(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-11
(45)【発行日】2022-10-19
(54)【発明の名称】遮熱ガラス
(51)【国際特許分類】
C03C 17/34 20060101AFI20221012BHJP
B32B 17/06 20060101ALI20221012BHJP
【FI】
C03C17/34 Z
B32B17/06
(21)【出願番号】P 2019560858
(86)(22)【出願日】2018-11-08
(86)【国際出願番号】 JP2018041471
(87)【国際公開番号】W WO2019123877
(87)【国際公開日】2019-06-27
【審査請求日】2021-08-12
(31)【優先権主張番号】P 2017244163
(32)【優先日】2017-12-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】河原 弘朋
(72)【発明者】
【氏名】岩岡 啓明
【審査官】和瀬田 芳正
(56)【参考文献】
【文献】特開平03-187734(JP,A)
【文献】特開2003-119048(JP,A)
【文献】特開平05-058680(JP,A)
【文献】特表2013-503812(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 15/00 - 23/00
B32B 1/00 - 43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
遮熱ガラスであって、
第1の表面を有するガラス基板と、
前記第1の表面に設置された積層膜と、
を有し、
前記ガラス基板は、エネルギー透過率Te
0が70%未満であり、
前記積層膜は、前記ガラス基板に近い順に、導電層および最外層を有し、
前記導電層は、金属窒化物を含み、
前記最外層は、SiおよびZrを含む酸化物で構成され、
前記積層膜は、当該遮熱ガラスの室外側に設置されて
おり、
前記金属窒化物は、Cr、Ti、Zr、Nb、Ta、およびHfの少なくとも一つを含む窒化物であり、
前記ガラス基板と前記導電層との間には、第1の色調補正層があり、
前記導電層と前記最外層との間には、第2の色調補正層があり、
前記第1および第2の色調補正層は、それぞれ、SiおよびAlを含む窒化物、またはSiおよびZrを含む窒化物で構成され、
前記第1および第2の色調補正層がSiおよびAlを含む窒化物で構成される場合、AlNの含有量は、1mol%~20mol%の範囲であり、
前記第1および第2の色調補正層がSiおよびZrを含む窒化物で構成される場合、ZrNの含有量は、1mol%~40mol%の範囲である、遮熱ガラス。
【請求項2】
前記最外層は、波長632nmの光に対する屈折率が1.55~2.20の範囲である、請求項
1に記載の遮熱ガラス。
【請求項3】
前記最外層は、10mol%~90mol%のZrO
2を含む、請求項1
または2に記載の遮熱ガラス。
【請求項4】
前記最外層は、炭素の含有量が1at%以下である、請求項1乃至
3のいずれか一つに記載の遮熱ガラス。
【請求項5】
当該遮熱ガラスにおいて、前記積層膜の側から測定される遮蔽係数SCは、0.4以下である、請求項1乃至
4のいずれか一つに記載の遮熱ガラス。
【請求項6】
当該遮熱ガラスにおいて、前記積層膜の側から測定されるエネルギー吸収率Aeは、65%以下である、請求項1乃至
5のいずれか一つに記載の遮熱ガラス。
【請求項7】
当該遮熱ガラスにおいて、前記積層膜の側から測定される可視光反射率Rvは、30%以下である、請求項1乃至
6のいずれか一つに記載の遮熱ガラス。
【請求項8】
前記第1の色調補正層と前記第2の色調補正層は、異なる材料で構成される、請求項1乃至7のいずれか一つに記載の遮熱ガラス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遮熱ガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年の省エネルギー意識の高まりから、建物の窓ガラス等において、遮熱ガラスを適用する例が増えている。
【0003】
遮熱ガラスは、熱線反射ガラスとも呼ばれ、例えば、ガラス基板の表面に、熱線反射特性を有する積層膜を設置することにより構成される(例えば特許文献1)。
【0004】
そのような遮熱ガラスを、積層膜の側が室内側になるようにして窓ガラスに適用した場合、室外から遮熱ガラスに照射される熱線は、積層膜で反射される。このため、熱線が室内に入射されることが抑制され、窓ガラスの遮熱特性を高めることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の遮熱ガラスでは、室外からの熱線は、ガラス基板の外側(第1の表面)から入射した後、ガラス基板内を透過し、ガラス基板の内側(第2の表面)に設けられた積層膜で反射されて、室外に放射される。
【0007】
この場合、熱線は、ガラス基板の内部を2回(一往復分)、通過することになる。そのため、ガラス基板によって熱線の一部が吸収され、これにより、ガラス基板の温度が局部的に上昇する。このようなガラス基板による熱線の吸収傾向が高まると、ガラス基板に温度差が生じ、その結果、熱割れが生じるという問題が生じ得る。一方、積層膜が熱線吸収性の高い金属窒化物を含む場合も、金属酸化物を含む積層膜と比べ、ガラス基板に温度差が生じやすくなり、熱割れが生じるというリスクが高まる。
【0008】
特に、今後は、よりいっそうの遮熱特性を実現するため、遮熱ガラスにおいて、エネルギー透過率Te0の低いガラス基板と熱線吸収性の高い金属窒化物を含む積層膜とを組み合わせる傾向が高まると予想される。しかしながら、そのような遮熱ガラスを使用した場合、より多くの熱がガラス基板に吸収されるようになり、その結果、熱割れのリスクがより顕著になる可能性がある。
【0009】
本発明は、このような背景に鑑みなされたものであり、本発明では、良好な遮熱特性を有する上、熱割れが生じ難い遮熱ガラスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明では、遮熱ガラスであって、
第1の表面を有するガラス基板と、
前記第1の表面に設置された積層膜と、
を有し、
前記ガラス基板は、エネルギー透過率Te0が70%未満であり、
前記積層膜は、前記ガラス基板に近い順に、導電層および最外層を有し、
