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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-11
(45)【発行日】2022-10-19
(54)【発明の名称】水酸化リチウムの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01D 15/02 20060101AFI20221012BHJP
   C25B 1/16 20060101ALI20221012BHJP
   B01D 61/42 20060101ALI20221012BHJP
【FI】
C01D15/02
C25B1/16
B01D61/42
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020024294
(22)【出願日】2020-02-17
(65)【公開番号】P2021127282
(43)【公開日】2021-09-02
【審査請求日】2021-09-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001704
【氏名又は名称】弁理士法人山内特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松本 伸也
(72)【発明者】
【氏名】高野 雅俊
(72)【発明者】
【氏名】平郡 伸一
(72)【発明者】
【氏名】浅野 聡
(72)【発明者】
【氏名】池田 修
(72)【発明者】
【氏名】工藤 陽平
【審査官】廣野 知子
(56)【参考文献】
【文献】特表2011-518257(JP,A)
【文献】特開2009-270188(JP,A)
【文献】特開2000-126766(JP,A)
【文献】特開2012-121780(JP,A)
【文献】国際公開第2013/153692(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01D 15/02
B01D 61/42
C25B 1/16
H01M 4/505
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の工程(1)~(3):
(1)中和工程:第1塩化リチウム含有液にアルカリを添加し、中和後液を得る工程、
(2)イオン交換工程:前記中和後液とイオン交換樹脂とを接触させて、第2塩化リチウム含有液を得る工程、
(3)転換工程:前記第2塩化リチウム含有液を電気透析に供して水酸化リチウム含有液を得る工程、
を包含し、
前記第1塩化リチウム含有液が、
マンガン酸リチウムから得られたリチウム吸着剤に低リチウム含有液
を接触させて吸着後マンガン酸リチウムを得る吸着工程と、
前記吸着後マンガン酸リチウムと塩酸溶液とを接触させて前記第1塩
化リチウム含有液を得る溶離工程と、を経て得られている、
ことを特徴とする水酸化リチウムの製造方法。
【請求項2】
次の工程(1)~(4):
(1)酸化工程:第1塩化リチウム含有液に酸化剤を添加し、酸化後液を得る工程、
(2)中和工程:前記酸化後液にアルカリを添加し、中和後液を得る工程、
(3)イオン交換工程:前記中和後液とイオン交換樹脂とを接触させて、第2塩化リチウム含有液を得る工程、
(4)転換工程:前記第2塩化リチウム含有液を電気透析に供して水酸化リチウム含有液を得る工程、
を包含し、
前記第1塩化リチウム含有液が、
マンガン酸リチウムから得られたリチウム吸着剤に低リチウム含有液
を接触させて吸着後マンガン酸リチウムを得る吸着工程と、
前記吸着後マンガン酸リチウムと塩酸溶液とを接触させて前記第1塩
化リチウム含有液を得る溶離工程と、を経て得られている、
ことを特徴とする水酸化リチウムの製造方法。
【請求項3】
前記イオン交換工程で用いられる前記イオン交換樹脂は、
イミノ二酢酸型キレート樹脂またはイミノ二酢酸塩型キレート樹脂である、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の水酸化リチウムの製造方法。
【請求項4】
前記イミノ二酢酸型キレート樹脂および前記イミノ二酢酸塩型キレート樹脂の官能基がナトリウム型である、
ことを特徴とする請求項に記載の水酸化リチウムの製造方法。
【請求項5】
前記イオン交換工程は、カラムを使用する方式で行われており、
