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特許7156290光熱変換層、当該光熱変換層を用いたドナーシート、およびそれらの製造方法
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  • 特許-光熱変換層、当該光熱変換層を用いたドナーシート、およびそれらの製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-11
(45)【発行日】2022-10-19
(54)【発明の名称】光熱変換層、当該光熱変換層を用いたドナーシート、およびそれらの製造方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/22 20060101AFI20221012BHJP
   G02B 5/20 20060101ALI20221012BHJP
【FI】
G02B5/22
G02B5/20
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2019542307
(86)(22)【出願日】2018-09-14
(86)【国際出願番号】 JP2018034176
(87)【国際公開番号】W WO2019054480
(87)【国際公開日】2019-03-21
【審査請求日】2021-06-07
(31)【優先権主張番号】P 2017176411
(32)【優先日】2017-09-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091362
【弁理士】
【氏名又は名称】阿仁屋 節雄
(74)【代理人】
【識別番号】100145872
【弁理士】
【氏名又は名称】福岡 昌浩
(72)【発明者】
【氏名】常松 裕史
(72)【発明者】
【氏名】長南 武
【審査官】岩井 好子
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-009634(JP,A)
【文献】国際公開第2016/121843(WO,A1)
【文献】特開2016-009635(JP,A)
【文献】国際公開第2017/094909(WO,A1)
【文献】特開2003-247001(JP,A)
【文献】特開2003-206123(JP,A)
【文献】国際公開第2017/159790(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/159791(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/22
G02B 5/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
赤外線吸収粒子と、バインダー成分とを含有し、
前記赤外線吸収粒子は、六方晶の結晶構造を含む複合タングステン酸化物微粒子であり、
前記複合タングステン酸化物微粒子の格子定数は、a軸が7.3850Å以上7.4186Å以下、c軸が7.5600Å以上7.6240Å以下であり、
前記複合タングステン酸化物微粒子の粒子径が100nm以下であり、
前記複合タングステン酸化物微粒子の結晶子径が10nm以上100nm以下であることを特徴とする光熱変換層。
【請求項2】
前記複合タングステン酸化物微粒子の格子定数は、a軸が7.4031Å以上7.4111Å以下、c軸が7.5891Å以上7.6240Å以下であることを特徴とする請求項1に記載の光熱変換層。
【請求項3】
前記複合タングステン酸化物微粒子の粒子径が、10nm以上100nm以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の光熱変換層。
【請求項4】
前記複合タングステン酸化物微粒子が、一般式MxWyOz(但し、M元素は、H、He、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、I、Ybのうちから選択される1種類以上の元素で、Wはタングステン、Oは酸素、0.001≦x/y≦1、2.0≦z/y≦3.0)で表記される複合タングステン酸化物微粒子であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の光熱変換層。
【請求項5】
前記M元素が、Cs、Rbから選択される1種類以上の元素であることを特徴とする請求項4に記載の光熱変換層。
【請求項6】
前記複合タングステン酸化物微粒子の表面の少なくとも一部が、Si、Ti、Zr、Alから選択される少なくとも1種類以上の元素を含有する表面被覆膜により、被覆されていることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の光熱変換層。
【請求項7】
前記表面被覆膜が、酸素原子を含有することを特徴とする請求項6に記載の光熱変換層。
【請求項8】
前記光熱変換層の厚さが5μm以下であることを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載の光熱変換層。
【請求項9】
基材上に塗布されたインクの乾燥硬化物であって、
前記赤外線吸収粒子と、バインダー成分とを含有することを特徴とする請求項1から8のいずれかに記載の光熱変換層。
【請求項10】
請求項1から9のいずれかに記載の光熱変換層と、フィルム基材と、被転写層とを有することを特徴とするドナーシート。
【請求項11】
赤外線吸収粒子と、バインダー成分とを含有する光熱変換層の製造方法であって、
前記赤外線吸収粒子が、六方晶の結晶構造を含む複合タングステン酸化物微粒子であり、
前記複合タングステン酸化物微粒子の格子定数が、a軸は7.3850Å以上7.4186Å以下、c軸は7.5600Å以上7.6240Å以下の範囲となるように製造し、
前記複合タングステン酸化物微粒子において前記格子定数の範囲を保ちながら、平均粒子径を100nm以下、且つ、結晶子径を10nm以上100nm以下とする粉砕・分散処理工程を行うことを特徴とする光熱変換層の製造方法。
【請求項12】
前記複合タングステン酸化物微粒子が、一般式MxWyOz(但し、M元素は、H、He、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、I、Ybのうちから選択される1種類以上の元素で、Wはタングステン、Oは酸素、0.001≦x/y≦1、2.0≦z/y≦3.0)で表記される複合タングステン酸化物微粒子であることを特徴とする請求項11に記載の光熱変換層の製造方法。
【請求項13】
前記M元素が、Cs、Rbから選択される1種類以上の元素であることを特徴とする請求項12に記載の光熱変換層の製造方法。
【請求項14】
前記複合タングステン酸化物微粒子の表面の少なくとも一部を、Si、Ti、Zr、Alから選択される少なくとも1種類以上の元素を含有する表面被覆膜により、被覆することを特徴とする請求項11から13のいずれかに記載の光熱変換層の製造方法。
【請求項15】
前記表面被覆膜が、酸素原子を含有することを特徴とする請求項14に記載の光熱変換層の製造方法。
【請求項16】
前記光熱変換層の厚さを、5μm以下とすることを特徴とする請求項11から15のいずれかに記載の光熱変換層の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光熱変換層、当該光熱変換層を用いたドナーシート、およびそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光熱変換層は、赤外線や近赤外線が照射された部分が発熱し、照射されなかった部分は発熱しない特性を有する層である。そこで、当該光熱変換層へ、赤外線レーザや近赤外線レーザを照射することで、所望の箇所のみで発熱させることが可能になることから、エレクトロニクス、医療、農業、機械、等の広い範囲に分野において適用が期待されている。
尤も、喫緊の用途としては、エレクトロニクス分野において、有機エレクトロルミネッセンス素子の製造に用いるドナーシートとしての用途が考えられる。そこで、以下、当該ドナーシートの場合を例として、光熱変換層について説明する。
【0003】
基板上に有機エレクトロルミネッセンス素子を形成する方法として、メタルマスク法、レーザ転写法、インクジェット法等が検討されてきた。メタルマスク法は次世代大型ディスプレイデバイスなどの大面積化への対応が困難であり、インクジェット法は適用への技術的課題が多く残されていることから、大型ディスプレイ向けのプロセスとしてはレーザ転写法が主流となるとみられている。
【0004】
レーザ転写法にはいくつかの方法があるが、ドナーシートと呼ばれるフィルムを用いて成膜を行う方式が主流である。ドナーシートとしては例えば、フィルム基材に光熱変換(LTHC:Light To Heat Conversion)層と呼ばれる光を吸収する層と、被転写層として例えばエレクトロルミネッセンス特性を持つ有機化合物の層とを成膜したものが用いられている。レーザ転写法により、基板上に有機エレクトロルミネッセンス素子を形成する方法について様々な提案がなされているが、基本的な動作原理は共通である。すなわち、光熱変換層の特定箇所にレーザ光が照射されることで、光熱変換層に光が吸収されて熱が発生し、熱の作用により被転写層として形成した有機エレクトロルミネッセンス素子を転写することができる。
【0005】
ドナーシートの光熱変換層の光吸収材料としてはさまざまな材料が提案されている。例えば特許文献1では、赤外領域において光を吸収する染料、カーボンブラックのような有機及び無機吸収材料、金属類、金属酸化物または金属硫化物およびその他既知の顔料および吸収材が開示されている。特許文献2では染料、顔料、金属、金属化合物、金属フィルム等が開示されている。特許文献3では黒色アルミニウムが開示されている。特許文献4ではカーボンブラック、黒鉛や赤外線染料が開示されている。
【0006】
上述したように、レーザ転写法により例えば有機エレクトロルミネッセンス素子を形成する場合、ドナーシートの光熱変換層における所望の箇所にレーザ光を照射し、ドナーシートに含まれる有機エレクトロルミネッセンス素子を転写することにより行うことができる。しかし、ドナーシート中に例えば異物や塗布ムラ等の欠陥が含まれる場合、レーザ照射箇所の有機エレクトロルミネッセンス素子が正常に転写されず、ディスプレイデバイスとなった際に点灯がされないドットが生じる原因となる。この為、歩留まり向上のためにはレーザ転写の前に欠陥を含むドナーシートを目視あるいは可視光センサ等により検出することが考えられる。
【0007】
しかしながら、光熱変換層に適用する光吸収材料として特許文献1~4に提案された材料を用いた場合、光熱変換層の可視光透過性が十分ではない。すなわち、特許文献1~4に開示された光吸収材料を用いた場合、光熱変換層は光透過性を実質的に有しない非常に暗い黒色を示すこととなる。このため、係る光熱変換層をドナーシートに適用した場合、目視や可視光センサ等により欠陥を検出することは出来ないと考えられた。
【0008】
そこで、本出願人は、近赤外線吸収粒子である複合タングステン酸化物微粒子と、バインダー成分とを含有する可視光透過性を具備した光熱変換層と、当該光熱変換層を用いたドナーシートとを特許文献5として開示した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特表2000-515083号公報
【文献】特表2002-534782号公報
【文献】特許第3562830号公報
【文献】特開2004-200170号公報
【文献】特開2016-009634号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述したように、本出願人が開示した可視光透過性を具備した光熱変換層と、当該光熱変換層を用いたドナーシートとにより、目視や可視光センサ等による欠陥検出が可能になった。
しかし、最近の有機エレクトロルミネッセンス素子の技術革新に伴い、レーザ光の照射によるドナーシートに含まれる有機エレクトロルミネッセンス素子の転写精度に対する要求が格段に高まってきた。
ここで、本発明者らの検討によると、上述した特許文献5に開示した、従来の技術に係る近赤外線吸収粒子である複合タングステン酸化物微粒子と、バインダー成分とを含有する可視光透過性を具備した光熱変換層と、当該光熱変換層を用いたドナーシートでは、当該レーザ光の照射による有機エレクトロルミネッセンス素子を高い精度で転写することが困難になる場合があることを知見した。
【0011】
本発明は、上述の状況の下で為されたものであり、その解決しようとする課題は、可視光透過性を備え、十分な赤外線吸収特性を有し、レーザ光の照射による有機エレクトロルミネッセンス素子の転写精度を向上させることが出来ると共に、エレクトロニクス、医療、農業、機械、等の広い範囲の分野においても適用出来る光熱変換層と、当該光熱変換層を用いたドナーシートと、およびそれらの製造方法とを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上述の課題を解決する為、本発明者らは研究を行った。そして、特許文献5に開示した、従来の技術に係る近赤外線吸収粒子である複合タングステン酸化物微粒子と、バインダー成分とを含有する可視光透過性を具備した光熱変換層においては、バインダー成分中に分散している複合タングステン酸化物微粒子に起因した曇り(ヘイズ)が発生していることを知見した。そして、当該ヘイズが照射されたレーザ光を散乱し、赤外線の照射を受けた個所のみが発熱位置となるべきところ、当該発熱位置の精度を低下させていることを知見した。そしてこの結果、有機エレクトロルミネッセンス素子の転写精度の向上が阻害されていることに想到した。