前記導電層は、金属窒化物を含み、
前記最外層は、SiおよびZrを含む酸化物で構成され、
前記積層膜は、当該遮熱ガラスの室外側に設置されていることを特徴とする遮熱ガラスが提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明では、良好な遮熱特性を有する上、熱割れが生じ難い遮熱ガラスを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施形態による遮熱ガラスを模式的に示した断面図である。
【
図2】本発明の一実施形態による別の遮熱ガラスを模式的に示した断面図である。
【
図3】本発明の一実施形態によるさらに別の遮熱ガラスを模式的に示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明において、ガラス基板の厚さ及び積層膜を構成する各層の厚さは、幾何学的厚さである。また、数値範囲を示す「~」は、その前後に記載された数値を下限値及び上限値として含むことを意味する。
【0014】
以下、本発明の一実施形態について、より詳しく説明する。
【0015】
前述のように、従来の遮熱ガラスでは、特に、エネルギー透過率Te0の低いガラス基板と熱線吸収性の高い金属窒化物を含む積層膜とを組み合わせて使用した場合、熱割れが生じやすくなるという懸念がある。
【0016】
本願発明者らは、このような問題に対処するため、鋭意検討を行ってきた。その結果、本願発明者らは、積層膜が室外側となるような態様で、遮熱ガラスを使用することにより、熱割れの問題が改善されることを見出した。これは、積層膜を室外側とした場合、室外から遮熱ガラスに入射される熱線は、ガラス基板に進入する前に、積層膜によって反射されるからである。
【0017】
しかしながら、従来の遮熱ガラスにおいて、単に積層膜を室外側とする対応だけでは、実用的な遮熱ガラスを提供することは難しい。そのような使用態様では、遮熱ガラスに良好な遮熱特性が得られず、さらに耐環境性が低下する可能性があるからである。
【0018】
このような考察の下、本願発明者らは、鋭意研究開発を推し進め、従来の遮熱ガラスに比べて遜色のない遮熱特性を有し、さらに耐環境性の良好な遮熱ガラスを見出し、本願発明に至った。
【0019】
すなわち、本発明の一実施形態では、
遮熱ガラスであって、
第1の表面を有するガラス基板と、
前記第1の表面に設置された積層膜と、
を有し、
前記ガラス基板は、エネルギー透過率Te0が70%未満であり、
前記積層膜は、前記ガラス基板に近い順に、導電層および最外層を有し、
前記導電層は、金属窒化物を含み、
前記最外層は、SiおよびZrを含む酸化物で構成され、
前記積層膜は、当該遮熱ガラスの室外側に設置されていることを特徴とする遮熱ガラスが提供される。
【0020】
このような遮熱ガラスでは、エネルギー透過率Te0が70%未満のガラス基板および熱線吸収性の高い金属窒化物を含む積層膜が用いられるものの、積層膜が室外側となるように構成されているため、熱割れのリスクを有意に軽減することができる。
【0021】
また、本発明の一実施形態による遮熱ガラスでは、積層膜は、金属窒化物を含む導電層と、SiおよびZrを含む酸化物で構成された最外層とを有する。本願発明者らによれば、このような積層膜は、熱線に対して良好な遮蔽特性を発揮することが確認されている。
【0022】
さらに、本発明の一実施形態による遮熱ガラスでは、積層膜の最外層がSiおよびZrを含む酸化物で構成されている。本願発明者らの実験によれば、このような酸化物は、良好な耐環境性を有することが示されている。さらに、遮熱ガラスは優れた耐熱性を有する。具体的には、風冷強化などの物理強化処理(例えば、680℃の大気雰囲気に20分間保持する処理)や積層膜の硬化処理(例えば、500℃の大気雰囲気に20分間保持する処理)などの熱処理を行った後でも、遮熱ガラスが、良好な遮熱特性および耐久性を維持できる。従って、本発明の一実施形態による遮熱ガラスでは、積層膜を室外側に設置しても、劣化を有意に抑制することができる。
【0023】
このような特徴により、本発明の一実施形態では、比較的熱線を吸収し易いガラス基板および積層膜を採用しているにも関わらず、良好な遮熱特性および耐久性を有する上、熱割れが生じ難い遮熱ガラスを提供することができる。
【0024】
(本発明の一実施形態による遮熱ガラス)
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態による遮熱ガラスについて説明する。
【0025】
図1には、本発明の一実施形態による遮熱ガラス(以下、「第1の遮熱ガラス」と称する)の断面を概略的に示す。
【0026】
図1に示すように、第1の遮熱ガラス100は、ガラス基板110と、積層膜120とを有する。
【0027】
ガラス基板110は、70%未満のエネルギー透過率Te0を有する。ここで、エネルギー透過率は、ISO9050:2003に準拠して測定されるエネルギー透過率を意味する。
【0028】
ガラス基板110は、第1の表面112および第2の表面114を有し、積層膜120は、ガラス基板110の第1の表面112に設置される。
【0029】
積層膜120は、導電層130および最外層150の少なくとも2層を有する。このうち、導電層130は、ガラス基板110からより近い位置に設置され、最外層150は、導電層130の上に設置される。
【0030】
積層膜120を構成する導電層130は、例えば窒化クロム(CrN)のような、金属窒化物で構成される。また、最外層150は、ケイ素(Si)およびジルコニウム(Zr)を含む酸化物で構成される。
【0031】
第1の遮熱ガラス100は、第1の側102および第2の側104を有し、積層膜120は、第1の側102に設置される。
【0032】
ここで、第1の遮熱ガラス100が窓ガラスとして適用された場合、第1の側102は、室外側に対応し、第2の側104は、室内側に対応する。従って、実際の使用態様では、積層膜120は、室外側となるように配置される。一方、ガラス基板110の第2の表面114は、室内側になるように配置される。
【0033】
このような構成の第1の遮熱ガラス100では、積層膜120が第1の側102に配置されている。このため、第1の遮熱ガラス100では、熱割れのリスクを有意に軽減することができる。さらに、第1の遮熱ガラス100において、室外側から視認したときの反射色を、積層膜により容易に調整することができる。
【0034】