前記カラムを通過する前記中和後液の通液速度がSV1以上SV7以下である、
ことを特徴とする請求項1からのいずれかに記載の水酸化リチウムの製造方法。
【請求項6】
前記カラムを通過する前記中和後液の通液量がBV10以上BV35以下である、
ことを特徴とする請求項に記載の水酸化リチウムの製造方法。
【請求項7】
前記低リチウム含有液が、
塩湖かん水である、
ことを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の水酸化リチウムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水酸化リチウムの製造方法に関する。さらに詳しくは、塩化リチウム含有液から水酸化リチウム含有液を得る、水酸化リチウムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高エネルギー密度および高充放電容量の点から、車載バッテリーとしてリチウムイオン二次電池が多く用いられている。そしてリチウムイオン二次電池の正極材料としてニッケル系正極材料、すなわちNCAの需要が拡大している。このNCAがリチウムイオン二次電池に用いられる場合、リチウムは水酸化リチウムとして供給されることが経済的に好ましい。
【0003】
特許文献1には、バイポーラ膜電気透析により、塩化リチウムから高純度水酸化リチウムを得る製造法が開示されている。また本文献では、塩化リチウムは、炭酸リチウムと塩酸とを反応させて得られたもの、リチウム含有鉱石から塩酸による抽出により得られたもの、または潅水から選択的に吸着・分離されたものであることが開示されている。
【0004】
電気透析により塩化リチウムから水酸化リチウムを得る工程では、電気透析に用いられる隔膜は、たとえばバイポーラ膜、アニオン膜、カチオン膜の組み合わせとなっている。これらの隔膜は、2価以上のイオンが多い場合、隔膜に負担がかかり膜を損傷するおそれがある。このため、電気透析を行う前の液体は、この2価以上のイオンを、イオン交換樹脂を利用して除去する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2009-269810号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、2価以上のイオンが非常に多い場合、イオン交換樹脂での除去に負荷がかかる。このため、より確実に2価以上のイオンを除去しようとすると、イオン交換樹脂を頻繁に交換する必要が生じる。しかし、イオン交換樹脂は高価であるためコストが上がったり、交換の作業またはイオン交換樹脂を再生する作業の負荷が増大したりする。
【0007】
本発明は上記事情に鑑み、イオン交換樹脂での2価以上のイオンの除去の負担を軽減することができる水酸化リチウムの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1発明の水酸化リチウムの製造方法は、次の工程(1)~(3):(1)中和工程:第1塩化リチウム含有液にアルカリを添加し、中和後液を得る工程、(2)イオン交換工程:前記中和後液とイオン交換樹脂とを接触させて、第2塩化リチウム含有液を得る工程、(3)転換工程:前記第2塩化リチウム含有液を電気透析に供して水酸化リチウム含有液を得る工程、を包含し、前記第1塩化リチウム含有液が、マンガン酸リチウムから得られたリチウム吸着剤に低リチウム含有液を接触させて吸着後マンガン酸リチウムを得る吸着工程と、前記吸着後マンガン酸リチウムと塩酸溶液とを接触させて前記第1塩化リチウム含有液を得る溶離工程と、を経て得られていることを特徴とする。
第2発明の水酸化リチウムの製造方法は、次の工程(1)~(4):(1)酸化工程:第1塩化リチウム含有液に酸化剤を添加し、酸化後液を得る工程、(2)中和工程:前記酸化後液にアルカリを添加し、中和後液を得る工程、(3)イオン交換工程:前記中和後液とイオン交換樹脂とを接触させて、第2塩化リチウム含有液を得る工程、(4)転換工程:前記第2塩化リチウム含有液を電気透析に供して水酸化リチウム含有液を得る工程、を包含し、前記第1塩化リチウム含有液が、マンガン酸リチウムから得られたリチウム吸着剤に低リチウム含有液を接触させて吸着後マンガン酸リチウムを得る吸着工程と、前記吸着後マンガン酸リチウムと塩酸溶液とを接触させて前記第1塩化リチウム含有液を得る溶離工程と、を経て得られていることを特徴とする。