【0013】
ここで、本発明者らは、バインダー成分中に分散している複合タングステン酸化物微粒子に起因するヘイズの低減方法を研究した。そして、複合タングステン酸化物微粒子において、赤外線吸収材料微粒子である複合タングステン酸化物微粒子において、含まれる結晶を六方晶とし、その格子定数においてa軸とc軸との値を、a軸が7.3850Å以上7.4186Å以下、c軸が7.5600Å以上7.6240Å以下として結晶性を高め、さらに当該微粒子の粒子径を100nm以下とする構成に想到した。
当該所定の格子定数を有する複合タングステン酸化物微粒子は赤外線吸収特性が優れ、従来の技術に係る複合タングステン酸化物微粒子より少ない含有量でも、十分な赤外線吸収特性を発揮することを知見した。
【0014】
以上の知見より本発明者らは、当該所定の結晶構造を有する複合タングステン酸化物微粒子を用いることにより、可視光透過性や、十分な赤外線吸収特性を担保しながら、光熱変換層における複合タングステン酸化物微粒子の含有量を低減することで、ヘイズを低減出来ることに想到した。そして、当該所定の結晶構造を有する複合タングステン酸化物微粒子を含有する光熱変換層は、赤外線の照射を受けた個所のみが高精度な発熱位置となり発熱することを知見した。
即ち、当該所定の結晶構造を有する複合タングステン酸化物微粒子を含有する光熱変換層はエレクトロニクス、医療、農業、機械、等の広い範囲の分野においても適用出来るものであり、当該光熱変換層を用いたドナーシートを用いることにより、有機エレクトロルミネッセンス素子の転写精度を向上させることを実現出来ることに想到し本発明を完成した。
【0015】
即ち、上述の課題を解決する為の第1の発明は、
赤外線吸収粒子と、バインダー成分とを含有し、
前記赤外線吸収粒子は、六方晶の結晶構造を含む複合タングステン酸化物微粒子であり、
前記複合タングステン酸化物微粒子の格子定数は、a軸が7.3850Å以上7.4186Å以下、c軸が7.5600Å以上7.6240Å以下であり、
前記複合タングステン酸化物微粒子の粒子径が100nm以下であることを特徴とする光熱変換層である。
第2の発明は、
前記複合タングステン酸化物微粒子の格子定数は、a軸が7.4031Å以上7.4111Å以下、c軸が7.5891Å以上7.6240Å以下であることを特徴とする第1の発明に記載の光熱変換層である。
第3の発明は、
前記複合タングステン酸化物微粒子の粒子径が、10nm以上100nm以下であることを特徴とする第1または第2の発明に記載の光熱変換層である。
第4の発明は、
前記複合タングステン酸化物微粒子の結晶子径が10nm以上100nm以下であることを特徴とする第1から第3の発明のいずれかに記載の光熱変換層である。
第5の発明は、
前記複合タングステン酸化物微粒子が、一般式MxWyOz(但し、M元素は、H、He、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、I、Ybのうちから選択される1種類以上の元素で、Wはタングステン、Oは酸素、0.001≦x/y≦1、2.0≦z/y≦3.0)で表記される複合タングステン酸化物微粒子であることを特徴とする第1から第4の発明のいずれかに記載の光熱変換層である。
第6の発明は、
前記M元素が、Cs、Rbから選択される1種類以上の元素であることを特徴とする第5の発明に記載の光熱変換層である。
第7の発明は、
前記複合タングステン酸化物微粒子の表面の少なくとも一部が、Si、Ti、Zr、Alから選択される少なくとも1種類以上の元素を含有する表面被覆膜により、被覆されていることを特徴とする第1から第6の発明のいずれかに記載の光熱変換層である。
第8の発明は、
前記表面被覆膜が、酸素原子を含有することを特徴とする第7の発明に記載の光熱変換層である。
第9の発明は、
前記光熱変換層の厚さが5μm以下であることを特徴とする第1から第8の発明のいずれかに記載の光熱変換層である。
第10の発明は、
基材上に塗布されたインクの乾燥硬化物であって、
前記赤外線吸収粒子と、バインダー成分とを含有することを特徴とする第1から第9の発明のいずれかに記載の光熱変換層である。
第11の発明は、
第1から第10の発明のいずれかに記載の光熱変換層と、フィルム基材と、被転写層とを有することを特徴とするドナーシートである。
第12の発明は、
赤外線吸収粒子と、バインダー成分とを含有する光熱変換層の製造方法であって、
前記赤外線吸収粒子が、六方晶の結晶構造を含む複合タングステン酸化物微粒子であり、
前記複合タングステン酸化物微粒子を、その格子定数がa軸は7.3850Å以上7.4186Å以下、c軸は7.5600Å以上7.6240Å以下の範囲となるように製造し、
前記複合タングステン酸化物微粒子において前記格子定数の範囲を保ちながら、平均粒子径を100nm以下とする粉砕・分散処理工程を行うことを特徴とする光熱変換層の製造方法である。
第13の発明は、
前記複合タングステン酸化物微粒子が、一般式MxWyOz(但し、M元素は、H、He、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、I、Ybのうちから選択される1種類以上の元素で、Wはタングステン、Oは酸素、0.001≦x/y≦1、2.0≦z/y≦3.0)で表記される複合タングステン酸化物微粒子であることを特徴とする第12の発明に記載の光熱変換層の製造方法である。
第14の発明は、
前記M元素が、Cs、Rbから選択される1種類以上の元素であることを特徴とする第13の発明に記載の光熱変換層の製造方法である。
第15の発明は、
前記複合タングステン酸化物微粒子の表面の少なくとも一部を、Si、Ti、Zr、Alから選択される少なくとも1種類以上の元素を含有する表面被覆膜により、被覆することを特徴とする第12から第14の発明のいずれかに記載の光熱変換層の製造方法である。
第16の発明は、
前記表面被覆膜が、酸素原子を含有することを特徴とする第15の発明に記載の光熱変換層の製造方法である。
第17の発明は、
前記光熱変換層の厚さを、5μm以下とすることを特徴とする第12から第16の発明のいずれかに記載の光熱変換層の製造方法である。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る光熱変換層は、赤外線の照射を受けた個所のみが高精度な発熱位置となって発熱するので、エレクトロニクス、医療、農業、機械、等の広い範囲の分野においても適用出来るものであり、当該光熱変換層を用いたドナーシートとを用いることにより、有機エレクトロルミネッセンス素子の転写精度を向上させることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明に用いられる高周波プラズマ反応装置の概念図である。
図2】六方晶を有する複合タングステン酸化物の結晶構造の模式図である。
図3】ドナーシートの断面構成例の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照して説明するが、本発明は、下記の実施形態に制限されることはなく、本発明の範囲を逸脱することなく、下記の実施形態に種々の変形および置換を加えることが出来る。
【0019】
本発明に係る光熱変換層は、赤外線吸収成分として所定の構成を備えた複合タングステン酸化物微粒子を含有させた光熱変換層である。また、本発明に係るドナーシートは、ドナーシートの断面構成例である図3に示すように、例えばフィルム基材21の一方の面21A上に、赤外線吸収粒子221を含む光熱変換層22と、被転写層23と、を積層した構造を有する。そこで、本発明に係るドナーシートの構成について、[1]複合タングステン酸化物微粒子、[2]光熱変換層、[3]フィルム基材、[4]被転写層、[5]ドナーシートの順に説明する。
【0020】
[1]複合タングステン酸化物微粒子
本発明に係る複合タングステン酸化物微粒子と、当該複合タングステン酸化物微粒子を含有させた後述する光熱変換層を製造する為に用いる複合タングステン酸化物微粒子分散液とについて、[a]複合タングステン酸化物微粒子の性状、[b]複合タングステン酸化物微粒子の合成方法、[c]複合タングステン酸化物微粒子分散液、[d]複合タングステン酸化物微粒子分散液の乾燥処理方法、の順で説明する。
【0021】
[a]複合タングステン酸化物微粒子の性状
本発明に係る複合タングステン酸化物微粒子は、赤外線吸収特性を有し、図2に示す六方晶の結晶構造を含む複合タングステン酸化物微粒子であり、当該六方晶の複合タングステン酸化物微粒子の格子定数は、a軸が7.3850Å以上7.4186Å以下、c軸が7.5600Å以上7.6240Å以下を有するものである。また、本発明に係る複合タングステン酸化物微粒子は、その粒子径が100nm以下のものである。そして、(c軸の格子定数/a軸の格子定数)に係る比の値が、1.0221以上、1.0289以下であることが好ましいものである。
以下、本発明に係る複合タングステン酸化物微粒子について、(1)結晶構造と格子定数、(2)粒子径および結晶子径、(3)複合タングステン酸化物微粒子の組成、(4)複合タングステン酸化物微粒子の表面被覆、(5)まとめ、の順に説明する。
【0022】
(1)結晶構造と格子定数
本発明に係る複合タングステン酸化物微粒子は、六方晶以外に、正方晶、立方晶のタングステンブロンズの構造を取るが、いずれの構造をとるときも赤外線吸収材料として有効である。しかしながら、当該複合タングステン酸化物微粒子がとる結晶構造によって、赤外線領域における吸収位置が変化する傾向がある。即ち、赤外線領域の吸収位置は、立方晶よりも正方晶のときが長波長側に移動し、六方晶のときは正方晶のときよりも、さらに長波長側へ移動する傾向がある。また、当該吸収位置の変動に付随して、可視光線領域の光の吸収は六方晶が最も少なく、次に正方晶であり、立方晶はこの中では最も大きい。
【0023】
以上の知見から、可視光領域の光をより透過させ、赤外線領域の光をより吸収する用途には、六方晶のタングステンブロンズを用いることが最も好ましい。複合タングステン酸化物微粒子が六方晶の結晶構造を有する場合、当該微粒子の可視光領域の透過率が向上し、近赤外線領域の吸収が向上する。この六方晶の結晶構造において、WO単位にて形成される8面体が、6個集合して六角形の空隙(トンネル)が構成され、当該空隙中にM元素が配置して1箇の単位を構成し、この1箇の単位が多数集合して六方晶の結晶構造を構成する。
【0024】
本発明に係る、可視光領域の透過を向上させ、近赤外線領域の吸収を向上させる効果を得るためには、複合タングステン酸化物微粒子中に、図2に示す単位構造11(WO単位で形成される8面体が6個集合して六角形の空隙が構成され、当該空隙中に元素M12が配置した構造)が含まれていれば良い。
この六角形の空隙にM元素の陽イオンが添加されて存在するとき、赤外線領域の吸収が向上する。ここで、一般的には、イオン半径の大きなM元素を添加したとき当該六方晶が形成され、具体的には、Cs、Rb、K、Tl、Ba、Inから選択される1種類以上を添加したとき六方晶が形成され易く好ましい。
さらに、これらイオン半径の大きなM元素のうちでもCs、Rbから選択される1種類以上を添加した複合タングステン酸化物微粒子においては、赤外線領域の吸収と可視光線領域の透過との両立が達成できる。尚、M元素として2種類以上を選択し、その内の1つをCs、Rb、K、Tl、Ba、Inから選択し、残りを、M元素を構成する1以上の元素から選択した場合にも六方晶となることがある。
【0025】
M元素としてCsを選択したCsタングステン酸化物微粒子の場合、その格子定数は、a軸が7.4031Å以上7.4186Å以下、c軸が7.5750Å以上7.6240Å以下であることが好ましく、より好ましくはa軸が7.4031Å以上7.4111Å以下、c軸が7.5891Å以上7.6240Å以下である。
M元素としてRbを選択したRbタングステン酸化物微粒子の場合、その格子定数は、a軸が7.3850Å以上7.3950Å以下、c軸が7.5600Å以上7.5700Å以下であることが好ましい。
M元素としてCsとRbとを選択したCsRbタングステン酸化物微粒子の場合、その格子定数は、a軸が7.3850Å以上7.4186Å以下、c軸が7.5600Å以上7.6240Å以下であることが好ましい。
尤も、M元素が上記CsやRbに限定される訳ではない。M元素がCsやRb以外の元素であっても、WO単位で形成される六角形の空隙に添加M元素として存在すれば良い。
【0026】
本発明に係る六方晶の結晶構造を有する複合タングステン酸化物微粒子を一般式MxWyOzで表記したとき、当該複合タングステン酸化物微粒子が均一な結晶構造を有するとき、添加M元素の添加量は、0.001≦x/y≦1、好ましくは0.2≦x/y≦0.5、更に好ましくは0.20≦x/y≦0.37、最も好ましくはx/y=0.33である。これは、理論上z/y=3のとき、x/y=0.33となることで、添加M元素が六角形の空隙の全てに配置されると考えられた為である。典型的な例としてはCs0.33WO、Cs0.03Rb0.30WO、Rb0.33WO、K0.33WO、Ba0.33WOなどを挙げることができる。