また、第1の遮熱ガラス100は、前述のような構成の導電層130および最外層150を有する積層膜120を備える。このような積層膜120は、熱線に対して良好な遮蔽特性を示す。また、最外層150は、良好な耐環境性および耐熱性を示す。
【0035】
このような特徴により、第1の遮熱ガラス100では、エネルギー透過率Te0の低いガラス基板110および熱線吸収性の高い金属窒化物を含む積層膜が使用されているにも関わらず、熱割れのリスクを有意に抑制することができる。また、室外側から視認したときの反射色を容易に調整することができる。さらに、第1の遮熱ガラス100では、良好な遮熱特性および耐久性を発揮することができる。
【0036】
(本発明の一実施形態による遮熱ガラスの各構成部材)
ここで、第1の遮熱ガラス100に含まれる各構成部材について、より詳しく説明する。
【0037】
(ガラス基板110)
前述のように、ガラス基板110は、70%未満のエネルギー透過率Te0を有する。エネルギー透過率Te0は、60%以下であることが好ましく、50%以下であることがより好ましい。第1の遮熱ガラス100では、熱割れのリスクが軽減されるため、このような低いエネルギー透過率Te0を有するガラス基板110でも、適正に使用することができる。エネルギー透過率Te0は、10%以上であることが好ましく、20%以上であることがより好ましい。
【0038】
また、Te0が70%未満のガラス基板を用いることで、室外側から視認したときの第1の遮熱ガラス100の反射色の調整幅を広げることができる。
【0039】
ガラス基板110の厚さは、0.5~12mmであることが好ましい。厚さは、1mm以上であることがより好ましく、2mm以上であることがさらに好ましい。厚さは、10mm以下であることがより好ましく、9mm以下であることがさらに好ましい。
【0040】
ガラス基板110は、着色されていても良い。
【0041】
また、ガラス基板110は、風冷強化などの強化処理が実施されていても、されていなくても良い。
【0042】
(導電層130)
導電層130は、前述のように、金属窒化物を含む。金属窒化物に含まれる金属は、例えば、クロム(Cr)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、およびハフニウム(Hf)の少なくとも一つであっても良い。金属窒化物に含まれる金属は、クロム、チタンおよびジルコニウムの少なくとも一つであることが好ましい。
【0043】
導電層130は、特に、窒化クロム(CrN)、窒化チタン(TiN)、または窒化ジルコニウム(ZrN)で構成されることが好ましい。これらの材料で導電層130を構成した場合、第1の遮熱ガラス100の遮熱特性を容易に高めることができる。
【0044】
導電層130は、波長1000nmにおける消衰係数kが0.5以上であることが好ましい。波長1000nmにおける導電層130の消衰係数kが0.5以上であると、熱線吸収性が高まるため、優れた遮熱特性を有することができる。消衰係数kは、1以上であることがより好ましく、2以上であることがさらに好ましい。消衰係数kは、10以下であることが好ましく、8以下であることがより好ましい。導電層130の消衰係数kが10以下であると、熱線が過度に吸収されないため、熱割れのリスクを軽減できる。第1の遮熱ガラス100では、熱割れのリスクが軽減されるため、このような熱線吸収性の高い積層膜が設置されたガラス基板でも、適正に使用することができる。
【0045】
導電層130の厚さは、5nm~50nmの範囲であることが好ましい。導電層130の厚さが5nm以上であると、第1の遮熱ガラス100の遮熱特性を容易に高めることができる。導電層130の厚さが50nm以下であると、第1の遮熱ガラス100の室外反射色を薄い青色系に容易に調整できる。厚さは、5nm~30nmの範囲であることがより好ましく、5nm~25nmの範囲であることがさらに好ましい。
【0046】
導電層130の形成方法は、特に限られない。導電層130は、例えば、真空蒸着法、イオンプレーティング法、スパッタリング法、化学気相成膜(CVD)法(熱CVD法、プラズマCVD法、および光CVD法)、およびイオンビームスパッタリング法などで形成されても良い。
【0047】
(最外層150)
最外層150は、前述のように、SiおよびZrを含む酸化物で形成される。
【0048】
最外層150中のZrO2の含有量は、10mol%~90mol%の範囲であることが好ましい。ZrO2の含有量は、20mol%~50mol%の範囲がより好ましく、25mol%~35mol%の範囲がさらに好ましい。
【0049】
一方、最外層150中のSiO2の含有量は、10mol%~90mol%の範囲であることが好ましい。SiO2の含有量は、50mol%~80mol%の範囲がより好ましく、65mol%~75mol%の範囲がさらに好ましい。
【0050】
最外層150中の炭素の含有量は、1at%以下であることが好ましい。最外層150中の炭素含有量は、XPSにより測定できる。最外層150中の炭素含有量が1at%以下であると、風冷強化などの物理強化処理(例えば、680℃の大気雰囲気に20分間保持する処理)や積層膜の硬化処理(例えば、500℃の大気雰囲気に20分間保持する処理)などの熱処理を行った後でも、遮熱ガラスが、良好な遮熱特性および耐久性を維持できる。最外層150中の炭素含有量は、0.5at%以下であることがより好ましく、0.3at%以下であることが特に好ましい。
【0051】
最外層150の厚さは、5nm~60nmの範囲であることが好ましい。最外層150の厚さが5nm~60nmの範囲であると、第1の遮熱ガラス100の反射色を調整しやすくなる。最外層150の厚さは、8nm~40nmの範囲であることがより好ましく、10nm~30nmの範囲であることがさらに好ましい。
【0052】
最外層150は、波長632nmの光に対する屈折率が、1.55~2.20の範囲であっても良い。最外層150の屈折率が1.55~2.20の範囲であると、第1の遮熱ガラス100の反射色を調整しやすくなる。最外層150の屈折率は、1.60~1.90の範囲であることが好ましく、1.65~1.80の範囲であることがより好ましい。
【0053】
最外層150の形成方法は、特に限られない。最外層150は、例えば、真空蒸着法、イオンプレーティング法、スパッタリング法、化学気相成膜(CVD)法(熱CVD法、プラズマCVD法、および光CVD法)、およびイオンビームスパッタリング法などで形成されても良い。