発明の水酸化リチウムの製造方法は、第1発明または第2発明において、前記イオン交換工程で用いられる前記イオン交換樹脂は、イミノ二酢酸型キレート樹脂またはイミノ二酢酸塩型キレート樹脂であることを特徴とする。
発明の水酸化リチウムの製造方法は、第発明において、前記イミノ二酢酸型キレート樹脂および前記イミノ二酢酸塩型キレート樹脂の官能基がナトリウム型であることを特徴とする。
発明の水酸化リチウムの製造方法は、第1発明から第発明のいずれかにおいて、前記イオン交換工程は、カラムを使用する方式で行われており、前記カラムを通過する前記中和後液の通液速度がSV1以上SV7以下であることを特徴とする。
発明の水酸化リチウムの製造方法は、第発明において、前記カラムを通過する前記中和後液の通液量がBV10以上BV35以下であることを特徴とする。
第7発明の水酸化リチウムの製造方法は、第1発明から第6発明のいずれかにおいて、前記低リチウム含有液が、塩湖かん水であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
第1発明によれば、イオン交換樹脂を利用するイオン交換工程の前に、アルカリを添加する中和工程が設けられていることにより、中和工程で2価以上のイオンを大まかに除去できるので、イオン交換樹脂による金属除去の負荷を低減することができる。
また、第1塩化リチウム含有液が、マンガン酸リチウムから得られたリチウム吸着剤によりリチウムの吸着を行う吸着工程と、吸着後マンガン酸リチウムからリチウムを溶離させる溶離工程とを経て得られていることにより、溶離工程でマンガンの一部が溶解しても、その後の中和工程、または酸化工程および中和工程の組み合わせにより、このマンガンが除去されるので、吸着能力の優れたマンガン酸リチウムを用いながら、高純度な水酸化リチウムを得ることができる。
第2発明によれば、イオン交換樹脂を利用するイオン交換工程の前に、酸化剤を添加する酸化工程と、アルカリを添加する中和工程とがあることにより、第1塩化リチウム含有液にマンガンが含まれている場合にマンガンを除去できるとともに、他の2価以上のイオンを中和工程で大まかに除去でき、よりイオン交換樹脂による金属除去の負荷を低減することができる。
また、第1塩化リチウム含有液が、マンガン酸リチウムから得られたリチウム吸着剤によりリチウムの吸着を行う吸着工程と、吸着後マンガン酸リチウムからリチウムを溶離させる溶離工程とを経て得られていることにより、溶離工程でマンガンの一部が溶解しても、その後の中和工程、または酸化工程および中和工程の組み合わせにより、このマンガンが除去されるので、吸着能力の優れたマンガン酸リチウムを用いながら、高純度な水酸化リチウムを得ることができる。
発明によれば、イオン交換工程で用いられるイオン交換樹脂が、イミノ二酢酸型キレート樹脂、またはイミノ二酢酸塩型キレート樹脂であることにより、イオン交換樹脂の入手性が向上する。
発明によれば、イミノ二酢酸型キレート樹脂等の官能基がナトリウム型であることにより、水素型である場合は、通過する液体のpHが変化するところ、ナトリウム型であると、pHが変化せず、反応時の液体の性状が安定する。
発明によれば、イオン交換工程がカラムを使用する方式で行われ、そのカラムでの通液速度がSV1以上SV7以下であることにより、2価金属であるマグネシウムとカルシウムを、より確実に除去することができる。
発明によれば、カラムを通過する中和後液の通液量がBV10以上BV35以下であることにより、さらに確実にマグネシウムとカルシウムとを除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の第1実施形態に係る水酸化リチウムの製造方法のフロー図である。
図2】本発明の第2実施形態に係る水酸化リチウムの製造方法のフロー図である。
図3】本発明の第3実施形態に係る水酸化リチウムの製造方法のフロー図である。
図4】本発明の第4実施形態に係る水酸化リチウムの製造方法のフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。ただし、以下に示す実施の形態は、本発明の技術思想を具体化するための水酸化リチウムの製造方法を例示するものであって、本発明は水酸化リチウムの製造方法を以下のものに限定しない。なお、一部の実施例、実施形態において説明された内容は、他の実施例、実施形態等に利用可能なものもある。
【0012】