【0027】
ここで、本発明者らは、複合タングステン酸化物微粒子の赤外線吸収機能をより向上させる方策について研究を重ね、含有される自由電子の量をより増加させる構成に想到した。
即ち、当該自由電子量を増加させる方策として、当該複合タングステン酸化物微粒子へ機械的な処理を加え、含まれる六方晶へ適宜な歪みや変形を付与することに想到したものである。当該適宜な歪みや変形を付与された六方晶においては、結晶子構造を構成する原子における電子軌道の重なり状態が変化し、自由電子の量が増加するものと考えられる。
【0028】
上述した想到に基づき、本発明者らは後述する「[b]複合タングステン酸化物微粒子の合成方法」の焼成工程において生成した複合タングステン酸化物の粒子から、複合タングステン酸化物微粒子分散液を製造する際の分散工程において、複合タングステン酸化物の粒子を所定条件下にて粉砕することにより結晶構造へ歪みや変形を付与し、自由電子量を増加させて、複合タングステン酸化物微粒子の赤外線吸収機能、即ち光熱変換機能をさらに向上させることを研究した。
【0029】
そして当該研究から、焼成工程を経て生成した複合タングステン酸化物の粒子について、各々の粒子に着目して検討した。すると、当該各々の粒子間において、格子定数も、構成元素組成も、各々ばらつきが生じていることを知見した。
さらなる研究の結果、当該各々の粒子間における格子定数や構成元素組成のばらつきにも拘わらず、最終的に得られる複合タングステン酸化物微粒子において、その格子定数が所定の範囲内にあれば、所望の光学特性を発揮することを知見した。
【0030】
上述した知見を得た本発明者らは、さらに、当該複合タングステン酸化物微粒子の結晶構造における格子定数であるa軸とc軸とを測定することによって、当該微粒子の結晶構造の歪みや変形の度合いを把握しつつ、当該微粒子が発揮する光学的特性について研究した。
そして当該研究の結果、六方晶の複合タングステン酸化物微粒子において、a軸が7.3850Å以上7.4186Å以下、c軸が7.5600Å以上7.6240Å以下であるとき、当該微粒子は、波長350nm~600nmの範囲に極大値を有し、波長800nm~2100nmの範囲に極小値を有する光の透過率を示し、優れた赤外線吸収効果を発揮する赤外線吸収材料微粒子であるとの知見を得た。
【0031】
さらに、本発明に係る複合タングステン酸化物微粒子のa軸が7.3850Å以上7.4186Å以下、c軸が7.5600Å以上7.6240Å以下を有する六方晶の複合タングステン酸化物微粒子において、M元素の添加量を示すx/yの値が0.20≦x/y≦0.37の範囲内にあるとき、特に優れた赤外線吸収効果を発揮することも知見した。
【0032】
また、赤外線吸収材料微粒子としての複合タングステン酸化物微粒子においては、アモルファス相の体積比率が50%以下の単結晶であることが好ましいことも知見した。
複合タングステン酸化物微粒子が、アモルファス相の体積比率50%以下の単結晶であると、格子定数を上述した所定の範囲内に維持しながら、結晶子径を10nm以上100nm以下とすることができ、優れた光学的特性を発揮することができるものと考えられる。
【0033】
尚、複合タングステン酸化物微粒子が単結晶であることは、透過型電子顕微鏡等による電子顕微鏡像において、各微粒子内部に結晶粒界が観察されず、一様な格子縞のみが観察されることから確認することができる。また、複合タングステン酸化物微粒子においてアモルファス相の体積比率が50%以下であることは、同じく透過型電子顕微鏡像において、微粒子全体に一様な格子縞が観察され、格子縞が不明瞭な箇所が殆ど観察されないことから確認することができる。
さらに、アモルファス相は各微粒子外周部に存在する場合が多いので、各微粒子外周部に着目することで、アモルファス相の体積比率を算出可能な場合が多い。例えば、真球状の複合タングステン酸化物微粒子において、格子縞が不明瞭なアモルファス相が当該微粒子外周部に層状に存在する場合、その粒子径の10%以下の厚さであれば、当該複合タングステン酸化物微粒子におけるアモルファス相の体積比率は、50%以下である。
【0034】
一方、複合タングステン酸化物微粒子が、複合タングステン酸化物微粒子分散体である光熱変換層を構成する樹脂等の固体媒体のマトリックス中で分散している場合、当該分散している複合タングステン酸化物微粒子の平均粒子径から結晶子径を引いた値が、当該平均粒子径の20%以下であれば、当該複合タングステン酸化物微粒子は、アモルファス相の体積比率50%以下の単結晶であると言える。
【0035】
以上のことから、光熱変換層に分散された複合タングステン酸化物微粒子の平均粒子径から結晶子径を引いた値が、当該平均粒子径の値の20%以下になるように、複合タングステン酸化物微粒子の合成工程、粉砕工程、分散工程を、製造設備に応じて適宜調整することが好ましい。
なお、複合タングステン酸化物微粒子の結晶構造や格子定数の測定は、後述する複合タングステン酸化物微粒子分散液の溶媒を除去して得られる複合タングステン酸化物微粒子に対し、X線回折法により当該微粒子に含まれる結晶構造を特定し、リートベルト法を用いることにより格子定数としてa軸長およびc軸長を算出することが出来る。
【0036】
(2)粒子径および結晶子径
本発明に係る複合タングステン酸化物微粒子は、その粒子径が100nm以下のものである。そして、より優れた赤外線吸収特性を発揮させる観点から、当該粒子径は10nm以上100nm以下であるのが好ましく、より好ましくは10nm以上80nm以下、さらに好ましくは10nm以上60nm以下である。粒子径が10nm以上60nm以下の範囲であれば、最も優れた赤外線吸収特性が発揮される。
ここで、粒子径とは凝集していない個々の複合タングステン酸化物微粒子がもつ径の値であり、後述する光熱変換層に含まれる複合タングステン酸化物微粒子の粒子径である。
一方、当該粒子径は、複合タングステン酸化物微粒子の凝集体の径を含むものではなく、分散粒子径とは異なるものである。
【0037】
尚、平均粒子径は後述する光熱変換層の電子顕微鏡像から算出される。
光熱変換層に含まれる複合タングステン酸化物微粒子の平均粒子径は、断面加工で取り出した光熱変換層の薄片化試料の透過型電子顕微鏡像から、複合タングステン酸化物微粒子100個の粒子径を、画像処理装置を用いて測定し、その平均値を算出することで求めることが出来る。このとき、複合タングステン酸化物微粒子が凝集体を形成している場合、凝集体を構成する単一粒子ごとに粒子径を測定する。よって、凝集体の径は含まない。
当該薄片化試料を取り出すための断面加工には、ミクロトーム、クロスセクションポリッシャ、集束イオンビーム(FIB)装置等を用いることが出来る。尚、光熱変換層に含まれる複合タングステン酸化物微粒子の平均粒子径とは、マトリックスである固体媒体中で分散している複合タングステン酸化物微粒子の粒子径の平均値である。
【0038】
また、優れた赤外線吸収特性を発揮させる観点から、複合タングステン酸化物微粒子の結晶子径は10nm以上100nm以下であることが好ましく、より好ましくは10nm以上80nm以下、さらに好ましくは10nm以上60nm以下である。結晶子径が10nm以上60nm以下の範囲であれば、最も優れた赤外線吸収特性が発揮されるからである。
【0039】
尚、後述する解砕処理、粉砕処理または分散処理を経た後に得られる複合タングステン酸化物微粒子分散液中に含まれる複合タングステン酸化物微粒子の格子定数、結晶子径および粒子径は、当該複合タングステン酸化物微粒子分散液から揮発成分を除去して得られた複合タングステン酸化物微粒子や、当該複合タングステン酸化物微粒子分散液から得られる光熱変換層中に含まれる複合タングステン酸化物微粒子においても維持される。
この結果、本発明に係る複合タングステン酸化物微粒子分散液や複合タングステン酸化物微粒子を含む光熱変換層においても本発明の効果は発揮される。
【0040】
(3)複合タングステン酸化物微粒子の組成
本発明に係る複合タングステン酸化物微粒子は、一般式MxWyOz(但し、Mは、H、He、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、I、Ybの内から選択される1種以上の元素、Wはタングステン、Oは酸素、0.001≦x/y≦1、2.0≦z/y≦3.0)で表記される、複合タングステン酸化物微粒子であることが好ましい。
【0041】
当該一般式MxWyOzで示される複合タングステン酸化物微粒子について説明する。
一般式MxWyOz中のM元素、x、y、zおよびその結晶構造は、複合タングステン酸化物微粒子の自由電子密度と密接な関係があり、赤外線吸収特性に大きな影響を及ぼす。
【0042】
一般に、三酸化タングステン(WO)中には有効な自由電子が存在しないため赤外線吸収特性が低い。
ここで本発明者らは、当該タングステン酸化物へ、M元素(但し、M元素は、H、He、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、I、Ybの内から選択される1種以上の元素)を添加して複合タングステン酸化物とすることで、当該複合タングステン酸化物中に自由電子が生成され、赤外線領域に自由電子由来の吸収特性が発現し、波長1000nm付近の赤外線吸収材料として有効なものとなること、且つ、当該複合タングステン酸化物は化学的に安定な状態を保ち、耐候性に優れた赤外線吸収材料として有効なものとなることを知見したものである。さらに、M元素は、Cs、Rb、K、Tl,Ba、Inが好ましく、なかでも、M元素がCs、Rbであると、当該複合タングステン酸化物が六方晶構造を取り易くなる。この結果、可視光線を透過し、赤外線を吸収し吸収することから、後述する理由により特に好ましいことも知見したものである。尚、M元素として2種類以上を選択し、その内の1つをCs、Rb、K、Tl,Ba、Inから選択し、残りを、M元素を構成する1以上の元素から選択した場合にも、六方晶となることがある。
【0043】
ここで、M元素の添加量を示すxの値についての本発明者らの知見を説明する。
x/yの値が0.001以上であれば、十分な量の自由電子が生成され目的とする赤外線吸収特性を得ることが出来る。そして、M元素の添加量が多いほど、自由電子の供給量が増加し、赤外線吸収特性も上昇するが、x/yの値が1程度で当該効果も飽和する。また、x/yの値が1以下であれば、複合タングステン微粒子に不純物相が生成されるのを回避できるので好ましい。
【0044】
次に、酸素量の制御を示すzの値についての本発明者らの知見を説明する。
一般式MxWyOzで示される複合タングステン酸化物微粒子において、z/yの値は、2.0≦z/y≦3.0であることが好ましく、より好ましくは2.2≦z/y≦3.0であり、さらに好ましくは2.6≦z/y≦3.0、最も好ましくは2.7≦z/y≦3.0である。このz/yの値が2.0以上であれば、当該複合タングステン酸化物中に目的以外であるWOの結晶相が現れるのを回避することが出来ると伴に、材料としての化学的安定性を得ることが出来るので、有効な赤外線吸収材料として適用できるためである。一方、このz/yの値が3.0以下であれば、当該タングステン酸化物中に必要とされる量の自由電子が生成され、効率よい赤外線吸収材料となる。
【0045】
(4)複合タングステン酸化物微粒子の表面被覆膜
複合タングステン酸化物微粒子の耐候性を向上させるために、複合タングステン酸化物微粒子の表面の少なくとも一部をケイ素、ジルコニウム、チタン、アルミニウムから選択される1種類以上の元素を含む表面被覆膜により、被覆することも好ましい。これらの表面被覆膜は基本的に透明であり、添加したことで可視光透過率を低下させることはない。被覆方法は特に限定されないが、当該複合タングステン酸化物微粒子を分散した溶液中へ上記元素を含む金属のアルコキシドを添加することで、当該複合タングステン酸化物微粒子の表面を被覆することが可能である。この場合、当該表面被覆膜は酸素原子を含有するが、当該表面被覆膜が酸化物で構成されていることがより好ましい。
【0046】
(5)まとめ
以上、詳細に説明した、複合タングステン酸化物微粒子の格子定数や粒子径、結晶子径は、所定の製造条件によって制御可能である。具体的には、後述する熱プラズマ法や固相反応法などにおいて、当該微粒子が生成される際の温度(焼成温度)、生成時間(焼成時間)、生成雰囲気(焼成雰囲気)、前駆体原料の形態、生成後のアニール処理、不純物元素のドープなどの製造条件の適宜な設定によって制御可能である。
【0047】
[b]複合タングステン酸化物微粒子の合成方法
本発明に係る複合タングステン酸化物微粒子の合成方法について説明する。
本発明に係る複合タングステン酸化物微粒子の合成方法としては、熱プラズマ中にタングステン化合物の出発原料を投入する熱プラズマ法や、タングステン化合物出発原料を還元性ガス雰囲気中で熱処理する固相反応法が挙げられる。熱プラズマ法や固相反応法で合成された複合タングステン酸化物微粒子は、分散処理または粉砕・分散処理される。
以下、(1)熱プラズマ法、(2)固相反応法、(3)合成された複合タングステン酸化物微粒子、の順に説明する。
