmのアルミ箔を準備した。上述のようにして調製した正極用スラリー組成物を、アルミ箔の一方の面に、乾燥後の塗布量が22mg/cm2程度になるように塗布した。そして、アルミ箔上の塗膜を80℃で20分、120℃で20分間乾燥後、150℃で2時間加熱処理して、プレス前負極合材層と集電体からなる正極原反を得た。この正極原反を、2000kN/cmの線圧でロールプレスして、密度が3.7g/cm3の正極合材層を集電体の片面に備える正極を作製した。
<負極の作製>
負極活物質としての球状人造黒鉛(体積平均粒子径:12μm)90部とSiOx(体積平均粒子径:10μm)10部との混合物、結着材としてのスチレンブタジエンゴム(個数平均粒子径:180nm、ガラス転移温度:10℃)1部、増粘剤としてカルボキシメチルセルロース1部、および適量の水をプラネタリーミキサーにて攪拌し、負極用スラリー組成物を調製した。
次に、集電体として、厚さ15μmの銅箔を準備した。上述のようにして調製した負極用スラリー組成物を、銅箔の一方の面に、乾燥後の塗布量が12mg/cm2になるように塗布した。そして、銅箔上の塗膜を50℃で20分、110℃で20分間乾燥後、150℃で2時間加熱処理して、負極原反を得た。この負極原反をロールプレスで圧延し、密度が1.8g/cm3の負極合材層を集電体の片面に備える負極を作製した。
<リチウムイオン二次電池の作製>
作製した正極と負極とを、厚さ20μmのセパレータ(ポリプロピレン製微多孔膜)を介在させて、直径20mmの芯を用いて捲回し、捲回体を得た。なお、正極および負極は、正極合材層と負極合材層がセパレータを介して向き合うように配置した。そして、得られた捲回体を、10mm/秒の速度で厚さ4.5mmになるまで一方向から圧縮した。なお、圧縮後の捲回体は平面視楕円形をしており、その長径と短径との比(長径/短径)は7.7であった。
また別途、EC:EMC=3:7(重量基準)の混合物に、FECを濃度5質量%となるよう添加した。次いで、FEC添加後の混合物にLiPF6を濃度1.0Mとなるよう溶解した。そして、LiPF6溶解後の混合物に、ビニレンカーボネートを濃度2質量%となるように添加することで、電解液を調製した。
そして、圧縮後の捲回体をアルミ製ラミネートケース内に3.2gの電解液とともに収容した。そして、負極の所定の箇所にリード線を接続し、正極の所定の箇所にリード線を接続したのち、ケースの開口部を熱で封口し、リチウムイオン二次電池とした。このリチウムイオン二次電池は、幅35mm、高さ48mm、厚さ5mmのパウチ形であり、電池の公称容量は720mAhであった。
【0074】
(実施例2~7)
重合体の調製時に表1に記載の単量体組成を採用した以外は、実施例1と同様にして、重合体のNMP溶液(正極用バインダー組成物)、正極用スラリー組成物、正極、負極、およびリチウムイオン二次電池を作製した。なお、実施例1と同様にしてNMR法による分析を行い、重合体中に占める、ある単量体単位の割合が、その重合体の重合に用いた全単量体に占める当該ある単量体の比率(仕込み比)と一致することを確認した。
【0075】
(比較例1~2)
重合体の調製時に表1に記載の単量体組成を採用した以外は、実施例1と同様にして、重合体のNMP溶液(正極用バインダー組成物)、正極用スラリー組成物、正極、負極、およびリチウムイオン二次電池を作製した。なお、実施例1と同様にしてNMR法による分析を行い、重合体中に占める、ある単量体単位の割合が、その重合体の重合に用いた全単量体に占める当該ある単量体の比率(仕込み比)と一致することを確認した。
【0076】
(比較例3)
重合体の調製時に表1に記載の単量体組成を採用した以外は、実施例1と同様にして重合体の水分散液を調製した。そして実施例1と同様にしてNMPへの溶媒置換を行ったが、重合体がNMPに溶解しなかった。このような正極用バインダー組成物を用いても、優れた性能を発揮するリチウムイオン二次電池が得られないことは明らかであったため、正極、負極、およびリチウムイオン二次電池は製造しなかった。なお、重合体の電解液膨潤度の項目については評価を行った。また、実施例1と同様にしてNMR法による分析を行い、重合体中に占める、ある単量体単位の割合が、その重合体の重合に用いた全単量体に占める当該ある単量体の比率(仕込み比)と一致することを確認した。
【0077】
【0078】
表1より、ニトリル基含有単量体単位と、2種の脂肪族共役ジエン単量体単位とを含む重合体を含有するバインダー組成物を用いた実施例1~7では、塗布密度を高めつつ、電極合材層を十分に高密度化し得ることがわかる。また、実施例1~7では、電極合材層を集電体に強固に密着させて、リチウムイオン二次電池に、十分に優れたサイクル特性を発揮させ得ることが分かる。
一方、ニトリル基含有単量体単位を含むが、脂肪族共役ジエン単量体単位として1,3-ブタジエン単位のみを含む重合体を含有するバインダー組成物を用いた比較例1では、電極合材層の高密度化が困難であることが分かる。
また、ニトリル基含有単量体単位を含むが、脂肪族共役ジエン単量体単位としてイソプレン単位のみを含む重合体を含有するバインダー組成物を用いた比較例2では、電極合材層の高密度化が困難であることが分かる。
そして、2種の脂肪族共役ジエン単量体単位を含むが、ニトリル基含有単量体単位を含まない重合体を含有するバインダー組成物を用いた比較例3では、上述した通り、重合体がNMPに溶解しなかったため、正極、負極、およびリチウムイオン二次電池は製造しなかった。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明によれば、電極合材層を容易に高密度化しつつ、当該電極合材層を集電体に強固に密着させうる電気化学素子電極用バインダー組成物および電気化学素子電極用スラリー組成物を提供することができる。
また、本発明によれば、電気化学素子を高容量化しうり、且つ当該電気化学素子に優れたサイクル特性を発揮させうる電気化学素子用電極および当該電気化学素子用電極の製造方法を提供することができる。
更に、本発明によれば、高容量であると共に、サイクル特性に優れる電気化学素子を提供することができる。