本発明に係る水酸化リチウムの製造方法は、次の工程(1)~(3):(1)中和工程:第1塩化リチウム含有液にアルカリを添加し、中和後液を得る工程、(2)イオン交換工程:前記中和後液とイオン交換樹脂とを接触させて、第2塩化リチウム含有液を得る工程、(3)転換工程:前記第2塩化リチウム含有液を電気透析に供して水酸化リチウム含有液を得る工程、を包含する。この構成により、中和工程で2価以上のイオンを大まかに除去できるので、イオン交換樹脂による金属除去の負荷を低減することができる。
【0013】
また、本発明に係る水酸化リチウムの製造方法は、次の工程(1)~(4):(1)酸化工程:第1塩化リチウム含有液に酸化剤を添加し、酸化後液を得る工程、(2)中和工程:前記酸化後液にアルカリを添加し、中和後液を得る工程、(3)イオン交換工程:前記中和後液とイオン交換樹脂とを接触させて、第2塩化リチウム含有液を得る工程、(4)転換工程:前記第2塩化リチウム含有液を電気透析に供して水酸化リチウム含有液を得る工程、を包含する。この構成により、第1塩化リチウム含有液にマンガンが含まれている場合にマンガンを除去できるとともに、他の2価以上のイオンを中和工程で大まかに除去でき、よりイオン交換樹脂による金属除去の負荷を手移転することができる。
【0014】
また、前記第1塩化リチウム含有液が、マンガン酸リチウムから得られたリチウム吸着剤に低リチウム含有液を接触させて吸着後マンガン酸リチウムを得る吸着工程と、前記吸着後マンガン酸リチウムと塩酸溶液とを接触させて第1リチウム含有液を得る溶離工程と、を経て得られていることが好ましい。この構成により、溶離工程でマンガンの一部が溶解しても、その後の中和工程、または酸化工程および中和工程の組み合わせにより、このマンガンが除去されるので、吸着能力の優れたマンガン酸リチウムを用いながら、高純度な水酸化リチウムを得ることができる。
【0015】
また、前記イオン交換工程で用いられる前記イオン交換樹脂は、イミノ二酢酸型キレート樹脂またはイミノ二酢酸塩型キレート樹脂であることが好ましい。この構成により、イオン交換樹脂の入手性が向上する。
【0016】
また、前記イミノ二酢酸型キレート樹脂および前記イミノ二酢酸塩型キレート樹脂の官能基がナトリウム型であることが好ましい。この構成により、キレート樹脂の官能基が水素型である場合は、通過する液体のpHが変化するところ、ナトリウム型であると、pHが変化せず、反応時の液体の性状が安定する。
【0017】
また、前記イオン交換工程は、カラムを使用する方式で行われており、前記カラムを通過する前記中和後液の通液速度がSV1以上SV7以下であることが好ましい。この構成により、2価金属であるマグネシウムとカルシウムを、より確実に除去することができる。
【0018】
また、前記カラムを通過する前記中和後液の通液量がBV10以上BV35以下であることが好ましい。この構成により、さらに確実にマグネシウムとカルシウムとを除去することができる。
【0019】
(第1実施形態)
図1に、本発明の第1実施形態に係る水酸化リチウムの製造方法のフロー図を示す。本実施形態に係る水酸化リチウムの製造方法は、中和工程、イオン交換工程、転換工程の3つの工程を包含する。
【0020】
<中和工程>
図1に示す中和工程は、第1塩化リチウム含有液にアルカリを添加し中和後液を得る工程である。この工程により、塩化リチウム以外の不純物を含んだ中和澱物が得られる。ここで第1塩化リチウム含有液とは、この液体を晶析した際に塩化リチウムが含まれている液体を言う。たとえば、炭酸リチウムと塩酸とを反応させて得られた液体、リチウム含有鉱石から塩酸による抽出により得られた液体、または潅水からリチウムを選択的に吸着・分離することにより得られた液体が該当する。なお、他の実施形態で後述するように、この第1塩化リチウム含有液は、潅水からリチウムを選択的に吸着・分離することにより得られた液体が好ましい。
【0021】