【0048】
(1)熱プラズマ法
熱プラズマ法について(i)熱プラズマ法に用いる原料、(ii)熱プラズマ法とその条件、の順に説明する。
【0049】
(i)熱プラズマ法に用いる原料
本発明に係る複合タングステン酸化物微粒子を熱プラズマ法で合成する際には、タングステン化合物と、M元素化合物との混合粉体を原料として用いることができる。
タングステン化合物としては、タングステン酸(HWO)、タングステン酸アンモニウム、六塩化タングステン、アルコールに溶解した六塩化タングステンに水を添加して加水分解した後溶媒を蒸発させたタングステンの水和物、から選ばれる1種以上であることが好ましい。
【0050】
また、M元素化合物としては、M元素の酸化物、水酸化物、硝酸塩、硫酸塩、塩化物、炭酸塩、から選ばれる1種以上を用いることが好ましい。
上述したタングステン化合物と上述したM元素化合物とを含む水溶液とを、M元素とW元素の比が、MxWyOz(但し、Mは前記M元素、Wはタングステン、Oは酸素、0.001≦x/y≦1.0、2.0≦z/y≦3.0)のM元素とW元素の比となるように湿式混合する。そして、得られた混合液を乾燥することによって、M元素化合物とタングステン化合物との混合粉体が得られる、そして、当該混合粉体は、熱プラズマ法の原料とすることが出来る。
【0051】
また、当該混合粉体を、不活性ガス単独または不活性ガスと還元性ガスとの混合ガス雰囲気下にて、1段階目の焼成によって得られる複合タングステン酸化物を得る際における熱プラズマ法の原料とすることも出来る。他にも、1段階目で不活性ガスと還元性ガスとの混合ガス雰囲気下で焼成し、当該1段階目の焼成物を、2段階目にて不活性ガス雰囲気下で焼成する、という2段階の焼成によって得られる複合タングステン酸化物を、熱プラズマ法の原料とすることも出来る。
【0052】
(ii)熱プラズマ法とその条件
本発明で用いる熱プラズマとして、例えば、直流アークプラズマ、高周波プラズマ、マイクロ波プラズマ、低周波交流プラズマ、のいずれか、または、これらのプラズマの重畳したもの、または、直流プラズマに磁場を印加した電気的な方法により生成するプラズマ、大出力レーザーの照射により生成するプラズマ、大出力電子ビームやイオンビームにより生成するプラズマ、が適用出来る。尤も、いずれの熱プラズマを用いるにしても、10000~15000Kの高温部を有する熱プラズマであり、特に、微粒子の生成時間を制御できるプラズマであることが好ましい。
【0053】
当該高温部を有する熱プラズマ中に供給された原料は、当該高温部において瞬時に蒸発する。そして、当該蒸発した原料は、プラズマ尾炎部に至る過程で凝縮し、プラズマ火炎外で急冷凝固されて、複合タングステン酸化物微粒子を生成する。
【0054】
高周波プラズマ反応装置を用いる場合を例として、図1を参照しながら合成方法について説明する。
先ず、真空排気装置により、水冷石英二重管内と反応容器6内とで構成される反応系内を、約0.1Pa(約0.001Torr)まで真空引きする。反応系内を真空引きした後、今度は、当該反応系内をアルゴンガスで満たし、1気圧のアルゴンガス流通系とする。
その後、反応容器内にプラズマガスとして、アルゴンガス、アルゴンとヘリウムの混合ガス(Ar-He混合ガス)、またはアルゴンと窒素の混合ガス(Ar-N混合ガス)から選択されるいずれかのガスを、プラズマガス供給ノズル4から30~45L/minの流量で導入する。一方、プラズマ領域のすぐ外側に流すシースガスとして、Ar-He混合ガスを、シースガス供給ノズル3から60~70L/minの流量で導入する。
そして、高周波コイル2に交流電流をかけて、高周波電磁場(周波数4MHz)により熱プラズマ1を発生させる。このとき、高周波電力は30~40kWとする。
【0055】
さらに、粉末供給ノズル5より、上記合成方法で得たM元素化合物とタングステン化合物との混合粉体、または、複合タングステン酸化物を、ガス供給装置から供給する6~98L/minのアルゴンガスをキャリアガスとして、供給速度25~50g/minの割合で,熱プラズマ中に導入して所定時間反応を行う。反応後、生成した複合タングステン酸化物微粒子は、吸引管7を通過してフィルター8に堆積するので、これを回収する。
キャリアガス流量と原料供給速度は、微粒子の生成時間に大きく影響する。そこで、キャリアガス流量を6L/min以上9L/min以下とし、原料供給速度を25~50g/minとするのが好ましい。
【0056】
また、プラズマガス流量を30L/min以上45L/min以下、シースガス流量を60L/min以上70L/min以下とすることが好ましい。プラズマガスは10000~15000Kの高温部を有する熱プラズマ領域を保つ機能があり、シースガスは反応容器内における石英トーチの内壁面を冷やし、石英トーチの溶融を防止する機能がある。それと同時に、プラズマガスとシースガスはプラズマ領域の形状に影響を及ぼすため、それらのガスの流量はプラズマ領域の形状制御に重要なパラメータとなる。プラズマガスとシースガス流量を上げるほどプラズマ領域の形状がガスの流れ方向に延び、プラズマ尾炎部の温度勾配が緩やかなるので、生成される微粒子の生成時間を長くし、結晶性の良い微粒子を生成できるようになる。
【0057】
熱プラズマ法で合成し得られる複合タングステン酸化物が、その結晶子径が100nmを超える場合や、熱プラズマ法で合成し得られる複合タングステン酸化物から得られる複合タングステン酸化物微粒子分散液中の複合タングステン酸化物の分散粒子径が200nmを超える場合は、後述する、粉砕・分散処理を行うことができる。熱プラズマ法で複合タングステン酸化物を合成する場合は、そのプラズマ条件や、その後の粉砕・分散処理条件を適宜選択して、複合タングステン酸化物の粒子径、結晶子径、格子定数のa軸長やc軸長が付与できる、粉砕条件(微粒子化条件)を定めることにより、本発明の効果が発揮される。
【0058】
(2)固相反応法
固相反応法について(i)固相反応法に用いる原料、(ii)固相反応法における焼成とその条件、の順に説明する。
【0059】
(i)固相反応法に用いる原料
本発明に係る複合タングステン酸化物微粒子を固相反応法で合成する際には、原料としてタングステン化合物およびM元素化合物を用いる。
タングステン化合物は、タングステン酸(HWO)、タングステン酸アンモニウム、六塩化タングステン、アルコールに溶解した六塩化タングステンに水を添加して加水分解した後、溶媒を蒸発させたタングステンの水和物、から選ばれる1種以上であることが好ましい。
また、より好ましい実施形態である一般式MxWyOz(但し、Mは、Cs、Rb、K、Tl、Ba、Inから選択される1種類以上の元素、0.001≦x/y≦1、2.0≦z/y≦3.0)で示される複合タングステン酸化物微粒子の原料の製造に用いるM元素化合物には、M元素の酸化物、水酸化物、硝酸塩、硫酸塩、塩化物、炭酸塩、から選ばれる1種以上であることが好ましい。
【0060】
また、Si、Al、Zrから選ばれる1種以上の不純物元素を含有する化合物(本発明において「不純物元素化合物」と記載する場合がある。)を、原料として含んでもよい。当該不純物元素化合物は、後の焼成工程において複合タングステン化合物と反応せず、複合タングステン酸化物の結晶成長を抑制して、結晶の粗大化を防ぐ働きをするものである。不純物元素を含む化合物は、酸化物、水酸化物、硝酸塩、硫酸塩、塩化物、炭酸塩、から選ばれる1種以上であることが好ましく、粒径が500nm以下のコロイダルシリカやコロイダルアルミナが特に好ましい。
【0061】
上記タングステン化合物と、上記M元素化合物を含む水溶液とを、M元素とW元素の比が、MxWyOz(但し、Mは前記M元素、Wはタングステン、Oは酸素、0.001≦x/y≦1.0、2.0≦z/y≦3.0)のM元素とW元素の比となるように湿式混合する。不純物元素化合物を原料として含有させる場合は、不純物元素化合物が0.5質量%以下になるように湿式混合する。そして、得られた混合液を乾燥することによって、M元素化合物とタングステン化合物との混合粉体、もしくは不純物元素化合物を含むM元素化合物とタングステン化合物との混合粉体が得られる。
【0062】
(ii)固相反応法における焼成とその条件
当該湿式混合で製造したM元素化合物とタングステン化合物との混合粉体、もしくは不純物元素化合物を含むM元素化合物とタングステン化合物との混合粉体を、不活性ガス単独または不活性ガスと還元性ガスとの混合ガス雰囲気下、1段階で焼成する。焼成温度は複合タングステン酸化物微粒子が結晶化し始める温度に近いことが好ましく、具体的には焼成温度が1000℃以下であることが好ましく、800℃以下であることがより好ましく、800℃以下500℃以上の温度範囲がさらに好ましい。
【0063】
還元性ガスは特に限定されないがHが好ましい。また、還元性ガスとしてHを用いる場合、その濃度は焼成温度と出発原料の物量に応じて適宜選択すれば良く特に限定されない。例えば、20容量%以下、好ましくは10容量%以下、より好ましくは7容量%以下である。還元性ガスの濃度が20容量%以下であれば、急速な還元により日射吸収機能を有しないWOが生成するのを回避できるからである。このとき、この焼成条件の制御により、本発明に係る複合タングステン酸化物微粒子の粒子径、結晶子径、格子定数のa軸長やc軸長を所定の値に設定することが出来る。
尤も、当該複合タングステン酸化物微粒子の合成において、前記タングステン化合物に替えて、三酸化タングステンを用いても良い。
【0064】
(3)合成された複合タングステン酸化物微粒子
熱プラズマ法や固相反応法による合成法で得られた複合タングステン酸化物微粒子を用いて、後述する複合タングステン酸化物微粒子分散液を作製した場合、当該分散液に含有されている微粒子の分散粒子径が200nmを超える場合は、後述する複合タングステン酸化物微粒子分散液を製造する工程において、粉砕・分散処理すればよい。そして、粉砕・分散処理を経て得られた複合タングステン酸化物微粒子の粒子径、結晶子径、格子定数のa軸長やc軸長の値が本発明の範囲を実現できていれば、本発明に係る複合タングステン酸化物微粒子やその分散液から得られる光熱変換層は、優れた赤外線吸収特性を実現できるのである。
上述したように、本発明に係る複合タングステン酸化物微粒子は、その粒子径が100nm以下であるものである。しかし、「[b]複合タングステン酸化物微粒子の合成方法」に示す方法で得られた複合タングステン酸化物微粒子の粒子径が100nmを超えた場合は、粉砕・分散処理して微粒化し、複合タングステン酸化物微粒子分散液を製造する工程(粉砕・分散処理工程)と、製造された複合タングステン酸化物微粒子分散液を乾燥処理して揮発成分(殆どが溶媒)を除去することで、本発明に係る複合タングステン酸化物微粒子を製造することができる。
【0065】
[c]複合タングステン酸化物微粒子分散液
上述した工程で得られた複合タングステン酸化物微粒子を含有させた後述する光熱変換層を製造する為に用いる複合タングステン酸化物微粒子分散液について説明する。
複合タングステン酸化物微粒子分散液は、前記合成方法で得られた複合タングステン酸化物微粒子と、水、有機溶媒、液状樹脂、プラスチック用の液状可塑剤、高分子単量体またはこれらの混合物から選択される混合スラリーの液状媒体、および適量の分散剤、カップリング剤、界面活性剤等を、媒体攪拌ミルで粉砕・分散させたものである。
そして、当該溶媒中における当該微粒子の分散状態が良好で、その分散粒子径が1~200nmであることを特徴とする。また、該複合タングステン酸化物微粒子分散液に含有されている複合タングステン酸化物微粒子の含有量が、0.01質量%以上80質量%以下であることが好ましい。
以下、本発明に係る複合タングステン酸化物微粒子分散液について、(1)用いられる溶媒、(2)用いられる分散剤、(3)粉砕・分散方法、(4)複合タングステン酸化物微粒子分散液中における分散粒子径、(5)バインダー、その他の添加剤、の順に説明する。
【0066】
(1)用いられる溶媒
複合タングステン酸化物微粒子分散液に用いられる液状溶媒は特に限定されるものではなく、複合タングステン酸化物微粒子分散液の塗布条件、塗布環境、および、適宜添加される無機バインダーや樹脂バインダーなどに合わせて適宜選択すればよい。例えば、液状溶媒は、水、有機溶媒、油脂、液状樹脂、媒体樹脂用の液状可塑剤、高分子単量体、または、これらの混合物などである。
【0067】
ここで、有機溶媒としては、アルコール系、ケトン系、炭化水素系、グリコール系、水系など、種々のものを選択することが可能である。具体的には、メタノール、エタノール、1-プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、ペンタノール、ベンジルアルコール、ジアセトンアルコールなどのアルコール系溶剤;アセトン、メチルエチルケトン、メチルプロピルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロンなどのケトン系溶剤;3-メチル-メトキシ-プロピオネートなどのエステル系溶剤;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールイソプロピルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールエチルエーテルアセテートなどのグリコール誘導体;フォルムアミド、N-メチルフォルムアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドンなどのアミド類;トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類;エチレンクロライド、クロルベンゼンなどが使用可能である。そして、これらの有機溶媒中でも、特に、ジメチルケトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、トルエン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、酢酸n-ブチルなどが好ましい。