【0054】
(第1の遮熱ガラス100の特性)
第1の遮熱ガラス100は、以下の特性を有しても良い:
(1)遮蔽係数SC≦0.4、
(2)セレクティビティSe≧0.9、
(3)エネルギー吸収率Ae≦65%、
(4)室外反射率Rv≦30%、
(5)室外反射色の色味a*<5、b*<5、
(6)透過光のイエローネスインデックスYI<5。
【0055】
このうち、遮蔽係数SCは、ISO9050:2003に準拠して、以下の(1)式から求めることができる:
SC=(g/100)/0.88 (1)式
ここで、g(%)は、日射熱取得率とも呼ばれ、遮熱ガラスの室外側(第1の遮熱ガラス100の場合、第1の側102)から入射される全太陽熱に対する、室内側(第1の遮熱ガラス100の場合、第2の側104)まで直接透過される熱(透過熱)と、遮熱ガラスの内部で吸収され、その後室内側に放出される熱との総和の割合で表される。
【0056】
遮蔽係数SCは、遮熱ガラスの遮熱性能を表す一指標であり、この値が小さいほど、遮熱ガラスの遮熱性能は高いと言える。第1の遮熱ガラス100において、遮蔽係数SCが0.4以下の場合、良好な遮熱特性を発揮することができる。遮熱係数SCは、0.38以下であることがより好ましく、0.36以下であることがさらに好ましい。
【0057】
一方、セレクティビティSeは、断熱性に関する指標であり、以下の(2)式で表される:
Se=Tv/g (2)式
ここで、Tv(%)は、遮熱ガラスの室外側からの可視光透過率(%)である。
【0058】
遮熱ガラスにおいて、可視光透過率Tv(%)が高く、日射熱取得率g(%)が低いほど、すなわちセレクティビティSeが大きいほど、その遮熱ガラスは、断熱性が高いと言える。
【0059】
従って、第1の遮熱ガラス100において、セレクティビティSeが90%を超える場合、良好な断熱性を発揮することができる。セレクティビティSeは、100%超であることがより好ましく、110%超であることがさらに好ましい。
【0060】
また、エネルギー吸収率Aeは、遮熱ガラスにおける熱線の吸収率に関する指標であり、以下の(3)式で表される:
Ae=100(%)-Te(%)-Re(%) (3)式
ここで、Teは、遮熱ガラスの室外側からのエネルギー透過率であり、Reは、遮熱ガラスの室外側でのエネルギー反射率である。
【0061】
第1の遮熱ガラス100において、エネルギー吸収率Aeが65%以下の場合、内部への熱の吸収が抑制され、熱割れをより抑制することができる。エネルギー吸収率Aeは、60%以下であることがより好ましく、55%以下であることがさらに好ましく、50%以下であることが特に好ましい。
【0062】
また、室外反射率Rvは、遮熱ガラスの室外側で反射される可視光の反射率を表す。第1の遮熱ガラス100において、室外反射率Rvが30%以下の場合、反射光による眩しさを有意に抑制することができる。室外反射率Rvは、28%以下であることがより好ましく、26%以下であることがさらに好ましい。
【0063】
また、室外反射色の色味の指標であるa*およびb*は、遮熱ガラスの室外側における反射光を、CIE1976L*a*b*色度座標で表した際に得られる、a*およびb*の値を意味する。
【0064】
一般に、美的観点から、遮熱ガラスの室外反射色としては、薄い青色系が好まれ、赤色系~黄色系は避けられる傾向にある。a*およびb*が前述の範囲にある第1の遮熱ガラス100では、室外反射色を薄い青色系の領域にすることができる。a*は、3以下であることがより好ましく、1以下であることがさらに好ましい。b*は、3以下であることがより好ましく、1以下であることがさらに好ましい。
【0065】
また、イエローネスインデックスYIは、遮熱ガラスを透過した可視光の黄色みを数値化した指標である。室内から遮熱ガラスを介して室外を視認した際に、余り黄色みが強調されるような色調は、好ましくない。第1の遮熱ガラス100において、イエローネスインデックスYIが5未満の場合、黄色みの少ない透過光を得ることができる。イエローネスインデックスYIは、1以下であることがより好ましく、-5以下であることがさらに好ましい。
【0066】
なお、イエローネスインデックスYIは、JIS Z7701:1990に準拠して得られる透過光の色度を、ASTM E131規格に準拠した方法で変換することにより、求めることができる。
【0067】
なお、
図1に示した遮熱ガラスの構成では、前記(1)~(6)のうち、1または2以上の特性を発揮することが難しい場合がある。しかしながら、以降に示すような遮熱ガラスの構成では、前記(1)~(6)の特性を、より容易に発現させることができる。
【0068】
(本発明の一実施形態による別の遮熱ガラス)
次に、
図2を参照して、本発明の一実施形態による別の遮熱ガラスについて説明する。
【0069】
図2には、本発明の一実施形態による別の遮熱ガラス(以下、「第2の遮熱ガラス」と称する)の断面を概略的に示す。
【0070】
図2に示すように、第2の遮熱ガラス200は、ガラス基板210と、積層膜220とを有する。
【0071】
ガラス基板210は、前述の第1の遮熱ガラス100におけるガラス基板110と同様の特徴を有する。従って、ここではこれ以上説明しない。
【0072】
一方、積層膜220は、前述の第1の遮熱ガラス100における積層膜120とは異なり、導電層230、最外層250および色調補正層を有する。例えば、積層膜220は、ガラス基板210に近い側から、第1の色調補正層260、導電層230、第2の色調補正層265、および最外層250を有する。
【0073】
第1の色調補正層260および第2の色調補正層265は、第2の遮熱ガラス200において生じる反射光および/または透過光を、所望の色味に調整するために設置される。例えば、一般に窓ガラスの室外反射色には、青っぽい色味が好まれる。第1の色調補正層260および第2の色調補正層265を用いることにより、このような色味を容易に発現させることができる。
【0074】
第1の色調補正層260は、絶縁層であり、例えばケイ素を含む窒化物(SiN)で構成される。第1の色調補正層260は、ケイ素とアルミニウムを含む窒化物(SiAlN)で構成されても良い。あるいは、第1の色調補正層260は、ケイ素とジルコニウムを含む窒化物(SiZrN)で構成されても良い。第1の色調補正層260がSiAlNで構成される場合、AlNの含有量は、1mol%~20mol%の範囲であることが好ましく、2mol%~18mol%の範囲であることがより好ましく、2mol%~16mol%であることがさらに好ましい。一方、第1の色調補正層260がSiZrNで構成される場合、ZrNの含有量は、1mol%~40mol%の範囲であることが好ましく、2mol%~35mol%の範囲であることがより好ましく、2mol%~30mol%であることがさらに好ましい。