中和工程では、アルカリを添加してリチウム以外の金属を除去する。イオン交換樹脂は、主に2価以上の金属イオンを除去するために用いられる。しかし、2価以上の金属イオンが、イオン交換樹脂に接する前の液体に非常に多く含まれていると、イオン交換樹脂を頻繁に交換する必要が生じる。しかし、イオン交換樹脂は高価であるため、水酸化リチウムを製造するためのコストが上がったり、イオン交換樹脂を交換する作業の負荷が増大したりする。また、イオン交換樹脂を再生する作業の負荷も増大する。そのため、中和工程では、アルカリを添加して、リチウム以外の金属の一部を除去する。リチウム以外の金属としては、2価のマグネシウム、マンガンなどが該当する。具体的に中和工程では、第1塩化リチウム含有液に、水酸化ナトリウムを加えることにより、マグネシウムおよびマンガンを、水酸化マグネシウムおよび水酸化マンガンとして沈殿させ、その沈殿物を回収することによりリチウム以外の金属を除去する。マグネシウム等を沈殿除去するには、アルカリ性であれば良いが、pHが高すぎる場合、中和剤コストが増加し、好ましくない。このため中和工程後の中和後液のpHは8.5以上12以下とすることが好ましい。
【0022】
<イオン交換工程>
図1に示すイオン交換工程は、中和後液とイオン交換樹脂とを接触させて、第2塩化リチウム含有液を得る工程である。イオン交換工程では、中和工程で除去できないカルシウム、中和工程のpHに応じて残留するアルミニウム、および中和工程で除去しきれなかった極微量に残留するマンガン、マグネシウムが除去される。
【0023】
イオン交換樹脂とは、合成樹脂の一種であり、その分子構造の一部にイオン交換基として電離する構造を有するものをいう。イオン交換工程では、中和工程で補足できなかった2価以上の金属イオンが除去できるイオン交換樹脂、すなわちイミノ二酢酸型キレート樹脂またはイミノ二酢酸塩型キレート樹脂が好ましい。イオン交換工程における中和後液のpHは、イオン交換樹脂により好ましい値が決定される。ただし、中和工程で得られた中和後液に対して、そのままイオン交換工程を行うのが好ましい。
【0024】
さらに、イミノ二酢酸型キレート樹脂およびイミノ二酢酸塩型キレート樹脂の中でも、官能基がナトリウム型であることが好ましい。
【0025】
イオン交換工程で用いられるイオン交換樹脂が、イミノ二酢酸型キレート樹脂、またはイミノ二酢酸塩型キレート樹脂であることにより、イオン交換樹脂の入手性が向上する。
【0026】
また、イミノ二酢酸型キレート樹脂等の官能基がナトリウム型であることにより、水素型である場合は、通過する液体のpHが変化するところ、ナトリウム型であると、pHが変化せず、反応時の液体の性状が安定する。
【0027】
イオン交換樹脂と、中和後液との接触方法は、カラムを使用する方式が好ましい。ただし、バッチ混合方式が採用される場合もある。
【0028】
カラムを使用する方式の場合、このカラムを通過する中和後液の通液速度は、SV1以上SV7以下であることが好ましい。SVはSpace Velocityの略であり、単位時間(1時間)あたりの通液量(単位は以下に説明するBV)を表している。通液速度がSV1未満であると、水酸化リチウムの製造の効率が悪くなる。また、通液速度がSV7よりも大きいと、液体の流れが速くなりすぎ、金属の捕捉ができなくなる場合がある。この通液速度であることにより、2価金属であるマグネシウムとカルシウムを、より確実に除去することができる。
【0029】
また、カラムを通過する中和後液の通液量はBV10以上BV35以下であることが好ましい。BVは、Bed Volumeの略であり、カラム内のイオン交換樹脂の体積の何倍かを表す単位である。通液量がBV10未満であると、水酸化リチウムの製造の効率が悪くなる。また、通液量がBV35よりも大きいと、イオン交換樹脂による金属の捕捉容量を超える破過に至り、金属の捕捉ができなくなる場合がある。この通液量であることにより、さらに確実にマグネシウムとカルシウムとを除去することができる。
【0030】
なお、イオン交換工程において使用されたイオン交換樹脂は、再生可能である。使用後のイオン交換樹脂を、酸の水素濃度が0.3mol/L以上2.0mol/L以下の液体に浸漬させることにより、捕捉された金属が溶離する。
【0031】
<転換工程>
図1に示すように、転換工程では、第2リチウム含有液に含まれる塩化リチウムを水酸化リチウムに転換し、水酸化リチウムが溶解している水酸化リチウム含有液を得る。第2リチウム含有液内には、塩化リチウムが溶解している。本工程では、たとえばバイポーラ膜を用いた電気透析でこれらの液体を、水酸化リチウムを含有する水酸化リチウム含有液と、塩酸とに転換する。すなわち、電気透析を行うことにより、第2リチウム含有液中の塩化リチウムが分解され、塩化リチウムのリチウムイオンが、カチオン膜を通過して、水酸化物イオンと結びつき、水酸化リチウムとなり、たとえば塩化物イオンが、アニオン膜を通過して塩酸となる。回収した塩酸は溶離工程にリサイクルすることが可能である。これにより塩酸の使用量を減らすことができる。