【0068】
油脂としては、植物油脂または植物由来油脂が好ましい。植物油としては、アマニ油、ヒマワリ油、桐油、エノ油等の乾性油、ゴマ油、綿実油、菜種油、大豆油、米糠油、ケシ油等の半乾性油、オリーブ油、ヤシ油、パーム油、脱水ヒマシ油等の不乾性油が用いられる。植物油由来の化合物としては、植物油の脂肪酸とモノアルコールを直接エステル反応させた脂肪酸モノエステル、エーテル類などが用いられる。また、市販の石油系溶剤も油脂として用いることができ、アイソパーE、エクソールHexane、エクソールHeptane、エクソールE、エクソールD30、エクソールD40、エクソールD60、エクソールD80、エクソールD95、エクソールD110、エクソールD130(以上、エクソンモービル製)等を挙げることができる。
【0069】
ここで、液状可塑剤としては、例えば一価アルコールと有機酸エステルとの化合物である可塑剤や、多価アルコール有機酸エステル化合物等のエステル系である可塑剤、有機リン酸系可塑剤等のリン酸系である可塑剤が挙げられ、いずれも室温で液状であるものが好ましい。なかでも、多価アルコールと脂肪酸から合成されたエステル化合物である可塑剤が好ましい。
【0070】
多価アルコールと脂肪酸から合成されたエステル化合物は特に限定されないが、例えば、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、トリプロピレングリコール等のグリコールと、酪酸、イソ酪酸、カプロン酸、2-エチル酪酸、ヘプチル酸、n-オクチル酸、2-エチルヘキシル酸、ペラルゴン酸(n-ノニル酸)、デシル酸等の一塩基性有機酸との反応によって得られた、グリコール系エステル化合物が挙げられる。また、テトラエチレングリコール、トリプロピレングリコールと、前記一塩基性有機とのエステル化合物等も挙げられる。
なかでも、トリエチレングリコールジヘキサネート、トリエチレングリコールジ-2-エチルブチレート、トリエチレングリコールジ-オクタネート、トリエチレングリコールジ-2-エチルヘキサノネート等のトリエチレングリコールの脂肪酸エステルが好適である。トリエチレングリコールの脂肪酸エステルが望ましい。
【0071】
また、高分子単量体とは重合等により高分子を形成する単量体であるが、本発明で用いる好ましい高分子単量体としては、メチルメタクリレート単量体、アクレリート単量体やスチレン樹脂単量体などが挙げられる。
【0072】
以上、説明した液状溶媒は、1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。さらに、必要に応じて、これらの液状溶媒へ酸やアルカリを添加してpH調整してもよい。
【0073】
(2)用いられる分散剤
さらに、当該複合タングステン酸化物微粒子分散液中における複合タングステン酸化物微粒子の分散安定性を一層向上させ、再凝集による分散粒子径の粗大化を回避するために、各種の分散剤、界面活性剤、カップリング剤などの添加も好ましい。当該分散剤、カップリング剤、界面活性剤は用途に合わせて選定可能であるが、アミンを含有する基、水酸基、カルボキシル基、または、エポキシ基を官能基として有するものであることが好ましい。これらの官能基は、複合タングステン酸化物微粒子の表面に吸着して凝集を防ぎ、赤外線吸収膜中においても本発明に係る複合タングステン酸化物微粒子を均一に分散させる効果を持つ。これらの官能基のいずれかを分子中にもつ高分子系分散剤がさらに望ましい。
【0074】
このような分散剤には、
日本ルーブリゾール社製、SOLSPERSE(登録商標)(以下同じ)3000、5000、9000、11200、12000、13000、13240、13650、13940、16000、17000、18000、20000、21000、24000SC、24000GR、26000、27000、28000、31845、32000、32500、32550、32600、33000、33500、34750、35100、35200、36600、37500、38500、39000、41000、41090、53095、55000、56000、71000、76500、J180、J200、M387等;
SOLPLUS(登録商標)(以下同じ)D510、D520、D530、D540、DP310、K500、L300、L400、R700等;
ビックケミー・ジャパン社製、Disperbyk(登録商標)(以下同じ)-101、102、103、106、107、108、109、110、111、112、116、130、140、142、145、154、161、162、163、164、165、166、167、168、170、171、174、180、181、182、183、184、185、190、191、192、2000、2001、2009、2020、2025、2050、2070、2095、2096、2150、2151、2152、2155、2163、2164;
Anti-Terra(登録商標)(以下同じ)-U、203、204等;
BYK(登録商標)(以下同じ)-P104、P104S、P105、P9050、P9051、P9060、P9065、P9080、051、052、053、054、055、057、063、065、066N、067A、077、088、141、220S、300、302、306、307、310、315、320、322、323、325、330、331、333、337、340、345、346、347、348、350、354、355、358N、361N、370、375、377、378、380N、381、392、410、425、430、1752、4510、6919、9076、9077、W909、W935、W940、W961、W966、W969、W972、W980、W985、W995、W996、W9010、Dynwet800、Siclean3700、UV3500、UV3510、UV3570等;
エフカアディデブズ社製、EFKA(登録商標)(以下同じ)2020、2025、3030、3031、3236、4008、4009、4010、4015、4046、4047、4060、4080、7462、4020、4050、4055、4300、4310、4320、4400、4401、4402、4403、4300、4320、4330、4340、5066、5220、6220、6225、6230、6700、6780、6782、8503;
BASFジャパン社製、JONCRYL(登録商標)(以下同じ)67、678、586、611、680、682、690、819、-JDX5050等;
大塚化学社製、TERPLUS(登録商標)(以下同じ) MD1000、D 1180、D 1130等;
味の素ファインテクノ社製、アジスパー(登録商標)(以下同じ)PB-711、PB-821、PB-822等;
楠本化成社製、ディスパロン(登録商標)(以下同じ)1751N、1831、1850、1860、1934、DA-400N、DA-703-50、DA-325、DA-375、DA-550、DA-705、DA-725、DA-1401、DA-7301、DN-900、NS-5210、NVI-8514L等;
東亞合成社製、アルフォン(登録商標)(以下同じ)UC-3000、UF-5022、UG-4010、UG-4035、UG-4070等;が挙げられる。
【0075】
(3)粉砕・分散方法
複合タングステン酸化物微粒子の分散液への分散方法は、当該微粒子を分散液中において、凝集させることなく均一に分散できる方法であれば特に限定されない。当該粉砕・分散方法として、例えば、ビーズミル、ボールミル、サンドミル、ペイントシェーカー、超音波ホモジナイザーなどの装置を用いた粉砕・分散処理方法が挙げられる。その中でも、ビーズ、ボール、オタワサンドといった媒体メディアを用いる、ビーズミル、ボールミル、サンドミル、ペイントシェーカー等の媒体攪拌ミルで粉砕・分散させることは、所望とする分散粒子径に要する時間が短いことから好ましい。
媒体攪拌ミルを用いた粉砕・分散処理によって、複合タングステン酸化物微粒子の分散液中への分散と同時に、複合タングステン酸化物微粒子同士の衝突や媒体メディアの該微粒子への衝突などによる微粒子化も進行し、複合タングステン酸化物微粒子をより微粒子化して分散させることができる(即ち、粉砕・分散処理される。)。
【0076】
このとき、微粒子化され分散した複合タングステン酸化物微粒子において、優れた赤外線吸収特性が発揮される観点より、結晶子径は10nm以上100nm以下であることが好ましく、より好ましくは10nm以上80nm以下、さらに好ましくは10nm以上60nm以下となるように、粉砕・分散処理条件を調整する。
【0077】
複合タングステン酸化物微粒子を可塑剤へ分散させる際、所望により、さらに120℃以下の沸点を有する有機溶剤を添加することも好ましい構成である。
120℃以下の沸点を有する有機溶剤として、具体的にはトルエン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、酢酸ブチル、イソプロピルアルコール、エタノールが挙げられる。尤も、沸点が120℃以下で赤外線吸収機能を発揮する微粒子を均一に分散可能なものであれば、任意に選択できる。但し、当該有機溶剤を添加した場合は、分散完了後に乾燥工程を実施し、光熱変換層中に残留する有機溶剤を5質量%以下とすることが好ましい。光熱変換層の残留溶媒が5質量%以下であれば、気泡が発生せず、外観や光学特性が良好に保たれるからである。
【0078】
(4)複合タングステン酸化物微粒子分散液中における分散粒子径
本発明に係る複合タングステン酸化物微粒子の、複合タングステン酸化物微粒子分散液中における分散粒子径は、200nm以下であることが好ましく、さらに好ましくは、分散粒子径が200nm以下10nm以上である。これは、複合タングステン酸化物微粒子の分散粒子径が10~200nmであれば、後述する光熱変換層のヘイズを低減でき、光熱変換層をレーザ光の照射による有機エレクトロルミネッセンス素子等の転写に用いた場合、加工位置などの精度を向上させる観点、および、可視光透過率の増加を図る観点から好ましいからである。
【0079】
当該微粒子の分散粒子径を200nmよりも小さくすれば透明性を確保することができるが、当該透明性を重視する場合には、分散粒子径を150nm以下、さらに好ましくは100nm以下とする。光の散乱を回避する観点からは、分散粒子径が小さい方が好ましく、分散粒子径が10nm以上あれば工業的な製造は容易である。
【0080】
ここで、複合タングステン酸化物微粒子分散液中における、当該複合タングステン酸化物微粒子の分散粒子径について簡単に説明する。複合タングステン酸化物微粒子の分散粒子径とは、溶媒中に分散している複合タングステン酸化物微粒子の単体粒子や、当該複合タングステン酸化物微粒子が凝集した凝集粒子の粒子径を意味するものであり、市販されている種々の粒度分布計で測定することができる。例えば、当該複合タングステン酸化物微粒子分散液のサンプルを採取し、当該サンプルを、動的光散乱法を原理とした大塚電子(株)製ELS-8000を用いて測定することができる。
【0081】
また、前記の合成方法で得られる複合タングステン酸化物微粒子の含有量が0.01質量%以上80質量%以下である複合タングステン酸化物微粒子分散液は、液安定性に優れる。適切な液状媒体や、分散剤、カップリング剤、界面活性剤を選択した場合は、温度40℃の恒温槽に入れたときでも6ヶ月以上分散液のゲル化や粒子の沈降が発生せず、分散粒子径を1~200nmの範囲に維持できる。
尚、複合タングステン酸化物微粒子分散液における分散粒子径と、後述する光熱変換層における分散粒子径とが異なる場合がある。これは、複合タングステン酸化物微粒子分散液中では複合タングステン酸化物微粒子が凝集している場合がある為である。そして、当該複合タングステン酸化物微粒子分散液を用いて、光熱変換層を作製する際に、複合タングステン酸化物微粒子の凝集が解されるからである。
【0082】
(5)バインダー、その他の添加剤
当該複合タングステン酸化物微粒子分散液には、適宜、後述するバインダーを含有させることができる。また、本発明に係る光熱変換層の赤外線吸収特性を向上させるために、本発明に係る分散液へ一般式XBm(但し、Xはアルカリ土類元素、またはイットリウムを含む希土類元素から選ばれた金属元素、Bはホウ素、4≦m≦6.3)で表されるホウ化物、ATOおよびITO等の赤外線吸収粒子を、所望に応じて適宜添加することも好ましい構成である。なお、このときの添加割合は、所望とする赤外線吸収特性に応じて適宜選択すればよい。
【0083】
また、光熱変換層の色調を調整する為に、カーボンブラックや弁柄等の公知の無機顔料や公知の有機顔料も添加できる。