【0075】
第1の色調補正層260の厚さは、5nm~100nmの範囲であることが好ましく、5nm~80nmの範囲であることがより好ましく、5nm~60nmの範囲であることがさらに好ましい。
【0076】
第2の色調補正層265についても、同様のことが言える。なお、第1の色調補正層260と第2の色調補正層265とは、同一の材料で構成されても、異なる材料で構成されても良い。
【0077】
第1の色調補正層260および第2の色調補正層265は、例えば、スパッタリング法などにより、形成することができる。
【0078】
なお、積層膜220に含まれる導電層230と最外層250の構成および特徴は、前述の通りである。従って、ここではこれ以上説明しない。
【0079】
第2の遮熱ガラス200は、第1の側202および第2の側204を有し、積層膜220は、第1の側202に設置される。また、第2の遮熱ガラス200が使用される際には、第1の側202は、室外側に対応し、第2の側204は、室内側に対応する。
【0080】
このような構成の第2の遮熱ガラス200においても、前述のような効果を得ることができる。すなわち、第2の遮熱ガラス200では、エネルギー透過率Te0の低いガラス基板210および熱線吸収性の高い金属窒化物を含む積層膜220が使用されているにも関わらず、熱割れのリスクを有意に抑制することができる。また、第2の遮熱ガラス200では、室外側から視認した時の反射色を容易に調整することができる。さらに、第2の遮熱ガラス200では、良好な遮熱特性および耐久性を発揮することができる。
【0081】
(本発明の一実施形態によるさらに別の遮熱ガラス)
次に、
図3を参照して、本発明の一実施形態によるさらに別の遮熱ガラスについて説明する。
【0082】
図3には、本発明の一実施形態によるさらに別の遮熱ガラス(以下、「第3の遮熱ガラス」と称する)の断面を概略的に示す。
【0083】
図3に示すように、第3の遮熱ガラス300は、ガラス基板310と、積層膜320とを有する。
【0084】
ガラス基板310は、前述の第1の遮熱ガラス100におけるガラス基板110と同様の特徴を有する。従って、ここではこれ以上説明しない。
【0085】
一方、積層膜320は、前述の第1の遮熱ガラス100における積層膜120とは異なり、第1の導電層330、最外層350、色調補正層および第2の導電層370を有する。例えば、積層膜320は、ガラス基板310に近い側から、第1の色調補正層360、第1の導電層330、第2の色調補正層365、第2の導電層370、第3の色調補正層375、および最外層350を有する。
【0086】
第1の色調補正層360、第2の色調補正層365、および第3の色調補正層375は、第3の遮熱ガラス300において生じる反射光および/または透過光を、所望の色味に調整するために設置される。
【0087】
各色調補正層360、365、375は、いずれも絶縁層である。
【0088】
前述のように、第1の色調補正層360は、ケイ素を含む窒化物(SiN)、ケイ素とアルミニウムを含む窒化物(SiAlN)、またはケイ素とジルコニウムを含む窒化物(SiZrN)などで構成されても良い。第1の色調補正層360の厚さは、5nm~100nmの範囲であることが好ましく、5nm~80nmの範囲であることがより好ましく、5nm~60nmの範囲であることがさらに好ましい。
【0089】
第2の色調補正層365および第3の色調補正層375についても、同様のことが言える。
【0090】
各色調補正層360、365、375は、同一の材料で構成されても良く、あるいは、相互に異なる材料で構成されても良い。
【0091】
一方、第2の導電層370は、金属窒化物を含む。金属窒化物に含まれる金属は、例えば、クロム(Cr)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、およびハフニウム(Hf)の少なくとも一つであっても良い。金属窒化物に含まれる金属は、クロム、チタンおよびジルコニウムの少なくとも一つであることが好ましい。
【0092】
第2の導電層370は、特に、窒化クロム(CrN)、窒化チタン(TiN)、または窒化ジルコニウム(ZrN)で構成されることが好ましい。
【0093】
第2の導電層370は、波長1000nmにおける消衰係数kが0.5以上であることが好ましく、1以上であることがより好ましく、2以上であることがさらに好ましい。波長1000nmにおける消衰係数kが0.5以上であると、熱線吸収性が高まるため、優れた遮熱特性を有することができる。消衰係数kは、10以下であることが好ましく、8以下であることがより好ましい。
【0094】
第2の導電層370の厚さは、5nm~50nmの範囲であることが好ましい。第2の導電層370の厚さが5nm以上であると、第3の遮熱ガラス300の遮熱特性を容易に高めることができる。第2の導電層370の厚さが50nm以下であると、第3の遮熱ガラス300の室外反射色を薄い青色系に容易に調整できる。厚さは、5nm~30nmの範囲であることがより好ましく、5nm~25nmの範囲であることがさらに好ましい。
【0095】
第2の導電層370の形成方法は、特に限られない。第2の導電層370は、例えば、真空蒸着法、イオンプレーティング法、スパッタリング法、化学気相成膜(CVD)法(熱CVD法、プラズマCVD法、および光CVD法)、およびイオンビームスパッタリング法などで形成されても良い。
【0096】
第2の導電層370は、第1の導電層330と同じ材料で構成されても、異なる材料で構成されても良い。また、第2の導電層370は、第1の導電層330と同じ厚さであっても、異なる厚さであっても良い。
【0097】
なお、積層膜320に含まれる最外層350の構成および特徴は、前述の通りである。従って、ここではこれ以上説明しない。
【0098】
第3の遮熱ガラス300は、第1の側302および第2の側304を有し、積層膜320は、第1の側302に設置される。また、第3の遮熱ガラス300が使用される際には、第1の側302は、室外側に対応し、第2の側304は、室内側に対応する。
【0099】