【0032】
なお、転換工程には、バイポーラ膜を用いた電気透析以外に、たとえばイオン交換膜を用いた電気透析が該当する。イオン交換膜として陽イオン交換膜が用いられた場合、陰極室に水酸化リチウムが生成される。
【0033】
本実施形態では、イオン交換樹脂を利用するイオン交換工程の前に、アルカリを添加する中和工程が設けられている。これにより、中和工程で2価以上のイオンを大まかに除去できるので、イオン交換樹脂による金属除去の負荷を低減することができる。
【0034】
<転換工程の後の工程>
転換工程で得られた水酸化リチウム含有液を蒸発乾固すると水酸化リチウムが得られる。しかし、この水酸化リチウム含有液には、ナトリウムまたはカリウムなどのアルカリ金属が存在しており、そのまま蒸発乾固すると、そこから得られる固形物は、水酸化リチウム以外の水酸化物を多く含むこととなる。このため、転換工程のあとに、水酸化リチウム含有液に溶解している水酸化リチウムを固形化する晶析工程が設けられることが好ましい。
【0035】
晶析工程では、水酸化リチウム含有液に溶解している水酸化リチウムを固形化することで、固体水酸化リチウムが得られる。この固体水酸化リチウムと合わせて、晶析母液が得られる。転換工程では、リチウムが水酸化リチウムになるとともに、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属も水酸化物となる。よってこれらも転換工程で得られる水酸化リチウム含有液に含まれる。さらに、アニオンである塩素イオンも膜を通して、水酸化リチウム含有液に含まれる。晶析工程では各水酸化物の溶解度の違いを利用し、水酸化リチウムの固形化を行うとともに、含有する不純物を分離する。
【0036】
晶析工程では水酸化リチウム含有液が加熱濃縮される。この際液中に含有する金属イオン濃度が上昇し、最初に比較的溶解度の低い水酸化リチウムが析出固化する。この析出した水酸化リチウムは、固体水酸化リチウムとして回収される。この際、比較的溶解度の高い水酸化ナトリウムおよび水酸化カリウムは、析出させずに液体中に残存させる。これにより回収された水酸化リチウムの純度が上がる。
【0037】
たとえば60℃における、水酸化リチウムの溶解度は13.2g/100g-水であり、水酸化ナトリウムの174g/100g-水、水酸化カリウムの154g/100g-水と比較すると、水酸化リチウムの溶解度が極めて低いことがわかる。塩素イオンは加熱濃縮操作を行っている際も2g/Lであることから、アルカリ金属の塩化物として水酸化リチウム中に析出することはない。
【0038】
晶析工程は、工業的には晶析缶を用いた連続晶析で行うことが可能である。また、バッチ晶析で行うこともできる。晶析工程で発生する晶析母液は濃いアルカリ水溶液である。なおこの晶析母液には、溶解度分の水酸化リチウムが含まれるため、中和工程以前の工程に繰り返すことで、リチウムの回収率が上がる。加えて中和剤のコストが下がる。
【0039】
(第2実施形態)
図2に、本発明の第2実施形態に係る水酸化リチウムの製造方法のフロー図を示す。本実施形態の、第1実施形態との相違点は、中和工程の前段階に、酸化工程が設けられている点である。他の点は第1実施形態と同じである。以下に、相違点である酸化工程について説明する。
【0040】
<酸化工程>
酸化工程は、第1リチウム含有液に、空気、酸素、次亜塩素酸ナトリウムなどの酸化剤を添加し、第1リチウム含有液中のマンガンを酸化し、不溶性の二酸化マンガンにすることで液中に溶解しているマンガンを沈殿除去する工程である。マンガンは中和工程でも除去可能であるが、酸化工程が設けられることにより、マンガンが中和工程前に除去されるので、中和工程でのマンガン除去の負荷を低減できる。また、酸化工程で沈殿除去されたマンガンは再利用することも可能である。酸化工程で用いられる酸化剤の種類は、空気、酸素、次亜塩素酸ナトリウムなどを採用することができる。第1リチウム含有液の酸化還元電位は、電位pH図で二酸化マンガンの領域に位置している、pHおよび電位に設定する。
【0041】
(第3実施形態)
図3に、本発明の第3実施形態に係る水酸化リチウムの製造方法のフロー図を示す。本実施形態の、第1実施形態との相違点は、中和工程の前段階に、吸着工程と溶離工程とが設けられ、第1塩化リチウム含有液がこれらの吸着工程および溶離工程を経て得られている点である。他の点は第1実施形態と同じである。以下に相違点である吸着工程と溶離工程とについて説明する。