複合タングステン酸化物微粒子分散液には、公知の紫外線吸収剤や有機物の公知の赤外線吸収材やリン系の着色防止剤を添加してもよい。
更には、遠赤外線を放射する能力を有する微粒子を添加してもよい。例えば、ZrO、SiO、TiO、Al、MnO、MgO、Fe、CuO等の金属酸化物、ZrC、SiC、TiC等の炭化物、ZrN、Si、AlN等の窒化物等を挙げることができる。
【0084】
[d]複合タングステン酸化物微粒子分散液の乾燥処理方法
上述した複合タングステン酸化物微粒子分散液を乾燥処理して溶媒を除去することにより、本発明に係る複合タングステン酸化物微粒子を得ることが出来る。
乾燥処理の設備としては、加熱および/または減圧が可能で、当該微粒子の混合や回収がし易いという観点から、大気乾燥機、万能混合機、リボン式混合機、真空流動乾燥機、振動流動乾燥機、凍結乾燥機、リボコーン、ロータリーキルン、噴霧乾燥機、パルコン乾燥機、等が好ましいが、これらに限定されない。
【0085】
[2]光熱変換層
本発明に係る光熱変換層は、赤外線吸収粒子である複合タングステン酸化物微粒子とバインダー成分とを含有し、当該複合タングステン酸化物微粒子がバインダー成分中に分散している。
以下、(1)バインダー成分、(2)光熱変換層と、その構成、の順に説明する。
【0086】
(1)バインダー成分
バインダー成分としては特に限定されるものではなく、任意のバインダー成分を用いることができる。ただし、本発明においては、可視光透過性を備えた光熱変換層を提供することを目的とすることから、固体状になった場合の可視光透過性に優れたバインダー成分を用いることが好ましい。また、光熱変換層に対してレーザ光を照射した場合に、光熱変換層に含まれる赤外線吸収粒子に当該レーザ光を照射できるよう、赤外線領域、特に近赤外線領域の光の透過性も優れたバインダー成分を用いることが好ましい。
【0087】
バインダー成分として具体的には、例えば、UV硬化樹脂(紫外線硬化樹脂)、熱硬化樹脂、電子線硬化樹脂、常温硬化樹脂、熱可塑樹脂等が目的に応じて選定可能である。具体的には、ポリエチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、エチレン酢酸ビニル共重合体、ポリエステル樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ふっ素樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、ポリビニルブチラール樹脂等が挙げられる。これらの樹脂は、単独使用であっても混合使用であっても良い。
また、バインダー成分として金属アルコキシドの利用も可能である。金属アルコキシドとしては、Si、Ti、Al、Zr等のアルコキシドが挙げられる。これら金属アルコキシドを用いたバインダーは、加熱等により加水分解・縮重合させることで、酸化物膜を形成することが可能である。
【0088】
(2)光熱変換層と、その構成
上述したように本発明に係る光熱変換層は、高い位置の精度をもって、所望の箇所のみで発熱させることが可能である。この結果、エレクトロニクス、医療、農業、機械、等の広い範囲に分野において適用可能であると考えられるものである。
以下、本発明に係る光熱変換層の構成について、1)赤外線吸収粒子とバインダー成分との比率、2)光熱変換層における赤外線吸収粒子の平均粒子径、3)光熱変換層の日射透過率、4)光熱変換層の厚さ、5)光熱変換層の製造方法、の順に説明する。
【0089】
1)赤外線吸収粒子とバインダー成分との比率
光熱変換層に含まれる赤外線吸収粒子と、バインダー成分との比率は特に限定されるものではなく、光熱変換層の厚さや、光熱変換層に要求されるレーザ光の吸収特性等に応じて任意に選択することができ、特に限定されるものではない。ただし、例えば各種用途において光熱変換層を使用する際、光熱変換層が膜の形態を保てるように赤外線吸収粒子と、バインダー成分との比率を選択することが好ましい。
【0090】
光熱変換層は、上述した赤外線吸収粒子、及びバインダー成分以外にもさらに任意の成分を添加することができる。また、後述のように、光熱変換層を形成する際、光熱変換層の原料となるインクには例えば分散剤や、溶媒等を添加することができ、これらの成分が残留し、光熱変換層に含まれていても良い。
【0091】
2)光熱変換層における赤外線吸収粒子の平均粒子径
赤外線吸収粒子の光熱変換層における平均粒子径は、光熱変換層に要求される透明性の程度や、レーザ光の吸収の程度等に応じて選択する。例えば、赤外線吸収粒子は微粒子であることが好ましく、具体的には赤外線吸収粒子の平均粒子径が100nm以下であることが好ましく、より好ましくは10nm以上100nm以下である。これは、赤外線吸収粒子の平均粒子径を10nm以上とすることにより、例えばドナーシートに適用した場合にレーザ光を十分に吸収することができるためである。また、赤外線吸収粒子の平均粒子径が100nm以下とすることにより、赤外線吸収粒子を例えば分散剤や溶媒等と混合した際に、安定して分散させることができ、基材上に特に均一に塗布することができるためである。この結果、可視領域の光の透過性を保持して光熱変換層の透明性を高めることができる。
【0092】
さらに、赤外線吸収粒子の平均粒子径が、10nm以上100nm以下であり、且つ、赤外線吸収粒子が凝集していなければ、幾何学散乱またはミー散乱によって光を散乱することが無くなるので、ヘイズが減少する。この結果を、例えばレーザ光の照射による有機エレクトロルミネッセンス素子等の転写に用いた場合、本発明に係る光熱変換層は光を散乱しないので、加工位置などの精度を向上させる観点、および、可視光透過率の増加を図る観点から好ましいからである。さらに、レイリー散乱領域では、散乱光は粒子径の6乗に比例して低減するため、分散粒子径の減少に伴い散乱が低減し透明性が向上する。そこで、平均粒子径が100nm以下となると散乱光は非常に少なくなり好ましい。
【0093】
本発明に係る光熱変換層は、高い位置の精度をもって、所望の箇所のみで発熱させることが可能になることから、エレクトロニクス、医療、農業、機械、等の広い範囲に分野において適用可能であると考えられる。
例えば、エレクトロニクスにおける有機エレクトロルミネッセンスの分野においては、熱硬化樹脂の硬化や熱転写等が可能となる。具体的には、本発明の光熱変換層をレーザ光の照射による有機エレクトロルミネッセンス素子等の製造に用いるドナーシートに適用すれば、低いヘイズのため、転写の精度を向上させることの出来る、可視光透過性を備えたドナーシートを製造することが出来る。
以上の観点より、光熱変換層のヘイズは3%以下であることが好ましい。
【0094】
尚、平均粒子径は、上述の「[1]複合タングステン酸化物微粒子、[a]複合タングステン酸化物微粒子の性状、(2)粒子径および結晶子径」の項目で説明した電子顕微鏡を用いた方法から算出される。
【0095】
3)光熱変換層の日射透過率
本発明に係る光熱変換層は、日射透過率が45%以下であることが好ましい。光熱変換層の日射透過率が45%以下であれば、当該光熱変換層において十分な発熱が得られるからである。
これは、例えばドナーシートにおいて被転写層を転写する際には主に近赤外線領域、特に波長1000nm近傍の波長を有するレーザ光が用いられていることによる。この為、光熱変換層は係る領域の光の吸収率が高いことが好ましいからである。すなわち、係る領域の光の透過率が低いことが好ましい。そして、日射透過率が45%以下の場合、光熱変換層は波長1000nm近傍の光を十分に吸収し、熱発生することができるため好ましい。波長1000nm近傍の光を十分に吸収するため、光熱変換層の波長1000nmの透過率は20%以下が好ましく、さらに15%以下であることがより好ましい。
光熱変換層の厚さは、光熱変換層に添加した赤外線吸収粒子の赤外線の吸収特性、光熱変換層内の赤外吸収粒子の充填密度、要求される可視光透過率、日射透過率の程度等に応じて選択する。
【0096】
4)光熱変換層の厚さ
本発明に係る光熱変換層の厚さは、例えば5μm以下とすることが好ましく、3μm以下とすることがより好ましい。これは光熱変換層の厚さが厚くなると、光熱変換層にレーザ光を照射した際に生じた熱が拡散しやすくなるためである。例えばドナーシートの光熱変換層として用いた場合、光熱変換層の厚さが5μm以下であれば、レーザ光を照射した点から面内方向に熱が拡散せず、レーザ光を照射していない部分についても被転写層が剥離し転写されることがなく、好ましい為である。
光熱変換層の厚さの下限値は特に限定されるものではなく、赤外線吸収粒子の赤外線吸収特性等に応じて任意に選択することができる。尤も、光熱変換層の厚さは500nm以上であることが好ましく、1μm以上であることがより好ましい。これは光熱変換層の厚さが500nm以上であれば、レーザ光を照射した際に生じる熱量を確保出来るので、光熱変換層内に分散している赤外線吸収粒子の密度を過度に高めることなく、光熱変換層の形状を維持することが容易だからである。
【0097】
5)光熱変換層の製造方法
本発明に係る光熱変換層の製造方法の一構成例について説明する。
上述の光熱変換層は、例えば上述した複合タングステン酸化物微粒子分散液とバインダー成分とを混合してインクを製造し、当該インクを基材上に塗布し、塗布したインクを乾燥させた後、乾燥させたインクを硬化させることにより形成することができる。つまり、当該インクは、赤外線吸収粒子、分散剤、溶媒、及びバインダー成分を含有する。
【0098】
尚、赤外線吸収粒子、分散剤、溶媒、及びバインダー成分を含有するインクを塗布する基材としては、例えばフィルム基材がある。当該基材は、フィルム基材のみから構成することもできるが、フィルム基材上に任意の層を形成した物を用いることもできる。
従って、赤外線吸収粒子、分散剤、溶媒、及びバインダー成分を含有するインクを基材上に塗布するとは、当該インクをフィルム基材上に直接塗布する場合に限定されるものではない。例えば、フィルム基材上に後述する中間層等を形成し、フィルム基材上に形成された当該中間層上に係るインクを塗布する場合も包含する。このようにフィルム基材上に任意の層を配置した場合も、インクを塗布後、インクを乾燥、硬化させることにより光熱変換層を形成することができる。
【0099】
以下、本発明に係る光熱変換層の製造方法について、(I)インクの製造工程、(II)インクの塗布工程、(III)インクの乾燥工程、(IV)インクの硬化工程、(V)製造された光熱変換層、の順に説明する。
【0100】
(I)インクの製造工程
上述した複合タングステン酸化物微粒子分散液とバインダー成分とを混合し、光熱変換層を形成するためのインクを製造することが出来る。インクを製造する際には、両者が十分に混ざり合う程度に混合すればよい。
分散液と、バインダー成分とを混合する方法も特に限定されるものではなく、例えば、分散液を調製する際に用いた粉砕・分散手段と同じ手段を用いて分散液と、バインダー成分とを混合することもできる。ただし、上述のようにインクを調製する際には、分散液とバインダー成分とが十分に混ざり合う程度に混合すればよく、分散液を調製した際よりも混合時間は短くすることができる。
そして、混合完了時に複合タングステン酸化物微粒子の格子定数が、a軸が7.3850Å以上7.4186Å以下、c軸が7.5600Å以上7.6240Å以下であれば良い。
【0101】
(II)インクの塗布工程
インクを基材上に塗布する方法は特に限定されるものではなく、例えばバーコート法、グラビヤコート法、スプレーコート法、ディップコート法等により塗布することができる。
なお、フィルム基材としては特に限定されるものではなく、用途に応じて任意のフィルム基材を用いることができる。例えば後述のドナーシートの場合と同様のフィルム基材を用いることもできる。
【0102】
(III)インクの乾燥工程
インクの乾燥工程において、インクを乾燥する方法は特に限定されるものではない。例えば用いた溶媒の沸点に応じて加熱温度を選択し、乾燥することができる。
【0103】
(IV)インクの硬化工程
インクの硬化工程において、乾燥工程で乾燥させたインクを硬化させる方法は特に限定されるものではない。バインダー成分の樹脂等に応じた方法で硬化させることができる。例えば、バインダー成分が紫外線硬化樹脂の場合には紫外線を照射することにより硬化することができる。また、バインダー成分が熱硬化樹脂の場合には、硬化温度まで昇温することにより硬化することができる。
【0104】
(V)製造された光熱変換層
以上の工程により、本発明に係る光熱変換層を得ることが出来る。本発明に係る光熱変換層は、レーザ光を吸収し、熱を発生させる光熱変換層が要求される各種用途に用いることが出来る。その用途は特に限定されるものではないが、例えばドナーシートの光熱変換層や感熱式プリンター用の感熱紙や熱転写プリンター用のインクリボンとして好適に用いることが出来る。
【0105】
[3]フィルム基材
本発明に係るフィルム基材について、本発明に係るドナーシートの断面構成例の説明図である図3を参照しながら説明する。