このような構成の第3の遮熱ガラス300においても、前述のような効果を得ることができる。すなわち、第3の遮熱ガラス300では、エネルギー透過率Te0の低いガラス基板310および熱線吸収性の高い金属窒化物を含む積層膜320が使用有されているにも関わらず、熱割れのリスクを有意に抑制することができる。また、第3の遮熱ガラス300では、室外側から視認した時の反射色を容易に調整することができる。さらに、第3の遮熱ガラス300では、良好な遮熱特性および耐久性を発揮することができる。
【0100】
以上、
図1~
図3を参照して、本発明の一実施形態による遮熱ガラスの構成例について説明した。しかしながら、これらは単なる一例であって、本発明の遮熱ガラスがその他の構成を有しても良いことは当業者には明らかである。
【0101】
例えば、第1の遮熱ガラス100において、導電層130は、多層膜で構成されても良い。第2の遮熱ガラス200および第3の遮熱ガラス300においても同様である。また、第3の遮熱ガラス300において、積層膜320は、6層で構成されている。しかしながら、積層膜は、より多くの層で構成されても良い。この他にも、各種変更が可能である。
【実施例】
【0102】
次に、本発明の実施例について説明する。なお、以下の説明において、例1~例6は、実施例であり、例11~例17は、比較例である。
【0103】
(例1)
以下の方法で、遮熱ガラスを作製した。
【0104】
まず、縦25mm×横50mm×厚さ6mmの緑色に着色されたガラス基板(GNFL:旭硝子社製)を準備した。
【0105】
このガラス基板のエネルギー透過率Te0は、41%である。なお、ガラス基板のエネルギー透過率Te0の測定には、分光光度計(U4100:日立製作所製)を使用し、光の波長は、300nm~2500nmの範囲とした。測定は、ISO9050:2003に準拠して実施した。
【0106】
次に、スパッタリング法により、このガラス基板の一方の表面(第1の表面)に、第1の色調補正層、導電層、第2の色調補正層、および最外層の合計4層からなる積層膜を形成した。積層膜は、ガラス基板に近い側から、以下の層構成を有する:
第1の色調補正層:厚さ14nmの67mol%SiN-33mol%ZrN層、
導電層:厚さ7.6nmのCrN層、
第2の色調補正層:厚さ2.5nmの90mol%SiN-10mol%AlN層、
最外層:厚さ15nmの67mol%SiO2-33mol%ZrO2層。
【0107】
このうち、第1の色調補正層は、ターゲットとして67at%Si-33at%Zr(AGCセラミックス株式会社製)を使用し、Ar+N2雰囲気(N2=40体積%)下でのスパッタリング法により成膜した。スパッタリング圧力は、0.3Paとした。
【0108】
導電層は、ターゲットとしてCrターゲットを使用し、Ar+N2雰囲気(N2=11体積%)下でのスパッタリング法により成膜した。スパッタリング圧力は、0.2Paとした。
【0109】
第2の色調補正層は、ターゲットとして10at%Al-90at%Siを使用し、Ar+N2雰囲気(N2=40体積%)下でのスパッタリング法により成膜した。スパッタリング圧力は、0.3Paとした。
【0110】
最外層は、ターゲットとして67at%Si-33at%Zr(AGCセラミックス株式会社製)を使用し、Ar+O2雰囲気(O2=60体積%)下でのスパッタリング法により成膜した。スパッタリング圧力は、0.3Paとした。
【0111】
これにより、遮熱ガラス(以下、「例1に係る遮熱ガラス」という)が製造された。
【0112】
なお、例1に係る遮熱ガラスにおいて、積層膜は、室外側となる。
【0113】
(例2)
例1と同様の方法により、遮熱ガラス(以下、「例2に係る遮熱ガラス」という)を作製した。
【0114】
ただし、この例2では、積層膜は、ガラス基板から近い順に、以下の構成とした:
第1の色調補正層:厚さ22nmの67mol%SiN-33mol%ZrN層、
導電層:厚さ22nmのTiN層、
第2の色調補正層:厚さ5nmの90mol%SiN-10mol%AlN層、
最外層:厚さ16.5nmの67mol%SiO2-33mol%ZrO2層。
【0115】
なお、導電層は、ターゲットとしてTiターゲットを使用し、Ar+N2雰囲気(N2=11体積%)下でのスパッタリング法により成膜した。スパッタリング圧力は、0.2Paとした。
【0116】
なお、例2に係る遮熱ガラスにおいて、積層膜は、室外側となる。
【0117】
(例3)
例1と同様の方法により、遮熱ガラス(以下、「例3に係る遮熱ガラス」という)を作製した。
【0118】
ただし、この例3では、積層膜は、ガラス基板から近い順に、以下の構成とした:
第1の色調補正層:厚さ28.5nmの67mol%SiN-33mol%ZrN層、
導電層:厚さ15nmのZrN層、
第2の色調補正層:厚さ5nmの90mol%SiN-10mol%AlN層、
最外層:厚さ19.2nmの67mol%SiO2-33mol%ZrO2層。
【0119】
なお、導電層は、ターゲットとしてZrターゲットを使用し、Ar+N2雰囲気(N2=11体積%)下でのスパッタリング法により成膜した。スパッタリング圧力は、0.2Paとした。
【0120】
なお、例3に係る遮熱ガラスにおいて、積層膜は、室外側となる。
【0121】
(例4)
例1と同様の方法により、遮熱ガラス(以下、「例4に係る遮熱ガラス」という)を作製した。
【0122】
ただし、この例4では、ガラス基板として、厚さが2mmの緑色に着色されたガラス基板(GNFL:旭硝子社製)を使用した。このガラス基板のエネルギー透過率Te0は、67%である。
【0123】
また、積層膜は、ガラス基板から近い順に、以下の構成とした:
第1の色調補正層:厚さ24nmの67mol%SiN-33mol%ZrN層、
導電層:厚さ24nmのTiN層、
第2の色調補正層:厚さ5nmの90mol%SiN-10mol%AlN層、
最外層:厚さ12.5nmの67mol%SiO2-33mol%ZrO2層。
【0124】
なお、例4に係る遮熱ガラスにおいて、積層膜は、室外側となる。
【0125】
(例5)
例1と同様の方法により、遮熱ガラス(以下、「例5に係る遮熱ガラス」という)を作製した。
【0126】
ただし、この例5では、ガラス基板として、厚さが6mmの青色に着色されたガラス基板(DHFL:旭硝子社製)を使用した。このガラス基板のエネルギー透過率Te0は、44.5%である。
【0127】
また、積層膜は、ガラス基板から近い順に、以下の構成とした:
第1の色調補正層:厚さ22nmの67mol%SiN-33mol%ZrN層、
導電層:厚さ22nmのTiN層、
第2の色調補正層:厚さ5nmの90mol%SiN-10mol%AlN層、
最外層:厚さ16.5nmの67mol%SiO2-33mol%ZrO2層。
【0128】
なお、例5に係る遮熱ガラスにおいて、積層膜は、室外側となる。
【0129】
(例6)
例1と同様の方法により、遮熱ガラス(以下、「例6に係る遮熱ガラス」という)を作製した。
【0130】
ただし、この例6では、積層膜は、ガラス基板から近い順に、以下の6層構成とした:
第1の色調補正層:厚さ56nmの90mol%SiN-10mol%AlN層、
第1の導電層:厚さ7nmのTiN層、
第2の色調補正層:厚さ70nmの67mol%SiN-33mol%ZrN層、
第2の導電層:厚さ16nmのTiN層、
第3の色調補正層:厚さ5nmの90mol%SiN-10mol%AlN層、
最外層:厚さ15nmの67mol%SiO2-33mol%ZrO2層。
【0131】
なお、例6に係る遮熱ガラスにおいて、積層膜は、室外側となる。
【0132】
また、最外層の炭素の含有量は、0.5at%であった。最外層の炭素の含有量は、XPS(PHI 5000 VersaProbe II、アルバックファイ社製)を用いて測定した。
【0133】
(例11)
以下の方法で、遮熱ガラスを作製した。
【0134】
まず、縦25mm×横50mm×厚さ6mmの透明なガラス基板(Clear:旭硝子社製)を準備した。
【0135】
このガラス基板のエネルギー透過率Te0は、82%である。
【0136】
次に、スパッタリング法により、このガラス基板の一方の表面(第1の表面)に、第1の層、第2の層、および最外層の合計3層からなる積層膜を形成した。積層膜は、ガラス基板に近い側から、以下の層構成を有する:
第1の層:厚さ20nmの67mol%SiN-33mol%ZrN層、
第2の層:厚さ10nmのCrN層、
最外層:厚さ20nmの90mol%SiN-10mol%AlN層。
【0137】
これにより、遮熱ガラス(以下、「例11に係る遮熱ガラス」という)が製造された。
【0138】
なお、例11に係る遮熱ガラスにおいて、積層膜は、室外側となる。
【0139】
(例12)
例11と同様の方法により、遮熱ガラス(以下、「例12に係る遮熱ガラス」という)を作製した。
【0140】
ただし、この例12では、ガラス基板として、厚さが6mmの緑色に着色されたガラス基板(GNFL:旭硝子社製)を使用した。このガラス基板のエネルギー透過率Te0は、41%である。
【0141】
また、積層膜は、ガラス基板から近い順に、以下の構成とした:
第1の層:厚さ14nmの67mol%SiN-33mol%ZrN層、
第2の層:厚さ7.6nmのCrN層、
最外層:厚さ14nmの90mol%SiN-10mol%AlN層。
【0142】
なお、例12に係る遮熱ガラスにおいて、積層膜は、室外側となる。
【0143】
(例13)
例11と同様の方法により、遮熱ガラス(以下、「例13に係る遮熱ガラス」という)を作製した。
【0144】
ただし、この例12では、ガラス基板として、厚さが6mmの緑色に着色されたガラス基板(GNFL:旭硝子社製)を使用した。このガラス基板のエネルギー透過率Te0は、41%である。
【0145】
また、積層膜は、ガラス基板から近い順に、以下の構成とした:
第1の層:厚さ10nmの90mol%SiN-10mol%AlN層、
第2の層:厚さ15nmのCrN層、
最外層:厚さ20nmの90mol%SiN-10mol%AlN層。
【0146】
なお、例13に係る遮熱ガラスにおいて、積層膜は、室内側となる。
【0147】
(例14)
例11と同様の方法により、遮熱ガラス(以下、「例14に係る遮熱ガラス」という)を作製した。
【0148】
ただし、この例14では、ガラス基板として、厚さが1.2mmの緑色に着色されたガラス基板(GNFL:旭硝子社製)を使用した。このガラス基板のエネルギー透過率Te0は、76%である。
【0149】
また、積層膜は、ガラス基板から近い順に、以下の4層構成とした:
第1の層:厚さ24nmの67mol%SiN-33mol%ZrN層、
第2の層:厚さ24nmのTiN層、
第3の層:厚さ5nmの90mol%SiN-10mol%AlN層、
最外層:厚さ12.5nmの67mol%SiO2-33mol%ZrO2層。
【0150】
なお、例14に係る遮熱ガラスにおいて、積層膜は、室外側となる。
【0151】
(例15)
例11と同様の方法により、遮熱ガラス(以下、「例15に係る遮熱ガラス」という)を作製した。
【0152】
ただし、この例15では、ガラス基板として、厚さが6mmの緑色に着色されたガラス基板(GNFL:旭硝子社製)を使用した。このガラス基板のエネルギー透過率Te0は、41%である。
【0153】
また、積層膜は、ガラス基板から近い順に、以下の4層構成とした:
第1の層:厚さ14nmの67mol%SiN-33mol%ZrN層、
第2の層:厚さ7.6nmのTiN層、
第3の層:厚さ2.5nmの90mol%SiN-10mol%AlN層、
最外層:厚さ16nmのSiO2層。
【0154】
なお、例15に係る遮熱ガラスにおいて、積層膜は、室外側となる。
【0155】
(例16)
例11と同様の方法により、遮熱ガラス(以下、「例16に係る遮熱ガラス」という)を作製した。
【0156】
ただし、この例16では、ガラス基板として、厚さが6mmの緑色に着色されたガラス基板(GNFL:旭硝子社製)を使用した。このガラス基板のエネルギー透過率Te0は、41%である。
【0157】
また、積層膜は、ガラス基板から近い順に、以下の4層構成とした:
第1の層:厚さ24nmの67mol%SiN-33mol%ZrN層、
第2の層:厚さ24nmのTiN層、
第3の層:厚さ5nmの90mol%SiN-10mol%AlN層、
最外層:厚さ9nmのTiO2層。
【0158】
なお、例16に係る遮熱ガラスにおいて、積層膜は、室外側となる。
【0159】
(例17)
例11と同様の方法により、遮熱ガラス(以下、「例17に係る遮熱ガラス」という)を作製した。
【0160】
ただし、この例17では、ガラス基板として、厚さが6mmの緑色に着色されたガラス基板(Evergreen)を使用した。このガラス基板のエネルギー透過率Te0は、34.5%である。
【0161】
また、積層膜は、ガラス基板から近い順に、以下の4層構成とした:
第1の層:厚さ27nmのSnO2層、
第2の層:厚さ17nmのSiO2層、
第3の層:厚さ210nmのフッ素(F)ドープされたSnO2層、
最外層:厚さ30nmのTiO2層。
【0162】
積層膜は、オンラインのCVD法により順次成膜した。
【0163】
ここで、「オンライン(の成膜法)」とは、ガラスの製造過程中にガラスの表面に膜を成膜する方法を意味する。より具体的には、ガラスの製造の際には、ガラスリボンが溶融スズ浴の上を移動した後、徐冷されることで連続的にガラスが製造されるが、「オンライン(の成膜方法)」ではガラスリボンの上面に膜が成膜される。すなわち、「オンライン(の成膜法)」では、ガラスの製造工程と膜の成膜工程が連続的に実施される。
【0164】
なお、例17に係る遮熱ガラスにおいて、積層膜は、室外側となる。
【0165】
以下の表1には、各例に係る遮熱ガラスの概略的な構成をまとめて示した。
【0166】
【表1】
(評価)
得られた遮熱ガラスを用いて、以下の評価を実施した。
【0167】
(遮熱性能の評価)
遮熱ガラスを用いて、遮蔽係数SC、セレクティビティSe、エネルギー吸収率Ae、および室外反射率Rvの評価を実施した。
【0168】
このうち、遮蔽係数SCおよびセレクティビティSeは、それぞれ、前述の(1)式および(2)式から算出した。
【0169】
なお、遮熱ガラスの室外側からの可視光透過率Tv(%)、室外反射率Rv(%)、エネルギー透過率Te、遮熱ガラスの室外側でのエネルギー反射率Re、および日射熱取得率g(%)の測定には、分光光度計(U4100:日立製作所製)を使用し、光の波長は、300nm~2500nmの範囲とした。測定は、ISO9050:2003に準拠して実施した。
【0170】
また、エネルギー吸収率Aeは、前述の(3)式から算出した。
【0171】
なお、例13に係る遮熱ガラス以外の遮熱ガラスでは、積層膜の側からガラス基板の露出面(第2の表面)に向かう方向において、測定を行った。一方、例13に係る遮熱ガラスでは、ガラス基板の露出面の側から積層膜の側に向かう方向において、測定を行った。
【0172】
(色調の評価)
遮熱ガラスを用いて、室外反射色の色度測定を行った。また透過光のイエローネスインデックスYIの評価を実施した。
【0173】
室外反射色の色度評価には、色度計を用いた。遮熱ガラスの室外側における反射光を、CIE1976L*a*b*色度座標で表示させ、a*およびb*の値をそれぞれ算定した。
【0174】
また、イエローネスインデックスYIは、前述のように、遮熱ガラスの室内側から室外側に向かう透過可視光の色度を、ASTM E131規格に準拠した方法で変換することにより算定した。
【0175】
(耐久性の評価)
それぞれの遮熱ガラスを用いて、耐久性を評価した。遮熱ガラスの耐久性は、以下の方法で評価した。
【0176】
まず、分光光度計を用いて、各可視光の波長域において、室外側から室内側に向かう方向における遮熱ガラスの透過率(以下、「初期透過率Tinitial」と称する)を測定する。
【0177】
次に、遮熱ガラスを、90℃に加熱した濃度0.1kmol/m3のNaOH水溶液中に浸漬させる。浸漬時間は、2時間である。その後、遮熱ガラスを取り出し、洗浄、乾燥させる。この浸漬処理後の遮熱ガラスに対して、前述の方法で、再度透過率(以下、「処理後透過率Ttreated」と称する)を測定する。
【0178】
得られた結果から、以下の(4)式により、透過率差ΔT(%)を求める:
透過率差ΔT(%)=|Ttreated-Tinitial| (4)式
透過率差ΔT(%)が1%以下の遮熱ガラスを、耐久性が良好である(○)と判定し、透過率差ΔT(%)が1%超の遮熱ガラスを、耐久性が良好でない(×)と判定した。
【0179】
(結果)
各遮熱ガラスにおいて得られた評価結果をまとめて以下の表2に示す。
【0180】
【表2】
この結果から、例1~例6に係る遮熱ガラスでは、遮蔽係数SCが0.4以下、セレクティビティSeが0.9以上となっており、良好な遮熱性能および断熱性能を示すことがわかる。また、例1~例6に係る遮熱ガラスでは、エネルギー吸収率Aeは、65%以下となっており、熱割れのリスクを有意に軽減できる。
【0181】
これに対して、例11、例14、および例17に係る遮熱ガラスでは、遮蔽係数SCが0.4を超えており、あまり良好な遮熱性能を示さないことがわかる。また、例11および例13に係る遮熱ガラスでは、セレクティビティSeが0.9未満となっており、あまり良好な断熱性能を示さないことがわかる。また、例13に係る遮熱ガラスは、エネルギー吸収率Aeが高く、熱割れのリスクがあると言える。
【0182】
また、例1~例6に係る遮熱ガラスでは、室外反射率Rvがいずれも30%以下と低く抑えられている。
【0183】
また、例1~例6に係る遮熱ガラスでは、反射光のa*およびb*は、5未満となっている。従って、例1~例6に係る遮熱ガラスでは、反射光に、青に近い良好な色味が得られると予想される。さらに、例1~例6に係る遮熱ガラスでは、イエローネスインデックスYIは、いずれも5未満になっている。従って、例1~例6に係る遮熱ガラスでは、透過光が黄色っぽく見えることを有意に抑制することができる。
【0184】
さらに、例1~例6に係る遮熱ガラスでは、良好な耐久性が得られることがわかる。
【0185】
このように、例1~例6に係る遮熱ガラスでは、良好な遮熱特性および耐久性を有する上、熱割れのリスクが有意に軽減されることが確認された。
【0186】
また、本願は、2017年12月20日に出願した日本国特許出願2017-244163号に基づく優先権を主張するものであり、同日本国出願の全内容を本願に参照により援用する。
【符号の説明】
【0187】
100 第1の遮熱ガラス
102 第1の側
104 第2の側
110 ガラス基板
112 第1の表面
114 第2の表面
120 積層膜
130 導電層
150 最外層
200 第2の遮熱ガラス
202 第1の側
204 第2の側
210 ガラス基板
212 第1の表面
214 第2の表面
220 積層膜
230 導電層
250 最外層
260 第1の色調補正層
265 第2の色調補正層
300 第3の遮熱ガラス
302 第1の側
304 第2の側
310 ガラス基板
312 第1の表面
314 第2の表面
320 積層膜
330 第1の導電層
350 最外層
360 第1の色調補正層
365 第2の色調補正層
370 第2の導電層
375 第3の色調補正層