【0042】
<吸着工程>
図3に示す吸着工程は、リチウム吸着剤と、塩湖かん水などリチウム濃度が比較的低い低リチウム含有液と、を接触させ、この低リチウム含有液からリチウムをリチウム吸着剤に、選択的に吸着させる工程である。吸着工程での反応式を数1に示す。ここではリチウム吸着剤としてH1.6Mn1.6が用いられた反応式が示されているが、特にこれに限定されるものではない。たとえば他のスピネル構造を持つマンガン酸リチウムから得られたリチウム吸着剤を用いることも可能である。また、これらのリチウム吸着剤は、マンガン酸リチウムと酸とを接触させ、このマンガン酸リチウム中のリチウムを脱離したマンガン酸化物が好ましい。
【0043】
[数1]
1.6Mn1.6+1.6LiCl → Li1.6Mn1.6+1.6HCl
【0044】
これらを接触させる方法はとくに限定されない。たとえば接触させる方式としては、カラム方式、バッチ混合方式が該当する。カラム方式において、リチウム吸着剤が微粉末として使用された場合、通液抵抗が高く、連続した通液が困難になることが多い。このためリチウム吸着剤(リチウム吸着剤となる前の前駆体である場合を含む)と、アルミナバインダーなどのバインダーと、を混錬し、これを焼結して作成されたペレットが用いられることが好ましい。
【0045】
吸着工程での、低リチウム含有液のpHは、3以上10以下が好ましい。吸着工程での反応は、リチウムを吸着して酸を生成する反応であるため、液体のpHが低いと反応速度が遅くなったり、反応自体が生じなかったりする場合がある。このため、低リチウム含有液とリチウム吸着剤とを接触させる前に、低リチウム含有液のpHを高くすることが望ましい。ただし、低リチウム含有液にマグネシウムが含まれている場合pHが高くなりすぎると水酸化マグネシウムが沈殿し、この水酸化マグネシウムがリチウム吸着剤表面を覆うことで、リチウムの吸着反応が物理的に阻害される。特に接触させる方法としてカラム方式が採用された場合、水酸化マグネシウムによりカラム内に閉塞が発生することが多くなる。これらから、第1リチウム含有液のpHは10以下が好ましい。
【0046】
また、カラムに通液した後、pHが3以下である場合、カラムの下部がリチウムを効率よく吸着できない可能性がある。なお循環方式では、カラム通液後の流出液に中和剤を添加して、上記のpH範囲に調整した後、カラムに戻すことが好ましい。カラム方式を用いる場合、通液速度は要求される処理量に応じて変えればよい。中和後に沈殿物が発生する場合は、適宜フィルタープレスまたはチェックフィルタのようなろ過装置を用いることで、カラム通液を円滑に行うことができる。
吸着操作後、次工程の溶離工程を行うために、必要に応じてリチウム吸着後のリチウム吸着剤の水洗を行う。カラム通液であれば、低リチウム含有液の通液後、比較的純度の高い蒸留水などをカラムに通液して、内部に残存する低リチウム含有液を押出洗浄する。バッチ混合であれば、固液分離後、リチウム吸着後のリチウム吸着剤に水をかけることで、付着する低リチウム含有液が除去される。
【0047】
<溶離工程>
図3に示すように、溶離工程では、リチウムを吸着した吸着後マンガン酸リチウムと、塩酸と、を接触させ、第1リチウム含有液を得る。吸着後マンガン酸リチウムは、たとえば、マンガン酸リチウムの形態になっており、この吸着後マンガン酸リチウムと、塩酸と、が接触することで、リチウムが溶離される。接触させる方法はカラム方式が一般的であるが、バッチ混合方式でもよく、接触の方法は問わない。リチウム溶離時の反応式を数2に示す。
【0048】
[数2]
Li1.6Mn1.6+1.6HCl → H1.6Mn1.6+1.6LiCl
【0049】
ここでは、マンガン酸リチウムとしてLi1.6Mn1.6を示しているが、特にこれに限定されるものではない。たとえば他のスピネル構造を持つマンガン酸リチウムから得られたリチウム吸着剤を用いることも可能である。塩酸の濃度はリチウムを溶離するのに十分な量があれば良いが、濃度が高すぎるとマンガン酸リチウムが溶解して損耗する。また、濃度が低すぎるとリチウムが溶離しない。塩酸の濃度は、0.3mol/L以上2.0mol/L以下が好ましい。カラム方式を用いる場合、通液速度は要求される処理量に応じて変えればよい。
【0050】