本発明に係るドナーシート20において、フィルム基材21は、光熱変換層22や被転写層23を支持する層である。そして、ドナーシート20に対してレーザ光を照射する場合、例えば波長1000nm近傍のレーザ光をフィルム基材21の他方の面21B側から照射することになる。このため、フィルム基材21は係るレーザ光が光熱変換層22まで透過できるように、特に近赤外領域の光の透過性に優れていることが好ましい。また、ドナーシート20中の例えば異物や塗布ムラ等の欠陥を、目視や可視光センサ等により検出できるよう、フィルム基材21は可視光の透過性についても優れていることが好ましい。
このため、フィルム基材21としては、可視光、及び近赤外領域の光の透過性に優れた材料を好ましく用いることができる。具体的には例えば、ガラスや、ポリエチレンテレフタレート(PET)、アクリル、ウレタン、ポリカーボネート、ポリエチレン、エチレン酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル、ふっ素樹脂等から選択される1種以上の材料をフィルム基材21として用いることができる。
【0106】
フィルム基材21の厚さは特に限定されるものではなく、フィルム基材21に用いる材料の種類や、ドナーシートに要求される可視光や近赤外光の透過性等に応じて任意に選択することができる。
フィルム基材21の厚さは例えば、1μm以上200μm以下とすることが好ましく、2μm以上50μm以下とすることがより好ましい。これは、フィルム基材21の厚さを200μm以下とすることにより、可視光や近赤外光の透過性を高めることができ、好ましいためである。また、フィルム基材21の厚さを1μm以上とすることによりフィルム基材21上に形成した光熱変換層22等を支持し、ドナーシート20が破損することを特に防止できるためである。
【0107】
[4]被転写層
本発明に係る被転写層について、本発明に係るドナーシートの断面構成例の説明図である図3を参照しながら説明する。
本発明に係るドナーシート20において、被転写層23は、ドナーシート20にレーザ光を照射することによりドナーシート20から剥離し、転写する層であり、その構成は特に限定されるものではなく、任意の層とすることができる。また、図3では被転写層23が一層により構成された例を示しているが、係る形態に限定されるものではなく、例えば二層以上からなる被転写層23を構成することもできる。
既述のようにドナーシート20は例えば有機エレクトロルミネッセンス素子を形成する際に用いることができる。このため、被転写層23は、例えば有機エレクトロルミネッセンス素子を構成する正孔注入層、正孔輸送層、有機発光層、電子輸送層、ブロッキング層、電子輸送層等から選択される一層以上を含むように構成することができる。
【0108】
なお、被転写層23の形成方法は特に限定されるものではなく、層を構成する材料の種類に応じて任意の方法により形成することができる。
また、ドナーシート20は有機エレクトロルミネッセンス素子を形成する場合だけでなく、電子回路、抵抗器、キャパシタ、ダイオード、整流器、メモリ素子、トランジスタ等の各種電子デバイスや、光導波路等の各種光デバイスなどを形成する場合にも用いることができる。このため、被転写層23は用途に応じて任意の構成とすることができる。
ここまでドナーシートの一構成例について説明したが、ドナーシートの構成は係る形態に限定されるものではなく、さらに任意の層を付加することもできる。例えば光熱変換層22と、被転写層23との間に中間層を設け、被転写層23の転写部分の損傷および汚染を抑制するように構成することもできる。
【0109】
中間層の構成は特に限定されるものではなく、例えばポリマフィルム、金属層、無機層(例えば、シリカ、チタニア等の無機酸化物層)、有機/無機複合層等により構成することができる。
【0110】
ドナーシートの各層を積層する順番も図3の形態に限定されるものではない。例えばフィルム基材21の一方の面21A上に被転写層23を、他方の面21B上に光熱変換層22を配置することもできる。
【0111】
[5]ドナーシート
以上、本発明に係る光熱変換層の一構成例について説明したが、本発明に係るドナーシートは、上述した本発明に係る光熱変換層を有している。そして、当該本発明に係る光熱変換層は可視光の透過率が高いため、光熱変換層を通しても目視や可視光センサ等によりドナーシート内の欠陥を検出し、欠陥のあるドナーシートについては検査によって除去することができる。この為、本発明に係るドナーシートを用いて有機エレクトロルミネッセンス素子等の電子デバイスや、光デバイス等を作製した場合の歩留まりを高めることが可能になる。さらに、本発明に係る光熱変換層はヘイズが低いので、本発明の光熱変換層は、レーザ光の照射による有機エレクトロルミネッセンス素子等の転写の際における位置の精度を向上させることの出来るドナーシートである。
【実施例
【0112】
以下に具体的な実施例を挙げて説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。以下の実施例1~18と比較例1~4とにおいて、光熱変換層とドナーシートとを作製し、評価を行った。
また、本発明に係る複合タングステン酸化物微粒子の結晶構造、格子定数、結晶子径の測定には、複合タングステン酸化物微粒子分散液から溶媒を除去して得られる複合タングステン酸化物微粒子を用いた。そして当該複合タングステン酸化物微粒子のX線回折パターンを、粉末X線回折装置(スペクトリス(株)PANalytical製X’Pert-PRO/MPD)を用いて粉末X線回折法(θ―2θ法)により測定した。得られたX線回折パターンから当該微粒子に含まれる結晶構造を特定し、さらにリートベルト法を用いて格子定数と結晶子径とを算出した。
【0113】
[実施例1]
(光熱変換層の作製)
以下の手順により光熱変換層を作製した。
水6.70kgに、炭酸セシウム(CsCO)7.43kgを溶解して溶液を得た。当該溶液を、タングステン酸(HWO)34.57kgへ添加して十分撹拌混合した後、撹拌しながら乾燥した(WとCsとのモル比が1:0.33相当である。)。当該乾燥物を、Nガスをキャリアーとした5容量%Hガスを供給しながら加熱し、800℃の温度で5.5時間焼成した、その後、当該供給ガスをNガスのみに切り替えて、室温まで降温して複合タングステン酸化物粒子を得た。
【0114】
当該複合タングステン酸化物粒子10質量%と、官能基としてアミンを含有する基を有するアクリル系高分子分散剤(アミン価48mgKOH/g、分解温度250℃のアクリル系分散剤)(以下、「分散剤a」と記載する。)10質量%と、トルエン80質量%とを秤量し、0.3mmφZrOビ-ズを入れたペイントシェーカー(浅田鉄工社製)に装填し、10時間粉砕・分散処理することによって実施例1に係る複合タングステン酸化物微粒子分散液を調製した。このとき、当該混合物100質量部に対し、0.3mmφZrOビーズを300質量部用いて粉砕・分散処理を行った。
【0115】
ここで、複合タングステン酸化物微粒子分散液内における複合タングステン酸化物微粒子の分散粒子径を、大塚電子(株)製ELS-8000を用い、レーザーの散乱光の揺らぎを観測し、動的光散乱法(光子相関法)により自己相関関数を求め、キュムラント法で平均粒子径(流体力学的径)を算出したところ70nmであった。
尚、粒径測定の設定として、粒子屈折率は1.81とし、粒子形状は非球形とした。また、バックグラウンドは、トルエンを用いて測定し、溶媒屈折率は1.50とした。
また、当該複合タングステン酸化物微粒子分散液から溶媒を除去した後に得られた、複合タングステン酸化物微粒子の格子定数を測定したところ、a軸が7.4071Å、c軸が7.6188Åであった。また、結晶子径は24nmであった。そして、六方晶の結晶構造が確認された。以上の合成条件および測定結果を表1に示す。尚、表1には、後述する実施例2-17に係る合成条件および測定結果についても併せて記載する。
【0116】
さらに当該複合タングステン酸化物微粒子分散液の光学特性として可視光透過率と日射透過率とを、(株)日立製作所製の分光光度計U-4100を用いてJIS R 3106(1998)に基づいて測定した。測定は、分光光度計の測定用ガラスセルへ、当該複合タングステン酸化物微粒子分散液をトルエンで希釈した液を充填して行った。尚、当該トルエンによる希釈は、希釈後における複合タングステン酸化物微粒子分散液の可視光透過率が70%前後になるように行った。
当該測定において、分光光度計の光の入射方向は測定用ガラスセルに垂直な方向とした。
さらに、当該測定用ガラスセルへ希釈溶媒であるトルエンのみを入れたブランク液においても光の透過率測定し、当該測定結果を光の透過率のベースラインとした。
複合タングステン酸化物微粒子分散液の光学特性を測定した結果、可視光透過率は70.2%となり、日射透過率は34.9%となった。
【0117】
次に、得られた複合タングステン酸化物微粒子分散液に紫外線硬化樹脂およびメチルイソブチルケトンを混合し実施例1に係るインクを作製し、厚さ50μmのPETフィルム上にバーコーター(井元製作所製IMC-700)で塗布して塗布膜を形成し、この塗布膜を80℃60秒間乾燥させて溶媒を蒸発させた。その後、紫外線照射して塗布膜を硬化させることで、複合タングステン酸化物微粒子を含有した光熱変換層をフィルム基材上に作製した。
光熱変換層中に分散された複合タングステン酸化物微粒子の平均粒子径は、透過型電子顕微鏡像を用いた画像処理装置によって算出したところ25nmであった。また、光熱変換層の膜厚は、TEM像から2.5μmであった。
【0118】
光熱変換層から成るシ-トの光学特性を分光光度計(日立製作所製U-4100)により波長200nm~2600nmの範囲において5nmの間隔で測定した。用いたフィルム基材のみについても同様にして光学特性を測定し、上述の測定値から差し引くことで光熱変換層の光学特性を算出した結果、可視光透過率は69.8%、日射透過率は35.9%、波長1000nmの透過率は5%であった。
また、ヘイズメーター(村上色彩技術研究所製 HM-150)を用いて、JIS K 7105に基いて光熱変換層から成るシ-トのヘイズを評価したところ、0.9%であった。用いたフィルム基材のみについても同様にヘイズを測定した結果、0.8%であった。このことから、光熱変換層由来のヘイズは殆ど皆無であり、光熱変換層中の複合タングステン酸化物微粒子は凝集していないことが分かった。
評価結果を表2に示す。
【0119】
(ドナーシートの作製)
作製した光熱変換層上にさらに被転写層を形成し、ドナーシートを形成した。ドナーシートは図3にて説明した構造となるように形成した。
具体的には、光熱変換層22の上面に被転写層23を形成した。被転写層23としては、光熱変換層22側から順に電子輸送層、有機発光層、正孔輸送層、及び正孔注入層を積層した。
【0120】
被転写層23に含まれる各層は以下のようにして成膜した。
電子輸送層は、Alq3[tris(8-quinolinolato)aluminium(III)]を蒸着法により成膜し、膜厚を20nmとした。
また、有機発光層は、電子輸送性のホスト材料であるADN(anthracene dinaphtyl)に、青色発光性のゲスト材料である4,4‘≡ビス[2≡{4≡(N,N≡ジフェニルアミノ)フェニル}ビニル]ビフェニル(DPAVBi)を2.5重量%で混合した材料を蒸着法により成膜し、膜厚は約25nmとした。
正孔輸送層は、α-NPD[4,4-bis(N-1-naphthyl-N-phenylamino)biphenyl]を蒸着法により成膜し、膜厚を30nmとした。
正孔注入層は、m-MTDATA[4,4,4-tris(3-methylphenylphenylamino)triphenylamine]を蒸着法により成膜し、膜厚は10nmとした。
得られたドナーシートについてはフィルム基材側から被転写層23を目視し、その状態の確認を行った。
【0121】
[実施例2~11]
実施例1において、タングステン酸と炭酸セシウムとを、もしくは、メタタングステン酸アンモニウム水溶液(WO換算で50質量%)と炭酸セシウムとを、WとCsとのモル比が1:0.21~0.37となるように所定量を秤量した以外は、実施例1と同様に操作した。そして、実施例2~11に係る複合タングステン酸化物粒子と複合タングステン酸化物微粒子分散液を得た。さらに当該複合タングステン酸化物微粒子分散液を用いて、光熱変換層とドナーシートとを得て、これらの特性を測定した。このとき、実施例2~11に係る複合タングステン酸化物微粒子分散液と、実施例1で用いた紫外線硬化樹脂と、メチルイソブチルケトンとの配合割合を調整して、実施例1と同じ膜厚2.5μm、波長1000nmの透過率が5%である光熱変換層を形成した。尚、いずれの複合タングステン酸化物微粒子試料も、六方晶の結晶構造が確認された。実施例2~11に係る合成条件、製造条件と測定結果とを表1、2に示す。
【0122】
[実施例12]
実施例1にて説明した複合タングステン酸化物粒子の合成において、Nガスをキャリアーとした5%Hガスを供給しながら550℃の温度で9.0時間焼成した以外は、実施例1と同様に操作した。そして、実施例12に係る複合タングステン酸化物粒子と複合タングステン酸化物微粒子分散液を得た。さらに当該複合タングステン酸化物微粒子分散液を用いて、光熱変換層とドナーシートとを得て、これらの特性を測定した。このとき、実施例12に係る複合タングステン酸化物微粒子分散液と、実施例1で用いた紫外線硬化樹脂と、メチルイソブチルケトンとの配合割合を調整して、実施例1と同じ膜厚2.5μm、波長1000nmの透過率が5%である光熱変換層を形成した。尚、いずれの複合タングステン酸化物微粒子試料も、六方晶の結晶構造が確認された。実施例12に係る合成条件、製造条件と測定結果とを表1、2に示す。
【0123】
[実施例13~17]
水6.70kgに、炭酸ルビジウム(RbCO)5.56kgを溶解して、溶液を得た。当該溶液を、タングステン酸(HWO)36.44kgに添加して十分撹拌混合した後、撹拌しながら乾燥して、実施例13に係る乾燥物を得た(WとRbとのモル比は、1:0.33相当である。)。
【0124】
水6.70kgに、炭酸セシウム(CsCO)0.709kgと炭酸ルビジウム(RbCO)5.03kgを溶解して、溶液を得た。当該溶液を、タングステン酸(HWO)36.26kgに添加して十分撹拌混合した後、撹拌しながら乾燥して、実施例14に係る乾燥物を得た(WとCsとのモル比が1:0.03相当、WとRbとのモル比は、1:0.30相当である。)。
【0125】
水6.70kgに、炭酸セシウム(CsCO)4.60kgと炭酸ルビジウム(RbCO)2.12kgを溶解して、溶液を得た。当該溶液を、タングステン酸(HWO)35.28kgに添加して十分撹拌混合した後、撹拌しながら乾燥して、実施例15に係る乾燥物を得た(WとCsとのモル比が1:0.20相当、WとRbとのモル比は、:0.13相当である。)。
【0126】
水6.70kgに、炭酸セシウム(CsCO)5.71kgと炭酸ルビジウム(RbCO)1.29kgを溶解して、溶液を得た。当該溶液を、タングステン酸(HWO)35.00kgに添加して十分撹拌混合した後、撹拌しながら乾燥して、実施例16に係る乾燥物を得た(WとCsとのモル比が1:0.25相当、WとRbとのモル比は、1:0.08相当である。)。
【0127】
水6.70kgに、炭酸セシウム(CsCO)6.79kgと炭酸ルビジウム(RbCO)0.481kgを溶解して、溶液を得た。当該溶液を、タングステン酸(HWO)34.73kgに添加して十分撹拌混合した後、撹拌しながら乾燥して、実施例17に係る乾燥物を得た(WとCsとのモル比が1:0.30相当、WとRbとのモル比は、1:0.03相当である。)。
【0128】
当該実施例13~17に係る乾燥物を、Nガスをキャリアーとした5%Hガスを供給しながら加熱し、800℃の温度で5.5時間焼成した後、当該供給ガスをNガスのみに切り替えて、室温まで降温して、実施例13~17に係る複合タングステン酸化物粒子を得た。
【0129】
実施例1に係る複合タングステン酸化物粒子に代えて、実施例13~17に係る複合タングステン酸化物粒子を用いた以外は、実施例1と同様に操作して、実施例13~17に係る複合タングステン酸化物微粒子分散液を得た。さらに当該複合タングステン酸化物微粒子分散液を用いて、光熱変換層とドナーシートとを得て、これらの特性を測定した。このとき、実施例13~17に係る複合タングステン酸化物微粒子分散液と、実施例1で用いた紫外線硬化樹脂と、メチルイソブチルケトンとの配合割合を調整して、実施例1と同じ膜厚2.5μm、波長1000nmの透過率が5%である光熱変換層を形成した。尚、いずれの複合タングステン酸化物微粒子試料も、六方晶の結晶構造が確認された。実施例13~17に係る合成条件、製造条件と測定結果とを表1、2に示す。
【0130】
[実施例18]
実施例1にて説明した光熱変換層の製造方法において、光熱変換層の膜厚を3.0μmとした以外は実施例1と同様の操作し、実施例18に係る光熱変換層とドナーシートとを得た。実施例18に係る合成条件、製造条件と測定結果とを表1、2に示す。
【0131】
[比較例1~3]
実施例1において、タングステン酸と炭酸セシウムとを、WとCsのモル比が1:0.11(比較例1)、1:0.15(比較例2)、1:0.39(比較例3)となるように所定量秤量した以外は実施例1と同様に操作した。そして、比較例1~3に係る複合タングステン酸化物微粒子分散液を得た。さらに当該複合タングステン酸化物微粒子分散液を用いて、光熱変換層とドナーシートとを得て、これらの特性を測定した。尚、いずれの複合タングステン酸化物微粒子試料も、六方晶の結晶構造が確認された。比較例1~3に係る合成条件、製造条件と測定結果とを表3、4に示す。
【0132】
このとき、比較例1~3に係る複合タングステン酸化物微粒子分散液と、実施例1で用いた紫外線硬化樹脂と、メチルイソブチルケトンとの配合割合を調整して、実施例1と同じ膜厚2.5μm、波長1000nmの透過率が5%である光熱変換層を形成している。
当該波長1000nmにおける光の透過率が5%で膜厚2.5μmである比較例1~3に係る光熱変換層に対し、実施例1と同様に光学特性の測定を行ったところ、比較例1の場合は可視光透過率が26.3%、日射透過率が13.1%、ヘイズが5.4%となり、比較例2の場合は可視光透過率が27.7%、日射透過率が13.2%、ヘイズが5.2%となり、比較例3の場合は可視光透過率が28.8%、日射透過率が12.9%、ヘイズが4.8%となり、さらに目視で確認したところ透明とは言えないものであることが判明した。
【0133】
[比較例4、5]
実施例1において、タングステン酸と炭酸セシウムとを、WとCsのモル比が1:0.21(比較例4)、1:0.23(比較例5)となるように所定量秤量し、400℃の温度で5.5時間焼成した以外は実施例1と同様に操作した。そして、比較例4、5に係る複合タングステン酸化物粒子と複合タングステン酸化物微粒子分散液を得た。さらに当該複合タングステン酸化物微粒子分散液を用いて、光熱変換層とドナーシートとを得て、これらの特性を測定した。このとき、比較例4、5に係る複合タングステン酸化物微粒子分散液と、実施例1で用いた紫外線硬化樹脂と、メチルイソブチルケトンとの配合割合を調整して、実施例1と同じ膜厚2.5μm、波長1000nmの透過率が5%である光熱変換層を形成した。尚、いずれの複合タングステン酸化物微粒子試料も、六方晶の結晶構造が確認された。比較例4、5に係る合成条件、製造条件と測定結果とを、表3、4に示す。
【0134】
[比較例6]
実施例1に係る複合タングステン酸化物粒子分散液の製造において、ペイントシェーカーの回転速度を実施例1の0.8倍にしたことと、100時間粉砕・分散処理したこと以外は、実施例1と同様に操作した。そして、比較例6に係る複合タングステン酸化物微粒子分散液を得た。さらに、実施例1と同様に操作して、光熱変換層とドナーシートとを得て、これらの特性を測定した。このとき、比較例6に係る複合タングステン酸化物微粒子分散液と、実施例1で用いた紫外線硬化樹脂と、メチルイソブチルケトンとの配合割合を調整して、実施例1と同じ膜厚2.5μm、波長1000nmの透過率が5%である光熱変換層を形成した。尚、いずれの複合タングステン酸化物微粒子試料も、六方晶の結晶構造が確認された。比較例6に係る合成条件、製造条件と測定結果とを、表3、4に示す。
【0135】
[比較例7]
実施例1に係る複合タングステン酸化物粒子の製造において、Nガスをキャリアーとした3容量%Hガスを供給しながら440℃の温度で5.5時間焼成した以外は、実施例1と同様に操作した。そして、比較例7に係る複合タングステン酸化物粒子と複合タングステン酸化物微粒子分散液とを得た。さらに、実施例1と同様に操作して、光熱変換層とドナーシートとを得て、これらの特性を測定した。このとき、比較例7に係る複合タングステン酸化物微粒子分散液と、実施例1で用いた紫外線硬化樹脂と、メチルイソブチルケトンとの配合割合を調整して、実施例1と同じ膜厚2.5μm、波長1000nmの透過率が5%である光熱変換層を形成した。尚、いずれの複合タングステン酸化物微粒子試料も、六方晶の結晶構造が確認された。比較例7に係る合成条件、製造条件と測定結果とを、表3、4に示す。
【0136】
[比較例8]
実施例1に係る複合タングステン酸化物微粒子分散液の製造において、複合タングステン酸化物粒子10質量%と、分散剤a10質量%と、トルエン80質量%とを秤量し、10分間の超音波の振動で混合した以外は実施例1と同様にして、比較例8に係る複合タングステン酸化物微粒子分散液を得た。即ち、比較例8に係る複合タングステン酸化物微粒子分散液に含まれる複合タングステン酸化物微粒子は粉砕されていないものである。さらに、実施例1と同様に操作して、光熱変換層とドナーシートとを得て、これらの特性を測定した。このとき、比較例8に係る複合タングステン酸化物微粒子分散液と、実施例1で用いた紫外線硬化樹脂と、メチルイソブチルケトンとの配合割合を調整して、実施例1と同じ膜厚2.5μm、波長1000nmの透過率が5%である光熱変換層を形成した。尚、いずれの複合タングステン酸化物微粒子試料も、六方晶の結晶構造が確認された。比較例8に係る合成条件、製造条件と測定結果とを、表3、4に示す。
【0137】
[比較例9]
実施例1に係る複合タングステン酸化物粒子の粉砕・分散処理において、ペイントシェーカーの回転速度を実施例1の1.15倍にしたことと、25時間粉砕・分散処理した以外は、実施例1と同様に操作した。そして、比較例9に係る複合タングステン酸化物微粒子分散液を得た。さらに、実施例1と同様に操作して、光熱変換層とドナーシートとを得て、これらの特性を測定した。このとき、比較例9に係る複合タングステン酸化物微粒子分散液と、実施例1で用いた紫外線硬化樹脂と、メチルイソブチルケトンとの配合割合を調整して、実施例1と同じ膜厚2.5μm、波長1000nmの透過率が5%である光熱変換層を形成した。尚、いずれの複合タングステン酸化物微粒子試料も、六方晶の結晶構造が確認された。比較例9に係る合成条件、製造条件と測定結果とを、表3、4に示す。
【0138】
[比較例10]
赤外線吸収粒子を複合タングステン酸化物微粒子からカーボンブラックに替えて、光熱変換層とドナーシートを作製した。
カーボンブラック(BET比表面積300m/g)と分散剤と、溶媒とを粉砕・分散して分散液を調製した。分散液にはカーボンブラックが10質量%含まれている。
分散剤としては実施例1と同じ分散剤aを用い、分散液中の割合が5重量%となるように秤量した。
溶媒としては、メチルイソブチルケトンを用い、分散液中の割合が85重量%となるように秤量した。
赤外線吸収粒子と、分散剤と、溶媒とを0.3mmφZrOビーズを入れたペイントシェーカー(浅田鉄工社製)に装填し、4時間粉砕・分散処理し、カーボンブラック粒子分散液(以下、分散液Bと略称する)を得た。このとき、当該混合物100質量部に対し、0.3mmφZrOビーズを300質量部用いて粉砕・分散処理を行った。
ここで、比較例10に係る分散液内におけるカーボンブラック粒子の分散粒子径を実施例1と同様にして測定したところ17nmであることを確認できた。
【0139】
次に、得られた比較例10に係る分散液と、バインダー成分とを混合してインクを調製した。本比較例ではバインダー成分として実施例1と同じUV-3701を用いた。
比較例5に係る分散液100質量部に対し、UV-3701を100質量部混合してカーボンブラック粒子を含有する比較例10に係るインクとした。
なお、インクにした後についてもカーボンブラック粒子の平均粒子径を実施例1と同様に測定したところ17nmであることを確認できた。
次に、得られたインク(塗布液)を、厚さが50μmのPETフィルム上に、バーコーターを用いて塗布し塗布膜を形成した。そして、実施例1と同様に乾燥し紫外線を照射して硬化さて光熱変換層を得た。
【0140】
実施例1と同様にしてフィルム基材の断面に対してTEM観察を行ったところ、光熱変換層の厚さは約2.5μmであることを確認できた。
実施例1と同様にして光熱変換層の可視光透過率と、波長1000nmの光の透過率を算出したところ、可視光透過率は2.0%であることを確認できた。また、波長1000nmの光の透過率は13%であることを確認できた。比較例10に係る測定結果を、表3、4に示す。
また、作製した光熱変換層上に、実施例1と同様にして、さらに被転写層を形成し、ドナーシートを形成した。
【0141】
【表1】

【表2】

【表3】

【表4】
【0142】
[まとめ]
表1~4から明らかなように、実施例1~17に係る複合タングステン酸化物微粒子から作製した光熱変換層は、比較例1~10の複合タングステン酸化物微粒子と比べて、優れた赤外線吸収特性を発揮した。
また、実施例1~17に係る分散液に含まれる複合タングステン酸化物微粒子は、その格子定数が、a軸が7.3850Å以上7.4186Å以下、c軸が7.5600Å以上7.6240Å以下であり、その粒子径が100nm以下である複合タングステン酸化物微粒子であった。さらに、実施例においては光熱変換層中の複合タングステン酸化物微粒子の平均粒子径と結晶子径とがほぼ同値であることから、単結晶の複合タングステン酸化物微粒子であると考えられる。一方、比較例1~10においては上述の格子定数範囲もしくは粒子径範囲外であった。
なお、各実施例で作製したドナーシートは、被転写層の状態がフィルム基材側から目視で確認できたが、各比較例については光熱変換層の透明性が十分でなく被転写層の状態を目視で確認できなかった。
【符号の説明】
【0143】
1 熱プラズマ
2 高周波コイル
3 シースガス供給ノズル
4 プラズマガス供給ノズル
5 原料粉末供給ノズル
6 反応容器
7 吸引管
8 フィルター
11 WO単位により形成される8面体
12 元素M
20 ドナーシート
21 フィルム基材
22 光熱変換層
23 被転写層
221 赤外線吸収粒子
図1
図2
図3