本工程で得られる溶離液、すなわち第1リチウム含有液には、吸着工程で若干随伴するナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウムが含まれる。また、リチウム吸着剤がマンガン酸リチウムである場合、リチウム吸着剤から溶出されるマンガンも含まれる。加えて、アルミナバインダーを用いた造粒体がリチウム吸着剤として使用されている場合、第2リチウム含有液には、アルミニウムが含有する。これらの不純物のうち、ナトリウムとカリウム以外の多価金属は、後段の転換工程で膜の寿命を短くするなど、不具合を生じさせるため、上記の中和工程、または酸化工程及び中和工程の組み合わせにおいて除去される。なお、溶離操作により、リチウム吸着後のリチウム吸着剤は、リチウム吸着剤に戻り、再度リチウムを吸着できる状態となっている。このため、吸着工程において再度使用することが可能である。再使用する場合リチウム吸着剤は水洗されることが好ましい。
【0051】
(第4実施形態)
図4に、本発明の第4実施形態に係る水酸化リチウムの製造方法のフロー図を示す。本実施形態の、第2実施形態との相違点は、中和工程の前段階に、吸着工程と溶離工程とが設けられている点である。他の点は第2実施形態と同じである。また、吸着工程と溶離工程の詳細については、上記の第3実施形態と同じである。
【実施例
【0052】
以下に本発明に係る水酸化リチウムの製造方法の具体的な実施例について説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0053】
(実施例1)
<中和工程>
第1塩化リチウム含有液にアルカリが添加され、中和後液が得られた。第1塩化リチウム含有液は、リチウム吸着剤により吸着されたリチウムを、塩酸により溶離することで得られたものである。中和工程で用いられたアルカリは、水酸化ナトリウムである。得られた中和後液に含まれている金属イオンの単位体積当たりの重量を表1に示す。金属濃度の分析はICP-AESで行われた。中和工程で、アルミニウム、マグネシウム、マンガンの単位体積当たりの重量は、比較的少なくなっている。ただし、カルシウムの単位体積当たりの重量は非常に高い値となっている。
【0054】
【表1】
【0055】
<イオン交換工程>
イオン交換樹脂としてイミノ二酢酸型キレート樹脂であるCR11(三菱ケミカル株式会社製)が用いられた。このキレート樹脂20mlを、直径20mmのガラスコラムに入れ、イオン交換工程が実施された。この際の通液速度はSV5(容量20mlであるので、100ml/h)とした。BV5(体積20mlであるので、100ml)ごとに、上記の金属イオンについて、単位体積当たりの重量を測定した。測定は、中和後液を測定したのと同じICP-AESで行われた。その結果を表2に示す。
【0056】
【表2】
【0057】
BV35までは、4つの金属イオンの単位体積当たりの重量は、測定した測定器の下限の数値0.00005g/Lとなり、イオン交換工程でこれらの金属が、キレート樹脂により捕捉されているのがわかる。しかし、BVが40を超えると、キレート樹脂の捕捉の容量を超えたと思われ、それぞれの金属イオンが、中和後液での単位体積当たりの重量と等しく、またはその値に近くなっている。
【0058】
(比較例1)
イオン交換工程での通液速度をSV10(200ml/h)とし、BV10ごとに単位体積当たりの重量を測定した以外は、実施例1と同じ条件で中和工程、イオン交換工程が実施された。その結果を表3に示す。
【0059】
【表3】
【0060】
BVが10の時点から、すべての金属イオンの単位体積当たりの重量が大きく、中和後液での単位体積当たりの重量に近いものとなっている。これは通液速度がSV7を超える速い値であるため、イオン交換樹脂による金属捕捉ができていないためであると思われる。
【0061】
(比較例2)
イオン交換工程での通液速度をSV25(500ml/h)とし、BV50ごとに単位体積当たりの重量を測定した以外は、実施例1と同じ条件で中和工程、イオン交換工程が実施された。その結果を表4に示す。
【0062】
【表4】
【0063】
BVが25の時点から、すべての金属イオンの単位体積当たりの重量が大きく、中和後液での単位体積当たりの重量に近いものとなっている。これは通液速度がSV7を超える速い値であるため、イオン交換樹脂による金属捕捉ができていないためであると思われる。
図1
図2
図3
図4